2009-07

背徳の炎  track:26

 
 「まったく、何という無茶を……」
 
 詠春は山の一角のあまりの有様を見て、肩を落とす。
 リョウメンスクナノカミを封印していた要石のあった湖周辺は、数百メートルにわたり煤で真っ黒。
 湖自体の再生ならば水符をありったけつぎ込めばなんとかなるだろうが、森の再生をしようとすれば、むこう数十年、長ければ百年近い時間を要するだろう。
 
 「これは……しばらくは人避けが必要みたいだ……」
 
 ついて来させていた部下数名に指示を飛ばし、湖周辺に人避けの呪符を貼り付けていく。
 詠春自身は湖の中心部、要石があった場所まで来ていた。水底であった地面は溶岩が固まってしまったような形になってしまい、上手く歩くことが出来なかった。
 そんな水底を歩くこと数分。要石が鎮座していた場所まで来た。
 
 見事に黒い尖塔を築いていた。
 
 要石が溶解し、さらに下に流れてしまうことで擬似的な塔が出来上がっていた。
 要石が完全に破壊されたというのに、スクナの気配は一切感じられずにいた。
 
 「……鬼神すらを焼却する炎。神という存在に対する背徳行為。……背徳の炎」
 
 奇しくも、詠春が何気なく呟いた言葉は、ソルのギアとしての真名。
 彼自身そんなことを知る由もないし、知ろうとも思わないだろう。
 詠春は深く息を吐き、空を見上げた。黒い大地とは裏腹に、真白い雲が悠々と流れている。
 死闘から一夜。劫火に包まれていた世界はどこかに消え、微風が木の葉を揺らす。詠春はポケットから煙草を一本取り出し、火を点けた。胸一杯に紫煙を飲み込み、吐き出す。
 
 スクナの完全消滅。
 それは紛れもない事実であり、また、隠さねばならない事象。これが『魔法の国』に伝われば、一体どんなことになるか。
 詠春は考えただけでぞっとした。隠していたことがばれたら首が飛ぶどころじゃないな、とも。
 
 「本当になんて奴を増援で寄越すんだ、お義父さんは……」
 
 雲がゆらりと、陽炎に揺れた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「……まぁ。なんつーか、あっという間だったわな」
 
 「そうですね」
 
 京都駅、そのプラットホームで隣に並びながらネギと話す。
 ゆっくりできると思っていた昨日はエヴァちゃんに連れ回された。ダンナはあの夜から機嫌が悪いまま――まぁいつも悪いようなもんだが――だし……。ただよかったと思えたのは、セツナちゃんとコノカちゃんの和解。堅苦しい空気が完全になくなったわけじゃなかったけど、幾分か和らいだ気がした。
 
 「親父さんの手掛かりだってな?」
 
 「はい。これで見つかるなんて思ってませんが、けど、近づける……ううん、近づいて見せます!」
 
 「おっ。言うねぇネギ。ちょっとカッコよくなって……イイ男に磨きがかかったな」
 
 「そ、そうですか? あ、ありがとうございます」
 
 少し嬉しそうに、少し悲しそうにネギは笑った。
 やれやれ。顔に出すぎっつーか、なんつーか。ネギの頭を力いっぱいグシャグシャに撫でてやった。何が何だかわからない、という表情でネギは見上げてきたが、こちらは自信満々に言っておく。
 
 「ま、早く探し出してよ。今のセリフ、親父さんにちゃんと言ってもらえよな」
 
 「あ――――は、はいっ!!」
 
 今度こそ目一杯に嬉しそうに笑って、目を輝かせた。
 となると、気になってくるのはイノの存在だ。
 これで諦めるほど、諦めのいい奴じゃないってことはわかってるつもりだ。次がいつかはわからない。
 けど、絶対にもう一度襲ってくる。
 
 「…………学園祭、か」
 
 仙人が言ってた2ヶ月後、というのは学園祭の時期のことだった。
 タカネちゃん曰く『世界樹の大発光』と同時に『魔力』がありえないくらいに膨れ上がるらしい。そのタイミングでしか、俺たちは帰ることが出来ない。その補助と強い力のぶつかり合いによる次元跳躍、なんて頭の悪い冗談にしか聞こえない。
 しかし、それしか方法が思いつかない。
 
 帰らないと、めぐみにももう会えない。
 
 「アクセルせんせーったら、修学旅行終わったばっかなのにもう学園祭のこと考えてるー!」
 
 「中間試験だってまだなのにねー」
 
 「とと。なんか、大きいお祭りらしいじゃん? だから楽しみで仕方無くてなー」
 
 とりあえず、話しかけてきたマキエちゃんとユーナちゃんに本当のことの一部を言っておいて誤魔化しておく。
 楽しいよー、と笑いかけてくれる彼女たち。しばらく雑談して、ミスター・ニッタが号令をかけたところで列に戻るように言う。
 …………そうだ。もし、イノが言う通りにジャスティスなんかを呼び出されたりしたら、こんな時間すらなくなってしまう。聖戦時代に飛んだときは、本当に死に物狂いで逃げたものだった。
 
 「……アクセル先生、ネギ先生〜。締めの一言よろしくお願いします〜」
 
 「はぁーい。行きましょう、アクセル先生!」
 
 「そうだな」
 
 ネギは駆けて、俺はその後ろを追うように歩いて前に出ていく。
 途中でネギがこけたが、それもお約束。まったく、一昨日の威勢はどこに行ったんだか。
 
 「みなさん、修学旅行お疲れ様でした。楽しめましたか〜?」
 
 『はーいっ!!』
 
 ネギの問いかけに、全員が応える。
 本当に平和だなぁ。
 
 「大変だったこともたくさんあったと思いますが、それ以上に楽しいことがあったと思います…………」
 
 ネギが淡々と話を続けていく。
 それを右から左に聞き流しつつ、考えることはひとつ。
 ――――俺にも出来ることがあるのか?
 
 「アクセル先生、次お願いします」
 
 「あ、はいはいっと」
 
 生徒の視線が一気にこちらに集まる。
 咳ばらいをひとつ挟んで、声を出す。
 
 「しんどかった人っ!」
 
 ばばばっ、と過半数の生徒が手を挙げた。
 よしよしと頷いてから、手を下ろすように伝える。
 
 「だけど楽しかった人っ!」
 
 ざばっ、とほぼ全員が手を挙げた。
 二ヤリ、と笑い続けた。
 
 「俺もしんどかった。朝は早いし、夜は遅いし。そのうえお前らは騒ぐし」
 
 若干の心当たりを持つ生徒数名が苦笑いをした。
 それを見つつ深呼吸をして、大声で話を続けるとする。
 
 「出来れば、もうちょっと落ち着いた修学旅行にしたかったけど……ま、結果オーライってこった!」
 
 適当に切り上げて、場を無駄に盛り上げてしまったようで、ちょっと後に怒られたのはまた別の話。
 新幹線に乗り込んですぐ、生徒の大半が寝付いてしまった。
 俺は麻帆良学園が占領している車両よりさらに前の車両に移り、ある人物の隣に座った。
 
 「よぉ、兄ちゃん。どうだい?」
 
 「どうと言われましてもね。さて、説明はいつしてくれるのですか?」
 
 「今からするさ。メイちゃんとディズィーちゃんは?」
 
 「もう少し前の座席で寝てます。たぶん、疲れたのでしょうね」
 
 指差した座席には確かにふたりの姿があった。
 それを確認してから、改めて目の前の男を見る。さすがに聖騎士団の制服は目立ち過ぎるからか、今はシャツとスラックスという簡単な格好をしている。着飾ってるわけでもないのに、この野郎は雰囲気からイケメンだ。妬ましいぜ、ちくしょうめ。
 
 「じゃあ、話すぜ?」
 
 「えぇ、どうぞ」
 
 「っつっても俺だってよく分かってないんだけどな。ダンナから聞いた話や俺自身の推測も混じってるから判断はアンタに任せるぜ?」
 
 「わかりました」
 
 「そんじゃ、まずはこの世界のことからだな。『魔法』っつー、技が存在するんだ」
 
 「“技”? 《魔法》は技術のことでしょう」
 
 「聞け聞け。ここは俺たちがいた世界じゃない。わかるか、ここは俺たちの世界じゃない。別の世界、つまり、SF映画とか、そういう奴の並行世界ってやつだ。この世界の説明をするぞ。かなり似てるが、ここは全く違う世界だ。科学が広まっていて、まだ世界は《魔法》を知らなくて、ギアの恐怖さえ知らない。イノが言ってたらしいんだが、ジャスティスを復活させるつもりだとかなんとか」
 
 団長さんは首をかしげ、しかし、口は挟まずに聴きに徹底してくれている。
 遠慮なく続けていく。
 
 「ダンナはイノと一緒に飛ばされて、俺は時間跳躍のときにたまたま巻き込まれちまったみたいだ。ここで質問なんだが、あんたらはこっちに飛ばされる前、何をしてたんだ?」
 
 「ディズィーさんの生い立ちを調べている最中でした。そのとき終戦管理局に襲われ、量産型と思われるジャスティスに撃たれ、それを防御した折、おそらく……」
 
 「……まぁ、そういうこった。どうしてだか俺たちがいた世界の捌け口みたいになっちまった世界が、ここ」
 
 団長さんはなんとか理解しようと頭を働かせている様子だった。
 しばらく黙ったままでいると、車両の前の扉の方からダンナが現れた。さらに前の車両に乗っていたみたいだ。
 
 「ソル……」
 
 「坊や、どうだ。てめえのお固いオツムでも理解できたか? なんならトロトロに溶かしてやってもいいんだがな」
 
 「いや、彼のおかげでだいたいのことは把握した。ここは並行世界で、イノはここを私たちの世界と同じに……私たちの世界の二の舞

にしようとしている……そういうことだな?」
 
 「ほぅ。だったらすることはわかってるな?」
 
 「……イノを倒し、その計画を阻止すること。また私たちが、自らの世界に帰ること」
 
 「上等だ。せいぜい足掻くんだな」
 
 ダンナはそれだけ言ってからまた前の車両に帰って行った。
 団長さんは深く息を吐いて、座席に深く腰掛けた。
 
 「信じられない。この乗り物ですら《魔法》の動力ではないのですね。確か、電力でしたか」
 
 「新幹線、な」
 
 「…………なるほど。私なりに解釈はできました。星丸ごとがツェップのような所だということですね」
 
 「ざっくり言っちまえばな」
 
 まだまだ問題は山積みなんだ。
 納得させることが出来たなら、次は話を進めなくちゃな。
 
 「たぶん、イノはコノカちゃんっていう娘を狙ってくる。莫大な魔力とかいうのが、世界を飛ぶのに必要なエネルギーになるかもしれないらしい。で、その魔力をコノカちゃんは十二分に持ってるんだ」
 
 「主に、その子を守らなければいけないということですか」
 
 「依頼内容的にはな。俺個人としては、誰であろうと俺らの勝手で襲われるなんてゴメンだけどよ……」
 
 「私も同意見です」
 
 やっぱり、こいつもそうらしい。
 正義感の塊みたいな奴だから、そう言うのはわかってはいたけど、やっぱり安心する。
 ダンナは極力、手際を優先している。目標達成を主に考えて、被害が広がることを防いでいる。山奥の戦闘だって、ダンナがいなかったらどうなっていたか、実際わからない。焼け野原で済んだのは僥倖かもしれない。
 対して、俺はダンナの考え方とは逆。甘ちゃんの考え方。目標達成の前に、誰もが傷つかないようにと思う。安全策で行くが、しかしそれでは後手の対応しかできなくなる。怖がって縮こまっている、臆病者。
 
 「だからなんだっつーの」
 
 臆病者万歳! ――――なんて言うつもりはない。
 だけど、嫌なんだ。人が死ぬのを見るのは。人が傷つくのを見るのは。
 元々、俺はそのために力を手に入れて来たんだから。
 
 「カッコつけなきゃ男じゃねえぜ」
 
 座席を立つ。
 団長さんに一時の別れを告げて元の車両へ戻る。
 
 そこここから気持ち良さそうな寝息が聞こえ、くすぐったく耳に届く。
 この時間を奪わせやしねぇ。あんな地獄、一度辿れば十分だ。二度目なんていらない。
 
 俺が護るなんて大言壮語を吐くつもりはない。
 ただ――――
 
 「俺が護れるんなら、精一杯護ってやる」
 
 ただ、それだけ。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「え?」
 
 「あん? 聞こえなかったのか。まったく、花粉症でしゃべるだけでも疲れると言うのに……っぐしゅ!」
 
 ぼうやが呆けてこちらを見ている。
 どうやら聞こえなかったのではなく、“理解できなかった”らしい。
 
 「……答えは否だ。誰が貴様なんぞを弟子にするか呆け者め」
 
 「な、なんでですかっ!?」
 
 「“なんでですか”だと? は。それもわからんのならお話にならんな。さぁ帰った帰った。余計な花粉を家の中に連れ込みよってからに。巻き上げる前にさっさと帰れ!」
 
 適当にあしらいながら、茶々丸にハーブティーを入れるように指示する。
 まったく、吸血鬼が花粉症などと情けない。学園に戻った途端これだ。あぁ、京都に住んでおきたかった。
 
 「な、納得できません! 僕は……!!」
 
 「まだいたのか。だから弟子なんぞとらんと言っとるだろうが。戦闘技術ならそこにいる金髪にでも頼め。技術だけなら私よりは上だろうよ」
 
 悔しいことに、その通りだった。
 この金髪――カイ・キスクは馬鹿げた戦闘技術を持っていた。四属性のまほ……《法術》だったかを使いこなし、あまつさえ“気”らしきものまで少しだけ操って見せた。
 それだけならなにも驚くことはない。私だってそれなりの属性魔法は使えるし、少なからず“気”も扱える。まぁ、基本的に魔力でしか戦闘はしないのだが。
 閑話休題。
 卓越した剣捌き、洗練された体捌き、鍛え抜かれた不屈の精神力。どれを取っても超一級の剣士。
 お互いが身体能力強化だけで戦えば、十中八九負けるのは私だろう。合気柔術で抑えられるような奴ではない。
 
 「わ、私ですか?」
 
 「そーだ。ぼうやと呼ばれてる者同士、気も合うだろうよ。クソ真面目なところとかがそっくりじゃないか、え?」
 
 そう私が言うと、ぼうやとカイが見詰め合った。やめろ、気持ち悪い。
 だが、思わぬところから反論が飛んできた。
 
 「ちょっと待ちなさいよエヴァちゃん! そもそもネギって魔法使いじゃない。そこのお兄さんとかどう見ても魔法使いじゃないでしょ!?」
 
 「当たらずとも遠からずだ、神楽坂明日菜。カイは剣士であり、また術支援も行える。おそらく、魔法戦をするまでもなく、比べるべくもなくそっち方面でもぼうや以上の実力を持っているだろう」
 
 「ていうか、なんで昨日会ったばかりの人のことそこまで知ってんのよ……」
 
 「闘ったからな。軽く」
 
 昨日、学園に帰ってきてすぐに別荘に籠ってカイと手合わせしていた。
 そこである程度の実力を計った。結果、条件付きで別荘にいる私に勝てる程度の実力であることが分かった。
 それも本気ではないだろう。いちいち「女の子に手はあげられません!」などとほざいていたからな。
 
 「…………でも」
 
 「……そこまでして、どうして私にこだわる? 私はお前の敵だ。魔法使いならタカミチもそうだし、じじいもああ見えてそれなりの実力者だ。なぜ、私だ?」
 
 「それは……」
 
 「……惚れたわけでもあるまい。言え。内容によっては考えてやる」
 
 そういうと、ぼうやはいきなり顔色を変えて詰め寄ってきた。
 ゲンキンなんだか、なんなんだか。腹立つ奴だな、本当に。
 
 「憧れたんです、修学旅行で見たエヴァンジェリンさんの強さに! あんな力があれば、僕も……僕だって!」
 
 「ほほーぅ。力を欲するがために私に師事したいとな?」
 
 「? あの、最初からそう言ってたんですけど?」
 
 「違うな。違う違う。そういう意味じゃない。なるほどなるほど……。それはなんのためだ?」
 
 え? と硬直する。
 いきなり過ぎたか。咳ばらいを間に挟み、もう一度ぼうやに問うた。
 
 「なぜお前は力を欲する? そう訊いたんだ」
 
 「それは――――」
 
 「偽善はいらんぞ。正直なことを言え」
 
 「僕の生徒を……友達を、みんなを守りたいから!」
 
 思いっきり机を蹴り飛ばしてやった。
 ぼうやは驚いて床にへたり込んでしまった。
 
 「貴様、私の言葉を聞いていなかったのか? 偽善はいらん、と言ったんだ」
 
 「う、嘘なんかじゃないです!」
 
 「偽善と嘘は同義ではないわ、戯け!! 強さを欲する、その心は!?」
 
 ぼうやと神楽坂明日菜はたじろぐ。
 正直に言うと、今私はすごく卑怯な話をしている。天才少年だか何だか知らんが、所詮、元は10そこらのガキだ。しかも今まで微温湯に浸かってもいないような、青いガキ。それに力を持つ意味、その何たるかなど解る筈もない。
 くやしそうに唇を噛むぼうやは、とうとう顔を伏せてしまった。
 
 「…………ふん。そういうことだ。貴様はまだまだ誰かに弟子入り出来るところにも立っていない」
 
 私がトドメにと放った言葉を聞いて、伏せていた顔を上げた。
 その眼には涙が溜まっていたが、なぜだろうか。瞳が、ギラギラと燃えていた。
 
 「どうすればいいですか……?」
 
 「あん?」
 
 「どうすれば、僕を弟子入りさせるに値する人物だと認めてくれますか?」
 
 「自惚れるな。つまり、お前はテストをさせろとでも言いたいんだろう? ふざけるのも大概にするんだな。その行為ですら、するに値しないと言っているんだ。自覚しろ、ぼうや。お前はクズだ。ゴミだ。塵芥だ!!」
 
 その言葉にキタのか、ぼうやは見せたことのないような獣じみた眼光で私を睨み上げてきた。
 
 「違います!」
 
 「違わぬ! 害虫めが、偉そうな口を叩くんじゃない!」
 
 「違います!」
 
 「何が違わない? 言ってみろ、何が違わない?」
 
 「だって……!」
 
 「だってなんだ、あ!?」
 
 「だって……!!」
 
 「だってなんだァ!! 言ってみろ、えぇ!?」
 
 ぼうやは吐き出しそうになった嗚咽を飲み込みながら、掠れ切った声で声高々に叫びをあげた。
 
 「僕は、僕は……サウザンドマスターの息子です! あなたを倒したサウザンドマスターの、息子です!! 現に僕だってあなたを、エ

ヴァンジェリンさんを倒した……!! どこが足りないっていうんですか!?」
 
 つくづく、このガキが何を考えて行動しているのかがわからなくなる。
 どうしてそこでサウザンドマスターの名前が出てくる? どうして自分ではなく、他人を引き合いに出す?
 ――――ふん。いいだろうとも。
 
 「来週土曜日、ここに来い。そこまで啖呵を切ったなら、それなりの覚悟があるってことだろうな。サウザンドマスターの名まで出し

ておきながら、なんの覚悟もしていないなど、ある筈がないよな?」
 
 「も、勿論です!」
 
 「よぅし。ならもう今日は帰れ。気分が悪い。花粉症だとも、あぁ、そうだ花粉症だ。泣きたいくらい花粉症だ!!」
 
 茶々丸に言ってふたりを放りだすように伝える。
 そのままベッドに潜り込んで考える。
 
 どうやって、一体どうやって壊してやろうか。
 どうやって壊してやろうか……ぼうやの、心を。体を。プライドを。
 
 どうやって、天狗の伸び過ぎた重い鼻をぶった斬ってやろうか、と。
  
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:26  end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

まただよ(涙)

すいません、草之です。

今夜には必ず更新します。
思った以上に筆の進みが遅くて。


では、以上草之でした。
本当にすいません。


テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

メッシュ。そして拍手レス

ども、草之です。
 
ここ3ヶ月で白髪が急激に増えました。元々白髪は多い方だったのですが、ヤバいです。
前髪に、下手するとメッシュが入ってるみたいに白髪が……!! 草之はまだ未成年ですよ……?
染めてないんですよ。ワックス類も使うのは嫌いだし。髪自体を痛めつけるようなことはしてないつもりなんですけどねぇ?
 
ストレスで白髪が増える。
なんてよく聞きますけど、思い当たる節が多すぎる。
ストレスの7割以上が妹絡み。兄を苦労させてくれるな……。
 
さて、そんなことはわりとどうでもいい。
本当にどうでもいい。
 
更新予告がこの頃外れ過ぎていて意味をなさなくなってきてしまっている。
これはゆゆしき事態だ。
ということで、来週からわりと楽になってくるので、ここらへんで信用回復と行きましょう!
更新予告です!!
 
『背炎』を火曜日に更新。
『B.A.C.K』を土曜日に更新。
遅れるなんてことはしたくありません。ていうかしません。今回に限らずしばらくは。
やむを得ぬ事情が入らない限りこれが外れることはありません。
 
 
 
あと雑談になりますが、今回の『優星』の感想でなぜか「小さな巨人」のフレーズが大人気だった(笑)。ミクロマンどうのこうの、から始まって果てはボンボンの作者人がどうのこうの(笑)。
こういう感じのコメントなら許容してますので、もし他の小ネタを仕込んだ回の感想にもぜひ。草之の分かる範囲で熱く語り合いましょう(笑)!
 
 
 
 
では以上、草之でした。
以下、拍手レス。溜まってました、すみません。
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:26

 
 「もしもし」
 
 『ん? あぁ、アテナか』
 
 「お久しぶりです」
 
 挨拶もほどほどに、本題を切り出すことにした。
 まぁ、お話しするって言っても私はそこまで口がうまくないから面白くはないでしょうけど。
 
 「今日灯里ちゃんがお泊りするみたいなんですけど、連絡はしてましたか?」
 
 『いや、初耳だ。ちょうど今買い物から帰って来たところなんだが……あぁちょっと待ってくれ。テーブルの上に書置きがある』
 
 ことん、と受話器を置く音が向こう側から聞こえ、衛宮さんの足音が遠ざかって、近づいて、最後に紙の音が聞こえた。
 書いてあることを棒読みで流しながら、彼は「だそうだ」と言って受話器の向こうで笑った。
 
 「そうですか。私じゃ頼りないかもしれませんけど、ちゃんと面倒は見ますね」
 
 『この前みたいに面倒を見られるようなことにはなるなよ?』
 
 くつくつと意地悪そうに笑われながら、それがレデントーレの時のことなんだと解った。
 アミちゃん、きっと将来はいいお嫁さんになるんだろうなぁ。
 あんな小さいのに面倒見が良くて、優しいし、可愛いし。きっと学校でも人気者に違いない。
 
 「そういえば、アリシアちゃんはもう帰ってますか?」
 
 『いや、まだだな。今日は久しぶりに夜の方にも予約を入れたから、帰ってくるのは8時か……9時前になるだろうな』
 
 「そうですか」
 
 『なんだ? 用件だけなら聞いとくぞ?』
 
 「いえ、ちょっとお話ししたくなっただけですから。いないんならいいんです」
 
 そうか、とそれ以上のことは言わず衛宮さんは黙ってしまった。
 別に彼に用事があるわけじゃないんだけど、なんとなく、もうちょっとお話ししたくなった。
 
 「……アルトリアちゃん。あれから連絡は取ってるんですか?」
 
 『いや……。もともと連絡手段なんて持たないような奴だからな。メールも電話も、行き先も分からない』
 
 言った内容とは裏腹に、なぜかそこまで悲しそうには聞こえなかった。
 現実的な色恋沙汰なんてこんなものなのだろうか。別に恋愛に理想を抱くような――――恋に恋してるわけじゃないけど、少し気になってしまった。
 
 「衛宮さんはそれでよかったんですか?」
 
 『ん?』
 
 「あ、ごめんなさい」
 
 『あぁ、いいよ。謝らなくても』
 
 言ってから後悔した。
 なんで衛宮さんを責めるような言葉になってしまったんだろう。離れ離れになって、一番つらいのは彼の筈なのに。
 私、ちょっと無神経だな……。
 
 『連絡は取ってないし、写真なんて色着いたモノもないけどさ。なんていうんだろうな……今になって寂しくはないんだ』
 
 「そう、なんですか?」
 
 『あぁ。そうなんだ』
 
 電話の向こう側で、苦笑いしている彼の顔がありありと浮かんだ。
 なんだか、私が励まされてるみたいになってきてる。別に励まそう、とか思って話していたわけじゃないんだけど、なんだか悪いな、こういうの。きっと衛宮さんは気になんてしてないんだろうけど、ちょっぴりへこむ。
 
 「お互いに、それで納得したんですね」
 
 『正味、俺はまだそこまで踏ん切れてるかどうかはわからない。たす……行かなくていいなら、行かせたくなかった』
 
 「……本当に好きだったんですね」
 
 『そう言われると照れるな。まぁ、正味どころは分からなくても、納得はしたつもりだ』
 
 「強いですね、衛宮さんは」
 
 『そうか? 俺なんて、中身を開けてみれば小さい奴だと思うがな』
 
 衛宮さんは自分の事を小さい奴だと言った。
 でも、私からすれば彼は本当に強い人で、大きくて……。
 
 「……小さな巨人……」
 
 『ん? なんか言ったか?』
 
 見えもしないのに首を振りながら、いいえ、と言う。
 彼は、なんでこんなにも遠いんだろう。いや、彼自身、自分を遠くから見ているだけなのかもしれない。だから自分の事を『小さい奴』っていうのかも。
 今度、ちゃんとアリシアちゃんに言っておかなきゃいけなくなっちゃった。まぁ、もしかしなくても、彼女はとっくにそのことに気が付いてるのかもしれないけど、うん。
 衛宮さんが自分自身を近くで見れない分、私達がちゃんと近くにいてあげないといけないのかもしれない。
 主に、アリシアちゃんとかが。
 
 「先輩、食堂行きますよ〜?」
 
 「あ、うん。それじゃあ、また」
 
 『あぁ。またな』
 
 受話器が向こう側で置かれるのを待ってからこっちも置いた。
 横にはアリスちゃんと、灯里ちゃん。仲よさそうに話すふたりは本当に楽しそうで、少し嬉しい。
 今日の食事は、ちょっと賑やかだ。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ふぅ……」
 
 受話器を置く。
 時計を見れば、少ない会話ながら結構な時間話していたらしい。
 
 「……さて、今日はひとり分少ないな」
 
 さくさくっと食事の準備を進めていく。
 もう出来上がるというところで、聞き慣れた声が下から響いてきた。
 
 「おかえり」
 
 「うふふ。ただいまかえりました」
 
 「もうちょっとで出来上がるから、適当に座って待っててくれ」
 
 「手伝いますよ?」
 
 「仕事から帰ってきた人をすぐに働かせるほど俺は出来てないつもりはないよ」
 
 「あらあら。なら、お言葉に甘えて」
 
 すとん、とテーブルについて、小さな子供のように体を揺すりながら鼻歌なんかを歌っている。
 そういえば、アテナが巧い巧いって言われているからあんまり聞くことはないが、アリシアだって人並み以上に舟謳は巧い。まぁそれでも別次元なのがアテナなわけだが。
 
 「……そういえば、灯里ちゃんにアリア社長はどうしたんですか?」
 
 「あぁ、どうもアリスのところにお泊りするらしい。だから今日は俺とアリシアとだけだな」
 
 「へぇ、そうなんですか………………そーなんですか!?」
 
 「きゅ、急にどうした?」
 
 何でもありませんよ、といつになく上ずった声で返事をしてくるアリシア。
 危うく驚いて器を落としてしまうところだった。
 それにしても本人はなんでもないと言っているものの、アリシアがここまで取り乱すのも珍しい。
 灯里とアリア社長がいないと何か、あるのだ、ろ…………まさか。
 
 「アリシア……。もしかしなくても、俺がなにか変なことするんじゃないか、とか思ってないか?」
 
 「へぇっ!? へ、変なことってどんなことですか……っ?」
 
 「はぁ、やっぱり。俺はそんな奴じゃないから、安心しろ」
 
 どう安心しろ、というのかは俺自身にもまったく分からなかったが、とにかく、そういうことをする気は毛頭ないのである。
 というよりも、そうやって見られていた、ということに少なからずショックを覚える。そこまで信用ないか、俺って。
 ……まぁ、もう若くはないが、年頃の男がいればそう考えるのも不思議じゃないけどさ。
 
 「ちょっと、くらいなら……」
 
 「んー? なんか言ったか……?」
 
 「え? い、いえ。何にも言ってませんよー?」
 
 どうも落ち着かないようである。
 言ったのが拙かったか。ん、やっぱり昔から言われてた「デリカシーがない」というのはこういうことを言うのだろうか。むしろ空気を読め、ということなのか。……悪いが、俺には一生分かりそうにもないな。
 開き直るわけじゃないけど、今度から出来るだけ気を付けるとしよう。そうしよう。
 
 「……さ、出来たぞ。そうだな、灯里達もいないし、久しぶりにお酒でもあけるか?」
 
 そう訊いておきながらだが、実は結構酒に合う料理をチョイスしていたりする。
 勧めておきながら自分が飲む気満々だな、これ。いやはや恥ずかしいことだ。
 
 「うふふ。いいですね、お酒。あけましょう」
 
 とんとん、と軽い拍子で冷蔵庫へ駆けていく。
 瓶5本ほどを抱えて帰ってきたのを見る限り、あまり飲むと言うほど飲まないらしい。アリシアにしては。
 
 「明日も予約ありますしね。ちょっとした息抜き程度のものですよ」
 
 嬉々として、食事に手を付ける前に1本目をあけた。
 並々とグラスに注ぐと、今度はどうやらお酌もしてくれるらしい。こちらに瓶の口を向けて、グラスを待っていた。
 その行為に少し笑いながら、ご厚意に甘えてグラスを向けると、同じように並々と注いでくれた。
 ちょん、とグラスを手に持ってニコニコしながら待つ様は、早く飲みたいと言っているようであった。
 
 「それじゃ、乾杯」
 
 「乾杯」
 
 かちん、と綺麗な音をたててグラスを打ち合わせる。
 中のお酒がこぼれそうになるのもご愛敬、ずず、と啜って量を減らし、それから半分ほどまで飲み干す。
 対して、アリシアはくいっとお猪口でも煽るようにグラスを傾けると、一気に全部を飲み干していた。相変わらずのうわばみである。
 
 「……」
 
 「……」
 
 黙々と食事が進む。
 灯里や社長がどれだけ俺達の会話の繋ぎになってくれていたかがありありとわかってしまう瞬間だ。アリシアは決して口数が多いわけじゃないし、俺は話上手でもなければ気の利いたセリフも出てはこない。
 別に気障ったらしく会話するつもりはないのだが……。
 
 「ふぅ……」
 
 「早いな、アリシア」
 
 2本目を飲みきっていた。
 食事が始まってまだ5分と経っていない。アリシアはなぜかやたらと飲んでいる。
 3本目の瓶をあけ、グラスに注いでは飲んでいる。ひとりで椀子蕎麦でもしてるようにも見えてくる。
 
 「お、おい。そんなに一気に飲んだら……」
 
 「あらあら。大丈夫ですよ、うふ、うふふ」
 
 「全然大丈夫そうに見えないんだが……」
 
 アルコールの回りがやけに早い。というか、アリシアが酔い始めているところを初めて見た気がする。
 いつもならどんなに飲んでも頬に軽く朱がさす程度なのに、今は鼻頭まで赤くなり始めていた。
 止めた方がよさそうだ。
 
 「ほら、今日はもうやめとけ。明日に響く」
 
 「ん。明日、休みたいです」
 
 「馬鹿言うな。明日はちゃんと予約が朝から入ってるんだぞ? …………もしかして、気分がすぐれないのか? なら、俺からちゃんとお客さまにはキャンセルの電話も入れるし……」
 
 突然どうしたんだろうか。
 今まで、どんなことがあっても自分から「休みたい」なんて言わなかったのに。
 一応、熱があるかどうかだけは見ておく必要があるな。体温計はどこにあったか……。
 立ち上がって体温計を取りに行こうとすると、くいっと袖を軽い力で引かれた。
 
 「……士郎さん。今日、もう酔っちゃって帰れそうにないです」
 
 「それだけじゃないだろ。本当に風邪とかじゃないのか?」
 
 ふるふると首を横に振りつつ、袖を摘む指に力が入った。
 アリシアが見上げてくる。潤んだ瞳と、火照った肌。その仕草がどうにもいつもの落ち着いたアリシアのものではなく、年相応、という彼女があまり見せない一面だった。甘えたい。そんな欲求がひしひしと伝わってくるようだった。
 どうにも、らしくない。
 
 「…………しろーさん」
 
 「お、ちょっと……アリ、シア!?」
 
 ずいずいと酔った勢いなのか、何なのか……。立ち上がったアリシアはどんどん距離を詰めてきた。
 俺は一歩一歩歩み寄って来るアリシアを正面に、一歩一歩退いて行く。だが、摘まれていた筈の袖は、いつの間にかがっちりと腕を組まれていた。動けない。
 
 「しろーさん……私……私」
 
 「ちょっと待て……! 落ち着け、アリシア!」
 
 虚ろな瞳に、俺が映っているのが見えるほどに近づかれる。はぁ、はぁ、と少し酒臭い吐息もすぐそこに聞こえる。
 こちらまで当てられてしまいそうな臭気と、やけに色っぽいアリシアの表情。
 このまま流されてもいいのではないか、とまで思いたくなってくる。だが、それでいいのか衛宮士郎。
 
 「アリシア……!」
 
 張り付いていたアリシアをぐっと突き放す。
 
 「はぁ……はぁ……」
 
 アリシアの言葉を待たず、掌を額に当てようとすると、はっとしたアリシアはすぐに俺の手を払いのけようとしたが、そう簡単にはいかない。ぐいぐいと力を込めて押し返そうとしてくるものの、俺の力には逆らえない。
 
 「…………っ」
 
 じゅっと音が出そうなほど熱かった。酒で火照っていることを除いても、だ。
 掌が当てられた瞬間にアリシアは諦めたのか、申し訳なさそうに肩を寄せ上げ、俯き加減に顔を伏せてしまった。
 腹が立った。無性に腹が立った。
 
 「アリシア、なんで言わなかったんだ」
 
 「……しろーさん。私、だって……」
 
 「だって、じゃない……! すごい熱じゃないか。どうして黙ってたんだ!?」
 
 「心配、させたくなくて……」
 
 ――――呆れた。
 ガシガシと音が出るほど頭を掻いてから、ため息をついた。
 アリシアはやっぱり顔を合わせようとはせず、俺は軽くアリシアのデコをはたいた。ぺちん、と可愛い音がして、アリシアは何が何だかわからない、という顔をして見詰め直してきた。
 
 「……ばか」
 
 「あっ」
 
 今度は俺がアリシアを引っ張る。
 ぐいぐいと引っ張って行って、灯里が寝泊まりしているベッドまで連れてきた。
 
 「ここで待ってろ」
 
 座らせるだけ座らせて、さっさと準備を始める。
 氷枕に、冷水、手拭い、飲み水と一通りのものをベッドの横に運んでから、アリシアの着替えを取りにアパートまで走って行く。
 それらしいパジャマやネグリジェ等を腕いっぱいに抱えて帰って来ると、アリシアは慌てて、
 
 「そ、それくらいは自分でします……!」
 
 と、腕いっぱいの着替えを奪ってしまった。
 確かに、着替えてるところやらこういう服はあまり見ていいものじゃないことぐらい、分かってるつもりなのだが……。
 心配なのだ。
 
 「じゃあ、着替えたら呼んでくれ」
 
 「あ……はい」
 
 階段を降りて、もう一度ため息を吐く。
 どうして一目見て分からなかったんだか……。それともアルコールが切っ掛けで出てきたとかか?
 どっちにしても気がつけ馬鹿野郎……。
 
 「し、しろーさーん?」
 
 「あぁ、今行く」
 
 不安げな声で呼ばれた。
 それを放っておくことも出来ずにすぐに駆け付けるとする。
 
 「じゃあ、今日はもう寝て、明日の予約は俺が断っておく」
 
 「だ、大丈夫ですっ。寝たらよくなりますから、キャンセルしなくてもいいですよ」
 
 「馬鹿。風邪は治ったって時が一番気をつけなきゃならないんだぞ? いいから、寝てろよ」
 
 無理矢理ベッドに寝かせて、掛け布団をかける。
 アリシアは顔を半分ほど埋めて、こちらを見上げた。
 
 「すいません」
 
 「全くだ。風邪なら風邪だってちゃんと言え」
 
 今度こそ顔を全部埋めてしまった。
 じゃらら、と氷枕が鳴る。
 
 「頭、痛くないか?」
 
 「大丈夫です。冷たくて、気持ちいいです」
 
 「体は? だるいとか、怖気がするとか」
 
 「ないですよ」
 
 「喉は乾いてないか?」
 
 「はい。着換える時に少しだけ飲んだんで、大丈夫です」
 
 「なんか軽く食べるものいるか? 飯の途中だったからな、腹は減ってないか?」
 
 「もう、大丈夫ですってば」
 
 迷惑そうな口調とは裏腹に、その顔はとても嬉しそうだった。
 しばらくは黙って横にいたが、どうも俺がいると落ち着いて寝られないらしい。さっきからそわそわと忙しない。病人に無茶をさせてはいけないな。……そろそろ降りておくか。
 
 「――――あ」
 
 「ん?」
 
 階段に向かおうと椅子から立ち上がった時だった。
 どこかしら切なそうに、アリシアが声を漏らした。
 
 「……あの、寝るまで……私が、その」
 
 「…………りょーかい。いるよ、アリシアが寝ても。隣にいる」
 
 「あ……はい。ありがとうございます……」
 
 ほぅっと、少し固かった表情が和らぐ。
 とろんとした眼のせいでいつもの優しい笑顔、と言うわけではなかったが、ほにゃりとしたやわらかな笑顔をくれた。
 それから、ただなにも話すこともなく、濡らした手拭いが温かくなったら冷水に浸して冷まし、アリシアの額にのせる、という行為を続ける。
 アリシアはさっきまでの妙な緊張はどこにいったのか、安心しきった表情でこちらを見ている。
 
 「しろーさん」
 
 「何だ?」
 
 「うふふ。呼んだだけです」
 
 「そうか」
 
 こうやって俺をからかい始めたところを見る限り、それなりに落ち着いてきたらしい。
 酒が効いたかな。風邪の症状が出てしまったのは酒で酔ってしまったせいかもしれないが、逆に、酒を飲んで全身の体温を上げ、代謝を高めることでより早く快方へ向かっているのかもしれない。
 飲んで正解だったのかもな。
 
 「…………しろーさん」
 
 「何だ?」
 
 「んみゅ……すぅー……」
 
 「……寝言か。子供みたいな寝言だな」
 
 まるで、親に甘える娘のようだ。
 そんなことを考えて、ふと違和感が残った。
 ――――親、か。
 
 「……ありがとう、アリシア」
 
 「すぅ……すぅ……」
 
 なんとなく、お礼を言っておきたかった。
 一晩中、アリシアの隣で、アリシアだけを見つめていた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「……う、ん……」
 
 目を開けると、自分のアパートの天井じゃなかった。
 懐かしい、下宿時代の朝一番の景色だった。それなのに気持のいいことがないのは、汗でべたべたになっているからだろう。
 
 「…………しろーさん?」
 
 見回してみると、部屋のどこにも彼の姿がなかった。
 昨日、寝る前のまま、部屋は整えられている。下の階からも朝食を作る音もしない。
 風邪のせいじゃない。ぞくりと背筋が凍ってしまいそうな気がした。
 
 「し、しろーさんっ」
 
 慌ただしく階段を駆け下りていく。窓から見える空はまだ暗く、ちょうど夜明け前らしい。
 こんな時間にいなくなるなんて、絶対におかしい。
 
 「お」
 
 「あ」
 
 ――――そんなわけがなかった。
 冷水が入った器を持ちながら、呆然と私を見下ろしてくる士郎さん。その視線に、どうしてだか少し腹が立った。
 
 「おはよう、アリシア――――っと!?」
 
 有無を言わさず、士郎さんの胸に飛び込んだ。
 背中に腕をまわして、力いっぱいに抱きしめる。汗でぬれた体や服のことも気にしないで、全身をなすりつけるように。
 胸に顔をうずめながら見上げると、士郎さんは困惑した顔つきでこちらを見ていた。
 
 「ど、どうしたんだ?」
 
 「士郎さん」
 
 「お、おう」
 
 「風邪ひいたときって、とっても心細くなるんです。知ってましたか?」
 
 もう一度ぎゅっと抱きしめる。すると、士郎さんは片腕だけだけど、抱き返してくれた。
 子供をあやすように後頭部をぽんぽん、と軽く叩かれて……。少し腹が立っていた気分も一気になくなってしまった。
 
 「ごめんな、アリシア」
 
 「いいんです。でも、だから……約束はちゃんと守ってくださいね」
 
 「約束……?」
 
 「隣にいてくれるって、言ったじゃないですか」
 
 「……あぁ。そうだったな。そうだ」
 
 士郎さんがどういうつもりで「そうだ」って言ってくれたのかは知らない。
 でも、私は勝手にこう思ってる。
 
 ――――私が永眠《ね》るまで、隣にいてください。
 
 とても勝手な、本当にわがままな約束。
 一方的すぎて、自分自身でも嫌になるくらいに卑しい約束。
 きっとこんな私の思いは彼に伝わっていない。
 
 「…………ちゃんといる。言っただろ、俺もお前に見ていてもらわないといけないんだ」
 
 「そうでしたね」
 
 ……一方的?
 そういえば、私だけじゃなかった。一方的な約束を取り付けてたのは私だけじゃなかったっけ。
 安心したわけじゃない。ただ、嬉しかった。
 何が、なのかは自分でもよく分からない。お互いが一方的な約束を取り付けることで、相互の約束になったからなのか。
 それとも、ただ純粋に“いる”と言ってくれたことに対してなのか。
 
 「さて、アリシアも起きたことだし、朝食でも作るか。おかゆとかがいいか?」
 
 「はい。士郎さんが作ってくれたものなら」
 
 そうか、と言ってから士郎さんはキッチンへ向かった。
 昨日の残りの冷ご飯を冷蔵庫から取り出して、言う。
 
 「あのさ、アリシア。くっつかれてたらやりにくいんだけど……」
 
 「いやです。寂いしいんですもん」
 
 「……〜〜。まったく、怪我しても知らないからな」
 
 「はい」
 
 背中から胸の方へ腕をまわしてぎゅっと抱きつく。
 今さらだけど、なんで今日はこんなに大胆になってるんだろう。風邪のせい、だけじゃない気がする。
 
 「……士郎さん」
 
 「なんだ?」
 
 「呼んでみただけです……」
 
 「そうか」
 
 安心する。
 こうやって抱きついて、すぐそばにいるととても安心する。
 それは、士郎さんが無意識のうちにどこかへ行ってしまいそうな人だということもあるけど、たぶんそれだけじゃない。
 いつも近くで見てるけど、ここまで近くにいたことは、たぶん、ない。
 良くても手を繋いだくらい。
 
 「出来たぞ」
 
 「もうですか?」
 
 「もうって、10分はあったけどな……」
 
 「え?」
 
 ……10分?
 そんなにずっと抱きついてたの?
 
 「す、すいません……っ」
 
 「なんでさ。寂しいから一緒にいたんだろ。アリシアが謝ることじゃない」
 
 「あ、う……ほんとですか?」
 
 「あぁ。なんていうか……むしろありがたかった」
 
 「ど、どうしてですか?」
 
 「……どうしても。俺にもわからない。けど、ありがとう」
 
 その一言が、無性に嬉しかった。
 だから、その言葉をもう一度聞くことが出来るように……いつも通りに戻ろう。
 
 
 日は昇り切り、空には小鳥が飛び交っている。
 今日も空は青く、雲は白い。波は荒れておらず、静かな波音を響かせている。
 
 「本当に大丈夫なのか……?」
 
 「はい。無茶はしてません」
 
 真っ白な自分のゴンドラに乗り移る。
 
 「ならいいが……」
 
 「士郎さんのおかげでもう十分元気になりましたよ」
 
 体中にちゃんと力は入る。
 バランスが崩れるほど疲れてもいない。熱もないし、頭もスッキリしている。
 オールを水面につけ、思いっきり漕いでみせる。
 
 「ほら、ね?」
 
 「みたいだな。じゃあ、無理だけはするなよ」
 
 「はい! 行ってきますっ」
 
 「いってらっしゃい」
 
 手を振り合いながら今日もお仕事に出掛ける。
 いつも通りの朝。
 だというのに、いつもの朝よりも断然清々しい。
 境界線が曖昧な地平線を眺めながら、手前にあるサン・マルコ広場を視界におさめる。
 絵に残しておきたいと思うほど、輝かしい光景だ。
 
 
 
 「お客様、お手をどうぞ――――!」
 
 
 
 今日も元気に、お仕事しましょう!
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:26   end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

姫の密事

20万ヒット御礼SS(のつもり)。
 
◆初めに。
・それなりの百合成分が含まれています。そういった類のものが苦手な方で、読んで気分を害したとしても自己責任でお願いします。
・書きだした当初と書き終わった後のコンセプトが違う、という事態が発生してしまったので、少し(大いに?)わけのわからないところがあるかもしれません。
 
 
 
以上のことを了承してくれた方は追記から。
それでは、お楽しみください。
 
 
 
 
 
 
 
 

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プロフィール

Author:草之 敬
趣味:絵を描くこと(友人に「お前が描くのがムカツク」と言われる程度)・小説を書くこと・ドラムス
    
性格:優柔不断。ここを作ったのは英断だと思ってる。

語り:この頃やっと自分のブログに自信が持ててきた。
 作品が増えていくたび、愛着が出てきて困る(いい意味で)
 心の聖典は『イエスタデイをうたって』『ああっ女神さまっ!』

小説を読む前にガイドラインを読んでくれると注意書きとか載ってます。

リンクフリーです。相互リンクも大歓迎です。

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