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2022-08

天よ、降れ《アメヨ、フレ》

 
 あぁ、どうして。
 あぁ、どうして。
 あぁ ………
 ――――――― どうして。
 
 



 風が赤い。
 漠々として乾ききった大地を削り、砂礫が痛いくらいに舞飛ぶ。
 ゆえに、風が赤い。
 
 赤い風の中、彼女はいた。
 毎日、毎日。毎日、毎日。
 赤い風は彼女を食んだ。
 
 少女が在った。彼女は確かに、存在しえた。

 今日もまた、彼女は風と唄を歌う。
 
 『―――――― 天土《あまつち》 紡ぐ大いなる架け橋よ、架かり給へ』
 
 空は、大地と決別したように気持ちの良い青空。
 遮る雲は無く、鳥もまた然り。
 
 『―――――― 大いなる天のアポロンよ、常夜に呑まれよ』
 
 優しさは時に残酷。
 あれは故意に現れるのか?
 
 『―――――― 遥かデネブの閃きよ、途切れ墜ちよ』
 
 この世界は、暴君。
 されば、この様な運命は何者か。
 
 『―――――― この小さな手のひらに、溢れんばかりの架け橋を』
 
 少女は歌った。
 枯れ死んだ大地に命を灯すため。
 少女は歌った。
 己から零れる、涙と共に。
 
 
 
 
 
 夜の帳が天を覆う。
 村に居場所を移し、部屋に篭る。
 私が生まれた日、植えられた椰子《やし》 はもうどこにあるかすらわからない。
 天窓に飾る花は、花弁の端から茶色に染まっていく。
 
 もう、時間なんて無い。
 そもそも時間なんてあったんだろうか。
 外からは声が聞こえる。

 騒がしい、男たちの宴。
 今日もまた、始まった。
 
 うんざりだ。
 彼らにはワインが在る。毎年採れていた瑞々しい葡萄を醗酵させたワイン。
 確かに、絶品だ。
 甘さと、辛さが交じり合う舌の上のカーニヴァル。
 酒が呑めないこの身にも馴染むなめらかさ。

 けど、二度と口にしたくない。
 
 なんて、不味い
 泥のようなざらつき、熱を持つ鉛の嚥下。
 今の私に、飲めるものではない。
 けれど、■■がいる。
 
 ゆっくりと体を起こす。
 向かう先は男等の宴の中心。
 今の私には、それはワイン以外に採れる唯一の■■。
 
 口々に私を迎え入れる男等。
 激しい熱気は形《なり》 を潜め、宴場に漂う空気は愚かな熱気。
 
 今日も私は、白粉化粧《おしろいげしょう》 。 
 
 


 
 少女はただ飲み込みたい。
 天からの架け橋を。この大地に溢れていた■■を。
 
 「あの泉は、もうずいぶん前に枯れちまった。いつだったかよ?」
 
 「知らんわ。なに、泉はなくとも俺等には極上のワインが十二分、あるじゃないか」
 
 少女は嘆く。
 ここまで心が汚れてしまっていたのか。
 少女は歌う。
 この汚れさえ流してしまえるような架け橋を見たくて。
 
 また、彼女は居場所を移す。
 赤い風が蹂躙する、赤と蒼の境界線。
 
 バックスのいる村から出来るだけ遠く。
 あの香りから出来るだけ遠く。
 
 だけど、私の唄が届く距離で。
 
 この身が出せる涙など足りるべくもなく。
 この身が歌う唄は、力が足りぬ。
 
 絶望など、したとしても何が在る?
 希望など、したとしても何が在る?
 
 私が望むのは我が唄の成就。
 
 『―――――― 太陽よ、アポロンの灯よ
  ―――――― あなたの接吻《くちづけ》 はいらない
  ―――――― 風雲よ、雨を連れて 
  ―――――― 手のひらへ降り注げ』 
  
 求める■■は白粉《おしろい》 じゃない。
 
 『―――――― 太陽よ、アポロンの灯よ
  ―――――― 日暮れ前に消え去れ
  ―――――― 風雲よ、雨を連れて
  ―――――― この体へ注げ』
 
 口が苦い。
 鉄臭い。涙じゃない、熱《あか》 い体液。
 大地はその雫を貪る。
 
 痛みなど、とうに慣れた。
 砂と化す唇の味。白粉《おしろい》 よりもおいしい。
 焼けつく咽の味。麦酒《ばくしゅ》 よりもおいしい。
 
 今、この身全てが村よりもおいしい。
 
 『―――――― 星月よ、デネブの灯よ
  ―――――― あなたの抱擁はいらない
  ―――――― いかづちよ雨と共に
  ―――――― 手のひらへ降り注げ』
 
 蒼い空が燻っていく。
 まるで、天にらくがきをするように。
 一本、また一本。黒く黒く燻っていく。
 
 『―――――― 星月よ、デネブの灯よ
  ―――――― 夜明け前に消え去れ
  ―――――― いかづちよ雨と共に
  ―――――― この体へと注げ』
 
 架け橋が降りる。
 閃きのような幾重もの架け橋。
 私は知らない。
 こんなに昏い世界を、私は知らない。
 眩しいくらいの暗闇。
 
 あぁ、どうして。
 あぁ、どうして。
 あぁ ………
 ――――――― どうして。
 
 
 
 「最後まで見せて。私が産《のぞ》 んだ世界を。
  暗くて昏い、架け橋が大地を潤す、《みず》 の世界を」
 
 私の闇は、最後に私の 《娘》 を見せてはくれない。
 あぁ、愛しき 《娘》 よ。
 
 私にその姿を見せて欲しい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 目を開けると、そこにはいつもの気持ちの良い青空。
 風は赤く、視界を少し奪って暗い。
 
 あぁ、なんだ。
 私の 《娘》 なんて大嘘だったのか。
 
 なら今日も、宴に白粉化粧《おしろいげしょう》 をしに行こう。
 でも、今日はとても眠い。
 まずは寝てからだろうな。
 それに、たまには、こんなところで寝てみるのも悪くないかもしれない。
 
 「おやすみなさい」
 
 いつもは言うことのない言の葉を紡ぐ。
 最後に、子守唄を歌おう。
 《娘》 にしてあげようと、夢で綴った子守唄を。
 謳うのは私。聴くのも私。
 
 
 
 《―――――― みずが波立つ蒼いあなた
  ―――――― 鳥が飛んで行く紅いあなた
  ―――――― わたしがわたしであるように
  ―――――― おまえはおまえであるように
  ―――――― 昏い境界は世界を保つ》
 
 謳って、私は眠った。
 《娘》 の体があったなら、埋まって寝たいとオボロゲに思って。
 
 

 
 
 
 
 
 ただ最期に瞳《め》 が捉えたのは、ゆらゆらゆれて輝いている天蓋《そら》 だった。
 
 
 
 




 ***************

 原曲:晴れすぎた空の下で 《志方あきこ》
 
 草之の自己解釈で綴られた一ヶ月記念短編。
         
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テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

夢は夢であるように


 また夢を見た。
 彼が出てくる、とても狂おしい夢。
 いつもいつも、彼は消えていく。今と言うときに、私は目覚めてしまう。
 
 彼は表面上、私のお友達。
 学校に行くと、決まって中庭の芝生に寝転んでいて、夢とは全くの別人。
 おだやかで、やさしくて、でもいつも何かを考えている。
 
 何を考えているの?
 それは人のこと?
 ならそれは私のこと?
 
 何を考えているの?
 それは物のこと?
 ならそれは私にくれるプレゼント?
 
 何を考えているの?
 それは時間のこと?
 ならそれは私との時間のこと?
 
 知りたいの。貴方のことが、知りたくて堪らないの。
 夢のように、甘く刺激的に、熱く情熱的に …… 私を挑発してみせて欲しいの。
  
 また夢を見る。
 真紅に染まった薔薇を部屋中にいっぱい敷き詰めて、それとは対照的な真っ白いシルクのベッドで。
 私たちは朝までかけて、愛し合うの。
 それでも、私は貴方の十分な愛を受けられない。
 だってこれは、夢なのだから。
 
 
 白昼夢。この頃私は起きていても夢を見る。
 それが我慢できなくて、私は貴方を何度も、何度も誘うけれど、貴方はいつでも上の空。
 頼んだカフェ・オレはいつの間にか冷めきって、まるで私と貴方のよう。
 
 いつでも、どこでも、どんなときでも。
 私は期待しつづけてるのに、貴方は絶対に私を見ない、見てくれない。
 期待しつづけてるの、ずっと、ずっと。
 期待はしてるけれども、気分は落ちていく。
 
 これ以上は貴方の迷惑なの?
 それは私だから?
 なら私の期待に一回でいい、答えて。
 
 これ以上は貴方の迷惑なの?
 それは私がいるから?
 なら私の期待に一回でいい、答えて。
 
 これ以上は貴方の迷惑なの?
 それは私といる時間なの?
 なら私の期待に一回でいい、答えて。
 
 感じたいの、貴方のことを。一回だけでいい。
 夢じゃない、人として野性的に、獣のように官能的に。
 
 夢は続いてく。
 今日に限って、この夢はいつもと違うの。
 広がっているのは薔薇の部屋じゃなくて、広い広い野原。
 私は貴方の隣で声が枯れるまで好きだって、愛してるって、叫んでる。
 走って走って、このどこまでも続いてる野原のように、私は永遠の愛を叫び続けてるのに。
 それでも、私は貴方の愛を十分に受けられない。
 夢だって知ってる。だから。
 
 
 夢は続いてく、ずっとずっと。
 私の想いが彼に届くまで。
 薔薇に囲まれたベッドでいつまでも愛し合っていたい。
 
 目覚めさせない、この夢は。
 だって、彼が私を見てくれる限りのある時間だから。
 彼はいつでもエンドレステープのように耳元で囁いてくれる。
 邪魔は誰にだって出来ない。これは私の夢なんだもの。
 
 夢は限りない、ずっとずっと。
 私の想いが彼に届くまで。
 息が出来ないくらい走ったって、私は叫び続ける。
 貴方が好きで、好きで堪らない。
 
 飾らない涙で、全てを伝えたい。
 悲しみさえも私と分かち合って。
 何処にも、見たことも聞いたこともないような、愛を、本当の愛を手に入れるまで。
 私は眠り続けていたい。
 
 
 夢は夢であるように、また、夢は望むものであるように。
 夢は夢であるように、また、夢は目指すものであるように。
 
 止まらない想いは、私を動かしてくれた。
 


 「愛してるの」
 


 彼は微笑む。
 いつもの顔じゃなくて、本当の笑顔を。
 きゅっと心が動いた。心地のいい、今まで夢では感じたことのない感情。
 
 
 
 「ずっと、君が心から離れなかった」
 
 
 
 彼は夢とは違った言葉で、好きだと告げた。
 伝わらなかったと思っていた心は、感情は、想いは、彼も感じていてくれていた。
 
 それはそれは素敵なことだ。
 
 たとえ、一晩中愛し合ったとしても。
 たとえ、息が死ぬぐらい叫び続けなくても。
 たとえ、夢から覚めなくても。
 
 夢は夢であるように、現《うつつ》 は現《うつつ》 でしかない。
 
 だから、夢でいくら愛してもらっても、彼の愛は十分じゃなかった。
 いくら私が愛を伝えても、夢でしかない。
 
 現は現であるように、起こらないと始まらない。
 現は現であるように、起こさないと始まらない。
 これが私たちの、愛のかたち。
 
 
 ―――――― IN MY DREAM.
 
 
 
 
 
 
 
 ***************
 
 原曲:IN MY DREAM 《真行寺恵理》
 
 草之の自己解釈で綴られた1000HIT記念短編。


テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

大鐘楼は人の心に

 
 君と僕はよく、というよりいつも一緒にいた。
 もしかしたら、それぞれの家族以上に一緒にいたと思う。
 
 そのことにお互い全く疑問を感じなかったし、むしろ家族以上に家族だったと思う。
 
 君は僕の、僕は君の。
 そう、一部といって差し支えない。
 
 だけどある日、僕と君とよく一緒に遊んでいた女の子がたった一言、ポツリと言った。
 
 
 「アナタたちは、お互いがアナタたちなのね」
 
 
 君も僕も、はっとした。
 僕たちはどっちが僕でどっちが君なんだろう。
 境界がとても希薄。
 僕は僕、君は君であるはずなのに。
 

 僕と君は決意した。
 探そう、君は君を。僕は僕を。
 
 僕は街の北口から、君は街の南口から。
 僕等が自分を知るために、僕等が自分を探すために、ずっと一緒と思ってきた僕等は初めて“手”を離した。
 
 
 最初はワケが解らなかった。
 君がいないと僕はダメなんだって思っていたから、僕はなにも解らない。
 きっと君も同じ。
 
 この世界はいつも夜が来る。
 普通、夜は足を止める。方角を見失いかねないし、暗くなるから。
 けれど僕はずっと歩いた。
 ある人は『勇気ある冒険者』と称えてくれた。
 ちがう。そうじゃない。
 
 立ち止まる勇気がないから、ひとりで寝る勇気がないから、歩き続けるんだ。
 僕はみんなが思うほど強くない、そう強くはない。
 
 
 
 どちらが言ってしまったんだろう。
 君は君を、僕は僕を探そうなんて、どっちが言ってしまったんだろう。
 今、僕は初めて君に怒っている。きっと君から言い出したんだって。
 
 また一夜通して歩いていた。
 ずっと怒っていた。
 なにか、何でもいいから、このムシャクシャを止めたかった。
 
 嫌だから。君を疑うなんて嫌だから。
 いつのまにか、君にじゃなくて、こんなことを思ってしまった自分に怒っていた。

 そんな気持ちのまま、街に着いた。
 いつものように、慣れてきた感じで必要なものを買って補充する。
 お金の稼ぎ方も分かってきた。多分、次の街ぐらいで働くことになるだろう。
 
 ふと、こんな気持ちだからだろうか。
 君に、僕を知ってほしくなった。今の自分を、知ってほしくなった。
 教会の大鐘楼の鐘が街に響く。
 なぜだろうか、これがいいと思ったのは。
 
 
 
 街を出て、街が見えなくなった頃、手に持った、街で買ったランタンサイズの鐘を思いきり叩いた。
 教会の鐘よりも高く、より多く体を打つ音。
 教会の鐘よりも、どんな鐘よりも、君にはこれが聴こえると思った。
 
 ゴメンね。
 そんな気持ちをこめて、最初の鐘を打った。
 許してくれるだろうか。もし、逆だったら許してあげられるだろうか。
 
 きっと許してくれるし、僕も許す。
 もしかしたら、君も同じことを考えていたのかもしれない。だとしたら、痛み分けだ。
 すぅっと、気持ちが軽くなった。
 
 
 
 朝もやに僕の鐘がこだまする。
 一度打っては、一度返ってくる。
 距離はわからない。けれども、わかる。
 この鐘の音は遠くない、そう遠くはない。
 
 僕は君の、君は僕の。
 一部のようで、はっとした。
 僕って誰だろう、君って誰だろう。
 
 だから、僕は僕を。君は君を知るために初めたこの旅で、あることに気付いた。
 
 君は君らしく、僕は僕らしくある。ということはつまり孤独なんじゃないの?
 ほら、この旅がまるでそのまんまだ。
 
 今僕はひとりで、君もきっとひとり。
 気付いたんだ。
 
 僕は僕らしく、君が君らしくある以前に、僕たちは、僕たちらしくあればいい。
 人はひとりじゃダメなんだ。光と影があるように、コインの表裏のように。
 
 どちらともがないと、どちらともがありえない。
 光がないところに出来るのが影じゃない。光の届かないところに、フォローするのが影なんだ。
 
 世界はとても、フラクタル。
 一部が全てになって、全ては一部足り得る。
 人が見る世界が、世界という一部なら、またその一部は、人の見る世界の全て。
 世界は白か黒。荒荒しくいえば、平和か争い。
 
 僕と君もそう。
 僕は君が認めて始めて僕で、君は僕が認めて始めて君。
 僕が見る君は、君の一部分だけかもしれない。でも、僕にとってそれは君の全てなんだ。
 
 だから、戻ろう。君と僕へ。
 君がいて、僕がいるあの世界へ。
 
 鐘を鳴らす。
 僕はここだよ、君はそこだね。
 近付いている、そうきっと近付いている。
 
 僕は今、とても嬉しい。
 君もそうだろ?だって世界はフラクタルだから。
 
 見つけるよ、あと少し。
 
 ほら聴こえる。君の鐘の音だ。
 
 僕も応えよう。
 
 
 ―――― 鐘を鳴らして。







 ***************
 
 原曲:鐘を鳴らして 《BONNIE PINK》
 
 草之の自己解釈で綴られた2000HIT記念短編。

テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

世界-シアワセ-を捜し出せ

ども、草之です。

10000HIT ということで短編をまた書いたわけですけど。
これがまた、ホントに駄文ですので……読んでみたい方は追記からどうぞ。


ちなみに、『その優しい星で…』からのスピンオフ、いわゆる三次創作ものです。
いままで通り『歌』をもとに独自解釈で書き上げましたが一応。

Navi:7で士郎が買った本、『PRIMAVERA』の一部みたいにして書き上げました。
楽しんでいただければ、幸いです。

では、草之でした!!

 * * * * * * * * * * * *

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テーマ:短編小説 - ジャンル:小説・文学

アイドルマスター XENOGLOSSIA THE @FTER 嘘予告

 
 あれから、ちょうど1年。
 東京は驚くほどのスピードで復興して、今ではすっかり元通り。
 そして、その1年前の今夜。
 
 宇宙に、大きな大きな …… 花が咲きました。
 
 誰が名付けたかは、知りません。
 
 “コスモス・スノー”
 
 そんな名前で呼ばれるようになったんだ。
 宇宙の雪。
 花のようだったから、その宇宙にあやかって花の名であるコスモスが付けられたとも言われている。
 その余波で、コンペイトウもほとんど全部が無くなって。
 
 1年。
 君が旅立ってから、もう1年だよ?
 早いねぇ ………… うん、本当に早い。
 
 
 *  *  *  *  *


 「やよいと ――― 」
 
 「春香の ――― 」
 
 『弥生式らじおー!!』
 
 そうして、彼女はアイドルを辞めていない。むしろ、以前よりも人気が出てきて、毎日がジェットコースターのように流れていく。
 だから、早いと言ったのだ。
 
 「いやぁ、年明けですねぇ春香やぃ。どれどれこのやよい婆がお年玉をあげようではないか」
 
 「えぇ? 突然老けこんじゃって、なに?」
 
 「聞いてくれる!?」
 
 「時間はあるけどね」
 
 春香は手元のストップウォッチを眺めながら頷く。
 こうして、彼女らの1日のスケジュールは消化される。
 
 お互いが仕事に疲れ、寮に帰ってくる頃には少々アイドルとは言えない格好になっている。
 口々に「ただいまー」だの、「つかれたー」だの、「ねるー」だの。ベッドに倒れこむ。
 と、ふとやよいが思い出したように春香を向き直す。
 
 「そういやぁ、1年だね」
 
 「え? …… あぁ、うん。そうだね」
 
 「なに? 忘れてたの? アンタの彼氏のことなのに」
 
 「彼氏って …… うん、忘れてないよ」
 
 ベッドに顔を埋もれさせたまま、春香はじっとやよいの話を聞いている。
 ポケットに手を入れ、そこから出すものは『鍵』。
 春香と、“彼”とを繋いだ、絆の証。
 
 「インベル …… 」
 
 その時、彼女の携帯に着信が入る。
 知らない番号だが、春香はそれに答える。
 
 「もしもし?」
 
 『春香くん、そこにいるんだね?』
 
 「え。あっと …… 課長?」
 
 『そうです。そこに、いるんですね?』
 
 「はい、やよいちゃんと一緒に」
 
 『すみませんが、やよいさんに一言だけしゃべってもらえますか』
 
 春香はその言葉に疑問を感じつつも、以前の上司の頼みだし、そんなに難しいことじゃないし、とやよいに携帯を差し出す。
 やよいは携帯を受け取り、二言三言しゃべっただけでやよいは春香に携帯を返す。なにかしら、と春香と同じ疑問を浮かべながら。
 
 『落ち着いて聞いてください。“シード”にインベルの反応が出ました』
 
 「え?」
 
 “シード”。
 “コスモス・スノー”の名残。今でもなお輝く昼の星。
 そこは以前、アウリンがあった場所。インベルが旅立った場所。
 
 『そして、アナタが乗っているとも。分かりますか、春香さん』
 
 「 …… え?」
 
 『インベルに乗って、操縦しているのが春香さん。アナタだと言うことです!』
 
 「えええええぇっ!?」
 
 そこから、人類強いては ――――――

 地球第2の破滅の道が始まった。
 

 *  *  *  *  * 
 
 
 『 …… に告げる …… から、地球を …… 』
 
 繋がる通信。その声は間違い無く春香のもの。
 しかし。
 
 「私 …… ここにいるのに?」
 
 
 
 『インベルがいなくなる世界なんて …… 考えられないの』
 
 より明確になってくる通信。
 その声は、春香。そして、人工衛生がインベルを捉える。
 
 「う、そ」
 
 
 
 『だから、私は壊す。この世界も、私の世界も。私も、インベルも。全部壊して、インベルとずっと一緒に』
 
 “シード”が開く。輝く光は、大輪となり、宇宙に孔を空けた。
 そこから覗く、青い星 …… もうひとつの地球。
 
 「そんなのダメ! インベルは、私がいたこの世界を守ってくれたんだもん! だから、今度はインベルがいたこの世界を、私が守りたい、守らなくちゃいけないの!!」
 
 
 
 『iDOLもなくて、アナタに何が出来るって言うの!!』
 
 正論。
 もうひとつのインベルは、もうひとりの春香を是とし、邪魔モノを消していく。
 通常兵器では、iDOLは破壊できない。
 iDOLでないと、彼女たちは止められない。
 
 「くやしいよ、なんにも出来ないなんて。インベル、私、やっぱり守れないのかな」
 
 
 
 『 ………… う、そ、でしょ?』
 
 それはどういうことなのか。
 
 「イン、ベル?」
 
 独特の慣性制御の音を響かせ、彼女の前に再び白き巨人は降り立つ。
 あの時と、まったく変わらない姿で。
 
 「もう一回、力を貸してくれるの?」
 
 アイカメラを赤く、力強く光らせ、インベルは返事とする。
 彼も嫌なのだ。
 彼女といた世界が壊されるなんて言うのは。
 彼女がいた、彼女がいる、彼女が生きていき、彼女が死んでいくこの世界を
 
 「行こう、インベル。止めなくちゃ!!」
 
 妖精は、再び宇宙―そら―に舞う。
 もうひとつの世界と、もうひとつのインベルともうひとりの私。
 
 
 
 世界の破滅は …… もうすぐそこに迫っている。
 
 
 
 「絶対、絶対に諦めないから!!」
 
 
 
 
 
 
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Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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