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2008-11

その優しい星で…  Navi:12 前編

 
 前略 ――――
 こちら、アクアでは本格的に冷えてきました。
 私は元々マンホーム育ちだったのでここまで気温が下がる、寒いという経験がなく、ベッドから出るのも一苦労の毎日です。
 
 つい先日の雪虫の話からもう一ヶ月が近いです。
 アクアで迎える初めての冬。とても寒くてつらいですけど、それ以上にワクワクドキドキです!
 
 なぜかって?
 それもまた、今日の出来事に関係してたりするのです。
 聞いてください。
 今日は ――――……
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「温泉?」
 
 「士郎さん、一緒に行きませんか?」
 
 それは灯里が言い出したこと。
 でも、きっと衛宮さんは …… 。
 
 「いや。誘ってくれたことは嬉しいけど、ごめん。行かないよ、ていうか行けないかな」
 
 「えーどうしてですかぁ!? 会社のシャワーも私が寝てから使ってるみたいだし …… もしかしてお風呂嫌いですか?」
 
 「うぅん。そういうワケじゃないんだけどさ。何ていうのかな …… 」
 
 やっぱり断った。
 やっぱり、あの体のことなのかな。私はたまたま見てしまったから知ってるけど灯里は知らない。
 
 「灯里。無理強いしない。衛宮さん困ってんじゃないのよ」
 
 「でもみんなで行ったほうが楽しいよー」
 
 「アンタねぇ …… 女風呂と男風呂は別れてるから一緒に行っても衛宮さんひとりじゃない。それとも、一緒に入りたいの?」
 
 「うぇっ!? そ、そそそういうんじゃなくてね、藍華ちゃん? 二人で行くよりも三人ならもっと楽しいと思ったからで、ね? その …… 」
 
 灯里にしては珍しい反応を楽しみつつ、衛宮さんに目配せする。
 私の視線の意味を理解してくれたのか、衛宮さんは少し考えてから口を開く。
 
 「灯里、俺は大勢で入るよりもひとりの方が好きなんだ。だから、ごめんな。またどこかに行くときに誘ってもらえると嬉しいよ」
 
 「う~。そうですか。こちらこそすいませんでした」
 
 衛宮さんは少し笑って、灯里の下げた頭をクシャリと撫でてあげていた。
 灯里は灯里でくすぐったそうに笑って、満足してるみたいだし …… ま、いいか。
 と。
 
 「只今戻りました」
 
 「あ、おかえりなさ~い」
 
 帰ってきたのはアルトリアさん。
 いつものツーピースとかスカート系じゃなくて、セーターにジーパンというラフな格好をしていて少し驚いた。
 
 「アルトリアさんってそういう服も着るんですね」
 
 「動き易いですからね。それにもう薄着するような季節でもないでしょう?」
 
 「そりゃそうですよね。似合ってますよ」
 
 「えぇ、ありがとうアイカ」
 
 扉を閉め、とんとんと歩いて自然に会話の輪に入ってくる。
 
 「それで、一体何を話していたのですか?」
 
 「今度のお休みに温泉に行こうって藍華ちゃんが言ってくれて。それで士郎さんもどうですかって」
 
 つい、と衛宮さんの方に視線を向け
 
 「行くのですか?」
 
 「いや、今断ったところだよ」
 
 トントン、と胸の辺りを指で叩いてそう言う。
 それだけでアルトリアさんには伝わったのか、こくりと頷く。
 
 「しようがありませんね」
 
 苦笑いをこぼしながら、アルトリアさんは言った。
 やっぱり恋人だし …… そういうことなのかなぁ …… 。
 
 うわぁっ恥ずいっ!!

 と。
 
 「アルトリアさんは行きますか?」
 
 「私ですか、灯里?」
 
 「はい! どうですか?」
 
 「そうですね …… 」
 
 ふむ、とアゴに手を当てて考えようとしてただろうその矢先。
 
 「行ってこいよ。なんならアリシアも連れてさ。留守番なら俺がしてるよ」
 
 衛宮さんがグッジョブな後押しをしてくれた。
 まさに天国でお風呂! 状態。ビバ・バスヘヴン!!
 それでも一瞬考えてから、顔を上げる。
 
 「そうですね。せっかくですから、ご一緒しましょう」
 
 「わーひっ!」
 
 結局て言えば結局なんだろうなぁ、とか思いながら、その日は過ぎていった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 温泉旅行当日。
 私はもう一度だけ聞いてみることにした。
 
 「本当に来ないんですか?」
 
 それに対して士郎さんが苦笑いを零す。
 その横にいたアリシアさんも、少し申し訳なさそうに笑った。
 
 「アルトリアちゃんにお話もらったとき、もう予約とっちゃってたから。私からキャンセルするわけにもいかないでしょう?」
 
 そう言って、アリシアさんは「いってらっしゃい」と手を振る。
 思い出したのは一緒にどうですか、と聞いた時のセリフ。
 
 
 『ごめんなさい。もうその日にお仕事入れちゃったから …… 』
 
 
 最後にもう一回アリシアさんは「ごめんね」と呟いてから
 
 「また今度。よかったら誘ってね」
 
 「あ、はいっ!」
 
 いつも通りの笑顔でそう言ってくれた。
 そうだよね …… また今度。いつかきっと、みんなで行きたいな。
 心配なんかしなくても、今度誘えば絶対に来てくれる。そんな気のする笑顔だった。
 
 「行ってきます!!」
 
 私と藍華ちゃんとアルトリアさんの三人は声をそろえ、ARIAカンパニーを後にする。
 アリシアさんと士郎さんは、いつまでも見えなくなるまで手を振っていてくれた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「私いいところ知ってるんですよー」
 
 ARIAカンパニーを出発し、しばらくしてからアイカがそうもらす。
 
 「私、天然の温泉って初めてなんですよっ」
 
 アルトリアさんは? とアカリが頬を上気させながら聞いてくる。
 その顔から読み取れるあまりの嬉しさに、ついつい表情がゆるむ。
 
 「私も初めてです。そもそも湯浴みすること自体、珍しいことだったものですから。シロウの実家にいたときは毎晩入ってましたが」
 
 アイカの操るゴンドラは軽快に進み、海面に鋭い澪を引いていく。頬を切る風はちくちくと冷たい。
 
 「アイカ、速すぎます。半人前なのですから、いついかなる時も鍛錬を怠ってはいけませんよ。それと …… 」
 
 私の忠告に顔を歪めるアイカと視線を合わせ、できるだけ優しく言葉を紡ぐ。
 
 「私とアカリは温泉についてあまり明るくありません。できれば、澪引きしてもらえませんか?」
 
 アイカは一瞬だけきょとんとして、とたんに明るく笑う。次には「おまかせください!」と胸を叩き、得意満面の笑みをする。
 
 「えーでは」
 
 こほん、とせき払いをひとつ。
 顔が仕事のそれに変わる。
 
 「温泉とは、正確に言えばその地方の1年間の平均気温よりも水温が高いわき水を指します。一般には摂氏25度以上の水温、または一定の物質を有する温水のことを言います。多くは地下水源が近隣の火山起源の熱で温められたもので、含有成分によって様々な性質に分けられます。医学的に治療効果のある温泉は大きく9種類あり、炭酸泉、重曹泉、食塩泉、石膏泉、鉄泉、硫黄泉、えーと、酸、性泉 …… と放射能泉に …… えーと、えーと …… 」
 
 「単純泉。ガス成分を除く溶存物質量が水1kg中、1g未満のものをそう呼びます。昔の日本の多く3分の1はこれですね」
 
 アイカに向け、惜しかったですね、と言い添えておく。
 アイカの反応はと言うと、案の定ハトが豆鉄砲を食らったような顔をし、数秒固まり、その後やっと戻ってきた。
 
 「あの、詳しくないって、言いました …… よね?」
 
 「はい。それとその前にも言ったでしょう? 『半人前なのだから鍛錬は怠らぬように』と」
 
 「あぁあ …… ぁ? ああ …… あっ!?」
 
 思い出したのか、少しふくれて
 
 「ひどいですね …… 」
 
 ぼそりと呟いた。
 
 「でも、中々のガイドでしたよ」
 
 「うぅ …… なんか嬉しくない~」
 
 「いい傾向です。慢心せず精進するとよいでしょう」
 
 「アルトリアさんって先生みたいですねぇ」
 
 「灯里うるさいっ」
 
 「はひぃっ!」
 
 アカリとアイカのやり取りを微笑ましく思いつつ、アイカの怒号と共にグラグラ揺れるゴンドラをどうにかしてほしいとも思う。
 しばらくは我慢するしかないか、と諦め、前を向く。
 視界に入ったのは、遠くぽつんと海の上に立つ屋敷。崩れたのだろうか、廃墟といっても差し支えのない建造物だ。
 しかし、その廃墟からもうもうと蒸気が立ち上っている。
 
 「アイカ、あれですか?」
 
 「え、この距離で見えてるんですか? 目いいですね」
 
 それほどでも、とやんわり流しておく。
 
 「そうですよ、方向があっちならその見えてるので間違いないです」
 
 アカリには遠すぎるのか『どこどこ?』とキョロキョロしている。
 
 「灯里、もうすぐ着くから。ほらアレよアレ」
 
 「あー! アレ?」
 
 「そうそう。わかった?」
 
 「ばっちり!」
 
 まるで姉妹のようだ。
 そう思ってもしようがないほど、それらしかった。
 どちらがどっち、とは言わないでおこう。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「 …… 無理してないか?」
 
 「うふふ。士郎さんの口癖になっちゃいましたね」
 
 「笑い事じゃない。ここしばらく休んでないだろう?」
 
 「大丈夫大丈夫」
 
 元気ですよ、と伝えたいのか小さくガッツポーズをする。
 それはどう見ても空元気にしか見えなくて、でも、ここで仕事を休めと強制しても彼女の誇りを傷つけ、会社にまで迷惑をかける気がして。
 
 「わかった。でも、無理だと思ったら、俺に言ってくれよ。キャンセルの連絡ぐらい、俺にだって出来る」
 
 「大丈夫ですって。それじゃあ、行ってきます」
 
 ゴンドラはいつものように、優雅に海面に轍を刻むように澪を引いていく。
 
 「バカ。何が大丈夫だよ …… 」
 
 最近になってきてから気付いたが、漕ぎ方が優雅になりすぎている気がする。
 やはり疲れが溜まってきているのか、以前あった柔らかさは減少し、ただ、優雅なだけの客をも圧倒してしまいそうな漕ぎ方だと見る。
 
 「 …… くそ」
 
 俺は彼女になんて言ってやればいい?
 休め?止めろ?
 俺が到底口出しできないところに、彼女はいる。
 
 彼女はきっと『幸せ』なのだ。
 なら、俺はそれを壊してまで彼女を止めないといけないんじゃないのか?
 彼女を思うなら、心配しているなら。
 
 「 …… なにが …… なにが『幸せの護り手』だ!!」
 
 なんて勘違い。
 
 『幸せでありさえすれば、いいのですか?』
 
 その通りだ。
 …… しかし、分かったからといってどうする?
 止めるのか?
 わざわざそれを。
 『大丈夫』と言っているじゃないか。彼女は幸せなんだ。
 
 ―――――― 止めるのか?
 
 「くっそぉ …… っ」
 
 ごめんセイバー。
 俺はやっぱり上なんか求められるようなヤツじゃないんだ。
 確かに、この世界じゃ俺の求めていた『正義の味方』にはなれない …… いや、そもそも求められていないだけ。
 なれないわけじゃ、なかったのに。
 
 「バカ野郎 …… っ」
 
 ごめん、遠坂。
 俺、また間違っちまったんだろうか。
 遠坂はきっとこんなものを求めていたんじゃないよな。
 じゃあ、なにになればいいんだ?
 
 こうやって争いのない静かで優しい世界で …… 俺は何を成すべきなんだろうか?
 人の血で汚れ、人の肉を浴び、人の断末魔が心を削る。
 この身で、何を求めればいい?
 この心を、何で満たせばいい?
 
 「 ………… バカ、野郎っ」
 
 衛宮士郎は、一体何を求めて、何になればいい?
 
 今は、唇をかみ締め、拳を固めることしか出来なかった。 
 
 
             

                Navi:12 前編   end


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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

今日のアニメ  #8 『アニメじゃない!』

だからってZZでもないんだぜ。
ども、草之です。

アニメじゃなくてゲームの話がしたくなった。
発売延期したのを知らず、10月16日に1時間と30分かけて知ってる地元のゲーム屋を渡り歩いてまで探したゲーム。そう

『アヴァロンコード』

これすごいですよー!
DSのなかでも『テイルズ オブ イノセント』に次いで凄いと思った作品だね。
ていうかミンゴスに釣られて買ったと言わざるをえない。
ていうか声優女性陣が異様に豪華絢爛。

主人公は男・女を選べます。
恋愛要素は一応あります。牧場物語の簡易版ぐらいのお手軽さで落ちます。

で、
女主人公:ティア(CV:能登麻美子)
ヒロイン①街娘:ファナ(CV:中原麻衣)
ヒロイン②王女様:ドロテア(CV:水樹奈々)
ヒロイン③エルフ:シルフィ(CV:今井麻美)
ヒロイン④魔術師:ナナイ(CV:井上麻里奈)
ヒロイン⑤獣っ娘:ラウカメイヤ(CV:喜多村英梨)

あとは補助的な仲間の精霊さん
森の妖精:エミリ(CV:榎本温子)
氷の妖精:ネアキ(CV:茅原実里)

と、これだけ見れば釣りでも買うよ。草之は。
なにこの豪華さ。なんであみっけいないのよ?

ていうか、コレ書いてもセーフですか?
ま、いいでしょう。独り言みたいなもんだし。一人でいるときよりも多くの人に聞かれている独り言さ。

あと、一週目は一応街娘のファナを狙っていきました。
中の人がアレだったのでどうも一つ一つの台詞が病んでるようにしか聞こえなくなってきたんです。
いや、素で可愛いんですけどね、ファナ。

と、コレ以上はなんかヤバイ匂いがしてきたのでここまで。


追記。
明日あたりに『B.A.C.K』を更新。今週末には『優星』更新。
『背徳の炎』は来週中更新予定。です。

以上、草之でした。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:1-2

 
 Bランク昇格試験から一ヶ月もなく、機動六課は始動した。
 今、機動六課部隊員のほぼ全てが部隊長である八神はやて二等陸佐の挨拶を今か今かと待ち望んでいる。
 グリフィスにも様子を見に行かせたし、そろそろ来るだろう。
 
 「 …… ふぅ」
 
 こう、前でいるのは落ち着かない。
 今はヴォルケンリッターの面々と一緒に並んで待っているところだ。
 と、もちろんアイツもいるわけで。
 
 「ため息か。部下の前だぞ?」
 
 「原因が何を言うかねぇ」
 
 「また、お前は …… 」
 
 また、なにか突っかかってきそうなので整列する部隊員を指差す。
 
 「不安がるだろ? 突っかかってくんなよ」
 
 「ぐむ …… 」
 
 さて、小うるさい小姑みたいな輩は黙らせたし、あとははやてを待つだけ。
 にしてもだ。
 ヴァイスのあの真面目面。思わずからかいたくなる。
 他にも妙に緊張してるやつとか、見ていて面白い。
 
 でも、まぁ当然の反応なんだろう。
 なんたってあの三人と一緒の部隊だっていうんだから。
 
 高町なのは一等空尉。
 言わずと知れた管理局のエースオブエース。
 戦闘スタイルは砲撃による中・長距離戦を得意とし、また、個人の戦闘能力の高さから接近戦闘もそつ無くこなすオールラウンダー。
 弱点と言える弱点は、無茶をしがち、と言うところか。つまり長期戦には向いてない人なんだよな。
 
 フェイト・T・ハラオウン執務官。
 管理局のエースの一角。エリート家系のハラオウン家長女。『約束された地位だ』などとほざく野郎もいる …… 口には出してなかったがオレもそのひとりだった。
 だが彼女と話し、任務を一度でも共にしようものなら、その考えは無くなるだろう。決してコネなどではなく、本人の実力なのだと。
 戦闘スタイルはオレと似ているが、流石はS+。その高機動戦の経験値、中距離における砲撃魔法の変換効率。
 高町一尉とは違い、執務官という役職柄長期戦にも耐え得る耐久力を持っている。
 弱点は、防御の薄さか。捕まえればそのまま一気に畳み込まれる。
 
 八神はやて二等陸佐。
 ふたりのエースに隠れがちだが、古代ベルカ式のレアスキル持ち、上級キャリア試験一発合格。極めつけは個人保有戦力を見越しての総合SSランク。
 戦闘スタイルははっきり言って戦闘、と言うより、戦略といえるだろう。超長距離砲撃における広範囲殲滅魔法、保有戦力である夜天の守護騎士『ヴォルケンリッター』。
 はやてが万全の状態、つまり総合SSの力を存分に出せるなら、ほとんど無敵だ。
 弱点は、戦闘に弱いということ。あくまで本人は戦略型魔導士なのだ。
 
 改めて、なんだコレ。
 ありえないって。笑えない冗談かと思いたくもなる。
 
 しかし、実際は真実であり、背後から近付いてくる足音がそれを物語っている。
 オレの横を通りすぎる時、ついついと壇上を指差す。一緒に上れ、ということなのだろう。すると隊長陣が全てこの壇上に揃ったことになる。
 はやては一度ぐるりと整列している隊員を見回してから、すっと息を吐く。
 
 「機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長、八神はやてです」
 
 隊員が一斉にはやてへ拍手を送る。
 静まるのを待ってから、はやては続ける。
 
 「平和と法の守護者 …… 時空管理局の部隊として、事件に立ち向かい、人々を守っていく事が私たちの使命であり、為すべき事です。実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性に溢れたフォワード陣。それぞれ、優れた専門技術の持ち主のメカニックやバックヤードスタッフ …… 全員が一丸となって事件に立ち向かって行けると信じています」
 
 そこで一端区切り、いつものプライベートスマイルに戻る。
 
 「ま、長い挨拶は嫌われるんで、以上ここまで。機動六課課長及び部隊長八神はやてでした!」
 
 また、ぱらぱらと拍手が巻き起こり、これにて機動六課の開隊式はお開きと相成った。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「シグナム、ホント久しぶりです」
 
 「ああ、テスタロッサ。直接会うのは半年振りか」
 
 「はい、同じ部隊になるのは初めてですね。どうぞ、よろしくお願いします」
 
 コイツはまた。
 今更なことをよく口にする。
 
 「こちらの台詞だ。だいたいお前は私の直属の上司だぞ?」
 
 「それがまた …… なんとも落ち着かないんですが」
 
 「上司と部下だからな。なんならユーリを手本にしてみるといい。これ見よがしに私に言ってくるようになった」
 
 「えぇ …… ? いや、それはちょっと」
 
 こんな反応を返してくる。
 まったく、コイツをいじると飽きないで済む。
 
 「あぁ、上司にいつまでもお前呼ばわりでは悪いな。敬語でしゃべった方がいいですか?」
 
 と、それらしくからかってみる。
 くすぐったそうに身を少しだけよじって、上司だと言うのにやはり下からの目線で返事する。
 
 「そういうイヂワルはやめてくださいよ。いいですよ、『テスタロッサ』で、『お前』で」
 
 「ふ。そうさせてもらうとしよう。背中に怖気が走る」
 
 そこだけには過剰に反応して
 
 「ど、どういう意味ですかっ!!」
 
 こう、責めて来るのだ。
 
 「慣れた習慣は、簡単には変えられないということだ」
 
 「なんだか …… 誤魔化された気分です」
 
 「だから言ってるだろう。お前は私の上司だと。真剣にユーリを見習った方がいい。手の平の返し方など芸術的なものまで感じる」
 
 ひく、とこめかみ辺りを痙攣させ、
 
 「それは …… 真似したくないです」
 
 「そうだな、テスタロッサはそのままが一番いい」
 
 「あーもう! からかうのはやめてくださいぃ!」
 
 だからこそ、からかいたくなるというのに。
 分かってるのだろうか?
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ほなら、グリフィス君頼んどくで」
 
 「はい。精一杯やらせてもらいます!」
 
 ビッと綺麗な敬礼で返された返事は、心配するだけ無駄だと思わせてくれた。
 次いで、隣にいるフェイトちゃんに視線を移す。
 
 「フェイトちゃんも、よろしゅうな。グリフィス君のこと頼んだで」
 
 「うん、わかってるよ、はやて」
 
 「ちょ、大丈夫ですってば!」
 
 ヘリのローター音でグリフィス君とフェイトちゃんは気付いてないようやけど、ヴァイス君が腹抱えて笑ろとるし。
 ちょう、過保護気味なんかなぁ。
 
 「じゃ、はやてもしっかりね」
 
 「うん、まかしとき! ヴァイス君も、いつまでも笑ってんと、しっかり運んだってや」
 
 「ぐふ、りょ、了解ス …… くふ」
  
 「ヴァイス陸曹!!」
 
 「いやぁいいご身分スねぇ、グリフィス准尉?」
 
 オモロイから出来ればいつまでも見てたいんやけど、人待たせてるしな。
 そろそろ切り上げて行こかな。
 
 「じゃ、みんな頼んだで」
 
 「了解!」
 
 しっかりしてるんか、してないんか。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「お待たせユーリ。んなら、行こか?」
 
 「ん。で、どこに行くって?」
 
 「ちょっとな、結構知られとうないことやから。これから行くのは聖王教会」
 
 「分かった」
 
 じゃあ行こう、と階段を降りていく。
 ふたりとも無言のまま隊舎玄関口まで出てくる。
 ふと、思い出す。今日から早速教導が始まるんだった。
 ていうか、なんで忘れてたオレ。
 
 「ちょっとだけ待っててくれないか? 行くのはいいんだけど、教導中の映像をこっちにも回してもらえるよう頼んでくるから」
 
 「念話でぱぱっとしてもうたら?」
 
 「顔合わせもしなきゃだろ?」
 
 「あ、なるほど。んじゃ、今度は私が待つ番やね」
 
 ここで待ってるから、と手を振る。
 なら、さっさと済ませてこよう。振りかえって走り出す。
 フォワード陣が、特にライトニング分隊の方はよく知らない。そんな状態で作戦の組み立ても指揮もあったもんじゃない。
 いつ出動になるかも分からないのに、部下の能力も分からないんじゃ話にならない。
 そんな無様、絶対にしたくはない。
 
 隊舎からそう遠くはない沿岸。
 海の上にあるのが演習場だ。話に聞くところでは質量や敵の性能まで再現するバーチャル空間を造り出すとか。
 思うに、ここに立て篭もれば中々に強いんじゃないだろうか?
 
 「高町隊長!」
 
 「あ、来た来た」
 
 元々オレも参加する予定だったのだから、この反応は当たり前。だからこそ、少々心苦しい。
 今回は急用だから、と割り切っておく。
 
 「八神部隊長が聖王教会へ同行して欲しいとのことなので、誠に申し訳ないのですが今日は教導に参加できないんです。それで、映像だけでもこちらに回していただければと思いまして」
 
 「ありゃりゃ、そうなんだ。シャーリー、出来る?」
 
 パネコンを操作していた女性、シャリオ・フィニーノ一等陸士が振り向く。
 はい? とどうやら操作に熱中していたらしく聞いていなかった様子。
 
 「教導の映像をユークリッド隊長に回せるか、って聞いたんだけど」
 
 「あぁ、はいはい。ライヴでは無理がありますけど、撮ったのを送っておくぐらいできますよ」

 パネコンの作業は止めず、なかなかのマルチタスクっぷりを披露している。
 
 「じゃあ、そうしてくれるか。悪いな」
 
 「いえいえ。ジークフリードに送ればいいですね?」
 
 「あぁ」
 
 了解と、許可をもらって改めて新人フォワード陣を見る。
 4人共が姿勢を正し、綺麗な気を付けをしている。
 
 「スバルとティアナは久しぶり。エリオとキャロは初めまして。今日から君たちの戦線での指揮 …… と言っても、大まかな作戦行動の指示だけなんだが。と、高町隊長の戦術教導を基礎とした応用戦術を教えることになっていたハズの、ユークリッド・ラインハルト一尉だ。コールサインは『ニーベルゲン01』。よろしく」
 
 「よろしくお願いします!!」
 
 4人がこれまた綺麗に合唱する。
 うん、元気がいいな。これなら高町さんの教導を初日からリタイヤすることもないだろう。
 今夜辺りはヤバそうだが。
 
 最後に高町さんに目配せして後のことを任せる。
 
 「では」
 
 「はい。いってらっしゃい」
 
 6人に見送られながら、オレはその場から走り去った。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ここが、聖王教会 …… 」
 
 「そ。今日会ってもらうんは六課の後見人のひとり、カリム・グラシア」
 
 「確か、管理局にも籍を置いてますよね。少将、でしたか」
 
 聖王教会の敷地、ということで今は形式ばった会話。
 少々私的な会話に慣れていたからか、違和感が残る。
 
 「私の直属の上司、やね」
 
 「あ、ならそんなに身構えなくても大丈夫そうですね」
 
 向こうもそう思ってるのかは別として、
 
 「それ、どういう意味?」
 
 冗談にしては上司としての尊厳っちゅうもんが …… 。
 くそう、笑って誤魔化せる思うとんのか、ユーリは。
 まぁ?そんなに緊張せんでもええで~ …… くらいは言うつもりやったけど、本人が冗談も言えるくらい余裕があるんやったら言うだけ無駄かな。
 そうこう言ってるウチにも、待ち合わせの場所に到着する。
 
 「お待ちしてました。はやて」
 
 「シスター・シャッハ! お久しぶりやなぁ」
 
 「前回来られた時、私はいませんでしたからね。それで …… 彼がそうなんですか?」
 
 シャッハの視線の先、ユーリがぼぅっと佇んでいる。
 頷くだけで肯定すると、シャッハはユーリに近付き、腕を差し出し、握手を求める。
 
 「シャッハ・ヌエラです。よろしく」
 
 「ユークリッド・ラインハルトです。こちらこそ」
 
 嫌な顔はせず、むしろ笑顔で対応して、ぐっと堅く握手を返している。
 シャッハはなんでか、きょとんとしてる。
 しばらくして、ユーリとの挨拶を終えたシャッハがこちらに俯き加減で早足で近付き、ガッシと肩を掴んでから顔を上げる。
 
 「メチャクチャいい子じゃないですか!」
 
 だまされた! と言わんばかりで肩を揺するシャッハ。大方シグナムがグチったか何かで悪い子のイメージがあったんやろなぁ。
 なんと言うか、つくづくシグナムが不憫だ。
 
 「基本的に人当たりはええんやよ。ただシグナムだけには特別でなぁ」
 
 「好きな人には冷たく当たるってヤツですか!?」
 
 「 ………… 何で私の周りにはこうも願望の塊が多いんやろ」
 
 「類は友を呼ぶって言葉、知ってますか?」
 
 「やかましいわっ!!」
 
 適度に突っ込みつつ、せかせかと移動を開始する。
 時間は待ってはくれない。タイムイズマネー、時は金なり。
 決して焦っているワケやない。違うから。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ようこそ、ユークリッド一尉。はやてから話はよく伺っています」
 
 「あなたが …… 」
 
 「カリム・グラシアです。さ、どうぞお座りになって、楽になさってください」
 
 シスタ・シャッハを含む4人でテーブルを囲んで座る。
 はやては『知られたくない』と言っていたが …… どういうことだろうか。
 
 「ユークリッド一尉。機動六課はどうですか?」
 
 いや、どう …… と言われても。
 
 「なかなかいい部隊だとは思います。八神ニ佐を含め、上司は親しみ易く、コミュニケーションが取れるという点では大きなアドバンテージです。仲間を信頼してこそ部隊は成り立ち、運営されるのですから」
 
 「そうですか。貴方が言うなら、間違いはなさそうですね」
 
 その言い方は少し納得できない。
 オレが言うから、などと一個人の感想を部隊全体の総意として見るのは如何なものか。
 そう言っておく。

 「もちろん、その通りです。ですが、貴方は貴方の力を知ったほうがいい …… いえ、認めた方がいい」
 
 「何が言いたいんですか?」
 
 「あまり自分を過小評価するのは如何なものか …… と、そういうことです」
 
 皮肉のつもりだろうか、さっきのオレと同じような言い方で返し、ニコリと笑う。
 さすが、と言うべきか。少将と肩書きを持つだけはある、と、そう言うことか。
 過小評価してる、というのはまぁ、傍から見ればそうだろう。してる、ではなく『して欲しい』だとすれば? 言いはしないが。
 
 「さておき。機動六課に、違和感はありますか?」
 
 似てるようで全く異なる質問。
 ここで取り繕ってもなんにもならないだろうな。
 声をかけられた時から感じたことを率直に口にする。
 
 「もちろん、それはそうでしょう。能力リミッター付きとはいえ、AAAランク、いや、AAでもいい。それ以上の魔導士があんなに集まるのは異常だ。話に聞く限り、高町なのは一等空尉、フェイト・T・ハラオウン執務官、そして八神はやて二等陸佐は幼馴染だとか。それにしても仲良し小好しで部隊を設立できるものでもない。ロストロギアを追うにしても過剰な戦力だ。さすがになにか裏があると見ますが?」
 
 フォワードのティアナ、あの娘はすでに感じ始めているだろう。『この戦力は異常』だと。
 スバルは『無敵の部隊』程度に思っているだろうし、エリオとキャロは自分のことで今はいっぱいいっぱいだろう。
 とにかく、素人目にもこの部隊の抱えている戦力は異常ということ。
 
 「お見事」
 
 「やはり」
 
 「ええ、六課設立にはロストロギアといった表の目的の影に、真の目的があります」
 
 「 …… 真の、目的 …… ?」
 
 カリム少将はこくん、と頷く。
 パネコンを表示して、カーテンを操作する。外から覗かれでもしてその『真の目的』とやらを知られたくないんだろう。
 この大隊にも匹敵するや、たった数人のフォワード陣を使う本当の理由。
 そして、その戦力を有する部隊の設立を許可するだけの『真の目的』。
 
 「中々、ややこしそうですね」
 
 「ええ。貴方には知っておいて欲しかった」
 
 「 …… その言い方、オレ以外にはしゃべってない、と言うことですか?」
 
 「時期ではありません。これを知っているのは後見人である私と、クロノ・ハラオウン提督。リンディ提督、管理局の上部の極少数。課長及び部隊長であるはやて。そして …… 」
 
 「オレですか」
 
 目を伏せて黙る。それを肯定と受け取る。
 しかし、なぜ真っ先にオレに伝える? 高町さんは? ハラオウン女史は? 六課部隊員は?
 
 「貴方が、『戦場の演出家』という名に違わぬ実力を持ち、かつ私が気に入ったから」
 
 「は?」
 
 「ラインハルト …… 確か、古代ベルカ時代の聖王統一戦争で聖王家を滅亡寸前まで追い詰めた王家のひとつ、『ギプフェル』に遣えた一族の名です。どうですか?」
 
 「な、に?」
 
 くすり、と乾いた笑いが起こる。
 
 「カリム、なんやのソレ? 聖王統一戦争の …… て、え?」
 
 「私もよくは知りません。ただギプフェル王朝はつい新暦に変わるまでは存在していた稀有な存在です。まぁ、それが分かったのもつい最近、ちょうど、9年前」
 
 崩れる。
 今まで隠そうとしていたことが。そうだ、ここはどこだ。聖王教会じゃないか。
 バレる危険性は一番高い。
 はやてはいつまでも分からない、といった顔で事の成り行きを見守っている。 

 「貴方に、賭けてみたくなりました。そう、貴方に」
 
 くぃ、と紅茶を飲む。かちゃん、とコップを皿に戻す音が薄暗い部屋に響く。
 
 「なぜ、オレに?」
 
 「貴方が適任だから。はやてと共に、時間をかけて、この運命への迎撃作戦を練ってほしいから」
 
 「運命への迎撃作戦 …… ふ、神にでも挑むつもりですか?」
 
 「未来という、目の前の絶対存在を幻へと変えていくためです」
 
 一度、問答が途切れる。
 気まずい空気だけが部屋に漂う。
 
 「最後に、ひとつだけ聞いておきたいことがあります」
 
 「はい」
 
 「どこまで知っているんですか?」
 
 「貴方のファミリーネームがソレと一致している …… という程度ですよ。反応を見る限り、まんざらでもなさそうですが」
 
 「ギプフェルがどういった王族か、わかりますか」
 
 「全然。全く」
 
 考える。
 この状況、どう使えばいいものか。どう切り抜ければいいものか。いや、切り抜ける必要はないか。
 ならば、どうする?
 考える。
 
 「ユーリ …… 」
 
 「ん」
 
 はやてが心配そうにオレの顔を覗きこんできた。
 きっと、色々聞きたいこともあるんだろう。でも、ごめん。しゃべれないんだよな。
 
 「協力、してもらえますか」
 
 「何に?」
 
 カリム少将は尋ねた。
 言い出したのはいい。この人は本当に信用できる人なのか?
 考える。
 
 
 『私の直属の上司、やね』
 
 
 はやてはそう、優しく口にした。
 信じても、いいかもしれない。
 
 「ある人を、管理局員なんですが …… 探しているんです。5年、やっと目星が付いてきたんです」
 
 「? 管理局員ならデータベースに …… 」
 
 「いないんです。事情は話せませんが …… 彼女はどこかの研究施設にいるはずなんです」
 
 「その捜査協力をして欲しい、と?」
 
 頷く。
 そう、どうせひとりではなにも出来ない。
 ならせめて、探して欲しい。
 
 「わかりました。我ら聖王教会、教会騎士団一同、総力を以って協力しましょう」
 
 「 …… あ」
 
 薄暗い部屋で、そこだけが明るいと感じた。
 まるで自ら輝く雫のような、そんな笑顔。
 
 「ありがとう、ございます …… !」
 
 「では、早速ですが …… お名前を、教えてもらえますか?」
 
 「 …… ミーア。ミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェル。ギプフェル王朝の最後の神子です」
 
 「驚いた …… 探し人は、王女ですか!?」
 
 恥ずかしながら、と付け足す。
 たぶん、カリム少将は王女が管理局員だ、という事に驚いているのだろう。
 …… しかし。自分で言って、管理局員か …… と思う。アレが?
 
 「特徴は?」
 
 「あ …… はやて、ちょっと外してくれないか?」
 
 「へ? あ、あぁうん、わかった。シャッハは?」
 
 「私も外れた方が?」
 
 「いや、捜査協力するのは我らです。シャッハは残りなさい」
 
 はやては少しだけ寂しそうにこちらを見てから、部屋から出て行った。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 帰り道。
 車の助手席でユーリが今日の教導の映像を流している。
 どうやら、今日の教導はどれくらい動けるかを見たものらしい。
 
 「あ」
 
 キャロがフリードに指示を出しているところだった。
 ユーリはどこか懐かしさを含めた視線で見ている。なんやろ?
 
 「ユーリ」
 
 「うん?」
 
 話しかけるものの、何を聞こう。
 ミーアって人のこと、どんな関係なん?とかか?
 アホらし。
 
 「見付かったらエエな、ミーアさん」
 
 「あぁ、ありがとう」
 
 そういえば、彼は私よりもひとつ年下だったっけ?
 そう思うと、いきなり彼が幼く見えた。慌てて違う考えで雑念を揉み消す。
 
 管理局入局4年の空白と、シグナム嫌いの解答はここにあると言って間違いない。
 ―――― 『ギプフェル王朝』
 一体、どういう国だったんだろう。ユーリは、この国の騎士だったんだろうか?
 いや、でも、根絶したのは新暦に入ってスグだと聞いた。年齢が合わない。
 9年前、大きな事件。記録にはめぼしい事件はなかった。そのちょうど1年前には私らの『闇の書事件』。
 管理局側に消されてるんか? 記録が。それくらい秘密にしたい事件なのか?
 管理局が悪い方に働いた …… くらいか? それとも、それだけ強力なロストロギアの発見か。
 ユーリには悪いと思う。けど、調べんといかんかもしれん。
 ユーリに、嫌われるかもしれん。
 
 「はやて」
 
 「お、おぉ!? 何や!?」
 
 「 …… 話せなくて、ごめんな。心配もしてくれたのにさ」
 
 「そんなん …… 」
 
 そんなん、言わんといてよ。
 私は、別にユーリの何でもない。ただの上司なんやから。
 そんなん ……
 
 「気に、せんでもええよ。うん」
 
 「そっか …… うん、ありがとう」
 
 やめてぇや。
 笑わんといてよ。
 私は、ユーリの秘密に土足で入ろうとしてるんやで?
 お願いやから、笑わんといてよ。
 
 「はやて?」
 
 「ひゃいっ!?」
 
 「目赤いけど、大丈夫か?」
 
 「あぁ、あーそうかな? ちょっとごみ入ったんとちゃうかな?」
 
 ごしごしと乱暴に目を拭う。
 ユーリは素っ気無くそうか、とだけ言って、教導の映像に視線を戻す。
 
 釣り合わんとかと、ちゃうんやろうな。
 私が一方的にそう思うとるだけかもしれん。
 私は、ユーリの隣にはおられんのやろうか?
 
 そもそも、私はユーリの隣におるべきなんやろうか?
 
 ユーリは、私が隣にいても、ええんやろうか。 




             Act:1-2  end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:12 後編

 
 「ふわぁ …… 大っきぃーい」
 
 私の目にもしっかりと見える距離まで近付いて、その大きさに舌を巻く。
 点々と崩れた場所があって、そこからはきっと温泉の湯気だろう煙がもうもうと上がっている。
 海水の香りではない、独特の匂いが鼻をくすぐる。
 
 「温泉 …… ! やって来ましたぁっ!!」
 
 「灯里、あんまりはしゃがないの! 恥ずかしいでしょ!」
 
 「だってだって、すごいよここ!!」
 
 その白い湯気は、白い息を吐く私たちのようで。
 そう、まるで
 
 「生きてるお屋敷みたい!」
 
 「恥ずかしいセリフ禁止!!」
 
 「ほら、2人とも。あまり騒ぎすぎると迷惑ですよ。はい、足元に気をつけて」
 
 アルトリアさんが先導してゴンドラから降りていく。それに続いて私たちも降りていく。
 
 「うわぁ …… 」
 
 「灯里ー。ぼぅっとしてないで、こっちよー!」
 
 「はひっ、待ってよー」
 
 いつの間にか藍華ちゃんとアルトリアさんは先に進み、私と社長は置いてけぼりを食らってしまっていた。
 とてとて走って追いつく。
 
 「アカリ、人が多いですから、あまり離れてはいけませんよ」
 
 「はひ、すいません」
 
 「さぁさ、気を取り直して。行きますよ」
 
 次は離れないで。アルトリアさんはそう言って手を引いてくれる。
 握られた手は、ずっと外にいたからか冷たくて。アルトリアさんも早く入りたいんだなぁ。
 
 「 …… ん?」
 
 少しだけ、違和感。
 不思議に思って、アルトリアさんを覗き見てみる。
 
 「ここですよっ、ここ!」
 
 私の目にははっきりとアルトリアさんは見えていて、でも、握ってる手はどこかそこにはないようで。
 …… にぎにぎ。
 
 「アカリ?」
 
 「はひ?」
 
 「どうかしましたか?」
 
 「え。どうもしないですけど …… 」
 
 どうかしましたか? と、聞き返す。
 アルトリアさんはいいえ、と首を横に振って
 
 「手を強く握られましたので。それと、なにか不思議そうな顔もしていましたから」
 
 「あ、何でも、ないんです …… 」
 
 つい、と顔を背ける。少しだけ嘘。
 視線を逸らした先には、ちょうどお目当ての温泉宿の玄関口だった。
 玄関口には左に『女』、右に『男』という文字の入った大きな暖簾がかかっている。
 洋館という外見とはギャップのある入り口に、想像していたものとは違うことを思い知らされる。
 藍華ちゃんが先だって暖簾をくぐっていく。
 
 「アカリ、私たちも入りましょう。アイカが中で待ってますよ?」
 
 「あ、はひ」
 
 アルトリアさんと一緒に暖簾をくぐる。
 右側から「いらっしゃーい」とおばあさんの声がして、迎え入れられる。そこはもう脱衣所だった。
 そこらじゅうから湯気がもれていて、脱衣所全体にもやがかかっている。
 
 「 ………… 」
 
 「アカリ、ほら」
 
 「あ、はひっ?」
 
 アルトリアさんに大きなカゴを手渡される。見ると、アイカちゃんもそれを手に持っていた。
 
 「ここに脱いだ服を入れておくんですよ」
 
 「あ、なるほど」
 
 とてとてとアイカちゃんの隣に移動。ふと周りを眺めてみる。
 おばあさんや、小っさな子。私たちともあんまり変わらないような子。当たり前だけどみんながみんな裸。もちろんタオルは巻いている。
 急に恥ずかしくなってきちゃった。
 
 「どうしました、アカリ。顔が赤いようですが …… 」
 
 熱でもあるんですか?とアルトリアさんが心配そうに顔をしかめてくれる。
 それもまた、少し服をはだけた格好で聞いてきたから、かっと顔がますます赤くなる。
 
 「あの、誰かとお風呂に入るのが初めてで。ハズかしちぃ ――― っ」
 
 思わず声が裏返る。
 でもでも、よく考えたらみんな恥ずかしがってなんかないじゃない。そうだよ、こうしてる方がきっと恥ずかしい! …… と割り切って考えて服を脱ぎ始める。
 
 「お先でーす」
 
 「あぁ、アイカ。少しだけ待ってください」
 
 私とアルトリアさんがもたもたと服を脱いでいく。
 脱ぎ終わって、お風呂セットも忘れないで …… と。
 同時にアルトリアさんも脱ぎ終わったのか、一緒に藍華ちゃんの方へぺちぺちと駆けて行く。
 と?
 
 「あてっ!!」
 
 「アカリ!?」
 
 前のめりに思いっきりずっこけてしまう。
 
 「もーなにしてんのよ。もたもたどじっ子禁止!」
 
 後ろからぺちぺちと足音が近付く。
 
 「アカリ、ほら。いつまでも倒れていると風邪を引きますよ。ほら、立って」
 
 ぐぃっと手を貸してもらって立ちあがる。
 見上げたアルトリアさんの顔が近い。いつもはまとめて垂らしている髪をアップにしたアルトリアさんは、いつもと違う雰囲気があった。髪型ひとつでここまで雰囲気が変わるんだ、と改めてそう感じる。
 と。
 
 「アッ、アルトリアさん、タオル! タオルで隠してっ!!」
 
 「? どうして隠す必要があるのですか? 確かに私は筋肉質ですから見苦しいかもしれませんが、何もそこまで …… 。それに女だけなのですから、恥ずかしくもないでしょう?」
 
 「あぁあこっち! こっちが恥ずかしいんですってば!!」
 
 私と藍華ちゃんでアルトリアさんにタオルを巻きつけていく。
 アルトリアさんは少し不満気にむぅ、と唸って
 
 「せっかくの温泉だと言うのに …… 肌で直接その湯を感じようとは思わないのですか?」
 
 「思わないのですかって、その …… ねぇ、灯里?」
 
 「うぇっ!? 何で私に振るの?」
 
 「なんでもよ! ねぇ、恥ずかしいじゃん、ねぇ?」
 
 「う、うん。でもアルトリアさんの言ってることもわかんなくないって言うか …… でもやっぱり恥ずかしいっていうか」
 
 ここでパン、とアルトリアさんが手を打つ。
 はっとしてそっちを向くと呆れた顔をしたアルトリアさんが腰に手を当て、はぁ、と息を吐くところだった。
 
 「わかりました。私がこれを付けて入れば全て解決するのでしょう? わかりました」
 
 と、そう言ってペタペタと横を通りすぎて、階段を降りていく。
 私と藍華ちゃんが呆けていると、アルトリアさんは振りかえり
 
 「行かないのですか?」
 
 微笑んでこう聞いてきた。

 「い、いいえっ」「行きます行きます!」
 
 その笑顔がちょっぴり怖かったりして。
 藍華ちゃんもアルトリアさんに続いて階段を降りていく。
 
 「足元滑るから気をつけてね」
 
 藍華ちゃんに注意を受けながら続けて私も降りる。
 
 ――― ジャボ
 
 「じゃぼ?」
 
 ふわっと温かい感覚が足全体に広がっていく。
 じくじくと足がしびれて、気持ちいい。
 そして、目の前に広がった景色。これが、ここが …… 。
 
 「どう? 変わってるでしょ」
 
 「 …… ここが温泉っ?」
 
 「そうよ」
 
 藍華ちゃんが階段を降りきって、ちょいちょいと手招きする。
 藍華ちゃんの手を取って引っ張られるかたちで付いていく。
 
 「ビックリした? ここはアクアでも有名な名物温泉なのよ」
 
 ざぶざぶとお湯を切って歩いていく。
 アルトリアさんも後ろに付いてきて藍華ちゃんの説明に耳を傾けている。
 
 「もともとはただの大きな古いお屋敷だったんだけどね。持ち主の老夫婦が粋な人でね、温泉が出てからお屋敷全体をお風呂にしちゃったんだって」
 
 「ほへ ――― っ」
 
 「建物自体は老朽化でかなり傷んでるけど、それがまたいい味出してるっしょ」
 
 ぽう、と日の光が体に注ぐ。
 見上げるとそこは大きく崩れ、青い空が広がって、青い木々が映えて見えていた。
 とっても素敵。
 
 「うんっ。 …… 何だか、昔話に出てくる妖精の住処みたいっ」
 
 「なるほど、さながら湯浴みする水先案内人―水の妖精― と。上手いですね、アカリ」
 
 「アルトリアさんまで …… っ!? 恥ずかしいセリフ禁止ですっ!!」
 
 あはは、と笑い合ってみんなで肩までつかる。
 足だけに感じていたじんわりとした温泉の温かさが、今度はかゆいくらいに体中を這いまわる。
 
 「ふ ―――――― っ」
 
 ほくほくだなぁ。
 アリシアさんも、士郎さんも …… やっぱり来れればよかったのになぁ。
 やっぱり、ちょこっと残念だったりして。
 
 「!」
 
 がこっ、と背にした扉が開く。
 少しだけ温度の違う温泉が流れてきて、ぴくりと反応する。
 
 (うわぁ …… まだ奥があるんだあ)
 
 とりあえず扉を開いたところまでは入っていいみたいで、ランプの中の光がちろちろと揺れていた。
 視線を向けた奥の方に『通行止』の文字を書いた板が吊るしてある。通行止 …… ってことは
 
 (あの先ってどこに続いてるんだろ?)
 
 「アカリ。どうしました?」
 
 アルトリアさんがひょいと顔を出す。
 なにかあったのか、とキョロキョロと周りを見まわして、『通行止』の板に目が行くと、ほぅ、と何か意味深なため息。
 
 「なになに? なんかあったの?」
 
 藍華ちゃんもつられて顔を出す。
 うわ、すげっ。と興味深そうに観察し始めた。
 
 「アカリ、アイカ。閉めますよ。あまりこちらにいて注意されては敵わないですからね」
 
 「はーひ」
 
 「うぅ~もうちょっとだけ見たかったなぁ」
 
 「なに、気にすることはありませんよ」
 
 アルトリアさんのその言葉に首をかしげる。
 どういう意味だろうか。
 と、体がブルリと震える。ちょっと冷えちゃったかな。
 
 ザブ …… と泳ぐように身を沈める。
 じん、という感覚がもう一度体を這う。
 
 うん。何だかとっても気に入ってしまいました。
 無限回廊のように、どこまでも続いていそうなお屋敷のお風呂。
 日々冷えていた体が、奥の奥。体の芯までぽっかぽかです。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「よく会うな」
 
 「こんにちは」
 
 「こんにちは、アテナ」
 
 日も傾き始め、『こんばんは』が近い時間。
 アリシアとふたりなら今冷蔵庫にあるものだけで足りるだろうと、そう思って止めた。
 ああは言ってたが、この頃本当に無茶が目立つ。せめて今夜だけでも精力のつくものを、と買出しに来た帰り。
 
 「今日はもう上がり?」
 
 「はい。今日の夜は予約が入ってなかったので。衛宮さんは?」
 
 「見た通り買い物の帰り」
 
 そうですか、と相変わらず静かに返事する。
 この娘といると落ち着くんだよなぁ。癒し系?っていうのか。
 
 「あー …… 」
 
 アテナがふと呟く。
 
 「セイバーは、元気ですか?」
 
 「 …… 元気だよ。毎日たらふく食べてる」
 
 くす、という笑いが漏れる。ふと思う、アイツオレンジぷらねっとでも食ってたのだろうか、と。
 なんだ、アルトリアはオレンジぷらねっとじゃ、セイバーで通してたのか。
  
 「乗ります? 送っていきますよ」
 
 「金なんてないぞ。いいのか」

 「いいんです。セイバーがお世話になってるみたいなので」
 
 「もともと俺が保護者みたいなモンだったから、お世話になったのはこっちなんだけどな」
 
 す、とアテナの手が差し出される。
 
 「お手をどうぞ」
 
 「悪いって」
 
 「なら、はい。どうぞ」
 
 急にフランクになって乗ってくれと手で示す。
 
 「これ、あとでがっぽり金とるとか?」
 
 「ないです。私ってそんな風に見えるんですか?」

 少しムッとしたんだろうか。表情の起伏が穏やかだからわかりづらい。
 とりあえず、謝っておこう。確かに失礼な物言いだったな。

 「いや。ごめん」
 
 「では、はい、どうぞ」
 
 負けかな。根負け。
 じゃあ、とゴンドラに飛び移り、できるだけ揺らさないように着舟する。
 
 「ARIAカンパニーまで。よろしくお願いします」
 
 「はい、畏まりました」
 
 くく、と笑いを堪えあって出発する。
 他愛のない会話と、アテナから聞くアルトリアのこと。今度から出来たら『アルトリア』と呼んであげてほしいこと。
 そんなことを話していると、ARIAカンパニーまではあっという間だった。
 
 「ありがとう。これ、少ないけどお代」
 
 10ユーロを取り出してアテナへ渡す。が、彼女は受け取ろうとしなかった。
 
 「貰えないですよ。そんなつもりで送ったんじゃないんですから」
 
 「でも、そうじゃないと俺の気が収まらない」
 
 「でも …… 」
 
 このままじゃあ『でもでも』の言い合いになりそうだな。
 だからってコレでまで負けられない。これだけはしっかりと受け取って欲しい。
 なにか、いい方法はないものか。
 
 「 ………… じゃあ、ひとついいかな“ウンディーネさん”?」
 
 アテナの顔がぱっと目を見開き驚きの表情に。
 初めてみる顔だ。
 
 「確か、舟謳。アテナ嬢は『天使の謳声[セイレーン]』と呼ばれるほどにお上手らしい。ぜひ、耳にしてみたいものだ」
 
 す、とお金をアテナの目の前に突き出しながらそう言う。
 ちょっと煽り過ぎか。厭らしく聞こえなくもない。どことなく“アイツ”みたいなしゃべり方になってしまったのも悔しい。
 
 「 …… ん」
 
 アテナはそのまま俯いて、10ユーロを持っている手の下に添えられる。
 怒らせちゃったか。
 
 「 …… しょうがありませんね。では、一曲だけ」
 
 俺から10ユーロを受け取って、すぅ、と深呼吸。
 その顔は、よく見ないでも幸せそうに笑っていた。
 
 「 ――――――――― La」
 
 落ちる夕焼けの茜空。迫る夜の帳。海はちろちろと燃えるかがり火のように煌く。
 海の赤と、空の藍が交わる水平線。視界の真ん中で、世界を移すように響く謳声。声は導くように太陽を沈めていく。
 流れるように、追うように飛ぶカモメたち。赤の世界は、果たして、藍に染まりきる。
 一段と、キンと冷える空気の中、暖かな温もりを確かに孕めて謳があまねく響く。
 いつまで遡るだろうか、これほど気持ちを落ち着けて聞いた声は、謳は。
 彼女は……アテナは確かに謳だった。
 
 「Ah ………… Lu ―――――― 」
 
 まるでメロディがあるような錯覚。
 人の声は、ここまで行くことが出来るのか。
 
 「 ………… 凄い、としか」
 
 ぱちぱち、と呆けながら拍手を送る。
 アテナはニコリと微笑み、くすぐったそうに口を結ぶ。
 
 「ありがとうございます」
 
 と。後ろからぱちぱちと違う拍手が響いてくる。
 振りかえると、アリシアが帰っていた。
 
 「ただいま」
 
 「はい、おかえりなさい。あと、久しぶりアテナちゃん」
 
 「久しぶり。って言ってすぐだけど、もう帰らなきゃ。またゆっくりお話しようね」
 
 「うん」
 
 月が輝く空の下、アテナは帰っていった。
 さて、俺も夕食の用意をしようかな。
 
 「手伝いますね」
 
 「いいよ、疲れてるんじゃないのか?」
 
 「大丈夫ですよ」
 
 並んで会社の2階、生活スペースであるキッチンへ材料を運ぶ。
 アリシアは今日のお客様のひとりひとりのことを話しながらエプロンを付ける。
 少し遅れて俺もエプロンをつけ戦闘開始。
 てきぱきと今日の夕食のおかずをやっつけていく。
 
 「よし、と。完成。食べようか」
 
 「はい」
 
 そう言えば、だけど。
 
 「こうしてふたりでテーブルに向かい会うの、久しぶりだな。2回目か」
 
 「最初は …… 初めて会ったときでしたから、12ヶ月前。もうそんなに経つんですね」
 
 ちょっとした思い出話。
 あの時は、たしかアリシアがホットミルクを入れてくれて。あったかかったなぁ。
 
 「初めて会えたのが、アリシアでよかったよ」
 
 「 ………… へ?」
 
 「たぶん、アリシアだから …… 」
 
 この先は言っていいことなのか。
 ちょっと空気を読み違えてないか。
 
 「いや、なんでもな ―――― 」
 「言ってください」
 
 頬を若干染めながらずぃっと体を乗り出してくる。
 いつもとは違うアクティブさで、少し戸惑う。
 
 「あー、その。アリシアだったから、俺は間違えていても進もうって思えた」
 
 「 …… 間違い?」
 
 「そう、間違い。俺は『正義の味方』になりたいんだ」
 
 「あらあら、カッコイイじゃないですか」
 
 その言葉に、彼女はどれほどの理解を込めて言ったのだろう。
 きっと全てを話しても、彼女は俺を否定はしない。いつものように笑顔で応援してくれるんじゃないかな。
 
 「全てを救う、『正義の味方』になりたいんだ。世界を救うとか大仰なことまでは言わない。この手に届く、全ての人の命を救いたいんだ」
 
 「え?」
 
 ようやく彼女は気付く。
 俺の夢が儚くも不可な『歪んだ理想』だという事に。
 人は須らく死に至る存在だ。しかし、それは寿命の話。理不尽な死だってある。いや、その方が多い。その理不尽を俺は許容できない。だから救う。たとえ、この身が肉片に成り果てようと。
 しかし、現実問題それは無理だ。理不尽はいつも天秤の上。ただ、その数が厭らしい。より多くを救うには、より多くのなかの少数を切り捨てなければならない。
 それでも俺は足掻く。その少数すらも救えるものだと、救ってみせると。そして、いつも心が磨り減る。
 ――――― 『また、救えなかった』
 何度口にした言葉か。
 何度も口にして、何度も思い知らされる。
 
 「でも、安心した。この世界には理不尽がない。天秤にかけるような理不尽はない。それと同時に、この世界では俺の夢は叶わないと知った。だから、今度はもっと根本を救おう、護ろうと思った。『幸せ』を護ろうって」
 
 「士郎さん …… あの」
 
 何が間違いなの? と、そう目で訴えられる。
 そう願うのは決して間違いじゃない。なら、なにが間違いなの? と。
 
 「みんなに …… 昔の友達に言われ続けたんだ『自分を殺してまで人を救うのは違う』って」
 
 「士郎、さん」
 
 「ごめん。あ、飯冷めちゃうな。食おう食おう」
 
 さっと料理を自分とアリシアの皿に分けて盛り付ける。
 さぁ、食べようか。とフォークを持って盛った料理に突き刺し、そこで声が掛かった。
 
 「誰かを …… 誰かだけを見てあげられなかったんですか」
 
 「え …… ?」
 
 「全てじゃなくて、『誰か』を見てあげられなかったんですか?」
 
 アリシアは言う。
 10の内9を救い1を切り捨てるのではなく、10の内9を切り捨ててまで救う1はいなかったのかと。
 それは …… 選べない。
 
 「俺にとって、全てが『誰か』なんだ。一は全、全は一。だから、それはしちゃいけない」
 
 正義の味方だから。
 俺がそうして目指したものを、俺が裏切れる道理がどこにある。
 
 「そう …… だったんですか。それで、なんですね」
 
 ひとりアリシアは納得したように呟く。
 俺は無理矢理にでも話題を変えたかった。だから
 
 「アリシアこそ俺が言える義理じゃないけど、無理をしてまで仕事をしなくていい。お前が言ってたことだろ、『休みも、体には必要なんですから』ってな」
 
 「そうですね、そうでした。けど、無茶はしてませんってば。いつも通りです。うふふ」
 
 じゃあ、私もいただきます。とアリシアも料理に口をつける。
 美味しい美味しいと言って食べてくれる姿は本当にいつも通りで。
 それだけ、俺の中で葛藤が大きくなっていった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 (ここってさっきの …… )
 
 「こっちです」
 
 アルトリアさんはざぶざぶとお湯を切って歩いていく。
 向かっているのは『通行止』の板のところ。
 
 なぜこうなっているか、というと。夕食も終って寝こけてしまったあと、起きてすぐアルトリアさんが湯冷めしたからもう一回入ろうと言ってきたからなのです。
 
 「アルトリアさん、ここって入っちゃいけないんじゃ?」
 
 「大丈夫だそうです。とっておきの場所があるとか」
 
 明らかに知った風な口ぶりで、しかしその自信はどこからくるのか迷いなく進んでいく。
 藍華ちゃんに腕組みしてアルトリアさんに付いていく。
 まっくらで、アルトリアさんが金髪だからまだわかったものの、黒髪だったらはぐれてるに違いない。
 
 「あ、あそこです」
 
 扉が半分開き、そこから光が漏れている。
 
 「わ」
 
 外に出る。外だ。
 お屋敷から完全に出てしまっている。
 
 「すご ―――― いっ。海とつながってる ―――― !」
 
 「これは、予想以上ですね」
 
 やっぱり人伝で聞いていたのか、アルトリアさんも驚いている。
 
 「あの、アルトリアさん。ここって …… 」
 
 藍華ちゃんが痺れを切らしたのか聞いている。
 アルトリアさんは海の方を見ながら
 
 「はい。アリシアに聞きました。とっておきの場所があると。ただし、昼に行けば丸見えなので絶対に夜行くこと、とも言われました」
 
 「あはっ」
 
 思わず笑う。おおっぴろげにタオルなしで入ろうとしたアルトリアさんも流石に覗かれるのは嫌らしい。
 と。
 
 「ぎゃーすっ!」
 
 アルトリアさんがタオルを取った。
 藍華ちゃんは真っ赤になってわたわたとアルトリアさんに近付いてタオルタオルと連呼している。
 私はフリーズ。
 
 「なんですか。ここで、この時間なら誰もいません。いいでしょう、タオルくらい」
 
 「だっ、だけっだけど! 見てるこっちが …… !」
 
 「なら見なければいいのです」
 
 「それはちょっともったいないっていうか …… 」
 
 正直だなぁ。
 でもそう、もったいない。
 アルトリアさんの肌は真っ白で、お湯で温まってほんのり桃色。
 肌だけじゃなくて、スタイルっていうか …… 体のラインが凄く綺麗。月の光に照らされて、海の昏さの上に浮彫りになるようにその白い肌が映る。
 アップにした髪から水滴が零れ、うなじから背骨のライン。そこから腰、ヒップ。シュルっとまるで芸術品のような流線型。
 
 「う、う、うりゃ ――― ぁ!!」
 
 「ちょっ藍華ちゃん!?」
 
 何を思ったのか藍華ちゃんまでタオルを取った。
 
 「アイカはヒップのラインが綺麗ですね。女性らしく羨ましい限りです」
 
 「そんなこと …… アルトリアさんだって」
 
 「私は昼にも言った通り筋肉質で。ほら、ここなど」
 
 きゅっと腕を折って力こぶを盛り上げる。おぉ、確かにすごいです。
 試しに私も力こぶを作ってみる。ぴくん、と動くだけであまりあるようには思えない。
 
 「灯里ぃ …… 」
 
 少し落ち込んでる私に藍華ちゃんがじりじりと近付いてくる。
 その顔はまだ少し赤いままで、ちょっと危険を感じる。
 
 「アンタだけタオルなんてぇ ―――――― !!」
 
 「はひぃぃぃ ―――――――――― !?」
 
 藍華ちゃんががばぁっ、と襲いかかってきた。
 もちろん、狙いは私のタオルです。必死に抵抗。
 
 「それそれそれそれぇい!」
 
 「や、やめ …… っ、はひ ――――― !!」
 
 半分以上が藍華ちゃんに剥かれる。
 ダメダメダメダメダメ!!
 
 「あぁぁ ―――――― っ!!」
 
 もう自分がなんて言ってるのかなんてわからない。
 とにかく必死。残ったタオルだけは、と必死。
 
 しかし、無念。
 
 「うぅ、う、うぅぅう …… お嫁にいけないよぅ」
 
 お湯に顎までつかって隠す。
 顔が赤いのはのぼせたからじゃない。恥ずかしいから。
 
 「はっはっはっはっは!」
 
 もう関係ない、吹っ切れた。と仁王立ちの藍華ちゃん。
 帰りたい。
 
 「あまりアカリをいじめてはいけませんよ、アイカ。返してあげなさい」
 
 「アルトリアさ~ん」
 
 顎までつかったままアルトリアさんの足元にすがりつく。
 
 「あぅ、ごめんなさい。 …… ほ、ほら、灯里。悪かったわね」
 
 「うん、気にしてないよ」
 
 タオルを受け取り、体に巻きなおす。
 改めて、藍華ちゃんは恥ずかしがり屋さんだなぁ、と思った。
 だって、ね?
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 ……―――― と、こういう事があったんです。
 とっても、恥ずかしかったんですから。って別に言うことじゃなかったですね。忘れてくださいっ!
 
 最後は少しだけ騒がしくなっちゃったけれども、とてものんびりした一日でした。
 
 そして、こういう日がいつまでも続いてくれたらいいなって、思いました。
 こーゆうのを桃源郷、なんて言ったりするんでしょうか。
 いつまでもここにいたい。居心地がいい。幸せの集まるところ。
 この想いと温泉パワーで、明日からもお仕事一生懸命がんばりますっ!
 
                  水無 灯里 

 
 追伸
 
 この頃、みんながすれ違ってるような気がします。
 ちょこっとだけ、ほんのちょこっとだけ。
 ――――――――――――――― 寂しいです。』
 

 
             

                Navi:12 後編   end



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是に期待せずして、何に期待するというのだ!?

天野こずえ先生新連載決定!

ども、草之です。
友人と難波のソフマップの帰り道、本屋のポスター前、2人組みでニヤニヤしてたデカイ方が草之です。見た人がいるかは全くの謎ですが。

これ情報古かったりしてませんか?今日初めて知ったんですけど。
でも、草之はブレイド買ってないんですよね。こう言っておきながら買う予定もなく、単行本待ちです。

さて、新連載ですが……これを、待っていたあぁぁぁァァッ!!
題名の『あまんちゅ』とかポスターイラストとか見てると沖縄な感じですねぇ。

友人「なんか主人公ポジの娘、灯里っぽくなかった?」
草之「あー。そうかぁ?」
友人「いや、もみあげとか」
草之「いやあれ前髪のサイド長いだけやし。まぁ似てたんちゃう?」
友人「やろぉ?髪黒した感じの灯里」
草之「でもなぁ、そう、似てるとかってあんま好きちゃうねんけど。意見としてのな」
友人「でも似てるやん?」
草之「まぁ、うん。そう見えんこともない。あれで性格が正反対やったらそれはそれでツボ」
友人「あぁ、そうですか」

一部変化ありの今日の会話。誇張とも言う。
毎日こんなノリで会話してます。
いや、嬉しいからね。ちゃんと嬉しいんですよ!

あ。草之『浪漫倶楽部』もってねぇ!!
短編はふたつ共持ってるけど『浪漫倶楽部』もってねぇ!!
どうしよう!?どっかで売ってたっけか?通販……するにしてもあるかねぇ?

天野先生で連載作品も合わせた中で、唯一マジ泣きした作品があります。電車の中なのに。

 『アース』

これはね、ヤバす。
短編集『空の謳』の最後を飾る短編なんですが、ダメです。
『夢空界』とかもかなり来てるんですけど、これは次元が違う。ヤバす。
ギガントスペシャルにヤバす。草之の言語能力もヤバす。
ていうかね、開きが上手すぎんの!!なにアレ、わっかんねぇよ!!
ページを開いた瞬間内臓が震えて、鳥肌が全身に立って、喉がきゅってなって、気付いたら泣いてましたよ!?

やべぇ、これ書いてるだけでディスプレイが滲む……。


感想掲示板に天野こずえ先生の短編集について語り合うスレ作ります。
興味や語りたいことがある人はぜひ来てください。読んでない人はネタバレ注意の上御覧になって下さい。
え?衝動的すぎる?
新連載がそれくらいうれしいってことですよ!!

さぁみんなで語り合おう!
誰でもお気軽に書き込んじゃって下さいね!!もち荒らしとか空気は読んで下さいね?ネチケットは大切ですよ。

では、今日はこの辺で。
以上、草之でした!


追伸
『背徳の炎』は明日から今週末に更新予定……たぶん明日になると思います。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:8

 
 「では、アクセル君」
 
 結果発表、とか言って金曜日、つまり合格なら初勤の朝に呼び出された。
 何を発表するのかは置いといて、今は朝の5時。
 …… 早ェよ。
 
 「今回の戦闘から、高音君の報告を聞く限り …… 」
 
 ごくん、とつばを飲み下す。
 別に教師になれないってことが嫌なんじゃない。この歳になってイヂメとかされるかもってことが嫌なのだ。
 
 「『信用に足る人物』と判断できると、そう報告を受けたわい。その後の高音君は、魔法先生・生徒の集まりでもそのことを言い回っとったよ」
 
 「お、ぉおお!」
 
 グッと腕を天井に向けて突き上げる。
 
 「っしゃぁ!!」
 
 振り下ろして大げさにガッツポーズ。それくらいしたくなるっつーの。
 遅刻とか、戦闘後の面倒とか …… 本当にかけまくったんだからよ。
 
 
 =  =  =  =  =
 
 
 「行くぜェ!!」
 
 恐れず突っ込む。
 自分に言い聞かす。キレたダンナのパンチ程じゃ絶対ねぇ!! と。
 大将が大きく右拳を振りかぶる。
 見極めろ、アクセル!
 
 「くらいな!」
 
 鎌を投擲する。狙いは右肩。
 どっかで読んだコミックに描いてあったんだ、技の出始めを、つまり始動点を叩けば勢いはなくなるってな。
 狙いは外れることなく肩に直撃、したんだけどっ!?
 
 『ぬるいわ!!』
 
 トラックが真横を通りすぎた後みたいな轟音と衝撃。
 図体が違いすぎるのか?
 大将の左に回りこむように走ってスキを窺がう。
 ツェップの筋肉ぐらいの図体しやがって、それでこんなに速いとかアリかよ。
 スキをどうにか作れないかと、ちくちく鎌を投げながら考える。
 アレを出すのはいい。決めた。でも、どうする?準備にゃ百重鎌焼以上の時間が要る。
 どうする ――― ?
 
 大将がまた右拳を振り下ろす。
 ビシビシと砕けた地面の欠片を受けながら、ある違和感を感じ取る。
 ―――― ?
 
 『何の真似じゃい』
 
 足を止める。
 大将も俺様のスーパーブレインにはついてこれてねぇみたいだ。
 この違和感を確かめるには、こうするしかない。
 
 「来いよ、止まってやったぜ。男らしく打ち合おうぜ?」
 
 『いーい度胸じゃ、なら、遠慮なく …… !!』
 
 筋肉の軋む音がする。ミチミチと千切れるくらいに張られた、力を込めた腕。
 振り上げられるのは右腕。その大きさは、元からデカイ樹の幹はありそうな腕がさらに膨れ上がったもの。
 コイツまじかよ。
 
 『おおおおおおおぉぉぉぉォォォォッ!!』
 
 集中しろ、見ろ。
 ギリギリで体をずらす。紙一重、体の半分が吹き飛んだかと思ったぜ。
 
 『貴様 …… っ!』
 
 「避けちゃダメって言ったっけ?」
 
 にひひ、と笑う。
 流石にあれをくらうのはごめんこうむる。
 
 『ぬかせ、腑抜けがぁっ!!』
 
 右にステップを踏んで回りこむ。
 大将は、“右拳”を振り上げる。へ、やっぱそうか。
 
 「見えたぜ、大将!」
 
 『潰れろっ!!』
 
 チャンスは一瞬。どこぞの髭紳士に一回だけ成功した防御法。あれ以来怖くて使えたもんじゃなかったが、ここはンなこと言ってられない。
 
 鎖を張って、防御の姿勢。体と、鎖に法力を集中。
 ヒットする一瞬前、その法力を全開放。金色の環状法力波を伴って、受けるはずの衝撃が激減される。
 
 スラッシュバック、成功だぜ。
 
 「ノリノリだぜ!!」
 
 猛禽が大きく羽根を広げるが如く。
 鎌をツバサに見立て、大きく体を開く。動きを止めてまでの法力の練り上げ。
 法力は波動となって体の外に溢れ出す。陽炎の如し法力の奔流。
 
 『は! させるかっ!!』
 
 大将はわざわざ“右拳”を振りかぶり直す。その一瞬が、命取りだぜ!?
 
 「うおぉらァッ!!」
 
 懐に潜り込むようにして拳を掻い潜る。
 同時に、鎖鎌は際限がなくなる。ガラスにヒビが一気に張り巡るように、大地に鎖が張り巡らされ、大将の足をすくう。
 
 「らァッ!!」
 
 『何だとォっ!?』
 
 鎖の嵐。
 中空に浮く大将目掛け、鎖が暴れるように叩きつけられていく。
 叩きつけられて叩きつけられて、いつしか、それは蜘蛛の巣のように大将を絡め取る。
 
 込み上げる火山噴火のような、自分の爆発寸前の法力を鎖に流しこんでいく。
 その全てを詰めこんで、鎌は迸る。敵を討ち抜けと、大将の体で搗ち合わす。
 今出来る限界域の出力を以って繰り出されるは、我が鎌閃奥義!!
 その名を ――――――――
 
 
 「 ―――――――― 亂髪[みだれがみ]」
 
 
 昼夜が逆転する。
 近く木は薙ぎ倒され、遠く音は森を激震させる。
 名には違わぬ。その炎が起こす爆風は誰もの髪を平等に亂れさせる。
 
 「Good Luck!!」
 
 鎖鎌を収め、キメる。
 鬼の大将の巨体は落ちることなく虚空に消えゆく。
 その消え去る直前。
 
 『また、喧嘩したいもんじゃ』
 
 その言葉に俺は答えない。
 ただ、そちらを見ずに、背を向け手を振るのみ。
 その行動には精一杯の気持ちを込め、メッセージとした。
 
 『二度とするか! バカ野郎!!』
 
 と。
 
 
 =  =  =  =  =
 
 
 と、まぁ。
 そこで格好付けたまではいいんだよな。
 案の定、バカみたいな戦い方をした俺はガス欠でダウン。タカネちゃんとメイちゃんにかなり迷惑をかけちまったってワケだ。
 そりゃそうだ。覚醒2発に奥義1発って …… 今になって思えば俺どんだけ無茶してんだよ。
 
 まぁ、結果的にイヂメは免れたわけだ。もしやられたとして、イヂメかどうかはわからんけど。
 
 「さて。君が副担任として担当するのは3-Aじゃ。主に相談役としての配置じゃからそこまで気負う必要はない。人生の先達として生徒らをしっかり導いてやってくれい」
 
 「おう、まっかせな!」
 
 と、言ったトコロで仙人が急に顔を曇らせる。
 着任早々大変な仕事が回ってきそうだな、こりゃ。耳栓したい。
 
 「週明け、火曜日から3年生は京都に修学旅行に行く」
 
 「しゅーがくりょこー? ってーとアレか。学生旅行みたいなもんだな」
 
 「そうじゃ。しかし、の。ちょいと問題があってのぅ …… いやいや、君には直接関係はないと思う」
 
 たぶん思いっ切り嫌そうな顔でもしてたんだろう。ほら、俺正直者だから。
 は、置いといて。
 
 「場合によっちゃ、イノが出てくるかも …… とか考えてんだろ? 言えよ。聞くから」
 
 「そうかの? いや、それはありがたい。実は ――――― 」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 私、佐々木まき絵を中心に何人もの人が大変なことに巻き込まれています。
 
 「ひっ、ひぃぃぃ~っ!!」
 「亜子! がんばって!」
 「うぉぉっバスケで走り込んでてよかったぁぅおぉおぉぉっ!!」
 
 亜子、アキラ、ゆーな、そして私。
 横一線にまだ他何人か。そして、後ろにはなぜか恐竜。
 そして、またひとりふたりたくさんと逃げる人が増えていく。
 
 「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!!」
 「ぎゃあぁぁっ、開発費がまた弁償代で消えるぅ~っ!!」
 「しゃべるな! 手を動かせ、手を!!」
 
 たぶん、大学ロボ研のいつもの暴走。
 いつもの暴走。たまったもんじゃないね、これは。
 
 「ちょ、ヤバイって! なんかまき絵が悟った顔しとる!!」
 「まき絵、しっかり!」
 「ひとりで勝手にトリップするなぁぁっ」
 
 今の私なら何でも出来そうな気がする。
 すごい、すごいよ。今なら何でも出来るんじゃないかな!?
 
 「みんな、ここは私にまかせて! 今の私は何でもできそう!!」
 
 「アカンアカンアカン! なんもできへんって、まき絵は所詮まき絵やから逃げとけばええんやよ!!」
 「まき絵、残念だけど、私たちに出来ることなんかないよ」
 「本格的にヤバイ空気が漂ってきたんですけどォォォッ!?」
 
 「ううん、そんなことないよ。今なら何でも出来る。止まれぇっ!!」
 
 『うわぁぁっ!! 何してるのッ!?』
 
 ――――――― ド……ッ
 
 「あれ?」
 
 恐竜が止まる。いや、止まってない。だって、恐竜が空を飛んでる。
 お腹のあたりを思いきりへこませて、恐竜が空を飛んでる。
 
 『まき絵がやったぁぁぁぁ~~~~っ!?』
 
 ――――――― ガッシャァッ!!
 
 恐竜が落ちていく。後ろを追いかけて止めようとしてた大学ロボ研の人たちに落ちていく。
 と、恐竜が今度は空中分解を起こした。真っ二つに千切れてロボ研の人たちもケガはないみたい。
 え?これホントに私がしちゃったの?
 
 「チ」
 
 「やれやれ」
 
 舌打ちと、聞きなれた声が響く。
 もくもくと煙が立つなか、動く影がふたつ。
 
 「みんな、ケガはないか!」
 
 その中のひとりが声をあげて全員の無事を確認する。
 いつもの白いスーツ姿で煙から出てきたのは高畑先生。
 
 「デスメガネだ!」「つええ、アレ真っ二つかよ!?」「どうやったんだアレ!」
 「終った。開発もここで打ち切りか …… 」「会長 …… 」「諦めてどうする!?」
 
 とかなんとか。
 高畑先生がこちらに気付いて歩いてくる。
 
 「大丈夫かい?」
 
 「あ、はい!」
 
 代表してアキラが言う。
 突然、高畑先生の姿を見て、急にホッとしたからなのかなぁ。
 
 「う、ふぐぇっ …… ぐずっ …… うぇぇ~ん!」
 
 「まき絵!?」
 
 「おっと?」

 高畑先生に抱きついて泣いていた。
 ぽんぽん、と背中に優しい手の感触。
 本当に、怖かった。
 
 「もう大丈夫 …… 大丈夫だから」
 
 「ご、ごわがっだぁぁ …… ぶぇぇ …… ん!」
 
 「君たちは? ケガはない?」
 
 「あ、はい」
 「まき絵よりかは …… 」
 「高畑先生相変わらずスゴ …… 」
 
 私は、泣き続けた。
 本当に怖かったから、高畑先生が優しかったから。
 と、ざわつきが大きくなる。
 
 「おい誰だアレ」「部外者か?」「見かけねぇよな」
 「デスメガネの前ってアイツが吹き飛ばしたのか?」「おい、まさか。デスメガネじゃあるまいし」
 「そうそう、あんなのが二人もいたらって、じゃあアレ誰だよ」
 
 まだしゃっくりみたいに泣いてる私も気になって、高畑先生の横に顔を出して見てみる。
 そこにはひとりだけ。煙が晴れて、姿が見える。
 ムキムキの体。黒のタンクトップと、白のジーンズ。あれ、なんだっけ …… はちまき? と、ベルトについてる大きなバックル。
 ここからだと見えにくいけど何か書いてる。『FR …… E、E』?『フレー』?
 
 「『フリー』だよ、まき絵」
 
 「あ、あはは」
 
 ということで、その人がこちらに近付いてくる。
 高畑先生の横に立って気付く。背ぇ高っ!
 明らかに人が出せる目力を超えた鋭さで高畑先生をにらんでいる。
 背筋が、痛いほど堅くなる。
  
 「テメェらの大将はとんだ茶番好きらしいな」
 
 「そんなこと言わないでやってくれ。これも『仕事』だよ」
 
 「チ …… ッ」
 
 男の人はそのまま振り返って歩いていく。
 人ごみにまぎれて、見えなくなる。
 
 「あの、あの人は?」
 
 「あぁ、まき絵君はもう大丈夫なのかい?」
 
 「あ、はい」
 
 「で、あの人のことだったよね。学園長先生直属の『仕事屋』ってとこかな」
 
 よくわからなかった。
 だいたい、この学校でそんなのがあったかなぁ。
 いろいろと疑問を持ちながら時計に目を移す。8時5分くらい。
 
 「うわっ遅刻するよ! 亜子、アキラ、ゆーな、行こう!先生、ありがとうございました!!」
 
 「あぁ、気を付けてね」
 
 そのまま、私たちは走り去った。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「学園長先生直属の『仕事屋』ねぇ?」
 
 「そうなのそうなのっ! ね、ね?ちょっと気にならない!?」
 
 教室の反対側、窓側で繰り広げられている他愛ない会話に珍しく反応してしてしまう。
 『仕事屋』か。おそらくアイツ、あの男 …… 。
 高等部の高音という先輩から聞くところでは、「害はない」とのことだが、どうだか。
 
 「どうした、刹那」
 
 「なんでもない。お前こそどうした」
 
 「いや、なんでも」
 
 今しがた登校して来たのか、龍宮が「何か?」と聞いてくるが、なんでもない。
 アイツは、何者なのだろうか。
 突然現れ、時間切れという結果であるにしてもあのエヴァンジェリンさんを倒し、刀子さんを圧倒した。
 魔力でも、“気”でもない、不可思議な力を使う人物。いや、人か?
 私と同じ …… 私以上の化け物じゃないのか?
 
 「気になるって言ったら、まぁ嘘じゃないね。よし、じゃあまかせてよ!」
 
 「さっすが報道部! さっすが朝倉!」
 
 片肘を突いて事の成り行きを見ていると、どうやら朝倉さんがあの男のことを調べるらしい。
 
 「どれ …… 」
 
 「? …… 龍宮?」
 
 「ふ、なに …… 報酬は貰うがね」
 
 自分の鞄も置かず、その話の輪にズケズケと入っていく。
 意外な人物の登場に、朝倉さんのみならず、周りを取り巻く全員が龍宮に注目する。
 ただ金が欲しいだけなんじゃないのか、アイツ?
 
 「いい情報があるんだが …… 朝倉、いくらで買いたい?」
 
 「お、おぉ。何何? 例の男『仕事屋』の情報?」
 
 「そうだ。ちょっとしたものだがな」
 
 「うむむ ………… コレで!!」
 
 ピッと手の平を広げて『5』を示す。
 
 「五万?」
 
 「うぇえい! 違うよ、五百円!!」
 
 「ケチるな、それじゃ何も教えられない」
 
 「じゃ、千円!!」
 
 「変わらん。が、まぁいいだろう。デスメガネ高畑曰く …… 」
 
 なんであんな言い方をするのか。おそらく副担任としての高畑先生ではなく、学園内で恐れられている『デスメガネ』としての方が伝わり易いと踏んだからだろう。
 朝倉さんは朝倉さんでメモを取りだし、さっそく舌なめずり。
 
 「『僕では到底敵いっこない』と、言っていたかな? 千円で言える情報はここまでだ。あとは本人にでも訊くといい」
 
 「 …… え?」
 
 取り巻く全ての人がぽかんとする中、龍宮だけが悠々と自分の席に戻って着席。
 朝倉さんは「えっと~?」とどうにか反芻しようと頭を回しているのがわかる。
 まぁ、無理もない。
 
 「え? っと。それってつまり …… アレ?」
 
 意外にも一番早く戻ったのは早乙女さん。
 続くようにフリーズが解けていき、ざわつきが大きくなっていく。
 
 「この学園で、敵無し …… みたいな?」
 
 結論を下したのは、例によって朝倉さん。
 どうだろう、エヴァンジェリンさんが全開、パートナーありでならまだ分からない。
 と、こんなことを思っても、詮無いことだ。私は私の仕事をすればいい。
 …… そうだ。私は、私。化け物は、化け物。変わらない。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「さてと。どうだいネギ、俺キマッてる?」
 
 最後にネクタイをきゅっと絞め直して身支度完了。
 頭のバンダナはもちろん外して、俺の長くてさらっさらの金髪は首の後ろで結んでまとめる。
 なんてーの。デキる男って感じ?
 
 「はい、バッチリですよ!」
 
 改めて、スーツってのはなかなかキマるもんだな、と確認。ま、俺ってば何でも似合っちまうからな。参るぜ。
 
 て、ことで教室前。
 ざわつく気配から、やっぱり女子校なんだなぁ …… と再認識。
 
 「じゃあ、呼んだら入ってきてください」
 
 「はいよ」
 
 と、ネギが教室に入るとざわつきが喧騒に変わる。
 何が起こったんだよ。
 しばらくして、呼ぶのではなくドアからネギが出てくる。なぜか疲れた様子で。
 
 「どしたの?」
 
 「いえ。入ってくれて大丈夫です」
 
 どこからどう見ても大丈夫でなさそうなヤツに言われてもねぇ。
 教室に先に入ったネギに続いて俺も入っていく。
 一瞬で教室の音がシン、と無くなる。うわ、気持ち悪。なにこの落差。
 
 「ネギ、これ大丈夫だよな?」
 
 「ええ、はい。ちょっと驚いただけだと思います」
 
 と、慣れでついつい英語でしゃべってしまう。
 
 「こほん。えー、みなさん。聞いて下さい!」
 
 と、ネギが日本語にシフトする。
 目だけで話しかけてきて、おそらく自己紹介してくれってことだろう。
 と、いうことで俺もせき払いをひとつ。
 
 「みんな美人だなァ …… 」
 
 と、英語で切り出す。
 ネギは慌てるが、手で制しておく。
 この言葉に反応したのは数人。耳まで赤くしてるやつもいる。可愛いなぁ。
 
 「と、今日から …… 急だけど、このクラスの副担任ていうか、保護責任者っていうか。まぁ、このクラスの一員になるアクセル・ロウだ。よろしくっ!!」
 
 ビシィッとキメる。
 少なくともマイナスイメージは植え付けたくないからな。
 
 「相談とか、ネギには話せないような悩みは俺にでも相談してくれ。特に恋愛に関しちゃ手取り足取り …… もとい、自信がある」
 
 ちょっとしたジョークもいれてみたが、イマイチ反応がよろしくない感じ。
 失敗しちゃった?あちゃぁ、まじでか。
 
 「えっと …… じゃあ、質問のある人、手を挙げてください」
 
 困っていると、ネギがフォローしてくれた。さすが先生だね~。俺も今やその人種だけど。
 す、と真っ先に手を挙げたのは窓際一番前の子。将来有望だね~。
 
 「はいじゃあ …… と、アサクラ …… ?」
 
 「朝倉和美です」
 
 「じゃあ、カズミちゃん」
 
 す、と手を挙げたときのように立ち上がり、なぜかメモ帳を取り出す。
 そこかしこから「あちゃー」だの「まずいねー」だの「でも朝倉しか手挙げなかったじゃん」とか。
 そういうのやめてくんない?すっげー不安になるから。
 
 「なぜ、このような中途半端な時期に?」
 
 「えーっとな、タカミチ先生がどうしてもってな。なにやら副担任も兼任していたら出来ないような仕事が入ったとかで、俺に回ってきたってワケ」
 
 「では、アクセル先生は ――― 」
 
 お、アクセル“先生”だってよ。くすぐったいねぇ。
 
 「高畑先生の紹介で赴任してきたと?」
 
 「そうなるね」
 
 と、こういうことにしておけ。とは仙人。
 確かに一番ありがちであっさりした答えだよな。
 ふむふむ、とメモになにか書き込む。
 
 「では、以前はどこで?やはり外国?」
 
 「まぁ、そんなところ。ちなみにイギリスね」
 
 「へー、ほぅほぅ。ちなみにこのクラスで彼女にするなら?」
 
 からかい半分で聞いてるに違いない。
 
 「君」
 
 即答してやる。できるだけ本気で聞こえるように。
 その方が面白い。
 
 「 …… ふむふむ、私。えぇっ!?」
 
 「あっははは」
 
 「からかわないでくださいよ。まったく」
 
 と言いながら顔が赤いぞカズミちゃん。
 ぐりぐりとメモ帳を塗り潰す。行動がいちいち中学生だな~。面白いわぁ。なんたって俺の知り合いロクなのがいないからなぁ、全員顔とスタイルは完璧なのに。
 
 
 もういいだろ、と言いたくなってきた。
 あれから10分は経ったか?カズミちゃんの質問は延々と続く。
 と、授業開始のチャイムが鳴る。おお、神よ。信じてないが今だけはありがとう。
 
 「おっと。では最後に …… 日本語がお上手ですが、どこで?」
 
 「ベッドの上。以上!」
 
 確か1時間目はネギの授業だっけか。
 じゃあ、と後ろへ移動する。
 
 「じゃあ、皆さん。教科書の10ページをひらい ――― 」
 『『『『えええええぇぇぇぇぇっ!!?』』』』
 
 移動し終わり、し終わった瞬間爆発。
 長いな、フリーズ。ってことはそんなに悪くはなかったのかなぁっと。
 
 「ちょっとネギ君なにアレ!」「なんかけっこーイケてない!?」
 「やばい、大人ぁ~」「日本語は『ベッドの上』ってキャァ~ッ!!」
 「なになになに!? も~やらすぃ~!!」「ついてけねぇ …… 」
 「バカばっかです」「髪きれ~」「シャンプーなに使ってるんですかー!」
 
 うぉおお …… なんだコレ急に来たなオイ。
 ぎゃあぎゃあと固まって騒ぎ始める。当の俺抜きで。
 
 「み、みなさーん! 落ち着いて、落ち着いてーっ!!」
 
 ネギがこの騒動を治めようと奮闘するも、善戦むなしく蹴散らされる。
 ネギには悪いけど、こういう騒ぐのは好きなのであえて口は出さない。放っておこう。
 
 「アクセル・ロウ …… アクセル先生でよろしいかな?」
 
 ニヤニヤして眺めていると、横から声が掛かった。
 って高ッ! 俺よりあるし! へこむから並ばないで欲しい。
 
 「君、背高いねぇ …… 180? 中学生?」
 
 「よく言われるでござる」
 
 と苦笑い。
 おっと、つい。
 
 「いや、大人の魅力に溢れてるぜ?」
 
 「またまた」
 
 ははは、と今度は本当に笑ってくれた。
 発育いいなァ。こりゃ生殺しとかマジに覚悟しなきゃだな。
 
 「おっと、自己紹介がまだでござったな。長瀬楓でござるよ、よろしくでござる」
 
 「おぅ。にしても元気なクラスだわ。飽きないわ」
 
 ギャーギャーと絶え間なく騒ぎ立てる中心を眺めてそう呟く。
 
 「オイ」
 
 「はいっと、あらぁら。君は ――― 」
 
 見たことがあった。
 確か飛ばされてスグの橋の上でいたな。ダンナの殺気にも耐えた子だ。
 
 「なぜここにいる」
 
 「タカミチ先生に聞いてくれよ。それとも、お嬢様が気になる?」
 
 「貴様 …… ッ」
 
 飛びかかられそうになったので手で制する。
 それで止まってくれたのはたぶんクラスでいるからだろう。
 
 「俺もせんに …… 学園長に頼まれたの。君のことも今朝聞いたし、何、仙人俺のこと言ってないの?」
 
 「聞いてない」
 
 「あの …… ジジィめ」
 
 俺が怒るのは分かるけど、なんで彼女までキレてんだ?
 キレてるって言うか、悔しそうって言うか。
 
 「 …… し …… では …… ぶ …… はないと!?」
 
 呟くように言った。よくは聞き取れなかったけど、相当キレてるぞこの子。
 なんとかなだめようとしたその時
 
 「アクセルせんせーこっち来てよー!!」
 
 でも、と言う前に睨めつけられ、小声で「行け」と言われた。
 まだ自己紹介もしてもらってないと、心配なんだとも言えずに、俺は嵐のような女子校生の質問攻めに再び身を投じたのだった。
 
 



               track:8  end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

結構前から思ってたこと。

ども、草之です!

特にこれと言ったことではないんですけど、ピエロのファストフード店。
近所のピエロのファストフード店の女性店員、その店だと正式には女性クルーですね。

ふと、その人を見て思いました。

「あ、この人水樹奈々さんにめっちゃ似てへん?」

とか。
かなりどうでもいいですね、すいません。
でも、結構似てるんですよ、顔のラインとかくりっとした目とか。

でも、水樹奈々さんとの決定的な違いは身長です。
草之(175~177くらい)とあんまり変わらないんです、そっくりさんのほうが。高ッ!!
水樹奈々さんは確か160なかったんでしたっけ?あれ150?
目線が同じ位置にあるんです。
ちなみに声はほんわ~としてます。どちらかと(?)いうと能登麻美子さんに近いかも。

「へー」程度に流してください。言ってみたかっただけなんです。
こんなハイスペックなひとも世の中にはいるんだな~、程度に認識していただければ。

でも、草之はあみっけ命。
そんな感じの今日この頃。
以上、草之でした。


追記
週末にもう一度『背徳の炎』を更新。
来週末くらいには『優星』を更新したい。
あくまで予定なので、変更になる場合があります。完成しないとか。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:9

 
 修学旅行の朝は早い。
 クソ早い。
 ちょっと、いじめ? なぐらい早い。
 もしかしたらそう思ってるのは俺だけかもしれない。
 何故かって?
 
 「アクセル先生、おはようございますっ! いやぁいよいよですね僕もう目覚まし鳴る前から起きちゃってなんてったって京都ですよ京都いやぁホント楽しみだなぁ!」
 
 こんなに楽しそうにさっきから壊れたラジオみたいにしゃべりまくってるネギが俺の横にいるから。
 ちなみに少しウザイ。
 
 少しほっとくついでだ。金曜日から続く俺の教師ライフを振りかえろうかな、とか思う。
 
 金曜日。
 もみくちゃにされた。クラスはなかなかに好意的で俺としては上出来だと思う。
 カズミちゃんだろ、カエデちゃんに、マナちゃん、チヅルちゃん。あとセツナちゃん。
 この日に名前を覚えたのはこの5人。これで一部だって言うんだから先が長い。
 昼休みには早速何人かが個人的に尋ねてきてくれたし、滑り出しは好調と言っていいと思う。
 
 土曜日。
 初出勤翌日にはもうお休みってのはどうよ? 俺的には大歓迎だけど。
 特にやることもなく、ブラブラ~っと学園都市を散歩して回る。途中でケンカを発見、野次馬になって煽る。
 その最中、タカミチ先生が来てケンカリョウセイバイ。ちなみに俺は見付かる前に逃げた。
 その後もブラブラ~っと散歩を続ける。昼も近くなってきた頃、メイちゃんとばったり。一緒にランチしてお話を少々。お互い苦労してるっぽい。
 
 日曜日。
 そういや俺全然着替え持ってねぇ! という事実に今更気付く。Yシャツも2枚しかない。下着も絶対的に足りてない。
 渋々と買い物に出発。金は前もって仙人に貰ってあったものを持っていく。数着買って、そう言えば修学旅行用のものも買わなきゃない、と言うことで買い揃えてそれなりに両手が塞がった昼あたり。
 ネギとコノカちゃんが一緒に買い物してるところを見つける。からかってやろうと近付こうとするともの凄い勢いで路地に引っ張り込まれる。犯人は3-Aのマドカちゃんにサクラコちゃん、ミサちゃん。
 どうやらなにかと気になるお年頃らしい。暇なので3人に付いていく。なんだかんだでクラス委員長のアヤカちゃん、コノカちゃんとネギの相部屋のアスナちゃんとも合流。コノカちゃんとネギは相部屋のアスナちゃんのバースデープレゼントを買いに来ていたらしい。
 実際は明日、つまり月曜日がバースデーらしいが流れでパーティーを始める。カラオケとか …… カラオケとか! 懐かしすぎんぜ、コンチクショー!! 久々に歌ってやったぜ!! ヒュウ!!
 
 そして、月曜日。
 金曜以上に大変だった。それというのも噂が一気に広がったから。
 『3-Aにまた新しい先生が入った』というものなんだが、そんなわざわざ見に来なくても。
 副担任と言えども結局はネギのサポート役で、他のクラスへの授業へも付いていったりして、その度に授業が潰れて俺への質問会みたいになってしまう。
 恐るべし、女子校生。
 
 そして、今日だ。
 修学旅行初日。
 
 「おはようございますっ! わぁ、みなさん早いですね!!」
 
 「おはよーネギくーん! あ、アクセルせんせもおはよー!」
 
 「おぅ、早いねぇ。ネギじゃないけどやっぱ楽しみだったりすんだ?」
 
 「あったりまえじゃーん!!」
 
 キャワキャワと騒いでいるのは確か …… えーと? 一応ネギから顔写真と名前書いてるプリントもらってここに入れてたはずだからっと。
 内ポケットから取り出し、広げて顔と名前を確認。傍から見たらかなりアホっぽいに違いない。
 
 えっと。お、ネギのヤツ、振り仮名まで書いててくれてる。いいヤツだなァ。
 メガネっ娘がハルナちゃん。前髪が長い娘がノドカちゃん。デコの娘がユエちゃん。
 特に元気がいい娘がマキエちゃん。その横でいるサイドで髪を束ねているのがユウナちゃん。
 これまた背の高いジャパニーズチョンマゲ? の娘がアキラちゃん。その影に隠れるようにして、髪の色素が薄いのがアコちゃん。
 
 おっしゃ、オッケ。完璧。覚えた。
 
 「大変ですね?」
 
 「おっと?」
 
 「初めまして、ですよね。瀬流彦です」
 
 狐みたいな目をした先生が話しかけてきた。
 とりあえず挨拶されたんだし、し返すぐらいの礼儀は持ってる。
 
 「アクセル・ロウだ。よろしくなセルヒコ」
 
 「なかなか流暢な日本語ですね。どこで覚えたんですか?」
 
 「そりゃ、もちろん『ベッドの上』さ」
 
 もうすでにお馴染みになってしまったセリフを言う。
 一瞬固まって、顔が真っ赤になる。ははぁん?
 
 「そ、そそそそれ生徒に言ってませんよね!?」
 
 「言ったさ、超言った」
 
 「なんて事してるんですかーッ!?」
 
 いやぁ、コイツとはいい仲になれそうだ。
 なんて言ってるうちにゾロゾロと生徒も来始める。
 セルヒコといるからかは分からないが、みんな俺に「おはよーございまーす」って!
 教師もなかなか捨てたもんじゃないね。いやホントに。
 
 「気を付けないと、新田先生が怒りますよ?」
 
 セルヒコがくいっと後ろ手に初老のおっさんを指差す。
 
 「なに、怖いの?」
 
 「えぇ、まぁ。くどくどと面倒ですから、新田先生の前ではあんまりハジけないほうがいいですよ」
 
 「OK、セルヒコ。お互いいい思い出に出来るようしっかりやろうぜ!!」
 
 セルヒコの背中を思いっきり叩く。ばん! とスーツの上からなのにいい音がホームに響く。
 その衝撃にセルヒコは背を逸らし、絞り出すような声を出す。
 
 「痛ぁっ、少しは手加減しろよ!」
 
 「お、やっとタメ口きいてくれた。じゃ、そゆことで~」
 
 反撃を事前に避けるように、そそくさと3-Aの集まりへ避難した。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「何の用だ、ガキ」
 
 「ガキではない。お前よりは長生きだ」
 
 「何の用だって聞いてんだ、ババァ」
 
 「 ………… 百歩譲ってガキでいい」
 
 わざわざ朝っぱらから私が直接訪ねてやったというのに、そのありがたさがわからんのか。と、こんなこと言ってもしょうがないことだ。
 ジジイやら、どこぞの情報からコイツがここのカフェでよく朝食を取っているという情報を仕入れていたから、探すこと自体、難しくはなかった。
 予想通り、この先がややこしそうだ。
 モーニングセットを見た目とは裏腹に、ちまちまと食っているその正面にどかっと陣取る。
 
 「 …… お前は何者だ」
 
 「 ………… 」
 
 「オイ、黙るな」
 
 聞いたところで答えを言うとは思ってなかったが、まさかのだんまりか。
 これはこれでムカツクな …… コイツにはムカツキっぱなしだ。
 ヤツの視線が微かに上がって、ヘッドギアの下に隠れている瞳が一瞬だけ覗く。
 紅い、血のような瞳。ちろちろと紫の光が映る。
 
 「カラーコンタクトでもしてるのか?」
 
 「あ?」
 
 「その赤い瞳 …… 元来のものではないだろう?」
 
 「知るか、昔っからこうだ」
 
 むぅ、やりづらい。
 ぶっきらぼう、とでも言うのか。表情の変化もさほど感じられない。むっつりとした顔のまま。
 
 「で、お前は …… 」
 
 「少し黙ってろ、メシ中だ」
 
 ち。
 何だコイツは。
 仕方ない、と私も長期戦を覚悟して適当なコーヒーを注文する。
 ウエイターが私とコイツを見て訝しむ表情をしたが、それだけ。すたこらと店内に戻っていく。
 
 無駄にゆったりと時間が進む。
 オープンカフェの横を高校のヤツらや、大学生。ほか学園都市で働く社会人が通りすぎていく。
 がやがやと喧騒が遠くに聞こえ始めた頃、ヤツはくっとコーヒーを飲み終わり、足を組み直す。
 
 「それで …… 何の用だ?」
 
 「言っただろうが。お前は何者だ。あの力はなんだ」
 
 「あのクソジジイにでも聞け」
 
 「それをした上でお前に聞いている」
 
 「 …… チッ」
 
 舌打ちを一発。俯くように考える仕草をしてから、もう一度足を組み直す。
 
 「お前はどこまで知っている」
 
 「あん? どこまで …… そうだな、お前がこの世界の人間ではないということぐらいか」
 
 起きてすぐ、ジジイのところにすっ飛んで行って聞けた情報はたったそれだけ。
 それが『何者か』と言う問いと『どういった力か』という問いの大雑把な答えだということぐらいは分かる。
 しかし、それは情報からの推測でしかなく、ハッキリしたものではない。だから、私がここにいる。
 
 「ハッ」
 
 そして、あろうことかヤツは笑ったのだ。
 
 「何が可笑しい?」
 
 組んだ足をカクカクと揺らし、見える口元は歪んでいる。
 
 「確かにな …… この世界の人間でもなければ、それ自体でもない。お前もそうだろうが」
 
 「何を?」
 
 「 ――――― ソル=バッドガイ」
 
 伝票を持って会計をしに行った。何のコトやら、名前だけを言って立ち去るつもりか。
 様子を見ていると、クセなのかなんなのか、ウエイターにチップを渡そうとして断られている。ウエイターの方も英語は苦手なのかしどろもどろといった感じだ。
 これ以上は何を聞いても無駄か …… 。名前だけ聞けて収穫といえるだろうか?
 
 「 …… おい、ソル。お前剣はどうした?」
 
 「あン? コレだが」
 
 手に持っていた黒い布の塊を見せる、ていうか持ってたのか。
 …… なるほど、よく視ると、布には認識阻害の効果があることが分かる。おおよそタカミチあたりが用意したんだろう。なんでイキナリ信用できるのかは理解に苦しむ。
 
 「 …… それだけか?」
 
 「あぁ、これ以上聞いてもどうせ答える気はないんだろう?」
 
 「は。わかってんじゃねぇか」
 
 そう言って踵を返し、雑踏に入っていく。
 ひとり残った私も少しぬるくなってしまったコーヒーを飲み干す。
 さて、会計 …… とテーブルの上を見て伝票がないことに気が付く。アイツ …… 。
 
 「とことん子供扱いか、金ぐらい持っとるわ!!」
 
 テーブルを叩いて、そのまま立ち去るとする。
 見上げる空は快晴。雲も少なく、青い空とのコントラストは美しいとも言える。
 
 つい先日、お見舞いです~、とか言ってのんきに私を訪ねてきたボウヤが言うには、まだ生きているらしい。
 サウザンドマスター …… 名ばかりの『千の呪文の男』ナギ・スプリングフィールド。
 
 『光に生きてみろ』
 
 その時はお前の呪いを解いてやる …… とかほざいてたクセに15年待たせっぱなしの上、死んだという情報。
 今まで以上に呪ったさ。けど、同時に思ったことがある。
 『光に生きれば …… もしくは』などという甘い期待。あれだけ強大な魔力でかけられた呪いがそんなチンケな理由で解けるとは思わなかったさ。試してみたのも1年だけ。
 それがどうだ。
 
 『お前もそうだろうが』
 
 あの男は …… ソルはそう言った。
 ジジイの話によると私の呪いのことも『魔法』のことも知らないというのに、自力で気付たと言うではないか。
 …… お前もそうだろうが …… か。はたして人外の化け物ということを言っているのか、呪いのことを言っているのか。そのどちらともか?
 
 その後ろ姿が見えなくなるまで、私はソルを睨み続けた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 チューニングがなかなかキマらない。
 
 「 …… チ」
 
 思いっきり絞って弦を千切る。
 新しい弦を取りだし、またチューニングし直す。
 今度は、ほぼ一発でキマる。
 
 「んん~、いいカンジ。キてるわぁ」
 
 先程の弦はきっと血で錆び付いていたのだろう。なら納得だ。音も悪かった。ダメね、と呟いてぞんざいな扱いを恥じる。
 
 空間を無理に開こうとすれば、開くことは開く。元の場所へ戻るための孔が開く。
 小さすぎるのだ。小指ですら入らない。きつくてきつくて、大きいものは入りそうにない。締りがいいのはよろしいけれど、それは女だけで十分なのに。
 でも、見つけた。孔をだらしなく広げて、大きなモノでも奥まで入りこませられるように出来るだけの“おおきな力”。
 
 どうやら、女の子らしい。
 
 べろりと唇を左から右へ舐めまわす。
 その力を利用すれば、私だけ帰れるし、お釣りも出てくるだろう。
 …… そのお釣りで、なにをしようかしら …… ?
 
 ここは忌々しいジャパン。
 『同じ結果』へ導くのも、なかなか面白いかもしれない。空間を繋げた後、時間を捻じ曲げ、次元を割る。
 そして …… 『正義』とは名だけの、地獄を召喚する。上手くいけば …… あの野郎も消えてくれる。
 しなければイケナイことなんて、それこそいっぱいある。
 まず …… は。
 
 「おい、新入りぃ。いつまでもギターばっかしいじってンと作戦のひとつも考えたらどうなんや?」
 
 ねばっこくその面を見上げる。
 彫りが浅くも深くもない、ジャパニーズ特有の顔つき。顎はツンと出張り、瞳は昏いほどに黒い。
 美人か …… と問われれば、私ほどじゃないと答える。当たり前だ、ジャパニーズのクソかぶった面なんかと私を比べるほうがおこがましいと言うもの。
 
 「あら、ごめんなさいね。ちょっと考え事してたついでなの。気を悪くしたんならごめんなさい」
 
 「考え事ぉ?」
 
 「そう。コノカお嬢様という女の子を捕らえるには …… どこから潰すべきかって」
 ―――(副音声)『テメェらを愉快にぶっ殺す算段だ、精々足掻けよクサレジャパニーズが』
 
 それを聞いた女は鼻で笑い、そのまま戻っていく。
 
 「ふん。ウチは明日の用意して、すぐに出る。じっとしときや」
 
 いい。今は利用されてやる。だけど、最後に気付く。『利用されていたのは自分の方』という事実に。
 
 視線を部屋の隅の椅子に向ける。
 白い、ガキ。
 ギターを立て掛け、立ち上がって近付き、接近に気付いたガキも顔を上げる。
 
 「何か用?」
 
 「いいえぇ?なんだか寂しそうにしてたから」
 
 「ふぅん。貴方がそんなことを思ったなんて、信じられないな」
 
 その言葉とは裏腹に、表情は崩さない。視線はコーヒーに戻る。
 コイツは、私と同じ。利用されてるフリをしてるだけ。
 
 「ひっどぉい。私だって女よ? カワイイ子を見たら放っておけないわ」
 
 「そう」
 
 月明かりにコーヒーの水面が青白く光る。
 ここは安いホテルの一室。窓から覗く空は綺麗な群青色。
 
 「ねぇ、知ってる?」
 
 「 …… 」
 
 返事は求めてはいない。
 ただ、独り言のように呟く。
 
 「ジャパンってね、もうすぐなくなるのよ」
 
 「 …… 戯言に付き合う気はないよ」
 
 「ふふ、ごめんなさいね」
 
 表情は崩れない。そもそも、感情らしい感情をもっているのだろうか?
 そういえば …… コイツ。
 
 「アナタ、転移が使えたわよね?」
 
 「 …… 」
 
 頷くだけ。
 なら、少し。
 
 「連れて行って欲しいところがあるんだけど」
 
 「 …… 」
 
 首だけを回し、こちらを見上げる。
 表情も感情も見られないその顔にあるのは、私の真意を探ろうとする瞳だけ。
 
 「いいよ、どこに連れて行けばいい?」
 
 「話が分かる人って素敵。そう思わない?」
 
 「さぁ。どこ?」
 
 「どこだったかしら …… 名前は、麻帆良学園?」
 
 初めて表情が崩れる。眉に皺を寄せ、口はへの字に。
 
 「 …… 何をするつもりだい? コトによっては連れて行けない」
 
 「ちょっかい出しに行こうかなって」
 
 「なんの力も持っていない君が?」
 
 「あら、これでも一応強いのよ?」
 
 「却下だ。連れて行けない」
 
 でしょうね。それくらいわからない頭してないから。
 残念、とだけ言って元いた場所へ座り直す。
 
 ふふ。何の力も持っていない、か。
 …… 舐めんじゃねェよ、転移くらいできるっつーの。聞いたのは“そう思い込ませる”ため。
 そう …… 何の力もなく、口で言う分には強いだけのヤツと再認識させるため。
 こいつらは私の世界の《法力》を感知できないらしい。余所から見れば確かに力がないヤツだろう。
 
 「くく …… くふふふふふ …… 」
 
 息を殺して笑う。
 ヤバイ、腹がよじれそう。誰も気付かない。あの女はバカみたいにただ待っているだけ。
 可笑しい、ジャパニーズがバカなのは知ってたけど、ここまでバカだとは思ってなかった。
 
 「あー…… 可笑しいィ」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「っぎゃぁぁぁ ―――― ッ!!」
 
 誰が最初に叫んだんだろうか。
 寝ていた意識を起こして、振り向くとそこは地獄絵図。
 ていうか、カエル天国?
 
 「おいおいおい、幼稚だな」
 
 全体を見まわす。
 怪しいヤツらはいないし、いや、まぁ怪しいカエルはいっぱいいるけどな。
 ネギはっと、必死だな。
 
 「これ、見付かったらヤバくね?」
 
 添乗員にでも見付かったら叩き出されるだろ、これ。
 手伝おうとして、車内販売のカートが扉の向こうに見えた。
 
 「やっべ ………… よぅお嬢さん。また、会ったね」
 
 扉に入って声をかける。
 彼女はまたムッとして返事をする。
 
 「なんでしょうか? ウチは仕事中なんですけど」
 
 訛りのある発音でそのまま横を通りすぎようとする、が、今は行かせられない。
 
 「まぁまぁ、待ちなって。じゃあ、それ、オニギリとお茶買うからさ」
 
 「 …… 280円です」
 
 財布を出して、硬貨を確認。
 わざともたついて時間を稼ぐ。ぴったりあったけど、わざと500円硬貨を渡してまた時間稼ぎ。
 扉のガラス部分から中を覗いて、様子を確認する。まだかネギ!?
 
 「お釣りです。220円」
 
 「お、おう。サンキュ」

 受け取って、オニギリとお茶も続けて受け取る。
 
 「先生ですよね? いいんですか、こんなことして」
 
 「なに、君のことになれば仕事なんて投げ出せるさ。女性には優しく、野郎はそこそこに、が信条でね」
 
 そうですか、と頭にアクセントをつけた発音。
 コレが噂に聞くカンサイベンとかいうヤツなんだなぁ、と思いながら時間稼ぎを続行。
 
 「特に君みたいな美人は、放っておくほうが失礼だろ?」
 
 「どうもありがとうございます。もういいですか? 行きますけど」
 
 ちらり、と中を確認。
 と、目の前を何かが飛んでいった。追うように目を向けると、最初に目に付いたのは、彼女の笑い顔。
 その顔も一瞬で、見間違いかと思うほど。
 次には
 
 「待てぇ ―――――― っはぶ!?」
 
 ネギが突っ込んできた。
 背中に当たってバランスを崩したので支えると、すぐ持ち直して駆けて行く。
 
 「おい、ネギ!」
 
 「すいません! みんなを見ててください!!」
 
 「 …… なんだアイツ」
 
 と、彼女がカートを押し始める。
 横を通り抜けざま
 
 「ほら、仕事が出来ましたえ? 行かんでええんですか?」
 
 口調が変わって、車両に入っていった。
 渋々と付いていくように中に入ると、カエル天国は終っていた。
 
 「おいおい、大丈夫かよ」
 
 「アクセルせんせどこ行ってたの~!」
 
 「いや、ちょっと」
 
 マキエちゃんがシズナ先生を抱えながら文句をぶーたれる。
 その役変わってくんない?とはさすがに言いづらい。
 
 添乗員の彼女は何事もなかったように次の車両に移って行く。
 
 「 ………… ふん?」
 
 「アクセルせんせ~ってばぁ!」
 
 「お、メンゴメンゴ」
 
 早速やってくれたな、なんて思いながら、修学旅行は始まる。
  



               track:9  end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

おお、あと一ヶ月か

ども、草之です!

今日の帰り道友人Yにばったり。
「おー(ブログ)見たでー。おもろいやーん」と言って貰えました。
ありがとう、と返しておいた。どうやら『背徳の炎』がよかったらしい。
「メジャーやからなぁ。ネギま!は」とは草之。


さておき、いよいよ一ヶ月を切りました。
なにかって?

『Fate/unlimited codes』

の発売日ですよ。
予約したのは八月だったかと記憶しています。
と、予約票を確認すると、誕生日に予約してるし(笑)
これ近所にないんですよね、筐体が。だからまだ一回しかやったことないんですよねー。

その一回で友人合わせた三人でやってたんですけど、選択はもちろんライダーです(笑)
友人Sはメルブラの中級者。選択は恐らくネタのバーサーカー。
結果ストレート負け。何あの攻撃力と射程距離。
と、いうことで士郎くんでリベンジ。
こういうのは主人公キャラが一番バランス良く作られてるだろう、と慣れるつもりでプレイ。
結果3対2で草之勝利!

続けて友人Sが言峰神父を選択。敗北。
慣れたし、ライダーで行こう。とライダーに戻してリベンジ。
勝利。

ここから友人Nも小次郎で参戦。
しかし、慣れてしまったギルティ中級者の草之には誰も敵わない!
「ふははははははは!!」
と、いうものの。
コンボが綺麗に入るわけじゃないし、開放は暴発するし、初心者丸だしプレイでしたが。

後日、友人Nが
「あの時な、お前の後ろにオッさんおってな、なんかイライラしてもどかしそうに見てたぞ」
と、報告。
いや、その時言え。


ということで本題に。
前振りとかそういうんじゃなくてガラリと話題変わって。
『優星』の更新は大体明日の夜だと思われます。ところによって明後日に予定が変更される場合もあるので、天気には十分ご注意下さい(?)。

では、今日はこのあたりで。
以上、草之でした!

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

今日のアニメ  #9 『コレはいいバランスブレイカー』

ども、草之です!
今日は何を語るのか、と言う前に一言。


なんという筋肉バスター!


詳細及びネタバレ、およびレビューは追記からどうぞ。

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:13

 
 22月
 年の瀬迫るこの季節も間違いなどなく、しんしんと寒くなってきている。欲張ればもう少し温かければ洗い物や洗濯が楽になるのだが …… それも全てサラマンダー次第というワケだ。
 ついさっきも手を真っ赤にしながら昼食の洗い物を終えたところだ。
 
 はぁ、と息を吐く。
 白く染まった自分の息は、すぐに虚空へ溶けるように消えていってしまう。
 相変わらず聞こえてくる街の喧騒も、この季節ではどこか遠く聞こえる。まるで見えない幕か何かがかかっているようだ。
 
 「雪でも降りそうだな …… 」
 
 降ってもいない雪を掴むように手を差しのばす。
 握っていた手の平にジンと寒さが刺さる。
 
 「 …… そうだ。今日は鍋にしようか」
 
 アリシアと灯里と、社長と俺のみんなで突ついて食べる鍋だ。
 鍋はそれだけで温かいし、なによりみんなでってとこがいい。なら、材料があるかどうかだけ見ておくとしよう。ベランダから部屋の中に戻って、一直線に冷蔵庫へ向かう。
 
 「えーと …… あぁ、豚肉がないな。鶏肉はあるんだけど、それだけじゃさびしいからな。大根、もないし葱もないか。ジャガイモはあるんだよな …… 入れてみるか?」
 
 ブツブツと呟きながら必要な材料を記憶していく。
 
 「白菜、半玉。キャベツも半玉あるし、入れるのもいいかな。ちょっと少ないかぁ? いや、社長も結構食うしな。一応白菜は買っておこう、うん。あとは ………… と、よし」
 
 確認終了。
 財布をジーンズのケツポケットに突っ込み、白のタートルネックセーターの上に煤けた色の黒のオーバーコートを着込む。
 最後に買う物を頭の中で反芻してから階段を降りる。
 
 受付のカウンターには、珍しく髪を纏めないで下ろしているアルトリアが少し暇そうにカウンターに片肘をついて店番をしていた。髪を纏めてないのは耳が冷たいからだろうか。
 アルトリアの横には湯気を立てているマグカップ。足元にはやかんを乗せた、この世界にしてはレトロなストーブが置いてあった。
 ストーブの上のやかんはしゅうしゅうと蒸気を吐き出しながら、ここを乾燥させまいとクツクツ底を鳴らしている。
 そのストーブもなんとか足元だけ温かさを保っているようだ。
 
 「買い出しに行ってくるから、留守番頼んだ」
 
 「夕食の買い出しですか?」
 
 「そ。今日は鍋にしようと思ってな。野菜と肉と、あとなにかあったら買って来る予定」
 
 「いいですね」
 
 と、頷いて手を振る。いってらっしゃい、ということなのだろう。行ってきますと言ってドアの方から出て街へ向かう。
 
 「うぅっ、さっびぃ …… 」
 
 ドアから出てすぐ、冷たい風が襲ってきた。
 今日は一段と冷えてるなー …… などと他人事のように考えて、いつもより二割増くらいの速度で歩く。
 いつもの小道[カッレ] を通っていつもの広場[カンポ] へ出ると、俺の姿を見つけた顔見知りの子供たちが3人ほど集まってきて周りをくるくる回りながら走る。
 
 「元気だな」
 
 「うん!」
 
 俺は寒くてなと、ひとりひとりの頭を軽く撫でてから、また違うカッレに入っていく。
 相変わらずの喧騒、といってもさっきのようなカンポや街道が主で、カッレとなれば人の気配はないに等しい。
 カッレから出て、街道へ。慣れた足取りで行き付けの店へ入った。
 
 「お。いらっしゃい、エミヤン」
 
 「いい加減その呼び方はやめてくれないか」
 
 「いーじゃん、エミヤン。呼びやすいよ、エミヤン」
 
 くくっと笑うのは、この店の看板娘、というにはお転婆すぎる女性、アイナだ。
 アリシアにここの場所を教えてもらったのがここに来てすぐだから、かれこれ14ヶ月ここで野菜を買っている。
 その過程のどこで懐かれたのか、『エミヤン』なんてどこか懐かしい呼び方をされるようになった。
 
 「今日はねぇ、コレよコレ! 白菜がいいの入ったんだー」
 
 「ちょうどいいな、それ貰うよ。あと、大根と葱と」
 
 はいはい! と元気良く動き、紙袋に次々と放り込んでいく。ちなみに決して乱暴に入れているわけじゃなく、勢いでそう見えるだけだ。
 
 「はい、お待ちどう」
 
 「ありがとう、じゃあコレお代な」
 
 「まいどっ」
 
 金を渡して、こちらは紙袋を受け取る。ふと、彼女を見ると思いのほか近い距離にいた。
 びよん、と毛先が外へ外へとハネた、クセのあるくすんだ感じの金髪。前髪は目にかからないように上げて止めてあり、デコが丸見えだ。アーモンドのような目と、瞳は金緑色、キャッツアイの色をしている。くりぬけば本当にキャッツアイかもしれないほど、宝石のようにキラキラ輝いている。
 性格はそのうち本当に猫耳尻尾が生えてきてもおかしくないほどに猫らしい。こうして今日は店番をしているが、ほとんどはカンポで日向ぼっこという名のサボりをかましている。今日は寒いから店にいるのかもしれない。
 
 「そーいやさー。エミヤンてば、アリシアさんはこの頃どうなん?」
 
 「相変わらずさ。仕事って言えばそれだけなんだろうけど、やっぱり無理してるみたいなんだ」
 
 「ふーん?」
 
 難しいねぇ、などと軽く言ってくれる。
 今は俺以外の客がいないのでこういう話をふってくるのだろう。どうやら女将さんもいないらしい。
 
 「ま、確かに …… 最近見かける分にはあんまり元気なさそうだったねぇ。初見さんとかだとわかんないかもだけど、お得意さまはわかっちゃうんじゃん?」
 
 私とか、と笑う。
 そう言えばアリシアとは俺以上に付き合ってきてるんだもんな。会社から近所だし。
 
 「なんで、あんなに無理してまで頑張るんだろうな」
 
 「 ………… やっだ、エミヤンそれ笑えない冗談だって」
 
 「いや、冗談じゃなくて」
 
 本当に、と言いたかったのだが、アイナの顔がそれを止めさせた。
 ケラケラと笑うでもなく、一気に表情が変わり呆れ顔へ。おまけにとため息もひとつ。
 あのね、とアイナは口火をきる。
 
 「エミヤン、昔っから鈍いとか言われてたでしょ?」
 
 「しょっちゅうな。最近になって自覚し始められた気がする」
 
 「ダメちゃんじゃん。だからその歳になってもまだ独り身なんだね」
 
 「お前に言われたくない」
 
 何おう、と食って掛かってくる。
 そういう会話がはじまり始めた頃、お客がひとり入ってくる。見知ったおばあさんだ。
 アイナは会話を切って、おばあさんの方に行って対応し始めた。と、おばあさんは一瞬俺を見てから、アイナになにか耳打ちする。それに対してアイナは嫌そうな顔をこちらに向け、「ないない」などワケの解らないことを言って笑う。
 
 「 …… じゃ、またな」
 
 「あー、はいよ。今後ともよろしく~」
 
 最後にはきゃっきゃっという笑い声を背に受けていた。
 喧嘩したわけじゃないとは思うが、なにか納得できないところが残る。
 アイナは、アリシアがどうして頑張るかに気付いているのだろうか。
 ………… 待てよ。そう言えば …………
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「はぁ~」
 
 らしくもないため息を吐く。この頃ずっとそうだ。
 どこを探しても、それらしい影が見当たらない。本当は藍華が私をハメるためについた嘘なんじゃないか、などと邪推するのも仕方がないと言うものだ。
 
 「どこにいるっていうんだよ、衛宮士郎ってヤツは …… 」
 
 「え?」
 
 …… なんだ、その「え?」って。
 まるで本人みたいな反応なんだけど。
 
 「あの、俺に何か用?」
 
 「 ………… 」
 
 見上げる。
 煤けた感じの白髪に、浅黒い肌。黒いコートに、白いセーターがよく映える。
 ソイツは、全身モノクロ野郎だった。
 
 「あれ、君が呼んだんじゃなかった?」
 
 「 ………… 」
 
 「おかしいな、確か誰かに呼ばれたような気がしたんだけど」
 
 困ったな、なんて言ってポリポリと頭をかいている。
 藍華が言ってた人物像とそっくりそのままだ。
 
 「ごめん、人違いみたいだ」
 
 「すわっ!!」
 
 「どぅわっ!?」
 
 思いっきりコートの裾を掴んで引っ張っていた。
 本人じゃん!!
 
 「やっと、やっと見つけた!!」
 
 「あ、あの?」
 
 やばい、いきなりすぎて私自身も今の状況について行けてない。
 とてもマズイ気がしないでもない。
 
 「藍華から話は聞いている …… とにかくお世話になってるらしいな?」
 
 「えっと、はい?」
 
 藍華の名前を出した時は驚きの表情が顔に出たが、すぐにすっとぼけた顔になる。
 どうせ藍華からはなにも聞いてないんだろう。そういうヤツだ、藍華は。
 
 「くるみパンが上手いらしいな?」
 
 「その、言葉おかしくなってないか?」
 
 「とにかく、落ち着けぇ ―――― っ!!」
 
 「それはこっちのセリフだっ!」
 
 
 と、とんでもない邂逅から数分。
 私は一応落ち着いたことになっていた。
 
 「えーっと、つまり君が藍華の先輩の晃なんだな?」
 
 「そういうことで間違いない」
 
 「それが俺に何の用なんだ?」
 
 そう聞かれても実際のところは困っているわけで。藍華に聞いちゃいたけど、いまさらくるみパン云々いうのはカッコ悪いと言うか、恥ずかしいと言うか。
 うむ、と唸って考える。
 
 「いやな、ちょっと前から藍華がえらい美味いくるみパンを持ってくるんで、それはなんだーって聞いたんだ。そしたら、ARIAカンパニーの衛宮士郎っていうヤツが作ったっていうから」
 
 「俺を探していた、と?」
 
 「そうなる」
 
 困った風に頭をかいて、あさっての方向に視線を向ける。きっとどうしようかと悩んでいるに違いない。
 かくいう私もどう対応していいやら、途方に暮れたい気分だ。
 いや、捕まえた私が言うのも変な話だが。
 
 「まぁ、とにかく。これからよろしくってことだな」
 
 「それでいいのか …… 」
 
 呆れた顔でため息をつく。
 
 「それじゃ、えーと …… なんて呼んだらいい?」
 
 「なんでもいいよ。衛宮でも、士郎でも」
 
 「じゃあ衛宮だな。よしわかった。これからそう呼ぶことにするっ」
 
 「じゃあ、俺も晃でいいな?」
 
 おう、と答えたかったのに喉にその言葉が詰まった。
 驚いた …… こいつ、こんな顔で笑うのか。ギャップが凄いぞ。
 
 「お、おぉ」
 
 「いつもこの辺りでいるのか?」
 
 「いや、今日は …… ってあぁっ!?」
 
 只今、時間は3時。次のお客様の予約は3時15分からだ。
 ここからだと急がないと間に合わない。ぎりぎりのスピードで漕いで待ち合わせの場所につく。
 もっと余裕もっていきたかったんだけど、仕方ない。
 
 「あー、ごめんな。時間取らせちゃったか?」
 
 「気にしなくていいよ、別に。間に合うし、衛宮を見つけられたし。十分だ」
 
 「なら、いいんだけどな」
 
 トッププリマは急がしいんだろ? と茶化すように問い掛けてくる。
 それに笑顔で答え、顔をずいっと近づける。向こうの方が背が高い分、こっちの顔が影になる。
 
 「ちょっとでも悪かったなぁって思うんだったらさ、今度とびっきりのくるみパンでもご馳走してくれれば、私はそれでいい」
 
 きっと私の顔は今すごく嫌らしいと思う。
 でも、それくらいこいつのパンは美味い。それは私がよく知ってる。
 
 「そんなことでいいなら …… いつでも」
 
 「よーし、約束な。絶対だからな!」
 
 はいはい、と子供をあやすようにたしなめられる。
 こうしてタメ口きいてるけど、年上なんだよな衛宮って。
 …… うわ、いきなり老けて見えてきた。
 
 「行かないと遅れるんじゃないのか?」
 
 「おっと。じゃあな、頼んだからな?」
 
 苦笑して、手を振られる。
 ゴンドラに飛び乗ってから、もう一度衛宮を見る。
 衛宮は片手を挙げ、じゃあな、と一言だけ言って踵を返して行ってしまった。
 
 「なんか、よくわかんないヤツだな」
 
 第一印象は、そんなもんだった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「なんか、藍華にテンションを付け足したみたいなヤツだったな」
 
 藍華から聞いてはいたが、第一印象はそんな感じだ。
 しかし、テンション? と言ってから首を捻る。
 いや、アレはテンションって言うよりも自信、なのだろうか。
 全く違うじゃないか …… なにを根拠にテンションなんて言ったんだ、俺は。
 
 多分、多分だけど …… 自身の“カタチ”が決まってるからなんだろう。
 絶対的な自負と自信。それを裏付ける努力と技術。
 その裏を気取られないように、高いテンションで才能とさせる。
 まだ人として拙い雰囲気があるにしても、その気高い佇まい。
 俺に似ているようで …… 全然遠い。
 
 「幸せ …… 護る …… 正義の、味方か」
 
 自分はどうなんだ、と呟いてみる。
 この世界に来て、カタチを変えた俺の理想。本当にカタチを変えたのか、それとも歪になっただけなのか。
 俺は …… この世界に来て、よかったんだろうか。
 なにか、欠落してしまった気がする。最近になってそんなことを考え始めた。

 以前の俺はとにかく必死だった。『正義の味方』になりたくて、近付きたくて、がむしゃらに足掻いて、人を救っていく。
 零れ落ちていく命に心を殺がれた。その分、俺は零れた命に誓った。
 
 『正義の味方になって、アンタたちの分まで人を救う』
 
 零れる命があるのなら、零れないようにすればいい。
 そういう答えに至った時があった。しかし、零れる命とは、すなわち、『不条理な原因で起こる死』のことを言う。
 その原因を取り払おうとするならば、そこにはまた人の存在がある。無いとしても、原因は天災。そうなると世界を事前に変えるとか、予知するとか、俺には到底できないことだ。
 そこにまた、零れ落ちる命が生まれる。
 まるで死の螺旋。
 
 「やめよう。過去を見たって、答えが転がってるなんて都合のいいこと …… 」
 
 知らず、止まっていた足を再び動かす。
 一歩一歩を踏みしめ、前に進む。
 答えがあるなら、そう。
 道の先にこそ、あるんじゃないだろうか。
 
 「行こう、今夜は鍋だ」
 
 曇りの空にも映える、茜色。
 まるで、空が燃えているようだった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「アリシア?」
 
 アリシアが帰ってきた。えらく慌てていて、彼女らしくないと思いどうしたのかと聞くと、彼女は振り返りもせず
 
 「今日は、もうお仕事も終ったんで …… 帰りますね」
 
 そうとだけ言って、自分の家に帰っていった。
 いつも4人と一匹で食卓を囲むというのに、彼女は帰っていったのだ。
 
 見間違いならいい …… 彼女は、泣いていなかったか。
 顔が赤いのは、冬の寒さのせいならいい。
 目に溜まった雫が、冬の寒さのせいならいい。
 なぜ、泣いていた?
 
 「アリシア …… どうしたというのですか」
 
 話してくれないと解らない。
 人の気持ちは、そう簡単にヒトには伝わらない。
 私は、それを知っている。
 
 ―――― 違う、そんな話じゃない。
 なぜ、重ねた …… 。悔しい、そんな自分が。
 
 「アリシアは言いましたね、私が、アナタの友人だと」
 
 まだシロウもアカリも社長も帰ってきていない。
 なに、このほうが都合がいいのかもしれない。
 
 カウンターの下にあるメモ帳を置手紙代わりにさらさらと書いていく。
 
 『今日は夕食は訳あってアリシアと食べます。シロウとアカリと社長は気にせず頂いて下さい』
 
 シャッターを閉め、戸締りを確認。
 上着である青いジャケットを羽織り、アリシアを追う。
 アリシアの家はそう遠くない。近所にある。
 アパートメントに一室、いつもは寝に帰るだけの部屋だ。
 
 いざとなれば、話さなくてはいけないかもしれない。
 シロウの過去と、私の正体を。
 
 「望むところ …… 」
 
 呟いて、走り出す。
 
 「 …… っ」
 
 本当に、間に合うだろうか。
 私は、アリシアとシロウ …… 両方を、救えるだろうか。
 もし、天秤にかけなければいけなかったら …… 私はどちらに傾けるのだろうか。
 
 そもそも、傾けられるのだろうか。
 王としてではなく、少女として、私は天秤を傾けられるのだろうか。
 
 「ならば、戻りましょう。今一度、王として」
 
 決意を固め、アリシアの元へ向かった。
 

 
             

                Navi:13   end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

やべぇ! 乗り遅れるところだったぜ!!

ども、草之です!

何に遅れるって?
もちろん誕生祭ですよ!
誰のって?
ご存知、ないのですか!?


星井美希ちゃん、誕生日おめでとう!


てことで、ニコニコで見つけた誕生祭動画を貼ってみたり。

 アイドルマスター サクラ大戦「劇場版・奇跡の鐘」feat.星井美希 

アイマスもサクラも大ファンなんでかなり嬉し美味しい動画です。
アイマスは結構前の日記にも書いたんで今回は書きませんが、サクラはね。

ハマッた、ていうか出会ったのがサクラ5のCMが最初。
あれは確か……3年前、ですか?

―――その時、草之に電撃疾る。

みたいな感じ。

も、燃える!! これは、ヤヴァイ!!

と、直感。ゲーム屋直行、予約終了。購入、時間を惜しまず、親の目を気にせず(ウチはテレビが2台、両方とも各階に設置、そのどちらもが個人の部屋ではない)、プレイに明け暮れる。クリア後、他シリーズを求めさ迷う。発見、購入、クリアを繰り返す。

しかし、4だけは無理だった。ドリキャス持ってない。
ですので、草之はPS2移植版サクラ大戦とサクラ3、5。
PSP移植版1、2だけしかやってません。幻(?)の大神華撃団を知らない……っ!!


……と。
美希の誕生日祝うための日記なのにサクラ語りになってしまった。

とにかく、こんなPVを作ってくれたPとサクラに感謝しながら……
美希、誕生日、おめでとう!!

以上、草之でした!

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アイドルマスター XENOGLOSSIA THE @FTER 嘘予告

 
 あれから、ちょうど1年。
 東京は驚くほどのスピードで復興して、今ではすっかり元通り。
 そして、その1年前の今夜。
 
 宇宙に、大きな大きな …… 花が咲きました。
 
 誰が名付けたかは、知りません。
 
 “コスモス・スノー”
 
 そんな名前で呼ばれるようになったんだ。
 宇宙の雪。
 花のようだったから、その宇宙にあやかって花の名であるコスモスが付けられたとも言われている。
 その余波で、コンペイトウもほとんど全部が無くなって。
 
 1年。
 君が旅立ってから、もう1年だよ?
 早いねぇ ………… うん、本当に早い。
 
 
 *  *  *  *  *


 「やよいと ――― 」
 
 「春香の ――― 」
 
 『弥生式らじおー!!』
 
 そうして、彼女はアイドルを辞めていない。むしろ、以前よりも人気が出てきて、毎日がジェットコースターのように流れていく。
 だから、早いと言ったのだ。
 
 「いやぁ、年明けですねぇ春香やぃ。どれどれこのやよい婆がお年玉をあげようではないか」
 
 「えぇ? 突然老けこんじゃって、なに?」
 
 「聞いてくれる!?」
 
 「時間はあるけどね」
 
 春香は手元のストップウォッチを眺めながら頷く。
 こうして、彼女らの1日のスケジュールは消化される。
 
 お互いが仕事に疲れ、寮に帰ってくる頃には少々アイドルとは言えない格好になっている。
 口々に「ただいまー」だの、「つかれたー」だの、「ねるー」だの。ベッドに倒れこむ。
 と、ふとやよいが思い出したように春香を向き直す。
 
 「そういやぁ、1年だね」
 
 「え? …… あぁ、うん。そうだね」
 
 「なに? 忘れてたの? アンタの彼氏のことなのに」
 
 「彼氏って …… うん、忘れてないよ」
 
 ベッドに顔を埋もれさせたまま、春香はじっとやよいの話を聞いている。
 ポケットに手を入れ、そこから出すものは『鍵』。
 春香と、“彼”とを繋いだ、絆の証。
 
 「インベル …… 」
 
 その時、彼女の携帯に着信が入る。
 知らない番号だが、春香はそれに答える。
 
 「もしもし?」
 
 『春香くん、そこにいるんだね?』
 
 「え。あっと …… 課長?」
 
 『そうです。そこに、いるんですね?』
 
 「はい、やよいちゃんと一緒に」
 
 『すみませんが、やよいさんに一言だけしゃべってもらえますか』
 
 春香はその言葉に疑問を感じつつも、以前の上司の頼みだし、そんなに難しいことじゃないし、とやよいに携帯を差し出す。
 やよいは携帯を受け取り、二言三言しゃべっただけでやよいは春香に携帯を返す。なにかしら、と春香と同じ疑問を浮かべながら。
 
 『落ち着いて聞いてください。“シード”にインベルの反応が出ました』
 
 「え?」
 
 “シード”。
 “コスモス・スノー”の名残。今でもなお輝く昼の星。
 そこは以前、アウリンがあった場所。インベルが旅立った場所。
 
 『そして、アナタが乗っているとも。分かりますか、春香さん』
 
 「 …… え?」
 
 『インベルに乗って、操縦しているのが春香さん。アナタだと言うことです!』
 
 「えええええぇっ!?」
 
 そこから、人類強いては ――――――

 地球第2の破滅の道が始まった。
 

 *  *  *  *  * 
 
 
 『 …… に告げる …… から、地球を …… 』
 
 繋がる通信。その声は間違い無く春香のもの。
 しかし。
 
 「私 …… ここにいるのに?」
 
 
 
 『インベルがいなくなる世界なんて …… 考えられないの』
 
 より明確になってくる通信。
 その声は、春香。そして、人工衛生がインベルを捉える。
 
 「う、そ」
 
 
 
 『だから、私は壊す。この世界も、私の世界も。私も、インベルも。全部壊して、インベルとずっと一緒に』
 
 “シード”が開く。輝く光は、大輪となり、宇宙に孔を空けた。
 そこから覗く、青い星 …… もうひとつの地球。
 
 「そんなのダメ! インベルは、私がいたこの世界を守ってくれたんだもん! だから、今度はインベルがいたこの世界を、私が守りたい、守らなくちゃいけないの!!」
 
 
 
 『iDOLもなくて、アナタに何が出来るって言うの!!』
 
 正論。
 もうひとつのインベルは、もうひとりの春香を是とし、邪魔モノを消していく。
 通常兵器では、iDOLは破壊できない。
 iDOLでないと、彼女たちは止められない。
 
 「くやしいよ、なんにも出来ないなんて。インベル、私、やっぱり守れないのかな」
 
 
 
 『 ………… う、そ、でしょ?』
 
 それはどういうことなのか。
 
 「イン、ベル?」
 
 独特の慣性制御の音を響かせ、彼女の前に再び白き巨人は降り立つ。
 あの時と、まったく変わらない姿で。
 
 「もう一回、力を貸してくれるの?」
 
 アイカメラを赤く、力強く光らせ、インベルは返事とする。
 彼も嫌なのだ。
 彼女といた世界が壊されるなんて言うのは。
 彼女がいた、彼女がいる、彼女が生きていき、彼女が死んでいくこの世界を
 
 「行こう、インベル。止めなくちゃ!!」
 
 妖精は、再び宇宙―そら―に舞う。
 もうひとつの世界と、もうひとつのインベルともうひとりの私。
 
 
 
 世界の破滅は …… もうすぐそこに迫っている。
 
 
 
 「絶対、絶対に諦めないから!!」
 
 
 
 
 
 
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背徳の炎  track:10

 
 「おおおぉぉ …… 」
 
 キョウト、ここがキョウト。
 めぐみと一緒の頃に一回だけジャパンにゃ来てたけど、ここには来なかったからなぁ …… 。
 なんつーの、絶景ってーの? 和むなぁ、キョウト。
 
 「アクセルせんせー、こっちこっち! コレ持てるー?」
 
 「ん、おう、まかせなって!」
 
 サクラコちゃんに呼ばれて、そっちに行ってみると一本の鉄の槍らしきものが置いてあった。
 マドカちゃんがその横で息を切らし、槍に向かい合って腕まくりをしているのは …… 確か、えーとクーちゃんか。
 
 「これかぁ? ちょっと無理じゃねぇ?」
 
 「そんなことないアル! 中国四千年の力、舐めたらいかんアル!」
 
 ぺちっとカワイイ音を鳴らして槍を掴むクーちゃん。
 いや、中国が凄いのは知ってるけど、今現在の君とは全く関係ないと思うんだけど?
 
 「ふんぬぅぅぅぅっ!!!」
 
 「いや無理無理無理!!」
 
 褐色肌にも分かるような朱が差す。血管が今にも切れてしまいそうだ。
 慌てて止める。
 
 「ありゃりゃ、くーふぇでも無理かぁー」
 
 「なんか負けた気がするアル」
 
 「こういうのって下になんか接着してたり、固定してたりするんだよ、お約束」
 
 「えー!? そうなのぉ!?」
 
 「まぁ、俺の想像だけど …… 」
 
 なぁんだ、と嘆息ついて舞台組みに合流しに行く。
 
 「…………」
 
 片手だけ槍に添える。
 じっとそのまま。しばらくそうしてただろうか。
 
 「持たないんですか?」
 
 「うぉっわ!?」
 
 いつの間にか、後ろにひっそりとセツナちゃんが立っていた。
 気配がなく、足音も無かったもんだから驚いたのなんのって …… 俺のいた世界は皆自己顕示欲が強かったからなぁ。
 
 「あー無理でしょ、コレ」
 
 「まぁ、私も持てませんけどね」
 
 「遠回しに俺より力強いって言ってない?」
 
 にやり、と笑って立ち去っていった。
 くそぅ、何だってんだよ。まだツンケンしてんのかよ。お仕事仲間っていったのによ。
 
 いじけながらも、セツナちゃんについてキヨミズデラから降りていく。
 なにかまた一悶着あったらしく、がやがややかましく文句をたれている団体が移動している。
 その後ろにセツナちゃん。その前、つまり団体さんの中にネギ。肩に乗ってるアレってフェレットか?
 
 「ふ~ん、恋占いの石ね?」
 
 「アクセル先生も、そういうのに興味があるのかい?」
 
 「 …… 君ら、ほんといきなり出てくるね」
 
 「職業病、みたいなものさ」
 
 気にしたら負けだよ、などと言ってのけるのはマナちゃんだ。
 すこし懐かしげな表情をしていたので、聞いてみることにする。
 
 「初恋は、どこかに置いてきた?」
 
 「 …… 顔に出てたか。いや、私もまだまだだよ」
 
 質問には答えず、態度で答える。
 ――― YES、と。
 大人びてたって、まだまだお子様ってことだわな。ちょっとだけ安心したりして。
 
 「さってと、お仕事お仕事~っと」
 
 懐かしさから、遠い目に変わってきたマナちゃんに対して誤魔化すようにおどけて見せる。
 彼女は表情を崩し、苦笑してまた歩き出す。
 そうそう、子供ってのはいちいち細かいこと気にしなくていいんだよ。
 気にするのは、自分のケツ拭けるようになってからってね。マナちゃんはもうちゃんとしてそうだけど。
 
 「 …… んん?」
 
 前を向きなおした瞬間、ほのかにアルコールの香りがした。
 甘酒ってやつがあるらしいが、匂いがするほど度数高いのか? アレって。
 
 「 ………… 全然、よろしくねぇな」
 
 「ああぁあぁぁアクセル先生っこれはそのあれでですね!?」
 
 どれだっつーの。
 どうやら、オトワノタキの水を飲んだら、どうしてか水が酒に変わってて? 
 なんだその美味しそうな滝は。俺にも飲ませろ。
 …… じゃなくて。
 
 「Mr.新田に見付かる前にホテルでもどこでもいいからもって行こうぜ」
 
 「ですね!」
 
 ………… 振り向くとセツナちゃんがこっちを見ている。気付いてるんだろうなぁ。
 視線が合い、ジェスチャーでダメだこりゃ、と伝える。
 そして、例によって華麗にスルーを決められる。本当に嫌われてんなぁ。
 
 ま、しかし。
 妨害がこんなことで終ってくれりゃ、こっちとしては何も言うことなんてないんだけどね。
 …… ま、無理だろうなー。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 コトリ、とティーカップが置かれる。
 立ち上がる湯気はほのかに香りを孕ませ、それは部屋を染めていく。
 窓の外は朱が藍に移り変わり始めている。
 
 「いい香りじゃ …… 」
 
 「ありがとうございます」
 
 茶々丸が恭しくジジイに頭を下げる。律儀なヤツだよ、私の従者にしては。
 だが、その横でひとり不満そうな顔をしているヤツがいる。いや、ただアレがデフォルトの表情なのかもしれないが、この際そんなことはどうでもいい。
 
 「で、話とはなんだ? まさか茶会がしたかったとか孤独死でもしそうなジジイと同じは言わんだろうな?」
 
 「…… うむ。ソル君のことでいろいろ聞いておきたかったのでのう。情報がないよりはあったほうが、いざ、何かをするとなると有利に働く」
 
 「あン?」
 
 ソルは表情をより一層歪め、ジジイを睨む。
 それでもたじろぐ様子もなく、ジジイは続ける。
 
 「アクセル君からそれなりに聞いてはいるんじゃが …… いかんせん、はっきりせん」
 
 「 ………… 何が聞きたいって?」
 
 「ほ。えらく素直じゃな」
 
 「いらんこと言ってる暇があるなら、さっさと用件を言え」
 
 このふたり、実は以外と仲がいいんじゃないのか?
 仲、というより相性か?
 紅茶を啜る。さわやかな甘さが口に広がり、含んだ紅茶の香りが口内から鼻腔をくすぐる。
 美味い。
 
 「では、さっそく。君の能力についてじゃ。《法力》 …… 《法術》じゃったかのぅ?」
 
 「 ………… 《法力》には火、雷、風、水、気、の五つの属性が存在する」
 
 「 …… 気?」
 
 「こっちにもあるらしいが、それとは絶対的に違う。不確定要素が多すぎる出力の全く安定しない属性だ。知ってるヤツでも、使えていたのは3人のみ」
 
 ふぅん。えらく饒舌だな。
 それに、戦闘者にしてはぺらぺらと、小難しいことまで考えてるじゃないか?
 こいつ、もしかして戦う前に何かしていたか。
 
 「して、《法術》とは?」
 
 「それら五種類の《法力》を組み合わせた技術を総称してそういう。計666種類が開発されている」
 
 少ないな …… 。それに“開発”とはな。
 単純故にあれほどまでの高火力を叩き出せるのか …… もしくは、困難故に少ないのか。
 おそらく後者だろう。
 存分に使いこなせる輩もそう多くはなかったのだろう。
 『魔法』と似たようなものだ。
 
 「ふむ。そして、わしらにはその《法力》が感じ取れない、と」
 
 「こっちはそうでもないがな」
 
 ふぅ、とため息をつく。
 やはり久しぶりにでも多くしゃべったのだろう。
 慣れないことはすべきではないな。
 ソルは足を組み直し、ティーカップに手を掛ける。くい、と一口で飲み干し、そのまま黙りこくる。
 
 「 …… お口には合いませんでしたか?」
 
 「いい、茶々丸。いちいちコイツにリアクションを求めるな。で、ジジイ。話はそれで終りか?」
 
 「いや、今度は赤い女楽師、イノについて教えてもらいたいのじゃ」
 
 ハ、と鼻で笑い、ソルの瞳がギラリと妖しく光る。
 
 「会えば分かる」
 
 「それじゃあ、わからんのぅ …… 教えてくれんかのぅ?」
 
 「 …… 話は終りだ。今度はコーヒーでも用意しとけ」
 
 ゴツゴツと靴底を鳴らしながらドアへ向かい歩き始める。
 ドアノブに手を掛け、最後に振り向かずこう言った。
 
 「 ………… もし、狙われているなら、墓の用意でもしとくんだな。イノはそろそろ動く」
 
 意味がわからん。
 イノ …… 誰だ?

 
 *  *  *  *  *
 
 
 いやぁ、福眼ってのぁこういうのを言うんだろうねぇ。
 
 「へぇ、俺より年上だったんですか! そうは見えないなぁ」
 
 「あらやだ、そんなにおだてても何も出ませんよ?」
 
 「いやいや。ホントに」
 
 ぷるんぷるんって、たまんねー。
 シズナ先生ってばホント美人だよなぁ。話してて飽きないし、見てて飽きないし。
 もういい人とかいるんだろうなぁ。
 
 「いいえ、いませんよ? お恥ずかしいですけど、仕事一本できましたから」
 
 と言いつつも、そこはかとなくそれらしい匂いがする。
 気になる人はいるんだ …… そいつは応援してあげたいね。
 
 「ま、シズナ先生くらいいい人だったら、その人もイチコロですねぇ?」
 
 「ふふ、ありがとうございます。美人、じゃなくていい人ですか?」
 
 「そりゃそうでしょ。美人ってのは外見の話じゃないですか。確かに人ってのは外見から見られるからそれも大切ですけど、やっぱり中でしょ」
 
 どん、と強く胸を叩く。
 
 「ほら、白人黒人黄色人種って、肌の色でも差別されるでしょ? あれってよくわっかんないんだよね、俺」
 
 「いいことです。みんながみんなアクセル先生みたいに考えられればいいんですけど」
 
 「俺ってばそんなに立派なヤツじゃないですよ?」
 
 「そうかしら。私はそうは思わないわ。アクセル先生も十分いい人ですよ」
 
 「 …… そう、っかねぇ?」
 
 彼女ほったらかしてこんなとこにいる男がいい人ね。
 どうだか。申し訳ない気持ちで一杯だっつうの。
 
 「ほら、お風呂の時間なくなっちゃいますよ。しっかり温もって、明日に備えて!」
 
 行った行った、と背中を後押しされる。
 応援したい、とか言っときながら応援されてんじゃん。情けねー。
 
 ぽそぽそと廊下を歩いていく。
 と、
 
 「うおっ!?」
 
 「またアナタですかっ! いい加減に邪魔しないで欲しいんですけど?」
 
 邪魔って、アンタ。
 ぶつかってきたのはそっちでしょうが。まず何か言うことあるっしょ?
 
 「 ………… すみません」
 
 「わかればよろしい。で、なにがあったの?」
 
 「妨害です。今度はお嬢様にまで手を出してきました。ですから、少し警戒しておこうと思って結界のひとつでも張っておこうと」
 
 ビラッと紙の束を見せられる。
 紙には文字やら模様やらが書き込まれていて、それがなにか特別なものであることはさすがの俺でもわかった。
 
 「これを貼るだけ?」
 
 「そうです」
 
 「お手軽だコトで」
 
 「この札自体が高価なんです。安いものでもバカに出来ない値段なんですよ?」
 
 売ってんのかよ、ソレ。
 とはさすがに言わない。野暮ったいじゃん。
 風呂は楽しみだったけど、ま、後でいいか。と考えることを放棄。セツナちゃんの後をついて行く。
 セツナちゃんは気付いているだろうが話そうとは思ってないらしい。だから仕事仲間だってば。
 
 「む」
 
 玄関口。自動ドアの上を見て、セツナちゃんは小さく唸る。
 その場所と紙を交互に見て、最後に俺を見る。それからまた上のほうを見る。
 
 「これ、貼ってもらえますか」
 
 「ははぁん? 届かないんだ」
 
 「う、うるさい!!」
 
 べしっと乱暴に紙束を渡される。これ高いんじゃなかったっけか。
 どこ? そこ、そっち。と言い合っているうちに、後ろから声がかかった。
 
 「アクセル先生、刹那さん …… 何やってるんですか?」
 
 ネギとえーと、アスナちゃんだ。
 コノカちゃんがいないところを見ると、どうやらそっち系の話らしい。
 
 「いや、セツナちゃんに届かないから貼ってくださいって頼まれてよ。ほら、終ったぜ。じゃ、俺は風呂入ってくるから」
 
 わざとらしくそこから離れる。
 一応ネギにゃ俺が『魔法』知ってるってコト話してなかったからな。今言われても混乱するだけだろうし、話さなくてもいいだろう。
 セツナちゃんはそのことを悟ったのか、フォローに入る。
 それを見届けてから、めでたく風呂に入るってこった。
 
 「今日はもうなんにも起こってくれるなよ~」
 
 淡い期待と嫌な予感。
 こういう時ほど、嫌な予感は期待を裏切ってくれない。
 
 「なるようにしかなりませんってかー。臨機応変にってな」
 
 ハンドタオルだけを持って風呂に入る。
 おお、と感嘆のため息。すげぇ、これが温泉か。露天風呂か!
 誰もいない、ってことは貸し切りかぁ。いいねぇ、こうでなくっちゃ。
 
 「う、ほぉぉぉおお …… っ」
 
 指先からじ~んと熱が伝わってくる。
 湯に入るなんてしたことないんだよね。いっつもシャワーだったし。
 
 「おはぁぁあああ …… っ」
 
 春先とはいえ、まだ気温は低め。
 体がじんじんと痛痒くなりながら温まっていくことがわかる。
 
 「温泉サイコーじゃん」
 
 ほこほこするぜ。ちっくしょー、めぐみと来たかったなぁ。
 
 「 …………………… ほら来た」
 
 今のは、なんだったんだろうか。
 見間違いでなければ猿だ。とんでもなくデカイ猿だ。
 さらに見間違いでなければ、コノカちゃんを抱いてなかったか?
 つまり、敵が動いたってことだ。
 
 「待ってろよ …… っ!!」
 
 温泉から上がって、急いで服を着込む。
 玄関まで走ってセツナちゃんとアスナちゃんに合流する。
 
 「え! アクセル先生!? なんでいるのよっ!?」
 
 「細かいことは後だ。今はコノカちゃんを追うぜ」
 
 ちらりとセツナちゃんの方へ視線を向ける。
 いつもならこっちの視線に気付いて、嫌味のひとつでも言うってのに、言わない。
 それくらい焦ってるってことか …… ?
 
 「急ぎます …… 離れずついて来てください!!」
 
 石畳を一蹴りし、セツナちゃんの走る速度が上がる。
 すでに人の出せるスピードの限界近くない?
 
 「あ、待ってよ桜咲さーん!!」
 
 アスナちゃんも負けじとスピードを上げる。
 ちょっと、君らおかしいから!!
 
 「負けるかぁぁっ!!」
 
 すでに俺の中で目的が変わる。
 今は必死であのふたりについて行くことだけ考えろ!!
 放って置かれるぞ、冗談抜きで。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ジジイ、何してる?」
 
 ジジイが珍しく魔力を出しているので、気になって見に来てみれば …… なんだコレは。
 世界樹の幹の前、結界のものらしき魔法陣が展開している。
 
 「結界に少しばかり細工をのぅ。あの後ソル君にもう一度だけイノのことを聞いたのじゃよ」
 
 「結界をいじるだけでソレが解決するのか?」
 
 「いや、聞いたのはイノの移動方法に転移が在るか否かじゃ。結果、あるようでの」
 
 魔法陣が少しづつカタチを変えていく。
 結界と私のラインが薄れていくのが分かる。ただ、ありがたいことに呪いはそのまま。
 性悪ジジイが。
 
 「それで、どういう風に作り変えてるんだ?」
 
 「転移にのみ反応して発動するようにしておる。発動すれば、どこから転移し侵入しても一箇所に出てくるようにの」
 
 「なるほど …… ?」
 
 「そこに、高畑君を置こうと思ってのぅ」
 
 「迎撃作戦 …… はたしてそう上手くいくかどうか。聞く限りじゃデメリットもあるんだろう? ラインが薄くなってきた」
 
 「聡いもんじゃ。これは転移にのみ反応するから、そのまま来られると反応もせん。それに、結界内で転移をしても無差別で反応するでの、こちらも転移は使えんということじゃ」
 
 賭けだな。
 よくもまぁ、こんなことに学園結界を作り直そうと思うな …… 。
 
 「こんなこと …… で済めばいいんじゃがのぅ」
 
 「ふん。いやに弱気じゃないか。孫が心配か?」
 
 「お主も相当に歳を食って、子を産めばわかるわい」
 
 「 ………… わかっていてその言葉を口にしたのなら、ここで一生孫の顔を拝めなくしてやってもいいんだぞ?」
 
 「 …… すまん。ワシも焦っとるんじゃ …… 本当にすまん」
 
 「 …… ふん、まぁいい」
 
 踵を返す。
 そこから離れようとして、聞きたいことがもう一つ出来た。
 
 「一箇所に出る、と言ったな? それはどこだ?」
 
 「 …… 郊外の森の中の開けた場所じゃ。学園都市からは大体2kmほど離れておる」
 
 「ふむ」
 
 なかなかに遠いな。タカミチの戦闘方法でそこまで被害が及ぶとは思わんが …… ふふん?
 ジジイめ、タカミチが負けたときのことも考えているな。時間稼ぎの意味でもそこまで離れたところに設置したと推測するべきか。
 タカミチが、負ける …… か。
 
 「面白そうだな」
 
 聞こえないよう、口の中で呟く。
 ソルを迎撃ポイントに置かないところを見ると、さらに面白い。
 このジジイ、やはり性悪だ。
 
 「じゃあな、ジジイ。精々孫の無事を祈っておくがいい」
 
 「縁起でもない事を」
 
 そのやり取りを皮切りに、堪えきれなくなり爆笑する。
 それこそ世界樹周り一帯に聞こえるような大声でだ。
 嫌いではないぞ。むしろこういうのは好きだ。大好きだ。
 
 さて、退屈せずに済みそうだな …… ?
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 眼下で行われる子供騙しのようなお遊び。
 あのジャパニーズのガキが持つ力は、本当のようだ。
 
 「イノはんまた難しい顔しとる~」
 
 「あら、ちょっとつまらなくて …… つい」
 
 「まぁ、つまらんっていうのは同意しますけど~。フェイトさんはどないですかぁ?」
 
 「 …… 別に。ただ、そうだね …… イレギュラーが気になるかな」
 
 顎でしゃくるように指すのは金髪の男。
 ここにいていいヤツじゃない。胸クソ悪い理由のひとつだ。これは、ますます潰しといた方がいいかもしれない。
 ――――― 麻帆良学園、か。
 
 「月詠、雇い主がピンチだよ」
 
 「あ、ホンマやわぁ。だらしない。弱いんやったらそれなりに足掻いて欲しいもんですけど~」
 
 「遊ぶのかい?」
 
 「刹那先輩は、楽しめそうやからどうやろ~」
 
 じゃ、行って来ます~、とイチイチ間延びするしゃべりを終え、飛び降りる。
 鋼が弾き合う音が響き、向こうの顔色が一気に変わる。
 つまらない。
 
 「 ………… ねぇ、私明日だけ、ちょっと出掛けるわ」
 
 「僕に言われてもね。彼女に直接言うといい」
 
 クソが。
 
 「メッセンジャーボーイよ。頼まれてくれない?」
 
 「 ………… 今すぐ行くのかい? どこに?」
 
 マークしてやがるか。
 この白髪は結構使えると思ってたんだがな …… 。使えねぇ。
 
 「ちょっと、そこまで」
 
 「 ……………… そう」
 
 いいよ、と頷きまた児戯を見ることに専念する。
 何が面白いんだか …… 。あんな甘ったるい突つき合いじゃ、濡れるもんも濡れねぇ。
 もっと、燃えるような戦いが欲しい。
 ふと。
 
 「ひとつ、いいかな」
 
 「あ …… 何かしら?」
 
 素が出そうになって押し殺す。
 訝しむ様子もなく、白髪は続ける。
 
 「僕といる時ぐらい、素になってくれてもいいよ。そのしゃべり方は気持ち悪いから」
 
 「あら、何のコトかしらぁ ………… 勘繰り過ぎると死ぬよ」
 
 「 …… これはこれは」
 
 肩をすくめるも、視線は児戯を眺めたまま。
 気持ち悪いのはお互い様だよ。人形みたいな顔しやがって。
 
 「それじゃあ、よろしくね~ん♪」
 
 反対側に飛ぶ。
 すぐに闇が視界を埋め尽くし、月が映える。
 背後からは、《法力》の発動。あの女、キレさせでもしたか。終ったな。
 
 私は私で行くとしよう。
 グリン、と空間が歪む。バックリひらいた孔は真っ暗で先が見えない。
 迷わずに足を突っ込む。暗黒は食らうように私を包んでいく。
 しばらくして視界が開けた次の瞬間、そこは雲の上。
 向かう先は …………
 

 ――――― 麻帆良学園。
 
 
  



               track:10  end



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草之 敬

Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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