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2008-12

気が付けば……

ども、草之です!

日記は久しぶりになるでしょうか?
そう、気が付けば12月ですよ、12月!!

今年も終りかぁ。
師走ですねぇ。マジでですか。え、これ12月!?

うわーうわーうわー。
いやにテンパッてます。年末ってテンション上がったりしません?無性に。
草之はいつも以上にテンション上がってます。

そういえばちょっと前からローソンで『ハッピーフライト』公開記念とかでグッズとかやってるじゃないですか。
お茶二本かったら付いてくるフィギュアとかフィギュアとかフィギュアとか。

買った後「アホやなぁ……」と後悔にも似た感情が渦巻く。
だが、止まらない。計5体。計10本。欲しいのだけ集めました。
CAの制服って昔のほうが好みだったりする草之は古き良きオッサン属性?
ホイホイされます。80年代以降を今とするなら、買ったうち4体は前のやつです。80年代以前です。

…………アホだなぁ。


そういえば、フェイト/アンリミテッドコードのジョイスティック(あのアーケードのヤツ)でしたっけ?
あれが出る……と以前雑誌(どれかは忘れた)で見たのでさっそく予約にでも行こう、と行ったわけですよ。

店員「……カプコンさんのホームページにもそれが出るって書いてませんねぇ」

あれ、デマ!?
マジでデマなんですか!?
『セイバーがプリントされたジョイスティックも同時発売!(1スティック・4ボタン)』て書いてたのに!?

記憶が曖昧すぎて間違えたのか、本当にデマだったのか……。
それに値段が3000前後だそうで。それも聞いてみると店員さんは

店員「いやぁ、そういうのって大概5000はするんですけど……」

…………。
さいですか。デマかくてーい、みたいな?

あっれぇ、どこでみたんだっけか……?
それとも都合の良い様に見間違えたとか、草之の妄想とか!?
ヤバイって、脳を見てもらったほうが良いんじゃないのか!?記憶野になにか問題が!?


は、さておき(さておいていいような話題かどうかはともかく)。

次回更新は『B.A.C.K』の予定。週半ば辺りを目処に更新します。
週末には一応『優星』です。早いと金曜ぐらいかも。遅ければ次週持ち越しになりそうです。

ではでは、以上草之でした!
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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

『グキッ』とか本当に鳴るから気をつけろ。

ども、草之です。

とある事情で大転倒。
ちなみに地面が凍ってたとかじゃないです。あと受験生のみなさんでこの歯車屋敷を御覧になってる方、今更ですが、大転倒とか言ってすいません。

そう、そりゃ派手に転びましたとも。
しっかり『グキッ』っていいましたからね、足首が。あれってばホント聞こえるんだなぁ。
草之は基本ドジッ娘属性とかじゃないんで転ぶとか数年振りです。

足、挫きました。
病院行きました。久しぶりにN村整形外科行ったな。
中学のとき部活で、というか部室で滑って、ドアの下の小さな突っ張りに小指引っ掛けた時以来だわ。草之は水泳部でしたが、そのまま練習に直行。ターンとか地獄。アップが終ってから余りにも痛いんで見てみると……あらららら、右と左のあんよの大きさが2倍程度ちがーう♪

これはマズイ、とまぁ、すぐに帰らせてもらって、病院行ったら、ヒビはいってました。良く泳げたな、自分。

閑話休題。

とにかく、今回の診断結果は捻挫……なんですけど、かなり酷く捻ったのか、「最低二週間は安静にしててください」て言われました。痛みを避けて、足を労わって下さい。とか。いや実際半日経っても歩くこともままならぬぐらいに、洒落になってないくらい痛いんですけどね。

捻挫で二週間て、長いのか?長いですよね?

手でなくて良かった。とはここだけの話。
更新はおそらく遅れない。



追記。

前回のアンリミテッドコードの件について、ありがとうございました。
コメでも書きましたが、一応こっちでも。
通販だったんですね。しかも予約生産とか。発売後限定生産とか。
買えるだろうか。
とにかくサンクスです。

以上、草之でした!

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:1-3

 
 「 ………… 」
 
 教導中の映像を眺めながら、考えるのは聖王教会でのこと。どうにも信じ難い。
 
 「どうにしたって情報がなさすぎる、か。面倒な …… 」
 
 割に合ってない。
 できることなら給料上げろ、と言いたいくらいだ。
 
 「ダメだな …… 今は考えられることじゃない」
 
 散歩しよう。
 煮詰まった思考を冷ますには体を動かすべきだ。夜も遅いし、誰もいないだろう。
 
 隊舎を出て、さてどこへ行こうかと考える。
 
 「ま、テキトーに歩くか」
 
 と、言いながらも向かうのは演習場。
 これから1年訓練していく場所なのだ。見ておかねばなるまい。
 元々今日はここで過ごすはずだったんだから。
 
 ふと、目の前の人影に気付いて足を止める。
 エリオやキャロと同程度の背格好。夜闇にも映える赤い三ツ編みの髪。
 
 「ヴィータじゃないか」
 
 「うおぉっ!? 驚かすなバカヤロー!!」
 
 ガバァッと振り向き不恰好なファイティングポーズを取る。
 
 「何見てたんだ?」
 
 睨み続けてくる騎士がさっきまで睨んでいた所を見る。そこは演習場で、上空には白い影とピンクの光が飛び交っていた。
 
 「高町さんか …… 」
 
 「あぁ、アイツはいっつも無茶するからな。見てないと心配なんだよ」
 
 照れ隠しも入っているのか、ぷいっと顔を背けられる。
 
 「 …… 好きなんだな」
 
 「ンな …… ッ!?」
 
 違う! と必死の叫びが飛び出すが、そんな顔で言われても説得力がない。
 オレもそういう考えを浮かべていそうな顔をしていたんだろう、それ以上は何も言わないで再び演習場に視線を戻す。それに習うようにオレも演習場を見ることにした。
 散歩しに来ただけなのにな。
 
 見える限り、今日の新人たちの相手をしたガジェットよりも強めに設定していて、その上総数はおよそ2倍か。
 できるだけ動かないようにしているのか、ガジェットの攻撃は紙一重で避け、もしくは防ぐ。どんなに不利な状況に陥っても動こうとしない。
 この程度と思っているのか、それとも、どうにかしてこれくらいやり遂げたいと思っているのか。
 確実にガジェットの総数は減っていく。今、彼女はどんな表情をしているのだろうか。恐らく、涼しい顔をしてこなしていることだろう。
 
 「 ………… ユークリッド、どう思う?」
 
 「どうって、何がだよ」
 
 「なのはの戦い方」
 
 「 ………… 」
 
 ペロ、と軽く唇を舐める。
 どう、と聞かれてもな。戦い方も何もないだろ。
 
 「ただの力押しに見えるけどな」
 
 「そうか」
 
 特にオレがどう言ったからといって何をするわけではないらしい。シグナムならどうだろうな、うるさく突っかかってくるだろうか。想像するだけで嫌気が差す。
 
 「思うんだけどな、高町さん …… 苦戦はしても絶対に負けたことがないだろ?」
 
 「う~ん? ………… ま、そうかもな」
 
 少しだけ悲しそうにしたのは何故だろうか、と考える暇もなくヴィータは続ける。
 
 「アイツはよ、もしかしたら自分と戦ってるのかもしれない」
 
 「そのココロは?」
 
 「なんだろうな。とにかく、アイツは戦おうとしないでまず話し合いからっていう考えがあるんだよ、私ンときもそうだったしな」
 
 なるほど、と頷くのを確認してから、さらに続ける。
 
 「でも、私もそうだけど、そんなの聞くヤツなんて早々いない。そうだろ?」
 
 「まぁ、そうだな」
 
 「だからだろ」
 
 そういう意味か。
 エースオブエースがなんだって? 普通の人じゃないか。
 なんか、安心した。
 
 聞いてくれないのは、相手じゃなくて自分のせいだ。だから、今あるエースオブエースの名を知らしめるように強くあるべきだ。
 ―――― そうすれば、相手は話を聞いてくれる。
 そんな考えなんだろう。なかなか、人臭いじゃないか。
 
 「5分43秒56 …… 」
 
 「ん?」
 
 「さっきの模擬戦闘の総時間だよ」
 
 「早 …… っ」
 
 だな、と相打たれてから、思い出したように質問を投げかけてきた。
 
 「そういうやぁ、お前は何でこんなところにいるんだよ」
 
 こんなところにいるのはお前も同じだろうが、とツッコミはしないでおく。
 ただ、苦笑して
 
 「散歩」
 
 「暇なヤツだな」
 
 「暇じゃない」
 
 思考を冷ますために出て来たんだ。決して暇から来る行動じゃない。
 鼻で笑われて、さらに付け足して質問をしてきた。
 
 「新人らの教導、見たのか?」
 
 「 …… お前ってばそのナリで結構心配性だったりするんだな」
 
 「るっせ! そのナリで~とか言うな! 心配性とか言うな!!」
 
 「ま、一応な。何をするべきか構想は出来あがりかけ。あとは、教導に余裕が出来てきてからだな」
 
 「仕事が速いな」
 
 「そうかぁ? 穴だらけだから結構時間食って考えたんだけどな」
 
 実際時間を食ったのは聖王教会のことでなんだけど。

 高町さんは次の訓練に汗を流し始め、ヴィータは演習場から目を離し、じっとこちらを見上げてくる。
 ちらりとヴィータを見ると、彼女は顔を背け、赤面した。なんだよ?
 
 「 …… あのよ。聞いていいか?」
 
 「答えられる内容なら答える」
 
 「なんで騎士をやめたんだ? ていうか、そんな記録ひとつもなかったぞ?」
 
 「ごめん、答えられない」
 
 「 ………… 悪い」
 
 なんてことはないさ。食いついてこないだけマシだ。
 シグナムなんて何回言っても聞いてくる。その分ヴィータは引きがいい。
 さて、どっちが子供なんだか。本当、やめてほしい。
 
 「 …… 戻るな。おやすみ、ヴィータ」
 
 「ん、おぅ」
 
 赤い騎士は、いつまでも白き姫‐エース‐を見ていた
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 毎日の教導にも幾分余裕が出来始めた頃、アタシとエリオはユークリッド隊長に呼ばれ、『ニーベルゲン』隊長執務室前に来ていた。他のメンバーはいない。コンビでもなければ、恋人ってわけでもないアタシとエリオが呼ばれた。
 
 「なんだと思いますか?」
 
 「さぁね」
 
 行かなきゃこの話は続かない。
 
 「さてと、行こっかな」
 
 こんこん、と小気味のいい音を鳴らし、ドアをノックする。
 間をあけず、中から入ってくれ、と声をかけられる。
 
 「失礼します!」
 
 「し、失礼しますっ」
 
 中に入ると、ユークリッド隊長は何かを机から出しているところだった。
 事の成り行きはこうだ。
 昼から続く訓練を終え、シャワーも浴びて、ご飯も食べて、デバイスのメンテも終ったところで、呼び出された。とこういうことだ。
 
 「ま、座れよ。話はそれから …… コーヒーでいいか?」
 
 机から何かを出す作業を一端止め、執務室の隅に置いてあるコーヒーメイカーに歩き出す。
 
 「あ、アタシが …… 」
 
 「いいよ、訓練で疲れてるんだろ。ゆっくりしとけ。 …… そうだな、世の中この六課みたいなヤツラだけじゃないし、その心掛けはありがたく受け取るよ」
 
 はぁ、とため息にも似た気のない返事をしてしまう。
 それに苦笑いで答えられ、思わず目を逸らす。そうしながらも二人掛けのソファにエリオと並んで座る。
 
 「さて …… 」
 
 コーヒーをアタシたちの前に置くと、自分の分も持ってきて正面に座る。
 
 「ま、まずはゆっくりしてくれ」
 
 「あ、いただきます」
 
 「いただきます …… 」
 
 ずず、と温かいコーヒーを口に含むと、その苦さに顔をしかめる。ブラックだ。
 隣を見るとエリオはアタシ以上に酷く、舌をべッと出している。そりゃそうか。
 ユークリッド隊長は気にする様子もなく、熱さに苦戦しながらチビチビと飲んでいる。
 
 「さて …… 」
 
 おもむろに立ち上がると、机から何かを出すことを再開する。
 しばらくコーヒーを飲みながらその様子を眺めていると、やっと出てきたのか、声をあげて立ち上がる。
 
 「お前らをここに呼んだ理由だけど …… コレは知ってるか?」
 
 アタシたちの間にある机の上に、二枚の板を置く。
 線で四角く区切られたモノは交互に白黒で、8×8のマス目になっている。
 これは、確か ……
 
 「第98管理外世界の遊戯ですよね?」
 
 「そう。ここ数年でミッドの方にも広がって、今では大きな大会まで催されている …… チェスだ」
 
 誰が持ち込んだのか、基本的に今現在のミッドにおける娯楽のうち、1割近くが第98管理外世界のものだ。
 管理局の若手トップ3、つまりウチの部隊の隊長陣がその世界出身というもの手伝っているのかもしれない。
 その中でも広がり始めたのがこのチェス。
 
 「相手をしてもらおうと思ってな」
 
 カラカラカチャン、と適度に重い駒の音が響き、隊長はその駒を盤上に並べ始める。
 …… 遊ぶためにアタシたちを呼んだのだろうか。まさかね。
 
 「あの、何故ですか?」
 
 堪えきれなくなったのか、エリオが口を開く。
 ユークリッド隊長はパッと顔を上げ、エリオを凝視する。
 
 「何が?」
 
 エリオは多少ビクつきながらも続きを口にする。
 
 「遊ぶ目的で呼んだとは思えないんですが …… 」
 
 「もちろん。じゃ、持ち時間の設定はっと」
 
 エリオの言いたい事を本当に理解しているのか、嬉々として駒を並べ続けながら時間設定を …… ?
 
 「っ!? ちょ、なんですかその時間!!」
 
 「ん? なにって ………… 10秒?」
 
 さらりと、そんなことを言う。
 さらに「もっと短いほうがいい?」などとも言う始末。
 駒が並べ終えられて、座り直して向き合う。
 
 「コレからやるのは持ち時間一手10秒のチェスだ。これから毎晩、お前たちはオレと一局だけ打ってもらう」
 
 なるほど、とは言い辛い。
 応用戦術を教える、と言いながら実際するのはチェス。この人はアタシたちをチェスの大会にでも出すつもりなのか?
 
 「それもいいかも、と、顔に出てるぞ」
 
 「えっ」
 
 ペタペタと自分の顔を触ったり撫でたりしていると、ユークリッド隊長がクスクスと含み笑いをし、からかわれたのだと理解する。
 …… ともかく、ともかくだ。
 
 「結局、これはどういう?」
 
 「自分のポジションはわかるな?」
 
 「セ、センターガード …… です」
 
 「ガードウィング、です」
 
 それを聞いてからコクリと頷き、チェスの駒をふたつ取り上げる。
 
 「センターガード …… つまり、ルーク。
 ガードウィング …… つまり、ナイト」
 
 チェスの設定上、どう見ても塔にしか見えないルークは『城』で、ナイト …… 『騎士』という名称の割には馬の頭だけというそのふたつを指して、ユークリッド隊長はそう言う。
 
 「そして、このふたつに絶対的に必要な能力。分割思考、つまり『マルチタスク』と、瞬間判断、つまり『直感力』のふたつだとオレは考える。言ってる意味が分かるか?」
 
 少しだけ考える。
 このふたつは確かに必要だ。どこのポジでも同様だろう。
 だが、なら、例えばフロントアタッカーならそこまで必要だろうか? フルバックは?
 フロントアタッカーなら、誰よりも前に行く『勇気』と、後ろを守るという『決意』。盾になる、剣になるという『戦闘力』。
 フルバックなら、全体をフォローする『配慮』と、それを実行できるだけの『先読み』。背を任せられるだけの『包容力』。
 今度こそ、なるほどと頷く。
 
 「それを鍛えるための訓練ってコトですね」
 
 「正解。エリオもオッケイ?」
 
 「あ、はい」
 
 少しだけ顔が赤い。いっぱいいっぱいという事なんだろうか。
 
 「10秒打ちでは『直感力』だけしか鍛えられない。じゃあ、『マルチタスク』はどう鍛えようか、エリオ?」
 
 「え、僕ですか? えっと、その …… う~ん …… 」
 
 「ヒントは、今、オレたちがしていることだ」
 
 「えぇ? えっと …… 問答、ですか?」
 
 「ヤ! そう、『おしゃべり』だ」
 
 これは ………… 何をするか考えただけでパンクしそうだ。
 
 「そう。この訓練は『おしゃべりしながらチェス10秒打ち』だ」
 
 『そんな無茶な!』
 
 エリオと声を合わせて言う。
 ちょっと無茶すぎる。
 
 「ま、慣れれば出来るもんだよ。しばらくは生返事でもいい」
 
 「え …… 」
 
 さぁ、スタート! とカッカッと二面打ちを始めてしまった隊長。アタシたちの意見は元から聞くつもりもないらしい。
 ムキになって打ち返すと、すかさず打ち返してくる。
 
 「あ、そうだ。今日の演習な、ティアナ」
 
 「へっ? あ、はい」
 
 コツン、コツ。エリオとも打ちながらほとんど一瞬で打ち返してくる。
 は、早いんですけど …… 。
 
 「バリアブルショット、安定してきたな。まだ少ししんどいか?」
 
 「え、あ、はい …… と」
 
 「すごいよな、お前ってさ。オレでも出来ない事してるんだから」
 
 「え ―――― ? っあ!?」
 
 ビ――――――――ッ!!
 けたたましいアラートが鳴り響き、時間切れだという事を知る。
 続けて、
 
 「エリオはまだ少し荒荒しいな。オレが言えることじゃないが、もう少しスマートな魔力運用を心掛けておけ」
 
 「あ、はい」
 
 「なに、魔法の才能って点じゃ二人ともオレよりも数段上だよ。将来有望だな」 
 
 「ど、うも ――――― ッ!?」
 
 ビ――――――――ッ!
 プレイ時間は実に、二人合わせてやっと30秒。ひとり20秒ももっていない。
 駒のひとつも取らず、アタシたちは見事に『不戦敗』だ。
 
 「あれ、もう終りか。二人ともまだ教導に慣れてないのかもな、疲れてるんだろ?」
 
 それじゃしょうがないよな、と駒を片付け始める。
 
 「あ、あのっもう一局だけ!!」
 
 「僕、僕もお願いします!!」
 
 くやしい。
 せめてもう一度だけ打って欲しい。それはエリオも同じらしく、身を乗り出して申し出ている。
 次は上手くやって見せるから …… !
 
 「残念。言っただろ『一局だけ』打つってな」
 
 一晩にチャンスはたった一度きり。
 なのはさんの教導以上のシビアさ。何て不完全燃焼だ。
 
 「なに、明日だってやるんだ。何なら昼間にエリオと作戦を練るも良し、個人で戦略を考えるも良し。だけど、そのせいで高町隊長に怒られるような訓練をしてもオレは何も責任を負わない。あぁ、これも『マルチタスク』の訓練になるな」
 
 ぜひ冒険してみてはいかが? と軽い気持ちで提案してくる。
 それは物理的に無理な相談だ。なのはさんに怒られるとかそういうんじゃなくて、そこまで頭が回らないのだ、真面目に。
 
 「じゃあ、明日もこの時間。“苦い”コーヒーを淹れて待ってるよ」
 
 サラッと眩しい笑顔で言って、帰って寝るように催促されて執務室を追い出される。
 ぽつん、と二人並んで宿舎へ戻っていく。心なしか、いつもは素直なエリオが拗ねているように見える。
 
 「 …… 悔しいわねぇ …… 」
 
 「はい、僕も悔しいです」
 
 やっぱりね。エリオも男の子なんだなー。
 よし、とエリオの肩を叩く。
 
 「明日の目標は最低一駒、最低1分もたせること! オッケー?」
 
 「了解です!!」
 
 そう決意して、この夜は更けていった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 コンソールに映る彼の顔写真。管理局入局当初の幼い写真だ。
 そして、どこを探しても出てくるのはその4年後の写真のみ。逞しく成長した、ユーリの顔。
 そのモニターを横に、隣のモニターには管理局が介入した次元世界全体の事件や、ロストロギア関連の事件。さらにもうひとつのモニターには、事件に関係したロストロギアの資料集。
 
 「あかんなぁ …… それらしいのはどこのもないし …… 」
 
 とどのつまり、進展してはいない。
 『ミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェル』。この人も探してみたが、今の資料がない。
 入局はユーリと同時期。しかし、その後の所属や、写真すらない。
 ただ、『UNKNOWN』の文字だけが浮かび上がる。
 
 「ギプフェル …… 『頂きの王族』か」
 
 ギプフェルという言葉自体は『頂き』や『頂上』という意味のベルカ語だ。
 聖王家に対して絶対的な敵意を持って名付けられたとしか考えられないネーミング。カリムが興味を持つはずだ。
 
 『ラインハルト』は、その王家に仕える唯一の騎士の系譜。
 
 それ以上が、出てこない。
 だから、先程連絡をとった人物がいるわけだが、どうにも忙しいらしい。
 さすがやな …… と感心するも、申し訳なさも隠せない。
 その忙しさの根本に、私がいたからだ。
 
 『 ――― 八神ニ佐、連絡が取れました』
 
 モニターが出て、局員が出る。
 繋いでくださいと言って、一瞬モニターが消え、違うモニターが点灯する。
 
 『や、久しぶりだねはやて』
 
 「うん、なのはちゃんやのぅてゴメンなー」
 
 『ななななっ!?』
 
 「あっはははは」
 
 開口一番、彼をからかう。思った通りの反応をしてくれる数少ない友人のひとりだ。
 ごほん、とせき払いをひとつして、落ち着いたのか話を戻す。
 
 『それで、用事ってなんだい?』
 
 「おぅおぅ。調べて欲しいもんがあってなぁ~」
 
 『かる~く言ってるけどさ、わかってるよね?』
 
 「 …… もちろん、すまんとは思うとるよ。それに今回は結構個人的な頼みやしな」
 
 『まぁ、それが僕らの仕事なんだけどね。いいよ、聞こう』
 
 「ホンマ助かるわ~。今度なのはちゃんと会えるよう手ぇ回しとくから、堪忍な?」
 
 余計なお世話だ、と苦笑いで答えられて、手持ちのデータを転送する。
 向こうでそのデータを受け取ったのを確認してから、うん、と頷く。
 
 「一番初めに、『ギプフェル』について調べて欲しい。次に、『ミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェル』の事。後の方は聖王教会も関わってるから、下手なことに巻き込まれんよう、気ぃつけてな」
 
 『心配痛み入ります。そうだね、一週間から一ヶ月ってとこかな』
 
 「結構間ぁ空くな。やっぱ忙しいんやね」
 
 『努力はするつもりだよ。どこぞの艦長よりは優先しておいてあげるよ』
 
 思わず吹き出す。
 ホンマに仲がええんやなぁ、クロノ君とは。言うたらスゴイ勢いで否定されそうやけど。
 しばらくこの頃はどうだ、こうだと世間話に花を咲かせていると、向こうのモニターの奥から司書らしき人物の声がした。どうやらユーノ君を呼んでるらしい。
 
 「時間とらせてもうたな、ごめん」
 
 『いやいいよ。おかげでいい息抜きになったからね』
 
 じゃあ、と言って通信を一方的に切られた。
 そんな中、私に残った物はといえば、やりきれない罪悪感。
 やってしもた。いよいよ無限書庫にまで手ぇ出してもうた。後者のことはわからずとも、前者のことは確実にわかるだろう。
 
 ギ …… と背もたれに深く寄りかかる。
 モニターの中の彼の唇に指の腹を這わせる。ゆっくりゆっくりと。
 
 「ユーリ …… ごめん」
 
 その指で、今度は自分の唇をなぞる。頬を伝い、顎、首、鎖骨、胸、腹を通って下へ下へと指を這わせる。
 
 「 ………… ごめんなぁ …… 」
 
 残ったのは、ちょっとした満足感と、やりきれない罪悪感だった。





             Act:1-3  end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

追加で~す!

ども、草之です!

この度、新しいリンクを追加させてもらいました。

 血とミルクの泉 

です。
『Fate×なのは』のクロスオーバー『天秤の剣士』を連載しておられます。
この歯車屋敷になのはSS目当てで訪問してもらったお客様なら行った事があるかもしれません。

かくいう草之も常連(?)です。

とにかく、「フェイト嬢に悶えたいならここに行け!」といっても過言ではないはず。
規模が違いすぎる感じの否めないサイト様で恐縮ですが、やらせてもらいました。

興味があるなら行ってみて損はないと思います。
手に汗握る展開がなんとも燃えます。そしてフェイトに萌えます。

では、今日はこの辺りで。
以上、草之でした。


追記
『優星』更新は明日か、推敲に手間取れば明後日になると思われます。
そして、短いです。大体1話平均15、6kbぐらいなんですが、10kbくらいです。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:14

 
 ――――― 『晃ちゃん、ウンディーネになるの?』
 
 小さい頃から、私は彼女にべったりだった気がする。
 だから、なんでも共有したいと思ったし、どんなにケンカしたって結局するのはお互いの心配だったりする。
 昔から、私と彼女は親友だった。
 
 親友だと、思っていたのに …… っ!
 
 「 ―――― っ、違う!」
 
 そうじゃない。きっとアレは私の見間違いだ。あれはキスなんかじゃない。そう見えただけ。晃ちゃんが悪いわけでもない!
 そもそも、士郎さんがそんな人じゃないことくらい、わかってるはずなのに。士郎さんには、アルトリアさんだっているじゃない。
 
 ―――― どうしたの、アリシア …… ?
 
 自分に問い掛ける。
 なんでこんなに晃ちゃんのことを嫌いになるの?
 なんで、わかってるって言ってるのに、思ってるのに、この気持ちはなんなの?
 
 「 …… 誰か、助けて …… っ」
 
 この気持ちが一体なんなのか、教えてよ …… 誰かっ。
 
 「私は、どうしたらいいの …… っ?」
 
 なんで、私はわかっているのに。
 
 「痛いよぅ、苦しいよぅ …… っ」
 
 士郎さんを、私から離さないでよ。
 
 「 ………… アリシア」
 
 「っ!?」
 
 部屋の明かりは点けていなかったから、気が付かなかった。
 そういえば、鍵も閉め忘れていたかもしれない。
 
 「 ……………… すいません、あの、何度呼んでも返事がなくて、鍵が開いてて、中に入って呼んだのですがそれでも返事はなかったので …… その」
 
 「ご、ごめんなさい。ちょっと疲れてたみたいだから、眠くって」
 
 「気が付かなかった、と?」
 
 そうなの、と誤魔化しておく。
 きっといつものアルトリアさんなら、ここで引き下がってくれる。
 でも、違った。
 
 「嘘はよしなさい。なら、なぜ泣いていたのです、なぜ?」
 
 「泣いてなんか、ない、です」
 
 「 …… 前々から思ってはいましたが、貴方はシロウにも匹敵する頑固者のようですね」
 
 「?」
 
 アルトリアさんはパチン、と部屋の電気をつける。とたんに明るくなった部屋に目が痛くなる。
 そして、思った以上に険しい顔をしたアルトリアさんが目の前に仁王立ちしていた
 
 「 ………… もう一度聞きましょう。アリシア、貴方はなぜ泣いていたのですか?」
 
 「それは、泣いてなんか …… 」
 
 「アリシア!!」
 
 逸らそうとした顔を、ガシ、とその細腕からは想像も出来ない力で正面に固定される。
 彼女は、怒っているのだろうか。
 
 「聞かせてほしい。貴方が言ったことでしょう、私と、貴方は、友人だと!」
 
 「あ、う」
 
 「あの言葉は偽りだったのですか?」
 
 「それは …… 」
 
 「私は、嬉しかった。素性も知れない人物に、何の事もなく友人だと言ってくれたあの言葉が」
 
 険しかった表情はナリを潜め、いつの間にかアルトリアさんの顔は悲しさで溢れていた。
 今にも泣き出してしまいそうな、そんな顔。
 
 「友人とは、“友”とはそういうものでしょう?」
 
 「 …… 恥ずかしいな、私」
 
 「え?」
 
 「言うことがじゃないの。バカだなって思っちゃって」
 
 「アリシア …… 」
 
 「友達、ですよね」
 
 「もちろん」
 
 だから、じゃないけど …… 私はアルトリアさんに全てを打ち明けることに抵抗を感じなくなっていた。
 誰かじゃなくて、最初からこうすればよかったんだ。
 友達に、助けてもらえばよかったんだ。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「シロウが、ですか?」
 
 「違うって、わかってるんだけどね。そう見えただけ」
 
 でも、そうじゃないんだろう。泣いた理由は、そうじゃないと思う。
 アリシアが続きを口にするまで、私は黙して待つしかない。
 つらいな。私はこうすることでしか、友人に恩を返せない。
 
 「でも、わかってるのに、胸が苦しくて、痛くて、気持ちがわぁって溢れてきて」
 
 こんなにも純粋な心を持つ友人に、私は恩を返せないどころか辛い事を頼まなければならない。
 いつになっても、私は私の我が侭で動いてしまう。
 
 「そうですか。なるほど ………… それはなぜだか、わかりますか?」
 
 「うふふ。わからないから、つらいのよね」
 
 笑っていても、その笑顔には温かみがない。
 薄く、冷めてしまった笑顔。
 彼女はこのままだと潰れてしまう。自分の、想いの大きさに。
 そこに幸せを掴む者はいない。どこか空虚な、ガランドウが残ってしまうことだろう。
 
 「 …… アルトリアさんは、士郎さんのことは好きですか?」
 
 「え?」
 
 「あ、ごめんなさい。恋人同士なのに …… 」
 
 「いえ、構いません。それに、正直今のシロウはあまり好きになれない」
 
 その言葉は彼女にとってどれほど意外なことだったのだろうか。
 目を見開き、口を真一文字につぐんでしまった。
 
 「言ってはいませんでしたが、私とシロウが出会い、別れてから今回の再開まで、実に10年が経ちます」
 
 「 ………… 」
 
 アリシアは反応しない。
 構わず、私は続ける。
 
 「あの頃のシロウは本当に真っ直ぐだった。『理想』を追って、『理想』の果てを知って、それでも尚真っ直ぐだった。ですが、今のシロウには“捻れ”が生まれてしまった。真っ直ぐな道に螺旋のような“捻れ”が」
 
 アリシアは動かない。
 もしかしたら、初めから聞いていないのかも知れない。
 
 「彼は、私が愛した彼ではなくなっていた。もう彼はきっと戻らない。 …… アリシア」
 
 「 …… 」
 
 頷いて、私の目を真っ直ぐに見詰める。
 私が言ったことが、嘘か真かを確かめるように。
 
 「ここから先のシロウを、私は話さない。きっと、シロウ自身も話すことはないと思う。けど、それでいいと私は思います」
 
 「なぜ?」
 
 アリシアがようやく口を開く。
 少し物悲しそうな、そんな様子が見て取れる。
 確かに、人の過去というものはその人物をその人物足り得るための、重大なファクターだ。
 だが、例外もある。
 シロウは元からどこかが壊れている。だから、ここで常識が当てはまらないとしても、何ら不思議はない。
 
 「貴方の中でのシロウは、私が好きになれない今のシロウだからです」
 
 「 …… ?」
 
 「また、私が愛したシロウは貴方の中のシロウではなく、過去のシロウということです」
 
 「よく、解らないのだけれど」
 
 「それでいいのです。だからこそ、貴方に頼みたいことがある。貴方にしかしてあげられないことがある」
 
 アリシアは小首を傾げながらも、私の話を聞こうとしている。
 それでいいのです。アリシア・フローレンス。
 
 「シロウは、真っ直ぐだった道が“捻れ”てしまって、それでも歩いて進んで行って。彼は、今どちらが上で下で、右で左で …… もと目指していた方向がわからなくなっている。でも、その目指していた場所も、この世界に来てさらにわからなくなっている。シロウは今、“捻れ”すぎた螺旋の上に立っている」
 
 「 …… うん」
 
 「でも彼の中の『正義の味方』は、きっとまだ生きている。だから、今の迷っているシロウしか知らない貴方に、シロウの手を取ってあげて欲しい」
 
 「 …… それは ―――― 」
 
 「私には出来ない。私の中のシロウは、『私の中のシロウ』でしかないのですから」
 
 「 ………… アルトリアさんは、もう、支えてあげられないんですね」
 
 「残念ながら、そういうことです。アリシア、目を瞑って、良いと言うまで開けないで欲しい」
 
 アリシアは疑うことなく、目を瞑ってくれた。
 ここに来て、初めてになるだろうか。きっとここにいることの出来る時間を短くする。
 でも、彼女には伝えなければいけない。
 
 「 ―――― 風よ、」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 アルトリアさんが何かを呟いたかと思うと、窓も開けていないハズの部屋に風が吹きすさんだ。
 
 「アリシア、良いですよ」
 
 その風が優しく頬を撫ぜる。まるで愛でるかのように髪を弄ぶ。
 荒荒しいと思った風は、いつの間にかまるで草原を駆ける清々しいそよ風に変わっていた。
 
 「 ………… あ」
 
 目を開けた先には、ひとりの騎士が佇んでいた。
 群青のドレス、白銀のプレートメイル。取り巻く風に漂う金砂の絹髪。群青のドレスが空の色なら、彼女の肌は雲の色。エメラルドグリーンの瞳は、草原のように広大で森のように穏やかだった。
 
 「『セイバー』 …… 」
 
 いつだったか、士郎さんが呟くように言ったアルトリアさんのあだ名。
 目の前の騎士は、その名を冠すには十分な佇まいだった。
 
 「これが、私がシロウを支えたと言う誇り。貴方には見ておいて欲しかったのです、この私の誇りを」
 
 風が吹く。
 私の心に、すぅっと溶け込む様にアルトリアさんの言いたい事を理解した。
 同時に、今までの私の気持ちが弾ける様に全身を駆けた。
 私は、面と向かってアルトリアさんに視線を向ける。
 彼女は、ふ、と笑って手甲をはめた腕を差し出す。まるで、握手を求める様に。
 
 「――――――では問おう。アリシア・フローレンス」
 
 彼女の凛とした声が響く。
 彼女の爛とした瞳が射抜く。
 彼女の煌く心が心を惹き付ける。
 
 「……貴方は、我が誇りを継ぐ覚悟を持っているか」
 
 その問いには、厳しさと同じぐらい、寂しさと、嬉しさが篭っているように感じた。
 だから、これはそれを全て受け取められるか、という問いなのだろう。
 
 「ごめんなさい。私には、貴方の意志と誇りを全て継げるような器を持っていないわ」
 
 「 …… だと思いましたよ。でも?」
 
 「うふふ。敵わないみたい。そう、そうでも ………… 」
 
 差し出されたままの腕を、両の手の平で優しく包む。
 アルトリアさんは私の答えを待っている。きっと、私が言うまで。
 
 「アルトリアさん!」
 
 「あ、アリシア!?」
 
 戸惑う暇もあげないで、アルトリアさんに抱きつく。
 きっと、歳も嘘なんだろうな。本当は士郎さんと同じか、もうちょっと上。
 サバを読んだとか、そんなのじゃないと思う。
 
 くだらない、けど、とっても楽しい。
 
 ――― けれども、そう。
 
 「貴方の想いは、私の形になると思う。だから、貴方のその誇りは継げない」
 
 だからこそ、私は士郎さんを支えられるとは思わない。
 私は、きっとアルトリアさんのように強くはないから。
 
 「聞いてくれますか? 人にはきっと、それぞれの傍にいる方法があるって今思ったの」
 
 だからこそ、私は私の方法で …… 私の誇りで傍にいたい。
 ちょっとだけなら、ワガママでも良いかもしれない。
 私は私の『好き』で、傍にいたいから。
 そうか、これが『好き』だという気持ちなんだ。
 
 「私は支えられないけど、きっと違う方法で士郎さんの傍にいるから」
 
 アルトリアさんは、ゆっくりと頷いた。
 髪を撫でられ、手甲の冷たさにぞくりと背筋が震える。
 彼女が私の耳元で小さく呟く。
 
 「アリシア、私の想い …… 確かに」
 
 伝えました、と、消え去るような声で言ってから、眠ってしまった。
 その顔は、どこまでも穏やかで、幸せそうにほころんでいた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 例えば、こういう例え方がある。
 
 ――― 支えがなくなれば、柱はこけてしまうだろう。
 ――― それが、まだ一瞬ならいい。 …… 長かった。
 ――― 支えをなくした柱は、徐々に傾ぎ始めた。もう、倒れてしまう寸でのところだ。
 ――― 柱は、大きく太いが、とても脆かった。倒れてしまえば粉々に砕けてしまう。
 ――― さて、どうしようか。
 
 騎士王よ、貴殿はなんと気高いことか。
 
 我輩は、諦めていた。
 
 もう柱は壊れてしまう物だと、信じきっていた。
 
 そこには、誰も幸せを掴む者はいない。
 
 いなくなる少年の心を、貴殿は繋いだのだ。

 心が壊れかけた少女を、貴殿は救ったのだ。
  
 物語は続く事だろう。この先、もう柱が砕けることはない。
 
 きっと、少女がそうはさせない。
 
 ………… 聞いたことはあるだろうか、騎士王よ。
 
 人が誇るある偉人はこう言ったそうだ。
 
 『私たちが経験できるもっとも美しいものは、神秘である』
 
 君は感じたことがあるかね、騎士王よ。
 
 我輩は、まだない。ないが、見たいと思っている。
 
 経験することはなくとも、見てみたい。
 
 『正義の味方』と『水先案内人』が紡ぐ神秘を。
 
 貴殿と少年が紡いだ物語のように、幾重もの年月を重ねずとも、辿り着く神秘を。
 
 彼の世界ではなく、この世界に、この星に少年がやって来た理由。
 
 そこに答えがあるとしても、そこに導くのは誰でもない。案内人なのだ。
 
 他でもない、この星の人の子ならば、出来ないことではない。
 
 荒みすぎた心には、優しさは程遠い。だが、そうではない。導くとは、そうではないだろう。
 


 例えば、こういう例え方がある。
 
 ――― 支えがなくなれば、柱はこけてしまうだろう。
 ――― それが、まだ一瞬ならいい。 …… 長かった。
 ――― 支えをなくした柱は、徐々に傾ぎ始めた。もう、倒れてしまう寸でのところだ。
 ――― 柱は、大きく太いが、とても脆かった。倒れてしまえば粉々に砕けてしまう。
 ――― もうすぐ砕けてしまう、全てが粉々に。
 ――― だが、受けとめたのは冷たい地面ではなく ……
 ――― 優しく、柔らかな …… まるで抱擁のような羽根だった。
 ――― 柱は、もう立つことは叶わない。なぜなら、それでも“柱”だったからだ。
 
 さぁ、見守ろうか、騎士王よ。
 
 倒れた柱の物語を …………
 
 ――――― この、優しい星で ……。

 

 
             

                Navi:14   end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

いよいよ1週間前

と、いうワケで。
ども、草之です。

Fate/unlimited codes(以下、アンコ)発売まであと1週間ですよ~。
ワクワクが止まらないっ!!

毎日毎日が長いっ。
楽しみがあるとなんで時間って長く感じるんでしょうね。
逆だと早いとか、ありえん。

テンションがおかしいのはそれだけじゃないんですけどね。
さて、愚痴ってもしょうがない。
ここらで一丁、ご報告させてもらいます。


年末……貴方はなにかご予定はありますか?
ないなら、歯車屋敷にいらっしゃい。みんなでアウグーリオ・ボナーノしましょうよ!

と、いうわけで。2008年の最後の更新は『優星』です!
12月31日深夜11時30分以降、ここにはちょっとした幸せが集まってくる。

そしてそして、新年更新は!

「正月番組って同じのしかしなくて飽きちゃった」
「普通の放送日程になるのって4日くらいからか……暇だなァ」

そんな御仁も、歯車屋敷は迎え入れます!
1月1~3日は、更新の嵐!!毎日1話を更新します!!
予定としては

1日:『背徳の炎』
2日:『B.A.C.K』
3日:『優星』

です。嵐って程じゃないね、これ。
ですので、今週末に『背徳の炎』を更新、その後1週間はいつも通りの更新を、それが終った後、準備期間として本編の更新はお休みになります。
番外編や外伝で間を取ろうとかいうセコイ真似もします。

この正月の更新予定は順次ご報告します。
結構な量を更新するかも知れないので、要チェックです。



一気に書いたので解り易いかはさておいて、纏めた更新予定日程をどうぞ。

              今週末:『背徳の炎』
              来週中:『B.A.C.K』『優星』
準備期間(12月中旬から下旬):『優星』『背徳の炎』『B.A.C.K』の番外編、外伝。
                   もしくは、短編諸々。
            12月31日:『優星』年越し更新。
              1月1日::『背徳の炎』
              1月2日:『B.A.C.K』
              1月3日:『優星』

となっております。

ではでは、草之でした!

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:11

 
 「あー、こりゃ出番ねぇわ。ここまで来てカッコワリー …… 」
 
 正直な感想。
 目の前で繰り広げられる、『魔法』と呼ばれる超常能力の戦い。
 これは出る幕ではない、それはそうだ。
 もともと、彼はこの世界の住人ではない。ここにいる事すらがおかしい事。
 しかし、不干渉を決め込んでいた彼を ――― アクセル・ロウを発火させたのは、相手側の大きなミスだった。
 
 
 「せやなー、まずは呪薬と呪符でも使て、口を利けんよぅにして …… 上手いことウチらの言うコト聞く操り人形にするんがえーなぁ」
 
 くつくつと女は笑う。
 淀む瞳を不気味に光らせ、挑発するようにオドケテ見せる。
 
 果たして、誰がそう思っただろうか。
 長年の親友、神楽坂明日菜より付き合いは圧倒的に短い。
 幼少の頃から守りつづけてきたもう一人の親友、桜咲刹那より木乃香の事を知っているわけではない。
 アクセル・ロウには、ただその一言が許せなかった。
 
 
 『 ―――― 操り人形』
 
 
 「テ――――――メェッ!!」
 
 激昂した明日菜と刹那すら、それは“ヤバイ”と感じるものがあった。
 一気に冷めていくふたりの怒気。反比例する様に、彼は怒髪天を突く。
 そして、彼に一番近い距離にいるネギは、その他誰よりも恐怖していた。なぜなら、
 
 (嘘だ …… 僕の障壁が、軋んでる!?)
 
 瞬間、発破爆炎。
 火炎は渦となってアクセルを包む。傍目からはアクセルは火達磨。それはまるで、暴発して自分に返った『魔法』にも似ていた。
 それは陰陽術にも同じ。故に、女 ―― 千草は笑い飛ばした。
 ――― アホが、と。
 
 「彼女を、離しやがれ …… ゲス野郎!!」
 
 しかし、どうだ。
 次の一瞬には千草は認識を改めた。あれは“返った”のではない。“纏って”いるのだと。
 
 「 ――――――――― ひ」
 
 “気”や『魔力』はそのまま、純粋な力として身に纏うことはある。まして“気”などはそれが基本だ。
 しかし、目の前の男はその純粋な力を外に向け、敵を攻撃するハズの“術”を、自らに向けているではないか。
 狂っている。
 
 「ひ ―――――――― 火ィっ!?」
 
 アクセルは駆けた。急な階段を、彼女らのように飛ぶ様にではなく、至極真っ当に、三段飛ばしで駆け上がる。
 だがその遅さが、鈍さが、千草の恐怖を掻き立てた。来るなら、一瞬で詰めてくれればそれほど楽なことはない、と。
 
 「うおおおおおおおおぉぉぉぉあああぁぁぁぁっ!!」
 
 鎖鎌を取り出し、両の手に構え、さながら猛禽の翼の様に鋭く広げる。
 その姿は、正に『火の鷹』と呼んで相応しい。
 
 「く、来ンなやぁっ!! 何してんねん、月詠ィッ、アイツを止めんかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 
 「は、はい~」
 
 半狂乱に千草は叫ぶ。いつもなら軽く流すような命令も、こればっかりは聞かなければ仕事の内容に関わると、月詠もアクセルへ必死に飛び出す。
 だが、そうは易々といかない。
 
 「させん! お前の相手は私だろう?」
 
 「あん、いけず~」
 
 刹那が割って入る。その横を、ただ真っ直ぐにアクセルは駆け抜ける。
 木乃香を目指して。
 
 「あああぁぁもう役に立たん阿呆がッ! 行けぃ、猿鬼! 熊鬼!」
 
 千草はほとんど自棄にもう一組の式神を呼び出す。
 1分。そう、1分あれば逃げる算段がつく。それだけの時間、2体が耐えれば ……
 
 「うおりゃあああぁぁぁっ!!」
 
 明日菜がいた。アクセルしか目に入っていない式神など、先程の熊鬼よりも“還す”ことは容易い。
 通り抜け様のハリセン一閃。2体は同時に掻き消された。
 アクセルは、ただ真っ直ぐ駆け上がる。
 
 「来ンな来ンな来ンな来ンなぁっ!!」
 
 小型の式神を大量にばら撒く。ひとつひとつに力はなくとも、もう一度猿鬼と熊鬼を呼ぶ時間ぐらいは ……
 
 「『光の精霊27柱! 集い来たりて敵を射て!! 魔法の射手! 連弾・光の27矢!!』」
 
 閃光がアクセルを一瞬で追い越し、目の前の壁とも言える小猿の山を吹き飛ばす。
 開いた穴を潜り抜けるとそこはもう、アクセルのテリトリーに入っていた。
 
 「コノカちゃんを、返しやがれェッ!!」
 
 アクセルは鎌を投擲する。弾丸のような鎌を目の前に、
 
 「あ゛――――――――― 」
 
 千草はもうほとんど考えていない。
 ただ、自分はダメなんだと思うだけだ。
 …… しかし

 「 …… あ?」
 
 おかしい、いつまで経っても鎌が自分を裂かない。
 爆炎が収まり、その中から出たのは西洋魔術の障壁。
 
 「 ………… ひとつ、障壁を持っていかれたか。なるほど」
 
 現れたのは、まるで感情を感じられない表情の少年。
 その貌と髪の白さが際立って、まるで死神の様にさえ感じられる。
 
 「全く、傍観に徹しようと思えばこれだ」
 
 「誰だ」
 
 「名乗るほどの者じゃないよ。そうだね、その代わりお姫様を返そう」
 
 「おま …… っ、なに言うとんのや!?」
 
 千草が気を取り戻す。
 白髪の少年が口にしたことは、千草にとってそれほどまでに衝撃的だったからだ。
 
 「 …… 分からない人だね、貴方も。この状況を見てどうすればいいって言うんだい?」
 
 仰々しく腕を広げて『この状況』を指す。
 ネギがいて、明日菜がいて、刹那がいて、イレギュラー …… アクセルがいる。
 対して、こちらは二人。
 そういうことを言いたいのだろう。
 
 「っく」
 
 「 ………… そういうことだ、イレギュラー。ここは退いた方がお互いのためだと思うんだけど、どうか?」
 
 「 …… いいぜ。コノカちゃんが返ってくるなら、今はそれでいい」
 
 「助かる。では、よろしく頼むよ」
 
 白髪の少年は抑揚なく言って、木乃香をアクセルに手渡した。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「あぁ、そうだ。イレギュラー。君の名前を教えてくれないかな?」
 
 「 ………… アクセル・ロウだ」
 
 「へぇ、存外素直だね、じゃあ ………… 」
 
 白髪の少年はアクセル先生から視線を外し、詰襟の懐に手を入れ、小瓶を取り出した。
 なんだ …… !?
 
 「そんなに身構えなくてもいいよ」
 
 言っても信じないだろうけど、とほざき、瓶を地面に落とした。
 なにか細工でもしてあったのか、中身の量が湯船ほどもあった。幸い、ヤツの言った通り何の害もないただの水のようだ。
 構えを解きつつ、警戒は怠らない。
 
 「月詠、行くよ」
 
 「あ、はい~。刹那センパイまたやりましょな~」
 
 誰がやってやるものか。
 貴様等の酔狂に付き合ってなどいられない。
 
 ず、とぶち撒けた水に体が沈んでいく。転移か。
 
 「そうだ、ネギ・スプリングフィールド」
 
 「えっ!?」
 
 「思った以上に早い邂逅になった。近いうちにまた会おう、君が生きていれば」
 
 言い終ると同時、ヤツら全員が水の中に消えた。
 
 「あ、くっそ …… あいつら~」
 
 「追う必要は、というより追えないでしょう。相手は転移を完了してしまったようですから」
 
 むぅ、と地団太をふむ神楽坂さん。
 …… そうか、私はまたお嬢様を守れなかったのか。
 もっと、もっと強くならなければ …… 守れるものも守れない。
 もっと、守るために強く …… !
 
 「 …… と、そうだ! あの女、薬がどうの呪符がどうのって言ってたがこのか姉さんは大丈夫か!?」
 
 カモさんがそう言う。
 まさか …… っ!?
 
 「お嬢様っ!!」
 
 アクセル先生に抱かれたままのお嬢様に近付く。
 
 「おいおいマジか、コノカちゃん! おい、コノカちゃんってば!!」
 
 彼も顔を青くしながら呼びかける。
 一体、なぜここまで……学園長に言われたからと言って …… それにあの力は ……
 
 「 …… んぅ」
 
 「お嬢様!!」
 「コノカちゃん!!」
 「このか!!」
 「このかさん!!」
 
 「あ、あれ …… みんなどないしたん?」
 
 胸にわだかまり続けた焦燥感が波が引くようになくなるのがわかる。
 …… よかった。
 
 「よかった、本当によかった」
 
 「ひゃぅ? あ、アクセルせんせー?」
 
 アクセル先生は本当に大事な物を抱く様にお嬢様を抱いた。
 
 「ほら、セツナちゃんも!」
 
 「せ……っちゃん?」
 
 いきなり話を振られる。
 まだ少しうつろな目でお嬢様が見上げてくる。
 今は、言い訳なんていらない。
 
 「よかった …… もう、大丈夫ですから。このかお嬢様」
 
 「 ……………… 。 …… よかったぁ。せっちゃん、ウチのこと嫌ってる訳やなかってんなー …… 」
 
 ふわりと、彼女が微笑む。
 目には涙の粒を溜め、本当に嬉しそうに……こんな私のタメに笑ってくれている。
 
 「そりゃ、私やって …… このちゃ …… っ!!」
 
 何を、している!?
 守れなかったじゃないか、強くなんてなかったのにっ!
 それなのに、私は何故 …… 私まで何故喜んでいる?
 違うだろう!!
 
 「し、失礼しました」
 
 ゆっくりと跪く。頭を垂れ、お嬢様を視界に入れない。
 見てしまえば、今度は私が泣いてしまう。
 悔しくて悔しくて、私が泣いてしまう。
 
 「せっちゃん?」
 
 「至らぬ無礼、どうかお許し頂きたい。私はただ貴方を守るために強くなる。次があるならば …… いえ、次など造らせません。私の喜びは、ただ貴方を守ることにある」
 
 またゆっくりと立ち上がり、踵を返し階段を降りていく。あとは彼らに任せればいい。
 階段も終りというところで声がかかる。
 振り向くと、神楽坂さんが大きく手を振っていた。
 
 「明日ぁーっ!! 班行動一緒に回らなきゃ怒るからねぇっ!!」
 
 曖昧に笑って誤魔化しておく。
 私にそんな暇はない。もっと、もっとだ。
 もっと強くならなければならない。お嬢様をもう傷つけないために。
 もう ――――― 後悔しないために。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 今日は何事もなく過ぎていった。
 昨日、あんなことがあったってのに元気なもんだ。
 セツナちゃんも何だかんだと言って、結局押しに押されて今日は一緒に回ったらしい。
 
 あとは、ネギが魔法がバレた、とかも言ってたっけ。
 そのことは解決したからいいとも言ってたな。
 
 「いやぁ、ホントおっかねェな。ミスタ・ニッタはよー」
 
 「だから言っただろ?」
 
 旅館の外回り、自販機の明かりを頼りにセルヒコとだべり合う。
 ちなみに話題はさっきのニッタのことだ。あれくらいいいんでないの? ちょっとした反動だろうし。
 そもそも昨日は酒に酔って潰れてたわけだし。それがダメなんだけどね。
 
 「お、ネギ君」
 
 「あ、お疲れ様です瀬流彦先生、アクセル先生!」
 
 「君も外回り?」
 
 「一応そうです。それになんだか旅館の方にいちゃいけない気がして」
 
 それじゃあ、と言ってネギは走り去る。
 その後ろ姿に手を振りながら、セルヒコに感想を聞いてみる。
 
 「ネギってすげぇよな」
 
 「そうだよねぇ。僕があの位の時なんてもう」
 
 話せるもんじゃないね、と肩をすくめる。
 俺が、ネギ位の頃は …… あぁ、そうか。殺し合いだ。
 
 「俺も、人に話して気持ちの良いもんじゃねぇわ」
 
 「お互い様ってことで」
 
 今なら笑える。少し温くなってきた缶の紅茶をちびちびと飲む。
 ホントは酒が欲しいところだが、ニッタのあの様子を見てちゃ無理そうだったしな、我慢我慢っと。
 
 「アクセル先生」
 
 「ん?」
 
 セルヒコが少し気難しげに口を開く。
 コメディ的には紅茶を吹き出す準備は出来てるぜ?
 
 「僕も、魔法使いなんだ」
 
 「っゴ、ブゴぁっ!?」
 
 吹き出すどころか、気管に詰まってむせてしまった。
 おいしくねぇ。
 
 「ちょ、大丈夫か?」
 
 「オッケーオッケー。俺のことは誰から聞いてんだ? 仙人か?」
 
 「うん? …… あー学園長じゃないよ。ウルスラの高音君だよ」
 
 「あー! タカネちゃんね!」
 
 納得だわ。
 俺が来たときにいろいろ言ってくれたらしいしな。
 本当にいろいろ大きい子だよな。
 
 「それで、今どんな事が起きてるのかもそれなりに学園長から聞いてる。僕は戦闘じゃほとんど役に立てないけど、君の支えになれればって思ってる」
 
 「お前 …… 」
 
 「ま、気休め程度に愚痴でもこぼしてくれよ。僕は聞くから」
 
 「セルヒコ …… お前すっげぇいいヤツだなぁ!!」
 
 「知ってるだろ?」
 
 「確かにな!」
 
 男二人で、しかも時間も遅く、旅館前。
 バカみたいに笑い合う。
 ひときしり笑った後、ほとんど冷めきった紅茶を飲み干す。
 
 「そらっ!」
 
 「ナイス」
 
 空き缶をごみ箱に投げ入れる。
 じゃあ、僕も。とセルヒコもくぃっと炭酸飲料を飲み干し、投げるものの外れた。
 
 「なーにしてんだよ」
 
 「いや、面目ない」
 
 と、ここで携帯に着信が入り、同時に
 
 「なっ、魔法陣 …… これは、契約の?」
 
 セルヒコが何やら驚く。気にしつつも携帯のディスプレイに目をやると、発信者は仙人だ。
 
 「もしもし、なんかあったのかジイさん」
 
 『うむ …… 少々、拙い』
 
 セルヒコがブチブチと不満をこぼしながら寄って来る。誰から? とジェスチャーで聞いてくるので、こっちもジェスチャーで仙人、と答える。
 
 「なんだよ、もったいぶって。はっきり言えよ」
 
 『イノが来たのじゃ』
 
 「 ………… 。それで、どうなった?」
 
 『うむ、冷静で助かるぞい』
 
 実はの、と一端間を置くと、受話器の向こうで何かを言い争う声がしてから仙人が戻ってくる。
 
 「どうしたんだよ、ホントに」
 
 『手短に話そう。今こっちも対応に追われてるでな』
 
 ゴホン、とせき払いをひとつ。
 受話器越しに緊張が伝わる。イノが来た、ということは恐らく
 
 『タカミチ君が重傷。今回収班と医療班が帰って来たところじゃ。随分衰弱しておる、血が流れすぎておるようじゃ』
 
 「タカミチって …… マジかよ」
 
 セルヒコが何事かと言い寄ってくるが、ここは待ってもらう。手で制してから仙人に話の続きを促す。
 
 『覚えとるかの、君がロボ娘ちゃんと呼んだ娘じゃ。名を茶々丸と言うのじゃが …… そちらは中破。機能回復は目一杯トばして修学旅行明け』
 
 あの娘か。
 ダンナがやったときは確か大破とか言ってたから、まだマシか。
 
 『イノは、そちらにおるぞ。エヴァが言うには、正義がどうの言ってたらしいが …… 心当たりは?』
 
 「正義? 悪の間違いじゃねぇのか」
 
 『ちょっと待ってくれ …… 』
 
 奥のほうで何やら怒鳴り声が聞こえる。
 その声は聞き間違いじゃなかったら女の子の声だ。
 
 『ふむ、アクセル君。間違いはないようじゃ。ジャパンを消す云々とも …… 』
 
 「あ? 消す …… ? 正義って、ちょっと待て」
 
 ジャパンを消したのは何だ?
 ギアだ。
 正義 …… つまり
 
 「ジャスティス …… ッ!?」
 
 『うん?』
 
 「おいジィさん、こりゃ思ったよりマジでヤバイぞ。ジャパンを消すってのはあながち嘘じゃねェ」
 
 『 …… 何じゃと?』
 
 「俺らの世界には《魔法》が産み出した生態兵器《ギア》って奴らがいる。大体そうだな …… ザコで鬼の大将格あたりの強さだ」
 
 仙人は黙りこくって聞いている。
 息をする音だけが耳に届く。
 
 「詳しくはソルのダンナに聞いてもらったほうが良いけど、ソイツらの指揮官 …… つーか親玉が《ジャスティス》ってヤツなんだよ。俺らの世界にはジャパンが存在しない。そいつが沈めたからだ」
 
 『なんたることじゃ …… !』
 
 事の重大さが明々白々となってきた。
 だが、ひとつだけ気になることがある。
 
 「でもよ、その《ジャスティス》はダンナに破壊されたはずなんだ。近頃量産しだした馬鹿野郎がいたけど、その《ジャスティス》は本物の5分の1も出力が出ないってダンナから聞いた」
 
 『それを流すと?』
 
 「多分違う。イノはきっと本物の方を言ってるはずだぜ。数分で街ひとつ落としちまうようなバケモンのことをな」
 
 『それはおかしいのぅ』
 
 「とにかくダンナに《ジャスティス》のことを知らせてくれ。腰の重いダンナもさすがに動くと思うからよ!」
 
 『 …… 腰が軽いのはお前じゃねェのか、あ?』
 
 「だっ!?」
 
 いつの間に変わってんだよ、ていうかいたのかよ!
 今のは真剣に心臓に悪かった。さっきまでは胃に悪かったけど。
 
 『で、テメェはどうするんだ』
 
 「そりゃ、どうって ………… 」
 
 セルヒコはいよいよ冷や汗をかき始めている。こっちだけしか聞こえないとは言え、内容を読み取れないバカなはずがねぇからな。
 
 にしても、イノかよ。
 勘弁して欲しいぜ。それに多分、アイツもコノカちゃんを狙ってるはずだ。元の世界に帰れるだけの“デカイ力”を持ってるらしいしな。
 いや、そうじゃなくて。
 あーぁぁあああああああああああ、もう!!
 
 「どうにかするしかないっしょ、“俺様”が」
 
 『ふん …… ま、がんばんな』
 
 ブツン、と通話が切れた。
 向こうのことはとにかくダンナ任せにするしかねェ。
 俺様はこっちだ。イノだ、コノカちゃんだ、修学旅行だ。
 
 「アクセル」
 
 「わーかってるって、気楽に行こうや。人生なるようになったモン勝ちだぜ?」
 
 今は、そうだな。
 まずは明日の予定をネギに聞こう。
 塵も積れば山となる、だっけか。だったら、もともと塵なんだから気にするようなことじゃねェ。
 吹けば飛ぶし、押せば崩れる。
 そう、それだけ。
 
 「さ、派手にいきますか!!」
 
 それだけしか、出来ねぇからな。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 向こうは修学旅行2日目。時刻は午後1時14分。
 ――――― 彼女は目の前に現れた。
 
 「あん?」
 
 開口一番、彼女は不満を態度と口で示す。
 対する距離は約30m程か。
 紫煙を肺一杯に吸い込み、吐き出す。
 
 「やぁ」
 
 視界は悪くない。森の中でも開けた場所を選んだのは、僕の戦闘スタイルを知る学園長ならではの配慮だ。
 大体120×80㎡といったところか。十分だ。
 
 「来てもらってスグで悪いね。お帰り願えるかい」
 
 「は。てめぇの粗チンたぶらかしてから帰ってやるよ」
 
 「 …… ふ。僕のはキカン坊でね。それなりにしんどいと思うよ」
 
 「言うじゃねェか、カスが」
 
 目的は聞いても無駄。来たのなら、ただ殺す。
 倒すなんて生易しいものじゃ、先に喰われる。殺す。
 
 「ところで、カス野郎。ここは麻帆良学園でよろしいのかしら?」
 
 「あぁ、間違いないよ。ここから西にだいたい2kmで学園都市だ」
 
 「ありがとう。なら、案内でもしてくれるのぉ~?」
 
 「とことん舐められてるね」
 
 「うふふ、気持ち良いでしょう?」
 
 ふらふらと表情が変わって真意が掴めない。
 彼女は一体何の目的があるのだろうか。いや、止めろ。考えるな。
 
 「言っただろう。お帰り願いたいと」
 
 「 ………… そっちも分からず屋ねぇ」
 
 手に持つギターを構える。
 
 「ドケッてんだよ、殺されてぇのかテメェ!」
 
 「いいよ、話が早い。殺すか殺されるか。いやね、僕も機嫌が悪いんだ」
 
 ポケットに手を突っ込む。
 咥えたタバコも残り少ない。
 
 「一服もたせてくれるかい?」
 
 紫煙を吐き出した。
 
 
  



               track:11  end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

意気込み

タイトルに意味はありません。
ども、草之です。

いよいよ年末です。
時間が有り余ってます。朝から晩までSSを書き続けているわけではないんですが、手持ち無沙汰なわけです。

エスコン5とフェイトのレアルタ(HFルート・タイガースタンプ集め)を交互にしながら暇つぶしにもならない時間を過ごしています。あと、ニコニコでアンコの対戦動画を見てはテンションを上げ続けています。
もっぱら138さんところの対戦動画です。『おえっぷざまぁw』はいつ見ても面白い。ライダー使いたいんで参考にもなりますし。おえっぷさんはコンボ精度高い。

明日は久しぶりに散歩でも、と思いましたが、先日の捻挫が未だに完治せず、走れない。階段を速く降りられない。階段を2段飛ばしで駆け上がれない。湿布が手放せない。自転車に乗ってみて「お、案外イケんやん」と思った途端足に痛みが。
そろそろ真剣に「これ、大丈夫か?」と心配しだした次第です。そういえばお医者さんは「来週の今頃(現在の明日)来てください」て言ってたっけな。面倒だけど行かないと心配なんで行ってきます。



さて、日記らしい日記を徒然ったところで今週の更新予定です。

明日に『B.A.C.K』
週中に『優星』
週末に『背徳の炎』

を予定しています。
『背徳の炎』はもしかしたら少し遅れるかもしれません。

では、草之でした!

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:1-4

 
 「む」
 
 「ん」
 
 お互いに夕食のトレイを持って立ち止まる。
 時間がマズかったのか、今現在空いている席がここしかない。相席だが。
 
 「 ………… 」
 
 共に無言でその席に腰を下ろす。
 向こうは『話さなければ空気も同じ』程度に思っていることだろう。
 
 「ユーリ」
 
 「何だよ」
 
 相変わらずの態度で返される。
 いや、今は向こうの方が上官なのだが …… 。
 む。そういえばユーリはそのことでなにも言わないな。てっきり、黙れぐらいは言うものと思っていたのだが。
 
 「いや、ユークリッド隊長の方がいいか?」
 
 「やめろ。それだけは」
 
 静かに唸って、フォークを持つ手に力を込めた。
 握り締めたフォークがバキッと音をたてて真っ二つに折れる。
 
 「 ………… すまない」
 
 「お前の …… で …… と …… な」
 
 「? すまん、聞こえなかった」
 
 もう一度言ってくれと促すと、次はナイフをテーブルに突き刺し、そのまま食堂から去っていった。
 
 「 …… またか。どうして …… 」
 
 折れたフォークと、刺さっているナイフ。
 まだ手もつけずに残っている料理は、むなしく湯気を出していた。
 
 「私の何がお前をそうさせる? 教えてくれ …… ユーリ」
 
 誰にも聞かれまいと口の中で囁く。
 テスタロッサに相談したときから、こういう態度をとられると胸が苦しくなる。
 とても、痛い。
 
 「シグナム …… 」
 
 「っ、テスタロッサ …… いたのか。騒がせたな、すまん」
 
 見ると、さっきまで満席だった食堂ががらんとしている。
 嫌なお約束になりつつあるな、と、そう苦笑する。
 
 「今回は?」
 
 「なに、『ユーリよりユークリッド隊長と呼んだ方がいいか』と聞いただけだ」
 
 「う~ん? よくわかんないね、彼。そういえば、なんだけど」
 
 「なんだ?」
 
 「シグナムにしては彼のこと、愛称で呼んでますよね」
 
 珍しい、と言う。
 そう言えばそうだ。
 
 「話していなかったな」
 
 「聞いてませんよ」
 
 アレは私が第1039航空部隊へ着任したときの話になる。
 
 
 *  ~  *  ~  *
 
 
 「これから、よろしく頼みます」
 
 朝礼時、シグナムの紹介が終り、では業務に戻ろうという時。
 
 「シグナム三尉、と言うのですか」
 
 「む。そうだが …… 君は?」
 
 「ユークリッド・ラインハルト三尉です」
 
 「そうか、君が。私が配属された分隊の副隊長だったな。隊長については残念だったな」
 
 「いえ」
 
 ユークリッドはシグナムの眼から視線を離さない。
 少し危なっかしい目付きでシグナムを見詰めている。
 
 「私の補佐、よろしく頼むとしよう。そうだな、ラインハルトと ――― 」
 
 そう言うと、まるで苦虫でも噛み潰したような顔になって、あの、と話し始める。
 
 「できれば、“ユーリ”と呼んでもらいたいのですが」
 
 シグナムは疑問に思いながらも、そこまで言うならと了承した。
 
 「わかった。ではユーリと。階級は同じ、私個人でも畏まった態度はあまり好きではない。崩してくれても結構だ」
 
 「 …… あぁ、ありがとう。シグナム」
 
 彼は、どこか救われたような顔をして微笑んだ。
 
 
 *  ~  *  ~  *
 
 
 と、出会いのあらましをテスタロッサに話してやると、少し意外そうに、というより、なぜと首を傾げた。
 
 「自分から …… ? 私達がそう呼んでいいかって聞いたら、止めてくれって断られたのに」
 
 「らしいな。私と同じように呼ばれるのが嫌なのかもしれないが、主はやてを見ていると、どうもそうには見えなくてな」
 
 「はやてもユーリ、ですからね」
 
 あぁ、と同意しておく。
 あの頃のユーリは私の一挙一挙に反応して悲しそうな顔をして、気が付けば今のような関係になっていた。
 ユーリは私に何を見ている。
 もしそうだと言うのなら、ユーリ、教えてくれはしないのか?
 私に、何を求めているんだ?
 
 「あんまり気にしないでって言っても、無理なんですよね」
 
 「そうだな。そうだ」
 
 考えていても仕方ない。
 こういう問題は考えたところで答えは相手の腹の内だ。なら、考えるだけ、悩むだけ時間の無駄だ。
 私は私のやり方で、ユーリと付き合っていけばいい。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「まさに一触即発、って感じだったね。ティア、なんでか知ってたりする?」
 
 「ユークリッド隊長はどうしてあんなに怒ってたのか、エリオ君知ってる?」
 
 スバルは夕飯のパスタを盛った皿ごと退避して、キャロはちゃっかりリンゴを持ってきている。
 アンタ達、逞しくなったわねー。スバルは元からこうだけど、キャロまで毒されちゃって …… 。
 
 「僕は、ちょっと前に同じようにしてるところを見たことがあります」
 
 ティアナさんは? と、当然のことの様にアタシにまで話題が回ってくる。
 
 「あー、ちょっと前になのはさんに聞いたことがあるんだけどね。前の部隊にいた時からああらしいわよ」
 
 コレ以上詳しくは知らないけど。なのはさんはなのはさんで「本人に聞いてみたらどうかな?」と軽々しく言ってくれた。
 無茶な。
 
 「六課の七不思議、みたいな?」
 
 とはスバル。アンタ訓練校でもそんなこと言ってなかったっけ?
 行くところが変わっても、人なんてそう易々とは変われないってこう言うのを言うんだわ、きっと。
 
 「七つも不思議なんてないでしょ?」
 
 「しょりゃ、ほぅらへど …… 」
 
 「食べてからしゃべるの! 全く」
 
 でも、まぁ不思議って言えばそうなのよね。あんなに気が利いてそれなりに優しい人なのに。
 あれ、この評価って微妙かも …… ?
 
 「これってさー。もしかしたらアレじゃない?」
 
 この子は …… またややこしい事言うわよ、絶対。しかも相当的外れな。
 
 「八神部隊長と、シグナム副隊長と、ユークリッド隊長の三角ドロドロな関係!!」
 
 「無い。それは絶対に無い」
 
 「え~? ティアも入れた四角関係?」
 
 「何でそこでアタシ!? 違う違う!!」
 
 不意打ちすぎるわ。
 スバルの天然ってどうにかなんないのかなぁ。
 頭が痛くなるわ、ホントに。
 
 その少し後、寮に戻ってからユークリッド隊長本人から今日のチェスはなし、と連絡を受けた。
 ことの真相は、まだまだ闇の中である。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「はい、整列」
 
 『『はいっ!』』
 
 号令でタタタタッと素早く整列するフォワード陣。
 肩で息をし、体中泥だらけだ。
 
 「みんな、まだ大丈夫? 走れる?」
 
 「まだまだ行けます!」
 
 そう言ったのはティアナだ。
 その答えに肯定する様に次々に頷いていくみんな。
 
 「よし。じゃあ本日の早朝訓練、ラスト一本 …… 行くよ!」
 
 『『はいっ!』』
 
 ほとんど空元気だろう。
 けど、まだ行けます、と言ってくれた彼女らを信じたい。
 
 「それじゃあ課題は …… 」
 
 一同がゴクン、と唾を飲みこむ。
 その様子を見てから、私の隣でずっと見学中のユークリッド君を指差す。
 彼はやっぱり、と諦めた様に呟く。気にせず私は続ける。
 
 「ユークリッド君に追いついて一撃入れる!! 制限時間は5分ね」
 
 「うへ」
 
 嫌そうに顔を歪める。
 
 「あと、チャージモードは使ってもいいけど総計5秒まで。それ以上使ったらデバイスモードに強制変換、よろしくねジークフリード?」
 
 《Yes,momm》
 
 そこまでするかよ、と愚痴ってから仕方ないと諦めたのか、頭を掻く。
 そして
 
 「よーし、ならもうひとつハンデだ。オレは総計30秒しか飛行魔法を使わない。それ以上飛ぶようだったら強制停止をかけるようにジークに言っておく。いいか?」
 
 《Yes,sir》
 
 あぁ後 …… と更なる追加条件を出す。
 
 「回避訓練も兼ねよう。こっちの勝ちが時間切れだけじゃ辛い。ひとり一撃まで」
 
 言うことは言ったと頷く。
 では早速と作戦を練りにかかるフォワード陣を一刀両断するが如く、叫んで追加報告。
 
 「思考時間10秒!! カウント」
 
 《10 …… 9 …… 8 …… 》
 
 アワアワするかと思いきや、慌てようとするスバルをティアナが制し、驚いて固まったキャロをエリオが戻す。
 パパッとティアナが軽い作戦を伝え、基本的な動きを指示していく。
 
 《7 …… 6 …… 》
 
 「レイジングハート、スタートカウント」
 
 《All light》
 
 ユークリッド君は構え終わり、フォワードの出方を見ている。
 残り3カウント。ジークフリードとレイジングハートが合唱する。
 
 《3 …… 2 …… 1 …… 》
 
 カウント2でフォワードは構え、
 
 《Start》
 
 「スバル!!」
 
 「うんっ!!」
 
 爆発的な加速をもってユークリッド君に肉薄する。
 
 「やあぁぁっ!!」
 
 「動きが直線的すぎだ!」
 
 と、説教を入れつつ足払い。スバルは大きく後ろに吹っ飛ぶものの、ウィングロードの展開で持ち直し、再び突進できるチャンスを窺がう。
 先のスバルの突進に間髪入れず、ティアナが撃っていた。しかし、それに対し、
 
 「ジーク!」
 
 《Charge mode》
 
 チャージモードへの変換、同時に直上へ急速上昇。
 
 「モードリリース、ストレイト!!」
 
 《Straight shooter》
 
 スバルではなく、移動して少しいい位置にいたエリオへの無誘導射撃魔法。
 案の定、キャロのブーストを受けていたエリオは堪らず回避。ブーストチャージは中断。
 容赦ないなぁ。
 
 次いで、自然落下しているユークリッド君目掛けて直下からの強襲。
 スバルだ。
 
 「でぇやっ!!」
 
 「直線的だって言ってるだろ!」
 
 ギリギリまで引き付けて、スバルの肘を打ってナックルを逸らし、空中姿勢を整える。
 
 「そこだっ!」
 
 「ちィっ」
 
 整え終わる直前、ティアナの射撃が襲う。
 彼はここで始めて飛行魔法の行使。
 飛びながら射撃を避け続け、細かくエリオとキャロへの牽制も忘れない。
 知り合ってずっと思ってたけど、ユークリッド君って多分私より思考分割に長けてると思う。
 本局の一部でも、『彼は常に右と左を同時に見つづけている』とか言われてたしね。
 
 「スバル、追い越して回りこんで!」
 
 「リョーカイッ!!」
 
 ウィングロードがユークリッド君の脇を抜けていく。
 そう、スバルのスピードなら追い越せる。
 
 「行っくぞぉ――――――っ!!」
 
 走り出したスバルはほとんど時間を置かず、ユークリッド君を追い越し、旋回。
 挟み撃ちのカタチが出来あがった。
 ………… エリオとキャロは、どこ行ったんだろ? いつの間にかいなくなってる。
 
 「よしっ、挟んだ!!」
 
 ここぞとばかりにカートリッジをロード、クロスファイアで弾幕を張る様に撃っていく。
 スバルの方も同様にロードし、スピナーの回転速度を上げ、突進。
 と。
 
 《Cancellation》
 
 ユークリッド君の体が沈む。いや、落ちている。
 飛行時間のリミットがきたのかな。なるほど …… 彼はコレを計算に入れてたのか。
 スバルの方はそれで避けられたけど、
 
 「逃がさない!」
 
 魔力弾をコントロール、弾道修正、直撃コースを取る。その数5。
 だけど、彼にはコレを避ける術が残っている。
 
 「ジーク!」
 
 《Intercept》
 
 え、あれ?
 チャージモード使わないんだ?
 ティアナのクロスファイアに向けて、ジークフリードがアクセルシューターで迎撃。
 数で勝るアクセルシューターがティアナに向け殺到する。
 
 「くぅっ!!」
 
 大きく横っ飛びして回避していく。ユークリッド君の誘導弾だから避けられたね、あれ。
 
 「エリオ、今ッ!!」
 
 と同時に仲間への呼びかける。
 建物の影からブーストを完了したエリオが飛び出し、フォワード中最速の突進力でユークリッド君の着地に合わせ攻撃を仕掛ける。
 
 「上手い …… !」
 
 思わず口にした。ユークリッド君の作戦をも想定した戦略の組み立て。
 毎晩一緒に探り合いしてるだけはあるかな?
 これは避けられないかもしれないけど、どうだろうね。
 
 「ジークフリード!!」
 
 《Charge mode,standby》
 
 着地寸前、直撃の直前。
 ユークリッド君はエリオを振りきってティアナに突撃する。
 ブーストをかけてるエリオ以上のスピードって …… すごいなぁ。
 
 「くっそ、ストラーダ!!」
 
 《Explosion!》
 
 カートリッジロードからの更なる加速。
 徐々に近付く距離と、それに狙いを定めるティアナ。
 
 「行っけぇ!!」
 
 ――― ボシュン。
 
 「うぇっ、嘘!?」
 
 デバイストラブル。
 ユークリッド君は目の前まで近付き、
 
 《Cancellation》
 
 チャージモードの制限時間が切れ、デバイスモードへ戻る。
 その直前、彼は地面に滑り込んで姿勢を低くする。
 
 「うわぁっ!?」
 
 「キャァッ」
 
 エリオは勢いを弱めることはしたけれど、あのスピードがそうそう止まるはずも無く、ティアナに衝突。こんがらがって転がっていく。
 
 「ははっ、甘い甘い!!」
 
 楽しんでるなぁ。これ訓練なんだけど。
 多分、分かってるとは思うけど、まだ終ってない。
 時間にすれば残り2分27秒。全員生き残り。
 
 「でやぁっ!!」
 
 スバルだ。
 
 「おっとと」
 
 地面をくるりと転がりながら、直上からの攻撃を避ける。
 そのまま体のバネだけで飛び起き、構える。
 その時 ―――
 
 「フリードっ!」
 
 可愛い鳴き声が聞こえ、その声に騙されがちな威力の火炎弾がユークリッド君の背後から放たれる。
 
 「なんのっ」
 
 ぐりん、と体を捻って火炎弾を避ける。
 しかし、そこを見逃すスバルじゃない。体勢を崩したユークリッド君に殴りかかる。
 ここは防御か …… 花を持たせてあげるか。
 
 「ジーク、モードリリース!」
 
 《All light》
 
 え、モードリリース?
 一瞬でスタンバイモード、平打紐状のブレスレットになる。
 ユークリッド君の両手が空く。スバルが腕を振りかぶる。
 
 「でえぇあっ!!」
 
 「 …… ふっ」
 
 ………… あれ?
 
 「え、あれ? ちょ、あれぇ?」
 
 多分、本人が一番ビックリしてると思うんだけど、かくいう私も何が起こったのか分かっていない。
 
 「一人目、撃破」
 
 一発だけの無誘導の射撃魔法が“地に伏す”スバルの“背中”を撃つ。
 いつの間にか、ユークリッド君は立ち、スバルが倒れている図が完成していた。スバルの様子からして、ユークリッド君は攻撃を受けていない。
 
 「スバル …… ?」
 
 「スバルさん?」
 
 エリオとティアナが復帰する。
 それに対し、ユークリッド君はジークフリードを構えなおす。
 
 「D.S.Bシュート!」
 
 《D.S.B,shoot》
 
 D.S.B …… Dilrectional.Spell.bombshell.
 つまり指向性魔力榴弾
 着弾すると指向性のある小規模魔力爆発を放つ、誘導性射撃魔法。
 デメリットはこの魔法自体が複数でしかも複雑な公式を使用しているので一発づつしか発射出来ず、かつ弾速は遅いということ。
 どちらかと言うと設置系の魔法だ。
 
 「三人、撃破」
 
 ドム、と低い音をたてて爆発が起こる。
 爆炎が晴れると、おそらくその音と衝撃で気絶しただろう二人の姿が。
 
 残るのはキャロのみ。
 残り時間は1分切っている。
 キャロが勝つ方法はバインドで捕まえてフリードで攻撃、くらいかな。
 けど、今キャロはユークリッド君の視界に捕らえられている。
 その戦法を取ろうものなら、彼お得意の無誘導射撃魔法でバインド発動前に潰されてしまうだろう。
 
 「えっと ………… 降参です」
 
 キャロがおずおずと手を挙げて言う。
 仕方ないよね、これは。
 
 「終了ーっ!!」
 
 気絶してしまった二人のもとに集まって、今回の訓練のおさらいでも始めようか、としたとき。
 きゅるぅ、とフリードが鳴いた。
 
 「どうしたの?」
 
 「 …… うん? なんだかコゲ臭くないですか?」
 
 すんすん、と鼻を利かせると確かに臭う。
 
 「……それ、スバルのローラーからだぞ!?」
 
 ユークリッド君が指でスバルの足元を示す。
 そこにはプスプスとショートしながら煙を出しているローラーの姿が。
 
 「うわぁんっ!? や、やばぁっ!!」
 
 慌てて脱ぎ、腕に抱える。
 熱くない、それ?
 
 「あっちゃぁ …… しまったぁ、無茶させちゃったぁ …… 」
 
 「オーバーヒートかなぁ …… あとでメンテスタッフに見てもらおう?」
 
 「 …… はい」
 
 そう言えば ……
 
 「ティアナ、アンカーガンの調子は? 思いっきりトラブッてたが」
 
 言う前にユークリッド君が言い終わっていた。
 ティアナはコクン、と頷いてから
 
 「騙し騙し使ってる感じですね。少し前からちょっと …… 」
 
 ふむ、と唸って見せる。
 確か、そろそろ出来あがるはずだったなぁ。
 
 「みんな訓練にも慣れてきたし、そろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかなぁ?」
 
 「そういえば、出来あがりそうってシャーリーも言ってたしな。先に戻って聞いておいてやるよ」
 
 みんながポカンとするなか、話だけが進んで行く。
 とにかく。
 
 「みんな、まずは寮に戻ってシャワー浴びてから。それからロビーに集合しよう」
 
 はぁ、と気のない返事だけが返ってくるのだった。
  
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ほぅ。ガジェットが?」
 
 『はい。Ⅰ型が約30、Ⅱ型が約50、Ⅲ型が1でリニアレール中心に展開しました』
 
 映像を回す様に頼み、その映像がモニターに映る。
 なるほど、とにかく群がったという感じだ。
 
 「管理局は動いたかい?」
 
 『少々お待ち下さい ………… 。只今、機動六課と言う部隊が対応に当たる様です』
 
 「 ………… 機動六課。ふふん?」
 
 さて、このあたりで試したい事もある。
 いつまでもガジェット相手では向こうも退屈だろう。
 
 「クアットロ、いるかい?」
 
 『はぁ~い、ドクターお呼びですか?』
 
 「今、どのくらい溜まってるのか教えてくれないか」
 
 『え~っとですねぇ、大体1年経った今で2tってところですぅ』
 
 さすがの生存能力だ。減ればそれだけを瞬時に生成する。
 普通ならこれだけも溜まることはない。
 2tか、それなら確か …… 。
 
 「クアットロ、30リットルくらいを持ってリニアレール上1500フィートに待機しておいてくれ。六課という部隊がレリックを手に入れた時、やってくれればいい。君なら出来るだろう?」
 
 『もちろんですわ、ドクター。それでは、ごきげんよう~』
 
 モニターが消える。
 さて、全滅するならそれまでの部隊、もし倒されるようなことがあるなら …… 全てを賭ける価値ぐらいはあるだろう。
 
 『ドクター、どうなさるおつもりで?』
 
 「なに、いつもの気まぐれだよ。クライアントには事前に断りを入れておいてくれないか、もしかしたら、とね」
 
 『畏まりました』
 
 もうひとつのモニターも消える。
 
 「素晴らしい力に出会ったものだよ、私も。つまらないつまらないと思っていた世界に、まだこんなに面白い物が転がっているなんて。なかなか、私も捨てた物ではないなぁ」
 
 調べていた資料を横から見るのはあまり好きではないのだが、その時ばかりは違った。
 なぜなら、その程度のポリシーをかなぐり捨てるほどのことが、記されていたからに違いない。
 
 
 『マイン・ブルート・イスト・ヴェスト・シュランゲイン・コルプ』
 
 
 捜し求めていたあの“籠”より、より私好みの“籠”だ。
 それが今この手にある。
 
 「あぁあ、堪らないなぁ …… もっと知りたいなぁ …… どうしてなのかなぁ …… くふふ、くははっ」
 
 今私は、悦びを楽しんでいる …… !
 




             Act:1-4  end



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その優しい星で…  Navi:15

 
 いよいよ、アクアで迎える始めての年の瀬。
 24月に突入した。
 
 「エミヤンエミヤン。今日はウチ寄ってかないの?」
 
 「残念ながら野菜はまだあるんだよ。足りなくなったら買いに行くさ」
 
 「 ………… 今日はなんのお買い物?」
 
 「あぁ、今日は雑巾だよ。さすがに12ヶ月近く使い続けると寿命でね。あと年末の大掃除に向けて。本当はいらなくなった服で作るのがベストなんだけど、それも無くてな」
 
 「エコ戦士だね、エミヤン」
 
 「そういうお前はまたサボりか、アイナ?」
 
 あ、わかるぅ? と照れ笑い。わからいでか。
 
 「この頃さ、アリシアさん元気そうじゃん。なんかした?」
 
 「特に心当たりはないかな。ていうか話題を無理繰り変えようとするな」
 
 「いーじゃん。ちょっとは気になるんだからさぁ、私にも心配させてよねー?」
 
 「よろしく言っとくよ」
 
 そう言って、この寒いのに風通しの良いカンポでサボりを現在進行形で続ける猫娘に背を向け立ち去る。
 後ろから「またねー」と気が抜けるような声。
 彼女にはことごとく調子を崩される。アクア在住のあかいあくまのような存在だ。事ある毎にガンドをぶっ放さないだけ幾分かマシだが。
 
 さて、今日は見ての通り買い物に勤しんでいるわけだ。
 だが、以前とは違うところがある。アリシアの存在だ。
 彼女はつい2ヶ月前、アルトリアとなにかあったのか、急に仲良くなった。前々から仲良くはあったのだが、それ以上。
 その頃から、アリシアは思いつめた様に仕事に食いつくことはなくなった。逆に、どうしても早く帰って来たいのか、予約を取る数が若干数減った。ARIAカンパニー経営維持が揺らぐほどではないが、それでも減った。
 また、アルトリアに関しても、どことなく穏やかに過ごしている、と感じることが多くなった。張り詰めた緊張がなくなった感じだ。
 
 「これが続けば、いいんだよな …… 」
 
 見上げるわけではなく、視線だけ空に向ける。
 澄んだ冬の空はどこまでも青く、ネオ・アドリア海との境界が実に美しい。
 
 「よきかなよきかな」
 
 コレを護る事が、この世界での衛宮士郎の役割。
 『幸せの護り手』たる俺の、役割。それでいいはずだ。
 いいはずなのに、やはり、どこか落ち着かない。
 
 それは優しすぎるからなのかもしれない、この世界が。
 これが俺がなると決め、目指した『正義の味方』だったのだろうか。その終着駅だというのだろうか。
 違う。違うけど、わからない。本当に違うと言っていいのか、なにかが、ひっかかる。
 
 「 ………… 馬鹿野郎」
 
 なんで満足しない。
 遠坂も言ってただろう、『アンタはそういうことがないように人を救いなさい』って。
 これで、いいはずだろう?
 
 「わっ!?」
 
 「おっと、ごめん。よそ見してた」
 
 いけない。あまりにも考えにふけって周りを見ないなんて。
 これじゃあ、自分のために世界を切り捨てている様だ、なんて自分自身に皮肉ってみる。
 ぶつかったのはおそらくローティーンだろう少年だ。黒いマントを羽織り、丸いサングラスを掛けている。
 
 「多いな。持とうか?」
 
 「いえ、大丈夫です。コレくらい …… 」
 
 荷物の多さが俺とは桁違いだった。
 今日は雑貨しか買っていないわけで自作のバッグに有り余る。
 対して、少年は両手一杯の紙袋。身長が身長だからか、まるで米俵を担いでいる様にも見える。
 
 そして、彼が大丈夫と言った手前、見守ることしか出来ないわけで。
 
 「ふぅ、よっと。 …… よい、しょぉっと。 …… ふぅ」
 
 すごく、心許ない。
 やっぱり無理だ。手伝おう。
 きっと言っても断れるだけだろうから、ここは実力行使。
 少年の抱えている紙袋をひとつ奪う様に取り上げる。
 
 「あ」
 
 「意地は張るものだが、張りすぎて怪我をしたら元も子もないからな」
 
 「ど、どうもありがとうございます」
 
 「礼はいい。俺が勝手にしてることだしな。買い物か?」
 
 「はい、僕たち地上に出ることが少ないんで、いっつも買い溜めるんですよ」
 
 「ん? 地上に出ることが少ない?」
 
 「あ、名乗り遅れました。僕は『地重管理人[ノーム]』のアルと申します」
 
 ノーム。
 と、言うとあれか。
 アクアの重力を1Gに保ってるっていう。
 
 「俺は士郎。衛宮士郎だ」
 
 「士郎さん、ですね。よろしくお願いします」
 
 礼儀の出来た子だ。アイナに見習わせたい。
 さておいて、これほどの荷物。ノームは相当上に来ないらしい。
 
 「まぁ、だからこんなに買い物しちゃうんですけどね」
 
 あっけらかんと笑うノームの少年、アル。
 精神年齢が高い子だなぁ。だからって達観してるわけでもなし、年相応の反応もするときた。
 大人としては、絡みやすい子だ。俺の好感度はうなぎ上りだ。
 
 「 …… ところで、士郎さん。ちょっと訊いていいですか?」
 
 「構わないよ。答えられる範囲で答えとこう」
 
 「身長、すごく高いですよね …… どれくらいあるんですか? 頭2つ近く違うから、190?」
 
 「そうだな …… 」
 
 久しぶりに自分の体を『解析』する。
 こちら側に来てからというもの、体調を崩すことも無かったし、戦闘なんてもちろんなかったから、こうして『解析』するのは飛んだあの日以来ってことになるか。
 
 「18 …… 7か。うん187cmだ」
 
 「高いですねぇ。僕もそれくらい欲しいです」
 
 「はは、これからだろ?」
 
 「そうですかね?」
 
 「あぁ。俺だって昔から身長が高かったわけじゃないからな。16、7歳まで170もなかったんだ、アルだってこれからさ」
 
 空いている手でアルの頭を少し乱暴に撫でてやる。
 わっ、と驚いて体をすくませる。
 
 瞬間、アルの体にも『解析』を掛ける。
 骨や筋肉にはコレといった異常はない。これからもちゃんと栄養をとって、運動して、よく眠ればそのうちぐっと伸びるはず。
 ただ。
 
 「もぅ、子供扱いはしないで下さいよ …… これでも僕、大人なのになぁ」
 
 「やっぱりな。会ったときはローティーンかと思ったけど …… 」
 
 「え? 分かるんですか?」
 
 「あぁ、まぁ、な …… 」
 
 そして、こちらに来てからの常套句となってしまったあの言葉。
 
 「俺は魔法使いなんだ」
 
 「ええぇっ!? ま、魔法使いですか!?」
 
 そして、こちらが驚くほどの反応をしてくれたのはアルが初めてだったりする。
 
 アリシアは「貴方がそう言うんなら、そうなんでしょう?」とすんなり受けとめ、
 灯里は「うわぁっ! 本当ですか、すごいすごぉーいっ!!」と自分のことのように喜び、
 藍華は「本当ですか? 嘘ぉ?」と真っ当な反応を返し、
 アテナは「 ………… 」。アテナは不思議そうにこちらを見詰めた。
 今振りかえってみると、建前上魔法使い、実際魔術使いだってことを知ってるのはこの5人と、確かアテナと相部屋のア、ア……アリスだったか、だけだ。
 
 「本当に本当ですか!」
 
 「本当に本当さ。ま、半人前で出来ることも限られてるけどな」
 
 「半人前 …… ですか、同じですね。僕もまだ半人前なんですよ。あ、19です」
 
 「 …… 19か。結構つかってるだろう?」
 
 「あはは。わかります? 人に話すとみんな驚いてくれるんですよ。まぁ、複雑ではありますけど」
 
 アルは自嘲気味に笑う。
 アルからすれば「人を見掛けで判断するな」ってことでそう言うことをしてるんだろうが、まぁ、反動はもちろんあるってことだろう。
 懐かしいな。俺も童顔と相俟ってよく中坊に間違えられたっけな。
 なかなか親近感の湧く人物だ。俺の好感度はさらに上がる。
 
 「ノームが太陽の光に直接当たることはかなり少ないです。それによって細胞や脳がいろいろと細かく反応するんでしょうね、僕たちは基本高くても170cmに届きません」
 
 「なるほどな。生態学には明るくないが、それなりに理由は分かる」 
 
 「でも、小さくってもできることはあるんですよ。ほら、普通入れないような場所にだってするって」
 
 「モノは捉えよう、てことかな」
 
 「はい!」
 
 談笑も長く、5分も歩いただろうか。
 視界が開け、それなりの大きさの水路に出た。そこには小型のゴンドラが一隻だけポツンと停められている。
 それを見て、みんなもう行ったのか、と隣でアルが呟いた。
 それは ……
 
 「悪い。俺と話しすぎたな」
 
 「え、いえ! 士郎さんのせいなんかじゃないですよ!」
 
 「そうか? …… ってコレ、全部入るか?」
 
 ふと、ゴンドラのサイズに問題を感じた。
 アルはモノは試しと荷物を乗せていく。
 
 「やった、全部乗りましたよ!」
 
 「 …… いや、だがなぁ?」
 
 これじゃ、アルが乗れないんじゃないのか?
 
 「 …… ふらぁ~」
 
 「って、おい!」
 
 アルが突然たたらを踏んでよろける。
 それを受けとめ、すぐに立たせてやる。
 
 「どうもすみません。ちょっと太陽に当てられて立ち眩みが」
 
 「大丈夫か?」
 
 「大丈夫ですよ」
 
 いつものこと、と雰囲気で答え、さて荷物をどうしようかと思考を始める。
 返品か、それとも俺が後で持って行ってやるか。
 
 「 …… やっぱり、衛宮さんじゃん」
 
 「士郎さ~ん!」
 
 「藍華。灯里も」
 
 声を掛けられ見上げると、知った顔の二人組が歩み寄ってきていた。
 不思議そうに見てくるのは言うまでもなく、状況説明は必須だろう。
 
 「衛宮さんって何気に顔広くないですか?」
 
 「灯里のほうが広いんじゃないか?」
 
 「あー。そりゃ確かにそうですけど」
 
 と、藍華とはお互い耳打ち程度で会話を済ませる。
 そして、灯里はといえば。
 
 「士郎さん、藍華ちゃん! 私、この子送ってくるね!」
 
 果たして、灯里マジックが発動していた。
 瞳を爛々と輝かせ、なにが目的かは聞くまでもない。
 
 「ちょっ、灯里!? なに言ってんのよ!」

 いつものことだ、諦めろ、とはさすがに言いにくい。
 こうなっては、灯里は誰の言葉も聞かない。いや、聞かないんじゃなくて言わせない、か。
 
 「だってだって、ノームさんだよ? 地下世界だよ藍華ちゃん! 興味ないの?」
 
 「う …… あ、そ、そりゃないことは …… ない、けど」
 
 「わーひっ! じゃあすぐにゴンドラに付けますから、待っててくださいね!」
 
 そら。
 多分、俺でも勝てる気のしない灯里マジックに藍華が敵う道理がない。
 ひょいと視線をアルに戻すと、案の定、きょとんと、当事者なのに傍観者の様になったアルがいた。
 こちらの視線に気が付いたのか、あははと笑って眉を下げた。
 
 「スゴイですね、彼女」
 
 「次期プリマ候補、」
 
 「え、スゴイ!」
 
 「だといいな、という希望的観測」
 
 「え? あ、あー。あはははは! なるほど。醜いアヒルの子、かもしれないと言う訳ですね」
 
 頷くことはせず、苦笑いで答えておく。
 灯里はともかく、藍華に聞かれちゃ後が大変だ。
 と、

 「終りましたよー!」
 
 準備が出来たのだろう、灯里が手を振って呼んでいる。
 
 「そら、呼んでるぞ。行こうか」
 
 「はい!」
 
 アルと一緒に、灯里が操るゴンドラに乗り込んだ。
 
 
 ………… そして。
 
 「うわぁ――――――!」
 
 灯里が驚くのも無理はない。
 かくいう俺も驚いている。これは …… 深いな。
 
 ごう、と風が唸り、それがもはや上からの風か下からの風かは分からない。
 そこはひとつの“塔の中”と言ってもよかった。
 あまりにも巨大な地下空洞。
 縦穴のその側面には、フジツボのようにへばりつく住居。
 地下へ続く階段は壁の中にあるようだ。
 
 「落ちたら死ぬな …… 。アル、大丈夫なのか?」
 
 「え? あ、はい。だって、ほら」
 
 ぺしぺし、と手すりを叩く。
 
 「これがあるじゃないですか」
 
 「 …… あ、いや」
 
 感覚が違いすぎるのか、本当に今まで一度も落下事故がなかったのか。
 もしくは、慣れてしまったのか。
 アルは事も無げにそう言う。ノームはみんなこうなのだろうか。
 
 「 …… 藍華、灯里。あんまりはしゃぐと落っこちるぞ」
 
 「はひっ!?」
 
 「いっ!?」
 
 一応の注意は向けておく。
 そんなことになったら俺でもどうにか出来るもんじゃない。
 夜目ではないにしろ、『強化』すれば闇の中も見渡せるこの眼でも底が見えない。
 おそらく、深さは5km以上。
 
 「ちなみに、ノームの仕事場は最下層です」
 
 言うが早いか、アルは傍らの階段を降り始める。
 藍華はぶーたれ、灯里はまるでピクニックにでも来ているような陽気でアルに付いて行く。
 それに続いて、俺も何気なしに階段を降りていく。
 
 それにしても、不思議なもんだ。
 それは灯里も同じらしく、ウキウキとアルと語り合っている。
 まぁ、俺の不思議とは根本から違うんだろうが。
 
 歩いて降りていると、少なからず人とすれ違う。
 それはやはり、このような場所であっても生活という営みが行われている証拠で、いちいち安心する。
 あぁ、アルの言ったことは間違いじゃないんだ、と。
 ここに産まれたときから、そう習慣付けられているんだ。
 
 「 …… ところどころ、悲しい世界だな」
 
 少し前にいた藍華が振り返る。
 聞こえない様にと呟いた筈だけど、聞こえちまったかな。
 
 「お腹減りましたね」
 
 「え? あー…… 、そう言えば昼時だな。 ………… あ」
 
 しまった。
 アルトリアの事忘れてた。
 藍華は不思議とこちらを見上げてくる。急に固まったせいだろう。
 
 「ど、どうしたんですか?」
 
 「 …… いや。甘んじて受けよう」
 
 「???」
 
 きっと、帰ったらスゴイ顔で待ってる。
 久しぶりに怒ったアルトリアが見れそうだ。嬉しくも何ともないが。
 
 どれくらい降りただろうか。
 アルが立ち止まって振り向く。
 彼の横には『名物・きのこなべ』と書かれた暖簾がかかった店がある。
 
 「じゃあ、ここいらでお食事にでもしましょうか」
 
 全員がその提案に同意し、店へ入っていく。
 ところで、名物、と名打つからにはここも実は観光地のひとつだったりするんだろうか。
 交流が少ないと言っていた手前、それは可能性として低いだろうが。
 
 「ああ、そうだ。アル君、ノームってアクアの重力を1Gにしてるんだよね」
 
 「はい」
 
 それは鍋の完成を待つ間の他愛のない疑問。
 灯里は好奇心を剥き出しにアルに詰め寄る。
 
 「どうやってるの?」
 
 「それは、俺も気になるな」
 
 「えーと …… 灯里さん達は重力がどんな力か、理解してますよね」
 
 しん、と静まる場。
 おいおい。中学生で知るような事だろうに。
 
 「わかりました。まずそこからですね」
 
 アルは冷や汗を垂らしながら苦笑い。
 鍋の具合を見ながら話し始める。
 
 「重力とは、万有引力と惑星の自転による遠心力との合力で、簡単に言っちゃうと物と物の間にある『ひかれあう力』なんです」
 
 なるほど、とその例え方に感心する。
 そして、次には
 
 「僕達の間にも、この舞茸としめじの間にも『ひかれあう力』は存在してるわけです」
 
 それって単なる興味の話じゃないのか、と吹き出した。
 アルは構わず続ける。
 
 「この『ひかれあう力』は質量が大きいものほど強くなります。さて、そこで僕達の一番身近な質量保持者はというと …… 」
 
 おもむろに鍋を持ち上げ、にこりと笑う。
 
 「このアクアになるわけです」
 
 ははぁ。
 それで俺らやきのこを例えに使ったのか。
 鍋がアクアなら、それに『ひかれあう』俺らやきのこは、もうすでに鍋の『重力』の中にいる、というわけだ。
 
 「というわけで、我々を含めた物体すべてがアクアから受ける『ひかれあう力』。それが重力です」
 
 おわかりいただけました?と念を押す。
 ちら、と見た鍋はもういいようだ。
 
 その後、アルは本題であるノームの仕事について話そうとするものの、灯里たちは鍋の『重力』に夢中で、話題という『重力』に関心を持てないでいた。
 しかたなく、アルも箸を動かし始めた。
 
 
 さて。
 腹も膨れ、食後の運動にと階段を降りようとしたところで藍華が音を上げた。
 
 「もうギブアップ ――――― 」
 
 「 ………… 」
 
 言葉がない。
 それはアルも同じところらしい。
 
 「しょうがないですねぇ。じゃあ、ここからはエレベーターで降りますか」
 
 藍華の顔が豹変する。
 駄々っ子のような表情はなく、ただ恨めしそうにアルを睨む。
 まぁ、気持ちはわからないでもないけどさ。
 
 「エレベーター …… あるの?」
 
 「もちろんありますよー」
 
 アルっていうヤツは、末恐ろしいヤツだ。
 そう思う他なかった。
 
 
 
 暗さに慣れた目に夕焼けが染みる。
 視線の先には灯里と藍華とアル。どうやら、なかなかいい雰囲気の様だ。
 水を差すべきではない、と離れた所でそのやり取りを眺めている最中。考えたことがある。
 
 『ひかれあう力』
 
 それは実際問題、あるんだろう。
 人が人に惹かれるように、その全てが『ひかれあう』。
 …… なら、俺は?
 
 この世界にいる、ということはそういうこと。
 俺は元の世界、元の理想に『ひかれ』ていたと言えるだろう。
 せっかくの遠坂の提案も、救いも、かなぐり捨ててまで引き寄せたかった理想が、あの世界にはあった。
 なら、この世界は?
 
 どうなのだろうか、と夕焼け空に黄昏る。
 この星は、世界は……俺の何に『ひかれ』たのだろうか。
 わざと体内に毒物を入れてしまう、そうとも取れる。
 俺はこの世界じゃ異端すぎる。
 なぜなら、俺の理想は“果たすべくもない”のだから。
 
 使命じゃない。
 宿命でもない。
 自らの理想は夢であり、贖罪なのだから。
 
 「士郎さん、お話は終りましたよ?」
 
 そして、いつの間にか隣にアルが立っていた。
 この頃ずっとこうだ。考えにふけり過ぎて、周りに目を向けていない。
 俺の世界ではこんなことはなかった。
 多くとも、考えることはひとつだけだったのだから。
 
 「『ひかれあう力』の事だが …… 」
 
 「はい?」
 
 「どうして人はこの星‐アクア‐を求めたんだろうな。人口爆発? 知的好奇心?」
 
 「それは …… わかりません。昔から『火星は住む事ができる可能性を持っている』とは言われていたようですが」
 
 「 …… そういう“運命”だったのかもしれないな。人が選んだひとつの終着駅」
 
 「終着駅ですか。僕はそうは思いません」
 
 「?」
 
 ひょいと自分のゴンドラに飛び移り、夕日を背に笑ってこう言う。
 
 「人は生きています。なら、そこが終着駅、と言うことにはならないと思います」
 
 「人は生きているから、進み続ける、と?」
 
 アルは何も言わない。
 ただ、黙って頷いた。
 その小さな体を少しでも大きく表現する様に、仰々しく両腕を開く。
 
 「人は『ひかれ』あい、また世界にも『ひかれ』ます。士郎さんはこの世界、好きですか?」
 
 「好きと嫌いの話なら好きだ。だけどな、俺はこの世界に『ひかれ』ない」
 
 「どうしてですか?」
 
 「俺だからだよ。俺はね、『正義の味方』になりたいんだ」
 
 「正義の、味方 …… ?」
 
 「そう。全ての命を救う、一欠片も零さない、そんな『正義の味方』に …… 俺はなりたい」
 
 「強きを挫き、弱気を助ける …… いいことじゃないですか」
 
 「それは違う。全てを救いたいんだ。救えることなら、悪ですら救いたい」
 
 「それって …… 」
 
 俺だけが、あの時生き残った代償。
 これまでに、棄ててしまった命への贖罪。
 切嗣との、忘れることのない約束。
 
 衛宮士郎は、この世界で『正義の味方』になるどころか、その全てを背負えない。
 
 俺がこの世界に来た理由は、一体なんなのだろうか。
 
 せめて …… せめて、救える ―――――― ッ!
 
 
 
 “喜べ衛宮士郎。君の願いはようやく叶う”
 
 
 
 「くそっ!」
 
 思い出したくもない声と言葉。
 そうなのか。やはり、俺は争いを求めているって言うのか。
 そうじゃない。
 そうじゃないんだ。
 
 じゃあ、なにがこんなにも俺を苦しめる …… ?
 
 遠坂、俺、わからない。
 アーチャーのように、答えを得られない。
 
 俺は、俺は ………… っ
 
 「士郎さん?」
 
 「っ!」
 
 「僕は、アナタじゃないから何も言えません。けれども、士郎さん。何にそんなに拘ってるんですか?」
 
 「こだ、わる?」
 
 「体はここにあるのに、心だけがどこかにあるような …… そんな気がします」
 
 すいません、と頭を下げゴンドラが流れ始める。
 その流れていく背中を見つめ続ける。
 
 
 
 夕日は沈み切り、夜の帳が落ち始めた一日の終りのことだった。
 
 
 

 
             

                Navi:15   end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:12

 
 対峙し合うは実に30mの距離。
 一息では不足。
 
 接近に約2秒。
 それだけあればお互いに完全に迎撃体勢を取れる。
 
 だが、女 ――― イノには十分な迎撃能力がない。
 しかし、攻める分には数多手段を持つ。
 その思考に彼女が至るまで1秒足らず。
 
 対して男 ――― タカミチには迎撃能力が十二分にある。
 ただ、その射程と威力が問題。
 その答えに至るまで同じく1秒足らず。
 
 
 ―――― 故に。
 
 
 「ふっ」
 
 「はァっ」
 
 弾ける瞬間も同時。
 互いが動くなら、詰める時間は一息に。
 
 イノは飛ぶ。ギターを突き出し、弾丸となって突撃する。
 対し、タカミチは瞬動。直撃の一歩手前、柔らかい腐葉土を撒き散らし一気に後ろを取る。
 
 「甘いんだよッ!!」
 
 三角帽が回り、装飾かと思っていた口らしき裂け目がガバリと開き、スピーカーが現れる。
 けたたましいノイズが走る。
 スピーカーが歪み、高速で“何か”が吐き出される。
 
 「っちィ!」
 
 ――― 避けきれない。
 そう判断したタカミチは腕を前に防御する。ズシン、と芯に響く重い振動。
 腕が痺れる。目が眩む。
 
 「動かないでね?」
 
 大上段にギターを振りかぶり、数瞬後には綺麗に入ってしまう。
 マズイ、そう直感したタカミチは、
 
 「ぬぁっ!!」
 
 慣れない蹴りでギターを迎え撃つ。
 距離を取ることだけを考える。10m以内であれば、主導権を握ることが出来ると信じて。
 
 空気が破裂する。
 今度は足が痺れる。だが、その代わりにギターを貰ったとイノの手元を見やる。
 が。
 
 「なっ!?」
 
 まるで、コミックかなにかの表現のようにギターは刺々しく変形し、足を傷つけながら元に戻った。
 ――― しまった、貰ったのはこちらか。
 考える暇もない。
 痺れが取れた腕をポケットに突っ込む。体勢は悪いが、撃てる …… !
 
 「っ!? なめや ―――― がッっずぶ!?」
 
 馬鹿な。
 一体ヤツは何をした?イノは惑う。
 顎に見事に3発、肩に4発、腹に7発。それぞれに打撃を食らう。
 脳が、内臓が揺れる。だが軽い。
 神経を切るほど鋭くも無ければ、脱臼するほど威力があるわけでもない。
 1秒なくして立て直す。
 
 「ふざけたマネしやがってぇ!!」
 
 着地、と同時に何発か貰いながらも、地面を蹴 ―――――
 
 「……――――― っな!?」
 
 ―――― れない。
 着地と同時に撃たれた“何か”は、額、顎、肩、肘、股関節、膝にそれぞれ一発。
 動けない。
 
 「これで …… 」
 
 タカミチがポケットから手を出し、合わせるでもなく手の平を向かい合わせた瞬間、光と力の奔流が巻き起こる。
 
 ――― 咸卦。
 正と負、生と死、右と左、上と下。
 相反するニ属性の統合。
 枝分かれし、真逆に進む二又をひとつにすれば、そのベクトルが莫大な力を持つは道理 ―――― !!
 
 「終りだ」
 
 三度ポケットに手を入れる。
 それは明らかなテレフォンパンチ。しかし、
 …… 動けない。
 
 ―――――――― 豪殺・居合い拳
 
 ありったけの力を込め、叩き潰す勢いで放つ必殺の拳。
 それを連打。連打、連打、連打、連打。
 1、
 2、
 3、
 4、
 5、
 6、
 7、
 8、
 9、
 10。
 
 腐葉土に小規模のクレーターが出来あがる。
 その拳はすでに拳の域を逸脱し、局地的な爆発を思わせる。
 しかし、それで尚 ……
 
 「ざけんなよ、ドグサレインポ野郎が …… 」
 
 健在。
 クレーターで凹む大地にただひとり、潰されず健在。
 瞳は七色に、まるで炎が虹を吸ったかのような殺意が灯る。
 どう殺そうか …… ?
 斬殺? 絞殺? 圧殺? 刺殺? 焼殺? 凍殺? 絶殺?
 
 「ぶっ殺す」
 
 「っ!?」
 
 見えない。瞬動でもない、縮地でもない。
 ただの速力。
 それが見えない。
 
 気が付いた時には、すでに足元に屈んでいた。
 
 「マズっ …… !」
 
 「突っ立ってんじゃねェよッ!!」
 
 するり、と引っ掻くでもない、斬られたわけでもない。
 撫でられただけ。
 それが、その攻撃が、
 
 「ご …… ぶっ!?」
 
 骨の髄まで、果ては脳を叩く。
 振動波による、共鳴破壊。それが《法力》で更なる威力を以って襲いかかる。
 血が逆流したかと言うほどの悪寒と、心臓が警鐘を打つ度に重なる灼熱。
 
 「っここでぇ …… っ!!」
 
 それを持ち直す。無理矢理持ち直す。
 ギシ、と骨が唸る。軋む。
 未だ技後硬直から抜けきらない女を、イノを潰すために、
 
 「潰れろ …… ぉっ!!」
 
 ズドン。
 人が扱うには重すぎる拳を放つ。
 今度こそ直撃。イノは大きく吹っ飛ばされる。
 
 「っは …… はぁっ ―――――― かはっ」
 
 視界がブレる。
 あの一撃だけでこれか。
 
 「 …… あ、がっ。 …… テメェただじゃすまさねぇ!!」
 
 よろ、とイノも力なく立ち上がる。
 しかし、殺意は増す一方。本来感じ取れない筈の《法力》が感じ取れるまでに高まっていく。
 嗤っている。
 殺してやる、と嗤っている。
 
 「 …… 仕方ない、か」
 
 肩で息をしながら、苦痛に顔を歪める。
 久しぶりに人殺しとなろう、とポケットの中の拳を解く。
 その取るべきカタチは……
 
 「これが、僕の …… “魔法”だ」
 
 放つ。
 その名を、
 
 
 ―――――――― 居合い“剣”
 
 
 「 ――――――――――――――― あ?」
 
 イノが咲く。
 肩から横腹に掛けて、バックリと開く。
 その鮮血は華の様。
 
 拳を手刀に。
 ただ、それだけ。
 ただそれだけのことで、居合い拳は、オーバーキルも甚だしい『居合い“剣”』と化す。
 
 「 …… ヘタクソなんだよ、ガキが」
 
 それでも、まだ。
 
 「手本見せてやるぜ ………… 殺すってことをなァァ!!」
 
 距離は10mとない。
 なにかをするなら自分の方が速く動ける。
 斬り刻める。
 そう確信してならない。
 
 「砂になっちまいなぁ …… っ!!」
 
 ぐりん、と《法力》の奔流がカタチを為す。
 丸いスピーカー。巨大な翼を持つそれが、ふたつ。
 
 言い知れぬ恐怖。背筋が凍る。
 “アレ”はダメだ。マズい。
 動ける。タカミチは居合い“剣”を放つ。幾重にも幾重にも重ねて、必殺の剣壁とする。
 それが、それこそがマズかった。
 
 「 ………… は、ははは」
 
 傷ひとつ負わない。
 それどころか、《法力》による細胞活性化とでもいうのか、先程の傷は痕もなく消えている。
 ダメだ。これはダメだ。
 
 「せいぜい苦しみなァッ!!」
 
 視界が赤く染まる。まるでこれから見る景色を幻視している感覚。
 次の瞬間には全身という全身を、嵐が襲う。
 それはただ純粋なアギト。噛み砕き、磨り潰すという、アギト。
 
 
 そして、タカミチは地に伏した。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 言葉がない。
 なんだという。あれはなんだ。
 森の広場が抉れ尽くし、森の一角が弾け飛んだ。
 音の蹂躙。
 あれはそう、ただの音なのだろう。
 音を凝縮、凝固させた音の塊を無数に発射する、純粋な振動流。
 
 「マスター、ここは退くべきです」
 
 耳元で小さく従者が囁く。
 それは判っている。
 だが、もう遅い筈だ。こんな、隠れているとはいえ、見える距離にいるのなら見付かっている。
 それを覚悟でここにいるというのに。
 考えが甘かったのは私の方か。
 
 「ち」
 
 「マスター!!」
 
 草陰に隠れるのはもうよそう。
 どうせここで逃げても後ろからズドン、だ。
 茶々丸がうるさいが、まぁいつものことだ。
 
 「やっと出てきた。弱いくせに、あんまり粋がるのはよくないわ。そう思わない?」
 
 「はん。それはどういう意味だ? よく解らないな」
 
 「あら、そう。なら教えてあげましょうか?」
 
 「結構。間に合ってるよ。今ここで必要なことが他にあるだろう?」
 
 イノの顔が歪む。
 タカミチは確かにコイツを斬った。私と“同じ”か、そもそもそう見せただけなのか。
 いや、どっちでもいい。
 私が言った事だ。今は優先すべきことがある。
 
 「あら、殺る気なの? 個人的には面倒になってきたんだけど …… 」
 
 「いやいや、できればお帰り願いたいがな。そこのソイツ。間の悪いことに私の連れだ」
 
 「あ、そぅ。それで? 仇を討つとでも言うつもりかしら?」
 
 「は。まさか。そうなったのはソイツが弱いからだ。私がどうこう言う立場じゃないことぐらい理解してるよ」
 
 ふぅん、といかにも興味なさげにこちらを見る。
 その蔑むような目は、殺す物が増えて面倒くさいと正直に語っている。
 さて、本題に入ろうか。
 
 「それで、何がどう『間が悪い』のかしら?」
 
 「言っただろう、ソイツは連れだ。見つけた手前、持ち帰るくらいせねばならん。ほら、面倒くさい」
 
 自嘲気味に嗤う。
 つくづくお人好しと言うか、素直じゃないと言うか。
 だが、イノはその返答がお気に召したらしい。
 
 「は、ははっ! いいじゃねぇか、それくらい狂ってなくちゃ、今のを見て私の前にノコノコ現われねェよなぁ!!」
 
 「そういうことだ。ウサ晴らしに付き合ってもらうぞ、嫌とは言うまいな?」
 
 「オーケーオーケー。ロックに逝きましょう、お嬢ちゃん」
 
 先程の態度とは打って変わり、白い血に飢えた淫獣の表情を覗かせる。
 ハヤク、イきたい。
 もしそんな声が聞こえれば、ため息のひとつでもついていただろう。
 
 「茶々丸、悪いな」
 
 「いえ。それがマスターの判断ならば」
 
 「一瞬でいい。動きを止めろ。今の私なら …… あるいは」
 
 そう。
 今の私にはちょうど停電時の三分の一程度の魔力が戻ってきている。
 ジジイが結界をいじったせいだろう。呪いの効果も薄くなっている。それでも外には出られないが。
 デカイのを一発。だが、それでは遅いか。
 
 「 ………… ふん、選択なぞ最初から決まっているだろうが」
 
 誰にも聞かれまい、と呟く。
 一発、ではない。
 一撃、だ。
 ありったけの魔力を『魔法の射手』に乗せる。
 詠唱なんてモノ、やってられるか。単純で、かつ高速。追加効果の付け易い『魔法の射手』
 これがベストの筈。あるいは、ベターか。
 どちらでもいい。
 
 「覚悟は出来た …… ?」
 
 ゆらり、と幽鬼のようにイノが動く。
 チャンスは、言うまでも無く一回。
 
 「じゃあ ………… 死ねよッ!!」
 
 イノの姿が掻き消える。
 惑うな、追え …… 先程、動きは見ているのだから。
 
 「させません!」
 
 茶々丸が反応する。迎撃より防衛をとったのは偉いぞ、後で褒めてやろう。
 
 「ぢィッ、邪魔なんだよスクラップがァッ!!」
 
 「残念です、スクラップではありません。あしからず」
 
 茶々丸は落ち着いて動く。さすが機械人形なだけはあるな。
 こう言う時、人は感情で動きがちになる。
 だから、イノも例外ではないだろう。
 
 「退けって ………… 」
 
 メシャ、とフレームのひしゃげる音。
 ブチンブチン、と人工筋肉が弾ける音。
 腐葉土に、関節の冷却材がぶち撒けられる。
 
 「言ってんだろうがァ!!」
 
 十分だ、よくやったぞ茶々丸。
 
 「はああああああああああああああああああっ!!」
 
 「っ!?」
 
 紡ぎ出す矢は、数にして数百。
 それをただ一本に収束させる。撃ち出す数が一ならば、数が数百であろうとも無詠唱で事足りる。
 砲丸大のサイズの魔力弾が、突き出した腕とイノの顔面の間を瞬時に駆ける。
 属性は闇。付加効果は『重圧』『衝撃加速』。
 威力で言えば ……―――――――
 
 「―――――――――――――――――ッはァ!?」
 
 タカミチまでとは言わずとも、3tは軽い。
 
 「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック ………… 」
 
 ここで、詠唱。
 茶々丸は右腕が捻れきれているが、それでも動ける。
 今度は時間も十分。だが、出来るだけ速く済ますには……
 
 「『来たれ氷精・闇の精 …… 闇を従え吹雪け常夜の氷雪 ………… 闇の吹雪』」
 『《来たれ氷精・闇の精 …… 闇を従え吹雪け常夜の氷雪 ………… 闇の吹雪》』
 
 多重詠唱。
 言の葉の精霊の力を借り、言霊を復唱させる。
 それにより、同時に同じ魔法を詠唱できる。発動はディレイスペルによる連続発動が主だが、私は違う。
 
 「『両腕・装填』」
 
 久々だな …… 。
 まぁ、能力が弱体化しているのだから、当たり前といえば当たり前か。
 
 「舐めやがって …… 」 
 
 「ほう、立ち上がるか。ますます以って不可解だな」
 
 そう言えば、ソルのヤツもなにか障壁を創り出していたな。
 完全防御の障壁か、厄介だな。
 まぁ、この砲撃で見極めるとしよう。
 
 「茶々丸、行け!」
 
 「イェス、マスター」
 
 「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック …………
 『来たれ氷精・闇の精 …… 闇を従え吹雪け常夜の氷雪 ………… 固定』」
 
 魔力の塊が出来あがる。
 それを前に、唱える呪文は私ただひとりのモノ。
 
 「『全収束錬魔開始 …… 』」
 
 三連装収束魔法砲。
 『闇の魔法』による解放により成し遂げられる大魔法。
 中級とはいえ、三連、それも収束された魔法だ。
 威力としては申し分ない。
 
 茶々丸が一瞬の攻防の後、吹き飛ばされる。
 範囲から逃れたの瞬間を機に、放つ。
 
 「『全解放 ………… 闇の吹雪』」
 
 視界が闇で埋め尽くされる。
 漆黒の三ツ首の大蛇がうねり、射線上全てを食らい尽くしていく。
 削岩機にも似た大蛇の強襲。その螺旋は、ひとつの嵐。
 
 「んなッ!?」
 
 驚愕の後、轟爆。
 『闇の吹雪』は直撃する。
 周囲はまるで幕が掛かったように光を絶ち、森はいつそうなったのかが解らぬうちに絶対氷土と化す。
 今私には十分と言える魔力がない。
 『闇の魔法』自体が無茶苦茶な業だというのに、それを利用した魔法などそう長くは保たない。

 ものの数秒で放射は終りを迎えた。
 
 「さて …… こっちとしても、もう無理なんだがな …… 」
 
 目が霞んでくる。
 さすがに封印状態でアレだけの魔力を使う方がおかしいか。
 茶々丸ももう一度、と言われれば立ち向かうだろうが、もう限界だろう。
 
 闇の精霊の影響で辺りには昏い闇が広がり、氷の精霊の残滓が粉雪のように降り注ぐ。
 まるでダイアモンドダストを見ているかのような感覚の中、イノはいた。
 
 「く …… ぁっ、はぁ ――――― は、はぁぁあ …… ふぅっ!」
 
 体にこびりつく氷を振り払い、疲れは見えるもまだまだ出来そうだ。
 万事休す、とはこのことか。
 
 「ったく、テメェがなんだか知らねぇがな …… ま、加減してくれて助かったわけだ」
 
 つまり、封印状態でなければ今の魔法で決まっていた、とそういうことか。
 …… ふむ。
 
 「それで、どうするつもりだ?」
 
 「そうねぇ …… ちょぉっと力使いすぎちゃたかなぁ、ってね。このまま麻帆良に攻めてもまだまだいるんでしょう、お嬢ちゃんみたいなのが」
 
 「間違いではないな」
 
 「じゃ、帰らせてもらうわ。威嚇するにも十分だろうしね~」
 
 これで威嚇とは …… 。
 こっちの身にもなれという話だ。
 疲れた。
 
 「じゃぁね~ん♪」
 
 空間が孔のように開き、そこから転移していく。
 ふぅ …… ようやく一段落 …… ?
 
 「あ?」
 
 イノがまたこの広場に現れる。
 転移したはずだろう …………。
 ………… あ。
 
 「すまんな、お帰りはしばらく歩いてからだ。今この土地の管理人が結界をいじっていてな、転移をするとここに来る様になってるらしい」
 
 「あ、そ。じゃあ、ソイツに伝えといてくれない? 『ぶっ殺してやるから、それまで生きてろ』って」
 
 「あぁ」
 
 「あ、そうだ。楽しませてくれたお礼しなくちゃね」
 
 殺る気か?
 
 「正義が、ジャパンを消す。これは事実よ、覚えといて損はないかもしれないわ。じゃぁね」
 
 足音が遠ざかっていく。
 正義? 日本を消す? なんのことだか ……。またソルの世界絡みか。
 それにしても空間転移か。媒介を必要とせず、空間自体を切り開き移動する技術。
 『魔法』でも超高難易度のものだ。
 専ら私は『影』専門だがな ……。どうでもいい。
 
 「茶々丸、歩けるか?」
 
 「はい。ですが、高畑先生を運ぶとなると …… 」
 
 「そうか。確か麻帆良まで2kmだったな。 ………… タカミチ、意識はあるか」
 
 ガツン、と横っ腹を蹴り上げる。
 
 「マ、マスター!」
 
 「心配いらん。これで死ぬようなヤワな鍛え方はしとらんだろうよ。オイ、タカミチ!」
 
 ペシペシと頬を張る。
 しばらく体を揺らしたり、刺激を与えたりしてやっとこさ意識を取り戻す。
 
 「う …… エ、ヴァ …… ?」
 
 「そうだ。お前なにか連絡できるモノを持ってないのか」
 
 「スーツの、内ポケット」
 
 茶々丸は出来そうにないので自分でまさぐる事にする。
 中には、なにか軽めの箱のようなものが入っている。
 取り出してみれば ……
 
 「おい、舐めとるのか貴様」
 
 「は、はは。どうしても吸いたくてね。ライターも一緒に、入ってるだろ?」
 
 「やるか、馬鹿者。タバコなぞどうでもいいんだよ、連絡できるモノだ。早く出せ」
 
 もう一発みぞおちを殴っておく。
 ごふ、とむせ返ったが、それだけ。
 
 「酷いな …… 傷心してる元クラスメイトを慰めてはくれないのかい?」
 
 「あぁ? アホか貴様。それとも何か? ご奉仕して欲しいのか、この体で?」
 
 「勘弁。余計に酷くなりそうだ …… 」
 
 「わかったなら、ほら、早く」
 
 「大丈夫さ。僕が倒れた時点で向こうには連絡が入る。あと5、6時間もすれば、回収班が来ると、思うよ」
 
 「ちっ、なんでそんなに時間が掛かる?」
 
 「イノがいるかもしれない。イノが学園に来るかもしれない。そんなとこだろ」
 
 あぁ、そう。
 それまでここに居続けるってわけだ。
 今が朝方だから、昼には到着。回収されて、学園に戻るのが大体夕方近いか。
 そこから、ジジイと作戦の練り直し。
 修学旅行中止もありえるか。
 
 ざまぁみろ。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 修学旅行、三日目。
 早朝。
 
 「ネギ、アスナちゃん。話したとおりだ。今、コノカちゃんはトンでもねェヤツに狙われてる」
 
 「それに親書も渡さないといけない …… 」
 
 「だったらどうすんのよ! た、高畑先生までやられちゃって!!」
 
 「姐さん声でかいっすー」
 
 「二手に分かれるのが賢明でしょうね」
 
 ぼそ、と桜咲さんが提案する。
 
 「だな、それしかないですぜ兄貴。刹那の姉さんの言う通り、二手に分かれましょうぜ!」
 
 「だとしてだ、どうする?」
 
 「お嬢様は私が必ず守り抜きます」
 
 そう言って、桜咲さんは刀を胸の前に、誓いを立てるように握り締める。
 じゃあ、そういうことなら。
 
 「ネギ、私達で手紙届に行くわよ。このかは桜咲さんに任せてさ」
 
 「はい、そうして頂くとこちらとしても動き易い」
 
 どことなく引っかかる言い方だけど、それだけ自信があるってことよね。
 なら、任せた方がいいに決まってる。
 
 「俺はコノカちゃんの方に行くわ」
 
 「アクセル先生?」
 
 「だってそうだろ。イノが狙ってんのはコノカちゃんだ。なら俺がそっちに行くのは当たり前だろ」
 
 あぁー、確かに。
 それにこれで二人一組でちょうどいい感じだし、ばっちりじゃない。
 
 「アクセル先生、また貴方は …… 」
 
 「邪魔はしねぇよ。でも手が届かなくなるときだってあんだろ。そんときのフォローは任せてくれよ」
 
 「 …… わかりました」
 
 「よし、決まったところで。ネギ!準備が出来たらホテルの前の橋で待ち合わせね。見付かんじゃないわよ?」
 
 こくりと頷いて返される。
 よしよし。
 これで今日1日の行動が決まったって訳ね。
 
 「それじゃ、またね!!」
 
 
 だけど、知らない。
 この時の私は知らない。
 この日が、これから始まる本当の地獄の始まりだったなんて、
 私は、知らない。
  
 
  



               track:12  end



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12月24日。萩原雪歩の誕生日。

ども、草之です。

こりもせず、またしてもアイドルマスターですよ。
では、さっそく誕生祭動画を貼りつけてみたり。


アイドルマスター 雪歩 「true eternity」(fripSide)


雪歩です。
「穴を掘って埋まってますぅ!」が彼女の性格らしい一言。
なので、ときたま『グレンラガン』でいじられます。

ビジュアルは雪歩が実は一番好みだったりする草之ですが、浮気じゃないですよあずささん!

そういえば、12月24日生まれの人ってよく
「誕生日とクリスマスと一緒ってなんか損した気分じゃない?」
とか聞かれそうですが、実際どうなんでしょう。
誰か12月24日生まれの人がいたら教えて欲しいです。

と、言いつつそんなに損じゃないでしょう。
と草之は思うのです。
祝ってくれるのに損とか言ってるほうが失礼でしょうが。
そもそも、クリスマスってキリストの誕生祭だったと思うんですけど、間違いないですか?(笑)

とまぁ、歴史的偉人と1日違いの誕生日なんですよ。
これってスゴクね?

草之の誕生日8月10日なら、バンプオブチキンのドラムの升さんとか。

同じ誕生日の有名人とかいたら嬉しくないですか?


と、世間ではクリスマスクリスマスって言ってますけどね、今日はイヴです。
明日が本当のクリスマスなんですよー!



と叫んだところで追記。今回もいい感じに脱線しちまったぜィ。
明日、12月25日。正真正銘のクリスマスに『優星』の番外編を上げたいなーと思っとります。
ちなみに内容はクリスマスじゃないので、あしからず。
わりと短め。作中時間としてはだいたい10月(つまり夏)前後のお話。
遅れても26日深夜の2時までにはあげたいです。
サンタさんが遅刻しましたー、とか言ってくれても結構です。だって草之の責任じゃなくなるから。

ではでは、草之でした。
メリークリスマース・イヴ!

その優しい星で…  GUIDE:1

 
 「 ……………… 」
 
 ふと、彼女は空を見上げる。
 そこには、とても興味深いものがあった。
 それはいつぞや、バイクに魅入ったときの感覚に似ている。
 
 「アテナ …… 」
 
 「?」
 
 「あれは、なんですか?」
 
 
 
 
 これは、アルトリアが士郎と再会する、まだ少し前のお話。

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原画集……

ども、草之です。

そう、原画集なんですよ、今回のお題は。
藤島康介先生の『ああっ女神さまっ』も初のイラスト集もつい先日発売されたというのに、
『魔法少女リリカルなのはStS』の原画集も今日書店に行ったら売ってるし!
つまり、なにが言いたいかというと、

――――――金がない!!!

絶望的なまでに足りてない。
今期DVD買いすぎだ、自分……。らっきょまで出てくるし。
来月はアイマスSPも発売するし……。テイルズ、出るし。ハーツ欲しいし。

ざっと見積もって、来月までに欲しい物を購入するにはいくら必要か?
カシャカシャカシャ……チーン!

多めに見積もって4万は欲しい。どんだけ。
4万て。よーんーまーんーって、どんだけよ!?

アルバイト、したいけど。
今はちょっち出来ない状況。なにかを諦めるしかない。

みなさん!(ここで振る)
こう言う状況、体験したことありません!?
いや、草之はしょっちゅうですよ。毎月の様にこの状況に陥りますよ。
切り捨て切り捨て、そして発動する“リミテッド・マネー・ワークス”。
無限じゃないところがキモ。

お年玉ー、お年玉ー。
高校の友人に聞くと

「あ、俺? 商店街とか歩いてたらみんなくれるからさー20はあるでー。あっはっはー」

すいません、1割。1割お情けをぉぉぉぉぉ!!
と、言う前にいつも脅迫してましたけど。


てなわけで、草之のアンコ事情。(聞く聞かないはあなたの自由。最後に執筆状況書いてあるのでそこだけ見たい人はここ飛ばしてくださーい。)
まず、隠しキャラ。
セイバーオルタとリズ。リズは確か4回くらいアーケードクリアで出てきましたけど。オルタがね、オルタ以外のキャラオールクリアしてやっと出ましたよ。自然にリリィは最後までお目にかかれなかった。
あと、ディルムッド出ない。まだ出てない。20回はクリアしたけど出てこない。
友人みんな出てる。しかもアベレージ5回くらいで。
なにこれ何のイヂメ!?黒子は女性にしか効かないなら出てきてもいいじゃん!!
緑川ヴォイスを早く聞かせてェ!!
使わないだろうけど。


では改めまして、草之です。
執筆状況をば。

『大晦日用優星』:約50%
『背徳の炎』:約10%
『B.A.C.K』:約10%
『新年用優星』:0%

あくまで執筆状況。
プロットとか、カタチは決まってるので書き上げて推敲するだけ。
冬休みですしねー。

では、また日記があればそこでお会いしましょう。
おそらく大晦日でしょうけど。

では、以上。草之でした!

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今起きました。

おそようございます。
ども、草之です。

昼間です。
これ書いてるの、起きてから1時間も経ってません。
今12時前ですね。アホですね。

さて、昨夜『アウグーリオ・ボナーノ』が完成しました。
あとは推敲するのみです。
大体12月31日、深夜11時30分前後に更新予定。その後登録サイトを回って、掲示板に戻ってきます。
落ちるかどうかは知りませんが、皆さんで0時ちょうどに書きこみしていただくと結構面白いかもです。もちろん『アウグーリオ・ボナーノ!』で。コメント欄にも大歓迎です。

さてさて。
他の作品はどうなっているか、というと。

『背徳の炎』:40%
『B.A.C.K』:20%
『新年用優星』:10%

てな感じです。
ここに来てヤバイ香りが漂って来ました。
よくよく思えば、4日連続更新なんですよねー。

新年更新の方は大方夜か、昼頃。
朝にはそれぞれ挨拶というか、いつものワケのわからない日記を更新します(笑)
まぁ、朝起きてれば、の話ですけど。

ちなみに遅い朝ご飯は「餅」でした。
起きて一階に行くと、おばあちゃんが餅作ってました。ちなみに木臼とか立派なもんじゃなくて、機械です、餅つき機。ゴゴゴゴゴゴゴ、ってうるさいやつです。古いやつです。昼に備えて小さいのを2個だけ。

さてさて、では今日はこの辺りで御暇しましょう。
以上、草之でした!

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今年最後のご報告。

てなわけで、
はい、ども。草之です!

では、早速執筆状況を。

大晦日用『優星』:完成。
『背徳の炎』:完成。
『B.A.C.K』:50%
新年用『優星』:20%

です。
そして、えーと最終更新予定は以下の通り。

12月31日・11時30分前後
『その優しい星で… Navi:16』
1月1日
『背徳の炎 track:13』
2日
『B.A.C.K Act:1-5』
3日
『その優しい星で… Navi:17 (前編?)』

です。
では皆様、明日の大晦日、お楽しみに!

言いそびれそうなので、

よいお年を!!

草之でした。

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その優しい星で…  Navi:16

 
 「大晦日ですねぇ …… 」
 
 「大晦日だなぁ …… 」
 
 「ぷいにゅぅ~」
 
 24月31日。
 言うまでも無く、大晦日と言うヤツです。
 お外はしんしんと数日前から粉雪が降り続き、歩けば足跡がついてくるくらいに積っています。
 そんな気温でこんな日は、おコタでぬくぬくとしているのが一番ですが、そうも言ってられません。
 
 
 さて、改めまして。
 いよいよアクアに来て初めての年越しです。
 アクアで過ごした春夏秋冬。長いようで短い、短いようで長かった。
 あやふやなまでの感覚が、間違いじゃない、充実した時間だったと教えてくれます。
 それはまるで、宝物のようにキラキラ輝いていた日々でした。
 
 私が昔住んでいた、といってもここに来るまでの話ですが。
 マンホームの日本では、
 『みんなでクリスマス』
 『年越しは家族で』
 が相場でしたが、どうやら、ネオ・ヴェネツィアではその逆。
 『家族でクリスマス』
 『みんなで年越し』
 なのだそうです。
 
 参考までに、士郎さんにもどうやって過ごしていたか聞いてみたところ、
 
 「え? そうだなぁ、俺の家はもうなんだか宿舎みたいになってたからな …… 。それに、みんなも家族もおんなじだから、そういう区切りは無かったな。10年前の話さ」
 
 「10年前? それ以降はどうしたんですか?」
 
 「うん。俺の我が侭でさ、俺は家から出て行ったから。みんなとはそれきり。あぁ、ひとりだけこっち来る前に会ったんだけどな」
 
 「家出と言うヤツですかっ!?」
 
 「ははは。ま、そんな感じかな」
 
 結局何がわかったかって言うと、士郎さんって大きな家に住んでたんだ、ということ。
 それと、やっぱり不思議な人なんだなってこと。
 魔法使いにも家出ってあったんだなぁ …… 。藍華ちゃんにも教えてあげよう。
 
 と。
 そうか、士郎さんって …… 。
 
 「士郎さん士郎さん」
 
 「ん?」
 
 「じゃあ、みんなで迎える久しぶりの大晦日ですねっ!!」
 
 「あ」
 
 そうだな、と心底驚いて返事する。
 
 「こっちに来てからは灯里たちとずっと一緒だったからなぁ。そんな感覚麻痺してたよ」
 
 「えへへ」
 
 なんだか、その言葉がとてもこそばゆい。
 だって、士郎さん。
 とってもとっても、嬉しそうに笑ってくれたから。
 
 「あぁもぅ、社長。ほら、しっかり着てくれよっと」
 
 「にゅっ!」
 
 もうすっかり見慣れたアリア社長と士郎さんのやり取りを見てから、私は思ったのです。
 きっと、楽しくなるぞって。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「じゃあ、しゅっぱーつっ!!」
 
 「あらあら」
 
 「おーい、あんまりはしゃぐとこけるぞー?」
 
 「だーいじょーぶでーすっ!!」
 
 灯里はいつにも増して元気だ。
 練習中は寒い寒い言ってガタガタ震えてたのに、ゲンキンなんだか。
 しばらく粉雪と社長と、一緒に踊る様に遊んでニヤニヤと笑って隣へ戻ってくる。
 
 “ねぇねぇ、シロウ。ほらほらー!”
 
 たった1年だけの記憶が掘り起こされる。
 灯里と同じように雪の中を舞った少女の記憶が。
 懐かしいと思いはすれど、何故だろうか寂しいとは感じない。
 けれど、寂しいとは感じさせているかもしれない。
 灯里には家出みたいなもの、と言って誤魔化したが、俺だって高校を卒業してからしっかりロンドンへは行った。
 でも、向こうはそんな雰囲気なんて一欠片もなかったし、それにいたのだって一年だ。
 本当に外に出たのは、それから。
 
 「灯里ちゃんはマンホームではどんな風に年越しをしていたの?」
 
 アリシアが興味本意だろう、灯里にそう聞く。
 んーと、と少しだけ思い出しに時間をかけてから、灯里が答えた。
 
 「年越しソバを食べて …… 除夜の鐘を聞いて …… 深夜まで、ずーっとこたつの中でまったりしてました!」
 
 「あはは。いつになっても日本人てやること変わらないんだな」
 
 「士郎さんは、どうしてましたか?」
 
 「俺か? んー、そうだな」
 
 靴底がサクサクと新雪を踏み鳴らす音だけが周りに響く。
 アリシアと灯里が興味津々といった面持ちで見上げてくる。
 う。やり辛いな。
 
 「そうだなぁ。まず、灯里と同じように人数分の年越しソバを作るだろ?」
 
 「人数分って …… どれくらいですか?」
 
 「えーとだな、待ってくれよ」
 
 確か、高校3年の年越しには …… 、
 俺だろ、桜、遠坂に、藤ねえ、イリヤ、セラにリズ、一成と美綴だろ、遠坂の連れで蒔寺と氷室と三枝で、えーと?
 なんでこんなに集まったんだ。今思ったらすごく不自然だろ。男なんて俺と一成だけだし。
 
 「あの、士郎さん?」
 
 「あ、あぁごめん。えっとな、12人だな」
 
 「それ全部士郎さんが用意するんですか?」
 
 「いや、後輩に桜ってヤツが居てさ、ソイツに手伝ってもらってたよ。あとセラと美綴もか。三枝も …… だったっけ?」
 
 「ちなみに、最後に会ったって言うのは誰ですか?」
 
 とはアリシア。
 それ今は話すことなのか?
 ま、いいか。
 
 「あぁ。えっと、遠坂ってヤツなんだ。俺と同じ魔法使い。まぁ、俺なんかと違ってかなり優秀なヤツだけどな」
 
 「へぇ …… 」
 
 「魔法使いその2ですねっ」
 
 最初のため息みたいな返事はアリシア。
 興奮気味の返事は言うまでもなく灯里。
 あっさりと遠坂のことまでしゃべっちまったけど、まぁ、いいか。
 
 そこからしばらくは会話が途切れた。
 余談だが、ラジオでは3秒沈黙が続くと放送事故ってことになるらしい。
 それならとっくに放送事故だな。
 
 「静かですね」
 
 唐突に灯里がそう言う。
 そうだな、放送事故だな。
 
 「じきに賑やかになるわよ」
 
 アリシアが言うが早いか、街道に人が出てくる。
 その後も、雪を踏む音が多くなっていく。
 それは瞬く間に雑踏へ変わっていった。
 
 「ネオ・ヴェネツィアの年越しはね、サン・マルコ広場に街中のみんなで集まって大騒ぎするの。
 メインイベントは新年のカウントダウンで、その後初日の出までず――――っと新年を祝って、一晩中賑やかにはしゃぎ倒すのよ。みんな無礼講だからものすごいお祭り騒ぎっ」
 
 あはっ、と期待を込めて笑う灯里。
 
 吐く息が白い。
 コートのポケットに突っ込んだ手はまだ温まらない。
 もぞもぞと握り拳を揉んで少しでも温めようとするも、なかなか温まらない。
 空は暗くて、今日に限って星が少ない。
 ただ、星の変わりにと雪が降っている。
 
 「そういえば、アルトリアさんいないですけど …… 」
 
 アリシアとの会話が一区切りしたのか、ここにはいない彼女のことを探してキョロキョロ首を回す。

 「あぁ、アイツは先に行ってるよ。アイツにも付き合いってのがあるわけだし」
 
 「あとで合流するって言ってたから、心配しなくても向こうに行けば会えるわよ、灯里ちゃん」
 
 ほっと、安心したのかまたニヤニヤ顔に戻る灯里。
 くすぐったそうに制帽を口元に当てている。
 それから、俺を見上げて、
 
 「士郎さんは、なにを投げるんですか?」
 
 あぁ、そういえばそんな習慣があったな。
 洋画の学園モノによくある卒業風景に似たあれだ。
 帽子やらを真上にみんなでブン投げるヤツ。
 
 今年の内の災厄は、今年の内に忘れてしまおう、という考えが初まりらしい。
 それまで使い古した物を投げて、その災厄も含めて投げ捨ててしまえ、という習慣。
 なかなかに過激な感じがするが、日本でも同じようなことをする。
 御焚き上げとかが、そのいい例だ。少しばかり趣向が違うがね。
 
 「そうだな …… エプロンとか、あったらよかったけどな」
 
 「うふふ」
 
 突然アリシアが笑う。
 何だと見てみると、その手には俺のエプロンが握られていた。
 
 「いつ持ち出したんだ!?」
 
 「内緒ですっ」
 
 はい、と手渡される。
 正真正銘、これは俺のエプロンだ。
 突拍子もない事を …… 。
 
 「忘れてるんじゃないかなって思って持ってきちゃいました」
 
 「持ってきちゃいましたって、アリシア」
 
 「うふふ」
 
 そんな何でもない会話を続けるうち、喧騒が近付いてくる。
 サン・マルコ広場にいよいよ到着だ。
 
 「行くぞ!」
 
 「わーひっ!!」
 
 「あらあら」
 
 声に圧される、というのはこういうのを言うんだろう。
 腹に響いてくるまでの人の声。
 立ち止まれば、人の足踏みで地面が揺れていると錯覚もするだろう。
 地鳴りと聞き紛う雑踏。
 
 そこには人が、溢れていた。
 
 「うわぁ――――――――――!」
 
 もうお約束と言えるだろう、灯里の感嘆の声。
 それすら霞んでしまう程の人、人、人。
 
 「ビバ! ネオ・ヴェネツィアって感じですね」
 
 「あらあら」
 
 周りを見渡せば、そこここに俺達と似たような感じの人の塊がある。
 その塊同士がぶつかれば、そこに知った知らない関係なく人の輪が作られていく。
 万人が万人、隣人を愛し、求め合う。
 ここはひとつの理想郷と、そう信じてならなかった。
 
 「あ――――…… 」
 
 灯里がなにか情けない声を出すものだから、その思考も打ち止め。
 視線の先には、むしろ関わるまいとする藍華の姿があった。
 
 「あら、藍華ちゃん?」
 
 と、思った瞬間。その態度は激変する。
 瞳を輝かせ、トントン拍子に近付いてくる。
 ゲンキンだなぁ …… 。
 
 「藍華ちゃんも来てたのね」
 
 「はいっ、姫屋のみんなと一緒に」
 
 「それ、ここに来ていいのか」
 
 「あ、士郎さん。えぇ、大丈夫大丈夫。どうせはぐれるんだから」
 
 それもどうかと思うけどな。
 結局アリシアがいるからだろう。
 はぁ、とため息もつきたくなる。
 と。
 
 「お久しぶりっス、アリシアさん。と、旦那」
 
 「あ゛――――――――~」
 
 「あら、こんばんわ」
 
 「お、暁か」
 
 よっぽどお気に入りなのか、はたまた好きな子には悪戯したくなる男の心境か。灯里のサイドヘアを握り締め、いじっている。
 
 「暁くん、一人?」
 
 「いえ、兄貴と一緒です。はぐれましたが …… 」
 
 その時、藍華がくいくいっと袖を引っ張るもんだから何事かと藍華を向くと、ニヤニヤした顔がそこにあった。
 おそらく、
 
 「ね? はぐれるでしょ?」
 
 「みたいだなぁ …… 」
 
 こういうことなのだろう。
 これほどの人の波だ、はぐれないようにするにはそれこそ目を離さないか、手を繋ぐとか。
 そんなことを考えていたからだろうか、そっと冷たかった手に温もりを感じた。
 
 「ほら、みんな行っちゃいますよ?」
 
 「アリシア …… わかった、わかったからあんまり引っ張らないでくれ」
 
 アリシアはそのまま手を離すことはなかった。
 追いついても、ニコニコとみんなを見守っていて、でも、小さな子供みたいに俺の手を離そうとはしない。
 時折、誰かが振り向いたりすると、上手い具合に繋いでいる部分を隠して誤魔化す。
 アリシアだって、まだ子供なんだな …… 。うん、ちょっと安心かな。
 
 しばらくそんな事が続いて、人気が広場の中心と比べて少なめの端っこに移動する。
 アルトリアもそろそろ合流するかな …… 。
 
 「あっ、暁さん何食べてるんですか?」
 
 「無論、ヒラマメだ」
 
 「おマメ …… ですか?」
 
 「やらんぞっ」
 
 「何で『無論』なんですか?」
 
 「そんなことも知らんのか愚か者めっ」
 
 灯里たちがまたじゃれ始めた。
 こちらのアリシア女史は相変わらず手を繋ぎながらクスクス笑っている。
 いいけどさ。
 
 「ほれ灯里」
 
 「あー。おマメ料理ばっかり」
 
 藍華が屋台を指差して灯里に説明し始める。
 
 「マンホームのヴェネツィアではね、一年の最後にかならず豆料理を食べる習慣があるのよ。豆はお金の象徴だから、福を呼ぶって言われてるの」
 
 「ほへーっ」
 
 「その習慣をこの街でも受け継いでるってワケ」
 
 つまるところ、年越しソバみたいなもんだろう。
 そのあたりの知識はあんまり知らなかったな。
 
 「シロウ、アリシア、アカリにアイカも!」
 
 「あーっ、アルトリアさん遅いですよう!」
 
 「すいません。親方に捕まってまして」
 
 酒も勧められました、と苦笑いで答える。
 みんなは走ってきたから顔が赤いと思っているだろうが、こいつはそんなことじゃ赤くはならない。
 おそらく、飲んできてるんだろう。
 
 その時、アリシアの手が離れた。
 変わらない笑顔を俺の方に向けて、灯里たちの輪に入っていく。
 しばらく傍観した方が良さそうだと、長年の勘がそう言っている。
 
 「む。誰だお前」
 
 「お前とは …… 。貴方の方こそ。名を聞く前に名乗ってはどうですか?」
 
 「んだと、ちびスケのクセに!」
 
 「ほう。いいでしょう。その手、挙げようモノなら容赦はしません。それを覚悟して尚、向かってくるというのなら、挑戦に応えましょう」
 
 うわぁい。
 酔ってらっしゃる。完全に酔ってるよアレ。
 しっかり出来あがってるよ、洒落になってない。
 この二人、ていうかアルトリアが酔ってさえなければこんなことにはならないだろう。
 
 「へ、へぇ! いい度胸じゃねぇか、いいぜ乗ってやる!」
 
 「応えるのは私の方だ。間違ってはいけない」
 
 そろそろヤバいな。
 出て行かないと大変なことになる。主に暁が。
 
 「女だからって容赦しねぇぞっ!」
 
 「なっ、この身は剣に捧げている! 女だと思われるのは不愉快だ!」
 
 「はい、ストーップ!」
 
 アルトリアが“セイバー”に戻ってる。
 さすがにこれ以上はマズイ。ヤバイんじゃなくてマズイ。
 主に暁が。
 
 「アルトリア、大人気ないぞ」
 
 「し、しかしシロウ!」
 
 「旦那、どけよ。そのちびスケに用があるんだっ!」
 
 「暁も。これ以上は止めておけ」
 
 非常にマズイから。くどい様だが主に暁が。
 収拾が付かないな …… 。一発やればアルトリアが一瞬で暁を倒すだろうけど、それだとこれからの関係が気まずくなる。
 それは個人的にも二人的にもよくはない。
 さて、どうするか …… 。
 
 
 「士郎さ~んっ! あっちにおしるこ屋さんがあるんですよ、みんなで行きましょー!」
 
 
 瞬間、俺を含めた三人の緊張が解けるのがわかった。
 そのまま気にせずぴょこぴょこ近付いてくる。
 
 「ほら、暁さんも怖い顔してないで、一緒に行きましょー!」
 
 アルトリアの方はすっかり灯里に毒気を抜かれているようだ。
 はぁ、と嘆息する。
 げに恐ろしきは灯里マジック、てか?
 
 「ほら、行こうアルトリア」
 
 「はい …… 。まぁ、そうですね。私が大人気なかった。少年、私はアルトリアです」
 
 貴方は? と聞かれた暁本人はその態度の違いにあっけにとられ、
 
 「あ、暁様だっ! 覚えとけ、ちびスケっ!!」
 
 むぅ、とアルトリアが唸る。
 名前を言ったのになぜそれで呼ばないかを気にしてるんだろう。
 俺はまだいいが、灯里なんて『もみ子』だからな。まともに名前を呼んでいるのなんてアリシアくらいしか知らないぞ。
 
 「そういう人なんでしょうね。少し苦手です」
 
 とは、アルトリア。
 苦手な人とか、あんまりいなさそうな感じがするけどな。
 
 「とんでもありません。私とて王である前に一介の人だったのです。苦手な人物くらいいます」
 
 「へぇ、そうなんだ」
 
 「そうですとも。なにぶんこちらに来てからはその傾向が強い。親方など最たる人物です。あの悪戯好きときたら …… 。今日だってジュースだと言って渡された飲み物の中にウォッカを忍ばせていたのですよ? 信じられますか!? いや、あの匂いの強いものを勧められた時点で気付くべきでしたが …… 」
 
 珍しいので、そのままにしておく。
 酔った勢いか、どんどん愚痴が零れてくる。
 そして、
 
 「シロウ、聞いていますか!? まったく、貴方はいつになってもその態度が変わらないと見る。貴方は人の心の機微にもっと気を配るべきなのです、わかっていますか!?」
 
 (絡み酒だよ …… )
 
 思わず苦笑する。
 
 「アウグーリオ! ぼなーの! あうぐーりお! ボナーノ!」
 
 苦笑が重なる。
 灯里が一段と楽しそうにしている。
 のだが、それはまだ早いんじゃないか?
 
 確か、『Augurio』、アウグーリオは祝賀の際にかける言葉で、
 『Buonanno』は明けましておめでとう、位の意味だったかな。
 これでも各地を渡り歩いていた身。数カ国語程度はある程度理解しているし、3・4語ならしゃべる事も出来る。
 
 「アルトリア、合流しよう。おしるこもあるみたいだし」
 
 「そうですね、行きましょうか」
 
 おしるこに反応したとしか見られない。
 ウキウキと話の輪に加わる。
 
 「や。ごめんな、話し込んでたよ」
 
 「士郎さ~ん、この子どうにかしてくださいよ~」
 
 輪に入った途端、藍華が懇願してくる。
 矛先は言うまでもなく灯里なわけだが。
 
 「ハイテンション過ぎて手におえないんですよぅ~」
 
 「それを俺にどうしろってんだよ」
 
 「藍華ちゃんひどいよ~、だってだってだって――――― 」
 
 そのハイテンションの理由を灯里が口にする。
 
 「アリシアさんも、アリア社長も、藍華ちゃんも、ヒメ社長も、暁さんも、それに士郎さんとアルトリアさんもいる!」
 
 ばっ、と手を大きく広げ、抱き込む様に腕を閉じていく。
 
 「アクアで迎える、始めての年越しなんだよっ。私にとってみんなに出会えた、特別な一年だったんだもんっ」
 
 腕は胸の前で畳まれ、手に持つ帽子には皺が寄るほど強く持たれている。
 そして、本当に嬉しそうに、顔をほころばせ、
 
 「そんな今年が、もうすぐ終っちゃうんだよー」
 
 その言葉を口にした。
 ガン、と来る精神的ショック。
 悲しいとか、そんなものじゃない。
 俺の中を、なにかが通った感じがした。いままで冷たかった手が、一気に温まった。
 その言葉に、違うな …… 。その灯里の気持ちに …… 。
 
 俺は、すごく感謝したい。
 
 「おっ、そろそろカウントダウンだな」
 
 「いいっ灯里、年越しと同時に投げるのよ」
 
 藍華と暁を皮切りに、俺たちのグループも投げる準備を始める。
 手に持ったエプロンに皺が寄る。
 アルトリアは何を投げるのだろう、と横を見る。
 
 「シロウ …… 先走っても、遅れてもいけませんよ?」
 
 「あ、あぁ」
 
 チャラ、とエアバイクのキーを持ち出す。
 そうか、それを投げるのか。
 
 思えば、早かった。
 
 ――――――――― 10[ディエス]
 
 この一年、多いに悩んだ。
 
 ―――――――― 9[ヌェベ]
 
 しかし、答えらしい答えは見付からなかったかもしれない。
 
 ――――――― 8[オチョ]
 
 『幸せの護り手』 …… これからも俺はこれを抱き続ける。
 
 ―――――― 7[シェテ]
 
 もしかしたら、間違っているかもしれない。
 
 ――――― 6[セイス]
 
 間違ってないかもしれない。
 
 ―――― 5[シンコ]
 
 でも、これが今のところの『答え』だから。
 
 ――― 4[クアトロ]
 
 だから、これ以上を俺が望むのは ……
 
 ―― 3[トレス]
 
 「素敵な贅沢者ね」そう、誰かが言った。
 
 ― 2[ドス]
 
 そう、贅沢なんだろう。
 
 1[ウノ]
 
 
 
 
 
 
 
 『『『『『アウグ―――リオ!!』』』』』
 『『『『『ボナ―――――ノ!!』』』』』
 
 
 
 
 
 
 紙ふぶきと、各々が想いを込めたモノが空を埋めていく。
 時がゆっくりと流れていく。十分なほど空を舞ったモノたちは、持ち主の手の中に収まり直す。
 遠くに、声に音を消されながらも賢明に鳴り響く大鐘楼の鐘の音が聞こえる。
 
 「アウグーリオ!」
 
 知らない誰かが手を取って踊り合う。
 また、その中に誰かが入り、その連鎖は止まる事を知らない。
 笑って、笑って、踊って踊って。
 
 「アウグーリオ!」
 
 手に手を取って、幸せの連鎖。
 手を繋げば、それだけで隣人は恋人に、親友に。
 この時ばかりは、誰もが知らない、ということはなくなる。
 全ての法則が無視されていく、まるで幸せの特異点。
 誰にも何モノにも犯されぬ、冒されぬ、侵されぬ。
 
 ただそこにある、『幸せ』という感情。
 
 それは、言うなれば『知り“愛”』。
 
 「アウ、グー …… リオ …… 」
 
 言葉を口にする。たどたどしい口調。
 まだ慣れない。
 恥ずかしさに顔を赤くするのと同時。
 手が、握られた。
 
 「アウグーリオ、士郎さん!」
 
 アリシアが、笑顔を浮かべて、雫を伝わらせて、そこにいた。
 
 「アウグーリオ、士郎さん!」
 
 手を握ったままで、くるんくるんと回り踊るワルツ。
 
 「アウグーリオ、士郎さん!」
 
 滲んで霞む彼女の瞳は、青い。
 蒼天が如く、広く、自分を見詰め包み込まれる。
 
 「アウグーリオ、士郎さん!」

 蒼の雫を、際限なく滴らせ続けている。
 胸が、軽くなった。つっかえていたものが、解けていく感覚。
 なんだろうか、これは。
 なんで、こんなにも手が熱い …… 。
 
 「あぁ。アウグーリオ、アリシア …… !」
 
 「っはい!!」
 
 彼女の笑顔が、絶えることはなかった。
 
 
 
 「おはよう、灯里ちゃん」
 
 「 …… ん」
 
 灯里が目を覚ます。
 あれだけ騒げば、自分がいつ寝てしまったかもわからないだろう。
 藍華は以外とタフで、この時間まで起きていた。
 暁は、騒ぐだけ騒いで、気が付けば寝ていた。
 アルトリアは今、残ったおしるこで朝飯と洒落込んでいる。
 
 各々が各々、それぞれの迎え方で、朝を迎える。
 
 黎明が晴れていく。
 
 「初日の出 …… 全身でおひさまを感じる。とってもまぶしくて真っ白な世界」
 
 海が白ける。
 徐々に顔を出してくる太陽は変わりないものだが、今日だけは特別。
 すべてを白く塗り替える、始まりの黎明。
 
 「そうね。まだ出来たてほやほやの、真っ白な一年の始まりね」
 
 落ち着いた口調で、アリシアは唄うように囁く。
 
 「これから先、この新年がどんな色に染まっていくのかは、ぜ――――んぶ …… 」
 
 ふわり、と髪が舞う。
 笑顔は、消えない。
 
 「灯里ちゃん次第。み―――――んな、同じ」
 
 笑顔は消えず、こちらを振り返る。
 ただ、その太陽の光は眩しすぎて俺は目を細めた。

 「がんばらなきゃねっ」
 
 「はひっ」
 
 灯里は元気に、いつもの調子で返事をする。
 それがなぜか心地よくて、目を開けてみたくなって、光を受け入れた。
 
 「そうだな …… 」
 
 ぶっきらぼう、なんて言われても構わない。
 そう、答えたかったんだ。
 
 笑顔は、消えない。
 



 この日、俺はわからないけど、わからないと言う事がわかる『答え』を …………
 
 
 
 
 ――――――― 今日、俺は心に宿した。
 
 
 
  
 
 

 
             

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『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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