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2009-01

背徳の炎  track:13

 
 2181年。
 旧・ジャパン ――― キョウト島。
 
 「おーし。そんじゃあ、ま。ちょっと行ってくるから、メイシップごとここで待機しといてくれ」
 
 『りょうかーい!』
 
 彼は無線を切って、小走りに走り寄ってくる。
 目はサングラスでよく分からないが、口元には会う度に変わらない気障ったい笑いが確認できる。
 黒のトレンチコートの下は自らの鍛え抜かれた肉体を曝け出し、手には愛刀を携えている。
 
 「待たせたな。ちゃっちゃと片付けちまおうぜ」
 
 「ジョニー! ちょっと訂正!」
 
 「おう?」
 
 彼の名は、ジョニー。
 国際警察機構でも彼に勝てる人物は私もいれてそうはいないだろう。
 いや、本人は実際まったく本気を出している風がないので、私でも本気の彼に勝てるかどうか。
 
 「ディズィーの事だよ!? 家族のことなんだよ!? それをよくも『ちゃっちゃと片付けよう』なんて言えるね!?」
 
 「オーケーオーケー。メイ、お前の言いたいことはよぉっく解った。じゃあ、行こう。家族のタメに!」
 
 「ふん、調子いいんだから!」
 
 まぁ、その彼の唯一の弱点、と言うか。
 彼女の名前はメイ。
 ジョニー率いるジェリーフィッシュ快賊団、その旗艦メイシップの若き船長を務める少女だ。
 実力は言わずもがな、ジョニーに続き快賊団ナンバー2だ。
 
 「あ、あの …… そんなに真剣にしてくれなくてもいいんですよ?」
 
 「何言ってんの。家族のことに真剣にならないなんて私は考えられないね!」
 
 「あ …… ありがとうございます、メイさん」
 
 「べ、別に。お礼を言われるようなことはしてないよ。家族のタメだからねっ!」
 
 「はい!」
 
 そして、件の女性。
 ディズィー。
 白と黒の翼。艶やかな光沢を放つ尾。その人外の容姿を持つ彼女は、だがしかし、彼女なのだ。
 ジェリーフィッシュ快賊団にしてみれば、そう、家族。
 生態兵器『GEAR』と人間のハーフ。それが事実であれ、彼女は“ヒト”なのだ。
 
 「では、出発しましょう。ここもいつ管理局が来るかも知れません」
 
 「よ~し。しゅっぱぁ~つ!!」
 
 そして、私。
 カイ=キスク。
 前聖騎士団団長、クリフから聖騎士団団長の任を受け継ぎ、聖戦を終結に導く一人として動く。
 その後、聖騎士団は解散。世界平和の大任を受け継いだ国際警察機構で長官の任を任される。
 
 そして、今。
 
 「見付かります、きっと」
 
 「はい。でもまた外れてたら …… 」
 
 「その時は、また次を考えましょう。時間はまだまだありますよ」
 
 「 …… はい!」
 
 彼女、ディズィーさんの『自分』を知るための探求に助力をしている。
 産まれてすぐ、まだ記憶も付かない乳児の頃には捨てられ、老夫婦に拾われ育てられた。
 しかし、自分の成長の早さと、人外の容姿も相俟って自ら身を隠し生きる事を誓った。
 そして、色々と政治的なことも動き、今やジェリーフィシュ快賊団の一員になっている。
 
 だが、そこまで知って尚、彼女には『自分』がわからない。
 家族と慕ってくれる人に囲まれ、それ以上なにがあると諭されても、彼女は求めた。
 
 『自分』は何のタメに産まれて、何故今も生きているのか。
 
 それを彼女は求めた。
 
 「にしても、こんなとこにあるって理由はなんなんだ、団長さんよ」
 
 「えぇ。ここには聖戦初期当時使われていた研究施設があります。ツェップもジャパンならガードも薄いと思ったのでしょう。
 そして、それだけなら来るに足りない場所なワケですが …… 」
 
 「稼動があったって事だね!」
 
 メイさんが変わりに答える。
 
 「その通りです。管理局が来る、と言いましたが …… 下手をすると、誘き寄せられたとも考えられます」
 
 「え …… そんな、なんで …… そこまでして?」
 
 不安がり、体を振るわせる彼女に向かって、私はまだ笑ってあげることしか出来ない。
 
 「助力は惜しまない、と言ったからです。女性との約束ほど、破ってはいけないことはありません」
 
 「あ、う ………… あ、りがとう、ございます」
 
 「ちょっとお兄さん? ウチのディズィーを口説かないでくれる?」
 
 「え!? い、いや私はそんなつもりは …… っ」
 
 「なくてもこっちがそう聞こえたんだからそうなの! ほらほら、離れて。いい、ディズィー。ジョニーがあんなだからよく分かると思うけど男はみんな狼なんだよ? 気を付けなくちゃダメじゃない」
 
 この子の行動力にはいつでも目を丸くさせられる。
 過保護と言うか、まるで母親のような気もしてくる。
 ふと、ジョニーさんと目が合う。彼はやれやれと肩を竦め、何でもなかった様に歩き出す。
 考えても栓のない事、とそういうことなのか、はたまた茶飯事なのか。
 
 
 しばらく歩いていただろうか。
 道が広くなった。獣道もかくや、という道だった物がいきなり人の手が入ったものに。
 近い、か。
 
 「団長さん、あれ見えるか?」
 
 「 ………… 建設物、研究所みたいですね。ここからだと大体2kmくらいですか」
 
 「それと、ビンゴみたいだぜ」
 
 そう言われる前に、辺りに気配が充満していく。
 耳障りな機械音。もう聞き慣れて久しいと言うのに慣れない。
 いや、慣れたくもない。
 
 「ギギ。侵入者、ハッケン! オイ、テメェラ。ココカラ先ハ、関係者イガイ立チ入リ禁止ダ。間違ッテモ『関係者ダ』ナンテ嘘ハ百モ承知デブッ潰スゾ!!」
 
 アイカメラをビカビカと趣味悪く光らせ、見たくも聞きたくもない姿と声が現れる。
 やはり、罠だったか。終戦管理局 …… 今度は何を。
 
 「アト、オマエ。おりじなるダロ! けーす48、遭遇まにゅあるニ書カレテイル ………… ナンダカノ方法デオマエヲ排除スルゾ、バカヤロウ!」
 
 「一体だけで何が出来るって言うのさ! へぼっちいくせに!」
 
 「ワシハ、がきニハ興味ガナイ! ツルペターンヨリ、ぼんきゅっぼんノ方ガ好ミデアル。ヨッテオマエニハ価値ガナイ、コノ駄目ヤロウ! …… 駄目アマ!」
 
 「な、なにぃ~っ!! ちょっとそれどういうこと!? 私だってそれなりにあるんだからっ! それにわざわざ言い直すな、機械のクセに無駄に義理堅いんだよ、ばぁ~か!!」
 
 それは私をベースにした名残なのだろうか。
 むしろ、なぜ私が …… 。
 いや、断っておくが、私は女性をそんな目で見たことはない。決してない。
 
 と、メイさんが言い争っている内に、いつの間にか包囲され尽くしている。
 数は50を越えたか。
 ここで足踏みしていると、あの研究所にいるだろう幹部にでもデータ削除されかねない。
 急がなければ …… 。
 
 「ここは私が残ります。みなさんは研究所へ急いでください!」
 
 「カイさん!」
 
 「いいんです。助力は …… いえ。貴方の役に立てるなら!」
 
 封雷剣を抜き放つ。
 雷電が迸り、一気に戦闘態勢へ。
 
 「おっとっとぉ。ちょいと待ちな、団長さん。ここは我がジェリーフィッシュ快賊団が請け負った」
 
 パチン! とフィンガースナップを打つと少し遅れて
 
 『ジョニー! 来たよー!』
 
 晴天を埋める影。
 メイシップが上空まで来ている。
 おそらく、ジョニーさんがこの状況になった時に呼んでおいたのだろう。
 しかし、あの演出は如何なものか。
 
 『メーイ! これ忘れ物っ!!』
 
 空を切り、鉄塊が落ちてくる。
 否、錨である。メイさんの馴染みの得物。
 
 「さんきゅー、エイプリル! よっせい!!」
 
 その肢体からは想像もつかぬ武装を軽々と素振りする。
 あれをやれ、と言われても私には出来ない。
 あのメイシップの錨なのだ。おそらく、200kgは軽い。
 
 じりじりと包囲網が縮まっていく。
 周囲360℃は敵の山。向かう場所は研究所。制限時間は多く見ても20分ない。
 
 「団長さん、メイ、ディズィー。お前等は先に行け。ここは俺たちが食い止めておく」
 
 「しかし!」
 
 ちっちっち、と余りにも古ぼけた舌打ちで私の言葉の先を切る。
 にたり、と気障ったらしい笑みを浮かべ、
 
 「家族のタメに、一肌脱がせてもらってもバチは当たんねぇさ。一点突破だ、行くぞ!!」
 
 「 …… 仕方、ありませんね。わかりました!」
 
 「ディズィーは任せてよ、ジョニー!」
 
 「ジョニーさん、お気を付けて …… 」
 
 封雷剣に法力を込めていく。
 本格的に封雷剣を起動、溢れんばかりの白雷が場を埋め尽くす。
 
 「はぁっ!!」
 
 右腕で円環法力陣を展開、迸る雷電を中心へ収束。
 
 「付いてきて下さいよ、行きますっ!!」
 
 合図を送って、解放。
 
 「セイクリッドエッジ!!」
 
 雷の大剣が走る。
 前方の塊を強引に斬り分けて、道が出来る。
 誰よりも早く、メイさんが走り抜け、周りの敵も纏めて薙ぎ払って行く。
 続いてディズィーさん、私、最後にジョニーさんが。
 
 「さて。こいつらを片付けたら急いで合流するから、仕事は残しといてくれよ?」
 
 コートを派手に翻し、帽子のつばを指で微かに上げ彼は背を向けた。
 振り返ると、波の様に押し寄せる敵の山。
 
 「キーッ!! オノレ、オマエジャナクテ女ヲ置イテ行ケ!! イヤ、デモオマエノ船ハ♀ダケダッタナ。ヨッテオマエヲぼこっテ、アレハワシノモノニ決定!!」
 
 さっさと行け、と背中が語っている。
 あの二人はさすがと言うか、信じてならないんだろう。振りかえりもせず、尚走るスピードを速めていく。
 …… くそっ。
 
 「早く来てくださいよ!」
 
 「まだいたのか、さっさと行け!!」
 
 二人の後を追う。
 数秒もしないうちに追いつき、林の中の道を駆け抜けていく。
 全員無言。葉を足が踏む音と、息遣いだけが聞き取れる。
 
 研究所に近付いていく。
 外見はいかにもな物だが、内部はさて如何なる物か。
 
 少しでも、彼女の真実に近付けるとよいのだが …… 。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「オラァ! 潰レヤガレ、変態ヤロウ!」
 
 「誰が変態だ。俺ァいつでも紳士だぜ!」
 
 銀閃。
 頭部が綺麗に吹き飛び、機能が停止する。
 次の瞬間、横に大口径マシンガンが着弾。敵を纏めて吹き飛ばしていく。
 
 「腕上げたんじゃねェのか、ジュライ!」
 
 『当たり前でしょ、毎日何発も撃ってたら慣れるに決まってるじゃん』
 
 「 ………… ちょっと待て。毎日撃つような展開なんて、この頃全くなかったぞ!?」
 
 『ちょっとジュライ! 言っちゃ駄目じゃん!』
 
 『ごめん、ノーベル …… 』
 
 無線の奥でギャアギャアとうるさい事だ。
 いやそれよりも …… 俺も今月結構使っちまったからなぁ。
 それに加えて弾丸まで。
 エイプリルにまだどやされんな。あー嫌だ嫌だ。
 
 「っとらぁ!」
 
 胴体を蹴り上げる。
 そこから配線やらゲル状のえんがちょなモンが飛び出して、胴が真っ二つに割れる。
 
 『ジュライとノーベル …… あとでお話聞かせてもらうよ?』
 
 『あーん、ごめんエイプリルっ。ワザとじゃないんだよぅ!!』
 
 『だから、その理由を後でたっぷり聞かせてもらうって言ってるの! 今は戦闘に集中!』
 
 平和なもんだ。
 いいのかこれで。
 
 「シッ」
 
 2体を纏めて斬り裂く。
 くそ、さっきからどんどん増えてやがる。
 あとで使えそうな部品持って帰って、売り捌いてやる。
 
 「くそ、そろそろ飽きてきやがった。こいつらプログラムでしか動きやがらねぇもんで単純すぎんだよ」
 
 バッサバッサと出来るだけ部品に傷を付けないように壊していく。
 屍累々、てわけじゃねぇが、こんだけありゃエイプリルも機嫌直すだろ。きっと。多分。
 
 「もっとこう、エレガントに戦いな!」
 
 魅せつけるように銀閃が閃いていく。
 
 「微妙ニ鬼神カモ …… ッ!?」
 
 ざざ、と一旦波が途切れる。
 仕切り直しと洒落込んだんだろうが、動きを止めたお前等の負けだ。
 
 「遅い …… っ!」
 
 「漠然ト本気ヲ出スゾ!!」
 
 途端、全ての敵機から“ガチン”と聞きたくもない嫌な音が出た。
 もしかしなくても …… っ
 
 『ジョニー戻って!!』
 
 暗転、瞬間、鉄のような質量を以って爆炎が放たれる。
 こいつら、自爆しやがったっ!
 
 「ぐあああああああああああっ!!」
 
 『ジョニィィィーッ!!』
 
 喉が、肺が熱い。
 寸前に法力で壁を作ってもこのダメージか …… 。
 
 『ジョニー! ジョニー、応答してっ!!』
 
 「あー、はいはーい。生きてるよ。ハンサムなのも変わってないから安心しな」
 
 『もう、バカ!』
 
 あーあ。
 部品も全部吹っ飛んじまった。
 もう、物の見事に粉々って、もとからこれが目的だったんじゃないだろうな。
 部品廃棄とついでに俺も殺しとこうってか? は、舐められたもんだぜ。
 
 「よし、追うぞ!」
 
 『追うって …… その体で!? ダメだよ!』
 
 なに言ってんだ、たかだか火傷のひとつやふたつ。
 どうってこたぁない。
 
 「家族が待ってんだよ。それに、団長さんにも念押しされてるしな」
 
 『でも …… っ!』
 
 「それに …… 」
 
 無線の奥でエイプリルが息を飲む。
 俺の言葉を待ってるんだろう。
 
 「“アイツ”が来てるかも知れないんでな」
 
 『あ、アイツって誰?』
 
 「話してる ―――――……」
 
 時間はない、と言いかけたその瞬間。
 莫大な法力の波動を感じ取る。
 刹那、地響きと共に研究所方面から爆発ばりの発光を確認。
 


 ――――――――――――― ジョニ―ッ!!!
 
 
 
 「っ。メイ、ディズィー!!」
 
 『う、あ。ちょ …… ジョニー!?』
 
 体がバリバリと破れていく。
 火傷で固まった皮膚が割れてるんだろう。
 たかがそんなことで立ち止まっていられない。
 
 今は、一刻も早くあいつ等の元に。
 足を鞭打って速度を上げる。
 
 「エイプリル、研究所に何が見える!?」
 
 『ちょっと待って、煙がすごくてよく見えないけど …… 半分くらい消し飛んでるよ!』
 
 「くそっ、遊んでる場合じゃなかったか …… 」
 
 とんでもない失態だ、と唇を噛む。
 ここからでも煙は見える。
 急げ急げ、急げ!
 
 早く、とにかく、俺のこの目で確認できるまで近く …… っ!!
 
 
 
 *  ~  *  ~  *
 
 
 
 「 ………… またか」
 
 「は。キョウト島方面です」
 
 「もういいよ、下がってくれ。後は自分で考える」
 
 「御意」
 
 漆黒の外套を纏った男が恭しく頭を垂れ、それ以上の昏い闇に飲み込まれていく。
 完全に姿が見えなくなって、残った男は口を開いた。
 
 「 …… 混ざり始めてしまっている。これはとんでもない事だ」
 
 世界の混合。
 パラドックスが混沌とし、その方向性が失われればその先は『闇』でしかない。
 それが今、行われようとしている。
 
 「それはいけない。君もそのことはわかっているだろう、フレデリック」
 
 ここにはいない、この世界にはもういない彼の名を口にする。
 男は深々と腰掛けていた椅子から立ち上がる。
 
 「僕も、出来る限りのことはしよう。いよいよ“啓示”が動き出したか …… 。まさか、仮説が本当になってしまうとはね」
 
 コツ、と一歩を踏み出す。
 その足取りは、口調とは裏腹にゆったりとした歩み。
 
 「もともと、世界は混ざり合うことを良しとしてはいない。それは可能性の話ではなく、原初として世界がふたつ隣り合うなどあるはずがない」
 
 それでも、隣り合ってしまった。
 お互いの珍しさに、お菓子に近付く子供の様に接近し、終いにはなくなる。
 
 三段論法を用いれば、よくわかる。
 
 『すべての過去は現在である』
 『すべての現在は未来である』
 『故に、すべての過去は未来である』
 
 つまり、幾重にも過去を重ねようとも、向かう未来はひとつであり、世界がふたつ、などはもとからありえない定理なのだ。
 それが今、崩された。
 
 『すべての過去は現在である』
 『すべての現在は未来である』
 
 これは大前提だ。
 しかしこのままでは、ミッシングリンクが起こってしまう。
 
 「現在という過程を無くし、過去は未来に直結する。しかし、それは間違ったものだ。過去も未来も、結局は現在がある故に確認できる虚構の存在」
 
 故に、と男は独り言を続ける。
 もう声しか聞こえないほどに昏い闇に飲まれてしまって尚、その声は凛として聞こえるている。
 
 「現在を抜かした時間移行など、“在りはしない”。結論を急ごう …… 」
 
 声も、足音も、息遣いすら聞こえなくなった闇から、たったひとつの結論が産まれた。
 
 
 
 
 
 
 ―――――――――――――世界は、決壊する。
 
 
 
 
 
 
 「帰って来いフレデリック …… 。君の答えは、そっちにはありはしないよ」
   
 
  



               track:13  end



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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:1-5

 
 「気を付け! よく聞け …… 」
 
 ユークリッド隊長が注目する様呼びかける。
 みんなが自分を見ていることを確認した後、一度だけ頷き、大まかな作戦を口にする。
 
 「作戦内容を伝える。まずは現状確認だ、リィン」
 
 「はいです。現在列車はガジェットによってコントロールを奪われています。そして、中央車両 …… 第7車両からは『レリック』反応が確認されています。
 今、なのは隊長とフェイト隊長が我々の降下のため、制空権を握ろうと空戦型・ガジェットⅡ型と交戦中です」
 
 モニターを開いて、映像をリアルタイムで映す。
 列車内の映像ではガジェットⅠ型が群がり、上空の映像では交戦中の両隊長の姿が。
 
 「作戦内容は以下の通り、一度しか言わないからよく聞け。スターズ、ライトニング01が制空権を獲得。安全を確認後、スターズF、ライトニングFに分かれ車両前後からガジェットを掃討しつつ中央車両へ。
 『レリック』は先に到着した分隊が確保。別命あるまでは待機だ。
 よって、諸君らの主な任務は《『レリック』の確保》、《ガジェットの全機破壊》だ」
 
 ぎゅっと、新調したばかりのデバイスを握り締める。
 大丈夫、アタシなら、アタシたちならきっとやれる …… 。
 
 そんな心境を感じ取ったのかは知らない。
 けれど、さっきまでの厳しい、隊長然とした口調から、普段通りの彼の声が聞こえた。
 
 「 …… デバイスが新調された文字通り瞬間の、しかも初出動だ。全員が全員緊張してないわけじゃないだろう。空には敵、列車の中にも敵。その上しっかりとした『レリック』反応。そうだろ?」
 
 頷きもしないで、返事もなし。それをどう思ったのかはわからない。
 けど、ユークリッド隊長は笑う。
 
 「大いに結構! 存分に失敗して来い。オレらがフォローしてやる。そのデバイスたちが助力してくれる」
 
 アタシ自身、もしかしたら緊張してたのかもしれない。
 なぜかと言うと、その隊長の言葉に心底ホッとしたから、なのかもしれない。
 また、安心とは別に、なにか違う感情が芽生えるのを感じた。
 昂揚する気持ち。手に汗を握る。
 
 ( …… なんだろ、コレ)
 
 今のアタシは今までにないくらい、きっと絶好調だ。
 何でも出来る気がする。
 
 「ティアナ!」
 
 「あ、はいっ!!」
 
 ユークリッド隊長の呼びかけで、思考の海から浮きあがる。
 
 「今回は分隊別行動だが、相方はスバルだ。しっかり手綱は握っておけよ!」
 
 「い、いつでもそれやってます!」
 
 「うわっ、何気にヒドイ!?」
 
 軽く盛りあがる。運転席のヴァイス陸曹も笑っている。
 続けて、
 
 「スバル。それをヒドイと思うなら、しっかりと連携していけ。暴走しない限り、いつも通りで何ら問題は無いぞ!」
 
 「はいっ!!」
 
 次々とフォワードメンバーに檄を飛ばしていく。
 さらにエリオ。
 
 「エリオ。お前はコンビを組んでまだ日が浅い。自信があまりないかもしれない。なら、それなら、お前がキャロにしてやれることは何だ!?」
 
 「 ………… 守ること。守り抜くことですっ!!」
 
 大きく頷く。
 そして、キャロ。
 今までの体育会系の檄から打って変わって、優しく諭すような口調をとる。
 
 「キャロ …… 高町さんも言ってたけど、自分の力がまだ怖いか?」
 
 「 ……………… はぃ」
 
 消え去りそうな声でキャロは同意する。
 それを咎める様子も無く、隊長は続ける。
 
 「じゃぁ、何もしないのか …… ?」
 
 「 …… っ」
 
 ふるふると首を振る。
 その反応がお気に召したのか、ニコリと笑って、キャロの頭を撫でながら、
 
 「なら、応えてやれ。お前を『守り抜く』と言った騎士の言葉に」
 
 「キャロ …… 」
 
 同じく、エリオもキャロに声を掛ける。
 キャロは俯き気味のまま、彼の言葉を待つ。
 
 「守るよ、僕」
 
 「 …… うん。うん、ありがとう!」
 
 …… スゴイな。
 ユークリッド・ラインハルト空等一尉。『戦場の演習家』。
 その所以たるは、この言葉なのかもしれない。
 これだ …… 。なにが“これ”なのかは今は置いておこう。
 目指したい。
 
 「そして …… 」
 
 リィン空曹がくるり、と回って騎士甲冑姿になる。
 
 「私と、ユークリッド隊長で列車のコントロールを取り戻します。さぁ、準備は出来ましたか~?」
 
 『おうよ、制空権獲得確認! ひよッ子ども、行って来い!!』
 
 ヴァイス陸曹の言葉で、メインハッチが開いていく。
 今、アタシたちの作戦が始まる …… 。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 『制空権獲得! スターズ01、ライトニング01は共に警戒態勢維持のままリニアレールに追従してください』
 
 「了解」
 
 私が若干上を、なのはが下を飛んで列車と付かず離れずの距離を保つ。
 いざとなれば、1分かからない距離を追従する。
 
 「 …… フェイトちゃん」
 
 「ん? なに、なのは」
 
 「少ないとは思わない?」
 
 「十分過ぎる数だとは思うけど …… 」
 
 だって50近くだ。少ないといえる方が、どうだろう。
 
 「ううん、違うの。そういう意味じゃない」
 
 「数の話じゃないの?」
 
 「AMFの展開具合だよ。ほとんど出てない」
 
 言われてみれば。
 戦闘中はいつも通りに飛べていたし、気になるとすればガジェットに肉薄したときぐらいだ。
 いつもなら、なのはの中距離あたりまでは弱いAMFが届くはず。
 
 「それが、なかった?」
 
 「そう。列車の方はいつも通りみたいだけど …… 。それとも、新型には構造上あまり強力なのは組み込めなかったか …… 」
 
 「 …… 動く」
 
 「そう」
 
 油断させておいてドカン。
 古典的だけど、防ぎようのない最良の一手には違いない。
 つまり、このガジェットは囮。本命は向こう。
 しかし、ガジェットの新型が他にあったとして、そこまで強力なものができるのか?
 今までで相手をしてきたところ、ニアAランクならほとんど問題のない相手だ。
 その証拠に、フォワード陣が互角以上に戦っている。
 超強力な、今までの比じゃないAMFを搭載していたとしても、やはりなにかが引っかかる。
 
 そんな面倒なことをするだろうか、と。
 
 「高度をあげよう、なのは」
 
 「え?」
 
 「上から直接見よう。モニターだけじゃ視野が狭すぎる」
 
 なのはは私の提案に無言で頷く。
 高度を上げる前に、本部と連絡を取らないと。
 
 「こちら、ライトニング01。これより高度を上げ、高高度より警戒を強める。許可を」
 
 『こちらロングアーチ。ライトニング01、理由を述べてください』
 
 「理由? 敵側に不穏な空気があるんです。それでは不充分だって言うんですか?」
 
 『 ………… 』
 
 しばらく話し合う声が遠く聞こえ、微かにはやての声も聞こえる。
 
 『ライトニング01』
 
 「はい」
 
 声の主が、グリフィスからはやてのものに変わった。
 
 『不穏な空気、というのはどういった理由で感じますか?』
 
 「敵新型のAMFが今までに比べ極端に弱い。なにか弱めている理由があるか、それとも所謂奥の手が存在していると憶測します」
 
 ふ、と緊張が高まるのを感じ取った。
 
 『 …… なら、許可はできん』
 
 「はやて!!」
 
 『今は作戦行動中や』
 
 「 …… すいません」
 
 思わず取り乱してしまった。
 いけない。こんなことじゃ、彼に笑われる。
 しっかりしろ、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。
 
 「理由を聞かせてもらえますか?」
 
 『それが罠という可能性が大きい。もしかしたら違うかもしれない。そんなはっきりしない“感覚”に作戦内容の変更は認められん』
 
 「 …… っく」
 
 『気持ちは分かる。やから、今回だけは特例で許可する。まぁ、高度制限付きやけど』
 
 「 …… え?」
 
 それより先の疑問を口にしようとしたところで、
 
 『ライトニング04 …… 飛び降り!?』
 
 『ライトニング03を追いかける形で列車から飛び降りました!!』
 
 モニターの奥、新型だろう大型のガジェットが列車の上に顔を出す。
 もうひとつのモニターには、落下中の二人の姿が映った。
 
 「大丈夫。あれなら出来るよ …… 」
 
 ロングアーチ側があたふたしている中、なのはの声だけが凛と響き渡る。
 それにはやても同意する。もちろん私も同意だ。
 
 「AMF影響下からの離脱。出来るよ、キャロの魔法。竜召喚!」
 
 なのはが言い終わるとほぼ同時。
 竜魂召喚 …… フリード本来の力が解放された。
 
 「よくできました」
 
 誰にも聞かれないよう、口の中だけで呟いておく。
 さて、ここからが私たちの本番だ。
 
 「ライトニング01、スターズ01、共に高度上昇します!」
 
 《500 …… 550 …… 600 …… 650 …… 700feet》
 
 700フィート。上空約200m。
 ここまで高度を上げられれば、列車は見える。
 フリードの姿を目視確認。
 
 「フェイトちゃん、アレ何かな?」
 
 見える?と問い掛けてくるなのはの視線の向こう。
 太陽を背に、なにか小さなものが浮いている …… ? でもそんな反応なんて。
 
 『スターズF、『レリック』を確保!』
 
 「 …… なのは」
 
 「うん。リィン?」
 
 『はいです。こっちもコントロールを取り戻しましたよ、今止めまーす』
 
 「ダメ! 止めちゃ危ない!!」
 
 影が肥大する。
 なにか、布 …… ?
 いや、あのカタチは ………… フリード、竜!?
 
 『え? ひゃアアアアアアアアアッ!?』
 『うわあああああああああああッ!?』
 『きゃあああああああああああッ!?』
 
 列車が横転かくやと言う衝撃を受ける。
 確認できるのは、その大きさと姿。

 予想通りの事態になってしまった。
 影が肥大して、現れたのは竜種。それも、魔力量ならフリードすら軽く越えているだろう竜だ。
 
 「行くよ、なのは!」
 
 「うん、フェイトちゃん!」
 
 そう、私たちの本番はこれからなのだから …… 。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「うわあああああああああああッ!?」
 「きゃあああああああああああッ!?」
 
 列車に何かが直撃したっ!?
 『レリック』は無事。体もケガはない。
 
 「スバル!」
 
 「うん、大丈夫 …… でも、何が?」
 
 「ちょっと待って。ロングアーチ?」
 
 『 ……… ガッ!!』
 
 「っ!!」
 
 ノイズが酷い。鼓膜が破れるかと思ったわ。
 この分じゃなんかヤバそうね。
 さて、こういう時はどうするべきか …… 。
 
 「 …… 今外に出るのは危険だけど、出ないと外のことが分からない」
 
 「でもティア、まだ、揺れてるよ!?」
 
 ―― ライトニング、応答して。
 
 念話を試す。
 ややあって、エリオの方が応答した。
 
 ―― はいっ、今、竜が …… っ!
 
 ―― え、何、チビ竜が暴走でもしたの!?
 
 ―― 違います …… っ、うわぁっ!!
 
 車両の壁が光った。
 違う、これは …… 砲撃?
 
 壁がバックリと砲撃で抉られ、外の様子が筒抜けになる。
 視界の端には、変わらない姿で飛行するフリードとライトニング。
 必死にこちらに向かって砲撃を繰り返す。
 そして、
 
 「あづっ!?」
 
 肌がチリチリと焼ける感覚。
 炎熱系の砲撃が目の前を掠めていく。屋根の上?
 とにかく。ここにいちゃライトニングの邪魔になる。
 
 「スバル、車両移動するわよ!」
 
 「うん、わかった!」
 
 前に行けばユークリッド隊長とも合流できる。
 足音は極力立てず、ひっそりと車両を移動していく。
 耳には轟々と列車が風を切る音と、竜の咆哮。
 とてつもない事になってるみたいなんですけど …… 。
 
 「スバル、ティアナ!」
 
 「隊長!」
 
 「よし、いい判断だ。『レリック』は?」
 
 これです、と差し出して見せる。
 よしと頷いて、ユークリッド隊長は聞けと言う。
 
 「これからオレが外に出て、外の竜の気を引く。その隙にスバルのウィングロードで『レリック』をヴァイスのトコロまで運ぶんだ」
 
 「っでも、それじゃあ!」
 
 「オレか? 心配すんな。上手くやるさ。回避には自信があるし、スターズ01もライトニング01ももうスグここに来てくれる」
 
 それでもスバルは悔しそうに拳を握る。
 それを見かねて、隊長はスバルの肩に手を置いて優しく語り掛ける。
 
 「いいか、スバル。今のお前のやるべきことは戦闘じゃない。優先事項を忘れるな」
 
 いいな、と諭す。
 スバルはと言うと、不承不承と頷いた。
 
 「スバル …… 。確かにな、敵を打倒するってのも仕事って言えば仕事だ。だがな、目の前の仕事をホッポリ出してする仕事は仕事じゃない」
 
 「あ、 …… 私、その …… 」
 
 「あぁああもう! 行くわよバカスバル!!」
 
 問答無用でスバルを引っ張る。
 
 「あとは任せて、隊長は『仕事』に戻ってください」
 
 「悪いな。よし、それじゃ …… しっかり届けてくれよ!!」
 
 ショートバスターで列車の壁に穴をあけ、飛び出していく。数発の炸裂音を確認してから、私たちも顔を出して安全を確認。
 スバルを見詰める。
 
 「大丈夫なんでしょうね?」
 
 「うん。今出来ることを、しっかりとやり遂げるよ」
 
 《Wing Road!》
 
 光の道が穴から飛び出して行く。
 すぅ、と深呼吸をする。
 勝負はここを離れられるか否か。
 スバルに『レリック』ごと背負ってもらって準備は完了。
 
 「いい? ここから出たら、アンタの大好きな『全力全開』でマッハキャリバーをかっ飛ばして!!」
 
 「了解ィィィッ!!」
 
 瞬間、前までのローラーからは考えられない加速と最高速で空を駆け抜けていく。
 数秒した後、後ろを振り返ると、見えた。

 蒼光する黒い鋼のような鱗、猛禽を思わせる鋭すぎる眼光。
 竜というよりも、獣に近いフォルムを持つ存在。
 
 背筋が熱い。
 動悸が激しい。
 流れる汗が冷たくて鳥肌が治まらない。
 
 「なによ、あれ …… 」
 
 初めて感じた、生の殺気。
 これが、死を間近に感じる戦いなのか。
 
 心にそれを刻み付け、『レリック』を無事に届ける。
 それで、私たちの任務はお終いだ。
 
 「は」
 
 笑える。
 スバルが悔しがったのは、こういうことだったのか。
 
 戦えない、生を共に賭ける勝負に参加できない。
 参加するかどうか、何て言えば参加しないに越したことはない。
 ただ、それが仲間だったら?
 
 私も、悔しかった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ちぃぃっ!」
 
 硬い。
 射撃魔法程度じゃ傷が付けられない。
 砲撃ならまだ分からないが、相手の砲撃も侮れたもんじゃない。
 これは、似ている …… 。
 
 「キャロ、大丈夫か!?」
 
 「は、いっ! まだ、いけます …… !」
 
 嘘だと直感する。
 フリードを駆る体力と、フリードにかけるブーストの魔力。
 今ここで真っ先に限界が来るとすれば、それはキャロで違いない。
 
 くそ …… 可能性に賭けていれば、もっと楽に出来たって言うのに。
 
 『ロングアーチからニーベルゲン01へ』
 
 「お前か」
 
 『貴方は、なにを知っているんですか?』
 
 「は。お前にしちゃ鋭いな」
 
 小さな守護騎士と言われようとも、ヴォルケンリッターの端くれ、と言うワケか。
 
 『茶化さないでください』
 
 「茶化してなんかいないさ。事実だっ!!」
 
 砲撃を紙一重で避ける。
 バリアジャケットにも所々に焦げ痕が付き始めている。
 深呼吸をひとつ。
 避けきれない攻撃じゃない。
 
 「あれは、オレの探し物かもしれないってか? はや …… 部隊長に聞いたか」
 
 『はいです。貴方がなにやら特殊な産まれだと言うことも』
 
 「特殊 …… ? まぁ、違いないっ!!」
 
 余裕をもって避けることに成功。
 このタイミングだな。覚えた。
 
 「スターズ01、援護に入ります!」
 
 「!」
 
 「ライトニング01、援護開始します」
 
 限りない弾幕が張られていく。
 ピンクと、金の魔力光が描く二重弾幕。
 
 竜は堪らず列車上から上空へ飛び上がる。
 
 「口を開いてから、コンマ5秒。ラグはコンマ07まで!」
 
 「了解!」
 
 モニターで先ほどの戦いは見ていたのだから、この意味は理解できるだろう。
 砲撃のタイミングだ。
 口が開く。目の前で開かれれば、半身は飲み込まれそうな巨大な口を開け ……
 
 「今!」
 
 《Plasma lancer》
 《Divine shooter》
 《straite shooter》
 
 回避からの弾幕による制圧を、もう一度試みる。
 魔力ダメージなのだから、当たればそれだけ魔力にダメージが溜まる。
 オレ一人じゃどうにもならなかったが、三人ならまだなんとかなる筈。
 
 「オレが動きを止める。その瞬間に砲撃で昏倒させる …… っ!!」
 
 「うん」
 
 「わかった」
 
 ここは純粋なミッド式魔導士に任せるが吉だ。
 中途半端なオレの砲撃よりも、ずっと信頼できる。
 
 「いくぞ、ジークフリード!!」
 
 魔力刃最大展開。
 これで決められるなら、決めてやる!
 
 「クラッシュ …… 」
 
 いつもなら出さない環状魔法陣をデバイスの後ろに設置。
 さらなる加速と衝撃。
 
 「チャージッ!!」
 
 《Maximum charge》
 
 移動魔法ほど器用ではない。
 ただ愚直に一直線。正面突破の突撃だけを考えた、最高速の威力。
 ただの速さなら、移動魔法のそれに匹敵する。
 
 直撃。
 衝撃緩和がなければ、骨が数本折れているだろう衝撃が体を襲う。
 歯を食いしばり、竜の状態を確認する。
 
 「タフだな、“やっぱり”」
 
 呟くと同時、
 
 「 ―――――――ディバイン」
 「 ―――――――プラズマ」
 
 《Bolt action》
 
 離脱。
 キャンセルからの移動魔法『ボルトアクション』。
 連続使用を視野に入れて考え出したプログラム。
 それで一気に後方へ飛び退く。
 
 「バスタァァ―――――――――ッ!!」
 「スマッシャ―――――――――ッ!!」
 
 莫大な魔力を砲撃と化し、竜に直撃させる。
 耳を劈く高音と、大地を揺らす低音が入り混じった竜の咆哮。
 ゴゴン、と大気が揺れているのが解るほどの放射量。
 
 そのなかで、竜が苦しそうに蠢き、ボロボロと輪郭が崩れていく。
 
 「 …… 消え、た?」
 
 「 …… 非殺傷なのに?」
 
 記憶から情報を取り出す、なんてしなくても理解できる。
 冗談じゃなくなってきたか。
 それとも、少量だけ売られたのか …… 。
 
 後者の場合、管理局側に内通者がいるってことになる。
 芳しくは …… ないな。
 
 
 こうして、一波乱あったものの。
 起動六課は初任務を無事成功させた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 『ごめんね、はやて』
 
 「いや、ありがとうなユーノ君」
 
 あの連絡から約2週間。
 まだひとつも調べられていないという報告を受けた。
 ま、忙しいからしゃあないんやろうけど。
 
 『片手間に調べられたことだけは話しておくよ』
 
 「ん」
 
 資料が送られてくる。
 プリントアウトすると1枚程度しかないような情報量。
 本当に忙しかった様だ。
 
 『まず、ギプフェルについては古代ベルカ時代の王家のひとつだということ。少数精鋭をカタチにしたような王家だったみたいだね、所有している騎士の家系がひとつしかない』
 
 「ラインハルト、やな?」
 
 『そう、彼の先祖だね。その一族はなにかレアスキルのようなものを所有していたってあったと思うんだけど …… ごめん、資料不足だ』
 
 「レアスキル …… ?」
 
 『あぁ。はやてやアコース査察官みたいな汎用性の高い能力じゃなかったらしいんだけど …… ね』
 
 何かに特化した能力ということ?
 いや、それでもユーリにはそんな力は確認されてない。
 登録もされていなかった筈。
 
 むむむ。
 
 『眉間に皺寄ってるよ?』
 
 「おっと」
 
 揉んでほぐす。
 さて、思考を一回止めておこう。
 
 「他には?」
 
 『特にコレといった情報はなし。ミルヒアイスさんの情報もなし』
 
 「そか。じゃあ、暇見付けてやってくれたらエエから」
 
 『そのことについてなんだけどね』
 
 ユーノ君は急に声のボリュームを下げて、モニターに顔を近付ける。
 こちらも同じく近付けて聞こえる位置に耳を置く。
 
 『聖王教会が本格的に動き出したみたいなんだ。捜査主任はもちろん …… 』
 
 「あぁ、わかっとる。カリムやろ?」
 
 『ご名答。それでね、今日その使いだって人が来て、調べて欲しいものがあるって言うんだ』
 
 「まさか、それって …… 」
 
 『そう、ギプフェルについてだ』
 
 モニターから顔をぱっと離す。
 カリムなら深入りしないと信じていたのに、そこまでするのか。
 
 ギプフェル、ミルヒアイス、ラインハルトのレアスキル。
 極めつけは、今回の任務の竜の存在。
 ユーリの反応がどうにも妖しい。知っている様にも見えた。
 リィンも探ってくれたみたいやけど、はぐらかされたみたいやし …… 。
 
 『だから、これから調べて君に報告することはつまりは“横流し”だ。相手ははやての直属の上司だって言っても管理局では少将相当の地位を持つ人間だから …… 』
 
 「下手かましたら、重罪ってこったな」
 
 『僕まで被害を食らうんだからね』
 
 「んー………… 。そうなったときは私をダシにしてくれてもエエ。私が強制したってな」
 
 『え、ちょ …… 』
 
 「ま、そこまで面倒かけられへんってことなんよ。ほなら、今日は忙しいとこエライご迷惑をお掛けしました」
 
 ペコ、と頭を下げる。
 でも、向こうはやっぱり納得のいかない顔をしている。
 なにか既成事実を作っておくとか …… 。
 ………… 。ま、ええか。
 
 こっそりと映像を録画する様にしておく。
 
 「ユーノ君、ほら、モニターに顔くっ付けて」
 
 『? 何さ、急に』
 
 「エエからエエから。エエ事教えたる」
 
 『?』
 
 不思議に思いながらも彼はゆっくりと顔を近づけた。
 
 「んふふ」
 
 私もゆっくりと近付けていく。
 
 「ちゅっ」
 
 『ほぁっ!!!???』
 
 そのままモニター奥で盛大にずっこける。
 わはは。見てておもろいわ。
 
 『 …… はやて。こんなこと言うのも何だけど、君ちょっと溜まってるんじゃないのか?』
 
 這いずるようにモニターに戻ってくるユーノ君。
 
 「さて? ま、エエ画撮らせてもらいました♪」
 
 『 …… なん?』
 
 「やから、ほい」
 
 データをコピー。本物の方を別の媒体に保存してから、コピーの方を送りつける。
 題して、『無限書庫司書長と某部隊美人部隊長の密会! モニター越しに熱~いキッス』
 みたいな?
 
 『ちょっと、洒落になってないよ!!』
 
 「なのはちゃんに送ろうかな~? それともブンヤさんに売り付けようかな~? ま、どっちにしてもなのはちゃんを怒らして人生終了~」
 
 『なんてこった!!』
 
 オーバーリアクション気味に頭を抱える。
 終いには冷や汗も確認できた。
 
 「ほら、これが既成事実。脅されてました~って言えば罪は免れるやろ?」
 
 『どっちにしろなのはには嫌われる道しか残ってないじゃないか …… 』
 
 「OH! そやなそやなぁ! あっちゃ、マズッた!」
 
 『軽いね君!?』
 
 しこたま笑う。
 いやぁ、私ら結構いい線いってると思うんやけどなぁ。お笑い的な意味で。
 
 「ま、気にせんと私を貶めてくれってことやよ」
 
 『 ………… 』
 
 「なんや、ま~だそんな顔して。コレ以上の既成事実が欲しいんか?」
 
 『いらないよ。元々そんな気だってさらさらない。友達を貶めてまで罪を免れるなんてしたら、それこそお終いだよ。人として』
 
 「 ………… うわ」
 
 『何だよ、うわって何だよ?』
 
 ちょっとジェラシー感じてまうなぁ。
 こんくらい想って欲しいもんやわ。
 
 「なのはちゃんは幸せモンやなぁ …… っていうジェラシーを再確認」
 
 『あのね?』
 
 「ははは、冗談冗談」
 
 こうしてても無限にボケツッコミが続くだろうから、こちらから切り上げるとしよう。
 はぁ、と一息ついてから
 
 「じゃ、今日はありがとな」
 
 『うん。ま、極力急ぐとするよ』
 
 「ありがと。じゃ、またな」
 
 プツン、と通信が切れた。
 一気に脱力。
 
 「あぁ、うん。まぁ、えっかなぁー」
 
 何の考えもなしに呟いた一言は、ちょっと意味がわからなかった。
  

  




             Act:1-5  end




テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

今年一発目からやらかした。

ということで、全力で頭を下げさせてもらいます。
草之です。

今年一つ目の日記からこのような事態が起こるとは……。
すいません。『優星』遅れてます。

理由は、決まりきっていない、というのものです。
内容の話なんです。遅れた理由は。
どうしようかどうしようか、と悩んでいると……
1月3日、すでに11時を回りました。

本当にすいません。
早ければ明日の夜。遅いと月曜日になってしまいそうな予感。
しかもカウンターの回りが、なんか今日に限って登録サイトに更新情報持っていってないのに1000を越えてるじゃありませんか……っ!!

嬉しい反面、凄く申し訳ないです。
一概に全てが『優星』読者様とは言い切れませんが……。それでも、ごめんなさい。

謝ってばかりの自分が格好悪い。

精神衛生上、このあたりで引き上げさせてもらいます。
今回は本当にすいませんでした。

草之でした。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:17 前編

 
 「 …… いよいよですね」
 
 「うふふ、そうね」
 
 「俺も参加するのは初めてだな」
 
 「私は言わずもがな …… 」
 
 「ぷいにゅ」
 
 
 前略 ――――――
 いよいよです。
 世界的にも有名なこの街一番のお祭りの季節がやってきました。
 
 仮装を楽しむためにマンホームやアクアから世界中の人々がこのネオ・ヴェネツィアに集まってきます。
 趣向を凝らした仮面や衣装に身を包み、街中を練り歩く盛大なお祭り。
 
 カーニヴァルがいよいよ開催されます。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「カーニヴァルかぁ …… こんな素敵なお祭り、誰が考えたんだろー」
 
 灯里ちゃんが隣でうっとりと呟く。
 この子は本当になんでも楽しめちゃうんだなぁ。
 
 「カーニヴァルは所謂『謝肉祭』だ。カトリック教国で『四旬節』の前に3~8日間行われる祝祭のことを言うみたいだな」
 
 ここで士郎さんの解説が始まる。マンホームの事は私よりも彼の方が詳しい。
 まぁ、当たり前かな?
 ついでだから、私も解説に乗っかっておこう。先輩としての面子もあるしね。
 
 「あと、イタリア語で“Carnevale”(カニヴァーレ)といって、『お肉よ、サラバ!』という意味なの」
 
 「 …… へぇ。でも『しじゅんせつ』ってなんですか?」
 
 「キリスト教徒がイエス様の復活祭までの40日間、お肉やお酒を断って慎ましくすごして精進する期間のことよ」
 
 「これはイエスが荒野で断食・修行したものにちなんで行われるそうだ」
 
 「えぇ~っ!! 40日も何にも食べないんですかっ!? 私、ちょっと無理そう …… 」
 
 しょぼ~ん、と肩を落として彼女は落ち込む。
 別に本当に断食しろって言ってるわけじゃないんだから …… 。
 士郎さんも灯里ちゃんのその反応がどうにも可笑しいのか、くつくつと笑っている。
 
 うん。
 年明けからこの方、士郎さんの笑顔が変わった。
 それは、私の見間違いなのかもしれないけれど、ううん。きっと変わったんだと思う。
 だって、楽しそうだもの。
 
 「 …… 40日 …… ですか。なんと、それは、長い …… 」
 
 そして、私の隣にいるもう一人の人。
 私の親友。アルトリアさん。
 
 こちらの反応は灯里ちゃん以上に重く、現実的な色を持っている。
 
 「確かに …… 篭城戦などはその程度の事、いやいや。しかし40日 …… シロウとアリシアの食事を40日 …… 」
 
 「あ、あの …… ?」
 
 ちょっと心配になってしまうくらいの考え込みよう。
 彼女の食に対する気持ちは本当に凄い。
 
 「イエス・キリスト …… 侮れない」
 
 「お前なぁ …… なんに対して対抗心燃やしてるんだか」
 
 やれやれ、と肩を落とす士郎さん。
 
 「ま、まぁ、だから、辛くて長い『四旬節』に入る前に思う存分飲んで食べて陽気に騒ごうっていうのが『謝肉祭』なんだけれどもね」
 
 「調べたけど、アクアでは別にそう言った決まり事に縛られない、ただただ陽気に騒ぐ仮装の祭になってるみたいだな」
 
 「そうですね」
 
 さわさわと軽い風が吹いてくる。
 冬の寒さは柔らかくなり、今ではこの吹く風の中に春の香りが感じ取れる様になってきた。
 
 「それに、カーニヴァルは長かった冬に終わりを告げて、やがて来る春を祝うお祭でもあるのよ」
 
 待ってましたと言わんばかりの幸福顔で灯里ちゃんがはしゃぎ始める。
 冬の間ずっと寒さに震えてたものね。
 
 「ビバ・カーニヴァル―――― !」
 
 「あらあら」
 
 と。
 カチャ、と扉の開く音を聞いた気がして後ろを振り向いてみる。
 案の定、アリア社長が風呂敷包みを背負って部屋から出てきていた。
 
 「アリア社長、行ってらっしゃい」
 
 「にゅ!」
 
 社長は手を振ると、そのまま下の階まで駆けて行く。
 
 「あれ、アリア社長おでかけですか?」
 
 「ええ。10日ほど留守にするから」
 
 「ええ―――――っ」
 
 「なぜかは知らないけど、アリア社長は毎年この時期になると長期の外泊をするの」
 
 「一体どこに?」
 
 「はてさて」
 
 大丈夫なんですか、と聞く灯里ちゃんには大丈夫でしょ、とオウム返ししておく。
 毎年なんだかんだと結局は無事に帰ってくるわけだし。
 
 「ぷいにゅ」
 
 「あれっ!?」
 
 「あらあら、忘れ物ですか?」
 
 いつもは万全で出発するはずなのに。
 どうしたのかしら …… ?
 と、忘れ物かと思ったら、アルトリアさんに向かって手を振っている。
 
 「 …… 社長 …… そうですか」
 
 アルトリアさんはそう呟いてバルコニーを後にした。
 なにをしたかったのかは分からないけれど、そうしてアリア社長はいつも通りでかけていく。
 不思議顔の私たち3人をおいてけぼりにして。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 灯里は社長が出掛けてから数分ほど、悩んでいるのか、考えているのか分からない表情でいた。
 しばらくして、あ! と顔を上げると、
 
 「アリシアさん、覚えてます? 昔私に話してくれた『猫の集会』のお話」
 
 「あぁ。自分の家から猫がいなくなる時は猫の王様が国中の猫を集めて集会を開いてる、ってお話ね」
 
 そうですっ、と興奮気味に頷いて続きを話し始める。
 見ていて飽きないのが灯里の凄いところだと思うんだ。
 
 「猫の王様は猫妖怪[ケットシー] といって、胸に白いブチがある牡牛くらい大きい黒猫だっていう …… マンホームのハイランド地方に伝わる昔話」
 
 ふぅ、と頬杖をついてから、少し羨ましそうにアリア社長のお尻を見詰めて
 
 「またその『猫の集会』ですかねぇ?」
 
 「あらあら …… はてさて、どうでしょう?」
 
 “また”ということに少し引っかかりを覚えたのはアリシアも同じらしく、首を捻っている。
 社長は曲がり角に差し掛かって、こちらを振り向き、手を振って去っていった。
 
 さて。
 ケットシー、というとアイルランドの伝説に登場するケット=猫、シー=妖精の意味を持つ妖精猫のことを言う。
 ちなみに、犬の妖精はクーシー、と言う。
 またこのクーシーが妖精の家畜として外見以外は通常の犬に近い性質を持っているのに対し、ケットシーは人語を解し、しゃべり、2足歩行し、その上王制を布いていることがよく話される。
 また、中には2カ国の言葉をも操る者もいるらしく、なかなかに高等な教育水準なのだと伺える。
 まぁ、外見が猫である以上、シュールなのは否めないが。
 
 灯里は牡牛、と言っているが大体が犬程度の大きさらしい。
 それに、聞いている限りアクアでの話にはケットシーは猫の王とイコールで結ばれ、また一匹しかいない、となるようだ。
 マンホーム、地球で言うところで、例えばフランスの民話。有名な『長靴をはいた猫』だ。彼もまたケットシーに類似した特徴を持っている。
 
 他の話になるのだが、王制を布いていることに関して、こういう話がある。
 
 ――― 1人の農民が満月の夜帰宅の途に着いていたときのことだ。
 村境のある橋の上に猫が集まっていたもので、好奇心でこっそり覗くと …… なんと。
 猫たちはまるで葬式のような行事を行っており、しかも人の言葉までしゃべっているではないか!
 聞き耳を立ててみると、どうやら「猫の王様が死んだ」だのとワケのわからない話を交わしたかと思うと、その瞬間一匹残らずどこかへ逃げていってしまった。
 夢見心地でその夜を明かし、翌日になっても不思議な感覚が抜けず農夫の妻に話してみると、傍らの暖炉前で眠っていた愛猫が飛び起き、
 
 「なんだって!? それなら僕が次の王様だ!!」
 
 猫はそう叫び、煙突から風のように飛び出し、二度とは帰ってこなかった ―――
 
 と、まぁ。なんでもない御伽噺のひとつだ。
 他にも有名な猫の話といえば …… かなり主題が違うが『シュレーディンガーの猫』がある。
 これは御伽噺ではなく、歴とした量子論に関する思考実験である。
 ここでは割愛しておこう。話せる内容でもないし、なによりこの実験定理自体、俺は好かない。
 
 「じゃあ、士郎さん。私、練習に行きますね!」
 
 ひょい、と灯里が横から顔を出して思考を中断。
 彼女の笑顔にはそういう能力もあるらしい。
 
 「私もお仕事に出掛けますね。今日は早いですから」
 
 「あぁ、行ってらっしゃい」
 
 アリシアは頭を下げ、手を灯里に引っ張られて姿が見えなくなった。
 さて。
 こちらの王様はどうして部屋に戻ったのか、聞かせてもらおう。
 
 
 「アルトリア、入ってるのか?」
 
 『はい。なんですか、シロウ』
 
 シャワーの扉越しに話しかける。
 水滴が床を打つ音と、アルトリアの肌に当たる音。
 不謹慎だけど、久しぶりだ。
 
 「いや …… 。何か隠してたりするんじゃないかって、な」
 
 『隠す …… ? さて、何の事でしょうか』
 
 あからさまに否定をしたのは演技なのか、素なのか。
 それは知ったことではない。
 
 「そうだ。この頃、お前ちょっと調子悪いだろ?」
 
 『そんなこと …… ありません。シロウの方は、何か変わったみたいですが?』
 
 「俺か? …… うん、そうだな。ちょっとした心変わり、かな」
 
 『具体的にはどのような?』
 
 話をどんどん脱線させられている気がしないでもないが、ここは答えておこう。
 息を軽く吸って、吐く。
 一呼吸置いて、
 
 「今まで俺はこの世界に惹かれていなかった。こんなにも綺麗で、優しいのに …… おかしいだろ?」
 
 『いえ。それが貴方だと言うことは、とうの昔に知っています』
 
 やはり、という答えが返ってきた。
 そう。やっぱり俺は、どこか虚ろで満たされない。俺の壊れている部分は、替わりが効かない。
 続ける。
 
 「でもさ、なんだろうな。お前みたいに言うんなら『世俗に染まった』っていうのか?」
 
 『ほう?』
 
 「楽しんでみることにするよ。この世界を」
 
 『 …… 。そうですか』
 
 どこか嬉しそうなニュアンスを含ませて、彼女は呟いた。
 その後、きゅ、という蛇口を捻る音。ぴちぴちとアルトリアから滴る水滴の音しか聞こえない。
 
 「着替え、ここ置いとくから」
 
 『ええ。ありがとうございます』
 
 更衣室から退室する。
 窓から見上げた空は澄んでいて、雲は綺麗に浮き出ている。
 ガヤガヤと喧騒がここまで聞こえる。
 街中に仮装した人たちが闊歩しているからだろう。今外を見れば何人もの仮装を視界に入れられるはずだ。
 
 「カーニヴァル、か」
 
 仮面 …… 。
 今の俺は、仮面を被っているのだろうか?
 自分を偽って、殺して、ここにいる俺は、俺なのだろうか?
 
 考えても詮無いことだ。
 俺は、仮面であろうとなかろうと俺であるには違いない。
 『正義の味方』には …… 『幸せの護り手』には違いないのだから。
 
 「シロウ、上がりましたが …… 」
 
 「うん?」
 
 「どうですか、久々に稽古でも …… 」
 
 「シャワー浴びたばっかりだろ。なんで …… 」
 
 「とにかく、です」
 
 迫ることはしてこないが、迫力があった。
 嫌と言わせないだけの、言えない理由を感じ取る。
 
 「分かったよ。でもこのあたりだと目立つだろ?」
 
 どこでするんだ? と聞いたところでアルトリアがキーを取り出す。
 私がいい場所を知っている、と。そういうことなのだろう。
 
 
 ものの数分でその場所に着いた。
 なんでもない、そこらへんにぽつぽつと浮かんでいるような孤島だ。
 ネオ・ヴェネツィアからは大体10kmほど離れているだろうか。
 見渡す限り遮蔽物はなし。視界は良好。地面も芝が少し長いくらいでしっかりとした堅さ。
 風向きは南西。風は緩く、ほとんどない。
 
 「シロウ、いい場所でしょう?」
 
 「あぁ。草の香りがする」
 
 なぜこんなところを選んだのかは分からない。
 ただ、今だけは。
 
 「では、始めましょうか。久々に絞ってあげましょう」
 
 「舐めてると痛い目をみるぞ?」
 
 「承知の上ですとも」
 
 彼女はくつくつと笑う。
 エアバイクから彼女は木刀が入った竹刀袋を取り外す。
 こちらも、小刀の木刀を二本投影する。ここに来てからも毎日鍛錬は欠かしていなかったからか、いつも通りすんなりと投影を完了。
 構えを取る。
 
 「やはり、その道に進んだのですね」
 
 「あぁ。これが一番合っていたんだろう。とんでもない皮肉だけどな」
 
 睨み合う距離は10mない。彼女なら一息。一瞬で詰め寄れる距離だ。
 さて、俺はどこまで強くなれたんだろうか。
 
 「では、行きましょうか」
 
 ざわ、と大気が揺れる。
 動く …… っ!!
 
 ガゴッ、と鈍い音。
 向こうは片手で打ち込んで来る。それに片手で応え、互いに一歩飛び退く。
 途端、彼女はつま先を掠めた地面を逆のベクトルに進む。
 つまり、バックステップからの瞬間的な迫撃。
 
 「えやッ!」
 
 体を捻って下から上へ木刀を弾き上げる。
 胴ががら空き。だが、これは ……
 
 「シっ」
 
 罠。
 俺の一撃でああも容易く彼女の剣が浮き上げるはずがない。
 大上段に弾け上がった木刀を閃きに変え、振り下ろす。
 横っ飛びで回避。木刀を握った拳で地面を叩き、起き上がる。
 起き上がった一発目に目に入ったのは、木刀をフルスイングする彼女の姿。
 マズイ …… ッ!!
 
 「ぐ、あっ!?」
 
 防御の上から吹き飛ばされる。横っ飛びじゃなくて防御を優先するべきだったか。
 構え直す。彼女が追撃する …… 。
 その距離、わずか数センチ ―――― !
 
 下から意識を刈り取ろうと振り上げられる剣閃を、体を仰け反らせることで回避。
 しかし、体勢が悪い。一撃入る ――― ッ!?
 
 「ご …… ァッ」
 
 ボディーブローに似たカタチで横腹に一撃が入る。
 まるで根こそぎ内臓を抉られていく感覚。
 
 「 …… っか、は!」
 
 「どうしました。先程の言葉はそんな結果を言っていたのですか?」
 
 舐めてたのは俺の方だって、そう言いたいのか。
 確かに、これじゃそう言われても仕方がない。
 
 「まだまだ …… 次ぃ」
 
 「 …… しかし、ええ。成長しましたね、シロウ。二手も耐えれば上出来だった貴方が、ここまで粘るとは正直驚きです」
 
 「そりゃどうも。全然嬉しくないけどな」
 
 今までの10年で、ここまで速くて重いのは、やはりセイバーの剣だけだった。
 それを今、実感する。
 
 「行くぞ、アルトリア。稽古はまだまだこれからだろ?」
 
 「もちろんです。さぁ立ちなさい」
 
 木と木がぶつかり合う音が止む事はなく、その日、夕方まで打ち合った。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ただいま帰りましたー!」
 
 「お、おじゃましま~す」
 
 いいのかねぇ。
 灯里が無理矢理ご飯も食べていけっていうから来たけど、正直晃さんが怖いんだよねー。
 なにより連絡してないし。
 
 「おかえり、灯里ちゃん。あら、藍華ちゃんも?」
 
 「おじゃましてます」
 
 ペこりと頭を下げて挨拶。
 …… ま、いっか。アリシアさんの顔も見れたことだし。
 
 「お、藍華か。いらっしゃい」
 
 「うわ …… 衛宮さん、どうしたんですか?」
 
 衛宮さんはおでこに大きなバンソウコウを貼り付けて、キッチンに立っていた。
 服で見えないけど、多分体も所々湿布でも貼ってるんじゃないか、と思うほどおおきなバンソウコウだ。
 
 「うん? ちょっとな」
 
 「全然ちょっとって感じじゃないんですけど …… 」
 
 「そうでもないさ。まぁ下手したら頭割れてたかもな?」
 
 「えぇえ ………… 」
 
 さらりと恐ろしいことを言う。
 多分、言ってることはアレだけど、そんな冗談を言えるくらい余裕ではあるんだろう。
 …… きっと。
 
 「 ………… ふぅ」
 
 「うわ …… アルトリアさん、どうしたんですか?」
 
 衛宮さん程じゃないけど、こちらは手首に包帯を巻いていた。
 今更だけど、この部屋湿布の匂いがスゴイ。
 
 「まさか一太刀入れられるとは …… はぁ」
 
 スゴイ落ち込み様である。
 エフェクトがかかってたらきっとこう、どよん、ってしてるんだろうな。
 さすりさすりと手首を撫でている。
 
 「あの、アリシアさん?」
 
 これはどういう?とこの状況を指して説明を願う。
 アリシアさんは首を傾げ、少しぎこちなく笑ってから、
 
 「お稽古ですって」
 
 「 …… お稽古、ですか?」
 
 「ええ。お稽古。木刀を持って出掛けてたんですって」
 
 おかげで今日は留守電に予約が殺到していたらしい。
 その留守電の片付けも今終ったのだと言う。
 何してるんだろう、この人たちは …… 。
 
 「アルトリアが急かしたんだよ」
 
 とは衛宮さん。
 キッチンにいる姿はいつもと何ら変わらない手際を晒している。
 今日の夕食は鶏料理らしい。
 
 「シロウと久しく手合わせしていなかったのを思い出しましてね」
 
 とはアルトリアさん。
 成長したものです、と手首を指して言う。
 嬉しそう、というより少し寂しそうだったのは見間違いだろうか。
 嬉しそうなのは間違いなかったけど、どこか遠くを見るように手首を見るものだから、ついそう思ったのかもしれない。
 
 「??」
 
 キッチンとテーブルの間で悩む。
 アルトリアさんは何でこんなこといきなり言い出したんだろう?
 
 「藍華、突っ立てるなら皿出してくれないか?」
 
 「え、あ、はい」
 
 カチャカチャ、っと勝手知ったるARIAカンパニー。
 お皿ぐらいならどこにあるか分かる。
 4人分のお皿と、アリア社長用のお皿を取り出して、盛りつけ易い様に並べていく。
 
 「ありがとう」
 
 「どういたしまして」
 
 見上げた顔には、やっぱり目立つ大きなバンソウコウ。
 思わず、
 
 「痛そうですね~」
 
 「おん? そうだな、まだちょっとだけジンジンしてる」
 
 さすりさすりとバンソウコウの上から撫でて語る衛宮さん。
 大した事はないさ、と笑顔になる。
 ま、まぁ本人が大丈夫っていうんなら大丈夫なんだろうけれどもっ。
 
 ただ、なんとなくだけど。
 
 きゅっ、と衛宮さんの袖を持っていた。
 
 「? 何だ、藍華」
 
 「えっ!? いや、その …… なんでもないです、はい」
 
 笑顔が、私が今見た笑顔がとっても、無理をしてるような …… 。
 昔からこんな感じなんだろうなって思っただけなのに、それがとても怖くて。
 
 「衛宮さん …… ずっと、ここにいるんですよね?」
 
 「多分な」
 
 「 …… っ」
 
 即答された。
 
 
 ―――――― “多分な”。
 
 
 それは一体どう言う意味での『多分』なんだろう。
 死ぬ時まで一緒じゃないって事ですか?
 いつかは私たちが離れ離れになっちゃうってことですか?
 衛宮さんが、私たちを顧みずどこかへ行っちゃうって ………… 。
 そういう、事ですか?
 
 「お、おい。藍華 …… ?」
 
 「はれ? なんで、泣いて …… ?」
 
 「どうしたんだ、どこか痛くなったのか?」
 
 「ちが …… っ、あ、い ………… そうかも、しれないです」
 
 「本当か、どこが痛い?」
 
 「ここに、イタイです」
 
 「 …… は?」
 
 「ここに、イタイんです」
 
 衛宮さんが固まった。
 その間にもボロボロと涙が零れてくる。
 
 「ここに、みんなで、イタイんです」
 
 異変を感じ取った灯里が一目散に飛んできて、肩を抱く。
 アリシアさんは固まった衛宮さんの方へ。
 アルトリアさんは、一歩下がったところで事の顛末を見守っている。
 
 「それは、泊まりたいって事でいいのか?」
 
 泣くほどの事じゃないだろうに、とため息交じりで諭される。
 違う、違うけど …… 。
 
 「え、えへへ。そう、ですよねっ!」
 
 そう言うことにしておいた。
 みんなはそれで納得したのか、いつもの空気に戻っていく。
 
 ただ、ひとり。
 
 「アルトリアさん?」
 
 みんなが元の位置に戻ったのに、彼女だけがまだここにいる。
 
 
 
 「アイカ、ごめんなさい」
 
 
 
 苦しそうに笑って、なぜかアルトリアさんに謝られた。
 深く頭を下げて、でもすぐに顔を上げて、いつものように微笑んで、
 
 「さぁ、私から連絡しておいてあげましょう。だから、もう泣かないで」
 
 涙を、拭ってくれた。
 
 
 
 
 私は、そう思っていた。
 あの時謝られたのは、私が衛宮さんのケガを心配して泣いたからだと、ケガをさせてしまった自分のせいだからって …… 。
 そう思ってた。
 
 アルトリアさんが謝った本当の理由は ―――――――――――
 
  
  
 
 

 
             

                Navi:17 前編   end



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さて、改めましてあけましておめでとうございます(遅

てなわけで。
ども、草之です。

あけましておめでとうございます。
遅いとか、あ、あ、石を、石を投げないでっお賽銭投げてっ!!(ぇ

さて。
仕切り直しまして。
最後は遅れてしまったとは言え、連続投下。
お疲れ様でしたー。正直もうあんな無茶はしたくないですね。

そして、ここで言うことかどうかは分かりませんが、
『まりあ+ほりっく』面白いじゃん。昨日見て今日早速4巻全購入。バカです。
お年玉がなくなっていく……。

あと今期で期待してるのは『宇宙をかける少女』ですねー。
舞‐HiMEプロジェクトの延長線みたいなスタッフ陣。
テレ東じゃないんで金曜日ですか。大阪テレビは金曜です。お見逃し無く!

そう思えば、草之はサンライズ好きですね。見てるもの何気に『山昇(サンライズ)』多い。
ガンダム系は詳しくはありませんが好きという俄かですけど。
あとガイナのロボットモノも好き。やっぱり俄かだけど。一番好きなのは『トップをねらえ!』
エヴァじゃないのかよ(笑)とか言うツッコミはなしの方向で。
でかいね、ガンバスター。でかすぎるよ、ダイバスター。
近くのTUTAYAは劇場版しか置いてない。悔しいわぁ。

てなわけで、今年の抱負。

『奇跡は起きます。起こしてみせます!!』

…………どんな?
年がばれるようなチョイス。だが、それに当てはまるかはわからない。
もうすでになに話してるんだかワケがわからなくなってきたところで、流れを断ち切ります。


毎度お馴染み(?)更新予定~ですよ~?
週末には『背徳の炎』を更新予定。
来週中に『優星』と『B.A.C.K』を更新したいな~、と思っております。

では、以上草之でした!
よーし。今年も草之に、ついてきてくれるかなっ?

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:14

 
 「 ………… 」
 
 何て言えばいいのだろう。
 挫けそうだ、俺。
 
 「おやおや~? アクセル先生までいるじゃん。ちーす」
 
 メガネっ娘のあの娘は …… 確かハルナちゃんか。
 くっそ、こっちの気も知らないで呑気に笑いやがって。
 
 「わぁ~っ、みなさん、かわいいお洋服ですねー」
 
 呆れた。
 アレほど言ったっていうのに、まだ分かってないみたいだ。
 どうもアスナちゃんが見付かってしまったらしいのだが …… 。
 
 「こりゃ、まくしかねぇな」
 
 「それには同意します」
 
 セツナちゃんに耳打ちして、同意を貰う。
 なら、ここでフォロー入れとくか …… ?
 
 「今はまだいいでしょう。もうしばらくしてから、はぐれたと思わせて別行動に移るべきかと」
 
 「なるほどな」
 
 まぁ、そうだわな。
 
 「じゃ、もうしばらくは付き合ってやるか」
 
 「 …… そうですね」
 
 相変わらず素っ気のない返事だことで。
 モテないよ、そんなんじゃあ。
 
 は、いいとしてだ。
 イノがこっちにいるったって、後手後手になるのは仕方がないだろうし、何より相手の姿が不鮮明だ。
 攻勢に出られたとしても、いい結果が出るとは思えない。
 さて、いつ来る?
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「おい、ジジイ。どうなってるんだ、さっさと転送しろ」
 
 「むぅ …… おかしいのう」
 
 どうやらトラブルらしい。
 俺はまぁ、どうでもいいんだがな。
 トラブルならもうしばらく時間が出来るだろう。
 
 「おい、ソル! お前はどこに行こうとしてるんだ!?」
 
 「 …… メシだ」
 
 「そんなものここにあるもので …… ッ」
 
 「あそこのが美味いんだよ。俺の事にグチャグチャ文句を言ってんじゃねぇ」
 
 「 ………… ッ。ジジイ!! どうした、まだかッ!!」
 
 「 …… まずいのう。これはおそらく、結界を弄くったせいかもしれん。最優先事項に長距離転移を設定しても、やはり郊外の森に出る様になってしまっとる」
 
 とりあえず、トラブルの原因は判ったらしい。
 なら、それがあとどのくらいで復旧するのかだけは聞いておこう。
 久々の『大仕事』らしいからな。
 
 「どれくらいかかるんだ、それが直るまでは?」
 
 「 …… んむぅ。早くて6時間、遅くなると10時間以上かかるやもしれん」
 
 「そんなに待ってられるかっ!! 死ぬ気で直せ!! 今すぐにだッ!!」
 
 「む、無茶を言うなエヴァ! 下手をするとお主の封印がややこしい事になるかもしれんのだぞ!?」
 
 「 ………… チィ」
 
 ガキのヒステリックに付き合ってられんな。
 扉を開け、廊下に出る。
 こう静かなのは久しぶりだ。いつもは乳臭ェガキどもが姦しいが、それももうしばらくはないらしい。
 のだが、今回の依頼だ。
 
 『今から君に京都に飛んでもらい、イノに対しての絶対防衛線を張ってもらう』
 
 つまり、あのやかましいガキどもの中に行け、と言うことなのだろう。
 上手くいけばイノにカリを返すことは出来るだろうが、報酬は働き次第だという。
 ふざけるのも大概にしてもらいたいものだ。
 
 落ち着いてから、そっちのことをまた話す必要がありそうだな。
 …… やれやれだぜ。
 
 しばらく歩いて、もうすでに見慣れたと言って差し支えない景色が目に入る。
 確か、ここは女子校だったな。
 ややこしいことになる前にトンズラをこいた方がよさそうだ。
 まぁ、いざとなればあの爺ィの名を出せば問題などあるまいが。
 
 「おい、ソル。私も連れて行け」
 
 ふいに後ろから声をかけられる。
 煩わしいので振り向かず、こちらも声だけで応える。
 
 「ミルクか? 蜂蜜がたっぷり入ったヤツ」
 
 「 …… 貴様」
 
 「ふん。お前の頭に聞けばいい。ガキのキレ方そっくりだぜ?」
 
 「ち」
 
 傍らにまで寄ってきて、並んで歩く。
 身長の差がなんだという。コイツに合わせる気はない。
 向こうは遅れまいと必死に早歩きになって付いて来る。
 
 「おい、おいソル!」
 
 「なんだ、子守りはゴメンなんだよ」
 
 「ひとつ聞きたいだけだ。聞け」
 
 「 ………… 」
 
 無視して歩くことを再開する。
 急がなければモーニングが終ってしまう。
 言いたければ勝手に啼いていればいい。
 
 「貴様等の防御法についてだ。なんだあれは。絶対防御なぞ堪ったものではない」
 
 あぁ、フォルトレスのことか。
 お前のあの砲撃や氷塊の方がよっぽどふざけているがな。
 俺程度の出力を出せるフォルトレスなぞイノでも妖しいというのに。
 
 「あれは絶対防御なんかじゃねぇ。普通ならお前の砲撃一発で軽く砕ける」
 
 「現にお前とイノとかいうヤツには完全に防がれたぞ?」
 
 「さぁな。手でも抜いたか?」
 
 「もういい。ということはだ、攻撃を続けていればそのウチ壊れるものなのだな」
 
 「 ………… 」
 
 俺の沈黙を『応』ととったのか、ひとり頷く。
 一度に込められる法力の量には限りがあるのは確かだ。
 ただし、結界という手もある。俺は使う必要がないから覚えてもいないが、坊や …… カイ程度の実力になれば俺のフォルトレス以上の結界を造るだろうよ。
 まぁ、即座に創り出せるという点ではフォルトレスに分があるからな。戦闘中にはまず使わない。例外はサイクバーストだな。
 つまり、極端に言うところの戦術レベルのフォルトレス、と言ったところか。
 
 「モーニングだ」
 
 「ミルクティーでいい」
 
 いつものテーブルに腰掛け、ボーイにオーダーを言う。
 待つ間、ガキは膨れっ面でなぜか睨んできやがる。視線を合わせば逸らし、より一層睨みを利かせてきやがる。
 しばらくして、ガキが口を開く。
 
 「 …… ギア、といったか」
 
 「 ………… 」
 
 「生物兵器 …… ジャスティスとは何者だ?」
 
 「 ………… 」
 
 「おい、ちょっとは人の話を ―――――― 」
 
 「モーニングセットと、ミルクティーです」
 
 テーブルにメニューが置かれていく。
 前回から学習はしたらしく、食っている最中は話しかけてはこなかった。

 一気に食うと消化によくはなく、また朝食でよく顎を使い、刺激を送ることで脳が覚醒する。
 むこうはもうとっくに飲み終わり、イライラとして待っている。
 朝食を抜くからそうなる。
 
 「で?」
 
 「完全体ギア。自らの意思と理性を持ち、全てのギアの指揮系統を操り、人類に対し宣戦布告した、所謂『化け物』だ」
 
 「ギア、ギア、ギア。だからそれを先に説明しろ。ギアとはなんだ?」
 
 めんどくさいが、話したとしてもコイツはそこまで愚かではないだろう。
 そもそも、ギアを語る上でこちらの世界の歴史を話さなければならない。
 めんどくさいのは始めから、この世界に飛んだ時から思っていたことだ。
 
 「2014年、人類の生態強化プロジェクト …… 通称『GEARプロジェクト』から事は始まった」
 
 「2014年 …… だと? 今は2003年だぞ?」
 
 「お前、もう忘れたのか。俺はこの世界の住人じゃあない。黙って聞け。聞いたのはそっちだろうが、めんどくせェ」
 
 む、と唸って黙りこくる。
 先を促しながらも機嫌が悪いのが目に見えてわかる。性質が悪い。
 
 「『GEARプロジェクト』は極秘裏に行われた実験だ。まぁ人体実験だからな」
 
 「 ………… それで産まれたのがギアとか言う化け物か?」
 
 「正確には違う」
 
 「はぁ!?」
 
 「確かに、実験と称して一人の男がGEAR改造を受けたが、その実験体は逃走。そのまま研究員も行方を暗まし『GEARプロジェクト』は実質上なかったことになった」
 
 「あぁ …… 確かにジャスティスの名が出てないな。その男は今も行方知れずなのか?」
 
 「さぁな。初期段階のGEAR改造は無理があって、人体細胞はGEAR細胞に乗っ取られ、人としての機能を遅からず奪われていくらしい。生きていたとしてもその後の聖戦で死んでる」
 
 「 ………… 。つまり、『GEARプロジェクト』というのは細胞移植のことだったのか?」
 
 「大雑把に言えばな」
 
 ふむ、と頷き、続きを促してくる。
 
 「2073年。完全体ギア、つまりジャスティス素体が完成。同年、某先進国が『GEARプロジェクト』を再開。軍事目的。続いて2074年、同先進国はGEARによる他国制圧を計画するも …… 」
 
 「 …… ちょっと待て。お前の話の順番からするに、素体が完成した時期と再開した時期が逆ではないのか?」
 
 ち。
 余計なことにばっかり耳を傾けやがる。
 仕方がないので、一応の説明を補足する。
 
 「素体を造ったのは、初期プロジェクト当時の一人の男だ。続けるぞ」
 
 なにやら少々の計算のあと、納得したのか聞く体制に戻る。
 いちいち面倒なヤツだな。
 まぁ、だからこそ …… か。
 
 「その男が『ジャスティス』を造り上げた。全てのギアを支配化に置き、人類に反旗を翻す。同年、日本列島はギアの侵攻により、消滅」
 
 「ば …… っ!? バカなっ。消滅だと!?」
 
 「完全にじゃねぇがな。今でも土地が高い位置にあった場所は島として存在している」
 
 「 ………… 何てことだ。ギアとやらがどれほどの数と力を持っていたかは知らんが、消滅 …… ?」
 
 ぶつぶつと唸りながら塞ぎ込む。
 気にせずさっさと終らせてしまおうと思った瞬間、「くっ」と笑い声が漏れた。
 
 「 …… くくく。くははははっ。素晴らしいじゃないか。人に対しての強烈な悪意を感じる。それこそ畏怖をこめて頭を垂れてもいいと思えるほどの悪意だ」
 
 笑い声は止まない。
 もし、ここでアイツが一言でも間違えれば、俺はコイツを殺す。
 殺意は程々に、聞き耳を立てる。
 
 「なに。そんなに怒るな。違う違う。私はな、キてるんだ。ここに」
 
 コツコツ、と指でこめかみを指す。
 怒りを通り越して笑えてくる、と未だ止まない笑い声が耳障りだ。
 
 「確かにな、人に造られた側としてはその気持ちはわからんでもないさ。でもな、それは違うだろ?」
 
 「 ………… 」
 
 「考えてもみろ。“何が”残る …… ? 人を殲滅して、何が起こる?」
 
 「世界という危ういバランスを保ったモノが壊れる。認識する者がいなければ、世界は二面性を保ったまま止まる。蓋は、閉められたままになる」
 
 「シュレーディンガーの猫か。なかなか頭がいいじゃないか?」
 
 くつくつと笑いは止まらない。
 瞳にたまった雫が、蒼を滲ませている。
 ひっひ、と痙攣を起こし始め、いよいよ腹を抱えて爆笑しだす。
 
 「くははははっははっはああははっはあはははっ!!」
 
 話す気力がどんどん削がれていく。
 ジャスティスの大まかなことを話せたのだから、これでもういいだろう。
 伝票を持って会計を済ませにいく。
 会計も終り、さてどうしようかと考えている間にもまだ笑い続けている。
 
 「は。ヘヴィだぜ」
 
 舌が重い。
 久しぶりにこれほどしゃべった。
 慣れない事はするべきではないな、と改めて心に刻んだところで、袖を引っ張られる。
 
 「待て待て。くっく、まぁ、待て。最後に私のつけた憶測が正しいかどうかだけ聞いていけ」
 
 「あん?」
 
 「 …… お前は、ギアだな?」
 
 「 ………… 」
 
 「良し、当たった。それもその『研究体』だ。違うか、うん?」
 
 一丁前に指で顎を撫で上げる。
 えらく寒いのでその手を払う。一瞬だけ拗ねたような顔をし、「まぁいい」と見詰め直してくる。
 
 「くくく。何が“死んだ”だ。お前から引き出した情報と語り口で、その程度の事 …… わからいでか」
 
 「詮索するな。それ以上言えば、ここでお前を殺す」
 
 「おお、怖い。なら私は退散させてもらうとするかな、ソル?」
 
 「チ。食えねェ婆ァだぜ」
 
 「おやおや。私は年は600を越えていても体は10のままだ。食い時じゃないか?」
 
 ニィ、と子供からはかけ離れた表情をして、制服のリボンを解く。
 ふん。くだらない。
 
 「売女に興味はねぇ。食って欲しいなら、もっと成長してくるんだな」
 
 「冗談だ。本気にするな」
 
 そう言いながらやっぱり拗ねた表情を覗かせる。
 もっと構って欲しかったか?「そんなことを言うな」と叱って欲しかったか?
 ………… 600、か。なるほど、そういうことか。
 
 「化け物でも、愛して欲しいと望むものなんだな」
 
 「なっ!? 違うわっ、別にそんな甘えたりとかそんなこと ………… あーッ! もういい、行くぞソル!!」
 
 「勝手に付き合わせるんじゃねェよ」
 
 知るか! と怒鳴られ、ズカズカと前を歩いていく。
 ここで消えてもいいが、まぁ、こっちもどうせ暇なんだ。
 もう少し、慰めてやってもいいかもしれない。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「じゃ、しっかりなネギ」
 
 「はい。そちらもお気を付けて、アクセル先生」
 
 ゲームセンターを後に、人ごみの中にまぎれて行く。
 ネギとアスナちゃんの姿を完全に見失ったところで、ゲームセンターの中の、雁首そろえて熱中している筐体の場所に戻ってくる。
 相変わらずキャイキャイと楽しそうだ。
 
 「ネギ先生たちは行きましたか?」
 
 「あぁ、まぁボチボチとな」
 
 ゲームを心底楽しんでいるコノカちゃんに視線を向ける。
 みんなといりゃそりゃ楽しいわな。あぁ、めぐみぃぃ。
 と。
 
 「俺ちょっとトイレ」
 
 「む。いちいち言わなくてもいいです」
 
 さっさと行け、と手で払われる。
 そそくさと行って、帰ってくるとセツナちゃんが何かを飛ばしていた。
 
 「あれなんだ?」
 
 「式神ですよ。さすがにネギ先生たちが心配で」
 
 「ふぅん?」
 
 心配っつーよか、少しイラついて見えるんだけど。
 まぁ、今回に限っちゃ、ネギなんて何にも知らないガキだろうしな。
 
 「ジャスティス、でしたか?」
 
 「あ、あぁ」
 
 「どういうヤツなんですか?」
 
 「俺もよくは知らないんだけどさぁ、ま、とんでもなく強ぇヤツってこったな」
 
 彼女はそのまま黙り込んでしまった。
 また眉間に皺を寄せて、難しそうな顔をしている。
 俺には考えられない背負い方だね。
 
 「 ………… 敵襲です」
 
 「なっ」
 
 「向こうですけどね。相手は少年 …… おそらく一人。先程ネギ先生とゲームで勝負した子です。足止めか、それとも本命か」
 
 それはコノカちゃんが本命か、それとも親書が本命か、と言うことなのだろう。
 そこに、コノカちゃんがやって来た。セツナちゃんの方は気付いていないみたいだ。
 ちょいちょい、と指で合図を送ってコノカちゃんに笑いかける。
 コクリと頷いて、息を吸い込む。
 
 「せっちゃん!!」
 
 「わぁっ!? お、お嬢様っ?」
 
 「ほらほら、こんなとこでいんと。一緒にあそぼー?」
 
 「え、いや …… その、私は …… すいません。お断りさせて頂きます」
 
 「え?」
 
 パシッとコノカちゃんの手を振りほどく。
 頭だけ下げて、この場から離れていく。
 なんだよ、何もそこまでしなくていいんじゃないの?
 
 「 …… せんせー」
 
 「ん、何だ?」
 
 「ウチ、せっちゃんに嫌われてるんかなぁ、やっぱり」
 
 どんよりと重い空気が伝わってくる。
 悩むな悩むな。そして俺に聞くな。けど …… 。
 
 「嫌ってなんかないと思うぜ。ほら、よく言うだろ?好きな相手ほどイジワルしたくなるって」
 
 「あぁ …… ! そうやなぁ。そう考えたらちょっとはマシかな?」
 
 えへへ、と笑う。
 マシ、か。ったく、セツナちゃんももうちっと素直になりゃいいのによ。
 本人はあくまで護衛って役に徹しようとしてんだろうけど、守る相手に信頼されなきゃ守るにしても守れないぜ?
 て、言ってもコノカちゃんは信じてるんだろうな。彼女のこと。
 どうにしたって俺が口出しする問題じゃないんでしょうよ、きっと。
 
 「アクセルせんせーはせっちゃんと仲ええなぁ」
 
 「お。そう見えるんだ?」
 
 苦笑いしか出てこない。
 どうにも皮肉にしか聞こえないが、本人にそのつもりはないんだろうな。
 
 「昔の話なんやけどなぁ、聞いてくれる?」
 
 「まぁ、俺が聞いてもいいんだってんなら聞くぜ?」
 
 「うん。ウチな、関東の麻帆良学園行くまではこっちに住んでてな、小っさい頃から山の上のお屋敷で育ったから友達もいーひんかってん」
 
 さすが、あの学園の学園長の孫ってだけはあるな。
 ていうか、そんな人ホントにいるんだな。
 
 「そんなある日、せっちゃんは来たんよ。神鳴流言うて剣の流派んとこの御付で一緒に来ててなー。初めての友達やったんよー」
 
 くすくすと嬉しそうに笑う。
 …… 本当に好きなんだな、セツナちゃんのこと。
 
 「せっちゃんも剣道してて、恐い犬とかよぅ追っ払ってくれたんよ。危ないときも守ってくれたし」
 
 その時からそうだったんだな。
 筋金入りってのはこう言うのを言うんだろう、きっと。
 
 「一回ウチ川で溺れたことあってな。そん時の助けようしてくれたんやけど、結局二人とも大人に助けてもらってなー。そん時なんよ、せっちゃんが『ごめん』って謝ってきてな。守られへんかった、言うて。ウチは別にそんなんどうでもよかってんけどな、もっと強ぉなる言うて聞かんかってな」
 
 今度は、笑いながらも少し表情に影を落とす。
 でも、すっと顔を上げ、気丈に笑う。
 
 「そのあと、せっちゃんは剣の稽古忙しなってあんま会われへんなってもうたし、ウチも麻帆良に引っ越して …… ちょうど中一になってまた会えたんやけど、今みたいになってて …… 」
 
 「いろいろあるんだろ、セツナちゃんも。気にしなくても、きっと大丈夫。セツナちゃんは、セツナちゃんだからさ」
 
 ちょっと強めにコノカちゃんの頭を撫でてやる。
 うわ、サラッサラだよ。手触り最高なんだけど、これ。
 
 「くすぐったいわぁ」
 
 まぁ、笑顔が戻ったんだ。
 泣いててもいい事は絶対ない。笑えば、きっとそれに運もついてくる。
 なにより、女の子って言うのは、やっぱり笑ってる時が一番カワイイんだよ。
 俺だって守ってみせるさ。この笑顔を。
 
 「いやー。やっぱ地元民は強いねー。参った参った」
 
 「ハルナは考えなしに強いカードを出し過ぎなのですよ。もっとタイミングを見計らってですね」
 
 「あーあーあーあー。きーこーえーなーいー!」
 
 さて、ゲーム組もお楽しみは終了したらしい。
 んじゃ、次は言い訳だな。
 
 「あっれー? ネギ君どこいったの?」
 
 「明日菜さんと …… のどかもいないですね」
 
 「え?」
 
 言われて初めて気付いた。
 ノドカちゃんがいない …… 。まさかネギたちについて行ったのか?
 参ったな、こりゃ。本気で拙い方拙い方に進んでやがる。
 
 「アクセル先生、走りますっ! ついて来てください」
 
 「へ?」
 
 「ちょっ、せっちゃん!?」
 
 「お、おいおいおいっ追うよ夕映!!」
 
 「なぜそんなに楽しそうなのですか、ハルナは」
 
 一瞬で団体様の出来あがりだ。
 ゲームセンターから飛び出して、人が程よく多い道を走り抜けていく。
 
 「どうしたんだよ?」
 
 コノカちゃんに聞こえない程度の声量で話しかける。
 
 「敵です。7時の方向。屋根の上です」
 
 言われた方向を横目で盗み見る。
 確かに、白い影がちらりと見えた。
 あれは …… ゴスロリッ娘か!
 
 余裕ぶっこいてニコリ、なんて笑いかけてきやがった。
 だけど、ここは街中だぞ。いくらなんでもここでドンパチは出来ねェだろ。
 
 「そういう常識が通用する相手ならまだよかったですが、ねっ!」
 
 セツナちゃんの手が空を掴む。
 違う。掴んだのは、短剣?投げナイフ、みたいなのか?
 
 「手裏剣ですよ、これは。まさかここで行動を起こすとはさすがに思ってませんでしたがね」
 
 「え? でもシュリケンってこう十字のアレじゃないの?」
 
 「突っ込むところはそこですか …… 」
 
 いやコレ結構重要よ?
 クナイとかってあるじゃんか、そういうのじゃないのコレ?
 
 何気なしに俺も投げられたシュリケンを取る。
 はぁ、こういうのもシュリケンっていうんだ …… 。へぇー。
 
 「 …… スピードを上げますよ」
 
 「おう」
 
 常人レベルから陸上レベルへスピードを上げていく。
 後ろのふたりはなんとか付いて来ている感じで、コノカちゃんは一杯一杯な感じ。
 
 「ちょっと、落としても大丈夫だろ …… ?」
 
 「 …… そうですね」
 
 元のスピードへ戻す。
 あー、ネクタイ邪魔だ。弛めてボタンをひとつ外す。
 敵さんもぴったり張り付いて来る。
 
 さてと、そろそろおっぱじめやがりますか。
 ど畜生め …… っ!!
 
    
 
  



               track:14  end



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さてさてさてさて。

コレといって書くことがない。
ども、草之です。

じゃあなんで日記更新してんだよ(笑)。
と自分でボケて自分で突っ込んでみる。虚しい。

あ、そうだ。
近々『優星』の設定の項目(キャラ)を追加します。
『背徳の炎』の方にも設定を作る予定なので、ヨロシクです。

なんで『B.A.C.K』はないのかって?
まだ時期じゃないからです。でも、オリジナルキャラ以外なら作るかもしれません。

コレ全部作ることは作るけど、見る人がいるかは謎。

では、更新予定発表に進みます。
明日あたりに『B.A.C.K』を。
今週末あたりに『優星』を更新予定です。

以上、草之でした。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:2-1

 
 ロストロギア『レリック』の搬送は無事終了。
 シリアルナンバーⅨを確認。
 
 今回の作戦中現れた“竜”は魔力ダメージにより消滅。
 フェイト・T・ハラオウン執務官。高町なのは一等空尉。ユークリッド・ラインハルト一等空尉。
 上三名のデバイスからのデータによると、そのどれもが非殺傷設定を解除しておらず、ゆえに、“竜”はなにかカタチのないものを媒体にした『使い魔』なのではないか、という推測が立てられる。
 同“竜”に対して、今後『サベージ』と呼称する。
 また、過去『サベージ』が見られたかは現在調査中。場合によっては無限書庫への協力要請も視野に入っている。
 
 現れた場所・タイミングを見るからに、ガジェット側の新たな生物兵器なのでは、という見解が有力。
 
 最後に、『サベージ』を目撃した瞬間のユークリッド・ラインハルト一等空尉の挙動が不信に見られた。
 何かを知っている可能性があり、これ以降、全てが現在調査中である。
 
 
            古代遺産管理部機動六課
                課長及び部隊長 八神はやて二等陸佐
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 『来ましたか』
 
 ノックをすると中からそんな声が聞こえ、続けて『どうぞ』と声がかかる。
 重厚な扉を開き、中に足を踏み入れる。
 一度敬礼をし、彼女 ―― カリム少将は苦笑いを隠さず執務用の机から前へ出、来客用のテーブルに通される。
 
 「お久しぶりですね。その後はどうですか?」
 
 「変わりはしないですよ。ただ …… 」
 
 「『サベージ』、でしたか?」
 
 頷いて返す。
 それと変わらず、シスター・シャッハが紅茶を持ってきて適温に温められたカップに注ぎ、オレとカリム少将それぞれの前に置く。
 目礼だけして、目の前の話題に戻る。
 
 「あれはなかなか手強い様ですね。ミッド式の砲撃魔法 …… それも高町一尉とハラオウン執務官のものを受けて少しばかり抵抗をした様ではないですか」
 
 「ほんの一瞬ですよ。それ以上は保たなかった。武装隊であれば一小隊が当たれば一体と互角以上に渡り合えるでしょう。AMFを展開していない手前、武装隊からすればガジェットより幾分相手にしやすい筈です」
 
 「なるほど?」
 
 だが、そう。
 一小隊を動員して、やっと一体を相手に出来るとも考えられる。
 被害が出ないとも限らない。人員不足と重なって、戦力が徐々に削られていく。
 そこに、ガジェットを送り込む。
 疲弊しきった部隊は次々に倒され、流れは一方的に向こうから流れてくることになる。
 結果、敗北の2文字。
 
 なのに、なぜ今回は手の内を晒すような真似をしてまで後手に回したのか?
 余裕か、それとも相手も『サベージ』の力量を測りあぐねている?
 
 「さて、本題に入りましょうか。ミルヒアイスさんの行方でしたね。こちらです」
 
 コンソールを操作する。
 シャッとカーテンがシスター・シャッハの手で引かれ、部屋が暗くなる。
 モニターが現われ、文字の羅列 ―― 管理局の研究施設の全てだろう ―― が流れていく。
 おそらく、1000を軽く越える文字列の中から、ぽつぽつと特定の研究施設の名だけが抜けていき、別のモニターにストックされていく。
 数分の間、その工程を見続けていただろうか。検索が終る。
 
 「管理世界6、管理外世界2、無人世界48。全56世界、計147施設に絞りこむことが出来ました」
 
 「こんなに、少なく …… 」
 
 オレが提出したデータは、まだあの1000を軽く越えていたデータだ。
 そこから、この短期間で見ればなんと早い事か。
 気分としては光速艇に乗って、星に帰ってきた気分だ。
 
 「ここまでくればあともう少し …… と、そう言いたいところですが」
 
 「ここからですよね、本番は」
 
 わかっています、と頷いて返される。
 
 時空管理局 …… 万年の人手不足が仇になり、こういう研究施設への資金提供は万全であっても、その内容までを詳しく調査しきれていない。
 そして、そこに管理局の影が落ちる。
 その活躍という光の影に隠れ、不正や非合法な、非人道的な実験を繰り返す。
 主にそれはロストロギアやレアスキル持ち、特殊体質などが関係して行われる。
 
 その“影”をオレは許すことが出来ない。
 もし、管理局が大きく揺れるとすれば、こういうところから始まるだろう。
 ひとつが見付かれば、芋づる式に見付かっていく。
 
 まずい、ということはわかっている。
 だから、管理局側もあえて手を出していないのかもしれない。
 
 「ここからは聖王教会としてだけではなく、時空管理局としても動かねばなりません。しかし、彼らの行動は …… 」
 
 「人員不足も手伝って遅い。つまり、莫大な時間がかかってくる。執務官でもない限り即実行も不可能」
 
 「その通り。いないでしょうが、手の空いている執務官がいれば都合はつくのですが …… まぁ、いないでしょうね」
 
 わざわざ『いない』と二回繰り返すあたり、これだけはどうにもならないと考えているのだろう。
 
 「しかし …… もしかしたら ―――― 」
 
 「『今回の事件に関係があるかもしれない』でしょう?ギプフェルがどういった一族なのかは知りませんが、貴方の態度を見れば、そうではないかと素人目にも明らかでしょうね」
 
 少しだけ笑いながら、カリム少将はそう言う。
 くい、と紅茶を飲み、静かに置く。一連の動作に曇りはなく、腹構えは出来ているようだった。
 
 「 …… 改めて、聞いてもよろしいかしら?」
 
 「構いません」
 
 「ミルヒアイス …… ミーアさんは貴方の何なのですか?」
 
 まさかここでそう言う質問が来るとは思ってなかった。
 一瞬だけ言い詰まり、深呼吸をしてから視線を戻す。
 
 「ミーアは、オレの義姉です」
 
 カリム少将の紅茶を飲む手が止まる。
 シスター・シャッハも心なしか動揺してるように見える。
 
 「それは …… どういった?」
 
 「詳しくは伏せますが、オレがものごころつく頃から、彼女はオレの姉だった」
 
 「それだけですか? 特別な感情などは抱いていなかったのですか?」
 
 「愛してるとか、そういう好きの話ならノーです。理由なんて、それで十分だ」
 
 そう、これ以上言う気はない。
 ただ、それだけなんだから。家族を助けることに、なにを疑問に持つ?
 
 「 ………… そうですね。私が頼んでいることに比べれば全然」
 
 くすり、と笑って遠い目をする。
 
 「私は、私もそうなっていたかも知れないんですよね。今でこそこうして役職に就き、誠心誠意働いているわけですが …… 一歩間違えれば、ただの“予言書”として、人として扱われていなかったかもしれない」
 
 「騎士カリム …… そんなこと」
 
 「いいえ、シャッハ。これは事実よ。ないとは信じたいものも、全て裏切られる。箱の中身なんて、開けるまでわからないものでしょう?」
 
 ………… ?
 あぁ、そうか。彼女のレアスキルはそう言うものなんだった。
 でも、この違和感は …… 本当にそれだけか?
 だが、今は彼女を信じるしか方法はない。
 掴みかけた可能性をむざむざ放り出すなんて、オレには出来ない。
 
 「『サベージ』について、いいでしょうか?」
 
 「それは …… 私たちよりもはやてに言った方がいいんじゃないのかしら?」
 
 「それは、わかっています。でも …… っ」
 
 「わかったわ」
 
 空になったカップを置いて、静かに瞼を閉じていく。
 しばらくして考えがまとまったのか、瞼が開く。
 
 「はやてにも、管理局にも黙って置いてあげましょう」
 
 「あ …… 」
 
 「騎士カリム …… それではっ!!」
 
 「少し黙っていなさい、シャッハ」
 
 いつもの温和な態度から一変して、ぴしゃりとシスター・シャッハを制する。
 苦虫を噛み潰したような顔のまま、彼女は一歩退いた。
 
 「聞きましょう。ユークリッド一尉」
 
 違和感が拭えぬまま、オレは口を開いた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ティアナ、上手いよ! そう、その調子!!」
 
 「はいっ!!」
 
 色どり鮮やかなスフィアが広場一杯に飛びまわる。
 撃ち落しては増え、増えては撃ち落す。
 どっしり構えて、迎撃、迎撃。
 動かず、中、長距離を把握する。これが、基本。
 
 「じゃあ、ラスト行くよ …… っ! 今この広場には合計20個のスフィアがある。今から、30秒以内でこれを全部撃ち落してみて!!」
 
 「はいっ!!」
 
 浮いているだけだったスフィアから全部。一斉に動き始める。
 イチイチ撃ってちゃ間に合わない。初弾はクロスファイアで4秒以内に5個を潰そう。
 そこからは慌てず、着実に潰していく。
 目標は、25秒以内!!
 
 「行くよ、準備は出来たかな?」
 
 「いつでも大丈夫です!!」
 
 「じゃあ、スタート!!」
 
 スフィアの動きが活発になる。
 大丈夫。慌てるな。
 
 「クロスミラージュ!!」
 
 《Lord cartridge》
 
 炸裂音と共に、スフィアを精製。
 そこだっ!!
 
 「クロスファイア、シュートッ!!」
 
 正面を舞っていた5個のスフィアに狂いなく飛んでいく。
 しかし4つだけしか潰せなかった。これで4秒。思考を切り替えて …… 。
 
 「そこっ」
 
 立て続けに二発を発射。
 これは撃ち落せた。次、次、次。
 
 「クロスミラージュ、アイハブ!!」
 
 《Yourself》
 
 クロスミラージュの弾道修正を消す。
 時々、正確過ぎて急な機動について行けず外れることがある。
 そんな軌道をしている数個のスフィアを撃墜。合計9個を撃墜してただいま14,45。
 
 「ユーハブ!!」
 
 《Myself》
 
 元の設定に戻す。
 マルチショットを継続しつつ、残り4個。ここで19,57。
 マズイ、遅れ気味だ。
 
 「ミラージュ!」
 
 《Lord cartridge》
 
 二発の炸裂音。
 シフトショットに切り替え、クロスファイアのカタチを取る。
 スフィアの数はさっきより多めの7個。
 
 「いっけぇ――― ッ!!」
 
 数で押すのはスマートじゃないけど、ここはそんなこと言ってられない。
 1、2、3と潰して最後の一個に手間取る。
 1、2、3とこちらの魔力弾が外れていく。
 残ったのはお互いに最後の最後。ここで24,22。
 
 「そこだっ!!」
 
 ガンッ!!
 撃墜、完了。
 
 《Exercise completion. Good job(訓練終了です。お疲れ様でした)》
 
 「最後のをマルチで撃ったのはいい判断だね。あのままシフトショットを続けてたらあと1秒はロスしてたよ」
 
 「はぁ …… 結局25秒以内じゃむりだったかぁ~」
 
 25,06。
 コンマ06の遅れ。惜しい~。
 
 「へぇ、あの中で目標も決めてたんだね」
 
 「ええ、まぁ。一応」
 
 「これもユークリッド隊長のおかげかな …… ?」
 
 「いえ、そんな」
 
 「う―――ん。見た感じ、技術ならとっくにAAに届くかなってところなのにね。まぁ、魔導士ランクなんて結局は目安だから」
 
 ちょっとだけ苦笑いを含ませて、首を捻るなのはさん。
 そういえばユークリッド隊長もそんな感じのことを言ってたっけ?
 『射撃だけならオレより上』とかなんとか。畏れ多くも、って感じだけどねー。
 だって、あの人のマルチショットの命中精度半端ないし。マルチショットってとこが凄い。
 アタシなんかまだ二発撃って一発あたるかどうかって辺りだし。
 
 多分、シフトショットの方でならアタシが勝つ! …… かな?
 いやいや。う~ん?
 
 「個人スキルの訓練ね、ティアナとエリオが他のふたりと比べると若干出来がいいの」
 
 「それって …… 」
 
 「うん、そうだね」
 
 今度は本気で苦笑い。
 
 「今日のお昼くらいに彼が帰ってくるから、昼からの訓練でスバルとキャロの方も見ると思うんだけどなぁ。どうだろ?」
 
 「ちょっと前にそのこと聞いたんですけど、『オレが口出しできることはなさそうだ』って言ってましたけど?」
 
 「でも、スバルとは一回だけ組み手して欲しいんだよね。覚えてる? 初出動のときの …… 」
 
 「あぁ、あの体術ですよね。ビックリしましたよ」
 
 まさかミッド式魔導士が、ベルカ式シューティングアーツを手玉に取るとは思わなかった。
 曰く『嗜み程度さ』。
 いや、あれどう見たって嗜みなんてレベルじゃなかったし。
 
 「 …… ユークリッド隊長ってミッド式魔導士、で間違いないですよね?」
 
 ふと、そんな疑問が浮かび上がる。
 いや、疑問というよりも笑っていうような冗談の類だ。
 
 「元々はベルカの騎士だったんだよ、彼。聞いてない?」
 
 「え?」
 
 ちょっと待った。
 それって、ちょっ …… っ、
 
 「そうだね、可笑しい事なんだよ」
 
 アタシが言う前に、なのはさんがそう答える。
 そういう表情をしてたんだろう。
 ベルカ式から、ミッド式へ鞍替え …… ? 無茶苦茶だ。
 
 「まぁ、聞いても答えてくれないよ。誰も知ってる人がいないんだから」
 
 「 …… わざわざ変えた理由を、ですか?」
 
 「そう」
 
 少しだけ、なのはさんの表情が険しくなる。
 なまじ、同僚の事を話している顔じゃなくなる。
 
 「彼ね、今AA+でしょう?お世辞をいう事がないシグナム副隊長ですら『どうなってるんだ!?』って言うぐらい」
 
 「え …… っと」
 
 「おかしいんだ、本当に。ベルカ式のままならもしかしたらシグナム副隊長にだって負けてないと思うよ、私は」
 
 どんどん表情が無くなっていく。
 声はいつもの調子で明るくて、親しみ易いトーンで話してるって言うのに、表情が合っていない。
 
 「彼のミッド式での致命的な欠陥は、その魔力操作と運用。つまり燃費が悪くて、かつ弾のコントロールも鈍い。ほら、よく無誘導射撃使うでしょう?」
 
 「え、はい」
 
 パチン、と頬を叩く音。
 ビックリして横を見ると、なのはさんが自分の頬を真っ赤にして、両手で顔を挟んでいた。
 次には、いつも通りにゃはは、と笑っていた。
 
 「そんな彼には弾幕を張る。そうすれば中・長距離の彼は抑えられるよ。今度試して御覧」
 
 「 …… 中・長距離の彼“は”?」
 
 「そ。ユークリッド隊長の本分は高速戦闘。常に動き回って敵を撹乱して、隙あらば一撃で落とす。フロントアタッカー寄りのガードウィング」
 
 でも、その戦い方ってフェイト隊長に似てる気がする。
 そこのところはどうなんですか? と質問すると、ふむ、と顎に手を当ててこう答えた。
 
 「フェイト隊長は高機動戦闘。ユークリッド隊長は高速域戦闘。この違いがわかるかな?」
 
 「前者が単騎戦闘能力を指して、後者が個人戦法を意味してるってことですか?」
 
 「高機動っていうのはつまり、より多くを落とすエースと呼ばれる魔導士や騎士のことを言う時に使うんだ。だから、ティアナが言ってること、間違いじゃないよ」
 
 “使う”か“使われる”かの違いだね、と笑う。
 それにしても、あの表情は一体なんだったんだろうか?
 
 「あ、ティアはやーい!」
 
 と、ここで他のグループも訓練を終了させてぞろぞろと集まってきた。
 スバルは相変わらずボロボロで、その隣には妙につやつやしたヴィータ副隊長の姿が。
 あれ、絶対ストレス的な何かも一緒に打ち込んでる。
 
 エリオとキャロは泥だらけ。
 回避訓練が中心らしいから、飛んだり転がったりが多いんだろう。
 
 「はいっ整列ー!」
 
 なのはさんの号令でみんなが並ぶ。
 
 諸処の説明はもう常套句のようになって、それが終ると、解散の号令。
 今日の午後は訓練が少なく、業務をこなすそうだ。
 
 そうして、今日も朝が過ぎていく。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「よぅ、頑張ってるか、隊長さんよ」
 
 失礼しますぜ、とヴァイスが相席する。
 少々イラッときたので、こちらもそれなりの返事を返すことにする。
 
 「あぁ。きっとお前の女遊びぐらい頑張ってるさ」
 
 「ぐぁ、ひでぇ」
 
 あんまり効果はなかたようだ。
 なんだかんだで笑っているのがその証拠。

 彼のメニューはまぁ、普通にパスタだ。
 
 「お。隊長も粋っスねー。日本食じゃないですか」
 
 「ん、あぁ。多分他の隊長・副隊長用に追加されたメニューだろ。これが案外美味い」
 
 栄養価も高く、バランスも良い。
 どうやら、はやての独自の輸入ルートで六課直に送ってくるらしい。
 だからこれは限定食の上、隠しメニュー化している。オレが見付けたのもハラオウン執務官が食べていたのを見てだった。
 
 「にしても割と少ないっすね。これ足りますか?」
 
 「ん、あぁ。オレは朝多くて、昼夜って少ないんだ。前線メンバーたるもの、腹六分目が基本」
 
 と、ちょっとばかり偉そうに言ってみたところで、ヴァイスが呆れ気味にあるテーブルをフォークで指し、
 
 「 …… じゃ、あれは何すか?」
 
 マナーの悪さを注意してから、そのテーブルを注視する。
 案の定、フォワードメンバーなワケで。
 ヴァイスと同じパスタなのだが、ひとつの小山の様に盛られていて、その山の後ろにいるだろうキャロの顔が見えない。
 
 「あー。あいつ等はアレだ。育ち盛りってヤツだろ?」
 
 「隊長もそう歳変わんないっしょ」
 
 「オレは …… 二次成長ももう終ったんだよ。身長も180ねぇし」
 
 最後のは愚痴だ。
 176cm。そりゃ二年前に比べれば、10cm近く伸びたが、やっぱりガタイはある方がいい。
 
 「ぜーたくな悩みだ事で」
 
 ま、所詮体の成長なんてそんなもんだ。
 静かに昼食に戻 …… 、戻ろうとした矢先。
 
 「で、どうなんです?」
 
 小声で、囁く様に耳打ちする。
 やめろ、気色悪い。
 
 「あぁ、上々だよ」
 
 「うっひゃ――― っ! 言ってくれるねぇ、この色男!!」
 
 「お前は色魔だけどな。それよりなんだ、フォワードのことじゃないのか?」
 
 すると、ヴァイスはきょとん、と目を丸くして固まった。
 数秒そのままで、しばらくして硬直が解けたと思うと、意地悪いニヤケ顔で迫ってきた。
 
 「とぼけなさんなって。アンタも物好きっつーか、なかなかにお目が高いというか、ぶっちゃけどうよ?」
 
 「わかるように言え」
 
 「っ、わかりましたよ、すいませんでしたっ!そんなに睨まなくてもいいのに ………… 。
 こほん。その …… 八神部隊長とのことっすよ。最近どうなんですか?」
 
 ぽそぽそっと呟く様に言う。
 お前の知ったことか、この野郎~っ!!
 
 「キス? キッスはしましたかっ!? おぉっとまさか業務時間中に密会、そしてそして~っ!?」
 
 「お ―――――― 」
 
 「ヴァイス。そんなに血が見たいのか?」
 
 ぽん、とヴァイスの肩に手が置かれる。一目だけでは女性のものとは分かりづらい武人の指。
 
 「し、しぐなむねぇさんじゃぁないですか …… 」
 
 「どうした? 瞳孔が開いているぞ?」
 
 今お前が「血が見たいか」って言ったからだろ。
 わざとらしい。
 
 かくして、シグナムがそこに立っていた。
 片手には昼食のトレイ。もう片方はヴァイスの肩を軋ませている。
 まぁ、シグナムが介錯人なら痛みもないだろうよ。
 いや、待てよ。コイツのことだから痛みをワザと増しそうな気もする。
 
 「ユーリ、すまないがヴァイスを借りるぞ?」
 
 「勝手にしろよ。オレはヴァイスの何でもない。斬るなり焼くなり …… あぁ、どっちも出来るな」
 
 「ちょっああああっ!! 助けっ、助けてくださいっ!!」
 
 食堂の端の方へ連行されていくヴァイスを見ながら、自分の昼食を片付ける。
 こっちに文字通り、火の粉が飛んで来ないうちに退散するとしよう。
 
 「じゃ、ご愁傷様」
 
 聞こえるはずもないことを律儀に呟いて、食堂を後にする。
 扉をくぐった瞬間、ヴァイスの悲鳴が食堂に木霊した。
 何。殺されはしないさ、きっと。
 
 「 ………… にしても、ありゃ相席するつもりでこっちに来てやがったな」
 
 ふと考えた。
 これじゃあ、いつの間にか反対になってるじゃないか、と。
 シグナムと出会った頃の自分は、必死になってシグナムにくっついていた。
 
 「バカみてェ」
 
 誰もいない廊下で、ひとり呟く。
 シグナム、シグナム、シグナム。
 そう、シグナムはシグナムでしかない。
 それは初めて会った時、確認したことだ。
 
 『シグナム三尉、というのですか?』
 
 それでも近付きたかった。
 けれど、近付けば近付くほど、その違いに気持ち悪くなって何度も吐いた。
 近づけたくない。
 いつの頃からか、そう思うようになってしまったんだ。
 
 シグナムが近付く度、優しくするな、困ったような顔をするな、笑うな、怒るな、悲しむな。
 
 いつしか、シグナムがいっそ人形ならば …… 。
 そう、思い始めていた。
 
 何度、この手を血に染めようとしたことか。
 だけど、出来なかった。
 
 「くそ …… くそォッ!!」
 
 葛藤が今頃ぶり返す。
 
 シグナムを殺せば …… 。そう思う心と、
 シグナムは悪くないだろう …… 。そう思う心が、
 
 妥協案として、シグナムを近付けない。
 そう結論付けた。だのに、アイツは近付く。
 他のヤツには見せないような、母性のようなものを剥き出しに近付いてくる。
 この六課が始まって、幾度吐いたことか。
 
 「 ………… う、く」
 
 思い出すものじゃないな。
 あぁ、もういいだろう。もうすぐなんだ、シグナム。
 もうすぐ、お前に歩み寄ることが出来そうなんだ。
 
 「へ、へへ。何だよ、近付けたら何て呼んでやろうか …… ?」
 
 喉まで迫り上がった吐瀉物を飲み下す。
 少し、疲れたな。
 
 「そうだ、二人目の義姉さん、でどうだ?」
 
 自嘲するようにひとり呟いて隊長室へ歩いていく。
 その歩みはどうにもふらふらとしていて、落ち着きがない。
 ヤバイな。ちょっと詰めすぎたか?
 
 「は、はは」
 
 ブラックアウトしていく視界。
 耳鳴りがやかましい。クワンクワン、と真横で銅鑼を鳴らされた気分だ。
 あぁ、この頃ちょっとそこいらの執務官も青ざめるような毎日だったしな。
 寝てもいいか。
 
 「――――――― リ!? ………… れかッ!! ユー―――――!!」
 
 なんだろう。
 誰の声だったか …… 。
 ただ聞き覚えがあるとか無いとか、今はどうでも良かった。
  





             Act:2-1  end




テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

追加しましたっ、されましたっ!!

ども、草之ですっ!!

そう、追加されたんです。
相互リンクの依頼が来ましたっ!!
身に余る光栄です、殿下ぁぁぁああああああああ!!!

勝手気ままなのはスゴロクの趣味だから

管理人はスゴロクさん。
なのはssを書かれています。
初めての掲載作品だと書かれているのですが、実力は確か。
読んでいてもスラスラ読めます。
オリ主人公のStS再構成。うちの『B.A.C.K』よりも軽めですよ。
ヒロインはティアナです。
現在はエリキャロのアフターストーリーを執筆されています。


そういえば、草之ってなのは系の所とばっかりリンクしてません?
いや、ネギま!系はどこも大御所過ぎて尻込みするっていうのが正直な感想ですが。
タイプムーン系然り。ギルティ系は……見ることには見ますが、BL系が多かったりして。
いや、どれも面白いことは面白いんですけどね。


さて、では毎度おなじみ更新予定です。
と、ここまで書いておいて何なのですが、遅れます。
来週頭か、来週中。

言い訳は、パソコン変えました。
しかも98だったのをいきなり冒険してVistaなんかにするから。
データを移せないー。いや、一応執筆してなかったから痛手はなかったんですけどね。
お気に入りとか、辞書とか、画像とか。

しかも、噂どおり扱い辛い。
慣れるまでもうしばらくかかりそうです。
これに伴ってメールアドレス変更したいのに出来ない。なぜだ!?
Windowsメール使ってます。なんだかホストに接続できません?とか言ってます。
原因が分かる人、教えてもらえると嬉しいですよ~。

では、以上草之でした!

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

結構今更。

ども、草之です。

なにがどう今更なのか。そして、未だにメールの設定がよぅわからん。
は、置いといて。

『BLAZBLUE』

ブレイブルーのことですね。
アートワークスが手がける2D格闘ゲーム。
草之が知る限りの話なんですけど、2D格闘って少なくないですか?昨今の格闘ゲームは3Dが多い気がする。格闘ゲームの原点といえば2Dですよね?ストリートファイターとか?草之はストリートファイターは全然したことないんですけど……。

さて、お話を戻してブレイブルー。
主人公が杉田って……(笑)。いや、あの人の呟きセリフ結構かっこいいですけどね。
ラグナって名前。呼び名が『死神』。SS級の反逆者(作品設定では賞金首とか)。
D(ダストじゃないです、ドライブなんです)ボタンの攻撃ではダメージ吸収とかいう下手するとチートとか言われそうな能力をお持ちのご様子。

それとキャラグラフィックはギルティの方が好きですけど、背景がすごいっすね。ブレイブルーは。いつものことながら、石渡氏のジャギジャギサウンドも健在。今回はギルティみたいな無理はしてないみたいですよ。

さて、草之的に「一番変わってる」、と思ったのはダウン中でさえ当たり判定が継続していく、ということ。つまり、ダウン中は無防備な状態に。いわゆる芋バースト後の無防備時間みたいな感じ。
起き上がりの最中も多くの時間が無防備であり、まさに“戦闘”らしい格闘ゲームだなぁ、と。

最後に、暗転の演出がカッコイイ!ズワァっ!!ってなるんですよ~。
あぁ、家庭用出ないもんかな……。近所のゲーセンには未だにギルティギアスラッシュが設置されている、という状態。ありえねぇ……。いちいち難波まで行くのはおっくう過ぎる。


と、いうわけで。
『優星』の更新はやはり来週ですね。
すいません。ここの頭にあった通り、メールの設定が出来ていないんです。
だから、今現在ブログのメールフォームを消しております。もう少々お待ちを。

では、以上草之でした。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

早ければ、というお話。

ども、草之です。
この一週間更新出来てないこと気づいて、内心とても心苦しいです。

さて。
ラグナとジンって兄弟なんですか?
思い立ったら即実行。ブレイブルーのプレイに行ってきたわけなんですよ。
まぁ初プレイだったんで初心者プレイ丸出しでやってましたけど。ガチャコンはしてませんよ?

最初の頃は全然人がいなかったんですけど(草之がそのフロアでひとりぽつんとやってる状態)、3,4ステージをクリアしたところでワラワラとやってきました。上級者の皆様が。

うわぁ、きた。
やべぇ、今草之ってばすごい邪魔してる。みたいな空気を自分一人で持ってました。
実際4台あったんですけど、隣の台では対人戦が始まり、草之のいる台ではひとりでアーケード。
たぶん、草之のいた台でも対人戦をしたくて待っててくれたんだろうけど、初心者だったから乱入を控えてくれてたとかなら申し訳がなかったです。

戦果は8ステージのハクメンで草之がK.O.された
う~ん。やっぱり初でやったら結構むずいんだ、これが。投げからつながらない。ジャンキャンから空中コンボが安定しない。技が出ない(←ただスティックに不慣れなだけ)。
まぁ、ちょくちょくやっていけたらな、とか思ってますけど、無理っぽいなぁ。やっぱり家庭用を希望。
とか言ってもまだ稼働から3か月くらいですからね。発表があったとして早くて4,5月。発売が今年中ってなところが妥当ですかにゃ。


さて、では本題。
『優星』の更新はおそらく早いと今夜。
遅くても明日の夕方くらいには更新したい。

週末には『背徳の炎』を更新したいと思っています。

では、以上草之でした。


テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:17 中編

 
 カーニヴァル開催から丸一日。
 今日は全員お休みを取って、みんなでカーニヴァルを楽しもうと思ってます。
 私のすぐ隣にアリシアさんと、藍華ちゃん。ちょっと後ろには士郎さんと、アルトリアさん。
 みんながいて、こんなに楽しくて …… 幸せですっ!
 
 にしても、
 
 「うわぁ――――っ! すごいすごーい」
 
 見渡す限り仮装している人がいっぱいいる。
 なんだか、いつものネオ・ヴェネツィアよりももっと、不思議な空気が漂ってるって感じです。
 あ、あのトンガリ帽子のやつ可愛いなぁ …… 。
 
 「ちょっと灯里! またフラフラして、今日はいつにも増して人が多いんだから、ちゃんとはぐれないようにしないとダメよ」
 
 「あ。えへへ。ごめんね、藍華ちゃん」
 
 いけないいけない。
 ついうっかりついて行ってしまうところだった。
 とてとてと歩いて元の位置に戻ってくる。
 
 「ほら、灯里」
 
 「わぁーっ、藍華ちゃんこれなぁに?」
 
 お面がいっぱーい!
 わらっとお面がくっついて寄せ集まって、あー、ちょっとキモカワイイかも。
 色もいっぱいで綺麗だし。
 
 「なにって、バウータの屋台に決まってるじゃない」
 
 「バウータ?」
 
 「そっ。この仮面のことよ」
 
 そのうちのふたつを手にとって、藍華ちゃんは続ける。
 
 「昔っからカーニヴァルの正装は仮面[バウータ] と黒マント[タッバロ] っていうのがお決まりなの。まずは自分好みのバウータを選びましょっ」
 
 ちょっとだけ鼻歌交じりに、バウータをとっかえひっかえに見て回している。
 私もそれに習って選び始めると、横から士郎さんもバウータに手を伸ばす。
 
 「ほんと、いろいろあるんだな。この屋台だけでも2・300はありそうだな …… 」
 
 まじまじとバウータを表裏と見ている。
 うん、と一回頷いたと思ったら、「しかも全部手造りか」と呟いた。
 ほへー。これって全部そうなんだ。どれくらい前から造り始めるんだろう?
 
 なんて取り留めもないことを考えていると、周りがざわつき始める。
 
 「わっ、何何? みんな大騒ぎしてるよ?」
 
 向こう側から人波をかき分けて歩いてくる影がいっぱい。
 とても大きな体にタッバロとバウータ。
 そんな人の周りにいる演奏隊は打って変って小さくてカワイイ。
 
 「あぁ、今年もお出ましのようね」
 
 「?」
 
 「この街のカーニヴァルを代表する一番の人気者。カサノヴァよ」
 
 藍華ちゃんがそう言い終わるのと同じくらいに、カサノヴァが目の前を通り過ぎていく。
 
 「うわぁ――――! おっきーい!」
 
 遠くから見るよりも、やっぱり大きい。
 私の倍近い身長だ。
 
 「すごいですね …… 」
 
 思わず、といった感じでアルトリアさんもじっと見上げている。
 と。
 ぐりん、とカサノヴァの首が回る。結んだ髪が棚引き、こちらに顔を向けたのですっ!?
 
 「え、え、え、えぇ?」
 
 「 ………… 」
 
 そして、どこからともなく一輪の花を取り出し、ふわりと投げた。
 ゆっくりと放物線を描いて飛ぶ花は、また同じようにゆっくりとアルトリアさんの手に収まる。
 
 「わぁ――――っ!! アルトリアさんすご――――い!!」
 
 「 …… 私に?」
 
 だというのに見上げる顔はなぜか嬉しさの欠片もなく、はしゃいでしまった自分を情けなく思ってしまう。
 なんで、そんなに悲しそうなんですか?
 
 カサノヴァはアルトリアさんの質問には答えず、タッバロを翻して歩き去って行く。
 しばらくぽけーっとしてると、アリシアさんが横にきてお馴染みの解説を始める。
 
 「カサノヴァは18世紀のマンホームのヴェネツィアに実在した人物なの。時に脱獄者であり、稀代の女ったらしであり、文学者でもあり冒険者でもあった。とにかく、スキャンダラスで有名な人物だったんですって」
 
 「女ったらし、ってところに今回の行動の理由があるとにらみました!」
 
 「あらあら」
 
 アルトリアさんはまだ花を見詰めている。
 やっぱり、ちょっとだけ悲しそうに。
 
 「アルトリア。どうした?」
 
 「あ、いえ。なんでもありません。少し、ぼぅっとしてましたね」
 
 士郎さんの心配に苦笑いで返している。
 すると、士郎さんはアルトリアさんの手から花をひょい、と取り上げた。
 まじまじと花を見てから、うん、と頷くとアルトリアさんの頭に髪飾りが如くあしらった。
 
 「シロウ、何を …… ?」
 
 「似合ってるんじゃないか?」
 
 「冗談を」
 
 そう言って、アルトリアさんは髪飾りにされた花を取ろうと手を伸ばし、その手をまた士郎さんに掴まれる。
 
 「この頃、お前ちょっとおかしいぞ。やっぱりなにかあるんじゃ ………… 」
 
 「シロウ …… っ! 詮索、しないでほしい」
 
 「ごめん。みんなも、話の腰折っちゃったな」
 
 続けて、と言ってもアリシアさんが驚いて固まっていてそんな空気じゃないし、どうしようと考え始めたとき、士郎さんが咳ばらいをした。
 みんなが注目したことを確認してから、士郎さんが解説を継投した。
 
 「カサノヴァは、本名をジャコモ・カサノヴァと言って、彼の自伝『我が生涯の物語』によれば彼は生涯で1000人の女性とせい …… 付き合ったらしい。その一番初めては11歳。相手は寄宿学校の教師の妹だと言うことだ」
 
 士郎さんはなんて言おうとしてたんだろう? せい …… ?
 それにしても、11歳っていえば私は何をしていただろう。もうそんな頃には恋愛してたなんて、すごいなぁ。
 
 「本格的に女性との付き合いをし始めたのは1740年。彼が15歳あたりの頃だ。ちょうど大学を卒業。ヴェネツィアに帰り教会の聖職者として法律実務をしてた頃だな。まぁ、仕事なんかそっちのけで女性関係にばっかり構っていたみたいだがな」
 
 「ほへー」
 
 「15歳くらいって …… 。早っ」
 
 「まぁ、そんなもんだから教会の仕事は早々にクビになった。その後は軍隊に入ったがまたすぐに退役。食いぶちに困った彼は、実父が運営していたサン・サムエーレ劇場のヴァイオリニストになった」
 
 なんだかすごくふわふわした人なんだなぁ。
 それに、なんでも出来ちゃうんだ。そういうのはちょっと羨ましいかも。
 でも、なんだろう。
 それだけ聞くと、カサノヴァさんって寂しい人みたいだ。
 
 「で、1755年。彼の魔術だとか、妖術だとかに対する関心が仇となって宗教裁判所で有罪を宣告。総督宮殿に隣接した有名な『鉛の監獄』に収容され、5年をそこで過ごした後、未だかつて誰も脱獄を為し得たことのないその監獄から脱獄。この『鉛の監獄』はカサノヴァ以外脱獄を許したことのない場所なんだ」
 
 「魔術って、衛宮さんは大丈夫なんですか?」
 
 「俺か? 大丈夫さ。それは18世紀の話で、今の俺たちが生きてるのは2い …… 24世紀だ。魔術なんて非科学的なもの、もう誰も害になるなんて考えてないよ」
 
 「貴方は逆にその魔術で人を助けることを目的としていましたからね」
 
 とはアルトリアさん。
 やっぱり士郎さんはいい人なんだなって再確認。
 いつの間にかさっきみたいな空気もどこかにとんじゃってるし、アルトリアさんもいつもの明るさが戻ってきてる。
 
 「士郎さんって、魔法使いっていうか、運び屋さんみたいですねー」
 
 とか呟いてしまっていた。
 
 「? それってどういう意味だ?」
 
 「あ、えと。みんなの幸せを運んで来てくれる、いないとダメな人。いうなれば『幸せの魔法使い』ですねって …… 」
 
 「あ …… 幸せ、の …… 魔法使い?」
 
 「灯里恥ずかしいセリフ禁止っ!!」
 
 「はひ――――っ」
 
 ほっぺたをぐにゅって藍華ちゃんに引っ張られる。
 痛いよぅ。
 
 「ま、まぁ、とにかく。その後彼はパリに逃亡。その後もいろいろあって、1785年に隠棲。伯爵の司書として過ごし、一生を終える。享年73歳だ」
 
 「波乱万丈ってそういうのを言うんでしょうね」
 
 「そうだろうな。彼最大の才覚は恋愛でこそ発揮されたけど、同時代人にとって、彼はそれ以外でも傑出した存在だったという話だ。知遇を得た人物として教皇クレメンス13世、エカチェリーナ2世、フリードリヒ大王、ポンパドゥール夫人、クレビヨン、ヴォルテール、ベンジャミン・フランクリンなどがいる。他にもオーストリアの大政治家、シャルル・ド・リーニュ王子には『この世界に彼が有能さを発揮できない事柄はない』と言われ、またランベルク伯爵は『その知識の該博さ、知性、想像力に比較しうる者は殆どいない』と記している。並べてみれば彼はダ・ヴィンチよりも奔放な『万能の天才』だったのかもしれないな」
 
 あ、と声が漏れた。
 寂しい人なんかじゃなかった。
 とっても温かい人なんだって、思い直した。
 
 何でもできるけど、でも、何でも出来ちゃうからひとつに執着できなくて。
 それでも、だから、その『何でも出来る』ってことになんとも思わないから、その人となりにみんなが惹かれる。
 きっと、笑顔がとっても素敵なひとだったんだろうなって、そう思う。
 
 …… あれ?
 でも、なんだかちょっぴりだけど、士郎さんに似てるかもしれない。
 何でもってわけじゃないけど、士郎さんはいろいろ出来て、笑顔が素敵で。
 
 「士郎さんってカサノヴァみたいですね」
 
 「おいおい。そんなにスゴイやつじゃないぞ。それと、灯里。人にはそう言っちゃダメだぞ。英語のスラングで『カサノヴァ』は色魔って意味だからな」
 
 「うふふ。こんなに女の子に囲まれていて、士郎さんってカサノヴァです」
 
 「アリシア」
 
 止めてくれ、という士郎さんは困り顔。
 
 「まぁそんなカサノヴァも、今ではカーニヴァルのときだけ復活する伝説のアイドルね」
 
 「ほへー」
 
 「ちなみにカサノヴァ役は毎年一人にしか許されてなくて、演じるのは大変名誉なことなんだけど、それについてはすんごい噂があるのよっ」
 
 こしょり、と藍華ちゃんが耳打ちしてくる。
 
 「何でも、あのカサノヴァはこの街のカーニヴァルが始まって以来 ―――― 。百年以上ずっと同じ人がやってるんだって」
 
 「百年以上? えぇ――――、嘘ぉっ?」
 
 さすがにそれはないんじゃない?
 いくら不思議な街なネオ・ヴェネツィアでもそれはないと思うよ、藍華ちゃん。
 でも、噂だって話だし、そういう方が素敵でいいかもしれない。
 
 「中身は不死身の妖精だって話よ。実際に正体を確められた人は、今までにただの一人もいないんだって」
 
 「ほへー、すごいねぇ。百年以上生き続けている仮面の怪人かぁ」
 
 とってもロマンチックで素敵な噂。
 
 「まっ、大方話題作りのためのホラ話なんだろーけど。確かに、正体が気になるわよねぇ」
 
 「幽霊の正体見たり …… って言ってな。結構あっけないもんだろうさ」
 
 とは士郎さん。
 ですよねー、と藍華ちゃんはにんまりと笑いながらそれに頷く。
 
 「うふふ。でも、この人混みで初日にカサノヴァを見れたのはラッキーだったわね」
 
 ううう。
 それだけじゃないですよ、アリシアさん。
 みんながいて、こんなに楽しいお祭りがあって、そして、このラッキーがあって。
 それはもう …… っ!
 
 「ビバ・カーニヴァル―――――――!」
 
 「あらあら」
 
 「あ゛――――――」
 
 こうして、カーニヴァル第二日目は幕を下ろしました。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 カーニヴァルももう後半。
 すでに開催から6日が経とうとしていた。
 
 「ふぅ …… 」
 
 「お疲れ様です、アルトリアさん」
 
 「あぁ、ありがとうアリシア」
 
 アリシアからの差し入れ、例によって軽めのカクテルを渡される。
 ARIAカンパニーのバルコニーで、ふたり肩を並べて夜空を見上げる。
 いつの時代になっても星空だけは変わらないもので、爛爛と輝く屑星は美しい。
 手を伸ばせば、それすらも掴めてしまえそうな錯覚が感覚を支配する。
 
 「こうしたら、星だって掴めちゃいそうですよね」
 
 つい、とその細腕を夜空に掲げ、謡う。
 考えることは皆同じ、ということも付け足しておくとしよう。
 
 「えぇ。全くです」
 
 「うふふ」
 
 カクテルを一口、口に含み、舌で転がす。
 ねっとりとしたアルコールに、透き通るような木苺の酸味が程良い。
 思っていたよりも強めらしい。それでも酔うような強さではない。
 
 「アルトリアさん、どうかしたんですか?」
 
 「?」
 
 アリシアが不意にそう言う。
 また顔になにかが出てたのだろうか。
 
 「違いますよ。カーニヴァルが始まるちょっと前くらいから …… もっと言えば、初めて会ったときから」
 
 「 …… えぇ。貴方には話しておくとしましょうか」
 
 親友ですから、と笑う。
 この時、私は上手く笑えただろうか。
 
 「なんですか?」
 
 「たぶん、もうここにはいることができません」
 
 「 ………… それって、どういう?」
 
 「もう、みんなと暮らせないと …… そう、言ったのです」
 
 グラスを持つ手とは逆の手を固く握り締める。
 機械の潤滑油が切れたように、その動きは固い。
 下手をすれば、ぎちぎちと軋みそうなほどに、固い。
 
 「笑えませんよ、アルトリアさん?」
 
 「はは。出来れば、笑って別れたかったのですが …… 」
 
 「違うわ」
 
 「知ってます」
 
 アリシアが言っているのは『笑えない冗談ですよ』と言う意味なのだろう。
 どうだろうか、私にも茶化すという行為が出来るようになった。
 昔では考えられない変化だ。
 
 そして、もう、味わうこともないだろう …… 感覚。
 
 「なんで、そんなこと言うんですか?」
 
 「そんな事とは心外ですね。これでも意を決して言ったつもりなんですよ?」
 
 必死に笑顔を作る。
 作り笑いだってバレてもいい。今は、笑っていたいから。
 
 「なんで …… なんですか?」
 
 「時間だからですよ。こう見えても、私は普通の人間とは違う。作りは特殊のようですが、この身は魔力で編まれているんです」
 
 「ま、りょく?」
 
 「目に見えない、不思議な力と思ってくれれば結構です。それがもう、保ちそうにない」
 
 「どうすれば …… っ」
 
 「どうしようもありません。試してはみましたが、この体は魔力を“受け付けない”みたいで」
 
 「はぁ …… ?」
 
 「つまり外からの供給も、内からの生成も、意味を為さないのです」
 
 「??」
 
 どうすれば伝わるのだろうか。
 
 「使い捨ての乾電池みたいなものだ、で解りますか?」
 
 「え」
 
 理解してくれたようだ。
 一年は保ってくれなかったみたいだが、それでも十分だ。
 
 「士郎さんに、言ってきます …… !」
 
 「っ!! ダメ。それだけは、やめてほしい」
 
 「どうしてっ!?」
 
 力いっぱいアリシアを繋ぎ止める。
 今までなら、難なく止められていただろうアリシアの力も、今では一杯一杯だ。
 
 「彼には、私から言いたいから。伝えたいことがあるから」
 
 「それは今じゃダメなの?」
 
 「ダメです。時期じゃない」
 
 解ってほしいなんて戯言は言わないでおく。
 こんなもの、彼女には解ってほしくない。解ろうとなど思わないでほしい。
 別れ行く者の気持など、彼女は知らなくてもいい。
 
 「聞いてくれませんか?」
 
 「 …… 私から言い出したものだもの。えぇ、聞くわ」
 
 嘘はない。
 彼女の手をそっと解く。
 改めて、対面する。
 
 「私がここにきた理由は、正直今もよくわかっていません。でも、それでもここで過ごした日々は楽しかった。シロウにまた会えた。変わっていたけれども、また彼に会えた。
 それに、アリシア。貴方とも。
 アカリ、アイカ、アテナ、アリス。他にも数えればたくさん。私は、出会えた」
 
 「うん」
 
 「私だって、まだ、ここにいたい。アリシアと、シロウの行く末を見届けてみたい。アカリは、アイカも、みんなみんな …… っ」
 
 「うん」
 
 「だから、もしかしたらという理由は頭の隅に置いてあります」
 
 「うん、うん」
 
 「それは、私の我が儘なんじゃないか、と。我が儘が通っただけなんじゃないのか、と」
 
 「 ………… ううん、それは違うと思うわ」
 
 「アリシア」
 
 アリシアは私から視線を外す。
 向けるのは満天の星空。
 運よく流れ星など流れるわけもなく、ただ変わらない空がある。
 
 「ここにいる理由とか、そんなのないと思うの。理由なんて、そこにいたいからで十分だと思う」
 
 「 …… アリシア」
 
 「アルトリアさんは、ここにいたくなくなったわけじゃないんでしょう?」
 
 「それは、もちろん」
 
 「じゃあ、また来ればいいんじゃないかしら」
 
 「え?」
 
 「私はいつでも歓迎するわ。ゴンドラだって出すし、夜遅くまでお話だってする。ね、だから、また …… 来れば、いいでしょう?」
 
 最後の方は、少し苦しそうだった。
 きっと涙を堪えてるんだろう。
 
 「だから …… アルトリアさん …… 。もう、一緒に暮ら、せないとか …… 言わないで?」
 
 アリシアの顔をまともに見ることができない。
 唇を噛みしめ、握り拳を固く固くする。
 だめだな、私も。今なにかを言ってしまえば、泣いてしまいそうだ。
 でも、応えよう。
 
 「はい、そうです、ね」
 
 精一杯凛と、と絞り出した声はどこからどう聞いても情けない声だった。
 シロウとの別れのときだって、こんな感じだったけれども、ここまで酷くなかった。
 そもそも、これはお別れなんかじゃない。
 
 「また、来ます ………… きっと!」
 
 あぁ、そうだ。
 きっとアルコールのせいなんだ。
 
 「貴方と、会えてよかった …… っ。ここにいて、本当によかった …… っ。だから、また、来ます ……… っ!!」
 
 「はい …… っ」
 
 今度は、今度こそは、本当に笑えた。
 待っている人がいるなら、帰って来よう。
 考えようによっては、我が儘だったっていうのなら、またそれを通せばいい。
 そう、また、“帰って”くればいいんだから。
 
 「ありがとう、アリシア。私の、生涯の友」
 
 「あ、あらあら。生涯の友だ、なん、て …… 、は、恥ずかしいわ」
 
 笑う。
 
 きっと、また逢う日まで。
 
 きっと、帰ってくる日まで。
 
 きっと、幸せになる日まで。
 
 きっと、幸せになった日からも。
 




 きっと、きっと ――――――――
 
 
 
 
 
 また、逢いましょう。アリシア。
  
  
  
 
 

 
             

                Navi:17 中編   end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

これは……波が来ているのか?

ども、草之です。
いや、そうとしか思えない。

相互リンクです。とても驚いてるんです、はい。
例によって『リリカルなのは』系のSSサイト様です。

『EXBrekaer』

はい。
管理人は天海澄さんです。
SSの内容は『リリカルなのはStS』のアフターストーリー。
主人公はヴィヴィオです。
聖王という自分の存在と、魔導師としての自分と、ヴィヴィオという少女として思い悩み、成長を遂げていくという物語。

――――――が、第一部です。

現在は第一部は完結。全五部で構成される物語の一部でしかないという。
第五部目がこの物語の最終章。らしいのですが、この節々は独立した物語で、たとえすべてを読まなくても第五部は読める、とのこと。

ですが、もし第一部を読み終わった後、読者はこう思うでしょう。
『これは全部読まないと損だ』と。

ちなみに第二部は八神家の物語。
一言で紹介するなら、『立ちはだかる鏡』と、そんな感じでしょうか。
気になった方は今すぐリンクからゴーゴー!!


と、いうわけで。
おなじみ更新予定です。

早いと明日には『背徳の炎』が更新できそうです。
今回のコンセプトは、『違う刹那』です。驚くほどに原作や、セオリー通りな刹那ではありません。
ちょっと、やりすぎた感じがあります。

で、週末、または来週頭には『B.A.C.K』が更新できそうな予感。

では、以上草之でした。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:15

 
 「ああもー、何で俺が払ってんだか …… 」
 
 「あざーす」
 
 ちくしょー。この子ら金持ってんのになんで俺が払ってんだよ、入場料。
 まぁ、いいけどさ。男だったら払ってないけど。
 
 「さて、ほら」
 
 「いんやー、アクセルせんせーってばやっぱりイギリス紳士っつーか、優しいよねー」
 
 「そうか? そりゃどうも」
 
 と、どことなく紳士っぽくお辞儀する。
 
 さて、これからの目的は一応合流ってカタチでいいのかね。
 ユエちゃんとハルナちゃんもいることだし、そんなに離れて行動ってわけにもいかねぇよな。
 さぁ面倒くさいぞ。考えろ、考えろ。
 
 「アクセル先生、たぶんあちらではないかと」
 
 「あー。なるほどね」
 
 ユエちゃんが指差して示した方向は、ちょうどあの子らが飛び込んだ方向。
 やみくもに捜し回るよりアタリをつけた方がいいか。それにこの短時間じゃそんなに遠くまで移動してないだろう。
 よし、と気合を入れる。
 
 「行くぜ」
 
 「はいはーい!」
 
 「 …… 」
 
 こうして、まずはセツナちゃんコノカちゃんを捜すことになったのだった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 ここで時間稼ぎ。
 ネギ先生が帰って来るまででいい、のだろうが …… 。
 果たしてあの子供先生に、いくら神楽坂さんがついているからといって帰ってくることが出来るだろうか。
 それも、今日中に。
 
 無理だろう。あの少年相手にあれだけ苦戦していれば、後が続かないのは目に見えている。
 くそ …… っ、力量を測り違えたか。やはりアクセル先生を向こうに同行させとけばよかったか?
 
 「せっちゃん、せっちゃん~」
 
 「はい?」
 
 お嬢様が呼んでいる。
 振り向いた先、そこには …… 。
 
 「じゃーん」
 
 「何を、してるんですか?」
 
 美しいことには美しいが …… 逃げている手前、その格好は動きにくいのでは?
 あ、いや。朱に交われば赤くなれ。木を隠すなら森の中、とそういうことですねお嬢様!
 
 「そこの更衣室で衣装貸してくれるんえ」
 
 「なるほど、では私も。少々お待ちを」
 
 「あん、ウチが選んだるって」
 
 で。
 
 何故だ。なぜ、男装 ――――――― っ!?
 
 「おー。似合ぅてるえ、せっちゃん!」
 
 「むぅ。仕方ないか」
 
 夕凪が異物感を放っているが、それはそれと割り切るしかないか。
 それにしても、この添付品の刀。
 もともと刃がついていないようだが、なかなか使える。やはり時代劇にも使うとなると鉄を使うものなのだろうか。
 “気”で強化すれば夕凪には劣るとも、差支えない強度になってくれそうだ。
 一度抜いて確認しておくか。
 
 「ねー、あれあれ! なにあの彼かっこよくなーい!?」
 「きゃーっ! お姫様もっ! カワイイ―――っ!!」
 
 「む?」
 
 「ほら、ウチらの事やえ」
 
 「え。私たちですか?」
 
 彼。
 彼 …… 。
 彼 ―――――― 。
 
 だめだ。なぜか傷つく。
 しかし、そう見えてしまったのだから仕方のないことなんだろう。
 
 「写真撮ってもいいですかー?」
 
 「はーい♪」
 
 「え゛」
 
 そこまで流されてしまっていいものか、私。
 いやこれはこれで、楽しい …… いやいやいや。そのような感情、仕事の障害になるだけだ。切り捨てろ切り捨てろ。いやしかしこの場だけでなら …… いやでもっ。
 あ―――――――――――――――――っこのちゃんカワエエっ!!
 
 ってちが―――――――――――――――うっ!!
 
 「撮りまーす」
 
 「せっちゃんポーズ!」
 
 「え、あ、は?」
 
 もうままよっ!
 
 
 ………… 疲れた。
 いつの間にか写真のデータまで貰ってしまっていた。
 だめだ。切り替えろ。
 敵がいるんだぞ、緩めるな。小さいが、たしかに気配を感じる。
 いる。敵がいる。
 
 牙を、剥け ―――――
 
 「っせ、っちゃん?」
 
 「先ほどまでの無礼、どうかお許しください」
 
 「え、え?」
 
 戸惑うのも無理はないか。
 さぁ、移動だ。ここでうじうじしていて、いつ襲われるか。
 人など関係ない。今はこの人を守るために強く。
 
 牙を、研ぐ。
 
 「 ―――― 来たか」
 
 「え?」
 
 馬車の音が近づいてくる。
 徐々にその勢いを弱め、目の前で止まる。
 
 「どうも ―――― 、神鳴流です~。じゃなかったです。そこの東の洋館のお金持ちの貴婦人にございます~」
 
 「ふざけるな。要件を言えばどうだ?」
 
 「お話が早ぅて助かりますわ~。そのお姫様、こちらに渡してもらいましょか~」
 
 「せっちゃん、これ劇や。はまってんなぁ」
 
 それでいい。
 バレず、勘違いのまま終われば、それに越したことはない。
 
 「お嬢様、下がってください。 ―――― と、いうわけだ。文句はないな?」
 
 周囲はどよどよと盛り上がっている。
 離れろ、邪魔だ。消えろ、邪魔だ。
 殺すぞ、邪魔だと言っている―――――ッ!!
 
 「いやーん、刹那センパイ過激やわぁ。そないに殺気立てて、ウチキてまいそうやわぁっ」
 
 「戦闘狂か。ふん、いいだろう。抜けっ!!」
 
 最初から、飛ばしていく。
 人は ――― まだいるのか。
 あぁ、そうか。このご時世だ。殺気なんてものに疎いんだろう。
 勝手に巻き込まれてろ。
 
 「慌てんぼさんは嫌われますえ? でも、ウチそんな先輩だぁいすきやわぁっ!」
 
 右から一閃。
 避けない。受けない。 ―――― 腹を蹴る。
 
 「あ、かっ!?」
 
 「隙だらけだな」
 
 右肩を潰そう。
 添付品の刀を上に向けて抜き出し、振りかぶる動作を省略。
 そのまま振り下ろす。
 
 「んっ!」
 
 必死に体制を立て直したようで、無様に刀を受け止める。
 
 「しつこい!」
 
 “気”を込め、重圧をかける。
 先に悲鳴を上げ始めたのはこちらの刀。
 
 「そらっ!!」
 
 無視して振り下ろす作業を続け、あっけなく刀身が砕けた。
 砕けた刀身の方で相手の腹を狙いすまして突き刺す。
 寸でのところで避けられる。あと一歩早ければ勝負はついていた。
 
 バックステップで大きく距離を取り、対峙し直す月詠。
 
 「すごい。やばいわ、ウチ濡れてきた。すっごぉ興奮するぅっ!」
 
 「戯言もそろそろ聞き飽きた。口を閉ざせ、下郎」
 
 弾ける。
 距離を詰め合い、一瞬で互いの絶殺領域へ。
 先日よりもより鋭く、二刀の剣戟が回転する。
 右とくれば数瞬の後左。下とくれば数瞬の後上。疾風の速さで刃が煌めく。
 
 こちらは根を防御に、先を攻勢に、流し、流し、閃く。
 根で弾き、先で払う。右からきた剣戟を根で弾き、数瞬の合間に先で払い、後左の閃光を根で弾く。
 
 二刀が回転ならば、こちらは螺旋。
 
 続く剣劇は周囲を斬り裂く。
 大道具の台車、長屋の扉、野次馬の肌。
 斬り裂く、裂く、咲く。
 
 「でぇエエあッ!!」
 
 「はぁいっ」
 
 ボン、と空気が爆ぜる。
 斬撃が拮抗する。ギチギチと刃が擦れ合う。
 気がつけば、野次馬はもういない。若干の血と、瓦礫の山。
 だからどうした。
 
 「イク、イクッ! あぁっ、ウチもうイきそうっ!!」
 
 「さっさと逝けっ!!」
 
 大きく弾ける。
 互いに詰め寄るには二歩。
 時間にしてコンマ5足らず。
 
 「神鳴流 …… 奥義 ―――― ッ!!」
 
 構えは大上段。“気”が暴れ、刃に纏いつく。
 その姿、昇り竜。
 
 「っせまへんえッ!!」
 
 ―――――――――― 遅い。
 
 
 
 『 ――――― 竜・破・斬!!』
 
 
 
 荒々しい斬撃。
 天空からの竜が墜ちるが如く。
 剣閃は肩にめり込む。この瞬間、時間が引き延ばされた。
 ずぶり、と肉を裂く小気味のいい感触。洋服に滲む血。“気”の勢いに押し負けて斬撃よりも早く地に伏す体。
 血液は尾を引き、地面に一筋の糸を描く。
 そのひとつひとつの動きが、目に見えて痛快。
 
 「あ、ああ、あかっ …… !?」
 
 時間が戻る。
 目の前の半死人は痙攣を起こし、気を保っているのが不思議なくらいだ。
 
 「終わりだ、月詠」
 
 「え、あへっへへへへへへへへへへへっ!!」
 
 「っ。何がおかしい」
 
 だが、立ち上がった。
 小鹿のように足を震わせ、眼は焦点が定まっていない。
 口からはだらしなく涎が垂れ落ち、体中から見ているこちらが不快になるほどの汗を滴らせている。
 なのに、
 
 「へへへ、あへへへへへっ! ひひひひっか。カカカカカカカカカカッ!!」
 
 嗤っている。
 背筋が震える。嫌な汗が流れ出す。
 普通じゃない。戦闘狂なんて、甘いものじゃない。
 
 いつの間にか、出血が止まっていた。
 
 「イってもうたぁ~。あへへっ。ウチの血ぃ、こんなにいっぱぁいっ!!」
 
 「しまっ!?」
 
 左腕にまで伝った血を振り払いざま、その血を私に向ける。
 一瞬の硬直、が、それがダメだった。
 
 「ざーんがーんけぇ~んっ!!」
 
 「ば ―――――― ズッ!?」
 
 間に合うと防御に当てた夕凪が、月詠の空いた左腕で弾かれる。
 もろに、体が開く。
 そこに、岩をも容易く両断する、神鳴流の奥義が叩き込まれる。
 
 「 ―――――― あひゃっはっ!! センパイもウチとおんなじやぁっ!!」
 
 「こ、の――――――――――ッ!!」
 
 「ダメだっ!! 避けろセツナちゃんッ!!」
 
 「え?」
 
 ギャ ―――――――――――――――――― ッ。
 
 「あ」
 
 体が浮く。
 何があった? アクセル先生 …… ?
 なにかが、体に当たったんだと思う。あれ、音が遠い。
 なにかが、体を貫いたんだと思う。あれ、目の前が暗い。
 なにかが、体をこじ開けたんだと思う。あれ、力が入らない。
 
 「セツナちゃんッ!!」
 
 閃光が、体を貫いた。
 
 
 
 「いやぁ――――――――――――――――――――ッ!!
 せっちゃあああああああああああああああああああああああああああああんっ!!」
 
 
 
 「お、じょ …… さ、ま」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「な …… なにしとんのや、お前っ!!」
 
 「あらぁ、な・か・まを助けて何が悪いのかしら? それとも見殺しにするつもりだった? そうならごめんなさいね」
 
 「違うわッ! 下手したらお嬢様に当たってたやろうがァッ!!」
 
 「あん。ホント。当たらなかったから許してェ? お願い」
 
 「キ、サマ …… 」
 
 眼下に見える粒のような人。
 地面に倒れて、血の波紋を広げている。あのままなら、大体3分くらいかしら。
 めんどくさいんだよな、ああいうの。
 ジャパニーズの無駄な拘りというか …… ほぉんとにくだらない。
 あんなことせずにさっくり殺っちゃえばいいのよ。
 
 「どっか行ってたと思うたら、帰ってきていきなりコレか!?」
 
 「だから、もういいでしょ。結果オーライでいいじゃない。お嬢様は死んでない。向こうの護衛は十中八九死ぬし、こっちの護衛はあの様子だと生き残って帰ってくる」
 
 ほら、イッセキニチョウ。とあしらう。
 出来れば、あの野郎も殺しておきたかったが、まぁいい。
 アイツくらいすぐに殺せる。
 
 「いや、そうでもないみたいだよ」
 
 「何やて …… ?」
 
 白髪のガキが呟く。
 興味はない。生きてるからといって、別にどうとするわけじゃない。
 また殺せばいいだけだから。
 
 「あれが、お嬢様の力なんか …… 」
 
 光が視界に入ってくる。
 出血は止まり、傷もまるでなかったかのように元通り。
 ふぅん。
 
 「ち。ここでギャーギャー言い合ぅててもしゃあない。あいつらも動き出したみたいやし、本山につく前にもう一回襲うで」
 
 「待って」
 
 「なんや? 急ぐ言うてるやんけ」
 
 「僕に考えがある。任せてくれないか」
 
 「あん? そなら、まぁええ。ウチも疲れてるし、任せるわ」
 
 そう、とそっけなく返し、こちらも移動し始める。
 私は最後尾について行く。
 城を出て、テーマパークを出て、しばらくしたところ。
 ガキがスピードを落として隣に来る。
 
 「いいかな?」
 
 「なんだ」
 
 「貴方にも協力してほしい。貴方は向こうには顔が割れてないからね」
 
 「建前だろうが。本音はどうしたのかしら?」
 
 「敵わないね。貴方の方でお姫様を攫ってほしい。僕は顔見せをしてくるから」
 
 「物好きねぇ。いいわ。別にどうとしてでもいいんでしょう?生きてれば」
 
 「あぁ。発狂してようが、手足がなくなってようが、生きていて、尚且つ生存出来るのならばそれでいい」
 
 「ヒュウ。過激なのは嫌いじゃないわ」
 
 ここで、後ろに気配が近づいてくる。
 振り向くと、応急手当をしただけのお嬢ちゃんが追いついてきた。
 
 「んもぅ。せっかくええとこやったのにぃ~」
 
 「まぁまぁ。いいじゃない。向こうも生きてるし、今度があったら邪魔はしないわよ」
 
 「ぶー」
 
 可愛くねぇっつの。
 まぁ、獲物を前にお預けっていうんなら、わからなくもない。
 
 「 ………… 」
 
 「何だよ」
 
 「いや、なにも」
 
 ケッ。
 あー、めんどくせぇめんどくせぇ。
 もうちゃっちゃと掻っ攫っちまえばいいのに。
 
 まぁ、まだ楽しでりゃいい。
 こんなただの茶番なんて、前戯にもなりゃしねぇ。早く、あいつらの顔を引きつらせたい。
 男がアイツだけってのが気に入らねぇが、女は女でそそるものを持ってる。
 
 それで、我慢しておこう。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「セツナちゃんッ!!」
 
 返事が返ってこない。
 刻一刻と体温が下がっていく。血が、血が止まらない。
 
 「うえ、うええええっ。せっちゃぁぁああん …… 」
 
 肩から胸までの刀傷、背中から何かに …… 撃ち貫かれた痕。銃にすれば何口径ぐらいの傷になるんだこれ …… ッ!? 向こうが見えてんぞ。
 
 「くそっくそっ!!」
 
 スーツを脱いで傷口に当てて血を止めようと抵抗する。
 滲んでくる紅い色。ねっとりと絡みつく紅い色。
 彼女の眼が、瞳孔が開いてきてる …… っ!!
 
 「死なせねぇ! 死ぬんじゃねぇ!! おい、もう一回憎まれ口のひとつでも叩いてみやがれッ!! おいッ!!」
 
 「せっちゃぁああん …… いややぁっ!!」
 
 ショック死しなかっただけまだいいけどよ、なんだよこれッ。
 ふざけんなよ、畜生 …… ッ。
 
 「起きろっ起きろって、オイッ!!」
 
 「あぁあああああああ、ああああ、ああああああああうああ」
 
 「コノカちゃんッ呼ぶんだ、名前、呼んであげてくれよッ!!」
 
 小さく、本当に小さく。
 強い子だぜ、コノカちゃんはよぉ。
 こんなの見て、まだ意識があるってんだからな。他のみんなはもうとっくに現実逃避してんぜ。
 はは、俺も逃避してぇ。
 
 「 ………… じょ、さ …… ま」
 
 「せっちゃん!? せっちゃん、今、今助けるから!! 死んだアカンっ」
 
 「ご、 …… めん ………… もう ………… ま、も …… られ、へ …… 」
 
 「オイ、しゃべんな。今マジでヤバいんだよ!!」
 
 止まらない止まらない止まらない止まらない。
 もうこれ量が …… っ。
 
 「あほぉ …… せっちゃんのあほぉっ! 生きらなっ、ウチせっちゃんの事 ……
 怒られへんやんかああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
 
 
 
 ――――――――――― 紗蘭。
 
 
 
 ふと、鈴の音が聴こえた。
 静かな、鈴の音。
 
 なにか、大きな力が …… 近くで?
 
 「コノカ、ちゃん?」
 
 光はコノカちゃんから。
 包むように優しい光。これだけ光ってるてのに熱くない。
 気持ちいい。
 
 「助けるから、ウチが、助けるから …… !」
 
 腕の中のセツナちゃんを見る。
 見る見るうちに、傷が嘘みたいに消えていく。
 血が、戻っていく。地面に落ちた血はさすがに戻らなかったけど、じわじわと体に染み込んでいく。
 
 「あ」
 
 戻った。
 元通りになりやがった。
 はは、嘘みてぇ。それとも、これってば俺が見てる逃避映像?
 
 「ふ」
 
 「あ、ちょ …… っ!!」
 
 コノカちゃんも倒れちまった。
 どうしろってんだよ、これ。
 
 「 …… 放してください」
 
 「うおっ、起きてたのかよ!?」
 
 「どうやら、お嬢様の力は思った以上に強いようですね。貧血気味ですが、他はなんら問題ありません」
 
 いや、この地面の血とかめちゃくちゃ問題ありだろ。
 衣装まで破っちまってるし。
 
 「弁償代は貴方持ちで、いいですよね。“先生”?」
 
 こんなときだけ生徒ぶりやがって。
 ち。
 しゃあねぇわな。
 
 「で、これからどうする?」
 
 「お嬢様の御実家に行きます」
 
 立ち上がり、衣装についた砂を払う。
 前が破れてる以外、綺麗なもんだ。あ、衣装がね。
 
 「ネギたちと合流するのか?」
 
 「一応は。戦力はできるだけある方がいいでしょう」
 
 「そりゃそうだっと」
 
 コノカちゃんを背負い直す。
 すぅすぅ寝息を立ててよく寝てやがるぜ。
 ………… そうだ。
 
 「これ、どうする?」
 
 地面を指さす。
 べっとりと血の跡が残ったそこは、明らかに他とは違う空気を放っている。
 ふむ、と頷いてから、
 
 「適当に砂をかけておきましょう」
 
 「あ、そう」
 
 足で地面を削るようにして砂を集め、血のうえに被せるようにかけていく。
 で、次はこの子らだな。
 
 「まぁ、今までのことは夢で納得してもらうとして」
 
 「いやにリアルな夢だな」
 
 「文句ありますか?」
 
 「いんや。ねぇよ」
 
 なにやらぶつくさと呪文みたいなものを唱えたと思えば、全員がトリップから帰ってきた。
 
 「あ、あれぇ?」
 
 「桜咲さんっ! お怪我は大丈 …… ぶ …… ?」
 
 こいつはすげぇ。
 集団催眠じゃねぇか。まぁ、どう誤魔化すかは任せるかな。
 
 「怪我、ですか? いやそんな、大層な。こけて衣装が破けただけですよ?」
 
 ほら、と服をつまんで見せびらかす。
 アヤカちゃんを筆頭に見事に騙されていく3-Aの面々。
 
 「それでは私はこの衣装の謝罪と着替えをしてきますので。では」
 
 そう言ってそそくさとこの場を立ち去って行く。
 俺もそれに追従して歩いて行く。
 
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「 ………… 」
 
 お嬢様はまだ寝ている。
 ということは自然に私がお召ものを変えなければなくなるわけで。
 
 「失礼します」
 
 するすると着物を脱がせていく。
 襦袢だけになったお姿は、艶めかしいほどに美しく、思わず、
 
 「はぁ …… 」
 
 溜息がでるというものだ。
 いやいや。こんなことをしてる場合ではないだろう。
 戦闘で血を無くしすぎたか。すこしぼぅっとする。
 
 「うぅうん」
 
 着付け師がよほどいい腕だったのだろう。
 簡単には脱げなくなっている。こういうのは不慣れで、手こずる。
 袴の類ならまだしも、着物なんて縁のないものだったから。
 まぁ、似たようなところがあってすぐにコツは掴んだ。下着だけになったお嬢様を前に、
 
 「 …… ぐ」
 
 唾を飲み込んでしまう。
 なにを考えてるんだ、私は。違う違う。そんな目でお嬢様を見てなどいない。
 やはり、血がないのだろうか。思考能力が極端に低下しているような?
 
 私服をもって、こちらは慣れきった手つきで着せていく。
 被せて通すだけだ。
 
 「よし」
 
 今度は自分のものに手をつける。
 さっさと着替えて、行動をしないと。
 
 「 …… 」
 
 手が止まる。
 そうだ。私はまた、お嬢様を守ることなく力尽きてしまった。
 呆けているな。牙を研げ。
 こうして着替えている間が一番狙われやすい。
 
 「ふぅ …… よし」
 
 着替えは終わった。
 お嬢様を背負い直し、出口へ向かう。
 と、そこには案の定、結構なむっつり顔のアクセル先生がいた。
 
 「言い訳は出来たけど、金は取られた」
 
 「様ないですね」
 
 「うっせぇ。くっそ、帰るまで持つかな、これぇ」
 
 財布を覗いて溜息を吐く。
 その姿は如何ともしがたく、可笑しかった。
 だって、彼は一応外国人なんだから、そんな今時の中学生でもしないようなコミカルな格好。
 
 「あ、笑ってやんの」
 
 「まぁ、ふふ。可笑しいですからね」
 
 「うん。やっぱ笑ったらめちゃくちゃ可愛いじゃん。その方がいいって、絶対」
 
 「んなっ!?」
 
 なにをふざけたことを …… !
 ええい。また集中が乱れた。この人は本当にマイペースというか、女性にペースを握らせないための術を心得ている。
 やっかいな人だ。
 
 「行きますよ、ついてきてください」
 
 「ちぇ、なんだよ」
 
 と、とと?
 ………… 不覚。
 
 「何やってんだよ。血、足りてねぇんだろ?ほら、コノカちゃん貸しな」
 
 倒れるところを受け止められるとは。
 ああ、だがその方がいいだろう。
 
 「間違っても変な気は起こすなよ?」
 
 「起こさねぇっつの。どんだけ信用してないんだよ」
 
 「これっぽっちも信用してない」
 
 「ひでぇ。聞くんじゃなかったぜ」
 
 だが、あぁ、そうだ。
 これだけは言っておかないと。
 言って、言っておかないと …… 言って。
 
 なんで恥ずかしがってるんだ、私は。
 
 「ありがとうございました」
 
 「へ? なんか言った?」
 
 「もういい!! 行きますよ!!」
 
 「ちょ、オイ待てって!!」
 
 知らない知らない。
 聞こえない。
 さぁ、ここからだろう。
 
 気は、いつになっても抜けない。
 
  
    
 
  



               track:15  end



テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:2-2

 
 食堂は一時騒然となった。
 たった今まで視界の端にいた人が …… ユークリッド隊長が、倒れたというのだから。
 
 アタシたちフォワードは一同同意で席を立つ。
 何だかんだと言って、みんな彼のことが好きみたいだ。
 
 「いい、スバル? 絶対静かにね」
 
 「うぅ。大丈夫だよ」
 
 といういつものやり取りをこなして、食道から病室へ歩き出す。
 廊下を歩く間、しばらくは無言だったけど、キャロが口を開いた。
 
 「隊長 …… 大丈夫でしょうか …… ?」
 
 「大丈夫だよ、キャロ。きっと大丈夫」
 
 「そうだよ! そんな顔してちゃ逆に心配されるって。ね? こうほら『キャロ、どうした? また何かあったのか? ティアにいじめられたか?』とかさっ!」
 
 「何それ。それ隊長のマネ? 似てないし。っていうか何でアタシなのよ。それにアタシは“ティア”じゃなくて“ティアナ”って呼ばれてるから」
 
 一応間違いなく、と突っ込んでおく。
 少しだけみんなの緊張が解けた気がした。
 まだまだだな。あの人ならこういうときみんなを一気に安心させちゃうんだろうな。
 
 「ねーエリオ。ティアさ、自分の名前言った時なんか嬉しそうだったよねぇ?」
 
 「え …… そ、そうですか?」
 
 聞こえるか聞こえないかのところでポソポソとそんなことを話す。
 くだらない。
 前々から言ってるけど、これは好きとか、そういうんじゃなくて、もっと素直に『尊敬』とかそういうのだって。
 まぁ …… 口には出さないけど。余計からかわれるに決まってる。
 あと1分もすれば医務室に着く、というところで。
 
 「すまん、どいてくれ」
 
 後ろから肩を掴まれ、通路の端に寄せられる。
 言うまでもなく、シグナム副隊長だった。
 それに続いてフェイト隊長が横を通り抜けていく。フェイト隊長の方がジェスチャーで『ごめんね』と謝ってくる。
 
 みんなで顔を見合わせ、頷きあう。
 彼女ら二人の後に続いて、早足で医務室に向かう。
 向かい合って歩いてくる人たちが皆ひるんで道をあけている。よっぽど怖い顔してるんだろうなぁ、シグナム副隊長。
 などと言っている内に、医務室前に来ていた。
 
 「シャマル、いるか。私だ、シグナムだ」
 
 外部通信用のインターホンで中に語りかける。
 しばらくして、もう一度押そうとしていたところに、シャマル先生がモニター付きで返事をした。
 
 『はーい。何か御用 …… って聞かなくてもわかるわ』
 
 ふぅ、とため息をひとつ。
 それは彼女がユークリッド隊長を気にかけているのを普段から知っているからなのか、今の彼女の顔がそれほどのものなのか、アタシたちがいるからなのかはわからない。
 
 『ユークリッド君ね。まぁ、大丈夫よ。今は寝てるわ』
 
 「会えるか?」
 
 『待って。起きちゃうことも考えて、シグナム以外なら入ってもいいわ』
 
 「シャマルッ!!」
 
 『ごめんなさい。今までの彼の反応とか、考えたら今あなたには会わせられない。それに、そんな顔してちゃあもし私が許可しても、患者さんの方が寝覚めが悪いもの』
 
 シグナム副隊長ははっとして頬を撫でた。
 その後、数瞬迷って背を向け、
 
 「すまんなシャマル。邪魔をした」
 
 『いいえ。そんなことないわ』
 
 また今度来てあげて、とシャマル先生は優しく微笑む。
 ただ、シグナム副隊長には見えなかっただろうけど。
 
 「ワガママだが、私の分までユーリを頼む」
 
 すれ違いざま、フェイト隊長の肩をもってそう呟いた。
 そのまま、少し寂しそうに去って行った。
 
 『と。さて?』
 
 「あ、シャマルさん。入ってもいいですか? シグナムに頼まれた以上 …… 」
 
 『えぇ。後ろの4人もいらっしゃい』
 
 プシャッという音がして、扉が開く。
 真っ先に目に入ったのは、八神部隊長だった。
 ユークリッド隊長が寝ているのだろうベッドの前で、椅子に座っている。
 私たちが驚いて固まっていると、シャマル先生が横から顔を出す。
 
 「倒れたところをはやてちゃんが必死で運んできたのよ。汗すっごくかいてて、どっちかっていうと、はやてちゃんの方が血色悪かったくらいにね」
 
 苦笑を交えてそう言う。
 「どうぞ」と手で促してくれたので入室する。
 
 「ん、お …… おぅみんな。来てくれたんか …… シグナムはおらんの?」
 
 どうやら、あの声が聞こえないくらい詰め込んでいたみたいだ。
 シャマル先生は苦笑いして事情を話す。
 それを聞いた八神隊長は複雑そうに笑って返した。
 
 「じゃ、みんな揃ったところで今回倒れた原因だけども …… 過労ね。あと睡眠不足。あとは目立つところでストレスもひとつかな」
 
 『過労 …… ?』
 
 これはフェイト隊長を含めたフォワード一同。
 全員が全員不思議に思う。
 いや、決してそれほど仕事をしていなかった、というわけじゃなくて、本当に不思議だったから驚いている。
 
 私たちフォワードのような訓練漬けの毎日でもなく、なのはさんのようにそのメニューを考えているわけでもなく、極めつけは執務官であるフェイト隊長のように事件捜査をしていたわけでもない。
 ごく一般的な労働量で『過労』はおかしい。
 
 「まぁ、私もそう思ったから …… 悪いとは思うけど、今シャーリーにジークフリードからここ最近のデータを引き出してもらってるの。あと数十分もあれば連絡が来ると思う」
 
 コンソールで何かを操作しながら、シャマル先生はそう言う。
 と、そこで ……
 
 「シャマル。シャーリーに今すぐ中止って言い。私に心当たりがある」
 
 「え、でも、はやてちゃん …… 」
 
 「えぇから。早ぅ」
 
 「 …… あ、はい」
 
 少しの間の通信が交わされ、シャーリーさんがどこか残念そうに作業を中止する。
 全員が一息つくと、口火を切ったのはフェイト隊長だった。
 
 「それで、そういう心当たりがあるの?」
 
 「ユーリは、個人的に探してる人がおってな。多分そのせいやと思う」
 
 「探し人 …… ?」
 
 「そう。私も詳しくは知らんのやけど管理局員らしい。私も少し名前を聞いて調べてんけどな …… 」
 
 パッとコンソールを操作。
 別のモニターが開き、『UNKNOWN』の文字。
 
 「ミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェル。管理局入局はユーリと同時期、つまり9年前やね。写真も、個人情報すら名前と入局時期だけ」
 
 それっておかしくないだろうか?
 いくら個人で秘匿すべき要項があったとしても、写真がない、管理局員だっていうのに行方が分かっていない、そのうえ活動内容まで。
 それほど、なにかがある、ということなのだろうか?
 
 「ユーリがベルカ式からミッド式へ転向したんも、この人が関係しとると思うとる。下手すれば、シグナム嫌いもこの人が原因なんかもしれん」
 
 「どういうこと?」
 
 わからないことだらけだ。
 一体、八神部隊長は何を知ってるんだろう。
 
 「やから、“思う”とるだけやって。説明できるくらいの情報は持ってへんよ」
 
 苦笑いを隠さず、自嘲を込めたような笑い方で話を切った。
 八神部隊長が口を開かない、または開けないのだとしたら、こちらだって何も聞けやしない。
 どこかもどかしいと感じる沈黙が流れていく。
 
 「はやてちゃん …… 」
 
 「ん? 何やシャマル」
 
 「そろそろ、お開きにしたいんだけど」
 
 「おぉ。そか。んじゃあ、みんな。今日は一旦解散ってことでええかな」
 
 はい、と口々に呟くように返事していく。
 それぞれが医務室から退出した後、フェイト隊長が思い出したように踵を返し、
 
 「シグナムのとこに行って報告してくるよ」
 
 それきり振り返らず、通路の奥に消えていった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 辺境の時空世界。
 管理局の管理下にある世界だが、まぁ、自分たちはバレずにひっそりと生きている。
 曰く「こうでもしないと平和に一生をおくれないよ」だそうだ。
 
 「オレ、大きくなって父さんを継げるようになったら、ミーアの騎士になるから!」
 
 
 「            」
 
 彼女はそう言って笑った。
 まだまだ小さい自分なんかは見てもくれないんだろう。
 だから、オレは頑張った。修行も、彼女のお世話も。
 
 「あら、ユーリ。またミーアのところに行きますの?」
 
 「ああ、そうさ!」
 
 「貴方も凝りませんねぇ」
 
 「クーだって、父さんとずっと一緒にいるじゃん」
 
 「ワタクシはまた違います。貴方の父君、ズィルバー公はワタクシの“騎士”なのですから」
 
 この偉そうな臣下はいつでも父さんを立てる。
 と、いうか嬉しそうに語る。
 可愛いというよりも美人な顔。髪は白く、先端は燃える焔の如く紅く揺らめいている。
 魔力の問題だそうだ。魔力光はオレと同じ青なのに、なぜ?と聞くと、事もなげにこう言う。
 
 「体質ですわ」
 
 魔力光と体の特徴は一致するとは限らない、ということらしい。
 そう言えば、クーはいつから父さんに仕えてるんだろう?
 
 「ワタクシですか …… ? そうですね、ズィルバー …… と名乗る前からと申しておきましょうか?」
 
 ふふ、とお上品に笑う。
 父さんがズィルバー・ラインハルトって名乗り始めたのが確か、オレが生まれるよりもずっと前、10年近く前だから ……
 
 「クーって意外とオバさんだね」
 
 「まぁまぁ! オバさんだなんて、失礼ですわね」
 
 「だって本当の事じゃんか!」
 
 「ワタクシが子供のころから、例えば貴方ぐらいの頃から仕えているとしたら、とかは考えませんの?」
 
 まったく、と頬を膨らませ拗ねてしまう。
 こういうとき、彼女は決まってあるセリフを待っている。
 普通、こういうのは嫌がるんじゃないのかと思うんだが …… 、どうやら違うらしい。
 曰く「誇りあることを嫌がるなどナンセンスですわ」とのこと。
 
 
 
 「だって、子供も何もクーは ――――――――――― 」
 
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「――――――――――― っは!」
 
 がばりと起き上がる。
 一息遅れて倦怠感が身体を這いまわり始め、すぐにベッドの上に戻った。
 そうか。夢か …… 。
 額に手の甲を当てると、ぬるっとした脂汗が滲んでいた。
 壁掛けの時計に目をやると、夜中の3時。半日以上寝てたのか。
 
 「あら、おはようユークリッド君」
 
 「シャマルさん …… ? 起きてたんですか」
 
 「そうよー。点滴換えたり、逐一身体状態を確認したり」
 
 あと、いつ起きてもいいように。とか言って、テーブルの上を指さす。
 お粗末にも米とかいうはやてたちの故郷の主食穀物を固めた団子のようなものがふたつ、置いてあった。
 
 「おにぎりっていうの。私の手作りだから、ちゃあんと食べてネ♪」
 
 「あ …… ありがとうございます?」
 
 「ちょっと、なんで疑問形?」
 
 「はやてから聞いたことがあるんですよ、『シャマルの料理には気をつけり』とかなんとか」
 
 焦ったように手をパタつかせ、顔も紅潮し、若干の汗が滲んでいる。
 可愛い人だなぁ。
 
 「大丈夫! 今回は変なもの入れてないから!」
 
 「あ、そうですか」
 
 今回は、って。いつも入れてますって言ってるようなもんじゃないか。
 呆れながらひとつ、手で取って口に運ぶ。
 もちもちとした米の食感と、ほどよい砂糖の甘さ。なんというか、珍妙な …… 。
 不味くはない。不味くはないんだが …… なぜだろう、間違ってる気がするのは。
 
 今度はやてに“本当”のおにぎりとやらを作ってもらおうか。
 
 「ど、ど? おいしい?」
 
 「可もなく、不可もなく …… 。微妙、です」
 
 「う~ん辛口ねぇ。あ、おにぎりって本当はお塩で握るんだけど、今回は疲れが溜まっていたユークリッド君用にお砂糖をチョイスしてみたの!」
 
 それでか ――――――――――――― っ!
 それっていわゆるひとつの失敗作っていうか …… 実験作っていうんじゃないのだろうか?
 分かって作っている手前、性質が悪い。
 だめだ。急に不味く感じてきた。
 
 もう一つは遠慮しておこう。勿体ないけど。
 
 「それはそれとして」
 
 オレの行動を見てちょっと残念そうにシャマルさんは話題を変える。
 
 「人探しもいいけど、体を壊しちゃ探すこともできなくなるでしょう?」
 
 ぎくり、と体が硬直した。
 急いで手首に巻いてあるはずのジークフリードを確認するも、ない。
 やばいやばいやばい …… !
 この人にバレるのだけは、マズイ …… っ。
 
 「大丈夫よ。最初はジークフリードの方を調べようとしてたんだけど、はやてちゃんがね、止めろって言って」
 
 デスクの引き出しから金色をした平打紐状のブレスレット …… ジークのスタンバイモードを取り出して返してくれた。
 そうか、はやてが。てことははやて、しゃべったのか、ミーアのこと。
 ………… 。
 ―――― そうか、そうなんだな。ごめんって言いたいけど、言えない。そのことにごめん、だな。
 
 「ミルヒアイスさん、だっけ? 彼女?」
 
 「まさか。違いますよ」
 
 「ふぅん。そぅ?」
 
 ええ、と返しておく。
 誰にでも聞かれるような質問、ていうかお約束を回収したがる人なんだな、シャマルさんって。
 
 「じゃ、起きてすぐで、しかも12時間以上寝てる人には悪いけど …… 今日はもう寝ときなさい」
 
 「そうさせてもらいます」
 
 「素直でよろしい。じゃ、素直ついでに言っとくけど、3日間の医務室謹慎ね。いわゆる入院ってやつ」
 
 「は?」
 
 「君は眠って体力が心持ち回復したでしょうけど、仕事も休みなさい。3日は絶対安静。そのあと私がGOサインを出すまでは戦線復帰も許しません。業務に専念しなさい」
 
 「え、ちょっと …… 」
 
 「文句があるなら、まずは倒れないような行動をしてから言いなさい。わかったかな、ぼ・う・や?」
 
 「ぐ」
 
 言い返せない。
 オレが手玉に取れるヴォルケンはヴィータだけか?
 なんて情けない。
 
 もうひと眠りと行こう。
 不貞寝じゃない。これは不貞寝じゃないんだ。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ミーア!! どこだよ、ミーア!!」
 
 なにが平和だ。
 これを見てまだ平和なんて戯言をほざくなら、それこそ頭が腐ってやがる。
 そこまで広くないはずの屋敷を走り回る。
 今では、その大きさも半分になってしまったのだから。
 
 「ミーア!!」
 
 「       」
 
 「あ、よかった …… !」
 
 父さんに肩を貸してもらいながら、物陰からミーアが顔を出してくれた。
 顔色は悪いけど、大丈夫そうだ。
 
 ――――――――― 待て。なんでミーアの顔色が悪い?
 
 「       」
 
 「姫。もうここにはいられませぬ。転移して、違う安住の地を …… 」
 
 ズィルバー公。
 公ってなんだよ。もうないような国を守って、人を守れなくちゃ意味がないのに。
 いつまでそんな肩書にすがるんだ、父さん。
 
 「そうだな。今から私は、いや俺はひとりのラインハルトの騎士に戻るとしよう。ズィルバーではなく、ユーライオとして、名を戴く」
 
 父さんがデバイスを起動させる。
 何故、と思うのも数瞬、後ろから強烈な気配。
 
 「こんな辺境にこれほどの力を持った一族が現存するとは。いつかの障害になる前に、消えてもらう」
 
 「ユークリッド、逃げろ。姫を連れて」
 
 「ユーライオ! ワタクシもご一緒しますわ」
 
 クーが飛んでくる。
 ぼそぼそって耳打ちをすると、父さんがこちらを向いた。
 
 「ユーリ。ユークリッド・ラインハルトよ。我が一族最後の一人。どうか、最後に不精な父を許してくれ」
 
 「 …… おい。冗談なんてらしくないって。なんだよ、最後最後って!」
 
 敵は余裕なのか、ただじっと腕を組み待っている。
 短い髪は炎に揺られ、痩躯に見えるも、それは筋肉が流れるように鍛えられているだけ。
 どこか機械的な雰囲気。
 
 「行くぞ、クリームヒルト。我が同胞よ!」
 
 「その言葉、ありがたく思いますわ」
 
 ふたりが俺とミーアの前に仁王立つ。
 刻一刻と館は炎に蝕まれていき、いつかは逃げ場を無くすだろう。
 だから、だから。
 動かないとダメなのに。
 
 「父さん! クー!」
 
 「        」
 
 「ミーア、嫌だよ! オレだって騎士なんだ …… オレだって戦う!!」
 
 「戯け者が!! ユークリッド、貴様は誰の騎士になると常々その口でほざいていた!! ここで戦うことが、主の願いか、大莫迦者め!!」
 
 「 …… っ」
 
 一喝。
 歴戦の騎士の願いは、ただそれだけ。
 子供といって違和感のない少年に、騎士たれと願う。
 振り向かず、傾げる首の上。頬に一条の光が伝った気がした。
 
 「わかった …… 。ミーアは、オレが守るよ」
 
 「わかったなら、さっさと行くがいい」
 
 「貴方を、誇りに思う。ユーライオ・ラインハルト。銀の大騎士よ」
 
 「莫迦者め。さっさと行けと言っているだろう」
 
 最後に聞いた言葉まで、『莫迦者』だった。
 ありがとう、父さん。
 
 
 
 
 
 「済んだか?」
 
 「余裕のつもりか」
 
 「いや、楽しませてもらった。冥土の土産にはちょうどいいだろう?」
 
 くつくつと笑う目の前の敵。
 傍ら、佇む女性、クリームヒルトと共に静かにつぶやく。
 
 『我ら、皇帝のとぐろの螺旋に戴く騎士。その名ユーライオ・ズィルバー・ラインハルトとクリームヒルト』
 
 「ナンバーズⅢ、トーレ」
 
 剣先が、拳先が上がっていく。
 高まっていく魔力の奔流。ユーライオの白銀の髪が、揺れる。
 
 「推して参るッ!!」
 
 
 
 
 
 ごごん、と地面が揺れた。
 振り向くものか、振り向けば、足は止まってしまう。
 瞬間、かくんと手が落ちた。
 手をつないで走っていたミーアがこけた。
 
 「         」
 
 「そんなことない。オレだって騎士だって言っただろ」
 
 「         」
 
 しばらく走って、オレたちは身を潜めた。
 暁が、目に入ってきた。夜が明ける。
 
 「 ………… 」
 
 
 ―――――― “戯け者が!! ユークリッド、貴様は誰の騎士になると常々その口でほざいていた!! ここで戦うことが、主の願いか、大莫迦者め!!”
 
 
 「ふ …… ぅぐっ、えぅうう」
 
 
 ―――――― “ユーリ。ユークリッド・ラインハルトよ。我が一族最後の一人。どうか、最後に不精な父を許してくれ”
 
 
 「許すよ。誇ってる。父さん …… っ!」
 
 「           」
 
 一夜明けて、太陽が山を越えて高くなった頃。
 クーが、帰った。
 
 「クー!!」
 
 「 …… 」
 
 その腕に抱きしめていたのは、父さんの、ラインハルトの宝具たるデバイス。
 古代ベルカの時代から引き継がれてきた、歴戦の大雄。
 それを見て、いや、クーだけが帰ってきたときから、わかっていた。
 
 「銀の大騎士は、最後まで …… 最期まで、立派でしたわ …… !」
 
 クーが泣いていた。
 ミーアが微笑みながら泣いていた。
 オレも泣いた。
 
 「彼は、敵を圧倒し、不退転を貫きましたわ。ただ、敵の悪足掻きが …… 彼を、か、れを …… ッ!!」
 
 「もういいよ、クー。行こう。いつまた来るか分からないんだから」
 
 その時だった。
 目の前に、転移してきた人物。
 
 「こちらは時空管理局だ」
 
 それが、オレとミーアとクーを狂わせた、始まりの物語。
 
   





             Act:2-2  end




テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

頭の隅に置いてけぼりにしてあった昔のネタをふと思い出す。

ども、草之です。
タイトルが久々に長ったらしい(笑)

キャラデもしてたりした作品なんですけどね。
厳ついかどうかはまた別の問題として、オッサンと少女と少年(←主人公)のSF風味な現代劇。
身内がこれ読んだら「ああ?あれかな~?」とおぼろげながら思い出せる程度の時期に考えていたものです。

頭の中でお蔵入りしてたのを、今日というか昨日思い出したので、殊更なにもないのに唐突にここで思い出しついでに報告してみた。

「もしかしたら書いちゃうかもしれない」とか言ってる作品が草之には一体いくつばかりあるのか。
アイマスと、ネギま!×Fateと、これと?あと考えているのは他にも無数存在する。

続きは追記で。勝手に予告とかしてみました。
興味のある方はクリック推奨、するほどでもないかもしれない。
反響があるかどうかは気になりますけどね。感想とかあったら適当に残してくだされば、と思います。

最後に、『優星』の更新は明日明後日を目安にしています。
遅れるかもしれないので、あしからず。

では以上、草之でした。


全文を表示 »

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:17 後編

 
 アルトリアさんがここ、ARIAカンパニーを去って行った。
 それももう4日も前の話。
 みんなに事情は説明して、みんなが悲しみ泣く中で、士郎さんは微笑んだ。
 
 「元々、ここにいることが不思議な奴だったんだ」
 
 そう言って、彼もこの4日帰ってきていない。
 灯里ちゃんは、声には出さないけど、不安で不安で、きっとこの楽しいお祭りの静かな夜に、ひとり枕を濡らしているのかもしれない。
 今朝方、彼女の眼が赤かったから。
 
 それで、朝ごはんのとき。
 
 「士郎さんまで、いなくならないですよね?」
 
 ええ、と頷いてはおいた。
 確証なんてない。決めるのは彼なんだから。
 決めるのは彼でも、望むのは私たち。
 
 士郎さん。
 
 「一緒に、いたいんです」
 
 訳もなく、空に向かって呟いた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 10日目の朝。
 ARIAカンパニーを出てから4日。
 いろいろな所に行って回ってきた。
 
 
 『何ぃ? 辞めんのかアルトリア。まぁ、事情があるんだろうやな。いつでも戻ってこいや。社員札は置いとくからよ!』
 
 『え? アルトリアさん、辞めるのだ!? 勿体ないのだ …… 。また戻ってきたら、一緒に空を泳ぐ …… 。いや、駆け回るのだ!!』
 
 
 浪漫飛行社。
 
 
 『そう。私とは途中から一緒じゃなかったけど …… アリシアちゃんと仲良くなれたんだね。私にもまた会いに来てね』
 
 『 …… でっかい寂しいです。でも、また来る時があるかもですし …… さよならは言わないです。またですね』
 
 
 オレンジぷらねっと。
 
 
 『またね!』
 『おう、またな。待ってるからな!』
 『あんりゃ、帰るのかい? またいつでも来な。おいしい野菜入荷してまってるよ。ほらアイナも挨拶しな』
 『えー。めんどいなぁ。また来るんでしょアルちん。なら挨拶なんてねぇ? でもま、行ってらっしゃい』
 
 
 ネオ・ヴェネツィアのみんな。
 
 
 また会いましょうの連続。
 ひとり、またひとりと決別するために会いに行ったというのに。
 なぜ、みんなはこんなにも『再会』を願いあう?
 私は、こんなにも、離れたくないと思っている?
 
 「またね、ですか。ええ、願わくば」
 
 纏うのは騎士甲冑。翻すのはカーニヴァルの正装、黒マント[タッバロ]。
 装うのは、白い仮面。
 連なるのは、黒き行進。カサノヴァの後ろ髪に曳かれて、付いて行く。
 殿を任される、王に戻る今。
 
 「いざ」
 
 夜の行進が始まる。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「なぜだ?」
 
 この4日間、街のどこを探してもカサノヴァがいない。
 あのカサノヴァからは、魔力が漏れ出していた。それも半端のない量が。
 アルトリアが残る方法を知っているとすれば、それは彼以外にいない筈だ。
 
 「あれだけの魔力なんだ。出てくれば俺でもわかるのに …… 」
  
 もう最終日の夕方。
 これを逃せば、後がない。
 アルトリアを、救うことが出来ない。
 誰のせいでもないというのに、アルトリアが消えてしまう。
 こんなになるまで、俺は、気付けなかった。
 
 手に遠坂の宝石を握る。
 強く握ると、宝石の硬さで掌が破れる。
 
 「アルトリア」
 
 サン・マルコの大鐘楼のうえで視力を許す限り『強化』する。
 どれだけ見回してもいない。アルトリアもいない。
 カサノヴァがいないのはまだわかるけど、アルトリアまでいないのはどうして?
 
 「夜が来る」
 
 日が落ち切って、街に灯りが灯っていく。
 もうこれ以上、上から探すのはナンセンスだ。
 
 「『同調、開始[トレース・オン] ―――― 』」
 
 体を芯から『強化』し、着地の衝撃に耐えるとする。
 人がいない路地を狙って着地。どこを探すべきなのか、それとも気配が湧いてくるのを待つべきか。
 思えばあの時だって、いや、いつだって、
 
 
 『どうですか、久々に稽古でも …… 』
 
 
 あいつは、おかしかった。
 ここにいること自体わけのわからない理由だった。
 でも、いなくなるなんて …… 。また会えたのに …… 。
 
 は。本当におかしなもんだ。
 あの時は、すんなりとじゃないけど、ここまで感情に出すことはなかったのに。
 なににここまで変えられたんだろうか。

 「お、エミヤン。楽しんでるかい?」
 
 「あ、アイナか」
 
 「連れないじゃないの。どしたん?」
 
 「なんでもない。ちょっとな」
 
 「そうだ。アルちん、帰るんだってね」
 
 「え ………… なんでそれ知ってるんだ?」
 
 すると、「そっちこそなんで驚いてんの?」と不思議顔をする。
 ケラケラ笑って、続きを口にする。
 
 「今朝さぁ、挨拶来てたよ。他んとこも回ってたみたいだけど?」
 
 「え …… 。そうなのか」
 
 「? やっぱ、おかしいよエミヤン。ほんとどうしたの?」
 
 なんでもない、と言って走り出す。
 後ろから怒るような声がしたが、構ってられない。
 挨拶回りしてたって …… なんで、なんでだよ。
 
 「くそ …… なんでそこまでっ!!」
 
 何人ともぶつかってぶつかって、お構いなしに広場を駆けていく。
 なんで見つからないんだよ、くそ。
 
 「あ、衛宮さん」
 
 「は、はぁ …… 。アテナ …… 」
 
 「こんばんは」
 
 「あ、あぁ」
 
 「セイ …… アルトリアちゃん、探してるの?」
 
 頷いて返す。
 まさかとは思うけど、聞いておこう。
 
 「アルトリアは、挨拶に来たか?」
 
 「? ええ」
 
 「そうか。ありがとう、じゃあな」
 
 「あ …… 」
 
 嫌だ。
 なんでこんなこと …… こんなこと。
 さよならなんて言って回るな。俺が助けてやるから、残れ。
 
 なんでなんだよ。
 なんで言ってくれなかった。
 …… アルトリア。
 なにがなんでも、俺が絶対に助けてやるから。
 さよなら、なんて ……
 
 「言うなよ …… っ!!」
 
 走って、走って、走って、走っても見つからない。
 探して、探して、探して、探しても追いつかない。
 
 「わっ、て衛宮さん!」
 
 「藍華 …… っ!?」
 
 「あらあら」
 
 誰かにぶつかって倒してしまったと思えば、それは藍華だった。
 アリシアもいて、向こうの息も切れていて、一緒にいた筈の灯里がいない。
 
 「灯里は?」
 
 「それが、突然いなくなって …… どこ探してもいなくて」
 
 「なんでも、カサノヴァの子分がいたっていうんで追いかけてるうちにはぐれたらしいんだけど」
 
 「 …… っ」
 
 カサノヴァ …… ?
 いくら探してもいなかったのに、いや、子分だからなのか?
 違う。そうじゃない。
 
 「どこではぐれたんだ?」
 
 「えっと、ちょうど ………… 」
 
 その時だった。
 強烈な魔力が流れてきた。
 
 「 …… いた」
 
 「え、いたって …… なにが?」
 
 「カサノヴァだっ!!」
 
 走り出す。
 今度は見つけてやる。
 今度は追いついてやる。
 今、行くから …… !
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「あれ?」
 
 息を整えながら、周りを見渡してみる。
 藍華ちゃんがいない。
 
 「藍華 …… ちゃん?」
 
 返事なんてあるわけない。
 
 「おーい、藍華ちゃーん」
 
 あるわけないのに、呼んでみる。
 もしかしたら、びっくりさせるために隠れてるのかもしれないし。
 うしろからバァッて言って脅かしたりしたりして …… 。
 今はそれでもいいから出てきて欲しいなぁ。
 
 「おーい」
 
 いない。
 …… 静かだな。さっきまでの賑やかさが嘘みたい。
 本当に、静かで …… 誰もいないみたいで。
 

 ――――――――――――――――― “誰もいない”
 
 
 「嫌だよぅ。返事してよ藍華ちゃん~」
 
 誰も、音も、何も、ない。
 
 「アリシアさん、藍華ちゃん、アリシアさん、士郎さん、アルトリアさん」
 
 返事なんてあるわけない。
 誰も、いないんだから。
 
 「うぐぇ …… みんなぁ」
 
 鼓動が速くなる。
 もう会えないなんて、そんな気がしてくる。
 嫌だ。
 もう会えないなんて ……
 
 「あ」
 
 いつからいたんだろう。
 街灯の下で光に照らされながら、カサノヴァさんが子分を引きつれて立っていた。
 
 「こっこんばんは。カサノヴァさん。あの …… 藍華ちゃん、見ませんでしたか?」
 
 腰をかがめて、ずずいっと顔を近づけてくる。
 ふわりと香水の香りが漂ってきた。
 
 「あ、えと。私と同じ格好をした女の子なんですけど」
 
 カサノヴァさんが子分のみんなに確認すると、全員が首をふる。
 
 「そうですか …… 見かけませんでしたか」
 
 …… あれ?
 あんな人いたっけ。ひとりだけおっきい人。大きいって言っても私よりもちょっと小さいくらい。
 青いドレスに銀の鎧 …… とタッバロにバウータ?
 
 空気が、誰かに似てる?
 
 ズン …… ズン …… ズンズ、ズッズ、ズンズン、ズンドコ ……
 
 「あ」
 
 演奏が再開される。
 子分たちが私の周りで踊りながら演奏してる。
 カサノヴァさんもいつの間にか楽器を取り出して演奏し始める。
 あれ、なんていう楽器だっけ?
 
 少しの間呆けていると、裾を引っ張られた。
 
 「え?」
 
 片手で持つ鈴と、みんなとお揃いのバウータ。
 小さい方が鈴を。バウータを大きい方が。
 
 「私も …… 加わっていいんですか?」
 
 行進が、始まる。
 
 
 人が溢れる通路や広場。
 さっきとは全然違う賑やかな雰囲気。
 楽しい。とっても心が安らぐ。
 
 私は気が付いてなかったけど、この時、また人のいないところに向かっていた。
 また静かになっていく周囲に、ぞくりとする恐怖の再来に、私は気が付いていない。
 
 「んぷ」
 
 ぽす、とカサノヴァさんの背中にぶつかる。
 
 「 …… どうして、止まっちゃったの?」
 
 す、と白い花を取り出して私に渡してくれる。
 受け取ると、じんわりと温かい気がした。
 
 「この花 …… 私にくれるの? ありがと ――――…… 」
 
 なんでだろう。
 ぽやぽやしてて、体がここにないみたいな感じ。
 ずっと前へ歩いていきたい気分。
 
 衣ずれの音と共にカサノヴァさんの手が上がって、大通りを指差される。
 
 「え …… 」
 
 頭にぼんやりと声が届いてくる気がする。
 な、に?
 
 「私はここまで …… なの? そんな …… 。私もこのまま …… みんなと一緒にあっちに行きたい …… 」
 
 子分たちが歩き出している、私が行けと言われた方とは逆を指差す。
 
 「もう、誰かと別れるの …… 嫌なの。またねって …… 言っても …… 寂しいもの …… っ」
 
 アルトリアさんも、士郎さんも、いつかはみんなとも。
 離れ離れになって、そのたびに悲しくなって……それなら、ずっと一緒にいればいいのに。
 
 「灯里っ」
 
 「 ………… 」
 
 誰かが、私の肩を持って耳元で呼んでいる。
 あ、れ?
 
 「ぷいにゅっ!」
 
 「 …… え?」
 
 私の服の裾を、誰かが引っ張ってる。
 あ、れ?
 
 「灯里っ」
 
 全身を巡る暖かな抱擁。
 見上げると、見下ろすと、そのどちらにも私の ――――
 
 「あれれ。士郎さん …… アリア社長? えーっ、あれ …… 私何でこんなところに?」
 
 「よかった。灯里」
 
 「いたたっ、士郎さん痛いですぅ」
 
 「ごめん」
 
 ぎゅっと抱きしめてくれた時の温かさは、なんだろう。
 今まで寒かった心が、マフラーを巻かれたみたいに …… 手袋をはめてもらったみたいに …… じくりと温かくなっていく。
 
 「 …… カサノヴァ、アルトリア」
 
 「ふ。やはり、貴方には解ってしまいましたか」
 
 一番大きな子分がバウータを外す。
 あ、アルトリア …… さん?
 
 「アカリ、黙っていてごめんなさい。シロウ、追いついてくれましたね」
 
 「バカ。ずっと探し回ってたんだよ、こっちは」
 
 「ありがとう」
 
 ぐ、と息を詰まらせて表情を険しくする士郎さん。
 それに対してアルトリアさんは、いつもの …… いつも以上に優しく微笑んでいる。
 いつの間にかカサノヴァさんも歩みを止めて、ことの成り行きを見ている。
 
 「俺が、助けるから …… っ!!」
 
 「気がついたのですか?」
 
 「当たり前だろ!! お前がいなくなるってことは、つまり、そう言うことだろ」
 
 「シロウ、聞いてはくれませんか」
 
 アルトリアさんは、静かに微笑んだ。
 士郎さんが口を開くよりも早く、
 
 「さよならじゃない。シロウ …… “また逢いましょう”」
 
 「っ!」
 
 ただそっと呟くだけ。
 それでも、士郎さんは引き下がらない。
 
 「アルトリア、俺が絶対に助ける。だから、ここにいろ!!」
 
 「シロウ …… 解っているでしょう。もうここにはいられないと。ここからは貴方が ……―――― 」
 
 「ふざけるなよ!!」
 
 びく、と体が強張った。
 士郎さんがここまで怒ったところ、見たことない。
 ダメです、士郎さん。
 
 「貴方がもし死力を尽くして、私を助けられなかったら …… 貴方までいなくなる結果になってしまったら、どうするつもりですか」
 
 「そうなったらどうしようもないじゃないか。でも、俺はそんなこと考えない。絶対に助ける」
 
 止めたいのに。
 声が出ない。手が、伸ばせない。
 私が、届かない。
 
 「貴方は …… 。私がここに残れば、それでいいと? 自分がどうなっても、それでいいと?」
 
 「あぁ。俺よりも、お前の方がここにいるべきだ」
 
 「 ………… し、ろうさん?」
 
 声が出て、手が動いたって言うのに、その言葉で固まった。
 彼が何を言っているのかよく解らない。
 それは、どういうこと?
 
 「俺がいても、この世界にはただの異物でしかないんだ」
 
 「士郎さんっ!!」
 
 袖を思い切り引っ張る。
 やっと動いてくれた。
 
 「そんな風に、言わないでください。私嫌ですよぅ …… ふぅっ …… うぇえっ」
 
 今泣いちゃダメなのに。
 私も、言いたいことがあったのに。
 全部涙に流されて、全部言えなくなっちゃう。
 
 「灯里 …… ?」
 
 「ひんっ …… うぅえええっ」
 
 言わなくちゃいけないのに。
 伝えなくっちゃいけないのに。
 どうして、泣いちゃうの?
 嫌だよ。もう、嫌だよ。
 
 「士郎さんは …… っ、絶対にっ …… うぅ」
 
 「 …… 灯里」
 
 「士郎さんっふぅっえう …… アル、トリアさんの …… おはなし …… 聞いてあげて、くださいっ」
 
 袖から、いつの間にか腕にすがるように抱きついていた。
 見上げた士郎さんの表情は涙で滲んでよくわからない。けど、頷いてくれたのは見えた。
 もう、私が言えることなんてないのかもしれない。けど、けれども、これだけは言っておきたい。
 
 「アクアが、この星が …… っふ、士郎さん …… っを、いらないって言っても …… 、ううぁっ私は …… っ!!」
 
 「あ …… 」
 
 ぺたん、とその場にへたり込んでしまった。
 それでも言わなくちゃ。伝えなくちゃ、いけない。
 
 「私たちは …… っ! 士郎さん、っにぃ …… ふぇえっ …… い、いて、ほし …… っから!!」
 
 ここで輝いてる今が、輝いてる理由はそうなんだ。
 私にとっての、藍華ちゃんにとっての、アリシアさんにとっての、アリア社長にとっての、そしてアルトリアさんにとっての …… 、士郎さんがいるから。
 また逢いましょうって、そういうこと。
 そうなんだと、思う。
 
 「シロウ。私がここに来たのは、おそらく彼が私を拾ってくれたから」
 
 カサノヴァさんを見てそう言い、微笑む。
 でも、とアルトリアさんは続ける。
 
 「でも私は、ここにいる意味が …… 理由がわからなかった。英霊としてではなく …… 少女としてここにいる理由が」
 
 「アルトリア」
 
 「結局、最後まで分からず仕舞いだった。でも、そうでも …… アリシアが教えてくれた。『ここにいたい』という想いで十分だと」
 
 「それじゃあ …… っ!!」
 
 「矛盾している …… 、ですか? そうでもないですよ。言ったでしょう、シロウ。“また逢いましょう”、と」
 
 それは、『ここにいたい』と願う想いの言葉。
 それがあれば、いつでもココロはここにある。
 そう、士郎さんに信じてほしいと、アルトリアさんは言う。
 
 「あぁそうか。答えは得ました、シロウ」
 
 「え?」
 
 「夢です。選定の剣を抜いたときから続く、押し込めてきたアルトリアという少女の夢。それが、私がいる理由。物語の終焉に、もう一度夢見たいと願った、ただの王の『少女の夢』。貴方に恋をして、自分に嘘をつき続けた少女の夢の結晶。
 それが、今の私がここにいる理由。貴方とイタイと願って眠った …… 少女の夢の現実」
 
 「ゆ、め?」
 
 「えぇ。ですから、シロウからの魔力供給も、自分での魔力生成も出来なかった。ただ、眠り続けていただけなのですから」
 
 ―――― あぁ。
 なんて、素敵な夢なんだろう。
 だって、好きな人を想って眠って …… 好きな人と一緒にいられた。
 それが終わりあるものでも …… 想いは残せた。
 『ここにいたい』と想いを残せた。
 
 「シロウ …… 今度は、貴方の番です。貴方の理想 …… 貴方の想い …… 貴方の生き方。貴方は …… リンが言った言葉を覚えていますか?」
 
 「『アーチャーみたいに生きるな。救うなら、心まで救ってみせろ』ってことだろ?」
 
 「貴方の解釈は、ね。おそらく、リンはこう言いたかったのでしょう」
 
 すぅ、と深呼吸して士郎さんを見詰める。
 すこし、悲しそうに笑って、
 
 
 ――――― “私だけの正義の味方になって欲しかった”
 
 
 そう言った。
 士郎さんは、その言葉で固まる。
 
 「ただ、そう想っていたんだと思います。貴方は鈍感ですから、リンの想いにも気が付いていなかったでしょう?」
 
 クスリ、と笑う。
 ちょっと悔しそうに、やっぱり悲しそうに。

 「なんでそんなことが、お前にわかるんだ?」
 
 「女の勘、というやつですよ。これを信じるも信じないも貴方の勝手です、シロウ」
 
 「本当に俗世に染まったんだな」
 
 「ええ。自分自身驚いています。 ………… ですがシロウ。これから言うことは、皆真実だ」
 
 そう言うが早いか、アルトリアさんの体から煌びやかな光が崩れるように舞っていく。
 それは、カサノヴァさんがいる通路の奥へ奥へと流れていく。
 
 「アルトリア」
 
 「シロウ。きっと貴方は答えに辿り着ける」
 
 そこで、カサノヴァさんが動き始める。
 振り返って、通路の奥へと歩き始めた。
 
 「拘りさえ捨ててしまえれば …… 必ず世界は貴方を惹き入れる」
 
 「こだ、わり …… ?」
 
 「貴方はもう、この世界の住人なんです。私とは違ってね。いや …… 私ももう、アーサーじゃない。この世界のアルトリアというひとりの人間なんです」
 
 その証拠に …… と空を見上げる。
 
 「私は“また逢いましょう”と、大勢の人から言われた。約束をした。思えば、私がこんなことを言われるなんてあり得ないことだ」
 
 あり得ないなんて。
 思わず叫んでしまった。
 
 「そんなことないですっ。アルトリアさんは、いい人なんですよっ!! 言われるのだって、当り前じゃないですか!!」
 
 「ありがとう、灯里。そう、私はアルトリアだ。貴方も“衛宮士郎”なんです、シロウ。いつまでも“エミヤシロウ”に拘っていてはいけない」
 
 「どういう …… ?」
 
 「それは、貴方が辿り着くもの。私では到底答えには至れない。でも、そうなんです。“エミヤシロウ”はこの世界にはいない。“衛宮士郎”がこの世界のシロウなんです」
 
 ばさん、とタッバロをはためかし、通路の奥へと進んでいく。
 カサノヴァさんがいる階段の下まで来て、もう一度だけこちらを向いて、
 
 「『正義の味方』は、一人じゃないんですよシロウ。そうだと信じてくれる、支えてくれる人がいるから、『正義の味方』なんですよ、きっと」
 
 「それは、だって …… 違う。全てを救う、それが俺の――――――――っ!!」
 
 「そうです。それが“エミヤシロウ”の『正義の味方』。それが解れば、貴方はきっと貴方の答えに辿り着く。みんなが、アリシアがきっと答えに辿り着かせてくれる」
 
 カサノヴァさんがバウータに手を伸ばす。
 ガパッと音をたてて外れたその中は、猫だった。とても大きな、猫だった。
 
 「ケット・シー ……――― 」
 
 小さく士郎さんが呟く。
 あれが、やっぱりそうなんだ。
 と、アルトリアさんが彼に続いて階段を上って行く。
 
 「アルトリアッ!!」
 
 「大丈夫ですよ。少し目が覚めるだけ。寝ればきっとまた、そう ――――― 」
 
 ザァッ、とまるで引いて行く波のように、通路が延びていく。
 遠く遠く、通路の階段は霞んでいく。抵抗も何もできないまま、体だけが繋ぎ止められる。
 体の後ろに、カーニヴァルが戻ってくる。
 
 
 
 
 「アルトリア――――――――――――――――――――――ッ!!」
 
 
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 別れは済んだか、騎士王よ。
 別れは辛いか、騎士王よ。
 別れは遠いか、騎士王よ。
 
 再会は誓い、再会は輪廻、再会は運命。
 
 廻り回って一足より遠く。
 蠢く螺旋はより遠く。
 誓いてなおもより遠く。
 
 続く旅路に終わりは見えない。
 
 しかし、星は丸い。
 しかし、星は偉大。
 しかし、星は引き寄せる。
 
 故に、再会は遠く遠く、またいつか。
 
 少年は立ち止まる。
 少年は歩くだろうか。
 少年は前を向いてくれるだろうか。
 
 追っていては意味がない。
 
 彼女は待っているのか。
 彼女は見えているのか。
 彼女は知っているのか。
 
 待っているだけでは意味がない。
 
 手を取って歩くのか。
 手を取って走るのか。
 手を取って微笑むか。
 
 
 いざ行こう。過去へ歩みを寄せて。
 
 
 いざ行けよ。未来へ希望を寄せて。
 
 
 いざ進もう。全てが巡り会う現在へ。
 
 
 いざ進めよ。全てが輝く明日の日へ。
 
 
 追いつくのは少年ではない。
 
 
 追いつくのは騎士王である。
 
 
 
 
 征け。その足で、踏みしめ今を。
 
 
 
 
 征け。この足で、踏みしめ辿れ。
 
 
 
 
 お前の脚は、立つだけのものではない。
 お前の脚は、前へ勇ましく、憂いを断って進む脚。
 
 理想は捨てるものではない。だが、捨てられるものでもない。
 胸へ宿せ。お前の魂の原動力を。
 
 幸せは貰うものではない。だが、与えるものでもない。
 腕へ宿せ。お前の魂の歯車を。
 
 『正義の味方』は成るものではない。だが、成れるものでもない。
 魂へ宿せ。お前の全てを包むように。
 
 
 その上で、見つけると良い。
 お前の答えを。
 “衛宮士郎”の答えを。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――――――――― カーニヴァルが、終わった。
 
   
  
  
 
 

 
             

                Navi:17 後編   end




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Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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