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2009-04

今日言ったことは全て嘘になるという恐ろしい日らしいよ

らしいです。エイプリルフールとからしいです。
入社式、入学式もろもろ、明日通勤、登校したら

『貴方たちが合格したのは嘘でした☆』

とか言われるぞ、覚悟しとけ。
ども、草之です。

いきなり重いのはエイプリルフールだから。
これ嘘ですよ、なんかすっごい場の空気を読まない上に悪くする嘘ですが。
無事入社、入学式を迎えられた方、おめでとうございます。
こんなこと言ったあとだとありがたみが欠片もなくなる。フォローは出来る範囲と出来ない範囲があるということですね、覚えておいて損はないはず。

どうして今日はこんなに毒舌(?)なのか、というと一足早い五月病です。
「うあー、新年度始ったな」みたいな感じ。いきなり変わった環境にドキドキしっぱなしなんですよ。
でも、できる事も増えた気がするから、そこのあたりは前向きに考えていこう。

今年度も、どうぞよろしくお願いします。

そして、あと3か月でこのブログが初まってから1年が経とうとしています。
最初、無名の物書きだったことを考えると、なんて読者様方に支えられてきたんだ、とつくづく痛感します。本当にありがとうございました。これからもどうぞよろしくです。本当に。

早いもので、もう15万HIT手前にまで来てしまった……。

いろいろと、嬉しいことが続きます。
でもリアル生活は、やっぱり人生そううまく動かないってことで。

これからも誠意努力していこうと、改めて思った4月1日。


では、更新予告です。
いろいろと忙しいので、遅れるかもしれませんが……。

『B.A.C.K』を明日更新。早いと日付が変わったくらいに更新するかも。遅いと週末。
『背炎』を来週火曜日に更新。
『優星』を来週末に更新予定。


では、以上草之でした。

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:3-2

 
 リィンがヴィータと合流するためにヘリを飛び立って数分が経った。高町さんとハラオウン女史も、待つ間もなく戦闘空域へ侵入するだろう。
 こちらの、戦力としての分散は3チーム。
 南西のヴィータ、リィン。
 北西の高町さん、ハラオウン女史。
 地下水路のフォワード陣とギンガ陸曹。
 この中で、敵の本命が来るのだとしたら地下。『レリック』回収のためだ。
 
 「しかし、この展開は …… 」
 
 隊長陣を……いや、飛べる戦闘員を空へ空へと追いやっている。今このあたりで飛べる戦闘員がいるとしたら …… 俺か、シャマル先生ぐらいだ。だが、シャマル先生は少女のことを看ていなければならない …… 。
 このヘリを狙うのなら、今しかない。このヘリに積んである『レリック』を奪い返すなら、今が狙い目。
 …… 足止め目的か。とすれば、あの数で終わるわけがない。増援があってもおかしくない。しかし、敵のガジェットも物だ。数には限りがあるだろうし、そう多くは投入出来ない筈。出来ない筈なんだ。
 それでも、ひとつやふたつの『レリック』に大規模な戦力投下してくるとしたならば、狙いは『レリック』以外になる。
 そう、現状考えられるもの …… この少女だ。
 
 「 …… 」
 
 しかし、今からそう決めつけるのは早計だ。今から状況がどう変わっていくかなんて誰にも分からない。
 まだ情報が少ないな …… 。今のところ、こちらが本命だと考えると地下か、それともこのヘリに向かってくるのは召喚師だろう。
 アグスタで初めて戦闘を行った敵だ。その時に姿は確認できなかったが、能力は知れている。無機物操作に、固有召喚獣であろう召喚虫。今のところ、この程度だ。
 
 「あとは …… 」
 
 『サベージ』か。
 しかし、これも本当に“そう”なら、量に限りがある。今回出てきたとしても、一体が精々だろう。
 今までの戦闘を見ても、いや『レリック』反応の疑いのある任務があっても、今までで合計3体確認されただけ。
 そのどれもが、任務終了ギリギリのタイミングで出てくる。油断したところを、という戦法なら分からないでもない。だが、なぜガジェットと一緒に攻めてこないんだ?
 遊んでいる、としか思えない。ジェイル・スカリエッティ …… ゲーム感覚で、対局してやがる …… っ!
 
 そこまで考えて、シャマル先生がこちらを見て微笑んでいることに気づいた。
 
 「何、ですか?」
 
 「いいえ。でも、生き生きしてるなってね」
 
 「生き生きもなにも …… 」
 
 いや、それに集中してたって意味では間違いではないか。
 いつの間にか海上では戦闘が始まっている。ギンガ陸曹の担当した事件の説明も始まる手前だった。 …… もしかしてシャマル先生、これを気付かせるために?
 
 『私が呼ばれた事故現場にあったのは、ガジェットの残骸と壊れた生体ポッドなんです。ちょうど、5・6歳の子供が入るくらいの …… 。
 近くに何か―――― 重い物を引きずって歩いたような跡があって、それを辿って行こうとした最中、連絡を受けた次第です』
 
 …… 確証があるわけではないが、実にピタリと条件にはまっている。
 いや、これは偶然ではないだろう。その生体ポッドの中身はこの少女で間違いない。
 ギンガ陸曹は続ける。
 
 『それからこの生体ポッド、少し前の事件でよく似たものを見た覚えがあるんです …… 』
 
 『私も、な』
 
 はやてもそれに便乗するように同意する。
 …… 大きさは全く違うが、オレも似たようなものなら見たことがある。いつかの合成獣の研究所で。
 
 『人造魔導師の、素体培養機 …… 』
 
 彼女は確証がないと言っているが、どこかで確信している筈だ。
 なぜなら、口ごもりもせずに、言いきったからだ。
 
 人造魔導師。
 人間に対して外科的処理、調整を行い、強力な魔法や魔法行使能力を持たせる禁忌とされた技術。
 魔法文化全盛期から行われ続け、現段階では生体操作技術により『素体』を造り上げることのできるレベルまで達したものの、成功率や倫理的問題、コスト面から次第に禁忌とされていったという。
 
 「 …… この娘がか」
 
 ガチリと歯車が噛み合った。
 狙われるのは、このヘリだ …… !
 
 確かに、俄かには信じられないだろう。だが残った証拠がそうだと物語っている。
 信じざるを得ない状況だ。
 
 
 そこから数分後、海上では戦闘が終了へ近づいていた。
 そう思った瞬間だった。予想していた通り、敵の増援がやってきた。
 しかも、幻影まで存在する近海一面が敵のマークで真赤に埋まるほどの大混成部隊。
 これに対し、はやては自分の限定解除で対応するという作戦に出た。超長距離広域魔法での殲滅に乗り出した。
 
 高町さん、ハラオウン女史はこちらのフォローに、ヴィータとリィンはフォワードのフォローに回った。
 
 「オレなら、このときどう攻める …… ?」
 
 距離的には前者2名が到着するのは数十分 …… 。ヴィータとリィンはあと数分も経たずに到着、合流するだろう。
 
 「 …… オレなら」
 
 まず間違いなく少女が狙われているのは間違いないだろう。優先順位はどうなってるだろうか。まず、人造魔導師という点から考えて、この少女が第一位と考えられるだろう。
 パターンから読んで、『サベージ』は今回出てくる可能性は低い。それに、あれは飛び上れると言ってもあくまで陸戦の竜だ。今回の主な戦場は空。出てくる可能性はそれも含めて低いと言える。
 
 なら、今度はいつ仕掛ける?
 狙うなら油断した瞬間は定石だ。いつ、どんなタイミングで油断してしまう?
 いや、油断しないなら、いつ狙う?
 
 「廃棄都市区に入りますぜ …… !」
 
 この周りは視界が開けている。
 もし、もしも、こう言った視界が開けた場所で狙うとすれば、どうする …… ?
 一番ありそうなのは、狙撃。だが、そうなるとその瞬間まで分からない。
 次にくるのは地下にいる召喚師の召喚虫による奇襲。
 ありえるとすれば、このニ択。
 
 『 ………… ユークリッド隊長。召喚師一味、拘束しましたです』
 
 リィンからの報告。現時点での脅威は狙撃に絞られた。
 ガジェットの狙撃でヘリを落とすことが出来るか?
 ガジェットの出力で長距離を飛ぶ砲撃を飛ばせるか?
 …… そうだ、あと幻術を使用した術者はどこに行った?
 敵はまだいるんじゃないか …… ?
 
 モニター越しに召喚師の少女を観察する。傍らに座り込んでいるのは …… まさかユニゾンデバイスか!?
 驚くと同時、今度は心臓を鷲掴みにされるような緊張に襲われた。
 
 「―――― ッ、魔力反応!?」
 
 『市街地にエネルギー反応! …… 大きい!?』
 『そんな …… っ、まさか―――― !?』
 
 報告が完全にされる前に、体はもう動いていた。
 
 「ジークフリード!!」
 
 《Yes,sir.Stand by ready set up,and"Charge mode"shift.Compulsion intervention,The main hatch is opened.(了解。セットアップと同時にチャージモードへ移行。強制介入、メインハッチを開けます)》
 
 オレの思考をジークフリードは正確に読み取る。
 ヘリのメインハッチが開き、外へ飛び出す。
 
 『砲撃のチャージを確認! 物理破壊型 …… 推定Sランク!!』
 
 視界の端に高町さんとハラオウン女史の姿が見えた。この距離、間に合うとしても防御なんかする間がない!
 どうする、どうするっ!?
 どうするもこうするも、これしかないだろう!?
 
 「コード・ブレイクスルー! A.C.S展開ッ!!」
 
 《Consent.A.C.S ignition》
 
 バグンとジークフリードのヘッドが縦に二つに割れる。ストライクフレームをその間から収束展開。蒼い魔力翼も順次展開完了。
 
 「グレイズフィールド、エンチャント」
 
 《Graze field》
 
 フィールド系防御魔法、グレイズフィールド。
 ある程度の“直撃”を“掠り”判定にまで流動させ、逸らす。だが今回の相手はSランクの砲撃。気休めにもならないだろう。
 
 《Acceleration assistance and toroidal magic formation treble development.(加速補助環状魔法陣、三重展開)》
 
 魔力の収束地点を目標に、5m間隔で環状魔法陣を三重に展開。
 ―――― 行くぞ …… ッ!!
 
 「我が疾走、嵐の如く …… !!」
 
 砲撃の発射を確認。誤差修正、良し!!
 
 「穿て、疾走 …… ッ!!」
 
 《Strike Charge》
 
 視界が真っ白に溶ける。高速移動魔法の遥か先を駆ける。
 たかだか数百の距離など、無きに等しい …… !
 穿ち貫き、突破する …… っ!!
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 『砲撃のチャージを確認! 物理破壊型 …… 推定Sランク!!』
 
 ロングアーチの報告が耳に響く時点で、もう彼は空に出ていた。
 何重にも乗算する魔法陣。それが、彼にとってあきらかなオーバースキルだというのは見て分かった。いや、彼だけではない。誰しもが、あんな魔法を使えば体をほぼ確実に傷つける。衝撃緩和を使っても、術者には強烈な衝撃が襲う。
 
 「っく。間に合わない …… っ!!」
 
 「はやて、限定解除申請をするっ、許可を!!」
 
 それでも彼は止められないだろう。
 だけど、砲撃手なら捕まえられる。いや、捕まえて見せる!!
 
 『限定解除、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン。リリースタイム、120分!!』
 
 『リミットリリースッ!!』
 
 声が重なる。
 フェイトちゃんは砲撃の方向へカッ飛んで行く。それと同時、大爆発。
 ユークリッド君の突撃と、相手の砲撃がその威力を喰らい合った。相殺。
 まったくなんてことをしてるんだ、彼は。冷静かと思えば、こんな馬鹿げたことをしでかす。
 だが、今回ばかりは彼のやったことは正しい。彼の防御魔法には基本的なモノしか登録されていない。ただ、ひとつ特殊なものをあげればグレイズフィールド。燃費がすこぶる悪い、フィールド系の防御魔法だけだ。
 それに対し、攻撃魔法に関しては、中・近距離をバランスよく采配した、いわゆる攻撃特化型だ。
 その中で、データの中にあの魔法があった。
 A.C.Sを展開させた後に派生する、もうひとつのドラゴンキラー。突進系の最終進化系。
 ユークリッド・ラインハルトの、ジョーカー。
 
 『ストライクチャージ』
 
 強襲突破の意味を持つ、超長距離近接魔法。そのスピードは亜音速。移動魔法でも為し得ないスピードで接近し、貫く。
 地球の戦闘機レベルのスピードで飛ぶのだ。そこまで戦闘機に詳しいわけではないが、そのスピードが魔導師として規格外であることぐらい、私にもよく分かる。
 欠点を突くとしたら、直線でしかない攻撃軌道と、術者への負担。その他威力、スピード共に申し分ない一撃必殺の大魔法。
 これをグレイズのバリアブレイクと、ジャケットのリアクターパージ、衝撃緩和魔法で彼自身への負担を極限まで減らしている。だがそれでも、並み以上の砲撃魔法直撃程度のダメージがある筈だ。諸刃の剣……、その言葉が似合いすぎるほど、あれは自己に危険が降り掛かる魔法だ。
 
 そう、以上が、純粋魔力による非殺傷設定のSランク砲撃を受けた場合の想定。
 今回の砲撃は、物理破壊型。
 
 「死んで、ないよね …… ?」
 
 正直な事を言うと、私は彼のことが好きではなかった。いつもどこか上の空でいて、なんでも知った風な、もしくは思わせ振りな態度が、言ってしまえば嫌いだった。
 嫌い、だった …… ?
 
 「エクシードモード、ドライブ!」
 
 《Exceed Mode,Ignition》
 
 来たる敵の砲撃手に、一発お見舞いしてやる。
 これが本当の、砲撃なんだって …… 教えてあげる。
 
 そうだ。嫌いだったからって、それで墜ちてもいいなんて思えるほど、私はダメな人間じゃない。嫌いでも何でもいい。彼は仲間なんだ。今は、仲間なんだ。
 
 「レイジングハート、ジークフリードに連絡は?」
 
 《The answer doesn't come back at all though it is when calling a little while ago(先程から呼びかけてはいますが、一向に返答が返ってきません)》
 
 「 …… ちょっと、頭に来るよね」
 
 《Yes》
 
 相手にじゃない。彼にだ。
 私達が間に合うとは信じてくれなかった。いや、信じられる距離にいなかったこともあるだろうけど、それでも。
 ワガママなことを考えてるのは充分承知している。
 私は、怒っている。
 
 フェイトちゃんは敵を追いかけてる。この距離とあのスピードでは、正確に当てられない。
 まだだ。まだ待つ。固定砲台は、忍耐も必要なんだ。よりよい場所に陣取り、より深くを読む。状況把握と空間把握。
 
 『―――― 消えた!?』
 
 砲撃手と一緒にいたのが幻術の使い手だろう。その能力でステルスをかけたんだろう。
 だが、こちらにははやてちゃんもいる。
 
 『こっちで捉えとる。発動まであと4秒!!』
 
 4 …… 3 …… 2 …… 1 …… 発動確認。
 廃墟が並ぶ上空に、ぽっかりと孔が開く。正確には孔ではなく魔力塊なのだか、以前見たよりもドス黒く、孔が開いているようにみえてしまう。
 はやてちゃんも、相当キてるんだろうか。
 
 『ディアボリック・エミッション!!』
 
 彼女の声が木霊する。瞬間、小さな孔のようだった魔力塊が破裂する。
 廃墟を飲み込んでいくその姿は、まるで視界を“侵食”しているようだ。空間そのものを喰らう牙。
 ディアボリック・エミッションの効果は私がいるギリギリまでにおよび、その数瞬後、這い出るように逃げ出す敵の姿を捉えた。
 もう、遠慮はいらない。
 
 《Knockout by buster. After that, arrests it(砲撃で昏倒させて捕らえます)》
 
 「エクセリオン―――― ッ」
 
 カートリッジが炸裂する。猛る魔力が迸る。スフィアを形成、照準確認、誤差なし。
 完璧に捉えた。臨界到達、叫ぶ、その砲撃を。
 
 『トライデント―――― 、スマッシャァ―――― ッ!!』
 
 「バスタ―――――― ッ!!」
 
 光の奔流が走る。
 空を引き裂いて、桜色の閃光が敵に向かって伸びる伸びる。今度は、あなたたちが墜ちればいい …… !
 着弾、するはずだった。
 
 増援だ。それも着弾寸前を狙って離脱、爆煙に紛れて行方を眩ませて。
 なんて、手際 …… 。いや、感心してる場合じゃない。
 
 「当たる直前に増援が入った …… アルト、追って!」
 
 『は、はいっ』
 
 このあたりに潜伏してるとは考えづらい。敵だってここで戦い続けるようなことをしないだろう。これ以上はお互いにナンセンスだ。お互いにジリ貧が続くような、意地だけの戦いなんて、ここではするようなことじゃない。
 相手が賢くてよかったのか …… 、どうとるべきなんだろうか。
 
 「なのは、ユークリッドを助けに行こう?」
 
 「ううん、私は現場調査を優先するよ。フェイトちゃんが行ってあげて」
 
 『いや、その必要もないみたいやけどな?』
 
 と、はやてちゃんがモニターの奥で苦笑している。
 その言葉の意味が分かりかねて、彼が墜ちたあたりに目を向けると、すでに彼は助けられたあとだった。
 そう、言わずもがなシグナムさんによって。
 
 「 …… 本当、シグナムも懲りないね、はやて?」
 
 『おぉ? そやね。まぁ、あれはあれで心配しとんのやろ』
 
 「わかんないよ、ユークリッド、シグナムに取られちゃうかもね?」
 
 『な、なーんでそう言う話になるんかなぁっと …… 』
 
 「しらばっくれちゃって」
 
 クスクスと笑い合う二人を余所に、私はどうしてだろう。
 彼の無事を、素直に喜べなかった。
 
 
 結局、砲撃手と召喚師一味、そのどちらともを逃がしてしまった。
 ただひとつ、『レリック』はふたつとも健在。言うまでもなくヘリの分と、あとひとつ、地下の分はフォワード陣の機転で奪われずに済んだということだ。その点を考えると、今回の出来事、勝ったのはこちらで間違いないだろう。
 だが、負傷者という点では完敗だといえるだろう。あちらは軽傷がひとりふたり。
 こちらは、重傷者がひとり。
 
 あれから数日。
 ユークリッド君は、まだ目を覚まさない。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 保護された女の子の名前は、ヴィヴィオ。人造魔導師であることは間違いないとのことだが、魔力量がずば抜けて高いわけでも、危険な能力を持っているわけでもないらしい。そのことに引っかかりを覚えるが、部隊員らはあまり気にしていないようだ。
 親がいるわけでもなし、親戚などいるわけもない。なぜなら、彼女の遺伝子の元となった人物は古代ベルカ、聖王の系譜。母親がいたとしても、とっくの昔に河を渡ってお花畑で微笑んでいることやろう。
 そこで保護責任者になのはちゃん、後見人にフェイトちゃんが付くことになった。流れとはいえ、私を「ママ」言うてくれへんかったことに、少なからず傷ついている私八神はやて19歳。なにが違うんや、胸か、胸やったら実は気痩せてるだけで結構あんねんぞ!?
 げふん。身長の低さかもしれない。そうだろう、きっと。同い年に見られなかったってことやんな。若く見られたってことやんな。
 言ってて悲しいわ、ホンマに。
 
 今日もヴィヴィオは、教導が終わる今頃、ママを迎えに行っていることだろう。
 仲良きことは美しきかな。平和なんはエエねんよ、でもな …… やっぱり。
 
 「私も …… いつ帰ってきてもええように、迎えに来てるんやけどなぁ」
 
 誰もいない玄関でひとりぼやく。太陽の熱でアスファルトが熱せられ、ゆらゆらと陽炎も見える。
 暑い。そらそろ気温もマシになって来るだろう時期なのに、いつまでこんなに暑いんやろう。
 
 医者が言うには、命に別状はなく、いつ起きてもおかしくないという事。起きるのが遅れているのは、なんらかの夢を見ているとも言っていた。夢から抜け出せないって言うんは、それが幸せな夢であっても、悪夢て言うんやろか?
 
 「あれ、はやてちゃん」
 
 声がした方を振り向くと、フォワードよりも一足先に帰ってきていたなのはちゃんだった。
 いつもよりもゆっくりと歩いてくる。そのわけは、片手に繋いだ小さな手。ヴィヴィオの手だ。まだ私には単純に慣れていないだけなのか、それとも――――
 
 「こ、こんにちわっ」
 
 子供らしい“何も知らない”無邪気な笑顔。純粋とも言う。この子が悪いわけやない。ないのに、笑顔を向けられると、どうしても胸が黒く染まる。
 
 「お迎えか?」
 
 ―――― それとも、この私の笑顔に“子供らしい”直感で、黒い感情が腹の中で渦巻いているのを無意識に感じているのか。
 どちらにせよ、私があまり懐かれていないのは見ての通りだ。
 
 「はやてちゃん、お昼ご飯なんだけど …… 一緒にどう?」
 
 「いや、遠慮しとくわ。親子水入らずの場所にそんな無粋な、なぁ、ヴィヴィオ?」
 
 「??」
 
 「にゃはは。まだわかんないよね。それじゃ、ヴィヴィオ、ご飯食べに行こっか」
 
 「あ、うんっ!」
 
 本当に、楽しそうに笑う。
 それを見て、一体どれほどの人間が癒されるのだろうか。少なくとも、私とシグナムは違うと言える。
 隊長陣の中で、ユークリッド君の撃墜について一番リアクションが薄かったのは言うまでもなく、なのはちゃんだ。救出作業より、現状確認を優先しようとしたことからそれは見てとれる。
 逆に、誰よりも、私よりもダメージを受けたのはシグナムでもない、目の前でいて止められなかったシャマルでもない、かなり彼を慕っていただろうティアナでもない。
 ヴィータだ。
 今日も彼女は検査で病院に行っている。ちょっとした精神崩壊が起こったという話だ。シャマルが言うには、なのはちゃんが墜ちた時の事と重なり、フラッシュバックを起こした、ということだ。フォワード陣が言うには、召喚師の少女が投げかけた言葉の中に、『また守れないかもね』という言葉があったという。それが劇薬になったのかもしれない。
 ヴィータは荒れている。それこそ、闇の書の蒐集をやっていたとき以上に。とても見ていられるものじゃない。

 しばらく、ヴィータには暇を与えることにした。それを伝えた時、彼女が私に見せた中で一番の怒りをぶつけてきたのは言うまでもないだろう。なのはちゃんとフェイトちゃんに止められていなかったら、私は殴られていただろう。きっとこう言った筈だ。
 
 『どうして、そんな顔でいられるの?』
 
 と。
 そんな気がする。そんな気しか、しない。
 その通りだ。こんな気持ちで、彼を迎え入れられるだろうか。喜べるだろうか。
 だから、私は私が嫌いなんだと思う。実に嫌な女だ。
 
 「おかえり、おかえり、おかえり …… おか、えり? あれぇ、違うなぁ …… おかえりっ♪ …… ん?」
 
 「 ………… 」
 「 ………… 」
 「 ………… 」
 「 ………… 」
 
 改めて振り返ると、目を合わせる前にそらされた。
 フォワード陣が、まるで、というかまんま「私達、見てません」オーラを全身に纏いながら必死に目をそらしていた。
 
 「お疲れ様、今日はどやった?」
 
 「いやー、ほんと毎日キツイデスヨ」
 
 「だよねぇ。でも、ちゃんと私達ツヨクナッテルカラ!」
 
 「そ、そうですよ。まだまだ強くなってユークリッ――――」
 
 「エリオ君!? ここ怪我してるよ、大変、医務室に行こう!?」
 
 あからさますぎる。
 でも、嬉しかった。まぁ、こういうのは実感が湧かんて言うしな。帰って来た時に、こう、感情の箍が外れてぶわっと。
 あー、でも私予想外に箍が外れそうで怖いなぁ。嬉しさよりも、怒りが先に出てきそう。嫌な女らしく。
 
 「ふぅ」
 
 そっと見上げた空は青い。
 まるで彼の魔力光を見ているような気分になる。
 
 今日は、もう特にやることなんて残ってない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:3-2  end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

今更……?わかりきったことだろう?

やよい、春香。
誕生日おめでとう!

ども、草之です。
思いっきりスルーしてしまった二人の誕生日。今更ですけどおめでとうです。
ちなみにやよいが3月25日。春香が4月3日です。

さて。
特に書くこともないんですけど、一応。
そう言えば……って話なんですけど、草之ってば自分を紹介とかしてなかった気がする。
てな訳で、自己紹介を作ってみたので気になる方はカテゴリの『自己紹介』をクリックしてください。


では、更新予告。
『背炎』を明後日、火曜日に更新。
『優星』を今週金曜か土曜に更新。
『B.A.C.K』を来週頭に更新。
あくまで予定なので、遅れる可能性もあります。
あしからずご了承ください。

では、草之でした。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:20

 
 「こう言う話 …… 知ってる?」
 
 「あ?」
 
 幻術なのだろう。
 姿を変えたガキはいかにも機嫌が悪いです、と主張しながら返事する。
 
 「時間を戻せるっていうのは、世界を創るってことと同義だってこと」
 
 「 …… 何が言いたい?」
 
 「いやねぇ。ただの言葉遊びよ。本気にしないの、お嬢ちゃん?」
 
 クソったれの『背徳の炎』が走り去ってから数十秒。おそらくあの屋敷あたりまで走った頃だろう。
 いつまでもベビーシッターなんかしてられない。
 
 「 ………… さて、と。遊ぶのも程々に、死んでくれる?」
 
 「私は不死だ」
 
 言うじゃない。
 
 「ブチマケロ」
 
 視界が溶ける。まるで絵具を水で伸ばしたかのような錯覚。
 その視界の中、正確にガキの懐に潜り込む。ギターヘッドを突き上げ、顎を狙う。
 だが、ガキは反応した。頭を逸らし、紙一重で無駄なく避けると、黒い閃光をお返しとばかりに滅多打ち。大きく体を捻り、横っ飛びし、バックステップまでして全弾避けきった。まではよかった。
 
 「今度は、こっちだ!!」
 
 「ちぃっ」
 
 今度は避けきれない。腹の肉を持っていかれたと錯覚するほどの威力のストレート。胃液が喉のあたりまで上がり、チリチリと喉が焼ける。気持ち悪い。
 その殴られた勢いのまま、後方へ体が持っていかれる。ガキはちょうど足先の辺りに追走してきている。
 ガキが右腕を振り上げると同時、その手首から先が剣のかたちに造り変った。
 
 「真っ二つだ!!」
 
 「させるか―――― よォッ!!」
 
 ハウリングと共に開脚。音と衝撃波が交わり、ガキの腕を後ろに吹き飛ばした。
 態勢をより早く立て直し、より早く反撃に回る。
 
 「らぁっ!!」
 
 「づっ」
 
 腹に一発。法術で強化した蹴りを見舞ってやった。
 大きくよろめき、仕切り直し。なかなか面倒なガキだ。不死というのもあながち嘘ではないのかもしれない。
 そう、あのモンスターのジジイのような。
 
 「 ………… 」
 
 「?」
 
 一瞬の違和感。睨み合い、目が合った瞬間、ふと視界が白けた。
 だが、本当に一瞬。さっきのストレートが思いのほか効いてしまったのだろう。
 
 「さぁ、踊れ。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック ………… !」
 
 「悠長なもんだな、そんな鈍いとイケないぜ!?」
 
 白髪から手に入れた情報。魔法使いとかいうこちらの戦闘スタイルは呪文の詠唱を主とした大火力砲だという。ただ、その威力と引き換えに術前の隙がデカ過ぎる。まずひとりではかかっては来ず、従者という手下を引きつれて時間稼ぎをするとか。
 だというのに、目の前のガキは悠長にその詠唱を始めた。自殺志願をしたも同然。
 
 「殺ったァ!!」
 
 「『契約に従い、我に従え氷の女王 …… 』」
 
 「!?」
 
 ガキの姿が露と消える。
 確かに手応えはあったはずなのに、ここにガキはいない。詠唱もまだ続いている。
 四方を見回してもどこにもガキの姿が見当たらない。声だけが耳に届く。
 
 「『来たれ …… とこしえのやみ』」
 
 今度は、本当に視界が白けた。一気に気温が下がるのを感じた。零を切ってマイナスへ。
 一瞬で、周囲の温度が消えた。森が死んでいく。白い、そう永遠の白い闇が感覚を支配する。
 
 「嵌めやがったな、クソッ! アバズレが、調子こいてんじゃねぇよ!!」
 
 「『えいえんのひょうが!!』」
 
 空が、大地が、空間が、時間が凍りついた。
 術中に嵌まった。おそらく、目を合わせた瞬間から。
 だがな、アバズレ。
 
 「覚えてやがれ、しっかり帰ってやるよ」
 
 一瞬だった。この殺し合いは本当に一瞬だったと言える。
 自身が凍りつく直前、黒い孔が私を飲み込んだ。一歩を踏み出せば、目の前にはガキの背中。
 
 「『えいえんのひょうが!!全ての命ある者に等しき死を …… 』」
 
 「なら、貴方も死んでみなぁい?」
 
 「―――― ッな!?」
 
 振り向いた顔面を鷲掴みにする。
 指の間から覗く、信じられないものを見たその顔。凄くイイ。ゾクゾクする。
 地面に叩きつけ、ピックを振りかざす。
 
 「テメェはノイズなんだよ!!」
 
 マレーネを掻き毟るように弾き鳴らす。同時にその音は音塊の刃としてガキに喰らいついた。
 まだだ、まだこんなのじゃ死ぬわけがない。だってこいつ――――
 
 「ほら、手手! 足、腹、喉喉っ!! あはは、ぎゃははははははは …… ッ!!」
 
 
 踏んだ、踏んで踏んで …… 死ぬまで、いや―――― こいつ不死なんだろ?
 面白いくらいに骨が鳴る。肉が鳴る。喉は潰れて、吐き出す息は血の泡。折れた白い骨が体中から肉を突き刺していく。声なんてさっきから気持ちイイくらいに鳴ってる。顔だけは踏まないでおく。だって、痛みに歪んだ顔以上に面白い物なんてないんだもの …… !
 
 「あ―――― っははははっはあはあっはあっはっは!!」
 
 不死なんて言ってた割にはその表情、すごぉくそそる。まるで、“死んでも死ねない苦しみ”を味わってるみたいでとっても愉快。
 そうなんだ、人間ってこういう顔も出来るの。おっと。こいつは人間じゃなかったな。
 
 「ほら、おい、どうにか、してみろよっ? ええっ? なんだって? 聞こえねぇよっ!」
 
 喉喉喉喉。しゃべれよ、ほらしゃべれ。しゃべってみやがれ、クソガキがぁ!!
 さっきまでの威勢はどうした、萎えるなんてもんじゃねぇんだよ、もっと楽しませてみろってんだよ。
 
 「ちっ。クソ弱ぇ。退屈通り越してムカついたよ」
 
 さて、あいつを追うとするかしら。
 まったく、ブーツが血でぐっしょぐしょ。洗うの大変なんだけどねぇ。どうせ死んでないだろうし、生きてるんならまたくだらねぇプライドで向かってくるだろう。
 まぁ、玩具としてならそれなりに遊べるんだけどね――――
 
 「―――― あ、ぎ?」
 
 「どうした? 舌が回ってないぞ、あぁ?」
 
 「て、めぇ …… っ!!」
 
 ぞ、と啜るように腕が引き抜かれた。足に力が入ってこない。
 しくじった。
 その考えが浮かぶまで、時間はいらなかった。
 
 「イイ様だな、イノ。再生はそんな悠長なものでもないんでな …… 。それよりも貴様、さっきまでの饒舌はどこへいった? 話そうじゃないか、私の骨を踏み砕く感覚はどんなだった? 肉がぞり落ちて潰れる感触は? 血はまだ温かかったか? え、どうなんだ?」
 
 「く …… そったれがぁ …… っ!!」
 
 このガキ …… わざと急所をはずして腹抉りやがった。
 法術で時間を歪曲。血止めをし、開いた穴を誤魔化しておく。もちろん、足に力は入らない。立っているだけでいっぱいいっぱいだ。
 殺し合いもクソもねぇ …… 。
 
 「足を震わせてどうした? そんなに逝きそうか?」
 
 「るせぇ …… 黙ってろ …… っ!」
 
 「クッ。ザマァないな、え? クソ弱い …… ? どの口がそんな戯言をほざいたッ!!」
 
 いつの間にか、ガキは幻術を解いていた。より屈辱を味あわせるつもりだろうか、それとも単に私の眼がおかしくなったのか。
 まともに動けもしない私との距離を、一歩一歩を早足で縮めてくる。クソ、クソクソ …… 。
 
 「この口か、ハ、人が私をどう呼ぼうが知ったこっちゃないがな、最強最悪と謳われた吸血鬼の真祖に、たかだかちみっこい力を持った人間が …… ッ、人間如きが敵う道理がどこにある …… っ? 脳ごと弾けろ ………… 『氷爆!!』」
 
 感覚はなかった。
 ただぼんやりと、顔面を掴まれ、顔面が弾けたのは分かった。もう、人の顔はしていないだろう。
 なんてことしてくれやがる、人の、女の顔に …… 傷つけやがって …… っ!!
 
 「が、ああああ、あがあががががッ!!」
 
 人の顔じゃない。もう、こんなのは人の顔じゃない。
 離しやがれ、クソがぁ …… ッ!!
 
 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
 
 「ッな!?」
 
 もういい、もう殺す。もう遊ばない。
 目がよく見えない。が、デカ過ぎる力は、見えなくても感じられる。
 最強 …… ? だからどうした、どうだって言いやがる。
 不死 …… ? だからどうした、どうだって言いやがる。
 そんな肩書き、つまんねぇだけだろうが。最強ってことは、ツマラナイ。不死ってことはツマラナイ。
 どこに行っても、どんな奴と殺し合っても、感情を表せない。その凄みも所詮、空っぽの空気脳。クソ以下の、思考能力もない微生物以下。進化の初まり、ただのカスだ。そこらじゅうに飛び散っているカスだ。カスだカスだカスだ!!
 
 「何故、動ける …… !?」
 
 「何故だァ? ハ、ハハッ!」
 
 「何がおかしいッ!」
 
 「ハァ―――― ッハぁッハ!! 笑えねぇえええええッよッ!! テメェは、カスなんだよ。人間ってのァ、死ぬから生きてるんだぜ?不死だぁ? ちゃんちゃらおかしいねぇッ、お前は死んでもねぇ、生きてもねぇ、ただのカスだよ。無機物が、ぐちゃぐちゃ喋ってんじゃねぇんだよッ!!」
 
 マレーネは傷一つない。
 聴かせてやろうじゃねぇかよ、人間の“音”を。
 最高のライブだぜッ!!
 
 ―――― ゴゴン!
 
 幕があがる。
 立ち並ぶのは巨大な黒くて固いアレ。ガンガン体に響いてくる衝撃は、耐えがたい快楽。
 私の愛情を肥大化させて、相手にも送りつけてあげる …… 。
 
 「吸血鬼らしく、棺桶でも用意してなァッ!!」
 
 幕が、あがる。
 一緒に狂うのは愛らしい玩具たち。大きいのから小さいの。誰の要望にでも応えられる最高の玩具。
 私の愛情を少しでも多く送ってあげたいから。
 
 「な、何だ …… これは …… ッ!?」
 
 「感じない貴女にも、最高の快感 …… 教えてあげるわ」
 
 「ここはどこだッ、貴様も幻術が使えるのか!?」
 
 「幻 …… ? まさか …… 。もしかして、貴女未経験?」
 
 「ッ、うるさい。どいつもこいつも …… !!」
 
 「でも貴女、イケたことないんじゃない?」
 
 「黙れと―――― ッ!!」
 
 幕が上がった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 その空間は異常だった。
 そうとしか言いようがない。ざっと二階建の家ほどはある巨大なスピーカーが乱立し、いつの間にか大なり小なり、まちまちのサイズで小悪魔のような魔族がそれぞれのパートを受け持っている。中央に立つイノは、完全にイっている。
 これは狂乱の宴、そう表現するに足る、凶悪すぎるライブステージ。観客は、たったひとり。私だ。
 
 「黙れと―――― ッぉ、言ってるだろうがァッ!!」
 
 撃ち込む寸前だ。イノの方が一足早かった。
 観客は黙って聴いていろとでも言うのか、ノる間もなく、ステージは始まった。
 おかしいと感じたのは最初の一音目から。耳ではなく、胎内に響いてきた。
 
 「―――― ッ!?」
 
 「体で感じてっ、気持ちよく逝ってねッ!!」
 
 心臓が警鐘を打つ。速い速い。血の巡りが速い。
 頭が回らない。どうした、こんなんじゃ、気を保ってられない …… 。
 魔法の制御すら、ままならない …… !?
 
 「あ、あぁっ、だ、や、やめ …… くぅんっ!?」
 
 「ハハハハハッ!! なんだよ、イイ声出せんじゃねぇかよ、ガキのくせしてよォ!?」
 
 声が遠い。意識が虚ろ。
 体が音に叩かれる。強烈な音撃。苦しいまでの連撃の筈なのに、体は喜びで暴れている。自制がきかない。
 この感覚を覚えている。そうだ。ソルと闘った、橋の上で感じた奴の殺気。心地の良いまでの死への恐怖の再燃。あの時、私は純粋に嬉しかった。あぁ、まだ私は死を恐れることが出来るんだ、なんて思いながら。
 
 だが、これは絶対的に違う。こっちは喜んでなんかいない。
 無理やり、体が感じている。催淫剤なんかは、こう言う感じなのだろうか …… 。
 
 「あ、は …… はぁ …… ッ、だ、め …… やめ、ろ …… ォ!!」
 
 抗いたいのに、音は容赦なく私を叩く。
 ガンガンと体に響いてくる快楽は気持ち悪いのに、抵抗したくないとさえ思う。
 その快楽は、徐々に感覚を麻痺させていく。いつからだろうか、その快感が痛みに変わったのは。それが判らないほど、私はすべての感覚に快感を感じていた。
 
 「あ、が …… だ、めだ …… とォ!!」
 
 体が傷ついていく。なのに、頭が動かないせいで再生の操作が出来ない。体が、言う事をきいてくれない。
 ヤバい …… 。肌が破れて血が泡を吹いて地面を濡らしていく。いや、全部が血なのだろうか。
 削られていく。体が削られていく。殺がれていく。肉が殺がれていく。
 
 「そろそろフィナーレ、行くわよ?」
 
 激痛が身体を蝕んでいく。脳が働かない。
 
 痛い痛い―――― 気持ちイイ。
 痛い痛い―――― 気持ち悪い。
 痛い痛い―――― 胸が裂ける。
 痛い痛い―――― 腹が割れる。
 
 「い、あぁあああああああアアアァアあぁあああああ゛あ゛あ゛あ―――― ッ!!」
 
 「Thank You!」
 
 視界は、真っ赤に染まった。
 耳の遠く、音が途切れる。ボタボタと水より重い液体が地面に落ちる音が本当に遠い。膝が崩れる。硬い地面にゴツン、と当たる膝がどうにも気持ちイイ。ひんやりしていて、火照った体に気持ちイイ。
 
 ―――― ダメだ、しっかりしろ。体を起こせ。倒れるな。あいつに、頭を垂れるな。脳に血を巡らせろ。動かせ動かせ、体を動かせ。
 
 「ち。クダラナイとこで喰らいつくんじゃねぇよ。寝てろ、カス!!」
 
 「が―――― !!」
 
 踏まれる。さっきまで絶対に踏まなかった頭を、顔を。何度も何度も。
 
 「オラ、オラオラァ!! どうだ、冷たい泥は美味いかよ!?」
 
 「っ、あっ、い、 …… ッ、び、ぎ、あ、があッ!」
 
 もうダメだ。意識を保ってられない。血がなくなりすぎた。
 すまない、なんてガラじゃないが …… 。本当にすまないな、ぼうや。
 こいつを倒して、あっさり私が事件を解決して、貸しでも作って血をたんまり貰おうかと思ってたんだけどな …… 。
 どうやらぼうや、お前の血は飲んでやれそうにもない。
 
 私はここで、今回の舞台を降りるよ。
 おやすみ、ぼうや。
 
 …… あぁ、それと。
 ソル、お前に頼るのは癪だが、任せた。
 
 本当に、すまないな。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 森を駆け抜ける。
 視界が悪いが、避けられない程じゃない。若干のブレーキをかけながら、細かくステップして疾走する。
 光の柱とを目指せ、とは言っていたが …… 果たしてどれだけ離れているのか。1分近く走っているというのに一向に近づいている気配がない。いや、確実に近くはなっている。 …… それだけデカイ、ということか。
 
 「メンドクセェ …… 」
 
 おそらく、ガキはイノに勝てない。初見で勝てるほど、あの野郎は常識に乗っ取った奴じゃあない。
 たっぷりと時間を稼いでくれるか、またはしばらく行動制限がかかる程度の手傷を負わせてくれているなら重畳。
 それ以外なら、使え無い奴だということ。この世界の上限が知れる。あの学園に留まってまで、時間をつぶす必要はない。
 
 「 …… あン?」
 
 今一瞬だが、空になにかがいた気がしたが …… 。
 それにこの力の流れ……。まさかとは思うが、いやまさか …… 。
 
 「坊や、カイ …… か?」
 
 信じられない。一体どういうことだ?
 俺とイノ、アクセルの野郎の転移理由はだいたい解る。だが、それを考えに入れてみてもそれ程の力の衝突があったというのか?
 考えられる可能性がもうひとつあるとすれば、余波。アクセルと同じ理由だ。だが、形は違うだろう。
 坊やは俺と同様、力の衝突のが原因の時空歪曲。余波と言うのは、俺と俺が世界に及ぼした“傷”の事。時空歪曲が起こりやすいようになってしまった、ということ。
 少々の力の衝突であろうと、起こってしまうという …… 、不安定な世界へとなってしまった。
 
 「クソッタレ」
 
 だとしたら、この世界は何だ?
 必ず飛んでしまう、この世界は一体何なんだ……?
 問題があるとは言わないが、可笑し過ぎる。並行世界などという解釈がある。幾重にも重なり合い、また、違う歴史を歩んでいるという、いわばパラレルワールド。パラダイムの起こった世界が創る、もうひとつの自己保全のための世界。その無限とも取れる世界の中、なぜこの世界に限定されて逸脱する?
 天文学的な確率を超えている。無限大数の一。力任せに括ってしまえば、飛ぶか飛ばないか。まさしく専門分野の解釈だ。
 
 「 ………… 探る必要がある、か」
 
 この世界の『魔法』という単語。時代背景。そして時間。
 アクセルにも話を聞く必要が出てくるな……。とすれば、あの図書館にも行ってみる必要があるだろう。
 今まで行かなかったのは、これもまたパラダイムの発生を防ぐためだったが、仕方ない。
 
 「 …… 見えた。鬼 …… か? それに、は。やれやれだぜ」
 
 ブレーキをかけ、湖の畔に立って現状を確認するとする。
 見た限り、坊やが状況をややこしくしているようだ。まったく、きまらない正義を振り回すからこうなる。まずは現状確認。聖騎士団の制服をいつまでも着ているなら、それくらいのことをしやがれ。
 
 「 …… めんどくせぇ」
 
 乱入するよりも、傍観に徹した方がいいだろう。
 ややこしくするよりは、落ち付いて見ておく方がいい。
 
 「さて …… 坊や。どう切り抜けて見せる?」
 
 まったく、面倒なことに首を突っ込みたがる性分はどうにかならないものか。
 あぁそうだ、爺ィの孫とやらを助けろ、だったか。
 
 「 …… アレか?」
 
 檀上に仰向けで寝かされている少女。おそらくあれ。
 本当に似ていない。報告によれば、致命傷を一瞬で治癒したとか言ってたな。なるほど、ジャパニーズなわけだ。
 底が知れない“デカイ力”の内包。その使われ方。ぬるいな。
 
 「はぁ …… やれやれ」
 
 本当に面倒くさい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:20  end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

一週間がやっと終わった

ども、草之です。
ふぅ、やっと一週間が終わりました。

4月からのアニメ、まだ見てないんですけど。
狼と香辛料が7月スタートに向けて再放送中ですね、見ようかな。
あと、ハルヒはどうなってんだろう。再放送っていう表示もないのになぜか再放送されてるし。途中から突然2期に変わるっていうびっくり企画なんでしょうか。それと、ハルヒは時系列を整頓しての放送みたいですね。だから再放送じゃないんだろうか。

まぁ、今月はグレンラガンの螺巌編も放映されますし。初日に行ったら空いてるだろうか?
紅蓮編のときは放映一週間の間は、草之が行った映画館では空いていましたが、後編だし、それなりに入るだろうか。

さて。
ここでちょっと報告。というよりも謝罪。
『B.A.C.K』Act:3-2の最後においてギンガが出てきてますが、時系列的にありえないので、そのあたりを修正させてもらいました。といっても何が変わったというわけでもないので読み返す必要はないと思います。読み返すなら最後の方だけで十分事足ります。
すいませんでした。

そして、さらに更新予告に変更を。
『B.A.C.K』を今夜に更新。
『優星』を日曜日に更新。
『背炎』を木曜日に更新。

それと、更新ですが、これからは週頭と週末の2回更新になってしまいそうです。
日記はそれなりに合間を縫って書くでしょうけど、さすがに忙しくなってきたので。下手をすると週1くらいでしか更新できなくなってくる可能性も。あしからず、ご了承ください。

では以上、草之でした。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:3-3

 
 数日前の話になる。
 
 「ホンマは昨日あたりに行く予定やってんけどな …… 。どうやら、向こう側にもいろいろあって行かれへんかってんよ」
 
 「いろいろ?」
 
 聞き返すと、はやては頷いた。
 しばらくは無言で私となのはの前を歩き続ける。しばらく歩いて、静かに告げた。
 
 「六課設立の本当の理由 …… 。どうやら、この頃の出来事で変わってきたらしい」
 
 「どういうこと?」
 
 なのはが首を捻りながら疑問をぶつける。
 それでもはやては歩みを止めない。聖王教会の廊下を奥へ奥へと進んでいく。
 
 「詳しい話は、まぁ本当の理由を聞いてから話すわ。これは …… 下手こいたら六課がなくなるかもしれん」
 
 「 …… 」
 
 「 …… 」
 
 どういうことだろう。
 六課設立の真の理由が、六課を廃部にするだけの理由にもなるという事なのだろうか? 矛盾している気がする。
 元々実験的な部隊であることは分かっている。そのせいで切り捨てられやすいということも。
 だが、わからない。
 
 「ついたで。入ろう」
 
 はやてがドアをノックする。
 すぐに返事が返され、部屋に入る。一足先になのはが敬礼した。
 
 「高町なのは一等空尉であります」
 
 私も遅れずに敬礼する。
 
 「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」
 
 部屋の奥から一歩一歩を優雅に近づいてくる女性。彼女は微笑みながら柔らかな口調で挨拶を返してくれた。
 
 「いらっしゃい。初めまして、聖王教会協会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」
 
 来客用のティーテーブルに通された。
 そこには先に到着していたのだろう、クロノも同席していた。
 
 「失礼します」
 
 「クロノ提督、少しお久しぶりです」
 
 「あぁ。フェイト執務官」
 
 そんなやり取りを見てだろうか、本当におかしいからという理由しか考えられないような顔で笑われた。
 不思議と、そんなに嫌な気分ではなかった。これも騎士カリムの人徳なのだろうか。
 
 「お二人とも、そう固くならないで。私達は個人的にも友人だから、いつも通りで平気ですよ?」
 
 「 …… と、騎士カリムが仰せだ。普段と同じで――――」
 
 「平気や」
 
 クロノの言葉を受け継いだはやてのその言葉のニュアンスには“どうせこれから重い話をする”という意味がこもっていた気がしないでもなかった。そう言う風に友達を見るのはよくないんだろうけど、しょうがない。
 なのははそれをどう取ったのか、間髪入れずに改めて友達としての挨拶を繰り返す。
 
 「じゃあ、クロノ君久し振り」
 
 「お兄ちゃん、元気だった?」
 
 なぜこの場面でお兄ちゃん、なんかと言ってしまったのかはわからない。けど、呼んでおかないとしばらくはまた呼べないだろうし、ちょっと甘えたかったのかもしれない。
 反応は案の定、顔を赤くして、照れくさそうに私の言葉を否定した。
 
 「お互い、もういい歳だぞ?」
 
 「兄弟関係に年齢は関係ないよ、クロノ」
 
 「 ………… 」
 
 立つ瀬なさそうに俯きながら、クロノは黙りこくってしまった。
 ちょっといたずらが過ぎたかな …… ?
 いや、きっといつものことだろうから、気にしないでおこう。
 
 「さて。先日の動きについてのまとめと、改めて機動六課設立の裏表について。それから、今後の話や」
 
 さっきまでの空気を取り払って、はやてが切り出した。
 それに続くようにカーテンが閉まり、日が入らなくなると同時に外から覗くということが出来なくなる。
 クロノが静かに話し始めた。
 
 「六課設立の表向きの理由は、ロストロギア『レリック』の対策と、独立性の高い少数部隊の実験例。
 知っての通り、六課の後見人は僕と騎士カリム。それから僕とフェイトの母親で上官、リンディ・ハラオウンだ。それに加えて、非公式ではあるが、かの三提督も設立を認め、協力の約束をしてくれている」
 
 「!」
 
 驚く暇もないらしい。考えを纏めるのはまた後に回そう。
 今名前が挙がった後見人、三提督が映されたモニターは一斉に消え、代わりに騎士カリムが前に出る。
 正面に向き合い、彼女もまた静かに語り始めた。
 
 「その理由は、私の能力と関係があります。私の能力 …… 『預言者の著書[プロフェーティン・シュリフテン]』」
 
 騎士カリムが手に持った紙片を紐解くと、その一枚一枚が踊るように彼女の周りをぐるりと一周した。
 
 「これは最短で半年。最長で数年先の未来 …… 。それを詩文形式で書きだした、預言書の作成を行うことができます。二つの月の魔力が揃わないと上手く発動できませんから、ページの作成は年に一度しか出来ません」
 
 言うが早いか、二枚の紙片が私となのはの前に飛んでくる。うっすらと、これは古代ベルカの文字だろうか、それが書いてある。
 
 「予言の中身も古代ベルカ語で、解釈によって意味が変わることのある難解な文章」
 
 そう言われてみても、私達はこういう解読などは門外だ。情けない話、前に出された紙片の言葉や意味など、分からない。
 なのはもそのようで、顔を見わせるとすぐに首を横に振った。
 
 「世界に起こる事件をランダムに書きだすだけで …… 。解釈ミスを含めれば、的中率や実用性は割とよく当たる占い程度。つまりは、あまり便利な能力ではないんですが …… 」
 
 その能力が自分のものだからだろう。自嘲気味に苦笑しながら、騎士カリムは言葉を切った。
 今度はまた、クロノがそのことについて細かく説明を始めた。
 
 「聖王教会は勿論、次元航行部隊のトップもこの予言には目を通す。信用するかはどうかは別にして、有識者による、予想情報のひとつとしてな」
 
 「ちなみに、地上部隊はこの予言がお嫌いや。実質のトップが、この手のレアスキルとかお嫌いやからな」
 
 「レジアス・ゲイズ中将 …… だね」
 
 はやてが苦虫を噛み潰したような表情をする。
 いつか聞いた話、姉のような存在だとも聞いている。それを抜きにしても起こり得る情報の提供を嫌う、ということに関して、どこか悔しい思いがあるのだろう。
 分からなくもない。
 
 「そんな騎士カリムの予言能力に、数年前から少しずつ、ある事件が書きだされている」
 
 つ、とクロノは騎士カリムに目配せをし、その予言を読むように指示した。
 騎士カリムはそれに小さく頷き、一枚の紙片を手に取り、詠んだ。
 
 「『旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地
 死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る
 死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち
 それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる』」
 
 「それって!」
 
 「 …… まさか」
 
 嘘だと信じたい。そんな思いが込められた顔で、騎士カリムは嘘になれとその先を言った。
 
 「ロストロギアをきっかけに始まる、管理局地上本部の壊滅と …… そして管理局システムの崩壊」
 
 なるほど …… 。
 レジアス中将でなくとも、信じたくはなくなる。今までそれを成し遂げた犯罪者もいなければ、システムのバグも見つかったこともない。人員不足とは謳っているものの、そのあたり地盤はしっかりとしている。
 カーテンが開き、日が入る。一瞬だけ眼が痛くなって強く目をつむった。とても晴れやかな空だ。
 
 「情報源が不確定と言うこともありますが、管理局崩壊ということ自体が現状ではあり得ない話ですから」
 
 「そもそも地上本部がテロやクーデターにあったとして、それがきっかけで本局まで崩壊 …… 言うんは考えづらいしなぁ」
 
 「まぁ、本局でも警戒強化はしているんだがなぁ …… 」
 
 「問題は地上本部なんです」
 
 俯いていた顔を上げ、クロノは現状をざっと説明する。
 
 「ゲイズ中将は予言そのものを信用しておられない。特別な対策は取らないそうだ」
 
 「異なる組織同士が協力し合うのは難しいことです」
 
 「協力の申請も、内政干渉や強制介入と言う言葉に言い換えられれば、即座にいさかいの種になる」
 
 「ただでさえ、ミッド地上本部の武力や発言力の強さは問題視されてるしなぁ」
 
 ここまで聞けば何を言わんとしてるか、大体のことを理解した。
 六課設立の裏―――― 。なるほど、巧い考えだと思う。
 
 「すまないなぁ、政治的な話は現場には関係なしとしたいんだが …… 」
 
 「裏ワザ気味でも、地上で自由に動ける部隊が必要やった……。『レリック事件』だけで事が済めば良し。大きな事態につながっていくようなら、最前線で事態の推移を見守って――――」
 
 「地上本部が本腰を入れ始めるか、本局と教会の主力投入まで前線で頑張る、と」
 
 なのはらしい言い回しに微笑ましさを覚え、ちょっとだけ気が楽になる。
 そうだ。私達が頑張ればいい。なんなら、今回のことを餌に、地上本部を見直しさせることだって出来るかもしれない。
 …… っと。予言通りのことが起きないことが、一番いいのは変わらないけどね。
 
 「それが、六課の意義や」
 
 「そして―――― 今までの状況」
 
 騎士カリムがバッサリと切って落とした。
 そうだった。これが六課設立の本当の理由。はやてが話した、六課が潰れてしまうかもしれないという理由。
 
 「実は …… 言いづらいんやけど、ここまでのこと、六課が始まった当日にもうユーリには話してあったんやよ。今やから思うわ。話さんかったらよかった、てな」
 
 「どういう意味?」
 
 いい意味とも取れるし、悪い意味とも取れる。だが、はやての言葉を取るなら悪い意味だろう。
 
 「 …… これは、去年までの予言なんです。今年の予言は、一部変更されたんです。それも、悪い方向に」
 
 またサッとカーテンが閉まる。
 騎士カリムの周りにはまた紙片が舞い始め、一枚の紙片が彼女の手に収まった。
 
 「まず、はじめに言っておこう。これはまだ解析依頼を出していない。もちろん、ユークリッド・ラインハルトもこちらの予言は知らないままだ。知っているのは、僕と騎士カリム。はやて、そしてフェイトとなのは。この5人だけだ」
 
 「しかし、いずれは解析依頼を出します。その前に、貴女方は結論を出してください。ユークリッド・ラインハルトをどうするか」
 
 「 …… 私は、もう決めた。ユーリが起きたら、真っ先に話すつもりや」
 
 「 …… 」
 
 「 …… 」
 
 言葉がない。
 一体、どういう予言がなされたというのだろうか。
 騎士カリムは紙片を目線の高さまで持ち上げ、詠う。
 
 「『旧い結晶と無限の欲望が集い交わる地
 生ける王の下、聖地より帝の翼が蘇る
 生者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち
 それを先駆けに数多の海を守る法の船は穿ち落ちる
 この時、新たな歴史が幕を開ける』」
 
 死せる王が『生ける王』に。彼の翼が『帝の翼』に。
 死者は『生者』へと変換された預言。
 また、最後に『新たな時代』と追加されていた。
 
 「そして、これが意味するもの。こちらに情報がなければ …… 訳の分からないものだっただろうな」
 
 「 …… 前々から無限書庫に依頼していたものがあります。どうやら、はやても内密に調べていたようですが、つまり何を調べていたのかというと『ギプフェル王家』についてを調べて欲しいと依頼していたのです」
 
 「ギプフェル、ですか?」
 
 「確か …… ユークリッドが探してるっていう …… あの?」
 
 「そう。王家最後の生き残りミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェル。古代ベルカ語で『頂き』を意味するギプフェルとは一体如何なる王家であったのか …… 。それがちょうど昨日、調べ終わったのです。本当は昨日のうちに皆様にご報告したかったのですが、なにぶん大量の資料でしたから。まとめるのに時間がかかってしまいました。クロノ提督は航行日程をずらしてまで」
 
 「いや、気にしていませんよ。妻や部下からも少しは休めと言われてたので …… ちょうどよかったんです」
 
 そういうクロノの表情は明るいものではなかった。
 日程をずらした、ということに対してではなく、今回の予言に関してだろう。
 クロノはコンソールを操作し、モニターに資料を出していく。
 
 「ギプフェルとは、古代ベルカにおいて聖王統一戦争で唯一、聖王家に片膝つかせた王家だ」
 
 「な!?」
 
 「驚くのは後にしてくれ。話が進まないからな」
 
 「あ、ごめんねクロノ」
 
 クロノは改めて話を進める。
 
 「いいか?なら続けるぞ。戦記ものの書物の一端にこういう記されていた』
 
 “―――― 戦乱も中期。ギプフェルが表立って戦争に参加し始めたのは聖王がベルカを統一するのにもう時間はいらないと思われた時であった。彼の王族は『強化』ではなく『進化』を追い求めた王族と自らを名乗った。聖王に戦争を持ちかけた側としては圧倒的に少ない戦力と仕える騎士の少なさ。戦果は火を見るよりも明らかなものと、誰もが疑わなかった。だが、それは違った。聖王が唯一の存在だとするのならば、私は彼の王をこう称す。『聖帝』であると。
 
 その力は、聖王家の領土を3分の1喰らい尽くすほどであった。しかし、彼の王族らは民を奪わず、土地にも興味が薄い。それが逆に民らの目に輝かしく映ったのだろうか、自然と戦力は増大し、聖王ですら怯む数と結束力と相成った。
 
 彼の王族らには女王がいた。気高く、騎士としての姿をも持つ騎士姫であった。戦線に出ては聖王に仕える騎士を薙ぎ、民と触れ合えばまるで聖女のような姿。なによりもその赤き焔のような艶やかな長髪は見る者を魅了し続けた。聖帝とは、彼女のことである。また、聖王は彼女をこう呼んでいた『鮮焔の騎士姫』と。しかし、この聖帝はすでに人ではなかった。『進化』とはそういうことである。彼女は世界の蛇と契約ではなく、体を共にしていたのだから。
 
 後、その姿を見た騎士、民の多くはこう呼んだ。
 
 ―――― 『母なる竜の揺り籠‐Main Blut ist Welt Schlangene Karb‐』と。”
 
 「聖帝 …… ?」
 
 「そう、生ける王とはおそらくミルヒアイスのことだと思う。そして、そのレアスキル『母なる竜の揺り籠』が帝の翼。生者がどういうものなのかは分からないが、おそらくスカリエッティ一味と見て間違いない。そして、新たな歴史。これはミルヒアイスが次元世界を統一すると解釈すると――――」
 
 「 …… ユークリッド君が、スカリエッティ側のスパイだってこと?」
 
 「そうなるな」
 
 「ちょっと待ってふたりとも。じゃあ、ユークリッドはなんで捜索願をわざわざ、それにバレやすい聖王教会に?」
 
 クロノは俯く。
 それだけは口にしたくなさそうに。
 
 「普通に考えれば、隠れ蓑として。疑いが向けられないように、そうしむけたと思う。今までのこと全てが演技だとすれば、大した役者だとは思うね。あとは―――― はやてに付け入るために」
 
 はやてを向けば、笑っていた。
 苦笑いでも、騙されたという自嘲でもなく、本当におかしそうに笑っていた。
 つまり、クロノはこういいたいのか?
 
 「はやてが姉も同然と慕っている人物を頼れば、はやての信頼を得やすくなる、と?」
 
 「そういうことだ」
 
 呆れた。
 本気でそんな事を言ってるのだろうか。今すぐエイミィと別れることをお勧めしたい。
 
 「彼は、本当にはやてが好きだったんだと思うよ。それは間違いないよ、絶対」
 
 「 …… だとしたらこういう解釈もある。撃墜されたのはワザと、ということだ。後ろめたい気持ちになって、罪滅ぼしに――」
 
 「死ぬつもりだったって!? 馬鹿言わないで!!」
 
 「 …… フェイト。なぜ君がそこまで熱くなる? はやてならいざ知らず」
 
 「私は知ってる。彼がそんな事を考えるような馬鹿な人じゃないってことくらい。彼は、彼は―――― ッ!!」
 
 「フェイトちゃん、もうええ。どうにしたって、解析されれば上はそういう結論を出して、そして逮捕状が発行される。そして、それに気が付かず所属させていた機動六課は、責任を取らされて解散、っちゅうこっちゃ」
 
 「はやて …… っ、それでいいの!?」
 
 「 ………… 」
 
 「黙んないで、なんとかいっ――――」
 
 「うっさい!! もうええんや、もう、もう ……―――― ッ!!」
 
 はやては力なく項垂れた。
 すすり泣く声が聞こえる。やってしまった …… 。私は、なんてバカなんだろう。
 だから、私は …… 彼に憧れていたのに。また私は …… やってしまった。
 
 「ユーリは、犯罪者なんやよ …… ッ!!」
 
 「 …… ごめん」
 
 なにかが、壊れ始めていた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ぐ、うぁ …… っ」
 
 「ふぅ。ちょっと苦戦したかしら …… 。まだ感覚が戻らないものね」
 
 「ちっく …… しょッ、舐めやがってェ!!」
 
 「舐めてなんかいないわ。むしろ感謝してるもの」
 
 「ハ。体動かせ、て、相手、をボコボコに、すりゃぁ …… そりゃ気持ちいいだろうな!?」
 
 「何勘違いしてるの」
 
 「あ?」
 
 彼女はノーヴェに手を差し出す。
 ノーヴェはその手を払い、自分だけで立とうとするものの、やはりダメージが大きいからだろう、フラついて彼女に支えられた。
 
 「私はね、ノーヴェ。私のワガママに付き合ってくれる貴女が可愛いの」
 
 「ッ!? や、ヤメロ! んなこといっても、私は絶対にお前を信用なんかしない!!」
 
 「いいわ。裏切られ、騙されるのは慣れてるから。貴女のその言葉が本音じゃないことくらいよく分かるんだもの」
 
 「ち、違う! 私は嘘なんかいってねぇ!!」
 
 そろそろ止めるとしよう。でないといつまでも続きそうだ。
 まぁ、そうなればそうなったでふたりとも楽しむだろうが。
 
 「ドクタースカリエッティ。見てたの?」
 
 「あぁ。素晴らしい戦いぶりだった。さすが鮮焔の」
 
 「 …… その名前はもうずっと前の人のものよ」
 
 「嘘はいけないよ、嘘は」
 
 「じゃあ、私が300歳以上だって? 人としてあり得ないでしょう?」
 
 本当に面白い。
 ちょっとからかっただけだというのに、ここまで怒ってしまうとは。女心、というのは永遠のテーマなのかもしれないな。
 それはともかく、さて。
 
 「連れてきてあげたよ、アギトだ」
 
 「 ………… 」
 
 私の後ろをフヨフヨと浮かんでいる融合騎は黙り込んでしまっている。
 
 「アギト、大丈夫?」
 
 「あ、ああ」
 
 そのさらに後ろ。ルーテシアが声をかけると、ようやくアギトが動き出した。
 私の隣をすっと通り抜け、彼女の前まで飛んでいく。
 
 「今はアギトって言うのね?」
 
 「!? あんた、私を知ってるのか!?」
 
 「知ってるなんてものじゃないわ。私が貴女のロードだもの」
 
 「なぁっ!?」
 
 マイスター、とは言わないあたり、本当に年齢を隠すつもりでいるらしい。
 ところで、アギトの真名はなんというのだろうか。あざなは烈火の剣製で違わないのだろうか。
 どうなのだろう?
 
 「貴方がたがアギトを今までお世話してくれたのかしら?」
 
 「うん。でも、アギトにもいっぱいお世話されたから」
 
 「そう。ありがとう」
 
 彼女はルーテシアの頭を優しく撫でた。それに対してのルーテシアの反応は年相応の少女らしいものだった。
 くすぐったそうに肩をすくめて、照れくさそうな表情をしていた。
 
 「 …… アギト、貴女は貴女の真名を知りたいと思う?」
 
 「それは …… その …… 」
 
 「ふふ。いいのよ。記憶が欠落してるとドクターから聞いているわ。そうなのだとしたら、私よりも騎士ゼストと過ごした日々の方が貴女にとって本物でしょうから …… ね?」
 
 「すまねぇ。いきなり過ぎて、さ。あの …… ほんとに私のロード、なのか?」
 
 アギトは不安そうに、裏切られるのではと心の隅で思っていることだろう。そんな心配を払拭するかの如く、彼女の笑顔は眩しかった。そのまま頷き、アギトはボロボロと涙を零していく。
 私には分からない。なぜ泣くのだろうか。それも、感性の違いというのだろうな …… 。
 
 「ドクタースカリエッティ。アギトの望むままにしてあげて頂戴。それからルーテシアと、騎士ゼスト …… 。貴方達もありがとう。アギトはちっとも変っていなかった。これからもよろしくしてあげてね?」
 
 「うん。わかった」
 
 「任された。非才ながら尽力しよう」
 
 「うふふ。頼もしいわ」
 
 ルーテシア達は本来の形のまま、研究所を去って行った。
 アギトは最後まで名残惜しそうにしていたが、彼女の「いってらっしゃい」の言葉で飛び出した。
 出かける際に放つ言葉であるそれは、つまりいつでも帰ってきなさいという意思表示なのだろう。
 
 「 …… 話しておきたい事がある」
 
 「なにかしら?」
 
 「ここは管理局ではないんだ。そして私はいわゆる犯罪者ということになる」
 
 「 …… そう。気付いていたわ」
 
 「捕まえるかい?」
 
 「いいえ。まだお話はそれで終わりじゃないでしょう?」
 
 「勿論だとも。話したい事、というのは他でもない」
 
 ナンバーズの姉妹たちも集まってきた。
 張りつめられた緊張感が場を支配し、すべて私の言葉を待っている。
 
 「―――― 管理局に、復讐したくはないか?」
 
 「 …… なぜ?」
 
 「君自身が一番知っているだろう。幾度にも渡って続けられた生体実験。君を人として見ない管理局員の理不尽な態度。どこをとっても、君が復讐するに足る理由がある」
 
 「―――― そうかしら。私も馬鹿じゃないのよ? ここの施設で管理局のこと、調べさせてもらったもの。まぁ、そこでたまたま貴方のことも見つけたんだけどね」
 
 「そうかい。それで?」
 
 「今のこの世界で、管理局の影響力は凄いわ。それが私のような被害者をだしている組織だとしても、同様に。あえて言うわ、ドクタースカリエッティ。私はもう、復讐なんてしない」
 
 残念だ。
 どうやら、本当に馬鹿ではないらしい。一国の王だったことはある。自分の私怨を押し潰してまでも、民のためにあらんとするその姿勢。素晴らしいものがある。
 
 「このミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェル。そこまで落ちぶれた覚えはない!!」
 
 一喝。燃え盛る焔は勢いを増す。
 彼女の魔剣から吹き出る焔はまるでプロミネンスのようだ。とぐろを巻き、這う蛇のように質量を持っているのかという錯覚。
 おそらく、しっかりとした計測はしていないが、実力だけを見ればSSは固い。ノーヴェが手も足も出ないわけだ。ちなみに、トーレとは顔を合わせないようにしている。おそらく、覚えているだろう。
 そしてなにより、自分でここまで情報収集するとは …… 。そちら関係のことも、第一線級と対等にこなせているということかもしれない。本当に残念だ。
 
 「なら、どうするね?」
 
 「貴方がたを、逮捕します」
 
 「律義な方だ。だが、それで本当にいいのかい? 君はその昏い感情を押し潰したままで、いいのかい?」
 
 「何が言いたい、ドクタースカリエッティ?」
 
 「いや、特に言うことはないさ。ただ、君はどうだと聞いているだけなんだがね?」
 
 彼女は押し黙る。
 魔剣の焔は絶えず脈動し、ねっとりと空間を絞め上げていくようだ。鮮やか過ぎるものは、時に酷く歪に映るものだ。
 そう、気高すぎる彼女もまた同じ。
 
 「 …… 何度言わせたら気が済むのかしら。それとも、嘘でも言って欲しいの?」
 
 「嘘 …… というのは一体何だと思うかね」
 
 「聞いているのはこちらよ」
 
 「嘘。それは表面上の仮面を言うのではないのだろうか。なら、君が先程口にしたことこそ、嘘ではないのかね?」
 
 「よくしゃべる口ね。まるで父王のような人だわ。大嫌いな人だった」
 
 「さぁ、もう一度聞こう。 ………… 管理局に、復讐する気はないかね?」
 
 「くどい!」
 
 「そうか、残念だ」
 
 「―――――― ッあ゛!?」
 
 体の自由が利かなくなっても、手に握る魔剣を放さないところ、さすが武人というべきか。
 そして、揺さぶりにも全く動じない大山が如き魂。その身に宿す人として歪すぎる能力。
 本当に残念だよ。
 
 「私がこれを予想していなかったとでも思ったかね? 君がここに来た時からずっと、この用意は進んでいたんだよ」
 
 魔剣に宿る蛇炎は消え去り、魔剣を杖に立っているのがやっとという風貌だ。
 食事や定期健診の時に、少しずつ彼女の体内に潜ませていたナノマシン。私が手元一つのボタンを押せば一気に活動を始め、ある種の催眠状態に持ち込む。そこから深層心理を抉りだし、表面に顕在させる。他の感情は少々希薄になってしまうが、なに―――― 。
 
 「戦闘兵器に、心はいらないだろう?」
 
 「ぐぁああああああああああああああああああ―――――――― ッ!!」
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:3-3  end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:21

 
 アクア・アルタだった。
 いつもの路地を歩いていても、バシャバシャと水を切る音が絶えない。足には特に目立った傷もなく、アクア・アルタであることからもハーフパンツとサンダルで出掛けていた。思った以上に似合わないが、仕方がないと割り切ってサン・マルコ広場に出ているであろう露店へ歩を進める。
 今日は、ボッコロの日だ。
 
 「まったく、なにもこの日にアクア・アルタが来なくてもいいじゃないか」
 
 ひとりごちてから、空を見上げた。
 朝早くから出てきてしまったため、まだ薄暗い。小鳥が建物の隙間から見える空を横切っていく。ちちち、とさえずって朝が来た事を住民に知らせていた。
 数分歩くと、もう通い慣れた広場が視界いっぱいに広がった。さすがに早すぎるのか、見えるだけでも数人単位でしか確認できない。
 その中で露店を出している青年を見つけた。真紅の薔薇の花をカゴいっぱいに詰め込み、そのカゴも数十個とかなりの数だ。それほど大きな祭りごとだという事なのだろう。中には俺のような人がいるのかもしれない。
 
 「すいません。あー、8本ください」
 
 言ってから恥ずかしくなった。
 ボッコロの日はそもそも、愛する女性に一本の薔薇の花を贈ることが通例。それを8本。どちらかというと俺は愛する、ではなく親しい …… 世話になった人に贈ろうと考えているのだ。そんな俺の考えなんて知る由もなく、青年はニヤリと顔を歪ませた。
 
 「旦那、悪い男ですね」
 
 「否定はしないさ。だけどな、アンタが考えてるような下賤な理由じゃないぞ」
 
 「と、言いますと?」
 
 「親しい女性全員に配ろうと思ってるだけだ」
 
 「 …… 本命は?」
 
 「だから――――」
 
 「すいませんすいません。ハハ、そんな怖い顔しないでくださいよ。この頃少ないんですよね、本気で愛する人にたった一輪の薔薇を渡すって人が。中には店の薔薇をたったひとりのために買い占めていくような性質の悪い野郎もいますけどね」
 
 確かに。性質が悪いと言えばそうだろう。まとめ買いをしてくれるのは在庫をさばけて楽だという反面、他の人に薔薇が渡らなくなる可能性もあるということだ。そんな子供みたいな発想を持つ奴がどこの世にもいるもんなんだなぁ。
 
 「あ、オレはこの店の倅でアントニオっていう者ですわ。これからも、御贔屓に」
 
 「俺は衛宮士郎だ。よろしく、アントニオ」
 
 すっくと立ち上がって薔薇を渡す際、頭が俺よりも若干高い位置にあった。190近いな、彼は。
 髪は淡い茶髪。短く切られ、体は長身とは反してあまり鍛えている風ではない。かと言ってひょろっとしているわけでもなく、ある程度のトレーニングはしているようだ。瞳は赤茶色としている。少し、昔を思い出すような姿の青年だった。
 
 「はー。それにしても8本ですかい旦那。オレはそんなに女性の知り合いはいないっすねぇ」
 
 「そうなのか? 花屋などと言うと、よく女性が来るんじゃないのか?」
 
 「それがまぁ、来ますよ? 来るんですけどね、そんなたかだか店員がお客様を口説いてどうするんすか」
 
 「まぁ、倅という話だしな。親方にでも怒られるか?」
 
 そりゃもう、と仰々しく腕を広げてその恐ろしさを存分に伝えてくれる。
 しばらく談笑していると、ふとアントニオが思い出したように尋ねてきた。
 
 「衛宮の旦那は、どういった仕事をしてるんで?」
 
 「俺か? まぁウンディーネの会社で事務員、といったところか」
 
 「ははぁ。なるほどなるほど、そりゃ女性のお知り合いが多いわけで …… 。で、その会社は?」
 
 「聞いてどうする? まぁ、ARIAカンパニーだが」
 
 「なんとまぁ!」
 
 これまた大きく腕を広げ、自分の感情を表す。どうやらボディランゲージが癖らしい。
 ARIAカンパニーが有名だということは知っていたが、ここまで驚かれるような事なのだろうか?
 働いている、といっても高々事務員だ。
 
 「オレも例にもれずにアリシア嬢のファンだってことですよ」
 
 「そうなのか」
 
 「て、ことはその中の一本は彼女用だってことですね?」
 
 「まぁ、そうなるな」
 
 「くぁー!! 羨ましいぃ―――― っ。言ってみたいねその言葉! 『まぁ、そうなるな』かぁ …… はぁ」
 
 また軽く感情を腕で表現して項垂れてしまった。この反応だといるのだろうか、誰か渡したい女性が。
 あまり深く突っ込むのもどうかとは思うが、尋ねてみるとするか。
 
 「渡したい人でもいるのか?」
 
 「分かります? でもね、旦那。オレと彼女は付き合ってるわけでもなければ知り合いなんてもんでもない。情けない話、話しかけらんねぇんですよ。それをいきなりこの日に薔薇を渡してみなさいな。初めて会った人に、いきなり『愛しています』なんて言われて、ひかない奴なんていませんよ …… 」
 
 「否定はしないがな。なにかきっかけでもあればいいのにな」
 
 「っすねぇ。いやさ、オレが話しかけて知り合いにでもなってたらもうちょっと変わってたと思うんですけどね」
 
 はぁ、と肩を落とす。
 とっつきやすい性格とはまた別に、純情な奴でもあるらしい。
 それにしても、いろいろと長話をしてしまったようだ。まだ薄暗いと思っていた空はとっくに青く澄んでいた。見回せば、人の影も比べ物にならないほどに多くなってきていた。このまま話していてもいいのだが、それではアントニオの営業妨害も同じ。そろそろ席を外させてもらおう。
 
 「そろそろ行くとするか。なかなか楽しかった」
 
 「はいよー。毎度ありがとうございました」
 
 思った以上に疲れてしまった。
 立って話しているだけなら何ともないのだが、何度も言うように今日はアクア・アルタだ。足首を軽く越え膝下まで浸かる水位の中で突っ立っていると、これがなかなかに疲れる。流れがないのならそれ程気にはしないのだが、海と繋がっている手前、波が来る。リラックスしていると気がつきにくいが、体が波に揺られるのだ。
 
 ざぶざぶと水をかき分けて向かう先は『浪漫飛行社』。
 アルトリアが働いていたシルフの会社だ。聞けば、まだアルトリアの社員札は破棄されていないらしい。
 浪漫飛行社の看板が掲げられた建物の前に立つ。思えば、実際にアルトリアの働いている姿を見たことがなかった。そうなると、自然に社員の方々とも初めて会うことになる。まぁ、彼女が意図して見せたくなかったというのもあるのだろうが。
 
 「すいません」
 
 「いらっしゃいませー、浪漫飛行社へようこそ!本日のご用件は―――― あら、もしかして …… 衛宮士郎さん?」
 
 「え? あ、はい。そうですが」
 
 なぜ俺の名前を知っているのだろうか、なんていう疑問は愚問だろう。きっとアルトリアが話していたに違いない。
 きゃー、やっぱり! とはしゃぐ受付嬢が奥に向かって何かを叫んだ。聞き間違いでなければ、親方ー、と言っていた気がする。あのアルトリアが“苦手だ”と明言した人物である。
 
 「おう、どうしたい」
 
 奥から出てきたのは、がっしりとした体つきの初老の男性だった。白髪ではあるがまだまだ禿げる気配はない。煙草を咥えながら、俺の事を訝しげに見つめてきた。
 
 「お前さん、エミヤシロウだろう?」
 
 「はい」
 
 「イイ男じゃねぇか。さすがアルトリアが見込んだだけはあるぜ」
 
 そう言ってもらってどういう反応を返せばいいのかがわからなかった。正直に喜べばからかわれそうではあるし、そんなことはないと謙虚な態度に出ればからまれそうだ。なるほど、彼女が苦手というのも分かる気がする。
 さて、と親方が切り出した。
 
 「どういったご用件かな、エミヤシロウ。アルトリアの惚れた男だ、何でも聞いてやれることは聞いてやるぜ?」
 
 薔薇の花をそのまま手に持っていなくて正解だった。もし8本もの薔薇を見たら、この親方がどうでるか怖くて想像もしたくなくなる。もうほとんど親代わりだ。
 
 「では、これを彼女の社員札と一緒に置いてやってくれませんか」
 
 一輪だけを袋から取り出し差し出すと、受付嬢並びに親方は怪訝な顔をした。
 一応と受け取った薔薇を睨むように眺めてから、親方が口を開いた。
 
 「どうして本人に贈ってやらねぇんだ、あんた」
 
 「贈れないんですよ、彼女には、もう」
 
 「 ………… そうかよ。あいわかった、これ以上は訊かねぇよ」
 
 納得のいかないような顔をされてしまった。そういう顔をされてもしょうがないんだろう、助けられなかった俺の責任なんだから。
 親方はそのまま奥に戻って行き、戻ってくることはなかった。
 ただ、浪漫飛行社を出る直前、受付嬢が呟いた。
 
 「 …… 最低」
 
 「―――― 知ってる」
 
 もうここを訪れることはないだろう。
 いや、訪れられないか。ふと見上げた空は青く澄んでいた。まるで彼女のドレスのようだ。
 もし受付嬢すら罵倒してくれなかったなら、俺はとても平気な顔でいられなかっただろうと思う。そう、俺をここで罵ってくれるということは、それだけアルトリアを愛してくれていたということなのだから。
 
 「ふぅ。つくづく損な奴だな、俺は」
 
 知っていた。
 それとも“損”だと思えるようになったのは成長なのか、アイツに近づいてしまったからなのか。
 なんとも言えない、ちょっとした罪悪感を残して、浪漫飛行社を去った。
 
 
 …… さて。
 どうしようか。
 
 「晃さーん! 私の薔薇を受け取ってくださぁーいっ」
 「晃譲、俺の、俺の薔薇こそ貴女にふさわしいぃ―――― !」
 「きゃーっ! 私の薔薇を受け取ってくださったわぁ」
 
 ご覧の通りである。
 晃と藍華に薔薇を渡そうとして姫屋に来てみればこの騒ぎ。人人人の波。水路との境が分かりづらい今日のこの状況では、とても危険な状況である。一歩間違えば、誰が気づくとなく溺れる人が出るかもしれない。そんなこと、晃だって望んじゃいないだろうに。
 さて、どうしようか。
 
 「あ、衛宮さん。おはようございます」
 
 喧騒の端っこから顔出したのは藍華だった。
 とりあえず薔薇を渡す前に、この人の多さをどうにかすべきだろう。姫屋の一人娘である彼女に頼めば、ある程度この騒動を鎮められるかもしれない。
 
 「藍華、ものは相談なんだが――――」
 
 遅かった。
 人の波の最後尾、まだ10もならないだろう少女が水路に落ちた。誰も気が付いていない。そして、先に言った通り膝丈まである水位を歩けばかなりの体力を奪われる。それが10にもならないような少女であれば、その疲れは混乱と同時に一気に解放される。
 
 結果、足が攣るなど、溺死の原因にもなる。
 
 走った。水路に近いところで泣き叫んでいるというのにあまりの喧騒に誰も気が付いていない。
 しかも、上手く前に進めないときた。人が多すぎる …… っ。
 
 「畜生ッ!」
 
 悪態をついても何も変わらない。迷うことなく水路に飛び込んだ。
 子供一人よりも、大人が飛び込んだ音の方が大きい。ここでようやく他の人だかりも少女の存在に気が付き始めた。
 それとほぼ同時、少女の体を支えられる位置にまで泳ぎ着いた。
 
 「頑張れ、もう大丈夫だ」
 
 「う、っえぇっく。ひっく、うぇえええっ!」
 
 「大丈夫、大丈夫だから」
 
 少女の半身が水面より上になるように抱えて、通路に泳ぎ寄る。
 先に少女を陸に上げてやり、あやしてやる。
 
 「衛宮!」
 
 人だかりを掻き分け、奥の方から晃が走り寄って来た。
 少女ははまだ泣き続けていた。
 
 「ごめんなさい、ごめんなさい …… 」
 
 晃はただひたすらにその言葉だけを繰り返している。
 いつしか少女は泣きやみ、とても申し訳なさそうに晃を見上げた。
 
 「あきらさん、あのね …… わたそうと思ったばらの花ね …… おとしちゃったの …… 。だから、だからごめんなさいはわたしのほうなの。だから、なかないで」
 
 見回してみると確かに。水路の向こう、薔薇の花が一輪浮かんでいる。
 
 「ちょっと待っていてくれ。俺がとってくるよ」
 
 「ほんとう?」
 
 「あぁ、もちろんさ」
 
 水路の壁を蹴って泳ぎ始める。数秒もしないうちに薔薇の花を掲げ、少女に見えるように振ってみせる。
 すると、花が咲いたように彼女は笑ってくれた。隣にいる晃も、どこか微笑ましくこちらを見ている。
 花弁を散らさないよう、ゆっくりと戻り、少女の手に薔薇の花を戻してやる。
 
 「ありがとう、おじさん!」
 
 「はは。おじさん、か」
 
 「ありがとう衛宮。服、乾かしていくか?」
 
 おじさんなんて言われる歳になっちまったんだなぁ、と感慨にふけっている暇もなく、晃はそう言ってくれる。
 それよりもまずは、この人だかりをどうにかするべきだろう。
 こんなことが二度も三度も起きちゃ、たまったもんじゃない。
 
 「そうだな …… 。その通りだ。ごほんっ」
 
 晃は咳ばらいを一つして、おそらく彼女のファンだろう人だかりに向かって声高々に言い渡す。
 
 「あー。みなさん、えっと …… 気持はとてもありがたいです。でも今みたいなことが起きれば私だって、それにみんなだって嫌だと思う。だから、ちゃんと並ぼう。私は誰からの気持も受け取らないなんてことはしたくないし、誰かが気持ちを伝えられないなんてことだって嫌だ。だから、順番に並んで待っていてくれないか?」
 
 それに彼らは文句の一つもこぼさない。
 藍華の先導のもと、綺麗に並び始めた。
 こうなっちゃ、俺も並ぶしかないんだろうなぁ。やれやれ、参ったな。
 
 「ほら、行くぞ」
 
 「? 行くって、どこへ?」
 
 「あぁん? 服、乾かすんじゃないのか?」
 
 「あ、そうか。いやでもこんなに待ってるんだ、先にそっちを片付けろよ」
 
 「馬鹿言うな。そんなことしたらお前が風邪引くだろ。そんな後味悪いこと、私が出来ると思うか?」
 
 「思わない。お言葉に甘えさせてもらうよ」
 
 水路から上がると、少女が袖をくいくいと引っ張った。
 見下ろすと、とても嬉しそうな顔をして「ありがとう」ともう一度、伝えてくれた。
 そんな少女の頭を撫でて、手を引いていく。どうせこの子も濡れてるんだ、服くらい一緒に乾かせばいい。
 
 「君は晃が好きなのか?」
 
 「うんっ。きれいだし、かっこいいし、それにすごっくやさしいの!」
 
 「だってさ、どうだ、晃?」
 
 「どうって何がだよ。う、嬉しいに決まってんだろっ」
 
 お客様だったのだろう少女のことを少しでも覚えているのか、面と向かって褒められると照れ臭いらしい。ふいっとそっぽを向いて照れ隠しをする様は、いつみても子供っぽい。
 少女とふたりしてクスクスと忍び笑いをしていると、すごい形相で睨まれた。
 でも、それがまたおかしくて、少女も怖がらずに声を上げて笑っていた。
 
 「衛宮さーん!」
 
 「お、藍華。表はもういいのか?」
 
 「はい。一応整列はさせましたよ。と、コレ。大事なものなんじゃないんですか?」
 
 薔薇の花だった。正確にはそれが7本入っている袋だが。
 飛び込む前に投げ出してしまっていたらしい。
 ちょうどいい、フライングになるがそれくらいいいだろう。遅いか早いかの違いだ。
 袋から2本を取り出し、それぞれ晃と藍華に渡す。
 
 「俺からの気持だ。これからもよろしくな」
 
 「わぁっ、これ、もらってもいいんですかっ?」
 
 「もちろんだとも」
 
 キャッキャとはしゃぐ藍華とは対照的に、晃は俺が渡した薔薇をじっと見詰めている。
 どこか傷ついてしまっていたのだろうか。
 
 「本当に、貰ってもいいのか?」
 
 「なんでさ? 遠慮でもしてるのか、らしくない」
 
 「ばっ、ち、違うわっ。貰えるもんは貰っといてやる。ありがたく思え!」
 
 「素直じゃないな、晃は」
 
 「すなおじゃないなぁ、あきらさんは」
 
 「素直って言葉、知ってますか晃さん」
 
 「すわ―――― っ!!」
 
 こうして、姫屋でも一悶着あったが無事彼女らにも薔薇を渡すことが出来た。
 それに、もうひとつの収穫。
 
 「わたしね、アミって言うの。おじさんの名前は?」
 
 「俺か。俺は衛宮士郎。魔法使いなんだ」
 
 「わぁーっ、すごーい! よろしくね、しろうさん!」
 
 キサラギ・アミ、というらしい。
 小さな、友達が出来た。
 
 
 どこもかしこも、似たり寄ったりらしい。
 俺の目の前には姫屋とほぼ変わらないような喧騒が繰り広げられていた。
 半時間は使って乾かした服をまた濡らすようなことにならなければいいのだが …… 。
 
 と、思ったのは杞憂だった。
 乾いた拍手が広場に響き渡り、正面玄関から一人の女性が出てくる。
 どこかで見たことがある顔だ。どこだったか …… 。
 
 「みなさん、整列してください。これではまともに営業もできません。只今から受付を設け、そこで薔薇の受け取りを行います。本人に直接渡すことが出来ないのはこちらとしても大変心苦しいのですが、どうか悪しからずご了承ください。受け取りの際、誰に渡すための薔薇なのか、それを確認いたしますので、お客様がたのお名前と一緒にお教えください。では、今から整理券を配ります。前の方から順番に、“順番”に取っていってください。それを守らないようでしたら、すみませんが回れ右してご帰宅願いますので」
 
 あぁ、思いだした。
 月刊ウンディーネの業界リレーコラムによく出てくる人だ。確か人事部長のアレサ・カニンガム女史だ。
 あの年齢でここまで大きなオレンジぷらねっとの人事部長を務める才女だ。コラムには自社のことだけでなく、案内業界全体を視野に入れた営業論や、業界のこれからなど、俺からしても中々にタメになる話が多い。まぁ、夢を潰すのが仕事と取っている部分があり、ある一部では『鬼婆』などと呼ばれているらしいが、定かではない。美人だと思うが。
 
 俺も素直に整理券を取り、順番を待った。
 手際がいいのか、100番台後半だったというのに15分程度で順番が回ってきた。決められた窓口に歩み寄ると、対応相手が件のアレサ女史だった。
 
 「187番の方ですね。お名前と、渡す相手をどうぞ」
 
 「衛宮士郎です。アテナ・グローリィと、アリス・キャロルに一輪ずつ、お願いします」
 
 「衛宮、士郎 …… これでよろしいですか?」
 
 「あ、はい」
 
 「 ………… えみや、しろう? ちょっと待ちなさい」
 
 もう用事は済んだと回れ右をした瞬間、アレサ女史に呼び止められた。
 俺が何かしたんだろうか。おそるおそる振り向いてみると、まるであかいあくまのような笑みを浮かべた彼女が名刺を取り出し、こちらに差し出していた。
 俺、名刺とか持ってないんだけどなぁ。
 
 「人事部長をしています、アレサ・カニンガムです」
 
 「はい。よく月刊ウンディーネのコラムを読ませてもらっています」
 
 「そうですか、ありがとうございます」
 
 名刺を受け取り、さてどうしようかと迷っていると、突然とんでもないことを言い出した。
 
 「今度、一緒にお食事でもどうですか?」
 
 「は?」
 
 何を言ってるんだ、この人は。
 俺を知っている風だったが、どういった経緯で俺のことを知ったのか。さておき、これはいわゆるお誘いというやつだろうか。
 それとも、邪推になるがARIAカンパニーを取り込もうとでもしているのだろうか。
 後者の方が可能性としては高い。俺自身、結構な多さで「ARIAカンパニーに勤めている」と言ってしまっているが、まさかこんなところで引っかかってしまうとは。だが、女性のお誘いを断るというのも頂けない。
 
 「それはどういった意味で …… ?」
 
 「 …… アテナからよく話を聞きます。それで単に興味が湧いただけですが?」
 
 確かに、と言えばアテナに失礼だし俺が言うのも何だが、アテナはどこかそういう色恋沙汰に疎そうな気がする。そんな彼女の口から男の名前が出てくるのだ、興味を持たないわけがないか。
 
 「もし都合がつくというのなら、名刺に書いてありますメールアドレスか、電話番号にご連絡を」
 
 「 …… わかりました」
 
 結局アテナとアリス本人には会えず仕舞いだったが、ここでも収穫が得られた、のだろうか?
 まぁ、思いがけない出来事が起こった、というところでは間違いなさそうだが …… 。
 
 
 次に回ったのはアイナの家だ。
 もちろん、今日のような日はきっと家に籠っているだろう事が予想出来る。
 案の定、彼女は近所の子供らと水遊びをしていた。
 
 「よう」
 
 「あー、エミヤン。どうしたのさ?」
 
 俺に気づいて立ち直すと、子供たちにこれ幸いと大量の水をぶっかけられる。
 頭から足まで、もとからびしょ濡れだったのが、さらにびしょびしょになっていた。もう風呂上がりとかそんなレベルじゃない。
 
 「うえー。ちっくしょー、ガキども覚えてろよ」
 
 「いい歳なんだから、いい加減にしとけ」
 
 「いい歳になっても遊び心を失わない人が大成するもんなんだよ」
 
 「お前のどこに大成する才能がある。耳としっぽでも生えてくるのか?」
 
 ぶーっ、と知り合いの誰よりも子供っぽい仕草で膨れる。
 なぜだろうか、こいつと話しているとふと思い出す顔がある。あの姐さん教師だ。
 向こうは猫なんて生易しいもんじゃなかったが、まぁ人懐っこいとこやら、ちょっぴり独占欲があるところなんて本当にそっくりだ。
 さっさと薔薇を渡して次に行こう。
 
 「これ、やるよ」
 
 「あっれまー。えへへ、なになにエミヤン。やっと私の魅力に気がついたのかにゃ?」
 
 「そんなんじゃない。世話になってる人にひとつずつ配って回ってるんだ」
 
 「あっそ。まぁそんなんじゃないかと思ってたけどさ。もうちょっと気をきかせてドキッとさせてくれてもいいんじゃない?」
 
 「俺がそんなに器用な男に見えるか?」
 
 「見えてると思ってんの?」
 
 「お前と話してると妙に疲れる」
 
 褒めた覚えはないのに、どことなくアイナは嬉しそうだった。
 まぁ、こういう日にどんな形であっても薔薇を貰えた、ということが嬉しいのかもしれない。バレンタインのクラスメイトからの義理チョコの心理だ。たとえ本命でなくても貰えたこと自体が嬉しい。一成とか、どちらかというと困っていたような気がしないでもないが気のせいだろう。そう言うことにしとく。
 アイナの胸辺りに赤い薔薇がくっついた。嬉しそうに笑った途端、後ろから大量の水が覆いかぶさるようにアイナを襲った。近所の子供たちだ。タイミングがいいのやら、悪いのやら …… 。
 彼女はそのまま激昂し、ただでさえ跳ねている髪の毛を逆立てて子供らを追っていった。あいつはいつになったら大人になるんだろうか …… ?
 
 
 最後に残った2本はアリシアと灯里の分だ。ARIAカンパニーに帰る道すがら、それにしても、と思う。
 今日一日でかなりの人と知り合った。
 浪漫飛行社の面々。アントニオに、アミ。そしてアレサ・カニンガム女史。
 春は出会いの季節、などというが、まさしくその通りになってしまった。悪い気はしない。
 
 「ん?」
 
 ある通りの角を曲がると、灯里と暁の姿が見えた。
 向かい合って何やら話し合っているようだが …… なんだ、あの薔薇の数。まさか灯里が貰ったわけではあるまい。
 じゃあ、暁が買い占めた薔薇か? まさか身近に性質の悪い客がいるとは思わなかった。
 
 「ふたりとも、何してるんだ?」
 
 「あ、士郎さん」
 
 「う、うす」
 
 まぁ、薔薇のことはあえて突っ込まないでおくとしよう。
 とりあえず、ふたりして何をしていたかが気になる。暁に限って逢い引きなんてことはないと思うがな。
 
 「暁さんがアリシアさんにって、薔薇を」
 
 「ほほう。よくこれだけも買えたもんだな」
 
 「オレの愛は薔薇一輪じゃ表しきれないんスよっ!」
 
 理屈はわからんでもないが …… 。だからって量でっていうのはどうなんだ。
 それはそれとして、つまりふたりは渡すための予行演習中だったと。
 
 「その通り」
 
 「それは邪魔して悪かったな。灯里、これ貰ってくれ」
 
 「わぁっ!」
 
 袋から一本の薔薇を取り出して灯里に渡す。
 まるで宝物を見るように眺めてから、胸に添えた。
 
 「えへへ。似合ってますか?」
 
 「あぁ。似合ってるとも」
 
 「もみ子にゃまだまだだなっ」
 
 「えーっ?」
 
 そんな他愛もない事を話していると、不意に後ろから声がかかった。
 
 「あら、お揃いでどうしたんですか?」
 
 アリシアだった。
 見ればゴンドラにはカゴいっぱいの薔薇が入っている。それもそのカゴ一つじゃないときた。それでもなぜか、胸にはひとつも添えていないことに疑問を持った。
 そんなことはお構いなしに暁は目に見えて緊張し、灯里がこしょりと耳打つと、かなりどもりながら口を開いた。
 
 「ああああのアリシアさんっ、こここれオオオレのきもきもきも―――― 」
 
 「あらあら。灯里ちゃん、暁くんからいっぱいもらったのね」
 
 灯里の後ろにある小型の社長用ゴンドラの上にある薔薇の入った籠を指して言う。
 ごめんな暁。さすがの俺でもここまで断言されるとフォローのしようがない。
 
 「ほへ?」
 
 「 ――――――――~~…… 」
 
 灯里は思考停止。暁は声にならない悲鳴を上げている。
 なんだこの状況 …… 。まぁいいか。俺は俺でアリシアに一輪を受け渡す。
 
 「アリシア、貰ってくれ」
 
 「あ、あらあら …… えっと、その?」
 
 「普段からずっと世話になってるから、今日はそのほんのお返しだ。そんなに薔薇を貰ってちゃ今更みたいだけどな」
 
 思わず苦笑してしまった。他は全然そんなことはなかったのに、妙に恥ずかしい。
 俺の差し出す手の中の薔薇をそっと受け取ると、アリシアは崩れるように微笑んだ。彼女の瞳が潤んだのは気のせいだろうか?
 アリシアは一度それを大事そうに抱いて、そっと左胸に添えた。
 あんなに貰っているうち、俺の薔薇を、だ。しかも――――
 
 「ここは、士郎さん用に取っておいたんですよ?」
 
 なんて言ってきた。
 堪らなかった。なんだ、なんなんだコレ。公開処刑か?
 恥ずかしさで死にそうになるなんて、いつ以来だ。
 
 「あ、あぁ。そうなのか …… いや、ありがとう?」
 
 「うふふ。どういたしまして」
 
 おそらくお互い顔が真っ赤に染まっているだろうと思う。思うというのは、恥ずかし過ぎて顔を合わせられないからだ。
 でも、きっとお互い真っ赤だ。リンゴとかトマトとかといい勝負をしているかもしれない。
 ていうか、アリシアってこんなこと言うような娘だったっけ?
 
 「あ、と。そ、それじゃあ、私はこれで」
 
 「あぁ、俺も夕飯の買い物が済んだらすぐ帰るから」
 
 「はい、お茶を入れて待ってますね?」
 
 その日、俺は何を思ったのか。
 赤飯を炊いていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:21

 
 あの数の鬼の中にアスナちゃんとセツナちゃんを残してくるのはやっぱり気が引けるが、このオコジョの作戦しかなかっただろう。
 それにしても、セツナちゃんの思い切りの良さにはびっくりしたけどな。オコジョが「仮契約っす!」って言った途端に了承。その場でいきなりキスしてくれるもんだから …… 若いっていいね。
 とりあえず、予備戦力としてネギについてきた俺だが …… たった今撃墜されちまったっつー状況。
 目の前にはネギくらいの歳のガキがひとり。そいつの挑発にホイホイ乗った馬鹿もひとり。
 
 「大丈夫だよ、カモ君。一分で終わらせる」
 
 「え、ちょっ!?」
 
 ネギが勇ましくコタローとかいうガキの前へ歩いていく。
 おいおい、作戦が台無しだろーが。何のための予備戦力だッつーの。
 
 「はい、ストーップ。あんね、ネギ。お前思った以上に馬鹿だわ」
 
 「兄ちゃん、邪魔すんなや!」
 
 「そうですよっ、これは僕とコタロー君の …… ッ!!」
 
 「馬鹿野郎!! いま何つった!? お前とアイツの …… !? さっさと行って、コノカちゃん取り戻してこいボケ!!」
 
 「っ!」
 
 勘違い野郎に一発喝を入れてやる。
 ネギはそれで何かを思い出したように走り出した。
 コタローとかいう奴は相変わらず機嫌が悪そうにこちらを睨んでやがる。ま、当然っちゃ当然だわな。
 
 「て、ことで。俺様が相手してやるぜ?」
 
 「聞いとらんかったんか、同い年で俺と対等に渡り合えたんがアイツや、言うたんや。兄ちゃんに興味ないわ」
 
 「ほうほう。じゃあなんでネギを追わないの?」
 
 「後ろ向いたら兄ちゃんにその鎖鎌でやられるからに決まっとんやろうが」
 
 「にっしし、やっぱ分かってたか」
 
 じゃら、と鎖が擦れ合う音が森に響く。性質の悪いものでも見るように、コタローはより一層こっちを睨む。
 今までのアイツの性格を見てた限りじゃ、たぶん『殴り合い=本気の勝負』みたいな図式を持ってるんだろう。ということは、鎖鎌なんてチクチク遠くから攻撃する武器は好みじゃないってことだろうね。
 
 「兄ちゃんを速攻で倒して、ネギを追う。そんで、男と男の真剣勝負するんや!」
 
 「おいおーい。俺様も男なんだぜ? 俺様とも真剣勝負しようぜ、なぁ?」
 
 「んな武器使っとる時点でアウトやろ!」
 
 コタローの影から黒い猟犬が複数飛び出してくる。なーんかさ、矛盾してね?
 いや突っ込んじゃダメなんだろうなぁ。
 
 「ヘイッ」
 
 投擲。一匹撃破。だが、わらわらと犬っころは群がって来る。
 
 「一回投げたら連投でけへんやろ、俺の勝ちや!」
 
 「し、シマッター!!」
 
 と、思わせて。
 
 「なーんつって♪」
 
 伸びきった鎖を足を前に出して引っ掛ける。
 ちょちょいと鎖を弄れば、ハイこの通りっ!
 
 「――――羅鐘旋!」
 
 「な、ウソっ!?」
 
 伸びきった鎖は軌道を変え、犬の群れをぐるりと巻きつけ動きを封じる。
 火の法力を流し込んで爆破、そのまま爆煙に紛れてコタローに接近する。接近戦に持ち込まないと、あのやたら速い足に引っかき回されるだけだ。ネギと殴り合う程度だから、拳にそんなに威力はないと思いたい。
 
 「せっ!」
 
 煙から抜けると同時、コタローの姿を視界に入れ、ギリギリのリーチで蹴りを入れる。
 完全に反応が遅れていたはずなのに、蹴りが入る前にコタローはバックステップ。地面に着く前に追撃をかけろ、俺!
 全身に法力を爆散。一気に態勢を整え隙を無くす『ロマンキャンセル』。消費は悪いがこれなら確実に届く。
 
 「アクセルボンバーッ!」
 
 アクセルボンバーの要領で真横に飛び蹴りを放つ。
 そう、いつか見たジャパンの元祖ヒーローアクション。ライダーキックだ!
 
 「ぐあッ―――― げふっ!?」
 
 後ろの木まで吹っ飛んで、ズルズルともたれながら座り込む。
 出来たら起き上がんないでくれる方がいいんだけど、そういうわけにもいかないんだろうなぁ、あれ。
 
 「っつつ。あー、騙されたわ。兄ちゃん、鎖鎌持って接近戦とかないわー。ちょっと効いたでぇ」
 
 「そのまま寝といてくれよ、お子様はもうとっくにお寝んねの時間だぜ?」
 
 「アホ言うな。ネギを見逃したんやで、これくらい付き合うてくれてもええやろ?」
 
 やれやれ。
 今夜はまだまだ長くなりそうだぜ。ったく、ガキのお守りは趣味じゃねぇっつの!
 
 「セァッ!」
 
 「遅いで、金髪兄ちゃん!!」
 
 正確に狙いすぎた鎖鎌の軌道から外れ、一直線に突撃をかけてくる。
 単純坊やは何度言っても単純なのは治らねぇってな!
 思いっきり鎖鎌を引っ張り戻す。それでも、コタローの方がまだ早い。だから、
 
 「アクセルボンバーッ!」
 
 「うっ!?」
 
 防御はされたが、同じパターンでもう一撃喰らわせられたのは大きい。
 相手は手駒に取られていると錯覚して、焦り始める。
 
 「ち、っくしょ!!」
 
 バックステップで距離を取ろうとするのもお見通し。
 コタローがステップを踏むよりワンテンポ速くジャンプする。狙うは顎。
 
 「虚空撃!」
 
 「くっそ!?」

 バックステップ中の空中で首を無理やりに後ろへそらして避ける。
 お互いに空中。決定打を撃てるのは俺様。
 足に法力集中。これぞ、本当のライダーアクション!
 
 「ドッカーン!!」
 
 急降下からのアクセルボンバー。地面に叩きつけるようにコタローを蹴り落とす。
 土煙が舞う中、一旦距離を取っておく。またあの犬っころ出されちゃ堪ったもんじゃねぇ。
 
 「ぐ、ぐぐぅ …… や、やるやないか …… 正直、ここまで強い思うてなかったわ」
 
 「ならはやく寝ちゃいなよ。ボロボロだぜ?」
 
 「ハン。これくらい、怪我のうちにゃ入らんわい!!」
 
 もう囮は使えない。どうせ読んでくるだろうから、これ以上鎖鎌を投げるのは得策じゃない。
 まずったなぁ、あれで決められなきゃ俺様大ピンチよ?
 もう、なんかコタローはさっきからストレッチをし直して体を温め直してるくらいに燃えてんのに、俺様なんか冷や汗でてきちゃったぜ …… 。
 集中しろ、集中だ。見えないスピードなんてない。あるのは、追えないスピードだけだ。
 物理的に見えなくなるってのはない。追えなくなるんだ。目が捉えるコマを上回って、フィルムがぶっ飛んだみたいに見えるだけ。だったら、目で追えるコマ数を増やせば見えてくるはず。集中。
 
 「行くでぇ、金髪兄ちゃん!!」
 
 トーントーンと軽やかにステップを刻むコタローが、一瞬ののち、追えなくなった。
 正面、真下!!
 
 「見えとんのか!?」
 
 「追ってんだよ!!」
 
 拳が搗ち合う。がき、と嫌な音。
 腕全体が痺れるほどに、あいつのパンチは硬かった。
 
 「もらった!」
 
 「OUCH!」
 
 横っ腹に痛恨の一撃。まだ子供だってのになんつう重いパンチ出しやがる。
 畳みかけるように二度三度と連続でボディボディボディ! いい加減にしやがれ …… !
 
 「どぅらっ!」
 
 「ぐっふ!?」
 
 後頭部を鎌の柄で叩きつける。それでも気絶しないタフネスは驚嘆に値する。
 あんまり痛いのいやなんだけどなっ!
 
 「くらいな!」
 
 体格差を利用した顔面へのニー。
 倒れざま、鎖を巻きつける。
 
 「しもた!?」
 
 「天国へ招待だぜ ……―――― 羅鐘旋!」
 
 技に込め切れるだけの法力を注ぎ込む。爆風は周囲の木々を揺らし、局地的に禿げてしまった大地からはじゅう、と蒸気が上がる。
 その中心で、コタローは立っていた。学生服のほとんどはボロボロ。ほとんど裸に近い状態でいる。
 やりすぎたかな …… 。
 
 「これで終わり、だったらよかったんだけどねぇ?」
 
 「げっほ …… 。冗談、やろ。やぁっと面白ぅなってきたんやで、止める方がどうかしとるっちゅうねん」
 
 チリチリと産毛が逆立っていくのが分かる。
 今までとは何かが違う圧迫感。コタローの存在が大きくなっていくようにも見えた。
 いや。実際にそれは大きくなっていた。
 
 「おいおいおい。なにそれ、それこそ冗談だろ」
 
 コタローの姿は、言ってみれば獣人という奴だった。
 白く白く全身から体毛を生やし、逞しく筋肉が盛り上がる。
 爪から、牙。全てが白い、狼の姿を借りた人間だった。
 
 「へへっ。さっきまでとは全然違ゃうで? 覚悟せぇなあかんのは、今度はそっちや!」
 
 ぼん、と空気が爆ぜた。
 回りくどい真似は一切なし。まっすぐに走り、俺の懐に潜った。
 先程までのスピードはかろうじて「追えない」と見栄を張ってまで言い切れたが、今度のスピードはそんなものじゃなかった。
 増幅した筋力で、隙が格段に小さくなった。その拳を振るうスピードが上がった。
 そして、なにより――――
 
 「どぇりゃぁっ!!」
 
 「ご …… ッ!?」
 
 その拳そのものの威力が桁違いだった。
 ゴリ、と骨でもないところが軋んだ。内臓がすり潰されてしまったような感覚。
 
 「あぁああッ、吐きそうだし痛いしなんだかもぉう!!」
 
 あの速さじゃ当身なんて出来そうにもない。
 ならどう攻め落とす?どうやったらアイツに勝てる?
 
 「まだまだぁっ!!」
 
 コタローが反撃させまいと連撃を仕掛けてくる。
 耐えて耐えて、タイミングを計れ。ダンナの拳骨はこんな軽くないって思いだせ。
 きっと、この先に勝機が見えてくる。弱い俺様は、へばり込んだって泥を啜ったって、意地汚い不意打ちでもないと勝てない。だいたい努力の先なんて見たくもないし、楽しくねぇことするなんて人生損してる。
 だから、こういう真剣に勝負を仕掛けてくる奴のこと、あんまり好きじゃない。だけど、今は別だ。
 俺がここで負けたら、コノカちゃんはどうなる、ネギは、アスナちゃんは、セツナちゃんは!?
 守ってやれないことはねぇ、見せてやるぜ、アクセル様のど根性ぉっ!!
 
 ―――― 見えた!
 
 「なにぃっ!?」
 
 コタローが大きく空振る。畳みかけろ、これを逃せば次に来るチャンスは一体いつになることか。
 腹に膝蹴り。怯んだコタローをさらに蹴りあげる。同時に飛びあがって虚空撃。さらに高みへコタローを浮き上げる。法力集中、ぶちかませ、必殺―――― !
 
 「アックセルッボンバァ―――――― ッ!!」
 
 渾身の一撃。顎にクリーンにヒット。落ちて来るまでに若干のタイムラグ。加減なんてしないからな、しっかり耐えろよコタロー。
 鎖鎌にありったけの法力を注ぎ込む。炎熱する鎌をアギトに変えて、放つは奥義!
 
 「燃えちまえ …… ッ!!」
 
 ―――― 百重鎌焼!!
 上下から襲う炎の牙。狂いなくその身に咬みつき、離さない。
 伸びる鎖の一撃は、炎刃の豪装。須らくを焼き尽くし、穿ち貫いていく。
 鎖は最後まで伸びきるようにコタローの体を押して木の幹に叩き付ける。瞬間、じゅぅ、と焼ける音とは違った音がした。
 コタローの変身が解けていた。
 
 「やぁっと寝やがったか …… ったく、とんだ子守唄だぜ」
 
 どっかりと腰を下ろす。
 殴られ過ぎた。さすがにあのパンチを受け続けたのはまずかった。ダンナのよりはだいぶマシだと思ってみても、やっぱりこう何度も食らうとキツイ。防御出来たからまだいいものの、あれを直接叩き込まれていたらさすがに無理だった。あれだな、あの速いのは反則だぜ …… 。俺様ってば法力はほとんど感覚で組み立ててるからなぁ。あんな器用なこと出来ないっつーの。
 
 「あぁー。しんどっ」
 
 そのまま仰向けに寝転がる。ここで寝たら気持ちいいだろうけど、絶対風邪ひくよなぁ。
 とりあえず、疲れたから休憩するか ………… 、あ?
 
 「どうやら、勝ったみたいでござるな」
 
 とん、と目の前に軽く着地したのは、見間違うはずもない。カエデちゃんだった。
 あー、いいねその服。ニンジャってのはそれ用のユニフォームがあるって聞いてたけど、俺は断然いまのチャイナの方がいいと思う。体のラインがはっきり出ててさー。なんて思ってみたものの、よくよく考えれば彼女って中学生なんだよな。
 あー、一気にありがたみが失せてきた。
 
 「拙者が戦ってもよかったのでござるが、まぁ、割って入るのもどうかという考えが浮かんできたので、観戦させてもらった次第でござる」
 
 あっけらかんとトンデモナイことを言う。
 助けてくれてもいいんじゃないの? ひっでぇもんだぜ。
 それにさぁ、見てくれてたんならもっと頑張ってたのに。
 あー、やべ。めっちゃ眠い。
 
 「あちらもどうやら佳境。夜はもうすぐで終わりでござる。ごゆるりと、眠られるがよろしいでござるよ」
 
 そんじゃ、そのお言葉に甘えさせてもらうとしようかな。
 カエデちゃんの言葉に安心して気を抜くと、元々あった睡眠欲が爆発的に広がった。
 夢も見ないくらいに、ぐっすりと眠りに落ちた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 それは突然だった。
 水煙に紛れた強襲作戦と見せかけた囮作戦。『戒めの矢』をゼロ距離で当ててからの、このかさん奪還。そして、行動を制限しているうちに離脱。全員と合流。本山へ逃げ込み、籠城戦へ持ち込む。時間を稼ぎ、明日の本隊の到着を待つ。
 そういう作戦だった。
 
 「双方、戦闘行為を止めなさい!」
 
 「ば、ばっ、ばかなぁ!? あんた、本山の増援じゃなかったのか!? いや、それよりあの威力の魔力パンチを、素手で …… !?」
 
 「ふぇ、フェレットがしゃべった …… ?」
 
 話が噛み合わない。どうやらカモ君は彼を見つけていて、本山の増援だと思っていた。それじゃ、僕らの助けにはならず、中立の立場で戦闘を止めようとしてる彼はいったい何者なのだろうか …… ?
 それに、カモ君がしゃべってるのを見て驚いている、ということは魔法使い側の人間じゃないということなのだろうか?
 
 「と、とにかく、こちらは国際警察機構、長官のカイ・キスクだ。おとなしく戦闘行為をやめなさい」
 
 「 …… 貴方は、一体?」
 
 「??」
 
 この場でいったい誰が予想しただろうか。
 白髪の少年が口を開いた。
 
 「 …… カイ・キスクと言ったね。君、『魔法』という言葉を知っているかい?」
 
 「《魔法》 …… ? 世界規模で全面禁止になった科学に替わって出てきた超自然エネルギーで間違いない筈だが」
 
 「御覧の通りだ、ネギ・スプリングフィールド。彼はこの世界の人間ではない」
 
 「どういうことだ …… 何を言っている?」
 
 本当に何を言っているんだ?
 この世界の、人間じゃ ………… ? あ、まさか …… ?
 
 「アクセル、という名前に心当たりはありますか?」
 
 「アクセル? アクセル=ロウの事ですか? 彼が何か …… ?」
 
 この人はアクセル先生と同じ、違う世界の人。
 それは間違いなさそうだけど …… だったらどうして?
 それよりも、国際警察機構 …… ICPOの事だろうか …… 。だとしたら、どうしてこんな若さで長官だなんて職につけるんだろう?
 いや、そんな事を考えてる暇なんて …… !?
 
 「残念だったね、ネギ君。浅慮ではなく、余計な事を考え過ぎて時間切れ。お笑い草にもならないよ」
 
 一言で言えば、巨大。
 
 「そ、そんな …… こんな、こんなのっ」
 
 「つかデカッ!! オイオイオイちょっと待てよ、デケェッ!! デカすぎるぜ …… 。こんなの相手にどうしろっつんだよ、って兄貴!?」
 
 そんなの、考えるまでもない。
 そうだったのに、突然の状況変化についていけなかったのが、僕の一番の失敗。
 だから、こいつは僕が倒さなくちゃいけない ……
 
 「完全に出ちゃう前にやっつけるしかないよ! ―――― ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!」
 
 今ある分だけの、ありったけを注ぎ込む。
 そうじゃないと、きっと届かない!
 
 「『来れ雷精風の精!!』」
 
 「お …… うぉいっ、待てよ兄貴その呪文はっ! 確かに効きそーなのはそれしかねぇが、兄貴の魔力はさすがにもう限界だろ!? そんな大技もう一度使ったら倒れっちまうよ!」
 
 「っく、警告も聞かずに …… っ? それに、なんだこの力は!?」
 
 「『雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐』」
 
 あのお兄さんには邪魔されたくない。今ここで邪魔されたら、このかさんが、みんなが!
 構築終了。あとは、トリガーたる呪文を紡ぐだけ。これで、お願い、行って!!
 
 「『雷の暴風!!!』」
 
 嵐を伴って雷閃が走り抜ける。夜を引き裂いて巨大な鬼へ一直線に。
 貫いて …… 頼むから!!
 
 ―――――― パシィィィイッ!
 
 何の動きもなく、鬼は『雷の暴風』を掻き消した。
 今ある、ありったけの魔力を込めた。今ある、ありったけの想いを込めた。
 それでも、届かない。このかさんを、助けられない …… ?
 
 「あ、ぐ …… 」
 
 「フ、フフフフフフ、アハハハハハッ、それが精一杯か!? サウザンドマスターの息子が!! まるで効かへんなぁ!! このかお嬢様の力でこいつを制御可能な今、もうコワいモンはありまへんえ。明日到着するとかいう応援も蹴ちらしたるわ。そして、こいつの力があればいよいよ東に巣食う西洋魔術師に一泡吹かせてやれますわ、アハハハハハハハ!!」
 
 突然の饒舌。
 さっきまでは聞こえなかった声が、嫌にはっきりと耳に届く。
 本当に、もうダメなのか?
 
 「く …… くそぉっ。こ、このかさん …… 」
 
 膝が折れる。
 杖を持つ手にも上手く力が入らない。全身が冷え始めてきた。魔力切れの反動。
 今まで耐えてきた重さに、潰れちゃいそうだ …… 。
 
 「善戦だったね、これでわかったろうネギ君?」
 
 不気味なほどに今まで黙っていた少年が横を通り過ぎる。
 鬼と僕とを挟むように、間に立つ。
 
 「君は、ネギ・スプリングフィールドというのですか?」
 
 「え? あ、はい」
 
 「簡潔にまとめてください。君もつらいでしょう」
 
 お兄さんが静かに跪いた。
 肩を抱くようにして、立ち上がらせてくれる。
 纏める …… ? いったいなにを?
 
 「く。恥を忍んでおれっちが説明するぜ? いいか、よく聞けよ」
 
 カモ君が力強く親指を立てて自分を指す。
 
 「おれっちたちが、“正義”で――――」
 
 今度は向こうを、鬼を中心とした全員を指で示した。
 
 「あいつらが“悪”だっ!! そんで、あの鬼の肩の上にいる女の子の方が、おれっちたちが助ける対象、近衛木乃香だっ!!」
 
 「結構」
 
 お兄さん―――― カイさんはそう言うとすっくと立ち上がった。
 その姿はあまりに騎士然としていて、見た目華奢な筈のその背中は、とても大きなものに見えた。
 とてもとても、大きな背中に。
 
 「我が正義、ネギ・スプリングフィールドに今預ける。この剣、我が正義と共に!!」
 
 一声。
 腰に下げた鞘から一本のレイピアのような、それにしては長すぎる、両刃の長剣を抜き放つ。
 瞬間、雷電が迸った。青白く帯電するその刃は、見た目にも煌びやかだった。
 雷の魔剣。それが、カイさんの持つ長剣だった。
 
 「封雷剣、一刃。迅雷のゆえんをお教えしよう」
 
 「やっぱりそうなるか。はぁ、いいよ。来るというのなら、容赦はしない」
 
 少年も構えを取る。
 お互いに動かない。この一刻にも、鬼は少しずつ少しずつ、体を顕現させてきている。
 僕の方も、動けるくらいには回復してきた。
 そうだ、きっとここからだ。まだ行ける、ここで倒れちゃ、このかさんを救えない。みんなを守れない。
 立ち上がらなくちゃ。行かなくちゃ。
 
 「カモ君。カード使うよ」
 
 「合点でい兄貴!! 今から念話で呼びかけてますぜ、ちょっと待ってくだせぇ」
 
 反撃、するんだ …… !!
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 ったく、めんどくせぇにも程がある。
 考えてみれば、俺の任務は『イノに対しての絶対防衛』だ。つまり、あのガキどもの手助けも、爺の孫の救出もあってないようなものだ。俺が出るのは、イノが出てきてから。
 だが、まぁ …… 状況によっちゃ出らざるを得ない事になるかもしれん。
 目の前に守れるものがあるならば、守らなければならない。守れず、苦渋を味わうのは一度だけで十分。
 俺も、結構なお人よしの甘ちゃんだぜ。やれやれ。
 
 「 ………… 」
 
 『魔法』と《法術》の乱舞。
 坊やの戦いはいつになく荒々しい。疲れているのか?
 実際、そうなのだろう。どうあれここに飛ばされた、ということは戦闘があったということだ。
 それでもあれ程までに疲れきった状態でよくもまぁ、首を突っ込む気になる。ほとほと呆れた“正義”だな。
 ………… ガキが増えた。あれも『魔法』か。空間転移 …… いや、あれは物質転移、か? 空間歪曲? どれにしろ《法術》にとっては究極。法力体系を極めた者でしか操れないとされる究極の法力の一。戦闘面でも使いこなしているのを見たことがあるとするならば、あの闇医者のみ。イノですら使いこなせていないものを軽々とこなす、この世界の魔法使いという人間の方がよっぽど化け物らしい。
 
 「ふぅ。めんどくせぇが、出ていくか。あの鬼を坊やだけで倒せるようにも見えねぇ」
 
 桟橋に向かって湖沿いに歩き始める。
 婆が来たならそれで万事解決だっただろうに、何してやがる。イノもまだ姿を現さない、ということは少なくとも行動制限がつくほどのダメージを与えられたか、それとも相討ちか。
 めんどくせぇタイミングで出てこないことだけを祈っておくとしよう。
 
 桟橋を踏んだ。ゴツ、と靴底が鳴る。
 一歩、また一歩と戦域に足を近づけていく。前方、数百m先、つまり祭壇に灰をぶちまけたような爆発が起こる。足を止めてその様子を窺う。
 数瞬遅れて、離れた位置にガキと坊やが退避するのが見えた。相変わらずわけの分からん移動方法を使う。坊やのあれは法力で筋肉を活性化させてるのか。
 まぁいいとしよう。
 
 突然、中央のジャパニーズに翼が生えた。
 混血種だったか、あのガキ。なるほどな、道理で化け物という言葉に小うるさいわけだ。
 歩みを再開し、声が聞こえる位置にまで来た。
 もう、向こうも気が付いているだろう。
 
 「爺の依頼だ。せいぜい稼がせてもらう」
 
 ばっ、とガキどもが振り向く。
 驚きで見開かれた瞳に、俺はどう映っているのか。
 
 「!? あ、貴方はっ」
 
 「え、ネギ知ってるの!?」
 
 「エヴァンジェリンさんを、倒した人です」
 
 「えぇっ、嘘ぉっ!?」
 
 化け物は化け物らしく、か。
 さて、久しぶりの再会だが、分かっているな、坊や。
 
 「 …… ソル」
 
 「話はあとでそれなりに聞いてやる。今はせいぜいあいつをどうするか、それに頭を動かすんだな」
 
 「 …… 言われずとも、分かっているとも」
 
 「俺が前に出る。あのガキ引きつけとけ」
 
 「私に指図するな」
 
 「じゃあ、どうする? 決めさせてやる」
 
 それは、と口ごもる。
 意地張ってんじゃねぇよ、めんどくせぇ。
 
 「私に、任せてくれないか」
 
 「あの鬼をか」
 
 「 …… そうだ」
 
 「ち。しゃあねぇな。おい、ガキ。期待はしてねぇ、適当に来い」
 
 封炎剣に巻きつけた認識阻害用の布を外す。
 途端に、暴れるように炎が撒き出される。どうやら、暴れたいらしい。
 
 「いい加減にしてくれないか。ネギ君、君は魔法使いより奇術師を目指した方がいい。僕はさっきから驚かされっぱなしだ」
 
 「うだうだ言ってんな。選べ、死ぬか、逃げるか」
 
 「 …… 貴方を倒すという選択肢は?」
 
 「出来るわけねぇだろうが」
 
 貴様如きが。
 ゴリ、と靴底が鳴る。法力の回りもいい。
 さて、稼ぎの時間だ。
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:21  end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

わお。

ども、草之です。
エクセレン姉さん可愛いっす。
スタイルに反比例して装甲薄いとかマジっぱねぇす。

そんな今日この頃。
今更になって「スパロボOG」を買った。だって980円。

まだ始めたばっかりで11話くらいですが、相変わらずスパロボって急にやりたくなる中毒性持ってるわぁ。でも、草之が持ってるスパロボはα2とα3、MXとこのOGぐらい。

本当はね、アイマス架空戦記見ててアーマード・コアが欲しくなって、Xbox持ってないし、じゃあ3買おうと買いに出かけたら、なかった。代償行動で『大神』と『スパロボOG』とでどっちにするか迷ったあげく、

「かーみーさーまーのーいーうーとーおーりー」

なんて幼稚な(笑)。
一応キョウスケルートです。突撃思考とかが草之向け。あとほら、なんでしたっけ、シュバル……?ツインビームキャノン積んでる奴。あれ、武器の名前もこれでよかったっけ?うろ覚えのまんまだ。
これの装甲も厚くて使いやすい。主力にしたいが足が遅い。って言ってもどっちかって言うと射撃型の機体だから遠くからズバズバ撃ってる。ヨガ姉さんがパイロット。あの人も可愛いなぁ。BGMも好き。

まぁ、結構な俄か感が滲んでますけどね、これ読んでると。



話は変わって『ゴッドハンド輝』のドラマ。
一応、ゴッ輝は映像化されるなら実写だろうとは思ってましたけどね。
原作の“パァアア!”をどう表現するんだろうか、と期待してたら覚醒仕様だった。
初期のころのゴッ輝はあまり知らないんですけど、あれって覚醒仕様じゃないですよね? どちらかというと“閃き”ですよね、アレ。『もしかして、これはこうなんじゃないのか……?あ、やっぱりそうだ!』みたいな感じの。
それと、CM入りが最悪。親父と一緒になってみてると、ふっつりとCMに突入。
「あれ、ボタン押して(チャンネル)変わってもうたか?」
と、親父が驚くぐらいに急に入る。
その次のCM入りは、BGMが変わったと思った瞬間にBGMブツ切りで入った。
親父と草之、二人して「うっわ、中途半端~」と笑いあったくらいに。

とりあえず、今期で見てるのはゴッ輝くらい。
というよりもそもそも草之一家はドラマを見ない人間なんですよね。渡鬼とか、そういうのしか見てない。ちなみに母親の影響。でもいっつも見てるわけじゃなかったりする。


さて、今週の更新予告です。
日曜日、つまり明日に『B.A.C.K』を更新。
金曜日に『優星』を更新予定。
あくまで予定ですので、遅れる可能性があります。
あしからず、ご了承ください。

では、草之でした。

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:3-4

 
 私の動きは早かった。
 はやてに『ユークリッドがスパイかもしれない』という事を聞かされてから、1日も経っていなかった。
 シャーリーを連れて、バルディッシュともうひとつ、ジークフリードを持って本局に来ていた。
 ある人 …… マリエル・アテンザ技術主任を訪ねるつもりでいる。バルディッシュと、なのはのレイジングハートを昔から見てくれている人だ。
 
 第一に、信じたくなかった。
 彼がそんな馬鹿な事をするはずがない、と。
 第二に、信じてあげなくちゃ、と思った。
 はやてはああ言ってはいたけど、きっと誰よりもこの事実に抗いたい筈。だけど、立場上、それは出来ない。私も人のことが言えるような立場の人間じゃないけど、はやてよりは幾分かマシだ。
 だから、はやての代わりにじゃなくて、はやての分まで信じてあげなくちゃって思った。
 
 シャーリーはさっきから黙って後ろについてくる。
 あの予言のことは今のところ六課隊員には伏せられてある。フォワード陣にもある程度ぼかして伝える予定だ。
 とすれば、今後ろにいるシャーリーは一体何が何だか分かっていない筈なのだ。
 
 「シャーリー」
 
 「あ、はい?」
 
 「ジークフリードは、直るかな?」
 
 「どうでしょう …… 大破といって差し支えない程の損傷ですよ?」
 
 「 …… 意識はあるんでしょ?」
 
 「えぇ、まぁ …… 一応。断固として口を利こうとはしませんけど」
 
 十分だ。きっとマリーなら彼を直すことが出来るはず。
 私のバルディッシュと、なのはのレイジングハート。それぞれのデバイスに、当時インテリジェントデバイスに対してリスクが大きすぎたカートリッジシステムを組み込めたのも、この人のおかげだ。
 だからきっと、ジークフリードのことも、なんとかしてくれる。
 
 「失礼します!」
 
 本局第四技術部。そこの主任が彼女、マリーだ。
 ちょうど休憩中だったらしく、私の声を聞きつけるとすぐに出てきた。
 久しぶりー、と笑いかけてくれる彼女は、どこか疲れた様子でいた。聞くと、今まで武装隊のデバイス整備を徹夜で行っていたらしい。どうりで疲れて見えたのか。
 ちょっとした罪悪感を覚えつつ、切り出す。
 
 「あのね、マリー。これなんだけど …… 」
 
 「うん、どれどれ?」
 
 ジークフリードを渡す。
 ほう、と息をもらし、まじまじと見始めた。待機状態で、わかるのだろうか。
 
 「 …… 強烈な衝撃で圧壊、ってとこかしらねぇ。それにしてもどうやったらこんな …… 」
 
 ううむ、と唸って原因解明に力を入れだす。
 知ってる事を話した方が早いんだろうけど、今はやめておこう。だって、彼女とても楽しそうにジークフリードを見るから。
 しばらくして、見るだけではわからないと悟ったのか、メンテナンス用のポッドに丁寧に彼を入れた。
 コンソールを操り、情報をかき集めていく。
 
 「ユークリッド・ラインハルト …… あぁ『戦場の演出家』ねー。そのわりには随分お粗末にデバイスを使っちゃって …… 。なるほどなるほど、この子にインストールされてる魔法でこうなったのね。これを使うときは絶対に直撃避けてたんだろうなー。 …… げ、なにこれ突撃魔法ばっかじゃない!長所を伸ばしまくった結果がこれなら世話ないわー」
 
 ぶつぶつと独り言をいうように、徹夜明けというのが嘘だというくらいのスピードでタイピングをし、モニターが映っては消え映っては消え、が繰り替えされている。見てるこっちが疲れてきそうな勢いだ。
 
 「マリーさん、というか私達みたいなのはじっとしてるより、こうやってデバイスとかいじってる方が落ち着くし、疲れも吹っ飛ぶんですよ。ワーカホリックなんです」
 
 「自分で言っちゃうんだ …… 」
 
 「はい♪」
 
 シャーリーが嬉々としてマリーの手際を眺めている。まるで、そこに私も加わりたいと言わんばかりである。
 しばらくマリーのタイプ音だけが響いていた部屋に、ぎ、と椅子が鳴る音が加わった。
 
 「だいたい解ったわ。それで、どうすればいいのかしら?」
 
 「直せる …… ?」
 
 「ひとつ聞くけど、これ、ユークリッド一尉本人は?」
 
 「知らないよ。まだ病院で寝たきり」
 
 「ふぅん?」
 
 改めて画面に視線が戻る。今度はタイピングもせず、静かに語りかけた。
 
 「ジークフリード、だっけ。貴方、どうしたい?」
 
 《 ………… 》
 
 返事は返ってこない。
 しかし、マリーはそんなことを気にもせず、語りかけ続けた。
 
 「悔しいよね、ジークフリード。貴方の記録を見てたら解るよ。貴方がどれだけ持ち主を愛していて、そして今回のことで深く深く、反省にも似た後悔の念を抱いてるのを。裏切ってしまったとか、かんがえてるでしょ?」
 
 《 ………… 》
 
 依然として返事は返ってこない。
 それでもマリーは止まらない。
 
 「受動的にしかなれない自分が。全力で支援すると誓った筈の自分が。そしてなによりも彼を守れなかった自分が情けない …… 。そんな感じかな? こんな感情を持つくらいなら自分は意志を持たないストレージでよかったとか、おもってるでしょ?」
 
 特に重くは言っていない。それどころか、軽く、笑い話のように語りかけている。
 それでも、彼は返事を返さない。
 元々ジークフリードはおしゃべりな方じゃない。バルディッシュよりもなおしゃべらない。それでも、話しかければ一言二言答えが返ってきていた。だのに、なぜ、しゃべらないんだろうか。
 
 「 …… 復帰初めの返事は、ユークリッド一尉って決めてるのね」
 
 「え?」
 
 「だって、そうだとしか考えられないわ。わかったわジークフリード。貴方のプランを教えてくれないかしら?」
 
 途端にモニターが明滅した。
 パパッと、繰り返し自機データを表示していく。しばらくそれが続き、ある場所で止まった。
 それはジークフリードが出した結論であり、自己の演算の最上値。
 
 『―――― カートリッジシステムの搭載。フレームの強度比較3倍』
 
 全てにおいてこれが最優先だと語っていた。
 
 「 …… もう一度だけ確認しとくわ。インテリジェントデバイスとカートリッジシステムの相性は最悪。失敗すれば最低でもデバイス本体のペルソナリティの完全消滅。最悪、マスターの戦線復帰も不可能になるわ。それでも、やるの?」
 
 答えはない。
 きっと、そんなことは分かり切っている筈だ。だから、これが答えとばかりに、ジークフリードがもうひとつのモニターを開いた。
 そこには、俄かには信じられないことが書かれていた。
 
 『―――― サードモードの解禁』
 
 「え?」
 
 それに驚いたのはマリーだった。先程、ジークフリードの中を覗いたときにも見つからなかったからだろう。“解禁”と言っているのだから、元からそれはあったということになる。だが、ユークリッドもジークフリードもそんな様子を見せたことはない。
 つまり、自らを元の形に戻したうえで、さらに強化する。ジークフリードがそう言っているのだ。
 
 「 …… でもね、ジークフリード。フレーム強化には限度があるわ。限界まで強くしても精々2,07倍といったところよ?」
 
 それには、サードモードの解禁の文字の下に答えが追加された。
 いやにゆっくりとスペルが表示されていく。
 
 「す、か、ばぁ …… ど。スカバードモード …… つまり …… 」
 
 「っイケる!!」
 
 がたんっ! と椅子を後ろに吹き飛ばしながら勢いよく立ちあがる。
 モニターを食い入るように見詰め、一度頷く。
 
 「フレーム強化をこのスカバードモードに集中すれば、元々の機能を犠牲にするカタチになるけど実現は可能だわ …… っ。あとは、レイジングハートとバルディッシュの要領と、天運。本当の完成は、貴方がユークリッド一尉に使われて初めてなされるわ。欠陥だらけなのはもとからだけど、だったらとことん追求し、極め上げる。いいわ、その考え方好きよ」
 
 さっそく、とマリーは研究室を駆けずり回った。
 その眼は会った時とは比べ物にならないほど燦然と輝いていた。
 
 「 …… ジークフリード」
 
 呼びかける。もちろん返事などない。
 沈黙を守る彼に向けて、私は静かに、甥っ子を諭すような口調で語りかけていた。
 
 「あなたは、やっぱり彼のデバイスだよ」
 
 もちろん、返事などなかった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 数ヶ月が経った。
 ユーリは一向に目を覚まそうとしない。
 預言書の解析依頼はもうとっくに出されているが、ギプフェルについての情報を渡さなかったのと、スクライアが協力してくれたのとで一応の時間稼ぎが出来ている。だが、上層部はさすがに痺れを切らし、急げと急かしてきた。それで一両日中には騎士カリム直々に情報を渡すことになった。
 それまでにユーリが起きなければ、そのまま病院から運び出され隔離。この事件が一段落し、ユーリがスパイ容疑から解放されるまで拘置場でいることになるだろう。しかし、はたして容疑が晴れることはあるのだろうか。
 
 「シグナム!!」
 
 「っ!?」
 
 目の前にグラーフアイゼンのヘッドが迫る。
 瞬時に頭をずらして回避。しかし、反応が遅れすぎた。右のこめかみ辺りが盛大に切れた。
 ぷつ、という音が響き、視界の半分が真っ赤に染まる。
 
 「てめぇ、なにしてやがる!?」
 
 「すまん」
 
 「だいたい、お前から言ってきたことだろ!偉そうに『復帰祝いに体を動かさないか』なんて言いやがって、ふざけてんのか!?」
 
 「すまん」
 
 激昂したヴィータがグラーフアイゼンを突き付けながら吠える。
 今の私が言うのもどうかと思うが、まだ心身不安定だという話だ。だから、こうして体を動かせばと私から誘ったというのに。当の私がこれではヴィータが怒るのも無理はない。
 
 「すまん」
 
 「てめぇ、謝る気あんのか? さっきから機械みたいに同じことばっか言ってんじゃねぇか、えぇオイ!?」
 
 「すまん」
 
 「その脳天、ぶち破ってやろうか」
 
 ガキン、とカートリッジが炸裂した。
 そうだ、一発くらい殴られないと今の私は治りそうにない。
 
 「 ………… 」
 
 だが、いくら待っても脳天を砕く破砕の鉄槌が振り下ろされることはなかった。
 視線を戻すと、ヴィータはもう下に降りて騎士服を解除していた。
 どうして、だろうな。
 
 「どうして、私はどうしてユーリにこうまで執着する?」
 
 自問するも、答えを言う自分はいない。
 他人に自己を求めるなど、今までなかった。自己があるから、今まで私は主はやてのそばに控えていた。
 それとは違う自己を、私はユーリに見出そうとしている。まるで鏡を前にしたような気分だ。
 
 「鏡に映る自己など、所詮まやかしでしかないというのにな」
 
 鏡の中に誰かがいるわけではない。
 そんなことは分かっている。
 
 「う、ぐぅ」
 
 まただ。
 この頃頭痛の頻度が上がってきている。初めての頭痛はおそらくあのアグスタで感じた不快感。時が経つにつれ痛みを伴い始め、またそれが起こる間隔も酷く短くなってきている。シャマルにも相談したが、おかしいところは何も無いという。だとしたら、これはどうしたことだ。
 頭痛に耐えながら下に降り、騎士服を解除する。途端にどっと痛みが増した。
 
 「づっぁ!?」
 
 ふら、と足が絡まる。倒れ込んだ地面は冷たかった。
 まるで、闇の書に蒐集された時に似た感覚が頭痛にのみに狙いを定めて襲ってきているようだ。
 ヴィータはとっくに帰ってしまったのか、見渡しても姿を確認できない。
 
 「 …… く、ぅぅ」
 
 しかも、こめかみからの出血が洒落にならなくなってきた。
 応急処置をしたいのも山々だが、頭痛がひどくてうまくコントロールできないときた。
 
 痛みに身をまかせながらも意識だけは切ることなく耐え続けた。
 どれだけそうしていたのだろうか、突然足音が聞こえてきた。
 
 「な、し、シグナム!?」
 
 「テス、タロッサか」
 
 「全然帰ってこないと思ったら! どうして念話のひとつもしないんですか!?」
 
 「すまん、な。頭痛がひどくて、それどころじゃ、ないんでな」
 
 がつんがつん、と小刻みに頭をハンマーで叩かれているような気分だ。
 強くもなく、弱くもない。中途半端な痛みだが、それがどうしてか芯まで響く。
 そのままテスタロッサに支えられ、医務室に連れ込まれた。
 
 「シグナム、また頭痛なの!?」
 
 「あぁ。今回はもっと酷い。切り傷付きだ」
 
 「嬉しくも何ともないわよ! はやくこっちに横になりなさい!」
 
 傷の事を先に見ようとはしていなかった。
 シャマルにしては珍しい。
 
 「それで、どこが切れてるって?」
 
 「は? こめかみからパックリいってるだろう」
 
 「こめかみ? どっちの? そんな大きな傷なんてないわよ?」
 
 「なに …… ?」
 
 それと同時、ふっつりと頭痛が治まった。
 今までの痛みが嘘のように、意識が冴えわたっている。おかしい、眼が、視覚情報が …… ?
 
 「ちょっと、シグナム!?」
 
 「どうした?」
 
 「貴女、瞳孔が …… ?」
 
 嫌にはっきりと聞こえた。
 まるでシャマルが耳元でしゃべるように、はっきりと。意識すると衣ずれの音がうるさいくらいに耳に入ってくる。
 と、何か温かいものがつつ、と鼻先から垂れた。
 
 「血 …… !?」
 
 「ちょっと、本当にどうなってるの貴女! おかしいわよっ?」
 
 心配そうにシャマルがそっと私の肩に手をかける。
 その感触が、浮き上がるような、言うなれば第三者の視点で見ているような感覚。
 私の五感すべてが、超感覚となっていた。
 
 「!?!?!?」
 
 視界がおかしい。ゆうに300度を超えている。
 近くなら真後ろ、自分の背中が見える。後ろが見えるのではない。“背中”が見えるのだ。それとは別にまた、後ろも見える。
 360度、全方位が視界に入る。
 
 「う、ぷ」
 
 「シグナム!?」
 
 脳が悲鳴を上げている。
 送り込まれる情報量が過大すぎて、処理し切れていない。
 魔導師の、ベルカの騎士の処理速度を以てしても扱いきれない情報量が濁流のように流れ込んでくる。
 
 「眼、眼を閉じなさい!」
 
 シャマルがきぃきぃ声で叫ぶ。実際はそこまで大きく叫んではいないのだろうが、今の私には爆音のように聞こえる。
 瞼で瞳に蓋をした。視覚情報がなくなった。次第に脳が落ち着きを取り戻す。
 が、
 
 「なん、だと?」
 
 「どうしたの?」
 
 「目が見える …… いや、感覚だけで、視界が形成されている?」
 
 触覚による空気の流れ、聴覚による音の反響、嗅覚による密度。
 その全てを以て視覚の代替となり、“見えない空間”を形創っている。
 これは、どうなっているんだ、一体!?
 
 「 …… それって、竜の感覚なんじゃないかな?」
 
 「何?」
 
 テスタロッサが呟く。と言っても私からすれば今のがちょうどいい程度の大きさなのだが。
 
 「キャロから聞いた話なんだけど、竜種は一人称の感覚じゃない、全てを見通す第三者の感覚を持っているって。その竜の感覚の研究もあるほど、そっちの方では有名な話らしいです」
 
 「あ、それなら私も本局にいる頃噂程度に耳にしたことがあるわ。何の話だかよく分からなかったから全然覚えてないけども」
 
 「俗に、ドラッヘン・ズィンと言われてるそうですけど」
 
 ドラッヘン・ズィン、竜の感覚か。
 なるほど、しかしなぜ私に …… ?
 などと考えている間に、ふっと体が重くなった。
 “見えない空間”はなりを潜め、真っ暗な瞼の裏が見える。
 
 恐る恐る眼を開けてみると、いつもの視界だった。妙に懐かしい。
 ふたりは心配そうにこちらを覗きこんでいる。
 
 「治ったの?」
 
 「あ、あぁ。そうみたいだ。いったいどうなってるんだ」
 
 「とにかくよかった。立てますか、シグナム。貴女に伝えたい事があって探してたんですよ」
 
 忘れるところだった、とテスタロッサは優しく微笑んだ。
 それだけ気にかけてくれた、ということに喜びを覚える。今では私も自分のことがよく分からなくなっているというのに、こうして私を見てくれる人がいる。それだけでこんなにも嬉しいなんて。
 
 「ユークリッドが、目を覚ましましたよ!」
 
 「な、ほ、本当か!」
 
 今までの体の異常などお構いなしに、私は駆けた。
 その後ろにはテスタロッサが付いてきている。今の私の顔はいったいどんな表情をしているんだろうか。
 駐車場まで一気に駆け抜けて、テスタロッサの車に乗り込む。
 
 「ちょ、ちょっとシグナム。まだ体がよくなったかも分からないのに、私が運転しますから!」
 
 「む。そ、そうか。悪いな」
 
 「そうですよ、まったく。もうちょっとくらい自分の身体も大切にしてくださいよ?」
 
 そう言うものの、彼女の表情は特に私を咎めているようなものではなかった。
 むしろ、微笑みが絶えていない。
 
 「さ、行きましょうか」
 
 「あぁ、行こう」
 
 エンジンがかかる。心地よい振動が体に伝わり、その揺れに身を任せる。
 すぐに加速していくわりに車体は揺れが少なく、それが私に気を使っているのだとわかると、自然と口が動いていた。
 
 「ありがとう」
 
 「ふふ。どういたしまして」
 
 ユーリ、久しぶりにお前と会える。
 悪口でもいい、もう一度話そう。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 目が覚めた。
 目が覚めた、ということは寝ていたということだ。
 手をグッパ、と握り開きを繰り返す。見まわしてみると、やはり病院だった。
 リハビリもやってくれていたのか、体も固くない。
 体に傷はない。手元にジークフリードもいない。
 
 頭がこんがらがったままだ。
 一度整理しよう。
 
 「オレは落とされた。ストライクチャージを使って、正面から相殺しにかかった」
 
 そう、そこでオレの中の時間は止まった。
 窓の外を見てみると、日差しが強い割に木の葉がすこし色づき始めている。
 2ヶ月近く寝てしまったらしい。
 
 ナースコールを押すと、すぐさま医師を引きつれて数人単位でナースが飛び込んできた。
 すぐに診察に入り、異常なしと見られるや、六課に連絡を入れてくれた。
 
 「 …… さて、今はどうなっているかな」
 
 1時間もしかなっただろうか、一番に来たのははやてだった。
 息を荒くして、服を着崩して、まるで初めて会った時のようだった。
 
 「 …… おはよう、ユーリ」
 
 「おはよう、はやて」
 
 しばらく黙って見詰め合っていた。
 あまりにも苦しそうに息を荒げているので、早々に座ってもらうことにした。
 あいかわらずで何よりだ。
 
 「 …… 私なぁ、うん。知っとると思うんやけどな、ユーリのこと好きや」
 
 突然だった。
 事実よりもまず、その突拍子のなさに驚いてしまう。
 …… 知っていた。その通りだ。そもそも、あれだけアプローチされて気が付かない方がおかしいだろう。
 
 「 …… ごめん」
 
 口から出た言葉は否定の意味じゃなかった。
 しかし、タイミングが悪いのと、言葉が足りていなかった。その言葉だけでは少なすぎた。軽率だった。
 
 「―――― っ!」
 
 はやてはオレの言葉を否定、つまり『気持ちには応えられない』という意味で捉えてしまっていた。
 すぐに表情は崩れ落ち、見たこともないような情けない顔になり、間を置かずぼろぼろと涙が頬を流れ落ちた。
 
 「う、ん …… ひっく、やっぱ …… こんなっひっちんち、くりんなっう …… 女。ひっぐ、…… いらん、よなぁ」
 
 精一杯に笑顔を作るその顔が痛々しくて、思わず叫びそうになるのを堪え、今ここで彼女を救える言葉を飲み込んだ。
 代わりに出た言葉は、嘘だった。
 
 「別にはやてが悪いんじゃないんだ、ごめん」
 
 嘘をついた。否定する嘘をついた。
 その嘘ははやてを容赦なく傷つけただろう。
 “優しい嘘”というものが世の中にはあるらしい。なら、今オレが口にしたのは間違いなく“本当の嘘”だった。
 
 しばらくは声も出さず、動きもしなかった。
 耳に届くのは時計の針が時を刻む音と、はやてのすすり泣く声。
 
 数分間それが続いて、その間オレは気持ちの整理をつけていた。
 はやての事をオレはどう思っていたのか。人懐っこい上司? スキンシップが多い女の子? 単なる上司? うざい女の子?
 そのどれとも違う。
 オレは嘘を嘘だとわかるくらいに、彼女のことを想っていた。
 彼女は、八神はやてはオレにとって『ひとりの女性』ではなく、『特別な女性』だった。それは絶対言い切れる。
 同じ部隊でいるとはいえ、直接会うことは少ない。狙って会おうとしないと会えないくらいだ。
 元々、オレは『誰かの事を考える』ことが出来ない性質だ。言葉のままの意味ではなく、無意識に、という意味で。
 いつからだろうか、気がつけばはやての事を想っていた。
 朝食のときは真っ先に彼女を探し、廊下で走る音を聞けば彼女かと振り向いたりもした。
 俺はそれくらい、八神はやてが好きなんだ。
 
 「 ………… よっしゃ。これでええ。さ、本題いくでっ!!」
 
 「そうだな、そうしよう」
 
 少し目が赤かった。
 オレは、情けない奴だと思う。
 だからオレははやてを振った。それだけだ。
 
 「言いたい事はたったひとつ。ユーリ、あんたは明日にでも管理局から逮捕状が出る」
 
 はやての告白よりは驚きは少なかった。
 
 「それは、どうして?」
 
 「どうしてもこうしてもない。カリムの予言、あれが変わった。暗にミーアさんが繋がっているみたいな意味に」
 
 「どういうことだ? そこでなんでミーアの名前が」
 
 はやては新しくなったという予言を一言一句間違いなく読みあげてくれた。
 それとは別に、オレの過去を調べていたこと、ギプフェルのことを調べていたこと、それらのことも含めて、はやては自分がした全てを話してくれた。
 
 「結局、ユーリのことはわからんままやったけど …… ギプフェルのことが分かった。それが今回の逮捕状の出る理由」
 
 そんなことは、もうどうでもよかった。
 ただ、オレは彼女との関係を徹底的に潰したくなっていた。
 だから次に出た言葉は、また“本当の嘘”だった。
 
 「他人の過去を勝手に調べておいて、よく好きだなんて言えたな」
 
 「おのれがしゃべらんからやろうがッ!!」
 
 だが、彼女は嘘じゃない、本当の意味で関係を崩そうとしていた。
 彼女のほうが上だった。
 
 「 …… ごめん。熱くなりすぎた。でもまぁ、そういうことやから」
 
 コンソールを操作し、文献などから切り出したデータを次々と映していく。
 
 「ギプフェルのことで一番決定的やったんが、『サベージ』や。他の書物にも書かれとったけど、あまりにも『母なる竜の揺り籠』の能力と一致する。使役竜として構成する魔法やってな」
 
 「そこまでわかっていたら、もう何も言うことはないだろ。オレは捕まる。それで終わりだ」
 
 「そう、このままやったらな」
 
 「 …… 何を考えてるんだ、お前は」
 
 彼女が懐から出したのは、一枚の書類。
 退職届、というものだった。
 
 「これ、書いて」
 
 「馬鹿な。そんなことしたら、お前が――――」
 
 「もうひとつはここで私を襲って、逃げること」
 
 「 …… 本気、なのか」
 
 こくり、と頷いた。
 彼女が再びポケットに手を入れる。
 出てきたのは、ジークフリードと――――
 
 「これをどこで …… !?」
 
 「悪いついでに机ん中物色させてもろたわ。それ、デバイスやろ」
 
 「 …… そう、だ」
 
 「あと、シャーリーにも話は聞いた。あのカプセルの中に入ってんのは、なに?」
 
 「 …… 言えない。言えないけど、どうかあれだけは持っておいてくれないか。絶対に六課の力になってくれるはずだから」
 
 「アホやなぁ。そんなこと言わんでも持っといたるよ。私を振ったアホな野郎の置き土産として、な?」
 
 「そっか。じゃあ、悪いが寝てくれ、はやて」
 
 「うん。ばいばい、ユークリッド」
 
 その一言は、怒号よりも脳を揺らした。
 彼女の首筋に手刀を入れ、気絶させる。
 
 その後、持ってきてくれたのだろう私服に着替え、最後、はやてを振りかえった。
 幸せそうに寝ている。もしかしたら、狸寝入りかもしれない。
 
 「 ………… はやて、大好きだよ」
 
 
 
 ====================
 

 ユークリッド・ラインハルト容疑者。
 元管理局員一等空尉。最終所属、古代遺物管理部機動六課。
 罪状、管理局反逆、情報漏洩の疑い。
 
 聖王教会所属の病院内で入院中、八神はやて二等陸佐の見舞いの最中、隙を見て彼女を襲い、気絶させる。
 その後、彼女が預かっていたとみられる自身のデバイスを奪い、逃走。未だ行方知れず。
 おそらく、J・スカリエッティのもとで保護を受けていると考えられる。
 
 これ以上の情報漏洩を防ぐ意味も込め、危険度をSランクとする。
 
 
        フェイト・T・ハラオウン執務官
 

 ====================
 
  
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:3-4  end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

ラァア――――――――!!

別にラーゼフォンじゃないけどね。
ども、草之です。

トップテナーです。
いきなりですが、草之はトップテナーです。
トップテナーってなんぞや?って人はググってください。もしくはヤフってください。

以下、まったく関係ない話になります。



さて、そろそろこのブログも設立1年が経とうとしています。
といっても7月だからまだ約3ヶ月先。それまでに20万HITは成し遂げられるのだろうか。
今のままだと怪しいかもしれませんね。ちょうど重なりそうな感じかもしれません。

いやぁ、長いんだか短いんだか。
今までに書いたSS(一次、短編含む)の話数、実に75話。
1年経つまでに90本を目指したいものです。

今後の予定を言っておくと、まず、今のペースで『背徳の炎』の修学旅行編までの完結を目指します。
その後、しばらくの間『背徳の炎』を停止させて、第二部として学園祭編含む物語後編を再開。
その“しばらくの間”で『B.A.C.K』を完結まで持っていきたい。理想は連載1年のタイミングまでに完結させたいなぁ、と考えてる。つまり9月程度の時期ですね。
まぁ、あくまで実行する可能性の低い予定なので、しっかりと方針が決まったらまた連絡したいと思います。なにかこれについて意見等ありましたらコメントまで。あしからず。


さて、更新予告です。
『優星』を金曜日に更新。
『背炎』を来週日曜か、月曜に更新予定。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。あしからずご了承ください。

では草之でした!

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:22

 
 今年もまた、この季節がやってきました。
 夏です。とっても夏です。
 夏が始まるちょっと前に、ちょっとお茶目で身近なピーターパンからのネバーランドへの招待状が送られてきて、本格的な観光シーズンが始まる前の息抜きをしたりしました。もうマンホームでは泳ぐことの出来ない本物の海で、いっぱい遊んで、羽根を伸ばしてきました。
 
 そして、今年もアクアにあの音色が鳴り響き始めました。『夜光鈴』です。
 ちりりん、と涼しげな音色と、夜に咲く淡い燐光。アクア全体を包む、暑くも、だからこそ涼しげな響き。
 ふと外を歩けばその音が耳に入って来るほど、そこここに夜光鈴が吊るされる。
 夜になれば、それは街灯に代わって街を照らす光となる。
 
 みーんみーんみーんみ゛――――――――
 
 蝉が合唱する。ふと見上げた時計は午後2時。一番暑い時間帯。
 その聴覚を支配するほどの大音量の中、またひとつ、夜光鈴が涼音をなびかせていく。
 去年の夜光鈴はもちろん残してあるけど、それとこれとは別です。
 今年もお気に入りの一品を探しに、アリア社長と一緒に広場の屋台街へレッツゴーです。
 
 「さっ、太陽さんに負けないくらい、元気出していきましょうか」
 
 「にゅ!」
 
 麦わら帽を頭に、それを揺らしながら社長は私の傍らについてくる。
 それにしてもこう暑いとなると、知らないうちに汗がどっと出てきていて、それになんだか息苦しくもなってくる。
 あぁ、士郎さんが気をつけろって言ってたのって、こういうことなんだろうか。
 
 「はひ、はひ、はひぃ」
 
 視界がぐんにゃりと歪んで見える。
 水を打つような蝉の声。頭がぼーっとする。
 
 「蜃気楼?」
 
 灼熱の太陽が作り出す、白と黒の世界。
 その日光が強くって、色はみんな消えていって、光が当たるところと、光が当たらないところ。真っ白いタイルに壁に視界。真っ黒い影に雲に視界。
 暑さでだんだん頭がぼーっとして、夢かうつつかわからなくなってくる。
 そんな感じでちょっとぼーっとしてて、ふと気がつけば蝉も足音もなくなっていた。
 
 「あれ、アリア社長?」
 
 まだぼーっとする頭で周りを見回してみると、今まで聞こえていた喧騒に、蝉の声が嘘みたくなくなっていた。
 それだけだったらまだよかったかもしれない。屋台を残して、私を残して、誰も見えなくなっていた。聞こえなくなっていた。
 
 「あれれ?」
 
 ガランドウが空っぽなら、これはきっと広くなりすぎた広場。
 ひとりひとりの距離が曖昧で遠くて、きっと見えているのに見えていない。蜃気楼とおんなじ。
 どこからが本当でどこからが幻なのか、夢かうつつか。よくわからなくなる。
 手を伸ばせばきっと誰かの肩を掴んで、手を伸ばしてもきっと誰の肩も掴めない。見えているのに見えていない。
 そんな曖昧な感覚で歩きだす。ふと見上げる時計が指すのは午後2時。一番暑くなる時間帯。
 
 (あれ……。さっきの時計も2時だったような?)
 
 まるで綿を踏んでいるようにふわふわする足場を、危なげに歩いていく。
 風が凪いだ。音が消えた。
 ただっぴろくて、延長されてどこまでも続いているような広場で、私だけが歩いている。
 
 つぃ、とかき消えるように屋台の後ろに消えていく影を見た気がした。
 アリア社長? どこに行くんだろう?
 
 追うように、探すようにふらりふらりと誰もいない広場を行ったり来たり。
 どこに行くって、あぁ、そうか。きっと涼しい所だ。
 アリシアさんが言ってた。猫は涼しいところを見つけるのが得意なんだって。だから、きっとついていけば大丈夫。
 きっと、きっとみんなもそこにいる。
 そうなんですよね、アリア社長?
 
 ……ーぃん……ーぃん。
 
 風はない。音もない。人もいない。
 なのに、なぜ世界はこうも騒がしいんだろう。こうも静かだと、どの言葉が本当で、嘘でいるのかが分からなくなってくる。
 世界が暑さに悲鳴を上げて、夢とうつつが歪んで溶けあう。これは白昼夢?
 私は今、夢を見てるんだろうか……?
 
 ちりーぃん、ちりーぃん。
 
 (喫茶店?)
 
 気がつくと、いつの間にか広場でない場所に立っていた。
 風鈴の音色が寂しく響き、私はそれを聞いている。音が、聞こえる。
 夢じゃ、ない?
 扉を押すと、ぎぃぃ……と扉が鳴いて少しずつ開いていく。
 カウンター席に、片手で数えられるほどしかない椅子。そのうちのひとつ、店の隅っこの方に、この暑い日にトレンチコートを着込んだ人が座っていた。暑苦しいのであまり見ないようにする。
 私はそして、入ったその喫茶店のそれ以外の何も無さに、逆にほっとした。
 
 「おやまあ、これは。とんだ珍客が迷い込んだわね、オホホ」
 
 カウンターの中でグラスを磨いている女性がこちらを見てそう言う。
 そのカウンターには、アリア社長がとん、と座ってアイスみるくを飲んでいた。
 風が吹いた。髪が揺れて、服と擦れて音が出る。音が、出る。
 
 「ふ―――― っ」
 
 「にゅっ」
 
 社長はどうぞ隣に、と私を促した。
 隣に座ると、すっと汗を風が撫でていく。
 
 「涼しーい」
 
 「オホホッ、そうでしょう? ここは特別な場所ですもの」
 
 しばらく涼んでいると、のどがカラカラなのに気がついた。
 
 「私も、アイスコーヒーひとつ」
 
 「ああ、ごめんなさい。うちはアイスみるくしか置いてないのよ」
 
 「あぁ、じゃあ、それで」
 
 店主だろうおばさんは快く頷いて、きんきんに冷えたグラスに、ひんやりとしたのが見た目でもわかるみるくを注ぎ込んだ。
 ストローを口に含んで、吸い上げる。甘くて、とろんとした舌触りの、冷えに冷えたみるくが口の中に溢れる。のどを下ってお腹に収まっていく過程で、ひやりとしたものが体に流れるのを感じた。体の内側から心地のいい冷たさが広がっていく。
 
 「はーっ。生き帰るー!」
 
 おばさんはまたオホホッ、と笑ってグラス磨きを再開した。
 ちりーん。風鈴が澄んだ音を店内に響かせる。それ抜きにしても、この店は本当に涼しい。冷房もないのに、どうしてこんなに涼しい

んだろ?
 ま、いっか。それよりも――――
 
 「でも、よかったぁ。ここに辿り着けて。私、さっきまで暑さのせいで白昼夢を見てたんです。気が付いたら街中の人がいなくなってて、思わず夢の中に迷い込んじゃったのかと思いました。途中でやっとアリア社長を見つけたんですけど、それからがまた大変で。追いかけても追いかけても、全然追いつけなくて。どんどん不安になっちゃいました」
 
 どっと押し寄せた安心感に心を任せていると、一気に言葉が流れていった。
 ちりーん。
 
 「お嬢ちゃんの見たそれ『逃げ水』みたいね」
 
 「逃げ水?」
 
 「そう。蜃気楼の一種よ」
 
 グラスを磨く手を一旦止めて、手をゆらゆらさせて蜃気楼を真似る。
 
 「地面が熱せられて、表面が水で濡れたように見える。気象光学現象ね。近づこうとすると、どんどん遠くへ逃げていってしまうから

そう呼ばれているの。けっして追いつくことができない、夢うつつな幻」
 
 「ほへー」
 
 ちりーん。
 風鈴は絶えず風にあおられて、音は絶えず風に乗って。
 空はこんなにも青いのに、ここはこんなにも涼しいのに、隣にはアリア社長だっているのに……。どうして、どうしてこんなに不安な

んだろう。今さっきまで、安心していたのに、いつから私はこんなにも落ち着かない?
 
 「でももし、その逃げ水に追いついてしまったら……どうなるのかしら?」
 
 ちりーん。ちりりーん。
 おばさんはまたグラスに手をかけ、磨き始めた。そう言えば、時計……
 
 「……2時」
 
 振り子は動かず、もちろん秒針が時を刻む音も聞こえてこない。
 壊れてるのだろうか。いや、“壊れている”と思いたいのだけなのかもしれない。
 ざわっ、と首筋が総毛立つ。ここは涼しいんじゃない、そういうところじゃない。
 
 「ああ、そうね。今が一番暑い時間帯ね」
 
 ちりーん。
 
 「でも大丈夫。涼しく過ごせるわよ」
 
 ちりりん。
 
 「だってここは、特別な場所ですもの」
 
 ちり――――ん。
 そうだ、特別な場所……。アリア社長が行くところはいつだって、特別な場所……。
 ふと後ろを振り向くと、いつからいたのだろう、ネコさんたちが集まっていた。それも数匹なんて数じゃなくて、足の踏み場もないく

らいに集まって涼をとっていた。
 
 「あ……」
 
 それはもう、違うところにいた方が涼しいんじゃないかと言うくらいの集まり様。
 所狭しとネコがいた。
 
 「お嬢ちゃんは、ここに何をしに来たの?」
 
 優しいとか、不気味にとか、そういう話し方ではなくて、まるで促すようにそっと呟いた。
 それは間違ってるから、教えてあげるから……。そんな感じ。
 
 「わ、私はただ……夜光鈴を買いに…………」
 
 ちりーぃん。
 ずいっと目の前に出されたものは、間違いがなければ夜光鈴だった。
 ネコの耳のような形をした出っ張りがとても可愛い夜光鈴だった。差し出されている方を向くと、あのトレンチコートを着込んだ暑苦しい人だった。帽子も深々とかぶっていて、隣に座ってるというのにその顔は見えない。
 ただ、どこか懐かしい……。そんな香りがする。
 
 「では、それを持ってそろそろお帰りなさい」
 
 それ、というのはこの夜光鈴のことだろう。
 出入り口を指して、やっぱり奨めるように、促すように呟く。
 私たちはその言葉に従って、出入口に立った。
 
 「ここは夏の間、私達が涼を取るための、秘密の隠れ家」
 
 だから――――。そうとははっきり言わなかったがニュアンスでそう言っているのが分かった。
 そう、だから――――、
 
 「お嬢ちゃん達“人間”がけっして追いついてはいけない場所よ」
 
 見送るように、店内のネコさんたちがみんなこちらを向いた。
 その視線を背に受けながら、店の外に出た。最後に、くるりと反転。店内を見収めようと振り返った。
 
 
 深々とかぶっていた帽子を取った少女が、それを取ってこちらに微笑みかけていた。
 やさしくて、なつかしくて……。金の毛並みは絹糸のようで、そのあおい瞳は草原のよう。


 どこから見ても、それは――――
 
 
 ――――ィンみーんみーんみーんみ゛――――。
 
 「ふ?」
 
 ぶわっと暑さが押し寄せてきた。今までの涼しさが嘘のように掻き消えて、すべて街の喧騒に飲み込まれていく。
 音がする。音が、する。
 
 がやがや、わいわい。
 
 私が立っている正面、そこは間違いなくさっきまでネコさんたちが集まっていた喫茶店。
 だけど、今はそれは廃れていて、とても店をやれるような雰囲気じゃない。
 
 みーんみーんみぃ――――ん。
 
 蝉の声が聞こえる。滝がすぐそばにあるような鳴き声のシャワー。
 町の喧騒とも相俟って、痛いくらいに耳に届く。響く。さっきまで音がないところにいたんだから、それもそうかもしれない。
 
 「…………」
 
 店の中を覗き込む。
 床の板は所々割れていて、木片やほこりが酷く積もっている。
 
 ……夢、なんだろうか。
 
 そう思って、手の中にある感触に目を移す。
 ちりーん。蝉のシャワーと街の喧噪にも負けず、澄んだ音が響く。
 私はその店から立ち去った。
 
 それは真夏の昼の夢。
 白昼夢。起きたら寝た時の場所と違っていたから、もしかしたら夢遊病かもしれない。
 見上げた時計の針が指しているのは午後2時5分。
 真昼の夏下がり。夏なのを忘れてしまうほどに心地の良い涼しさは、夏が終わるころに似ていた。
 真夏の昼下がり。残念だけど、これはまだまだこれから続く。つつ、と頬を汗が伝い、汗で服がぺったりと肌にくっつく。
 
 摩訶不思議な白昼夢。
 
 もう、見ることも追いつくこともないかもしれない。
 
 「アリア社長」
 
 「にゅっ」
 
 「やっぱり夏はアイスみるくに限りますね」
 
 「にゅっ」
 
 ネオ・アドリア海を横目に、私と社長は歩いていく。
 手に持った夜光鈴はどこまでも涼しげに、聴覚で私を癒してくれる。
 ちりーん。潮風に風鈴が揺れ、ずっと続く青い空は澄んで、それを映すように海面は白々と輝いている。
 
 でも、出来ることならもう一度。
 追いついてみたい。見てみたい。
 
 
 私は気がつかない。
 あそこは、追いつく場所なんかじゃなくて、追いつかれる場所なんだってことに。
 ちょっとだけ戻ったところにふと存在する、ネコの楽園。自由を謳歌するようで、その実自由という枠にとらわれてしまった、不明確な自由の場所。だから、人間が追いついちゃいけない場所。
 彼らも歩くし、私達も歩く。追いつくとこともなければ、追いつかれることもない。
 
 だけど、きっとだけど。
 どっちかが走れば追いつくし、どっちかが休めば追いつかれる。
 どっちかが走れば離れるし、どっちかが休めば離される。
 今日、私は寝てしまった。夢を見た。
 だから、追いつかれてしまった。
 今日、私は追いかけた。逃げ水を目指して。
 だから、追いついてしまった。
 
 でも、もう行きたくないなんてことはない。
 
 「社長?」
 
 「にゅっ」
 
 出来ることならもう一度。
 追いつかれてみたい。並びたい。
 
 「また、連れていってくれますか?」
 
 「にゅっ」
 
 それは、摩訶不思議な白昼夢。
 夜には見れない、追いつき追いかけられた昼に見る夢。蜃気楼という、うつつに夢を見るユメ。
 その日、私は夢の中で再会した。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「士郎さん、ただいま帰りましたー」
 
 「あぁ、おかえり灯里。気に入ったヤツはあったか?」
 
 「はい!もうバッチリですよー?」
 
 ちりん。
 目の前に出された夜光鈴は、猫の顔を模した面白い形をしていた。
 それでここまで綺麗な音が出せる、というのは、製作者の技量がうかがえる。
 
 「どこで買ったんだ?」
 
 「貰っちゃいました」
 
 「へぇ。それはよかったな。どうりで嬉しそうな顔をしてるわけだ」
 
 朝、ここを出ていく時は出掛けてもいないのにグッタリとしていたのに、帰ってくればこの笑顔。
 よっぽど嬉しい事があったんだろう。
 
 「……士郎さん。これ、いりますか?」
 
 灯里は突然、何を思ったのかその夜光鈴を差し出してきた。
 
 「? なんでさ、それは灯里が貰ったやつじゃないか」
 
 「そうなんですけど、士郎さんが持ってた方がいい気がして」
 
 「それはお前が貰ったんだ。俺の事なんて関係ないだろ?」
 
 でも、となお食い下がって来るので、珍しいとは思いつつ、俺は灯里からそれを受け取った。
 ただあまりにも灯里の挙動がおかしいので、この夜光鈴を『解析』する。特に変わった材料や、質の良い夜光石を使ってるわけじゃなさそうだが……。
 本当に、なんの変哲もないただの夜光鈴だ。
 
 「……誰から貰ったんだ?」
 
 「え、いや、その知り合い……です」
 
 「……ふむ?」
 
 知り合い、知り合い……。灯里の知り合いなんてそこかしこにいるようなもんだから、誰から貰ったかなんてわかる筈もない。
 でも夜光鈴を渡す、というのだからそれなりに親しい間柄ではありそうだが。いや、待て待て。灯里と知り合えばそれだけでもう親しいと言って差し支えないくらいになるんだ、そういう推察は意味がないだろう。
 だとしたら、一体誰が?
 
 「俺が持っていた方がいい、ってことは、そいつは俺の知り合いでもあるんだよな?」
 
 「そう、ですよ?」
 
 「ふぅん」
 
 手でつまむように持ちながら揺らすと、ちりん、と可愛く音を鳴らす。
 今はまだ昼間で光って見えないが、夜になれば淡い燐光を発しているところを見ることが出来るだろう。
 
 「そうだなぁ……」
 
 「?」
 
 「じゃあ、こうしよう」
 
 吊るされている看板に、夜光鈴をくくりつけてぶら下げる。途端に風が吹いて、ちりん、と鳴る。
 灯里は俺が何をしたいのかがよく分からないらしく、ぽけーっと口を開けている。
 灯里と並んで、夜光鈴を眺める。
 
 「よし。ほら、これでいいだろ?」
 
 「え、えーっと?」
 
 「なんだ、わからないのか。お前の知り合いで、俺の知り合い。ってことはアリア社長とも、アリシアとも知り合いだ。だから、これはARIAカンパニーが貰ったんだ。だろ?」
 
 こう言う考え方はこっちに来てからついたものだ。
 どちらかというと、染められた、と言うべきかもしれない。
 
 灯里がなぜ気をとしてしまったのかはよく分からない。分からないけど、目の前でそうしている人がいるんだ。だったら、それを楽にしてやるのも『正義の味方』の役割だろう。だから、灯里が一番好きそうな、それでいて俺自身も納得のできる答えを出した。
 それが、これ。個人ではなく、みんなのものにしよう。そういう答え。
 
 「そーなんですか?」
 
 「そうなんだ」
 
 「……えへへ。じゃあ、そういうことでっ」
 
 灯里に笑顔が戻る。
 今日はこの笑顔が見れただけで良しとしよう。
 それにしても、本当に誰から貰ったんだ?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:22   end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:22

 
 ソルは自然体。特に“構え”を取る様子もなく、そこに佇んでいる。
 そもそも、ソルの戦闘技法はあってないようなものだ。自らの人間離れした法力の出力と身体能力にものをいわせ、敵を排除する。
 力押しだけの、あまりにも荒々しく、洗練などと言う言葉が似合わない戦い方をする。
 
 フェイトも構えず、ただ立っている自然体。
 目の前の敵の実力は未知数。情報として知っていたネギや、その仲間たちとは全く異なる、イレギュラー。
 なれば、ここはまず相手の力量を図ることこそに専心する。
 
 「どうした。かかってこねぇのか?」
 
 「貴方が動けば、僕も動くさ」
 
 「ち」
 
 ソルは歩いた。数十メートルと離れた距離にいるフェイトに向かって、無防備に散歩をするような歩調で一歩一歩と距離を縮めていく。それを見たフェイトは驚きで声が出せなかった。よくある『こんな格好であっても隙がない』などではなく、『自然体でいるのだから隙だらけなのは当たり前』だと言わんばかりに隙だらけだったからだ。おそらく、今フェイトが魔法を詠唱しても、ソルはその歩みを急がせることなく歩き続けるだろう。
 舐め切られている。フェイトは頭の中で舌打ちをした。
 見た感じただの、魔力すら持っていない剣士だ。そうフェイトは見ている。ソルの魔力の源は、あの手に持った魔剣だろうと踏んでいた。だから、まずは武装解除を優先させ、個人戦力を削る。
 フェイトもソルに向かって歩き出した。こちらは隙を見せないように、ゆっくりと足を運んでいく。
 
 8m、5m、2mと近付き、お互いに1m以下の距離にまで詰め寄った。
 ソルの持つ魔剣は熱を絶えず発し、その刀身は真紅に発光していた。これにしてもフェイトは目を疑う。これでは剣元々の強度はなくなり、すぐに折れるか、曲がりくねってしまうのでは、と。
 
 「……僕には勝てないよ」
 
 「ほざけ」
 
 動き出せば速かった。
 振りかぶることもなく、引くこともなく、ソルは封炎剣の柄をフェイトに向け放った。
 フェイトはそれを手の甲で逸らすと、ソルの懐に体を捻じり込み、当身を食らわせる。その威力は人であれば数十メートルの距離を吹き飛ばすほどのもの。だが、しかし、
 
 「なんの真似だ、そりゃぁ?」
 
 「な」
 
 今度こそフェイトは慄いた。
 その出来事を否定するよりも早く、バックステップで距離を大きく離す。
 今の一撃は、魔力で防御力を上げていても確実に多かれ少なかれダメージが通る筈だった。しかし、ソルには魔力はない。そして“気”を使用している様子もない。
 ソルは、純粋な筋力だけで威力を殺しきったのだ。
 
 「……」
 
 「どうした、遊んでないでさっさと来いよ」
 
 遊んでなどいなかった。
 ソルの言葉をどうにかして否定したかったが、目の前の事実がこれは現実だと物語っている。
 否定しても始まらない。
 
 「……なら、本気で行かせてもらうよ」
 
 WO、とフェイトの身体を魔力が包む。あらゆる身体能力が爆発的に向上、弾けた。
 
 「ふっ!」
 
 「ぐぅお!?」
 
 胴体を刈り取るような勢いでふるわれたボディーブローで、ソルの体がくの字に折れた。
 勢いも殺せず、ソルはそのまま湖へ叩き込まれる。まるで跳ねるように水面を滑っていく。
 
 「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト……!」
 
 魔術始動キーを滑らかに詠う。
 ソルはようやく滑り終わり、水の上にのっそりと立ちあがった。
 
 「『小さき王、八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ その光わが手に宿し災いなる眼差しで射よ』」
 
 フェイトは詠唱を完了させる。右腕を高く掲げ、ソルに狙いを定める。
 対して、ソルはゆらりと体を傾け疾走した。大きく迂回するように円状に走り近づいていく。
 
 「『石化の邪眼!!』」
 
 迎撃。フェイトは指先から放たれた石化する光線をソルを追いかける形で薙いだ。
 ジャッ、と水面が爆ぜた。しかし、ソルには当たらない。直撃直前であり得ない加速をした。
 術後の硬直が解けるか解けないか、そのタイミングでフェイトの目の前にまでソルが迫っていた。
 
 「くっ!?」
 
 フェイトの周りには常に結界じみた障壁が張られている。それは少年魔法使いの全力で放った魔力パンチを身動き一つせずに受けきることの出来る、いや、それすらも序の口であろう強力なものだ。
 しかし、この時フェイトは思わず防御の姿勢を取った。ソルの振りかぶった拳がいかに強力といえど、抜ける筈もないと頭で理解しているにもかかわらずだ。しかし、その判断は正しかった。
 
 「吹き飛べ!!」
 
 サイドワインダー。横這いする蛇の名である。その名を冠した空中での炎の法力を付加したボディーブロー。手加減をされることなく、ソルの常人と戦う程度の最高威力でそれが撃たれる。衝撃緩和の力をも持つフェイトの障壁が軋み、それごと吹き飛んだ。
 水面に叩きつけられ、フェイトの小さな体は大きく跳ね上がった。
 そこに、ソルの追撃。
 
 「バンディットブリンガー!!」
 
 重力加速を味方に、ソルの拳が降り注ぐ。炎を纏ったその叩き下ろしは確実にフェイトの腹を捉えた――――
 
 パシャン
 
 ――――筈だった。
 
 「もらったよ」
 
 水による身代わり。ソルの拳は湖の水を蒸発させるだけに終わり、かわってフェイトが攻勢に出る。
 連撃。確実に意識を刈り取らんと振るわれるフェイトの拳と蹴りは、ソルにとっても受け続けることに抵抗があった。ひとつひとつの動作後には若干の隙があるが、その隙を石針を放つことによって埋めている。大雑把に見える攻めの中でも、しっかりと隙を潰し、相手に反撃の余地を与えないところは流石と言える。
 
 「これで……!」
 
 大きく狙った石剣の一撃。しかし、例にもれず隙は潰してある。
 
 「調子に乗りやがってぇ!!」
 
 青い環状法力波を放つ。サイクバーストである。ほとんど無動作で放たれた未知の術にフェイトは為す術もなく弾き飛ばされる。お互いがほぼ同時に水面に着地。フェイトはバックステップで距離を取りながら、そのまま空中に飛び上がる。
 ソルは考える。このいけすかないガキをどうしたら潰せるだろうか、と。結論。一気に灰に還す。
 
 「おおおお!!」
 
 ごぉん、と超重量の鉄が落ちたような音が響く。一時的な防御力の向上、炎の法力を纏い、体に鞭打つ。その名をクリムゾンジャケットという。
 
 体を縮め、放ち、跳躍する。フェイトは迎撃をするものの、その悉くがソルを形作っている鋼の肉体に弾かれ、無意味な攻撃に終わっている。そのままソルは驀進し、フェイトの顔面を鷲掴む。今度は身代わりなどさせないと、それだけで頭蓋が砕けるような万力で締め上げ――――
 
 「燃えろ!」
 
 音が消えた。全てが爆音に掻き消され、耳に届く音は爆音のみ。その爆音も一度だけではない。二度、三度と繰り返されていく。そこに、太陽が顕現した。
 
 「       !!」
 
 湖が干上がっていく。爆炎と爆風でスクナですら上体を仰け反らせている。
 ごりごりと世界が削られていく。そこに存在したすべての人間は爆風で例外なく吹き飛ばされ、その太陽が指す光で早すぎる昼が来ていた。
 
 爆音だけが耳に届く中、太陽の中核でフェイトはいまだ健在。しかし、少しでも防御の手を緩めれば一瞬で蒸発。地力の勝負。
 フェイトが防ぎきるか、ソルが攻めきるか。
 決着は思いのほか早かった。
 爆煙が晴れていく。徐々に夜が戻って来る。周辺の森林は煤で黒く変色し、残っている湖の水はグツグツと沸騰している。黒く煤けた爆煙と一緒に、水蒸気の靄がかった煙も混じっている。たった数十秒で、まるで局地的に核弾頭が爆発したのかと言うほどの惨状が出来上がっていた。
 まさに、太陽の仕業と言わざるを得ない。
 
 「……ふん。言わんこたぁねぇ」
 
 ソルは焼けて、溶けたフェイトの身体を投げ捨てた。
 熱湯と化した湖に沈んでいくさまは、死んでいるという他ない。
 
 「…………な、なんなんや、もう冗談は止めてくれ……っ」
 
 スクナに守られるようにして、ひとり炎も爆風からも身を守った女性――――天ヶ崎千草はヒステリックになって高く声を上げた。
 一言で片付けられるなら『化け物』。それですら生易しいと感じるのは異常なのだろうか、いやそうではない。すでにソルという存在は人でも化け物でも、そういう括りから取り払われた人外、魔外、いうなれば“超越者”。
 たったひとりで街を焼き払い、たったひとりで世界を滅亡へ導く。
 
 「お前は――――ッ、なんなんやァ――――ッ!?」
 
 千草は己を奮い立たせた。今自分が操っているのは、まさに“超越種”たる『リョウメンスクナノカミ』。それが、あんなちっぽけな“人間”の姿をしただけの化け物に劣る筈がない。劣っていてはならない。
 このリョウメンスクナで、彼女は復讐を果たす。父を、母を殺した西洋魔術師たちに正義の鉄槌を振り下ろす。
 それを目の前にして、こんなちっぽけな“人間”に、自分の崇高な目的を、踏みにじられて堪るか、と。
 
 「潰れろやぁぁっぁあああああああああああああああッ!!!!」
 
 ごん、と大気を震わせリョウメンスクナの拳が振り下ろされた。
 だが、ソルはそれを避けようとも防ごうともせず、ただ一言。
 
 「相手を間違えてるぜ、てめぇ」
 
 瞬間、スクナの腕を雷戟が貫いた。
 彼の鬼は低く咆哮する。雷にも似た大地を揺らす叫び。
 
 「相変わらず人の事を考えないようだな、お前は」
 
 湯気を立てる湖の上をひとり、白い制服に身を包んだ青年が歩いてくる。
 カイ・キスク。
 少しばかり煤けた感じなのは、やはりソルの猛攻によるものだろう。
 
 「う、うぁあっ、スクナの腕が……!?」
 
 千草は何よりも、その雷戟によって破壊されたリョウメンスクナの腕を見詰めた。
 もはや、まともな思考が出来るとも思えない。
 
 「戦闘行為を止めなさい。これ以上何かするというのなら、こちらにも考えがあります」
 
 「やかましいッ!! やかましいやかましいィッ!! こんな、こんな筈やないんや……こんな、こんなぁ……っ」
 
 うぉおん、とリョウメンスクナが啼く。まるで千草の悲しみに、怒りに感応したかのように。
 今までの雄々しい雄叫びはなりを潜め、慟哭するように鬼は啼く。
 
 「…………見ていろ、ソル。これが私の力だ」
 
 カイは、静かに刃を上げる。
 チリ、と空中に浮く塵が弾けたと思った刹那――――
 
 「      ぁぁあああああああああッ!!」
 
 白雷が撃ち上がった。
 カイの身体から、空を裂かんと雷の法力が溢れ出ていく。拡散していたその雷も、また一瞬で収束。演算式が浮かび上がり、カイが持つ、最高峰の法術が完成した。
 自らを雷に乗せ、雷と化し、雷を以て敵を討つ。
 その奥義――――
 
 
 「ライド・ザ・ライトニングッ!!!」
 
 
 疾風神雷。
 瞬きをする間もなく、カイはリョウメンスクナを撃ち貫いた。
 スクナの胸には大きく孔が開き、上体はぐらりと傾き始める。
 
 「ハ、やるようになったもんだな坊や」
 
 だが、ソルの眼に映る彼はすでに意識を失っていた。
 上空高くで力なく、勢いに任せたまま危なげに宙を漂っている。
 
 「詰めが甘いんだよ……ッ!!」
 
 胸に大孔が開いているというのに、スクナはまだカイを狙い残った腕を伸ばしている。
 ごり、と世界が削られる。ソルの周囲が陽炎で揺らめく。
 
 「ヴェリー・ウェルダンでいいだろ……?」
 
 劫、と視界が炎で埋め尽くされた。炎、否、それはまさに紅炎、プロミネンス。
 炎魔の槍が、太陽の棘が、地表に顕現した。
 
 
 「サーベイジフレイィッムッ!!!」
 
 
 劫。
 湖は干上がり、封印石そのものを溶かしつくし、『リョウメンスクナノカミ』という存在を灰燼に帰し、空を焼き払った。
 湖があった場所には、水の代わりにドロドロに溶けた大地が流れ込み、紅く発光している。
 そこに佇むだけで、じゅう、と肌が焼け爛れ、肺を空気が焼く。眼球は一瞬でパリパリに乾燥し、腕も足も胴体と同化してなくなる。
 それほどの地獄絵図。
 
 まるで核暴走。メルトダウン。
 
 その中を幽鬼のように歩き、肩に千草を抱きながら、ソル=バッドガイは生還した。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 一体、何が起こったのかが分からなかった。
 質量を持っているんじゃないかと思うくらいの爆風が襲い、僕たちはバラバラに吹き飛ばされた。
 最後に見た空には、爆風に揉まれる刹那さんがいた。無事だろうか……。
 
 「う……く……っ!?」
 
 目を覚ましてみれば、湖から数百メートルはザラに離れた場所だった。
 動こうとすると、肩に劇痛が走った。チカチカと視界が明滅し、すぐにまた意識が飛びかける。
 肩でも外れてしまったのだろうか。
 
 「ネギ坊主!!」
 
 近くで聞き慣れた声がする。
 精一杯の力で声がした方を向いてみると、楓さんだった。
 
 「ど、どうしてここに……!?」
 
 「そんなことより、ネギ坊主お主……それはっ」
 
 「?」
 
 楓さんに教えられ、痛みがあった腕へ目を移す。
 嘘だ、と思った。
 
 「く、ろい……なに、これ……」
 
 触ろうにももう片方の腕すらまともに動いてくれない。
 力が、全く入らない。
 
 「痛むでござるか?」
 
 ちょん、と楓さんが黒くなった肩をつつく。途端、剣を肩口から刺され、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような痛みが走った。
 声にならない声を上げる。楓さんはそれだけで怯えてしまい、僕から少し距離を取った。
 
 「す、すまぬ……」
 
 「あ、か――――ッ」
 
 ぐちゃり、と音が聞こえてこないのが不思議だった。
 もういっそ、腕を引っこ抜いた方がマシなんじゃないかと思うほどの劇痛だった。
 
 「か、も君……はっ?」
 
 「あのオコジョでござるか?それならつい先程森の奥に走っていくのを見かけたのでござるが……」
 
 そう言い終わるが早いか、もう明るい暗い程度しか分からない視界に、白くて小さな体が入ってきた。
 
 「あ、兄貴ッ」
 
 「ネギ先生、こちら――――ッ!?」
 
 あの声は、刹那さんだろうか……。
 カモ君が見つけてくれたのかな……。ありがとう、言わなくちゃ……。
 
 「今すぐ切断します。少々我慢してください」
 
 刹那さんはそう言って、僕の口の中に布を突っ込んだ。
 それを、もうひとりの声が止めた。
 
 「待ってぇ!! あかんよ、そんなんあかん!!」
 
 あ……このかさん、無事だったんですね。よかった。
 ……あとは、アスナさんと、アクセル先生、かな。
 
 「なぁ、カモ君。うち、ネギ君とパクテオーするっ」
 
 「な……なにを言い出すんですか、お嬢様!?」
 
 「せっちゃん、言うてくれたやんか。うち、みんなに助けられっぱなしやったって。やから、ううん、これしかうちが出来そうなことないもん」
 
 「……そうか、パクティオーには対象の潜在能力を引き出す効果がある……。シネマ村で見せたって言う、このか姉さんの治癒能力なら……」
 
 「あるいは、ネギ先生を助けられるかもしれない、と?」
 
 どんどん声が遠くなっていく。
 黒くなっている肩がどんどん固くなっていくのが分かる。びりびりと皮膚が破れていくような音もする。
 
 「ネギ君……」
 
 ふと、痛みとは別に、やわらかくて甘い感触が唇に触れた。
 しばらくすると、痛みや黒く変色した肩、視界までもが元通りに回復していく。
 ただ、体力や魔力までは都合よく戻ってくれないらしい。
 でも、今は声が出せるだけでもいい。
 
 「……無事で良かったです。このかさん」
 
 「あほぉ。そんなんより、ネギ君なんかボロボロやんか……。そんなん、こっちの台詞やぁっ」
 
 ぼろぼろと涙がこぼれていく。
 でも、悲しそうな表情ではなく、むしろ嬉しそうだ。
 そうだ、僕はこの笑顔がもう一度見たくて……みんなでこんな笑顔でいたくて。
 理屈じゃない。
 
 心から、嬉しかった。
 
 「……ミツケタ」
 
 瞬間。底冷えするような声が聞こえた。
 つい先ほどまで暖かくなっていた心も体も、氷水につけられたかのように温度を下げていく。
 一瞬で氷点下。
 
 「ねぇ、お嬢様……。私の事も、治してくれない?」
 
 このかさんの肩に、ぬぅっと細い女性の指がかけられる。
 甘い声色とは違って、その声の本質は刃物のように鋭利だった。
 
 誰も動けない。動けば、このかさんが何をされるかわからない。
 傷を治して欲しいのだから、このかさんには何も出来ない筈だと解っていても、動けない。
 それでも、このかさんを簡単に――――
 
 「治せって言ってんだよ、聞こえねぇのか」
 
 「ひ――――――――」
 
 このかさんはただその恐怖に抗う間も与えられず、おそらく僕とのパクティオーで手に入れたアーティファクトを振るう。
 女性の腹の大穴はすぐに塞がり、少々痣が残った程度だった。
 その痣を恨めしそうに睨みつけ、続いてこちらを見渡した。
 
 「サンキュー♪」
 
 嫌に場違いで軽快な挨拶を交わしたかと思うと、次の瞬間。
 
 「じゃあ、お礼ね」
 
 ごしゃん、と楓さんが地面に叩きつけられていた。
 間髪開けず、刹那さんは吹き飛ばされ、気の幹に叩きつけられた。元から動くこともままならない僕には目も触れず、このかさんの手を強引に引っ張った。
 
 「お前は来い。こいつらといるよりももっと楽しいこと教えてア・ゲ・ル」
 
 「や、やぁっ!」
 
 指の一つにも力が入らない。
 このかさんがどんどん闇の中に引きずられていく。
 声を出さなきゃ……っ!!
 
 「このかさんっ!!」
 
 「ネギ君、ネギくぅんッ!!」
 
 「喚いてんじゃねぇよ、クソガキがッ!!」
 
 「あぅっ!?」
 
 手加減などなく、このかさんの顔に拳が入る。
 そのままツカツカとこちらに近づいてきて、女性は足を上げた。
 
 「オラァ!!」
 
 「が――――ァッ」
 
 腹部に強烈な蹴りが入る。
 もう一発、まだ、もう一発。まだ、もう一発。
 それが続いて、胃から物が逆流した頃、最後に女性は手に持っていたギターを大きく振りかぶった。
 
 「おやすみなさいね、坊や。せいぜいいい夢、見るんだなぁ?」
 
 頭に向かって、それは勢いよく振り下ろされた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:22  end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

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草之 敬

Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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