結構当たってて驚いた。
ども、草之です。
なにがどうのって、ネットで『○○(漫画やアニメ、小説のタイトル)占い』と入力して検索すると、その作品の誰にあたり、どおういう性格や人となりなのか、ということが出てくるんですけど、これが結構当たっていて驚いたんですよ。
試した占いは以下の通り。
・ARIA
・型月
・ネギま!
・ギルティギア
・リリカルなのは
の五つ。
これの悉くがほとんど草之の事ズバズバ当てられていて「おお」となった。
キャラは抜きにして、してみると結構面白いですよ?
ちなみに、草之はそれぞれが以下の通り。
・ARIA→『アリシア』
・型月→『遠野志貴』
・ネギま!→『長瀬楓』
・ギルティギア→『チップ・ザナフ』
・リリカルなのは→『ザフィーラ』
と、なりました。
この中で一番近いことを言い当てられたのは『遠野志貴』です。
メガネですしね、草之も。いや、そうじゃなくてね(笑)。
一度お試しあれ。
は、いいとして。
5月、6月とかなり忙しくなってきそうです。
それなりに更新出来るでしょうが、結構少なめになると考えられます。
一応、このGWに書き貯めておきたい。
では更新予告です。
『優星』を土曜日、つまり明日に更新。
『B.A.C.K』を来週頭に、だいたい月曜日くらいに更新予定。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。あしからずご了承ください。
では、草之でした。
なにがどうのって、ネットで『○○(漫画やアニメ、小説のタイトル)占い』と入力して検索すると、その作品の誰にあたり、どおういう性格や人となりなのか、ということが出てくるんですけど、これが結構当たっていて驚いたんですよ。
試した占いは以下の通り。
・ARIA
・型月
・ネギま!
・ギルティギア
・リリカルなのは
の五つ。
これの悉くがほとんど草之の事ズバズバ当てられていて「おお」となった。
キャラは抜きにして、してみると結構面白いですよ?
ちなみに、草之はそれぞれが以下の通り。
・ARIA→『アリシア』
・型月→『遠野志貴』
・ネギま!→『長瀬楓』
・ギルティギア→『チップ・ザナフ』
・リリカルなのは→『ザフィーラ』
と、なりました。
この中で一番近いことを言い当てられたのは『遠野志貴』です。
メガネですしね、草之も。いや、そうじゃなくてね(笑)。
一度お試しあれ。
は、いいとして。
5月、6月とかなり忙しくなってきそうです。
それなりに更新出来るでしょうが、結構少なめになると考えられます。
一応、このGWに書き貯めておきたい。
では更新予告です。
『優星』を土曜日、つまり明日に更新。
『B.A.C.K』を来週頭に、だいたい月曜日くらいに更新予定。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。あしからずご了承ください。
では、草之でした。
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その優しい星で… Navi:23
相変わらずの太陽の眩しさ。
降り注ぐ日光の熱は容赦なく気温を上げ、そして気分を限りなく盛り下げていくのだ。
三人揃ってARIAカンパニーのバルコニーの陰日向にへたり込み、後輩ちゃんに至っては団扇を持ち出す始末。先輩だって暑いのに何様のつもりよ、まったく。
……じゃなくて。
「いかんいかんっ。これくらいでバテていては、立派なプリマには到底なりませぬぞお――――!」
ぱちぱちと頬を叩き、気合を入れ直す。
私がこうやって気合を入れ直してるというのに、後輩ちゃんと灯里はまだダレたままだ。
「ねえ、わかってる? わかってる?」
「……でっかいお世話です」
後輩ちゃんに一言の下に切って捨てられた。
あぁ、なんかもう、なんか話したい。
「……ねぇ、私の夢を聞きたい?」
「いいえっ、結構です」
それがどうしたっ。
「私の夢はねっ、アリシアさん達現在の3大妖精はもちろん、いずれはあの伝説の大妖精をも超えて、このアクアの歴史に永遠にその名を刻まれる、ウンディーネの一番星になることなのよお――――!」
バンザーイ、と立ち上がって宣誓するように叫ぶ。
ん~、気持ちいいなあ。やっぱりこうやって目標を決めることは大事な事なのよ。
しかし、
「藍華ちゃん、伝説の大妖精って?」
「ぬなっ」
灯里のあまりにもな発言で、気持ちいい、なんて言ってられないようになった。
後輩ちゃんは何知らぬ顔で団扇を扇ぎ続けているが、この発言は聞き逃せないわ。
「あんた……まさか知らないの?」
「うん」
いや、うんって……。
まぁ、いつものことか。この子について気にすることが間違ってるわよね。
「そんなんでよくウンディーネやってるわねー」
灯里は照れくさそうにはにかむ。
いやいや、そこは照れるとこじゃないでしょ。むしろ恥ずかしがるところじゃないの、そこ。
いやまぁ、灯里がこういうのに疎いのは知ってたつもりだったけど、ここまでだったなんて……。
しょうがない。教えてあげるとしますか!
「アリシアさん達現在の水の3大妖精の前の時代に30年以上に渡ってアクアの水先案内業界のトップに君臨し続けた超超超一流のウンディーネよ。
その偉大な存在から現代のすべてのウンディーネの母……“グランドマザー”と呼ばれて慕われている、伝説の大妖精なのよ――――っ」
「おおーっ」と驚いている灯里とは別に、「……うるさいです」といちいち反発してくる後輩ちゃん。
本当にいつも通りね、このふたりってば。
「ほへーっ、すごいねー」
「……ていうか、灯里先輩」
やはり団扇で扇ぎながら後輩ちゃんが補足する。
「その伝説の大妖精さんが『ARIAカンパニー』の創設者ですよ。水先案内業界の常識です」
あー。これ腕上げてたら服の中に風が入ってきてなかなか涼しいわー。
でも腕上げ続けてなきゃならないから疲れるわねぇ。あ、そうだ。これは訓練と納涼を同時に出来る画期的な方法だと思えばいいのよ。いやー私ってば本当にすごいわねー。しっかし、本当に暑いわねー。嫌になるー。
「ええ――――――――っ」
「知らなかったんですか……」
灯里ってほんと何にも知らないわよねー。
それで姫屋とかオレンジぷらねっとみたいな大手じゃなくて、有名だって言っても小さなARIAカンパニーを選んだのって運命なのかなぁ。
「あらあら、みんな暑い中練習おつかれさま」
「ほら、差し入れ」
アリシアさんと士郎さんが並んで歩いてきた。
士郎さんはお盆を持って、その上にはイチゴシロップがかかったかき氷が3つ。
そうだ。ここは先輩ウンディーネでもあり、現水先案内業界のトップに立つアリシアさんに助言をもらうとしよう。かき氷を受け取るついで、私はアリシアさんに助けを求めた。
「アリシアさん助けてくださいっ。士郎さんでもいいんですっ。私達、このままでは堕落してしまいます」
「あらあら」
「そんなことを急に言われてもなぁ」
アリシアさんはそれでも優しく微笑んで、士郎さんも困ったように微笑んでお互いに顔を見合わせている。
そういえば、このふたりってちょっと前から急に接近したっていうか……なんだかかもしだしてる雰囲気が、こう……ね?
まぁ、いいや。
「どうか伝説の大妖精直伝の、立派なウンディーネになるための教えを私達にっ」
「うーん。そうねえ……」
と、アリシアさんはなぜか士郎さんを見て笑った。士郎さんがなにかいいアイデアを持っているのだろうか、と思ったら、士郎さんもアリシアさんの笑顔の意味が分かっていないらしい。
そして、アリシアさんは言った。
「じゃあ、直接本人に聞いてみれば?」
何かいいアドバイスをもらえるかも、と相変わらずの微笑みで告げた。
えぇえ……。い、いきなりすぎやしませんか?
この数日後、私達はアリシアさんの紹介で、かの“グランドマザー”に会うことになった。
* * * * *
がたん、ごとん……。がたん、ごとん……。
正面には三者三様の三人娘。この中で一番俺に近い表情をしているのはきっとアリスだろう。
灯里は期待渦巻くほこほこ笑顔。
藍華はお手本とも言えそうな緊張顔。
アリスは無表情。どこかしら“なぜここにいるんだろう”といった雰囲気がある。
まさしく、その通り。
(……なんで俺まで……)
何だかんだと言ってはしゃぐ三人を眺めながら、アリシアの言葉を思い出す。
確か、こう言っていた。
『士郎さんには、会っておいて欲しいんです』
それがいったいどういう意味なのか。
夏の始め頃のボッコロの日のことといい、アリシアが分からなくなってきた。いや、前から掴みどころのない優しさを持ってはいたが、この頃は本当に何を考えているのかわからない表情をするときがある。
例えるなら、不思議なものを見つけた時の、期待に満ち溢れた灯里のような……。しかも、なぜかそれを俺に向けて。
だけど、そうだな……。嫌な気分じゃない。あかいあくまさんの笑顔とはまったく違ったベクトルの笑顔だから、などという理由ではないことは確かだが、こう……嬉しくなる。
『城ヶ崎村――――。城ヶ崎村――――』
城ヶ崎といえば、静岡県だ。
日本をモチーフにして作られた村だという話だが……なかなかどうして。そのまま日本だと見間違えそうな田舎の景色だ。
この駅といい、レトロな雰囲気が夏という季節と相俟って、情感たっぷりの風景が広がっている。
「さてと! アリシアさんの話だと、グランドマザーが駅まで迎えに来てくれてるはずだけど……」
三人がそれぞれ駅に立って落ち着くと、藍華がそう切り出した。そうして全員が頭を上げ、視界を広げると三人もこの風景に気がついたようで、数秒の間、なにもしゃべらなくなった。
そして、こういう静寂を破るのは決まって、
「うわあーっ」
灯里だ。
アリスがガイドブックを見ながらこの村の概要を簡単に紹介している。
古き良き日本の田舎、とは……。そうか、もう今の日本じゃ見れないんだったな……。
時間は進むにつれ、人類に技術と発展をもたらし続けた。その結果が環境破壊や戦争の加速、テラフォーミングをしてまでの平和への渇望なのだとしたら、皮肉なものだ。
そして、俺が望んだ世界は……ここにはなかった。いや、今は違うな。望んでいた世界は、ここにはなかった。
今、俺が望んでいるのは……
「灯里ちゃんに、藍華ちゃん。アリスちゃんね。それに、士郎さん」
ふわっとした気配が背後に立った。
振り向くと、日傘を差しその陰で微笑む女性がいた。
白金の輝かしい髪に、やさしい表情。誰しもが理想とする年の取り方をした、女性だった。
「ようこそ、ウンディーネのお嬢さんと、魔法使いさん。アリシアから話は聞いていますよ」
不思議な感覚だった。
周りの景色がそうさせているのか、まるで自分たちが世界から浮き出てしまったような錯覚を覚える。
気持ちのいい、ふわりとした風。
「ぷいにゅー!」
アリア社長が見せたこともないような素早さで女性の胸に飛び込んだ。
体重が2桁と火星猫でも重いとされる体を持つ社長を、女性は自然に抱きとめた。
誰もが呆気にとられる中、やはり最初に口を開いたのは灯里だった。
「ひょっとして、グランマ?」
「こりゃ、灯里っ!」
そんな灯里に藍華が突っ込みを入れ、恭しく頭を下げた。
「初めまして、偉大なるグランドマザー。お目にかかれて光栄です。姫屋の藍華・S・グランチェスタと申します」
それに対して、年長者の余裕とでも言うのだろうか。女性は軽く微笑み直し、藍華に語りかける。
「あらあら。そんなに畏まらずに気軽にグランマと呼んでちょうだい」
「えっ……でも」
「いいからいいから」
「わかましたっグランマ!」
わかったのか、わかってないのか。
藍華はいつになっても藍華のままなんだろうなぁ。
「士郎さん、でしたわね?」
「え、あぁ。そうです」
「アリシアが本当によく話してくれますよ。ほっほっほ」
どういう話をされえてるんだろうか。それも気になるが、アリシアはなぜ、グランマと俺とを会わせようとしたのだろうか。
特別何かを感じるわけでもないし、まさか魔術師だってこともないだろう。
さて、アリシアの真意やいかに。
「じゃあ、移動しましょうか」
「はいっ!」
移動中、藍華はなにかと話し続けていた。
必死さが妙に可愛らしく思えたり、それを聞きながらちゃんと返事もするグランマにおかしさを感じたり。
そして、グランマの家らしき家屋が見えてきた頃、藍華がやっと話に区切りをつけた。
「どんなに過酷な修行もこなしますので、ビシバシとしごいてやってくださいっ」
晃には絶対に言いそうにもない事をさらりと言ってのけるあたり、晃の苦労がうかがえる。
「ほっほっほっ、そーねぇ。じゃあ、さっそく荷ほどきをしたら、畑のとうきびを取ってきてもらおうかしら」
「ほへっ? とうもろこし?」
「はっ、了解であります!」
くいっと俺を見上げて、暗に士郎さんもお願いね、と言ってるようだった。
それくらいなら喜んでやらせてもらおう。それに、興味もある。
蝉の声を遠くに、俺達は揃ってグランマのトウキビ畑まで出てきた。
マンホーム出身の灯里はその珍しさにはしゃぎまわり、藍華はなぜそこまで唸る必要があるのかと言うほどトウモロコシと睨めっこしている。
アリスはと言えば、トウキビ畑の隣にあるレタス畑の近くに立って空を見上げている。
しばらくして、灯里がひとつのトウモロコシをもぎ取った。ぼき、といい音を出している。アリスもそれに習うようにひとつをもぎ取る。藍華は悩みに悩んだ末、少しばかり大きいトウモロコシを気合十分に、力いっぱいに折った。
「どうやら、これは数多いどうきびの中から瞬時に最高のものを見極めるという、瞬間判断力の修行のようね。これで街中の人込みからお客様を探し出す能力を培うのね。さすがはグランマ。味のある修行だわ」
そのわりには悩んでる時間が半端じゃなく長かった気がするけどな。
俺もとりあえず一本を取ってみる。折った瞬間にずしりと手の中に収まるトウモロコシ。よく出来ている。アイナのところのトウモロコシといい勝負をしている。別にアイナが栽培してるわけじゃないだろうが、それでも店に出す手前、いいものを選んでいる筈だ。
「いっぱい取れたかい?」
「グランマっ」
藍華がぎょっとしてグランマに聞き直した。
「いっぱい……ですか?」
「ええ、遠慮せずにたんとお取り。すぐに茹でてあげるからね」
藍華はその返しに困惑し、灯里は跳ねて喜び、アリスは無表情を貫いている。
グランマの言うとおり、いっぱいのトウモロコシをもぎ取り、人数分をさっそく茹であげ、縁側に座って食している。
甘くて、歯ごたえもいい。身もしっかり詰まっていて、本当に美味しい。
「美味しーい」
口の周りに食べかすをつけながら、灯里が本当に幸せそうにそう言う。
「ほっほっほっ。もぎたてだからね。それに、グランマの愛情もたっぷり入ってるしね」
こういうお茶目なところはアリシアそっくりだ。
弟子は師に似る、などとも言うが、本当なのだなと言う事が、この人物を見ているとわかる。
大した根拠もないのに、お祖母さんがいたら……こんな感じなのだろうと思ってしまった。
そのあと、やはり何か釈然としないままの藍華が次の行動の指示を要求し、真夏の空の下、虫採りに精を出すこととなった。
はしゃぎ回ること夕方まで。その日の夕焼け空に、たくさんの蝶々が飛び去って行った。
一足早くグランマと俺とが家に帰り、夕食の準備を進める。
グランマの隣でこうしていると、なぜだか落ち着く。一息がつけるような、そんな感覚。
「士郎さん、お塩取ってもらえるかしら?その棚の上なんですけどね」
「えっと、これですか」
「ええ、そうよ。ありがとう。いつもは台に乗って取ってるんだけど、やっぱり男の人がいると違うわね。ほっほっほ」
なるほど。
まぁ、だからこんなに若々しいんだろうけども。
「……まだ若いのに、お料理お上手ねぇ」
「……切嗣、私の義父がだらしのない人だったので、子供のころからずっとしていますから」
「そう」
「ええ」
そんな会話があり、黙々と料理が出来上がっていく。
俺がする、と言ったのだが、もてなしているのは私だから、と返してきたので手伝うという形で収まった。
適当にアリシアの事や、灯里、愛華、アリスの三人の事もはなしつつ、食事の準備は終わった。畳の上に座って取る食事など、いつ振りだろうか。
「いただきまーすっ」
三人はよっぽどお腹が空いていたのか、みるみるうちに料理がなくなっていく。
終始無表情だったアリスも、なんだかんだといって楽しんでいたらしく、箸が先輩二人に負けない勢いで進んでいる。
そのまま夕食は賑やかに終わりを告げ、食器を流し台に運ぶと、グランマは三人を連れて寝室へ。そのまますぐに戻ってきた。
「……修行なんて、する気はないんですよね?」
「あら、なんのことかしら? アリシアからは『後輩三人が遊びに行きます』としか聞いてないからねぇ」
「だと思いましたよ」
「ほっほっほっ」
また同じようにふたり並んで食器を洗い始めた。
準備中とは違い、今は一切の会話がない。だからといって居心地が悪いわけではなく、とても落ち着く。
カチャカチャと食器の擦れ合う音と、流し台に流れる水の音。外から聞こえる、少し早目の鈴虫の音色。
突然、グランマが口を開いた。
「アリシアに相談されたことがあったの」
「……?」
「全てを助けられる正義の味方はいるかどうか、ってね」
「あ」
「あなたのことだって、すぐにわかったわ。だって、ちょうど一年前くらいから手紙や電話で出てくるのはあなたのことばかりだったからね」
アリシア……。
悪いとはいわないけど、そんなに話すほど俺は話題豊富な人間なのか?
「……すべてを助けるっていうのは、どういうことなのかしら?」
「文字通りです」
「そう」
「はい」
またしばらくの間、沈黙が続く。
一向に居心地が悪くはならず、それよりもグランマの話が聞きたいと思い始めてもいた。
そして食器をすべて洗い終わり、手拭いで手を拭く。そこでグランマと目が合った。彼女はやさしく微笑んでこう言った。
「郷愁、と言う言葉を知っているかしら?」
「郷愁?」
「ふるさとをこいねがう、見つけられないふるさとを探して歩き続ける旅人」
「…………」
「あなたの旅は、楽しい?」
そう言い残すと、グランマは自室に戻ってしまった。
答えなんて求めていない。
ただ、あなたはどうだったの。そう聞かれた。
郷愁。
ふるさとをこいねがう、旅人。
「……そこに、感情なんて入ることはなかった。楽しいなんて思うことはなかったし、辛いと思ったこともない。ただ、一心に救いたいと願った。だけど、それは出来ないとあいつは言った。だからどうしたと、俺は前に進んだ。立ち止まってしまうことに意味なんてない。歩き続けることに意味があると信じていたから。俺が歩いてきた道を否定したくもなかった。間違いなんかじゃないってことを、あいつにも教えてやりたかった。エミヤシロウは間違いなんかじゃないって、俺が見せてやると誓った」
独り言。
誰が聞いているわけでもなく、また誰に聞かせるわけでもない。
さぁっと襖が開いた。寝間着に着換えたグランマは手に蚊取り線香を持って、相変わらずの微笑みでこちらに歩み寄ってきた。
「ついてきてくれないかしら?」
その言葉に逆らうこともなく、俺は彼女のあとをついていった。
そこは三人の寝室で、三人には見えない場所でグランマは俺を手で制した。ここで待っていて、と言うことらしい。
グランマはそのまま蚊取り線香を置き、次いで藍華の声が聞こえた。
「あの、グランマ。お願いがあります!」
「はい?」
「どうか私達が立派なプリマになれるよう、グランマの貴重なお助言をお与えくださいっ」
藍華が真剣に、本当に真剣に助言を求めた。
グランマは一瞬だけ黙りこくって、それからこう言った。
「あなた達から見て、アリシアはどう?」
それの質問に対して、藍華が早々と答えた。
「鮮やかな舵さばき、変幻自在な操舵技術、本当に何から何まで超一流な、当代随一のウンディーネだと思います。きっとグランマの一番弟子として、血のにじむような努力を重ねたからアリシアさんは、アクアのウンディーネとして一番星になれたんですよねっ?」
「あらあら。じゃあ、士郎さんはどうかしら?」
この質問に一番に答えてくれたのは、灯里だった。
「初めはなんだか怖い人だなって思ったけれど、全然そんなことなくて。藍華ちゃんみたいに上手く言えないけど、とってもとっても優しい人です!」
「でっかい親切です」
「あと、お料理もすごく上手だよー」
「あんたたちねぇ……」
グランマはその様子を見て、一層微笑みを深くした。少しだけ、こちらを見た気がした。
「じゃあ、このふたりの違いは?」
「違い、ですか……?」
そのまま言葉がなくなった。
鈴虫がこの時ばかり鳴き止んで、風も凪いだ。音がないのが耳に痛い。
「……たとえば、士郎さんの本当の笑顔を……あなた達は見たことがある?」
「ないです」
即答したのは、アリスだった。
そのまま彼女は続ける。
「よく笑いかけてくれますけど、なんだかどれもこれも本当に笑ってるみたいじゃなくて、どうしてなんだろうってずっと思ってました」
「……それはあるかもね」
「……うん」
本当の笑顔、か。
どれがどういう笑顔かだなんて、考えたこともない。
「じゃあ、本当の笑顔って何かしらね?」
「え?」
「心から笑っていれば、本当の笑顔なのかしら?それがもし、心から笑っていない笑顔だとしても、笑っていれば、それがその人の“本当の笑顔”なんじゃないのかってグランマは思うわ」
心から、という言葉に囚われてはいけない、そうグランマは言っているのだろうか。
だとしたら、俺をここに連れてきた意味と言うのは、一体なんなんだ。
「笑顔を分けるのなら、嘘か本当かじゃないわ。ごめんなさいね、カマカケみたいになっちゃって。でも、そうだと思うの。笑顔にあるのは、思いやる心があるか、ないか。そのふたつだと思うの」
「思いやる心……」
「その笑顔がどこか違和感を覚えるものでも、それが誰かのために向けられた笑顔だったのなら、それは思いやる心の宿った笑顔。じゃあ、もう一度聞こうかしらね。アリシアと士郎さん。このふたりの違いは……?」
三人が三人とも黙りこくる。
しばらくして、「はい」と灯里が手を上げた。
「……思いやる心の、違いです」
「……それはたとえばどういう?」
「えっと、士郎さんは普段は口が上手い方じゃないんですけど、いっつも私達のこと見ていてくれて、不器用っていったら士郎さんに悪い気がしますけど……遠くから私達を守ってくれている、そんな感じです。アリシアさんは包み込んでくれるような、いつも私達と一緒に、近くでいてくれるお姉さんみたいな、そんな感じです」
これでいいですか?と灯里がグランマに尋ねた。
グランマはその問いかけに首を振った。しずかに、その言葉の先を告げる。
「灯里ちゃん。あなたがそう思ったのなら、きっとそうなの。藍華ちゃんも、アリスちゃんも。思うことに違いはあるでしょうけど、それは全部正解。じゃあ、もう一個聞こうかしらね」
これが最後、とグランマは笑った。
「あなた達は、この人たちといて、ウンディーネをしていて、楽しい?」
「へ?」
「私はあなた達と今日初めて会ったけど……、とっても楽しかったわ。いろいろなんて言えるほどお話したわけでもないし、特別何かしてもらったということもない。その逆もね。けど、楽しかったわ。アリシアが言っていた通りの子たちだったから」
……あぁ。なんだ。
アルが言っていたことは、こんなにも近くにあったんだ。
「アリシア……あの子はね、何でも楽しんでしまう名人なのよ。だから、藍華ちゃんの言ったような練習も乗り越えられたし、今の地位があるんじゃないのかなって、グランマは思うわ」
「で、でも……それじゃ、それだけじゃ厳しい練習のときとか、苦しい時、悲しい時はどうすれば……」
その藍華の不安を拭い去るように、グランマは朗らかに笑った。
たった、それだけで――――
「そんなモノ、より人生を楽しむための隠し味だと思えばいいじゃない」
こんなにも、ココロが温かい。
「自分の中で変えてしまえばいいのよ。何でも楽しんでしまいなさいな」
あぁ、でも……それだって俺の救いにはならない。
俺は喜べない。楽しむことなんて出来ない。『正義の味方』はダメなんだ。
俺は――――
「とっても素敵なことなのよ。日々を生きてるっていうことは」
そうだ。“俺”は楽しめない。
そうだ、なら――――
「がんばっている自分を素直に褒めてあげて。見るもの、聞くもの、触れるもの。この世界がくれるすべてのものを楽しむことができれば……」
――――……誰かに、俺の分まで楽しんでもらえばいい。
「このほしで数多輝くウンディーネの、一番星になることも夢じゃないわよ」
そう言うことなんだ。
きっと、俺が選んだ道はこういう道なんだ。
“――――正義の味方はひとりじゃない”
歩いていくと、この道で『正義の味方』を探すと、俺はもう一度願い直した。
エミヤシロウの『正義の味方』はもういない。ここで、俺は俺の『正義の味方』を探し出す。
見つけ出す。
「とっても簡単なことなのに、みんな、つい忘れがちなのよね」
もちろん、俺が楽しめる分はしっかりと楽しませてもらうつもりだ。
それが、俺の分まで楽しんでもらう人に対してのお礼になればいいと思う。
「さぁ、もうおやすみなさい」
グランマはこちらに向かって歩いてきて、そっと手を握ってくれた。
弱いなりに、きゅっと力を込めて握ってくれた。
「あなたの理想郷――ふるさと――が見つかりますように」
夏の夜。
正真正銘、その願いは俺の胸に届いた。
Navi:23 end
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
追加報告です!
ども、草之です。
このたび、弊屋敷(?)はAkiyakan様が管理するSSサイト、
『月と星が見える場所』
と、相互リンクさせていただきました。
えーと。まずはAkiyakanさんについてですが、ネギま!クロスオーバー及び投稿作品で豊富な今年に入って1000万HITを成し遂げられました、『NIGHT KNIGHT KINGDOM』様のところで投稿作品として
『世界の「外」の、魔導騎士』を連載されています。
そのAkiyakanさんが個人で管理しているサイトが、上記、『月と星が見える場所』です。
『世界の「外」の、魔導騎士』の他、世界観統一型多重クロスオーバー『クロスフェイト ~交差する運命~』の方も掲載しておられます。
オリジナル作品もあり、二次作品とも合わせて、よく練り込まれたカラシのようにぴりりと利いた、また読めば読むほど深みが出てくるまるでスルメ(いい意味で)のような作品ばかりです。
確かな実力を持っている御仁です。
最初は固くて読みづらい、などと思うことなかれ。
読み続けてこそ、彼の作品の深みに嵌っていく……。
ぜひ、リンクからジャンプして読んでみてください。
さて、では懲りずに更新予告です。
『B.A.C.K』を月曜日に。
『優星』を金曜日に更新予定。
『背炎』は来週頭に更新予定。
優星、背炎は間に合うかは少し怪しげです。遅れても最低2日以内には更新したいと思っているので、あしからずご了承ください。
では、草之でした。
このたび、弊屋敷(?)はAkiyakan様が管理するSSサイト、
『月と星が見える場所』
と、相互リンクさせていただきました。
えーと。まずはAkiyakanさんについてですが、ネギま!クロスオーバー及び投稿作品で豊富な今年に入って1000万HITを成し遂げられました、『NIGHT KNIGHT KINGDOM』様のところで投稿作品として
『世界の「外」の、魔導騎士』を連載されています。
そのAkiyakanさんが個人で管理しているサイトが、上記、『月と星が見える場所』です。
『世界の「外」の、魔導騎士』の他、世界観統一型多重クロスオーバー『クロスフェイト ~交差する運命~』の方も掲載しておられます。
オリジナル作品もあり、二次作品とも合わせて、よく練り込まれたカラシのようにぴりりと利いた、また読めば読むほど深みが出てくるまるでスルメ(いい意味で)のような作品ばかりです。
確かな実力を持っている御仁です。
最初は固くて読みづらい、などと思うことなかれ。
読み続けてこそ、彼の作品の深みに嵌っていく……。
ぜひ、リンクからジャンプして読んでみてください。
さて、では懲りずに更新予告です。
『B.A.C.K』を月曜日に。
『優星』を金曜日に更新予定。
『背炎』は来週頭に更新予定。
優星、背炎は間に合うかは少し怪しげです。遅れても最低2日以内には更新したいと思っているので、あしからずご了承ください。
では、草之でした。
B.A.C.K Act:3-5
「ユーリ!」
病院だというのに、私は勢いよく、しかも大声でアイツの名前を呼ぶ。
扉を開けると、きっといつもの憎まれ口が飛んでくるに違いない。もしかしたら、あいつに似合いもしない謝罪などを言うかもしれない。そのどちらでもいい。今はただ、お前の声を聞かせてくれ……。
「……な?」
だが、そんな希望は露と消えた。
後ろから看護師と一緒になって走ってきたテスタロッサもこの部屋を見て言葉を失う。看護師は何かを叫び、すぐに何人かの局員も飛んでくる。なんだ、これは一体……なんなんだ。
「主、はやて……?」
ぐったりと横たわっている主の姿を、ただ見下ろしている自分。
外傷はない。だからと言って油断が出来るものじゃない。それよりも、“なぜ”主はやてが倒れているんだ?
「ユーリ……。そうだ、ユーリはどこだ!?」
病室の窓は開け放たれていて、そこからの風で髪が頬を撫でる。それがいやに不快で、がり、と音がするまで唇を噛みしめた。
理解してしまった。
…………信じていたのに。
あの憶測は、当たってしまったというのか。
「シグナム、ここは私に任せてください。あなたは六課に連絡を」
「……あぁ」
テスタロッサに言われるまま、私は六課ロングアーチに通信を入れた。
対応してくれたのがグリフィスだったことはよく覚えている。それ以外はよく覚えていない。自分が何を言ったのか、どんな顔で言ったのか。全然覚えていない。
ただ、感情の残滓だけが体中に漂っている。
「……ユークリッド・ラインハルト……ッ!!」
怒りだった。
* * * * *
はやてが襲われ、ユークリッドが逃走したその翌日。正式にユークリッド・ラインハルトの次元間指名手配が発表され、また管理局の情報を多く知る者として、離反者として、大々的にマスメディアでも取り上げられた。それに関しては、エース・オブ・エース、高町なのはが出向中である機動六課の分隊長であり、さらには彼自身の高名が仇を為したことは言うまでもない。
六課の中の空気は悪い。
いつ解散の令が下ってもおかしくはないこの状況で、一体どうやって落ち着けというのだろうか。
「……フェイトちゃん」
「なのは」
私も、例外ではない。
なのはに肩を叩かれるまで、彼女の存在に気がつくこともなかった。
公開陳述会も間近に迫り、予言の日が近いこともあり、隊長副隊長は心が休まることもない。
ここはロビーだ。
はやては昨日のうちに目を覚まし、今は本局に出掛けている。母さんも一緒とのことで、上に解散を取り消しにしてもらえないかを掛け合っている最中だ。
もうそろそろ帰ってきてもおかしくはない。これこれ18時間は経っている。
『――――みんな、揃っとるみたいやな。六課は一応解散処分にはならんよ』
急にはやてからの通信が入った。
その後ろには母さんの姿も見える。はやては続けて、その理由を話し始めた。
『ユークリッド・ラインハルトの離反行為に気付けなかった六課は責任を取って解散、て流れやってんけどな。そもそもギリギリな部隊やってんからそれも当り前やけど。でも、一応言い訳はついたから、今すぐの解散はなし。そのかわり、今追ってるレリック……これの回収が終わり次第解散って流れになってもうたけどな。わるいな、みんな』
すぐに帰るから、隊長陣は会議室で待機。それだけを言い残して、モニターは消えた。
私達はこの場にいた六課隊員を解散させ、隊長副隊長は会議室へ向かった。フォワードのみんなも必死に「私達も会議室に入れてください」とせがんできたが、それは出来ない相談だ、とシグナムがドスの利いた声で断った。
初めて聞いたような声に、私も震え上がった。
一時間ほどして、はやてが会議室に入ってきた。ただいま、と笑う顔は血色がよくない。起きてからすぐに呼び出され、そしてこの18時間、一日近くの問答の繰り返し。いつまた倒れてもおかしくはなかった。
「さて、と。んじゃ、ホンマの事話すとしよかな……」
はやてはそう言って、どっかりと椅子に腰を下ろす。
首を数回鳴らし、肩を回し、伸びをする。ストレッチを十分にしてから、もう一度私達に向きなおった。
「ユークリッドを、利用させてもらった」
「は?」
その声は誰のものだったか。
気にする様子もなく、はやては続けた。
「まぁ、なんちゅうか、告った。そんで断られたんやけど、結果的にはそれでよかったと思う。話はこれが前提やから、しっかり覚えといてや。私はユークリッドにフラれた、と。
続きやけど、この後に、すぐにでも逮捕状が出されるからって話してんな。んで、退職届を見せた。もちろん、それにすぐに書くほどユークリッドもアホやない。書けば全責任が私、延いては機動六課に振りかかるからな。やから、もうひとつの選択肢として、私を襲って逃走するっつーのを提示した。そん時にゃもうユークリッドも分かってたんやろうけど、それを了承して、私を気絶させて逃げた。ここまで言うたら、分かるやろ?」
「……ユークリッド君を利用したっていうのは、つまり、全責任を彼に背負わせて、次元犯罪者に仕立て上げたってことなのかな?」
「さすが、なのはちゃん」
あんまりだ。
それじゃあ、もし、はやてのことが好きだと言っていればどうすつつもりだったのだろうか?
聞けはしない。だが、はやては自らその疑問の答えを言った。
「もし、好きやって言ってくれてたら……みんなには悪いけど、私も一緒に逃げるつもりやった。やからこの退職届は、ホンマは私用の退職届やねんなぁ」
ぴらぴらと一枚の紙をはためかせながら笑う。
そういうことだったのか。いや、でもそれは……。
「ま、どっちにしろ……これからのことを話し合おう思てな。さっき言うた、レリック回収完了と同時の解散の件なんやけど、実はもうひとつ条件があってな……。ユークリッドを六課の誰かが捕まえれば、なしになる」
それをはやてが口にした瞬間、すっとシグナムが手を上げた。
言わずとも解る。あの眼は、そう言う眼だから。
「それは、私に任せてもらえませんか?」
「シグナムが?」
「……主の前でこのようなことを言うのは心苦しいのですが、私はユークリッドを許せない。たとえ、その場でその選択肢しかないからと言って、それを受け入れ、主を襲ってしまった事実に変わりはない。私は、許せない」
「……そっか、ありがとなシグナム。でも、それは許可できんな」
「な、なぜ!?」
「私が捕まえるからや」
「な――――っ!?」
「んで、もう一回言ったんねん。『どや、こんなええ女があんたを捕まえに来たんやで?』ってな!」
わっはっは! と豪快に笑い飛ばす。
フッた腹いせにしては可愛いものがある気がしないでもないけど、そこがはやての優しさなんだろうか。
でも、今回の事でわかったことがある。
ユークリッドは、スパイじゃないし、スカリエッティの仲間でもない。
そして、はやても彼を信じてる。
「まぁ、一発ぐらいやったら私も譲るけどな。グーでばきーんてな」
にこやかに笑うはやての表情は、決して痛々しくなんかなかった。
むしろ、頼りがいがあると言っていい。
しかし、と思う。
これ以上、ややこしいことにならなければいいのだけど……。まだ不安要素が残っていることも確かだ。
ミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェル。
頂の王族。聖帝。人を越えた進化種。
悪い方に動かなければいいのだけれども。
* * * * *
「…………」
みんなはずっと黙ったままだ。
誰一人しゃべろうとはしない。
また、同じように誰一人として信じたくない。
ユークリッド隊長の離反。つまり裏切り。
どうして、こうなっちゃったんだろう。アタシが憧れた人は……どうしてこうもいなくなってしまうのだろう?
やっと、やっと兄さんにも自慢が出来るような人を見つけたのに……、どうして……どうして……っ。
「ティア、顔色悪いよ。大丈夫? 医務室、行く?」
「いい。大丈夫だから。そんなに心配しなくても大丈夫よ。そう言うあんただっていつもみたいに騒がしくないじゃない」
「そりゃ……出来ないよ。こんな空気で騒げって言う方が無茶だよ」
「ごめん、そうよね」
アタシ達は、これからどうすればいいのだろうか。
戦線指揮官としてのニーベルゲンがいなくなったから、自然とアタシまでその役目が降りてくる。
でも、敵になったユークリッド隊長をアタシなんかが倒せるのだろうか。チェスだって、まだ一勝もしたことがない。
そんなアタシが、ユークリッド隊長と渡り合うことなんて……。
「みんな、いるかな?」
「なのはさん! 会議は終わったんですか?」
「うん。一応ね。それで、今回の事なんだけど、ユークリッド君は厳密には敵じゃないよ。第三勢力として考えておいた方がいいかもしれないね」
それは、味方にもなるだろうし、敵になる可能性もあるってことだろうか。
「あの、なのはさん……ユークリッド隊長ってどうして指名手配なんかに……」
エリオがおずおずと手を上げて質問する。
それに対してなのはさんは苦笑い。私自身もよく分からないんだ、と言ってるようだ。
「彼、探してる人がいて、その人のレアスキルと、『サベージ』との能力が類似してるんだよ。だから、ユークリッド君はスパイなんじゃないかって、それでね」
「そんなの、こじつけじゃないですか!」
「ティアナ……」
そうだよ。
こじつけじゃないか。……こじつけ?
ちょっと待って。こじつけってことは、上がそう押しつけるように決定したってことだよね。
だとしたら、だとしたら……敵と繋がっているのって隊長じゃなくて、管理局の上層部なんじゃないのか?
それって、まさか……。
「ティアナ?」
「すいません」
だとしたら、ユークリッド隊長のしたことは、探していた人を探していたということは、直接関係無くても、上層部の繋がりを探ることと同意。だとしたら、だとしたら……!?
「ちょっと、八神部隊長と話してきます」
「え? ちょ、ちょっとティア!!」
スバルが止めにかかるが、そんなのは関係ない。
その場にいる全員を無視して、八神部隊長の執務室へまっすぐ歩く。いつの間にか早足になって、気がつけば走っていた。
そのまま息も絶え絶えに、執務室の扉を叩く。
『どうぞ』
「し、失礼しますっ!」
「んお? ティアナやんか……そんなに急いでどないしたん?」
八神部隊長は落ち着き払っていて、それがなぜかイラついた。
少しむっとした顔のまま、アタシはアタシの推測を八神部隊長に話す。それを、お茶を啜りながら聞く彼女にまたむっとした。
この余裕は一体なんなのだろうか。
「……なるほどなぁ。ティアナはそう思うんやな?」
「は、はい」
「……それは私も思ってたんやよ。まぁ、誰がって言われたらまだわからへんねんけどな。そもそも、上が敵と繋がって何のメリットがあるんか……それを考えるとどうもな」
繋がっているかもしれない、という疑惑はあるというのに、その理由と証拠がない。
なにかを見落としているんじゃないだろうか……。
「……たとえば、こういうのがある」
「な、なんですか?」
「たとえば、公開意見陳述会。それにはレジアス中将が計画を進めてきた魔導兵器『アインヘリアル』がお披露目されるな。それに対して、海の方は予言を危惧している分、護衛を増やせだとか、こちらからも手伝おうとか言うてる。それを頑なに拒んでいるレジアス中将閣下は、その『アインヘリアル』に自信があるのか……それとも――」
「『アインヘリアル』の威力を海に見せつけたいのか、ですか?」
「そう。今まで管理局を少なからず苦しめてきたAMF機構持ちのガジェットに対して、『アインヘリアル』は有効だと、陸は陸の力で、絶対的な力で守り切れると主張したい。そうすれば、レジアス中将のお株も上がるし、予言を覆したという実績さえ持つことになる。レジアス・ゲイズ個人に対して与えられる権限がより大きくなる」
「……野心のために、敵と結ばれているということですか?」
「私から言わせてもらえばナンセンスやけどな……。むしろアホらしい。それにこれは仮定の話やで?」
そう言って、部隊長はカップを置いた。
これ以上今は話していてもしょうがない、と言いたいのだろう。アタシもさっきまでのイラつきが嘘のように消えていた。きっと、余裕しゃくしゃくな八神部隊長の姿を見て、きっと嫉妬したんじゃないかと思う。きっと理屈なんかじゃない。
アタシは信じたくないという気持ちで止まっていたのに、彼女はずっと信じていたからだ。
『犯罪者だなんて信じたくない』じゃなくて、『犯罪者でないことを信じてる』。
初めから答えは出ていて、それを信じている。
アタシは、まだ答えすら出ていないっていうのに。……勝てないなぁ。
「ま、目の前の問題から片付けていこか、フォワードリーダー?」
「……はい。そうですね」
こうして夜は更けていった。
* * * * *
朝焼けが目に眩しい。
昨日一日は身を隠すことに専念していた。ここならしばらくは見つからないだろう。
と、言っても本番は一週間後の公開意見陳述会だ。
それまではいろいろとしなければならないことがある。
カートリッジの作成、鈍った体の鍛え直し、ジークフリードへの対応。
……魔導師としての区切り。
「ジークフリード。結局お前をあの姿に戻すことになっちまったな」
《No problem》
カートリッジシステムを搭載して戻ってきた相棒には驚いた。
まさかこいつがこんな無茶をする奴だとは思っていなかったのもあるが、自発的に行動をしたこいつに驚いている。
フレーム強化や、演算の高速化。と言っても、フレームとカートリッジ以外はそんなに違いがあるわけじゃない。そのためか、扱いもそれほど変わったものにはならなかったし、むしろ、それだけ追加されればオレが今まで出来なかったことだって出来るようになってくる。砲撃の威力安定、飛距離の増大、防御の向上。これだけあれば、お腹がいっぱいになる。
「……バリアジャケット、魔導甲冑からわざわざ騎士甲冑に戻しやがって……芸が細かいな」
《Otherwise, her power cannot be endured(でなければ、彼女の力に耐えられません)》
「……そうか。悪いな」
騎士甲冑を最後に来たのはいつだったか。
騎士甲冑を脱いでからはバリアジャケットを模した騎士甲冑、自称魔導甲冑を着用していた。
防御性能は騎士甲冑の方が比べものにもならないほどに高い。高速戦闘用に軽くしたから、それだけ装甲が薄くなっている。それでも分厚い部類に入っていた。
元々、ラインハルトは対単戦闘には特化していない。
対多戦闘などが主になっていた。ゆえに、ラインハルトの騎士甲冑は防御魔法も顔負けの強度を持っている。まぁ、その分かなりの重さがあるのは確かだが。
そして、少数精鋭たるラインハルトの理由。それは――――
「……クーは、きっとみんなを守ってくれるさ。でもオレには最後まで出来なかった事を押しつけちゃったからな……会ったらきっと怒られる」
ジークフリードは黙ったままだ。
オレはそれがなぜか可笑しくなって笑った。
まるで、あの頃に戻ったみたいだ。
ただ、いないのはミーアとクー。それと親父。
「……取り戻す、全てを。この手で、絶対に」
荷物をまとめる。
まとめた荷物を担いで、昇りきった朝日に目を細めた。
口にしたのは誓いの言葉。
取り戻すのは、自身の日常。
守り抜くのは、自身の誇り。
一人の騎士が、戦場へ向かう。
見送る者は誰もいない。
ただ、彼は見送る者を取り戻すために戦場へ。
「行くぞ、ここからが正念場だ」
朝日に向かって呟く。
そうだとも、ここからが正念場。
一歩間違えばそこで全てが終わる。脆すぎる砂の橋を渡るという行為に似ている。
しかし、賭ける価値はある。ただし、賭けなければカードは配られない。最高の一手を導き出し、ジョーカーは切らない。
切り札を切るとすれば、それは相手が勝負に出た時。
一刀のもとに、斬り伏せる。
「ついてこいよ、お前ら」
デバイスに語りかける。
機械という区切りがあったとしても、こいつらはオレの戦友だ。
オレの最強の一手、ジークフリード・インディゴ。
そして――――
《Beginnen Sie Bestätigung(起動確認)》
オレのジョーカー。
Act:3-5 end
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
その優しい星で… Navi:24
「はい、ARIAカンパニーです」
いつも通りに電話がかかり、それを取る。
受話器の奥で、あ、と息をのむ声が聞こえた。
『……お、お久しぶりです。ちょっと前に行った遠坂凛……なんですけど、覚えてますか?』
「ああ、覚えてますよ」
忘れる筈もない。
もう一言付け足させてもらえば、俺側の世界にいる遠坂の顔も忘れていないのに、忘れる筈もない。
一呼吸おいて、彼女に続きを促した。
『夏休み中なんですけど……もう一回予約入れたいんですっ』
「いいですよ。いつこちらに来るんでしょうか?」
『あの、お恥ずかしながら……実はもうアクアにいるんです』
「え?」
前回は間宮嬢と一緒に来て、行動力は少ない方だと思っていたのだが、まさかもうアクアに来ていたとは……。
それはいいとして、あと何日ほどこちらにいるつもりなのだろうか。
「あと、何日こちらにご宿泊の予定がありますか?」
『今日は入れずにあと2日です。というか、今着いたんです』
「……今、ですか?」
ということは、今ちょうど空港の辺りで携帯端末を使っているんだろう。
「ちょっと待ってください。今スケジュールの確認をするので」
『あ、はい』
スケジュールボードを見て、今日と明日と明後日の予約を確認する。
うまい具合に明日の夜が抜けていた。
「明日の夜18時からでしたら空いてますが?」
『え、ほんとですか!?』
「えぇ」
『よかったぁ……!ちょっと無理かなって思ってたから……』
「ですが、次回からはこう言うことがないように。こちらもいきなりだと困りますので。最低2週間前には連絡しておいてください」
『あ、すいません』
見知った仲だからここまで言えるんだがな。
それに、だ。こっちの遠坂には悪いが、アイツの顔をした女性をからかえるというのは、中々にないことだ。
電話はそこでおしまい。リピーターは多いが、ここまで行動的なお客も珍しい。
まぁ、連絡を入れるだけまだマシか。この間なんていきなり来店して、大丈夫かどうかを聞いてきた客もいる。まぁ、時間を考えればどっこいどっこいと言ったところだが。
夜。今日かかってきた遠坂からの電話をアリシアと灯里に話した。
アリシアは日課のスケジュールボードの確認をした時に気が付いていたようだが、灯里は俺の話を聞いて驚いていた。
そういえば、前回の来店時、一番仲が良くなったのは灯里だったか。相乗効果で和やかさが半端ないことになっていたのをよく覚えている。
「凛ちゃん来るんだー。あ、じゃあのぞみちゃんも来るんですか?」
「いや、今回は遠坂さんだけらしい」
さん付けがどことなくこそばゆい。
思い出してみればアイツの方をそう呼んだことなど一度もなかった気がするんだが……。なぜだか多かった気がしないでもない。
ちなみにのぞみ、というのは間宮嬢の事だ。
「楽しみだなー」
灯里は、いつも以上にニコニコして自室に戻って行った。
残ったアリシアと、前回の訪問の時の事を話し合った。
最初に来店した時の事だ。あの時は間宮嬢の後ろに隠れる程あがっていて、可愛いものだと思うと同時、その俺の世界の遠坂そっくりの見た目と中身のギャップで笑いを堪えるのに必死だった事を覚えている。
時間がきて、アリシアが帰ってくるとテンションが異常なほど上がり続け、誰の手にも負えなくなり、終いには過呼吸になってこちらが焦ってしまった。数分遅れで出発していったよなぁ。
観光中は一気に静かになっていたという。どうやら、過呼吸のことがとんでもなく恥ずかしかったらしい。それもしばらくすれば慣れてきたのか、あれはなに、あれはなに、と熱心に聞いて回ったらしい。
帰ってきたのはヘトヘトになったふたりだった。テンパっていたせいだろう遠坂さんと、それをなだめることに専心していた間宮嬢。
「また来ます!」意気揚揚とそう言って、帰って行ったが……まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。
「でも、本当にその、士郎さんと友達だっていう遠坂さんと、凛ちゃんってそっくりなんですか?」
「性格は全然だけどな。高校のときの遠坂にそっくりだ」
「そうですかー。可愛い友達がいたんですね」
「学生の時は、俺も例にもれずに気になってたもんだけどな」
一瞬、アリシアの笑顔を見るのが怖くなったのだが、気のせいだろう。
「それじゃあ、そろそろお暇しますね」
「あぁ、おやすみアリシア」
「おやすみなさい、士郎さん」
こうして一夜が過ぎていった。
言葉がない。
いや、なんというか……。短期間でここに戻ってきたことから考えて、それなりの行動力があったのは認めるが……。いや、これはもう行動力云々と言ってる場合じゃないか。
「あ、あはは」
「“おはようございます”遠坂さん」
「おはよーございます……。あははは」
只今、開店直後の午前9時。
遠坂さんが予約を入れたのは、午後の6時。実に9時間のフライングだ。
アリシアもさっき出ていったばかりで、次に帰ってくるとしたら昼間だ。灯里も開店より早く出かけてしまっている。
「……とりあえず、待ちますか?」
「あ、はい」
「お茶入れるんで、適当に座っておいてください」
テーブルを指さして、指示を出しておく。
おどおどしながらも遠坂さんはソファーに腰を下ろし、俺の入れるお茶を待っていた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
あぁ、そうか。
性格なんて全然似てないのに、どこかしら似てるような気がしていたのは『猫被り』だ。
いや、遠坂さんは猫被りをしてはいないだろうが、遠坂の方だ。遠坂が猫を被ったときの性格と、遠坂さんとの性格が似ているんだ。おどおどしたところを抜けば、きっと優等生の仮面を被った遠坂が見えることだろう。
「えらく短期間で戻ってきましたけど……そんなに良かったですか?」
「え?あ、はい!だから私、あれからバイトして、お小遣いも全部貯金して、おかげで体重も減ったし、何にもすることがなかったから勉強して成績も上がったし、それでひとりで行くって言っても親が許してくれて……」
どうやら遠坂さんはあまり勉強が出来るタイプではなさそうだ、ということがさっきの言葉で分かる。
体重を気にしてるところは、女の子だったら全員がそうなのだろうか?全然ダイエットの必要がないようにも見えるんだが。
「あ、おいしい……」
「そうですか、そう言っていただければこちらとしても嬉しいですね」
「……あのぉ」
「はい?」
びくん、と反射的に体を強張らせている。
男性恐怖症、とかそういうのなのかもしれない。いや、ただ単に人見知りの癖があるだけかもしれないが。
それはともかく、急かすことなく俺は彼女の言葉を待った。しばらくして落ち着いたのか、彼女は静かに呟いた。
「敬語……なんだか使いづらそうなニュアンスなんですけど……無理しなくていいですよ?」
「え……と。一応お客様ですし」
「いえ、気にしなくても大丈夫です。私、そういうの苦手で」
「敬語が、ですか?」
「はい。話すのは、別にそうでもないんですけど……なんていうか、話されるとむず痒くなるんです」
「なら、いつも通りで話させてもらうかな」
「わ」
その変わり身に驚いたのか、遠坂さんは口をポカンと開けたまま固まってしまった。
こうやって驚かれることは少なくはないが、こちらとしても毎回そうやって驚かれては苦笑するしかなくなる。
口調を戻し、そのままで小一時間会話した。それでもまだ昼にならない、というのはなかなかに堪えるものがあった。それは遠坂さんの方も同じらしく、せわしなくキョロキョロとし出した。
「何か気になるものでもあるのか?」
「あ、そんなじゃないんですっ。けど、その、ウンディーネのお仕事に興味があって……」
「へぇ。そうなのか」
「月刊ウンディーネも毎月買ってるんです!コラムだって読んでるし……」
それからそれから……。
そんな感じで彼女のウンディーネの話に聞き入っていると、気がつけば正午を回っていた。
そろそろアリシアも帰ってくるだろう。もしかしたら灯里に藍華、アリスも帰ってくるかもしれない。
「昼、食べるか?」
「えっ、でも……そこまでしてもらうのは……悪い気が」
「気にしなくていいさ。それに、俺としてもちょっとした暇潰しになる」
「じゃあ、はい。いただきます」
適当に冷蔵庫の中の残りモノでサンドイッチを作ろう。
食パンならまだまだあったし、量を作っておけば昼に誰が帰ってきても問題はない。もし残っても午後の間食として食べられることを考えれば、やはりサンドイッチが一番手っ取り早い。
10分とかからずに山のようにサンドイッチを作り上げ、適量を大皿に乗せ、遠坂さんのいるテーブルへ持っていく。途端に彼女はぱっと表情を明るくさせ、遠慮なくひとつを手にとって食べた。頬をいっぱいいっぱい膨らませ、げっ歯類のような細かな仕草でサンドイッチを一つ平らげた。
「さっきまでの態度はどこに行ったんだか」
と、苦笑すると、遠坂さんは赤くなって俯いてしまった。
ごにょごにょと何かを伝えたそうに口を動かせているが、上手く言葉になっていない。
「あ、の……昔っから……許してもらったこととか、しなさいって言われたこととかには遠慮するなって教えられてて、それで、その……あぅ」
「なるほどな。いや、いいんじゃないか?」
「そう、ですか?」
日本人にしてはなかなか思い切りがいい思考の持ち主だ。
謙虚さが前面に出てしまいがちな彼らにしてみれば、こうやっていきなり“楽しむ”ということが出来ないだろう。その点、彼女は一歩先を行って少しでも多く楽しめる、ということだ。それにしてはあがり症だがな。
このあがり症も、ネガティブ方面ではなく、きっとテンションが上がり過ぎてアクティブになり過ぎてしまうんだろう。暴走癖とでも言うべきだろうか。なるほど、過呼吸になるわけだ。
「ただいま帰りましたー」
「ただいまです」
「ただいまーっ。衛宮さん、今日のお昼ってなんですかー?」
予想通りに三人が帰ってきた。
顔は汗で汚れ、慣れなのか何なのか、俺の前だって言うのに藍華だけはスカートをパタつかせて風を送っている。
「昼の前に、手洗いうがいと、あとシャワーでも浴びて来い。汗だくだぞ」
いやに大人しく、遠坂さんにも反応せずにシャワーを浴びに行ったもんだ、と思って彼女に視線を戻してみると、ソファの後ろに縮こまって隠れていた。思わず笑いかけてしまうが、必死にそれを抑える。
これは反則だ。あんな、子犬みたいな格好……、ギャップがありすぎる……っ。
「な、なんで隠れたんだ……?」
「あ、その……なんだか反射的に……」
「はは、おかしい奴だな」
「そ、そうですかね~?」
俺はそのままサンドイッチを追加しに二階のキッチンへ向かった。
なんだ、慣れてくると本当に普通の女の子なんだな……。いや、遠坂がかなり特殊だっただけかもしれないが……。
…………まぁ、なんだ。しょうがないと言えばしょうがないだろう。
「……シャワーを浴びずに何してるんだ、お前らは」
「あ、あはははは」
「私は止めたんですけど、藍華先輩が……」
「ちょっ、後輩ちゃん? あんたもバレなきゃ大丈夫~みたいなこといったじゃないっ」
三人が三人とも冷蔵庫を開けて昼食用に作っていたサンドイッチを食べていた。
藍華は俺の足音が聞こえて急いでかき込んだのか、口元にマヨネーズやらパンくずだとかがくっついていた。
まぁ、他二人がバレてちゃかき込んだ意味もない気がするがな……。
「ほら、ちゃんとシャワー浴びて来い。サンドイッチはちゃんと用意しとくから」
『は~い』
とぼとぼと三人揃ってシャワールームに歩いていく。
その姿を見送ってから、サンドイッチを皿の上に乗せていく。きっとこれだけあってもあいつらの事だ、あっという間に平らげてしまうんだろう。あとは水分もしっかりとって、熱中症とか、日射病にならないように気を付けてもらうだけだ。
「大変ですね」
「もっと大きなところと比べたら、だいぶマシさ」
馴染んできたのか、遠坂さんは先程までと比べてハキハキとしゃべるようになってきていた。
またしばらく適当に彼女と話していると、上からガヤガヤと姦しい声が聞こえてきた。
「士郎さーん。入ってきましたぁ………ぁああっ?」
「こ、こんにちわぁ……はは」
「凛ちゃんだぁっ」
灯里が勢いよく走りだし、立っている遠坂さんに突撃する。
勢いを受けきれず、遠坂さんは背中からくの字に折れ曲がった。
「く、おっ」
「あ、ごめん」
「あ、あははは。やっぱり灯里ちゃんは元気だなぁ」
灯里に聞いたことがある。なぜあんなに遠坂さんと仲がいいんだ、と。
灯里はちょっと恥ずかしそうに『同年代の地球育ち』だから、だと言った。それを聞いてハッとした。
彼女にも地球にいた頃はあって、そこからアクアに来たんだから、友達や両親と別れをしてきたってことだ。永遠にとはいかないまでも、直接会う時間などほとんどなくなる。
灯里の持ち前の明るさに隠されて見えてこないが、灯里は、究極的に独りだったんだ。
藍華やアリスは生粋のアクア育ち。親友とまで言えるような関係であっても、火星と地球とは環境が違う。
アリシアだって、グランマだってそうだ。俺も一応地球育ちだと言えるだろうが、時代が違い過ぎている。それに男だ。
こういうことで推測を立てるのはあまり好かないが、これらのことからこう考えられる。
灯里は誰にも嫌われたくないんじゃないのか、もう、別れは経験したくないんじゃないのか?
アルトリアとの別れの場で見せた必死すぎる姿は、これで説明がつくと言えないこともない。
そんなことを考えてしまったことがある。
だからお客様という以前に、遠坂さんを自分と地球を繋いでいるパイプラインのように感じて、あれほど懐いてしまったんじゃないのか、そう考えてしまったことがある。
「こんなに早く来て、どうしたの?」
「えっと、うん。待ちきれなくなっちゃって」
「じゃあじゃあ、良かったらなんだけどねっ。アリシアさんとの予約の時間まで、私達と一緒にお話ししない?」
「もちろんいいよ。私も久しぶりに灯里ちゃんたちとお話ししたかったから」
「わーひっ!」
こうして、遠坂さんを含めた四人で会話が進んでいった。
俺は給仕に専念し、出来るだけ邪魔にならないように部屋の隅の方で、すでにひとつの趣味として定着した読書をする。数ページ読んでは四人の様子を見て、何もなければそのまままた数ページ本を読み、給仕が必要であれば栞を差して本を閉じる。
その繰り返しをすること数十回。気がつけば時計の針が3時を回っていた。そろそろ口がさびしくなる頃だろうか。確かアリシアが買ってきていたクッキーの缶がまだあった筈だ。静かに本を閉じ、キッチンにある棚を開く。クッキーの缶はすぐに見つかったが、クッキー自体が残り少ない。今ある材料だと、作れるものも少ない。
「パンの耳……残しておいたよな」
今日の昼食用のサインドイッチを作る時に残ったパンの耳は、袋に詰めて冷蔵庫に入れてある。
これを揚げて、砂糖をまぶせばスナックに早変わりだ。なのだが、
「お客様に出すにしては、ちょっとな」
少し華やかさに欠けるというか、あまりにも貧乏臭い。
さて、どうしたものか。
「…………パンの耳、か」
揚げる前は柔らかいままのパンの耳だな。ということは、これを、こうして……。
作業をしている横で、油を熱しておく。全ての作業が終わった頃、油もちょうどいい温度になっていた。
あとは適当に揚げて、油を切って、砂糖をまぶして、クッキーの横に並べれば上出来。
「よし」
自分にしてはちょっとばかり頑張った様な気がする。
まぁ、これで受けが良くなければそれはそれ。今度からは無理をしてまで工夫をしようとは思うまい。
「そろそろ、口もさびしいだろ」
テーブルの中央にクッキーと揚げ菓子を乗せた皿を置く。
さて、四人の反応やいかに。
「わ。これ、衛宮さんが作ったんですかっ?」
遠坂さんが真っ先に喰らいついてきた。確かに、サンドイッチなら誰でも作れるからな。俺がこういう事をそれなりに出来るという事を知らなかったんだろう。お茶だって麦茶を出していたわけだし。
「わぁっ。これパンの耳揚げたやつですよねー。一瞬見ても分からなかった~」
「でっかいカワイイです」
「衛宮さん、ぐっじょぶ!」
「おいひーいっ」
さて、俺がパンの耳に施した工夫と言うのは一体何なのか。
答えはリボンだ。パンの耳を結んで、それを揚げる。ただ一本だけのスティック状と比べれば見た目は良くなっている筈だ。
それもどうやら好評らしい。こういう事を考えられない頭を使って閃いただけの苦労はあったということか。あの笑顔が見れればこちらとしては十分満足だ。
「あぁ、ちなみにクッキーは俺のじゃないからな。あしからず」
「分かりますよー」
「全然味が違いますから」
「これも美味しいけど、衛宮さんのクッキーはまた違った美味しさがあるのよねー」
「あ、それ食べてみたいかもー」
本当に姦しいことだ。
ああやって笑ってるところを見てると、つくづく黙っていれば……もとい、本性を隠していれば美少女だったんだなぁ、と感慨に耽ってしまう。とすれば、こちらの遠坂さんは常に美少女だということか。羨ましいぞ、こっちの俺。いや、いるかどうかも知りはしないが。そもそもいたとしても遠坂さんと知り合いであるかどうか。
ハッと我に帰ると、なんともくだらない事を考えてしまった、と恥ずかしくなる。
時計に目をやれば、もう4時を回っていた。
昼からぶっ通しで話し続けている彼女らを見ては、よく話題がなくならないものだと感心する。
「ねぇねぇ、ところでさぁ、凛ちゃんってば彼氏とかいたりするの?」
急に藍華がそんなことを言い出した。
それはいくらなんでも、突っ込みすぎじゃあないか?
「藍華先輩、でっかいオヤジです」
案の定、アリスにきつい言葉をかけられている。
にも関わらず、藍華は怯む様子もなく遠坂に詰め寄っている。
「い、いないよぉ」
「うっそだぁー。そんな可愛い顔して、いないわけがない!」
なんで後半で言い切ってるんだ、この子は。
さらに藍華の攻撃は続く。
「どうなのよー、お土産とかいい店紹介したげるから、話しちゃいなさいよー」
「だーかーらー。いないってばぁ」
……なんだろうか。
なんとなくだが、こっちに来る前にも何度か経験したことがある感覚が警鐘を鳴らしている。
『今すぐ藍華を止めろ』と、頭の中で叫んでいる。
嫌な予感を通り越して、嫌な悪寒がする。
「ねぇねぇ、どうなのよー」
「藍華。いい加減にしないか。遠坂さん、困ってるだろ?」
「でも気になるっしょ、衛宮さんだって」
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら、だ。いい加減にしないと、お前だってアルとのこと聞かれたら困るだろ?」
「そっ、それとこれとは話が別ですっ。そもそも、私は別にアル君と何かあるわけじゃ……」
「ほら見ろ。これに懲りたらもうやめとけ」
話しがそれで、収まればよかった。
嫌な悪寒の正体は、もうすでに遠坂さんに降りてきていた。
ニタリ、とした笑みとともに。
「へぇー。藍華ちゃん、好きな人いるのね。どんな人なのかしら?」
懐かしいと思ってしまったのは気の間違いだと思いたい。
心なしか、遠坂がここにいる気がする。遠坂さんに、乗り移ってる気がする。
「だ、だから違うってば! 好きとか、そういうのでもなくて、その……」
「だったら、ただのお友達なのかしら。でも、衛宮さんがお話に出してくるくらいだし、脈はあるんじゃない?」
エンジンがかかってまいりました。
昼間までのお淑やかな、物静かな、人見知り全開な遠坂さんは一体どこへいったのか。
早いこと戻ってきてもらいたいものだ。
「あ、あうあうあう……」
「別に仕返ししてるとかじゃないんだけど、やっぱりそこんとこ気になりますよね、ねぇ、衛宮さん?」
「……いや、別に」
関わりたくない。
正直関わりたくない。こちらの遠坂さんも猫被りだったのか……。
しかも、遠坂と比べて遠坂さんの元が大人しい性格な分、その変心の違いと来たら、俺でもこれは勘弁願いたいと思うところがある。
「そうですか。じゃあ、お土産屋さん、明日教えてもらってもいいかしら? アルって人のことと一緒に、ね」
「ひぃい――――っ」
藍華が早くも泣きそうになっている。
ごめんな、藍華。俺はこれだけにはどうしても勝てる気がしない。
「ただいま帰りました」
「ああ。おかえり、アリシア」
時計を見れば、もう5時をとっくに過ぎていて、6時の方が近かった。
遠坂さんに帰って来たぞ、と言おうとして振り返ると、どこにも彼女の姿がなかった。
なんていうか、凄いな。
「あらあら。藍華ちゃん、どうしたの?」
アリシアは泣いてしまいそうな藍華に歩み近寄っていく。
藍華はと言えば、なにやらわけのわからないことを呟きながら瞳に涙を溜めている。
「あ、あ、あ、あのっ。こ、こんびゃんわっ!!」
「あらあら、凛ちゃん。もう来てたのね。いらっしゃい」
思いっきり噛んだ。
藍華の頭をなでながら、アリシアが飛び出してきた遠坂さんと挨拶を交わす。
どうやら暴走癖持ちの性格へシフトしたらしい。考えてみれば、あれもある意味暴走か?
アリシアはしばらくの間、休憩がてら遠坂さんと話していた。遠坂さんはやはり噛み噛みで、いつ沸騰してもおかしくはないほど顔が真っ赤だ。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「は、ひゃいっ!」
俺達はアリシアと夜のネオ・ヴェネツィアに発って行く遠坂さんを見送り、藍華をなだめ、あとはふたりの帰りを待つだけとなった。
今から夕食の準備を始めれば帰ってきたころに、ちょうど食べ始められるだろう。
それにしても、今日はなかなかに疲れた一日だった。予約の電話は少なかったが、まぁいろいろと気疲れというやつだろう。
戦闘中のストレスになら慣れたものなんだが、やはりこういう人に接するという行為は思っている以上に疲れるものだ。
「さて、三人とも。手伝ってくれ」
『はーいっ』
こうして日はまた落ちていく。
「今日はありがとうございましたっ!」
遠坂さんは深々と腰を折ってお辞儀をした
「また来てね、凛ちゃん」
「今度はしっかり連絡してから来いよ。いつでも空いてると思ったら大間違いだぞ?」
「またメールするね!」
「今度来たときには私はプリマになってるから、そこんとこよろしく」
「また一緒にお話ししましょう」
ひとりひとりが順番に彼女の声に応えていく。
名残惜しそうに、遠坂さんは宿泊する予定のホテルに足を向けた。まだ少し明るい空に、よく映えた姿だ。
例にもれず、遠坂さんも一緒になって夕食を食べ、そしてこの別れ。
今日一日で本当に仲良くなったもんだ。
今度来たら、泊まらせてください、とか言いだしそうだな。
「……さ、藍華にアリス。明るいって言ってももう遅いからな。送ろう」
「はーい」
「でっかいお世話になります」
いつも通り、遅くなれば俺が送る。
それが終わればあとはアリシアを見送って、明日に備えて早く寝る。
そうして、一日が終わる筈だった。
「…………」
藍華とアリスを何事もなく送って、帰ってきた俺を待っていたのは、
「す、す、すいませぇん……今日、ていうか、アクアにいる間、と、泊めてもらえませんかぁ?」
「ホテルはどうした、ホテルは」
遠坂さんだった。
入りにくそうにARIAカンパニーの前をうろうろとしていたところを、俺が見つけて声を掛けたわけだが。
「……じ、実は、予約したハズなんですけど、その……そんな電話、掛ってきてないって言われて」
「…………」
「えっと、たぶん、その……こっちに予約の電話するのにいっぱいいっぱいで、うっかりホテルの方の予約、忘れちゃったみたいで、
その、えっと……ごめんなさい」
「…………はぁ。しょうがない、これっきりだからな」
「わぁ……っ。あ、ありがとうございまずぅぅ~~~~っ!」
こんなとこまでそっくりでなくても良かったのに。
まったく、とんだお嬢さんだ。
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
背徳の炎 track:23
その出会いは急だった。
「Wait for a moment(ちょっと待った)!!」
『?』
服を掴まれる直前、その声は聞こえた。
上から。
『な、なんやお前!?』
ばしゃ、と音をたてて飛び降りてきたのは、私達と同い年くらいの女の子。背は小さ目だ。海賊帽みたいなものをかぶっていて、ツナギみたいな服を着ている。しかも、見た目まんま日本人なのに英語喋った。
「“Nanya”? What word(何語)?」
『おいおい、勘弁してぇな……。おい嬢ちゃん。あれ、なんて言っとんねん? いまどきの学生時分にゃ、ああいうの習っとんねんやろ?』
「……え、えと……」
私に訊かないでほしい。
ていうか、私一応助かったってことでいいのかな……?
「それは何語だ、という感じですか」
刹那さんがそう訳す。ああ、わっとわーど、ね。でも言葉ってラングエジじゃなかったっけ?
まぁ、認めたくないけど馬鹿だからそう言うのよく知らないけど……。
『おう、そうかいな。日本語やって、言うっちゃってくれ』
「なんで私が貴様らの翻訳などしなければならんのだ。……まぁ、こちらとしてもある程度コミュニケーションがとれなければいけなさそうな雰囲気だが……。ごほん。イッツ、ジャパニーズ」
たどたどしい英語で刹那さんが女の子に語りかけた。
それを聞いた女の子は一瞬キョトンとして、次の瞬間ざっとすごいスピードで刹那さんに迫った。
「really(本当に)!?」
「い、イエス?」
「It is wonderful(すごい)!」
なんだか異常に喜んでる。
ピョンピョン跳ねまわり、刹那さんの手を握ってぶんぶん上下させたり、抱きしめたりしてる。
なんだか、リアルで海外ドラマを見てる気分になってきた……。
ふと、そう言えば上から来たということを思い出して空を見上げてみた。
月が綺麗で、星も燦然と輝く夜空にひとつ、大きく翼が羽ばたいた。
「え?」
ふわりと、水面に波紋を立てて文字通り舞い降りたのは、ボンテージに身を包んだ女性。
胸もおっきいし、肌はやわらかそう。宝石のような蒼い髪とは対照的な、深紅の瞳。言葉で表せないほど綺麗な人だった。
ただ、その背中の翼と尻尾に目をやらなければ。その綺麗な外見以上に際立って異質な白黒一対の翼と、艶やかな黒い尻尾。幻想的ではあるけど、うすら寒い威圧感があった。
女性が降りてきたと同時、女の子の方も喜ぶのを一回止め、ふたりで並んで仁王立ち。
「Liberate her(その子を放しなさい)!」
私に向かって、びしっと指をさして何かを言う女の子。
私の腕を掴んだままの鬼は首をかしげ、周りの鬼になにかを伝え始めた。
女の子たちは鬼の返答を待っているのか、じっとしたまま動こうとはしない。
鬼はこういった。
『邪魔すんねやったら、そいつらも抑えとけ。ついでに遊んだる』
つまり、攻撃の合図。
逃げて、と叫ぼうとする頃には女の子の3倍は大きな鬼が彼女めがけて突進した後だった。
女の子たちは驚いて身構える。……え、構える?
た、戦うつもり……っ!?
「逃げて――――っ!」
刹那さんも動こうとはしない。いや違う。あれは、固まっている?
なんで……?
私はともかく、助けてあげなくちゃ……っ。
「Hey!」
ドゴン。
何か音が鳴ったと思った時には、視界の中で変化が起こっていた。
突進していたはずの大鬼が、こちらに向かってすごい勢いで吹き飛んでいた。
『なっ!?』
私の腕を持っていた鬼は私を放り投げてその場から逃げた。
私はそのままその場に倒れ込み、どうやっても飛んでくる巨体から逃げられない状況になった。
「あ」
思った以上に気の抜けた声が出た。
もしかしたらさっきよりも苦しい死に方かもしれない……。
一瞬で呆けた思考は消え去り、また一瞬で恐怖が襲ってきた。ぎゅっと目をつむって、恐怖に震えた。
「……………………?」
いつになっても鬼が落ちてこない。
恐る恐る目を開けると、いつ出来たのか、巨大な氷柱が鬼を閉じ込めていた。
「な、にこれ……」
その疑問に誰が答えるわけでもなく、答える代わりに体がガシッと持ち上げられた。
抱き上げた相手は刹那さんかと思ったら、私よりも小柄で、なおかつ華奢なあの女の子だった。片腕で私を担ぎあげ、私以上のスピードで森の中を走っている。私の正面、つまり女の子の背中にはあの異形の女性が飛んでついてきていた。そのさらに後ろに刹那さんの姿が見える。どさくさに紛れて一緒に逃げたんだろう。
女の子は何やら女性と話しているみたいだけど、私にはその話の内容の一割も理解できない。
こんなことなら英語ちゃんと勉強しとけばよかった。
「明日菜さん!」
「せ、刹那さぁん!!」
泣き声になっていた。
知らないうちに緊張が解けて、いつの間にか泣いていたらしい。
だが、安心出来そうな雰囲気でもない。刹那さんのさらに後ろには、さっきの広場にいた鬼の大群が追ってきている。
その中でも足の速い鬼は、もう刹那さんの真後ろにまで迫ってきていた。
「っく!」
刹那さんが振り向くと同時、乾いた炸裂音が森の中に響いた。
爆竹のような、癇癪玉が破裂するような音。
「なかなかクールになったじゃないか、刹那」
「龍宮……?」
「私もいるアルよ」
「古まで!?」
茂みの中から出てきたのは、龍宮さんにくーふぇだった。
ふたりともなんでここにいるの……っていうか、龍宮さんの持ってるあれって本物の銃だったりするの?
「ほら、また!」
ドンドン!
後ろを振り返ることなく的確に鬼を撃っていく。
「すご……龍宮さんなんでそんな……」
「君の眼を見ればだいたいどこにいるかぐらいわかるさ」
「しかし、なぜここに?」
刹那さんは震える声で、出来るだけ何でもないように龍宮さん達に声をかける。
その返答は、さらりとしていた。
「本当は神楽坂さんをカッコよく助けるタイミングで出ていきたかったんだけどね。そこ行くお嬢さんに先手を打たれてしまった、というわけさ」
「私、見てたアルよ。あの子普通にあのオバケ殴り飛ばしてたネ!!」
「で、飛んでる女性の翼が擬人化して、飛ばされた鬼を氷漬け。とまぁ、そういう感じだ」
どういう感じなのかイマイチ掴みかねる説明を受けながら、一応理解したことがひとつ。
女の子たちが私達の味方で、私を助けてくれたということ。
「えっと、じゃあ、この子たちがもしかして長さんが言ってた増援……とか?」
「ありえません」
刹那さんにズバリ切って落とされた。
「日本語を知らない、という不可解なことと、あの化け物……もとい、女性の事から考えて増援という線は皆無。たまたまそこにいたにしては不自然だ。それに現状、英語でまともに会話出来る人物が…………いるな、龍宮?」
「おや、なんの事かな。私はしがない神社の娘。英語は英検3級くらいだが?」
「嘘をつけ」
くっくっ、と龍宮さんが笑う。
本当に愉快そうに笑ったので、私はいまの会話のどこにウケる要素があったのかと思い出して探すくらいだ。
「じゃあ、ひとつ。この子たち、仲間と合流するそうだ。たぶん男性」
「なに……?」
そう言われた次の瞬間、念話が届いた。
『姐さん、刹那の姉さん、そっちは大丈夫ですかい!?』
「か、カモ!?」
剣をカードに戻してデコに当てる。
確かこれでこっちからも話しが出来た筈。
『力を貸してくれ、こっちは今大ピンチだ』
「カモさん、そちらに知らない男性はいますか?」
『なんだって……? あぁ、いるぜ。国際警察機構長官とか名乗りやがった』
「国際警察機構……ICPOですか?」
『その長官にしちゃ若いし、とんでもねぇ強さだ! あの白髪の奴と互角以上に戦ってやがる!!』
どんどん話が分からない方に進んでいく。
とにかく、この子たちが向かう先が、私達の目的地でもあるってことでいいのかしら?
つまり、あの光の柱に向かって……。
「今そっちに行ってるわ! 悪い話だけど、鬼の大群付きで」
『関係ねぇ! カードの力で呼ばせてもらうぜ!!』
「よぶ!?」
そこで念話は終了。
まだ鬼はついてくる。その中から、白い影が猛スピードで突っ込んできた。
「せんぱ~い」
「月詠かッ!」
数メートルの間隔を開けて並走。
刀が交差するよりも早く、月詠ちゃんの刀が弾丸で止められる。
「あや、邪魔するんどすか~?」
「どうやら、そういう役回りらしいからね。ま、役代は弾んでもらうとしよう」
「悪い、龍宮」
その瞬間、私と刹那さんを光が包む。
私を抱えていた女の子は驚いてスピードを緩めたが、それでどうにかなるわけでもない。
私達はそのままネギの下に“呼ばれた”。
視界が一気に変わる。
森だったものが、湖の上の舞台。
ちょっとした混乱があったけど、後ろから聞こえたネギの声で一気に覚めた。
「アスナさん、刹那さん、僕……すいません。このかさんを……」
「わかってる、ネギ! って、ぎゃあああっ!?」
頑張ったわね、と労いの言葉をかけるよりも先に私の視線はあるものに釘付けになる。
見上げるほど巨大な体躯、4つの腕、ふたつの顔。
光輝く、巨躯の大鬼。
「何よあれぇっ!?」
「落ち着け、姐さん! 来るぞ!」
「はい?」
ドン!!
その衝撃で地面が揺れ、一瞬だけでも体が宙に浮く。
視線の先、そこにはあの白髪の少年と、知らない青年が剣を交えていた。
「ちょ、どうなってんのよ!?」
「おれっちが聞きたいぜっ。それより、もう一発来るぞ、全力離脱ッ!!」
あれは詠唱とかいう魔法唱えるヤツじゃん!
なに、あの白髪のって魔法使いだったの……!?
「明日菜さん、引いて!!」
「あ、うんっ!」
今にも死にそうなネギの首根っこを引っ掴んで足に力を込める。
ネギから送られてくる魔力を足に溜められたらいいなぁ、程度のイメージで力任せに足場を蹴って全力のバックステップ。流れていく視界の、今までいたところに灰色の煙が広がった。
思った以上に飛んで、踵でつっかかってこけそうになった。
「……奴はまだこちらに気が付いていない、か…………」
刹那さんはつぶやく。
気が付いていない、というよりも、あれはどちらかというと気を回す余裕がないって感じ?
そう思っていたのも束の間、ザン、と目の前に青年が立った。彼はこっちを向いて、増えた私達を不思議そうに見て、ネギで視線が止まった。
「Who are they(彼女達は)?」
「They are my students(僕の生徒です)」
「Students(生徒)?」
「I'm a teacher at the school(僕は学校の先生です)」
改めてネギってば英語圏の人なんだなぁ、と再確認。
や、そんなことはどうでもよくて……もしかしたら、この人があの子たちが言ってたっていう仲間?
「ネギ先生、彼は……?」
「一応、味方をしてくれています。素性はまったくわかりません。たぶん、アクセル先生の世界の人ではないかと……」
「…………」
刹那さんはそれを聞いて黙り込む。
ただ、何か覚悟を決めた……割り切った顔をしていた。
「……おふたりはここから逃げてください。邪魔です」
「な、ここまで来てまだそんなこと……!」
「まだ分かりませんか、明日菜さん。貴女ではあの少年に喰らいつくことさえ出来ない。ネギ先生も満身創痍。幸い貴女の体力にはまだ余裕がある。その残った体力を使って、ネギ先生を安全な場所まで運ぶんです……。お嬢様は私が救い出し、それで私はお役御免だ。そうですね、今のうちに言っておきましょう…………。さようなら、ネギ先生、明日菜さん」
なんでお別れを言うのかが全く分からなかった。
精一杯理解しようと頭を働かせた次の瞬間、思考は全てそれを見ることに集約された。
刹那さんの制服の背中の部分が、こんもりと膨らんだ。
――――バサァッ!!
刹那さん、翼が生えた。
白くて、大きい……さっきの女の人とは違う……心を鷲掴みにされたような、天使を見たような気分。
「行きます……ッ!!」
その翼のことを説明する間もなく、刹那さんは飛び立った。
しっとりと黒い夜空に、白い翼が羽ばたいていく。
それと同時、白髪のアイツが姿を現した。
「……!」
だが、こちらに攻撃してこようとはしなかった。
何か私とは違う、何かを見ているようだった。
「It is a request of the Late head. I am allowed to earn it at most(爺の依頼だ。せいぜい稼がせてもらう)」
ゴツ、と桟橋が鳴った。
目の前のお兄さんとも違う、低く威圧するような声が後ろから響いた。
振り向けば、赤い人がいた。
「!? あ、貴方はっ」
「え、ネギ知ってるの!?」
ネギは一瞬言い淀んで、それから
「エヴァンジェリンさんを、倒した人です」
「えぇっ、嘘ぉっ!?」
とんでもないことを言った。
エヴァちゃんと言えば、あの学園都市の橋で戦ったけど、とんでもなく強かった。
ネギはあと一歩のところで死にそうになったし、私だってあのまま戦っていれば死んでたかもしれない。
なのに、そのエヴァちゃんを倒した人がいる。しかも目の前に。
「...Sol」
「As such, the story will be heard later. How is not done him at most, and do not move the head to it now(話はあとでそれなりに聞いてやる。今はせいぜいあいつをどうするか、それに頭を動かすんだな)」
「It being said understands(言われずとも、分かっているとも)」
「I go out ahead. Punk kid attractively relieved of that(俺が前に出る。あのガキ引きつけとけ)」
「Do not order it to me(私に指図するな)」
「Then, how do you do? I make it decide(じゃあ、どうする? 決めさせてやる)」
あんまり仲がよさそうには見えない。
しかも何を言ってるか全く分からないぶん、私の頭の中はごちゃごちゃになっていく。
そのまま二言三言をしゃべると、彼らの中でなにかが決まったのか、後ろの方に立っていた男の人が前に出た。
「ネギ、なんて言ってたの?」
「鬼を倒すって……言ってます」
「あ、あれを!?」
こくりと頷くネギは、なぜか瞳が輝いていた。
満身創痍の身体とは裏腹に、その瞳だけが活き活きとしていた。
なにかを期待するような目で。
――――ヂリッ!!
「あっつ!?」
熱風が突然襲ってきた。
ネギから視線を外すと、後から来た方の男の人が剣を持っていた。火を噴く熱塊を、持っていた。
「いい加減にしてくれないか。ネギ君、君は魔法使いよりも奇術師を目指した方がいい。僕はさっきから驚かされっぱなしだ」
白髪の少年が嫌みたっぷりにネギを皮肉る。
ネギはそれに答えず、そして戦いは再開された。
イケメンお兄さんの方が大鬼へ走り出し、白髪の少年と赤い男の人はゆっくり歩いて近づき合う。
身長差がかなりあった。赤い人の胸辺りまでしか白髪の子の身長がない。しかも赤い人が筋骨隆々なもんだから、余計に小さく見えるときた。
動いた、と思った時には固まった。
しかし、それも束の間、赤い人がド派手に吹き飛んだ。
援護など入れられる余地もない攻防。ネギはその光景を瞬きもせずに見つめ続ける。
そして、その時がきた。
――――……おおおおおおおおおおおんんんんんんんんんんん!!!!
気がついたときには宙にいた。
ぼんやりと眺める先には、太陽があった。
炎にしては白く、光にしては紅い。中途半端な色とは違い、その威力は本物だった。
理科さえ出来ない自分にも分かる。なぜ私は火傷のひとつもしていないんだろうか? なぜ私は息苦しいんだろうか? なぜ私は宙に浮かんでいるのだろうか?
なぜ私は、燃えていないんだろうか?
「…………」
きっとネギの魔力のおかげなんだろうな、と結論付ける。
その割には背中が痛い。頭も痛い。腕も足もどこもかしこも痛い痛い痛い。
痛いところが痛い。だから、全部痛い。
「イタイ、ョォ……」
漏れた声はおかしかった。
下に見えていた木が、いつの間にか見上げるほど上にあった。
なにがなんだかわからなかった。
「け、ごっ……ぷ」
つつ、と頬を口から漏れた熱い涎が伝う。
視界が赤い。赤いが視界。
テレビの砂嵐がかかるみたいに、視界が赤い。
次第にその赤さも黒くなっていく。
ざざざ、ざざざ……。耳鳴りが酷い。
ざ――――もう、……ざざ、いた……ざ――くて――ざざざ……いや、ざああああああああっ!!
* * * * *
「天ヶ崎千草……往生しろ……ッ!!」
夕凪を逆手に構える。
その腕に抱かれたお嬢様を、返してもらう……!!
「お前は――――っ、いつの間に!?」
遅い。
この距離、殺った!!
「っく、猿鬼、熊鬼!!」
「でやああああああああっ!!」
一瞬の交差。
確実に胴体を真っ二つに斬り裂いたと思ったが、彼女もそれなりの術者といったところか……。式神を盾に刀傷を負わせられなかった。しかし、今この腕の中にはお嬢様がいる。
「お嬢様!」
あぁ、すいません。
この姿になるまで追い詰められ、そして、私はお嬢様を守り切れなかった。こんなもの、ただ奪い返しただけではないか……。スクナをこうして召喚されたのだから、私達の負けは揺るがない。
戦いに勝ったとしても、この勝負……天ヶ崎千草の勝利だ。そう言う意味での敗北。策に策を重ね、溺れることなくお嬢様の力でスクナを召喚した天ヶ崎千草の勝利。
私は、お嬢様を守り切れなかった。力を使われてしまった。
化け物というアドバンテージがあったというのに、私はここまでだった。
だから、もう私はきっと必要ない。
これが終わり、長に報告し、そうしたらあとは姿をくらませるだけ。烏族の掟のこともある。
これで、本当にお別れ。
「…………――――ッ!?」
思考が加速した。
見間違うこともない、あれはソル=バッドガイ……!!
「なぜここにいる……っ!? いや、それよりも……!!」
護符をありったけ掻き出した。
“気”をありったけ煉り出した。
結界を造り出せる時間いっぱいまで、距離を離すために飛び続ける。
そして、私が今――片腕が塞がり、さらにお嬢様を抱えて飛んでいるという状態で――出来るうる、最高の結界を造り出す。
それでも耐えられるか?
「つべこべ言うな、考えるな。桜咲刹那、これが最後の使命だぞ……。守れなかったお嬢様を、せめて最後くらい守り切れ……!!」
自分に言い聞かす。
止まりそうになる思考に鞭打って、加速させる。休むな、気を抜くな。
張りつめた糸が切れた瞬間、そこに待っているのは魑魅魍魎が跋扈する地獄に他ならない。
たとえ化け物の私が生き長らえたとしても、お嬢様が死んでしまえば意味がない。
「来る……!!」
しゅん、と空気が吸い込まれるのを翼で感じた。
一気に薄くなる空気に、一気に濃くなる死への恐怖。
音が消えた。
閃光が走る。
咄嗟に目を瞑っていなければ、しばらくは目が見えなくなっていたかもしれない。
そんな思考も吹き飛ばすほどに爆風が殴りつけてくる。
空中姿勢なんてあったもんじゃない。上下左右に掻き回され、天地が分からなくなる。
それでもこの腕を解かない。
それだけは絶対にしない。いかな猛威であろうと、この腕に抱く御方をこれ以上傷つけさせないために……!!
「うああああああああああああああああっ!!」
爆風が届かなくなる頃には、だいぶ離れた場所まで吹き飛ばされていた。
羽撃たき、姿勢を整えると吐き気に襲われた。
一旦地面に降り、お嬢様を寝かせた。
「う、ぷ……ッ」
地面に立つと余計に吐き気が効いてきた。
吐けば楽になるだろうが、それでは力が抜けてしまう。今この状況でそれだけはしてはならない。
最後まで気を抜くな。
「お嬢様……」
火傷はないか、傷はないかを丹念に調べ上げていく。
呪薬や、術を施された跡はない。傷もない。敵はどうやら、本当にお嬢様の力にだけ興味があったらしい。
さて、この後どうするか。どうやって屋敷まで帰るか。
もし下手に飛べばシネマ村の二の舞になってしまうかもしれない。そうなったとき、腕に抱いたお嬢様を落としてしまえば本末転倒。ならここは、担いででも歩いて帰るべきか。
「う、うう……ん」
「お嬢様……!」
正直な事をいうと、私が去るまで目覚めてほしくはなかった。
だが、今はそんなことを考えている時ではない。今だけは安心を喜ぼう。
「せ、っちゃん……?」
「はい、ここに」
ぎゅっと手を握る。それに応えるようにお嬢様も握り返してくれた。
私に比べれば微々たる力でも、その手はとても温かく愛おしかった。
お嬢様は、笑っていた。
「せっちゃん、ありがとお」
「な、なに……を?」
「また、助けてくれたんやろ……?」
また……?
私がいつ助けた……。私がいつ助けて差し上げられた……!?
「…………お嬢様。お嬢様を助けたのはみなさんです」
否とも応とも言えない。
ただ、彼女を呼ぶだけ……。
私は罪深い化け物だ。私は助けて差し上げられなかった。ただ、迎えに行っただけ。奪い返しただけ。
やっていることは、つまり敵と同じと言うこと。
「あ、背中……羽根?」
「こ、これは……」
見られてしまった。いや、見せつけるように隠していなかったのは誰だ。
私は罵って欲しかったのだ。「化け物」と。そうすれば別れは自然たるものとなり、お互いに気にする必要などなくなる。
なくなる、筈だったのに。
「きれー。なんや、天使みたいやなぁ」
この人は、我が身の罪を御身の傍で永劫苦しめと……そういうのか。
なんと厳しい御方だ。
それに、禁忌の白羽根を天使とは……皮肉もなんとお上手なことか。
すべては、力足りなかったために……。
私にもっと力があって、お嬢様を守り抜けていれば……こんなことにはならなかった筈だ。
こんな……。
「刹那の姉さん、このか姉さん!!」
「カモさん……!?」
第三者の介入で思考はそこで一度途切れた。
「兄貴がやべぇ……! 洒落になってねぇんだ、どうにかなんねぇか!?」
「案内してください。先生の状況を見なければなんとも……」
「う、うちも行く!!」
カモさんに案内されて連れてこられた場所には、楓がいて、魔力・体力ともに切れた満身創痍のネギ先生がいた。
それだけならば、あるいはカモさんもここまで取り乱すことはなかっただろう。
右肩から肘にかけてネギ先生の肌は黒く焼け爛れていた。
これが火傷として固まってしまえば、動かせなくなるだけではなく、その他正常な部位にまでなんらかの悪影響を及ぼしてしまいかねない。幸い、私の手には夕凪がある。
「今すぐ切断します。少々我慢してください」
それしかないと思った。
今なら、肩から右腕を落とせば、あるいはそのままにしておくよりも幾分かマシになると思った。
だが――――
「待ってぇ!! あかんよ、そんなんあかん!!」
お嬢様は止めろという。
この人は、ネギ先生にまで罪を背負えというのか。
「なぁ、カモ君。うち、ネギ君とパクテオーするっ」
「な……なにを言い出すんですか、お嬢様!?」
「せっちゃん、言うてくれたやんか。うち、みんなに助けられっぱなしやったって。やから、ううん、これしかうちが出来そうなことないもん」
「……そうか、パクティオーには対象の潜在能力を引き出す効果がある……。シネマ村で見せたって言う、このか姉さんの治癒能力なら……」
あの時の、私の致命傷を一瞬のうちに完治させたあの力があれば、
「あるいは、ネギ先生を助けられるかもしれない、と?」
カモさんを小さく頷いた。
そのままいつもの手際で魔法陣を描き上げ、お嬢様もその上へ移る。
唇が重なる。ぱぁっ、と光が舞った。
その光とともに、お嬢様の両手には一対の扇が握られていた。それを一振りすると、徐々に黒くなった肩は元の色へ戻り、また血色も良くなってきた。
「……無事で良かったです。このかさん」
「あほぉ。そんなんより、ネギ君なんかボロボロやんか……。そんなん、こっちの台詞やぁっ」
お嬢様は泣いていた。
本格的にこの出来事の終わりが見えてきた頃、その声は淡々と告げた。
「ミツケタ」
いつからそこにいたのか、まったくわからなかった。
視界の中央に捉えている筈のお嬢様の真後ろに、その女性は立っていた。
「ねぇ、お嬢様……。私の事も、治してくれない?」
見れば、女性の腹にはぽっかりと穴が開いていた。
向こう側が見えるほどの大穴が開いていた。
今すぐにでも踏み込んで、あいつを斬り伏せたかった。だが、出来ない。
奴はお嬢様に触れている。
触れているだけなのに、なぜこれほど怖気が走る?
治してもらいたいなら、お嬢様には何もしない筈。なのに、動けない。
そのわけは簡単だった。
たとえ、自分を治すことが出来る相手がいたとしても、言うことに従わないのなら殺す。
そういった意思が、明確に見えていた。
「治せって言ってんだよ、聞こえねぇのか」
「ひ――――――――」
息をのむ。
考える暇も与えず、威圧した。
結果、それに慣れていないお嬢様はすぐに折れ、扇を振った。
穴はみるみるうちに塞がり、気になると言えば痣が残った程度だった。
それが不満だったのか、奴はその痣を恨めしそうに睨み、次いでこちらを見渡した。
「サンキュー♪ じゃあ、お礼ね」
ごしゃん。
楓が地面に叩きつけられたと思った瞬間だった。
気がつけば、背を木の幹にぶつけられていた。
意識の外で、攻撃が加えられた。勝てるはずがない。
頭も打ってしまったのか、意識が保てない。
朦朧とする意識の中、がつん、とお嬢様を殴る音が聞こえ、一方的に蹴られ続けるネギ先生が見えた。
怒りで血涙が流せそうだった。
だが、肝心の体が、頭が動いてくれない。
(動け……、動いてくれ……っ。せめてもう一度、お嬢様を守るチャンスを……!!)
切れそうな意識を必死で繋ぎ止める。
振り上げられるギター。このままでは、ネギ先生が、お嬢様が……!!
「おやすみなさいね、坊や。せいぜいいい夢、見るんだなぁ?」
死神の鎌は、振り下ろされた――――
「――――――――ミツケタ」
少女の声とともに。
track:23 end
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
また誕生日を……。
逃してしまった……。
ども、草之です。
遅くなったけど、いおり、誕生日おめでとう!
さて、書くことがなくなった(笑)。
と、いうわけで雑記。
この頃、なんとなく戦闘描写が書きたくてたまらなくなる。
スパロボとかやってると、戦闘アニメが凄いもんだからどんどん頭の中で戦闘シーンが構築されていくも、それは“絵”。文章ではなく、映像を頭に描いて書くタイプの人間なので、文章に書き起こすとなると、それだけ手間がかかる。けど、それが楽しい。
『B.A.C.K』がこれから地上本部の公開意見陳述会に入るので、そのあたりを書くのが凄い楽しみ。
あと、もうちょっと先の話になるけど、『背炎』のネギの弟子入り試験のこともそろそろ頭に入れだしてる。
『優星』はまったり執筆中。でも、実はこれが一番神経を使う。
『背炎』は修学旅行が終わった後、おそらく原作とかなり違う方面へ進んでいくと思われます。しばらくは同じでしょうけどね。ネギま!組には絶望を味わってもらう予定。
では、文字数も稼げたことですし、更新予告です。
『B.A.C.K』を日曜日に更新予定。
『優星』を来週水曜日あたりに更新予定。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。
あしからずご了承ください。
では、以上草之でした!
ども、草之です。
遅くなったけど、いおり、誕生日おめでとう!
さて、書くことがなくなった(笑)。
と、いうわけで雑記。
この頃、なんとなく戦闘描写が書きたくてたまらなくなる。
スパロボとかやってると、戦闘アニメが凄いもんだからどんどん頭の中で戦闘シーンが構築されていくも、それは“絵”。文章ではなく、映像を頭に描いて書くタイプの人間なので、文章に書き起こすとなると、それだけ手間がかかる。けど、それが楽しい。
『B.A.C.K』がこれから地上本部の公開意見陳述会に入るので、そのあたりを書くのが凄い楽しみ。
あと、もうちょっと先の話になるけど、『背炎』のネギの弟子入り試験のこともそろそろ頭に入れだしてる。
『優星』はまったり執筆中。でも、実はこれが一番神経を使う。
『背炎』は修学旅行が終わった後、おそらく原作とかなり違う方面へ進んでいくと思われます。しばらくは同じでしょうけどね。ネギま!組には絶望を味わってもらう予定。
では、文字数も稼げたことですし、更新予告です。
『B.A.C.K』を日曜日に更新予定。
『優星』を来週水曜日あたりに更新予定。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。
あしからずご了承ください。
では、以上草之でした!
思うところがあってちょっとばかり拍手の方のことを考えてみた。
ども、草之です。
今回のお話のテーマはタイトルのことそのまんまです。
草之はいままで、コメントや感想掲示板等でのコメントにしか返信してきませんでした。
ひとえに、それは拍手の「お礼の返事」がよく分からなかったこともあります。
しかし、それではいけない。
少なくとも、一言でも草之に対しての『コメント』をくださっているのに、リアクションがないというのはあまりにも失礼だ、と考えました。
そこで、Web拍手設置、拍手レス、というものをしてみようと奮起した次第でございます。
まぁ、まだまだ少ないところではありますが、これもこの『歯車屋敷』を管理する草之の義務です。
今更と思ってくれても構いません。
というわけで、Web拍手題して「歯車の潤滑油」を設置しました!!
これから定期的にレスもしていきたいと考えていますので、コメント、感想掲示板以外ででも何かあればこちらを利用していただければ、と思います。
もちろん、今まで同様コメントの方にも掲示板の方にも返信はしていくので、各人が利用しやすいと思う場所を使っていただければと思います。
ぶっちゃけた本音を言うと、感想を一言でもいいのでください、という欲望の現れです。
コメントするにしては短い、掲示板に書き込むのに踏ん切りがつかない。
そんなときこんなとき、一言でもいいのでちょろっと書いて送ってくだされば、その名の通り潤滑油になって歯車の回り(つまりモチベーションの維持)が良くなります。
SS作家として感想は栄養も同義。
どこのサイトブログでも幾度にも渡って言われていることですが、一言でもいいんで感想ください。
と、以上がタイトルのこと。
あーぅ。またなんだか愚痴っぽくなっちゃったし……。
こういう愚痴っぽいのってあんまり書き込みたくはないんだけど、感想については別、かな?
では最後に恒例の更新予告。
『B.A.C.K』を早ければ今夜に更新。
『優星』を来週水曜日あたりに更新。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。
あしからず、ご了承ください。
では、以上草之でした。
今回のお話のテーマはタイトルのことそのまんまです。
草之はいままで、コメントや感想掲示板等でのコメントにしか返信してきませんでした。
ひとえに、それは拍手の「お礼の返事」がよく分からなかったこともあります。
しかし、それではいけない。
少なくとも、一言でも草之に対しての『コメント』をくださっているのに、リアクションがないというのはあまりにも失礼だ、と考えました。
そこで、Web拍手設置、拍手レス、というものをしてみようと奮起した次第でございます。
まぁ、まだまだ少ないところではありますが、これもこの『歯車屋敷』を管理する草之の義務です。
今更と思ってくれても構いません。
というわけで、Web拍手題して「歯車の潤滑油」を設置しました!!
これから定期的にレスもしていきたいと考えていますので、コメント、感想掲示板以外ででも何かあればこちらを利用していただければ、と思います。
もちろん、今まで同様コメントの方にも掲示板の方にも返信はしていくので、各人が利用しやすいと思う場所を使っていただければと思います。
ぶっちゃけた本音を言うと、感想を一言でもいいのでください、という欲望の現れです。
コメントするにしては短い、掲示板に書き込むのに踏ん切りがつかない。
そんなときこんなとき、一言でもいいのでちょろっと書いて送ってくだされば、その名の通り潤滑油になって歯車の回り(つまりモチベーションの維持)が良くなります。
SS作家として感想は栄養も同義。
どこのサイトブログでも幾度にも渡って言われていることですが、一言でもいいんで感想ください。
と、以上がタイトルのこと。
あーぅ。またなんだか愚痴っぽくなっちゃったし……。
こういう愚痴っぽいのってあんまり書き込みたくはないんだけど、感想については別、かな?
では最後に恒例の更新予告。
『B.A.C.K』を早ければ今夜に更新。
『優星』を来週水曜日あたりに更新。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。
あしからず、ご了承ください。
では、以上草之でした。
B.A.C.K Act:4-1
「というわけで、明日はいよいよ公開意見陳述会や。明日14時からの開会に備えて、現場の警備はもう始まっとる。なのは隊長とヴィータ副隊長、リィン曹長とフォワード4名はこれから出発。ナイトシフトで警備開始」
やけに淡々と、八神部隊長は今からの任務内容をアタシたちに伝えていく。
本来、こういう役回りをしていたはずの彼がいなくなったからだろうか、それとも、ただ単に眠いのだろうか。
ユークリッド隊長がいなくなってから、機動六課の士気は段違いに落ち込んでいった。
やはり誰もが信じているわけではなく、むしろ大多数の部隊員が彼の事を『裏切り者』として扱い、その直接指導された部下というかたちで、フォワード陣にも懐疑の眼が向けられた。
ヴァイス陸曹、グリフィス准陸尉など、彼と仲が良かったとされる隊員にもその火の粉は降りかかっていた。
「みんな、ちゃんと仮眠取った?」
『はい!』
だけど、アタシたちはそれでもよかった。
理解してくれる人だっていたし、なにより、隊長たちは全員彼を信じていた。
敵になったわけではない、だけどもう味方ではない。あやふやな存在を相手にいつまでも気を取られるわけにはいかないから、と一日だけ置いてから、教導は再開された。アタシたちフォワード陣は、彼に教わってきた戦闘の心構え、戦略の立て方、自分の手の内の見せ方などを教導後にいつも復習しては明日のための糧として来た。
全て、とは言わないが、少なくともユークリッド隊長に少しでもいいところを見せたかったから。
「私とフェイト隊長、シグナム副隊長は明日の早朝に中央入りする。それまでの間よろしくな」
『はい!』
そのまま解散。
準備が出来次第、ヘリポートに待機しているヘリに順次乗り込み。全員が揃ったところで出発という流れだ。
そのまま地上本部の完徹警備。朝になって別部隊が到着すると、そのままローテーションを組んでの警備と言う流れに変わる。
陳述会が始まる2、3時間前からは全員総出で警備につく。そのまま陳述会が終わるまでが今回の警備任務になる。
「あれ、マリーさんも?」
ヴィータ副隊長がヘリに乗り込むのが見えたくらいのタイミングで、アタシたちはヘリポートに到着した。
数日前から出向扱いで六課にいるデバイス技師のマリーさんも一緒になって上がってきたので、スバルはそれについて質問したのだ。
「私は別件。中央方面にちょっと用事があってねー」
雑談をしながら、ヘリに近づいて行く。
入っていたと思ったヴィータ副隊長含め、隊長陣が勢揃いしていた。どうやら、ヴィヴィオが来ているようだった。
「いい子にしてたら、ヴィヴィオの大好きなキャラメルミルク作ってあげるから……」
こくん、とヴィヴィオが小さく頷く。
「ママと約束ね?」
「うん」
ヴィヴィオとなのはさんは指きりをして、アタシたちはヘリに乗り込んだ。
ヘリの中では始め、ヴィヴィオは本当になのはさんに懐いたものだ、という話になっていたが、はたとマリーさんに聞きたい事があったことを思い出す。
「あの、マリーさん」
「ん、なに?」
だが、と思いとどまった。
ちょっと聞きづらい空気だ。だからと言ってヘリから降りてしまえば、マリーさんは別件で中央へ向かってしまう。
アタシは、思いきって聞くことにした。
「ジークフリードって、マリーさんが直したんですよね?」
「そうよ。レイジングハート、バルディッシュに続く、私が手掛けたカートリッジ搭載型インテリジェントデバイス。CVK792-A型搭載機。レイジングハートの後継機って言えないこともないかな? コンセプトは全然違うけどね。基本形態のデバイスモードを始め、チャージモードの強化形態である“ストライクモード”と、フレーム超強化型の“スカバードモード”。基本的には能力値に大きな変化は持たせてないけど、フレーム強化に伴った重量増加で推力不足で動きが鈍ることのないよう、推力変換機構だけはモンスター級にフルチューンしたわ。レイジングハート、バルディッシュがそれぞれのレンジに合わせて造った万能機だとしたら、ジークフリードはただ純粋な突破力を求めた、原始化されたデバイスね」
聞いているだけで、どんな暴れ馬が出来上がったのかを想像できる。
なのはさんとヴィータ副隊長以外、全員がそれを聞いて呆れているような顔をしている。
「それが、ジークフリード・インディゴ」
「安全に能力を平均化するんじゃなくて、特化能力をさらに伸ばす。デバイス版なのはって感じだな?」
くっくっ、と喉を鳴らしながらヴィータ副隊長が茶化して笑う。
なのはさんはそれに対して苦笑いで応え、フォワード陣はなるほどと納得した風だ。
弱点を補うのではなく、長所を伸ばす。発想がなのはさんそのものだ。
「まぁ、それも今や管理局の管轄外のデバイスになっちゃったけどね」
やはり苦笑いでいうマリーさん。
あぁ、なんだ。取り越し苦労だったな……。そうだ、ここにいるみんなは彼を信じている人なんだ。
あとは、アタシたちがしっかりしなくちゃ。
* * * * *
「連中の尻馬に乗るのは、どうも気が進まねえけど……」
「それでも、貴重な機会でもある。今日ここで全てが片付くなら、それに越したことはない」
「まァね。つか、アタシはルールーも心配だ……。大丈夫かなァ、あの子?」
「心配なら、ルーテシアについてやればいい」
「……っ? 今回に関しちゃ、旦那のことも心配なんだよ。ルールーにはまだ虫たちやガリューがいるけど、旦那はひとり……じゃなかったっけな」
「そうね。私を忘れてたの? もう、これ以上記憶をなくしてどうするつもり?」
クスクス、と。
その目の前の、アタシの本来のロードと名乗った女性が笑う。綺麗で、力強くて、でもなぜだろうか。前に一度会った時感じた懐かしさ、とでもいうべき感覚が沸いてこない。
あの活き活きした笑顔ではなく、どこか機械的な印象がある笑顔を振りまいている。
「……とにかく、旦那の目的はこの髭親父なんだろ? そこまではアタシが付いていく。旦那のこと、守ってあげるよ」
旦那はアタシの言葉を聞くとそのままモニターを閉じ、一言。
「お前の自由だ。好きにしろ」
「するともさっ。旦那はアタシの恩人だからな!」
……作戦開始まで、あとわずか。
アタシの目標は旦那をあの髭親父の場所まで連れていくこと。アタシが出来ることは少ないかもしれない。でもいないと出来ないことだってある。
それでもダメそうな時、彼女に頼ってくれ……。博士はそういって、彼女を一緒に付いてこさせた。
そりゃ、一緒に戦えると思えばそれはそれで嬉しかった。でもそれは、それが元の彼女なら、という話だ。
今の彼女は絶対的になにかが違う。
「……さてと、どうやら作戦開始みたいね。行きましょうか、騎士ゼスト、アギト」
「承知した」
「おうよ!」
だけど、今はそんな細かいことを気にしてる暇はない。
旦那の役に立たなきゃ、恩返しを少しでもしなきゃ。焦ってるわけじゃない、ただ、じっとしていられない。
「行こう、旦那」
「ああ」
語ることは、多くはない。
やれるだけやってやるさ……!!
* * * * *
遠隔召喚、砲撃、ガジェットによるAMFの全域展開。
その他、こちらの増援部隊を迎撃する戦力も有しているようだ。正直、してやられた。
通信妨害もかなりキツい。
「ロングアーチ!!」
『外からの攻撃はひとまず止まってますが……、中の状況は不明です!』
何が目的だ、何のために今のタイミングで襲撃をかけてきた?
……考えてる暇はない。本局の増援も期待はできない、武装隊の増援もことごとく撃墜させられていくだけ。
ここでの最大戦力は、自然と私達になるってことか……?
「副隊長! 私達が中に入ります。なのはさんたちを助けに行かないと……!」
スバルがそういう。
それにフォワード陣も概ね賛成のようだ。
確かに、いくら高ランク魔導師だと言ってもデバイスなしじゃ力はタカが知れている。少なくともデバイスは届けてやる必要がある。
「よし、それで行く」
移動を再開する。
内部がどうなっているか分からないこの状況で、壁をぶち破って入るのはあまり得策とは言えない。
助けに行ったつもりが窮地に追いやられては元も子もない。
『……本部に向かって、航空戦力!?』
『速い……!』
『ランク、推定オーバーS!!』
ちくしょう、とことん詰めにかかってきやがった!
出来れば私も一緒に突入して速攻で合流する予定だったんだが……仕方ねぇ。
「リィン!」
「はいです!」
リィンに確認と取り、次いでロングアーチに連絡。
「そっちは私とリィンが上がる。地上は、こいつらがやる!」
後ろを走るフォワード陣に頼るしかねぇ。
たった四人で戦況をひっくり返せとは言いはしないが、せめてなのはとはやて、フェイトとシグナムが外に出てこれれば……!
「こいつらのこと、頼んだ!」
「届けてあげてくださいです!」
『はいっ』
私が預かっていた分のデバイスをティアナに預ける。
リィンの指示で全員が本部へ突入する。あとは無事に合流してくれることを祈るだけだ。
さぁ、正念場ってやつだぜ……。
「リィン、ユニゾン行くぞ!!」
「はいです!」
オーバーS相手じゃ、私だけで戦うのは正直キツイ。だけど、リィンとユニゾン出来ればまだ勝機は見出せる。
落とせなくてもいい、せめて撤退に追い込むことが出来ればこっちのもんだ!
『ユニゾンインッ!!』
紅の騎士甲冑は純白へ染まる。
日は落ち、空は夜天へ。私らの時間が始まった。
『警告かけます!』
「頼んだ」
鉄球を生成。
迎撃用意……!!
『相手、警告に反して戦闘態勢を取りましたです!』
「ぶち抜けぇーっ!!」
《Schwalbe fliegen!》
「続けてギガントフォルムだ、アイゼン、リィン!!」
《Gigant form》
『衝撃加速……!!』
リィンから私へ、私からアイゼンへ魔力が流れる。
雲を突き抜け、相手を視認した……ッ!!
「ギガントハンマァァアアア――――ッ!!」
インパクトと同時、魔力を爆発させる。
衝撃加速をより強く、防御されたとしてもダメージは通る!
『……っ、そんなまさか……防御魔法もなしに受け止めたです!?』
「馬鹿な……ッ、どういうこった!?」
爆煙が晴れていく。
煙で隠れた人影は3。その中央の奴に防がれたのか……。
「行きなさい。しんがりは私が務めましょう」
「だけど……っ!」
「行きなさいっ!!」
小さな影の声、あれはもしかして……、あの時の融合騎か?
影が動く。煙に紛れて離脱しようって魂胆か。
「ちぃっ、させるかよッ」
『っ! 後ろですっ!!』
「なに!?」
あの攻撃を喰らって、すぐに動くだと……!?
なんなんだ、こいつは!?
「――――紫電一閃!!」
「な――――ンッ!?」
耳に届いた声は違うものだが、聞いた技の名は聞き間違えることもない。
煙から飛び出してきたその姿すら、見間違えることもない。
《Panzer hindernis!》
アイゼンが固まった私の代わりに思考し、防御魔法を展開する。
一瞬ののちバックステップ。ギリギリで障壁が斬り崩され、寸でのところで直撃は避けた。
だのに、
「ぐあぁっ!?」
顎から左頬がばっくりと裂けた。
切っ先は完璧に避けた。剣圧だけで切れたってのかよ。
「……さすが、私達に勝負を挑むだけの力はあるようね」
見慣れた顔とは違った、見知らぬ深紅の騎士甲冑。
しかしその威圧感といい、構えといい、全てが間違いなく――――
「シグナム……っ!?」
『なんで、はやてちゃんと一緒に地上本部にいる筈なのに……!』
ピッと刃を振って構え直す仕草など、そのままシグナムだ。
見れば見るほど、見間違える要素などなくなってくる。
「誰と間違えているか知ろうとも思わないけど、お互い騎士同士。ドクタースカリエッティの人形なんかよりもよっぽど楽しめそうだわ」
人形、ドクタースカリエッティ……。戦闘機人のことか……。
それよりも、騎士と明言したか。なら、名前を知るならこれが一番手っ取り早いか。
「機動六課、スターズ分隊副隊長……ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン!!」
「ミルヒアイス。ミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェルと、鮮炎の魔剣レヴァンティン……!!」
「なん、だって……!?」
よく見れば、持っているデバイスすら言った通り、レヴァンティンだ。
それに、ミルヒアイスだと言ったのか?
『ヴィータちゃん、もしかしなくても彼女って……』
――ああ、十中八九ユークリッドが捜してたっていう奴だろうな。
なんだってこんなに似てるんだ。
いや、似てる似てないの問題でもなくなってきたか、これはよ?
「……リィン、お前は防御の事だけを考えてろ。攻めは私とアイゼンでする!」
『はいです』
今は“生き残る”ことを考えろ。
気を抜けば、一振りで持っていかれる……。さっきの剣圧を考えれば、リィンを防御に当てたのはあながち間違いではない筈だ。
今でさえ不利な状況、長引けばより不利。短期決戦で一気に片付けるしかねえ。
「行くぞ、ミルヒアイスッ!!」
「ええ、来なさいヴィータ!!」
弾ける。
大振りは致命的。コンパクトに、威力を失いすぎることなく、連撃で隙を潰す。
距離を放されれば、すかさず射撃。防がれたところに素早く近づいて離れない。離されてしまえば、近付くまで勝機はなくなる。勝機を常に掴んでおく。諦めないで、自分の腕を信じろ。
討ち合いは続く。ギリギリの攻防。いや、ギリギリなのは私らだけか。
ギガントじゃ相手の剣速についていくのがやっとだが、ギガントじゃないと剣戟に耐えられない。
隙を見て、ラケーテンに変わったとしてそれで勝利を掴めるかと言えば否。これは負け戦だと気がつく。
ここで勝つ事は諦める。時間が稼げればそれでいい、地上本部の防御面が回復すれば……!!
「おらぁっ!!」
「でぁっ!!」
衝撃。腕が痺れるほどの強烈な剣戟。
受け続けていれば、握力がなくなって確定的な敗北が見える。しかし、討ち合わねば剣圧で斬り刻まれる。
死の淵を綱渡りとはこのことだ。
距離が離れる。
「アイゼン!!」
《Schwalbe fliegen!》
弾幕展開と同時に前進。実体魔力弾に紛れて距離を詰める。
食らいつけ、喰らいつけ、クライツケ!!
「うおおおおおおッ!!!」
『ヴィータちゃんっ!』
――――しくじった……!! 大振りに……ッ!!
避けられるには十分過ぎる隙が出来てしまった。その隙をミルヒアイスが見逃すはずもなく……
「レヴァンティン!!」
《Explosion!》
「天蓋劫火、墜ちろ――――!!」
だがしかし、ミルヒアイスは避けずに構えた。
まさか、討ち合うつもりか!?
くそ、まずいまずいまずいっ!!
「リィンッ!! アイゼン!!」
『衝撃加速!!』
《Explosion!》
炸裂する凝縮魔力と融合騎の援護。
距離が詰まり切る。
あとはお互いに、信念を込め武器を振り抜くのみ。
「ギガントォ――――!!」
「フェア……!」
閃光が煌めく。
これがお互いの、最後の一撃……!!
「ハンマァァァアアアアアアアアッ!!!」
「ブレンネン……ッ!!」
周囲の雲を一掃する衝撃波。
風が暴れ、炎が空を照らし出す。
「おおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
炸裂音が連続で響く。
凝縮された魔力が爆ぜ、直接アイゼンへ流れていく。
もっと強く、硬く、重く――――
「ぶち抜けぇぇええええええッ!!」
このままなら、圧し通せる!!
「踏み込みが甘いッ!!」
「――――え」
リン、と鈴の音のような音が鳴った。ゴリゴリと響いていた迫り合いの衝撃音が一瞬で消える。
いつの間にか、圧し合っていた相手がいなくなっている。
「鈍すぎね、ヴィータ」
「そん、な……!?」
ずるり、とズレた。
グラーフアイゼンのハンマーヘッドが、真っ二つに断たれた。
純白の騎士服も、次第に紅の色を取り戻していく。ユニゾンは解いていない。
「ぐ、あ……ッ!?」
胸が横一線に切れる。
血が滲んでいる……、の割にはダメージも傷も思ったより深くない。
すぅ、と騎士服の色が戻る。なんでユニゾンを解けた……リィン?
いや、これは……!
「リィン!! おいリィンッ!!」
ユニゾンを解いたリィンの体は、真っ赤だった。
魔力ダメージを、物理ダメージをほぼ全てリィン自らが受けたのか……!?
「馬鹿なことしてんじゃねえ!! なんでこんなことしてんだ!?」
「ヴィー、タ……ちゃ」
「詰めよ、ヴィータ」
「っ!」
振り向く。
こちらにもう戦える手段は残っていない。
グラーフアイゼンもハンマーヘッドが真っ二つ。
どうする、どうする……!?
――ヴィータ、無事か?
――っ、シグナム!!
油断だけはしないように、シグナムからの念話に耳を傾ける。
いつ抜けてきたんだ? それに念話が届くということは、それなりに近い距離にいるということか。
――こちらで戦闘していた相手は撤退した。そちらはどうだ。
――あぁ、絶賛ギガピンチだぜ。リィンも、アイゼンも……潰されちまった。
――なに……?
――相手は、ミルヒアイスだ。お前が見たらきっと驚くぜ。
じりじりと距離を詰めてくるミルヒアイス。
どうやらこちらを確実に殺す気はないようだ。もしその気があるなら、とっくに私はここにこうして浮かんでいない。
時間を稼げ、シグナムが来るまで時間を稼ぐんだ。
「おい、ミルヒアイス」
「…………」
奴は応えない。静かに剣先を下げた。
どうやら、話くらいなら聞いてくれるらしい。とことん見下げられてるな。
「お前、ユークリッド・ラインハルトって奴知ってるか?」
「……それを答えて私に何の得があるの?」
「さぁな。私は知ってるかどうかを聞いただけだ。で、どうなんだ」
ミルヒアイスは首を縦に振った。
知っているということか。としたら、どうやら本当にユークリッドが捜していた人物で間違いはなさそうだ。
あぁ、なるほどな。やっとわかったぜ。
「道理でアイツがシグナムを嫌う筈だ……」
「何を言ってるの?」
「いや、こっちの話だ。あとちょっとしたらこの言葉の意味も分かるだろうよ」
「味方が来てるみたいだからね。そろそろ帰らなきゃいけないみたいだし、そのシグナムって人と顔を合わせるのは次の機会ね」
撤退する気か。それならそれでいい。
正直、シグナムが来たからってリミッターが付いてる状態でシグナムが勝てるとは到底思えないしな。
いや、そもそもなのはたちでさえ勝てるか怪しい。
最後の討ち合い、ミルヒアイスは私の戸惑いを見切っていた。
あの一撃は元は状態を維持するためのコンパクトな攻撃だったはずだが、熱くなりすぎて大振りになってしまった攻撃だ。
間違ったという焦りと、それを討ち合えるだけの攻撃にその場の勢いで昇華した不完全さ。
それは表情に出してないつもりだったが、結果として見切られた。
「……置き土産はあるみたいだけど、せいぜい頑張ってね。今度は枷なしで戦いましょう、ヴィータ」
「なっ」
リミッターのことまでわかったってのかよ。
つくづく化け物じみた強さだな、ちくしょう……。
「じゃあね、また、今度があれば」
そう言ってミルヒアイスは背中を見せ、高速で戦線を離脱した。
一気に体の力が抜ける。それと同時、焦りが感情を支配した。
「シグナム……、シグナムッ! リィンが、アイゼンが……ぁ!!」
手の中でどんどん血に染まっていくリィンに、どう語りかけても返事が返ってこないアイゼン。
私は、私はまた、やっちまった……。
「ヴィータ!」
どれくらいの間、そうしていたのだろうか。
いつの間にかシグナムは目の前にいて、リィンは止血され、アイゼンは手の中で眠っていた。
「お前は大丈夫なのか?」
「あぁ……リィンがほとんど受けちまったから。私は一日もしたら傷も目立たなくなる」
「リィンの方も出血はひどかったが、致命傷というわけではなさそうだ。ただ、魔力ダメージが大きい。数日は寝たきりになるだろうな」
「そっか……。なぁ、シグナム」
「なんだ?」
何をどう伝えるかを頭の中で整理する。
ミルヒアイスのこと、ユークリッドのこと、相手の強さのこと。
これは、私が言っていいことなのか、言ってはいけないことなのか。つまり、言うか言わないか。
現実にするか、夢想で終わらせるか、そういうことだ。
なら、私が選ぶべき選択は決まっているも同然だ。
だから整理するんだ。
「シグナム、私からも報告することがある」
「ミルヒアイスのことか」
「そうだ、その……――――」
ミルヒアイスのこと。
最後の言葉を紡ぐ前に、私の口は動かなくなってしまった。
展開する召喚魔法陣。
ミッドチルダ・地上本部を中心に、天蓋のようにベルカ式の召喚魔法陣が拡がっていく。
夜の空は蒼いベルカ式召喚魔法陣に蓋われ、蒼天を模していた。
大気が鳴動する。脈動する魔力素。リンカーコアが震えている。
「なんだ、あれは……!?」
空から雲が一掃される。
雷鳴のように唸る大気が体の芯まで届いてくる。
脚が見えた。
黒い黒い、強靭でいて、頑強な脚が。
尾が見えた。
黒い黒い、しなやかで強かな、蛇のような刃尾。
翼が見えた。
黒い黒い、一振りの鋼のような、鋭利な翼。
全てが見えた。
黒い黒い、重鱗を持つ巨躯。
「……竜種!?」
フリードの本来の姿でさえ、その竜の拳程度の大きさしかない。
中型の次元航行艦並みの大きさを持つ、超弩級の竜種。雄大なその姿はしかし、今の管理局側にとっての死神でしかない。
おそらく、希少古代種クラスの竜だろう。
元々希少古代種などと呼ばれる魔法生物の類は、人間が太刀打ちできるレベルではない。
それを召喚するってのか、もう勝負はついたってのに……?
『……置き土産はあるみたいだけど、せいぜい頑張ってね。今度は枷なしで戦いましょう、ヴィータ』
これが“置き土産”だって?
冗談じゃない。ふざけるのも大概にしやがれ、クソ野郎!!
「くそ……どうしろってんだ、あんな奴……!!」
「いや……現実問題、あれをどうにかしなければ管理局はここで終わる。そしてミッドチルダでさえ、な」
予言ってやつかよ、まったく嫌になってくるぜ……。
私はどう行動すべきだろうか。戦力になることが出来ないこの状況で、私が出来ることと言えば……避難の誘導とかか?
……なさけねぇもんだ。こんなときに戦えないでどうして騎士が務まる。
「くそ……」
「今はその無念、押し留めておけヴィータ。まだ私達には次がある。いや、次を創らねばなるまい」
「シグナム……?」
何を言ってんだ、シグナムは。
まるで今から死にに行くような口ぶりじゃねえかよ。
シグナムは無言のままレバンティンを鞘に納めた。掌の上でカートリッジを転がし、数を数えている。
その姿はどう見ても、死に戦を望む騎士だった。
「おい、シグナム……! てめえ、死ぬつもりじゃねえだろうな!?」
「カートリッジは15発。ふ、十分だ。なぁヴィータ?」
「答えろ、シグナム!!」
「…………死ぬつもりは毛頭ない。だが覚えておけヴィータ。いや、今一度刻んでおけヴィータ。我ら叢雲の騎士、その名の通り、掴んでは霞める雲のような存在だ。その意味を覚えているな?」
「無限再生能力のこと言ってんだったら、それこそそんな考え今すぐその頭ン中から叩き出してやる!! はやてはどうすんだ、はやてと一緒に生きてくんだろ!?」
シグナムはそれきり応えない。
ただ苦々しく私の言葉を咀嚼している。
私は待った。
あいつがここでどういう答えを出すのかを。
「……シグナム」
「生きて帰る。言っただろう、ヴィータ。死ぬつもりは毛頭ない」
嘘はなかった。
その瞳は闇夜に蒼く、鈍い鉄の光に似ていた。
大気が鳴動する。
竜種が動き始めた。ゆっくりと、体を伸ばすように。
「だがな、ヴィータ。こうも言っておこう。死力を尽くさねば、あの竜を討てない」
シグナムはゆっくりと刃を抜く。
柄頭と鯉口を合わせ、静かに深呼吸をした。
《Bogen form!》
全弾ロード。連続する炸裂音と、迸る魔力にレヴァンティンが唸りを帯びる。
唸りを帯びたまま、レヴァンティンは姿を変える。大弓としてのその姿を、ボーゲンフォルムという。
取り出した刃矢は竜に対してあまりに小さく、しかしそこに込める信念、誇り、魔力は絶大なもの。
「撃ち貫く……翔けろ隼!!」
《Sturm falken!!》
矢は一瞬で音速を超える。高速移動し続けている的でもない限り、外すことはない。
そして、規格外な射程距離。ここから竜がいる地上本部まで目測でも3、4kmはあるだろう。
その距離を、ものの数秒でゼロにした。
直撃。ここからでも分かるような爆炎を伴って、竜の体の半分が煙で覆われる。
余程の魔力をこめて撃ったのか、小爆発がまだ続いており、撃った本人ですらこの一発でだいぶ疲労している。
正直、シグナムのあの状態で接近戦は無理だ。
「もう一発だ……!」
「無茶すんな!」
「言っただろう、死力を尽くさなければ、この戦いに勝利はない……!」
《Explosion!》
ガキンガキンガキンガキン……!!
絶え間なく続くカートリッジの炸裂音。
レヴァンティンが再び唸り始める。音叉が出す音にも似て、刃が泣いているようにも聞こえてきた。
それでも、レヴァンティンは耐える。この程度では砕けない、折れない、屈しない。そんな気迫が伝わってくるようだ。
遠く竜がのそりと動いた。
「その巨体だ、避けられまい……!!」
《Sturm falken!!》
音速を超えて、竜に届けと……、空を引き裂く隼が再び翼を羽撃かせた。
Act:4-1 end
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
これより状況を開始する!
ども、草之です。
というわけで、相互リンク報告です!
実に6サイト目になります。
いや、しかし……見事にリリカルなのは関連のサイトが多いですね(笑)。
しかし、今回は一味違うんだぜ!? (リリカルなのは関連なのは間違いないですけど)
今回のリンク先はこちらです↓
『Paradoxical khaos』
管理人は揚雲雀様。
『フルメタル・パニック!』を中心に、リリカルなのはとのクロスオーバーも手掛けておられます。
実際、草之もフルメタは読んでいるので結構楽しめましたし、知らない人でも楽しめる内容なのではないか、と思います。
さて、SSの概要をば。
このクロスオーバー、実に珍しいことがひとつ。
クロスといえば、そのクロス作品どちらかの主人公が、その作品の主人公を務める、またはふたりで(あるいは三人で、それ以上で)主人公を務める……というのが普通ですが、ここが違う。
主人公はリリなの世界側のオリジナルキャラクターなのですよ!! これでデジャヴを感じるあなたはスパロボしてたりすると思う。
それぞれの時間軸は
『フルメタ』は宗介が《レーバテイン》に乗り換えたあたり。
『リリなの』はJS事件解決後からです。
明言はされていませんが、主人公の魔導師ランクはおそらくAA(~AA+)くらいですかね。この時間軸で、しかも作中でエリオとキャロに「君たちと一緒くらい」的な発言をしてるのでそれくらいではないかと推測。違ってたらごめんなさい、揚雲雀さん。
足りない実力はデバイスで補う、というデバイスマスターの資格持ちというのも中々面白い。
戦略家で、結構素直そう。年齢もリリなの組よりは若干上。
ちなみにウチのユークリッドは戦略家は同じとしても、皮肉屋で、リリなの組よりも年下。
魔導師ランクもAA+と似てたり正反対なところがあります。
あらすじ的な紹介文。
JS事件解決後、六課隊舎も修復作業が終わろうとしていた矢先の出来事だった。
市街地でロストロギアの暴走が引き起こした火災が発生。急遽なのは、ティアナが、グリフィスのヘリ現場にが向う。
その火災の中、突入したなのはらは銃声を聞きつけそちらにむかうとそこにいたのは――――!
なかなかに硝煙臭く、フルメタらしさが文脈のそこここに散りばめられていました。
フルメタ読者も興味があれば一読を。宗介らの新しいようでいつもの雰囲気も楽しめますよ!
さて、ある程度拍手でコメントが来ていたので、ちょっと前のFC2拍手も含めた拍手レスは追記から。
では、以上草之でした。
というわけで、相互リンク報告です!
実に6サイト目になります。
いや、しかし……見事にリリカルなのは関連のサイトが多いですね(笑)。
しかし、今回は一味違うんだぜ!? (リリカルなのは関連なのは間違いないですけど)
今回のリンク先はこちらです↓
『Paradoxical khaos』
管理人は揚雲雀様。
『フルメタル・パニック!』を中心に、リリカルなのはとのクロスオーバーも手掛けておられます。
実際、草之もフルメタは読んでいるので結構楽しめましたし、知らない人でも楽しめる内容なのではないか、と思います。
さて、SSの概要をば。
このクロスオーバー、実に珍しいことがひとつ。
クロスといえば、そのクロス作品どちらかの主人公が、その作品の主人公を務める、またはふたりで(あるいは三人で、それ以上で)主人公を務める……というのが普通ですが、ここが違う。
主人公はリリなの世界側のオリジナルキャラクターなのですよ!! これでデジャヴを感じるあなたはスパロボしてたりすると思う。
それぞれの時間軸は
『フルメタ』は宗介が《レーバテイン》に乗り換えたあたり。
『リリなの』はJS事件解決後からです。
明言はされていませんが、主人公の魔導師ランクはおそらくAA(~AA+)くらいですかね。この時間軸で、しかも作中でエリオとキャロに「君たちと一緒くらい」的な発言をしてるのでそれくらいではないかと推測。違ってたらごめんなさい、揚雲雀さん。
足りない実力はデバイスで補う、というデバイスマスターの資格持ちというのも中々面白い。
戦略家で、結構素直そう。年齢もリリなの組よりは若干上。
ちなみにウチのユークリッドは戦略家は同じとしても、皮肉屋で、リリなの組よりも年下。
魔導師ランクもAA+と似てたり正反対なところがあります。
あらすじ的な紹介文。
JS事件解決後、六課隊舎も修復作業が終わろうとしていた矢先の出来事だった。
市街地でロストロギアの暴走が引き起こした火災が発生。急遽なのは、ティアナが、グリフィスのヘリ現場にが向う。
その火災の中、突入したなのはらは銃声を聞きつけそちらにむかうとそこにいたのは――――!
なかなかに硝煙臭く、フルメタらしさが文脈のそこここに散りばめられていました。
フルメタ読者も興味があれば一読を。宗介らの新しいようでいつもの雰囲気も楽しめますよ!
さて、ある程度拍手でコメントが来ていたので、ちょっと前のFC2拍手も含めた拍手レスは追記から。
では、以上草之でした。
いよいよトンフルの脅威が……。
ども、草之です。
いよいよ草之の行く大学にまでトンフルエンザの脅威がやってきました。
……ていうかね、そもそもなんで今日は3現目から休講にしたの、ばかなの?
休講にするなら最初からしといてくれ、頼むから。今日は2限からだったからまぁ、いいけど。
帰りにミンゴスのデビューシングルも買ったし、ネギま!の26巻も買ったし、藤島康介のキャラクター仕事ヴェスペリア編も買ったし、まぁ良しとしよう。財布からごっそり金がなくなったけど。
ところで、先輩の友達の後輩が、日本で初めての人から人への感染者(と言われている人)らしい。
こえええええええ…………!! 確か神戸の高校バレー部でしたっけ?
かなり身近にいるもんですね。しかし、今日大学行ったら目につく人が結構マスク付けてたし、草之も気をつけねばなるまいて。
これを見ている皆さんも結構マスクとか付けてますか?
息苦しいから苦手、なんて言ってられませんね、こりゃ……。一週間籠りっぱなしになりますね。この間に書き貯めておこうかなぁ。
とか言ってもやっぱりひとつづつでしか書けない草之ですが。
いまさらあれですけど、トンフルって言葉今日知りました。
豚インフルエンザ→豚=トン→トンインフルエンザ→略して「トンフル」らしいですね。
誰がうまいこと言えと。どことなくタミフルみたいな感じになっちゃってるじゃないですか……。
まぁ、台風で学校が休みになった小学生みたいにこの休みを楽しむとしましょう。
みなさんも体調にはお気をつけて。
では以上、草之でした!
と、最後に更新予告だけしとくとしますか。
『優星』を繰り上げで明日火曜日の夜くらいに更新。遅いと明後日水曜日くらい。
『背炎』を金曜日に更新。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。
あしからずご了承ください。
いよいよ草之の行く大学にまでトンフルエンザの脅威がやってきました。
……ていうかね、そもそもなんで今日は3現目から休講にしたの、ばかなの?
休講にするなら最初からしといてくれ、頼むから。今日は2限からだったからまぁ、いいけど。
帰りにミンゴスのデビューシングルも買ったし、ネギま!の26巻も買ったし、藤島康介のキャラクター仕事ヴェスペリア編も買ったし、まぁ良しとしよう。財布からごっそり金がなくなったけど。
ところで、先輩の友達の後輩が、日本で初めての人から人への感染者(と言われている人)らしい。
こえええええええ…………!! 確か神戸の高校バレー部でしたっけ?
かなり身近にいるもんですね。しかし、今日大学行ったら目につく人が結構マスク付けてたし、草之も気をつけねばなるまいて。
これを見ている皆さんも結構マスクとか付けてますか?
息苦しいから苦手、なんて言ってられませんね、こりゃ……。一週間籠りっぱなしになりますね。この間に書き貯めておこうかなぁ。
とか言ってもやっぱりひとつづつでしか書けない草之ですが。
いまさらあれですけど、トンフルって言葉今日知りました。
豚インフルエンザ→豚=トン→トンインフルエンザ→略して「トンフル」らしいですね。
誰がうまいこと言えと。どことなくタミフルみたいな感じになっちゃってるじゃないですか……。
まぁ、台風で学校が休みになった小学生みたいにこの休みを楽しむとしましょう。
みなさんも体調にはお気をつけて。
では以上、草之でした!
と、最後に更新予告だけしとくとしますか。
『優星』を繰り上げで明日火曜日の夜くらいに更新。遅いと明後日水曜日くらい。
『背炎』を金曜日に更新。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。
あしからずご了承ください。
その優しい星で… Navi:25 前編
「絶対手伝うなよ?」
その一言が、俺に知らされた最初の一言だった。
何を? と聞き返す間も与えられず、袖口を破ってしまわんばかりに思いっ切り引っ張っていかれた。
て言うか、手伝うなって言っておきながら、俺を連れていく意味が分からんのだが。
「なぁ、晃。アリシアも」
「なんですか、士郎さん」
「どうして俺はここにこうして引っ張られているんだ?」
「……さて、なんでしょう?」
なんでしょう、って。
夕飯の支度もあったんだが……いったいぜんたい、これはどういうことなんだろうか。
まずは状況を確認しよう。
俺は静かに夕食の準備に勤しんでいた。
いつも通り、アリシアや灯里達が帰ってくる頃に合わせて出来上がるようにだ。そこでアリシアが帰ってきたんだ。予定表だと日が落ちきったくらいに帰って来る筈だったのに、えらく早く帰ってきたもんだ、と振り返ると晃もいた。
いつも通りの傲岸不遜にも似た態度で仁王立ちだ。
そこであの言葉が飛んできたわけだ。
『絶対手伝うなよ?』
そこからはご覧の通り、男としてこれほど情けない格好もそうそうないだろう。
女性に引っ張られ、あまつさえその理由を知らないときたもんだ。
せめて一言でも伝えてくれればいいものを……。
「お、いたいた」
「じゃあ私が行くわね」
スタスタとアリシアが歩いて行く先には、灯里達がいた。
晃に「行くぞ」と急かされ、俺も彼女について歩く。アリシアから数歩分後ろに立って、話を聞くとする。
「3人揃ってるし、ちょうどいいんじゃないか?」
「そうね」
俺も合わせて勘定してくれたら嬉しいがな。
もうふたりの頭の中は弟子たちのことでいっぱいらしい。
「実は、灯里ちゃんと藍華ちゃんとアリスちゃんに、レデントーレの屋形船を1艘……特別に用意しちゃいました♪」
『……へ?』
見事なハモリで、三人が同様に疑問の声をあげる。
あらあら、といつものようにその言葉を流しつつ、アリシアは微笑んでいる。
なるほどな、それで晃の『手伝うな』か。ていうか、ここに俺が来る理由ってなんなんだ。俺いらないだろ。
「あの……まさか私達3人でレデントーレに屋形船を出せと?」
「ピンポ――――ン!」
カッと強面になって晃が叫ぶ。アリスは怯えきってしまい、すっと灯里に近づいて行く。
なんだかんだ言って色々あったけど、しっかり懐いてるじゃないか。あぁ、でないと合同練習なんて来るわけないか。
ちなみに、レデントーレというのはそもそも教会の名前だ。
ペスト――黒死病――の守護教会として有名であり、地球で言えばジュデッカ島に建っている。元々はヴェネツィアの貴族の夏の風習だったものを、ペストが治まったことを記念し、祭りとして発足したのがそもそもの初まりだ。
具体的に何をするか、というと、今までの祭りと何ら変わりない。夜通しどんちゃん騒ぎし、朝日を眺めて祭りの終わりを締める。
変わっていることがあるとすれば、それは船の上の祭りだということか。
アリスは恐る恐る、肩をちぢみ込ませて控え目に質問した。
「あの……私達3人だけではとても無理では?」
「あ、それで衛宮さんがここにいるんですね!?」
「ブッブ――――!」
車のクラクションにも負けていないような、流石の声量で叫びながらその質問と、藍華の希望を粉砕した。
アリスは怯えきってしまい、完全に灯里の背に隠れてしまった。藍華は今にも泣き出しそうな顔で文句をぶー垂れている。
「なぜなら、衛宮にもレデントーレの屋台船が1艘用意されているからだ!」
「あぁ、すまないな。晃から絶対手伝うなって釘刺され…………なんだって?」
本格的に耳がおかしくなったらしい。
晃は変わらない仏頂面で叫び散らした。
「見事なノリ突っ込みだ!」
「やかましい、さっきなんて言った!?」
「見事なノリ突っ込みだ!」
「その前だ!」
コントしてる暇なんてないんだが。
「なぜなら、衛宮にもレデントーレの屋台船が1艘用意されているからだ!」
「なんでさっ!?」
本当にそういうのは灯里達だけに留めておいてくれないか。
勘弁してもらいたい。いや、今からキャンセルしても遅くはない。明日にでもさっそく手続きに行って来よう。
だが、そのあたりは抜かりがないらしく、
「キャンセルは出来ないように話は付けてある」
「無駄に用意周到だな」
「その方が安かったからな」
「…………」
まぁ、確かに。
貸出業者からすれば、キャンセルはしないと明言しておけばちょっとは勉強してもらえそうだな。
直前でキャンセルすれば、その分キャンセル料金が出るのは周知の事実。それは、借りたくても借りれなかった人へ迷惑がかかるし、なにより業者の儲けに関わるわけで。
「じゃあ、改めて説明ね。みんなもそろそろ本格的に、接客に慣れていかなきゃいけないし、ちょうどいい機会かなって思ったのよ」
「まぁ、つまりは修行だ、修行っ!」
とすれば、俺は一体どういった理由で屋台船を出さなければならないのか。
まぁ、アリシアが説明するなら、この俺の疑問にも答えてくれるだろう。俺は口を挟むことなく、静かに聞く。
「お料理やお酒の仕込みはもちろん、内装の手配や、進行の段取りもやりがいがあるわよ」
「お前ら3人でどこまでお客様を満足させられるか、お手並み拝見っつーわけだ」
ふたりのプリマウンディーネはくるりと反転。
足は帰路へ着き始めた。
…………あれ?
「伝統メニューで決まってる料理が大変なんだよなー。料理に合うワインのチョイスも悩むだろーなー」
「うふふ。水の上で一度にたくさんのお客様をもてなすいい勉強になるわよね」
「まぁ、つまりは修行だ、修行っ!」
そのまま、自分たちの経験と言う名の思い出をお互いに話し合いながら彼女たちはネオ・ヴェネツィアの街へ。
「うふふ。4人とも、がんばってね」
ウミネコが鳴いている。波の音が耳に届く。
…………あれ?
「……修行……? 俺が、なんの?」
ていうか、俺は一人でレデントーレを主催しろってことなのか?
今から準備するとして、ひとりじゃ色々不都合が出ると思うんだが……。
「なんでさ……」
理不尽だ。
翌日から俺と灯里、藍華、アリスの4人は行き先、趣旨目的が違えど奔走した。
灯里達の屋台船の定員は彼女らを含め10人。つまり、最大7人のお客を迎えることになる。
対して、俺の屋台船は定員が俺を含め6人程度の小型船だった。さて、誰を招待するか。
アリシアと晃は修行と銘打った手前、向こうに行くだろう。アテナはどうするんだろうか?
アイナを呼ぶとしたら、女将さんも呼ぼうか。アントニオあたりと、アル……は藍華が呼ぶだろうな。暁の方も灯里が呼ぶか?
そうだ、アミも呼んであげよう。としたら、母親も来るだろうから……アテナ次第じゃ、これで定員だな。
……アテナが来るなら、アレサ女史も呼んだ方がいいかもしれない。
ボッコロの日から連絡はちょくちょくしているのだが、直接会うという機会がなかった。少し狭くなってしまうが、なに、俺がどうにかすればいいだけの話だ。
……いや、待て待て。なんで呼ぶことを確定してるんだ、俺は。まだ確認も取ってないのに早とちりもいいところだ。
まさか、とは思うが……。俺は楽しんでいるのか、レデントーレを?
「…………あぁ。なんだ、俺はとっくにこの星に『ひかれ』てたみたいだ」
アルとの会話を思い出す。
去年の年の瀬のことだ。初めて会った俺たちはそのままアルに地下世界を案内してもらい、そこから帰るときに少しだけ俺と話した内容。俺は言った。『正義の味方』だから、この世界には『ひかれ』ない、と。
それがどうしたことだ。今の俺は間違いなく『正義の味方』を目指しているのに違いないのに、こんなにもこの世界に『ひかれ』始めている。……あぁ、そうか。
「俺は、変われてたのか」
自分でも知らないうちに、自己の変革が為されていた。
あんなにも居心地が悪かった世界が、今では守りたいと思うものまで出来てしまった。
初めに出した答えは、確かに俺の中では正しいと思えた答えだった。今でも間違っているとは思っていない。
なぜなら、その出した答えがなければ、今ここに俺がこうしていることが出来ないから。
また『正義の味方』を目指そうとは、思っていなかっただろうから。
「……耽ってる場合じゃないな。確認取ってみるか」
電話がいいだろうか。まだ営業時間前だし、今電話したら出てくれるかもしれない。
けど、こういうのは電話でするものなのか……?
いかんせん、俺はレデントーレの伝統やらをほとんど知らない。知っているのはうんちく程度。
伝統メニューだとか、内装だとか、まったく分からない状態でスタートしている。それに引き換え、灯里達は地元民がふたりいる。それもひとりは姫屋の一人娘で、ひとりは現在要注目のスーパールーキーだ。
まぁ、藍華はそんな仰々しい奴じゃないし、アリスだって普通の女の子だ。だとしても、知識として知っているだろう分、アドバンテージとして少なくとも働く。
去年のレデントーレの際は自重して会社でひとり軽く月見酒してたな。行っておけばよかった。
後悔、後の祭り。
「調べるところからだな」
会社内の端末でレデントーレの知識や伝統をかき集めていく。
その間にも予約の電話は鳴り響き、洗濯や掃除、雑務経理と仕事はこなしていく。
そして、気がつけば机の端にキンキンに冷やされた麦茶が置かれていた。
「お疲れ様です」
「アリシア、帰ってたのか」
「気がついてなかったみたいでしたから。何回もただいまって言いましたよ?」
「それはすまない。おかえり、アリシア」
「はい」
二コリ、と微笑んで二階へ上がっていく。
…………しまった。
「ごめん、まだ夕食の用……い?」
「いいですよ、私がしときますから。士郎さんは士郎さんで、調べ物の続きをどうぞ」
追って二階に上がると、アリシアは嬉しそうにエプロンを着けているところだった。
鼻歌まで口ずさみながら、軽快な音を鳴らしつつ包丁を振るっている。
……やれやれ、俺はどこまで弛んだんだろうな。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「は~い」
一階に戻って、また同じように調べ始める。
どれくらいしていただろうか、一休みと体を伸ばした瞬間、鼻腔をくすぐるいい香りがした。
これは、アリシアの料理か。
「士郎さ~ん、出来ましたよ~」
「あぁ、灯里も帰ってたのか。おかえり」
「はいっ」
降りて来て夕食の時間を教えてくれたのは灯里だった。
灯里が帰ってきてるのかすら気がつかなかったとは……。相当楽しんでるな、俺。
「いただきます」
『いただきます』
一旦作業を置いて、みんなで夕食をいただく。
そういえば、久しぶりにアリシアだけが作った食事を食べたな。アリシアらしい優しめの味付けが実にあっさりしていて、夏の終わりとは言えまだまだ暑いこの日にでもぱくぱく食べられる。
ペロリと綺麗に食べ終わると、食器くらいは洗おうと流し台に運んで行く。
アリシアはそれを咎めることをせず、一緒に並んで洗い物を片付けていく。
「どうですか、レデントーレ」
「あぁ、楽しんでるみたいだよ。自覚は不思議とないんだけどな」
クスクスと笑い合い、食器を洗い続ける。
他愛もない談笑が続き、食器を洗い終わる頃、アリシアは少し残念そうに言った。
「あの、私、士郎さんの屋形船の方には行けそうにもなくて……それで」
「あぁ、分かってたよ。修行なんて言った手前、様子を見に行かなきゃいけないもんな」
「……はい」
「?」
どうしてそこで落ち込むんだろうか?
別に気にしなくてもいいって言ってるのに。そんなに来たいんだろうか?
どこにいたって別段違いがあるとは思えないし、呼ぶ人の内容から考えても向こうに行った方が楽しめるとは思うんだが。そのあたり俺では思いもつかない理由があるんだろうか。
「なに、来年だってレデントーレはあるんだ。その時にでも招待しよう」
「え?」
「それとも、来年まで待てないか?」
「い、いえっ。そんなことないですよ?」
「それじゃあ、今は灯里達の方のレデントーレを楽しんでやれ。上の空のまんまじゃ灯里達に失礼だぞ」
「……うふふ。そうですね」
なんとか説得は出来たか。
それにしても、俺も何を言ってるんだか……。これは、来年も忙しくなりそうだな。
自業自得なんだけどな。
翌朝。
とりあえず招待状を手紙形式で書きあげ、それぞれの家に直接配ることにした。
口頭で言えばそれで済むんだろうが、それでは味気ない上に相手に失礼だと考えたからだ。
まずは近所から順繰りに配っていくとしよう。まずは……アイナのところだな。
「あ、いらっしゃぁい」
「どこの芸人だ」
「むー。ノリ悪いぞエミヤン。とにかく今日は何を御求めで?」
「とりあえず、野菜一式だな」
「そりゃまた、えらく買い込むね」
驚きながらも手際よく紙袋に俺が指定した野菜を順に放り込んでいく。
結果、紙袋はパンパンに膨れ上がり、さらにそれが3つと来たもんだ。一回帰らないといけないな、これは。
それらを崩れないように床に置き、用意しておいた招待状を二枚渡す。一応アイナと女将さん用だ。
「これ、招待状だ」
「おお、ありがとー。ARIAカンパニーでレデントーレの屋形船出すの?」
「いや、俺個人でだ」
「好きものだねー、エミヤン」
「出すって言うより、出さざるを得ない状況になった」
キャッキャッと招待状を嬉しそうに弄び、そこかしこから眺めている。
そんなに珍しいもんなのか、それって。
「ま、ウチはマンホームから移住してきたからさぁ。呼ばれたりするんだけど、おっちゃんたちばっかりであんま楽しくないんだよねー。私個人としては」
お母さんは違うみたいだけど、と付け足してアイナは言った。
そうなのか。ということは、もう一枚はどうなるだろう。
「お母さんに訊いてみなきゃ分かんないけど、たぶんエミヤンの方に来ると思うよ」
「そりゃ、光栄なことだ」
「ウチで扱ってる野菜がどう調理されてるか、前々から興味あるみたいだったしね」
「責任重大、ってとこだな」
「来なかったら友達でも誘ってみるね」
「ああ、そうしてくれ」
荷物を持ち上げ、扉はアイナに開いてもらいつつ店を出た。
荷物はARIAカンパニーに置いておき、次に行く。
次は、アントニオのところだ。
「よう、久しぶり」
「衛宮の旦那、お久しぶりです」
店内でぼーっと客を待っていたところに来たようだった。
まぁ、客がいるよりかは話し易いか。
「これ、渡しとくよ」
「招待状……レデントーレ! これ、アリシアさんも来るんですかいっ?」
「残念ながら来ないんだ」
「そ、そうですか……まぁ、ダメ元で聞いてみたんですけどね」
「どういう意味だそれ」
「ダメ元ついでにもうひとついいですかね?」
「おい、話を聞け」
「ボッコロの日に話したでしょう、気になる人がいるって。あの人も呼んでもらえやしませんかね」
「…………あのな、なんでお前のことも俺のことも知らない人の事を、俺が呼べる道理がある?」
素早く耳元に近づかれ、誰もいないというのに誰かに聞かれまいと小さな声で耳打つ。
「いえ、見たんですよ。旦那と彼女が話してるところを」
「俺の知り合いだっていうのか?」
「それもかなり親しげに」
「前置きはいい。特徴を言ってみろ。誰だか分かるかもしれない」
一応、客観的に見て親しげに話したことのある人物を思い浮かべてみる。その中でもアントニオが惚れ込みそうな女性。
思いもつかない。元々そう言うのには疎い方だと昔から言われていたことを思い出す。
アントニオはそんな俺のことを気にせずに、まるで舞台役者かなにかのように仰々しく手振り身振りをつけて特徴を語り出した。
「甘い蜂蜜のような髪」
金髪ってことだな。
「雪原のような白く穢れを知らない柔肌」
肌色は白っぽい、と。
「まるで向日葵のような可憐な笑顔」
向日葵という比喩からして、活発そうなイメージがあるな。
「そんな感じです」
「……ちょっと待ってろ。思い当たる女性がいるか思い出す」
金髪で、色白で、活発な…………。
金髪で?
色白で?
活発な?
「ちょっと質問しよう。その彼女は、こう、髪が跳ねていないか?」
「そりゃもう、まるで天使の羽根のような――」
「近所の子供と遊んでいることが多い?」
「そりゃもう、まるで聖――」
「身長は俺の頭ひとつ分低いくらいだな?」
「どストライクっす!!」
「わかった。ソイツはもう呼んである」
「マジですか!?」
キャホーイ、と跳ねる程に喜び、あまつさえ招待状にキスをする始末。
そんなに嬉しいのか。ご愁傷様だ。
そこまで美化してると、本人に会った時どうなるか分かったもんじゃないな、これは。
「それじゃあ、また当日にでも内装用の花を買いに来る」
「はいっ、お待ちしておりまっす!」
さて、次は……アミの家か。
一応、親から住所は聞いてあるから、迷うことがなければ昼頃に到着するだろうか。
住所を確認しながら歩いていると、大通りに出てきた。どうやらこの通りに面した集合住宅、つまりアパートメントに住んでいるらしい。フラット型のようで、同じ住宅が平らにずらっと並んでいる。
さて、どのあたりだろうか。まさか集合住宅だとは思っていなかったからな。
「こんにちわっ」
「ん?」
左袖をくいくいっと引っ張られ、そちらを向いてみると、そこにいたのはアミだった。
あぁ、確かに。ここの辺りに住んでいるならいても不思議ではないか。
「こんにちは、アミ」
「うん、しろうさん!」
お互いに挨拶をしていると、後ろから声がかかった。
アミの母親だ。
「その節はどうも」
「いえ、そんな」
「それで、このあたりに何か用事ですか?」
「あぁ、あまり交友もないのにこういうことをするのは少し、差し出がましいのかもしれませんが、どうぞ」
懐から招待状を出して、アミの母親の方に渡す。
あら、と嬉しそうに顔を綻ばせ、見せてとせがむアミに一枚を渡す。
「れでんとーれ?」
「みんなで集まって、ご飯を食べて、過ごそうねっていうお祭りね。去年もみんなでしたの覚えてる?」
「あれかぁ!」
おぼえてるー! と子供らしい笑顔で答えるアミは、今にも招待状を握りつぶしてしまいそうになっている。
母親はそれを咎めながらも、優しくどうするかをアミに聞き、アミが頷くと俺を見て笑った。
「行かせてもらいますね」
「えぇ、それではお待ちしております」
さて。
次は最後にして一番の難所だ。オレンジぷらねっと、そのエースと人事部長を誘う男。
こういう言い方をすると、なぜか悪い男に聞こえるな……。
「…………来てしまった」
いや、来なければ始まらないんだけどな。
オレンジぷらねっと、宿舎。前に来たときは、確かアテナに連れられて。そしてそこでアルトリアとの再会。
あの時でさえ奇異の目で見られていたというのに、アテナさえいない今、俺に向けられる視線は痛いとか辛辣だとか、そんなレベルじゃなくなるだろう。
入るまでが難しい上に、入ってからが本当の地獄と言う……なんともいやな状況である。
「…………どうしたものか」
こういうときこそ、アミ達の時のようにばったり会うことが出来れば楽なんだが、そう上手くいかないのが人生というものだ。
怪しまれないように――別に怪しまれて困るようなことはしていないが――宿舎からは少し離れた位置に立って悩んでいる。それでも怪しいと言えば怪しいだろう。何と言ってもオレンジぷらねっとの宿舎の前だからな。
「……ふむ」
不意に取り出したのはアレサ・カニンガムの名刺。
何か役立つかと思って持ってきたのはいいのだが……アポも取らずになんの意味があるっていうんだか。
……名前。アレサ・カニンガム。
……役職。オレンジぷらねっと、人事部部長。
……連絡先。…………連絡先?
「電話、か」
してみないことには始まらないか。
公衆電話を探し、歩きまわること数分。やっと見つけた公衆電話でおそらく仕事用の連絡先であろう電話番号を押していく。コール音が一度、二度、三度、四度、五度、鳴り響く。
六度目の途中でコール音が途切れ、女性の声で応答が返ってきた。
『もしもし』
「あ、もしもし……衛宮です」
『あら、衛宮さん。今日はどうしたのかしら?』
「ちょっとしたお誘い、ですかね」
『あら、ようやく? それで、日時は? 私ならどうにでも時間は作れますよ。人事部長ですし』
その考えはどうなんだ、と思いつつ、本題を切り出す。
「レデントーレに屋形船を出すんで、その招待状を」
『…………。ごほん、そうですか。まぁ、いいでしょう』
「?」
何か癇に障ってしまったのだろうか。ちょっとだけ、声に刺々しさがあった気がしたのだが。
いいと言っているんだから、まぁ気にしなくても大丈夫だろう。
「それで、アテナの予定は空いてないですか? 良ければ彼女も招待したいと――――」
『すいません。その日は彼女は仕事が詰まっていますので!』
人事部長だからどうにでも時間は都合出来るんだろう、と言い返したくなるほどはっきりと断られてしまった。
まぁ、予定が入っているって言うんなら仕方がない。結果として人数もぴったりになったことだしな。
「じゃあ、招待状を渡したいんですけど……どうすればいいですか?」
『取りにいきま……ごほん。今どこにいるんですか?』
「オレンジぷらねっとの宿舎前あたりですけど」
『それでは、その招待状を本社の受付へ渡してください。連絡は入れておきますので、すぐに受け取ってもらえるでしょう』
「了解しました」
電話を切って、オレンジぷらねっとの本社へ足を向ける。
その間で考えるのは、何でこんなに手間がかかってしまったのか、という疑問。気がつけば日が傾き始めている。
楽しかったと言えば楽しかったし、忙しかったと言えば忙しかっただろう。
だが、忙しい=楽しくないではない。忙しくても、楽しかった。
本社の方なら幾分か入りやすい。
入口から入って、受付へ一直線。受付嬢の対応はさすが最大手の『姫屋』と肩を並べるだけはあり、俺よりも若いだろうに俺よりも上手だった。
「では、確かにお預かりしました」
「よろしくお願いします」
話通り、アレサ女史は連絡してくれていた。
俺の名前を出すとすぐに招待状を渡し、それからはトントン拍子で話が進んだ。
外に出ると、もうすぐ日が落ち切るだろう時間帯になっていた。今から帰ったらちょうど日が落ち切ったくらいか。
火星でも、一番星は金星なのだろうか。あるいは違うのかもしれない。
空を見上げながら歩いていたからだろう。どん、と前から来た人とぶつかってしまった。
「っと、すまない」
「いえ……」
「……アテナじゃないか。久しぶりだな」
「え? あ、衛宮さん?」
手を取って立たせてあげた相手は、仕事で来れないというアテナだった。
そういえば、アテナはアリスの先輩という立場だが、灯里達の屋形船には行かないのだろうか?
仕事があったから、といえばそこまでだが、少し気になるので聞いてみた。
「アテナ。お前はアリス達の屋形船には行かないのか?」
「えぇ。そういうのは、アリシアちゃんたちに任せてるから。私が行っても、たぶん邪魔しちゃうだけだろうし」
私、ドジだから。なんてずいぶん悲しそうに言う。
「まぁ、当日も仕事が入ってるらしいしな」
「? 誰がですか?」
「ん? いや、アテナ、君がだけど」
「私は空いてますよ。屋形船を出すのが大体みんな7時とかだから、十分間に合いますよ? でも、今年はひとりで部屋で起きてて、花火を見るつもりだったんですけど」
あれ?
アレサ女史は仕事で行けない、みたいなことを言ってなかったか。
まぁ、そういうことなら誘っておくかな。
「これ、よかったら来てくれ」
「衛宮さんが?」
「そう。アリス達と一緒に、いきなり晃に用意されてな。今それで招待状を配ってるところ。アテナで最後」
「ありがとうございますー」
そこでアテナは首を捻った。
たぶん、じゃあなぜ会社がある方から来たのか、と疑問に思ったのだろう。
「アレサさんにも、な。ちょっと前からお誘いはしてもらってたし、いい機会かなって思って」
「そうなんですか。じゃあ、彼女にはあんまり強いお酒は出しちゃダメですよ。私よりも弱いから」
「そうなのか」
割と強いイメージがあるんだがな。
人事部長なんて役職柄、そういう場も多いだろうに。いや、偏見かもしれないが。
「それじゃあ、またな。アリスも口に出さないだけで、結構気にしてたぞ? お前が来ないこと」
「うん。ありがとう」
あとは帰って、明日からは船の中の掃除に内装のレイアウトを考え、当日の献立も考えないといけない。
あぁ、そうだ。ワインがどうのとも言ってたな。アミとアレサ女史が来るから、ジュースも考えておいた方がいいのかもしれない。
それから、それから。
「まったく、俺ってやつは……」
またふと我に帰ると、思わず苦笑してしまう。
何だかんだ言っておいて、やるとなったらきっちりやってしまう。そういう性分だし、仕方ないと言えば仕方ない。
出来ることならするし、出来ないことなら出来ないとちゃんと断ってきた。
今回、断らなかったのは、つまり自分が『出来る』と感じたからだ。思ったからだ。
「やるなら、とことん楽しませてやるとしますか」
レデントーレまでもうあまり時間はない。
明日からも、まだまだ忙しくなりそうだ……。
Navi:25 前編 end
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
今回は逃がさねえぜ!? そして拍手レス。
ども、草之です。
亜美・真美誕生日おめでとー!
ということで、今日は双海亜美・真美の誕生日ですね。
余談ですが、中の人が外の子の歌をカヴァーしてCD出すそうですね。これもうほとんどネタじゃないかと疑いたくなるような企画です(笑)。
炉心も入ってるようで、さて、どんな感じに仕上がるのかな、とちょっと期待してたり。
買える余裕があって内容がいいようだったら買ってみるつもり。
亜美真美のこと話してねえな(笑)。
さて、一応更新予告と拍手レス。
レスの方は追記からどうぞ~。
『背炎』を今夜、早ければ夕方には更新。
『B.A.C.K』を日曜日に更新予定。遅いと月曜日から火曜くらいまで遅れそうです。
では、草之でした。
亜美・真美誕生日おめでとー!
ということで、今日は双海亜美・真美の誕生日ですね。
余談ですが、中の人が外の子の歌をカヴァーしてCD出すそうですね。これもうほとんどネタじゃないかと疑いたくなるような企画です(笑)。
炉心も入ってるようで、さて、どんな感じに仕上がるのかな、とちょっと期待してたり。
買える余裕があって内容がいいようだったら買ってみるつもり。
亜美真美のこと話してねえな(笑)。
さて、一応更新予告と拍手レス。
レスの方は追記からどうぞ~。
『背炎』を今夜、早ければ夕方には更新。
『B.A.C.K』を日曜日に更新予定。遅いと月曜日から火曜くらいまで遅れそうです。
では、草之でした。
背徳の炎 track:24
結果として、ギターはネギの頭を潰すことはなかった。
「て……めぇ!」
「ケケケ、ヤットミツケタゼ。テメェガ“イノ”ダナ?」
少女と呼ぶには小さすぎ、また、無機物的な命。
たかだか1mの大きさもない人形に、イノは攻撃を防がれたのだ。
「腹ノ底カラ悪党シテンナ、オ前。イイゼ、嫌イジャネエ」
自らの体の倍近い鉈を掲げながら、愉快そうにケタケタ笑う。
イノはそれを睨みつけながら、ゆっくりと退く。見れば見るほどこちらの『魔法』とやらが分からなくなる。
「チャチャゼロッテンダ。ヨロシクシヨウゼ、“ザ・フット”?」
「誰かしらね、お嬢ちゃんにそんな言葉を教えたのは」
「サァ? デモ案外、オ前ノ知ッテル奴カモシレネエゼ?」
「いけすかねえ人形だな、お前」
「イケスカネエ姉チャンダナ、オ前」
わざと同じような言葉で、茶化すように返事をする。
ケラケラケタケタとした笑い声がイノの耳には、相当なノイズになって届いた。
だが、イノは分からなかった。
「なんでてめぇが、そのガキを助ける?」
「ケケケ。知ッタコッチャネエナ。ゴ主人ニ必要ダカラジェネェノ? デネェト、コンナ愚図ヲ助ケテモ何ノ得ニモナリャシネエ」
「……あのガキか」
「オット、勘違イスンナヨ。ココニイルノハ俺ノ意思ダゼ」
「人形が意思ねぇ?」
イノもまた皮肉ってチャチャゼロに言葉を投げかける。
それに対して、チャチャゼロは鉈を振って答えた。暗に「つまらなくなってきた」と伝えたいのかもしれない。
さっさと殺し合おう、と、伝えたかったのかもしれない。
当のチャチャゼロは、守った筈のネギでさえ、ここで殺してしまいかねない雰囲気を出していた。イノからすればネギのことなど、どうでもよかったのだが、外野――つまり刹那や木乃香、カモ、楓である――はそうとも言っていられなかった。
だからと言って、ここで戦闘を始められれば巻き込まれることは必至。
「サァテ……。時間ガ来ルマデ楽シマセテ貰ウトスルゼ」
チャチャゼロが本格的に戦闘態勢を取り始めた。
それに応じるように、イノもゆっくりと腰を落とし始めた。
「……来いよ、スクラップにしてやる」
わざわざ言葉を交わす必要はない、とチャチャゼロは鉈でその言葉に応えた。
とん、と軽い跳躍。しかしイノに向かうことはなく、木の幹の高い位置を脚で捉えた。
加速。
その身体の小ささのこともあり、木々の間を弾丸のように飛び回る。
カッカッ、と小刻みに不律動に飛び回り、どこから攻めるかを特定させない。
「ちぃッ、ちょこまかしてんじゃねえ!!」
イノは怪しげながらもチャチャゼロを目で追いながら、カウンターのタイミングを狙う。
カッと音が止まった。イノは影を追いながらそちらを向き、迎撃態勢を取った。音が止まったということは、こちらに向かって跳んだということだからだ。
しかし……
「鉈……!?」
「――――!!」
イノはバッと後ろを振り返る。
鉈とはまた違った、小型のナイフ。それを両手で構え、跳びかかられている。
防御は間に合わない。回避も出来ない。完全にハメられた。
――――なら、撃ち落とす。
振り向いた勢いでイノはマレーネを叩きつける。
チャチャゼロとイノ自身とではリーチが違いすぎる。チャチャゼロは人形のそれらしく吹き飛ばされ、木の幹に当たる直前に空中で体制を整え、幹で受け身を取った。
カチャカチャと関節を鳴らしながら、素早く立ち上がるチャチャゼロ。
イノを中心に大きく円を描きながら、チャチャゼロは距離を縮めていく。また跳びかかられ、叩き弾く。
それを数回繰り返すが、チャチャゼロには一向に堪えている様子はない。
叩いても叩いても堪えることはない。人形など脆い、と考えていたのがそもそもの間違いだったとイノは気付く。
「さっさと潰れろ、カスがッ!!」
「隙ヲ見セタナ……!」
ぶぅん、と一段大きく薙ぎ払われたギターを跳び越え、チャチャゼロはイノに襲いかかる。
マレーネを切り返そうとはせずに、勢いそのままにイノはチャチャゼロを蹴り飛ばす。ボギン、といままでで一番いい音が鳴り、チャチャゼロは空中で受け身も取らず地面に叩き落とされた。
カタカタカタ……、と小刻みに震えながらチャチャゼロは起き上がる。
右腕が折れ、右半身にひび割れが広がっている。
「残念だったな……」
「ケケケ……ヤルジャネェカ。デモ、時間切レダゼ」
「あん?」
チャチャゼロの言葉を訝しみ、イノは表情を曇らせる。
「言ッタダロ? 時間ガ来ルマデッテナ」
「どういう意味だ……」
「――――こういう意味だ、イノ」
「ッ!? てめぇ……いつの間に!?」
イノの足首を影の中から掴む腕。
その白さ、影から覗く青き瞳は間違いなくエヴァンジェリンのもの。
エヴァンジェリンは腕を乱暴に振り回し、足首を掴まれているイノはそれに合わせて地面に叩きつけられては叩きつけられる。
「……っが、は……ッ!?」
「そら、お返しだ!!」
影の中から飛び出し、上空へ。
イノもそのまま上空へ引っ張り上げられる。
「っく……はな、しやがれッ」
「あぁ、御所望通りに、なッ!!」
エヴァンジェリンは自身の腕力を魔力で過剰強化する。筋肉が悲鳴を上げ、耐えられない筋繊維はブチブチと千切れていく。それもお構いなしにエヴァンジェリンはイノを上空から地面へ叩きつけた。
ドン、と地面が局地的にへこむ。イノは立ち上がろうとするものの上手く力が入らない。
イノの骨が軋む。内臓が破裂しそうだ。
「ぐ、ぶ」
血が口まで逆流する。
顎を伝って肌へ落ちる。が、その血が肌に塗られることはなかった。
こつん、と血が肌に当たった。
温度が急激に落ちていく。
「『こおる大地!!』」
ギシリ、とザクリ、とイノを氷塊が蝕む。
身動きが取れない。足掻こうにも、氷が邪魔している。
「く、そ……!!」
「リク・ラ・ラック・ライラック……」
魔力が濁流となってエヴァンジェリンから流れ出ていく。
「どうやら、貴様には氷漬けでは足りないらしいからな……。ありがたく思え」
その奔流を『魔法』へ昇華するための言の葉を紡ぐ。
流れる清水のように、しかし激情を乗せて荒々しく、それらすべてを飲み込むほどの寛大な包容力を以てして詠う。
「『来れ、深淵の闇……燃え盛る大剣』」
現れるのは、黒き焔。闇の塊。
「『闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔 我を焼け、彼を焼け そはただ焼き尽くす者』」
詠唱が完成する。
あとはただ、その『魔法』の名を唱えるのみ。
「『奈落の業火!!』」
――――術式固定!
溢れ出した業火は拡がることなく、何も焼き尽くすことなくエヴァンジェリンの手に収まった。
黒き闇の焔塊。昏く、全てを包み込んでしまいそうなほどに深い闇。それは誰彼と分け隔てなく飲み込み、包容する。
『闇の魔法』、マギア・エレベア。
光は全てを分け隔てる絶対の壁。視覚化されるもの。視覚化されている時点で、それは分け隔てられた後のもの。
色も、人も、心も、魂すらも、光によって壁が生まれる。しかしそれは、必要悪なのである。
闇は全てを包み込む絶対の混沌。見えぬもの、境界すらあやふや。人が闇を恐れるのは、分け隔てがないから。
個と言う存在をなくし、“全”とする。混沌の中からこそ、つまり“全”からこそ個は生まれ、また“全”へ還る。
マギア・エレベアとは、つまりそういうことである。
全ての個を“全”とし、“全”の中から絶対存在である自分と言う個を確立させる。
あやふやな領域下のなか、自らこそを確立すれば、その力……絶大であることは道理。
エヴァンジェリンは静かにこおる大地に足を降ろした。
その手の中には、未だ行き場をなくした魔力が暴れ狂っている。
「さぁ、闇は誰もを受け止める。しかし、人は闇を拒む。その拒絶は、闇という絶対存在の前では無意味。無意味だからこそ、人は理解する。理解するからこそ、反応は過剰。拒絶はつまり、死を意味する無意味ということだ」
ひたり、ひたりと氷の上を少女が歩む。
闇の代行者。闇という絶対存在へ人を導く、その案内人。知らせ人。
鐘を鳴らすが如く、その姿はこう畏れられた。
――――――“闇の福音”、ダークエヴァンジェル。
「そら、闇に呑まれろ!!」
魔力塊を、イノの胸に押し当てる。
同時、
「『反転・掌握!!』」
魔力塊を、イノに同化させる。
自らを改革する『魔法』としての『闇の魔法』。
闇は全てを拒むことはない。しかし、人は闇を無意識下に拒む。
イノは『魔法』を知らない。つまり、魔力そのものの制御方法を知る筈もない。
また、これが熟練の魔法使い、しかもマギア・エレベアの存在をも熟知する者――つまりは使える者――であれば、致命傷は避けられたかもしれない。
しかし、そのような存在は皆無。なぜなら、『闇の魔法』マギア・エレベアはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが創造し、これらは禁呪や、謎の技術として、あるいは真祖の吸血鬼としての特殊技能として考えられ、またエヴァンジェリンも弟子を取らずに数百年を過ごしたからである。
「が、がががっががあああがああがあがあああッッッ!?!?!?」
イノの中で焔塊が破裂する。
特殊な兵装として纏う『術式兵装』に、イノが至らなかったためである。
身を内側から業火が焼き、肌を割って足のように生える。周囲を蝕み、こおる大地を溶かしつくす。
個体から一気に気体へ。
いわゆる、水蒸気爆発が周囲を蝕んだ。
「…………ふん。死ににくいのはお互い様らしいな、イノ」
「が……き、がぁ……ッ!!」
全身を焼け爛らせながらも、イノは立った。
ただ、今にも倒れてしまいそうではある。
「まぁいい。見た感じ、死に体ではあるようだが……腹に穴を開けても生きているような奴だ。万全を期させてもらう。……『断罪の剣!』」
キィン、と高い耳鳴りのような音が響き、エヴァンジェリンの腕が刃へ変わる。
何の抵抗もなく、削り取るように斬る剣。もはやそれは、全てを空気として断つことの出来る剣だ。
「これで首を刎ねれば、如何な貴様でも死なざるを得まい」
イノは、それを見て力なく膝を折った。
大地に伏すイノ。しかし――――
「な……!?」
「あ……ばよ、ガキ……ィ。ぜ……てぇ、コロス」
大地に伏したのではなく、大地に開けた転移穴に倒れ込んだのだ。
イノを飲み込むと転移穴は跡形もなく閉まり、追うことが出来なくなってしまった。
「ちぃ、逃がしたか……」
「オォイ、ゴ主人。俺ヲ助ケテクレヨ」
「ふん。時間稼ぎでいいと言ったのに、無駄にがっつくからそうなる」
今度こそ、地面に倒れ込んでいるチャチャゼロがそう言うものの、エヴァンジェリンは自業自得だと切って捨てた。
すぐにチャチャゼロから視線を外し、ネギへ視線を移した。
「弱いな、ぼーや。生徒様は守れたか?」
「え、エヴァ……さん」
一言、たったそれだけ。“弱い”という言葉を投げかけただけでエヴァンジェリンはネギに対しての興味がなくなった。
何かを言いたそうなネギを無視して、エヴァンジェリンは状況を確認し始める。
「大方ソルにでもやられたか。加減を知らんな、アイツは」
遠方の煙を見て、エヴァンジェリンはそう呟く。
「山火事になっていないところを見て……辺りの酸素を喰らい尽くしたか……」
クク、と喉を鳴らしながら立ち上る煙を眺めている。
ある程度の戦闘の余韻が消えた頃、改めてエヴァンジェリンはネギに話しかけた。
「なぁ、ぼーや。お前はこの修学旅行で何を為した?」
「え?」
「親書は“無事”に渡せたか……? 生徒は“きちんと”守ってやったか……? 戦いには“しっかり”と勝てたか……?」
「は、はい……」
「嘘をつくな。親書のことは知らんがな、このざまを見ろ。神楽坂明日菜が目に見えない所にいるというのに、よくもまぁ『はい』などと返事が出来たもんだ……。それに、私は結果を聞いてるんじゃない。ぼーや自身の事を訊いてるんだ」
青い瞳に、ゆらりと怒りの色が揺れる。
ネギはその言葉にハッとした。そして、今ようやくいるべき人物がいないことに気がついた。
明日菜がどこにもいない。
「せ、刹那さんっ。アスナさんは……!?」
「残念ながら……知りません」
「楓さん……!」
「すまぬ、ネギ坊主」
「このか、さん……」
「……ウチ、ウチ、ずっと寝てたから……何が、なんなんか……」
「カ、モ……くん?」
「すまねえ。俺にもどこにいるかまでは……」
「ああ……あぁあああ…………う、わぁあ…………ッ」
ネギはその場でただ涙を流した。
それが悲しみからなのか、己に対する怒りからなのか……または情けなさからの涙なのかは、誰も解りはしない。
そこで、ざり、と土を踏む音が聞こえた。
この場にいる全員が振り返り、そこにはふたりの男とひとりの少女、ひとりの異形が立っていた。
赤い人物、ソル=バッドガイと、白い人物、カイ・キスク。
少女の名はメイ。異形の名をディズィーと言う。
ソルとカイの腕には、それぞれ女性が抱かれていた。
ソルの腕に、より正確に言い表すなら肩に担がれている女性は天ヶ崎千草。
カイの腕に、神楽坂明日菜が抱かれていた。
「アスナさん!!」
ネギは涙を拭くことすら忘れ、滲む視界のままカイに抱かれているアスナのもとへ駆け寄った。
自身の体力も限界が近いというのに、今は明日菜に対する罪悪感のほうが強かったのかもしれない。
「大丈夫。背中から全身を強く打っていましたが、私が応急処置をしておきました。命に別状はありません」
「よかった……本当に、よかった……!」
腰から下の力が一気に抜け、ネギはその場に倒れ込んでしまった。
度重なるストレスと、戦闘によるダメージ、その全てを止めていた緊張の糸が一気に切れてしまったのだろう。
木乃香に治してもらったとはいえ、全身が痛み、また頭痛がするほど安心した。
「よか……た」
ネギは、最後まで誰かの心配をしながら眠りについた。
長い夜の、一幕の終わり。
しかし、この場にひとりだけ。
たったひとりだけ、まだ戦い終わらぬ人物がいた。
桜咲刹那。白き鴉の翼持つ、忌子である。
* * * * *
『ふむ……。なるほどのう』
「どうするつもりだ、ジジイ。私は別に構わんぞ」
『その、メイという少女に関しては問題なかろう。しかし、その他が問題じゃなぁ』
煮え切らない返事を出され、昨日から募る苛立ちが頂点に達しようとしていた。
むこうもむこうで悩むのは分かる。
私もいいと言っている。それで何が問題だというのだ。
いい加減、私も寝たいのだがな。明日は朝から京都を巡る予定がある。茶々丸にも土産を買ってやらんといかん。
『特にディズィーとかいう異形の子はの。特に難しい』
「簡単だ。私の家で学園祭まで幽閉させておけばいい。外に出なければ、あの翼も尻尾も誰にも見られることはない」
『確かに、そうなのじゃが……』
「なにが不満なんだ、お前は」
『あの子らが、違う世界から来たとは思えなくなってきたのじゃ』
「はァ?」
言うの事欠いて何を言い出すかと思えば、何をほざいているんだ、このジジイは。
それに会話になってないぞ、あのディズィーとかいうのとそれと一体なんの関係があるって言うんだ?
「…………待てよ。おい、ソル!」
「なんだ」
「貴様らが来る前の西暦は何年だった?」
「そこにいる奴に聞け。めんどくせぇ」
ソルはそう言って、縁側で屋敷の庭を眺めている青年を指さす。
たった一言答えるだけだろうに、なにをめんどくさがってるんだ、こいつは。
「おい、えーと、なんていったか……」
「はい?」
「お前らがいた時代の西暦を答えろ」
「2181年ですが……?」
ふん?
西暦といって伝わり、さらに未来から。確か、アクセルとかいうアホ教師もイギリス出身とか言ってたな。
なるほど……ジジイもたまには面白いことをいうな。
「だが、その可能性はな低い。奴らの《魔法》と、こちらの『魔法』とでは解釈や用途が違い過ぎる」
『そうなんじゃがの……なんかひっかかるんじゃよ……』
「とにかく、こいつらの戸籍を用意しとけ。問題解決はそっちに帰ってからでも遅くはなかろう?」
『ちょ、え、エヴァ――――』
強制的に携帯を切る。
これ以上ここで話していてもしょうがない。麻帆良に帰らねば、問題も何も無いのだからな。
しかし、まさかな……。ジジイの見解が外れてくれていればいいのだが……。
「ち、陰気くせぇな……」
「あ、おい!」
ソルは私の制止も聞かず、ズカズカと外の林の中に入って行った。
なんであいつは団体行動というか、集団行動というか、まとまって行動することが出来ないんだ。
まとめる方の身にもなってみろ……まったく。
「……あいつは、昔からああでしたからね」
「…………そうか」
剣士にしては線が細いな。
力ではなく、技術で戦うタイプの人間か……?
それとも、あの魔剣の力か……。
「あのディズィーという奴だが、私のところで預かることになるだろう。悪い言い方をすれば幽閉だ」
「君が……? 親は何をしているんですか?」
「親ぁ? 親、親ねぇ……クック……。おい、お前。私がいくつに見える?」
「何を突然…………10前後、ですか?」
まんまと騙されているわけだ。
こいつらの世界の人間が全員ソルのように鋭いというわけでもないらしいな。
いや、アイツの場合は鋭いというよりも、ニオイか。
「私はね、ゆうに600を越える吸血鬼だよ。ぼうや」
「な!?」
600という数時に驚いたのか、それとも吸血鬼という言葉に驚いたのか。
あるいはそのどちらともにか。
ぼうやは咳ばらいをひとつ挟み、改めて私に話しかけた。
「冗談もそこまでいけば、笑えませんよ」
あくまで、少女として。
「貴様……ソルとは違う意味で腹の立つ奴だな」
「は?」
「まぁいい。これからのことだが、今は考えなくていい。麻帆良学園に帰ってから本格的にこれからを話し合う」
それだけを伝え、私も外へ出る。
寝る前に少しばかり桜を眺めても罰は当たるまい。
が、それもすぐに興醒める。苛立ちを前面に押し出したソルが、その奥からのそりと顔を出したからだ。
わざわざお前の顔を見るために外に顔を出したわけではないんだがな……。
「ふん……? 桜咲刹那か……」
ソルの苛立ちの原因を予想してみる。
と、いうよりも、苛立つ原因になりえるのは今現在、桜咲刹那ぐらいだろう。
ソルはそのままどこかに行ってしまい、話も聞けなくなってしまった。どうせ話すつもりなどないのだろうが。
「……少し、出ます」
「あ、おいちょっと待て!?」
制止も聞かず、ぼうやは森の中へ入って行った。
正義感だけが先走ってしまう典型的な偽善者か……。まぁ、実力がある分ぼーやよりかはマシだろうけどな。
面倒になってきた。
「寝る」
敷かれていた布団に身をうずめる。
隣にはメイという少女と、ディズィーという異形の子。
そんなことを考えるのも面倒になって、とにかく今は眠りたかった。
track:24 end
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
B.A.C.K Act:4-2
ヴィータ副隊長と別れて、アタシ達は地上本部へ入っていく。
目指すのは地下通路のロータリーホール。合流するような事態になったときは、ここでという話だった。
遠いわけじゃない。けど、油断はしちゃいけない。今、アタシ達が潰されてしまえば最大戦力足りえる隊長たちにデバイスが渡らなくなってしまう。
なんとしても、届けなくちゃ……!
「スバル、先行して走って。少し離れてエリオ、キャロが並んで、一番後ろにアタシが走る」
『了解!』
「スバルはしっかり索敵。フォローはアタシ達にまかせて」
「わかった!」
フォーメーションを指示してから目的地へ。
内部は静かだ。たぶん、地上本部のシールドのおかげだろう。でも、少なくとも敵が入り込んでいる筈。だって、相手はあのガジェットだ。固まればシールドは弱まるし、入ろうと思えば入ることだって出来る筈だ。
そして、なによりこの大襲撃。
ガジェットだけな筈がない。今まではこうした組織で攻めてくることはなかったところを見ると、今回に限っては指揮官がいると見ていい。
「! マッハキャリバー!」
《Protection》
スバルが防御魔法を展開する。それと同時、射撃魔法らしき魔力弾が当たり、弾ける。
音は聞こえる、けど、どこから……!?
「くあぁッ!?」
「スバル!」
しっかり防御はしたみたいだけど、壁に当たったのがキツかったのか、結構ダメージがあるみたいだ。
フォローしなきゃ…………!?
「……く」
大量の魔力弾がアタシ達三人の周囲に配置される。
これじゃ、フォローも出来ないじゃない。してやられた。
「ノーヴェ、作業内容忘れてないっすか?」
「うるっせーよ。忘れてねー」
「捕獲対象3名……全部生かしたまま持って帰るんすよ?」
捕獲対象、3名?
誰のことだろうか。いや、もしかして――――
「旧式とはいえ、タイプゼロがこれくらいで潰れるかよ」
「戦闘、機人……」
やっぱり、この子たちがそうなんだ。
だとしたら、スバルのことをタイプゼロと呼んだということは、捕獲対象のうちふたりがわかった。
スバルとギンガさんだ。
じゃあ……もうひとりは?
いや、今は考えなくていい。
今はデバイスを届けることを考えるんだ。だから、この包囲網を突破することを考えろ。
状況確認。
敵、戦闘機人2名。ガジェット数機。
味方、スバルが軽傷。戦闘行為に支障はない。アタシ達は魔力弾に包囲されていて身動きが取れない。
少しは当たるのを覚悟しといたがいいだろう。
「く」
それにしても不利だ。
撤退まで持っていくにはどうすればいい。
「ははぁん? どうやったら“勝てる”とか考えてるっすね~?」
「…………ち」
自然に舌打ちが出来ただろうか。
相手はまだ“戦闘”するものだと思っているらしい。好都合だ。そうしてくれた方が“逃げ”やすい。
「無駄っすよ、無駄無駄。私達には絶対に勝てないっすよ~」
どうやら、だいぶ油断もしてくれているようで助かる。
戦闘機人全員がこうだとは考えないけど、この子はどうやらそういう性格らしい。
なんとか、突破する。
「ウェンディ、さっさと片付けてチンク姉あたりを手伝いに行こうぜ」
「そっすねー。じゃ、さっそく~」
「散開!!」
フィールド系統の防御魔法を全開にして、弾幕に飛び込む。
数発が掠ったものの、大したダメージにはなっていない。各人はそれぞれの役割をこなし始める。
キャロはアタシについて、エリオはかく乱に。スバルは赤い子の相手をし出す。
それでいい。
――クロスミラージュ、よろしくね。
――《Yes,sir》
まずは、アタシとキャロだけの幻影を創り出す。
それをアタシたちのフリをさせて、アタシたちはまず落ち着いて幻影群を展開できる状況へ。
「キャロ、ケリュケイオン、がんばってね」
「はい!」
《All right》
ブーストアップ・エナジーパワー。
ケリュケイオンからの補助を受けて、アタシとクロスミラージュが全力で幻影を創り出す。
あとは、タイミングと逃げる隙を作り出すだけ。エリオと、スバルのコンビネーション。
《The load by the silhouette control increases(幻影制御、負荷増大)》
《The limit of the energy boost is near(エナジーブースト、リミット間近です)》
「あと、もうちょっと……」
スバルが赤い子を幻影に紛れて吹き飛ばした。
続いて、間を開けずにエリオがガジェットごともうひとりの方も吹き飛ばす。
今――――!!
「撤退ぃぃ――――!!」
幻影群と共に散開。本体はロータリーホールへ一直線。
なんとけ撒けた。
しばらくは全力で、早々切れることもない息を切らし切らしで走り続ける。
完全に追跡を振り切っても、足を止めない。
出来るだけ早く、隊長たちと合流しないと……!!
見えてきた。
なのはさんと、フェイト隊長と、あれはシスター・シャッハ?
「お待たせしました」
「お届けです!」
無事に隊長たちのデバイスを届けることが出来た。
これでひとつ片付いたわね。さて、次は……と。
「ギン姉……、ギン姉!?」
どうやらスバルはスバルでギンガさんの安否確認をしたみたいだけど、雲行きが怪しい。
「スバル……?」
「ギン姉と通信が繋がらないんです!」
そうだ、報告もしておこう。
ギンガさんの事も気になるけど、きっと戦闘機人がらみに決まってる。
「戦闘機人2名と交戦しました。たぶん、表にはもっといる筈ですから……」
「ギン姉、まさかあいつらと……?」
スバルの考えていることでほぼ間違いはないと思う。
通信に回す余裕もないくらいに切羽詰まってるのか、それとももう……。
縁起でもない。止めよう。ギンガさんはきっと大丈夫だ。
「ロングアーチ、こちらライトニング01」
『――……ライトニング01!? こちら、ロングアーチ』
透き通った聞き取りやすい通信ではなく、ザリザリと雑音がし、酷く聞き取りにくい。
「グリフィス……!? どうしたの、通信が……」
『こちらは今、ガジェットとアンノウンの襲撃を受けて……持ち堪えていますが……もう!!』
ここにいる全員が息をのむ。
まさか六課まで……? 敵の狙いは、一体何なんだ、『レリック』?
「分散しよう。スターズはギンガの安否確認と襲撃戦力の排除」
「ライトニングは、六課に戻る」
『はい!!』
ということは、アタシ達はこのまま地上本部に残って、ギンガさんのシグナルが途絶えた場所に向かって、安否確認後に外へ出てガジェットを壊していく。
ライトニングの方はチビ竜がいる分足が速い。六課に戻るには、ライトニングの方が好都合だ。
さぁ、もう一仕事……行ってみますか!!
* * * * *
機動六課、その司令部ロングアーチに新たなアラートが明滅する。
「そんな……高エネルギー反応2体、高速で飛来!」
「こっちにむかってます!!」
管制官であるシャーリーとアルトが、副司令のグリフィスに報告。
その報告を苦い顔をしながらも、グリフィスは冷静に指示を出していく。
「待機部隊、迎撃用意。近隣部隊に応援要請!」
「はい!」
ルキノが返事し、応援要請と待機部隊にスクランブル要請を発令する。
「総員、最大警戒態勢!!」
次々に指示が飛び交い、慌ただしく六課局員が総出で走る。
ここを守らなければ、グリフィスはそればかりを考えていた。ただ、それは盲目的な使命感ではない。どうすれば耐え切ることが出来るか、隊員を無事に守り切れるか。司令部を任された身として、ここを落とされるわけにはいかなかった。
「……シャマルさんとザフィーラに通達。迎撃部隊に加わって貰ってくれ!!」
「すでに外に出て待機部隊と連携を取り始めています!」
「はは、やっぱり頼もしい」
当のシャマルは待機部隊に指示を飛ばしていた。
ヴォルケンリッターの作戦参謀として生きてきた彼女にとって、それは簡単なことだった。
「敵は正面、数も少ないです。基本の密集陣形を取って、両翼に2小隊ずつ、挟撃部隊として配置!」
『了解!!』
「ザフィーラ、貴方は最前列で敵を抑えて頂戴」
「だが、お前が……」
その指示に対して、ザフィーラはがら空きになるシャマルの身を案じた。
しかし、その心配を余所に、シャマルは笑って答えた。
「大丈夫、私だってヴォルケンリッターのひとりよ」
その一言で、ザフィーラは何も言わなくなった。
ただその言葉を信じ、前に出た。最前線で後ろを守る。そのためには、敵を早々に撃ち落とす事が条件として必要不可欠。
しかし、盾としての自分に、一撃必殺の攻撃は少ない。
故に、彼は自らの護りを捨てた。味方を守るために拳を顕す。
蒼き狼の姿は、前に出るたびに人としてのカタチと取っていた。
打ち合わせる拳に乗せるのは、一発の震撃。
「盾の守護獣、ザフィーラ……推して参る」
敵が射程圏内に入った。
「射撃手、てぇ――――ッ!!」
シャマルの合図で、迎撃部隊の射撃魔法が針山のように弾幕を張った。
しかし、それが防がれた。ライトグリーンの盾によって。
「――――ッな!?」
「嘘だろ、なんだ、あの防御魔法!!」
「撃て撃て、撃ち続けろ!!」
「砲撃手、まだ撃つなよッ!!」
隊員はそれぞれで指示を出し合い、士気を高め合う。
徐々に近づく緑の壁が、砲撃の最適距離に入る。
「砲撃手、てぇ――――ッ!!」
射撃魔法の合間を縫って、各人の魔力光で彩られた砲撃魔法が虹のように壁に伸びていく。
射撃魔法で削られていた壁は、砲撃で完璧に崩れ去る。爆煙を払い貫くように続く射撃と砲撃。
「下です、気にせず弾幕射角下げ!!」
煙の中から急降下し、敵が弾幕を掻い潜って接近する影がひとつ。
弾幕の密度は下がるが、下と上とに弾幕を広げ、迎撃を続ける。しかし、それをザフィーラが止めた。
「シャマル、弾幕を上に集中させろ! 下は私が討つ!!」
「ザフィーラッ!? くぅ……射角上げ、上に弾幕を集中させて!!」
ザフィーラが奔った。
獣じみた瞬鞭さで、力強く驀進、接敵する。
「でぁぁぁああああッ!!」
「っく!」
拳と光刃がぶつかり合う。
「でぇおらぁあああッ!!」
牽制に出した左腕ではなく、縮め、力を込めた右腕を『鋼の軛』と同時に撃ち出す。
ほぼ同時に拳と軛が直撃。
「だ……くッ!」
大きく弾幕の向こうに吹き飛ばす。
これで、一撃必殺のタイミングを創る。
「シャマル!」
「了解よ」
ザフィーラが合図を出すと、シャマルがそれに答える。
彼女は念話で挟撃部隊に連絡を取り、次に攻めてくるタイミングで、ザフィーラの合図で決めるように伝えた。
そうすれば、あとはガジェットの殲滅を残すのみ。
「来い、戦闘機人……!!」
ベルカ式魔法陣を展開、軛を突出。
こちらに向かうように道を造り上げる。
「っ!!」
弾幕を掻い潜りながらも、ザフィーラに猛進してくる戦闘機人。
両手に光る光刃が、振り上げられる。
「でぃいいいいやっ!!」
先程と同じように、ザフィーラは腕を振り抜く。
ぶつかり合う拳と光刃。今度は若干の競り合いが続き、しかし結果は変わらず戦闘機人の方が吹き飛ばされる。
しかし、その吹き飛び切る前にザフィーラは――――
「でぇやっ!!」
吹き飛ぶ直線上に軛を生やす。
「……っぐ!?」
背中から強く軛に打ち付けらた。
「今だ、挟撃開始ィ!!」
ザフィーラの合図で、潜んでいた挟撃部隊が顔を出す。
一斉掃射。射撃と砲撃の嵐が戦闘機人を襲う。しかし……
「IS発動……ツインブレイズ」
キュン、と光刃が撓る。
射撃魔法にのみ集中して撃ち落とし、刃の鞭が挟撃部隊に襲いかかる。
同時、砲撃が着弾。
「く……どうなった!?」
「こうなります」
「しま――――ッ!?」
ザフィーラが後ろを取られる。
ツインブレイズ……。戦闘機人・ディードの持つ双剣であり、インヒューレントスキルの名称。
瞬間機動による視覚奪取と、固有武装の威力増幅。一撃必殺を狙う瞬殺技能。
「ぐぁぁああああッ!?」
ザフィーラが吹き飛ばされる。
それが六課隊員の動揺を生んだ。数瞬途切れる弾幕。
そして――――
「IS発動、レイストーム!」
新緑の閃光群。
しかし、シャマルはこの反撃に反応できない。
迎撃部隊が目の前で薙ぎ払われ、六課隊舎前が瓦礫に変わっていく。
「きゃああああああああっ!!」
「ぐああああっ!!」「うあああっ」
「ぎゃあっ!?」「があああああああああああッ!?」
次々と薙ぎ払われては立ち続ける人影がなくなっていく。
終わらない蹂躙劇。降り注ぐ閃光。
「クラールヴィント!」
《Ja!》
遅れて幾枚ものバリアを展開。降り注ぐ閃光を遮る。
ビリビリと震える盾を精一杯に支える。
猛攻が終わってみれば、立っているのはシャマルとザフィーラのふたりのみだった。
周囲は降り注いだ閃光によって火の海に、ガラガラと崩れ墜ちる音は六課隊舎から。
司令部では、その光景をただ見ているだけしか出来ない。
隊舎は今、電源は完全に落ち、心許ない予備電源で動いている。
『ロングアーチ、こちらライトニング01』
ざざざ、とジャミングが入りながらも、フェイトからの通信が繋がる。
「――……ライトニング01!? こちら、ロングアーチ」
『グリフィス……!? どうしたの、通信が……』
「こちらは今、ガジェットとアンノウンの襲撃を受けて……持ち堪えていますが……もう!!」
そのままの流れで、ライトニングがこちらの救援としてこちらに来るらしい。
グリフィスは、だが安心しない。時間が圧倒的に足りていない。
時間が、ない。
「ロングアーチスタッフ、よくやってくれた。逃げてくれ」
「そんな、グリフィスくん!?」
「馬鹿言わないでよ!」
「……わかってくれ、僕にはもう……これくらいしかやれることがない。君たちを逃がすことくらいしかないんだ……!」
グリフィスの膝が折れる。
椅子に手をかけ、かろうじて踏み止まった姿は、とても情けなかった。
情けないとしか感じられないほど、彼は自分の無力さに負けそうになっていた。
もう打つ手はない。蹂躙されるのを待つのみだ、と。そこまで考えて、ふとはやての顔が浮かんだ。
――――まだ、出してない手がある。
「…………いや、まだある……あるじゃないか!!」
伏せたまま、彼は叫んだ。
ただ一つ残った、起死回生の一手がまだあった、と。
「シャーリー、まだ持ってるか、“鍵”を」
「か、ぎ……?」
「ユークリッド隊長が、彼が残したものがある!!」
「あ――――!!」
シャーリーは急いでポケットというポケットを探り始める。
胸ポケットに、それはあった。
小さな、小指にも満たない大きさのそれは、しかし今彼らの目には希望の全てだった。
「ユークリッド隊長の執務室……そのカプセルの中身」
シャーリーがその鍵を持って立ち上がる。
「シャーリー、危険だ! 僕が行く!」
「ううん、グリフィスはここにいて。指揮官でしょ? それに、この鍵は八神部隊長でも、グリフィスにでもない、私に渡された意味がきっとあると思うから」
笑顔だけを置いて、シャーリーは管制室から飛び出した。
外はすでに火の海。いつ崩れ落ちてくるかも分からない道を、彼女は進んで行った。
「……状況報告!」
「あ、え?」
「早く! 切り札を切ることができても、役に立たないんじゃ意味がない。状況をまとめるだけまとめるんだ!!」
グリフィスの檄で隊員が持ち場に戻った。
まとめ上がられていく状況の中で、ひとつ。
「――――馬鹿な……魔力反応オーバーSランク……!?」
それは先程の航空戦力ではなかった。
なぜそれがわかるのか……それは“召喚”反応に類似していたからだ。
召喚されたモノのサイズは超弩級。次元航行艦にも近しいサイズ。
「竜種……だって……!?」
絶望への扉は、まだ開いたばかりだった。
* * * * *
「航空戦力推定オーバーSランクが、こちらにむかって進攻中!!」
そう言ったのは誰だったか。
会議室全体に響き渡る声で、しっかりと情報伝達をしてくれた。
シスター・シャッハが届けてくれたレヴァンティンを握りしめ、主を向き直った。
「主はやて……私が行きます」
「うん、わかった。気ぃつけてな、シグナム」
「承知しております」
勇士が開けてくれた扉から室外へ、今は動いていないエレベーターの縦穴から飛び降り、一気に最下層へ。
騎士服を纏う。ホールの中を全速で駆け抜け、外へ飛び出す。
「近いな……もう目の前にいる」
上空へ上がる前に空を見上げると、肉眼でも見えるような位置に例の航空戦力がいた。
一直線に地上本部へ向かっているところを見ると、敵の別動隊か。
「行くぞ!」
上昇。
そして
「そこまでだッ!!」
「ぬぅっ!?」
一閃。搗ち合う。
討ち取る気はなかったとはいえ、今の奇襲を防ぎ切るか。
さすが、オーバーSと言ったところか。
「これ以上先には行かせんッ!」
「み、ミーア!?」
「?」
あれは、確かヴィータたちが言っていた融合騎か。
あの融合騎は私と誰とを間違っているんだ? ……いや、ミーア?
どこかで聞いた名だが、どこだったか。
「本局機動六課、ライトニング分隊副隊長……シグナムだ」
「……ゼストだ」
「……ゼスト?」
こちらの方が聞き覚えがある。
くそ、最近の頭痛のせいでイマイチよく思いだせない。
……だが、今は唯目の前の敵を斬り伏せるのみだ。これ以上本部に近づけさせるわけにはいかない。
「でぁッ!」
「っく……!」
距離を離す。この距離に縛り付ける!!
「レヴァンティン!!」
《Schlange form!》
鞘に魔剣を納める。
カートリッジが一発炸裂し、刃に乗せ、魔力が奔る。
「シュランゲバイゼン!!」
剣壁を展開。
流れる鞭のような連結刃を奮い、前に進ませない。
「おおおおおッ!!」
さらにカートリッジをもう一発ロード。
猛る炎熱が刃に宿る。
《Schlangebeißen angriff!!》
加速していく瞬鞭剣。
刃だけではなく、今やその壁は烈火の如く。
「ぬぅうぅうっ!!」
「旦那ァッ、もういいだろ!? なんでユニゾンさせてくれねえんだ!!」
融合騎を守るように、その剣戟を一身に受け続ける。
なぜだ、なぜユニゾンしない?
融合騎自身もそれを望んでいるというのに……。
「お前は、お前にはロードが、立派なロードがいると言うのに……俺如きがそう易々とユニゾンしていいものではない!!」
「馬鹿野郎ッ! それじゃあ、それじゃアタシが旦那を守れねえじゃんかよォッ!!」
「…………レヴァンティン」
《Schwert form》
攻撃を止める。
レヴァンティンを鞘に納め、その場に佇んだ。
向こうは不思議がっているようだが、こちらからすればそちらの方がよっぽど不思議だ。
「……ゼスト、と言ったな。何のために地上本部へ行く?」
「聞いて、どうにか出来るとでも言うのか? ふ、若いな」
「いや、目の前の敵はただ斬り伏せるのみ。これは、貴方が本当に私の敵かどうかを知るために訊いている」
「それが若いというのだ!!」
《Grenzpunk t f r e i――――》
――――――ィィィイイイン!!
頭をこめかみから横一線に貫かれたような痛み。
視界が拡張され、“背中”が見えた。空気の動きすら読むことの出来るほどの触覚。
全てがゆったりと流れていく。ゼストの槍から聞こえる声は、一音一音がはっきりと聞いて取れる。逆に訛りが酷いようにも聞こえてしまうほどに。
ドラッヘン・ズィン。竜の感覚。
「 レ ヴ ァ ン テ ィ ン ! ! 」
自らの声すらもゆったりと聞こえる中で、私は駆けた。
レヴァンティンを抜き、ゼストに接近する。
《 l a s …………》
《 E x p ――――》
レヴァンティンのカートリッジロードはまだ始まっていない。対して、ゼストの槍のフルドライブはほぼ完成されている。
だが、今なら止められる……!!
「 あ ッ ! ! 」
「 な ―――― ! ? 」
《 ―――― s e n ! ! 》
《 l o s …………》
槍を叩き落とす。
フルドライブの運動量は拡散し、ゼストの体が大きく開く。
「 し で ん い っ せ ん ! ! 」
鞘に魔剣を再び納める。
それとほぼ同時、レヴァンティンのロードが始まった。
《 ………… i o n ! 》
魔力が収縮され、刃に宿る。
赤い閃光がなびいたと思った時には、すでに振り抜いた後だった。
どろり、と視界が赤に染まる。非殺傷設定は解いていない筈だ。現にゼストの体からは血が出ていない。
私の脳がオーバーロードし、体が悲鳴を上げている。その反動としての血涙だった。
「ごふっ!!」
感覚が通常のものに戻った。途端に襲う倦怠感と全身の筋肉の悲鳴。骨が軋み、どうやら右腕のどこかにひびが入ったらしい。
内臓のどこかにも異常が見られる……。
「ぐ、お……!」
ゼストの体が揺らぐ。
融合騎がそれを支え、こちらを睨んだ。
「てめえ!!」
「アギト……いい。どうやら、中で動いていた、Sランク魔導師も、そろそろ、上がってくる、ようだ……。撤退する」
そう言い残し、ゼストはアギトを抱えたまま飛び去って行った。
体の倦怠感はだいぶマシになった。魔力の消費もほとんどない。いつも通りだ。しかし、右腕がキツイな。
右腕を軽く振ってみても、激痛が走る。本格的にひびが入ってしまったようだ。これだと完治にはあと数日かかるだろうか。
「ち」
血涙をぬぐい、この先で感じる戦闘の気配の元へ向かう。
これは……ヴィータか。
――ヴィータ、無事か?
――っ、シグナム!!
どうやら切羽詰まっているらしい。彼女の声がそれを雄弁に語っている。
出来るだけ簡潔に、戦闘の邪魔にならないように報告する。
――こちらで戦闘していた相手は撤退した。そちらはどうだ。
――あぁ、絶賛ギガピンチだぜ。リィンも、アイゼンも……潰されちまった。
――なに……?
信じ難い。
いくらリミッター付きだからと言って、そこまで派手にやられるものか。
ましたや、ヴィータとグラーフアイゼン、そしてリィンが?
――相手は、ミルヒアイスだ。お前が見たらきっと驚くぜ。
ミルヒアイスだと……!?
……っ、そうか、ミーア。あの融合騎が口走った名前は、ミルヒアイスの愛称。
ということは、あの融合騎のロードと言うのは……。
「くそっ」
急ぐ。
フィールド系の防御魔法を展開し、空気抵抗を限りなく削っていく。
間に合ってくれ、どうか無事でいてくれよ、ヴィータ……!
しかし、着いてみればミルヒアイスの姿はなく、ただ泣きじゃくるヴィータがいるだけだった。
「シグナム……、シグナムッ! リィンが、アイゼンが……ぁ!!」
「ヴィータ!」
くそ、ちょっとしたショック状態に陥っているようだ。
ヴィータの手からリィンを受け取り、とにかく止血を優先した。流れ出る血は私達と比べれば微々たるものだが、それでもリィンにしてみれば大量の血液であることには変わりない。
どうやら、傷自体はそれほど深くはなかったみたいだ。しかし、魔力ダメージが酷い。
私の右腕のひびよりも時間がかかりそうだ……。
右腕のこと以外をヴィータに伝えると、ヴィータは私を見上げてなにやら悩む素振りを見せた。
しかしそれもすぐに消え、きりっとした瞳で私を見た。
「シグナム、私からも報告することがある」
「ミルヒアイスのことか」
「そうだ、その……――――」
ミルヒアイスのこと。
そう言おうとしていただろうヴィータの口は、動かなくなってしまった。
瞳孔が開ききっており、何事かと尋ねようとした瞬間。怖気にも似た感覚で魔力を感じ取った。
振り返る。地上本部上空に、巨大な召喚魔法陣。まるで次元航行艦が次元転送をする程のサイズを誇るそれは、しかし味方の増援というわけではなさそうだ。
夜闇を切り裂いて、そこに蒼天が現れたようにも見てとれる。
遠く離れたこの場所からもそれの魔力は感じ取ることが出来る。大気が震えている。
空気中にある魔力素ですら、その魔力に当てられ震えている。
リンカーコアが疼いた。
「なんだ、あれは……!?」
一陣の疾風が戦場を駆けた。
一掃される雲。雷の唸りのような震えは、体の芯にまで届いてくる。
ゆったりと現れるそれは、見紛うことなく竜種。
それもフリードや、キャロのもう一騎の竜とは比べ物にならない大きさ。
中型次元航行艦並みの、超弩級の竜種。
「くそ……どうしろってんだ、あんな奴……!!」
「いや……現実問題、あれをどうにかしなければ管理局はここで終わる。そしてミッドチルダさえ、な」
あれが騎士カリムの予言にあった“帝の翼”なのだろうか。
そうじゃなくてもいい。今は……アレを討つことを考えろ。
「くそ……」
ヴィータが吐き捨てるように言う。
拳は握り締められ、若干の血が滲んでいる。
「今はその無念、押し留めておけヴィータ。まだ私達には次がある。いや、次を創らねばなるまい」
この命に賭けても。
今この右腕で接近するのはただの馬鹿のすることだ。
だとしたら、何が出来るだろう……。レヴァンティンを鞘に納め、懐からカートリッジを取り出す。
掌で転がしながら、その数を数える。
「おい、シグナム……! てめえ、死ぬつもりじゃねえだろうな!?」
まさか。
そんなことをすれば主が悲しむだけだ。
「カートリッジは15発。ふ、十分だ。なぁヴィータ?」
「答えろ、シグナム!!」
ヴィータ自身も分かっていることだろうに。
自分自身でも確認するように、私はゆっくり語った。
「…………死ぬつもりは毛頭ない。だが覚えておけヴィータ。いや、今一度刻んでおけヴィータ。我ら叢雲の騎士、その名の通り、掴んでは霞める雲のような存在だ。その意味を覚えているな?」
「無限再生能力のこと言ってんだったら、それこそそんな考え今すぐその頭ン中から叩き出してやる!! はやてはどうすんだ、はやてと一緒に生きてくんだろ!?」
わかっている。
それくらいわかっているんだ。
主はやてと共にこの一生を費やし終える。無限に続いた、我らヴォルケンリッターの終止符。
それは、やはり主とともに迎えたい。
「……シグナム」
「生きて帰る。言っただろう、ヴィータ。死ぬつもりは毛頭ない」
嘘はなかった。
その言葉に嘘偽りを含めた覚えはない。
主はやてと共に生きていく。最低、主の子の顔くらいは見たいとも思っている。
それも、もしかすればあと数年で迎えられるかもしれんがな。
竜種が動き始めた。
もう、問答をしている時間はない。本格的に動き始める前に、仕留める。
先程は、死ぬつもりなどないと言った。
だが、時には命を燃やさねばならぬ時がある。
それは、
「だがな、ヴィータ。こうも言っておこう。死力を尽くさねば、あの竜を討てない」
――――今だ。
レヴァンティンをゆっくりと抜き放つ。
これを撃つのは、いつ以来だったか。
《Bogen form!》
フルドライブ、ボーゲンフォルム。
リミッターが解除されていない今、これを為すためには大量の魔力が必要だ。
レヴァンティンに装填したカートリッジを全弾ロード。溢れ返った魔力は、レヴァンティンを震わせた。
その震えを帯びたままで、レヴァンティンは剣から弓矢へ姿を変える。
飛び立つ翼は我が刃。
如何に頑強な壁さえも、この翼の前に崩れ去る。
小さき者こそが、大なる者を崩す力を宿すのだ。
「撃ち貫く……翔けろ隼!!」
《Sturm falken!!》
初速ですでに音速を超えて飛び立つ。
高速で移動している的でもない限り、この隼から逃れる者はいない。
それが巨大な竜であれば……当てることなど容易い。
直撃。
3、4kmという距離を数秒で翔け抜け、竜種の喉元に直撃する。
私の魔力の大部分を込めて撃った矢だ。例えリミッターという枷があったとしても、十分すぎる威力を持っている。
だが先に言った通り、魔力の大部分を使っている。加えて右腕。今の一撃でひびが広がったようだ。じくじくと痛む。
だが、ここで止めるわけにはいかない。竜種はまだ、健在。
「もう一発だ……!」
「無茶すんな!」
「言っただろう、死力を尽くさねば、この戦いに勝利はない……!」
《Explosion!》
カートリッジを装填し、装填した端からロード。
レヴァンティンは唸りを上げ、刃が鳴動する。
すまない、お前にも無茶をさせるな……。だが、耐えてくれ。
竜が、のそりとこちらを向いた。
遅いぞ、のろまめ!
「その巨体だ、避けられまい……!!」
《Sturm falken!!》
第二射が飛び立つ。
闇を引き裂き、私の魔力光である赤い閃光を引いて飛ぶ。
数秒後、直撃――――
「嘘だ」
する筈だった。
狙いは大きく外れており、そのまま地上本部のシールドにぶち当たる。
竜の背後で爆炎があがり、唯でさえ黒い色の竜が、さらに濃く影となる。
「ぐ、あっ!?」
右腕に劇痛。
気が狂いそうなほど、それは全身を固めた。
「シグナム、お前まさか……!」
「気にするな……高々骨の一本や二本、くれてやる」
「馬鹿野郎! 外すなんておかしいと思ったぜ、やっぱりそういうことかよ!」
やけに右腕が熱い。
骨が貫通しているわけではなさそうだ、それにまだ折れてなどいない。
だが、このままではまた外してしまうか。
「シグナム……? お前なにやってんだ……撤退するぞ、おい!?」
「まだ……右腕がなくとも、カートリッジも、口もある!」
「ば、馬鹿言ってんじゃねー!!」
矢を口で挟む。
左腕で弓を口の高さに合わせ、矢を当て、口で引く。
「ぐ、ぎ……っ」
「シグナム……!!」
諦めて堪るか……。
ここで諦めては、何もかもが繋がらなくなる。
行け、隼……!!
《Sturm falken!!》
――――びちぃッ!
「あッ!?」
今度はとんでもない方向へ矢が飛んで行った。
あさっての方向もいいところで、今度は着弾しても爆発すらしなかった。
「おい、シグナム……もうやめてくれ……!」
「ま、まだ、だ。まだ、撃てる……!」
「今度は足か!? お前、口がどうなってるか分かってんのか!?」
分かっているとも。
無茶な魔力行使と、柔らかい口の部分という事象が重なって、弾けた魔力で口が切れた。
非殺傷設定を解いていたことも災いしたか。
「…………おい、冗談よせよ。逃げるぞシグナム……あれはやべぇ!!」
竜の口元にスフィアが形成されていた。
蒼い蒼い、空を圧し固めたようなスフィアだった。
竜の砲撃。もちろん、竜に非殺傷設定などある筈もなく、またその威力が人すら及ばぬ艦隊砲撃並みであることは周知の事実だ。
それが、こちらに向けられている。
撃滅。それが一番もっともらしい言い表し方だろう。
私達は、あの竜に撃滅される。
「逃げるぞ、おい早く!!」
「これでも、全力で飛んでいるっ!!」
「くっそ、掴まれ馬鹿!!」
ぐいっとヴィータに引っ掴まれ、加速する。
それでも、あの大きさの砲撃を避けきれるものだろうか……?
奇跡とやらに、賭けてみたい。
「来る……!!」
竜の口元が大きく光った。
この後、訪れる殲滅の光の始まり。
「え?」
――――の筈だった。
砲撃は逸れ、天空を焼いた。遥か上空で輝く魔力爆発。次元航行艦ですら一撃で墜とされそうな、そんな砲撃だった。
そんな砲撃が、逸れたのだ。
「な、何が起こった……?」
竜に背を見せながらの飛行だったので、何が起こったかがよく分からない。
その疑問も、すぐに解決した。
蒼い閃光。それが飛来し、竜の頭を確実に撃っている。
竜の足下、地上本部の警備隊からの砲撃かと思えば、それよりも遥か遠く、遠すぎて地平線から飛んでくるようにも見える。
次々に飛来する閃光群は、一発足りとも竜を外さない。この魔法を、私は見たことがある。いや、ヴォルケンリッターは、見たことがある。
「弾道、射撃魔法……」
弾道射撃魔法。
スーパーソニックで飛来する、弾道角を用いた超長距離射撃魔法である。使用する術者の練度によってはその速度がハイパーソニックに到達する場合もある。今回のそれは、ハイパーソニックだ。
質量兵器としては、ライフル弾が初速マッハ3と言われているが、その遥か先を行く極超音速の射撃魔法。
蹂躙魔法とまで言われた、古代ベルカの戦略魔法のひとつだ。
「嘘だろ。おい、シグナム……飛んできてる方角、あれって六課の方じゃねえのか?」
「……まさか、六課からここにいる竜に当てているというのか……?」
「弾道射撃なら無理な距離じゃねえ。いや、まだ短い射程なぶん、当てるのは難しいぜ?」
「…………誰だ……誰がこれを放っている……?」
連絡しようにも、六課と通信が繋がらない。
まさか、まさかとは思うのだが……
「まさか、ユーリか……?」
「ユークリッドだぁ!? 無茶言いやがる、アイツの魔力量知ってるだろ!? とても撃てるような代物じゃねえよ」
「だが、他に誰がいる?」
「だ、だけどよぉ……」
その間にも竜へ雨のように閃光が命中していく。
キラ、と魔力光が見えたと思えば、その時にはもう当たっている。
雨は、まだ止みそうもなかった。
Act:4-2 end
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
本格的に忙しくなる一週間前。あとWeb拍手レス。
ども、草之です。
来週から結構な忙しさとなり、というか6月が忙しいんですけどね。
6月は不定期になってしまうかもしれません。一応、更新予告はしますが、週二更新すら危ぶまれます。
いきなりこうなるよりも、前もって連絡しておいた方がいいかな、と思ったので、連絡させてもらいましたが、なにとぞご容赦を。
最近は暑くなったり寒く(涼しく?)なったりと温度差が激しく、トンフルでなくとも風邪をもらってしまうかもしれない感じです。
皆様も、どうか体調を崩されぬようお気を付け下さいね。
では、更新予告です。
『優星』を金曜日に更新。
『背炎』を来週頭に更新。
あくまで予定ですので、遅れる場合もあります。
あしからず、ご了承ください。
では、追記から拍手レスです。
以上、草之でした。
来週から結構な忙しさとなり、というか6月が忙しいんですけどね。
6月は不定期になってしまうかもしれません。一応、更新予告はしますが、週二更新すら危ぶまれます。
いきなりこうなるよりも、前もって連絡しておいた方がいいかな、と思ったので、連絡させてもらいましたが、なにとぞご容赦を。
最近は暑くなったり寒く(涼しく?)なったりと温度差が激しく、トンフルでなくとも風邪をもらってしまうかもしれない感じです。
皆様も、どうか体調を崩されぬようお気を付け下さいね。
では、更新予告です。
『優星』を金曜日に更新。
『背炎』を来週頭に更新。
あくまで予定ですので、遅れる場合もあります。
あしからず、ご了承ください。
では、追記から拍手レスです。
以上、草之でした。
しばしお待ちを。
ども、草之です。
どうやら今日中の『優星』更新が難しいそうです。
早くても金曜から土曜の夜中。遅いと日曜日にまでもつれ込みます。
いきなりこんな話題で本当に申し訳ないです。
ということは、『背炎』も当然遅れてしまうわけで……。
本当にすいません。
さて、いつの間にやら19万ヒットという王手。
お礼SSを書こうかなぁ、とは思っていますが、公開できるのは早くて23、4万あたりでしょうか(何
一応、20万を踏んだ人がいたら、どういうのを書いてほしいみたいなリクエストを受け付けます。
無理な場合、無理とはっきり断ります。その場合はまた違うものがあれば聞きますし。
ちなみに、始めに言っておくと「key作品」「あまんちゅ!」は無理です。どちらも読んだことがありませんし、やったことがありません。あまんちゅ!は単行本で見る、と結構前の、確か連載開始前の日記で書いたはず。
それ以外で、なにかあれば、になります。まだまだ無理なのはいっぱいありますけどね。デモンベインとか、ニトロ系もダメかもしれない。
では、以上草之でした。
どうやら今日中の『優星』更新が難しいそうです。
早くても金曜から土曜の夜中。遅いと日曜日にまでもつれ込みます。
いきなりこんな話題で本当に申し訳ないです。
ということは、『背炎』も当然遅れてしまうわけで……。
本当にすいません。
さて、いつの間にやら19万ヒットという王手。
お礼SSを書こうかなぁ、とは思っていますが、公開できるのは早くて23、4万あたりでしょうか(何
一応、20万を踏んだ人がいたら、どういうのを書いてほしいみたいなリクエストを受け付けます。
無理な場合、無理とはっきり断ります。その場合はまた違うものがあれば聞きますし。
ちなみに、始めに言っておくと「key作品」「あまんちゅ!」は無理です。どちらも読んだことがありませんし、やったことがありません。あまんちゅ!は単行本で見る、と結構前の、確か連載開始前の日記で書いたはず。
それ以外で、なにかあれば、になります。まだまだ無理なのはいっぱいありますけどね。デモンベインとか、ニトロ系もダメかもしれない。
では、以上草之でした。