背徳の炎 track:25
誰にも気がつかれていない。
そう確信して林の中へ歩を進めた筈だった。
いま私の手にあるのは、夕凪一刀のみ。制服を着て、悪いとは思ったが、後の荷物は長の屋敷に置いて行った。
それで、少なくとも時間が稼げるはずだからだ。荷物を置いておけば、お手洗いか、洗面か、と思うだろうしな。
「…………お嬢様」
呟くのは彼女の肩書。
名前など、呼ぶもおこがましい。彼女は私に、業を背負えと言ったが……私は、弱いのです。業など背負える筈もない。
それこそお嬢様の傍でなど、潰れる方が先だ。
「……Dam(ちくしょうめ)」
「っ!?」
低い声が響いた。
ざりざりと腐葉土を踏みながら近づいてくるその姿は、見間違える筈もない。
「What do you do?(何してやがる?)」
これくらいなら、なんとか解るか。
『なにしるんだ』、と言ったところか。
「私の勝手だ」
「Hun……」
鼻で笑い、そのまま振り返って屋敷の方へ帰って行った。日本語が分かるかどうかは定かではないが、雰囲気で感じ取ったのだろう。
随分苛立っていたようだが……当然か。いや、それより昨晩のことで文句を言い忘れたな。無事だったから良かったものの、運が悪ければあれで全員お陀仏になるところだった。
「結果、生きている私は何なのだろうな……」
出来ることならば、あそこで死んでしまいたかったのかもしれない。
背負う業と一緒に、燃えてしまいたかったのかもしれない。忌子としての業すら捨てて、ただ真っ白な灰になる。
そうすれば、体ごと風になって……。
「行くか……」
歩を進める。しかし、妙に歩みが重い。
腐葉土はしっとりと湿り気を帯びており、歩きにくいせいかもしれない。
どれほど歩いていただろうか……、不意に後ろから声がかかった。
「Miss……!(お嬢さん……!)」
「?」
振り返れば、あの白い青年が立っていた。
心配そうにこちらを見、何事かを語りかけようとしている。
「Where do you go?(どこに行かれるのですか?)」
「…………ファー」
遠くへ、と言う意味で放った言葉は、どうやら彼に届いたらしい。
そろそろ気づかれる時間か。もたもたしている暇はない。
「もう、追わないでください。私は……遠くへ行くんです」
ばさり、と翼を広げる。
どこまでも白い、忌子の証。それが背へ現れる翼とは……まるでこれが私自身の業そのものを表しているようではないか。
だが、しかし。
『きれー。なんや、天使みたいやなぁ』
天使。
その言葉が、どうにも頭から離れない。
私は、私は…………思い込もうとしているんだ。たかが家畜になり果てようと、道具のように使い捨てて欲しいと、そう、思い込もうとしているだけなのかもしれない。
だけど、だけど……そうとでも思い込まなければ、化け物の私は耐えられない。
人間である彼女らと私が並ぶには、彼女らは眩し過ぎる。
「セツナちゃんっ」
だと言うのに……。
「刹那さん!!」
声が聞こえた。
「刹那さーんっ!!」
声が、聞こえたんだ。
「せっちゃぁぁああ―――――んッ!!」
声が、聞こえてしまったんだ。
* * * * *
「ダンナ、セツナちゃん見なかった!?」
「あの化け物の子供か。森の中で見た。もうどこかへ行ってしまっただろうよ」
「そっか。ありがと、ダンナ」
「礼を言われる覚えはねえな。それに、あいつを連れ戻す気かどうかは知らんがな……止めておけ。今はまだいいが、いつかあいつは主人を食い殺すことになるぞ」
ダンナが言おうとしてることは分かってるつもりだ。
あの子は、セツナちゃんは、危うい。
「それでも、俺は今は教師なんだよ。だから、行かねえといけないじゃん?」
「ハ。いよいよ脳が蕩けてきたか」
「なんとでも言ってくれていいさ」
ダンナをほったらかして走り出した。
森に入る手前で、ネギたちと合流した。ネギたちは突然いなくなったセツナちゃんを心配して、探していたそうだ。
なぁ、セツナちゃん。本当に、こいつらを切り捨てていくのかよ。
「どうして、お前らはセツナちゃんのところに行くんだよ……? 酷いこと言われただろ、見限られたことだってあるんだろ。それでもなんで、お前らはセツナちゃんを迎えに行くんだ……?」
「そんなの……!」
「決まってます!」
ネギとアスナが答える。それに続くようにして、コノカちゃんが少し怒ったような声音で言った。
「せっちゃんは、ウチらの友達やもん!」
『そういうこと!!』
三人は一気に走るスピードを上げていく。昨日あんなことがあったとは分からないほどのスピードだ。
若さってのはこういうところにも出てくるのねー、なんて言ってる場合じゃないか。
「同感だね、そいつぁさ!」
林の中を全力で駆け抜けていく。
俺が先頭になって走るが、迷う気が全くしない。分かってなのか、それとも気紛れか、ダンナが剣で木に印を付けている。
これを辿れば、ある程度セツナちゃんに追いつける。切れたら、そこからは勘に任せる!!
そう思っていたら、切れるのは意外に早かった。
森に入ってからこっちへまっすぐ走ってきたが、このまままっすぐ行っていいものか。
……いや、まっすぐ行かなきゃいけないね、こりゃあ。
「このまままっすぐだ、もうすぐ追いつくぞ!」
「はいっ」
「りょーかい!」
「わかった!」
足音を聞いて彼女が隠れるともわからない。
だけど、“そんなことを彼女はしない”。なぜかって、まだだ迷ってるからに決まってるだろ。
迷ってないなら、それこそ、昨日みたいなセツナちゃんのままなら、みんなが寝静まった瞬間に出て行くはずなんだ。
出ていくか、出ていかないか、別れるか、別れないか。それをまだ決めかねてるってことじゃないのかよっ。
俺の勝手な解釈だってのは判ってるつもりだ。それでも、そうだって信じてるんだよ。信じるんだよ……!
「見つけたぜぇ!!」
あの大きな翼は目立つ。
ネギたちから聞いた話じゃあ、烏の妖怪とのハーフなんだって?
……へっ、綺麗じゃねえかよ。それが化け物の証だって……?
冗談じゃねえ、その通りだぜ。“化け物”じみた、綺麗さの証だろうがよ……っ!!
「セツナちゃんっ」
「刹那さん!!」
「刹那さーんっ!!」
彼女が振り向く。
驚きで見開かれたその瞳には、一体何が映っているのか……。
考えるまでもねぇ。
仲間ってやつだろ、なぁ、セツナちゃん!
「せっちゃぁぁああ―――――んッ!!」
一段と大きく、コノカちゃんが腹の底から声を出す。
その声に打たれたように、セツナちゃんはよろけた。必死で、涙も堪えているように見える。
「来ぉへんといてっ!!」
返された言葉は、彼女からは聞き慣れない訛りの強い言葉。
言葉通り、俺たちはその場に止まった。ていうか団長さんはなんでここにいるのよ?
「来ぉへんといて……お願いやから」
「せっちゃん、一緒に帰ろっ? また、小さい時みたいに、一緒に遊ぼっ?」
「うるさいわっ!! もう……もう、ウチは、一緒におられへんねん。掟できまっとんねん、正体見られたら、去れって」
「そんな……そんなの悲し過ぎます! 掟がなんだって言うんですか、僕たちは絶対に口に出しません!!」
「そうよっ。班長としても、急に班員がいなくなったら困るんだからね!」
ネギと、アスナちゃんは冗談めかして引きとめる。
しかし、セツナちゃんは頑なにそれを良しとはしない。もう、掟とかそういうのじゃなくて、意地になってるのかもしれない。
別れなくては、と。
「なぁ、セツナちゃん。すぐ行かなかったのは、まだ迷ってるからじゃないのか?」
「迷ってなんかない。ウチはもう、耐えられへん。化け物の自分に、耐えられへん」
「……もう、守ってくれへんの? おらんなるって、そういうことなん?」
コノカちゃんが祈るように、手を合わせてセツナちゃんの方を見た。
願わくば、遠くからでも守ってくれますように、と。
そのコノカちゃんの言葉に、セツナちゃんはこう返した。
「ウチは……もうおっても意味ないから…………。ウチよりもずっとずっと強い、先生やそこの男――ソルやっておる。もう、ウチは用済みやったんやよ、この人らが来てから、ずっと」
曰く、私ではなく彼らに守ってもらえばいいではないか、と。
その言葉を聞いたコノカちゃんの反応は、誰が言うよりも早く、セツナちゃんに届いた。
「せっちゃんの、アホォ―――――――――――ッ!!!」
はぁはぁ、と肩で息をしながら、コノカちゃんが声を荒げる。
普段お淑やかな彼女からは想像も出来ない、怒気の籠った一声だった。
勢いだけはそのままに、コノカちゃんは続ける。
「アホアホアホぉっ!! ずっとウチの事守ってくれてたことも、全部……全部嘘にする気なんかぁっ!?」
「う、嘘もなんもあらへん!! ウチは、ウチはこのちゃんのこと守られへんかったんやもん!!」
「じゃあ、じゃあ今ここにおるウチはなんなん!? 今せっちゃんが言うてるんは、ウチなんかおらへん言うてるのんとおんなじなんやよ!? ウチは、せっちゃんに……ちゃんと守ってもらえてたのに…………な、んで、そんなこと言うんよぉっ!!」
ウチはウチは、ただひたすらにそう言い続ける。
感情は音をたてて流れ出てくる。すべてを出すまでは止まりそうにもない。
「京都の方帰ってきてからな、せっちゃんがずっとウチの周りにおるのん気ぃついててん。でも、やったらなんで一緒にいてくれへんのやろうって、ずっと、麻帆良におるときからずっと思ってた。ずっと、ずっと寂しかった。でも修学旅行で一緒の班になって、気持ち見てくれてる時間が増えた気がしてたんよ。……せっちゃん、自分のこと人とちゃう、いうてたやんか……。うん、翼は人にはついてへんもん。普通やったら、気持ち悪いとか思うかもしれへん! でもな、ウチはそんなん思えへん。思われへん。やってな、人とか人やないとか言う前に、せっちゃんはせっちゃんやもん。人やないとか、全然気になれへん。騙されてたとか、内緒にされてたとか、そんなん全然思えへん。やって、ウチが訊かんかってんもん。騙すとかないやろ? やから、ウチが怒っとるんはそんなちいちゃいことやないねん。せっちゃんがウチの事『守られへんかった』とか『守ってもらえ』とか、そういうのんに腹立ててるんやで? やって、せっちゃんは中学入ったときからずっとウチの事『見守って』くれててんやろ? きっとウチが知らんときでも絶対守ってくれてた。ウチはな、中学で久しぶりにせっちゃんに会って、でも素っ気のうて、でもでも、ホンマは守ってくれててんやって、分かったときホンマに嬉しかったんよ。でも、それでもせっちゃんは『守られへんかった』言うた。違う。ちゃうよ、せっちゃん。そんなん、せっちゃんが決めることとちゃう。ウチが『守ってくれた』っていうたら、せっちゃんがどう思ってても、ウチは『守ってもらえてた』んやよ! ウチは、ウチはな……せっちゃん。せっちゃんらに返されへんくらいの恩と優しさをもらってん。やから、どっかに行くとか、言わんといてよ。ウチに、恩を返させてや。せっちゃん、お礼、言わせてや……!!」
セツナちゃんは、そんな支離滅裂な、怒りにまかせたコノカちゃんの言葉に何を思ったのだろうか。
長い長い、鍔のない刀を抜き放つ。キシン、と空間が軋む。それほどの緊張感を彼女ひとりが放っていた。
「……確かに。私は迷っていた……」
剣先をゆっくりと上げていく。
徐々に徐々に上がっていく剣先は――――
「なら、その迷いごと……ここで断ち切る。迷いは、置いていく!」
ダンナを指し示した。
* * * * *
刹那は、木乃香の問いに答えることなく、ただ剣先をソルに向けた。
ソルは不敵に笑うと、アクセルに通訳を頼んだ。
「……随分賢い奴だな、お前は」
「なに?」
「…………ガキが、めんどくせぇ生き方してんじゃねえ」
その場にいた全員が一歩退いた。
怒気。ただそれだけのプレッシャー。
誰よりも早く態勢を整えたのは刹那だ。夕凪を構え、いつでも飛び出せる用意をする。
まるで目の前に溶岩が流れてくるような威圧感。じりじりと肌を焼き、集中力を溶かしていく。
初めに倒れたのは木乃香だった。明日菜、ネギとそのあとに続いて腰を抜かしていく。
「く」
「迷いを断ち切る? 置いていく……? 出来るのか、お前に」
汗がどっと流れ出る。
ソルの一挙手一投足に、刹那は確実に何かを削られていく。
体力、精神力、集中力、胆力。胃液がさかのぼってきそうなほどのストレス。
「説教か、似合わないな!」
「説教? んなもん受けたけりゃもっとガキしてろ」
刹那が耐えきれず奔った。
足元の腐葉土が土塊となって弾ける。一瞬で縮めた距離はしかし、あまりにも“遠い”距離だった。
隙のない抜きをしたはずだった。刹那が振り抜く夕凪は、ソルの持った封炎剣に遮られた。
「てめえは化け物だ。その事実に変わりはない」
「だからっ、だから、私はァアッ!!」
――――斬空閃!!
零距離で放つ不可避の一撃。ソルはその斬撃を受けながらも、傷は負わない。
フォルトレスディフェンス。完全無欠の防御と銘打たれた法術。
「あの方の傍にはいられない、いちゃいけない!! ――――あんたに、ウチのなにがわかんねんッ!!」
感情の昂り。
地の言葉に戻ってところで、強くなることなどない。
吹っ切れた攻め。慎重な連撃から、大胆な烈撃への変動。折れよとばかりに夕凪が振るわれる。
「そんなに強ぉても、守るもんも何もないあんたにィ……!!」
「黙れ……!!」
夕凪の閃光を無視して、ソルの左腕が刹那の胸倉を掴みあげる。
ソルの二の腕に深々と刀傷が刻まれる。
「あ……ぐっ……!?」
「ガキらしくしとけばいいって言ってんだ。ごちゃごちゃと……」
封炎剣の柄を握る右拳に、目に見えて力が込められる。
その衝撃が刹那を襲うまで数瞬。
「御託はいらねぇっ!!」
「ぎゃっ!?」
ごきん、と殴られたにしては生々しい音が響いた。
頭蓋骨すら砕く勢いで放たれたぶっきらぼうな拳。二転三転と転がる刹那を見て、生きている方が不思議とも言える。
ソルが無言で倒れ伏す刹那に歩み寄る。翼の適当な位置を掴みあげ、さらに放り投げた。今度は森に群生する木々を薙ぎ払いながら、刹那は吹き飛んで行く。それにまたソルが歩み寄り、今度は寝転がる刹那の腹を蹴り上げた。
ぶぎ、となにかが潰れる音がした。
「お、げ……ぇええ……っ」
ほとんどが血で埋められる吐瀉物を吐きながら、刹那は痙攣をおこす。
ソルがまた近づいて行く。しかし――――
「や、やめてぇ……っ!!」
ソルの前に、木乃香が立ち塞がった。
その行動に対しソルはどう思ったのか、封炎剣を地面に突き刺し、“聴き”の態勢に入った。
「せっちゃん、今、治したるから」
アデアット、来れと木乃香は詠うように唱える。ふわりと、花弁のような光が舞い、木乃香の手に双扇一対のアーティファクトが握られた。それらを刹那に向かって扇ぐと、破れていた肌はみるみるうちに閉じていき、壊れていた骨や弾けていた内臓も元へ戻っていく。
ただ、血液だけはどうしようもなく、倒れ伏したまま胡乱な瞳をした刹那が木乃香を見上げた。
「お、じょう……さ、ま」
「アホ。やっぱりせっちゃんはアホやよ」
「ごめ……ん、な」
「…………なぁ、ウチと一緒におったら、せっちゃんは苦しいん?」
「……そんな、こと……ううん、ちょっと、惨めになる、かも」
つぅ、と刹那の頬を涙が伝う。
木乃香はそんな刹那を見下ろしながら、誰もが今まで見たことのない様な、決意が籠った、とでも言うべき瞳になった。
そんな彼女が口にする言葉は――――
「やったら、ウチが惨めになんてさせへん。ウチとおったら、絶対に幸せにしたる。……でもきっと、今のウチにはわからへんことやっていっぱいあるんやと思う」
木乃香が刹那の頬の涙をぬぐう。
刹那は黙って木乃香の言葉を待った。
「でも、そんなん関係あらへん。せっちゃんはせっちゃんやもん! 言うたやろ、気になれへんし、騙されてたとかも全然思ってへん」
「おじょう、さま」
「あん、お嬢様言うたらアカン〜。昔みたいに“このちゃん”言うて〜」
――――木乃香は言う。
私と一緒にいて欲しい。
私と一緒に幸せになろう。
嘘の混じらない言葉に、刹那は本当に迷い始めていた。
別れるか否かではなく、私と一緒にいて木乃香が幸せになれるかどうかをだ。
「……あー。その顔はあれやな、私といても幸せになんか〜とか思とる顔やな〜?」
「あ、う……」
「大丈夫やもんねー。ウチがせっちゃんを幸せにしてくれたぶん、せっちゃんはウチを幸せにしてくれるんやもん」
「だ、だから、私はそれを心配して……!」
「ん〜。ほんじゃ訊くけどなぁ、せっちゃんっ!」
木乃香は有無も言わせず、刹那を抱きしめた。
修学旅行中はもちろん、これまでの事にも“ありがとう”を伝えるために、力強くぎゅっと。
たまらず、刹那は赤面した。
「お、おじょじょじょおおじょさま!?」
「なぁ、これでも悲しいとか言うん?」
「え?」
「ウチは大好き。幸せ。またせっちゃんとこうやって話せて、笑えて。なぁ、せっちゃんはどうなん?」
「私は……ウチは……」
刹那は思う。
どうして私は別れようなんて思ったのだろうか、と。
この翼が醜くて、卑しくて、嫌で嫌で嫌で。
――――それを、木乃香はどう言ったのだったか。
『きれー。なんや、天使みたいやなぁ』
忌々しいこの白い烏の翼を、彼女は天使のようだと言った。
意地だったのかもしれない。
「ウチも……ウチもなぁこのちゃん……っ!!」
「うん」
「一緒にいたいぃ……っ!!」
「うん!」
刹那は、木乃香は泣いた。
悲しみではなく、今までの悲しみを流すほどの喜びで涙を流した。
「…………ふん」
ソルは封炎剣を引き抜き、屋敷の方へ戻って行った。
カイはそれを見て、彼の背中を追う。
「ソル」
「なんだ、坊や」
「……わかって来てたのか?」
「…………さぁ、何のことだか」
だが、その返答を聞いてもカイは納得しなかった。
この男が意味もなく動くはずがないということを知っている手前、余計に。
「お前は、どうしていつも……」
「うぜぇ。知らねえっつてることにいつまでもグジグジ言ってきてんじゃねえ」
「ソル!!」
「来たか、頭に。目の前で女が嬲られているのに止められない自分が情けねえとでも思ってんのか? 筋違いも大概にしとけ。お前は甘いんだよ、だから“アイツ”のことも殺さねえでいる」
「甘さと優しさは違う……!」
「ハ。入れ込み過ぎて後で後悔するなよ…………カイ」
「ソル、今――――」
カイと、と言い終わる前にソルは歩きだしていた。
もう問答する気はない、ということなのだろう。
カイが振り向けば、刹那と木乃香を中心に、ネギと明日菜、アクセルまでもが笑い合っていた。
なんと気持のいいことか。
受け入れてもらえる場所があって、見詰めるべき自分が判る。
「……願わくば、貴女が彼女の答えの一端を担う事を」
今のカイには、そう呟くことしか出来なかった。
修学旅行、3日目。
苛烈にして残虐に満ちた夜は明け、わだかまりさえもが晴れ渡った。
修学旅行が終わる――――。
track:25 end
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