2009-06

B.A.C.K   Act:4−3

 
 風が強い。
 耳元で轟々と唸りを上げながら、いわゆるジェット気流が流れていく。
 高高度、管理局地上本部のレーダーに引っ掛からない程度の高さまで上昇し、上空からサーチャーで下の様子を把握する。
 
 「…………」
 
 状況確認。
 スカリエッティ側が大変有利。
 管理局側は、おそらく陳述会中ということもあり、本部内部の高ランク魔導師の武装が出来ていなかったこともあって防衛線へ持ち込んだんだろうが……それではダメだ。
 地上本部のシールドは思っている以上に強固だ。ガジェットがあれだけいてやっと弱まっている。
 そのシールドを過信することなく、信じ、攻めに転じることが必要だった。
 
 「…………砲撃、4時方向」
 
 自分を墜とした砲撃手だろうか。
 だが、今は関係ない。まだ出ていくには早い。
 Sランクオーバーがふたり、戦闘空域に侵入……。
 
 「ミーアは無事……じゃなさそうだな。何だあれ」
 
 《Perhaps, it seems that a strong mental operation has been received(おそらく、強力な精神操作を受けていると思われます)》
 
 「だろうな。そうでないと、ミーアがスカリエッティに協力するとは思えない」
 
 どうやら、ヴィータとリィンが迎撃に向かったようである。
 精神操作を受けているとはいえ、実力が落ちているとは思えない。ヴィータとリィンには悪いが、勝てないだろう。
 
 《Lightning division faced LPRF6(ライトニング分隊が機動六課へ向かいました)》
 
 「妥当だな。だけど、六課に心配はいらない」
 
 ……今オレは自分のエゴで動いている。
 助けようと思えば、六課に駆け付けることだって出来た。ミーアの前に立ち塞がることだって出来た。
 それでもオレが出なかったのは、戦闘機人、その姿にある。見覚えがあった。
 青系統のジャケットに、女性型。
 
 「見つけた……ハラオウン女史のところか。行くぞ、初陣だ!」
 
 《Yes,sir》
 
 飛行魔法を解く。
 自然と体は重力に引っ張られ、下へ下へ。轟々と風が耳元で鳴り叫ぶ。雲を抜け、肉眼で戦闘域全域を視認。細かいことまで分かるわけではないが、それでも状況を把握するには十分な情報量だ。徐々に方向を変えながらハラオウン女史の戦闘域へ近づいて行く。
 自分が落ちている感覚から、地面が押し迫って来る感覚へ。もし飛行魔法で近づいていたなら、誰かの魔力探知に引っかかる。隠蔽魔法を行使しつつ、フリーフォール。これが一番気付かれにくい。
 
 《Enemy and catching(敵、捕捉)》
 
 「コード・SSACS[サックス]!!」
 
 《Yes,sir.Strike mode,Super Sonic A.C.S.standby》
 
 デバイス起動。ストライクモードA.C.S。
 形だけは変わらないヘッド部分がバクリと割れ、その間から魔力刃を展開。
 魔力翼も順次展開。しかし、その数が“通常”のA.C.Sの比ではない。4対8翼の蒼い翼が羽撃たく。
 
 「敵は?」
 
 《Here has not been noticed yet. It concentrates on hostilities(まだこちらに気付いていません。戦闘行為に集中しています)》
 
 「一気に貫くぞ……、翔けろ流星!!」
 
 ――――ガガン!!
 大口径のカートリッジが二発炸裂する。カートリッジ分の余剰魔力は全て推進魔力へ変換。
 余剰魔力が漏れ出し、空気中の魔力素が輝きを帯びる。
 
 《Stardust strike》
 
 スターダストストライク。
 星屑の疾駆。音速を軽く超えた速度を以て、撃ち貫く。
 一瞬で詰まる距離。一息で目の前に顔があった。
 
 「――――ばっ!?」
 
 一瞬の衝突。
 かろうじて防御したようだが、右腕を貰った……!
 
 「覚えているか、この顔を!」
 
 「き、さま……!!」
 
 若干速度を落としながらも、右腕を貫通しながら戦闘機人を圧し続ける。
 苦痛にゆがんだ顔が、オレを睨みつける。
 
 「ラインハルトの、あの時の小僧か……!!」
 
 「そうだ、トーレとかいったな、お前は! 覚えているか、お前が殺したズィルバー公を!!」
 
 「私がロールアウトし、初めて敗北を味わった……忘れる筈もない!!」
 
 「その仇、今討たせて貰う!!」
 
 ――――ガキキキン!!
 残った三発を全て消費。魔力が迸り、光が収束する。
 
 「ソニック!!」
 
 《Acceleration buster》
 
 「――――な、にィ!?」
 
 敵に向けての砲撃ではない。砲撃反動ブレーキを解除し、“進行方向とは逆に砲撃を放つ”。
 ソニックアクセラレーションバスター。
 ストライクモードの、真骨頂。ソニックスピードでの、戦闘行為!!
 
 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
 
 あっという間に地面が近づいてくる。
 瞬きすれば、フィルムが吹き飛んだように景色が変わっていく。
 とろける視界。
 
 「全てを――――貫けええええええっ!!!!」
 
 《Heat edition》
 
 着弾。
 そう表現した方がいいほどの衝撃と魔力爆発。
 地面と衝突する瞬間のファイナルブレイク。これが直撃して、貫けぬものなどない。
 ……直撃すれば。
 
 「IS・ライドインパルス。貴様だけがその速域で存在するとは思わないことだ」
 
 何でもない様にトーレは佇む。ぶら下がった右腕だけが妙に生々しい。
 マガジンを交換。新たに5発の大口径カートリッジがジークフリードに取り付けられる。
 初めての機動にすれば、上々の仕上がりと言いたいところだが……。まずいな。
 
 《Frame damage 13%(フレームダメージ13%)》
 
 思った以上にダメージが蓄積している。
 強化前のストライクチャージを思えばかなりの強化だが、それでもだ。
 手にとって確認したときからとんだ暴れ馬だとは思っていたが、実戦で使って改めて思う。
 ――――嵐馬だ。
 
 「自らの攻撃でダメージを受けているようでは、私には勝てんぞ」
 
 「痛み分けだろ……固いこと言うなよ」
 
 「ふん、直線だけの攻撃で私を捉えられるとでも思っているのか?」
 
 「直線だけかどうか、その高性能な御眼眼で確かめてみやがれ……!」
 
 飛び上る。
 トーレもオレを追うようにして飛び上った。
 1対1なら、こちらに勝機がある。リミッターがついているとはいえ、ハラオウン女史が負けるとは思えない。
 彼我戦力は、傾きつつある。
 
 「IS発動・ライドインパルス!」
 
 瞬間移動とも例えるべき速さでトーレは目の前に踊り出た。
 そのスピードは先程見た。もうその速さに驚くことはない。脳にしっかりと焼きつけた。
 ゆえに、慌てずに行動できる。
 
 《Division step》
 
 軽い幻術を応用した移動魔法。
 移動と同時に幻術による分身を造り出し、それぞれを別方向へ飛ばす。
 一瞬の視覚奪取と、混乱を誘う攻守一体の移動魔法。消費魔力が大きく乱発出来ないのがネックか。
 
 「…………見えているぞ!」
 
 「だと思ったよ……!!」
 
 《Dragon Smasher――》
 
 迷いなく本体へ攻撃を仕掛けてくるトーレ。
 戦闘に特化した彼女らの眼が、幻術を破ることが出来ないほどお粗末なものだとは思っていない。
 残り2秒もなく殴られる、と言うタイミングでドラゴンスマッシャーを置く。それに反応したトーレは若干の軌道修正。砲撃の直撃を防ぐためだろう。だが、ここは射線軸から体をズラすのではなく、後退が正解だったのだが……こちらの情報を掴み切れていない相手ではそれも無理もない。
 
 《――Wide range・Impact》
 
 拡散型ドラゴンスマッシャー。
 広範囲をフォローする、花開く砲撃。ただし、代償として射程距離が著しく縮む。
 だが、今回の相手は火に突っ込んできている蛾だ。火に飛び込んだ蛾が焼かれるのは道理。
 
 「づ――――ッ!?」
 
 寸でのタイミングで防御を展開。
 即座に距離を取られる。円を描くように飛び、牽制しつつ一定の距離を保ち思考する。
 この状況、どうすれば勝ちに持っていけるだろうか……。
 
 「どうした、あれがお前の言う直線だけではない攻撃か……!?」
 
 「ちぃ……」
 
 手札が少なすぎる。
 より強襲特化型となったジークフリードだが、それゆえに攻撃に汎用性がなくなった。
 扱い切るには、まだ早かったか……?
 
 「違う」
 
 勝利を導くんじゃない。
 勝利するための方法を導くんだ。
 必勝戦法などない。必勝の術があるのだ。
 その術を確実に狙える道を考える。それを出すには、一体どうやって戦場を彩ればいいのか。
 
 「ジーク、無理させるけど、イケるな?」
 
 《Yes》
 
 別にコード・SSACSだけが切り札だというわけじゃない。
 まだ、戦える手札はある。サードモード・スカバード。
 しかし、それも肩透かしに終わった。
 
 「ふむ……時間か」
 
 「なに?」
 
 「……残念だったな、ラインハルト。撤退命令が出た」
 
 トーレは構えを解き、深く息を吐いた。
 撤退。
 これ以上の戦闘はナンセンスであり、だが――――
 
 「分かっているだろうが、次に会うとき……貴様に『勝利』の二文字はない。貴様の戦闘データは記録され、私達の中でリチューンが施される」
 
 「…………くれてやるよ、そんなもん。お前が持ち帰るのはオレの戦闘データであって、オレの戦闘理論じゃない。次に会うとき、勝つのはオレだ……!!」
 
 「強がりを。データはそのまま理論に直結する。あらゆる可能性がそこから弾き出されるからな」
 
 一際大きな光が放たれる。
 転移か……。
 どうやら、上の戦闘も終わったらしい。リミッター付きだからだろうか、とどめを刺せずに撤退させてしまったようだ。
 見上げると、ゆっくりとこちらに降りてくる影が見えた。ハラオウン女史だ。
 
 「ユークリッド……」
 
 「……ハラオウン隊長」
 
 「帰ってこない? 六課に」
 
 「帰れないだろ。名目上、オレは次元犯罪者の片棒を担いだ奴だぞ」
 
 ハラオウン女史は苦虫を噛み潰したような表情をしてから、それでもぎこちなく笑って見せた。
 
 「ほら、やっぱり」
 
 「なにがやっぱりなんだよ」
 
 「“名目上”でしょ? 証明する方法はいくらでもあるよ」
 
 「……世話好きだな、年下だからか?」
 
 「そ、そんなのじゃないよ……!?」
 
 「なんで慌ててるんだよ」
 
 「……うん。ユークリッドは憧れの人だから」
 
 …………はい?
 自分の役職を棚に上げて何を言い出しましたか、この人は。
 ていうか、臆面もなくよく面と向かって言えるよな、そういうこと。
 
 「もちろん、好きだとかそういうのじゃないよ。なんていうか、私が持ってないものを持ってる人だから」
 
 「そうか……? ハラオウン隊長が持ってないものなんて想像できないね。容姿端麗、頭脳明晰、執務官としても優秀。そのうえ魔導師ランクはSランク」
 
 「うん。名目上はね」
 
 皮肉のつもりなのか、同じような言葉を使って返された。
 名目上でも、そこまで言われていて内容全部が嘘ってことはないだろ。美人だし、スタイルだっていいし、執務官試験に合格したってことはそれだけの実力を持ってるってことだろ。なにを持っていないって言うんだか。
 
 「例えば、ユークリッドが今実際にしてる事なんて、私には出来そうもない」
 
 「そん――――」
 
 言葉が区切られた。ハラオウン女史もその圧力に気づいたのか、振り向く。
 管理局地上本部、その上空の召喚魔法陣。
 呼び寄せられたのは、竜。見間違えようもない。あれは『サベージ』だ。
 『サベージ』として呼び出される最強の擬似真竜……。
 
 「冗談でしょ……あんなのどうやったら……っ!?」
 
 その時、『サベージ』へ向かって一筋の閃光が走る。『サベージ』へ直撃し、爆炎を吹き上げる。
 もう一発、さらに一発。だが、そのふたつはふたつとも、大きく狙いがそれていた。
 
 「あれは……シグナムのファルケン?」
 
 ハラオウン女史とともに訝しむ。
 なぜ外す? シグナム程の騎士がそう易々と狙いを外すとは思えない。
 外しているうちに『サベージ』は完全に態勢を立て直し、さらに口元に魔力を収束し始めた。
 竜の砲撃。すなわち、ブレス。あれはどうしようもないぞ……!?
 
 「シグナム……!!」
 
 「避けてくれ……!!」
 
 収束された魔力が臨界を超え、炸裂するその数秒前。


 ――――ボゥッ!!
 
 
 「きゃっ!?」
 
 「うっ!」
 
 鼓膜を震わせ、衝撃を後に引いて、何かが極超音速で頭上を飛翔していく。
 その閃光は一寸の狂いなく『サベージ』の頭部に直撃し、砲撃をズラす。雲を引き裂き、さらに上空で膨張した魔力が爆散する。
 あんな砲撃、地上に喰らったらひとたまりもない……。
 
 「い、今の何……? 六課から……?」
 
 ハラオウン女史が呟くが早いか、第二射が六課方面から飛んでくる。
 第三、第四、第五と、閃光は降り注いでいく。
 雨は降り止まない。鳥肌が立った。なんてタイミングだ……。
 
 「アヴァランチ・レーゲン……!」
 
 「え?」
 
 「古代ベルカ式超長距離射撃魔法……正式名称、弾道射撃魔法。古代ベルカにして、蹂躙魔法とまで言わしめた最凶の射撃魔法……」
 
 「古代ベルカ……? でも、今六課にいる古代ベルカ式術者といえば、シャマルかザフィーラだけだよね……?」
 
 「違う。もう“ひとり”いるんだ」
 
 「え?」
 
 説明をしようとしたとき、また視界に巨躯が映り込む。
 また六課方面から飛んでくる。
 
 「あれは……キャロ!?」
 
 黒い鱗に、赤い鎧のような外殻。紛い物ではない、正真正銘の真竜。
 地上本部上空の『サベージ』に比べれば小さいが、それでもかなり大きい。キャロが指の大きさほどしかない。
 
 「フェイトさん……にユークリッド隊長!?」
 
 「元気だったか?」
 
 「はい! じゃなくて……今からヴォルテールと私で、あの竜に白兵戦を挑みます! 許可を、フェイトさん!」
 
 「な――危険だよ、そんなの!」
 
 どうやら、この真竜の名前はヴォルテールと言うらしい。
 キャロの持つ竜が2騎だとは聞いていたが、まさかこれほど巨大だとは思わなかった。
 ヴォルテールがギロリとオレを睨んだ。私怨が込められているような視線で、唸る。
 
 「ヴォルテール……?」
 
 「何でもないだろう。白兵戦、オレが許可する」
 
 「ユークリッド!?」
 
 「まともに戦えるような戦力は今はキャロのヴォルテールぐらいだ。ハラオウン隊長はスターズに連絡。警備部隊と連携をとりつつ、あの竜を撃破する……!」
 
 キャロの「行けます」という言葉と、彼我戦力を冷静に判断し、ハラオウン女史はオレの作戦案を許可してくれた。
 最後に、問答を設けた。
 
 「キャロ、六課は今どうなってるの?」
 
 最初にハラオウン女史がキャロに確認を取った。
 一瞬暗い顔になったが、決意を込めた表情で言った。
 
 「エリオ君が先頭に立ってガジェットを殲滅しています。それと……ヴィヴィオが連れ去られました」
 
 「なんだって!?」
 
 思わず声を荒げてしまった。失敬、と謝ってからキャロに続きを促す。
 “アイツ”がいたのに、か?
 
 「えっと、私達が到着した頃には……もう」
 
 私達も頑張りましたが攫われた後でした、と頭を下げながら言う。
 間に合わなかったのか……。あぁ、クソ。後悔するくらいならこんなこと、初めからしちゃいないっていうのに。
 …………いや、ヴィヴィオが連れ去られた?
 
 「……よし、散開。それぞれの行動に移ってくれ」
 
 『了解!』
 
 気になることはまだまだあるが、今はあの竜を倒すことに専念するべきだ。
 あの竜が『サベージ』……つまり『母なる竜の揺り籠』であるのなら、まだ大丈夫。
 
 いろいろなことを聞いて、心を動かすのはまだ先でいい。
 今はただ、感情を、心を止めておく。
 最後に笑って立っていられるように……。願わくば、はやての隣で。
 
 「いくぞ、ジークフリード!」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 『スバル、先行しすぎ!』
 
 ティアが怒鳴る。
 それも風を切る音で、まだマシだと思えるほどに小さくなっている。
 直角の曲がり角、壁を蹴って無理矢理にスピードを落とさずに方向を変える。
 そういえば室内訓練の時、ユークリッド隊長もこんな感じで飛んでた気がする。
 
 「ごめん、でも、大丈夫だから――――!」
 
 ギン姉が心配だから。
 より一層スピードを上げる。唸りを増していくローラーと、高まりを上げていく心臓。
 近づけば近づくほど焦りが大きくなって、それだけで心臓が潰れてしまいそうになる。
 涙が、出そうになる。
 
 「マッハキャリバー!」
 
 さらに回転数を上げていく。
 目標地点が近い。――最終確認。
 リボルバーナックル内のカートリッジシステム、状態良好。
 カートリッジの残弾、計18発。
 関節各部、異常なし。状態良好。内、膝関節に若干の疲労が見られるが許容範囲内。戦闘行為に支障はない。
 行ける。今行くよ、ギン姉……!
 
 通路が開ける。
 広い空間。戦闘の余波だろうか、そこここに崩れた後がある。
 その中心。正面に捉えたのは、さっき戦闘したばかりの戦闘機人の少女たち。さらにその少し奥。
 
 「あ」
 
 言葉が途切れた。何も考えられない。目の前の光景だけが、金槌で叩かれたような衝撃を伴って脳髄に響いてくる。
 さぁっと鼓動が鳴り止んでいく。はち切れんばかりだった心臓の高鳴りは、いやに落ち付いている。
 
 破かれたバリアジャケット。とめどなく流れる血液。四肢が粉々。
 でも、それでもその人を見間違える筈もない。
 
 「――――」
 
 息が詰まる。
 上手く呼吸できない。は、は、という息遣いだけが耳に届いてくる。
 私の中で、なにかがキレタ。
 
 崩れそうになる身体を押しとどめ、全身に力を張り巡らせる。
 今までに感じたこともないような、ナニカが私を支配する。
 これはそう――――きっと、怒り。
 
 
 「うぅ……わあああああああああ――――――――あッ!!!!」
 
 
 視界がクリアになる。
 やけに体が軽い。今なら、たとえ誰が相手でも勝ててしまいそうだ。
 いや――――勝つなんて生易しい。
 ……毀してやる。ギン姉を、そんなにして、捕まえるだけなんて絶対に嫌だ。
 ギン姉は、苦しいに決まってる。ギン姉は、痛いに決まってる。ギン姉は、お前らなんかに負けるような人じゃない。
 
 毀してやる……!!!!
 
 「返せ……」
 
 でも、ギン姉がいたら危ない。先に安全な所に連れて行ってあげなきゃいけない。
 カートリッジ全弾ロード。
 リボルバーナックルが唸りを上げる。
 
 「ギン姉を、返せぇえ――――!!!!」
 
 射撃が飛んでくる。関係ない。
 見据えるのはギン姉だけ。邪魔するんなら、先に毀す。
 
 「だっぁああああああああああああああああああっ!!!!」
 
 肌を掠めていく弾。
 関係ない、関係ない、関係ない……!!
 邪魔を――――するな!!
 
 「ぶぁあッ!!」
 
 息とともに放つ拳。
 防御……なんて、一緒に砕いてやる……!!
 邪魔をするな、邪魔をするな――――
 
 「どぉけぇえええええええええッ!!!!」
 
 腰を限界まで捻り上げる。
 鞭のように、鋭く、疾く、しなやかに蹴り上げる……!!
 
 「だァッ!!」
 
 衝撃、爆発。
 勢いよく吹き飛ばされても、関係ない。
 私のお姉ちゃんを――――ギン姉を返せよ……!
 それから、それからお前らを毀してやる……!!
 
 立ち上がってシリンダーを排除。
 替えのシリンダーの装填中、周囲を爆発が包む。
 体がよろける。視界の端で、ギン姉を入れた箱が持ち去られていく。
 ダメだ、行かせるもんか。
 
 「うぅあっ」
 
 ギシリギシリ。
 走り出そうとして、また爆炎に押し止められる。
 邪魔を――――邪魔をォッ
 
 「邪魔ァ……!!」
 
 ゴキキ! ギギギギッ。
 フレームが軋む。肌が張り裂けていく。人工筋肉がはち切れていく。
 関係ない。関係ない。ギン姉はきっともっと痛い。これくらいで弱音を吐いてちゃ、いつまで経ってもギン姉に心配をかけちゃう。
 だから、私ももう立派なんだよって言いたいから、私がギン姉を助けるんだ。
 取り戻すんだ――――!!
 
 「すんなァ――――――――アッ!!!!」
 
 防御を張られる。関係ない。
 殴って、殴って、殴って殴って殴って殴って。
 蹴って、蹴って、蹴って蹴って蹴って蹴って。
 ぶち破ればいい、ぶち毀せばいい――――!!
 
 「うあああ!?」
 
 やった、やっと、やっと破れた。
 これでギン姉を追える。今ならまだまだ間に合う!
 
 「いか、せぬ……!」
 
 何かが聞こえ、気がつくと正面に針山のようにダガーが壁を作っていた。
 一瞬後には、全てが私に襲いかかって来る。
 
 《Protection!》
 
 マッハキャリバーが咄嗟に防御を張ってくれた。
 ジャケットもパージしてまで、ダメージを抑えてくれた。
 そうだ、まだだよ。もっと、ギン姉を――――
 
 「返せ…………ギン姉を、返せよォ!!」
 
 「ッ!」
 
 ギン姉に届くまで走るんだ。
 私のこと、きっと心配するから、心配ないよって教えてあげたいから、私は――――!
 
 「セインさん到着ぅ!」
 
 「助かった……!」
 
 するり、と敵が地面の中へ消えていく。
 消え、た。もう、追えない?
 
 「あ、あああ……うああ」
 
 《The main body was... The system re st s(本体全損、システムダ ウ  ン)》
 
 「うぁあ、あああ、うわあああああああああああああああああッ!!!!」
 
 ギン姉、ギン姉……!!
 なんで、なんで……なんでこうなっちゃうんだよぉ!!
 もっと強くなりたいって、情けない自分を変えたいって思ったのに、なんでこうなっちゃうんだよぉ!!
 
 「うああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 なんで、なんだよぉ――――!!
 ちくしょう……、ちくしょォ……!!
 私は、私はなんでこんなに、なんで、強くないんだよ……ぉ!!
 
 「ああ、うあああああッ」
 
 「スバル、スバル!!」
 
 一瞬、我に返って横を見ると、ティアがいた。
 なのはさんも隣に立っている。
 …………ティア、ティア……!
 
 「私、わ、たしィ……!!」
 
 「もういい! もういいから……!!」
 
 ギン姉…………。
 ごめん、なさい…………!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:4−3  end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

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プロフィール

Author:草之 敬
趣味:絵を描くこと(友人に「お前が描くのがムカツク」と言われる程度)・小説を書くこと・ドラムス
    
性格:優柔不断。ここを作ったのは英断だと思ってる。

語り:この頃やっと自分のブログに自信が持ててきた。
 作品が増えていくたび、愛着が出てきて困る(いい意味で)
 心の聖典は『イエスタデイをうたって』『ああっ女神さまっ!』

小説を読む前にガイドラインを読んでくれると注意書きとか載ってます。

リンクフリーです。相互リンクも大歓迎です。

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