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2009-07

まただよ(涙)

すいません、草之です。

今夜には必ず更新します。
思った以上に筆の進みが遅くて。


では、以上草之でした。
本当にすいません。


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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:26

 
 「まったく、何という無茶を……」
 
 詠春は山の一角のあまりの有様を見て、肩を落とす。
 リョウメンスクナノカミを封印していた要石のあった湖周辺は、数百メートルにわたり煤で真っ黒。
 湖自体の再生ならば水符をありったけつぎ込めばなんとかなるだろうが、森の再生をしようとすれば、むこう数十年、長ければ百年近い時間を要するだろう。
 
 「これは……しばらくは人避けが必要みたいだ……」
 
 ついて来させていた部下数名に指示を飛ばし、湖周辺に人避けの呪符を貼り付けていく。
 詠春自身は湖の中心部、要石があった場所まで来ていた。水底であった地面は溶岩が固まってしまったような形になってしまい、上手く歩くことが出来なかった。
 そんな水底を歩くこと数分。要石が鎮座していた場所まで来た。
 
 見事に黒い尖塔を築いていた。
 
 要石が溶解し、さらに下に流れてしまうことで擬似的な塔が出来上がっていた。
 要石が完全に破壊されたというのに、スクナの気配は一切感じられずにいた。
 
 「……鬼神すらを焼却する炎。神という存在に対する背徳行為。……背徳の炎」
 
 奇しくも、詠春が何気なく呟いた言葉は、ソルのギアとしての真名。
 彼自身そんなことを知る由もないし、知ろうとも思わないだろう。
 詠春は深く息を吐き、空を見上げた。黒い大地とは裏腹に、真白い雲が悠々と流れている。
 死闘から一夜。劫火に包まれていた世界はどこかに消え、微風が木の葉を揺らす。詠春はポケットから煙草を一本取り出し、火を点けた。胸一杯に紫煙を飲み込み、吐き出す。
 
 スクナの完全消滅。
 それは紛れもない事実であり、また、隠さねばならない事象。これが『魔法の国』に伝われば、一体どんなことになるか。
 詠春は考えただけでぞっとした。隠していたことがばれたら首が飛ぶどころじゃないな、とも。
 
 「本当になんて奴を増援で寄越すんだ、お義父さんは……」
 
 雲がゆらりと、陽炎に揺れた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「……まぁ。なんつーか、あっという間だったわな」
 
 「そうですね」
 
 京都駅、そのプラットホームで隣に並びながらネギと話す。
 ゆっくりできると思っていた昨日はエヴァちゃんに連れ回された。ダンナはあの夜から機嫌が悪いまま――まぁいつも悪いようなもんだが――だし……。ただよかったと思えたのは、セツナちゃんとコノカちゃんの和解。堅苦しい空気が完全になくなったわけじゃなかったけど、幾分か和らいだ気がした。
 
 「親父さんの手掛かりだってな?」
 
 「はい。これで見つかるなんて思ってませんが、けど、近づける……ううん、近づいて見せます!」
 
 「おっ。言うねぇネギ。ちょっとカッコよくなって……イイ男に磨きがかかったな」
 
 「そ、そうですか? あ、ありがとうございます」
 
 少し嬉しそうに、少し悲しそうにネギは笑った。
 やれやれ。顔に出すぎっつーか、なんつーか。ネギの頭を力いっぱいグシャグシャに撫でてやった。何が何だかわからない、という表情でネギは見上げてきたが、こちらは自信満々に言っておく。
 
 「ま、早く探し出してよ。今のセリフ、親父さんにちゃんと言ってもらえよな」
 
 「あ――――は、はいっ!!」
 
 今度こそ目一杯に嬉しそうに笑って、目を輝かせた。
 となると、気になってくるのはイノの存在だ。
 これで諦めるほど、諦めのいい奴じゃないってことはわかってるつもりだ。次がいつかはわからない。
 けど、絶対にもう一度襲ってくる。
 
 「…………学園祭、か」
 
 仙人が言ってた2ヶ月後、というのは学園祭の時期のことだった。
 タカネちゃん曰く『世界樹の大発光』と同時に『魔力』がありえないくらいに膨れ上がるらしい。そのタイミングでしか、俺たちは帰ることが出来ない。その補助と強い力のぶつかり合いによる次元跳躍、なんて頭の悪い冗談にしか聞こえない。
 しかし、それしか方法が思いつかない。
 
 帰らないと、めぐみにももう会えない。
 
 「アクセルせんせーったら、修学旅行終わったばっかなのにもう学園祭のこと考えてるー!」
 
 「中間試験だってまだなのにねー」
 
 「とと。なんか、大きいお祭りらしいじゃん? だから楽しみで仕方無くてなー」
 
 とりあえず、話しかけてきたマキエちゃんとユーナちゃんに本当のことの一部を言っておいて誤魔化しておく。
 楽しいよー、と笑いかけてくれる彼女たち。しばらく雑談して、ミスター・ニッタが号令をかけたところで列に戻るように言う。
 …………そうだ。もし、イノが言う通りにジャスティスなんかを呼び出されたりしたら、こんな時間すらなくなってしまう。聖戦時代に飛んだときは、本当に死に物狂いで逃げたものだった。
 
 「……アクセル先生、ネギ先生~。締めの一言よろしくお願いします~」
 
 「はぁーい。行きましょう、アクセル先生!」
 
 「そうだな」
 
 ネギは駆けて、俺はその後ろを追うように歩いて前に出ていく。
 途中でネギがこけたが、それもお約束。まったく、一昨日の威勢はどこに行ったんだか。
 
 「みなさん、修学旅行お疲れ様でした。楽しめましたか~?」
 
 『はーいっ!!』
 
 ネギの問いかけに、全員が応える。
 本当に平和だなぁ。
 
 「大変だったこともたくさんあったと思いますが、それ以上に楽しいことがあったと思います…………」
 
 ネギが淡々と話を続けていく。
 それを右から左に聞き流しつつ、考えることはひとつ。
 ――――俺にも出来ることがあるのか?
 
 「アクセル先生、次お願いします」
 
 「あ、はいはいっと」
 
 生徒の視線が一気にこちらに集まる。
 咳ばらいをひとつ挟んで、声を出す。
 
 「しんどかった人っ!」
 
 ばばばっ、と過半数の生徒が手を挙げた。
 よしよしと頷いてから、手を下ろすように伝える。
 
 「だけど楽しかった人っ!」
 
 ざばっ、とほぼ全員が手を挙げた。
 二ヤリ、と笑い続けた。
 
 「俺もしんどかった。朝は早いし、夜は遅いし。そのうえお前らは騒ぐし」
 
 若干の心当たりを持つ生徒数名が苦笑いをした。
 それを見つつ深呼吸をして、大声で話を続けるとする。
 
 「出来れば、もうちょっと落ち着いた修学旅行にしたかったけど……ま、結果オーライってこった!」
 
 適当に切り上げて、場を無駄に盛り上げてしまったようで、ちょっと後に怒られたのはまた別の話。
 新幹線に乗り込んですぐ、生徒の大半が寝付いてしまった。
 俺は麻帆良学園が占領している車両よりさらに前の車両に移り、ある人物の隣に座った。
 
 「よぉ、兄ちゃん。どうだい?」
 
 「どうと言われましてもね。さて、説明はいつしてくれるのですか?」
 
 「今からするさ。メイちゃんとディズィーちゃんは?」
 
 「もう少し前の座席で寝てます。たぶん、疲れたのでしょうね」
 
 指差した座席には確かにふたりの姿があった。
 それを確認してから、改めて目の前の男を見る。さすがに聖騎士団の制服は目立ち過ぎるからか、今はシャツとスラックスという簡単な格好をしている。着飾ってるわけでもないのに、この野郎は雰囲気からイケメンだ。妬ましいぜ、ちくしょうめ。
 
 「じゃあ、話すぜ?」
 
 「えぇ、どうぞ」
 
 「っつっても俺だってよく分かってないんだけどな。ダンナから聞いた話や俺自身の推測も混じってるから判断はアンタに任せるぜ?」
 
 「わかりました」
 
 「そんじゃ、まずはこの世界のことからだな。『魔法』っつー、技が存在するんだ」
 
 「“技”? 《魔法》は技術のことでしょう」
 
 「聞け聞け。ここは俺たちがいた世界じゃない。わかるか、ここは俺たちの世界じゃない。別の世界、つまり、SF映画とか、そういう奴の並行世界ってやつだ。この世界の説明をするぞ。かなり似てるが、ここは全く違う世界だ。科学が広まっていて、まだ世界は《魔法》を知らなくて、ギアの恐怖さえ知らない。イノが言ってたらしいんだが、ジャスティスを復活させるつもりだとかなんとか」
 
 団長さんは首をかしげ、しかし、口は挟まずに聴きに徹底してくれている。
 遠慮なく続けていく。
 
 「ダンナはイノと一緒に飛ばされて、俺は時間跳躍のときにたまたま巻き込まれちまったみたいだ。ここで質問なんだが、あんたらはこっちに飛ばされる前、何をしてたんだ?」
 
 「ディズィーさんの生い立ちを調べている最中でした。そのとき終戦管理局に襲われ、量産型と思われるジャスティスに撃たれ、それを防御した折、おそらく……」
 
 「……まぁ、そういうこった。どうしてだか俺たちがいた世界の捌け口みたいになっちまった世界が、ここ」
 
 団長さんはなんとか理解しようと頭を働かせている様子だった。
 しばらく黙ったままでいると、車両の前の扉の方からダンナが現れた。さらに前の車両に乗っていたみたいだ。
 
 「ソル……」
 
 「坊や、どうだ。てめえのお固いオツムでも理解できたか? なんならトロトロに溶かしてやってもいいんだがな」
 
 「いや、彼のおかげでだいたいのことは把握した。ここは並行世界で、イノはここを私たちの世界と同じに……私たちの世界の二の舞

にしようとしている……そういうことだな?」
 
 「ほぅ。だったらすることはわかってるな?」
 
 「……イノを倒し、その計画を阻止すること。また私たちが、自らの世界に帰ること」
 
 「上等だ。せいぜい足掻くんだな」
 
 ダンナはそれだけ言ってからまた前の車両に帰って行った。
 団長さんは深く息を吐いて、座席に深く腰掛けた。
 
 「信じられない。この乗り物ですら《魔法》の動力ではないのですね。確か、電力でしたか」
 
 「新幹線、な」
 
 「…………なるほど。私なりに解釈はできました。星丸ごとがツェップのような所だということですね」
 
 「ざっくり言っちまえばな」
 
 まだまだ問題は山積みなんだ。
 納得させることが出来たなら、次は話を進めなくちゃな。
 
 「たぶん、イノはコノカちゃんっていう娘を狙ってくる。莫大な魔力とかいうのが、世界を飛ぶのに必要なエネルギーになるかもしれないらしい。で、その魔力をコノカちゃんは十二分に持ってるんだ」
 
 「主に、その子を守らなければいけないということですか」
 
 「依頼内容的にはな。俺個人としては、誰であろうと俺らの勝手で襲われるなんてゴメンだけどよ……」
 
 「私も同意見です」
 
 やっぱり、こいつもそうらしい。
 正義感の塊みたいな奴だから、そう言うのはわかってはいたけど、やっぱり安心する。
 ダンナは極力、手際を優先している。目標達成を主に考えて、被害が広がることを防いでいる。山奥の戦闘だって、ダンナがいなかったらどうなっていたか、実際わからない。焼け野原で済んだのは僥倖かもしれない。
 対して、俺はダンナの考え方とは逆。甘ちゃんの考え方。目標達成の前に、誰もが傷つかないようにと思う。安全策で行くが、しかしそれでは後手の対応しかできなくなる。怖がって縮こまっている、臆病者。
 
 「だからなんだっつーの」
 
 臆病者万歳! ――――なんて言うつもりはない。
 だけど、嫌なんだ。人が死ぬのを見るのは。人が傷つくのを見るのは。
 元々、俺はそのために力を手に入れて来たんだから。
 
 「カッコつけなきゃ男じゃねえぜ」
 
 座席を立つ。
 団長さんに一時の別れを告げて元の車両へ戻る。
 
 そこここから気持ち良さそうな寝息が聞こえ、くすぐったく耳に届く。
 この時間を奪わせやしねぇ。あんな地獄、一度辿れば十分だ。二度目なんていらない。
 
 俺が護るなんて大言壮語を吐くつもりはない。
 ただ――――
 
 「俺が護れるんなら、精一杯護ってやる」
 
 ただ、それだけ。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「え?」
 
 「あん? 聞こえなかったのか。まったく、花粉症でしゃべるだけでも疲れると言うのに……っぐしゅ!」
 
 ぼうやが呆けてこちらを見ている。
 どうやら聞こえなかったのではなく、“理解できなかった”らしい。
 
 「……答えは否だ。誰が貴様なんぞを弟子にするか呆け者め」
 
 「な、なんでですかっ!?」
 
 「“なんでですか”だと? は。それもわからんのならお話にならんな。さぁ帰った帰った。余計な花粉を家の中に連れ込みよってからに。巻き上げる前にさっさと帰れ!」
 
 適当にあしらいながら、茶々丸にハーブティーを入れるように指示する。
 まったく、吸血鬼が花粉症などと情けない。学園に戻った途端これだ。あぁ、京都に住んでおきたかった。
 
 「な、納得できません! 僕は……!!」
 
 「まだいたのか。だから弟子なんぞとらんと言っとるだろうが。戦闘技術ならそこにいる金髪にでも頼め。技術だけなら私よりは上だろうよ」
 
 悔しいことに、その通りだった。
 この金髪――カイ・キスクは馬鹿げた戦闘技術を持っていた。四属性のまほ……《法術》だったかを使いこなし、あまつさえ“気”らしきものまで少しだけ操って見せた。
 それだけならなにも驚くことはない。私だってそれなりの属性魔法は使えるし、少なからず“気”も扱える。まぁ、基本的に魔力でしか戦闘はしないのだが。
 閑話休題。
 卓越した剣捌き、洗練された体捌き、鍛え抜かれた不屈の精神力。どれを取っても超一級の剣士。
 お互いが身体能力強化だけで戦えば、十中八九負けるのは私だろう。合気柔術で抑えられるような奴ではない。
 
 「わ、私ですか?」
 
 「そーだ。ぼうやと呼ばれてる者同士、気も合うだろうよ。クソ真面目なところとかがそっくりじゃないか、え?」
 
 そう私が言うと、ぼうやとカイが見詰め合った。やめろ、気持ち悪い。
 だが、思わぬところから反論が飛んできた。
 
 「ちょっと待ちなさいよエヴァちゃん! そもそもネギって魔法使いじゃない。そこのお兄さんとかどう見ても魔法使いじゃないでしょ!?」
 
 「当たらずとも遠からずだ、神楽坂明日菜。カイは剣士であり、また術支援も行える。おそらく、魔法戦をするまでもなく、比べるべくもなくそっち方面でもぼうや以上の実力を持っているだろう」
 
 「ていうか、なんで昨日会ったばかりの人のことそこまで知ってんのよ……」
 
 「闘ったからな。軽く」
 
 昨日、学園に帰ってきてすぐに別荘に籠ってカイと手合わせしていた。
 そこである程度の実力を計った。結果、条件付きで別荘にいる私に勝てる程度の実力であることが分かった。
 それも本気ではないだろう。いちいち「女の子に手はあげられません!」などとほざいていたからな。
 
 「…………でも」
 
 「……そこまでして、どうして私にこだわる? 私はお前の敵だ。魔法使いならタカミチもそうだし、じじいもああ見えてそれなりの実力者だ。なぜ、私だ?」
 
 「それは……」
 
 「……惚れたわけでもあるまい。言え。内容によっては考えてやる」
 
 そういうと、ぼうやはいきなり顔色を変えて詰め寄ってきた。
 ゲンキンなんだか、なんなんだか。腹立つ奴だな、本当に。
 
 「憧れたんです、修学旅行で見たエヴァンジェリンさんの強さに! あんな力があれば、僕も……僕だって!」
 
 「ほほーぅ。力を欲するがために私に師事したいとな?」
 
 「? あの、最初からそう言ってたんですけど?」
 
 「違うな。違う違う。そういう意味じゃない。なるほどなるほど……。それはなんのためだ?」
 
 え? と硬直する。
 いきなり過ぎたか。咳ばらいを間に挟み、もう一度ぼうやに問うた。
 
 「なぜお前は力を欲する? そう訊いたんだ」
 
 「それは――――」
 
 「偽善はいらんぞ。正直なことを言え」
 
 「僕の生徒を……友達を、みんなを守りたいから!」
 
 思いっきり机を蹴り飛ばしてやった。
 ぼうやは驚いて床にへたり込んでしまった。
 
 「貴様、私の言葉を聞いていなかったのか? 偽善はいらん、と言ったんだ」
 
 「う、嘘なんかじゃないです!」
 
 「偽善と嘘は同義ではないわ、戯け!! 強さを欲する、その心は!?」
 
 ぼうやと神楽坂明日菜はたじろぐ。
 正直に言うと、今私はすごく卑怯な話をしている。天才少年だか何だか知らんが、所詮、元は10そこらのガキだ。しかも今まで微温湯に浸かってもいないような、青いガキ。それに力を持つ意味、その何たるかなど解る筈もない。
 くやしそうに唇を噛むぼうやは、とうとう顔を伏せてしまった。
 
 「…………ふん。そういうことだ。貴様はまだまだ誰かに弟子入り出来るところにも立っていない」
 
 私がトドメにと放った言葉を聞いて、伏せていた顔を上げた。
 その眼には涙が溜まっていたが、なぜだろうか。瞳が、ギラギラと燃えていた。
 
 「どうすればいいですか……?」
 
 「あん?」
 
 「どうすれば、僕を弟子入りさせるに値する人物だと認めてくれますか?」
 
 「自惚れるな。つまり、お前はテストをさせろとでも言いたいんだろう? ふざけるのも大概にするんだな。その行為ですら、するに値しないと言っているんだ。自覚しろ、ぼうや。お前はクズだ。ゴミだ。塵芥だ!!」
 
 その言葉にキタのか、ぼうやは見せたことのないような獣じみた眼光で私を睨み上げてきた。
 
 「違います!」
 
 「違わぬ! 害虫めが、偉そうな口を叩くんじゃない!」
 
 「違います!」
 
 「何が違わない? 言ってみろ、何が違わない?」
 
 「だって……!」
 
 「だってなんだ、あ!?」
 
 「だって……!!」
 
 「だってなんだァ!! 言ってみろ、えぇ!?」
 
 ぼうやは吐き出しそうになった嗚咽を飲み込みながら、掠れ切った声で声高々に叫びをあげた。
 
 「僕は、僕は……サウザンドマスターの息子です! あなたを倒したサウザンドマスターの、息子です!! 現に僕だってあなたを、エ

ヴァンジェリンさんを倒した……!! どこが足りないっていうんですか!?」
 
 つくづく、このガキが何を考えて行動しているのかがわからなくなる。
 どうしてそこでサウザンドマスターの名前が出てくる? どうして自分ではなく、他人を引き合いに出す?
 ――――ふん。いいだろうとも。
 
 「来週土曜日、ここに来い。そこまで啖呵を切ったなら、それなりの覚悟があるってことだろうな。サウザンドマスターの名まで出し

ておきながら、なんの覚悟もしていないなど、ある筈がないよな?」
 
 「も、勿論です!」
 
 「よぅし。ならもう今日は帰れ。気分が悪い。花粉症だとも、あぁ、そうだ花粉症だ。泣きたいくらい花粉症だ!!」
 
 茶々丸に言ってふたりを放りだすように伝える。
 そのままベッドに潜り込んで考える。
 
 どうやって、一体どうやって壊してやろうか。
 どうやって壊してやろうか……ぼうやの、心を。体を。プライドを。
 
 どうやって、天狗の伸び過ぎた重い鼻をぶった斬ってやろうか、と。
  
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:26  end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:4-4

 
 「はぁ……っ、はぁっ」
 
 容赦なく襲う熱波。喉も肺も焼けつき、頭がくらくらする。
 それでも、私は進まないといけない。
 
 「もうちょっと……っ」
 
 ――――どどん!
 六課の隊舎がまた大きく揺れる。ふらつく足下が火でチリチリと炙られる。
 じわりじわりと血が滲んでは熱でパリパリに乾いていく。
 こんなことなら、グリフィスの言う通りに彼に任せておけばよかった。そんな考えが何度となく脳裏によぎる。
 その度に、違う声がグリフィスの提案を追うように頭を駆け抜けていく。
 
 『お前が適任だからだ。理由は嫌でもそのうちわかる。ヴァイスにも頼もうとしたけどな、止めたよ』
 
 ユークリッド隊長が言った言葉。
 私が適任で、その理由はきっとこの鍵を使えば分かるという。ヴァイス陸曹に頼もうとしたのは仲が良かったからなんだろうけど、それでも私を選んでくれた。そこに意味がきっとある。
 私に頼む意味……。
 
 「つ、ついた……!」
 
 ユークリッド隊長の執務室。今は誰も使っていない、空き部屋となった場所。
 地上本部から証拠品として大量の私物が運び出されたけど、ただひとつ、カプセルだけが残っている。八神部隊長が「自分のものだ」と嘘をついてまで残したモノ。
 それを開けなくちゃいけない。
 
 「……っく!? な、なんで開かないの……っ」
 
 ユークリッド隊長から渡された鍵をカードリーダーに読み取らせて執務室の扉を開けようとすると、ドアロックは解除されたはずなのに開かない。
 体当たりをしても、蹴ってもビクともしない。その場にズルズルと座り込んでしまった。
 ここまで来て、扉があかない。こんな馬鹿なこともない。
 
 「はぁ……っ、はぁあ……っ」
 
 目が霞む。
 意識を保てそうにない。声が出せるのなら精一杯叫んで謝りたかった。
 ごめんなさい、って。
 
 「……あ、れ?」
 
 ふと、ちょっとした違和感に襲われた。
 そういえば、私はなにか忘れている気がする。いや、勘違いと言ってもいいかもしれない。
 なにか、とんでもない勘違いをしている気がする。
 
 
 『どうしても、どうにもならない時にオレの部屋に入って、パスキーを言えばいい』
 
 
 パスキーを“言えばいい”。このカードキーはあくまで“部屋”の鍵だ。
 ハッとして、もう力が入らない体を無理やり起こし、扉の隅々まで調べていく。
 どうやら、今回のドンパチで建てつけが悪くなってスライドしなくなってしまったらしい。これならまだ、なんとかなるかもしれない。いや、これくらいなんとかして見せる。
 
 「はぁっ、くっあぁっあああああ!!」
 
 手近に突き出していた鉄パイプをどうにかして引っこ抜いた。
 かなり重い。振り上げるのにも一苦労する。息を荒げながら、その鉄パイプを扉と壁の隙間にに叩きつける。何度も何度も叩いて叩いて、扉がへこんだ場所にパイプを突き立てた。
 
 「はぁっ、くぅ……ん、はぁっ!」
 
 鉄パイプをテコ替わりに、扉をどうにかしてこじ開けようろとする。が、当然女ひとりの力で開く筈もなく、膝をついて虚しく刺さる鉄パイプに寄りかかった。
 一度呼吸を整える。余計な熱も入ってくるが、もうそんなことをいちいち気にするような体ではなくなっている。
 
 「もう、一回……っ!」
 
 全身に鞭打ってもう一度鉄パイプを握りしめる。
 首筋が攣りそうになるほどに歯を食いしばり、足に腹に腕に力を込める。鉄パイプは徐々に熱を帯び始め、掴んでいるのが辛くなってくる。だけど、諦めたくない。
 
 「開いてぇぇえええっ!!」
 
 ――――ガリリッ。
 コンクリートが思い切り擦れ合ったような音が出て、扉が5センチ程度開いた。
 たった、5センチ……。
 
 「十分……っ」
 
 一体何が起こるのか。起こってしまうのか。
 それとも、何も起こらないのか。起こってはくれないのか。
 それも、ここで諦めたら何もわからないまま終わる。ユークリッド隊長がなぜ私に鍵を渡したのか、それもわからないまま終わる。
 
 「あ、アルター・トゥーム!!」
 
 Altertum、古代。
 隙間の奥、炎が燃え盛る音の中で、何かが開くプシュッという音がした。
 続いて、なぜか欠伸が聞こえた。……え、あくび……?
 
 「あの、誰かいるんですか……!?」
 
 逃げ遅れた人かもしれない。ユークリッド隊長の執務室という場所から逃げ遅れた人、という意味での可能性は限りなく低いだろうけど、だったら、あの欠伸は一体何なのだろうか。
 説明がつかない。
 
 「んー。あぁ、扉の向こうですか。……どういう状況ですの、これは?」
 
 この業火の中、妙に涼しい声でそう訊いてくる。
 状況はどうですか、なんて訊かれても……最悪に決まってるじゃないか。
 
 「ふむ? 『最悪』の定義を話し合いたいところですがそんな状況じゃないのでしょう。扉の前からどきなさい。出ますわ」
 
 「で、出るって……」
 
 魔法を使う、ということだろうか。
 だとしたら、なぜ今までそこにいたのか。いや、寝てたんだっけ?
 とりあえず、扉の脇に寄って中に合図を出す。すると、今度は足音が聞こえ始めた。
 
 「ふんっ!!」
 
 ――バガンッ!!
 
 「うぇっ!?」
 
 扉が勢いよく対面の壁にぶつかる。
 今まで扉で閉じられていたところには、一本の脚がスラリと伸びていた。
 
 「襲撃でもされてるみたいですわね」
 
 「さ、されてます……」
 
 中から出てきたのは長身の女性。
 真白い雪のような長髪に、整った貌。若々しい筈の顔には、玲瓏に磨き上げられた表情が張り付いていた。
 若いのか、それとも見た目以上に年を取っているのかわからない女性だった。
 
 「そう。ちょっとだけ待ってくださる? 今シールドを張りますから」
 
 言うが早いか、私の足元には剣十字の魔法陣、つまりベルカ式の魔法陣が展開していた。
 デバイスならいざ知らず、魔法関連に専門家ほど詳しいわけではない私にも一目で解った。このシールドは硬い。デバイスという補助器具なしでここまで硬いシールドを張れるものなのだろうか。
 
 「そこから動かないようにしてくださいまし。この建物が崩れても大丈夫だとは思いますが、一応ね」
 
 二コリと微笑むと、彼女の体がふわりと浮いた。飛行魔法だ。
 それと同時、真白い羽根を寄せ集めたような髪の先端に周りを埋め尽くす赤い炎のような色が灯った。どうやら、彼女のリンカーコアは外部の魔力素に敏感らしい。ゆらゆらと揺れる赤髪はまるで本当に燃えているようで、勇ましいの一言に尽きた。
 
 「あぁ、お名前を聞き忘れましたわね。教えて下さる?」
 
 「しゃ、シャリオ・フィニーノ……です」
 
 「そうですか。ではフラウ・フィニーノ、また後で」
 
 私はその時に名乗りましょう、と口に出して言いはしなかったが、そう言っているようだった。
 崩れそうな通路に恐れなど抱かず、彼女は高速で飛び去って行った。
 
 「――――っはぁ……!」
 
 落ち着いてみると、この中はなんて新鮮な空気が詰まっているんだろう、と驚いた。
 気が抜けると、一気に脱力して尻餅をついてしまった。そのまま凶悪な程の眠気が襲ってくる。
 気持ち暖かなシールドの中で、固い廊下の上で、私は眠りに落ちて行った。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「げぇっほ! あ、は……くっ、エリオ君っ、フリード……っ!」
 
 精一杯の力でふたりを岸に引き揚げた。
 肺の中に入ろうとした海水を出そうと体が咳を止めてくれない。体がかなりだるい。それに咳で上手く呼吸も出来ないから息苦しい。
 
 「げふっ、こほっ、う、うぅう……」
 
 見上げた空は、赤かった。
 星屑のようにガジェットが空に飛び交い、どこを探してもヴィヴィオを連れ去った人達は見つからない。
 
 「あぁ……うぁあ…………あっ」
 
 『これより5分後に上空の大型ガジェットと航空戦力による、施設の殲滅作戦を行います。我々の目的は施設破壊です。人間の逃走は妨害しません。抵抗せず、速やかに避難してください』
 
 避難……?
 ここまでしておいて、避難?
 
 「なんで……こんな……」
 
 どうして……。
 私たちが遅かったから……?
 私たちが弱かったから……?
 私たちが、間違っていたから……?
 
 「う、うう……」
 
 もう、嫌だ。
 なにが嫌だって、決まってる。
 なくしたくないから。私を受け入れて、今まで育ててくれたみんながいる場所を。
 私が今、ここにいる、いることのできる、この場所を……!!
 
 「竜騎、召喚――――!!」
 
 巨大な魔法陣が瞬時に描き上げられる。
 体から流れていく魔力は、今までにないほどに澄み切っている。
 憎しみという、私の居場所を奪った敵に対しての、純粋な感情で澄み切っている。
 
 
 「ヴォルテェ――――ルッ!!!!」
 
 
 背後に強烈な気配がせり上がって来る。黒き竜鱗、赤い鎧殻。雄々しき翼は空を抱く。
 其が真竜の名をヴォルテール。アルザスの守護竜、黒き炎塊の竜。
 焼き尽くされたモノは容赦なく、灰塵に帰す。大地の鳴動を放つ、星の火を宿す炎。
 
 「壊さないで……私たちの居場所を……」
 
 ――――ギオ……
 
 「壊さないでぇ――――――――ッ!!!!」
 
 ――――エルガ!!!!
 
 咆哮するが如く炎が迸り、天空を引き裂いてゆく。
 残ったものはガジェット数十機。数百を数える数が、たったひとつの砲撃で消えた。
 その威力を見て、私は、この力にまた恐怖した。
 
 「なんで……どうして……っ」
 
 「…………なぜ、どうしてと訊く前に、誰にそれを訊くか、考えたことはおありですこと?」
 
 「っ!?」
 
 驚いて振り返ると、見知らぬ女の人が浮いていた。
 真っ白い髪の毛。その先端だけが、ゆらりゆらりと紅めいていた。
 
 「だ……っ?」
 
 「……考えたことは、おありですか?」
 
 頑として質問を変えない。
 ただそこに敵意のようなものはなく、単純に、問いかけられているんだと理解できた。
 ゆっくりと、その質問に首を横に振った。誰かに訊こうと思って口に出した言葉じゃない。意味なんてない、ただ不思議に感じたから出た、独り言のようなもの。
 
 「そうですか。結構」
 
 彼女は目を瞑り、こくりと頷いた。
 
 「あ、あの……あなたは?」
 
 「ワタクシですか? そうですね、しがない通りすがりのお姉さん、でしょうか?」
 
 答えになっていなかった。
 しかし、そんなことも気にせずに女性は続けた。
 
 「見えますか……? いえ、見えないでしょうね。地上本部上空に巨大な竜が召喚されています」
 
 地上本部の方向を狂いなく指差すと、そんなことを言った。
 ここから地上本部まではざっと50km以上はある。それを見ろ、なんて馬鹿げていると思う。
 それに、それが本当かどうかもわからないのに……。
 
 「……あなたが、倒すのです」
 
 「えっ!?」
 
 「あなたと、真竜で……倒すのです」
 
 「む、無茶です……!」
 
 「何が無茶だというのです? 自分の力を信じられないのですか?」
 
 違う。信じ過ぎているから、無茶な話だった。
 ヴォルテールは、確かに強い。強すぎるほどに、人が相手になったら、手も足も出ないほどに強い。たとえ、なのはさんやフェイトさん、八神部隊長とが協力しても、僅差で勝てないだろう程に、ヴォルテールは強い。
 だから、怖いんだ――――。
 私なんかが、持てる力じゃない。持っていていい力じゃない。
 
 だから――――。
 
 「…………そうですか。なら、ここで逃げるのですね。良い選択です」
 
 「え?」
 
 「怖いのなら逃げる。一般人として賢い選択ですわ。さて、ここで質問ですわ」
 
 「う?」
 
 その話の流れ方がどこか誰かに似ている気がして一瞬戸惑ったものの、彼女が口にした質問にそんな考えも吹き飛んだ。
 そして、私は――――
 
 「あなたは、どうしてここにいるのですか?」
 
 どうして、ここにいるか。
 それは私が……管理局員だからで……。
 
 「あなたはどうして、ここに留まり戦ったのです?」
 
 それは、私の――――
 あ。
 
 「よろしい。合格です」
 
 顔に出ていたのか、女性は二コリと微笑み、私の頭を撫でてくれた。
 そのときにエリオ君が目に入ったのか、さらに微笑みを増してエリオ君を抱き上げた。
 
 「起きなさい、少年」
 
 ぺちぺちと軽く頬を叩いてエリオ君の目を覚まさせた。
 ごほっ、と海水を吐いてエリオ君は目を開けた。
 
 「う、うわっ!?」
 
 目の前に見知らぬ女性の顔があったからか、エリオ君は彼女の腕の中で少し暴れ、私がいることに気がつくとすぐに落ち着いた。
 彼女はエリオ君をゆっくりと立たせ、それから二コリと微笑んだ。
 
 「あなた、ワタクシを護衛なさい。ワタクシは今から竜を牽制しますから」
 
 牽制する、と軽々しく口にした後、5分経過を告げるブザーが機動六課上空に鳴り響いた。
 残った航空戦力が一斉に爆撃を開始した。まだ若干残っているシールドが衝撃を情けなく緩和してはいるものの、いつそれが切れるかも分からない。
 
 「さぁ、話している暇はありませんわよ? 選択するのはあなたがたです。私の指示に従うか、運命に従うか。好きな方を選びなさい」
 
 私が戦った理由。
 それは私が、私の居場所を守りたかったから。
 だったら、だったら運命に流されてちゃいけない。この人が誰だっていい。私の居場所を一緒に守ろうとしてくれている。
 彼女が言ってることが嘘か本当かなんてもう、とっくに関係なかった。
 
 「行きます。行こう、ヴォルテール……!」
 
 「守ります。僕があなたを、きっと……!」
 
 声が重なった。
 よろしい、と彼女は本当にうれしそうに笑った。
 途端、厳しい顔つきになって指示を出してくれた。
 
 「私が竜を牽制しますわ。真竜と共にあなたは全力で接敵しなさい。牽制する間、君は私の護衛。わかったかしら? 一言でまとめてあげましょう。近づいて、倒す! ですわっ」
 
 ヴォルテールの手の平に乗り移り、私たちは飛び立った。
 後ろ手に六課が粒のようになった頃、頭上を一筋の閃光が翔け抜けた。爆発音を伴って飛んで行く閃光は瞬きの一瞬で見えなくなっていた。何が起こったのか、詳しいことはわからないけど私は飛び続けた。
 私の居場所を守りたいから。みんなで笑い合える場所を、作っていきたいから……!!
 
 「行こう……ヴォルテール……っ!!」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「演算開始……第一、第二、第三加速環状魔法陣、展開開始……」
 
 巨大な蒼色の剣十字のベルカ式魔法陣が展開される。
 徐々に形取られていく環状魔法陣を尻目に、さらに分割同時演算を展開していく。
 
 「超伝導外郭魔法膜、冷却開始。超伝導外郭魔法膜、第二展開開始……」
 
 超伝導外郭魔法膜。
 マイスナー効果による磁場消滅による重力からの解放。魔力といえど、存在する限りなんらかの磁場を持つ。ゆえに星に引っ張られ、長射程の射撃や砲撃が難しいとされている。落ちるからだ。
 それを防ぐための、魔法膜がこれ、『超伝導外郭魔法膜』。射撃魔法自体の魔力を冷却するのではなく、外郭、つまりまわりを囲むシールドを冷却し、中の射撃魔法を保つ。それをさらに多重に展開。
 極超音速で魔力弾が飛翔するこの魔法は、空気抵抗がとてつもなく激しい。ゆえに魔法膜はあっという間に加熱され、マイスナー効果をなくす。
 緻密な演算と、固定するための集中力。
 さらに、これらに加えて――
 
 「第十三加速環状魔法陣、展開完了――――。超伝導外郭魔力膜、第百三十七展開開始……。目標確認、誤差修正……」
 
 ターゲットのロック。
 一つの過程に数十数百の工程を賭し、それを三過程。
 つまり、加速式演算、超伝導式演算、目標固定式演算の三過程。
 
 「全三過程、終了。オートロード、準備開始」
 
 その三過程を乗り越え、魔法として成り立つ。
 その魔法の外見は、環状魔法陣が50近く設置されているところから、まるで砲身を持つかのようである。
 また、その魔力弾の姿は弾丸。鋭く引き伸ばしたそれは、あるいは槍ともいえるだろう。
 
 「翔けなさい、天粒……!!」
 
 投槍が如く、体を弓なりにしならせ、投擲態勢をとる。
 残すのは、発動をするためのトリガーワードを叫ぶのみ。
 
 「アヴァランチ……ッ」
 
 腕が振り下げられる。
 加速環状魔法陣の第一陣目を通過する瞬間――――
 
 「レーゲンッ!!」
 
 視力を失うかと思うほどの白光が迸る。
 ひとつひとつの魔法陣を通過する度に、薄い蒼がかった白光が雪崩のように発生する。
 そこから落ちる一粒の雨粒。加速しきった、魔力弾。
 
 「第二射、オーヴァロード!!」
 
 過程をコピーした魔力弾を即生成。
 若干の誤差を数秒単位で修正し、もう一度発射。
 わずかにずれていく計算と、命中精度。
 時間はそう多くは稼ぐことが出来ないだろう。せいぜい5分が限界だ。
 
 「まったく……頭がパンクしそうですわっ!!」
 
 第十射を超えたあたりで、女性から初めて弱音が漏れた。
 それでもまだ着弾誤差が1センチと違っていないことを考えれば驚異的である。
 人には真似することのできない演算速度と処理能力。
 それを垣間見たエリオは、驚きで動きが止まってしまっていた。
 
 「す、すごい……」
 
 そういうしかなかった。
 他になんと称賛の言葉をかければよいだろう。
 発射されるたび、空気が振動する。近くの間合いでは衝撃波も凄まじいらしく、エリオが落とし漏らしたガジェットが押し戻される始末である。
 
 第五十射を超えたあたりで、エリオは残ったガジェットの二分の一を破壊していた。
 残りの半数は衝撃波ですでにスクラップ同然。
 エリオ自身も、その衝撃波には気をつけながらの戦闘行為だ。ストレスと疲労はあっという間に溜まっていく。いわずもがな、魔力も同様で、すでにギリギリのところで踏みとどまっていた。
 
 「はァ……っ、ハァ……ッ!」
 
 肩を上下させ、エリオはストラーダを杖代わりに片膝をついた。
 ガジェットはまだ数機残ったまま。誰だか分からない女性も、まだとんでもない射撃を行い続けている。
 
 「ストラーダ……ッ、フォルムアインス!」
 
 《ja! Speerform!》
 
 あとは腰を据えて迎撃するしかない。
 そうエリオが判断した時だった。上の方から怒鳴り声が聞こえた。
 
 「たとえばですわ! 突撃するしか脳のない猪が、その場で動かず頭を振り回すだけで相手を倒すことは出来ますか!?」
 
 エリオは最初、馬鹿にされたのかと思った。猪のように突撃するしか脳のない野郎だ、と。
 しかし、それが誤解だと知るのにそうはかからなかった。
 
 「あなたは、今までどうやって戦ってきたのです? 今までどうやって戦場を駆けてきたのですか!?」
 
 「僕は……」
 
 《Dusenform!!》
 
 エリオの意思とは関係なく、ストラーダは勝手にフォルムツヴァイへ移行する。
 それにエリオ自身が驚きつつも、答えは得たとばかりに頷いた。
 ストラーダを構え、息を落ち着ける。残り少ない魔力で、どこまで戦えるか分からない――そんな考えを拭い去る。
 ……――魔力が続く限り、僕は翔け続ける。スピードだけが取り柄の、突撃屋。
 
 「ブースト……!」
 
 《Start!》
 
 弾けるように上空へ。同時に、一体のガジェットを貫いた。
 残り、5機。それを確認した後、エリオはバーニアを吹かし、敵の方へ方向転換する。
 
 「行くぞストラーダ! 魔力尽きるまで、翔け抜ける……ッ!!」
 
 《Jawohl!》
 
 まるで稲妻。奔る雷閃のように次々にガジェットを貫き翔けて行く。
 最後の一体を貫いたところで気が抜けてしまったのか、最後の着地を確認する前に上空で気を失ってしまった。
 地面に激突するより早く、その身体はまた宙に舞い戻って行った。女性が引き揚げたのである。
 
 「……ふぅ。まったく、無茶をしろとまでは言ってませんでしたけどね。突撃屋さんは、こういう性格が多いのでしょうか」
 
 呆れたように、また懐かしいものを見るように彼女は呟いた。
 計100射。射撃はとうの前に終わりを告げており、それはまた、作戦が次の段階へ移行したことを示している。
 つまり、ヴォルテール対『サベージ』。
 
 竜対竜の、一騎打ち。
 
 地上本部そのものを消し飛ばしかねない、破壊の戦い。
 彼女は地上本部の方向を眺めながら、額の汗をぬぐった。
 
 「……ワタクシは、どれほどの間眠っていたのでしょう……」
 
 その事実を知るという恐怖を払拭するため、ただ一心不乱にアヴァランチ・レーゲンを投げ続けた。
 それでも拭えぬ不安は、どうして出てくるのだろうか。こんなこと、よくあったのに。
 
 「慣れ合いすぎたのか、それとも……ワタクシがユーリに恋していたのでしょうか?」
 
 言ってから、彼女は首を振った。
 エリオを寝かせ、そのまままた空へ上がった。今度は牽制のためではなく、戦線へ出るためにである。
 
 
 「ラインハルトに仕えし、竜毀の姫騎……“クリームヒルト”。いざ……ッ!!」
 
 
 彼女――竜毀の姫騎、クリームヒルトは六課から地上本部へ一直線に飛び立った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:4-4  end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

いつの間にかあと約一週間、そして拍手レス。

ども、草之です。
この頃、更新がめっきり少なくなってしまって本当に申し訳ないです。
 
スランプじゃないんだろうけど、忙しくて暇があっても書く気力が湧いてこないという事態に。
果ては月曜日は『エヴァ:破』見に行って、帰ってきたら日付が変わってたりとか。梅田でレイトショーみたらそうなりますよね……。
ちなみに、シネ・リーブル梅田、7・6日、月曜日の20:40からの上映分で、でかい図体、黒い服装、赤いショルダーバッグを持っていたのが草之です。その場に読者さんがいたとは考えられませんが(笑)。
 
うん。
エヴァは見ないと損ですよ。あれ。
DVD待ちしとこうと思いましたが、見に行って正解だった。
感想としては以下。
 
『序破急?』の4部作の第2部作目です。確認。
序破急の破は、破壊の“破”。
一言であえて、しいて、まとめるなら草之はこう言おう。
 
『いいスピンオフ作品だった!』
 
と。いよいよ草之の考察が固まってきた感じ。
きっと『序』の最後のカヲル君のセリフで確実に皆様お気づきでしょうが、一応拍手レスとともに追記にて。
 
そして、まぁ……。
ブログ開設一周年まであと約一週間(8日)です。
来週の金曜日、17日がその日。早いものです。
 
忙しくなる随分前に描いたお礼絵と、なにか短編を書きたいと思ってます。
リクエストも、まぁ来ないでしょうけど、一応受け付けてます。
 
 
 
というわけで、更新予告。
もうすでに狼少年的なものになりつつありますが……。
 
『優星』を日曜日に更新。
 
今はこれだけを達成できるように努力します。
 
 
では、以下追記からエヴァ新劇場版考察と拍手レスです。
以上、草之でした。
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:27

 
 月刊ウンディーネ。
 水先案内業界トップシェアを誇る情報誌だ。毎回数人のプリマに取材し、記者との対談を載せていたり、漫画家であるアルセーヌ・R・ミツヤによる大人気連載中である『Nice! プリマをねらえ!!』も景気良く掲載されている(正直これのどこが面白いんだと思う)。
 他には水先案内業の経済事情や、それぞれの会社の経営陣によるリレー式コラムなども載っている。
 あとは季節の移り変わりには観光スポットなどの特集が組まれる時もある。これは主にマンホーム版で重宝する。
 最後にめぼしいものと言えば、上半期下半期でのプリマ昇格者の特集か。
 
 まぁ、基本的には“ウンディーネ”の情報誌だと思ってくれれば間違いはない。
 となれば、基本的にこの雑誌に載るのは女性だけということになるだろう。コラムは別だが。
 
 「……え……っと」
 
 もう一度、表紙の特集記事の見出しをよく読み返してみる。
 何度読んでも読み間違いなど見つからず、そろそろ本屋の店員から変な目で見られ始めた。
 買おう。元からそのつもりだったんだし、問題はない筈だ。
 
 「…………『誰が呼んだか、アクアに第五の妖精現る!?』…………」
 
 カフェ・フロリアンでカフェ・オレを頼んでから、改めて表紙に書かれている文字を読み返す。
 いつだったか。これ、呼び始めたのは私こと、晃・E・フェラーリです。
 恐る恐るページを開いてみると、あるわあるわ、目撃証言だの助けられましただの。
 
 「証言一。『態度の悪いお客様に絡まれている時に、助けてくれました。ありがとうございます!』」
 
 この制服はMAGAか。
 あそこも中堅水先案内店で、結構人気がある。
 
 「証言二。『見ず知らずの人なのに、荷物持ちを手伝ってもらいました。ありがとうございました!』」
 
 これはオレンジぷらねっとのシングルか。
 荷物持ちってことは先輩から頼まれた買物の途中だったのだろうか。
 ……次は一般客からか。
 
 「証言三。『道に迷っているところを助けてもらいました!』。証言四『オススメのお店を教えていただきました!』」
 
 カフェ・オレが運ばれて、一口口に含んでパリパリに乾いた喉を潤す。
 一度深呼吸を挟み、ページを進める。
 
 「『目撃証言。白い髪に黒い肌、鋭い目付きとは裏腹にその態度は温厚。身長は190cm前後』……って、なぁ……」
 
 明らかにひとりしかいない。
 そんな奴、このアクア中を探しても、いや、マンホームを含めてもいい。
 そんな奴はアイツ一人しかいない。
 
 「……謝りに行った方が、いい、か……?」
 
 でも記事を見ていく限り、まだ誰だとは特定されていないようだ。アイツの人助けをしても名乗らない、というなんだが妙な謙虚さのおかげだろう。
 
 「『誰が言い出したのかは謎だが、彼の事を“アクア第五の妖精――ブラウニー ――”と呼ぶ者まで現れた。次号からは数ページを設けてこのブラウニーを追っていきたいと思う』か。こういうの好きそうだもんなー、雑誌って」
 
 これは本格的に先に謝っておくべきかもしれない。
 この雑誌をARIAカンパニーの連中も見るだろうし、今日は休みだし、ちょうどいいかもな。
 
 空を見上げると、茜色が目を突いた。
 
 「……さて、と。おーい、ウェイター、お勘定!」
 
 カフェ・オレ分の代金と、チップを置いてフロリアンを離れる。
 向かう先は、あまり行く気になれないARIAカンパニー。
 誰が言い出したか分からないんなら、別に謝らなくてもいいじゃないか、などとも考えたが、それはダメだ。こうなっちゃ仕方ない。こういう性分なのだ。
 
 前を向くと、カチカチと爪を鳴らしながら私の前を横切る黒色の地球猫。
 嫌な予感しかしなかった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「…………やばい」
 
 冗談ではなく、本気で。
 月刊ウンディーネを購入するのは、いつからか俺の役割になっている。
 今日も何気なく本屋で手に取って購入し、よく確認することなく会社まで持ちかえってきて、今初めて開いたところだ。
 
 もうすっかり秋色づいてきたというのに、俺は真夏の太陽の下にいるような勢いで汗を流している。
 今までなぁなぁでいたが、俺には住民票どころか戸籍すらない。そもそも存在しない人間なのだからそれは当り前なのだが。
 ともかく、これは由々しき事態なのは間違いない。
 なぜなら、ここで俺が戸籍を持たない一人間だと分かってしまうと、どういうカタチであれ不法入国、いや入星? の疑いを掛けられるからだ。それを匿ったということで、アリシアや灯里、下手をすれば姫屋の晃に藍華、オレンジぷらねっとのアテナにアリス、その他俺に関係を持った人全員に飛び火しかねない。
 …………それだけは、あっちゃいけない。
 
 「……」
 
 選択の余地はない。荷物をまとめる暇もない。
 今すぐここから出ていかなければ、どうなることか、わかったもんじゃない。
 
 「…………ごめん、アリシア」
 
 約束を、早速破っちゃうな。
 罪悪感が全くないわけではない。惹かれる想いがないわけではない。
 残れることなら、残りたい。だが、それで人まで巻き込んじゃ本末転倒。
 
 「さよならだ」
 
 ドアノブに手をかけようとした時だった。
 俺が扉を開くより早く、扉が開いていく。扉の向こうでは大多数の話声。明らかに俺の事を話している。
 もう俺がここに居候しているということがバレたのか!?
 マズイ、どこか、隠れる場所――――!!
 
 「エミヤーン! ブラウニーってあんたのことでしょ、白状しなぁー、あ、あ?」
 
 間に合ったか……。
 アイナに続いて、おそらく月刊ウンディーネの記者だろう人らが数人入って来る。
 そうか、アイナも月刊ウンディーネを読んでるんだな。それで記事を読んでピンと来て、さっそく連絡を入れたわけか。アイツらしい。ひっぱたいてやれないのが心残りだ。
 
 ――――認識阻害の結界剣。
 どこかの名無しの魔術師が使っていた簡易魔術礼装。どうせだからと視ておいてよかった。
 ただ、これは地面に突き刺して範囲結界を創り出すモノ。この場から動くことは出来ない。早く帰ってくれることを願う。
 
 「いないんですか?」
 
 「みたいですね。あはは、すいません。連絡なしに突撃したら驚くかなーって思ってたけど、本人いなくちゃ意味ないですよねぇ?」
 
 あははー、と呑気に笑ってやがること。
 本当にひっぱたくことが出来なくて残念だよ、まったく。
 さて、我慢比べと行こうじゃないか。
 
 
 それから1時間は経っただろうか。日は若干沈みかけ、空が橙色にくすんでいる。
 アイナは少し前に帰ってきた灯里達三人娘とワイワイ話し始め、記者は適当にくつろいで待っている。
 
 「それにしても、衛宮さんおっそいわねー」
 
 「買い物袋があったからすぐ帰って来ると思ったんだけどなぁ……」
 
 「でっかい行方不明ですね」
 
 「まぁまぁ、お腹減ったら帰ってくるでしょー」
 
 「いや、夕飯作るのって衛宮さんだし」
 
 いよいよ出ていけなくなってきたな。
 これは……寝静まるのを待つしかなくなってきたな。それならそれでいいのだが。
 
 「ただいま帰り……あらあら?」
 
 アリシアが帰ってきた。どうも帰ってきたと同時に記者とアイナの存在に驚いたようだ。
 そのまま近づいてきて、どういった事情があるのかを尋ねていた。
 
 「あぁ、今月の月刊ウンディーネご覧になりましたか、アリシア嬢?」
 
 「え? いえ。まだ見てないですけど」
 
 そのまま俺が買ってきた月刊ウンディーネを渡され、軽くパラパラと巻頭特集、つまり俺のことが書かれた記事を読んでいく。
 それが読み終わった途端、ぱふん、と本を閉じた。
 そして、にっこりといつもの微笑みを変えず、こう言った。
 
 「今日、彼は出掛けると言っていたました。たしか、グランマのところに」
 
 「グランマの?」
 
 「そうです。明日には帰ると言っていましたから、すいませんが明日また」
 
 「そうですか。では我々はこれで退散することにしましょう」
 
 普通、ここまでアッサリと記者が引き下がる筈がない。
 だが、そこで引き下がるのがこの世界の記者なのだ。ああいうゴシップじみた記事に仕立て上げることはあっても、突っ込んでは来ない。元々がウンディーネ相手の記者なのだから、しつこいと嫌われてロクにインタビューが出来なくなるからだろう。それでは月刊ウンディーネという雑誌名にキズがつく。
 記者は俺の名前だけでも聞き出そうとしていたが、アリシアが頑としてそれを許さなかった。
 
 ただ、ここまでしてくれたアリシアに別れを告げられないというのは、心が痛む。
 寝静まれば、俺は出て行くだけだ。
 
 「…………」
 
 声は出せない。
 あまり派手な身振りも出来ない。
 そんなことをすれば認識阻害の効果が薄まってしまい、見つかる。
 ただただ、目を瞑っていることしか出来なかった。
 
 それからしばらくして、晃がARIAカンパニーを訪ねてきた。
 俺がいないと分かると「出直してくる」とだけ言ってすぐ帰って行ったのだが。
 
 
 深夜3時。
 アリシアがやっと寝付いてくれた。
 今まで俺が帰ってくるのすぐ傍で、椅子に座りながら、ずっとずっと、待っていてくれた。
 まだ温かいコーヒーから湯気が立ち上っている。
 
 音を出さないように、静かに結界剣を抜き、消滅させる。
 少しだけ穴が開いてしまったが、気にするような大きさじゃない。
 
 「すぅ……すぅ……」
 
 完全に寝てしまっているのを確認して、扉に近づいて行く。
 音は出していなかった。気配も消していた。だけど――――。
 
 「し、ろうさん?」
 
 「…………」
 
 返事はしなかった。
 逃げもしなかった。
 ここで逃げても、ただアリシアを余計に悲しませてしまう気がして踏みとどまった。
 ただ、振り返りはしなかった。
 
 「おかえりなさい」
 
 「…………」
 
 「待っててくださいね、今お夕飯温め直しますから」
 
 「アリシア……」
 
 その態度が俺にはあまりにも痛く感じて、耐えられず声をかけた。
 そんな俺の感情を知ってか知らずか、彼女はいつもとかわらない笑顔で振り向いた。
 
 「はい?」
 
 「ごめん」
 
 「ど、どうしたんですか? 急に謝ったりして……」
 
 「どうしてもこうしてもないだろ。下手したら、お前らまで捕まるかもしれないんだぞ?」
 
 「捕まるって、何に?」
 
 「警察とか、だよ」
 
 少し喉に詰まる言葉だった。
 そこまで言ってもアリシアは頭の上から『?』を消そうとはせず、首をひねった。
 
 「あらあら、どうしてですか?」
 
 「だから……っ!」
 
 続きを言おうとして言葉を呑んだ。
 もう言ってもしょうがない。わからないんなら、それでもいい。
 それよりも早く、ここを去りたかった。
 
 「…………っ」
 
 「お出かけですか?」
 
 「……はっきり言ったらどうだ」
 
 「…………士郎さんなら、勘付くと思ってました。けど、なんででしょうね……。気がつかなかったことが、ちょっぴり嬉しいです」
 
 今度はこちらが首をひねる番だった。
 俺なら勘付くと思っていた、とはどういうことか。
 それ以上のことを聞いていいのかを戸惑い、言葉の代わりに唾の飲み込んだ。
 
 「――どういう意味だ?」
 
 「えっ? あ、あの……気がつかないくらい、私たちのこと心配してくれてるんだなぁって……そう勝手に思っちゃって、嬉しかったんです、けど……あはは」
 
 「あ――――、いや。ちが……。はぁ、もういい」
 
 緊張が一気に緩んでいった。
 その場にへたり込んで、アリシアを見つめながら、彼女の次の言葉を待った。
 アリシアはやけに嬉しそうに俺の顔を覗き込みながら、確認するように言った。
 
 「お夕飯、食べますか?」
 
 「……あぁ」
 
 もうどうにでもなってくれ。
 そういう考えが頭をよぎり始めていた。ただ、そこに投げ捨てたような意味はなく、アリシアがあそこまで自信たっぷりに言ってるところを考えて、本当に大丈夫なんじゃないか、という安い信頼が芽生えてきたからだ。
 しばらくすると、アリシアはキッチンから今日の夕飯のシチューを温めて、トレイに乗せて運んできてくれた。
 それを受取り、少なからず減っていた腹を満たすようにすする。じんわりと温かい。甘い野菜の味が口いっぱいに広がって、胃がすんなりとその料理を受け付けた。
 
 「おいしい」
 
 「あらあら、うふふ」
 
 調子に乗っておかわりを繰り返すこと3回。
 さすがにもうお腹いっぱいになってきた。
 
 「ごちそうさま。おいしかったよ」
 
 「ありがとうございます。うふふ」
 
 食事も終わり、ある程度落ち着いたところで、話を戻すようにアリシアを促した。
 ちょっとだけバツの悪そうな顔をしてから、いつまでも床に座ってるのも何ですから、とテーブルに対面して座った。
 すっと軽く深呼吸してから、アリシアは言った。
 
 「士郎さんは、たぶん、今回のあの記事で戸籍とかがないのをまずく思ったから、ああいうこと、しようとしたんですよね?」
 
 ああいうこと、というのが『どこかへ身をくらませる』という意味なら――――
 
 「あぁ、そうだ。お前らにも迷惑がかかるだろうからな」
 
 「だと思いましたよ」
 
 うふふ、といたずらっぽく笑う。
 
 「大丈夫ですよ。戸籍は、ちゃぁんとありますから」
 
 「…………は?」
 
 「ちょっと待っていて下さいね」
 
 とてとてと会社の重要書類などが置かれている、アリシアしか触らないところまで早足に駆けて行き、端っこの戸棚から一封の封筒を取り出して、テーブルまで戻ってきた。
 テーブルの上に置いて、手で「開けてみてください」と促された。
 
 「では、遠慮なく……」
 
 「はい」
 
 まだ封じられていない口から、一枚の書類を取り出してみた。
 戸籍表だった。
 
 「……特別養子!?」
 
 誰が親なのかを見る前に、そこに目が行った。
 俺の欄に、しっかりと『特別養子』を書かれていたからだ。
 ……法律も変わっていった、ということだろうか……。でないと一応、戸籍はないが日本人である俺が特別養子になれるはずがないからだ。日本における特別養子とは、以前の実親との関係を断ち切った、本当に養子先の子供になる、というものである筈。
 しかも、条件として6歳未満、というものもある。例外として8歳未満であってもよい、というものがあるが、ここでは割愛する。
 
 「養親……天地、秋乃……!?」
 
 ついでに言ってくと、養親になるには配偶者――つまり夫婦――がいることが条件として定められている。
 確か、グランマは独り身だったと思うんだが……?
 
 「いや、じゃなくて、どういうことだ、これっ」
 
 「そういうことです、それ」
 
 「いやだって民法とか!」
 
 「全部クリアしてますよ?」
 
 「なんでさ!?」
 
 アリシア曰く、「日本じゃないんですから」だそうだ。
 養親は基本的に配偶者がいないといけないらしいのだが、配偶者がいない場合でも『養親側がそれに足る人物と判断出来ればその限りではない』らしい。
 養子側としては、日本の普通養子となんら変わりのない成立要件らしい。つまり、未成年者でない俺は裁判所の許可も必要ではなかったという。
 なんてゆるい条例だ。
 
 「…………ていうか、これいつ組んだんだ?」
 
 俺はつい最近になってやっとグランマと知り合ったんだぞ。
 いつの間にこんな養子縁組なんかしてたんだか。問題はここじゃない気がしないでもないが……気にしないでおいた方がいいのだろうか。頭が痛い。
 
 「士郎さんがここに来て……半年ぐらい経った時、かな」
 
 「もう一年近く前の事なのか……」
 
 それはすごい。
 何がすごいって、アリシアもそうだが、グランマが何よりすごい。
 たった半年、付き合っただけの人間をそこまで信用して、しかもグランマに至っては会ったこともない、口伝えだけの人物を養子に、しかも特別養子に取ったというのだから。
 あぁ、あぁ。
 呆れるくらいに、すごい。呆れるくらいに、やさしい。
 
 「…………参ったな」
 
 「うふふ」
 
 これはこれで、隠れたくなってくる。
 もちろんいい意味でだが……。
 
 「……まったく、本当に突拍子もないことをするな、アリシアはさ。グランマもだけど……」
 
 「そうでもないですよ、きっと」
 
 「だといいんだけどな」
 
 「……一応明日のインタビューでも、そこまでは訊いて来ないと思いますよ。軽い雑談みたいな感じですから」
 
 「まぁ、へまはしないようにするよ」
 
 「あらあら、うふふ」
 
 アリシアにはこの後すぐに寝てもらうことにした。
 士郎さんはどうするんですか、と心配そうにこちらを見てきたので、どこかに行ったりはしないよ、と頭を撫でて彼女をなだめた。
 それを聞いて、余程安心したのか、おやすみも言わないままアリシアは寝てしまった。
 無茶、させたか……。今度買い物にでも誘ってやろう。それでなくとも、アリシアだったら散歩に誘うだけでも一緒に楽しめるかもしれない。うん、お詫びと、今までのお礼を込めて今度誘おう。
 まぁ、まずは明日の取材をどうかわすかを考えなくてはいけないだろう。
 
 3日3晩くらいなら寝なくても日常生活に支障はきたさない。
 だからというわけではなかったが、取材記者に対して、事を荒げずに納めるにはどうすればいいか、と考えているうちに夜が明けてしまっていた。さすがに馬鹿らしくなって、小一時間寝た後再び起床。朝食の用意に取り掛かった。
 
 いつもの朝の、いつもの風景と香り。
 小鳥はさえずり、秋の朝空は結構冷え込む。海は夏に比べれば澄んだ色を示し、波は少し高くなる。
 鍋が美味しい季節になってきた。
 
 「…………どうだかな」
 
 「あ、おはようございますー、士郎さん。グランマのとこ行ってたんですよね?」
 
 「ん? あぁ、今朝方帰ってきたんだ。っていってもつい今しがただけどな。悪いな、急な用事が出来て」
 
 「そうなんですかー。ふぁ……ああ」
 
 「顔洗って来い。髪もボサボサだぞ?」
 
 「はーいっ」
 
 いつもの朝の、いつもの挨拶。
 深呼吸すれば潮の香りが胸一杯に吸い込まれる。
 
 「おはようございます、士郎さん」
 
 「あぁ、おはよう。まだ寝てなくてもいいのか?」
 
 「はい。今日は予約もお昼までですし、ゆっくりお昼寝する予定です」
 
 「無茶はしないようにな」
 
 「はい、わかってますよ。うふふ」
 
 洗面台から戻ってきた灯里とすれ違いざまに挨拶を交わし合い、灯里はこちらに飛んでくる。
 隣り合って朝食の準備をし、食器をテーブルに並べていく。並べ終わった頃にアリシアも戻ってきて一緒に配膳していく。
 まだかまだか、と煌めいた瞳で待つ社長の分も忘れずに。
 
 「いただきます」
 
 『いただきます』「ぷいにゅ」
 
 いつもと変わらない朝、いつもと変わらない風景と香り。
 いつもと変わらない朝の、いつもの挨拶と食事。
 
 「おいしい~」
 
 「あらあら、お弁当がついてるわよ、灯里ちゃん」
 
 今日は、いつもと変わらない。
 それがこんなにも楽しげで、なぜかいつもと違う気がする。
 
 「ありがとうな、ほんとに」
 
 三人には聞こえないように、そっと呟いた。
 ただこれを伝えたいのはアリシアや灯里達だけじゃないんだぞ、わかってるか、自覚してるか?
 
 
 ――――遠坂。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「なんだかんだって言ってタイミングがなさすぎて一ヵ月謝りに行けない私って何なんだ、ちくしょー」
 
 文句を一言口にして、渋々と今月分の月刊ウンディーネを購入した。
 表紙には『ブラウニー』の言葉がそれなりの大きさで載っていた。少し心苦しいところがありながらも、ページをめくっていく。
 そして、先月公言したとおり、『ブラウニー』の特集ページが組まれていた。
 しかも、インタビュー付きで。
 
 「遅かったか……」
 
 記者との対談。軽く載っている衛宮のプロフィール。
 身長と適当な趣味。どうでもいいことばかりが載っていた。
 
 「…………なんだ、意外に真面目に答えてるなぁ。つまんないの」
 
 1ページ半に渡るインタビューは特にこれと言って面白いものが載っているわけではなく、だからと言って真面目にやり過ぎていて固いという印象もない。
 本当に、普通の記事だった。
 
 だけど、あいつらしい言葉がところどころに散りばめられていて、あぁ衛宮なんだな、なんてわけのわからない感想が浮かんできた。
 今更だけど、謝りに行ったら逆に空気読んでないみたいになるな。
 
 「私の胸にしまっておくとするか」
 
 「なにをですか?」
 
 「あん? 何をって、このブラウニーの言いだしっぺが私だってことだよ」
 
 「……へぇ~」
 
 「って、藍華!? お、おい、これ誰にも言うなよ? 特にアリシアとか」
 
 「え~、どうしよっかなぁ……。つい昨日晃さんにくるみパン買いに行かされたしなぁ……」
 
 「人の足元見やがって……。わかったよ、わかったわかった。今度昼飯奢ってやるよ。あと特別にデザートも奢ってやる」
 
 「いっやぁー。なんだか悪いことしちゃったみたいですいませんねぇ」
 
 悪いと思ってるんなら言うなよ、ちくしょー。
 絶対今度練習のときコテンパンにしてやるからな、藍華の奴め。
 
 「衛宮さん、カッコイイこと言ってましたよね」
 
 「……そうかぁ? いつものことだろ、こいつがこんなこと言うの」
 
 パシパシと紙面を軽く叩く。
 その先には、一つの質問と、ひとつの答えが載ってある。
 
 「それって、衛宮さんが無条件でカッコイイってことですかぁ?」
 
 にやにやといやらしい笑顔をこちらにむけてくる。
 こいつ、弱み握ったからって調子づきやがって……。本当に覚えてろよ。
 
 「そう言いながら、ほんとにそう思ってるのはお前じゃないのか?」
 
 「そんなことありませんよーだ」
 
 「どうだかねー」
 
 「あー、なんですかそれー! 言っちゃいますよ、バラしますよっ?」
 
 「はいはい、ごめんごめん。許してねっと」
 
 机の上にページを開いたまま雑誌を置く。
 そのまま伸びをして、肩を鳴らす。ストレッチもほどほどに、深呼吸を数回。
 
 「じゃ、私仕事だから」
 
 「はーい、いってらっしゃーい」
 
 扉を開けた瞬間、廊下側の窓から少し肌寒いと感じるくらいの風が通り抜けた。
 
 「もう秋も中頃だなー」
 
 言葉も一緒に色づいていく。
 きっと、今年は去年以上に面白いことが待っているに違いない。
 
 「ゴンドラ、通りまーす!!」
 
 来るべき面白いことに向かって、私は今日を生きていくとする。
 ……か。まぁ、受け売りなんだけどな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――――『衛宮士郎さんは、アクアのどういうところがお好きですか?』
 ――――「特にありません。どこが好きで嫌いで、じゃないんです。私がアクアを好きでいる理由……それは――――」
 
 
 『明日来る楽しいことに向かって、今を生きていける。そんな、星だからです』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:27   end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

またやらかした。そして拍手レス。

ども、草之です。
まずはじめに謝罪を。
 
T・M様。
揚雲雀様。
 
お二方のFC2拍手で送られたコメントですが、数日前、拍手のページのみがエラーになり、直ったと思ったら双方のコメントが消えていました。
ですので、今回の拍手レスで返信を返すことができません。すいませんです。
 
 
 
 
明後日です。
ブログ開設一周年まであと2日。今日と明日で金曜日がXデー。
まだお礼はいいませんぞ、殿っ。
金曜日にお礼を言わせてもらうんだからねっ、勘違いしないでよねっ。
 
誰得なツンデレすいませんでした。
というわけで、お礼絵は即効うp可能ですが(描き置き)、お礼SSの方は目処が立っていません。
7月中に、とは思いますが首を長くして待っていてもらえればと思います。
 
 
 
では以上、草之でした。
以下拍手レスです。

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

祝! 『歯車屋敷』開館一周年!!

しーあわーせはぁー、あっるいってこっないっ、だぁーっから、歩いて行くんだ、ねっ☆
一日一歩っ、三日で三歩っ、さーんぽっすすんで二歩さっがるっ!
 
てことは、今歯車屋敷は約122歩進んでるってことだね、YESだね!
 
 
ども、ウザいテンションな草之です。
だって一周年、だけど一周年。早いもので、もう一年ですよ。
こうして浮かれてるのはいいけど、こんなことでここまではしゃげる草之は頭の中がお花畑だね☆
 
さて、なんといいますか。
ありがとうございます。
 
誰かに見てもらって、誰かに評価してもらう。
たまにはグサリとくるものもあった気がするけど、それもいい思い出。
これからも草之の拙い作品を読んでくれる人たちのために、精一杯の努力と根性で、なって見せます一番星っ!!
 
ひとりの人間が火を持っていてもそれは小さな明かりでしかない。
けれど、大勢の人が火を持って集まれば、それは合わさって太陽にだって迫る『炎』になる……!!
 
炎になったガンバスターは無敵だっ、然りもとい。
炎が照らす歯車屋敷は、いつだってどこでだって皆様のご来館をお待ちしておりますっ!!
 
 
 
 
わけわからん(笑)。
勢いで言っておいてアレですけどね、わけわからん(笑)。
それくらい嬉しいんですよ、この日が。
ひとりででも黙々とこのブログを続けてたでしょうけどね、やっぱり、相互リンク先の方々やコメントをくださった読者様一同……。そして草之自身。
 
この三すくみがなければ、ここまで嬉なんて思えなかった。
ただ純粋に、こころから、ありがとうございます。
 
ありがとうって言える人がいるって、YESだね☆
 
 
ってことで。
お礼の方を用意させてもらいました。
お礼って言えるような、上手いもんじゃありませんけど、いつものことながら絵でございます。
誰を描いたかは、見てのお楽しみってことで追記に置いてありますよっ!!
FC2の画像アップデート容量制限で小さくしてますが、大きいの(原寸サイズ)はPixivに置いておくので興味がある方はそちらも参照のこと。ただ大きさが違うだけなのであしからず。
 
今日も学校帰りに面白そうなリリカルな新連載ネタ(まただよ(笑))が浮かんだりしましたし、『B.A.C.K』も佳境ですし、『背炎』も今からって感じですし、『優星』はまだまだって感じですが、そう、歯車屋敷ははまだまだこれからなんですよっ!!
 
 
と言うことで、更新予告でっす。
 
『B.A.C.K』を来週頭に更新予定!
 
いよいよ地上本部襲撃編最終話。
Act数もこれを除いて、予定ではあと2つを残すのみ。
 
ラストスパートだっ!!
 
 
 
 
 
では、支離滅裂っぽかった草之の言葉に最後まで目を通してくれた人、それ以外でも読者様。
相互リンク先の先生方。
ありがとうございましたっ!! これからも、よろしくお願いしますっ。
 
 
では、以上草之でしたっ。
以下、追記で絵をドゾー。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

今日のアニメ  #12 『チャイナ気分でェ、ハイテンションだァ――――ッ!!』

チャイナしチャイナチャイ~☆
ども、草之です。
 
ヤバい、ジョージヤバい(笑)。
ウルトラヤバス(笑)。
 
改めてジョージに惚れ直したわぁ。
アニメ『CANAAN』。これ面白いんだ。
『468』はプレイしたことなくてPSP版待ちですけど、CANAAN面白い。
ていうか、今期最大の電波ソングだろ『チャイナ気分でハイテンション』は。

あえてジョージVerをカップリングで収録すべき。
 
 
さて、第2話の歌うタクシー運転手に惚れたよ、という報告はさて置いて。
真剣にレヴューしていきましょう。
共感覚者という存在が物語の中心になるらしい。
素晴らしく動くアクションシーン。京都アニメーションが動かすようなにゅるにゅるではなく、どちらかというと、堅実でしっかりした動きをしてます。
 
ギャグ、というか、ジョーキングと言うべきか。
なかなかピリリとした、草之好みの遠回しに笑わしてくれるネタが多い。
 
『468』の売り上げが良かったからだろうか、たぶん、アニメーションにかける予算も多いものだと思われ、作画崩壊の心配もなさそうだ。
そのうちきのこ先生が脚本とか書きだす可能性もある。魔法使いの夜をほっぽり出して。いや言い方に誤解を含みそうだから言い直そう。
 
――――魔法使いの夜の息抜きに脚本とか書きそうだ。
 
よし。フォローできた。
まぁ、気になる人はようつべに行ってください。
まだまだ削除されたりしてますが、転がってますよ。
 
では以上、草之でした。
以下、追記で拍手レス。
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

相互リンク報告です!!

ども、草之です。
結局更新が遅れてますけど、相互リンクの報告です!
(暗にもうしばらく待って下さいと言ってます、すいません)
 
 
お相手様はSOWW様が管理する
 
『空想垂れ流し』
 
です。
ブログ自体にはSSは少ないですが、『空想垂れ流し』のリンクにある『ガンダムクロスオーバーSS倉庫』に、SOWWさんのメイン作品である、『SOWW~Seed Destiny & Lyrical Cross Story~』を連載されています。
 
さて、この作品。ガンダムSEED DESTINYとリリカルなのはのクロスオーバーなんですけど。
とにかく、文体がカッコイイ!!
セリフ回しや、地の文が、無性にカッコいい。
作家視点だと、こういうのを書いてみたいと思わせてくれるようなカッコよさ。
読者視点だと、飲み込まれていく感覚はないものの、いつの間にか次へ次へ読み進めていたりする。
 
ストーリー概要としましては、SD終了2年後という設定。
次元漂流者として、ミッドチルダにたどり着くシン。そこで出会うひとりの女性――ギンガ・ナカジマ。
ギンガをメインヒロインに置いた、割と見ない感じの新鮮な作品。
恋愛模様は結構シリアス。だけど、そのシリアスさを時々反転させてギャグパートにする手腕は確か。
TPOがハッキリとした、メリハリの利いた作品。
必見ですよ、必見!!
 
 
 
 
さて、では更新予告。
追記訂正。
今夜には『B.A.C.K』を更新。
小出しにしていたツケが出てきたのか、長いです。

 
では以上、草之でした。
 
以下、拍手レス。
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:4-5

 
 スバルは虚ろな目をしたまま、私の背に負われている。
 ティアナはそのスバルを見詰めながら、後ろを走ってきている。
 
 「…………っ」
 
 状況は芳しくない。
 入ってくる情報全てが、管理局不利を訴えている。
 
 「ティアナ、スバルをお願いしてもいいかな」
 
 「え? ど、どうしたんですか?」
 
 「私が一足先に外に出て、ガジェットの相手をするよ。スバルを送ったら、ティアナは前線に出て近隣の警備隊と協力して二次被害の防止とガジェットの排除、出来るね?」
 
 「りょ、了解です!」
 
 スバルをティアナに預け、飛行速度を上げる。
 狭い通路内をグングンと加速していく。誰かを抱えたままでは出来ない、減速なしのフライング。
 吹き抜け型の地下駐車場に出ると、一気に地上まで飛び上がった。そして――――
 
 「ひどい……」
 
 視界を埋める火の赤。
 ジリジリと照りつける炎の赤。
 ともすれば、昼のように明るい景色。
 
 ガジェットは上空を、地上を飛び回っている。
 
 「――――ッ!?」
 
 滝のように降る魔力の奔流。数mほど降下して、上を向いた。
 巨大な召喚魔法陣、迸る魔力素。蒼々しいそれに、怖気すら感じた。
 油断なく空を見上げ続ける。
 
 「…………大き、すぎる……っ」
 
 空中に浮かんでいるのに、今にも押し潰されてしまいそうな威圧感。
 今までの敵や、魔法生物とは根本的に違う。……竜という、絶対的な強者。
 
 ヒトが戦えるような存在じゃない。戦えるとしたら、大きさも考えると、それは時空航行艦だ。
 でも、だからって、諦められるわけがない。時空航行艦はミッドチルダ近辺に待機はしているだろう。しかし、陸が海に助けを請う筈がない。ここまで来ても、なんと強情なことだ。
 
 「レイジ……っきゃっ!?」
 
 レイジングハートへ語りかけようとした瞬間、その爆発は起こった。
 まだ爆発自体がやまず、小さな爆発が続いている。見覚えがあった。シグナムさんのシュツルム・ファルケン。
 続いて、第2射、3射と飛んでは来るものの、それが当たることはなかった。
 
 「シグナムさん、まさか……」
 
 怪我をしているのだろうか。
 心配になって、ファルケンが飛んできた方向を見た。それとほぼ同時、急にAMFが強まった。飛行魔法がブレる。
 ……いや違う。これはAMFじゃない。
 
 「集束魔力砲撃……!? 嘘、こんな、人の魔力まで……!?」
 
 アクセルフィンが明滅している。
 魔力が安定しない。……――しかも、竜の集束砲撃が完成しようとしている。
 インターセプトが出来ない。こんな不安定な状態で砲撃魔法を撃って、最悪竜の砲撃用に収束されたスフィアに直撃でもしたら、ここら一帯が完全に吹き飛ぶ。ここで精密射撃をしろというのが、無理な話だった。
 
 選択肢はふたつ。
 ――全速力で竜の前に飛び出して、防御を展開。
 ――イチかバチか、砲撃魔法で顔をそらせる。
 
 どちらも現実的ではない。
 失敗した時のリスクとして、どちらとも甚大な被害が出ることに変わりはない。
 ――――なら、これだ。
 
 「レイジングハート!!」
 
 《Buster Mode A.C.S》
 
 「一気に近づいて、ゼロ距離で頭を撃つ!!」
 
 時間はギリギリ、魔力の流れは不安定、リミッターもあるから威力もそこまで期待できない。
 でも、今出来る最高の選択。全力で、選ぶ!!
 
 「行くよっ!!」
 
 《Ye...Master!》
 
 レイジングハートが珍しく動揺した。
 後方、六課の方角から、何かが飛来した。
 
 「――――っう!」
 
 鼓膜を突き破るような空気の爆発音。次いで、弾き飛ばされるように竜の頭が仰け反る。砲撃の射線も当然のように上に逸れ、空を焼いていく。巨大な魔力爆発が雲の上で起こり、衝撃で視界が揺れる。思わず耳をふさいでしまった。
 
 「な、何……?」
 
 《Don't understand(解りません)》
 
 「……六課の方向から、だよね?」
 
 振り向いて、六課がある方角の空を見る。
 星以上に大きな“何か”が光り、瞬く間にその姿を確認した。
 ……魔力弾。それもとんでもなく強烈な演算処理を施した、超長距離射撃用の魔力弾だ。
 
 「レイジングハート……?」
 
 《The corresponding item is not found(該当する項目が見つけられません)》
 
 「……なんなの、あの魔法は……」
 
 空を見上げていると、とめどなく飛んでくる。
 それが30程を数えるあたりだろうか。念話で我に戻った。
 
 ――なのは、聞こえる?
 
 「フェイト隊長、六課はどうしたの!?」
 
 ――ごめん、今は言えない。優先してやることが出来たんだ。
 
 「優先してやること?」
 
 一呼吸を置いて、フェイトちゃんは執務官口調になって、その“優先事項”を教えてくれた。
 あまり現実的には聞こえない内容だった。
 
 ――地上警備隊と連携を取りながらの、地上本部上空の巨大『サベージ』の撃破。
 
 「出来るの?」
 
 まともに戦って、こちらが無事で済むはずがない。
 私も、地上本部も、警備隊も、みんなみんな、無事では済まない被害が出る。
 レイジングハートを握る手に、力がこもる。フェイトちゃんが、こんな作戦を言い出すなんて考えられない。
 非現実的過ぎる。
 
 ――出来る。出来なきゃ、いけない。
 
 「それは……そうだけど……」
 
 ――私たちが着くまではじっとしてて。空を飛んでる魔法が竜の動きを抑えてくれてる。
 
 黙り込む。
 速過ぎて分かりづらかったけど、ようやく見えてきた。
 これはミッドチルダ式でもなければ、近代ベルカ式でもない。古代ベルカ式だ。未だに謎が多く、びっくり箱のような魔法形体。
 それを、使っている。
 
 「この魔法を使ってる人って、誰なの?」
 
 ――知らない。キャロに訊いても、名乗ってくれなかったって言ってるんだ。
 
 「……でも、その人は味方ってことでいいんだよね」
 
 ――そうみたい。キャロもそこだけは信頼してもいいって言ってるからね。
 
 「……キャロが、ってことは……」
 
 ――うん。その人は、機動六課の隊舎から、この魔法を使ってる。
 
 着々と魔力弾が頭を狙い撃っている。
 六課からここまで距離にして約50kmはある。それを狂いなく撃ち続けているということに驚き、尊敬する。
 誰かは分からないけど、こんなに心強い味方がいてるくれる。それだけで希望が見えてくる。
 
 ――なのは、私たちが行くまで待って。あと約5分。それまで攻撃するのも待ってくれる?
 
 「わかってる。……待つよ」
 
 ――うん。
 
 ただ待ってるだけじゃ、時間の無駄だ。
 警備隊に語りかけ、連携を取り始めないといけない。今ぐらいしか時間がない。
 
 「ティアナ、聞こえるかな」
 
 『ッ!? な、なのはさん、あ、あああ、アレ!!』
 
 「落ち着いて、ティアナ。これから言うこと、すぐに実行。出来るね?」
 
 『――――あ、す、すいません。わかりました、出来ます!』
 
 「地上本部の警備隊と連携を取り始めて。合図と一緒に、あの竜を総攻撃。いい、合図があるまでは絶対に手を出しちゃダメだからね」
 
 『了解です!』
 
 ティアナの方は任せておいても大丈夫だろう。
 あとは、こっちだ。
 通信回線をフルオープンする。
 
 「こちら、機動六課スターズ分隊隊長、高町なのは一等空尉です。近隣警備隊、首都防衛隊に通達。今から約5分後に、フェイト・T・ハラオウン執務官がこちらに到着します。それまでは上空の竜に対して一切の攻撃を禁止します。包囲陣を形成しながら、合図を待って下さい」
 
 ――『了解しましたっ』『了解です』『了解!』
 ――『それしかないだろうな』『聞こえたな、全員カカレ!』『時間はないぞ、テキパキ動け!』
 
 通信の向こうから隊員や小隊長、中隊長の声が飛ぶ。
 これであとはフェイトちゃんを待つだけだ。勝てるかどうかは……いや、勝つのはそれから。
 
 「レイジングハート、勝算はどれくらいだと思う?」
 
 《50%(50%です)》
 
 「その根拠は?」
 
 《do win or defeated.Ah it is 100% then. I'm sorry(勝つか負けるかです。ああ、なら100%ですね。すいません)》
 
 「ふふ。そうだね」
 
 とても心強い。
 やっぱり、レイジングハートは私の相方で間違いないみたいだ。
 絶対に大丈夫。ここで勝てないと、次には繋げられない。……フェイトちゃんが私に六課の状態を知らせなかった意味。それは想像に難くない。そこから考えても、次に繋げなくちゃ助けようにも助けられない。
 繋ぐんだ、未来に。これからに、繋げるんだ。
 
 『こちら、陸士141第3番小隊。配置完了!』『陸士52第1番中隊、配置完了』
 『こちらは航空1043アルファ小隊、バッチリだぜ』『航空998イプシロン隊、配置完了だ』
 
 ――なのは、あと2分。
 
 「うん、こっちも準備は出来始めてるよ」
 
 もうすぐ、決戦だ。
 後戻りなんてするつもりはない。今はただ、前に向かって進まないと。
 
 ――あ。そうだ、なのは。そっちに……
 
 「よう、高町さん」
 
 「え?」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「よう、高町さん」
 
 「え?」
 
 見上げてくる彼女の眼は、驚きに見開かれている。
 口をパクつかせながら、言葉を失っていた。
 
 「久しぶりですね。元気でしたか」
 
 「…………な、んで」
 
 「ちょっとした亜音速航行で。近くで見ておきたかったんですよ、先に」
 
 見上げると、竜が仰け反り続けている。
 間違いない。これは、ミーアのレアスキル『母なる竜の揺り籠』だ。
 詳細は知らないが、聞かされている特徴にあまりにも似ている。つまり『サベージ』によく似ている。
 力はケタ違いだろうが、まだ『真竜』の域には達していない筈。だとしたら、総攻撃でなんとか撃破できる。
 それに、こっちにはリミッターがあると言ってもSランクオーバー魔導師がふたり。それに陸士隊、航空隊の精鋭。
 
 「じゃなくて、指名手配されてるのになんでこんなところに……っ!?」
 
 「関係ないですよ。ここにきた理由ってのは、ただの復讐だったんですけどね」
 
 「復讐……?」
 
 「オレの親父は、戦闘機人に殺された」
 
 「!」
 
 「まさかこんなことにまでなるなんて思ってもなかったですけど」
 
 マガジンを取り外し、新しいマガジンに取り換える。
 今で計8発のカートリッジを使用した。そのおかげでオレ自身の魔力はまだだいぶ残っている。
 あと一戦、全力で撃ち込めるだけの体力と魔力を残せている。
 
 「ジーク、フレームは?」
 
 《Frame damage 28%(フレームダメージ28%です)》
 
 「ユークリッド君、復讐なんて……」
 
 「ダメですか? 知ってますよ、それがなにも意味をなさないってことぐらいは。でも、やらなきゃ気が済まない」
 
 少しだけ、高町さんはオレの事を軽蔑したような目で見てきた。
 ……ああいう性格だから、今まで迷ってなんかなかったんだろうな。羨ましい。
 オレは、こういうことでしか、私情を表に出せないからな。しょうがないさ。
 
 「時間だ、高町さん。トドメはヴォルテールがしてくれる。それまでに、出来るだけアイツを弱らせる」
 
 「え? でもまだフェイトちゃんが着いてないよ? その、キャロも」
 
 「着いてからじゃ意味がないんです。そろそろこの射撃も止まる。流れるように、攻撃を」
 
 「…………わかったよ」
 
 「合図は任せます」
 
 《S.S.A.C.S standby》
 
 翼が羽撃たく。
 溢れるように輝くストライクフレーム。
 
 「スフィア集束、ソニックアクセラレイションバスター、スタンバイ!」
 
 《Yes,sir》
 
 続いていた射撃魔法――アヴァランチ・レーゲンが止む。
 それを見計らって、高町さんが声をかける。
 
 「総員、てーっ!!」
 
 大量の雷が落ちてきたような轟音。
 砲撃や射撃の噴水が、『サベージ』に向かって殺到する。
 仰け反りから態勢を整え切れていなかった『サベージ』に、それを避けることは出来ない。
 そして、オレが狙う位置は唯ひとつ。アイツの顎。
 
 「コード・DiS Killer[ディス・キラー]!!」
 
 Discharge successively Killer。
 直撃すればコード・サックス以上の威力を叩きだすデモリッション・コード。
 
 「翔け抜けろ、牙!!」
 
 《Stardust strike and Sonic acceleration buster》
 
 超加速。
 途中の加速補助としてのソニックアクセラレイションバスターではなく、初速で最高速へ一気に加速するために放つ。
 たった数百mの顎までの距離間で、音速を突き破る。
 砲撃や射撃の第一波を追い越して、何よりも誰よりも速く迫撃し、撃ち貫く。
 
 「だッらぁあああああああああああああああッ!!!」
 
 脳が揺れるほどの衝撃。眼の前には顎に突き刺さったストライクフレーム。
 揺れる意識を覚醒させるように、一気に叫ぶ。
 
 「ジークフリード!!」
 
 《Demolition dragon killer》
 
 一発……!
 竜の下顎の骨に当たる。
 
 《Reload》
 
 二発……!
 徐々に奥へストライクフレームが突き進んでいく。
 
 《Reload》
 
 三発……!
 下顎の骨を砕き。
 
 《Reload》
 
 四発……!!
 舌を貫き……
 
 《Reload》
 
 五発……!!!
 喰らえ……!!
 
 《Reload》
 
 六発……!!!!
 喰らえぇぇぇえええ――――!!!!
  
 その大きな口から、蒼い魔力光が爆散する。
 それと間をおかず、さまざまな色の砲撃射撃が首、四肢、翼に命中していく。
 鼓膜を破られそうな高音と、骨が震えるような低音が混じり合った叫びをあげ、大きく仰け反る。
 
 「……終いだ、起き上がれ…………ッ!!」
 
 キラリ、と弾丸型のストラップがついたネックレスが輝く。
 『サベージ』は力なく仰向きながら落下していく。
 
 「“バルムンク”――――……ッ!!!!」
 
 《Anfang(起動)》――《Mode release》
 
 ジークフリードに替わって、一振りの剣が握られる。
 肉厚で、無骨。刃渡り100cm近くの大剣。
 
 鍔のコッキングカバーがスライドし、中のシリンダーが回転する。
 刀身が震え鳴くほどの回転数と、シリンダーの中に収まっている大口径のカートリッジ。
 続けざまに2発を炸裂させる。
 
 「――――漆刀壱刃!」
 
 魔力刃を刃の延長上に展開。その長さは、刀身の2倍に届く。
 
 「斬り裂け!!」
 
 《Lang Stoßzahn》
 
 ランゲ・シュトゥスツェン。
 長い牙の意味を持つ、中距離斬撃魔法。
 振り子のように揺れる大鎌の如く、振り下ろされた魔力刃は『サベージ』の喉を斬り裂いた。
 ここで、キャロのヴォルテールの姿を確認した。
 
 「ディバインッ!」
 「プラズマァッ!」
 
 両翼から響く麗しき魔導師の声。
 その言葉は、確実に『サベージ』の命を殺ぐトリガーワード。
 
 『ギオ――――』
 
 ヴォルテールが朱色のスフィアを掲げて光り輝く。
 三叉の殲滅砲撃。
 
 「バスタァァ――――――――ッ!!」
 「スマッシャァ―――――――ッ!!」
 『エルガ――――――――――!!!』
 
 眼下で三叉が交わり、その中央で『サベージ』が叫びをあげる。
 まるで火山の噴火口を見ているような錯覚に陥る。それほど強烈な光源と熱量。
 
 ――――『サベージ』の瞳が、黒く鈍く輝いた。
 
 「ッ!?」
 
 言い知れない悪寒が背筋をなぞる。だのに、熱した鉛を飲まされかけている焦燥感をも感じる。
 翼が開く。ただでさえ巨大な『サベージ』が、さらに膨れ上がって見える。
 何のダメージもなかったかのように、三叉の砲撃から逃れ出て何よりも上空に飛び上がる。
 まるで天蓋が張られたような影を落とし、月光を背に竜鱗が鈍く蒼く光る。
 
 「――――ッ、全員全力で退避しろ、死ぬぞッ!!」
 
 自身の言葉に漏れず、オレも自分のいた位置から全力で離れる。
 しかし、高町さんからの通信でさらに思考がぶっ飛んだ。
 
 『ユークリッド君、まだ、まだ中にはやてちゃんたちがっ!!』
 
 「嘘だろ、おいおいおいおい……シャレになってないぞ……ッ!」
 
 どうにかしてアイツの砲撃射線軸をズラさなければ、地上本部内の会議室にいるはやて他上層部の人間が一掃される可能性がある。
 いくら強力なシールドを張っていると言っても、ガジェットのAMFで弱体化しているシールドであの『サベージ』の砲撃を受けきれるか……否、受けきれないだろう。
 だが、どうやってズラす?
 
 「……サックスで突撃するぞ……!」
 
 『えっ?』
 
 『ユークリッド、死ぬ気なの!? 無茶だよっ!!』
 
 サックスの事を知らない高町さんはともかく、そのものを目にしていたハラオウン女史は「無茶だ」という理由でオレを止めようとしてくれている。でも、それじゃあ……っ。
 
 『はやてはそんなに弱くないよ、ユークリッド!』
 
 「口論してる暇なんてないでしょう!! ジーク、コード・SSACS!!」
 
 ヘッドが開き、圧縮魔力刃――ストライクフレーム――が展開する。
 次いで、加速補助機構の魔力翼が4対8翼で羽撃たく。
 
 『危険すぎるよっ、行っちゃダメだ!!』
 
 「見捨てるのなんて、一回きりでいいんだよ……っ!!」
 
 『――え?』
 
 「翔けろ流星……ッ」
 
 『っま……っ!!』
 
 「スターダストッ――――ストライクッ!!!」
 
 瞬間、視界が溶ける。
 まばたきの一瞬で、すぐそこにまで竜の頭と強烈な魔力の塊が現れる。
 怯むな、恐れるな、臆すな、全てを置いていけ。
 
 ――――弾丸は、ただひたすらにまっすぐ進む。
 
 「ソニック!!」
 
 《Acceleration buster》
 
 超加速へ入るその刹那、揺れた。
 視界が真っ青に染まる。砲撃が今この瞬間に放たれようとしている。
 間に合う、飛べ、ジークフリード……!!
 
 ――――そう、揺れたのだ。
 
 「っな、に!?」
 
 《Frame damage 70% is exceeded. It is hostilities, and a continuation danger area(フレームダメージ70%を超過。戦闘行為、続行危険領域です)》
 
 ガタが来ていた。
 ダメージが蓄積し、安定しないヘッド先端部分が音速という空気抵抗の壁に耐えられずブレ、結果として『サベージ』の顔面を撫でるように掠っただけで終わってしまった。
 眼下に放たれる砲撃。一瞬だけのシールドとの拮抗。瞬間、弾ける。
 
 「は――――」
 
 息をのむように彼女の名を叫んだ。
 
 「はやて――――――ぇッ!!!!」
 
 届かない。
 砕けていく法の塔。そのヴィジョンがありありと脳裏に浮かんでは消える。
 絶望とは、このことか……。
 
 
 
 ―――――――――――――――――ゥアッ!!
 ボゥ―――――――――――――――――ッ!!
 
 
 
 「っな!?」
 
 『サベージ』の頭が弾け仰け反る。
 砲撃は微かに地上本部を掠っただけで、残りの砲撃は街を蹂躙しながら逸れていく。
 フルオープンにしていた通信網から被害報告が飛び交う。砲撃が直撃した街はほぼ壊滅状態。射線上には局員は幸いなことにいなかったらしい。
 
 「……お邪魔でしたかしら?」
 
 静かな、それでいて気の抜けるような軽い声色。
 視線の先に、何かを投擲した後の恰好で固まるひとりの女性がいた。
 
 「……それとも、助けられましたか?」
 
 ニヒルな笑い顔。
 それにしては嫌味っぽく聞こえない言葉が逆にいやらしい。
 
 「ユーリ、大きくなりましたね」
 
 「……クー。おはよう」
 
 「ん~。時間的にはこんばんは、でしょうか?」
 
 「細かいな」
 
 「そういう性分なのです」
 
 そんなときでもないだろうに、クーはふんぞり返って威張っている。
 『サベージ』に目を向けると、徐々に態勢を整え始めていた。ク―もオレの視線を追って『サベージ』の方を見る。
 あからさまに鼻で笑い、嬉しそうに笑った。
 
 『ユークリッド君!』
 
 『ユークリッド、大丈夫なの!?』
 
 高町さん、ハラオウン女史と通信が繋がる。
 ふたりともが必死の形相で喰らいつくような表情をしていた。
 
 「問題ないですよ」
 
 「ん~。こっちの栗色の髪のお嬢さんの方がユーリの好みですわね」
 
 とことん空気を壊したいらしい。
 いつの間にか隣にきてふわふわ浮いているクーを指でさして、画面の向こうのふたりに説明する。
 
 「このバァさんがさっきの射撃魔法使ってた奴なんだ。御覧の通り、少々ボケてる」
 
 「うら若き乙女を捕まえてバァさん!? ボケてる!? まァーッ!!」
 
 ヒステリックに泣き叫ぶクーは置いておいて、画面に目を戻すと、案の定口をあけて呆けるエースがふたり。
 特に伝えることはないが、ヒステリーを起こしたクーを沈めるにはとある一言を言わなければいけない。それを言うための流れを彼女自身が作る筈なので、それを待つとする。
 
 「……だいたいですね、ワタクシのどこがバァさんなのですか」
 
 「そりゃそうだ。うら若きも、バァさんも関係ない」
 
 一呼吸置いて、クーを見上げてみる。
 次の言葉をさっさとお言いなさい、と促すような瞳のニヤケ方が少々ムカつくが、そんなことも言ってられないようだ。
 『サベージ』が回復し始めた。
 
 「高町さん、ハラオウン隊長、こいつのことは後で話しますから」
 
 「ちょっ、違うでしょ! そうじゃないでしょう、ユーリっ」
 
 「あぁ、そうだな。なんたってお前は――――」
 
 『サベージ』と相対する。
 クーがいれば、こいつを確実に倒せる。
 
 
 
 
 「ベルカ最強の“融合騎”だからな――――!!」
 
 「Das ist richtig(その通り)!! よく御解りでしてよ、ユーリ!!」
 
 
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ゆ、うごうき……?」
 
 一瞬、その言葉の意味を探した。
 思い出しても、違う言葉を当てはめようとしても、出てくる答えはたったひとつ。
 あのヒトは“人間”じゃなくて“デバイス”だということ。私が知ってる融合騎と言えばはやてのリィンフォースⅡだ。あとは報告書でも上がっていたアギトという融合騎だけ。
 
 「え、でも……」
 
 そう。魔導師ランクをつけるとすれば、彼女はおそらくリィンや、そのアギトという子とは比べ物にならないほど高い。
 そして、間違いなく強い。
 そんな融合騎――ユニゾンデバイスが存在してもいいのか。そもそも、彼女の体はリィンのような妖精サイズではなく、立派な成人女性サイズだ。……いや、リィンも大きくなれたっけ。
 じゃなくて、そうじゃなくて。
 
 「ダメだ。なんか混乱してる」
 
 思考を一旦停止させる。
 深呼吸を挟んで、また集中。あの融合騎に調子を狂わされたけど、もう落ち着いた。
 加勢に行かなくちゃ。ここからなら、1分かからず彼のところまで飛んでいける。
 
 「バルディッシュ、全速で接敵。ユークリッド達に加勢するよ」
 
 《Yes,sir》
 
 視界が飴細工のように伸びていく。
 月が高くなってきている。地上本部防衛から数えてそろそろ2時間が近い。前日からの警備任務と、地上本部強襲、さらに『サベージ』の出現。きっと他の局員たちのストレスもかなりキてる筈だ。
 早く、この戦闘を終わらせないと、空中分解の恐れすらある。
 
 「フェイトちゃん!」
 
 「なのは!」
 
 後ろからなのはが追うように飛んできた。
 話し易いように並ぶように減速した。
 
 「あのヒトが融合騎ってホントだと思う……?」
 
 「わからないよ。でも見た感じだと、たぶん、ヴィータあたりとなら一対一でもいい勝負が出来ると思う」
 
 「うん。下手したら、私たちだって怪しいよ。あの超長距離射撃は脅威的だから」
 
 「なのははね。私は懐に潜れば、なんとかって感じかな」
 
 どんどん『サベージ』が近づいてくる。
 まだ数百メートルは距離があると言うのに、はっきりとその姿を確認出来るほどに大きい。
 改めてなんて敵だ、と思う。
 
 「いくよ、フェイトちゃん。長距離砲撃支援!」
 
 「任せたよ、なのは。バルディッシュ、ザンバー!!」
 
 《Zamber Form》
 
 なのはと別れて、残り数百メートルの距離を縮める。加速する。
 すぐにユークリッドと、その隣に佇む彼女の姿を確認した。『サベージ』とは睨み合いが続いているようだ。
 
 「ユークリッド!」
 
 「ハラオウン隊長」
 
 「あら、金髪の」
 
 彼女の私の呼び方になぜかムッとした。
 金髪の、って人を特徴で、さも名前のように……。
 
 「フェイトです。フェイト・T・ハラオウン」
 
 「そうですか。失礼。名前を知らなかったもので、フラウ・ハラオウン」
 
 「フェイトで結構です」
 
 「ええ、ではよしなに、フラウ・ハラオウン?」
 
 くつくつと、嫌味っぽく笑っている。
 ……この人、苦手だ。
 
 「冗談ですわ。そんなに怒らないでくださいまし。ワタクシにはワタクシなりの理由があってファミリアで呼ぶのです」
 
 「理由?」
 
 「教えて欲しければ、生き残ることですわ。動きますわよ」
 
 目の前で見ると、本当に大きい。
 黒く、光沢は蒼い。てらてらと光る竜鱗は、どこか水に濡れたように見える。
 緩慢に、でもこの大きさで、その速さで動かれると迫力が桁違いに大きい。
 
 「ブレイク!」
 
 ユークリッドが声をかける。
 途端に『サベージ』の動きが加速した。突風を伴って奮われる腕を、高く上昇して回避する。
 
 「フラウ・ハラオウン!」
 
 「え?」
 
 視界の端の方で、なにか鞭のようなものが……
 ――――違う、尻尾!!
 
 《Blitz Action》
 
 高速回避。
 ブリッツアクションの動作を抜けると同時、体を大きく逸らす。
 ギリギリ。ブリッツアクションを使って、さらに体を逸らしてやっと回避できた。
 安心は出来ない。バリアジャケットの確認をして、時計回りに『サベージ』の周りを飛ぶ。
 
 「えっと……あの……」
 
 ――なんですの?
 
 「お礼言いたくて。でも、名前……」
 
 ――クリームヒルト。それがワタクシの銘ですわ。
 
 「うん、ありがとう。クリームヒルト」
 
 さらに飛ぶ速度を加速させる。
 きっと、この『サベージ』を崩す点があるとするなら、それは頭だろう。シグナムのファルケン、クリームヒルトの射撃、ユークリッドの突撃、とどれも続けざまに食らったのは頭だ。
 崩すなら、頭。
 
 「仕掛けます!」
 
 ――フォローして差し上げますわっ!
 
 旋回を止め、直線的な軌道で接近する。
 本当なら不規則な軌道で近づいた方がいいのだろうけど、大きさが違い過ぎてそんなのは意味をなさない。
 出来るだけ直線的に、そして素早く。ヒット&アウェイ。
 
 「はああああああっ!!」
 
 《Jet Zamber》
 
 魔力刃を限界まで伸展させる。展開しているガジェットが多いせいもあるのだろう、上手く最大射程まで伸びてはくれなかったが、それでも十分な長さを保った。
 それを、思い切り頭に叩きつける。
 振り抜く。
 
 その斬撃のダメージで、『サベージ』が泣くように叫びをあげる。
 心が痛むような声だった。そんな考えを頭を振って散らす。すぐさま旋回飛行に戻ろうとした。しかし、首がこちらを狙って伸びてきた。食べられる。そんな直感。視界は赤い口内で満たされる。
 
 ――――パァン!!
 
 目の前の光景が夜に戻った。
 すぐさま距離をとって旋回飛行に戻る。
 クリームヒルトのインターセプトだ。
 
 「ありがとう!」
 
 ――礼には及びませんわ。
 
 そう言っている割にはとても嬉しそうだった。
 結構素直な人なのかもしれない。
 
 「ドラゴンスマッシャー!」
 
 ユークリッドの砲撃が追撃を仕掛ける。
 炸裂反応でも付加していたのか、派手な爆発が起こる。
 
 「ここに叩き込むよ、バルディッシュ!」
 
 《Yes,sir.Plasma...》
 「スマッシャァ――――!!」
 
 射程を犠牲にし、発射速度と威力に重点を置いた中・近距離用砲撃魔法。
 ここでノックダウンしてくれれば……!
 
 『サベージ』はいよいよバランスを崩した。
 ぐらりと傾く姿は、壮観ですらあった。
 
 「いっけぇ――――!!」
 
 ユークリッドの声が聞こえたかと思えば、すぐ下にはキャロとヴォルテールがいつの間にか待機していた。
 輝く朱色のスフィア。まるで、溶岩を固めたかのようなそれは、航行艦ですら破壊するだろう殲滅砲撃。
 
 『ギオ・エルガ――――ッ!!』
 
 ギオ・エルガに撃たれ、『サベージ』は――――
 
 「ッ!? 回避ッ!!」
 
 クリームヒルトの声と同時、爆煙の中から一筋の砲撃が放たれた。
 正確に私たちを狙ったものだった。いきなりではあったが、なんとか回避。クリームヒルトの声がなければ当たっていたかもしれない。
 なんなんだ、このタフネスは。一個大隊で中艦隊を相手にしてるようなものだ。
 
 「…………ユークリッド、クリームヒルト、これじゃ埒が明かないよ!」
 
 ――といいましてもね。ジークフリードがあれでは……。
 
 ――…………。
 
 こうは言っているものの、確実に相手にダメージは通っている筈。
 ただ、相手がタフネスすぎる。
 どうにかして、どうにかして突破口を見出さないとジリ貧になる。削りきれないまま、蹂躙されて終わる。
 
 こうしている間にも、着々と航空隊や地上警備隊が集結を始めている。
 集まった人から、この戦線に参加。しかし、落ちていく人もいる。今はまだいい。軽症で済む。
 だけど、疲労がたまってきた戦闘後半の負傷者は、あまりよくない。下手をしなくても、おそらくほとんどが死者となる。
 もう、リミッターがどうのだとか、四の五の言ってる場合じゃない。
 
 「――――はやて、聞こえる?」
 
 『――――フェイトちゃん? 見えとるし、聞こえとるよ』
 
 「よかった」
 
 『そんで、リミッター解除か?』
 
 「…………うん。真ソニックとライオットで、クロスレンジに持ち込んで畳みかける」
 
 『――――横からごめんね、はやてちゃん。私の方も解除してくれないかな』
 
 「なのは」
 
 航空隊に指示を飛ばしながらモニターを覗くなのは。
 彼女の額は玉のような汗でびっしょりと濡れている。先程からひとつだけ威力が違う砲撃が頭を正確に撃ち抜いていたのは、確認するまでもなくなのはだろう。
 
 『許可はしたい。たぶん、ふたりのリミッターを解除して、F&Nのコンビネーションマジックを当てられたら、きっと戦況は大きく傾く。断然有利な方向にな』
 
 「じゃあ!」
 
 『言うたやろ、“許可はしたい”んや。ここで解除して、フルドライブを使うとする。そしたら、なのはちゃんとフェイトちゃんの身体が壊れる。確実に』
 
 そんなことを気にしてる場合じゃないのに。
 バルディッシュを握る手に、無意識に力がこもる。歯痒い。
 それはどうやら、なのはも同様らしい。
 その時だった。
 
 『――――オレが行く』
 
 回線に割り込んできた声が、静かに呟いた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「――――オレが行く」
 
 割り込むまいと決めていたというのに、折れてしまった。
 モニターを表示して、映像を受信する。
 
 『ユーリ、クリッド……。おったんか』
 
 「わざわざ言い直すなよ」
 
 苦笑いがこぼれる。
 後ろでクーがニヤニヤとしているのが手に取るように分かる。
 一度深呼吸をして、落ち着く。
 
 「失礼、茶髪のお嬢さん」
 
 『はやてです。八神はやて』
 
 「おっと、失礼。フラウ・ヤガミ」
 
 全然そんなことを思ってもいないだろう。
 クーが人の名前を知る時はいつもこうだ。人の特徴を、さもその人の名前のように呼んで、相手の口から名前を聞き出す。自分から名乗らないための、ちょっとした小細工だ。
 
 「フラウ・ヤガミ。心配は無用ですわ。ワタクシと、ユーリ……正確には先代以前からのラインハルトの騎士は竜討伐を生業としてきた騎士家。何と言ってもワタクシは真竜をも討ち取ったのですから。あれは確か、26代前のラインハルトの女傑、アンネローゼの代でしたかしら。血湧き肉踊る血戦でしたわ」
 
 聞いてもいないことをペラペラと雄弁に語っている。
 その時の彼我戦力は真竜一体に対してアンネローゼ側は一個小艦隊。一個小艦隊といっても、それが当時のラインハルト、延いてはギプフェルの最大戦力だったのだそうだ。どうでもいいだろ、今はそんなこと。
 
 「閑話休題。ですから、一度ユーリに賭けてみてはいかがでしょうか」
 
 『遠回しに自分がいるから安心しろ言うてるなぁ。…………なら、信じてみよか? 『戦場の演出家』、ユークリッド・ラインハルトと、えーと……?』
 
 「『竜毀の姫騎』クリームヒルトですわ」
 
 モニターの奥、はやては一度眼を伏せた。
 咀嚼するようにこくこくと頷いて考え、静かに瞳を上げた。
 
 『…………私はまだ会議室の中の人らを守らなアカン。なのはちゃん、フェイトちゃん、ユークリッド、クリームヒルト。みんながこの状況を打破して。任せたで』
 
 この状況を打破……。
 それってつまり、あの『サベージ』を倒せってことだろ。
 
 「ジーク、どれくらい耐えられる?」
 
 《About 5 seconds when over driving. Even if it is not so, it is not possible to endure for about 10 seconds(オーバードライブした場合、約5秒。そうでなくとも、約10秒も耐えられません)》
 
 「クー?」
 
 「十二分ですわ。一撃で首を落とします」
 
 満足げに、クーは頷く。
 ジークフリードを掲げ、謳う。
 
 「魔導から騎士甲冑へ移行。ジークフリード、リミットブレイク・スカバードモード!」
 
 《Shifts to the knight armor.“Scabbard mode”standba ready(騎士甲冑へ移行。スカバードモード、スタンバイ)》
 
 スカバードモード。ジークフリード・インディゴの最堅のカタチ。
 ほぼ全ての攻撃系の魔法補助、推進魔力変換能力を犠牲に、強力なバリアブーストを搭載した、堅防の鞘。
 ベルカ式長剣型アームドデバイス“バルムンク”との併用を想定して造られた、鞘盾(そうじゅん)の形態。
 
 蒼と白を基調にした騎士甲冑が風になびく。
 ラインハルトの騎士甲冑。重く、そして堅い。今のオレは、身体強化して走った方が速いほどに飛行速度が落ちている。
 
 「……さて、行きますわよユーリ」
 
 オレの方の準備が終わったと見るや、クーは元の姿に戻る。
 成人女性の大きさから、体長35cm前後の大きさへ。融合騎、ユニゾンデバイスとしての姿。
 
 『《ユニゾン・イン!!》』
 
 クーが身体に入る。
 いつになっても解決できない不思議な一体感と、充実感。
 蒼と白だった騎士甲冑が、全体に蒼くグラデーションのかかったモノになる。
 髪は銀髪からやはりグラデーションがかった蒼へ。瞳はより深く、深い藍色へと濁っていく。
 
 空色の騎士。
 
 初めてユニゾンしたとき、オレはそう感じたものだ。
 
 「ジークは長くは耐えられない。近づいてからフルドライブ!!」
 
 《了解ですわ。フラウ・ハラオウン、フォローしてくださいまし。今のユーリは亀より鈍いのです!》
 
 『了解! なのは、聞こえたよね!』
 
 『もちろん。行こう、フェイトちゃん!』
 
 全速で、とにかく一直線に『サベージ』の元へ飛ぶ。
 回避も防御も考えない。今は唯、目の前の敵を斬り伏せることにのみ専心する。
 
 『サベージ』がこちらに気づいた。
 ――――本能、というものがある。生物に須らく存在する、深層心理。そこで感じ取ったのだろう。
 オレを、近づけてはならない。
 
 衝撃波が周囲を襲う。起こった理由は、ただの咆哮。
 その巨体で放つ叫びは、それだけで脅威と化す。先程までの砲撃ではない、小さなスフィアが無数に、それこそ雨のように展開されていく。目の前が真っ青に染まっていく。壁のような弾幕。
 
 『ディバイン!』
 『トライデント!』
 
 強い声。
 後方から流れ、オレの背を押す。
 その勢いに乗って、ただまっすぐに進む。
 
 『バスター!』
 『スマッシャー!』
 
 左右の視界を金と桜の閃光が覆う。
 それらが雨のように放たれた弾幕を相殺していく。しかし、その弾幕すべてがオレを狙っているわけじゃない。後ろに流れた弾は、次々と局員を撃ち抜いていく。
 あと、もう少し――――!!
 
 「バルムンク――――!!」
 
 《Anfang(起動)》
 
 長剣型、フォルムアインス・クライン。
 もう、あと少し。
 
 『サベージ』が回転する。
 長く、刃鞭のような尾が風を切り裂いて襲う。
 
 「うわあああああ―――――あッ!!」
 
 《Jet Zamber》
 
 真正面からの打ち合い。
 ハラオウン女史が放つ斬撃と、叩きつけるようなウィップテイルとが拮抗する。
 
 《Divine Buster Extension》
 
 後方からのさらなる砲撃。
 拮抗していた競り合いは、大きく傾く。
 
 「疾風・迅雷――――……ッ!!!」
 
 《Sprite Zamber》
 
 スプライト・ザンバー。妖精の刃。
 物理攻撃よりも、補助魔法・結界等の破壊――つまり、対魔法迎撃用の魔力斬撃と言える――に重点を置いた斬撃を繰り出す。
 一瞬、それを使用した理由を理解できなかったが、あまりにもあっけなく尻尾が両断されたことで、ハッとした。
 『サベージ』は、ミーアのレアスキル、つまり魔法特殊技能による擬似的な使い魔。
 対魔法迎撃用魔力斬撃。そういうことか。
 
 「行って、ユークリッド!!」
 
 あと百メートルを切った。
 もうすでに目の前にまで来ている。あと、ほんの少し。
 
 《ユーリ、準備はよろしくて!?》
 
 「行くぞ、フルドライブ!!」
 
 《Befestige "Aussterbendrachen"!!(滅竜付加!!)》
 
 魔力素が暴れ始める。それは一瞬。
 クーのトリガーと同時にそれは発現する。クーのレアスキル『変換資質“滅竜”』
 周囲から、オレのリンカーコアへ無理矢理魔力素を叩き込まれる。それを通して、全身が無理矢理魔力で強化されていく。
 デバイスも同様に、溢れ出した、もしくは流れ込んだ魔力が叩き込まれる。常にカートリッジをロードし続けている感覚、と言えば一番近いだろうか。それでも生易しい表現なのだが。
 限界まで詰め込まれた魔力の上に、さらに詰め込まれていく。自然と、逃れるように魔力は体から滲み出ていく。しかし、その魔力さえもリンカーコアへ集束されていく。さらに、さらに、さらに…………。周囲の全ての魔力素がオレに集束していく。
 魔力素の回転は加速していく。いつか、半質量を持つまでに圧縮された魔力が、空気との抵抗でバチバチと音を鳴らし始める。
 
 『《スパークドライブ!!》』
 
 結果、魔力が閃光と化し、その閃光は半質量を持つ魔力。
 それ自体が、光速回転する魔力刃。
 
 『《うおおおおおおおおおおおッ!!!!》』
 
 回転する魔力のベクトルを無理矢理後方へ押し出し、それを加速装置として超速移動を行う。
 一瞬で詰まる数十mの間合い。ジークフリードに、バルムンクを納める。
 
 『《漆刀弐刃・白刃――――……!》』
 
 《Store sword―《Explosion》―compact,liberation(納剣――カートリッジロード――凝縮、解放)》
 
 限界以上の魔力を回転させている上に、さらにカートリッジをロードする。
 ジークの中で膨れ上がった魔力を一部凝縮し、バルムンクに上乗せする。シリンダーが高速で回転し、剣と鞘の周りの魔力光のみ、蒼い光から、限りなく白に近づいていく。
 
 《Licht Blau Explosion》
 
 蒼い爆光。
 剣を持つ右腕が暴れる。うまく抑えられない。なら、この腕に逆回転の魔力渦を造り出せばいい。
 抑え込む。ここにきて、スパークドライブ発動から5秒経過。すでにジークは限界を超えている。
 
 抜剣。
 ジークを出来るだけ遠くに投げやる。抜き放たれたバルムンクを高々と構える。
 目の前には、なみなみと並ぶ牙の山。鱗とは正反対の、赤い口内。
 
 『《滅竜刃!!!!》』
 
 ――――振り下ろす。
 振り下ろしと同時に、スパークドライブを解除。騎士甲冑から魔導甲冑へ移行、すぐさまジークを拾いに戻る。
 空中に舞い墜ちるジークフリードを掴み、スタンバイモードへ戻した。
 
 「被害報告だ、ジーク」
 
 《Frame damage 93%. I was not settled with damaging seriously if it did not throw out there(フレームダメージ93%。あそこで投げなければ、私は大破では済んでいませんでした)》
 
 「無茶させたな」
 
 《No pro...b. . lem》
 
 「休め。まだ戦いは残ってるんだ。言っただろ、お前はオレの最強のカードなんだ」
 
 《Tha.. .nk y ..ou. Sir》
 
 ――――バシュンッ!
 ぐらり、と“ふたつ”の頭が崩れていく。
 様々な、局員たちが付けたキズと言うキズからふわりふわりと魔力が逃れていく。それと比例して、崩れ消えていく巨躯。
 すべての身体が消えた後、残ったものはひとつだけだった。
 
 
 ――赤いエネルギー結晶。ロストロギア『レリック』
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 =====================
 
 次元間指名手配犯、ユークリッド・ラインハルト。
 今回の地上本部強襲時に姿を現し、管理局側に立って戦う姿を見たとの報告が多数寄せられている。
 目撃、ないし通信で彼の声を聞いた見たとの報告は多く、ここから、彼はJ・スカリエッティ側の人間ではないのではないか、という声すらあがり始めている。
 
 同氏は不本意ながら管理局本局所属古代遺物管理部機動六課が保護。
 以降、本局からの意向で地上本部には指名手配を取り消すようにとの通達が来ている。しかし、その理由が明白でない以上、こちらも易々と指名手配令を解くわけにはいかず、この問題は現在硬直状態にある。
 
 同氏への面会を申し出てみたが、拒否。
 この理由は、先の地上本部強襲時に負ったリンカーコアへのダメージが大きく、二・三日は目を覚まさないだろうとのことである。
 その後も、丸1日は絶対安静とのことで、はやくとも面会は3日後、ということになるだろう。
 
 これ以降の報告書類は、追って製作する。
 
 
 
 オーリス・ゲイズ防衛官秘書
 
 =====================
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:4-5  end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

暑い暑いって言うから暑いんだって、よく言うけど、暑いから暑いって言うんだと思う。

つまり、この頃暑いですねって話です。
ども、草之です。

見事にこの暑さにダウン中。
試験もあと残すところ3日、全4教科?
 
まぁ、あとはあってないようなものですから。
ちょっと執筆速度をあげていこうかなっと思います。
そんなに変わるもんじゃないと思いますけど(笑)。
 
まぁ、去年も言った気がしますが、草之の作業しているPCが置かれている部屋には冷房なんてものはなく、さらに言うと扇風機すらない。うちわとタオルで生き抜いてます。
ぶっ倒れない程度に頑張りたいと思います。はい。
 
それにしても。
前々から気にはなってましたけど、新海誠監督の作品を見ました。
あれ、本当に個人製作ですか……。同じ芸術系(余談ですが、草之は小説も芸術作品だと考えています)の人間として驚愕を覚えますね。
まぁ、そんなこと言いだしたらMAD作ってる人とかどうなんだって話ですよ。ニコマスとか、あそこはちょっとしたプロ集団(数人プロも混じっているとか)になりつつありますからね。いや、冗談ではなく、マジな話で(笑)。
 
草之には動画を作る能力なんてないですし、それに映像系はてんでダメで。
特に、まぁ、草之の色塗りの腕前を見てもらえば分かる通り、色をつけるのが苦手でして。実際どうすればいいのかが良く分かっていないんですけどねー。
日々精進です。
 
 
さて、ここらへんで一区切り。
更新予告です。
水曜日に『優星』を更新予定。
来週日曜日あたりに『背炎』を更新予定。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。
あしからずご了承ください。
 
 
では、以上草之でした。
以下、拍手レスです。
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

今週のジャンプ、どの漫画が面白かった?

スケットダンス。
ども、草之です。
 
いいよね、スケットダンス。当初ボッスンの発音は“ボ”ッスンだと思ってたら、一巻巻末で「ぐっさんと同じイントネーション」とか書いてたので、本当はボッ“ス”ンなんだということがわかりました。
でも草之は今でも“ボ”ッスンって呼んでます(ぇ。
 
次に面白かった漫画は巻頭のオールカラー漫画ですよ。
あれかなり燃えましたね。久々にジャンプの本気を見ましたよ。あれはもうアニメも凄いですからね。
絶対に見た方がいいですよ、アニメも。「よっしゃあ!!」が最高にカッコいいから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
……ん? え? NARUTO?
違いますよ(笑)。
『BLUE MONSTER DACE-K』ですよ。
99回裏、一点ビハインド。勝敗を分けるツーアウト満塁の大ピンチに立たされた『BLUE MONSTER』ダイスケ。
対するバッターはホームラン王独走中の『炎の強打者』、オーガ。ツーストライクまで追い込むも、それも相手の余裕を見れば、場を盛り上げるためだけの『演技』だということが一目瞭然。
絶体絶命。しかし、最後の一球には変わりない。
タイムを取り、ダイスケが手にしたのは『アクエリアス』。迅速な水分補給、後に味を引くことのないさっぱりした飲み心地。
人は身体の水分のたった2%が失われれただけで、パフォーマンスは30%低下する。
マウンドに戻ったダイスケを待ち構えていたのは、後にも先にもオーガただ一人。
体を駆け巡る水分。今、ダイスケにフルパフォーマンスの力が戻ってきた!

ダイスケは、目覚めたのだ……!!
 
弾丸のように吐き出されるストレート。まっすぐにキャッチャーミットや吸い込まれていく。
――――絶好の打ち球だぜ!!
オーガは信じて疑わなかった。渾身の力でバットを振るう。芯を完璧に捕らえたホームラン一直線の打撃だった。
 
――――それが、ブルーモンスター、ダイスケの球でなければ。
 
「ば、バカな!!」
砕け散るバット。襲い来る衝撃のストレート。
オーガは、崩れた。
勝敗は決した。静まり返るドーム。ただひとり、マウンドに立つ男だけが、力強く雄叫びをあげた。
 
 
「よっしゃあああああああああッ!!!」 
 
 
 
彼の雄叫びに続くように、ドーム全体が叫びをあげる。
衝撃、感動、感嘆、称賛。すべての感情が溶け合い、ひとりの男を祝福していた。
 
ブルーモンスター、ダイスケ。
 
彼の戦いは、まだ始まったばかりだ……!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ね、熱いでしょう!?
あのカラーたった4pに込められた最高の一瞬。
読んでいない人は是非読んでください!!
 
 
 
 
さて、では更新予告です。
明日には『優星』を。
日曜には『背炎』を更新予定です。
変更はしていません。
ですが、遅れる可能性もありますので、そこらへんはご了承ください。
 
では以上、草之でした。
以下、拍手レスです。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:28

 
 シンとなる朝のひと時。冬の透き通った空気は、どこかしら身体まで浄化してくれる気がする。
 深呼吸して、体の中の空気を入れ替える。剣先は違えず、まっすぐに地平線を向き、微かな呼吸とともに微細に動くだけ。
 周りの空気ごと巻き込んで、緊張を張る。キシキシと針金を引き裂こうと力いっぱいに引くような感覚。音。
 
 「――――」
 
 伏せていた目を徐々に開いていく。朝日が細く街を照らし、俺も照らされる。
 構える双剣が、てらりと鈍く光った。
 
 「――――ふ」
 
 深呼吸した息を細く吐き出した。
 瞬間、弾ける剣閃。朝日に剣閃が踊り、煉瓦敷きの大地を跳び駆ける。
 空想の相手を斬っては殺し、殺しては斬っていく。想像する相手は自分より弱い相手。徐々に、その数を増やしていく。
 ひとり相手にすれば、ふたり。ふたり斬れば三人。三人斬れば四人。十に届いた瞬間、創造する相手を強くする。
 最後に届く相手は、自分より遥か高みにある存在。――英霊。
 
 「じゃッ!!」
 
 防ぐ、精一杯に防ぐ。とにかく防ぐ。
 防戦。戦局を傾けるような攻撃が入らない。いや、出せない。
 相手は常に必殺の一撃を放ってくる。防御、防御。固めろ、崩させるな。
 続く剣劇。途切れることのない攻撃を受け続ける。そして――――
 
 「――――っくぁ」
 
 負けた。
 頭を鼻から上にかけてバッサリ。その後、心臓を一突き。
 即死だ。
 
 双剣を消し、一息つく。
 汗が冷たい冬風に触れて、妙に気持ちいい。さらさらと流れる横脇の水路の音が爽やかに耳に届く。
 夏も、もうとっくに過ぎてしまった。すっかり、なんて言ったら秋に失礼だろうか。
 そんな時間の流れの中で、今はもう冬になった。
 
 「はぁ……」
 
 吐く息には、随分前から白いもやが混じっている。
 そんな季節なんだ。
 …………さて。朝の日課も終わったし、帰って朝飯でも作るかな。
 
 朝日が昇り始めたネオ・ヴェネツィア。
 この景色を見るのも、2度目。
 
 「あぁ、そうか。もう2年も経ってたのか」
 
 呟いて、早いものだ、と微笑んだ。
 ただ変わらない、今日の日を心に刻んで、か。
 さて。俺は一体どれほどの“今日”を刻んでこれたのだろうか。
 
 「……なんてな」
 
 改まってみると、考えるだけ馬鹿らしい。
 それだけ、いつの間にか俺の心には“今日”が刻まれていた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「日が落ちるのも早くなってきたなぁ」
 
 「そうですねー。ほら、もうお星様がいっぱい見えますよ士郎さん!」
 
 「あらあら、うふふ」
 
 寄り添うように、まるで兄妹を見ているような気分になる。
 士郎さんと灯里ちゃんが笑って、それを見てるだけで幸せだと感じる。
 
 「アリシアさーんっ、ほら、あれってマンホームですよねっ?」
 
 「あらあら、本当。今日は見える日なのね」
 
 空にぽつりと、少し青みがかった光を放つ天体が見える。
 それは間違いなくマンホームだった。
 冬になって空気が澄んでくると、時々だけどマンホームが見える日がある。
 幽かな青い光はそれはそれは宇宙に溶けてしまいそうで、アクアの一部の人たちはよくこういう比喩をする時がある。
 
 ――――“藍緑玉[アクアマリン]”と。
 
 名前の通り『海の水』を意味し、古くから『水の惑星』と呼ばれていたマンホーム――地球にはうってつけの名前だと思う。
 また、きっと宇宙という、新世紀に入ってからの“海”ともかけているのかもしれない。
 それと対比して、アクアはマンホームから『星色の青玉[スターサファイア]』とも呼ばれているらしい。マンホーム以上に地表を水で覆われた惑星『AQUA』は、マンホーム以上に青く空に映るそうだ。その輝きと青さを讃え、この呼び名がついたらしい。
 でも、これはごく一部の通称で、通じる人は少ないらしい。残念なことだと思う。
 
 「……素敵ですよね。あそこにもいっぱい人が生きてるんだって考えると、なんだかロマンチックです」
 
 「そうだな」
 
 士郎さんはそう言って、懐かしむようにその光を見上げた。
 人という尺度で測るのなら、未だにマンホームとアクアは限りなく遠く、でも隣合うように近い場所。
 人が到達した場所という意味では、もう近い距離になる。ほんの海外旅行のような気分でアクアへ来ることが出来るようになった。
 
 「…………そうだな」
 
 「行ってみたいですか?」
 
 思わず声が出ていた。
 士郎さんはゆっくりとこちらを向き直し、二コリと、けれどどう見ても苦笑いでしかない笑顔を向けて言った。
 
 「いいや、そうじゃないよ」
 
 もう一度、士郎さんはマンホームを見上げて続ける。
 
 「ただ、そうだな。遠くから見なければ、本当に大切なものもわからないことってあるんだな……ってな」
 
 失くしてから気付く、という意味で言ったのだろう。
 私にはなんとなく、士郎さんが言いたい事がわかる気がする。でもきっと、分かってなんかいないんだと思う。
 いつもいつも、士郎さんは遠くを見ている。もしくは、遠くから見ている。
 
 届かないものに手を伸ばして、それでも諦めないで、手を伸ばし続けて。
 でも、そう。いつかきっと届くと信じているから、その手を伸ばし続けられて……。
 
 「士郎さん。今日はもう、お暇しますね」
 
 「ん。送ろうか?」
 
 「いえ。すぐ前ですから、大丈夫ですよ」
 
 「でも、もうすっかり日も落ちて随分暗いぞ」
 
 「あらあら。それじゃ、お願いしようかしら」
 
 「了解」
 
 士郎さんが、ちょっと子供っぽかった。
 駄々をこねる、まではいかないけれども、ちょっとワガママ。
 からかうことも出来たけれど、止めておいた。
 だって、言ったらきっと私の方が恥ずかしくなる。
 
 「じゃあ、おやすみアリシア」
 
 「はい。おやすみなさい」
 
 また、“今日”が過ぎていく。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「うー、うー、うー」
 
 「藍華先輩、でっかいうるさいです」
 
 「ううううさぶいいいいいいいいいっ」
 
 なにもないのに身体がガタガタと震える。
 今日は特に冷え込んでる。さすがの地元民の私でも耐えられる寒さと耐えられない寒さがあんのよっ。
 ていうか、なんで後輩ちゃんはそんな平気な顔しとりますか……。
 
 「あれ、藍華先輩貰ってないんですか?」
 
 「貰うって、何?」
 
 「灯里先輩の持ってる水筒の中身ですよ」
 
 「あんだって?」
 
 見てみると、灯里は自分のゴンドラの上でなにやらほこほこと温かそうな飲み物を飲んでいるではないか。
 どれ、私にそれを飲ませなかったバツとして冷たい手で驚かせてやるんだから。
 
 「それぃっ」
 
 「はひぃ――――!?」
 
 灯里の背筋がピンと伸びる。う、やけにほっぺたがあったかいわね。
 手を離すと、灯里はすぐにこちらを向いた。
 
 「ど、どうしたの藍華ちゃん?」
 
 「どうしたもこうしたもないっ。灯里、後輩ちゃんにはあげて私にはあげないってどういうことなのよ?」
 
 「あの、この前は藍華ちゃん、動けば寒さくらいへっちゃらだーって言ってたから、てっきり」
 
 「てっきりもこっきりもないってーの! 私にもちょうだいよー」
 
 「うん、いいよ。士郎さんの特製ホットココア」
 
 「やたっ」
 
 水筒から出てくるココアをコップで受け止め、その香りに目を輝かせた。
 火傷はしないように、少しだけ啜るように一口飲んでみる。
 ふわっと広がる香ばしい香りと、甘くとろりとした飲み心地。体の芯からジワリジワリと温めてくれているのがよく分かる。
 指の先まで、じん、とくる。
 
 「うぅ~ん、おいすぃ~」
 
 「あはは」
 
 「うん、ありがと。さて、体も温まったところで、練習行くわよ!」
 
 『おーっ』
 
 朝の練習は本当に眠い上に寒い。
 寒いと眠くなるってアレ本当なのね。ていうか、きっとアレよ。ベッドから出たくなくなって、で、二度寝とかしちゃうからそういうこと言われるようになったんだわ、きっと。
 
 「そういえばさ、藍華ちゃん、アリスちゃん」
 
 「あによ」
 
 「昨日マンホームが見えたよねー。ねぇ、見た?」
 
 「あー、見てない。しまったなぁ」
 
 「私は見ましたよ」
 
 「なぬっ」
 
 後輩ちゃんめ、いつも美味しいところはしっかりいただいてるんだから。
 あー、それじゃあ今度見えるのはいつなんだろ。今日はちょっと曇ってるからなぁ……見えそうにないしなぁ。
 まぁ、いっか。
 
 「今度見える日があったら、連絡頂戴よね」
 
 「うん」
 
 「了解です」
 
 さて。
 約束も済んだところで、練習行ってみますか。
 
 「ゴンドラ、通りまーすっ!」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「あー、さむっ」
 
 店の中に入って一番、これはどうかと自分でも思う。
 昼食を取りに入った店は、かなり暖かかった。暖炉の中がよく燃えている。
 オーダーを取りに来たウェイターに適当に注文をして、あとはぼぅっと待つだけ。
 昼は3時から予約が入ってるから、結構ゆっくりできるな。うん。
 
 「いらっしゃいませー」
 
 「おう、アテナじゃない」
 
 「晃ちゃん」
 
 同席するように手をこまねく。
 向かい合うように座って、笑い合う。
 
 「久しぶりね」
 
 「そうよねー。どれくらいぶりだっけか」
 
 「たぶん、4ヶ月くらい」
 
 「前会ったのは秋の終わりだったか。そりゃ寒くもなるわ」
 
 「うん。私も今日はベッドから出たくなかった」
 
 「私はアレだ。藍華を蹴りだしてやったけどな」
 
 「相変わらずね」
 
 「アテナもな」
 
 くすくすと笑い合う。
 そうこうしているうちに私の頼んだ適当なメニューがテーブルに届き、アテナはそれを見て「同じの」と注文を済ませた。
 まぁ、お品書きとにらめっこし続けるよりかはマシだけどさ。
 
 「後輩の面倒ちゃんと見れてるか?」
 
 「うん、たぶん。でも、私よりも衛宮さんの方に見てもらってるみたいだけど」
 
 「あいつは面倒みたがりなんだって。まぁ、それは私も同じなんだけど」
 
 「面倒みたがり?」
 
 「ち、違う! 藍華のことだっつーに」
 
 何を言い出すんだか。
 衛宮と私が似た者同士って、ありえないから。うん。
 まぁ、とにかく。ここいらでちょっとお礼でもしといた方がいいんじゃないのか、って話しなんだけどね。
 ……ブラウニーの事もあるし。
 
 「お礼?」
 
 「そう。お礼よ、お礼。まぁなかなか思いつくもんじゃないんだけどさ」
 
 「……そうね。私もアリスちゃんがお世話になってるし……」
 
 「じゃ、なんか一緒に考えるか?」
 
 「そうね」
 
 まぁ、ひとりでするのはなんて言うか……恥ずかしいし、ちょうどよかった。
 それにひとりでダメならふたりで。それでもダメならアリシアも引っ張り込む。
 うん。
 それでもダメなら後輩全員を総動員して考える。
 そんで、衛宮の嬉し恥ずかしな顔を拝んでやるとするか。
 
 「よっし、そうと決まったら徹底的に喜ばせるとするか。なんてったって私たちは接客業。お客様に思い出をプレゼントするウンディーネ……それもトッププリマだ。それがふたり、三人って集まればいいものが出来ない筈がない!」
 
 「アリシアちゃんも誘うの確定済みなんだ」
 
 アテナにしては珍しい、ちょっとだけいたずらっぽい笑顔だった。
 それにいっぱいの笑顔で返して、残った紅茶をくいっと飲み干した。
 
 「この後時間あるか?」
 
 「うん。今日は午前中と夜の予約だけだから」
 
 よし、と頷いて、紅茶を追加注文する。
 今日は時間の許す限り話し合うとしよう。
 こんな調子じゃいつになるかもわからないけど、まぁ、時間がかかってもいい。
 ちゃんとしたものを、贈ってやりたい。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 『て、わけなんだけど。アリシア、もちろん付き合うよな?』
 
 「あらあら。うふふ」
 
 『よーし、そのあらあらうふふは了解と取るぞ、にゃろー』
 
 受話器の向こうで、晃ちゃんが嬉しそうにドスの利いた声を出している。
 意外と言うわけではないけど、まぁ、照れ隠しなんだろうなぁ。
 
 「それで、集まれる日とかは?」
 
 『あのなぁ。私らはプリマだぞ。休日を合わせようとしてたら本当に企画倒れになる』
 
 「それもそうね」
 
 『だから、基本的には電話で進める。お前が一番バレる危険があるんだから、気をつけろよ』
 
 「うん。じゃあ、またね。おやすみ、晃ちゃん」
 
 受話器を置く。
 それからすぐに食卓に戻って、席に着いた。
 
 「誰からだったんですか?」
 
 「ん。晃ちゃんよ。ちょっとしたお話。今度暇が出来たら会おうねって」
 
 「あはは」
 
 「こないだアテナちゃんが来たでしょ? それで、なんで私も呼ばなかったんだーって」
 
 「あいつらしいな」
 
 そう言って、士郎さんは苦笑した。
 晃ちゃんが言うには、こういうことらしい。
 
 ――ビックリ企画で、衛宮にお礼をするぞっ。
 
 一言に集約された、彼女らしい、とても簡潔な言葉だった。
 細かいことは決まっていないけど、今日のお昼にアテナちゃんとたまたま会った時に思いついたそうだ。
 突拍子もない、というか……思い立ったが吉日、というか。
 
 「なんだか、とっても楽しみにしてました」
 
 「ああ見えて結構可愛いですよね、晃さんって」
 
 「そんなこと言って、知られたらどやされるぞ灯里」
 
 「はひっ。自重します……」
 
 「あらあら、うふふ」
 
 あと言ってたのは、もしかしたら後輩三人にも手伝ってもらうことになるかもしれない、ということ。
 はてさて、どんなビックリ企画になるのだろう。
 楽しみだし、なにより、そう言えばこうして明確な意思を持って“お礼”なんて言うことをしたことがない気がする。
 それもこれも、士郎さんの性格ゆえなんだろうけれども、それにしたって、だ。
 お互いに持ちつ持たれつが続き過ぎていた気がする。だから、お礼をしたいと、私はこの時強く思っていた。
 
 「士郎さん、お茶のおかわり、いかがですか?」
 
 「あぁ、もらうよ。ありがとう」
 
 彼のカップにお茶を注ぐ。
 当り前になり過ぎた日常。そんなに望んでもいないのに、とても焦っている心がある。
 この気持ちを、ずっと抱えたまま過ごして、この空気を壊したくない。
 この気持ちを、いつか彼に打ち明けて、なにかを彼に求めたい。
 
 「……」
 
 バカみたいな考えだなぁ、と思う。
 今のままで満足しているのに、これ以上を欲しいと思い、願う心。
 あぁ、だからそう。
 私は、どうしようもなく彼を――士郎さんを好きでいる。
 
 「? どうした、アリシア。難しい顔してる」
 
 「えっ。そ、そうですか?」
 
 「ああ。なんだか……らしくない顔してた」
 
 「…………ん」
 
 眉間をマッサージをした。
 それでなにかが変わるわけでもないのに、とにかく丹念に。
 
 「私らしい、って、なんでしょう」
 
 「え?」
 
 「あ……ごめんなさい。忘れて、ください」
 
 「…………本当は誰からの電話で、どんな内容だったんだ、電話」
 
 ドキリとした。
 特にバレたわけでもないのに、心臓が止まってしまうんじゃないかと思った。
 
 「電話は、関係ないんです」
 
 「……そっか」
 
 ならいいんだ、と士郎さんは事もなげに頷いた。
 あぁ、ダメだ。風邪でもないのに、熱もないのに……。
 また、士郎さんに抱きつきたい。抱いて、ほしい。
 彼の体温を、感じたい。
 
 「――――すいません。今日は、もう帰ります」
 
 このままいたら、きっと、崩れちゃうから。
 一晩離れるだけで、きっと元に戻る。
 
 「おやすみなさい、士郎さん」
 
 「あぁ、おやすみアリシア。……辛かったら、言えよ」
 
 「はい」
 
 元に、戻るから。
 きっとそれで、明日から元通り。
 
 ちゃんとお礼も言えて、笑い合って、ずっと、ずっと……。
 この、時間が続いてく。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:28   end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

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『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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