その優しい星で… Navi:27
月刊ウンディーネ。
水先案内業界トップシェアを誇る情報誌だ。毎回数人のプリマに取材し、記者との対談を載せていたり、漫画家であるアルセーヌ・R・ミツヤによる大人気連載中である『Nice! プリマをねらえ!!』も景気良く掲載されている(正直これのどこが面白いんだと思う)。
他には水先案内業の経済事情や、それぞれの会社の経営陣によるリレー式コラムなども載っている。
あとは季節の移り変わりには観光スポットなどの特集が組まれる時もある。これは主にマンホーム版で重宝する。
最後にめぼしいものと言えば、上半期下半期でのプリマ昇格者の特集か。
まぁ、基本的には“ウンディーネ”の情報誌だと思ってくれれば間違いはない。
となれば、基本的にこの雑誌に載るのは女性だけということになるだろう。コラムは別だが。
「……え……っと」
もう一度、表紙の特集記事の見出しをよく読み返してみる。
何度読んでも読み間違いなど見つからず、そろそろ本屋の店員から変な目で見られ始めた。
買おう。元からそのつもりだったんだし、問題はない筈だ。
「…………『誰が呼んだか、アクアに第五の妖精現る!?』…………」
カフェ・フロリアンでカフェ・オレを頼んでから、改めて表紙に書かれている文字を読み返す。
いつだったか。これ、呼び始めたのは私こと、晃・E・フェラーリです。
恐る恐るページを開いてみると、あるわあるわ、目撃証言だの助けられましただの。
「証言一。『態度の悪いお客様に絡まれている時に、助けてくれました。ありがとうございます!』」
この制服はMAGAか。
あそこも中堅水先案内店で、結構人気がある。
「証言二。『見ず知らずの人なのに、荷物持ちを手伝ってもらいました。ありがとうございました!』」
これはオレンジぷらねっとのシングルか。
荷物持ちってことは先輩から頼まれた買物の途中だったのだろうか。
……次は一般客からか。
「証言三。『道に迷っているところを助けてもらいました!』。証言四『オススメのお店を教えていただきました!』」
カフェ・オレが運ばれて、一口口に含んでパリパリに乾いた喉を潤す。
一度深呼吸を挟み、ページを進める。
「『目撃証言。白い髪に黒い肌、鋭い目付きとは裏腹にその態度は温厚。身長は190cm前後』……って、なぁ……」
明らかにひとりしかいない。
そんな奴、このアクア中を探しても、いや、マンホームを含めてもいい。
そんな奴はアイツ一人しかいない。
「……謝りに行った方が、いい、か……?」
でも記事を見ていく限り、まだ誰だとは特定されていないようだ。アイツの人助けをしても名乗らない、というなんだが妙な謙虚さのおかげだろう。
「『誰が言い出したのかは謎だが、彼の事を“アクア第五の妖精――ブラウニー ――”と呼ぶ者まで現れた。次号からは数ページを設けてこのブラウニーを追っていきたいと思う』か。こういうの好きそうだもんなー、雑誌って」
これは本格的に先に謝っておくべきかもしれない。
この雑誌をARIAカンパニーの連中も見るだろうし、今日は休みだし、ちょうどいいかもな。
空を見上げると、茜色が目を突いた。
「……さて、と。おーい、ウェイター、お勘定!」
カフェ・オレ分の代金と、チップを置いてフロリアンを離れる。
向かう先は、あまり行く気になれないARIAカンパニー。
誰が言い出したか分からないんなら、別に謝らなくてもいいじゃないか、などとも考えたが、それはダメだ。こうなっちゃ仕方ない。こういう性分なのだ。
前を向くと、カチカチと爪を鳴らしながら私の前を横切る黒色の地球猫。
嫌な予感しかしなかった。
* * * * *
「…………やばい」
冗談ではなく、本気で。
月刊ウンディーネを購入するのは、いつからか俺の役割になっている。
今日も何気なく本屋で手に取って購入し、よく確認することなく会社まで持ちかえってきて、今初めて開いたところだ。
もうすっかり秋色づいてきたというのに、俺は真夏の太陽の下にいるような勢いで汗を流している。
今までなぁなぁでいたが、俺には住民票どころか戸籍すらない。そもそも存在しない人間なのだからそれは当り前なのだが。
ともかく、これは由々しき事態なのは間違いない。
なぜなら、ここで俺が戸籍を持たない一人間だと分かってしまうと、どういうカタチであれ不法入国、いや入星? の疑いを掛けられるからだ。それを匿ったということで、アリシアや灯里、下手をすれば姫屋の晃に藍華、オレンジぷらねっとのアテナにアリス、その他俺に関係を持った人全員に飛び火しかねない。
…………それだけは、あっちゃいけない。
「……」
選択の余地はない。荷物をまとめる暇もない。
今すぐここから出ていかなければ、どうなることか、わかったもんじゃない。
「…………ごめん、アリシア」
約束を、早速破っちゃうな。
罪悪感が全くないわけではない。惹かれる想いがないわけではない。
残れることなら、残りたい。だが、それで人まで巻き込んじゃ本末転倒。
「さよならだ」
ドアノブに手をかけようとした時だった。
俺が扉を開くより早く、扉が開いていく。扉の向こうでは大多数の話声。明らかに俺の事を話している。
もう俺がここに居候しているということがバレたのか!?
マズイ、どこか、隠れる場所――――!!
「エミヤーン! ブラウニーってあんたのことでしょ、白状しなぁー、あ、あ?」
間に合ったか……。
アイナに続いて、おそらく月刊ウンディーネの記者だろう人らが数人入って来る。
そうか、アイナも月刊ウンディーネを読んでるんだな。それで記事を読んでピンと来て、さっそく連絡を入れたわけか。アイツらしい。ひっぱたいてやれないのが心残りだ。
――――認識阻害の結界剣。
どこかの名無しの魔術師が使っていた簡易魔術礼装。どうせだからと視ておいてよかった。
ただ、これは地面に突き刺して範囲結界を創り出すモノ。この場から動くことは出来ない。早く帰ってくれることを願う。
「いないんですか?」
「みたいですね。あはは、すいません。連絡なしに突撃したら驚くかなーって思ってたけど、本人いなくちゃ意味ないですよねぇ?」
あははー、と呑気に笑ってやがること。
本当にひっぱたくことが出来なくて残念だよ、まったく。
さて、我慢比べと行こうじゃないか。
それから1時間は経っただろうか。日は若干沈みかけ、空が橙色にくすんでいる。
アイナは少し前に帰ってきた灯里達三人娘とワイワイ話し始め、記者は適当にくつろいで待っている。
「それにしても、衛宮さんおっそいわねー」
「買い物袋があったからすぐ帰って来ると思ったんだけどなぁ……」
「でっかい行方不明ですね」
「まぁまぁ、お腹減ったら帰ってくるでしょー」
「いや、夕飯作るのって衛宮さんだし」
いよいよ出ていけなくなってきたな。
これは……寝静まるのを待つしかなくなってきたな。それならそれでいいのだが。
「ただいま帰り……あらあら?」
アリシアが帰ってきた。どうも帰ってきたと同時に記者とアイナの存在に驚いたようだ。
そのまま近づいてきて、どういった事情があるのかを尋ねていた。
「あぁ、今月の月刊ウンディーネご覧になりましたか、アリシア嬢?」
「え? いえ。まだ見てないですけど」
そのまま俺が買ってきた月刊ウンディーネを渡され、軽くパラパラと巻頭特集、つまり俺のことが書かれた記事を読んでいく。
それが読み終わった途端、ぱふん、と本を閉じた。
そして、にっこりといつもの微笑みを変えず、こう言った。
「今日、彼は出掛けると言っていたました。たしか、グランマのところに」
「グランマの?」
「そうです。明日には帰ると言っていましたから、すいませんが明日また」
「そうですか。では我々はこれで退散することにしましょう」
普通、ここまでアッサリと記者が引き下がる筈がない。
だが、そこで引き下がるのがこの世界の記者なのだ。ああいうゴシップじみた記事に仕立て上げることはあっても、突っ込んでは来ない。元々がウンディーネ相手の記者なのだから、しつこいと嫌われてロクにインタビューが出来なくなるからだろう。それでは月刊ウンディーネという雑誌名にキズがつく。
記者は俺の名前だけでも聞き出そうとしていたが、アリシアが頑としてそれを許さなかった。
ただ、ここまでしてくれたアリシアに別れを告げられないというのは、心が痛む。
寝静まれば、俺は出て行くだけだ。
「…………」
声は出せない。
あまり派手な身振りも出来ない。
そんなことをすれば認識阻害の効果が薄まってしまい、見つかる。
ただただ、目を瞑っていることしか出来なかった。
それからしばらくして、晃がARIAカンパニーを訪ねてきた。
俺がいないと分かると「出直してくる」とだけ言ってすぐ帰って行ったのだが。
深夜3時。
アリシアがやっと寝付いてくれた。
今まで俺が帰ってくるのすぐ傍で、椅子に座りながら、ずっとずっと、待っていてくれた。
まだ温かいコーヒーから湯気が立ち上っている。
音を出さないように、静かに結界剣を抜き、消滅させる。
少しだけ穴が開いてしまったが、気にするような大きさじゃない。
「すぅ……すぅ……」
完全に寝てしまっているのを確認して、扉に近づいて行く。
音は出していなかった。気配も消していた。だけど――――。
「し、ろうさん?」
「…………」
返事はしなかった。
逃げもしなかった。
ここで逃げても、ただアリシアを余計に悲しませてしまう気がして踏みとどまった。
ただ、振り返りはしなかった。
「おかえりなさい」
「…………」
「待っててくださいね、今お夕飯温め直しますから」
「アリシア……」
その態度が俺にはあまりにも痛く感じて、耐えられず声をかけた。
そんな俺の感情を知ってか知らずか、彼女はいつもとかわらない笑顔で振り向いた。
「はい?」
「ごめん」
「ど、どうしたんですか? 急に謝ったりして……」
「どうしてもこうしてもないだろ。下手したら、お前らまで捕まるかもしれないんだぞ?」
「捕まるって、何に?」
「警察とか、だよ」
少し喉に詰まる言葉だった。
そこまで言ってもアリシアは頭の上から『?』を消そうとはせず、首をひねった。
「あらあら、どうしてですか?」
「だから……っ!」
続きを言おうとして言葉を呑んだ。
もう言ってもしょうがない。わからないんなら、それでもいい。
それよりも早く、ここを去りたかった。
「…………っ」
「お出かけですか?」
「……はっきり言ったらどうだ」
「…………士郎さんなら、勘付くと思ってました。けど、なんででしょうね……。気がつかなかったことが、ちょっぴり嬉しいです」
今度はこちらが首をひねる番だった。
俺なら勘付くと思っていた、とはどういうことか。
それ以上のことを聞いていいのかを戸惑い、言葉の代わりに唾の飲み込んだ。
「――どういう意味だ?」
「えっ? あ、あの……気がつかないくらい、私たちのこと心配してくれてるんだなぁって……そう勝手に思っちゃって、嬉しかったんです、けど……あはは」
「あ――――、いや。ちが……。はぁ、もういい」
緊張が一気に緩んでいった。
その場にへたり込んで、アリシアを見つめながら、彼女の次の言葉を待った。
アリシアはやけに嬉しそうに俺の顔を覗き込みながら、確認するように言った。
「お夕飯、食べますか?」
「……あぁ」
もうどうにでもなってくれ。
そういう考えが頭をよぎり始めていた。ただ、そこに投げ捨てたような意味はなく、アリシアがあそこまで自信たっぷりに言ってるところを考えて、本当に大丈夫なんじゃないか、という安い信頼が芽生えてきたからだ。
しばらくすると、アリシアはキッチンから今日の夕飯のシチューを温めて、トレイに乗せて運んできてくれた。
それを受取り、少なからず減っていた腹を満たすようにすする。じんわりと温かい。甘い野菜の味が口いっぱいに広がって、胃がすんなりとその料理を受け付けた。
「おいしい」
「あらあら、うふふ」
調子に乗っておかわりを繰り返すこと3回。
さすがにもうお腹いっぱいになってきた。
「ごちそうさま。おいしかったよ」
「ありがとうございます。うふふ」
食事も終わり、ある程度落ち着いたところで、話を戻すようにアリシアを促した。
ちょっとだけバツの悪そうな顔をしてから、いつまでも床に座ってるのも何ですから、とテーブルに対面して座った。
すっと軽く深呼吸してから、アリシアは言った。
「士郎さんは、たぶん、今回のあの記事で戸籍とかがないのをまずく思ったから、ああいうこと、しようとしたんですよね?」
ああいうこと、というのが『どこかへ身をくらませる』という意味なら――――
「あぁ、そうだ。お前らにも迷惑がかかるだろうからな」
「だと思いましたよ」
うふふ、といたずらっぽく笑う。
「大丈夫ですよ。戸籍は、ちゃぁんとありますから」
「…………は?」
「ちょっと待っていて下さいね」
とてとてと会社の重要書類などが置かれている、アリシアしか触らないところまで早足に駆けて行き、端っこの戸棚から一封の封筒を取り出して、テーブルまで戻ってきた。
テーブルの上に置いて、手で「開けてみてください」と促された。
「では、遠慮なく……」
「はい」
まだ封じられていない口から、一枚の書類を取り出してみた。
戸籍表だった。
「……特別養子!?」
誰が親なのかを見る前に、そこに目が行った。
俺の欄に、しっかりと『特別養子』を書かれていたからだ。
……法律も変わっていった、ということだろうか……。でないと一応、戸籍はないが日本人である俺が特別養子になれるはずがないからだ。日本における特別養子とは、以前の実親との関係を断ち切った、本当に養子先の子供になる、というものである筈。
しかも、条件として6歳未満、というものもある。例外として8歳未満であってもよい、というものがあるが、ここでは割愛する。
「養親……天地、秋乃……!?」
ついでに言ってくと、養親になるには配偶者――つまり夫婦――がいることが条件として定められている。
確か、グランマは独り身だったと思うんだが……?
「いや、じゃなくて、どういうことだ、これっ」
「そういうことです、それ」
「いやだって民法とか!」
「全部クリアしてますよ?」
「なんでさ!?」
アリシア曰く、「日本じゃないんですから」だそうだ。
養親は基本的に配偶者がいないといけないらしいのだが、配偶者がいない場合でも『養親側がそれに足る人物と判断出来ればその限りではない』らしい。
養子側としては、日本の普通養子となんら変わりのない成立要件らしい。つまり、未成年者でない俺は裁判所の許可も必要ではなかったという。
なんてゆるい条例だ。
「…………ていうか、これいつ組んだんだ?」
俺はつい最近になってやっとグランマと知り合ったんだぞ。
いつの間にこんな養子縁組なんかしてたんだか。問題はここじゃない気がしないでもないが……気にしないでおいた方がいいのだろうか。頭が痛い。
「士郎さんがここに来て……半年ぐらい経った時、かな」
「もう一年近く前の事なのか……」
それはすごい。
何がすごいって、アリシアもそうだが、グランマが何よりすごい。
たった半年、付き合っただけの人間をそこまで信用して、しかもグランマに至っては会ったこともない、口伝えだけの人物を養子に、しかも特別養子に取ったというのだから。
あぁ、あぁ。
呆れるくらいに、すごい。呆れるくらいに、やさしい。
「…………参ったな」
「うふふ」
これはこれで、隠れたくなってくる。
もちろんいい意味でだが……。
「……まったく、本当に突拍子もないことをするな、アリシアはさ。グランマもだけど……」
「そうでもないですよ、きっと」
「だといいんだけどな」
「……一応明日のインタビューでも、そこまでは訊いて来ないと思いますよ。軽い雑談みたいな感じですから」
「まぁ、へまはしないようにするよ」
「あらあら、うふふ」
アリシアにはこの後すぐに寝てもらうことにした。
士郎さんはどうするんですか、と心配そうにこちらを見てきたので、どこかに行ったりはしないよ、と頭を撫でて彼女をなだめた。
それを聞いて、余程安心したのか、おやすみも言わないままアリシアは寝てしまった。
無茶、させたか……。今度買い物にでも誘ってやろう。それでなくとも、アリシアだったら散歩に誘うだけでも一緒に楽しめるかもしれない。うん、お詫びと、今までのお礼を込めて今度誘おう。
まぁ、まずは明日の取材をどうかわすかを考えなくてはいけないだろう。
3日3晩くらいなら寝なくても日常生活に支障はきたさない。
だからというわけではなかったが、取材記者に対して、事を荒げずに納めるにはどうすればいいか、と考えているうちに夜が明けてしまっていた。さすがに馬鹿らしくなって、小一時間寝た後再び起床。朝食の用意に取り掛かった。
いつもの朝の、いつもの風景と香り。
小鳥はさえずり、秋の朝空は結構冷え込む。海は夏に比べれば澄んだ色を示し、波は少し高くなる。
鍋が美味しい季節になってきた。
「…………どうだかな」
「あ、おはようございますー、士郎さん。グランマのとこ行ってたんですよね?」
「ん? あぁ、今朝方帰ってきたんだ。っていってもつい今しがただけどな。悪いな、急な用事が出来て」
「そうなんですかー。ふぁ……ああ」
「顔洗って来い。髪もボサボサだぞ?」
「はーいっ」
いつもの朝の、いつもの挨拶。
深呼吸すれば潮の香りが胸一杯に吸い込まれる。
「おはようございます、士郎さん」
「あぁ、おはよう。まだ寝てなくてもいいのか?」
「はい。今日は予約もお昼までですし、ゆっくりお昼寝する予定です」
「無茶はしないようにな」
「はい、わかってますよ。うふふ」
洗面台から戻ってきた灯里とすれ違いざまに挨拶を交わし合い、灯里はこちらに飛んでくる。
隣り合って朝食の準備をし、食器をテーブルに並べていく。並べ終わった頃にアリシアも戻ってきて一緒に配膳していく。
まだかまだか、と煌めいた瞳で待つ社長の分も忘れずに。
「いただきます」
『いただきます』「ぷいにゅ」
いつもと変わらない朝、いつもと変わらない風景と香り。
いつもと変わらない朝の、いつもの挨拶と食事。
「おいしい〜」
「あらあら、お弁当がついてるわよ、灯里ちゃん」
今日は、いつもと変わらない。
それがこんなにも楽しげで、なぜかいつもと違う気がする。
「ありがとうな、ほんとに」
三人には聞こえないように、そっと呟いた。
ただこれを伝えたいのはアリシアや灯里達だけじゃないんだぞ、わかってるか、自覚してるか?
――――遠坂。
* * * * *
「なんだかんだって言ってタイミングがなさすぎて一ヵ月謝りに行けない私って何なんだ、ちくしょー」
文句を一言口にして、渋々と今月分の月刊ウンディーネを購入した。
表紙には『ブラウニー』の言葉がそれなりの大きさで載っていた。少し心苦しいところがありながらも、ページをめくっていく。
そして、先月公言したとおり、『ブラウニー』の特集ページが組まれていた。
しかも、インタビュー付きで。
「遅かったか……」
記者との対談。軽く載っている衛宮のプロフィール。
身長と適当な趣味。どうでもいいことばかりが載っていた。
「…………なんだ、意外に真面目に答えてるなぁ。つまんないの」
1ページ半に渡るインタビューは特にこれと言って面白いものが載っているわけではなく、だからと言って真面目にやり過ぎていて固いという印象もない。
本当に、普通の記事だった。
だけど、あいつらしい言葉がところどころに散りばめられていて、あぁ衛宮なんだな、なんてわけのわからない感想が浮かんできた。
今更だけど、謝りに行ったら逆に空気読んでないみたいになるな。
「私の胸にしまっておくとするか」
「なにをですか?」
「あん? 何をって、このブラウニーの言いだしっぺが私だってことだよ」
「……へぇ〜」
「って、藍華!? お、おい、これ誰にも言うなよ? 特にアリシアとか」
「え〜、どうしよっかなぁ……。つい昨日晃さんにくるみパン買いに行かされたしなぁ……」
「人の足元見やがって……。わかったよ、わかったわかった。今度昼飯奢ってやるよ。あと特別にデザートも奢ってやる」
「いっやぁー。なんだか悪いことしちゃったみたいですいませんねぇ」
悪いと思ってるんなら言うなよ、ちくしょー。
絶対今度練習のときコテンパンにしてやるからな、藍華の奴め。
「衛宮さん、カッコイイこと言ってましたよね」
「……そうかぁ? いつものことだろ、こいつがこんなこと言うの」
パシパシと紙面を軽く叩く。
その先には、一つの質問と、ひとつの答えが載ってある。
「それって、衛宮さんが無条件でカッコイイってことですかぁ?」
にやにやといやらしい笑顔をこちらにむけてくる。
こいつ、弱み握ったからって調子づきやがって……。本当に覚えてろよ。
「そう言いながら、ほんとにそう思ってるのはお前じゃないのか?」
「そんなことありませんよーだ」
「どうだかねー」
「あー、なんですかそれー! 言っちゃいますよ、バラしますよっ?」
「はいはい、ごめんごめん。許してねっと」
机の上にページを開いたまま雑誌を置く。
そのまま伸びをして、肩を鳴らす。ストレッチもほどほどに、深呼吸を数回。
「じゃ、私仕事だから」
「はーい、いってらっしゃーい」
扉を開けた瞬間、廊下側の窓から少し肌寒いと感じるくらいの風が通り抜けた。
「もう秋も中頃だなー」
言葉も一緒に色づいていく。
きっと、今年は去年以上に面白いことが待っているに違いない。
「ゴンドラ、通りまーす!!」
来るべき面白いことに向かって、私は今日を生きていくとする。
……か。まぁ、受け売りなんだけどな。
――――『衛宮士郎さんは、アクアのどういうところがお好きですか?』
――――「特にありません。どこが好きで嫌いで、じゃないんです。私がアクアを好きでいる理由……それは――――」
『明日来る楽しいことに向かって、今を生きていける。そんな、星だからです』
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学



