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2009-08

銀メダル。

ども、草之です。
入江が200Bkで銀メダルを取りましたね。
 
ちなみに、表記として
Fr=フリースタイル=自由形
Bt=バタフライ
Br=ブレストストローク=平泳ぎ
Bk=バックストローク=背泳ぎ
です。べつにこれ公式ではないので注意。
それぞれのスイミングスクール、部活等でも違うところはあるでしょうし。
 
バタフライは特にバッタなどとも略されますね。
背泳ぎはバック、平泳ぎはブレ、自由形はそのままフリーと略されます。
 
あと練習表記に『skps』というのがあるんですが
スタイル1(専門種目)⇒キック⇒プル(基本腕中心で泳ぐ)⇒スタイル1を表します。
読みはそれぞれですが、「スキップス」、「エスケーピーエス」などがあります。
例えば『100×5 skps/25 1’45』という表記がメニューにあるとすれば、内容はこうです。

『100mを25mづつのskps、1分45秒で1本回れ』

という意味になります。
 
はい。
ちょっとした水泳講義終了です。
次回はいつになるでしょう。え、もういい? すいません。
 
 
 
とにかく、入江選手おめでとう!!
実は、草之は入江と一緒のプール(試合会場)で泳いだことがあります。
いや、草之はフリーが専門だったんでレースは違いましたが。
当時、やたらめったら笑ってましたね。だってあれはないと思いますよ、誰が見ても。
 
今回の銀を取った種目と同様、200Bkの決勝でした。
入江選手は確か5コースです。
さぁスタートの合図! 浮き上がりですでに体半分のリード。この時点であり得ない。普通、だいたい並んで出てきますからね?
そして、あからさまに流してる。見て分かるくらいに優雅に流してらっしゃる。
150のターン。その時2位とは20m近く差があったと思います。でも入江流してる。
2分フラットくらいで悠々とゴール。
 
やだ、なにこれ……。
 
これが高校レベルで泳いだ入江選手の実力でした。
 
 
 
 
そして、今回は世界新でゴールするも、アメリカのアーロン選手に腕の差だいたい約1秒差でゴール。
こりゃすげぇ。後半の追い上げが鬼。からだ一個離されていたというのに、3位から順位を上げて来よった(笑)。
 
まぁ、とにかく。
おめでとうございますっ!!
 
 
 
 
ということで、更新予告。
『背炎』を明日、日曜に更新予定。早ければ今夜あたり。
 
今はこれだけ。
あくまで予定ですので、遅れる可能性もあります。あしからずご了承ください。
 
 
では以上、草之でした。
以下、拍手レス。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:27

 
 「マスター、どうして……ネギ先生を」
 
 「あん? 茶々丸、お前日和ったか?」
 
 「いえ……。いつも暇だ暇だと嘆いていらっしゃるので、その……ネギ先生の相手をするくらいなら暇つぶしになるのでは、と」
 
 「ククク。茶々丸ぅ……なかなかいい思考回路を積んでもらっているな、お前。だがな、浅慮だ。あんなガキの相手をしていたら暇つぶしにはなるだろうが、まぁ、ストレスが溜まるだけだよ。そう思ったからあの金髪に師事しろなんて言ったんだ」
 
 はぁ、と気のない返事を返す。
 一度ぺこりと頭を下げてから下がっていく。
 入れ替わるようにカイ・キスクが部屋に入って来る。
 
 「話とは何ですか?」
 
 「あぁ。まぁ、お前のその正義感が私の事を邪魔をせんようにだけ、釘を刺しておこうと思ってな。いいか、私は土曜日、ぼうやに試験を与える。その内容がどんなものであれ、お前が手を出すことは許さん。否定的な声ひとつあげてみろ。永久凍土に葬ってやる」
 
 その脅しにもどこ吹く風。
 カイ・キスクはため息をひとつ吐いた。
 
 「人の試練にわざわざ口を出すほど無粋ではありませんよ。ですが、それも度が過ぎれば……」
 
 「ふん。まぁ、“どちらにしろ”ぼうやがどこかに外傷を負うことはないだろうよ」
 
 「……?」
 
 「独り言だ。気にするな」
 
 肩をコキリと鳴らし、カイ・キスクの隣を通り過ぎる。
 リビングまで降りて、茶々丸に話しかける。
 
 「ひと眠り前に散歩に行くぞ。花粉も朝ならまだマシだろうしな」
 
 「はい、マスター」
 
 「あ、あの……っ」
 
 玄関を向いて歩き出そうとしたとき、茶々丸のさらに後ろから声がかかる。
 カイ・キスクと一緒にウチで預かることになった半端者――ディズィーと言ったか――がそこにいた。
 何の用だ、と振り返って佇んだ。
 
 「私も、行ってもいいですか?」
 
 「どうして?」
 
 「全然出たことがないから。翼も尻尾も、ある程度なら隠せます」
 
 「まぁ、いいだろう。茶々丸、着替えを用意してやれ。出来るだけかさばる服装がいい。翼と尻尾を隠しやすいからな」
 
 「了解しました。ディズィーさん。こちらに」
 
 リビングのソファに座りこんで、着替えが済むのを待つ。
 かさばる服装、と言っておいてなんだが、そうなると時間がかかる。出来れば日が昇り切る前に出発したいものだ。
 待っているうち、カイ・キスクが2階から降りてきた。
 
 「紅茶でも入れましょうか?」
 
 「いい。世話になってるから、とかそういう認識でいるな。お前たちを預かっているのは、私個人の“暇つぶし”だ」
 
 「ふむ」
 
 「それに、ティーセットに勝手に触って茶々丸の機嫌を損ねるのも七面倒くさい」
 
 「なら仕方ありませんね」
 
 対面のソファに座って、テーブルの上にある新聞を手に取り、すぐに置き直した。
 カイ・キスクの顔を見ると、どことなく悔しそうだった。
 
 「ふふん? 日本語の読み書き聞き取りが出来ないんだったか」
 
 「ある程度なら分かりますよ。聖騎士団時代の前団長がジャパン贔屓だったもので」
 
 ただ、文法や意味がさっぱり。――だそうだ。
 わざわざ教えてやる気にもなれんし、こいつらが自分らの世界に戻った時の事を考えれば、教えるべきではないのかもしれない。
 あくびをひとつ挟んで、伸びをする。
 
 「ふぅ。……それにしても、なんだ。お前らの世界の住人は怪物ばかりだな」
 
 「ギアのことですか」
 
 「いいや。個人の強さのことだ」
 
 「すべては《魔法》の発見からでしょうね。そこから人は法力を見つけ出し、そし対ギア組織・聖騎士団を創立した。極端な話、おそらく、聖騎士団一個大隊でこの世界の国ひとつを潰せる程度の能力を持っていたでしょう」
 
 「よくそれで内紛等にならなかったものだな」
 
 「全世界共通の、最凶の敵が存在していたからですよ。ギア。その司令塔、ジャスティス」
 
 またジャスティスだ。
 話を聞いてきた限りでは、今のアメリカすら容易く武力制圧出来てしまいそうな実力を持っているらしいな。
 まぁ、そこまでスケールがでかい敵と戦ってきたのだ。こいつの実力も頷けるというものだ。
 そうか、ジャスティス……。会いたくはないものだ。
 
 「それと長年に渡って戦い続けていたのが、前団長クリフ=アンダーソン。竜族を数多く屠り、ついた名が『ドラゴンキラー』。よく言ってましたよ。『ギアなんぞゲンコツ一発で十分じゃ!』と」
 
 なんだその怪物爺は。
 麻帆良のクソジジイとは比べ物にならんのではないか。主にカッコよさとか。
 まぁ、とにかく。こいつらの世界の住人はびっくり箱だということだ。あのディズィーとやらもどれだけの力を持っていることやら。
 あとは、あのメイだったか……。
 
 「マスター、準備が整いました」
 
 「ああ。……ほぉー。なかなか似合ってるではないか」
 
 「あ、う……」
 
 かさばる服装、と言った時からというか、こいつのようなサイズの服は人形用の物しかない。
 その人形用の服も、私の趣味に一貫されているわけで、自然とゴシックになるわけだが。
 だがまぁ……ここまで似合うとはな。
 
 「似合ってますよ、ディズィーさん」
 
 「あ、ありがとうございます。カイさん。行ってきます」
 
 こっちはこっちで甘い空気を本人たちは気付かず作り出してるし。
 さっさと行くとしよう。時間はあるが、朝日が昇り始めている。
 
 「ほら、行くぞ」
 
 「はい、マスター」
 
 「あ、は、はい!」
 
 家を出ると、空が明けかけていた。
 それでも花粉はあまりないようで、安心して外出できそうだ。
 
 しばらくは他愛もない世間話をしながら歩いていると、遠目に見える世界樹広場にぼうやと佐々木まき絵の姿が見えた。
 ぼうやのカンフーを佐々木まき絵が覗いている、という図だ。
 カンフーねぇ。別にいいけど。
 
 「おはよう、ネギ先生」
 
 皮肉げに、たっぷり含みを持たせて呼びかけてやる。
 ハッとしてこちらを向いたぼうやは、一呼吸入れてから力強く仁王立った。
 
 「おはようございます、エヴァンジェリンさん」
 
 「ずいぶんと熱心だな。体を鍛えているのか?」
 
 「はい。魔法だけじゃ……これから先、どうなるかわかりませんし」
 
 「いい心掛けだな。さて、茶々丸、ディズィー。私たちは帰るとしよう。そろそろ花粉も飛び始める」
 
 ふたりを引きつれてその場から離れていく。
 そうだ。その殊勝な心掛けに免じて少し猶予を与えてやろう。
 
 「土曜から日曜日に試験を伸ばしてやろう。場所はここ、世界樹広場。時刻は0時だ。しっかり鍛えるんだな」
 
 「あ、はい!」
 
 後ろからは踏み込みのパン、という音が聞こえ始める。
 本当に熱心なことだ。
 
 「マスター、試験の内容ですが……一体どのような?」
 
 「気になるか、茶々丸?」
 
 「興味程度に」
 
 「なら、少しヒントをやろう。ぼうやのやっているアレ。アレは無駄な行為だ」
 
 親指で後ろ手にいるぼうやを差す。
 茶々丸がぼうやの方を確認してこちらに向き直ると、続きを話す。
 
 「まぁ、無駄とは言わんか。身体を鍛えるということは、つまりそういうことだ」
 
 「???」
 
 「ぼうやはガキ過ぎる。これから戦おう、力を手に入れようというだけの覚悟をまだ持てていない。大いなる力に伴うのは勝利でも栄光でも、敗北でも衰退でもない。“責任”なんだよ。ふふ、つまり、そういうことだ」
 
 私が何を言わんとしているのかは理解しているようだが、そこから試験の内容まで察しろというのは、さすがに無理があったか。
 人の心理的な部分だ。たかが機械が考えるには余りある。わからないなら考えなくていい、と茶々丸に言っておく。茶々丸以外に言えばかなりおちょくった言い草だが、まぁ、こいつは私の従者だからな。言わずともわかるだろうよ。
 
 「ディズィー、だったな。お前は覚え考えておけ。強さを持つことの意味、その真髄を。お前はヒトの部分を持っている。考えられる脳みそを持っているだろう」
 
 「あ、はい」
 
 「よろしい。あぁ、それから試験当日、カイ・キスクにも言ってあるが……なにがあっても手を出すんじゃないぞ。死にたくなければな」
 
 「はい……」
 
 従順、とはまた違うな。
 右も左も分からない、つまりは赤ん坊の反応だ。
 それでも、ぼうやよりは頭が冴えていそうだがな。そのうち放っておいても分かるだろう。
 
 「さて、帰って寝るとするか」
 
 「マスター。今日はメイさんの転校初日です。学園長や高畑先生にも着いてやるように依頼されています」
 
 遠まわしに「寝てる暇などありません」と言っていた。
 まったく、なんでこの頃ガキの世話が多いんだ。世話するこっちの身にもなってみろ。
 どうせ授業なんてあってないようなものだというのに。
 
 「わかったわかった。授業中に寝るとする」
 
 微妙な顔をしながらも、頭を下げている。
 さっさと帰って優等生らしく登校してやろうじゃないか。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「~~~~~~」
 
 扉の向こう。
 ネギという名前の少年が私の紹介をしているらしい。
 ……不安だ。
 
 ――『ここは日本じゃ。君らの世界では滅亡したらしいがのぅ』
 
 ……ここが、ジャパン。
 信じられない。並行世界、とかいうらしい。
 ボクは自分の事を、ジャパニーズだとか、そんなことを言われたことがある。世界が違っていたとしても、ここはボクの故郷と変わらない景色と匂いとがある……はず。
 なのに、なんでこんなに不安なんだろ。
 
 「ジョニー……大丈夫かな。ジェリーフィッシュのみんなも……無事かな」
 
 それだけが気掛かりと言えば気掛かり。
 こんなことろで、ボクなにしてるんだろう……。
 
 「Please come on!(入ってきてください!)」
 
 教室がシンと静まり返る。
 一度溜息を吐いてから、扉に手をかけて一気に開けた。
 そのまま生徒の顔は見ないようにツカツカとネギの横に着く。眼を閉じて、ネギが合図してくれるまで待つことにする。
 
 「~~~~~~」
 
 また分からない言葉――日本語、というらしい――で何かを話している。
 耳を澄ませば、ちょっとだけざわついている。というか囁き合っているのがよく聞こえる。
 
 「It explained your circumstances. Please introduce yourself(事情は説明しておきました。自己紹介してください)」
 
 「Okay(オーケー)」
 
 パッと顔を上げる。
 一番先に目に入ったのは、教室の一番後ろでニヤついている金髪ロンゲ。
 ジェリーフィッシュのみんなと会ったら何かとちょっかいを出してくる、スケコマシ。
 
 一瞬だけ顔がゆがんだ気がするけど、気を取り直して。
 深呼吸を一回。
 
 「My name is May. My best regards(ボクはメイ。よろしく)」
 
 簡単なことでいい、と言っていた。
 見回してみると、結構な数の女の子がずらり。それを見て、ちょっとだけ安心した。
 まるでジェリーフィッシュ快賊団みたい。見た限り、ジャパニーズばっかりじゃないみたいだ。
 茶々丸はヒトでもないらしいけど……。
 ネギは横で同時通訳をしてくれていたから、みんなにわからないということはないと思うけど。
 なんか、固まってるよ?
 
 まさか、なんか悪いことしたとか?
 よろしくって言っただけなんだけど……態度がよくなかったとか?
 まぁ、受け入れてくれないならそれはそれでいいんだけどね。どうせここにも長くはいないだろうし。
 結局、ここはボクたちからしてみれば嘘の世界なんだろうし……。
 
 ――と。
 ひとりの子がすっと手を挙げた。
 窓際の一番前の子だ。
 
 「あー。えっと、ウェアーディッジューカム?」
 
 うん?
 隣のネギを見る。苦笑いをしながら、訳してくれた。
 
 「She says, "Where did you come?"(彼女は、「あなたはどこから来たんですか?」と言ってるんです)」
 
 「Ah-ha. I traveled around …… all over the world and turned(ああ。ボクはそうだね……世界中を旅して回ってたよ)」
 
 ネギがまたペラペラと訳していく。
 質問した子はなにやらメモ帳に必死に書き込んでいる。数秒足らずで書き終わり、その後、いくつかの質問をしてきた。
 
 ――――好きな食べ物は?
 「If it is a dish of the Miss Leap, anything is loved(リープおばさんの料理ならなんでも大好きだよ)」
 
 ――――暇なときは何してる?
 「It washes or the dish is made. Housework help(洗濯とか、料理とか。家事手伝いだね)」
 
 ――――嫌いなものはある?
 「Bald head!!(はげ!!)」
 
 ――――趣味は?
 「Thing to think of Johnny!(ジョニーのこと考えること!)」
 
 ――――ジョニーって誰ですか?
 「My husband in the future(ボクの未来の夫)」
 
 この質問に対して、ネギはしどろもどろになりながら訳していた。
 たぶん、だけど。ちゃんと訳してないと思う。絶対クッション挟んだ言い方した。
 そういう気真面目っぽいところが感じられる。まるでお兄さんみたいだ。
 
 それでもきっと英語をそれなりに出来る人には伝わっていたのか、ニヤニヤしてる人がいる。
 ふふん。羨ましいでしょ。
 
 「Please sit down at the seat on the side of Miss Eva it. The class is started(それじゃあ、エヴァさんの隣の席についてください。授業を始めます)」
 
 「O.K」
 
 知り合いが隣だとやり易いもんね。
 とすん、と座ってエヴァに挨拶をする。
 
 「私は眠いんだ。精々生涯初めての授業を楽しむことだ」
 
 「いいけど、ネギって先生なんでしょ? 怒られないの?」
 
 「怒られるもんか。怒られたら教室を出ればいい。屋上の影が差す場所での昼寝などなかなかいいものだ」
 
 「そ? まぁ、ならテキストだけでも置いといてよ。そういうのがいるんでしょ? マンガでみたことがあるからさ」
 
 「どうでもいいが、貴様らの情報収集源が心配になってきたぞ」
 
 「お構いなく。単なる娯楽で読んだだけだから。知識はジョニー仕込みよ、学校の授業なんてメじゃないわ」
 
 「ならいいけどな」
 
 バサバサっと鞄をひっくり返してテキスト一式を机の上にぶちまけた。
 勝手に取れ、ってことなんだろう。ネギは英語の教師だって言ってたから、これね。
 ――――……なに、コレ。ぜんぶ日本語……?
 後ろを向いた。
 金髪兄さんがニヤニヤとこちらを向いている。
 
 「……ちょっと癪だけど、読んでくれない?」
 
 「今度団員の誰か紹介してくれるって約束してくれんなら喜んでやるぜ?」
 
 「…………。わかったわ」
 
 ジャニス(猫)かマーチ(赤ちゃん)を紹介してやる。
 嘘じゃないもんね。頭の使いようって奴だもんね。
 
 こうして、一日の授業が終わった。
 ハッキリ言って、ジョニーの方が教えるのが上手いし、頭に入る。
 日本語がわからないってのを差し引いても、学生ってこんなにレベルの低いことしてるんだ。
 理科とか、メイシップいじってたら物理も余裕だし、化学なんて覚えるだけでしょ?
 社会もジョニーが言ってた通りのことだし、いまさら覚える必要もなさそうだ。
 数学は余裕。公式に当てはめたら終わりじゃない。
 まぁ、日本語はちんぷんかんぷんなんだけど……。
 
 「疲れるだけでつまんないものだね」
 
 「分かってるじゃないか、メイ」
 
 なぜか、嬉しそうに笑っていたエヴァが頭から離れなかった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「――――よく来たな、ぼうや」
 
 「時間通り、やって来ましたよ……!」
 
 「予想通り、ギャラリーもいるいる……“よろしい”ことだ」
 
 わらわらといるわいるわ。
 佐々木まき絵に、明石の娘、大河内アキラ、和泉亜子、バカイエロー。
 ぼうやの取り巻き、もとい仮契約者の神楽坂明日菜、近衛木乃香、桜咲刹那、と。
 
 「ついて来てしまって……ダメだったでしょうか?」
 
 「いいや。大いに結構。……言っただろ、“よろしい”ことだとな。仲間の声援という奴は、ときにリミッターを外す鍵となる。また、心強いものだ。その点で言えば、ぼうやの潜在能力が垣間見れるかもしれん。楽しみだ」
 
 「ケケケ。心ニモナイコト言イヤガッテ」
 
 「いいや、チャチャゼロ。そうでもないさ。ジャパニメーションを見てみろ。愛、勇気、希望……! 様々なファクターに支えられ、主人公は成長していく。それはもう……立派な立派な“偽善者”にな。――――とは言うものの、そういうものがあるからこそ、戦意が保たれるというのも事実だ。大概最後には邪魔になるんだがな」
 
 下をちらりと見てみると、静かに開始の合図を待つぼうやがいた。
 なんだ、取り乱しもしないのか。つまらん。……いいや、焦ってるな?
 こんな会話をして、一体どんな試験を受けさせるのかと。
 
 「もう一度確認しよう。外野の奴らにルール説明だ。ぼうや側の奴らには特に規定はない。勝手にするがいい。仮契約を含め、ぼうやの実力だからな。制限を設けるのはこちら側だ。カイ・キスク、ディズィー、メイ、茶々丸、チャチャゼロ。お前らは決して手を出すな。否定的な言葉を一言でも発した瞬間、この試験は中止、ぼうやの弟子入り話はなしだ」
 
 ぼうやの表情がどんどん曇っていく。
 手にした杖が固く握られているのがよくわかる。
 いいね、その焦り切った表情。ここにソルがいたら笑い飛ばしてもう帰っていることだろう。
 
 さて、本題を切り出すとしよう。
 
 「ぼうや。ルールだ。ぼうやはどんな手段を使ってもいい。朝日が出るまでくたばるな。それと、これから言う言葉を一言でも言った瞬間にこの試験は中止、ぼうやの弟子入りはなしだ。いいかよく聞いて、よく言わないように気をつけておけ?」
 
 ――『やめて』
 ――『ごめんなさい』
 ――『許して』
 
 「このみっつだ。心の準備はよろしいか、ネギ・スプリングフィールド?」
 
 「…………は、はいっ」
 
 ここからでもぼうやの動悸が分かるようだ。
 ああ、とても愉快だ。
 
 愛とは、つまり裏切りへのスパイス。
 勇気とは、つまり逃走へのスパイス。
 希望とは、つまり絶望へのスパイス。
 
 さぁ、お集まりの紳士淑女の皆々様。
 今宵、素敵なパーティーを、どうかどうぞごゆるりと……。
 
 「――――始め」
 
 お楽しみましませ……!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:27  end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

ハマってしまった。

ども、草之です。
ニコニコの作業用BGMにて。
「おぉ……いいわぁ……」
と、とあるゲームのボーカルBGM集があったわけですよ。
 
でまぁ、衝動が起こるまま、買ってしまったのがこれ。
 
『ペルソナ4』
 
なにげにペルソナシリーズで初めて買った作品です。
メガテンシリーズで言えば、デビチル炎の書以来のアトラスの購入作品。
んー。正直なめてたわ。これはヤバいね。いろいろ。
 
BGMがオサレ過ぎないか?
と思うことなかれ、これが意外にあうあう。
OPとベルベットルームのが好き。あとザコ戦のBGMも。
ていうか、戦闘曲にまさかボーカルを入れるとはなかなか面白い試み。
 
日曜日に購入して、その日はやる暇もなく。
月曜から今日水曜まで毎日12時間ほどぶっ通しでプレイして、現在期末テスト前。
りせを救ったあとです。りせはダウナーな方が好きなんですけど、草之的に(笑)。
 
とりあえず、雪子が可愛すぎると思うんだ。あみっけ補正も入って最強に見える。
あと可愛いといえば完二ですか(笑)。いや、草之はソッチのケはありませんが。あと、夏休み中の妹も隣でずっと見てるんですが、どうやら花村に惚れたらしく、探索メンバーから花村を外した瞬間一言。
 
「何してんの!? 死んだらええのに!!」
 
……ゲームの中の存在以下の兄貴です、草之です。
とまぁ、こういった理由からここ更新してなかったんですが。あと暑すぎてパソの前に座ってられないとかもそういったことに関係してるかもしれない。
昼間は無理ですからね、これ絶対熱中症にかかっちゃいますって。
ジェル枕の出番ですか……。
 
 
 
さて、今週のジャンプにまたダイスケの続編が載ってましたね。
……書けと?
いや、さすがにもう書きませんよ。たしかに面白かったですけど。
 
 
まぁさておき。
更新予告です。とりあえず、「あまんちゅ!」発売日と草之の誕生日が重なった記念という建前の一周年記念オリジナルSSを、まぁ、10日、月曜日に更新予定です。
(というか天野先生。これ、草之への誕生日プレゼントって勝手に捉えますけどいいですよね?)
あと、まぁ、12から17くらいまで東京の友人に会いに行こうなどという予定もあるのでその間の更新は……友人Sよ、パソ貸してくれないか(笑)?
 
来週月曜日に一周年記念SSを更新予定です!
って話です。
 
 
 
以上、草之でした。
以下拍手レス。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

夏風――アナタヲオモフ――

『歯車屋敷』一周年記念SS。
オリジナル短編。24頁程度。
 
 
 
 
――追う思い出と、たどり着く約束――
 
――大切な約束、覚えていますか?――
 
 
 
 

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

ただいま帰りました。そして拍手レス。

ども、久々の草之です。
行ってきました、コミックマーケット76!
初参加でしたけど、想像してた以上に人が多い。いや、人が多いんじゃなくて、人しか目に映らない。
試しにケータイを掲げて写メルと分かるんですが、画面の先、つまり奥の奥まで人人人。
思わず「うぉおお」と引いたぐらいに人人人。さすがウン十万人と集まるイベントなだけはありますね。
 
さて。
2日目と3日目に参加したわけですが。
2日目は友人とともに東方へすっ飛んで行きましたよ。
草之が黄昏フロンティアへ、友人が本家へ。
スタッフですらどこが最後尾なのかを見失うほどの行列。
あ、ここで言うのもなんですけど、草之のちょうど隣に並んでいて、最後のほうにアクエリアスを一口分けていただいた方。見てるかどうかは定かではありませんが、アクエリアス、本当にありがとうございました。

3日目は、うろうろと。
リンク先である『EXBreaker』管理人の天海澄さんのところを訪問。
実を言うと、それ以外に予定がなかったりしたりする。確かに、3日目は草之が巡回してるサイトの人も多く出ていましたが、よくしてもらってる澄さんしか頭になくて、準備もなしに突貫。
挨拶をかわして、その後うろうろ。そろそろ帰ろう、というところでお別れの挨拶にまた顔を出す。
いや、なんかすいませんでした。
 
 
と、いうことで。
この一週間の拍手コメの返信をしていきたいと思います。
以上、草之でした。
 
以下、追記から拍手レス。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:5-1

 
 地上本部強襲から一夜経って、メディアが騒ぎ始めた。本局からは、ユークリッドの指名手配解除の命が出ているにも関わらず、地上本部はそれを『理由が明らかでない』という理由で拒み、今も六課周辺に張り込んでいる局員が数名いるのが確認されている。また、夜明け前にオーリス防衛官秘書が訪れ、ユークリッドに面会を求めるもシャマルが断る。
 本局が指名手配を解除すると言っている手前、本局所属の六課はそれに従い、ユークリッドを保護しているかたちになる。だけど、指名手配状を発行したのは地上本部。またここで海と陸のいさかいの種が生まれた。
 
 医務室に一番近い休憩所。
 ユークリッドのお見舞いに行った帰り、私たち隊長陣は彼の病室にいた女性――クリームヒルトを呼び出していた。
 私……フェイト・T・ハラオウンとなのは、そしてはやての三人は彼女の対面に座り、彼女の言葉を待っていた。
 
 「さて、と。なにからお聴きになりたいのかしら?」
 
 目の前に座る彼女が静かにそう告げた。
 優雅な仕草で紅茶の入ったカップを弄り、舌をつけては優しく微笑んでいる。
 よほどこの紅茶がお気に召したのだろう。
 
 「全部や。一切合切、ユークリッドのこと、あんたのこと、ミルヒアイスのこと、知ってること全部や」
 
 語気を強めに、はやてがそう切り出した。
 それもどこ吹く風、彼女はまた紅茶に舌を浸けた。
 
 「全部、と言いましても順序があるでしょう。それに、貴女方が知っている情報すら話してしまえば、それすなわち時間の無駄、というものでしてよ。お解りかしら、“夜天の主”?」
 
 「……あんた、なんでそれ……」
 
 「解りますとも。貴女からは“あの”忌々しい闇の書の香りがいたしますからね。貴女がどうやって闇の書を手懐けたかは尋ねませんが、だいたい予想はつきます。管理人格がいなくなっていることから見ても、ふふ、悲しかったですか? そんな顔をしてますわよ、フラウ・ヤガミ」
 
 はやてはその言葉を聞いて、頭を乱暴に掻き毟った。ボサボサの髪のまま、続きを促した。
 
 「ですから、貴女たちの持っている情報を提示しなさいと申しているでしょう。解りませんね、どうも」
 
 「……そう易々と情報も公開できんのやよ。あんたがどんなヤツで、どういう理由でここにおるんか解らん限りな」
 
 押されても引かぬ。
 そんな問答が今、目の前で起こっている。喧嘩してるわけでもないのに、胃の辺りがキリキリと痛んでくる。
 こっちの方がストレスが溜まってしまいそうな雰囲気だった。
 
 「…………了承しました。では、どこから話せばよろしいでしょうね?」
 
 「……管理局入局から、順を追って頼むわ」
 
 先に折れたのは、クリームヒルトだった。
 今はアウトフレームをフルサイズまで拡張し、私たちとそんなに変わらないような背丈を持っている。髪の毛はあの時のように紅く燃えてはおらず、ただ真白い髪だけがミルクが流れるように垂れていた。
 もう一度紅茶に舌を浸け、一息ついてからこちらを向いた。
 
 「入局して間もなく、ワタクシたちは検査を受けさせられました。結果は“大当たり”。情報は上層部中の上層部、おそらく最高評議会にまで届いたでしょう。そして、ワタクシたちの情報を知っているのは、本当に一握りのそう……最高評議会と、その研究に協力していた研究者たちのみ」
 
 この意味がお解りになりますか? と、そう言って彼女はまた黙ってしまった。
 考えてみる。最高評議会。研究。秘匿された情報。導き出した答えは、あまり考えたくないものだった。
 
 「もしかして、あなたたちは……」
 
 「ヤ。フラウ・ハラオウン、正解です。ワタクシたちは、全員漏れなく人体研究素体として扱われていました」
 
 「やっぱり。それじゃあ、やっぱりユークリッドにもなにか……」
 
 「ありませんわ。ユーリはただのラインハルトの騎士。レアスキルなど持ち合わせておりません。そうですわね……。強いて言うなら、リンカーコアが普通の魔導師や騎士と比べて格段に強か、ということくらいですか」
 
 『し、強か?』
 
 リンカーコアに対してそんな表現を聞いたことのない私たちは、全員固まってしまった。
 と、いういよりも、リンカーコアに強度もなにもあるのだろうか……? 魔導師や騎士の魔力の源であり、また弱点とも言えるその部位はとても繊細で、むやみやたらにいじってもいい場所ではないはずなのだ。
 話の流れから察するに、ユークリッドは……もしかしてリンカーコアになにか手術を施されたのだろうか。
 
 「……それはユークリッドが弄られたから、ちゅうことなんか?」
 
 はやても同じことを考えていたらしい。私が訊くよりも早く、クリームヒルトに問いかけていた。
 目を伏せながら、彼女は首を横に振った。
 
 「原因はワタクシです。これはまずは置いておきましょう。まず話すべきはその研究内容、ですね?」
 
 順序を守って、ということなら、その通りだ。
 私たちは首肯だけして、続きを促した。それに満足げに微笑んだ彼女は紅茶のカップを置き、こちらを正面に置いて話し始めた。
 
 「ではまず、ミーアのレアスキルの簡単な説明から始めましょう。ワタクシたちは単に『竜の力』などと呼んでいましたが、どうやらいつの間にやら世の中では『母なる竜の揺り籠』、なんていう大層な名称が出来たそうですわね。まぁ、いいでしょう。この能力ですが、簡単に言えば“竜種生成・使役”です。そこに着目した最高評議会は、ミーアのネームバリューと共に、管理局の最終兵器として扱うための研究を始めたのですよ。ワタクシたちを巻き込んでね」
 
 ――――……確かに。
 竜種というのは珍しい部類に入る魔法生物だ。それに、幼竜であっても、その戦闘能力は計り知れない。それはキャロのフリードリヒを見てもわかることだ。その竜種を無限に生成・使役が出来るとなれば、戦力強化など生易しい程度の問題ではない。人一人が、すでに戦略兵器としての機能を持っているといってもいい。
 最高評議会でなくとも、魅力的過ぎるシロモノだ。
 
 「……で、どういった研究内容だったか、ですけど。とにかく、生み出しては戦わせの繰り返し。データ採取。そこから導き出せる最も効果的な運用方法。そして、ミーアの身体自体の研究。それが4年に渡って続けられ、次の段階……『実戦投入による戦績調査』に移ろうとしたときです。ミーアが交渉し、条件付きでユーリとワタクシを、研究対象から外させました」
 
 「……条件?」
 
 「『外部に一切の情報を流さない』ことと、『クリームヒルトの封印』ですわ。もし約束を反故にするような事があれば、一生暗い鳥籠の中で過ごすことになる、とユーリに対して脅しをかけてもいましたね」
 
 情報流出を止めたのは、おそらく体裁の問題からだろう。
 どんな理由があろうと、管理局の法にひっかかることを管理局自体が、しかも最高評議会がしているとなれば管理局の立場がなくなる。
 あとは、内紛の抑止……かな。
 
 「そこからワタクシの記憶は途切れ……まぁ、あとの流れは貴女方のほうがお詳しいのではなくて?」
 
 頷く。
 逐一見ていたわけじゃないけど、情報公開と、過ごした時間からいっても、それは間違いない。
 そこだけクリームヒルトの声が妙に嬉しそうな声音になったのは、聞き間違いじゃないだろう。きっと“私たちがいなくても、ユークリッドには仲間がいた”ということを嬉しく思っているのだろうと思う。
 なんというか、大人だ。
 
 「……さて。これが大まかな流れですわ。次はなにをお聞きになりたい?」
 
 「あんたらそれぞれが持ってるレアスキルについて、お願いしよか」
 
 「よろしくてよ。ではまず……ワタクシのレアスキルからご紹介致しましょう!」
 
 クリームヒルト声が一段と弾んだ。
 なんというか……子供だ。
 
 「ベルカの時代から、“変換資質『滅竜』”と呼ばれていましたわ。そのゆえんは、竜の防御能力を知っていれば、よく分かっていただけるでしょう。真竜のまるで要塞のような堅さすら物ともせずに崩し、斬り裂く。それがゆえに『滅竜』などという名称が出来ましたが――――」
 
 「ちょちょちょ……っ! ちょい待ち。クリームヒルト、あんたは竜を生成・使役するレアスキルを持ってたお姫様……ミルヒアイスに仕えてたんやろ!? おかしいやないか、それ」
 
 「違います。ワタクシが仕えていたのはラインハルト家。そのあたり、お間違えにはなりませぬよう」
 
 「おんなじ事やろ」
 
 「ぜんっぜん違いますわ!! 確かに、ワタクシとミーアは融合騎と女王と身分の違う立場ですが、ワタクシたちの間には主従の関係などありません! ラインハルトがギプフェルに仕えていたからといって、ラインハルトに仕えていたワタクシもギプフェルに仕えていた、という道理にはなりません。騎士として、仕える相手はただひとりなのですわ!! 試しに貴女の守護騎士にでも訊いて御覧なさい!! たとえ仕事上の上司がいたとしても、“仕えている”のは貴女ただひとりだと答えるはずですわっ!!」
 
 クリームヒルトは興奮し、机を蹴り上げる勢いで立ち上がり、対面に座っていたはやてに詰め寄っていた。
 鼻と鼻がくっつくような距離で彼女は大声で力説し、はやては目を開ききってただ押されるばかりだった。
 
 「わ、わかったから……っ。落ち着いて、な?」
 
 「まったく。まぁ、今日はこのくらいで勘弁してあげますわ。本題からズレましたしね」
 
 クリームヒルトはそう言って、どっかりと椅子に座り直し、また紅茶を舌でなめ始めた。
 いきり立っているときは気がつかなかったが、彼女の毛先の方が紅くなっている。そうとう頭にキていたということだろう。
 彼女はあまり怒らせない方がいいのかもしれない。
 
 「さて。『滅竜』などという名称で呼ばれていた我が能力ですが、別段“対竜に特化した”能力というわけではないのです。言い直すとするならば、“竜すら労せず屠る”能力というべきでしょう。この違いが分かりますか?」
 
 「竜だけに効果がある能力じゃなくて、竜以外にも効果を発揮するってことだよね?」
 
 「Das ist richtig(その通り)! 理解が速くてワタクシも大助かりですわ。さて、ではこの能力の大本……仕組みをお教えしましょう」
 
 「ええんかいな、そこまで教えて」
 
 「もちろんよろしくてよ。だいたいこの能力を教えたところで、ワタクシ個人では使えない屑ですしね」
 
 「使えない?」
 
 そこに食いついたのは、なのはだった。
 確かに、条件が揃っていなければ意味のない魔法も大いにある。しかし、個人では使えない魔法となると、探してみてもそうそうはないだろう。ひとりでは魔力量が決定的に足りなくなる大規模な儀式系の魔法か、それともちょっと内容からは外れるだろうけども、アルカンシェルのような魔導砲なども個人では使用できないだろう。
 しかし、これは“変換資質”と銘打っている。それが個人では使えないとはどういうことなのだろう。
 ――――と、そんなことをなのはは考えたんだろう。
 
 「そう。これも変換資質と言われていますが、厳密に言えば変換資質でもない。『滅竜』同様、言い表しようのないものだから、一番理解しやすいカタチで表記しているにすぎません。――……ワタクシの能力をこれら以外の言葉で表現しようとするなら……そうですね……“リンカーコア超活性化”とでもいいましょうか」
 
 『リンカーコア超活性化?』
 
 そうです。とクリームヒルトは頷いた。紅茶のカップを持ち上げて、ちびりちびりと舐める。相変わらず舌を浸けるだけの紅茶のその飲み方は、どうにも慣れない。飲むなら飲めばいいのに、と思えてくる。
 
 「ワタクシが融合騎であることはもうご存じですわね? つまりは、そういうことです」
 
 「えっと……ユニゾンした人のリンカーコアを、超活性化させるってことなのかな?」
 
 「ヤ」
 
 なのはが出した答えでいいらしい。
 ……でも待てよ。リンカーコアっていうのは、魔導師の魔力の源だ。それを活性化させるってことは……つまり、大気中の魔力素をより多く取り込むことが出来るようになり、また魔力放出も大きくなるということ。
 極端な例が、蛇口だったものが、放水用のホースに変わるようなものだ。
 それは、凄い。――――と、同時にかなり危険なものでもある。
 
 「フラウ・ハラオウンは座学も優秀なようですね。このふたりはどちらかというと感覚で魔法を使うタイプのようですわ」
 
 「にゃはは。でも人並みには知ってるよ? 一応ね」
 
 「私もそれなりに知っとるよ。一応はな」
 
 ちょっとばかり意地になったふたりが頬を膨らませながら、クリームヒルトに言い返している。
 それを微笑みで流して、クリームヒルトは続けた。
 
 「人体……特に魔導師、騎士といった生き物には総じて“総魔力量”というものがあります。これが昨今の魔導師ランクにも関連付けされていることは、言わずとも理解しているでしょう。これはリンカーコアが取り込んだ大気中の魔力素を、その人物がどれだけ体内に蓄積出来るかを表したものです。これを超えた魔力を保有することはできることはないし、また最大値もそうやすやすと拡張されるわけでもない。一生のうちで、ランクひとつ分の成長があれば、化け物と呼んで差支えない程拡張されにくいものですわね」
 
 私たちは静かに彼女の講義を聞いている。
 クリームヒルトはと言えば、嬉々として話している。どうやらかなりの自信家らしい。それに、結構自己主張も激しいみたいだ。
 自分の能力をこれほどまで嬉しそうに話す人物を、私は見たことがない。
 
 「さて。“総魔力量”の話が終わったところで、ワタクシの能力『滅竜』について触れていくとしましょう。あの戦いの場にあって間近で目にしたフラウ・ハラオウンとフラウ・タカマチは外見特徴を覚えておいででしょうか?」
 
 「えっと……なんだかバリバリってしてたよね、フェイトちゃん?」
 
 「なんていうか……バリアジャケット……騎士甲冑の上から、さらに強力なバリアを張ったような、そんな感じ」
 
 よろしい、と彼女は頷いた。
 外見特徴を、もっと具体的な例で表すとするならば、まるでプラズマを纏ったような姿だった。
 とろけるように、だけど激しく発光するさまは、まさしくプラズマのようだった。
 
 「では次です。中身を説明していきましょう。ワタクシがユニゾンし、『滅竜』を発動させるためにユーリのリンカーコアに直接働きかけます。ワタクシ自身の魔力を、彼のリンカーコアに叩きつけるとこで……つまりは、暴走を誘発させます」
 
 『――――ッな!?』
 
 暴走を誘発させる……!?
 そんな、危険すぎる……。悪ければ、リンカーコアを失うだけではすまない。命にさえ関わってくる。
 これが、あの強大な威力の代償だというのだろうか。
 
 「暴走したリンカーコアは次々に大気中の魔力素を取り込み始めます。そこからがワタクシの本領発揮。暴走したリンカーコアに対し、直接干渉し、“ワタクシが”拡張機としての働きを務めます」
 
 「直接干渉!? アホ言うんちゃう、んなことしたら拒絶反応が出るやろ! そこらへんは戦闘機人やらとおんなじや!」
 
 「そのあたりは当り前ですとも。ただ、ラインハルトは、代々ワタクシを使いこなしてきた。その意味が、理解できますか?」
 
 「それは…………遺伝、か?」
 
 「ヤ。リンカーコアとは、遺伝による能力継承が可能な魔導器官です。それを立証しようというのなら、そこらへんの魔導師や騎士を捕まえて、その親のリンカーコアを調べ、比較すればすぐに解るコトです。代々ワタクシを使い続けてきたラインハルトのリンカーコアは、暴走程度のことではすぐにリアクションを起こさないところにまで成長したのです。それが最初に言っていた、ユーリのリンカーコアが強か、またそれがワタクシに原因があるといった理由ですわ」
 
 「俄かには信じられん話やな。常識を疑うわ」
 
 はやては前のめりになっていた身体を椅子に戻して、一息ついた。
 手元の水が入ったコップを掴んで、一気に飲み干す。
 
 「さて、説明に戻りましょう。拡張機、といっても“総魔力量”を多くするためにするわけではありません。容量ではなく、運用効率を爆発的に高めるためにリンカーコアに直接干渉――――言ってしまえば融合するのです。ではここで質問ですわ。管理局や時空航行艦には魔導師や騎士を認知するための広範囲感知器……レーダーを持っているわけですが、さて、これにはなぜ魔力が感知され、認知されるのでしょうか?」
 
 「それは、魔力が流れ出してるからだよ。もしくは、魔法行使しているからだね。認識阻害魔法はつまり、対象にフィルターをかけることでこれらを隠してるようなものなんだよね」
 
 「正解ですわ、フラウ・タカマチ。そう、流れですわ。魔力はなにもしていなくても体外に流れ出ていく。それにちょっと細工をすれば、砲撃魔法顔負けの燃費の悪さを実現できますわ」
 
 「……まさか」
 
 そのまさかです、と彼女はまた嬉しそうに頷く。
 どんどん彼女の性格が分かってきた。
 なんというか、ユークリッドがああいう性格になったのも頷ける。それに、理解を求める時に質問をするのとか、ユークリッドそっくり……いや、ユークリッドがクリームヒルトに似たんだ。
 
 「ワタクシのレアスキル“変換資質『滅竜』”は、ワタクシの桁外れの演算能力と、制御能力に支えられた、リンカーコアを介した、ただの超高高速の魔力運用ですわ。ですが、そうですね……リンカーコアの問題を除き、ワタクシ以外がこれと同じ真似をするとしましょうか。……演算が追いつかず、制御に狂いが生じ、先にデバイスがオーバーヒートで壊れます。その後は、分かりますね? リンカーコアの暴走が止まらず、魔力の出所もない、制御も効かない。待っているのは、死です」
 
 ぞっとしない話だ。
 思い出してみればあの超長距離射撃魔法も、彼女が放っていたのだったか。……あの魔法がどれほどのものなのかは全く分からないが、あの速度と精度と飛距離を以てして、あの連射性……。どれほどの精緻な、それでいて高速演算が行われているのか、想像に難くない。
 つまり、クリームヒルトのレアスキルの正体は、彼女の地力。特殊なものでもなんでもない。他に存在するデバイスと比べて、余りにもその性能の違いに“特殊技能”としての条件が一致したにすぎない。
 そして、その自力に合わせて進化してきた『ラインハルト』という騎士の家のリンカーコア。
 途方もない、気が遠くなるほどに長い年月が造り上げた、奇跡のレアスキル。
 
 それが彼女の、クリームヒルトの“魔力変換資質『滅竜』”……。
 
 「では、中身の説明が終わったところで、概要に移るとしましょう。一言で言ってしまえば、魔力刃となんら変わりません」
 
 「魔力刃って、あの、私のザンバーとか、なのはのストライクフレームとかのあれだよね?」
 
 「まぁ、詳しくは知りませんがそうでしょう。魔力を刃のカタチに留め、敵を斬る。その行為に違いはない、ということですわ」
 
 ……改めて思う。
 シンプルこそが最強の奥義なのだと。
 シグナムもよく言っているように、『近づいて斬る』。当たれば必殺。
 その単純さに、戦術はことごとく砕かれる場合もある。あれほど常識はずれな能力を有してなお、辿り着く攻撃方法は至極単純。
 ……いや、攻撃自体は、その全てが単純なんだ。殴る、蹴る、突く、斬る、撃つ。
 
 その一撃を極めた者が、強者と呼ばれるんだ。
 
 「濁流が如く垂れ流された魔力は、暴走状態にあるリンカーコアの魔力素の吸引力に負け、また体内へ。しかし、暴走状態であるリンカーコアの食欲に底はない……ようにしてるのはワタクシなのですが。さておいて……、魔力の暴食、そして吐露は続き、やがて超高密度の魔力の渦が身体を包む。それが貴女方の見た“発光する魔力”――――『滅竜』の魔力刃、スパークドライブですわ」
 
 「回転・流動する魔力刃、か。……でも待ち。それって、アームド・インテリジェント・ストレージデバイスで耐えられる出力なんか? ジークフリードの状態見てたら信じられへんで?」
 
 「もちろん、不可能ですわ」
 
 「ちょっ、そんなハッキリ言うなや」
 
 「では言い換えましょう。無理ですわ」
 
 「おんなじやないか……」
 
 はやてはがっくりと肩を落とす。なのははそれを窘めるようにしながら、耳だけはしっかりクリームヒルトの方に集中していた。
 さて、真相やいかに?
 
 「通常のデバイスでは、強度が足りません。まぁ、強度が足りていなくても、ワタクシ並みの演算能力があれば話は別なのですが。は、置いといて。ジークフリードの大破の件は、元々からすでにボロボロだったことを差し引いても、万全の状態で長くて5分が限界でしょう。スカバードモードに限って、ですが。それ以外の形態の場合、さらに短くなるでしょうね。場合によりますが」
 
 「じゃあ……バルムンク、やっけ? あれはどうなってんの?」
 
 「彼は頑丈さの格が違いますわ。別次元といってもよろしいでしょう。ワタクシの全力のスパークドライブを数時間続けてもどこもおかしくなることはないでしょう。まったく、今のデバイスは貧弱で困っちゃいますわ」
 
 やれやれといった感じで肩をすくめる。
 ジークフリードの改造に立ち合った私としては、彼の頑丈さには驚いたのに、バルムンクはさらにその上の上をいくようだ。
 
 「……さて。話が長くなりましたわね」
 
 舌をベロベロとたらし、「しゃべり疲れた」ということを暗に示す。
 またその舌で紅茶を舐め、最後に、ほとんどぬるくなってしまったうえに全然減っていない紅茶を一気に流し込んだ。
 そのまま彼女は静かにカップを置き、立ち上がる。
 
 「ミーアのことについては、ユーリが起きてから話すとしましょう。貴女たちも疲れたでしょう?」
 
 アウトフレームを融合騎の標準サイズに戻し、浮かびあがる。
 ふわふわと私たちの頭上を飛びながら、最後にこう言った。
 
 「…………覚悟なさい。ミーアがどのようなカタチで敵になったかは知りませんが、敵となった以上、討たねばなりません。…………絶望は、後からじわりじわりと押し寄せてくるものなのですから」
 
 そうとだけ言い残して、クリームヒルトはどこへともなく飛んで行った。
 ここに残された三人は、一言もしゃべろうともしない。重い空気が流れだす。
 
 ミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェル。
 古代ベルカにして聖王から“聖帝”と呼ばれ、竜の軍勢を執る騎士姫。
 スカリエッティが霞んで見えるほど、強大で多大。
 
 「……怖いね」
 
 そう零したのは、意外にもなのはだった。
 不屈の心、とも言われた彼女がまっさきに恐怖を訴えた。
 
 「……ヴィータちゃんが、手も足も出ない敵、だよ? 怖いよ、私」
 
 そう言いながら、なのはは力強く笑っていた。
 わからない。なんで怖いという相手の話で、笑えるのだろう。
 
 「怖くて怖くて、でも…………でも、私はひとりじゃない」
 
 私とはやての真ん中に座っていたなのはは、静かに手を握ってきた。
 
 「私が折れない心を持っていられるのは、フェイトちゃん、はやてちゃん。ふたりのおかげだから。私が諦めないなら、きっとみんなも諦めない。エースオブエースは、もう墜ちない。私が持つ砲撃で、みんなの心を支えられるのなら、私は撃ち続ける。それが、きっと私がこの戦いで最も必要なこと。だから……だから」
 
 「そばにいるよ、なのは。私も、ひとりじゃないから」
 
 「ほんま、なのはちゃんは甘えんぼさんやなぁ。おーよしよし」
 
 私とはやてが、それぞれのやり方と言葉で、なのはに心を伝える。
 折れない心はさらに強く。
 
 そう、なのはが、私たちが持っているのは、不屈の心なんかじゃない。
 エースとしての誇りでもない。隊長陣としてのメンツなんかでもない。
 
 もっと単純な、私たちの原風景。
 
 ――――Undisappear Relationship
             消えない絆――――
 
 永遠の答えがあるとするのなら、きっと私たちのここにある。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:5-1  end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

ピュアな紳士の仲間入り。そして拍手レス。

ども、草之です。
東京に行ったときの帰りに、実は箱○も購入していたという。
で、一年の時を超え、いよいよヴェスペリアをやり始めたわけですよ。でもネット環境が整ってないからLiveには接続できないんだZE☆
 
うん。
テイルズシリーズの(シナリオの)空気を壊さず、それでいて新しい試みも盛り入れている。
今まででのシリーズで進んで人を殺した主人公なんていませんでしたしね(戦闘除く(笑))。
あれはある意味自己満足ともとれる内容で、こういうのが嫌いな人はこれで一気に冷めてしまう人もいるでしょう。でも、逆にああいう面を取り入れ、ユーリが『好きなキャラランキング』(でしたっけ?)で不動の位置を占めていたリオンに勝利したのも頷けます。
正直、リオンよりジューダスの方が好きですけどね、草之は。え? 同一人物だろ、って、ジューダスの話聞いてましたか奥さん!
 
「僕はリオン・マグナスなんて人間じゃない。僕はジューダスだ」
 
って言ってくれたじゃないですか!!
台詞は正直うろ覚えですけど。でもD2が草之の中で一番好きなテイルズなんです。戦闘面でも、ストーリーでも。泣いたテイルズはあれだけです。あの終わり方は反則だわぁ……。あと、せっかくのエンディングで、父親に最後「こいつ(リアラ)ほっそいなー。ちゃんと飯食ってないんちゃうか」と茶々入れられたのもいい思い出。あれは確か2週目のEDだった。
 
というわけでテイルズ語りはそろそろ切っておかないとどんどん続きそうだ。
こないだ友人宅で久々にエターニアして、ゼクンドゥスに挑んで一瞬で負けて、仕方ないからシゼル倒そうぜ、って話になって友人が極光波の出し方を忘れて余裕で全滅しかけたのもいい思い出(押し続けなのに友人は連打しだした。それは極光剣だ!!)。
 
ヴェスペリアも残すはラストダンジョンのみ。
「明星壱号」は読みはアケボシイチゴウでいいはず。明星壱号作戦とか、どこのトップですかぁぁぁあああ!! と俄然やる気になったり。フレン戦でファーストエイドや守護方陣をわざとやらせて戦闘を長引かせたり。楽しんでました。
 
ほら、どんどん続いちゃうし。
 
というわけで、今日は前々からアイマスのキャラに似過ぎてね? とか、キャバクラじゃないからピュアだもん! とかで話題騒然だったドリームクラブの発売日ですね。
亜麻音が可愛すぎる。あれは反則ですって。ん、まぁ、草之の場合あみっけ補正もかかってるんでしょうけど。
……あとは、タイトルから察してください(笑)。
 
 
 
 
というわけで。
久々の更新予告です。前回のB.A.C.Kは予告なしで更新したので。
今週土曜日に『優星』を更新!
来週頭に『背炎』を更新予定!
また、予定ですので遅れる可能性もあります。
あしからずご了承ください。
 
 
以下、拍手レス。
では以上草之でした。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:29

 
 「いよう、お嬢ちゃん。久しぶりっ」
 
 お嬢ちゃん、というからには、横で書類整理をしている灯里に話しかけているのだろう。
 大柄で、少しばかり胡散臭い男性が手を挙げながらカウンターの向こうにやってきた。
 
 「灯里?」
 
 「…………」
 
 「…………」
 
 微妙な沈黙が続いて、男性が頭に手を置く。
 
 「あちゃあ。覚えてねえか、オイラのこと。ま、ずいぶん前に一回会っただけだしなぁ」
 
 さすがの灯里もギクッ、と体を硬直させる。
 とりあえず、顛末を見届けるとしよう。でもまぁ、お客様に変わりはないだろうから、一応お茶のようでもしておくかな。
 遠目に映る男性は「うーむ」と唸りながら、どうにかして思い出してもらおうとしているのだろう、自分からは名乗らず、灯里にヒントを繰り出した。
 
 「ヒント1『ため息橋』。ヒント2『アホな弟』」
 
 そういうと、灯里はすぐにハッとして失礼ながら男性を指差し、男性の方はそんなことを微塵も気にせずにお茶目な態度で受け取った。
 
 「ああ――っ! 暁さんのお兄さん」
 
 「ぴんぽーん、正解」
 
 「へぇ。暁に兄弟がいたのか……」
 
 紅茶を持って来ながら言うと、男性はニカッとこちらにも愛想のいい笑顔を向けた。
 
 「あんたが暁の言ってた衛宮士郎だな。オイラは出雲新太ってんだ、よろしくなっ」
 
 大柄な、言ってしまえばでっぷりとした体格の暁の兄、新太はそう言って手を差し出してきた。
 少し驚きつつも、その手を握り返し、改めてこちらからも自己紹介をする。
 
 「その感じですともうご存じなのでしょうが、衛宮士郎です。よろしくお願いします」
 
 「おいおい、あんたの方が年上なんじゃないのか? 敬語なんて水臭いぜ、やめてくれよ」
 
 「そうか。なら、普通に、な」
 
 握っていた手をもう一度強く握り合い、ぱっと手を離す。
 どうやら暁とは違って、結構フランクな性格をしてるらしい。これは想像でしかないのだけど、暁のあの少し卑屈っぽい性格はこの兄のせいではないだろうか、とも思った。
 
 「今日はどういったご用件で?」
 
 灯里がお茶をすすりながら、視線を上げて新太に訊ねた。
 見た目からは想像しづらい上品さで紅茶を飲んでいた新太が灯里に顔を向けて、少し自慢げに言って見せた。
 
 「オイラは星間貿易関係の仕事をしててな。今回は、まぁ、デキの悪い弟から聞いたお嬢ちゃんの腕を見込んで、ぜひ、今度のオイラの仕事を手伝って欲しいんだ。……っと。ヤバい荷物じゃないから安心してなっ」
 
 人が思っているより、どうやら彼は自分の見た目に気を使っているらしい。
 暁の兄、というからにはまだ20代あって後半。それが星間貿易なんて大きな仕事をしてれば、舐められることだって少なくはないはずだろう。若く見せないために、老け作りするのは珍しいことじゃない。だが、その見た目ゆえに、変な方向に見られることもある。と、そういう背景がありありと浮かんだ。
 なんにしても、灯里が初めてウンディーネとして指名された。うん、今日は赤飯だな。……いや、それはちょっとやりすぎか?
 せめて鯛、とかか?
 
 「……ほへっ?」
 
 灯里にしては静かだと思ってみれば、どうやら状況が飲み込めていないらしい。
 新太を見ると、案の定呆れ返っていた。
 
 「いや……『ほへっ?』じゃなくてさ。オイラの話、ちゃんと聞いてた?」
 
 なるほどなぁ、と別に納得してる様子を見ると、暁からは灯里の事を事細かに聞いていたらしい。
 新太がなぜわざわざシングルに仕事の依頼をしに来たのかを考えれば、灯里の事は“訊いた”のではなく“聞いた”ということがわかる。逆に言えば、暁はそれだけ灯里の事を家族に言いふらしていたということだ。そしてこの男の性格だ、絶対に暁をからかっているだろう。そのときの暁の慌て様は想像に難くない。
 
 「も一回言うぞ? ぜひ、ウンディーネの仕事で、お嬢ちゃんを指名させてもらいてえんだ」
 
 今度は直接的に、ずばりと言った。
 そこでようやく灯里の理解も追いついたのか、大声で叫びをあげて、目を点にしたまま忙しなくロビーをうろうろと歩きまわり始めた。
 様子を見ている限り、いつになったら戻ってくるかわからないような興奮の仕方なので、仕方無く俺が代わりに対応をすませる。
 
 「それで、運搬か?」
 
 「おうとも。商品はネオ・ヴェネツィアンガラスだ」
 
 「ほー。……それで、日時は?」
 
 「急な話だが、明日だ。どうだ、イケそうかい?」
 
 「ちょっと待ってくれ」
 
 シングルのゴンドラに客を乗せるとなると、プリマの同乗が必須事項となる。
 まぁ、灯里ならこじつけで済ませてしまいそうではあるが。
 
 「あぁ、アリシアのスケジュールは夜だけだし、昼間なら大丈夫だ」
 
 「朝からの仕事だから、そのあたりは心配いらねえ。ただちっと早いけどな」
 
 「問題ない。新太は空港でいるんだな?」
 
 「ああ。打ち合わせとか、他にも荷物はあるしな」
 
 ある程度の打ち合わせを済ませ、あとは無事に運ぶだけ、となった頃、ずっと黙りこんで嬉しそうに浮かれていた灯里が一段と大きな声を上げた。
 
 「士郎さんっ、アリシアさんに報告してきますねっ」
 
 そう言って、灯里は慌ただしく階段を駆け上がって行った。
 灯里も仕事の話なんだからしっかり聞いといたほうがいいのに。……まぁ、あの状態でしっかり頭に入るのか、と聞かれれば素直に頷きは出来ないか。笑い事じゃないけどな。
 
 新太は仕事があるから、とすぐに帰った。
 携帯端末でなにやら商人特有のいやらしさを感じさせないイヤラシイ会話をしながら、街の陰に消えて行った。
 あの年で凄いもんだ。片や、アクアの『正義の味方』のサラマンダー、と。何気に稼ぎが良さそうだな、出雲家は。
 親孝行してるなぁ。
 
 ……親孝行か。切嗣に親孝行なんて考えたこともなかったな。
 ただ、『正義の味方』になることが一番の親孝行で、またそれとは別に俺の一番の……いや、たったひとつの願いでもあった、と。
 この世界じゃ、切嗣のような『正義の味方』になることは出来ないだろう。遠すぎるから。
 だけど、この世界に来て、俺はどうなっただろう。『正義の味方』は今でもたったひとつの願いであることには変わりがない。だけど、ワガママが出来た。
 俺は、ここにいたい。
 
 『正義の味方』になれないから去るなんて、出来ない。
 …………あぁ、そうだ。大切なものが、この手には出来た。……気がする。
 
 「はは」
 
 だんだんと遠くなる。
 理想から、願いから、夢から。
 だけども、その正反対の位置にいた、『選んではいけない』と無意識に思っていた道が見えた。
 見ないように、願わないようにしていたその未知が、はっきりと映った。
 
 「…………ありがとう、だな」
 
 何に対してのありがとうなのかは、自分でもよくわかっていない。
 ただはっきりと分かっているのは、チャンスを与えてくれた遠坂に対して。
 
 「さて、と。夕飯と明日の朝の弁当でも作るかなーっと」
 
 自分でも驚くぐらいに意気揚揚と、キッチンへ向かった。
 
 
 「おはよ――ございますっ」
 
 灯里が声を張り上げて、澄んだ空気に声が響いた。
 工房の熱が外に流れ出していて、それほど寒くは感じなかった。
 
 「ARIAカンパニーからやって参りました、水無灯里と申す者ですっ」
 
 そんな挨拶が終わるかと思った時、奥の方から、おそらく親方だろう人物が表に出てきた。
 
 「おー。朝早くからごくろーさん」
 
 「はひっ。まだまだ半人前ですが」
 
 「んじゃ、荷物運び出してくれる?」
 
 「はひっ、お任せください、まだまだ半人前ですがっ」
 
 灯里の頭越しに中をのぞいてみると、結構な量のダンボール箱にネオ・ヴェネツィアンガラスが詰められていた。
 ガラスというのは、透明な見た目に反して重い。あれだけ詰められていればそれなりに重くなっているだろう。それにあの量だ、やはり荷物持ちというだけででもついてきて良かった。
 
 灯里が心配というのはもちろんだが、商品ということもある。
 灯里に注意をむけつつ、自分もひとつダンボールを抱えた。
 
 「綺麗……」
 
 灯里がぽつりともらす。
 言われてから、ダンボールから覗くネオ・ヴェネツィアンガラスを見てみる。
 これが全部ガラスで作られているとは思えないほど、様々な色を出している。
 
 「大切に運ばなきゃですね♡」
 
 「そうね」
 
 「いや……うん、いいか。そうだな」
 
 綺麗でなくとも大切に運ぼう、と言いたかったのだが、言ったところで無駄だろう。
 灯里にとって、“素敵でない”ものの方が珍しいんだからな。馬に念仏、暖簾に腕押し、糠に釘、猫に小判、というわけだ。
 と。
 
 「…………」
 
 背の低い、アルよりは老けて見える少年だか青年だか見分けがつきづらい人物が正面に立っていた。
 
 「あ、そいつ今日の運搬の立ち合い。ビシバシ使ってやってな」
 
 親方が奥で作業をしながら、そう教えてくれた。
 人の事を言えた義理じゃないが、むすっとした仏頂面のままで突っ立っていられると、どことなく気まずい。
 
 「よろしくっス」
 
 「あっ、こちらこそ……」
 
 よろしく、と灯里が続けるより早く、彼は灯里の持っていたダンボールを奪い、運びだした。
 俺の方も一瞬だけみたが、すぐに目をそらし、そそくさと運び始めた。
 ……ふむ?
 
 「あと、こちらですよね?」
 
 灯里が残っているダンボールを持ち上げると、入り口付近でいた彼が驚いたように身体を強張らせ、荷物を舟に乗せ、すぐに戻って灯里の荷物をまた取って行ってしまった。
 
 「…………。あの、私も運ぶの手伝いますよ。どんどん使ってください」
 
 「結構っス。このガラス達はマエストロが精魂込めて作った、僕達職人の努力の結晶なんです」
 
 ぼそりと、ふてくされたような態度で続ける。
 
 「難クセつけられちゃ、たまりませんから」
 
 「あーあ……」
 
 誰にも聞こえないように、口の中で呟いておいた。
 ……それはさすがに言っちゃいけないだろう。こっちだって仕事で来てるんだ、半端な気持ちで臨んでるわけじゃない。まぁ、信用できないっていうんなら、灯里と新太には悪いが……この仕事、降りた方がいい。
 
 と。
 そんなことを考えている間に、親方が俺たちの横を通り抜けて、彼に並んだ。
 
 「こら!」
 
 「あてっ」
 
 荷物を持っているからだろうか、軽く拳骨を彼の頭に喰らわせた。
 
 「男のくせにいつまでもウジウジいてんじゃねえ。ましてや部外者に八ツ当たりすんな。俺たちゃ誇りをもってやってりゃいいんだ。シャンとしろ、シャンと」
 
 「はい」
 
 情けない声を出しながら、彼はダンボールを足元に置いて、親方と一緒に頭を下げる。
 
 「いやぁ、スンマセンでした」
 
 「いえ」
 
 ダンボールは灯里と彼と俺でゴンドラに運び込み、思っていた以上にすぐ終わった。
 まぁ、あるといっても10箱もなければそれはそうか。
 
 で、だ。
 ……ゴンドラの後ろと前でなんでこれだけ空気が違うんだか。
 灯里はネオ・ヴェネツィアンガラスを運べるというだけで嬉しそうだし、なによりこれが指名ありの初仕事なんだから張り切って当然か。
 変わって、前の空気の重いこと。まだ納得がいかないのか、ぶすっとした態度で座り込んでいる。
 
 「今日は一日、よろしくお願いしますっ」
 
 「はあ」
 
 「私、ネオ・ヴェネツィアンガラス見たの初めてなんです」
 
 「はあ」
 
 「これ全部さっきのマエストロが作ったんですか?」
 
 「ええ、まあ」
 
 まさに気のない返事の代表。
 適当過ぎる言葉で返してくる。こういうところを見ると、つくづくこの世界の人は気が長いというか……、そもそも我慢なんてしてないんじゃないだろうか。俺だって無愛想だ無愛想だと言われてはきたが、それなりの礼儀は持っているつもりだ。
 ……まぁ、彼の気持ちは分からないでもない。
 
 「ピカピカキラキラ、宝物を運んでいる気持ちになっちゃいますねー」
 
 灯里がそう言うと、彼はまだ膨れながらも、すこし朱の差した顔で振り向いた。
 ……だろうとも。その“反対”に腹を立てているんだろうから、嬉しく思って当然だろう。
 
 「本当にそう思ってくれてます?」
 
 だが、よほどひどく言われたのだろうか。
 彼が特別ひねくれてるわけではないのだろうが、灯里に訊き返した。
 
 「はいっ」
 
 もちろん、灯里は即答した。
 灯里が社交辞令なんかを言うはずもなく、それを知っている俺は安心して会話を聞く側に回る。
 悪くはならない。きっと、いつものように灯里は楽しむ。
 
 「灯里ちゃん。マンホームのヴェネツィアンガラスは、千年以上の伝統があったのよ。鉛を含まないソーダ石灰が最大の特長で、あらゆる色を表現できたんですって」
 
 「ほへー。だからこんなにカラフルなんですねえ」
 
 「ええ」
 
 こちらはこちらで相変わらずの空気を醸し出しながら、期待に胸を膨らませている。
 そんなふたりを見かねてか、彼もいよいよ口を開いた。
 
 「ヴェネツィアンガラスの発展にもっとも寄与したのは、1291年に出された法令だと言われてるんス」
 
 好きなことは、語りたい。
 また、その良さを、知らない人に知ってほしい。そんな自然な感情を感じた。
 はっとして、アリシアの顔を見た。目と目があって、アリシアはくすくすと笑った。……やっぱり確信犯か。
 こういうところ、よく気が回ると思う。
 
 「どういう法令だったんですか?」
 
 そしてもちろん、灯里が食いつくことも予想してだろう。
 あとは勝手に灯里がやってくれるだろう。本人も意識しないで、だ。
 
 「ガラス職人やその家族までも、当時の生産拠点だったムラノ島に集中して住ませた法律で、島外に逃げる者は厳しく罰し、功績を上げた者には手厚い保障を与えるという、アメとムチの掟っス。そうまでしてすることによって、独自の技術と名声は守られ、発展してきたんです」
 
 「ほへー」
 
 今では考えられない、少しトンだ法律に灯里は目を丸めた。
 そう言われれば、魔術師にも近いものがある。一子相伝の、つまるところ『魔術回路』だ。
 まぁ、そんなものよりもずっとこっちのほうが健全と言えば健全だ。
 
 「む。社長、それはみんなの分もあるんだぞ?」
 
 「にゅっ」
 
 「あー、私のおやつ袋」
 
 「おやつ?」
 
 「……食べます? 士郎さんが作ったのはおいしいですよ~」
 
 「ぜひっ」
 
 そこで彼は強く頷いた。
 まぁ、立ち合い人くらいいるだろうと思って多めに作っては来ていたが、そこまで期待されるようなものじゃないぞ。
 たかだか堅焼きのビスケットだし。……完全に休憩という空気が流れ始め、灯里もオールを置いて座り込んだ。
 
 パリパリとビスケットが噛まれる音が鳴り、次いで灯里の至福の表情が広がる。
 
 「おいひーっ」
 
 「うまいっス」
 
 「そりゃどうも。作った甲斐があるってもんだ」
 
 しばらくヴェネツィアンガラスの事を中心に雑談が続いて、いやぁ、と灯里がどこかおっさんくさく息を漏らす。
 
 「しかし、伊達に伝統の重みがあるワケではないのですねぇ」
 
 「いやいや。しかし、その発展と栄光の歴史も永遠ではなかったんスよ」
 
 「ほほーう。と申しますと?」
 
 「……アクア・アルタだな。……マンホームのヴェネツィアが沈んでしまったという、大規模なもの」
 
 「そっス。その時にガラス職人達も世界中に散り散りになってしまったんです。思えば、あのときヴェネツィアンガラス本来の高度な技術は失われてしまったのかもしれません」
 
 そう言って、彼は静かにビスケットを食んだ。
 ビスケットが割れる音だけが水面に反射して、やけに大きく聞こえた。
 
 「そして、アクアにネオ・ヴェネツィアを建造することが決まった時に、ヴェネツィアンガラスも復活させる機運が高まったんです。文献資料集めから、かつての職人達の伝統技術を受け継いだ人探し。本当に何もかもゼロからスタートしたそうっス」
 
 そんなに難しいことには聞こえないようで、よく考えてみれば、これは本当に難しいことだ。
 閉じ込められ高まった技術はあまり外部に漏れなかった、ということから考えて、文献や資料集めはほとんど絶望的。なぜなら、一度染みついた習慣はなかなか抜けないからだ。ある種麻薬のようなものである。
 ……つまり、アクア・アルタと同時に文献や資料も海の底に沈んでしまった、と考えられるからだ。
 それでも世界的に開けた時代……20世紀末から21世紀にかけて、その技術が外へ飛び出したこともあるだろう。それを探し出す。
 また、伝統を継承した人を探す、ということについては、これはいくらか資料探しに比べれば楽ではある。
 専門家や、その道に精通した人に尋ねれば、ある程度の情報を集めることが出来るだろう。コレクターなどでもよい。むしろ、コレクターの方が詳しいことなど多々あることだ。
 
 だが、探す事と復興させる事では、まったく意味が違う。
 
 「そうやって、何とか。今日の形まで持ってくることができました。うん、がんばった」
 
 自分もそのひとりだと数えるように、彼はひとつ頷いた。
 
 「でも、最近僕達職人ががんばればがんばるほど、一部の心ない人たちが言うんですよね。所詮は猿真似の偽物、いい気になってる嘘モノだって……。工房で夢中になってモノ作りに取り組んでいるマエストロの背中を見る度に、僕達徒弟はそれが悔しいやら、悲しいやら……とっても切なくなるんス」
 
 その話を聞き、いくらか思い出すことがあった。
 言うべきか、言わざるべきかを悩んでいると、灯里が「どうぞ」とお茶を差し出していた。
 
 「それで、さっき工房にいた時、元気がなかったんですね」
 
 「はい。スンマセンでした。八ツ当たりして」
 
 アリシアが確認するように言うと、顔を伏せて、恥ずかしそうに謝罪していた。
 元々、こいつはあんな無愛想な性格じゃないんだろう。誇りがあるのは結構だが……まぁ、だからまだ弟子なんだろう。
 ……親方がこいつに教えたいのは、『誇りは瑕つくものではなく、磨くものだ』ということなのかもしれない。
 
 ぐいっ、とゴンドラが進み始めた。
 
 「その人が嘘モノと感じるなら、それはその人にとっては嘘モノなんでしょう」
 
 「!」
 
 「人の価値観は十人十色ですもんね」
 
 灯里がそう言うと、彼は顔をしかめた。
 それくらい解ってる、とでも言いたげな表情だった。そりゃそうだ。本気で偽物という罵倒を受け止めていては、いろいろと保たないだろう。そのあとを、灯里は続ける。
 
 「……グランマが言ってたんです。“笑顔っていうのは嘘か本当かじゃない”って。“思いやる心”があるかないかなんだって。それってきっと、笑顔だけじゃないと思います。だから、嘘モノだって言われて傷ついてしまうのは、貴方のネオ・ヴェネツィアンガラスに対する気持ちが、思いやりのこもった、本当のものだから、大切な大切な、貴方の心だからなんだと思います」
 
 決して上手く言えているわけではなかった。
 このあたりのことは、俺でも上手く説明できないだろう。ただ言葉にするだけでも難しい。
 灯里は、本当になにをしでかすかわからないな。
 
 「……ぶっちゃけ私、この世には嘘モノはないって思うんです」
 
 そして、本当にぶっちゃけてしまうところとか、本当にわからない。
 だが、それでこその灯里でもある。灯里の話はまだまだ続く。
 
 「たとえば、マンホームから観光で訪れたお客様の中には、結局ここはかつてのマンホームのヴェネツィアの偽物だって言う人もいます。確かに、街の造りだけみれば真似っこかもしれません。でも、アクアとマンホームでは街が出来た過程も、流れた時間も違いますよね? 当然そこで過ごした人も、紡がれた思いも、違うと思うんです。少なくとも私の場合……本物か偽物か。全然問題じゃないんです」
 
 静かに、でも熱い感情が込められているのが分かるほど、灯里は自分の想いを並べていた。
 その感情はまるで宝石のようで……あぁそうだ、たったひとつしかない、灯里という宝石の輝きを放っていた。
 
 ぶわっと視界が広がる。
 いつの間にか水路を抜け、大運河に出ていた。
 
 「だってネオ・ヴェネツィアが大好きで、その気持ちを宝石みたいに感じられる私が――――」
 
 橋の下をくぐり抜け、空のした、大運河の流れに乗る。
 
 「今、こうして存在しているんですもん」
 
 そこまで大仰な言葉を並べた灯里は、ニカッと明るく笑うだけだった。
 本人すら気付かないうちに、誰かの支えになっているとも知らずに、だ。
 
 「あ、あはははは……。ちょっと偉そうでしたね、すいません」
 
 「いや、そんなことないさ」
 
 「あらあら、うふふ」
 
 「…………っス」
 
 そのまま空港までの間、会話はなくなった。
 ただ重苦しい空気なんかじゃなく、どこかあたたかさで満ちた空気だった。
 気の抜けるような、すぅっと体が軽くなる錯覚すら覚える。自然に微笑みがこぼれる。
 
 
 間もなく空港に到着し、ゴンドラを固定している最中に、新太とおそらく社員だろう人々が出迎えてくれた。
 そのまま流れ作業でガラスを運びだしていく。
 
 「荷物、運びますね」
 
 「あっ、はい。お願いします」
 
 彼の視線は、いつのまにか灯里を自然に追うようになっていてた。
 俺も荷物を運び出し終わり、新太の隣に立って、それを見ていた。
 
 「……おい、小僧」
 
 と、彼が前を通り過ぎる瞬間、新太が頭を掴んで捕まえた。
 
 「オメーも灯里ちゃんの、ファンになっちまったのか」
 
 そして、わざわざ前を歩く灯里に聞こえるように、少し大きめの声で問い詰めた。
 前を歩いていた灯里とアリシアとが振り返り、こちらを注視した。
 彼を見てみると、急なことにかなり緊張しているのか、目を丸くし、口を金魚のようにパクパクとしていた。
 
 「えっと、あのその……どうっスかね。この気持ちが本物か偽物か、まだよくわからないけれど……素敵なウンディーネさんだなって感じてる僕は、確かに今こうして、ここに存在しいるっス」
 
 言ってから自分が言ったことを理解したのか、一気に顔を上気させてしまった。
 それは灯里もらしく、顔を若干染めつつ微笑んで返した。
 
 「ありがとうございますっ」
 
 場を引っかき回すだけ引っかき回して、新太がそそくさとこちらへ戻って来る。
 
 「ククク。弟にライバル出現かっ」
 
 「ほへっ? 暁さんはアリシアさんのファンですよ?」
 
 「独り言独り言。気にすんなって、嬢ちゃん」
 
 新太はそのまま業務に戻り、後日支払ということでその場は解散となった。
 立ち合いの彼を工房まで送り、灯里とアリシアが帰ろうと言い出した時だった。ふと見た彼の顔がまた灯里を向いていた。
 
 「……ちょっと、先に帰っていてくれ」
 
 「? どうしたんですか、士郎さん」
 
 「見学だよ。アリシアは夜に予約が入ってるんだから、先に帰って用意しておいてくれ」
 
 「あ、はい」
 
 少しだけ心配そうにしていたので、軽くアリシアの頭を撫でてやった。
 この歳の女性の頭を撫でるのはどうかと思ったが、喜んでくれたようなのでよしとしよう。
 「出来るだけ早く帰ってあげて下さいね」とだけ言い残して、灯里と一緒に帰って行った。
 
 「お? 兄さん帰んなかったんか」
 
 「見学しても構いませんか?」
 
 「おうおう、ゆっくりしてってくれや。おい、茶出せ、茶っ」
 
 「いえお気遣いなく」
 
 とは言うものの、社交辞令というやつである。
 お茶はしっかりと出てきた。
 
 「……兄さん、なんか作ってたんか?」
 
 「……ええ。まぁ、かじる程度の細工は」
 
 「そうかい」
 
 かつーん、かつーん。
 しゃーん、しゃーん。
 この暑い工房の中に、どこか涼しげな音が鳴り響く。
 すっくと持ち上げ、先端のガラスの溶けた塊に息を吹き込み、大きく膨らませる。それはどこか、透明なヴェールを膨らませているような美しさがあった。熱による赤熱がグラデーションをかけたように消えていく様は、幻想的ですらあった。
 
 「……さて、と。一区切りついたなあ、休憩だ」
 
 どれほど見学していたかはわからないが、親方がこちらに歩いてきた。
 真正面に座って、立ち合い人の彼が親方用のお茶を持って来て、俺のほうにもおかわりを注いでくれた。
 その間に親方は一気にお茶を飲み干して、即座におかわりを貰っていた。
 
 「それで、どうだった」
 
 「聞きました。偽物だと言われているんだと」
 
 「こいつ……余計なことペラペラと……。ま、それに関しちゃ違えねえ。情けないもんでな、未だに受け入れちゃくれねえ奴らがいんだよ。それもこれも、ま、誰のせいでもねえわな」
 
 強いて言うなら俺のせいか、と言って豪快に笑ってみせた。
 隣にいる立ち合い人の彼は、その言葉を聞いても平然と立っていた。もうなんでもない、そんな顔をしている。
 
 「ま、なんだ。偽物だろうが本物だろうが、人の心を動かせれば、それはもう“あっていいもの”なんだよ。俺達が作ってるのはヴェネツィアンガラスじゃねえ。ネオ・ヴェネツィアンガラスなんだ」
 
 わかってるか、と後ろの彼に言葉をかける。彼はコクコクと勢いよく頷くものの、調子に乗るなと小突かれた。
 コップに入ったお茶を一気に飲み干してから、親方は立ち上がった。
 
 「なんにしろ、ものを会得するってのはな、何事も“モノマネ”から入るんだ。まだまだ俺達のモノが偽物だ、猿真似だって言われててんなら、俺達の作品はまだヴェネツィアンガラスの域を出ちゃいねえってこった。俺達が目指すのは、ひとつの芸術品としてのネオ・ヴェネツィアンガラスだ。ま、見てな。俺が生きてるうちに認めさせてやっからよ」
 
 ニカッと笑って、親方はまた作業に戻った。
 戻る途中、今までとは違い、彼の頭を優しく叩いてから戻って行った。
 
 「……俺もそろそろ帰るとするよ。お茶、ありがとう」
 
 何か声をかける必要はなかった。彼は俺の視線に力強く頷いて見せて、見送りしてくれた。
 
 その帰り道。親方が口にした言葉を、自分なりに考えなどしてみる。
 いつか認めてくれる日まで……、諦めず歩み続ける。――――それは、俺とどこか似ている。
 
 「綺麗だよな、どこもかしこも……」
 
 偽物と本物。あってないようなもの。
 認めるモノと認めないモノ。――……諦めない人と、立ち止まってしまう人。
 
 「……信じてくれ、か。大言壮語だな」
 
 アリシアに言った言葉。
 『正義の味方』だと信じてくれ。『正義の味方』になれるように見ていてくれ。
 俺はアリシアにそう伝え、彼女は笑顔で頷いてくれた。信じています、見ています、だからサボっちゃダメですよ、と言葉を添えて。
 
 「偽物だろうが本物だろうが、心を動かせたなら“あってもいい”、か」
 
 親方がこぼした言葉。
 たとえ、俺が『正義の味方』として認められなくても、誰かがそう信じてくれれば、あってもいい。
 ならむしろ、その人のために……。なんて考えるのは、傲慢だろうか。いや、それが、俺が選んだワガママであったはずだ。
 “誰かのため”の正義ではなくて、“誰彼のため”の正義が俺の目指した『正義の味方』であったはずなのに、いつからか、大切なものが増えていった。今までは自分の理想だけがすべてで、それ以外に俺がいる意味があるなど、考えてもなかった。
 人が人で、そこに当たり前のようにいる理由。
 
 「俺もこの星のひとり……か」
 
 いたいから、ここにいる。
 肌を刺すような風は、あと数ヶ月もすれば包み込むような暖かさで花びらを散らすだろう。
 ネオ・ヴェネツィアで迎える、3度目の春。
 
 何かが進む。
 そんな気がしてならなかった。
 何かが変わる。
 そんな気がしてならなかった。
 
 どれもこれも、いい方向に進んでいく気がして、変わっていく気がして。
 
 そうともさ。
 俺にとって大切ななにかが、決定的ななにかが……芽生える気がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:29   end
 
 
 
 
 
 

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『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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