B.A.C.K Act:5−1
地上本部強襲から一夜経って、メディアが騒ぎ始めた。本局からは、ユークリッドの指名手配解除の命が出ているにも関わらず、地上本部はそれを『理由が明らかでない』という理由で拒み、今も六課周辺に張り込んでいる局員が数名いるのが確認されている。また、夜明け前にオーリス防衛官秘書が訪れ、ユークリッドに面会を求めるもシャマルが断る。
本局が指名手配を解除すると言っている手前、本局所属の六課はそれに従い、ユークリッドを保護しているかたちになる。だけど、指名手配状を発行したのは地上本部。またここで海と陸のいさかいの種が生まれた。
医務室に一番近い休憩所。
ユークリッドのお見舞いに行った帰り、私たち隊長陣は彼の病室にいた女性――クリームヒルトを呼び出していた。
私……フェイト・T・ハラオウンとなのは、そしてはやての三人は彼女の対面に座り、彼女の言葉を待っていた。
「さて、と。なにからお聴きになりたいのかしら?」
目の前に座る彼女が静かにそう告げた。
優雅な仕草で紅茶の入ったカップを弄り、舌をつけては優しく微笑んでいる。
よほどこの紅茶がお気に召したのだろう。
「全部や。一切合切、ユークリッドのこと、あんたのこと、ミルヒアイスのこと、知ってること全部や」
語気を強めに、はやてがそう切り出した。
それもどこ吹く風、彼女はまた紅茶に舌を浸けた。
「全部、と言いましても順序があるでしょう。それに、貴女方が知っている情報すら話してしまえば、それすなわち時間の無駄、というものでしてよ。お解りかしら、“夜天の主”?」
「……あんた、なんでそれ……」
「解りますとも。貴女からは“あの”忌々しい闇の書の香りがいたしますからね。貴女がどうやって闇の書を手懐けたかは尋ねませんが、だいたい予想はつきます。管理人格がいなくなっていることから見ても、ふふ、悲しかったですか? そんな顔をしてますわよ、フラウ・ヤガミ」
はやてはその言葉を聞いて、頭を乱暴に掻き毟った。ボサボサの髪のまま、続きを促した。
「ですから、貴女たちの持っている情報を提示しなさいと申しているでしょう。解りませんね、どうも」
「……そう易々と情報も公開できんのやよ。あんたがどんなヤツで、どういう理由でここにおるんか解らん限りな」
押されても引かぬ。
そんな問答が今、目の前で起こっている。喧嘩してるわけでもないのに、胃の辺りがキリキリと痛んでくる。
こっちの方がストレスが溜まってしまいそうな雰囲気だった。
「…………了承しました。では、どこから話せばよろしいでしょうね?」
「……管理局入局から、順を追って頼むわ」
先に折れたのは、クリームヒルトだった。
今はアウトフレームをフルサイズまで拡張し、私たちとそんなに変わらないような背丈を持っている。髪の毛はあの時のように紅く燃えてはおらず、ただ真白い髪だけがミルクが流れるように垂れていた。
もう一度紅茶に舌を浸け、一息ついてからこちらを向いた。
「入局して間もなく、ワタクシたちは検査を受けさせられました。結果は“大当たり”。情報は上層部中の上層部、おそらく最高評議会にまで届いたでしょう。そして、ワタクシたちの情報を知っているのは、本当に一握りのそう……最高評議会と、その研究に協力していた研究者たちのみ」
この意味がお解りになりますか? と、そう言って彼女はまた黙ってしまった。
考えてみる。最高評議会。研究。秘匿された情報。導き出した答えは、あまり考えたくないものだった。
「もしかして、あなたたちは……」
「ヤ。フラウ・ハラオウン、正解です。ワタクシたちは、全員漏れなく人体研究素体として扱われていました」
「やっぱり。それじゃあ、やっぱりユークリッドにもなにか……」
「ありませんわ。ユーリはただのラインハルトの騎士。レアスキルなど持ち合わせておりません。そうですわね……。強いて言うなら、リンカーコアが普通の魔導師や騎士と比べて格段に強か、ということくらいですか」
『し、強か?』
リンカーコアに対してそんな表現を聞いたことのない私たちは、全員固まってしまった。
と、いういよりも、リンカーコアに強度もなにもあるのだろうか……? 魔導師や騎士の魔力の源であり、また弱点とも言えるその部位はとても繊細で、むやみやたらにいじってもいい場所ではないはずなのだ。
話の流れから察するに、ユークリッドは……もしかしてリンカーコアになにか手術を施されたのだろうか。
「……それはユークリッドが弄られたから、ちゅうことなんか?」
はやても同じことを考えていたらしい。私が訊くよりも早く、クリームヒルトに問いかけていた。
目を伏せながら、彼女は首を横に振った。
「原因はワタクシです。これはまずは置いておきましょう。まず話すべきはその研究内容、ですね?」
順序を守って、ということなら、その通りだ。
私たちは首肯だけして、続きを促した。それに満足げに微笑んだ彼女は紅茶のカップを置き、こちらを正面に置いて話し始めた。
「ではまず、ミーアのレアスキルの簡単な説明から始めましょう。ワタクシたちは単に『竜の力』などと呼んでいましたが、どうやらいつの間にやら世の中では『母なる竜の揺り籠』、なんていう大層な名称が出来たそうですわね。まぁ、いいでしょう。この能力ですが、簡単に言えば“竜種生成・使役”です。そこに着目した最高評議会は、ミーアのネームバリューと共に、管理局の最終兵器として扱うための研究を始めたのですよ。ワタクシたちを巻き込んでね」
――――……確かに。
竜種というのは珍しい部類に入る魔法生物だ。それに、幼竜であっても、その戦闘能力は計り知れない。それはキャロのフリードリヒを見てもわかることだ。その竜種を無限に生成・使役が出来るとなれば、戦力強化など生易しい程度の問題ではない。人一人が、すでに戦略兵器としての機能を持っているといってもいい。
最高評議会でなくとも、魅力的過ぎるシロモノだ。
「……で、どういった研究内容だったか、ですけど。とにかく、生み出しては戦わせの繰り返し。データ採取。そこから導き出せる最も効果的な運用方法。そして、ミーアの身体自体の研究。それが4年に渡って続けられ、次の段階……『実戦投入による戦績調査』に移ろうとしたときです。ミーアが交渉し、条件付きでユーリとワタクシを、研究対象から外させました」
「……条件?」
「『外部に一切の情報を流さない』ことと、『クリームヒルトの封印』ですわ。もし約束を反故にするような事があれば、一生暗い鳥籠の中で過ごすことになる、とユーリに対して脅しをかけてもいましたね」
情報流出を止めたのは、おそらく体裁の問題からだろう。
どんな理由があろうと、管理局の法にひっかかることを管理局自体が、しかも最高評議会がしているとなれば管理局の立場がなくなる。
あとは、内紛の抑止……かな。
「そこからワタクシの記憶は途切れ……まぁ、あとの流れは貴女方のほうがお詳しいのではなくて?」
頷く。
逐一見ていたわけじゃないけど、情報公開と、過ごした時間からいっても、それは間違いない。
そこだけクリームヒルトの声が妙に嬉しそうな声音になったのは、聞き間違いじゃないだろう。きっと“私たちがいなくても、ユークリッドには仲間がいた”ということを嬉しく思っているのだろうと思う。
なんというか、大人だ。
「……さて。これが大まかな流れですわ。次はなにをお聞きになりたい?」
「あんたらそれぞれが持ってるレアスキルについて、お願いしよか」
「よろしくてよ。ではまず……ワタクシのレアスキルからご紹介致しましょう!」
クリームヒルト声が一段と弾んだ。
なんというか……子供だ。
「ベルカの時代から、“変換資質『滅竜』”と呼ばれていましたわ。そのゆえんは、竜の防御能力を知っていれば、よく分かっていただけるでしょう。真竜のまるで要塞のような堅さすら物ともせずに崩し、斬り裂く。それがゆえに『滅竜』などという名称が出来ましたが――――」
「ちょちょちょ……っ! ちょい待ち。クリームヒルト、あんたは竜を生成・使役するレアスキルを持ってたお姫様……ミルヒアイスに仕えてたんやろ!? おかしいやないか、それ」
「違います。ワタクシが仕えていたのはラインハルト家。そのあたり、お間違えにはなりませぬよう」
「おんなじ事やろ」
「ぜんっぜん違いますわ!! 確かに、ワタクシとミーアは融合騎と女王と身分の違う立場ですが、ワタクシたちの間には主従の関係などありません! ラインハルトがギプフェルに仕えていたからといって、ラインハルトに仕えていたワタクシもギプフェルに仕えていた、という道理にはなりません。騎士として、仕える相手はただひとりなのですわ!! 試しに貴女の守護騎士にでも訊いて御覧なさい!! たとえ仕事上の上司がいたとしても、“仕えている”のは貴女ただひとりだと答えるはずですわっ!!」
クリームヒルトは興奮し、机を蹴り上げる勢いで立ち上がり、対面に座っていたはやてに詰め寄っていた。
鼻と鼻がくっつくような距離で彼女は大声で力説し、はやては目を開ききってただ押されるばかりだった。
「わ、わかったから……っ。落ち着いて、な?」
「まったく。まぁ、今日はこのくらいで勘弁してあげますわ。本題からズレましたしね」
クリームヒルトはそう言って、どっかりと椅子に座り直し、また紅茶を舌でなめ始めた。
いきり立っているときは気がつかなかったが、彼女の毛先の方が紅くなっている。そうとう頭にキていたということだろう。
彼女はあまり怒らせない方がいいのかもしれない。
「さて。『滅竜』などという名称で呼ばれていた我が能力ですが、別段“対竜に特化した”能力というわけではないのです。言い直すとするならば、“竜すら労せず屠る”能力というべきでしょう。この違いが分かりますか?」
「竜だけに効果がある能力じゃなくて、竜以外にも効果を発揮するってことだよね?」
「Das ist richtig(その通り)! 理解が速くてワタクシも大助かりですわ。さて、ではこの能力の大本……仕組みをお教えしましょう」
「ええんかいな、そこまで教えて」
「もちろんよろしくてよ。だいたいこの能力を教えたところで、ワタクシ個人では使えない屑ですしね」
「使えない?」
そこに食いついたのは、なのはだった。
確かに、条件が揃っていなければ意味のない魔法も大いにある。しかし、個人では使えない魔法となると、探してみてもそうそうはないだろう。ひとりでは魔力量が決定的に足りなくなる大規模な儀式系の魔法か、それともちょっと内容からは外れるだろうけども、アルカンシェルのような魔導砲なども個人では使用できないだろう。
しかし、これは“変換資質”と銘打っている。それが個人では使えないとはどういうことなのだろう。
――――と、そんなことをなのはは考えたんだろう。
「そう。これも変換資質と言われていますが、厳密に言えば変換資質でもない。『滅竜』同様、言い表しようのないものだから、一番理解しやすいカタチで表記しているにすぎません。――……ワタクシの能力をこれら以外の言葉で表現しようとするなら……そうですね……“リンカーコア超活性化”とでもいいましょうか」
『リンカーコア超活性化?』
そうです。とクリームヒルトは頷いた。紅茶のカップを持ち上げて、ちびりちびりと舐める。相変わらず舌を浸けるだけの紅茶のその飲み方は、どうにも慣れない。飲むなら飲めばいいのに、と思えてくる。
「ワタクシが融合騎であることはもうご存じですわね? つまりは、そういうことです」
「えっと……ユニゾンした人のリンカーコアを、超活性化させるってことなのかな?」
「ヤ」
なのはが出した答えでいいらしい。
……でも待てよ。リンカーコアっていうのは、魔導師の魔力の源だ。それを活性化させるってことは……つまり、大気中の魔力素をより多く取り込むことが出来るようになり、また魔力放出も大きくなるということ。
極端な例が、蛇口だったものが、放水用のホースに変わるようなものだ。
それは、凄い。――――と、同時にかなり危険なものでもある。
「フラウ・ハラオウンは座学も優秀なようですね。このふたりはどちらかというと感覚で魔法を使うタイプのようですわ」
「にゃはは。でも人並みには知ってるよ? 一応ね」
「私もそれなりに知っとるよ。一応はな」
ちょっとばかり意地になったふたりが頬を膨らませながら、クリームヒルトに言い返している。
それを微笑みで流して、クリームヒルトは続けた。
「人体……特に魔導師、騎士といった生き物には総じて“総魔力量”というものがあります。これが昨今の魔導師ランクにも関連付けされていることは、言わずとも理解しているでしょう。これはリンカーコアが取り込んだ大気中の魔力素を、その人物がどれだけ体内に蓄積出来るかを表したものです。これを超えた魔力を保有することはできることはないし、また最大値もそうやすやすと拡張されるわけでもない。一生のうちで、ランクひとつ分の成長があれば、化け物と呼んで差支えない程拡張されにくいものですわね」
私たちは静かに彼女の講義を聞いている。
クリームヒルトはと言えば、嬉々として話している。どうやらかなりの自信家らしい。それに、結構自己主張も激しいみたいだ。
自分の能力をこれほどまで嬉しそうに話す人物を、私は見たことがない。
「さて。“総魔力量”の話が終わったところで、ワタクシの能力『滅竜』について触れていくとしましょう。あの戦いの場にあって間近で目にしたフラウ・ハラオウンとフラウ・タカマチは外見特徴を覚えておいででしょうか?」
「えっと……なんだかバリバリってしてたよね、フェイトちゃん?」
「なんていうか……バリアジャケット……騎士甲冑の上から、さらに強力なバリアを張ったような、そんな感じ」
よろしい、と彼女は頷いた。
外見特徴を、もっと具体的な例で表すとするならば、まるでプラズマを纏ったような姿だった。
とろけるように、だけど激しく発光するさまは、まさしくプラズマのようだった。
「では次です。中身を説明していきましょう。ワタクシがユニゾンし、『滅竜』を発動させるためにユーリのリンカーコアに直接働きかけます。ワタクシ自身の魔力を、彼のリンカーコアに叩きつけるとこで……つまりは、暴走を誘発させます」
『――――ッな!?』
暴走を誘発させる……!?
そんな、危険すぎる……。悪ければ、リンカーコアを失うだけではすまない。命にさえ関わってくる。
これが、あの強大な威力の代償だというのだろうか。
「暴走したリンカーコアは次々に大気中の魔力素を取り込み始めます。そこからがワタクシの本領発揮。暴走したリンカーコアに対し、直接干渉し、“ワタクシが”拡張機としての働きを務めます」
「直接干渉!? アホ言うんちゃう、んなことしたら拒絶反応が出るやろ! そこらへんは戦闘機人やらとおんなじや!」
「そのあたりは当り前ですとも。ただ、ラインハルトは、代々ワタクシを使いこなしてきた。その意味が、理解できますか?」
「それは…………遺伝、か?」
「ヤ。リンカーコアとは、遺伝による能力継承が可能な魔導器官です。それを立証しようというのなら、そこらへんの魔導師や騎士を捕まえて、その親のリンカーコアを調べ、比較すればすぐに解るコトです。代々ワタクシを使い続けてきたラインハルトのリンカーコアは、暴走程度のことではすぐにリアクションを起こさないところにまで成長したのです。それが最初に言っていた、ユーリのリンカーコアが強か、またそれがワタクシに原因があるといった理由ですわ」
「俄かには信じられん話やな。常識を疑うわ」
はやては前のめりになっていた身体を椅子に戻して、一息ついた。
手元の水が入ったコップを掴んで、一気に飲み干す。
「さて、説明に戻りましょう。拡張機、といっても“総魔力量”を多くするためにするわけではありません。容量ではなく、運用効率を爆発的に高めるためにリンカーコアに直接干渉――――言ってしまえば融合するのです。ではここで質問ですわ。管理局や時空航行艦には魔導師や騎士を認知するための広範囲感知器……レーダーを持っているわけですが、さて、これにはなぜ魔力が感知され、認知されるのでしょうか?」
「それは、魔力が流れ出してるからだよ。もしくは、魔法行使しているからだね。認識阻害魔法はつまり、対象にフィルターをかけることでこれらを隠してるようなものなんだよね」
「正解ですわ、フラウ・タカマチ。そう、流れですわ。魔力はなにもしていなくても体外に流れ出ていく。それにちょっと細工をすれば、砲撃魔法顔負けの燃費の悪さを実現できますわ」
「……まさか」
そのまさかです、と彼女はまた嬉しそうに頷く。
どんどん彼女の性格が分かってきた。
なんというか、ユークリッドがああいう性格になったのも頷ける。それに、理解を求める時に質問をするのとか、ユークリッドそっくり……いや、ユークリッドがクリームヒルトに似たんだ。
「ワタクシのレアスキル“変換資質『滅竜』”は、ワタクシの桁外れの演算能力と、制御能力に支えられた、リンカーコアを介した、ただの超高高速の魔力運用ですわ。ですが、そうですね……リンカーコアの問題を除き、ワタクシ以外がこれと同じ真似をするとしましょうか。……演算が追いつかず、制御に狂いが生じ、先にデバイスがオーバーヒートで壊れます。その後は、分かりますね? リンカーコアの暴走が止まらず、魔力の出所もない、制御も効かない。待っているのは、死です」
ぞっとしない話だ。
思い出してみればあの超長距離射撃魔法も、彼女が放っていたのだったか。……あの魔法がどれほどのものなのかは全く分からないが、あの速度と精度と飛距離を以てして、あの連射性……。どれほどの精緻な、それでいて高速演算が行われているのか、想像に難くない。
つまり、クリームヒルトのレアスキルの正体は、彼女の地力。特殊なものでもなんでもない。他に存在するデバイスと比べて、余りにもその性能の違いに“特殊技能”としての条件が一致したにすぎない。
そして、その自力に合わせて進化してきた『ラインハルト』という騎士の家のリンカーコア。
途方もない、気が遠くなるほどに長い年月が造り上げた、奇跡のレアスキル。
それが彼女の、クリームヒルトの“魔力変換資質『滅竜』”……。
「では、中身の説明が終わったところで、概要に移るとしましょう。一言で言ってしまえば、魔力刃となんら変わりません」
「魔力刃って、あの、私のザンバーとか、なのはのストライクフレームとかのあれだよね?」
「まぁ、詳しくは知りませんがそうでしょう。魔力を刃のカタチに留め、敵を斬る。その行為に違いはない、ということですわ」
……改めて思う。
シンプルこそが最強の奥義なのだと。
シグナムもよく言っているように、『近づいて斬る』。当たれば必殺。
その単純さに、戦術はことごとく砕かれる場合もある。あれほど常識はずれな能力を有してなお、辿り着く攻撃方法は至極単純。
……いや、攻撃自体は、その全てが単純なんだ。殴る、蹴る、突く、斬る、撃つ。
その一撃を極めた者が、強者と呼ばれるんだ。
「濁流が如く垂れ流された魔力は、暴走状態にあるリンカーコアの魔力素の吸引力に負け、また体内へ。しかし、暴走状態であるリンカーコアの食欲に底はない……ようにしてるのはワタクシなのですが。さておいて……、魔力の暴食、そして吐露は続き、やがて超高密度の魔力の渦が身体を包む。それが貴女方の見た“発光する魔力”――――『滅竜』の魔力刃、スパークドライブですわ」
「回転・流動する魔力刃、か。……でも待ち。それって、アームド・インテリジェント・ストレージデバイスで耐えられる出力なんか? ジークフリードの状態見てたら信じられへんで?」
「もちろん、不可能ですわ」
「ちょっ、そんなハッキリ言うなや」
「では言い換えましょう。無理ですわ」
「おんなじやないか……」
はやてはがっくりと肩を落とす。なのははそれを窘めるようにしながら、耳だけはしっかりクリームヒルトの方に集中していた。
さて、真相やいかに?
「通常のデバイスでは、強度が足りません。まぁ、強度が足りていなくても、ワタクシ並みの演算能力があれば話は別なのですが。は、置いといて。ジークフリードの大破の件は、元々からすでにボロボロだったことを差し引いても、万全の状態で長くて5分が限界でしょう。スカバードモードに限って、ですが。それ以外の形態の場合、さらに短くなるでしょうね。場合によりますが」
「じゃあ……バルムンク、やっけ? あれはどうなってんの?」
「彼は頑丈さの格が違いますわ。別次元といってもよろしいでしょう。ワタクシの全力のスパークドライブを数時間続けてもどこもおかしくなることはないでしょう。まったく、今のデバイスは貧弱で困っちゃいますわ」
やれやれといった感じで肩をすくめる。
ジークフリードの改造に立ち合った私としては、彼の頑丈さには驚いたのに、バルムンクはさらにその上の上をいくようだ。
「……さて。話が長くなりましたわね」
舌をベロベロとたらし、「しゃべり疲れた」ということを暗に示す。
またその舌で紅茶を舐め、最後に、ほとんどぬるくなってしまったうえに全然減っていない紅茶を一気に流し込んだ。
そのまま彼女は静かにカップを置き、立ち上がる。
「ミーアのことについては、ユーリが起きてから話すとしましょう。貴女たちも疲れたでしょう?」
アウトフレームを融合騎の標準サイズに戻し、浮かびあがる。
ふわふわと私たちの頭上を飛びながら、最後にこう言った。
「…………覚悟なさい。ミーアがどのようなカタチで敵になったかは知りませんが、敵となった以上、討たねばなりません。…………絶望は、後からじわりじわりと押し寄せてくるものなのですから」
そうとだけ言い残して、クリームヒルトはどこへともなく飛んで行った。
ここに残された三人は、一言もしゃべろうともしない。重い空気が流れだす。
ミルヒアイス=ブルグンド=ギプフェル。
古代ベルカにして聖王から“聖帝”と呼ばれ、竜の軍勢を執る騎士姫。
スカリエッティが霞んで見えるほど、強大で多大。
「……怖いね」
そう零したのは、意外にもなのはだった。
不屈の心、とも言われた彼女がまっさきに恐怖を訴えた。
「……ヴィータちゃんが、手も足も出ない敵、だよ? 怖いよ、私」
そう言いながら、なのはは力強く笑っていた。
わからない。なんで怖いという相手の話で、笑えるのだろう。
「怖くて怖くて、でも…………でも、私はひとりじゃない」
私とはやての真ん中に座っていたなのはは、静かに手を握ってきた。
「私が折れない心を持っていられるのは、フェイトちゃん、はやてちゃん。ふたりのおかげだから。私が諦めないなら、きっとみんなも諦めない。エースオブエースは、もう墜ちない。私が持つ砲撃で、みんなの心を支えられるのなら、私は撃ち続ける。それが、きっと私がこの戦いで最も必要なこと。だから……だから」
「そばにいるよ、なのは。私も、ひとりじゃないから」
「ほんま、なのはちゃんは甘えんぼさんやなぁ。おーよしよし」
私とはやてが、それぞれのやり方と言葉で、なのはに心を伝える。
折れない心はさらに強く。
そう、なのはが、私たちが持っているのは、不屈の心なんかじゃない。
エースとしての誇りでもない。隊長陣としてのメンツなんかでもない。
もっと単純な、私たちの原風景。
――――Undisappear Relationship
消えない絆――――
永遠の答えがあるとするのなら、きっと私たちのここにある。
Act:5−1 end
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学



