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2009-10

Come on Burning Fire!

ども、草之です。ちゃんと拍手レスもするよ。
さて、今回のお題(?)は、『マクロス アルティメットフロンティア』です。
 
前作、エースフロンティアからいろいろ追加して10月1日に発売されました。
まぁ、当然のごとく予約して買ったんですが、初回版は手に入れられませんでした。
 
ということで、今回実装された「リアルフライト操作」と「アンチミサイルアクション」ですが、前作をプレイしていた時はこういうのでやってみたかった、とも思っていましたが、すいません、「リアルフライト」マジムズイです(笑)。STGの分類に入るとはいえ、『マクロス』。エスコンなんて比じゃないほどにぐるぐるぐるぐる……。しかも上も下もない宇宙空間だと、本当に今いる場所ががどこか見失います。
 
そして「アンチミサイルアクション」ですが、とりあえずファイターのフレアが優秀すぎる(笑)。
ガウォークとバトロイドは一発づつ撃ち落としですが、ファイターのフレアは一気にミサイルを回避します。大量のミサイルが飛んできた場合は、ファイターに変形してからフレア、が一番手軽です。少なければ撃ち落としでもいいんですけどね。
 
さて、あとあるとするならば、難易度ですね。
前作の難易度はかなり低かったと思います(武器改造すれば戦艦を5秒くらいで轟沈出来る)。
ですが、今回は難易度の方も見直された様子。とにかく敵が固くなり、また敵エース級の火力も跳ね上がってました。
 
「ZERO」の鳥の人なんか、あの極太レーザーは……ないです。
一撃死とか……ゴーストパック装備してても食らったら一撃パージとか。
とにかく頭のあたりでガウォークになって連射ミサイルとガンポッドで削ってたらなんとか勝てました。
あそこでかなり好感度も落ちましたし……。
今は順番にクリアしていって、ただいま「愛・おぼ」です。
 
 
というわけで、買うかどうか、迷っている人がいるならば買うべきです。
また販促だよ(笑)。このごろこんなのばっかりですいません。
 
というわけで、追記から拍手レスです。
では草之でした。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  GUIDE:3

 
 「う、ううん……」
 
 朝日が上がるよりも早く、いつも通りの時間に目を覚ます。
 軽くストレッチをしてから、着替える。
 
 「?」
 
 ここで初めての違和感。
 その違和感の正体もわからないまま、着替えを終えて、洗面台へ向かうとする。
 いつもならこんなことはないだろうに、なぜか霞む瞼をこすりながら欠伸をひとつ。
 そして、ふたつめの違和感。
 
 「……?」
 
 なにか、いつもよりも視線が低い気がする。
 階段を降りつつ、いわれもせぬ不安にもうひとつ欠伸を出す。
 
 「…………ま、いっか」
 
 みっつめの違和感、というか、確信というか、はっきりとした疑念。
 ――――“誰の”声だ、これ?
 
 「あー、あー、俺は、衛宮士郎…………。うそだろ」
 
 だっと走り出した。
 急いで洗面台の正面に位置する鏡を覗く。
 そこに映っているものが、よくわからなかった。
 
 「は?」
 
 ペタペタと頬を触る。
 そこから違う。いつもの感触ではなかった。ぷよん、とした、柔らかさが手にあたる。
 
 「え、はァ!?」
 
 目の前に映る姿。
 それは、まぎれもなく“俺”なのだ。
 ――――しかし、それはなぜだか女性の姿をしていたのだ。
 
 「なんっじゃこりゃあああああああああああああああああああああ!!」
 
 
 *  *  *  *  *

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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

今日のアニメ  #13 『煌めけ、鮮烈なる刃……!!』

ども、草之です。
 
『テイルズオブヴェスペリア ~The First Strike~』 
 
を公開初日に見てきました。なんばパークスシネマの12時45分からのやつです。
1時間前に鑑賞券を買いに行ったんですけど、すでに後ろの席が満席に。
見上げるかたちで前の方で見てきました。
 
まぁ、まだ公開して日も浅いので適当にネタばれしないように紹介していくと、ですね。
まず誰に惚れるか、というとユーリでもフレンでもなく、隊長に惚れます。確実にね。
 
他は、フレンのむっつりスケベ具合がわかったり、本当は一番喧嘩っ早いのはフレンだとわかったり。
ユーリはあのボーディブラスティアをどこから手に入れたのかがわかったり。リタが可愛いのを再確認したり。
 
ストーリー的にはコメディーとシリアスをバランスよく配分出来ていたと思いますし、つまらない、ということはありません。
むしろ見るべきです。ヴェスペリアをクリアした人なら絶対に見るべきです。PS3版が欲しくなります。
 
 
 
とまぁ、こんな簡単なことしか言えませんが、これまで。
続きは劇場で!!
 
 
草之でした。
以下、拍手レスです。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:5-4

 
 一晩明け、病院の簡易な食事処で朝食を食べているときだった。
 たまたま居合わせたヴィータとシャマルさんに相席をさせてもらっていたので、自然と会話も聞こえてくるわけで。
 
 「……ふぁわ……ん、あー」
 
 「眠そうね、どうしたの?」
 
 「どうしたもこうしたもねーよ。昨日の夜なんか暑くなかったか? 思わず冷房ガンガンにかけちまったし。もう夏も過ぎたから冷房いらねーって思ってたのによ」
 
 「んー、確かにね。私はあんまり身体を冷やしたくないから我慢して寝てたけど、そしたら寝汗でびっしょり」
 
 「うあ。そりゃキツイな」
 
 「でしょー?」
 
 我慢せずに少しでもつけたら良かった。――などと隣で話されている。
 そう、もうこれ見よがしに。原因は分かってるんだから、さっさと白状しなさい、と謎の無言の圧力をひしひしと感じる。
 せっかくの久しぶりのちゃんとした朝食も、味を感じないぐらいにオレの内心はなぜか焦っている。知られるはずもないのに、だ。
 顔には絶対に出してはいけない。出した瞬間、オレのここでの生活が終わる。いろんな意味で。
 
 「なー、ユークリッドはどうだった? 暑くなかったかよ」
 
 「あ、ああ。まぁ、暑かった、な」
 
 「ああ、“やっぱり”~」
 
 やっぱり、の言葉に悪意があった気がする……。
 シャマルさんはニコニコと朗らかに笑ってはいるが、その実、心でなにを思っていることか。
 
 「ところでユークリッド君。身体の方は異常ないかしら?」
 
 「ええ、おかげさまで」
 
 「そう、よかったわ。まぁ、ほどほどにね」
 
 「――――え?」
 
 ニコニコしていた笑顔が、いつの間にか探るような笑みに変わっていた。
 ヴィータは我関せずを貫いているが、耳だけはこちらを向いていることが簡単に予想できた。
 こいつら……。
 
 「私たちは、夜天の魔導書と相互リンクを持っているの。つまり、それと融合しているはやてちゃんと、相互リンクを持ってるって言ってもいいわね。まぁ、近頃そのつながりもどんどん弱くなってるんだけどね。ここまで言ったら、あなたはもう理解してるわよね?」
 
 吐きそうになった。
 ずしりと胃が重くなった。
 
 「いいのよー、合意の上でのことでしょうしねー」
 
 「あんたって人は……」
 
 「おい、ユークリッド。ちょっといいか」
 
 「? お前もなんかいいたことあるのかよ、ヴィータ」
 
 「私だってナリはこんなんだけどな、お前より確実に長く生きてる。お前がやったことだって分かってる。だから、言いたい事があるってんだよ、馬ァ鹿」
 
 ヴィータはお冷をこくりと飲んでから、コップを手に持ったままオレを指差した。
 
 「はやてを泣かせたらぶっ殺す。シャマルだってこんなからかってるようにしか見えねーだろうけどな、言ってるコトぁおんなじなんだよ、わかっとけ、馬鹿」
 
 「…………分かってる。言われて気付くような間抜けじゃないさ、オレだって」
 
 「だったらいいんだ。メシ食おうぜ、冷めっちまう」
 
 ヴィータはそう言って、何でもないことのように朝食に集中し直した。
 ガツガツと豪快に口に運んでいく様は、見ようによっては照れ隠しにも見える。
 年上の威厳が台無しだぜ、ヴィータ。
 
 「ありがとう」
 
 ただそれしか言えることはなかった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「お待たせやで、ロッサ……」
 
 「いや、全然……って、どうしたの?」
 
 「いや、気にせんといて。連日座りっぱなしで机に向かっとるさかい、ちょぉっと、腰に、な」
 
 と、言ってもそこまで酷いわけやない。
 普通に歩く分にはそんなに気になれへんし、走ったらちょっとクるけど。
 ちなみにデスクワーク云々は嘘やけど……な。
 
 「それは大変だね。でも、やっぱりはやては元気みたいだ。よかった」
 
 「あ、あはは。でも、ヴィヴィオに、ギンガ、六課隊舎の破壊。と、いろいろ大失態や。……部隊員たちも大なり小なり怪我させてしもたしな……」
 
 「見た感じ、滅入ってるわけでもなさそうなのは……彼が原因かな?」
 
 「正解」
 
 「否定はしないんだね」
 
 「私の彼氏やもん」
 
 「……うん?」
 
 ロッサが立ち止まって首をひねる。
 聞き間違いかな、なんて耳から水を抜く時の動作をして見せて、もう一回、と指を立てる。
 そんなロッサの姿に苦笑して、高らかに宣言する。
 
 「否定しないんは、ユーリが私の彼氏やからって言ったんよ?」
 
 「ははぁ、こりゃ、まいったね」
 
 「なに、ロッサ私ンこと狙ってたんか?」
 
 「そういうんじゃないよ。ま、兄貴分として、嬉しさ半分、寂しさ半分、ってとこだよ」
 
 「にしちゃ、頼りない兄貴やけどな」
 
 「それは酷いな」
 
 自然とお互いに笑い合っていた。
 仕切り直して、ロッサが茶々を入れる少し前の話題に戻す。
 
 「とにかく、奪われたからには絶対に取り戻す。また奪われんように絶対守る」
 
 「……そっか。上出来だ」
 
 そう言って、ロッサが頭を撫でてきた。
 ハッとしてその手を払う。
 
 「ど、どうしたの?」
 
 「あー……や、ちょっと……繊細な乙女心の防衛本能と言いますか……あ、あはははは……はは」
 
 「なるほど。彼にもされたんだ。ナデナデ」
 
 「ちょっ、ナデナデとか言うな!!」
 
 「あははっ、あははっ、あははははっ!」
 
 「その笑い方ムカつくわぁ…………」
 
 いつから漫才始めたって話やわ。
 とにかく、こう思うのは当然だ。そもそも、ウジウジしてても何かが戻ってくるわけやない。
 返してほしいものがあるなら、まずは「返せ」の一言から始まる。
 つまり、そう言うことや。
 
 「……しかし、本気なのかい? はやてとクロノ君の頼みだから、許可はなんとかとったけどさ」
 
 「隊員たちの住居や生活空間も含めて、本部は絶対必要やし、今後を考えれば移動できる本部の方がエエ」
 
 ガラス越しの作業場で、白い巨躯が未だ現役の光を放っている。
 幾多の戦線をくぐり抜け、少し前に廃棄処分が決定されていたL級艦船、第八番次元航行艦。
 
 「……アースラ、お休み前にもうちょっとだけ、私たちと一緒に、がんばってな?」
 
 物言わぬ白い艦船は、それでも返事をしてくれたように感じた。
 まだまだ我が身体は死ぬには早い、繰り手が現れるのなら、我が全霊を賭け応えよう。
 そんな感じだ。
 
 「……はやて。彼のことでひとつ、情報を手に入れた。と言っても、過去の事じゃないんだけどね」
 
 「今さら過去もないって。で、なに?」
 
 「本局が地上本部にユークリッド・ラインハルトの指名手配取り消しを申請したのは、知ってるよね。それの交換条件として、地上本部は、ユークリッド君にある任務を与え、それに成功したのち、指名手配を取り消し、管理局復帰まで約束した」
 
 「でも元々本局は管理局に復帰させるつもりで指名手配取り消しを言うてたんやろ?」
 
 「まぁね。それで、その任務というのは――――」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 地上本部に呼び出しを受けた。
 昼にもなるか、というところで本部の人間が病院にまでやってきたのだ。
 今はまだ指名手配を受けたままだ。一応、本局の保護監察下、という状況ではあるのだが、それを盾にしても地上本部にのこのこと顔を出すのは愚の骨頂。
 
 「ここで聞こう」
 
 オレがそう言う事を予想していたのか、使者が通信で二言三言話すと、数分もしないうちにひとりの女性が病院にやってきた。
 
 「地上本部、防衛庁官秘書、オーリス・ゲイズ三佐です。初めまして、ですね、ユークリッド・ラインハルト、『戦場の演出家』」
 
 「防衛庁官秘書……? それにゲイズって……」
 
 「今は私について話す時間ではありません。……ここでは人目につきすぎます、応接室を借りてきますので、お話はそこで」
 
 「……」
 
 頷いて返した。
 ゲイズ女史はそのままナースステーションに歩いて近づき、応接室を借りられないかの交渉をし、すぐに戻ってきた。
 
 「3階の東棟の応接室とのことです」
 
 「わかった」
 
 ゲイズ女史は地図を見やり、軽やかに足を進めた。
 部下らしき数名は病院のエントランスで待つつもりなのか、オレたちを追ってはこなかった。
 
 「別にあなたを捕らえに来たわけではありませんので。無理矢理逮捕したところで、本局といらぬ諍いの種を生むだけですから」
 
 「なるほど?」
 
 「まぁ……場合によっては、との指示もいただいているので、あまり私を困らせるような行為は控えて頂けると嬉しいのですがね」
 
 「ふん」
 
 いまデバイスはオレの手にはない。
 マリエル技師が全面的な修理とメンテナンスとを行っているらしい。
 
 応接室に着くと、手慣れた様子でせっせとお茶を汲み、オレと自分の前に出した。
 一口口に含んでから、話が始まる。
 
 「今回、あなたにお話しするのは『アインヘリアル』についてです」
 
 「『アインヘリアル』……って言うと、地上守護のために造られたっていう」
 
 「長距離精密狙撃魔力砲台です。本計画の最終段階、衛星軌道上への打ち上げが成功したのちは、次元犯罪者たちが所有する次元航行船や地上への精密狙撃と、地上任務には必要不可欠とまでなる予定の魔力兵器です」
 
 「それにしては一台一台が違う場所に配置されていた記憶があるが?」
 
 打ち上げが目的となれば、まとめておいた方が都合がいいだろうに。
 その質問の答えは、至極単純だった。
 
 「あれはまだ試作段階の、運用テスト用のものです。あらゆる場所、環境、状況のデータを蓄積し、完成型の『アインヘリアル』へアップデート、学習させるためのものです」
 
 「…………防衛任務、か」
 
 「ご名答。話が早く、助かります」
 
 「受けるとは言っていない」
 
 つ、とゲイズ女史の目線が冷やかに突き刺さる。
 それに怖じず、出来るだけまっすぐに彼女の視線を受け止めた。
 
 「聞いてはいましたが、相当のくせ者のようですね、あなたは」
 
 「でないと『戦場の演出家』なんて、胡散臭い通り名がつくものかよ」
 
 「自分で言うと価値が下がりますよ。さて、ではユークリッド・ラインハルト、交換条件です」
 
 「指名手配の取り下げか?」
 
 「それと、管理局への完全復帰も約束しましょう。場合によっては、ミルヒアイス、彼女の処分も軽くなることでしょう」
 
 ほとんど脅しに近いものがあったが、それもオレが犯罪者だからだろう。
 しかし、考えてみればこの条件は格別だ。はやてから聞いてはいたものの、指名手配の取り下げは始めからほとんど決まっていたようなものだが、オレの指名手配を出したのは地上本部。取り下げを命じたのは本局。
 元々の仲の悪さもあいまって、易々と取り下げることも出来なかったのだろう。
 ケジメというやつだろう。
 
 「……わかった。受けよう」
 
 「理解していただけてありがたく思います。それでは、詳しい日時や、情報は後ほどお渡しします」
 
 「了解」
 
 「あぁ、それから、防衛任務を完了するまで、あなたはあくまで嘱託魔導師として扱われますので、そのことはお忘れなきよう」
 
 つまり、任務は任せるが防衛を完了するまで一尉という地位はなくなったまま、ということだ。
 残ったお茶を飲み干して、ゲイズ女史は応接室から立ち去って行った。
 ハイリスクハイリターン。この言葉がこれほど当てはまる任務も珍しい。
 
 「面倒だな……」
 
 ……地上本襲撃のことから考えて、アインヘリアルも狙われる可能性がある。
 戦闘機人、それが出てくる可能性もある。いや、出してくるだろう。
 地上本部への襲撃でその存在を知らしめたのだ、出してこない道理がない。攻略の効率も考えれば、ガジェットだけでは悪すぎるからだ。まぁ、それはそれでブラフに使えるのだろうが。
 
 「おーい、ユークリッド。あいつ帰ったけど、なんの話だったんだ?」
 
 ノックもせず、ヴィータがずけずけと部屋に入ってきた。
 
 「『アインヘリアル』、知ってるだろ?」
 
 「おう。あのレジアス中将が躍起になって造ってたやつだろ。……おいおい、まさかお前」
 
 「さすがヴォルケンリッター。そんなナリして頭が回る」
 
 「一言余計だ馬鹿。……受けたのか?」
 
 「条件が良かったからな」
 
 「それだけじゃねーんだろ。お前」
 
 「さすがヴォルケンリッター。そんなナ――――」
 
 「それはもういい!!」
 
 苦笑いして、ヴィータを向き直す。
 
 「戦闘機人だ」
 
 「……そうかよ。まぁ、文句は言わねーけどさ」
 
 じゃあな、と手を振るだけでヴィータは部屋から出て行ってしまった。
 と、ドアが閉まりかけたか、というところで、ヴィータが顔だけを出して連絡を伝えてくれた。
 
 「シャマルが呼んでたぜー」
 
 「ん、わかった。ありがとう」
 
 オレの方も残ったお茶を一気に飲んで、部屋を立ち去る。
 ナースステーションに用事は済んだ事を伝えて、シャマルさんが待っている部屋へ急ぐ。
 
 「どうも、ユークリッドですけど」
 
 「ああ、入って入って。身体検査の報告ね」
 
 「はい、どうも」
 
 促されてシャマルさんの前の椅子に座る。
 書類の束から数枚を抜き取って、オレに渡してくれた。
 
 「一枚目が身長とか体重とか。二枚目が骨格や内臓、三枚目は魔力関係よ。一、二枚目については全く問題なし。健康そのもの。まぁ、三枚目も問題はない、といえば問題はなかったんだけどね……。リンカーコアがまだ若干暴走の様子を残してるわ。あまり過激な戦闘や魔力行使……特にクリームヒルトの『スパークドライブ』は絶対禁止。いくらあなたのリンカーコアが他の人と比べて強いといっても、限界はあるんですからね?」
 
 「了解です」
 
 「まぁ、あと2日もすれば落ち着くでしょうから、任務前には治るはずよ」
 
 「ヴィータから聞いたんですか」
 
 「リアルタイムでね。……でも、出来ればスパークドライブはもう使わないで」
 
 「……無理ですよ。使わないと」
 
 「…………言うと思った。なら、約束して。ちゃんと、帰ってきてあげてね」
 
 「敵わないな、シャマルさんには」
 
 でも、言われるまでもない。
 初めからそのつもりだ。はやては、オレ居場所だ。大切な、人だから。
 帰ってこれなきゃ、あんなことだってしない。
 強く、それを視線だけで訴えた。すると、シャマルさんはきょとんとして、次いでクスリと笑った。
 
 「言うまでもない、か。ごめんね、お節介で」
 
 「いえ、そんな……」
 
 「……ねえ。ついでに愚痴聞いてもらってもいい?」
 
 「……どうぞ」
 
 「ありがと。……私ね、医療班でしょ? だから、勝つことよりも、生きてることの方が大事だって……考えちゃうの。そりゃそうよ、生きてこそ次に繋がるんだもの。だけどね、何かを制限するように言うたびに、心が痛むの」
 
 本当に、辛そうな顔をしてシャマルさんは続けた。
 
 「あれは使わないで、これは使わないで、戦わないで、ちゃんと寝てて……って。私も騎士だもの、わかるわ。どうしても、使わなければいけないときがある。使わないと、ダメなことだってある。戦わなくっちゃいけないことだってある。それを理解してても、私は言わなくちゃいけないの。ダメなのよって」
 
 「シャマルさん」
 
 「生きて欲しいから。馬鹿らしい考えだなって思う。――――本当の、死んだら死ぬ命を貰ってから、私は余計に、そんな思いが大きく肥大化していって、たまらなくなった。どうして、こんなことを言う私は前に出ていけないんだろう、まともに戦えないんだろう……って、そんなことばっかり……。使っちゃいけないって言うんなら、自分がその人を守れるくらい、強くなりたいのに……、ホント、馬鹿よ……。でもその葛藤が、言うなれば私の本当の戦場。だからかな、あなたが眩しい。たとえ無茶でも、誰かを何かを守ろうとしてる、あなたが……とても眩しい」
 
 「オレ、は……」
 
 「ごめんなさいね。わかってるのよ。私は、私に出来ることしかしない。それは後衛だったり、小うるさい説教だったり、みんなの怪我を診たり……。……はやてちゃんが本当に好きになった人だから、私も甘えたくなっちゃったみたい。ごめんね、本当に。ありがとう」
 
 眼に涙をためながら、目の前のシャマルさんは感情を爆発させていた。
 弱い自分が情けない。口しか出せない自分が恨めしい。
 
 だけど、と彼女は言う。
 それこそが私の役目であり、やるべきことなのだ、私が戦うべき戦場なのだ、と。
 
 シャマルさん。
 オレは、オレよりもよっぽどあなたが眩しいと思う。
 
 「ありがとうございました。愚痴くらい、いつでも聞きますよ」
 
 「馬鹿ね。惚れられちゃっても知らないんだから」
 
 「それじゃあ、失礼します」
 
 余計なことは口にせず、笑顔で応えるだけで早々に部屋から走り去った。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 ――――ばがん。
 また新たに障壁が一枚はがれおちて行く。
 あの障壁を、この短時間で一枚破壊するという行為そのものが規格外なのだ。
 並みのミッド式のファイアリングロックを解除した状態での、貫通属性を付加させた砲撃であっても、傷一つつかないはずの壁なのに、彼女の一振りは容易く障壁に傷を付ける。彼女の拳は、容易く障壁を砕く。
 
 「…………」
 
 モニターから目を離す。
 地上本部強襲から、約一週間が経過。
 作戦は、次段階へ移行するための準備中。あと数時間で準備が整い、全ての妹たちが出撃する。
 
 「全ての妹たちへ。作戦の再確認を行います」
 
 『了解です』
 
 トーレが先立って返事して、それぞれ別のモニターが展開し、妹たちの顔が出てくる。
 それぞれの顔を見渡し、頷く。
 
 「事前に話した通り、変更はありません。チーム別に『アインヘリアル』を破壊、のち、それぞれの持ち場へ急行してください。クアットロ、チンクの具合は?」
 
 『はぁい、ウーノお姉さま。0番に構いませんでしたから、概ね修理が完了してますわ。ですけど、すぐに戦線投入は難しいと思いますけれども……どうするおつもりですか?』
 
 「最後はドクターが診るわ。あなたは作業を一旦区切って、作戦への準備を万端にしなさい」
 
 『了解でーす』
 
 「作戦開始時間までそれほど猶予はありません。各人、準備に余念がないよう、気を引き締めてかかりなさい」
 
 『そんなに気を詰めなくても大丈夫っすよー。ガジェット連れて行ったら管理局のやつらの大半は手出しできなくなるんスから』
 
 「そういう油断から切り崩されるのよ、ウェンディ」
 
 『あう。す、すいませんっス』
 
 「それに、あなた自身理解しているのならなおさら性質が悪いわ。管理局の大半が手出しできないということは、一部に限れば全く問題ないことと同義でしょう」
 
 『面目ないっス』
 
 「反省は学習に。ほら、しっかり準備しなさい」
 
 へこみながら、ウェンディはとぼとぼと離れて行く。
 モニターが次々消えていく中、トーレだけがモニターを残していた。
 
 「どうしたの?」
 
 『……クアットロに独断で調べさせていたことがあるのです』
 
 「なにかしら?」
 
 『いえ、個人的なものです。だからこその独断なのですが』
 
 「…………あの騎士の青年、ね」
 
 『さすがです、ウーノ姉さま。おそらく、出てくる。その時は……』
 
 「特殊段階を発令。ドクターも理解してくださっているわ」
 
 『後のことは、頼みます』
 
 「縁起でもない。勝って帰ってきて、ドクターを守るのがあなたの役目です」
 
 『了解』
 
 目を伏せたまま、トーレは消えて行った。
 後の事を心配したまま。
 
 「トーレ、あなたが勝てば、そんな心配もいらないというのに」
 
 「……ふふ、本能的に分かっているのさ。強敵だということをね」
 
 「ドクター!」
 
 軽やかに靴音を響かせながら、ドクターが近づいてきていた。
 
 「君も、そろそろ聖王陛下をお運びしなさい。あとは私が引き継ごう」
 
 「……了解しました」
 
 作戦開始まで、もう時間はない。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 =========================
 
 令状
 
 ユークリッド・ラインハルト嘱託魔導師
 
 貴公は『アインヘリアル』第2番機の守護をされたし。
 作戦成功時の報酬として、以下の2つが授与される。
 
 1.指名手配状の取り下げ。
 2.貴公の時空管理局員としての復帰
 
 以上を授与するものとする。
 
 以上を以て、任務に邁進されよ。
 
 =========================
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:5-4  end
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

自分の小説考察。それでも拍手レス。

ども、草之です。
『B.A.C.K』の最新話のあれですけどね。
なんていうか、自重はしたくなかったって言うか、むしろ妥協はしたくなかったような(ものは言いようなんて言葉がある)。
 
とにかく、やっちまったものはしょうがない。
下げるつもりも、直すつもりもありません。
それだけが言いたかった。
 
 
もとい。
ちょっとずつですけど、この頃、『賞』について考えていたりします。
別に獲りたいとかじゃなくてですね、応募してみよう、なんていう感情がふつふつと。
もちろん、今はしませんよ。だってここ『歯車屋敷』で連載を3つもやるなんてバカしてるんですからね。他のサイトの応募したって人たちのものを見てても、今は無理。
とりあえず、3つのうち2つが終わった時点で考えようと思っています。
 
なんていうと「おいおい、もしかしてあっさり終わらせるつもりなのか?」と思われそうですけど、大丈夫、かどうかは読んでもらわないとわかりませんが、とりあえず掃き掃除するみたいに軽くは終わらせませんよ。しっかり完結に持っていきたいと思います。
 
 
 
さて、そこで自分の小説のことに関して考えてみた。
よくよく人から言われるのが、『心理描写』。確かに、草之はなんとなしに心の中を描きたがる。
それが作品の空気にあっているとか、あっていないとか、そんなものも関係なしに、今までの作品でシリアス=心理描写というロジックが自分の中で出来上がりつつある。
この1年とちょっとの間に、ずいぶん筆も達者になった気がする。今『優星』の1話を見たらそう思えることもあったり、「おお、こんな書き方してたんだな」と感心することもしばしば。
 
それが、今の草之の作風、と言っていいだろう。
ハッキリ言って、草之に笑いのセンスはあまりないと思っている。だからコメディーというか、ひとつ笑ってほしいものを作っても、不安になったりする。
あとは、感情の行き過ぎ。これも不安になる。オリジナルでは気にしたこともなかったのだが、二次を書くうち、そのキャラクターが持つ感情のリミットがどこにあるのか、それをついつい気にしてしまう。
言うなれば、沸点だ。感情が爆発する一線。それがどこにあるのか。
 
さて。
最後に、草之はなにをしたくて『小説』を書いているのか。
これはもう解りきっている(解ったつもりなのかもしれないが)。
誰かに自分の作品を見てもらいたいからだ。小説を書き始めた当初、学校の友人にそれを書いた大学ノートを手渡しては、最後の方の空きページに感想を書いてくれ、と言っていたものだ。まともに感想を書かれた記憶が少ないのはどうしてだろう(笑)。
 
ここに書き始めたのも、その友人らと実際に会う機会が少なくなったからだ。大学に入ったから。
だから、代償行為として、またはより多くの人に見てもらうためと言って、ネット上にこういう場所を作った次第。
まるで自慰です。
 
さて。ここでひとつ。
高校の頃は、授業中にせっせと小説を書いていたものです(ぇ。
でも、あまり見つかることはありませんでした。その授業のノートの下へ小説のノートを潜り込ませながら、隙を見てカリカリしてたからです。
 
それでも、あるひとりの先生にだけ見つかってしまいました。
しかもそれが国語の教師で、しかも投稿等、したこともある人だったりしたもんだから(笑)。
授業中、ハッと見上げるとそこにはその先生が。ノートの取り合い、引っ張り合いになったりして結局とられたり。
授業は基本的に問題を解く時間を与えて後で解説、という授業だったので、その時間で草之の小説を教壇で黙々と読むという、ちょっと、いやかなりシュールな情景。
その後、「ふん?」という鼻息とともに授業再開。それだけでなにも言わず。授業後、教壇のうえに置きっぱなしのノートを回収。なんてことが数回。
 
結局感想はいただけず。というか感想求める方がおかしいか(笑)。
 
大して面白くもない思い出話でしたとさ。
 
では、以下拍手レスです。
草之でした。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

新たなリンク(?)が結ばれた!!(テロリーン そして拍手レス。

ども、草之です。
 
『新たなリンク(?)』というのは、まぁ、新たなと言えばそうとも言えるかな?
と、言う感じのリンクですので。
 
『Paradoxical khaos』
改め、新設サイト……
 
『POLYMERARTS』
 
とリンクさせてもらいました。
こちらの管理人さんは『Paradoxical khaos』の揚雲雀さんではなく、新たに参入といいますか、合流でいいのだろうか。そういう感じでOPさんという方です。
あとひとりオリジナル小説で参加する予定らしいですが、まだもうちょっと先のご様子です。
 
さて、管理人さんのOPさんはサイト管理だけではなく、音楽作成もなさるようで。
ただいま東方シリーズから3曲のアレンジも公開中。これから聴いてみようと思います。
草之は少なからずイージーをたしなむ程度ですがねっ!! たしなんでピチュられてたら世話ねーぜっ!!
 
とりあえず、まだふたりですが……。

御三方とも、これからもよろしくお願いしますっ!!
 
 
 
 
と、いうことで。
以下拍手レスです。
 
草之でした。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:30

 
 試験が終わったその日の放課後に、マスターの家に呼び出された。
 眼鏡をかけ、後ろには黒板。手には教鞭。
 
 「さて。では講習を始める」
 
 「あ、あの~……。魔法の講習なんて、なんで今さら……」
 
 「馬鹿にするな。誰が『おこちゃま魔法講習を始めますよぉ~』なんて言った、お?」
 
 「す、すいません……」
 
 エヴァンジェリンさん……もとい、マスターのログハウスの二階にて、初めての修行が始まった……のだけれど。
 
 「魔法とは、世のため人のため、正しいことに使うべきものだ。……と、学校で習っただろう、ぼうや。まぁ、確かに昨今の魔法使いどもは盲目的にそれを信じているが、果たして本当にそうかな?」
 
 まず出た議題がこれなのだ。
 マスターは一体何が言いたいのだろうか。
 
 「魔法。なるほど、日本語とは大概ややこしいものだが、こう言うときだけは言い得て妙なものだ」
 
 「?」
 
 「魔の法。“魔”とは、ことわりに仇名す対極の存在。つまり、魔法とはことわりを指すのではなく、その逆、破綻を意味するものだと言える。世のことわりを破綻させるもの。つまり、あり得ないことを起こすものこそが、魔法だ」
 
 「はぁ、まぁ、確かに……」
 
 「いまいちこの意味が分かってないらしいな、ぼうやは」
 
 と、急に言われてもこちらも困るわけで……。
 ここは恥を忍んで訊いてみるべきだろうか。
 
 「えっと、それはどういう意味ですか?」
 
 「世のことわりに反すもの、と言って意味が伝わらないのもどうかと思うがな……」
 
 世のことわりに反すもの?
 それってつまり、悪ってことなんだろうか。
 
 「“魔”の根源は、世に影を落とすものだ。しかるに、魔法は世のことわりとしてではなく、ことわりを破綻するものとして存在し、秘匿とされているのだ」
 
 「……えっと、つまり?」
 
 「お前、本当に頭がいいのか?」
 
 勉強が出来てもあほうでは意味がないぞ、と悪びれたそぶりも見せず、それどころか呆れた顔をして言われる。
 チョークを持って、後ろの黒板を向いてなにやら書き始めた。
 
 「いいか、これが世界だとする」
 
 チョークで、大きな円をひとつ描く。
 
 「次に、これが世界のことわりだ」
 
 大きな円の中を斜線で軽く塗りつぶす。
 
 「そしてこれが、魔法……つまり破綻だ」
 
 黒板消しで大きな円の一部をざっと荒く消す。
 
 「これで理解できたか?」
 
 「いえ、よく……」
 
 「…………はァ。世界を壊す存在方程式、それが魔法だということだ」
 
 「世界を、壊す……?」
 
 考えても見ろ、とマスターが呟く。
 もう一度大きな円を描き、それを斜線で塗りつぶす。
 
 「いいか。表の世界は魔法という存在なしで成り立っている……。言い換えると、魔法などなくとも世界は回っていると言っていい。それが“世界のことわり”だ。奴らにとって『魔法』とは、一介の幻想や、妄想にすぎない。……確認のため、質問しておこう。魔法使いがそれだとバレた際、なぜペナルティが科せられる?」
 
 「それが、ルールだからで……」
 
 「理解出来てなさそうだな。……まぁ、魔法学校で教育されてきたこちら側の現代思考を持っていては仕方ないことか……」
 
 かけていた眼鏡を取り外して、傍らに待機していた茶々丸さんに渡して、こちらを一瞥した。
 
 「今まで習ったことは忘れろ、とは言わんが……、知識程度に留めておけ。常識とは思うな」
 
 頭痛がしてきそうだった。
 そんなに難しいことを言ってるわけでもないのに、目眩が止まらない。
 
 「問いだ、ぼうや。もし、この世に魔法が知れ渡れば、どうなると思う?」
 
 「マスター、それは……」
 
 「黙っていろ、茶々丸。これは私の授業なのでな。…………NGO、それに紛れて行動する『偉大なる魔法使い』たち。もしも、魔法が存在すると、この世の中に知れ渡ったとき、救える人数は増えるか、否か。答えろ、ぼうや」
 
 「はい、増えると思います。けれども、それは出来ません。ルールですから」
 
 「そのルールはなぜ決められている?」
 
 「……どういう意味ですか?」
 
 二ヤリと、意地の悪い笑みを浮かべながら、マスターは嗤った。
 
 「物事には、常に裏表がある。だが、それは常にコインのような綺麗な裏表ではない。裏表とは常に天秤の上にある。……救える数が増えるのだと、お前は言ったなぼうや。逆だ。救える数は減る。爆発的に減る。それはなぜだか、わかるまいな、お前には」
 
 「……なぜですか!? 魔法は、世のため人のためにあるべきもののはずです! それが、どうして救える数が減るなんて……!!」
 
 思わず立ち上がって叫んでいた。
 マスターは耳に指で栓をしながら、こちらをじとりとにらんだ。
 その眼は、いかにもな呆れが浮かんでは消えていた。
 
 「魔法は、人を救うものばかりか?」
 
 「え?」
 
 「ならなぜ“悪の”魔法使いなどという存在が出来上がった?」
 
 「それは……魔法を悪用する人が……」
 
 「悪用、ね。なるほど、魔法とは“力”だ。しかり、使う者がいる。悪用、なるほどなるほど。……では逆に問おう、ぼうや。なぜ魔法を“悪用”しようなどという思考に人は辿り着く?」
 
 「……マスター、言いたい事があるならはっきり言ったらどうなんですか!?」
 
 知らずのうちに怒鳴っていた。
 それでもニヤニヤしているマスターを、どうしてだろう、嫌いだと思った。
 
 「……そこに“力”があるゆえだ。全てを破壊しえる、全てを消しえる、そんな“力”があるからだ」
 
 「でも、それでも魔法はっ、そんなことだけに使うものじゃないですかっ!!」
 
 「おうとも。ジジイの孫がその典型だな。回復に特化した魔法など、いくつもある。それはそう使うものだ。……しかし、私が言ったこともまた事実。……お前の目の前にいる、10そこらにしか見えない小娘……、お前がマスターと呼ぶ者は、その最も足る人物。“人形使い”“闇の福音”“不死の魔法使い”。名をエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。“悪”の魔法使いだよ」
 
 背筋に針を通されたような、冷たい、激しい痛みを感じた。
 橋の上で、京都で見たマスターよりも、なによりも怖いと思った瞬間だった。
 首筋を針金で引っ掻き回されている感覚が消えない。
 
 「う、あ……」
 
 「……こう言う口論もいいものだな。……弟子とはやはりこうでなくてはならんな。師匠に反抗し、敵対し、殺意さえ持っていなければならん」
 
 「ケケケッ、今ハドウ見テモ怯エテルジャネエカヨ」
 
 「この怯えがのちの“力”になるなら、構わんさ」
 
 「ナンダカンダ言ッテオイテ楽シソウジャネエカ、ゴ主人」
 
 もう、何をすればいいのかがわからない。
 僕がいままでそうだと信じていたものは、どこにある?
 魔法って、一体何なんだ……?
 
 そんな僕を見かねてか、それとも、呆れてか。
 あからさまなため息をついて、近づいてくる。
 
 「まぁ、弟子がその様子じゃ、今日のところはなにをしても無駄のようだな。さ、お開きだ」
 
 そのまますれ違い、階段を降りて行く。
 
 「ネギ先生、お送りします」
 
 「あ……はい」
 
 帰る時の記憶はほとんどない。
 ところどころで茶々丸さんに腕を引かれてはモノに当たるのを避けているようだった。
 そのままアスナさんたちの部屋まで到着し、心配そうな声が聞こえただけで、僕はいつの間にか自分のベッドに潜り込んでいた。
 
 「ちょっとネギー?」
 
 「晩御飯いらへんのー?」
 
 魔法が、魔法の根元の性質が“破壊”だったなんて。
 信じられない。信じたくない。魔法は、人を……誰かを“救う”ためにあるはずなのに。
 破壊なんて……はか、い?
 
 
 ――――『フ……コノ力ノ差……ドチラガ化ケ物カワカランナ……』
 
 
 破壊――なんてっ!
 
 「嘘だッ、嘘だ、嘘だ……!」
 
 「ね、ネギ?」
 
 「違う。魔法は、そんなことのために使っていいものじゃない。誰かを救うためにあるんだ……だから、そんなの嘘だッ」
 
 「ネギ、どうしたのっ!?」
 
 「うああああああああああああああっ」
 
 そのまま、気がつけば次の朝が来ていた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 木の幹なのか、根なのかわからない大樹の一部を避けながらどんどん下へ降りて行く。
 つい昨晩のことだった。いきなりこの図書館島の地下から、微動な『魔法』の揺れが起こった。
 
 「ったく、誘ってやがんのか、それともただの気紛れか」
 
 今まで、確かにこの地下には何かがあることはその『魔力』の動きでわかっていた。
 だからと言って、大したものではなかった。力のある魔導書とかいうヤツだろうと考えていた。だからこそ今まで無視してきたわけだが、ここにきていきなり、自分の存在を知らしめるかのように、その揺れを大きくしやがった。
 気味の悪さを感じつつも、即興の探索準備を整え、ここに乗り込んだ。
 
 「……ち、めんどくせえ」
 
 焼き払えればそれが一番手っ取り早い。
 だが、ここはこの“根”で支えられていると言ってもいい。そのうえ、その支えている建物は巨大ときた。
 巻き込まれるのはごめんこうむる。
 
 封炎剣は腰にベルトで固定し、両腕を使えるようにしてある。
 とんとん、と根を渡り飛び、下へ下へと向かっていく。
 
 「……あれか」
 
 まだ100m近い遥か下に見えているが、扉がある。
 この高さなら、もう飛び降りても問題はないだろう。細かく飛び渡っていた作業を止め、落ちるように飛び降りた。
 どん、という衝撃。衝撃は身体を抜け、すぐに霧散する。
 
 「…………」
 
 大した大きさだ。
 木の根にこびり付かれていて、余計にデカく見える。
 
 「……ち」
 
 腰のベルトを外す。
 ばちん、と音がしてベルトがはじけ、封炎剣は自重で地に落ちて行く。それが地面に落ちる寸前で柄を掴み、構える。
 
 「大層なお出迎えだな」
 
 背後に向かって話しかける。
 だからといって、返事が返ってくるわけじゃない。返ってくるのは、地鳴りのような低い唸り声だけ。
 振り向く。視界に入ってくるのは、巨大な竜。一丁前に威嚇をしている。
 
 「ち。やる気か……」
 
 翼を大きく広げ、その脚に強大な力を込めているのが分かる。
 はじけた。木の根が粉々に砕け、その巨躯がさらに大きく視界に映る。
 とん、とステップを踏む。瞬間、今までいた場所に巨大な爪が落ちてきた。着地と同時にその爪を叩くように斬りつける。
 かぁん、と金属音に似た音が響き、剣が弾かれる。
 態勢を整えるより早く、不安定なまま走りだす。直後、地面が竜の顎の中へ消えて行く。
 
 「ちぃっ」
 
 思った以上に動きが素早い。
 こちらも力を足に溜め、一気に爆発、距離を離す。
 当然そうなると――――
 
 「サーベイジ……ッ」
 
 竜の牙の間から炎が漏れる。顔は陽炎で歪み、瞳がそれ自体炎のように揺らめいている。
 吐かれた。巨大な岩石のような質量を持って、豪炎が迫る。
 
 「――――ファング!!」
 
 封炎剣を地面に刺し込む。
 周囲から同じように陽炎が立ち上り、地面が割れる。壁を作るように、火柱が豪炎を防ぐ。
 踏む込む。絶対の決意を以て刃を振り上げる。
 
 「でェアッ!!」
 
 ごつん、と竜の顎が揺れる。
 斬れてはいない。鱗に邪魔をされて身にまで刃が通らない。
 なら――――!!
 
 「砕けろッ!!」
 
 サイドワインダー。
 渾身の力で法力を込め、インパクトと同時に式を開放。
 鋼鉄の固さを持った炎を纏い、拳を竜の頭蓋を砕く勢いで振り抜く。
 
 竜の首がメトロノームのように勢いよく吹き飛んだ。
 巨躯がバランスを取り切れずたたらを踏む。その合間に着地、今度は腹に向かって踏み込む。
 
 「ロックイット!!」
 
 肉が波打って衝撃が広がる。
 竜が何かを吐き出した。しかし、次の瞬間には立て直してくる。どん、と衝撃が走る。強烈な突風を身に纏い、竜は飛び上った。
 上空高く舞い上がり、口にはまた炎を湛えている。真上から、ここ一帯を焼き尽くそうと考えているのが容易に想像できる。
 
 羽撃たきの突風と混じり合い、針山のごとく、炎が牙となって降り注ぐ。
 一つ一つが剣のような鋭さと質量をもって殺到する。
 
 「っく」
 
 フォルトレスディフェンス。
 上空に対してのみ展開し、出力を底上げする。文字通り、炎の雨が降り注いだ。
 その一粒一粒が辺りを焦土と化し、にわかに赤く視界が埋まる。
 
 「鳥がッ!」
 
 叫ぶ。
 
 「おおっ!!」
 
 辺り一片の炎を巻き込んで、陽炎がこの身に纏わりつく。
 キン、と音がしたと思うと、一瞬で竜の頭まで迫っている。顎を蹴り上げ、続けて剣戟、自分の頭よりもなお高く、足を掲げ上げる。
 
 「落ちろ!!」
 
 シュトルムバイパー。
 嵐のような乱撃。その回転は蛇のとぐろが如く。
 サイドワインダーを喰らった時よりも激しく竜の頭がはじけ、地面へ向かってまっさかさま。
 追うように落ちて行く。
 
 「お・おおおおおおおおッ!!」
 
 獣にも似た叫びをあげ、地面へ叩きつけられた竜へ追撃する。
 法力を纏わせ、踵で首の付け根を狙いすまし落ち込んでいく。
 しかし、相手も竜という種族なだけはあったのか、地面に着く直前に立ち直る。羽撃たきを上に向かって撃つ。突風が怒濤となって襲いかかってくる。
 こちらはただの重力加速度に頼っただけ落下だったため、簡単に突風に押し負ける。
 
 「くそがっ」
 
 次いで、竜が再び飛び上ってくる。
 巨躯に似合った巨大な口をあけ、俺を食おうと涎を垂らし迫ってきている。
 
 「これでも喰ってやがれ!!」
 
 単純な術式を放つ。炎が塊となって竜の喉の奥を焼き尽くす。
 怯んだ隙を見て、牙を飛び渡り、頭、背、尾を走って降りて行く。
 尾から飛び降りる際、その先端を片手で引っ掴み、そのまま引きずり降ろしていく。
 叫び、否、悲愴。それを感じる。たかが人間に、ここまでやられるのか。そんな感情が伝わるような叫び。
 
 「叩き潰れろ……ッ、鳥がァ!!」
 
 扉に向かって叩きつけるように竜を振りかぶる。
 これで竜と扉、どちらともが壊れれば一石二鳥だ。
 
 扉が迫る。
 勢いは充分。威力も充分。
 
 『――――そこまでです』
 
 扉に叩きつける寸前、体がなくなったような感覚に襲われた。
 瞬間、反重力下、つまり、体が重力のくびきから解放されていることに気がついた。
 これも『魔法』か? つまり、こいつの飼い主ってことか。
 
 尾を離す。
 じたばたと暴れながら竜はどこへともなく飛び去って行った。
 ゆっくりと反重力の効果が薄れ、静かに地面に降り立った。
 
 「扉の向こう……お前が『魔力』の揺らぎの原因か」
 
 『ご明察です。訳あってここから出られませんが、だからといって門番をみすみす潰されるのを見てもいられませんからね。少し近くまで来ています』
 
 「俺を呼んだのか」
 
 『いえ。世界樹の魔力の高まりが原因で、少し興奮……いえ、語弊がありますね。少し暴走気味になってしまいまして。いやはや、困ったものです』
 
 即答だった。
 くたびれ損か。
 
 「ち。いらつく……」
 
 『ああ――――……。あなたが学園長が言っていた異時間軸同一世界の住人ですか』
 
 「わざわざ分かりにくく言う必要がどこにある。異時間人……未来人だといえばいいだろうが」
 
 『おや。あなたもその可能性に辿り着いていたのですね……?』
 
 「この世界の時間・地図・歴史を聞き調べすれば、それが一番可能性の高いものになる。だが、それとすれば――」
 
 『誰がこの世に『魔法』を教え伝えたのか。それとも、あなたの疑問は別のところにあるのでしょうか?』
 
 「…………そうする意図だ。『魔法』を教える意図がどこにある」
 
 『さて、私には到底解りかねます。解る解らないではなく、むしろ狂っているというべきでしょうか。盲目的なまでの信仰は時に、現実を塗り潰すこともあります』
 
 「……ふん」
 
 だが、それでも疑問は残る。
 『魔法』と《魔法》。ロジックによって式として成り立った《魔法》に対し、世界などという曖昧な存在を否定する『魔法』。
 どこに『魔法』を《魔法》とする要素がある。あるいは、『魔力』のない人間がトチ狂った末の作品が《魔法》か。
 
 それにしては、初めの方の《魔法》は建設的なものだったんだと記憶しているがな。
 
 『教えていただけないでしょうか、未来の世界を』
 
 「……愚かだな」
 
 『いえ。確認ですので。本気であなたがしゃべり始めたらぺしゃんこにしていました』
 
 「いけしゃあしゃあと、食えねえ野郎だ」
 
 扉に背を向ける。
 これ以上、問答を続ける気はない。時間の無駄だ。
 欲しい情報はここにもない。しかし――――
 
 『あなたとは、いつかお手合わせ願いたいものですね』
 
 そいつの最後のその言葉だけ、鮮明に脳裏に焼き付いた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 ……あぁ。
 考えても見よう。
 
 危険な世界なのだと、僕はいつもそう言って関わりを持たれないように、足を踏み入れることのないように忠告してきたじゃないか。
 そう、本質を無意識にでも理解していたからこそ出る言葉だ。
 そして、僕はそれを体で体現している。僕は回復魔法が苦手だ。もっとも、人を救うべきために必要な魔法を、僕は苦手としている。
 あの冬の日から、僕は一生懸命に魔法を勉強した。村の人たちを救うために、もうあんなことがないようにって。
 ――――だったら、なんで……?
 
 「ふ、う……」
 
 起きてから、いや、寝てる間もなんだろう。
 僕は泣き続けている。
 信じていたものと、疑いたくなかったものと。
 
 「……本当の魔法は……ほんの少しの勇気……」
 
 それは、一体どういう意味でおじいちゃんは言ったのか。
 魔法なんてものは飾りだよ、と教えたかったのか。それとも、もっと違う……何を?
 
 「魔法なんて……嘘だ……」
 
 嘘の塊だ。
 信じてきたものをことごとく食べて行く。
 一歩をどうしても踏み出せない。魔法は破綻、魔法は“世界の孔”。
 
 「魔法は……力。力は……責任。責任は……たった一滴の覚悟。“コケる覚悟”……」
 
 疵付く、覚悟。
 傷ついていない心を、疵つけ、傷めつけ、なお刻む。
 覚悟の記憶と、斃した“敵”の記憶。
 
 「抱え込んで進む……」
 
 「ネギー? いい加減降りてこないと遅刻よ、遅刻っ」
 
 アスナさんが呼んでいる。
 体を起こす。
 もうすっかり目は覚めている。
 
 「今行きます」
 
 「もう、ご飯も食べずにさぁ。昨日もなんかわけわかんないことブツブツ呟いてるし。気が付いたら寝てるし」
 
 「……ご心配おかけしました」
 
 「エヴァちゃんところでなんか言われたの?」
 
 「いえ。そういうんじゃ……ないです」
 
 「まぁ……深くは訊かないけど、さ」
 
 アスナさんにしては珍しい反応だな、と思った。
 いつもは僕が正直に言うまで食ってかかってくるのに。
 
 「まぁ、なんてーの。エヴァちゃんに言われたこと、私なりに考えたりしてんのよ。そんな変な顔しなくてもいいじゃない」
 
 「なんか、変な顔してましたか?」
 
 「なんていうか、空振り、みたいな顔してた」
 
 「なんか悩んでんならさ、アクセル先生に聞いてみたらいいじゃない。いい人じゃん」
 
 「……そう、です、ね。そうですよね……」
 
 覚悟を問われるだろう。
 それがどんな覚悟なのかはわからない。けど、なにかしらの覚悟を求められる。
 僕に“コケる覚悟”は、出来ない。ならどんな覚悟なら、出来る?
 
 「聞いてみたいと思います」
 
 「そ。あんたが決めたことなら、私も納得するから。待つわ」
 
 「え、待つって……」
 
 「って、なんであんたがそんな顔してのよ。私はあんたのパートナーなの、わかってる?」
 
 「それって……」
 
 「足、突っ込んでやろうって言ってんの!」
 
 「ちょっ!?」
 
 突飛過ぎる。
 というか、なんでその結論に辿り着くんですかアスナさん!?
 バカレッドは伊達じゃないって……そんなこと言ってる場合じゃないでしょう、僕は――――!?
 
 「だだだだっ、ダメですよ、何言ってるんですかアスナさん!?」
 
 「だから、私はあんたのパートナーだから、あんたの答えを待つって言ってんのよ。文句ある?」
 
 「ありますっ、僕は僕のことで精一杯なのに、アスナさんのことまでなんて見きれませんよ!?」
 
 「上等よっ、それくらい承知のうえよ。これで殺されても文句は言わない。ていうか死んだら言えないし」
 
 「なに軽く言ってるんですか――――!?」
 
 「軽いわよ、ええ、軽いですとも。私の命も、あんたの命もっ!!」
 
 「――――っえ?」
 
 「だからっ!! ふたり一緒にいて、少しでも重くすりゃいいじゃない!!」
 
 「な、んで……」
 
 「バカバカバカバカ、あんたは私よりもよっぽどバカよ、だって足し算も出来ないんだからね!」
 
 「バカって……ば、馬鹿って言う方がバカなんですよー!?」
 
 「意味がわかんないわよ、今は私じゃなくてあんたの話ぃっ!!」
 
 ぎゃあぎゃあと言い争ううちに、いつの間にかこのかさんがすぐそばに来ていた。
 
 「なんや遅いなー、って思ってたら、ケンカかいな。怪我せんうちにやめときえ~?」
 
 そう言うだけ言ってこのかさんはすぐに部屋を出て行った。
 冷静になってお互いを見てみると、生キズだらけの変な顔になっていた。
 それに、顔が近い。
 
 「って、あんたどさくさにどこさわってんのよ!?」
 
 「え、て、ああああのこれはその不可抗力って言うか、わざとじゃないんです、気がつかなかったんです――!?」
 
 「よけいタチ悪いわよ! 無意識に女の子のおっぱい触るなんて、このドスケベ、ムッツリドスケベ!! クラス中に言いふらしてやるんだからね!!」
 
 「わあああああああああああっ、やめっ、それだけは勘弁して下さいぃ~~っ!!」
 
 「――――だったら!!」
 
 「ふえ?」
 
 「私をパートナーなんだって認めなさいよ!」
 
 「それとこれとは話が!?」
 
 「違わないいいいいいいいいいい!!!!」
 
 「違いますうううううううううううううう!!!!」
 
 結局、その日僕らは学校に遅刻して、僕とアスナさんは仲良く新田先生にこってり絞られてしまった、というのはまた別のお話。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:30  end
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

もう10月の中旬ですよ。あとお知らせ。それにしても拍手レス。

ども、草之です。
今月の癒されBarのゲストは、能登麻美子さんなんですよ。
宣伝はこれまでにしておいて。
 
早いもので10月も中旬だ……。
で、いつの間にか30万HITも間近になってしまっていると来たもんだ。
特にネタがないのでかなり久しぶりに「俺ネコ」を更新予定ですが。
 
なんというかアレですよ、一応リクエストなんかも受け付けてるんですよ。
別にキリバン踏まなくても、リクエストは可能ですよ。その中からひとつ選ばせてもらいたいと思います。なんか偉そうですいません。
オリジナルで構成したり、二次でもある程度可能です。『歯車屋敷』連載作品の外伝でも可です。
 
 
 
考えてはいるんですけど、『B.A.C.K』がもう終盤なんですよ。
読んでいただいている読者様の方々にはご理解いただけているとは思いますが。
だから、という理由だとすごい他の作品の読者様に迷惑がかかってしまうんですが、一時『背徳の炎』を凍結させてもらいたいと思います。
『凍結』なんて言ったらなんか、打ち切り的な匂いがありますが、言ってしまえば休載ですので、『B.A.C.K』完結後に再開させてもらいたいと思います。
 
予定では一ヶ月から二ヶ月の間凍結。
解凍(再開)予定は11月後半から、年内。
 
ご愛読してくださっている読者様にとってはご迷惑をかけることになりますが、どうぞご了承ください。
つまり、要約すると。
 
『背炎を凍結。B.A.C.Kを年内までに完結予定』
 
ということです。
ちなみに誤解なきように言っておきますが、『背炎』を書くモチベーションがない、とかいう理由ではないのであしからず。
なぜ『優星』は凍結しないの? という質問があるかもしれませんのでそちらも説明しておきますと、『優星』はうち『歯車屋敷』の看板タイトルだからです。
 
 
と、いうことで以下拍手レスです。
草之でした。
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:31

 
 「なんでこう……いや、言うまい。言うもんかよ……」
 
 バーベキュー用の、縦に半分に割って切ったドラム缶を両脇に抱えながら、さっきから自分でもわかるほどこのフレーズを呪文のように唱え続けている。
 別に、ドラム缶程度なら『強化』を使わずとも運べると言えば運べるし、ちょっとばかりきついと言えばきつかった。
 その形も原因なのだろうが、この程度なら魔術を使わなくても、という気持ちと、使ってしまえば素早く目標を達成出来るのでは、という悪魔のささやきにも似た逃避が激しく戦い、それが妙にイライラの種になっていた。
 
 正直言って、暑い。
 あの寒かった冬もナリを潜め、今ではすっかり春風いっぱいぽっかぽかである。
 その中でこの絶妙に重いと感じるドラム缶を運べば、暑くなるのは道理。
 これも、魔術が使いたい、という欲求の原因のひとつでもあった。
 
 「あー、なんでこう……いやいや。言ったらそこまでだぞ……」
 
 もう目の前だ。
 あとはこの角を曲れば、きっと「お疲れ様」の一言でも聞けることだろう。
 それだけで疲労なんて吹っ飛ぶさ。待ってました、と輝く笑顔も俺の栄養源だ。
 それを思えば、こんなドラム缶のひとつやふたつ、どうということはない。
 どうということは、ない―――――
 
 「遅いっ!!」
 
 はずなのに、なぁ。
 うん。解ってる判ってるともさ。こいつはこういう奴なんだって、もう随分前から知ってる。
 でもなぜだろう。なんで涙がこぼれそうになるんだろう。ははは、おっかしいなぁ。
 
 「なにたそがれてんだ。ほら、さっさと準備準備。肉食わせないぞ」
 
 「はいはい、了解しましたよ、ったく」
 
 海との境界、そこに一際大きく切り抜かれたようにへこむ空間。
 ただの船舶清掃場なのだが、今日はここで春の到来を祝うバーベキュー大会をしよう、ということになっていた。
 がん、がん。とドラム缶の無駄に重ったらしい音がその空間に響き渡り、晃がむ、と唸った。
 
 「重くなかったのか、ふたつも持って」
 
 「重いから俺に任せたんだろ?」
 
 「そりゃそうだ。御苦労っ」
 
 どうしてだろう。まったく悪気を感じない。
 この場合、少しでも申し訳なさとか、あるんじゃないのか。どうなんだ、ちくしょー。
 
 「お疲れ様です、衛宮さん」
 
 「おう、アテナ。ありがとう」
 
 「? なんで、お礼?」
 
 「いや、なんとなく」
 
 「私にはなかったぞー、衛宮ー」
 
 後ろのばらのじょうおうさまは放っておこう。構うだけ時間の無駄な気がする。
 さて、次は木炭を持って来なきゃいけないわけだが……。まぁ、さっきよりかはマシか。
 
 「じゃ、次持ってくるから」
 
 「あ、私も行きます」
 
 と言ってついてきたのはアリシア。
 妙に嬉しそうな顔で隣に並んで、歩みもこころなしか軽く見える。
 よっぽどバーベキューが楽しみなのかな――――とでも言うと思ったか、この愚か者め。誰が愚か者かは定かではないが、俺もさすがにここまで生きてきた。そこまで鈍感じゃあない。
 あのバレンタインの時にやっと確信した。いや、自分の馬鹿さ加減に気がついた、ともいうべきか。
 
 アリシアは、どうしてだか確実に俺に好意を寄せてくれている。
 それも、親愛ではなく、純粋にだ。気がついてから、出来るだけ以前と同じように振舞うことにしているが、どうにもうまく出来ている自信がない。
 
 当のアリシアは俺の横をニコニコ幸せそうな笑顔で歩き、時折チラチラとこちらを覗きこむように見てはクスリと笑っている。
 悪い気分はしないのだが、どうにも落ち着かない。
 
 「アリシア」
 
 「なんですか、士郎さん」
 
 「…………いや、なんでもないんだ」
 
 「変な士郎さん」
 
 「だな」
 
 うきうきとした気持ちがひしひしと伝わってくる。
 悪くはない。……のに、なんで俺はまた、こんな――――
 表情には出さないように、木炭をアリシアと分担して持って帰ったのとほとんど一緒に、食材班の灯里と藍華、アリスも帰ってきていた。
 新聞紙の束とマッチを晃から渡され、苦笑を浮かべつつも、仕方無く俺が火を点けることになった。
 新聞紙が燃え、それが木炭に燃え移り、ほどよい炎の揺らめきになった瞬間、俺が一斉にGOサインを出す。
 我先にと晃とアリスが肉を焼き始めた。それに続くように野菜に海鮮、またもや肉、と網の上でじゅうじゅうといい香りと音を奏で合わせていた。
 まだかまだかと構えるみんなを横目に、網の上の食材を見つめる。
 
 「かかれー!」
 
 と、食事にあるまじき合図を出したのは、これがバーベキューだからだ。
 普通の食卓で俺がこんな号令を出すはずもない。
 
 「肉は全て私のものだァーッ」
 
 「ちょっ、晃さん慌てすぎですよっ」
 
 獣のごとく躍りかかる晃を藍華がおさめようとして、おさめきれていない状態は……まぁ、いつものことだ。
 
 「でっかい大量です」
 
 「ちゃんと噛んで……むぐっ、う、うぅ」
 
 こんもりと焼けた食材を取り皿に乗せたアリスは満足そうなほくほく顔。その隣のアテナはというと、「ちゃんと噛んで食べないとダメだよ」とでも言いたかったのだろうが、自分で喉に詰まらせていては説得力の欠片もない。
 
 「乗り遅れちゃいましたね、アリシアさん」
 
 「まだまだあるから大丈夫よ」
 
 あまり積極的ではないのがARIAカンパニー勢。社長はいつも通りがつがつと豪快な食べっぷりを披露している。
 
 しばらくした頃、灯里と隣同士で立っていた俺の視界に、さらりと黒髪が流れて行く。
 目で追うまでもなく、藍華の髪だ。
 風が吹く度、風を切って歩く度に艶やかな黒髪が流れる。
 
 「あによっ」
 
 じっと見ていたからだろうか、主に灯里に向かっていつもの憎まれ口で突っかかってきた。
 
 「うん、藍華ちゃんの髪、今日も綺麗だなって」
 
 「ま――――ねっ」
 
 フフン、と誇らしげに笑い、その場でくるりと一回転。
 いつもと違う髪型だからだろうか、どことなく大人っぽい。あくまで雰囲気の話だが。
 
 「春の日差しで一段と輝く、私の黒髪って感じ?」
 
 自信満々にそう言うさまは、まだまだ子供らしい、と感じるものだった。
 と、
 
 「――――本当、春の女神のような真珠の黒髪ね」
 
 は、として振り返ると、アリシアがいつもの微笑みを湛えてそこに立っていた。
 途端に藍華の顔が真っ赤に染まっていき、ふにゃ、と口元が緩む。
 
 「ありがとうございますっ」
 
 「あらあら」
 
 なんだかんだ言いながらバーベキューに戻るアリシアなのだった。
 それを気になどせず、藍華はきゃいきゃいと騒いで、だらしないほどに笑顔になっている。
 本当にうれしそうだ。
 
 「よかったねー、藍華ちゃん」
 
 「んっ。この髪、願かけしてずっと伸ばしてきたから、アリシアさんに誉められるとホント嬉しいっ」
 
 「願かけ?」
 
 「そっ、願かけ」
 
 「なんだか本当にわくわくしてきちゃった。新しい自分を見つけられそう、みたいな?」
 
 やっぱり春っていいわねー、とこぼして藍華も景気良く肉をがっつく。
 新しい自分というか、素の自分がだだ漏れなのは構わないのだろうか。いや、いつも十分にだだ漏れではあるのだが。
 
 ……ふむ。
 新しい自分、ね。言ってしまえば、ここ、アクアに辿り着いてから、俺の中では毎日が自分探しの生活だった。
 俺の元いた世界で目指した『正義の味方』には、もうなることはできないと知り、苦悩し、それでも歩みを止めず、しかし、違う光明が俺を導いた……、と言えば脚色過多で文句を言われかねない。それだけは勘弁願いたい。
 
 実際、そんなに綺麗なものではなかった。
 誰かを傷つけそうにもなったし、むしろ、初めの頃なんて無意識に誰かを傷つけていたかもしれない。
 本当に、短かったな……。まぁ、その短い中で、ある程度の答えが見えて来るまで、どれほどの時間を食ったことか。
 
 『道を間違えた旅人は、求めていたものを二度と手に入れることはできない』
 
 そんな話をアリシアに聞かされたのが、ちょうど一年前の春。
 それを聞いて、涙を流し、それでいて気がついた。俺の選んだ道が正しいかどうかは、むしろ問題じゃない。もちろん、間違っていたとも思いはしない。俺が俺で進んできた道は、常に一つなのだから。
 選んだ道が正しいかどうかではなく、辿り着いたものが、自分にとってどういう存在になり得るか、なのだと思う。
 
 「……うん?」
 
 などと感傷に浸っていると、つん、と鼻に変な臭いが。
 くんくん、と鼻を利かせてみるとどうやら食材のこげる臭いではなさそうだ。
 はて? と首を傾げたときに目に入ったのは、とんでもない事態だった。
 藍華の髪が、燃えている。
 
 『藍華!』
 
 声が重なった。
 ちょうど晃も気がついたようだ。皿を投げ出して俺が布を引っ張りだし、距離的に近い晃に投げ渡し、それを晃が藍華に被せた。
 
 「じっとしてろ!」
 
 「にゃっ」
 
 バフバフと藍華をはたく。
 しばらく様子を見て、一同がごくりと息をのむ。
 晃が静かに布に手を伸ばしていく。つまみ、するすると布を取り去って行く。
 徐々に徐々に藍華の姿が露わに……あら、わに……あ、うわぁ…………。
 
 「…………」
 「…………」
 「…………」
 「…………」
 「…………」
 「…………」
 
 全員が絶句する。
 なんとフォローしていいのかがわからない、という以前にフォロー出来るという人を探したい。
 あれか「なんてファンキーな片アフロなんだ!」とか言うのか。人によっちゃトンデモナイ心の傷を残しちまうぞ。
 
 「…………」
 
 藍華が片手をあげて、アフロと化した自分の髪を持ち上げてみたりしている。
 
 「あはははは、やっちゃいましたね、こりゃ」
 
 笑う姿が実に痛々しい。
 だが、だからといってこちらが何を言えるわけでもなし。
 無言を貫くしか、こちらの出来る反応はない。
 
 「えっと、私帰りますね。このままじゃみっともないし。あっ、みなさんは続けてくださいね。どーぞどーぞ。おっ、そこお肉いい感じですよ?」
 
 と、矢継ぎ早に言うだけ言って
 
 「では!」
 
 と言って、街の中に帰って行く。
 何を考えるでもなく、すぐさま追ったのは灯里とアリスだった。「私たちもちょっと失礼します」の言葉だけを残して藍華を追っていった。
 アリシア、アテナと目を合わせ、頷き合う。
 俺たちも……――――
 
 「いたっ!?」
 
 尻に強烈な蹴りが入り、アリシアとアテナは制服の裾を引っ張られていた。
 晃が、俺たちを止めていた。
 
 「はいはーい。あんたらは、行かんでよろしっ」
 
 呆れたような、半眼の目をして凄むようにして言った。
 それでも、とアテナが一言言おうとした途端、すわっ、といつもの喝を入れ、言葉でなお止めた。
 
 「あいつの精一杯の厚意を、無駄にする気か」
 
 「……晃ちゃん」
 
 ――――厚意。
 藍華の髪が燃え、その衝撃に場が凍り付いたのは事実だ。
 このまま自分が居ては、と咄嗟の判断で藍華は去っていったのだろう。
 ……その通りだな。
 
 「それっ、人数減った今がチャンスだ。思う存分肉食え、肉っ」
 
 網の上でじゅうじゅうと音をたて、食欲をかき立てる香りを放つ肉をひとつ、またひとつと口の中へ放り込んでいく。
 それに続くように、アリシアとアテナも静かに、食事を進めた。
 しかし、それでも気になるのか、ふたりはチラチラと街の方を終始気にしていた。
 晃は、と言うと、食べるペースが気持ち早くなっていた気がする。まるで、自分をここに押し留めるように。
 
 しばらく、というほどの時間でもなかった。
 それから晃は白けたように
 
 「やめだ、やめ。んな不味そうに食ってたら肉に失礼だろ、お前ら」
 
 と、フォークをアリシアとアテナ、俺に向けながら言い放った。
 網の上にある分を晃ひとりで平らげてから、全員で片付けを始めた。
 いつも以上にぶすっとしている晃が、どうも、素直じゃないってところを再確認させた。
 アリシアとアテナに残った食材の運びだしを頼んで、食器とドラム缶を洗うのを俺と晃で分担した。
 
 「…………」
 
 「なぁ、晃」
 
 「なんだ」
 
 「願かけって言ってたな」
 
 「ああ。それがどうしたんだよ」
 
 「どんな願かけか、聞いたことあるか?」
 
 「知らん。聞いても答えてくりゃしなかった」
 
 「そうか」
 
 「…………アリシアみたいになりたいんだとさ」
 
 「……そうか」
 
 「…………こんな美人で優しくて、気前のいい先輩の前で堂々と言ってのけやがって、顔も真っ赤にして、本当にうれしそうに、言いやがったんだよ」
 
 「……言うだろうな、藍華なら」
 
 「悔しいんだよ、ちくしょう」
 
 最後の最後、晃の本音がもれ出した。
 顔を真っ赤にしながら、唇を噛み、目には涙が溜まっていた。
 
 「似た者同士だからだろ」
 
 「ああ?」
 
 震える声で、しかし力強いままの声で晃は俺に聞き返した。
 
 「お前と、藍華が。どっちも全っ然素直じゃないからな」
 
 「……」
 
 「行ってこい。お前が一番、藍華のそばにいてやりたいんだろ」
 
 「……借りだなんて思うなよ」
 
 「そんなために言ってるんじゃない。本当に素直じゃないな、お前は」
 
 洗っていた皿だけは洗い終わらせ、後は頼んだ、と呟くだけ呟き、すれ違いざまにどす、と肘を横腹に当てられた。
 
 「ぐ」
 
 「……サンキューな」
 
 横腹を抱えて悶絶しながら、その言葉を聞いた。
 
 俺は、到底藍華を納得させられるような言葉を持っていない。
 ただ、気にするな、としか言えない。髪なんだから、待てばまた伸びる、程度のことしか言ってやれない。
 だがそれを、藍華には言えない。言っちゃいけない。
 願かけがどれほど彼女の中で大事だったのか、それは俺にはまったく分からない。
 だが、本当に聞いてほしい人の前で、笑って話せるほど、その想いは強いものだったのだろう。
 
 「本当に、素直じゃないよな、晃も藍華も」
 
 その素直じゃないところに、どれほどの気持を、想いを込めて生きているのだろう。
 
 「負けるな、藍華」
 
 素直になりたい時になる、というのは、思っている以上に難しく、辛いことだと思う。
 それが出来る藍華は、きっと強い。
 
 「晃が思ってる以上に、藍華は強いとも」
 
 素直ではないということを、強さと取るか、弱さと取るか。
 誰もいない場所に、俺の言葉だけがこだましていた。
 
 
 翌日。俺は階段の途中で座って待っている途中だ。
 俺たちは改めて昨日の場所に、と晃に呼び出しを受けていた。
 昨日片付けたはずのバーベキューセットが、そこにはあった。
 
 そう言えば、藍華はあの後灯里達に髪を切り揃えてもらったそうだ。
 やっぱりというか、仕方がないというか。
 
 晃がどういうことを言ったのかも灯里から聞いた。
 「藍華は藍華に、アリシアはアリシアにしかなれない」のだそうだ。
 その言葉は、真実だ。誰かのようになりたいと願えど、誰かになりたいとは願わないのと同じだ。
 俺を助けてくれた切嗣のようになりたいと願い、アイツのようにはならないと誓った。
 模倣は出来ても、本物にはなり得ない。
 
 届きえない。
 
 「あ、衛宮さん」
 
 階段の途中で座っていたのだ、もちろん、誰でもしゃべりかける。
 首だけを振り向かせて、声の主を見た。
 
 「おう、藍華。……ずいぶんすっきりしちゃったな」
 
 「……ですね」
 
 少しはかなげに笑う藍華は、それでも昨日より痛々しくはなかった。
 腰辺りまであった髪はバッサリとなくなり、見事なショートヘアに変貌していた。
 内心、まだ整理はついていなさそうだ。
 
 「でも、よかった」
 
 「……どうして?」
 
 「新しい、ううん、本当の私に気がつけたから、なんて。えへへ」
 
 偉そうですよね、なんて言う。
 本当の、か。
 
 「ならよかった。肉、痛む前に食っちまわないとな」
 
 「そうですね」
 
 立ち上がり、藍華の前をゆっくりと降りて行く。
 
 ――晃。
 お前は悔しいって言ったよな。
 ところが、全然そんなことはない。むしろ、藍華のことを誇ったって間違いじゃないと思うぞ。
 藍華がお前のようになりたいと言わなかった理由は、正直よくわからない。けれど、もしかして、とも思う。
 藍華は、お前と並びたかったからお前になりたいとは言わなかったんじゃないのか? そんな風に考えられないものか。
 
 「なんですか、衛宮さん。ニヤニヤして」
 
 「そんな顔してたか?」
 
 「後ろからでも分かるくらいに」
 
 「なら、きっと藍華の変化が嬉しいんだ」
 
 「なんですか、それ。変なの」
 
 顔を赤くして、藍華はぶすっと頬を膨らませた。
 しかし、それもすぐに収まり、恥ずかしそうな笑みに変わった。
 
 「ありがとうございます」
 
 「俺はなんにもしてないぞ。本当にその言葉を贈るべき人は、むこうにいっぱいいるじゃないか」
 
 「でも、衛宮さんにも」
 
 「そうか。なら、遠慮なくいただいておこう。どういたしまして」
 
 それとは別に、なんとなしに頭を撫でてやった。
 驚いた風に肩をすくめ、それから、また笑った。
 
 「それじゃ、行ってきます」
 
 「おう、行ってこい」
 
 藍華の後ろ姿を見送る。
 見送ると言っても、目的地は目の前であり、藍華は難なくその場所に立った。
 灯里とアリスにやいやいと騒がれながら、いつもの調子を、ぎこちなく取り戻していく。
 
 「さて、肉食うかな」
 
 誰にも聞こえず、誰も聞かない。
 小さな声でそう呟いた。
 
 問題なく、昨日のノリでバーベキューが進行していく。
 誰かの髪が焼けたり、制服が燃えたりなんて事件はもう起こらない。
 だが、ただひとつ。いつになっても潰えることのないだろう争いが起こる。
 げに恐ろしきは、肉の魔力よ。
 
 「おい、衛宮なんのつもりだ、お前」
 
 「馬鹿言うな。それは俺が育てた肉だぞ」
 
 「育てたもクソもあるか。焼けた肉が目の前にある、それをどうしてオアズケできよう」
 
 「ふたりとも、ケンカしてないでお肉食べないと、あむ、なくなっひゃいますよ?」
 
 『あ――――ッ!?』
 
 言い争いをしているうちに、藍華に俺が丹精込めて育ててきた肉を横取りされた。
 おいしそうにほうばりやがって……。さぞ旨いだろうな、ちくしょう。
 
 「ほらほら、晃さん。お野菜も取らないと、お肌がこってりてかてかになっちゃいますよ?」
 
 「すわっ! そこまで老化してなーいっ、いいから野菜ばっかりのせるな、馬鹿、ちょっ、お前……すわ――――っ!!」
 
 「う、わっ、ちょ、タレが……っ、タレがとんで、制服シミがっ」
 
 「お前、今度は丸坊主にしてやろうかっ」
 
 「ご、ご勘弁を~っ」
 
 まったく、仲のいいことである。
 ぎゃあぎゃあと騒げるウチが花だ。俺はもう、第一線から身を引いて、この隙に肉を頂くとしよう。
 うむ――――実に旨い。
 
 「衛宮ぁっ」
 「衛宮さんっ」
 
 まずいな。いや、肉は美味しいけど。
 
 「おい、待てっ、それ最後のロース肉じゃないのか、おい衛宮ァっ!」
 
 「ああっ、骨付きカルビもなくなってる……っ」
 
 実に旨い。状況は実にまずいが。
 最後の一枚というのが実にいい調味料となっている。
 
 「ごちそうさまでした」
 
 『あああああ……――――』
 
 ふたりが並んでがくりと項垂れている。
 本当に似た者同士だ。ゆっくりとふたり並んで立ち上がり、手にするフォークを掲げ、俺にむかって……って、オイ!
 
 「っぶね、洒落になってないぞ、お前ら!」
 
 「肉の恨みは……!!」
 
 「海より深い……!!」
 
 とまぁ。
 わかっていたことだが、案の定俺もぎゃあぎゃあのウチに巻き込まれてしまう。
 そして例の如く、俺たちが暴れている間にもアリシア、アテナ、灯里にアリスはおいしくお肉をお食べになられましたとさ。
 
 「ふ、不幸だ……」
 
 「私、全然お肉食べてない」
 
 「衛ェ宮ァっ!」
 
 結局俺のせいかよ!?
 いや、暴れてたのはお前らであって、俺は巻き込まれたにすぎないので、結局悪いのはお前らというか。
 堂々巡りだな。
 
 「だから、フォークを振り回すな!」
 
 「問答無用っ」
 
 ちなみに、こんなときに何だが、俺は割りばしである。
 もうひとつ言っておくと、ちゃんとトングを使って肉を触っているので問題はないのである。
 だから、出来ればこういうことはしたくなった。
 
 「なん……だと……!?」
 
 「ふ、ふふふ。甘いな、晃……」
 
 割りばしで、振り下ろされたフォークを掴みとる。
 割りばしがギシギシと唸りを上げているが、気にしない。
 
 「くっ、この晃様のフォークを……」
 
 「あー……晃さん。それって間接キスですよねー」
 
 「えっ? あっ、おい衛宮、なんてことしやがるっ!」
 
 「お前だろうが、フォーク振り回してたのは」
 
 「アリシアっ、フォーク、フォーク交換しよう!」
 
 「ええっ!?」
 
 いきなり話を振られたアリシアが困惑する。
 晃め、こいつ狙ってアリシアのこと呼びやがったな。
 アリシアはおずおずと近付いてきて、どうぞ、となぜか丁寧語で晃のフォークと自分のフォークを取り換えた。
 いやいやいや、流されるなアリシア。いや、もしかしてわざと?
 
 「ふふふ、衛宮。これでお前もそう易々とこのフォークをつまめまい!」
 
 「どういう理屈だ、それ。ていうか、もう止めろバカ」
 
 「なら、どうにかして肉の恨みを晴らさせろ!」
 
 「無茶苦茶だな、ちくしょう! わかった、今度焼肉つれってってやる!」
 
 「食べ放題なんだろうなぁ!」
 
 「ああ、腹一杯喰って腹壊しやがれ!」
 
 「衛宮さん、それ私も行っていいんですよねぇ?」
 
 「ひとりもふたりも同じだ、藍華も連れってってやる!」
 
 「えーっ、藍華ちゃんたちだけずるいですよー」
 
 「でっかいえこひいきです」
 
 「ちょっ、なんでそうなる!?」
 
 「あらあら、これはみんなで行くってことでいいのかしらね」
 
 「ごちそうさまです」
 
 アリシア、アテナもこれに便乗する。トントン拍子に話が進んでいく。
 ……えっと、これもしかして全員連れて行かなきゃならないのか?
 
 「なら許してやろう」
 
 晃もそれで納得したようだが、これでいいのか。
 年頃の女の子が「焼肉」で手を打っていいのか。
 そこのところは一体どういう思考回路なんだ。
 
 「はぁ。わかった、わかったよ」
 
 後日、約束通りみんなで焼肉を食べに行ったのだが、また同じようなことになるということを、このときの俺は分かっていても忘れたいという愚考をしていたがために、酷いことになってしまったのは、言うまでもないだろう。
 具体的には、晃がへべれけになって余計に性質が悪くなったとか、そんなところだ。
 
 のちの俺が、今の俺に言う事があるとすれば、一言だけ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 『お前も早く、自分の目で確かめてみろ』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:31   end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

いつの間にか30万ヒット。そうして今日も拍手レス。

ども、草之です。
 
「え、もう30万ですか!?」
 
という感じです。
ということで、次の目標は50万ということでひとつ。
んー、まだまだ人気SS作家さんの仲間入り、というには早い気がします。
 
今から『B.A.C.K』更新までリクエスト受け付けたいと思います。
『B.A.C.K』更新後に『俺ネコ』を更新予定。
 
特に言うこともないって言ったらあれですけど、
これからも、よろしくお願いします。
ありがとうございましたっ!!
 
ということで以下拍手レスです。
 
草之でした。
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:5-5

 
 クーが見せてくれたあの映像が未だに頭から離れないでいる。
 私が、あれに勝てる可能性を持っているなどと、本気であいつは思っているのか。
 
 「やぁっ!」
 
 「っく」
 
 目の前の組み手に集中できない。
 高速で迫る切っ先を撫でるようにいなし、ストラーダを弾き飛ばす。
 
 「あ」
 
 「すまんな、エリオ。どうも集中できん。出動前の最後の組み手だったというのに」
 
 「いえ」
 
 今回、私は遊撃として戦場に出ることになっている。
 臨機応変に、防衛として、また突撃として。
 エリオが部屋を出て行く。
 
 私だけだ。
 なのはのあの言葉を聞いてなお、クーのあの言葉を聞いてなお、私は不安に駆られる。
 
 「魔人、か」
 
 人ではない。
 竜ではない。
 竜の力を孕む、人ならざる人。
 魔人、ミルヒアイス。
 
 
 * ~ * ~ * ~ *
 
 
 モニターが展開する。
 そこに映るのは、私と瓜二つの姿を持った女性。
 ミルヒアイス、その人。
 
 さらにその奥。
 ミルヒアイスに対峙するのは巨大な魔法生物。蠍のような、硬質の甲殻を持つ生物。牙のような鋏に、尾の先についた剣のような棘。
 画面越しでも分かる、威圧感。おそらく、高次存在の魔法生物なのだろうことが容易に想像できた。
 
 『見ておきなさい、アンネローゼ。あなたが護ろうとしている存在の強さを』
 
 こちらに顔は向けぬまま、ミルヒアイスが呟いた。
 アンネローゼ? 誰のことだ?
 
 「アンネローゼというのは、ワタクシの仕えたラインハルト家26代前の当主ですわ。残念ながら、これしか映像が残っておらず、口頭で説明できることも限られておりますもので」
 
 26代前。ざっと700年ほど前の映像か。
 
 『紫電一閃の名は、その剣閃を表したもの。闇を斬り、照らす剣閃。技と呼ぶには――……相応しくないもの』
 
 ギクリとした。
 これが劣化だというのならば、そうなのだろう。
 私は、『紫電一閃』をそれという技と捉え剣を振るっていたのだから。
 否定はしない。しかし、私はその剣閃に誇りを持っている。それでいい。
 
 『漆刀、その視界を刃で染めるもの。それがあなたの剣閃』
 
 蠍が動く。
 その巨体からは考えられない素早さで地面を這った。
 
 『しかし、その閃きも突き詰めれば奥義の一。見えぬ閃きは、誰にも止められはしないのですから』
 
 振り向き、微笑んだ。
 次の瞬間、剣を振るなどとは考えられないほど穏やかな笑顔だった。
 可憐だった。
 
 『それこそが剣撃。万物一掃する、煌めき』
 
 さらに振り返る。
 一瞬、閃光。風、光、熱が画面の向こうで渦巻き暴れ狂っている。
 たったの一振り。音を超える切っ先が空を切り裂き、真空の刃を幾重にも生む。
 嵐となって殺到する空気の刃は、容易く甲殻を抉っていく。
 
 キュン、と糸を絞ったような音が響いた。
 斬り返したのだ、と理解したのは、ことが全て終わった後。剣の構え方でなんとか、という程度。
 
 あっけない。
 そう、あっけないのだ。
 
 「……なんだ、これ」
 
 呟いた声は、ヴィータだった。
 
 「私、これと戦って今、ここにいんのか……?」
 
 自分自身の存在を否定したくてたまらない、という想いが伝わってくるようだった。
 そうだった。今この場にいる中で、実際にミルヒアイスと対峙したのはヴィータだけ。
 この場で、クーを除いてミルヒアイスの力を本当に理解できているのは、ヴィータだけなのだから。
 
 「冗談きついぜ。リィンが起きたらなんでも言うことひとつ聞いてやんなきゃな……」
 
 ひとつだけ、というところにヴィータらしさが見え隠れするが、今はそんなことを言ってる場合ではない。
 
 「今のモノを見て、なにか決定的なものに気付きまして?」
 
 「魔法を使ってなかった。本当に、剣だけで……倒した」
 
 今度の質問に答えたのはなのはだった。
 魔力光らしきものも見えず、カートリッジをロードしてもいなかった。
 ただ純粋な剣技のみ。その腕一つで切っ先が音速を超え、甲殻さえも抉り取った。
 
 絶句した。
 この映像を見た者は、誰彼かまわず、言葉を無くしていた。
 
 「……さて。彼女の強さをご理解いただけましたか? と、言ってもワタクシも彼女の技の全てを知っているわけではありませんの。なんせ見せてはくれませんでしたからね。戦時中も、おそらく使ったのは聖王との居合いの時だけでしょうし」
 
 「……まったく、こんなのが敵さんの中にいるってのか?」
 
 「マン・ナカジマ。敵かどうかは、正直まだわかりませんわ。紅のの報告を聞く限り、どうも精神操作の類を受けていたようですけど、あのミルヒアイスが易々と従ったままだとは思えません。ディスペルか、薬等での弛緩ならそろそろ中和し終えるはずですわ。……どれだけ早く彼女を見つけられるかが来たる戦いの鍵となるでしょう」
 
 「どういうことだ、そりゃあ?」
 
 「言葉のままですわ。もし、彼女がスカリエッティの操作下から逃れられているのなら、必ずワタクシたちの力になってくれるはずですわ」
 
 「そうじゃなかったら?」
 
 「彼女の中の“ヴィルヘルム”が目覚めてしまえば、もうどうしようもありません。では、こちらの説明も始めましょうか」
 
 クリームヒルトが空中で足を組みかえる。
 体質、とやらの説明に入るのだろう。
 
 「彼女は身体のうちに“ヴィルヘルム”を融合させられ、半永久的な命と、絶大な魔力量、人智を超えた力を手にしました。それこそが文献にもあった“進化”です。ここまでは言わずとも予想はついていたでしょう?」
 
 クーの言葉に全員が頷く。
 そうでなければ身体をひとつに、などという言葉も出てはこないだろう。
 
 「その代償が生理現象の消失と、強大な“ヴィルヘルム”の意思ですわ」
 
 「生理現象の消失ってぇと……それは、つまり……」
 
 ナカジマ三佐が言いあぐねる。
 確かに言いづらくはあるだろうが……。
 
 「子孫を残せない。彼女は卵子を排出することが出来ないのです。いえ、そもそも卵子を作れない身体になってしまった、というべきでしょうね。まぁ、性行為は出来たようですが」
 
 クーは臆面もなく言い放つ。
 それに少々気後れしつつ、私自身が切り出す。
 
 「……ブリュンヒルドが子供のような性格なのは、ミルヒアイス自身に子供が出来なかったから、なのだな」
 
 この場にいる全員が頭の上に「?」が浮かぶ。
 その中でクーだけが頷く。
 
 「ブリュンヒルドというのは、ミルヒアイスが造ったらしい融合騎の銘だ。現在は行方不明で、魔力光は紅……、でよかったな?」
 
 私が覚えていることを言うと、クーはそれでいい、と頷いた。
 周りはなるほど、と頷いているなかで、ヴィータがさらに首を傾げた。
 ちら、とこちらを向き、決意したように頷く。
 
 「ソイツに心当たりがある」
 
 「なっ!?」
 
 驚いた声を上げたのはクーだった。
 次の瞬間ぐいぐいとヴィータに詰め寄っていく。
 
 「それはどこで、いつ!?」
 
 「初めて見たのは、たぶん、ヴィヴィオを助けた作戦……ユークリッドが盛大に撃墜された時のヤツだ。召喚師一味の中に融合騎が一騎いたんだ。次は、地上本部襲撃のときだ。私が実際にミルヒアイスと戦ったとき……逃がした……つまり、シグナム、お前と戦った騎士がいただろ、あいつの横にいた融合騎、たぶんあれがそうだ」
 
 カチリ、とピースがハマった音が聞こえた。
 
 『お前は、お前にはロードが、立派なロードがいると言うのに……俺如きがそう易々とユニゾンしていいものではない!!』
 『馬鹿野郎ッ! それじゃあ、それじゃアタシが旦那を守れねえじゃんかよォッ!!』
 
 あのときの言葉が鮮明に蘇る。
 そうだ、あのときの融合騎が……私を見て何と言ったか。
 
 『み、ミーア!?』
 
 どうして今まで気がつかなかった?
 鮮明に示される記憶に、混乱を覚える。整っているはずの記憶なのに、ぐるぐるとピントが合わない。
 
 「思い出した。あの融合騎か……」
 
 「なんてこと……。まさか敵側に彼女がいるなんて……」
 
 がくり、と項垂れる。
 前髪に隠れる瞳が、鈍く光っている。
 
 「保険にはもう期待できませんのね…………シグナム。もしもの場合、ミルヒアイスにあなたが勝つために必要な要素というのは、処理能力。ドラッヘンズィンによる周辺情報を受け止めるだけの処理能力が必要だったのですわ。それを、出来ることならブリュンヒルドに任せようという算段でしたが……それがダメなら、一瞬の斬り合いに賭けるしかありません」
 
 しかし、とクーは続ける。
 
 「『母なる竜の揺り籠』は、レアスキルであると同時に、“ヴィルヘルム”自身のことも指しているのです。……いえ、こう考えてもらった方が理解しやすいでしょう」
 
 そう言って、一拍の間をおく。
 ここにいる全員が聞く態勢に入っていることを確認してから、諦めたように彼女は言った。
 
 「“ヴィルヘルム”が、ミルヒアイスという人間の皮を被っている、と」
 
 知る覚悟はしていた。
 そう言われることに対して、出来るだけ驚かず、体が畏縮しないように。
 だというのに、いざ断言されるとこうも意味が重なり、ずしりと体にのしかかってくる。
 「無力な剣と剛力の剣が正面から討ち合えばどちらが勝る?」そんな単純な問いには、単純な解しか存在しない。
 無力が討ち負ける。
 
 そして、『“ヴィルヘルム”という力を持つ』ことと、
 『“ヴィルヘルム”が体内に存在する』ことは同義ではない。
 
 それが、クーの言ったもう一つのバッドステイタス。
 そして、予想が外れていなければ、これがミルヒアイスの最大の欠点であり、同時に――――
 
 「しかし、それがミルヒアイスの最後の切り札。“リッター・フォン・ネアデシュ”……守護真竜“ヴィルヘルム”の受肉再臨」
 
 “瀕死の救世主”とは、また皮肉な名がつけられたものだ。
 ……いや、待て。
 
 「ミルヒアイスの中には、“ヴィルヘルム”という意思が存在するという解釈でいいのだな?」
 
 念のため、クーに確認をとる。無言で頷いた。
 私のその質問の意を読み取ったのは、クロノだった。
 
 『……クリームヒルト。それは、ミルヒアイスが瀕死……つまり“ヴィルヘルム”への抵抗が弱くなったときに、身体を乗っ取られると考えればいいのか?』
 
 「……あながち間違いではありません。正確には、“ヴィルヘルム”がミルヒアイスの身体から抜け出し、受肉し、“ヴィルヘルム”として存在を世界に穿ち、世界を焼き尽くす」
 
 『待て。それは、なにか。ただでさえ強者として君臨するミルヒアイスを斃したと思った瞬間に……』
 
 「めでたくラスボス登場、といったところでしょうか」
 
 軽く、本当に軽く言い放つ。
 しかし、だからこそ……、と鈍く光っていた瞳に再びきららかな光が宿った。
 
 「彼女を一刻も早く見つけ出し、保護することが必要なのです」
 
 『ディスペル、精神操作からの解放……。彼女は、元よりこちら側の人間、と考えてもいいのですね?』
 
 「ヤ。フラウ・グラシア。おそらく……閉じ込められているか、逃げだしたか。逃げだしたのならまだいいのですが……閉じ込められているとすれば、最悪ですわ。そこに大威力の爆弾でも置いておかれれば……」
 
 「兵器の発動が、そのまま“ヴィルヘルム”を呼びだすトリガーになる……」
 
 「ええ、そうですわ。しかも、彼女はその体質から傷の癒える速度が異常ですの。ですから……中途半端な威力の爆弾ではないでしょうね、あるとすれば」
 
 それは、暗に「助けても近くで爆発されたらひとたまりもない」ということだろう。
 
 思っているほど、これは“小さな”問題ではなかった。
 下手をすれば次元世界を巻き込むほどの、大戦。
 
 どうにかして“ヴィルヘルム”の顕現を避け、それを念頭においたうえでミルヒアイスを保護。
 まるで、時限式の宝探しだ。
 見つけることが出来れば、それは宝として私たちの手に収まる。
 しかし、見つけることが出来なければ……それは災厄と化して私たちに牙をむく。
 
 皆が沈んだ空気を出し始めた時、この場に似合わない、希望に満ちた声が響いた。
 
 「大丈夫だよ」
 
 「なのは……?」
 
 「諦めなければ、きっとなにかが見えてくるよ。もうダメだって、俯いてちゃ、見えるものもみえなくなっちゃうよ」
 
 「……この状況でそれだけものが言えるようでしたら、ま、問題ありませんわね」
 
 やはり軽く。
 クーは他人事のように言った。
 そのあと、意地わるく二ヤリ、とも笑う。
 
 「フラウ・タカマチの言う通りですわ。それに、もうお忘れなのかしら?」
 
 ふふん、と彼女が胸を張る。
 実は、今までの悲観的な話はここに持って来るまでの前振りでした、とでも言いだしそうな自信満面の顔で笑う。
 不敵な表情を浮かべながら、クーは言ってのけた。
 
 「ワタクシは、“そのため”に造られたのですから!」
 
 クーは叫んだ。
 
 「『魔力変換資質“滅竜”』。……もしそれに業があるのなら、それは全てワタクシが背負いましょう」
 
 最後の言葉は、誰に言ったものだったのか。
 いや、はたして。
 ……あの性格に誤魔化されそうになるが、考えても見ろ。
 
 『魔力変換資質“滅竜”』なんて、“危険”な能力が、安定している筈がない。
 それで、一体何人の当主を、彼女が殺してきたのか。たった数秒の使用でさえ、ユーリのざまだ。
 それが大戦となれば、一体何時間の行使となるか。
 どれほどの命を救う事が出来ても、クーには、彼女には一番救いたいはずの人が、決して救えない。
 それどころか、その手で殺してしまいかねない。
 
 それはどれほどの劇痛なのか。
 どれほど彼女は自分を自分で壊したいと願っただろうか。
 それでも彼女がああして起動していられる理由は一体なんなのか。
 
 ――シグナム。ありがとうございます。
 
 突然、頭の中に声が響いた。クーからの念話だった。
 
 ――なぜ礼をいう?
 
 ――ワタクシがこうしていられる理由、それはあなたのその感情それそのものが答えなのですわ。
 
 にこ、と。
 あなたの考えは顔に出ていますわよ、と。
 呆れたような笑顔だった。
 
 
 * ~ * ~ * ~ *
 
 
 もう一度剣を振る。
 切っ先は簡単に空気を斬り裂いた。しかし、あの映像のような剣閃は繰り出すことが出来ずにいる。
 一体、どれだけ剣を振り、どれだけの時間を費やした剣閃なのか。
 
 ふと、窓の外を見る。
 雲が真横に流れていくのが見える。
 
 アースラ。
 
 今乗っているこの艦は、主はやてが無理をいって手に入れたものらしい。
 ユーリが退院し、アインヘリアルの防衛任務で出張るのとほとんど変わらないタイミングで六課の本部はこのアースラへ移った。
 あとは、主はやての命があれば動くだけ。
 
 「……悪いな、テスタロッサ。気を使わせた」
 
 「いえ。なんだか集中してたみたいなんで」
 
 いつの間にか、というよりもテスタロッサは出来るだけ気配を消してこの修練場に入ってくれていた。
 それでも気配が分かる辺り、集中は出来ていたのだろう。
 
 「いや、これがな。エリオにも悪い事をした」
 
 「いえ。ウチの子がお世話になってます」
 
 「……エリオは強い。あの吸収力と応用力は天賦の才だ。道を違えることがなければ、私も、お前すらを超す騎士になるだろう。ああいうのは、見ていて楽しい」
 
 「そうですか。シグナムが言うのなら、間違いなさそうですね」
 
 それだけを言うと、す、と仕事の顔つきになった。
 おそらく、主はやてが言っていたミーティングを伝えに来たのだろう。
 
 「地上本部は相変わらず、って言えば伝わるかな。本局の協力は受けないの一点張りで、本局も動ける状態じゃない。だから、本局所属の私たちにも、捜査情報は公開されないんだそうですよ」
 
 「だが、正直なところを言えば、クーがいる時点でこちらの方が地上本部よりも断然情報の正確さは上だろう」
 
 「そうですね。クリームヒルトはユークリッドと一緒にアインヘリアルには行きませんでしたから、臨機応変に対応できることは、私たちのほうが多いだろう、とはやても」
 
 不思議には思った。
 あのユーリが仇打ちなんていうものだから、てっきりクーの方もついていくと思えば、その実、彼女はこの艦に乗っている。
 今頃ふよふよとこの艦の中を漂うように散歩しているのだろうことが、容易に想像できる。
 
 「方針としては、テロの主犯格としてのジェイル・スカリエッティの逮捕ではなく、あくまでロストロギア『レリック』を回収する方向で、その捜査線上にスカリエッティ一味がいるだけ、だそうです」
 
 「具体的にはどういう動きをすると言っていたのだ」
 
 「はい。その過程において誘拐されたギンガと、ヴィヴィオ。このふたりの捜索と救出。これと同時に、ミルヒアイスの捜索保護も、出来る限り前者と同等の優先順位で並行。だそうです」
 
 「了解した。すまなかったな、わざわざ」
 
 「……シグナム。なんだか背負い過ぎてはいませんか? あなただけの問題じゃないのに……」
 
 「なに。ユーリのことで頭が痛いだけだ。殴り損ねたしな」
 
 殴っていればスッキリした、というものでもないだろうが。
 殴る理由はもうひとつ増えたのだがな……。
 ひとつは主を裏切ったこと。増えたもうひとつは、主の心に踏み入ったこと。
 
 「出動の命が下るまでは待機。いつでも出れるようにしておいてくれ、と」
 
 「……ああ」
 
 あとは、覚悟を整えるだけ。
 
 「じゃじゃーんっ、リィンちゃん復活ですぅ!」
 
 ぷしゅ、とドアがスライドして、リィンが飛び込んできた。
 目を丸くして固まっていると、ぷくっと頬を膨らませて詰め寄ってきた。
 
 「もう、私が復活したのに嬉しくないんですー!?」
 
 「いや、そうじゃないんだ。悪いな。ありがとう、リィン」
 
 「なんでお礼です?」
 
 「なんとなくだ。生きていてくれて、という意味でもいい」
 
 「ですです。ピンピンしてますよぅ!」
 
 そうだ。
 生きなくてはならない。
 たかがプログラムが生きるとなんて滑稽でしかないが、それでも生きる。
 人でない我が身で言うのもなんだが、生とは滑稽で然るべきなのかもしれない。
 なんだかんだ、あれやこれやと悩んでいても、済んでしまえば、ああなんだ、この程度だったのかと思える。
 空回りの道化師。それが人であるということ。
 
 ならば、喜んで道化よう。
 
 それがシグナムという“プログラム”の生であり、私という“人”の道。
 貫いて見せるさ。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「今日付けでここ、アインヘリアル第2番機の防衛任務における統括指揮を任されたユークリッド・ラインハルトだ。よろしく頼む」
 
 ざわ、とにわかに周囲がざわめいた。
 オレの顔を知っている者、オレの名を知っている者。
 それは多いのだろう。それまでは知らなかったと言われたとしても、あの指名手配でとにかく有名になってしまった。
 ざわつきだけが大きくなっていく。
 
 その中で、かつん、と一歩を踏み出す音が聞こえ、ざわつきが消えた。
 
 「ユークリッド・ラインハルト。歓迎しよう、私はここの統括指揮を“するべき”者、フォルクス・W・ヴァッサーだ」
 
 「よろしく」
 
 がっしりと握手を交わす。
 なかなかに頑固な頭をお持ちのようだ。と、いうよりも、そもそもオレが管理局の局員ならばまだ妥協はしていたのだろう。
 犯罪者のうえに、扱いが嘱託。そのうえ、部隊指揮などではなく統括指揮を任された若造。それだけのものがあれば、目の前のフォルクスの立場としてオレがいたら、オレだって煩わしい。
 
 ……そして、何を狙ってのことなのか。
 事前に配られた部隊表に目を通せば、誰だって頭を抱えたくなる人選だった。
 士官学校あがり、もしくは実戦経験の乏しい新人部隊。そして、頭の固そうなベルカ式の武人の数々。
 これだけ言えば分かるだろう。遠回しでも何でもなく、直接的に「お前はここで全てを失え」と言っているようなものだった。この作戦を成功させるためのメリットは、なにも管理局復帰だとか、指名手配取り下げだとかではない。
 オレが、管理局側の人間であることを示せるのだ。まぁ、『敵と繋がったうえでの八百長』なんてこじつけられたらもう、ハラオウン女史にでも頼んで弁護してもらうしかない。
 
 逆に。
 その作戦を失敗させれば、それだけで『敵と繋がり作戦を失敗に追いやった』などともこじつけられる。
 まったく、こんな状況になってまでどうしようという。
 だが、これを逆に利用できる戦略もある。少し考えればわかることだ。
 
 「それで統括指揮官どの、どういう作戦で動くというのです?」
 
 「まぁ、待てよ」
 
 こちらは嘱託だ。いちいち上にヘコヘコ頭を下げる必要もない。
 アインヘリアルの砲身の下に位置する開けた場所に集まった隊員たちを見回す。
 皆一様に不安げな表情を浮かべながら、オレとフォルクスのやりとりを眺めている。
 
 「……総勢、約500。新人局員の割合は約7割弱。中隊副隊長格が2割強。部隊指揮者がフォルクス。アインヘリアルを直接防衛に大隊を、哨戒部隊として中隊を左右翼に一隊づつ配置。残りを10の小隊に分け、中隊を囲むように配置。――――が、地上物を防衛する場合のセオリー。フォルクス、お前ならこのセオリーに沿って配置するか?」
 
 「もちろんだ。軍略を知らぬ者ほど、正攻法をバカにする。時に臨機応変に行動することも大事なのだろう。だが、特異な戦略ほど臨機応変な対応というのは難しいものだ。正攻法こそが最高の攻勢編隊であり、最高の防性編隊だ」
 
 どうやら、それがフォルクスの戦略持論らしい。
 まったくもってその通り。正攻法ほど攻防のバランスのとれた編隊はない。それゆえの正攻法。
 しかしそれゆえに弱点が知れ渡っており、そこを突かれることがあれば、負けはほぼ確定。立ち直す時間もなく部隊は総崩れ。
 まぁ、そこをどうフォローするかが総指揮官の手腕の問われるところなのだが。
 
 だからこそ、そこに罠をしかける甲斐がある、というものだ。
 正攻法こそが最高の攻勢編隊であり、最高の防性編隊であり、そして、最高に弄り甲斐のある編隊なのだ。
 
 「アインヘリアル防衛編隊を発表する。迷うな。我が剣の震えに共鳴し、共に奏でよ! 勝利の旋律!!」
 
 さぁ、決着をつけようじゃないか、戦闘機人……!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:5-5  end
 
 
 

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……ふふっ。

ども、草之です……。
 
ふ、ふふふふふっ。
自分の名前なんて正直どうでもいい。
どうでもいいほどのことが起きてしまったなバーニー!!ひゃっはぁっ!!
 
 
『アルトネリコ3 世界終焉の引鉄は少女の詩が弾く』 
 
 
待っていたのだよ、このときをっ!!
プラットフォームがPS3? はっ、持ってないですが、なにかっ!?
買えばいいんですよ、買えばねぇえ!!!
それで諦めるほど、草之は甘かァないんですよ。
 
まぁ? 出来れば、箱○でも発売してくれれば万々歳ですよ。
それこそバンプレストとガスト崇拝してもおかしくない勢いですよ。
 
もし一年後に移植とかされたらそりゃ、それも買いますよ?
だってアルトネリコだもん。
 
それにしても、今回の3はなにかとワクワクしますね。
 
おそらく、アルトネリコシリーズ最終章になるであろう今回。
もしかしたら今までのキャラが出てきてもおかしくもなんともない。
 
だって、草之の予想では今回の3、ストーリーは
『塔を救うのではなく、星を救う』ことになりそうだからです。
 
死の雲海と呼ばれる大地を覆う、有毒な雲。
それから逃れるために人々(レーヴァテイル)にアルトネリコ(塔)を創りあげさせ、そして、彼女らとの共存と繁栄を営む。
しかし、2にてジャクリ、こと世界最強のレーヴァテイルβ種、ミュールが
 
「死の雲海を、この星を救えるかもしれない」
 
と、言ったのだ。
もうおこれは3発売の複線でしかねーだろちくしょー、いつ出るんだいバンプレストとガストさん!! と興奮が続いたのもつい2年前。
いよいよ来たか。
 
このときを、どれほど心待ちにしていたことか。
そもそも、アルトネリコの世界設定ってありえないくらいに練られてるんですよ。
一ゲームのはずなのに、まるで歴史の教科書や資料集を見てる気分にでもなるほどの壮大な世界観。
精神世界という、人の汚い部分までストーリーに組み込むその勇気。
それを受け止め、絆が生まれ、そして、謳が紡がれる。
 
 
期待を胸に、興奮を魂に!!
 
心待ちにしてるぞ、アルトネリコ3ぃ――――――!!
 
 
 
 
追伸。
今回は時間がないので拍手レスはまた次回です。
 

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今私達の前には3択の選択肢がある。第4の選択として拍手レス。

ども、草之です。
 
アルトネリコシリーズといえば、謎の第3の謳姫がいるのが常。
一作目はシュレリア様。二作目はジャクリ。
 
さて、では今回は?
ということで、今考え得る選択肢は三つある。
 
1.第3塔の管理人。レーヴァテイルオリジン。
2.ハーヴェスターシャ。
3.ココナ。
 
さぁ、どれになるんだろうか。
個人的には、3の可能性は限りなく低い。なぜなら、ココナは後衛で謳っているよりも、前衛で戦った方が効率よく戦えるからだ。前衛で戦っている間にも、小さな詩魔法なら紡いで攻撃出来るほど。
そしてもうひとつの理由としては、パーティーキャラになるかどうか。物語上登場するだけのキャラクターか、最悪敵キャラとして登場しかねない。
 
次に可能性が高いのが、ハーヴェスターシャ。
ジャクリ=ミュールの知り合い、ということで、ココナを通して協力してくれるかもしれない。
しかし、アルトネリコ3の舞台設定上、どうなるかは疑わしい。
 
安定した可能性としては、レーヴァテイルオリジンの「ティリア」が最有力候補か。
だが、やはり舞台設定がどう絡んでくるか。そのままの設定でいけば、彼女は本当に神格化された、いわば現存する神として扱われているはずだからだ。
 
 
むむむ。
期待が膨らみますなー。
 
 
それはさておき。
実はアルトネリコの前に、買いたいゲームがもう一本。
ベヨ姉さんに会いたいです。なに、あのエロカッコカワイイ美人。
ああいうアクションはそんなにやったことないんだけど、それでも喉から手が出るほど買いたいです。
親父の前でプレイしてたら、親父が「おおっ(笑)」とか本当に言いだしそうで怖いです(笑)。50も半ばのおっさんがなにしてるんだ、と言いたくなります。以前もギルティの説明書をなぜか見ていて、「イノってええなぁ」とかほざきやがったぐらいですし(笑)。
 
ということで、以下拍手レスです。
草之でした。
 

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ちょっと外れた俺とネコ  『二章』

 
 とにかく、暑かい。
 夏休みに入ってから千尋はほぼ毎日のように、学校でもこんなに早くは起きないという時間に起床し、学校でもこんなに早くは家を出ないと言う時間に家を出ていた。そのことについて、彼は面倒だとは考えないようにしている。考えてしまえば最後、すぐにでもバイトの辞表を提出してしまうだろう。
「帰りは楽だけど……行きがキツイんだよなぁ」
 傍らを進む自転車には乗らず、千尋はそう呟く。なぜ自転車を持ち出しておいて乗ろうとはしないのか。それは、行き先が山の中腹近くの喫茶店だからである。彼の学校よりもまだ高い位置に、看板がなければ分からないほどの、大きさはそれなりなのに廃れた感じの喫茶店があるのだ。
 喫茶店の名前は『喫茶ひかり』。店長である女性、佐倉光緒の名前の一文字目をとっての命名だそうだ。
「……ふぁあ……ああく」
 大きな欠伸をひとつ。まだ重い瞼を擦りながら、千尋はその喫茶ひかりに向かう。今日はそこでバイトを始めて、4日目の朝だ。特に夏休みの予定がなかったからと言って、時給が時価のバイトなど受けなければよかったと、彼はこの4日で痛感していた。それでも受けてしまったものは仕方がなく、続けなければなるまい。彼はこれも社会勉強だ、と割り切ることにしている。
「……しっかし、あそこで社会勉強とか出来てんのか、俺」
 バイトを始めて4日。まったくと言ってイイほど、店には客が来ていない。一日で20人も来ればいいところだ。それでよくバイトを雇おうなどと思ったもんだ、とバイトの相方ネコと千尋はいつも店内で堂々と話している。その度に光緒に睨まれているものの、光緒自身、それを怒ろうとはしない。図星だからだ。
「でもま、なんか今日は違うとか言ってたし……。なにが違うかは知らんけどさ」
 自転車のチェーンがカチカチ鳴りながら回転している。それとは違うリズムで、後ろから靴底をずって進む音が聞こえ始めた。振り向くまでもなく、隣に一人の少女が並んだ。篠原美鈴だ。千尋からだけ、「ネコ」というあだ名で呼ばれ、彼女もそれを嫌がるそぶりを見せない。気に入っているわけでもなく、ただそう呼びたいなら呼べばいい、というだけの理由である。
 どちらとも、何か話すわけでもなく、朝の挨拶などもしない。傍から見れば、友人同士の朝の散歩に見えないでもないだろうが、挨拶も会話もない友人の散歩など、聞いたことがない。喫茶ひかりに着くまで、ふたりの間に会話はなかった。
「おはーす」
「はーす」
「おう、おはようさん。そんならどっちか表の掃除よろしくなぁ」
 あまりに理不尽だ。千尋は顔をしかめた。上り坂じゃ使えない自転車をえっちらおっちら押し上がってきて、多少疲れているところにさらに追い打ちをかけるように「掃除しろ」だ。彼は隣にいる美鈴に視線を向ける。彼女の方もしかめっ面で千尋をじとりと見た。
「……お前やれよ」
「あんた頭湧いてんじゃないの?」
「てめ……」
「だって、私昨日やったじゃん」
 美鈴はしれっと言い放つ。だからあんたがやればいい、と暗に言っている。だが、と千尋は思い出す。初日と二日目は確か俺が掃除をしたのではなかったか、と。回数的に考えれば、美鈴が掃除をするのが妥当である。そう言いたいのだ。しかも、手ぶらの美鈴と違って、千尋は自転車という全く役に立っていない文明の利器を押してこの山の中腹まで来ているのである。
 とにかく、どういうことがあろうとも彼は美鈴に掃除をさせたかった。
「ネコ、お前やれって」
「はぁ? ちょっと店長、こいつ頭おかしいんですけどー」
「ウチに振んなや。ええから、さっさと掃除してこんかアホ。給料引くぞ」
 給料と聞いてふたりは反応した。時価とかいう条件を出しておいてさらに引くつもりなのか。もう一度視線を合わせ、ふたりして頷き合う。
「お前がやれ」
「あんたがやれ」
 堂々巡りだった。これにはいよいよ光緒も怒りだす。読んでいた新聞をカウンターに叩きつけ、大股で歩いてふたりに迫る。その表情は元からの顔つきの悪さも相俟って、まさしく鬼の形相だった。一言も声を出せずうろたえるふたりを余所に、光緒はふたりを前に仁王立つ。
「ふたりで仲良ぅ行ってこいや、ボケェッ!」
 つーん、と耳に響く大音声。ざわざわと鳥肌が立つほどの声と迫力だった。
 千尋と美鈴は逃げるように店の外へ飛び出し、そそくさと掃除を始める。幸い、まだ日が昇り切っていない太陽は気にするほどのものではなかった。だが、暑い事には変わりない。ただ日光が少なくてある程度過ごし易いというくらいだった。千尋は掃除用具箱から箒を一本取り出し、適当に掃き始める。美鈴も遅れず適当に掃き始めた。
「なぁ、お前さぁ」美鈴が急に口を開いた。「レディファーストじゃないけど、女の子にやらせようとすっかよ」
「はぁ? つってもお前まだ1回しか掃除やってなかったじゃん。俺、2回してたからね?」
「かっは。なにそれ。わざわざ言うことかよ、ガキじゃん」
「うっせー馬鹿」
「馬鹿っつった方が馬鹿なんだよ」
「なら今からお前も馬鹿だ、馬鹿」
 お互いに舌打ちを終了の合図にして掃除に戻る。アスファルトを削るようにガシガシと箒の先を擦りつける千尋と、慣れた手つきでさっさと掃いていく美鈴。違いはあるものの、どちらともしっかりと掃除はしている。
「……水、汲んで来てよ」
「お前行けばいいだろ」
 すると、今までの言い合いが嘘のように美鈴は素直に自分で水を汲みに行った。少なからず肩透かしを食らった千尋は木陰に潜り、直射日光を避けて彼女を待っていた。気にしてもしょうがない、と言わんばかりに涼んでいる。
 1分もしないうちに、美鈴は水が一杯一杯入ったジョウロを持って帰ってきた。木陰にうずくまっている千尋を一瞥した後、ジョウロを傾けて、店の前に打ち水を撒いていく。今日も天気はよさそうなところを見ると、きっと1時間もしないうちに乾き切ってしまうだろう。そう考えると、今していることがどうにも無駄なことのように思えて、千尋は店内に戻った。
 冷房が効いた店内は、外と比べると天国だった。間を置かず美鈴も店内へ戻って来る。ふたりが揃ったところで、光緒は次の指示を出す。
「ほんなら、次、アレな。買出し」
 ほれ、とメモを差し出され、ふたりはそれを受け取る。書いてあるものは大体が業務用の調味料や、もしくは食材配達の依頼などが主だった。配達依頼などは電話で済みそうなものだが、どうやらそれは違うらしい。
「そこなぁ、ウチの知り合いがやってるとこでな。電話で頼んだら一般とおんなじ値段で売られるんやけど、直接行ったら格安で売ってくれんのんよ。やから、電話では済まされへんのやな~、これが」
 なるほど、とふたりは納得する。配達の理屈にではない。今日は大変だ、という光緒が言った言葉にだ。
「……今すぐっすか?」
「見て分かるやろ~、ん~? 今から行かな、夕方までに間に合わんで、それ」
「どんだけ働かせるつもりよ。それで時給は時価って、やってらんないわ」
「文句は金貰えるくらい働いてから言え。ほらほら、これ、昼代と電車賃な。住所とかは裏に書いてるから間違えんようにな」
 いってらっしゃ~い、とひらひらと手を振られる。千尋は美鈴と何となしに顔を見合わせ、お互いに嫌そうな顔をしているのを確認してから、諦めの色のこもったため息を吐いた。それに気が付いてないのか、気が付いているのか光緒はケラケラ笑っていた。
 ふたりが店の扉をあけ外に出ると、あまりの気温の高さに、あんなに意地の悪い店主がいる店でも恋しく思ってしまうから不思議だ。
 千尋は店の前に止めていた自転車を持ち出し、またがった。少々考えて、ため息交じりに後ろを向いて美鈴を手招く。
「乗れよ」
「やらしー」
 そういいながらも、彼女は飛び乗るように荷台にまたがり、千尋の脇を小突いた。早く行け、という合図だろう。
 しぶしぶと千尋はペダルに片足をかけ、もう片方でアスファルトを蹴る。最初はよろよろとしていたものの、ある程度のスピードが出てきたところで、車輪のブレが安定してきた。それでも、荷台にいつもは乗っていない余計なものが乗っているからだろうか、千尋はどうにも違和感を感じていた。
「重い……」
「あんだって?」
「……重いって言ってんだよ」
「それさ、女の子に言う事?」
「ネコは別だろ。これが彼女とかだったらお前、俺だってその子に案外軽いんだな~程度は言ってるってーの」
 言い返してくるだろうか、と千尋は思い、続く言葉を予想しながら返答を考えているときだった。いつまで経っても返事が来ないので、不思議に思った彼は顔だけを後ろを向けた。
 美鈴は、顔を真っ赤にして涙を流していた。
 これにはさすがにぎょっとして、千尋は自転車を止めた。自転車に乗ったままで、彼は必死になにかを喋って慰めようとするものの、いい言葉が出てこない。頭をガリガリと掻いて、小さく「ごめん」とだけ謝った。
「う……っ、うぅっ」
 それくらいで泣きやむ筈もなく、さらに言うと今にも声を出して泣いてしまいそうであった。
 こうなってはどこをどう言えばいいのかも分からず、千尋は「ごめん」を連呼するだけだった。ときどき「本当に」をつけるだけだ。だから何が変わった、と言えば何も変わってはいない。
(勘弁してくれよ……)
 自分が悪かったのは認めるが、さすがに泣くのは……。というのが千尋の考えであった。
「…………あの、ねっ」
「な、なんだよ……」
 声をしゃくり上げながら、美鈴は続けた。
「アンタって、さっ。……うぐっ、ホント……っ、さいてーだよっ!!」
「だから、悪いって謝ってんじゃんかよ。しつけーっつの。どうしろってんだよ」
「…………私、じゃっ、嫌なの……っ?」
 勘弁してくれ。彼は今度こそ心から願った。
 冗談じゃない、なんてレベルじゃない。ありえない。コイツが、俺を? 自問自答が頭の中でぐるぐる廻る。
 だが、そこは自意識過剰気味な思春期の少年。ありえない、と単純に言い切るほど、色恋沙汰が愛しくないわけはなかった。美鈴はその見た目のだらしなさから、あまりいい印象を受けることがない。だが、素材はいいのは確かだ。有体にいえば美人だった。ちゃんとしてれば。
「お前……マジかよ」
「こんなのでっ、嘘、つくと……っ、思うっ?」
 いよいよ彼の心臓が暴れ始めた。絶対に騙されてる、と信じて疑いつつ「本当だったら……」という考えも頭から離れず、もうどうしていいか判らず、彼自身も泣きたい気分になってきていた。
 それでも美鈴は容赦なく「どうなのっ?」と詰め寄って来る。どうなのもこうなのも、千尋は腹を括った。
「……別に、嫌、じゃあないけど……」
「え?」
「だからっ! えっと……嫌じゃないっつってんの……」
「……ほ、ほんとに……っ!?」
 くしゃくしゃの前髪から覗く目が、涙のせいなのか千尋には輝いて見えていた。
「ふ、ふふふ」
「な、なんだよ」
「か、ふふふ……」
 嬉しいのだろうか、と千尋が思っていると――――
「かっはっはははははは!!」
「んなっ!?」
 なぜか、美鈴から出たのは爆笑だった。
 彼の背中に、嫌な汗がどっと溢れてくる。
「ひーっ、ひーっ、かっは!」
「…………」
 言葉が出ない彼を差し置いて、美鈴は笑う笑う。仕舞いには腹が痛いとまでのたまった。さすがの彼もこれには参るしかなかった。
「お前……」
「あーっはは。嘘じゃ、ないって……ぶはっ、ひーっ!!」
 当てつけのように、彼は乱暴に自転車をこぎ始めた。それでも後ろから聞こえる笑い声は、視界の横を通り過ぎて行く景色のようには後ろへ飛ばされてはいかなかった。そのうち、耐え切れなくなったのか、背中をバシバシと叩かれた。バランスを崩しそうになりつつ、なんとか持ち直す。
「ふひっ、ひひひひっ、あーおかしぃーっ、あははっ」
「ちょっとなんなんだよ、ほんとなんなんですか、ほんとなんなんだお前。こっちにも我慢の限界というヤツがだなぁ」
「万年不満ブータレが何を今さらっ、かっはははは! やだこっちむかないで……っ、まじで、腹、よじれるっ」
「よじれて死んじまえ、ちくしょうめ」
 ぎーこぎーこと自転車が唸りを上げる中、笑い声が周囲にこだましていく。
 爆笑する後部の女子に、むっつりした運転手の男子。傍から見れば、わけのわからない、シュールな光景ではある。その証拠に、追いぬく人や、向かいから歩いてくる人は何事かとこちらを見ては妙な視線だけを残して景色と同化して後ろに流れて行く。
 そんな状態を引きずったまま、ふたりは駅前まで降りてきた。千尋が駅前の自転車が無造作に置かれている溜まり場に適当に駐車して、鍵をかけた。美鈴を連れて、行き先の駅名の金額と時間とを見てみることにした。
 光緒の知り合いがやっている小売業の店は、ここから急行で乗り継いでも3時間近くかかる場所にあるようだった。ちょうど、向こうについたあたりで昼食時だ。
 なるほど、とふたりは納得した。住所だけではどれくらいかかるかが分からなかったが、こうして見てみると「夕方までかかる」の意味が十分理解できた。同時に、なんて割に合わない仕事くれやがったあのクソオーナーが、と全く同じ事を考えていたことは、このふたりがお互いに一生知ることもないことだった。
「それでこれ、片道ひとり3千円近くかかるから、6千の、1万2千? ……なんで1万3千しかないのよ、これ。ふざけんなっつーの。餓死させる気がってーの」
 美鈴が電車賃とお昼代やで~、と渡された茶封筒を覗き、ぶちぶちと文句を垂れている。
 いや、確かに。と千尋も頷いた。昼代が千、とんで3百円程度しか残らないのか。ハッキリ言って、それで食べられるものと言えばファストフード店の一番安くて量のないセットメニューか、全国チェーンの安いの旨いの早いので有名なフレーズの牛丼店の牛丼(並)プラス味噌汁のセットくらいだ。
 この面倒な仕事を受けるんなら、どうせならもっといいものが食べたい、と切に願うふたりであった。
「やってらんないわ、ほんと。帰ろっかなー、これ持ってさーバックレてさー、パーっとデートしない?」
「もうそのネタいいから。ちんたら言ってないでさっさと切符買うぞ」
「真面目だねぇ、ほんとアンタってば。じゃあ、よろ~。電車乗る前に一服しとくからさ」
 そう言って懐をまさぐって煙草のケースを取り出し、慣れた手つきでパッパと口に咥え、さっさとライターで火を点けてしまった。呆れた様子で千尋がそれを見ていると、美鈴はそれを一瞥してから咥えた煙草を手に取り、ニヤリと笑いながら言った。
「吸いたいんだ?」
「い、いらねえ!!」
「あっ、ごめぇ~ん、吸いたいんじゃなくて、舐めたいとかの人だったっけ?」
「な、なめ……!?」
「え、ちょ、やめてくんない? 半径2m以内に近づかないでもらえます? その反応マジできもい」
「お前が言い出したんだろ、変なことぉっ!!」
 千尋は正直、こんなことになるなら一人で行きたかった、と考え始めていた。
 むしろ、帰りたいなら帰って下さい、と、丁重にお断りを入れて帰ってもらいたくもあった。それを光緒に連絡して、バイト代を独り占めするのが一番いい、とも。
 泣く泣く切符を買い、美鈴が煙草を吸いながら待っているだろうところまで戻ってくると、彼女は面倒くさそうな顔のまま、口に咥えた煙草を軽く揺らしながらこちらをにらんだ。
「遅い。ナンパされた」
「……ナンパされるんだ、お前」
「そりゃうら若き乙女が暇そうにしてたら声かける男くらいいるでしょうよ。面倒なことですわー」
「なんだよ、それ。バイト嫌だったらそのまま遊びに行ったらよかったのに」
 千尋としては、割と本気で口にした言葉だった。
 それを聞いて、美鈴はどこから出しているのか分からないような低音で「あー」と唸ったと思うと、地面に煙草の吸殻を捨て、踏み潰すように火を消した。その上ストンピングまでし始め、とどめとばかりに踵ですり潰していた。フィルターまでがぐしゃぐしゃになって飛び散り、今にも噛みつきそうな獰猛な視線を千尋に寄こしてきた。彼は思わず一歩後退り、息を飲んだ。
「行くんでしょ、買い物。切符寄こせよ」
「あ、ああ。これ……」
 一枚渡した切符を握りつぶさんばかりの勢いで奪い、鼻で笑ったかと思えばずかずかと改札を目指して歩いていった。
 わけのわからない行動を起こされ、半分放心状態だった彼が現実に戻ってくる。なんだあの態度、と千尋も半ばキレかけの状態で美鈴のあとを追った。無言のままプラットフォームに昇り、適当なベンチの端と端に座る。どこから取り出したのか、いつの間にか美鈴は火の点いていない煙草を咥えていた。駅構内は特定の場所を除き終日禁煙である。
 そのまま電車が来る間、一言も交わすことなく待つことになった。電車が来て乗り込んでからも美鈴は口から煙草を離すことはなく、他の乗客から妙にうざったそうな視線で見られていた。ただ平日の通勤ラッシュが終わったあたりだったので、客の数それ自体があまり多くなかったことは不幸中の幸いだと言える。
 そんな視線は全然気にしている風ではないのに、時折何かを思い出しては舌打ちをする。
 客の中にいた生真面目そうな青年も、最初は美鈴を注意しようとしていたのだろうが、彼女の態度を見ては、その身体から滲むように出る空気に気圧されて、喉まで出かかった言葉もすとんと体の中に落ちていったようだった。
「……ち」
 これで何回目なのか、まったく見当がつかないほどの回数の舌打ちがまた鳴った。
 かつ、かつ、と電車の床を叩く音まで聞こえてきている。
「なぁ、ネコ」
「ああ?」
「……なんでンなにイラついてんだよ。他の客に迷惑だろ、いい加減にしろよ……」
「はぁ? んだよ、カス」
 取りつく島もなかった。いつもの突き合うような「馬鹿」の応酬ではなく、千尋の事をカス、と切って捨てた。
 相当頭に来ていることが容易にわかった。
「あんたさぁ、私の機嫌取りとかやめなよ。なんか逆にムカつくんだけど」
「誰が誰の機嫌取りしてるって? 誰がお前に構うかってんだボケ。お前をナンパしたヤツも目ぇ腐ってたんじゃねえの?」
「そりゃあ当たり前じゃん。かっるい男がいい男なわけねーだろ」
「そのかっるい男にナンパされるお前が尻軽に見えてるってことだろ、なぁ?」
「はぁ? 論点ズレてね?」
「ズレてねーし。お前が勝手にイラついて、勝手に俺に当ててんだろハゲ」
「それのどこをどう見て私が尻軽だってんだよ、マジカスいんだけど。きもいってホント」
 電車の中で口喧嘩が過熱していく。座席の端と端で相手の顔も見ずに罵倒だけが重なっていく。
 他の客もほとんどおらず、電車の揺れる音で罵声もほとんど通っていない。
 その中で、お互いに疲れたのか、どちらともなく口をつぐんだ。
「次、降りて乗り継ぎだぞ」
「そ」
 無言は、いつ終わるともわからなかった。
 
 
「でか……」
 目的地に着いた途端の感想がこれだった。
 無駄にでかい気がしないでもない。受付らしいところで光緒さんのところの使いだと伝えると、ああー、と変な納得の仕方をされ、奥に通される。
 部屋の一つに入れられると、その部屋にひとりの男性がいた。座っているものの、それでも背が高いのがよくわかる人物だった。パソコンんのディスプレイに向かって、焦点がなくなった眼でキーボードを凄い勢いで叩いている。
 千尋と美鈴が入ってきているのに気が付いていないのか、2分ほど経って初めて口を開いた。
「二千はいりました~っと、それで、あんたらが光緒ちゃんとこのお使い?」
 なにが二千はいったのかは謎だが、ふたりが入ってきてるのには気付いていたらしい。
 年齢は光緒とそれほど変わって見えるわけではないが、「光緒ちゃん」と呼んでいたことから年上ではあるらしい、と千尋はアタリをつけた。
「そうですけど」
「お疲れさまーっと。まぁ、用事が済んだら適当に帰ってちょーだいね。一応来ただけで値引きはしてるから。なんか欲しいもんとかある? いまオレ機嫌いいから適当になんか言ってもなんでも揃うよ」
 曖昧すぎるものだったが、なぜが先の「二千」という言葉が頭から離れず、妙に本当な臭いがした。
 そこで、美鈴が口を開いた。
「じゃあさ、ライブチケットとかありなの? もう売り切れで、転売もクソ高いし」
「誰の?」
「こ、『神戸幸[こうべ・こう]』のライブチケット……」
「ふーん。君、幸のファンなんだ。いや嬉しいねー、誇らしいねー」
 そういって、男性は携帯を取り出して電話をかけ始めた。
 どうも電話の相手は親しい人らしく、かなり砕けた話し方をしていた。と、言っても千尋と美鈴と話していてもかなり砕けた話し方をしてはいるのだが。
「えー、と。君名前なんてーの?」
「は? えっと、篠原美鈴、です」
「しのはらみりんって名前だってー。そっちの君は?」
「藤原千尋、ですけど」
 ふじわらちひろだってー、いや男だよ、ほんと紛らわしい名前だわなーと、なにげなく言ったことなのだろうが、千尋の心がまたひとつ荒んでしまったのは言うまでもない。
 携帯を切り、めんどくさそうな笑顔を向けて男性はこう言った。
「チケットサイン入りで送るってさ。住所でも書いといてくれたらそこに送るよ」
「サイン?」美鈴は訝しげに聞き、「あんた誰と電話してたの?」
 別に、友達だけど、と何でもないように男性が零す。
「オレの昔からの悪友っつーかねー。それで手に入るんだよね。チケット」
「は? ちょっと、今の電話って」
「幸本人だけど」
「はああああああああああああ!?」
 美鈴が驚きつつも、興奮を隠せない様子でいる。証拠に、その顔がかなりにやけていた。
 千尋は声には出さないものの、内心とてもホッとしていた。またあのささくれた状態で帰るかと思うと。ぞっとしない話に、彼の体中から血の気が引いた。
 と。
「……ところでさ、神戸幸って、誰?」
「あんた知らないの!?」
「あ、うん。知らね」
「だからあんたはカスだって言ったのよ、なんで、あー、あんた人生の10割損してる。ていうか、あんたの人生がもうすでに損の塊みたいなもんだから来世まで損してる」
「ひでえ……」
 千尋は、芸能関係に明るくはない。というよりも、世間に疎い。ニュースは見ないし、雑誌も見ない。ならネットを徘徊するかと言えば、否。彼に世間の情報が入ってくるのは、クラス中の話からか、街中の誰とも知れない人たちの会話である。そんな彼を一瞥して、美鈴が続けた。
「大学在学中の頃からプロデビュー。カバーから、オリジナルまでそつなくこなす、若手実力派ギタリスト。主にインストを扱ってるんだけど、この頃はゲストギタリストとして有名な歌手のバンドメンバーとしても名を連ねてたりしてる。聞いた音は一回で覚えて、忘れることはないってゆー、完全聴覚記憶能力って体質らしくて、なんかすごいんだって。……まぁ、ルックスも話題ねー。あれで20代後半? ってくらいに若いのよ。もうあんたと並んでても同い年ぐらいにしか見えないくらい」
 次から次へと説明を述べて行く美鈴を横目に、千尋は完璧に引いていた。
 あの『ネコ』が、饒舌なうえに人の事を評価しているのだ。驚きを通り越して気味が悪い。
「俺さ、初めてお前のこときもいって思ったわ」
「な――――っ」
 千尋の感想としては、どこぞの貿易港みたいな名前のギタリストがどうした、といった感じだ。
 そもそもギタリストなんて、誰がなにを弾いても変わらんだろ、とまで呟いた。
「あんたちょっと、そのいらない耳切断したげるわ」
「なんだよ、音楽とかあんまり知らねえんだよ、悪いかよ!」
「もうそれは世界的な悪ね! 歌で世界を救った人だっているんだよ、わかってんの、ちょっと、ねえ?」
「なんか、ほんときもいぞ、お前」
 千尋の声など耳に入っていない様子で、彼女はまだ続ける。
「まぁ、とにかくね。その人のファーストライブが決まってて、それのチケット、手に入れられなかったのよ。ちょうど夏休みのあいだだから行けるって思ってたのにね…………で、この状況ね。ていうか、あんた何者ですか?」
 流れで気づいたのか、美鈴は机に突っ伏して我関せずを貫く男性に問いかける。
 んあー、と面倒くさそうに起き上がりつつ、片手でキーボードをパチパチと弾いている。あのパソコンのディスプレイには一体なにが映っているのか、気にはしつつ、美鈴はもう一度質問した。
「だから、あんたは一体何者ですかって訊いてるんだけど」
「それにしちゃ何かを訊く態度じゃねーよな。ネコ?」
「あんたは黙ってなさいよ」
「……名前は、針井歩人[はりい・ふひと]。歩く人、でふひと。意味はいつか成る歩のような人に育て、だそうな。両親ともに北島のおじさまの大ファンですとさ。あーい、五百いただきましたー」
「自己紹介しろって言ってんじゃないんだけど……まあ、ある程度はわかったわ。ハリーさん」
「ハリーじゃない、針井だ馬鹿者」
 美鈴が針井をハリーと言った瞬間に、彼は反応した。今までの倦怠的な動作とは打って変わった素早い反応速度だった。
 どうやら、ハリーと呼ばれることがよっぽど気に入らないらしい。
「まぁ、あれだわ。幸と一緒に高校のときに馬鹿やってた悪友っつーかねー。武勇伝は数知れずーってな感じ。あーい、四百いただきましたー」
 どんどん少なくなっていく数字の単位にどことなく現実味を感じつつ、針井が机からなにかを取り出すのを黙って見ていた。
 取り出したものは紙。なんの変哲もない、B4程度のコピー用紙のような紙である。それと一緒にボールペンが取り出され、無言で美鈴に差し出される。
 頭の上に「?」を浮かべつつ、美鈴はその紙とボールペンを受け取った。ただ、これをどうすればいいのかがわからない。
「なに、君ら連絡したらここまで取りに来るの? チケット。それだけでチケット2・3枚分はかかる金額払ってここまでまた取りに来るの? 最初に言ってでしょうに。住所教えてくれたらそこに送るからって」
「……あんた、書きなさいよ」
「なんで俺? チケットはお前のだろ」
「あんたホント耳削げ落とせよ。あんたの名前も聞いてたじゃない」
「だからってなんで俺なんだよ。お前ン家でいいだろ……めんどいなぁ」
「あんたねー」美鈴は呆れたように呟くと、すっと胸のあたりに手を添えながら「私、これでも女なんですけど」
 その台詞を聞いた針井は「オレが犯罪者みたいだからやめてね」と言ってた。だが、美鈴はそれを聞き流す。
「だから?」
「だ・か・ら。私、女の子、あんた、男の子。ほら、あんたン家の方が安全でしょー。それに私一人暮らしだしね」
「えばっていうことか。一人暮らしの方がいいだろ、馬鹿か」
「私は女の子でしょー!?」
「俺ン家は親がいんだろーがボケ!!」
 また終わりのない“いつもの”不毛な言い争いが起きる。
 それが数分のあいだ続き、お互いの息が切れ始めた頃、針井が口を開いた。
「幸の親父さんは警察のお偉いさんだぞ。そんなのにケンカ売るようなことするかよ」
「えっ、そうなんですか?」
「プロフとかでも全然公開してないけどな。すっげ堅物だわ。あとヤーさんともパイプ持ってたりする警察らしくない人」
 千尋にはもうなにがなんだかわけがわからなくなっていた。
 正直港みたいな名前のギタリストなんてどうでもいいし、チケットだって転売したいぐらいだ。と彼は考えている。美鈴がどうしてあれだけはしゃいでいれるのか、よくわからない。
 ……それにしても、と彼はふと思う。
(……あいつのはしゃいでるのなんて、見たことなかった)
 いつもの言い争いもはしゃいでると言えばそうだが、ここまで女の子してるはしゃぎ方は見たことがなかった。若干頬に朱色が混じっているところなんて、本当に――――
「そぉいっ!!」
「な、いきなりなによ、あんた」
「なんでもなーい。なんでもなーいですよ。ほんと何でもない。俺ン家の住所でいいだろ、もう、ほら書くから」
 美鈴から紙を奪ってガリガリと紙面に住所をなぜか「日本」というところから書き始めている。心なしか文字も震えているような気がしないでもない。針井に住所を書き終えた紙を押しつけ、美鈴を引っ張ってその場をあとにする。
 これ以上ここにいたら、どんどん知らない彼女を見ることになる。彼はもはや意地で動いていた。
 最寄の駅前まで戻ってきて、やっと落ち着く。
「あーあ。神戸幸の話、もっと聞きたかったのに」
「そりゃ、すいませんでしたねェ」
「…………、なんであんたが拗ねてんのさ」
「拗ねてねーよ、なに言ってんだ馬鹿」
「馬鹿って言った方が馬鹿だ馬鹿」
「じゃあお前も今から馬鹿決定だ、ちくしょうめ」
 駅前で人も多いのでここで言い争いは終わる。
「そういえば、メシどうすんのさ?」
「メシぃ? どっかそこらへんの牛丼屋でも行きゃいいだろ?」
「別に。あんたなんか考えてなかったのかな、とか思ったから」
「なんだそりゃ」
「なーんでもなーい。じゃあ、あの角のとこ、あれそうじゃないの?」
 言われてみて、初めて千尋はそこにあることに気がついた。
 じゃあ行こう、と二人が絶妙な距離感を保ちつつ並んで歩く。横目には、同じ方向に歩いている他人と見られてもおかしくない距離感である。牛丼屋に入って、カウンター席に座っても、隣に座ることはなかった。ひとつほど席をあけ、別々に注文を受ける。
 運ばれてきたのはほとんど同時。黙々と食べ続け、会計時のこと。
「あ、こっちと一緒ね」
「は? あの、こちらの?」
 店員が美鈴の方を見て確認する。千尋がこくりと頷いても、まだ信じられないのか、美鈴の方も向く。彼女は苦笑いしながら頷いた。ややこしいだろ、と言いたそうな顔だった。店員の方も、なんだコイツラ、と言いたそうな顔で会計を済ませてくれた。
 店外へ出ると同時、後ろから気の抜けた「ありがとうございましたー」が聞こえてくる。おそらく、こんな客はもう二度と来ないだろう。
「……さて、帰るかなぁ」
「これからまた電車かよ……」
 文句を垂れながらも、帰るための手段は電車しかない。タクシーなんて使って料金オーバーでもしたら、光緒に殺されかねない。
 来る時よりも若干多めの乗客にうっとおしさを感じつつ、千尋と美鈴はやはり離れた場所に立っていたり座っていたりする。誰もこの二人が恋人だとか、友達だとか、果ては知り合いだなんて思わない程の距離感だった。
 しかし、降りる駅になればどちらともなく片方に合図をしていたので、他の乗客はびっくりして目を丸くしていたりした。たまたま居合わせて、「あ、居たんだ!」という空気ではなく、お互いがお互いを認識したうえで、無視しているのだ。驚くのは当たり前だった。
 この関係は、他人から見ればありえないものだった。
 
 友達以下、知り合い以上。
 
 一言しゃべりはじめれば、それはそれで友達同士の会話として聞こえるだろう。
 だが、この二人にしゃべり合うような話題はない。あったとしても、それを積極的に行うほど、二人は仲がいいというわけではない。言い争いをしているのは、お互いが気の知れた、知り合いだからだ。もうひとつ言っておけば、適度に“嫌い合う”ためでもある。なんだ、こいつイイ奴じゃん、と思えば、ハッと我に返ってやっぱり嫌いだ、と確認し直す。
 地元の駅まで帰ってきた頃には、日が傾きかけていた。
「はぁ……これから山登んの?」
 美鈴がぼやく。電車に乗って身体がこったのか、くぅっ、とあまり聞くことのないだろう気持の良さそうな声を出しながら伸びをしていた。
「登んの、って、お前絶ェ対自転車の後ろ乗ってくつもりだろ」
「……やらしい」
「はァ!?」
「その、さも当り前みたいな言い方、ほんときもいからやめたほうがいいよ」
「余計なお世話ですよ、もう乗せてやんねーからな!」
「乗せてやんねーからな、だってよ! かはははっ、ほんときもいってそれ。なに、そこいつから私の席になったの?」
 いつもはあんまり干渉しあわなかったから、今になってよくわかった、と千尋は諦めたようにため息を吐いた。それでもケラケラ笑うのをやめない美鈴に向かって、一言。ほんの一言だった。
 
「俺、お前のこと嫌いだわ」
 
 はっきりと、明確な意思をもって千尋は言い放った。
「俺、バイトやめる。チケットはちゃんと渡してやるから、お前はお前で勝手に行けよ」
 これには美鈴もぎょっとした。なにが驚いたって、なにかわけがわからないということに驚いた。
 彼女自身が知らぬうちに、心臓が早打ちを始めていた。
「な、なにそんなに怒ってんのよ。ちょっとした悪ふざけっしょ? 今までもこんなのあったじゃん、なにいきなり、やめるとか、ちょっといきすぎでしょ?」
「なんでお前がそんなに慌ててんだよ。いいだろ、別に。お前のぶんの配当上がんじゃねーの?」
「バイトとか、じゃなくて、あれぇ? いや、あんさ、えっと、ほら……あれだよ、あれ」
「どれだよ」
「えっと、そう! 私の負担が増えるじゃないのよ。やめんなって。それに、ほら、金! お金欲しくないの? 今やめたらぜってー安いはした金しかもらえねーって絶対」
「金は欲しいけどさ」呆れながら、千尋は言い切る。「お前が嫌だから」
 ここにきて、美鈴は本当に言葉を失った。しばらく黙ること、千尋が自転車を持って来るまで。
「あっそう。んじゃ、やめりゃいいじゃん」さっきまでの粘着はなくなり、あっさりとした言葉だった。「やめりゃいいじゃん」
「そうする」
 チキチキと自転車のチェーンの回転音がやけに大きくて耳に障る。
 そのまま店までお互いに無言を貫いていた。千尋は無言で自転車を押し、美鈴は煙草を咥えながら彼のあとを他人の距離で歩いてついていく。
 学校の前に来ると、空がすっかり茜色に染まっていた。
 校門からは夏休みの部活を終えた生徒が下校していく様がチラホラと見える。
「…………」
「…………あんさぁ、あんた」
「……なんだよ」
「私とさー、いるのってさー、そんなにさー、嫌?」
「……うぜえ」
「…………じゃあさー、もっかい訊くけどさ。朝の、あれはどうなん? あのまま私が本気でさー、付き合おうとか言ってたら、今みたいになってたりしたらさー、あんたはさー、我慢とか、したの?」
「我慢しねえ、かもしれねー。んなの知るかよ。もしもだろ。お前あれ、からかってただけだろ」
「ほんっとあんたなんにも覚えてない」
 少しでも話したからか、店までの道のりが短く感じた。
 千尋は店の端に自転車を置くと、見慣れないバイクが置いてあるのを見つけた。首をかしげながら、美鈴に続いて店内に入っていく。
 おかえり、と軽い調子の光緒の言葉。店内を見回しても、客は見当たらなかった。
「店長ー」
「なんやー」
「表に停めてたバイクって店長のっすか?」
「ちゃうよ。高校大学って世話ンなってた先輩のやつ。今来てもろてんねん」
「彼氏?」
「ぶっ、あっはっはははは!! ないない、あの人彼氏ンするんやったらお前彼氏にするわー」
「そりゃ酷い話だね、光緒」
 ぎょっとして光緒が固まる。店内の奥から現れたのは、少し背の高めの男性だった。歳は30前半といったところだろうか。
 美鈴ほどではないものの短い癖っ毛で、目は開けてるのかよくわからないほど細い。はて、と美鈴が男性の顔を見て首をかしげる。
「どっかで見たことある気がする」
「雑誌とかじゃないかなぁ。僕、こういう者です」
 どうぞ、と美鈴に名刺が渡される。そこにはこう書かれていた。
 ――――インテリアデザイナー 榊原 実[さかきばら・みのる]
 他にも所属している事務所や、個人的な、おそらく仕事用のメールアドレスと電話番号などが書かれていた。
「建築士志望やってんけどな、何の因果かそんな職についておられんねんで」
 皮肉っぽい光緒の補足説明。
 それに対して、榊原は笑ってるかどうかがよくわからない顔だった。
 それがどうしてこんな喫茶店ともわかりづらい喫茶店を見ていたりするのだろうか、と千尋は本気で考えた。
 昔のよしみとはいえ、それはあまりにも横暴ではないだろうか。店長が。と声には出さず美鈴は本気で考えた。
「えーっと、改築でもするんですか?」
「まぁ、そないなとこかな。そんなに言うほど資金ないから、こうして先輩に来てもろて、合いそうな雰囲気のインテリアを見繕ってもろて、ほんで、いらなさそうなヤツはリサイクルショップにでも売りに行こうかと」
 廃棄しないところが光緒らしいといえばらしかった。
 それくらいならこちらのバイト代にも響かなそうだなー、と他人事のように美鈴は考える。それに千尋もやめると言っている。増えること間違いないはずだった。
 と、千尋がいよいよ切り出した。
「あの、店長。バイト辞めます」
「…………ちょっと表出て正座して待っとこか、千尋君。すぐに包丁研いで持ってってあげるさかいに。んで、エンコ詰めな」
「ヤクザかよ!?」
「うちの知り合いにはヤクザの一人娘とかリアルにいるから」
「あ、嘘みたいに聞こえるけどホントね。僕とも知り合いだし」
 どんどん洒落にならなくなってきた、と彼の額に玉のように汗が浮き上がってくる。
 それに、と光緒がつけたした。
「改装するっつってっしょ? 男手がいんねん、男手が。いいところ見せてみっちゃん惚れさせたらええねん」
 何言ってんだこのババア、とは口には出せない。
「みっちゃんって言うな」
「ええやん、カワエエて、みっちゃん」
「いやよ。なんか安っぽいし」
「おーい千尋ー。この子こんなん言うてるでー」
「俺が知るかよ」千尋は改めてため息を吐きながら、もう一度訊いた。「辞めてもいいんですか? ダメなんですか?」
 それに対して光緒は頭を掻きながら答えた。
「奮発するからさ、な。夏休みの間は辞めんといてや?」
「…………別に。店長がいうんだったら」
「おおー。このっ、憎いねー。みっちゃん辞めへんねんて、千尋」
「なんで私に振るかな。辞めようが辞めまいがそいつの勝手でしょうに」
 くしゃくしゃの髪の間から千尋を覗き見る。
 ぶすっとしている彼は、彼女にはどことなく嬉しそうに映った。
 
 夏休みは、まだ続く。
 
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

こう、いざ作ってみると胸が苦しくなった。

ども、草之です。
 
『優星』の最終年度(本当は4年目の夏まであるけど)の行事予定表を組み立てました。
こうして見てみると、夏と冬にイベントが固まっていることがよくわかった。イベントがやり易いから、とかなんだろうか?
 
さておき。
とりあえず、目標としては、すべてのイベントの回収です。
数えただけで14個(実は15個の予定ですが)もありました。+ストーリー上の展開、つまり原作の時間軸上のお話も書いていくので、平気で60話以上いきそうなことを今知りました(笑)。
 
これは平気であと1年はかかる計算だったりします。今のままの連載ペースだと、ですが。
これからも『優星』と『歯車屋敷』をよろしくお願いします。ついでに草之もよろしくです。
 
というわけで以下拍手レスです。
草之でした。
 
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

どうでもいい話と、拍手レス。

ども、草之です。
学校の空き時間に学校のオープン端末室のパソコンでパチパチと投稿用のプロット段階の小説を書くことが空いた時間の暇つぶしになりつつある草之です。
この時期から考えるなんてしたら、まぁ、あれですけどね。
ただ、『歯車屋敷』の方もないがしろにはしたくないので、家ではこっち。学校では投稿用。とけじめ(?)をつけて書いています。実際一週間に6時間ほどしか授業の空き時間なんてないですしね(笑)。
 
どうでもいい話でした。
 
それにしても、『魔乳秘剣帖』はいいものだ。
1巻が出る前からずっと知って読んでましたが、今日4巻が発売されてたので即買いしてきました。
短編集も同時発売だったのでそれもいっしょに。1400円オーバー。財布の風通しがよくなりました。
なんていうか、ああいう力強い線が大好きです。ごんぶとが大好きです。岩原祐二先生とかも大好きです。いばらの王の劇場版が楽しみだなぁ。DTBも発売されてましたけど、さすがに自重。財布に風穴が開きますし。ベヨ姉に会えなくなっちまうぜ。
 
異能力ものって、書くのは大好きなんですが、どうやらわりと苦手らしい。
やはり、群青劇が肌にあってるのだろうか。『優星』効果がここまで感染してきてるというのなら、さすがARIAというべきだ。
まぁ、だからといってどんなジャンルにも手をつけてみたいんですけどね。
ただ、ホラーとかは勉強不足だろうなぁ。全然読まないし、映像関係でもあんまり見ないし。でも、夢とかに見ちゃう性質なんで、寝不足になるのだけは嫌だなぁ。けっこうささみチキンです。
 
 
題名通り、どうでもいいことをつらつらと書きましたが、草之は元気です。
 
ということで、以下拍手レスです。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:32

 
 「灯里もそうだったけど、衛宮さんも何気に知り合い多いよね」
 
 と、そんなことを藍華が急に言いだした。
 言われてみて、指折り数えてみる。アイナだろ、女将さんにアキナさんとアミ、アイラ、アントニオ……。まぁ他にも知り合いといえば知り合いなのはいるにはいるが、先に名前をだして数えた人たちよりは話すことなんてないし、会っても会釈くらいで、済ますし。
 そんなに多いとは思えないのだが。
 
 「ていうか、衛宮さんの知り合いに“女性”が多いってのが問題よね」
 
 「なにを……」
 
 ――ガチャン!
 藍華がそんなことを言い出したばかりに、後ろで洗い物をしていた(いつものごとく無理矢理「私がやります」と押し切られた)アリシアが皿を一枚落として割ってしまう。
 ……なんていうか、彼女からの好意に気付いてしまったばっかりにこういう反応をされると、なんといいますか、近づきづらい。
 
 「あらあら、ごめんなさい。すぐ片付けますから……」
 
 「いいよ。俺がやるから」
 
 「でも、私が割ったんですし……」
 
 「商売道具に傷でもついたらどうすんだ。ほら、離れてろ」
 
 こうでも言わないと、アリシアは離れてくれない。
 “商売道具に~”なんて言っておいてなんだが、もちろん嘘だ。正直に言ってしまえば、アリシアに、なのだが、そんなこと恥ずかしくて言えたもんじゃない。
 だからと言って、俺ももう少し言いようがないものだろうか。
 こんなことをしていて、これもいつものことになりつつあるのだが、アリシアはいつも申し訳なさそうな顔以上に、悲しそうな顔までする。それに気がつかないふりをしている、俺も悪い。
 
 「お皿、ごめんなさい。士郎さんが買ってきてくれたものだったのに」
 
 「いいって、そんなの気にしなくても。それより、怪我、ないのか?」
 
 「はい。おかげさまで」
 
 「ほんとか? ほっておいたらそこから菌が入ってくるんだぞ?」
 
 「本当に大丈夫ですよ」
 
 手の平を上にして俺に見せてみる。
 確かに、皿の欠片で切ったような傷はない。
 ようやく安心して、俺も反省することにした。これは俺が俺に科す罰だ。
 
 ポン、とアリシアの頭を撫でる。
 
 「?」
 
 くすぐったそうに肩を寄せながら、アリシアが見上げてきた。
 
 「あんまり悲しそうな顔するな。アリシアがどうにかなったら、俺はどうすればいいかわからなくなるんだからな」
 
 精一杯の、今までのお詫びを兼ねた言葉だった。
 それで今までの分が帳消しになるだなんて思ってもいないけど、それでも、遠まわしでもいいから、正直なことを言っておきたかった。
 はたして、アリシアは顔が桜色に、文字通り花のように微笑んでくれた。
 
 「で、藍華。俺がなんだって……?」
 
 「あ、いやー。衛宮さんの知り合いには女の人が割かし多いんじゃないですかって話ですけど」
 
 「そんなことはない。そう思ってしまうから、そう感じるだけだ。実際、数えてみれば五分五分くらいの割合だぞ」
 
 「私の知らない人も知り合いにいるってことですよね。ってことは知り合いが多いってことじゃないですか」
 
 「そうでもないと思うけど……」
 
 10人前後だと思うのだが。
 それで知り合いが多いなんて言われてちゃ、灯里はホントにどうなるんだ。
 
 「えー。私もそんなにいないと思うんですけど」
 
 と、あっけらかんと言う灯里の知り合いは本当に多い。
 散歩に出れば、友達が絶対に増えているという、ある意味特殊能力持ちなのだから。
 まぁ、意図して友達を増やしてるわけじゃないんだろうけどな。
 
 それにしても、なんでいきなりこんな話しになったんだ。
 
 「藍華、ところでなにがどうなってそんな話になったんだ?」
 
 「いやいや、衛宮さんてさ、アクアに来て丸々~2年だっけ? そんなに経ったんだな~って思って」
 
 適当な態度を崩さず、藍華が首を揺らしながら机の上で頭を転がしている。
 そういえばそうだったな。実に3年目。ここに来て、すでに2年。地球歴で数えれば、4年が経ったことになる。
 そうか。もうそんなに経ってたんだな。
 
 「って、そうだ藍華、アリス。明日予報じゃあアクア・アルタが来るって言ってたぞ。あんまりゆっくりしてると帰れなくなるぞ?」
 
 「でっかい心配無用です」
 
 「そ。だって私たち二人とも泊まる前提で来てますから」
 
 「聞いてないぞ……」
 
 「今さっき決めましたからね。ねぇ、後輩ちゃん?」
 
 「と言いながら、実は結構前からこれは計画されていたりします」
 
 「だと思ったよ。どうりでいつもより荷物が多いと思ったし、やけにゆっくりしてると思った」
 
 心配はしないのか、と訊くと、二人とも許可は取ってきているらしい。
 さすが、結構前から計画されていただけはあるな。用意周到だ。
 
 「だとしたら……困ったな……」
 
 「どうしたんですか、士郎さん?」
 
 アリシアが不思議そうに覗きこんできた。
 何を隠そう――――
 
 「ああ。食糧がない」
 
 一瞬訪れる沈黙。
 現在は夜の7時前。明日が予報通りアクア・アルタでなくても、予報が出ている、という時点で店は早めに閉店しているに違いない。
 いつもならまだ開いているだろうアイナの店も、もう閉めているだろうし、困ったな。
 
 「いや、完全にないってわけじゃないんだ。上がってくる水量が少なければ、まぁ、無理言ってアイナのところで買い物させてもらえばなんとかなる。ただ、そうなると朝食がなぁ……」
 
 「えー、適当でいいですよ」
 
 とは藍華。
 
 「甘いぞ、藍華。一日の始まりは朝食にあり。朝食はしっかり取ってしかるべきものだ。一日の全て朝食にあると言っても過言ではないのだから」
 
 「じゃあ、その朝食をどうしようっていうんですか、衛宮さんは」
 
 「……まぁ、残り少ない食材でも出来ることはある。きちんとした食事は出す。約束だ」
 
 「えへへ。期待してます」
 
 「でっかい楽しみです」
 
 「いや、だから……きちんとはしてるが、期待してもいいようなヤツは出来ないと思うから、そこらへんは勘弁してくれよ?」
 
 了解です、と藍華とアリスがビッと敬礼する。
 調子がいいもんだ。だけどまぁ、実際どうするかだよな。
 
 朝になればなんとかなるか。作っていてなんとかなるなんて、よくある話だ。
 
 「それじゃあ、ふたりは灯里の部屋で?」
 
 「はい。一応は」
 
 「わかった。あとで布団を持って行くから、灯里、ちゃんと片付けておけよ」
 
 「ええっ、そんな散らかってませんよー」
 
 「一応だ」
 
 「はーい」
 
 灯里が一足先に自分の部屋に上がっていく。それに続くように藍華とアリスも3階の灯里の部屋へ上がっていく。
 それを見届けながら、やはり考えるのは明日の朝食。
 どうにかなってくれれば万々歳なわけだが、どうにもならないのが現実ってもんだったりする。
 
 「士郎さん、ちょっといいですか?」
 
 「うん?」
 
 「お話、しませんか?」
 
 「なにか話すことでもあるのか?」
 
 「いえ? なんとなくですけど。なにか用事がなくちゃ士郎さんと話しちゃいけないんですか?」
 
 「あ、いや。そんなことはない、けども」
 
 「よかった!」
 
 女の子らしい笑顔が見れた。
 大人っぽいいつもの微笑みではなく……、俺といるときにしか油断して見せようとしない、笑顔。
 この笑顔を見ると、いつも思う。
 
 ――――俺なんかで、本当にいいのか?
 
 それはアリシア自身のことではなく、俺のことだ。
 アリシアが俺といてどうとか、そういうことじゃなくて、俺がアリシアを背負うことが出来るか、と、そういうことだ。
 アリシアは俺といて、楽しいんだろう。だから、ああやって笑うんだろうし、感情を見せてくるんだろう。
 それを、俺は……どうしたらいいんだ。
 俺は、アリシアのことをどう思ってるんだ?
 妹? 友人? それともただの仕事仲間?
 
 それとも、アリシアをアリシアとして?
 
 俺はアリシアに、俺が『正義の味方』になれるように、見ていてくれと、信じていてくれと言った。
 俺はそれに安心して、否、それよりももっと酷い、ある意味すがっていたのかもしれない。
 元より目指していた『正義の味方』になれないと気付いて、一度は違うやり方でと思って、それでも諦めきれずに『正義の味方』をもう一度目指して……、でも、それは……アリシアの優しさを利用してしまった結果なんじゃないのか?
 俺に、アリシアを幸せに出来る保証も、ましてや自信もない。
 
 俺は、『正義の味方』になる以前に、俺は、本当に俺だったのか?
 “エミヤシロウ”は、本当に“衛宮士郎”になれたのか?
 歩き出していたと思ったあの一歩は、本当は、一歩づつ、彼女から離れて行くためのものだったんじゃないのか?
 それがいつのまにか……――――。俺は、どうすればいい。
 
 俺は、どうすればいいんだろうか。
 
 「お茶でも入れるよ。アリシアは先に座っておいてくれ」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 翌日。朝起きたら、予報通り外にはアクア・アルタがきていた。
 いつもは人が通る街道も、今は小魚がちょろちょろと泳いでいた。
 
 「くふぁ……ああむっ」
 
 「にゅっ」
 
 「あ、おはようございます、アリア社長」
 
 いつものようにベッドの脇から顔だけをひょっこり出している。
 ベッドの横を見ると、ほとんど雑魚寝みたいになってしまった布団の上に、藍華ちゃんがまだ寝ていた。
 アリスちゃんはどこだろう、と部屋中を見回しても見当たらない。と、首をかしげていると、階段を彼女が上ってきた。
 
 「おトイレです。まだ春って言っても冷えますから、ちょっと」
 
 恥ずかしそうに言う。
 ごめん、と一言だけ謝って、私も着替えるとする。
 アリア社長はといえば、藍華ちゃんの上に乗っかりながら、彼女を起こそうと身体を揺すっていた。
 
 「あと5分~」
 
 「ありゃりゃ。なんてお約束な」
 
 「でっかい寝坊すけです」
 
 そんな藍華ちゃんに、ちょっといたずらをしたくなった。
 耳元まで近づいて、そっとささやく。
 
 「藍華ちゃん、下にアル君が来てるよ」
 
 「にゃにゅっ!?」
 
 すごい勢いで起き上がり、さっさと身だしなみを整え始めたところでポテン、とまた寝ころんだ。
 
 「……だまされたー」
 
 掛け布団をずるずると頭の上まで持って行き、おまんじゅうみたいに丸まってしまう。
 あう~、と布団の中からくぐもった唸り声みたいなものが聞こえてくる。相当恥ずかしかったらしい。
 
 「アル君、いないよ?」
 
 「知ってるわよ、それくらい。ていうか、今日アクア・アルタでしょ? 知ってて出てくるなんてありえないもん」
 
 「そうなの?」
 
 「そうなのってあんたね。水路あったでしょ、地下への。水位が上がってんだから、下手したら地下世界なんて洪水よ?」
 
 「うわっ、そうだね。危ないもんね」
 
 「そゆこと」
 
 アル君ならきっと昨日のうちにでも~、と、さも一緒にいました、とも聞こえるような口調で話す。
 ……うんうん。そんな藍華ちゃんも可愛いなぁ。
 
 「あー、うー。眠いなー」
 
 「えっと、なんだっけ? しゅんみん、あかつきをわすれて?」
 
 確かそんな感じの
 
 「ええ? ポニ男がどうしたって?」
 
 「違いますよ、藍華先輩、灯里先輩。『春眠暁を覚えず』です。確か、春の夜は短いし、寝心地もいいからとっても眠たいってことらしいです」
 
 「よく知ってるねー、アリスちゃん」
 
 「この間、学校で習いました」
 
 えっへん、と胸を張って自慢するアリスちゃん。
 それに対して少し悔しそうにしている藍華ちゃん。
 朝から賑やかだなぁ。
 
 「おーい、起きろーって、起きてたか。食事出来たぞ。降りて来い」
 
 『はーいっ』
 
 士郎さんが顔だけを出して言い、すぐに下に降りて行った。
 藍華ちゃんの着替えを急かし、私たちは先に降りて手を洗う。洗い終わるくらいに藍華ちゃんが降りて来て、入れ替わりで手を洗い始めた。
 
 もちろん、先にテーブルについて、朝ごはんと対面する。
 テーブルの上には大皿がふたつ置いてあった。
 ひとつにはこれでもかっ、と言わんばかりの様々な種類のパンで作ったサンドイッチ。
 もうひとつには、果物が盛られていた。
 
 士郎さんを見ると、目があった。苦笑いをしながら、こちらに近づいてくる。
 
 「結局こんなのしか思いつかなくてな。パンがあってよかったよ」
 
 「朝食は和食の士郎さんにしては珍しいですね」
 
 「でっかいおいしそうです」
 
 もうひとつ苦笑い。
 士郎さんがテーブルにつくと、藍華ちゃんもすぐにやってきた。
 
 「あれ、サンドイッチなんて珍しー。やっぱり泣く泣くですか?」
 
 「まぁな。仕方ないって言ったら、なんだか負けた気分になるけど、結局こんな形になっちまった」
 
 パンで総量を誤魔化して、朝食を作るには足りない食材はすべてサンドイッチの具に。
 だからと言ってなんでもかんでも詰め込んだミックスサンド、というわけではなさそうだった。
 食事のバランスなんてあんまり深くは考えたことなかったけど、士郎さんの作る食事を長い間見ていたら、嫌でもそれなりの知識として頭に入ってくる。
 何が言いたいかというと、とてもおいしそうだ。
 
 「あれ、アリシアさんは?」
 
 「ああ、すぐ来るよ。今ゴンドラのところにいるだろうから」
 
 「あ、そういうことですか。言ってくれたら手伝ったのに」
 
 アクア・アルタは水が満ちる時よりも、ひいていく時のほうが危ない。
 特に、元から水の上にあるゴンドラなんて、下手をすると家の壁を壊したりする。
 そうならないために、持ち主さんは、潮が満ちている間に“そうならないため”にゴンドラを管理する。
 つまり、安全な位置まで移動させる、ということ。
 
 「泊めてもらってるんだし、私たちも手伝ったのにね?」
 
 「そうですね」
 
 手伝うつもりなのは私だけではなく、藍華ちゃんとアリスちゃんも同じだったみたいだ。
 と、
 
 「あらあら、いいのよ。それに、もう終わっちゃったしね」
 
 アリシアさんが階段を上がってきた。
 制服のワンピースの裾を膝上でくくり、水で濡れないようにしていた。それをほどき、しわを叩いて伸ばす。
 流れるような動作で士郎さんの隣へ着席。
 
 「お待たせ」
 
 「よし、それじゃあ、いただきます」
 
 『いただきまーす』
 
 大皿に盛らているサンドイッチのひとつを手に取って口に運ぶ。
 さくっ、とした食感のクロワッサンの中で、しゃきっ、とした野菜の食感。
 野菜の水気で程良く湿ったパン生地が、なにやらとても味わい深い。
 
 「おいしー」
 
 「それはよかった」
 
 大皿の上には、他にもフランスパンやライ麦パン、定番の食パンのサインドイッチと、むしろどうしてパンだけこんなにあるんだろう、と疑問に思うほどのパン祭りだった。
 割合、食パンの数が少ない気もする。
 
 「……フランスパンとかライ麦パンは結構保存が利くからな。でも、そろそろ夏も近づいてくるだろ? だから、あんまりほっとくのもダメだと思ったしな。ちょうどいい機会だった」
 
 「むぐ……。ん? それって、これが結構前のパンだってことですか?」
 
 藍華ちゃんに言われて初めて気がつく。
 士郎さんが言ったことの意味は、そういうことだ。
 
 「って、言っても一週間も経ってないヤツだぞ。ちゃんとカビもないか、腐ってないかも確認した。まだまだ全然消費期限、賞味期限内のパン達だったぞ」
 
 「調べるって言っても……」
 
 「忘れてもらっちゃ困るが、俺は“魔法使い”なんだぞ?」
 
 すっかり忘れてたけど、そういえば士郎さん、魔法使いだったっけ。
 って、言っても、私は士郎さんがハッキリと魔法らしきものを使ってるところを見たことがないんだけどね。
 確かに、凄いなー、とは思うけど、それを「見たい!」と言ってまでみたいとは思ったことがない。
 なんでだろう、と考えたこともある。藍華ちゃんやアリスちゃん、時々練習を見てくれる晃さんにも言われてるから、さすがにちょっとは自覚してるけど、私は不思議なものとか、綺麗なものとか、とにかく、少しでも興味があったらふらふらーっとして、自分でもわからないうちになにか行動を起こしてしまう事がある、らしい。
 でも、士郎さんの魔法には、ちっとも反応しない。
 だから、今まで聞いたことがなかった。見たことがなかった。
 
 「ちゃんと調べてる。腹が痛くなったら俺が責任を持つ。でも、食べすぎて、なんてオチはいらないからな」
 
 静かに微笑みながら、士郎さんがそう言う。
 じゃあ、食中毒とかの心配はなさそうだ。と、言っても、士郎さんが作っている手前、そんなことは天地がひっくりかえっても起こらなさそうだけど。
 
 そう言っているうちにもサンドイッチはなくなっていく。
 いつもよりも少し短めの朝食は、いつもよりも少し楽しかった。
 たぶん、藍華ちゃんにアリスちゃんもいるからだと思う。
 
 そう言えば。
 
 「アリスちゃん。学校は大丈夫なの?」
 
 「はい。アクア・アルタの場合休校になりますから」
 
 「んー? それじゃあ、あんた今日が予報外れてアクア・アルタじゃなかったらどうるつもりだったのよ?」
 
 「一応制服と学校の用意は持って来てましたよ。もちろん」
 
 もちろん、の言葉に少し棘があった気もするけど、まぁ、準備があるなら心配なしだね。
 朝ごはんも無事に終わり、さて、どうしようかと悩んでしまうのがアクア・アルタの困ったところ。練習しようにも危険だし、散歩しようにもやっぱり危ないし、部屋にこもっていてもきっといつか飽きる。
 こういうときは、たいてい予約の電話待ちか、緊急のお買いものだ。
 
 そう言えば、お買いもの。
 
 「士郎さん、おかいも――――」
 
 「はーい、灯里。あんたの部屋もっとよく見せてよ。なんか面白いものないの? マンホーム時代のアルバムとか」
 
 「藍華先輩?」
 
 藍華ちゃんが急に口を押さえてきた。
 それを不思議に思っていると、藍華ちゃんが小声でこしょりと呟いた。
 
 「ばかね、あんたら。アリシアさん見てなんか気付かないのっ?」
 
 「え、アリシアさん?」
 
 「全然わかりませんが」
 
 「だからおこちゃまーズは」
 
 おこちゃまーズって、なにげに酷くないかな?
 は、別にいいや。どういうこと、と訊きかえす。
 
 「あんたらねぇ。この頃のアリシアさんの態度見てたらわかるでしょ? 士郎さんとか」
 
 「へ? だっていっつもあんな感じだし」
 
 「ですね。特に不思議に思ったことありませんが」
 
 「あんたら素敵なほど恋愛感覚麻痺してるっつーか……」
 
 「えへへ、ありがとう?」
 
 「褒めてないから。……や、もういいや。とにかくあんたの部屋に行くわよ、灯里」
 
 「はひ……?」
 
 なんだかよくわからないまま、私とアリスちゃんは、藍華ちゃんに背中を押されながら階段を上がっていったのでした。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「別にいてもいいんだぞ?」
 
 「手伝いたいんです。どうしてもダメだって言うなら、やめますけど」
 
 「そこまでじゃないんだけど……まぁ、アリシアがいいって言うなら」
 
 「ありがとうございますっ」
 
 いつものスニーカーから、サンダルへ履き換える。
 ジーンズの裾を膝辺りまで折り上げ、アクア・アルタで浸水してきた海面に足を浸けた。
 アリシアはワンピースのスリットを畳むように、膝上で括って同じようにサンダルを履いて海面へ。
 ざぶざぶと水を蹴りながら路地を進んでいく。アクア・アルタの時期が来たってことは、そろそろボッコロの日も近かったかな、なんて思って、去年の事を思い出してしまった。
 
 『ここは、士郎さん用に取っておいたんですよ?』
 
 思い出してから後悔した。しばらくアリシアの顔をまともに見れそうもない。
 俺が渡した薔薇を、迷うことなく胸に飾り、笑ってくれた。
 
 「? どうしたんですか、士郎さん」
 
 「いや、なんでもない」
 
 少し早足になってアリシアの顔を視界から外す。
 アリシアがうしろにしっかりついてきていることを水を切る音で確認しながら、怪しまれない程度のスピードで視界から彼女を外して歩く。
 一度思い出したもんだから、なかなか頭から離れない。何度も何度もあの言葉がリピートされている。
 ああもう、切れ切れ。思考停止思考停止。無心だ、無我だ、明鏡止水だ。
 
 やっとの思いで例の思い出を宝箱に押し込めた。
 ちょうどその頃、アイナの店に到着した。
 
 「やっぱり閉まってるな」
 
 「あらあら」
 
 「でもまぁ、アイナのことだから……」
 
 近所の悪ガキどもとでも遊んでるに違いない。
 アリシアには店の前で待っていてもらうことにして、俺はアイナを探しに路地のさらに奥に進んでいく。
 この先を少し行けば広場へ繋がっており、おそらくそこで――――
 
 「うわ、エミヤンあぶな――――っ」
 
 「は、あっ!?」
 
 路地を抜けたと同時、アイナの声が聞こえたかと思ったら、目の前にあったのは水の塊。
 バケツをぶっちゃけたような量の水が襲いかかってきた。
 
 「っでぁ!」
 
 水を払うように腕を振り抜く。
 パン、と水塊が弾け飛ぶ。飛び散ったしぶきがかかるが、それほどの量ではない。
 おおー、と子供たちの歓声が上がる。
 
 「なにしてんだ、お前ら」
 
 「水遊び」
 
 「いや、まぁそうだろうよ」
 
 「み・ず・あ・そ・びぃん」
 
 「やめろ気色悪い」
 
 変にくねくねとしながら艶っぽく言うもんだから怖気が走る。
 ちぇ、と舌打ちしながらこちらへ近づいてきた。
 
 「どしたん?」
 
 「いや、食糧が切れてな。店、開けられるか?」
 
 「お母さんは今日は閉めるって言ってたけど、エミヤンが頼めば開けてくれんじゃないかなぁ」
 
 そういうアイナは、水浸しだった。
 いつもはハネている髪の毛もしっとりと濡れて落ち着いている。
 どうでもいいが、そろそろそういうのをやめた方がいい気もするんだが、まぁ、近所の子供からは評判がいいみたいだし、文句は言うまい。
 だからと言って、大の女性があれでいいのか、と心配にもなる。
 まったくもって、どこかの虎教師を見ている気分になってくる。
 
 「まぁ、ほどほどにな」
 
 「わかってるってばー、まっかせんしゃい!」
 
 これ以上付き合っていたら俺まで巻き込まれそうだ。
 アリシアも待たせているし、アイナの言うことを信じて店の扉を叩いてみるとしよう。
 
 「……ん、あれ」
 
 戻ってみると、アリシアと女将さんが楽しそうに話し込んでいた。
 
 「アリシアちゃんも、あのトウヘンボク相手じゃ大変でしょうにねぇ」
 
 「あらあら、そんなことないですよ。士郎さんはいい人ですし、それに、今一番一緒にいたい人、ですし」
 
 「おやまぁ、妬けるねえ。はっはっはっ!」
 
 なんだか大変聞いてはいけない会話をしていた。
 ややこしい話になる前に、早々に用事を済ませるとしよう。
 
 「アリシア、女将さん」
 
 「おや、帰って来たかい」
 
 「おかえりなさい、士郎さん」
 
 「あの、女将さん、悪いとは思いますけどお店開けてもらっても大丈夫ですか?」
 
 「構わないよ。入んな」
 
 「ありがとうございます」
 
 と、いうものの、やはり正面から入るワケもなく、裏口に案内された。
 どうやら倉庫らしい。
 
 「まぁ、昨日仕入れたヤツらばっかりだから、痛んでるとかはないと思うけど、確かめて買っていってくんなよ」
 
 「じゃあ、さっそく」
 
 「私も手伝いますね」
 
 アリシアとふたりで並びながら、昼はどうしよう、夜はどうしようという話をしながら野菜を選んでいく。
 結局、どうせひとりでは抱えて持って帰れないような量になってしまった。
 
 「まいど。小舟貸そうか?」
 
 「助かります」
 
 小舟に荷物を乗せて、改めてお礼を言い、店を後にする。
 ちょうどその時アイナが帰って来たようで、一緒に見送ってくれた。
 
 「騒がしいな、ほんとに」
 
 「あらあら、うふふ。いいんじゃないですか、楽しくて」
 
 「だな」
 
 笑い合う。
 どうしてだろう。
 こうして笑い合えるのに、どうして、俺はこんなに苦しいんだろうか。
 それはアリシアの事を思って? それとも、俺自身の事を思って?
 保身のためか、それとも本当に彼女を想っての迷いなのだろうか。俺のなにが心に引っかかっているのだろうか。
 
 まだ、アリシアの気持には応えられない。
 ……違うな。俺自身の気持ちが俺自身で分かっていないんだ。
 
 いつかの理解。
 
 わからないという事がわかった。
 
 それじゃあ、もうダメなんだ。
 わからないことを、わからないと言っているのは、それはつまり、自分自身を閉ざしているということなんじゃないのだろうか。
 自分を閉ざして、それで誰かの気持に応えようなんて、それはどうなんだ。
 だから、だろう。
 俺は誰かを、誰かに、想い想われる資格なんて、ないんじゃないのか?
 
 こうして生きてきて、俺の手は、もうとっくに黒い。
 アリシアの手は、あまりに白い。
 
 「アリシア、今年のボッコロの日も、渡すから」
 
 「え?」
 
 「薔薇。渡すから」
 
 「……あ、はい。待ってますね」
 
 「ああ」
 
 だけど、だけどそんな俺でも、なにか出来ることがあるとするならば、すがってみたい。
 それがわからなかった答えだったとするのなら、誰かどうか、今すぐ俺に教えて欲しい。
 情けない。
 初めてだった。
 純粋な、生命にかかる絶対的な恐怖でもない。
 聖杯戦争、それ以後、幾度となくかけられた殺気のどれよりも、今、俺はアリシアが怖い。
 
 アリシアを傷つけてしまう事が、傷つけられることが、なにより怖い。
 だから、アリシアのあの好意が、どんな“死のカタチ”だろうと敵わないほどに、怖い。
 俺に本当に関わらせるということが、とんでもなく怖い。
 
 「アリシア。……アリシア」
 
 「? なんですか、士郎さん。私はここにいますよ」
 
 「ああ、うん。いや、なんでもないんだ。ごめん」
 
 「あらあら。変な士郎さん」
 
 とんでもなく、ああ、どうしようもないほどに俺は。
 
 アリシアが、彼女の事が―――――…………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ……――――好き、なんだ。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:32   end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

いつの間にか、もう年末が見えてきましたね。あと拍手レス。

ども、草之です。
ということで、もう11月が始まってしまいますよ。
あと2ヶ月しか今年がないんですよ。早いなぁ。
 
それにしてもあれですよね。
今年はなんだか、何もしてない気がしますね(笑)。
自分として成長したのかどうかも主観では全然わかりませんし。
文章がうまく書けるようになってたらいいのになぁ。
 
ちょこっと『B.A.C.K』の更新速度を早めようと思います。
とりあえず、目標としては11月中にAct:6を終了、年内に完結に持っていくのは変わらないんですが、今のままだとちょっと間に合いそうもないんで、途中で2回連続で更新するときがあると思います、という連絡を一応事前にしておきます。
いつになるかはわかりませんが、そういう方向で進めるのであしからずです。
 
と、いうことで以下拍手レスです。
草之でした。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

∞クライマックス=極上のエンターテイメント。そこから拍手レス。

ども、草之です。
 
『ベヨネッタ』のなにが面白いって、アクションというよりも、そのエンターテイメントさ加減がとてつもなくツボ。
元々こういうアクション系のゲームはあまりやらないんでノーマルでそれなりにひーこら言ってますが、それを補って余りある退屈のしなさがある。
 
あと、5章……。
すごく、ジョジョいです。
 
ちょっとした冒険のつもりで買ったんですけど、買ってよかった。
いや、本当によかった。
 
しばらくはこれでお腹がいっぱいです。
そして、やはりアルトネリコにたどり着くという。こちらも楽しみすぎるほどに楽しみ。
 
 
では、以下拍手レスです。
以上、草之でした。
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

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Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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