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2009-11

B.A.C.K   Act:6-1

 
 《Inferior progress of a battle index plus 28(劣性戦況指数プラス28)》
 
 「いや、プラス35だ。予定より押され気味だ」
 
 戦闘開始から約10分。しかし、この数値は想定範囲内だ。
 水平線の上で射撃や砲撃の閃光が瞬いている。
 その光が徐々にアインヘリアル側に近づいてきている。おそらく、あと5分もしない内に最終防衛ラインにまで押し込まれてしまうだろう。
 
 「ラインハルト総括司令官どの、本当にこれでいいのですかな。私たちはこの作戦を失敗したからと言って作戦失敗というレッテルを貼られるだけで済むが、あなたはどうしたことだ」
 
 「作戦が失敗しても、全員が生き残り、おそらくこの後に来るだろう大規模戦闘に対して最も有利な戦況を作ることが出来るカタチは、これしかない」
 
 敵の編隊は、戦闘機人3、ガジェットⅠ型50、Ⅱ型100、Ⅲ型10。戦闘機人はあまり手を出していないようだが、解る。
 トーレがいる。
 
 『第4小隊、後退!』『第1小隊、後退っ』『右翼中隊、並びに6から10小隊、第3防衛ラインまで後退するぞ!!』『左翼中隊、2、3、5小隊、第4防衛ラインまで後退!!』
 
 《Inferior progress of a battle index plus 100.Force consumption rate is 18%(劣勢戦況指数プラス100。部隊消耗率、18%です)》
 
 「18%だと!?」
 
 フォルクスが驚く。
 只今の合計劣勢指数は300をオーバー。防戦一方、抵抗するだけで手一杯。後退を余儀なくされ、もはや残された手は『撤退』の二文字のみ、という数字だ。
 その部隊の消耗率の平均値は約30%を軽く超える。
 驚くのも無理はないが、この数字が出たことは必然と言えば必然だ。
 
 「作戦をフェイズ2へ移行。全部隊に通達、最終防衛ラインまで徐々に後退カカレ!!」
 
 通信の向こうから、次々に了解の言葉が飛んでくる。
 
 「……フォルクス。準備は出来ているか?」
 
 「下は海、空はAMF、退路を断つ位置に戦闘機人。部下のためには降伏が一番の選択なのだろうが、言っただろう。その自信を見ていると信じてみたくなってな。――――ああ、いつでもイケるぞ」
 
 どこまでも皮肉っぽく、フォルクスは言った。
 
 今回の作戦、まさかと思えば、そのまさかだった。
 だが、だからこそこの戦術が通用し、オレ個人の恨みも晴らすことが出来る。
 
 《Doing of all forces and retreat completion even of the final defense line(全部隊、最終防衛ラインまで後退完了)》
 
 ジークが淡々と告げる。
 次いで、警告。
 
 《C.M.M.Comes(戦闘機人、来ます)》
 
 三方向からの侵攻。
 ばら撒いておいたスフィアから映像を送ってもらう。
 AMF影響下のせいで画像は粗いが、見えないほどではなかった。
 大隊の一番厚い真正面からはトーレが、右翼からは赤髪、左翼からは淡色のピンク髪。
 それぞれ近・中距離型だと思われる。
 
 「正念場だ。これが成功すれば、この絶対的不利が絶対的有利に変わる。逃げるな、迷うな。ここから先、諦めた者から脱落していく。その失敗は、死に直結しているぞ。誰もが笑って勝利を祝えるように、全員、無事にオレの視界に戻って来い……、いいな!!」
 
 雄たけび。
 若干混じっている女性局員でさえ、雄々しくその声を猛らせる。
 決戦だ。これで、チェック……――――!!
 
 
 *  ~  *  ~  *
 
 
 「な、馬鹿な……何を考えているのですか!?」
 
 フォルクスが吠えた。
 フォルクスだけではない。その場にいる全員が間違いなくユーリの発表した戦術に疑問を抱いていた。
 前提が馬鹿げている、とフォルクスが激怒した。
 
 「“アインヘリアルを護ることは考えなくていい”!? 『戦場の演出家』が聞いて呆れる! 守護対象を守らず、何を護っての守護任務であるか!!」
 
 「ああ、その通りだ、フォルクス。しかし、その守護対象が、本当に守護対象なんて言い切れるのか?」
 
 「何を馬鹿な! …………いや、まさか……」
 
 「オレは現在も犯罪者だ。管理局に反逆したとして、罪科を科せられている。そのオレがこの作戦を成功に導き、誰が得をし、では誰が損をする……?」
 
 「馬鹿な。それこそ“大”前提が覆る! 誰が敵で、誰が味方だ!?」
 
 「この後に調べようと思っていたが、よし、全員でこのアインヘリアルを調べるぞ。発見次第オレに連絡してくれ。間違っても発見物を触ったりしようなんて思うな」
 
 ユーリの指示で探索班が分けられ、アインヘリアルの隅から隅までを調べつくすことになった。
 するとどういうことだ。
 発見物を見つけたという通信の数たるや、実に100を超えた。
 
 「馬鹿な……そんな……なぜ……!?」
 
 「なぜも何もない。最高評議会ってのは、そこまで頭がイッてる連中だってことだ。総括指揮官は、まずどこにいる?」
 
 「守護目標、今回で言えばアインヘリアルに陣取っているはずだ」
 
 「……なぜ、隊長格ではなく、副隊長格が部隊編入されているのか、なぜ大半が新人局員で埋め尽くされているのか……、本当の理由ってのは、これだ」
 
 ユーリが目の前の『発見物』を指差す。
 傍らに立っていたフォルクスが、頭を抱える。
 
 ユーリが指差したのは、大型の魔力爆弾。それひとつで一軒家を数軒に渡って吹き飛ばせるような、範囲と威力を誇るものだ。
 普通はファイアリングロックをかけ、迎撃兵器として使用されるそれが、アインヘリアルに100を超す数を内包している理由。
 なによりも、普通はかかっているはずのファイアリングロックが解除されている理由。
 そうなれば、もうすでに質量兵器となんらかわることはない。
 
 「もし、オレが任務を成功した場合、おそらくこいつが発動する。それか、強い衝撃を与えるだけでも発動するだろう。さも、敵の攻撃を受け、爆散してしまったとしか思えない状況を造りながらな。そうなると、死亡率が一番高いのはまずはお前だ、フォルクス。そして、同じくオレ。その次に副隊長格。逆に生き残る確率が一番高くなるのは、新人たち」
 
 震える声で、フォルクスが消えるような声で呟いた。
 
 「これが確実に発動すれば、私は必然的高確率で死にいたる。副隊長陣にも被害は甚大だろう。だが、それを見て不自然だと思いつつも無事なのはほとんどが新人という、地位が低い者たち。誰かが真実に達したとしても、上層部は、聞く耳も持たない。結果として、ユークリッド・ラインハルトの死亡と、さらなる罪科の付加など、全てをなすりつけることも出来なくはない…………そういう、ことだな?」
 
 「ご明察。さすがだフォルクス」
 
 ユーリは再び局員たちを召集。
 本格的なブリーフィングを始めた。
 
 「通信は聞いていたな。そういうことだ。よって“アインヘリアル”は守護対象から外す。陣はオーソドックスなモノを使う。しかし、決して粘ろうとするな。その場を保つのではなく、躊躇なく後退しろ。最終防衛ラインまで降りて来るところまでが、フェイズ1。フェイズ2がこの作戦のキモだ。最終防衛ラインからさらにラインを縮めて行け。ガジェットを出来るだけアインヘリアルに引きつけろ。では質問だ。この中で管理外世界での戦闘経験のある者は?」
 
 す、と手を上げたのは、なんとフォルクスひとりだけだった。
 新人には期待などしていなかったが、まさか副隊長格の局員まで経験なしだとはユーリも思っていなかった。
 ユーリは質問を変えることにした。
 
 「では、この中で結界を張れる者は?」
 
 と、質問すると他に副隊長格の局員が10人ほど手を上げた。
 新人のなかにもポツリポツリと手を上げる者がいた。
 
 「今手を上げた者は大隊に所属変更だ。フェイズ2からが出番だ」
 
 「どういうことです、総括指揮官どの?」
 
 まだ揺れ動いているのだろう、フォルクスがユーリに訊いた。
 
 「今から説明する。…………ミッドチルダでの魔法戦では、まずほとんどの場合結界を張ることはない。それを逆手に、ガジェットをアインヘリアルともども閉じ込める」
 
 「――――まっ、爆破させるつもりですかっ!?」
 
 「ヤ。このアインヘリアルが元々爆破される予定のものなのなら、それを使わない手はない。そうだろう?」
 
 「しかし……」
 
 「迷うな、と言ったな? どうする、フォルクス。この作戦、お前が主体となるんだぞ?」
 
 フォルクスは目を丸くした。
 彼の中では、すでにユーリがせんとする作戦が浮かんでいる。
 最終防衛ラインにまで“誘い込んだ”ガジェットを結界で閉じ込め、アインヘリアルを爆破。
 爆発に巻き込んでガジェットを一気に破壊。たとえ戦闘機人が相手になろうとも、数的優勢を約束される。
 結局、戦闘とは質ではなく量なのだ。一騎当千の兵がいたとしても、こちらが1001人の人数がいれば勝てる可能性は飛躍的に上昇する。
 どれほどの数の戦闘機人が来るかは謎だが、2桁に届くとは思えない。楽観的に考えてもいいというのなら、片手で数えられる人数のはずだ。
 その前の後退戦闘で削られる人数を考えても、5以内対400オーバー。
 
 相手がSランクの戦闘力を持っていたとしても、BからCランクの戦闘員100でかかれば勝てない相手ではない。
 
 「……震える。これが、勝利の震えか。了解した、ユークリッド・ラインハルト統括指揮官。従おう」
 
 どよ、とざわつく。
 ユーリではなく、今度はフォルクスが言った。
 
 「彼の作戦には、若さがある。勢いと、奇抜さ。正直私が一等毛嫌いしているものだ。しかし、その勢いと奇抜さの奥には、分の悪い賭けではない、確実な勝利の震えを感じることが出来た。どうだ、諸君。信じてみないか。なにもユークリッド指揮官を信じろとは言わぬ」
 
 む、とユーリが唸るも、興奮気味のフォルクスが気付くはずもない。
 今にも声が裏返ってしまいそうな勢いをつけ、フォルクスは高らかに叫んだ。
 
 「簡単なことだ。彼を、ではなく、彼の二つ名を信じてみてはどうか? 『戦場の演出家』、その手腕を!!」
 
 おお、と先程とは違うどよめきが生まれる。
 次々に声が上がっていく。
 
 「……フォルクス。感謝する」
 
 「この戦いが終わってから、あなたの下で戦ってみたくなった」
 
 「なんだって?」
 
 「なんでもない。聞き流してくれて結構!」
 
 フォルクスも騒ぎのなかに参加する。
 一人一人の士気が高まっていくのがはっきりとわかる。
 仕込みは出来た、とユーリはほくそ笑む。
 
 あとは、どこまで実際の戦場を想定できるか、ユーリはそればかりを考えていた。
 
 
 *  ~  *  ~  *
 
 
 「フェイズ2、展開開始っ!」
 
 号令と同時、最終防衛ラインにいた全員が一気に前進する。
 しんがりを結界を展開する魔導師に任せ、ほとんど全員が結界の外へ退避する。
 
 「結界展開、同時に収縮、フォルクス!」
 
 「まかされよう!!」
 
 外側から、顎を閉めるように結界が展開していく。
 同時進行で結界が縮小していく。AMFで若干弱まっているものの、収縮していくにつれ、密度が高まり、言うほどの弱体は見られない。
 あとは時間との勝負だ。
 
 「右翼、四時方向から戦闘機人接近!」
 
 「赤毛か!」
 
 防衛ラインを無理矢理こじ開けてきたか……。
 察するに突破力……、スバルと同じフロントアタッカーの中でも、切り込み隊長とまで呼ばれる超突破型の魔導師……もとい戦闘機人か。
 まずいな、ここまで切り込んでくるのか。この突破力は厄介だ。
 
 「収縮率は?」
 
 「48%です。あと30秒」
 
 「爆破を早める。――80%までならどうだ?」
 
 「22秒」
 
 「長い。65%までだ」
 
 「了解!」
 
 赤毛の到着があと10秒もないだろう。
 こちらの戦力は俺とフォルクスが率いる、小隊単位の居残り組。
 ――間に合うか。
 
 「ジークフリード。スカバード!」
 
 《Yes,sir.“Scabbard mode”standby ready(了解。“スカバードモード”スタンバイ)》
 
 「対物防御、全開でだ!!」
 
 《Protection Boost from cartridge loading(カートリッジロードから、プロテクション・ブースト)》
 
 鞘の下方に移動したカートリッジシステムが炸裂する。
 それを号令として、小隊単位の居残り組がフォルクスと俺の周りに集まってくる。
 
 「展開!!」
 
 《Development(展開)》
 
 蒼い障壁が球状に展開する。
 防御魔法に特化したスカバードモードが出せる最高出力でのプロテクション。アインヘリアルの爆発には耐えられるだろうと踏んではいるのだが、あの赤毛がどれほどのバリアブレイクを持っているかも問題だ。
 あの突破力は、はっきりいって想定外。単純なものなら、スバル以上のものを持っている。スバルが腕を主に使うのに対して、赤毛は脚を主に使うのも関係しているのかもしれない。
 
 とにかく、フォルクスと、外にいて結界を操っているやつらを信じるしかない。
 
 「あとどれくらいかかる?」
 
 「あと――――」
 
 と、フォルクスが報告しようとした時だった。
 彼はその言葉を区切り、目の色を変えながら叫ぶ。
 
 「前だ! 真正面から来る!!」
 
 黄色い道が空を旋回していた。
 その上を、赤毛の戦闘機人が駆け抜けていく。目が合った。笑っていた。
 黄色い道――まるでスバルやギンガ陸曹のウィングロードのような魔法だ――、それが急転換してこちらへ飛び込んできた。ものすごい加速だ。スバルと比べても遜色ない。
 保険とばかりにカートリッジをもう一発炸裂させる。
 
 「オラァ!!」
 
 腰から下がまるで蛇のようにしなった。
 鞭のように放たれる蹴りの先端――つまりつま先は、ほとんど音速を超える。
 
 バヂィッ!!
 
 プロテクションと真正面から、力技で壊しに来た。
 しかし、この威力は……受け続ければこちらもまずいことになりかねない。
 
 「おいおいどうした、ぉラァ! 出てきて勝負してみやがれ!!」
 
 罵倒を繰り返しながら、プロテクションを蹴る蹴る蹴る。
 衝撃が中の空間にまで伝わってくる。
 
 「フォルクス!」
 
 「あと5秒だ!!」
 
 「――――、10秒だ。収縮率を上げろ!」
 
 「な、この状況でか!?」
 
 「耐えられる、やれ!!」
 
 ジークが続けざまにカートリッジをロード。
 今装着している分のマガジンのカートリッジは空になった。
 代わりに、プロテクションの強度が息を吹き返す。強力になった障壁に表情を歪ませながらも、赤毛の蹴りは続いている。むしろ、さきほどよりも力が込められているような感じになっている。
 
 マガジンは出来るだけ温存しておきたかったが、作戦遂行が優先か、私怨が優先か。
 6発入りシリンダーはあと3つ。予備としての手持ちのバラは4発。予備を使うか?
 
 「収縮は、69%まで完了したぞ」
 
 「わかった。バルムンク!!」
 
 《Anfang(起動)》
 
 「収縮の手は休めるな。徐々に縮めろ」
 
 「了解!」
 
 バルムンクを片手に構える。
 
 「震えよ……!」
 
 カートリッジシステムのコッキングカバーが開く。
 同時、シリンダーが回転を始める。徐々に徐々に回転速度を速めていく。ある一定の回転数を超えたあたりから、刃が鳴動を始めた。
 
 《Knien Sie vor Angst!(恐怖と共に跪くがいい!)》
 
 プロテクションを蹴り続けていた赤毛の表情に恐怖が浮かんだ。
 それでも、攻撃の手を休めようとしないところは、さすがと言える。
 だが同時に、それは無謀って言うんだ。危機管理能力が欠乏してるのか、それとも余裕か?
 
 「爆ぜろ、アインヘリアル!!」
 
 バルムンクを掲げる。
 一層強い回転の鳴動を刃に乗せながら、その震えはアインヘリアルに伝わる。
 それは衝撃となって内部を揺らし、衝撃は魔力爆弾に点火する。
 
 ここでようやく、周囲の魔力の異常な高まりに赤毛が気づいたようだった。
 
 「てめえ!」
 
 しかし、赤毛はそれでも攻撃の手を休めない。
 鞭のような蹴撃に、プロテクションが唸りを上げてひび割れる。
 しまった――――、道連れにするつもりか!?
 
 「ノーヴェ、そこまでだ、退け!!」
 
 「な、トーレ姉、ここでこいつらを倒さねえと……!」
 
 「馬鹿め、忘れたのか。我らの目的はこの兵器の破壊だ。さっさとここから離れるぞ」
 
 「でも……!!」
 
 「お前がここで倒れると計画が狂う。それに、お前が倒したいのはそいつじゃないのだろう」
 
 「……ち」
 
 見上げる空には、ひとりの戦闘機人が浮かんでいた。
 優々と腕を組み、こちらを見下げる瞳は鋭く冷たい。隆々たる筋肉と、長身。鍛え抜かれた流線型の身体は、まるで豹をイメージさせる。
 
 「トーレ……!」
 
 「ラインハルト。よくもここまで我らを弄んでくれたな。これでは我らが撤退せざるをえん。そして、お前はこの作戦が終了した後こう言うのだろう。『あいつらは地上本部に向かう。お前たちは追撃しろ』と、こんな具合に」
 
 「ご明察」
 
 「そうすると、我らがわからしんがりを要する。……私だ」
 
 「だろうな」
 
 「勝負をつけるぞ、ラインハルト。いや、お前をもう家名で呼ぶまい。ユークリッド!!」
 
 瞬間、爆光があたりを照らす。
 次いで来る衝撃波、爆炎、爆熱。
 四方八方から、まるで六つ手で巨人に殴られ続けるような衝撃がプロテクションを襲う。
 バリバリと、バリバリとひびが広がっていく。
 爆心地にいるのだ、それは当たり前。しかし、ここで耐えきることが出来なければ、それこそ最高評議会の思うつぼだ。
 
 「ジークフリード!!」
 
 《Yes,sir》
 
 予備に持っておいたカートリッジを全弾装填。プロテクションを出来る限り強化する。
 ひび割れまでは回復はしないものの、耐えられるだけの強度は得られた。あとは、この爆煙が晴れるまで耐えてくれればそれでいい。
 
 「フォルクス、結界は?」
 
 「今の爆発で破壊。ガジェットの反応も10を切る数機を残しただけで、ほぼ壊滅。まだAMF影響下だが殲滅しようと思えば、我らだけでも十分すぎる数だ。隊員もほとんど全員が無事のまま」
 
 「会話は聞いていたな、フォルクス“総括司令官”?」
 
 「ラインハルト……!」
 
 「あとは任せたぞ。オレは、私怨に奔る」
 
 「……ご武運を願う。……――――全隊員に通達。只今、ユークリッド・ラインハルトが指揮権を放棄した。今から、私、フォルクス・ヴァーゲン・ヴァッサーが替わり総括司令に復帰する。全員、撤退した戦闘機人を追って地上本部へ急行せよ!! 繰り返す、撤退した戦闘機人を追って地上本部へ急行せよ!!」
 
 それでいい。
 フォルクスを含めた全隊員が地上本部の方向へ飛び立っていく。
 後に残ったのは、未だに晴れない黒い爆煙と、アインヘリアルの装甲だったの欠片。それらが海に浮かび、燃えている。
 ジークフリードを腰に、バルムンクを両手で構える。
 
 「…………トーレ、来い!!」
 
 言った瞬間、閃光で尾を引いたトーレが突っ込んできた。
 黒煙が晴れる。
 凄まじい衝撃が腕を襲う。高速機動に裏打ちされた、スピードを乗せた拳の一撃。
 重い。
 
 「ユークリッド!」
 
 「でぇらッ!!」
 
 振り抜き、弾く。
 一旦離れる距離も、また一瞬で縮められる。
 連打。拳と脚と、その両方に付いたブレードでの高速連打撃。
 さばききるには、多すぎる。
 
 「ジーク、バリアジャケットを騎士甲冑に変えろ!」
 
 《Yes》
 
 一気に体が重くなる。
 しかし、防御をくぐり抜けてきたトーレの拳が直撃してもあまりダメージらしいダメージにはならなくなった。
 
 「硬い……!」
 
 「はァ!」
 
 もう一度弾く。
 距離を離されたトーレは、しかし今度は接近してはこなかった。
 
 「……重そうだな、ユークリッド」
 
 「防御魔法並みの強度を貰う代償だと思えば、そうでもない」
 
 「強がりだろう」
 
 「ご明察。正直、お前を捉えきる自信はない」
 
 「ほう……?」
 
 「空中では、な」
 
 「言う!」
 
 二ヤリ、とトーレが邪悪に笑う。
 瞬間、トーレの姿が掻き消えた。と、認識した瞬間に脇腹を強打される。
 
 「ぐ!?」
 
 認識が一瞬遅れて、次の認識が追いつくまでに、一歩先の痛みがトーレによって与えられる。
 疾い……!!
 
 「逃げ場はないぞ、ユークリッド!」
 
 「逃げねえよ、お前を破壊するまでは!!」
 
 バルムンクをジークフリードに納める。
 
 《Explosion!》
 
 「漆刀壱刃――――!!」
 
 《Lang Stoszahn》
 
 薙ぎ払う。
 視界を覆い尽くすような残光。魔力刃で延長された刃が、周囲一帯を薙ぎ払った。
 近づきつつあったガジェットがそれに巻き込まれ、真っ二つに切り裂かれていく。
 トーレの動きが一瞬遅くなる。移動線上に、たまたま魔力刃が振られたからだろう、ブレーキをかけ、動きが認識の範囲内に収まる。
 ――――捉えた。
 
 ドン、という衝撃。
 トーレのブレードとバルムンクの刃が拮抗する。
 押し込む。鍔迫り合いになって、トーレの姿を捉えて、興奮が高まる。
 瞳孔が開く。もっと、もっととトーレの姿で視界を埋め尽くすように、私怨を燃やす。
 
 「トーレ……ッ、トーレェエエ!!」
 
 ガンッ、とカートリッジの炸裂音。
 バルムンクが鳴動を始める。それに共鳴するようにトーレのブレードが震え始める。
 びしり、とヒビが入る。もちろん、トーレのブレードに、だ。
 
 「ちぃっ」
 
 「どうした、トーレ、どうしたっ、親父を殺ったんだろ、なら、ならそれくらいの強さを見せてくれてもいいんじゃないのか、おい、どうしたトーレ、かかってこいよォ!!」
 
 「ほざくな、ガキがァッ!!」
 
 お互いに弾き合う。距離を離し、お互いを睨みあう。
 
 「ユークリッド、強いな、お前は」
 
 「トーレ、もっと強いだろ、お前は」
 
 トーレが消える。認識を振り切って、迫る。
 鳩尾に一発。大したダメージじゃない。が。
 
 「望み通り、本気で討ち合ってやろう」
 
 「来いよ、お人形ォ!」
 
 「言ったな!?」
 
 消える。と同時に貫かれる。
 拳や脚だけではない、ブレードすら使った全方位からの乱撃。
 いくら防御魔法並みの強度があるといっても、受け続ければ脆くなる。
 実際、騎士甲冑にはすでに切れ込みが入ってきていた。
 
 「嬲られてお終いか、ユークリッド!?」
 
 「黙れっ」
 
 たった一撃。
 もし、チャンスがあるならそれだけだと思っている。
 親父が戦ったのは、城の通路という狭所。そこではトーレのスピードも生かし切れなかっただろう。
 今の状況で、場所的不利は、正直否めない。
 “だから”、防御する。
 
 「知ってるかよ、トーレ。オレたちが、どれだけ泣いたか」
 
 「知らんな。いちいち気にしていたら、それこそ身が持たん。我らにも必要なメモリと、不必要なメモリの区別くらいつく」
 
 「知ってるかよ、トーレ。オレが今どこにいるか」
 
 「なに……? ……っ、ここは!?」
 
 だから、場所的不利を、打開する。
 一番近い岸には、木が群生している。つまり、森だ。
 ラインハルトの剣は、竜を滅する剣であると同時に、空間を支配する剣でもある。
 その意味は多岐に及ぶが、その一番の理由は、これにある。
 
 「“空間的”有利が決定されれば、ラインハルトの剣は、敵を逃さない。それは、お前も実証済みだろう?」
 
 「森に、誘いこんだのか?」
 
 「言い得て妙だな。お前が攻撃してくるから、徐々に退いていったら、“たまたま”ここに来ただけだ」
 
 「狸め」
 
 そして、森という地に足がつく場所なら、こちらも速度を気にしなくて済む。
 なんせ、オレの騎士甲冑は飛ぶよりも走った方が速い。
 
 飛ぶよりも、“跳んだ”方が数倍速い。
 
 「っちィ!」
 
 トーレが動く、より早く、オレが動く。
 大地を蹴る。土塊が弾け上がり、視界が溶ける。
 撃ち下ろす。その跳躍を維持したまま、木に着地する。と、同時に跳躍する。まだ仰け反りから立ち直れないままのトーレに迫撃。その横面に拳を叩きつける。殴った瞬間の、女の顔の面影もない歪んだ顔になったときなんて、笑いがこみあげてくるようだった。
 再び大地を駆ける。
 鞘になっているジークフリードの先端を延髄に押し当てる。グぎり、と愉快な音がして、トーレを大地に叩きつけた。跳ね返ってきたトーレの身体を、まるでボールでも蹴飛ばすように吹き飛ばす。跳ぶ。数瞬もなく間を詰め、ジークフリードを叩きつけた。
 今度は追わない。
 
 「……グ、う。やはり、この戦法が……」
 
 「ラインハルトの極意だ。動きの速い奴ほど、この攻め方をされると戸惑うだろうな」
 
 「また、私はそれに敗れるのか?」
 
 「敗れる? なに、トーレ。お前生きて捕まるなんて思ってるんだな。大した自信だ。オレがそんなに慈悲深く見えるなら、その目玉、そっくりそのまま取り替えてもらえ」
 
 「言う。だが、私もそこまで馬鹿ではない。お前の父親とのデータは取ってある。すぐに追いつく」
 
 「やってみろ!!」
 
 「やってみせるさ!!」
 
 互いに弾けるように跳び回る。
 飛行の高機動戦闘を得意とするトーレと、跳躍の高機動戦闘を得意としたオレ。
 まさしく空間的有利は俺にある。あるのだが、その通り、トーレには親父との戦闘のデータがある。
 それはつまり、学習済みだということ。
 
 “お互いが”木の幹を蹴り、高速で森の中を跳び回る。
 そら、もう追いついてきた。
 
 「でりゃッ!」
 
 「シッ」
 
 ブレードと刃がぶつかり合う。
 木が揺れ動く、衝撃で木の葉が吹き飛んで行く。
 
 跳んでは搗ち合い、搗ち合っては跳ぶ。
 斬り込んでは弾け、踏み込んでは火花が散る。
 
 お互いが一切容赦のない跳躍を続けるにつれ、周りの木が衝撃に耐えきれず一本、また一本と倒れて行く。
 その度に俺は場所を若干ずらし、トーレはどうにかして開けた空間――つまり自分に有利な空間――を造ろうとしていた。
 
 一度の跳躍は、ほぼ移動魔法並みの速度で行われる。
 一歩間違えば、お互いに木にぶつかってぐしゃり、だ。その中で、敵を見失うことなく、また、外すことなく攻撃を当て続ける。
 それは、思っている以上にキツイ。
 
 オレは、この戦い方をしてきたから、慣れたと言えば慣れている。
 しかし、トーレはいくら模倣したからと言って、所詮は経験のない、付焼き刃でしかない。いくら戦闘行為に特化したカタチで弄られていると言っても、このストレスにいつ潰れるかわからない状態のはずだ。
 だが、そのトーレの攻撃は苛烈を極めている。こちらもいつ潰されるかわからない状態だ。
 
 俺か、トーレか。
 潰れた方が、この勝負生き残る。
 
 「ぜやァッ!!」
 
 「ふしッ!」
 
 竜巻のような勢いで放たれるトーレの拳と、その竜巻を両断しようと振るうオレの剣戟。
 しかし、いつまで経ってもトーレが折れる気配はない。幾度目かの高速の交錯が行われる瞬間、確認した。
 トーレは、余裕をたっぷり湛えて笑っていた。
 ギクリとした。これ以上、トーレのスピードが上がるはずはない。上がったとしても、それはただの自殺行為だ。戦闘機人が、どれだけの戦闘機動に耐えられるかはまったくわからない。が、人としてのカタチを持つ限り、そこに限界があるはずだ。
 それがここ。これ以上の速度上昇は、木の耐久度から見ても無理だ。
 
 だのに、トーレは余裕を湛えて笑っていたのだ。
 
 ――どういうことだ?
 
 考える。マルチタスク。戦闘とは別の場所で、考える。
 どこかで何かを聞いた。なんだったか。
 トーレは一体、なにをどういうふうに言っていたのだろうか。
 
 ――――『知らんな。いちいち気にしていたら、それこそ身が持たん。我らにも必要なメモリと、不必要なメモリの区別くらいつく』
 
 まさか、と思うとぞっとした。
 いくらなんでも馬鹿げている。そんなはずはない。
 “戦闘に必要のないストレスだけを選択してメモリ、つまり記憶から削除しているなんて、ありえない”。
 
 信じたくはない事実だった。
 だとしたら、あの笑みはなんだという。なんだというのだ。
 
 「ちィッ」
 
 木の一本一本がカーテンのように見える視界のなかで、ブレずに動く物体を目で追う。
 同等の速度で動くトーレだけが、この視界のなかで溶けずに視界に移る。
 
 嗤っていた。
 
 確信した。
 トーレは、戦闘に必要のないストレスを選択削除している。
 もしそれがハッタリだとしても、少なからず可能性のあるものだ。
 
 なら、これ以上続ければ、この戦闘はオレの体力が切れて負け、死が待っている。
 ――――……ならば。
 
 「バルムンク! フォルム・ツヴァイ!!」
 
 《Blühen Schwert Form》
 
 ブリューエンシュベルトフォルム。
 咲く剣という意味を持つ、バルムンクの対竜決戦形態。
 それはもはや――――、
 
 ――――ドがん。
 
 剣というには、大きすぎるナリだ。
 オレの身長以上の刀身。オレの肩幅以上の剣の腹。
 カートリッジシステムは柄頭に移動し、握りの長さはフォルム・アインスの3倍近く。それだけでオレの足の長さはあろうかという長大さ。
 そして、その剣の腹の異様さ。剣の樋に刃が付いている。それは切っ先まで届く、異様な、“刃持つ樋”だった。
 これらを合わせてバルムンクのブリューエンシュベルト。
 とことん重く、堅く、そして強く。
 
 ただ純粋に破壊力を求めた、最強の剣。
 
 「なんのつもりだ、ユークリッド」
 
 「なんのつもりとは御挨拶だ。これでお前を叩き斬るつもりだ」
 
 「馬鹿もここまでくると天晴れと言いたいな。その鈍重な剣で私を捉えられると?」
 
 「鈍重かどうかは自分の眼で確かめてみるといい」
 
 「お前の虚言は聞き飽きたぞ!!」
 
 トーレが構える。
 だが、構えるだけで動こうとはしない。虚言、と自分で言い切っておきながら、やはりどこかで迷っている風だった。
 どうやら、つき続ければ嘘も本当になるらしい。
 
 「行くぞ、トーレ!」
 
 大地を蹴り跳ぶ。
 やはり、先ほどまでと比べると格段に速度は落ちる。しかし、それでもまだ遅くはない。
 
 「漆刀壱刃――――」
 
 《Explosion!》
 
 「挟顎!!」
 
 《Kinn des Schwertes!》
 
 キン・デス・シュベルテス。
 剣の顎を意味する剣戟。魔力刃で延長されたバルムンクのそれは、すでに牙を通り越す。
 顎というべき、牙の集合体。
 薙ぎ払えう。森もろとも、トーレ目がけて横殴りに振るう。
 巨人の手が迫るが如く迫力と、その迫力に力負けしない侵食とも言うべき剣戟。
 
 なまじ速いだけでは、避けられはしない。
 
 土煙が視界を隠す。
 目の前の森は、荒野に成り変っていた。
 なにか巨大な生物が森の一部を食い散らかしたような光景だ。
 ……だとしたら、ずいぶんベジタリアンなヤツだ。
 
 「これで終わりじゃァないだろ」
 
 呼びかけにも似た叫び。
 荒野の一部が盛り上がり、トーレが立ちあがった。
 
 「ほら、終わりじゃァない」
 
 「……たしかに、鈍重ではないらしいな」
 
 そう言うトーレの左腕から、バチリと火花が散っていた。
 一気に笑いがこみあげてくる。声に出すようなものではない。顔が引き攣る。嬉しい。今、オレは、親父の仇の腕に傷を負わせた。
 それがどれほど嬉しい事なのか、涙が出てきた。
 
 「一撃、傷つけられたことがそんなにも嬉しいのか、ユークリッド」
 
 「あァ、嬉しい。オレは、これだけのために生きてきたようなもんだ。お前が傷つくさまを見るのは、とても楽しい。最高の娯楽だ。……そォだな。スカリエッティなんかの人形じゃァなくて、オレの人形になってくれりゃァ、考えなくもない。一生オレの感情の捌け口になれるんだぜ? どうだ、考えただけでも腹が煮えるくらいにイラつくだろうがよ」
 
 「ああ、その通りだ。私はドクターのモノだ。他の誰でもない、ドクターだけの身体だ。私を傷つけても、嬲っても、愛でてもいいのはドクターだけだ……!! だから、私を傷つけたお前を、私は許さない。絶対にだ!!」
 
 トーレの足元に歯車を重ねたような魔法陣が浮かび上がる。
 戦闘機人の、先天固有技能。そのひとつ。
 
 「IS発動……ライドインパルス……ッ!!」
 
 人には、思考速度というものがある。
 それが反射的に行われるのを、反射行動などとも呼ぶ。それには、脳が考えてから身体が行動を起こすのに、若干のタイムラグが存在し、それが反射神経などという呼ばれ方の良し悪しを決める。
 
 Ride Impulse.
 衝動に乗る。つまり、反射神経のタイムラグなしでの行動を可能としたIS。
 それはつまり、反射神経を極限まで研ぎ澄ました人でさえ、辿り着けない神域の速度とも取れる。
 それを、持ち前の高速機動と掛け合わせ、誰にも到達しえない、まさしく神速と化すチカラ。
 
 交錯は一瞬よりもさらに短く、それは刹那。
 気づいた時には、騎士甲冑がリアクターパージしていた。
 
 「ぐ、ブ……!?」
 
 「遅いな、人間は」
 
 胃の中のものがこみあげてくる。
 それに耐えて、振り向いたときにはもういない。
 認識が遅れて、ボディに数発の拳が入った。気づいた時には、トーレは荒野の中央に立っている。
 
 「ち、ィッ」
 
 全く見えない。
 あるいは、本当に姿を消しているのかもしれない。
 
 「トー、レェッ!!」
 
 「お前の父親も、これで死んだ。私が殺した。どうだ、悔しかろう。いや、嬉しかろう。父親と同じ末路を辿らせてやるんだ。運良くば、会えるかもしれんぞ、ユークリッド」
 
 「まだ、行かねえ。行けねえんだよ。お前を壊して、仇とったぜって、親父に言えるようにならなきゃ、死ねねえんだよ。人形風情が、調子乗ってんじゃねェ!!」
 
 「ははははははッ! その人形風情にお前は殺されるんだぞ? これほど愉快なことはないな、ユークリッド!」
 
 バルムンクを背に負うように構える。
 瞬間、同じように前身ごろに幾発かの拳や蹴りや、ブレードの斬撃が行われ、騎士甲冑が徐々に削られていく。
 もはや、騎士甲冑はインナーを残しているだけ。
 腕の鎧も、脚につけたレガースもことごとくが砕かれた。
 
 バルムンクを盾にするように構えれば、神速の一瞬を置いて背中に乱撃が浴びせられる。
 どこに剣を置いても、四方のうちの一方を防御しているにすぎない。残る三方のどこから来るかは、まったくの運任せ。
 防御しようにも、相手が見えなければそれも意味をなさない。
 
 展開する前に、殴られ、蹴られ、斬りつけられる。
 
 「まだだ、まだ……」
 
 「うわ言か、ユークリッド」
 
 目の前に、トーレの顔がある。
 腕は上がる。足も動く。体力も、まだ戦えるだけはある。
 だが、“まだ”なんだ。
 
 「……どうだ、ドクターの研究素体にならないか。貴様程の生命力を持っていれば、ドクターも喜んで素体にしてくれるだろう。いい話だろう? はらわたが煮えくりかえるんだろう、どうなんだ、ユークリッド」
 
 「ちゃんちゃらおかしいね。研究素体? もうとっくに経験済みだよ。毎日毎日、ミルヒアイスの竜と殺し合いをさせられて、『滅竜』の維持限界はどこまでなのか、『滅竜』の出力限界はどこまでなのか、『滅竜』の成長速度はどれほどなのか。『滅竜』の仕組みはどうすれば安全かつ、効率的に働かせられるのか、また軍事に転用できるのか……。毎日毎日、竜と闘わされては『滅竜』を発動し、そのつど出された課題をやり、リンカーコアが限界に来たと思われれば、薬で無理矢理に急速回復させられ、また戦場に駆り出された。わかるか、この無限に続くとも思う苦しみが。この苦しみが、全部、全部、全部、全部ッ!!!! お前だよ……お前が原因なんだよ。お前がギプフェルの城を襲ったりしなければ、今頃オレはこんなところにはいないんだよ。ミーアと、クーと、親父と……まだ笑って生きていけてたんだよ……ッ!!!! スカリエッティがどうとか、管理局がどうとか、トーレ、お前がどうとか、そんなこと微塵も考えず、馬鹿みたいに笑いながら暮らせてたんだよ!!!! くそ……返せよ。返せって……オレの、幸せだっただろう未来を、返せ……よォ!!!!」
 
 独白だった。
 自分で言って、聞いていても情けないほどの独白だった。はやてにも話していない、オレの心の闇だった。
 目の前のトーレは、それを聞いても微塵も表情を変えなかった。当たり前だ。そこで表情なんて変えてみろ。壊す前に、精神的に壊してやる。スカリエッティにしか嬲らせないっていう身体を、ぐちゃぐちゃにしてやる。
 ぐちゃぐちゃに、ぐちゃぐちゃに、ぐちゃぐちゃに、ぐちゃぐちゃに、してやる……!!!!
 
 「こんなにつまらない奴だったとはな。……お前はつまり、私が支えだったといいたいんだろう?」
 
 「ああ、そうだ。否定なんかしてやるかよ。お前を殺したい、壊したい、その一心で今まで生きてきた。それだけを心の支えに、今まで生きてきた。それがオレの生きている理由だからだ……!!」
 
 バルムンクを握る。
 ジークフリードを握る。
 バルムンクはクラインフォルムに、ジークフリードに納める。
 
 「遊んでただろ、今まで。本気で来いよ。腹を貫こうと思えば、貫けただろ? 心臓を潰そうと思えば潰せた。頭を砕こうと思えば砕けただろ? 遊んでたんだろう? 来いよ。決着だ……」
 
 トーレが消えて、また荒野に立った。距離は15mといったところ。
 一瞬も必要のない、まさしく刹那の世界だった。
 
 気休め、とばかりに球状のプロテクションで全身を覆った。
 これで一瞬でも攻撃を止めてくれれば、それでよかった。
 
 「最後まで、無様な男だな」
 
 「どうとでも言えよ」
 
 トーレが消えた。と、同時にプロテクションに衝撃が奔った。
 それも一発ではない。四方八方からの乱撃。まさしく竜巻のような勢いで放たれる拳と蹴りと斬撃と。
 豹たるイメージを持つ戦闘機人は、プロテクション全体に衝撃を伝え、一点に打撃を集中させるということをしなかった。理由はわかっている。一点に集中してしまえば、自慢のライドインパルスもただ速いだけになってしまうからだ。どこから破れて、どこから最後の一撃が放たれるのか、それを悟らせないためにこれほどの攻撃を加えているのだろう。
 
 びきり、とプロテクションにひびが出来始めた。赤毛の戦闘機人のときより遅いのは、やはり衝撃を集中させなかったからだろう。
 集中させていれば、あるいは攻撃速度の意味合いでトーレの方が早かったかもしれない。
 
 びし、びし、と徐々にひびが広がっていく。
 振り向いた。この状況になって、初めて自分のデバイスの名と、命令を叫んだ。
 
 「ジークフリード、アクティブ!!!!」
 
 《Yes,sir》
 
 ジークフリードを鞘のまま構える。
 バルムンクを抜き放つ。
 
 ばしゃん、という、まるでガラスが砕けるような音が響いて、オレの真正面の障壁が崩れ、トーレと目が合った。
 崩れたことから出来る、一瞬の空ぶりによる隙。
 その隙を見逃さず、バルムンクを振るう――――
 
 「ジークフリード!!」
 
 ――――ことはしない。
 トーレはすでにブレードを伴った蹴りの姿勢に入っている。
 バルムンクを繰り出したところで、間に合わない。あらかじめ構えておいたジークへ命令する。
 
 「アクティブ!!」
 
 《SHIDEN-ISSEN》
 
 ほんの小さなラウンドシールドを展開する。
 脚が振り下ろされる曲線状に、その障壁を置く。
 
 「付け合わせの防御で時間稼ぎになるとでも思ったか!!」
 
 トーレの蹴りとブレードが迫る。
 瞳孔が開く。
 そう、付け合わせの防御では、時間稼ぎにもなりはしない――――
 
 「これで終わりだ!!」
 
 トーレの蹴りがラウンドシールドを砕く――――
 
 「――――っ!?」
 
 ――――否。
 
 「なッ」
 
 ――――それはただの防御ではない。
 
 「馬鹿、なッ!?」
 
 「紫電一閃――――ッ!!!!」
 
 ――――砕かれたのではない。“攻撃に合わせて展開した”のだ。
 それは、ミーアから習ったことだった。
 紫電一閃は、斬り開く剣閃を指し、漆刀は斬り尽くす剣閃を指す。
 この時を、待っていた……――――!!!!
 
 「バインド、だと……ッ!?」
 
 ――――その攻勢防御魔法の名を、“アクティブバインド”。
 ――――相手の攻撃に反応し、展開。捕縛する力は弱いが、バインドとして機能する。
 
 「――――“紅蓮”ッ!!!!」
 
 交錯する。
 無防備なトーレの身体を、斬り裂いた。
 人工血液が大地を染める。見降ろすと、トーレの上半身があった。
 
 「……が、グ、……ま、さか……な」
 
 「これで、オレの復讐は終わった。なにか言い残すことはないのか?」
 
 「つまらん、こと、を聞く、な……。では、お前の、勝利、は、運だっ、たと、言って、おこう」
 
 「運? 解らなかったのなら無理はないな。その解釈も」
 
 「なん……だと……?」
 
 「あのプロテクションには、脆い部分を仕込んであった。ちょうど、オレの背後に」
 
 「…………」
 
 「そこを選んだのにも理由がある。お前の行動だ。ライドインパルスを使用してから、お前はほとんど必ず、オレの背後を取って攻撃を加えてきた。思い出したように右、左に揺さぶったとしても、誤魔化されない。そして、最後だ。あのとき、もう一度ライドインパルスで移動していれば、そこに転がっているのはオレの首だっただろう。だが、お前はそれをしなかった。それも確信していた。なぜなら、トーレ、お前だからだ」
 
 「どう、いう……」
 
 「本気で来い、と言えば、お前は必ずそうする。本気で、“叩き潰しに来る”。今までのお前の言動と、行動、口ぶりから……戦闘におけるトーレという人格のなんたるかを、構築し、予想した結果、この可能性に辿り着いた。こちらがどう動けば、お前がどう動くか。オレは、可能性を割り出した。それは運でもなんでもない。確率に裏付けされた、確実な勝利の方程式。最後にイコールを結んだのは、お前のその人格ゆえだ」
 
 「…………ド、クター。もう、し……け、Aり、Mあ、せ………Zuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu」
 
 トーレの瞳から光が消える。
 それを確認してから、騎士甲冑からバリアジャケットに着替え、バルムンクを待機状態に、ジークをストライクモードにして、飛び立つ。
 
 今、オレの今までの心の支えが全てなくなった。
 帰るところも、なにも見いだせないままに。
 
 おそらく、六課の面々はすでに出撃し終わった頃だろう。
 あとオレに出来ることがあるとするのならば、それは一体なんなのだろうか。
 バルムンクも、ましてやジークフリードもなにも答えない。
 
 飛行に伴ってかかる向かい風や、心のどこかで今もなお吹く臆病風。
 ……答えなんて必要ない。オレには、帰ると約束した人がいる。
 それだけが、これからのオレを支える柱。……だから、オレはそのために生きる。
 
 大切な人を護れるように、大切な人のところに帰れるように。
 
 だから、オレは帰らないといけないのに。
 
 はやてのもとへ。
 
 だけど、高度がどんどん下がっていく。
 目が霞む。ジークを持つ手がだるい。
 バリアジャケットがまるで鉛のように感じる。
 
 遠くの空で、なにかが始まった。
 ここからでもぼやけて見える、なにかが見える。
 
 あそこにはやてがいるのに。
 いるはずなのに。
 
 帰ると約束した、大切な人がいるのに。
 護りたいと思った、大切な人なのに。
 
 
 
 
 オレはいつの間にか、大地に伏していた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:6-1  end
 
 
 
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

リンク追加のお知らせ。と、拍手レス。

ども、草之です。
 
今回は羽桜様の『SS LINKS』への登録と、もうひとつ。
 
KATSU様の『愛なき道』と、相互リンクさせてもらいました。
 
『愛なき道』は、まだ開設してから間もないサイトですが、なのはSSを扱っておられ、その文章力は一見の価値ありです。
しかもしかも、なんとも嬉しい事に草之の作品を文章構成やストーリー展開の参考にしてもらっているとか。
リンクしました、との報告があったので、ホイホイと相互リンクさせてもらうことにしました。
事後報告になりました。すいません。
 
肝心のSSの方は、どうやらオリジナル主人公を元に、A'sエピローグからの物語の様子。
ヒロインはフェイトになりそうな雰囲気ですね。
開設して間もない、ということで、まだ1話だけの物語ですが、それでもこれからの物語に期待が持てる作品でした。
これから主人公の上杉翔くんの成長にも期待大です。
 
 
ということで、リンクの報告でした。
以下、拍手レスです。
 
 
追伸。
拍手のお礼に嘘(から出るかもしれない誠)予告をひとつ更新しました。
出てくるまでは運任せですが(笑)。
ではでは。
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

ベヨネッタのハードがマジでハードな件。そして拍手レス。

ども、草之です。
ジャンヌがカッコよすぎて生きていくのが辛い。
エピローグで惚れた。なにあのスーパーライダー。セイバーもびっくりなバイクの乗りこなし。
「絶頂感がブッ続く」、のキャッチコピーに偽りはありませんでした。
 
というわけで、ベヨネッタのノーマルをクリアしましたよ!
いまいち遅い攻略速度ですが、まぁ、大学の履修を月~土をブッ続けて取った草之が悪いんですけどねー(笑)。やる時間がないんですよ。
別に親の前でやってても気にはしませんし、むしろ見せつける勢いでやってましたけど、だけど、せめて土曜日・日曜日だけは親にテレビを譲ることにしてるんで。リビングに一台だけなんです。
 
過去、最大の冒険は、ゲームの『ネギま!一時間目』を両親が見ている前で堂々とプレイしたことがありますしね。あれは確か、ちょうど明日菜のイベントシーンで、ネギがこけて、明日菜のスカートがずりおちてパンツ丸見え、という内容のイベントだったはず。
そうそう、あのゲーム、刹那がスパッツ履いてないんですよ!? 当時は「えー」と思ったものです。
あと、特別課外授業、あれの作り込みが結構凄いんですよ。たしかあれの発売当時、亜子の背中の傷のことには原作で触れられていなかったはずなのに、しっかりと亜子の背中に傷があるんですよ!
ちょっとした感動ものですよ!
 
なんだか話題がズレてきたので修正。
 
ベヨネッタのハードモード。
敵の耐久力が増えたとか、攻撃力が増えたとかは確かに若干ありますけど、それ自体はあんまり気にならない程度の増加なので気にはならないんですけど、出現する敵が鬼畜。
序章でいきなり中ボスクラスの敵がザコ敵として、スペックそのままで出現。マジで目を見張りました。ハードだ、ってね。
 
あとこのゲームのキャラクターって魅力的なヤツが多いんですよね。
チェシャ、もといルカとかはもちろん後半になっていくほど男前になっていくし、ロダンなんてもうズキュゥ~ンだし、エンツォも結構渋くてカッコヨイ。
ロダンに関しては、公式サイトとゲームのギャップを楽しむべきキャラクターです。
 
とりあえず、敵のキャラクター欄がひとつ埋まってないままなんですけど、もしかしなくても隠しボスとかそういうのなんだろうか。
へたっぴーなので、いろいろと揃えていくのが難しそうです。
 
クリアしたし、攻略wikiでも見てみるかな。
最後のダンスはとっても楽しかったです。ジョイが出てきたあたり、ベヨ姉は本当にジョイがお気に入りなんだなぁ、としみじみ思いましたよ(笑)。
 
 
ということで、以下拍手レスです。
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:33

 
 電話の音がけたたましく店内に鳴り響く。
 わざわざボッコロの日にかかってくるのも珍しい、と思いつつ、本当に予約の電話だったら悪いだろう。
 
 「はい、もしもし。こちらァ――――」
 
 『よう、もみ子! 今年も俺様の愛の伝導をお手伝いさせてやるぞ。わかったらため息橋にさっさと来い!!』
 
 がちゃん、と。
 自分の名前も名乗らずに用件だけ言って、一方的に切りやがりました。
 しかも、電話を取った相手も確認せずにもみ子――こんな呼び方をする方も呼ばれ方をする方も、ひとりづつしかいないのだが――と思い込んでの一方的な会話、と、いうか丁寧に聞こえる命令だった。
 灯里は別にありがたくも思ってないだろうし、どちらかというと迷惑程度に考えているのかもしれない。
 そもそも、灯里は今練習で会社を開けている。どれだけ待てば帰ってくるかもわからないし、連絡を取りに行こうとしたら、もしかしたらすれ違いになるかもしれない。
 
 「どうしたもんかな……。これ行かないと灯里があとで文句言われるだろうし、暁も待ちぼうけくらうだろうし……、さて、どうしたもんかな」
 
 暁の愛の伝導云々にはさして興味はないが、まぁ、付き合ってみるのも一興か。
 
 「行ってみるか」
 
 書置きを残し、仕事が終わってから薔薇を買いに行こうと思っていたんだけど、まぁ、仕事は夜にだって出来るんだ、今は休憩として、暁の道楽に付き合ってやるとするか。うん。
 
 
 「……あれ、なんで?」
 
 「なんでもなにも、お前が俺を呼んだんだろ。まぁ、本当は灯里を呼んでたらしいけど、ちょうどいなかったからな……、俺が代わりに手伝いに来てやったってわけだ」
 
 「むむむ……」
 
 暁が唸って、顔が真っ赤になるまで力んでいる。
 しばらく向かい合っていると、苦しくなったのか、ぷは、と息を吐いた。
 
 「なにがしたいんだ、お前は」
 
 「なんでもねーっす。薔薇、買うんスか?」
 
 「ああ」
 
 誰に、と訊きたそうな顔をしたが、言葉を飲み込んだようだった。
 ザバザバと水を乱暴に蹴飛ばしながらサン・マルコ広場に向かって歩いていく。
 
 「……なぁ、暁」
 
 「なんっすか?」
 
 「いい店知ってるんだが」
 
 「いい店って?」
 
 「知り合いの花屋。もしかしたら結構勉強してくれるかもしれないぞ」
 
 「……行きます」
 
 さっきまで先頭を歩いていた暁が、今度は俺の後ろに回って、しかしやっぱり乱暴に水を蹴飛ばしながら歩いている。
 どうにも機嫌が悪いみたいだ。アントニオと面倒なことにならなければいいんだがな。まぁ、期待するだけ期待しておこう。とりあえず薔薇を買うだけだ。そんなことにはなりはしないだろう。
 
 サン・マルコ広場を抜け、アントニオの店がある広場までゆっくりと歩いてきた。途中、ところどころにある薔薇の露店に目を向けながら、うーうー唸りながら薔薇の見比べをしていた。
 ……こりゃ、本当に下手しなくても“下手な事”になりそうだ。この薔薇が悪いだの、なんだの、今の暁なら平気で言ってしまいそうな勢いがある。
 
 幸先が不安だ。
 
 「いい薔薇でもあったのか?」
 
 「いまいちないッスねー。こう、俺の愛を最大限に表現できるような、極上のヤツが」
 
 「今年は量じゃないんだな?」
 
 「気が付いたんですよ。その多さが問題じゃないんっスよ。やっぱり男は中身、中身ですよ。どれだけ言葉を並べたって、一度の行動に勝るものはないんですよ!! つまり、ボッコロの日に贈る薔薇もしかり。手当たり次第にかき集めた有象無象の薔薇の山よりも、その人に似合った、そして自分の気持ちすら表わせるような一輪を求め、そして手渡すべきなのだと!!」
 
 まるで仰々しい政治家のような口調で演説をする暁に、周りのギャラリーがパラパラと拍手を送る。
 人通りの少ない路地で良かった。こんなの声高々に広場ででも言われたら他人のフリがしたくなる。
 
 「その店、質は大丈夫なんでしょうね、衛宮の旦那」
 
 「……それはお前が決めるんじゃないのか?」
 
 「そうっすね」
 
 いろいろと胃が痛くなりそうな――――
 
 「あれ、旦那じゃぁないですか。どうしたんです?」
 
 ……なんて、素晴らしい。
 お前は実に空気の読める素晴らしいやつだよ、アントニオ。
 
 「ちょうどお前の花屋に行こうと思っててな。今年はどうだ?」
 
 「へへへっ、オレが選んだとっときのがまだ残ってますぜ」
 
 商人の顔をしながらニヤリと笑う。
 耳ざとく、暁がその話に乗ってきた。
 
 「ほほー。そのとっときとやら、見せてもらおうじゃないか?」
 
 「ふっふっふ。まァついてきてくださいよ、お客さん」
 
 男三人がつるみながら路地を歩いていく。
 途中話すのは暁とアントニオのふたり。今のところなんにもないような感じだが、いつ暁かアントニオが爆発するかわからないからな……。正直、こういう空気の方がキツイかもしれない。
 と、思っているといつの間にかアントニオの店がある広場まで来ていた。人間、なにかを考えて行動していると気がつかないうちにその行動が終わっていたり、または行き過ぎたりしていることが多い。
 きっと神経質になりすぎてるんだ。なに、男の子ならケンカのひとつやふたつ、日常茶飯事だ。
 別に気にすることはない。うん。そういうことで納得しておかないと気が気でなくなる。
 
 「それで、アントニオ。とっときの薔薇ってのは?」
 
 「暁、先走っちゃいけねえぜ。花ってのは、その一輪に意味が込められてるんだ。それを育ててきた職人たちの技と月日と、そして努力と愛の結晶。それがこのたった一輪にも込められてるんだぜ? じっくり味わいつつ、その花に込められた意味と願いを理解してこそ、贈りものとして、花がようやく一人前になるんだ」
 
 相変わらずのオーバーな身振り手振りの役者ぶりだ。
 それに感銘を受けている暁も、あるいはそういう才能があるのかもしれない。
 
 「じゃ、前置きはこのくらいにしておいて。見てくれ。こいつだ。……美しいだろう」
 
 「…………なんじゃこりゃ」
 
 あ。
 うわぁ、暁かー。9割方暁がやらかすとは思っていたが、ここか。
 アントニオがム、と顔をしかめた。
 
 「なんじゃこりゃとは失敬な。上品なサーモンピンクの色合い、瑞々しい花弁の折り重なる様。マンホームローズの中でも強い生命力で知られるピンクパンサーのアクア改良種のなかでも一等上等な、クリスターロ・ディ・アクアだぜ?」
 
 「そんなん知らん。色が薄い。もっと俺の愛を表現できるような情熱色の薔薇はないのか?」
 
 暁のその言葉に、さすがのアントニオも顔を引きつらせながら、自分が年上ということもあって大人な対応に出始めた。
 一旦、クリスターロ・ディ・アクアという品種の薔薇は横に置き、ダークルージュの薔薇を差し出した。
 前言撤回。アントニオはどうやらかなりキてるみたいだ。
 
 「これなんか、お似合いじゃねえ?」
 
 「なんか汚いな」
 
 「じゃあ……」
 
 と、言って今度の薔薇は、俺の目から見ても透き通った赤色をした、上等なものだとわかる薔薇だった。
 
 「いまいち咲き方が気に入らん」
 
 眉間をヒクつかせながら、暁のお眼鏡にかないそうな薔薇を一本一本選んで行く。
 最終的に、特別な薔薇からは手を引いて、ボッコロの日用に用意されたであろう大量の薔薇の一本を抜き取った。
 
 「これでいかが?」
 
 「――――おお。これはいい薔薇だな!」
 
 これを貰うぞ! と意気揚揚としている暁ではあるが、その奥、アントニオの表情を見ていると、素直に薔薇が見つかってよかったな、などと声をかけられそうにもない。
 アントニオ。見直したよ。ここまで横暴な客に最後まで付き合ってやってくれて、本当に感謝してる。
 
 「さて、いい薔薇も見つけたことだし、さっそく渡しに行くか!」
 
 やはり意気揚揚と、スキップしながら暁はどこかへ行ってしまった。
 ……なんだったんだ、一体。いや、あの情熱はわかるが、少々いきすぎというか、恋は盲目などという言葉で片付けられないぞ、あれ。
 根はイイ奴なんだけどなぁ。こういうイベント毎になるとどうしても暴走するきらいがあるな、暁は。
 
 「で、旦那はどうするんです?」
 
 「ゆっくりと選ばせてもらうよ」
 
 「今年は、まさか一本ですかい!?」
 
 どうしてそこで嬉しそうに声のトーンを上げる?
 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら、だ。いや、恋路とかじゃないけど、邪魔とも思ってはいないけど。
 とにかく、フライト中に女性関係の話はタブーだと、どこかで聞いた気がする。
 
 アクアという星の、太陽系というフライト中に女性の話はやめよう、とそういうことを言いたいわけだ、俺は。
 …………こじつけだ。ダメだな。
 どうしても気が落ち着かない。
 たかだか薔薇一本だろう。どうして迷う必要がある。
 
 しかし、だが、と思うところもあるのも確かなのだ。
 アリシアに、素敵な一本を贈りたい。
 
 と、そう考えただけで自分で自分を消したくなった。
 俺のガラじゃあない。
 そうか、アーチャーはこういう気分だったんだな。ということが若干分かってしまったのが、どうにも悔しい。
 アイツの目の前で言ったら絶対に違う、と全力で否定されそうだが。
 
 「クリスターロ・ディ・アクア、だったか。あれ、もう一回見せてくれないか?」
 
 「喜んで!」
 
 ささっと取り出したるは、サーモンピンクが色鮮やかな見事な八分咲きの薔薇。
 薔薇の知識はあまりないが、この薔薇を見ていると、なんとも不思議な気分になってくる。どう表現したものだろうか、色自体は、暁が言ったように一般的な薔薇というには薄いものがあるのに、とても熱い情熱が伝わってくるようだった。
 瑞々しい花弁には、水滴がほろりと垂れ、宝石の涙を流しているようにも見える。
 “アクアの水晶”などという名が冠されるのも、頷ける気がした。
 
 「今年はどうして、こんなに? 去年はここまで揃えてなかっただろう?」
 
 「ああ、それはあれですよ旦那。来年のこの時期に、『海との結婚』があるんですよ。それに先駆けて、今年のボッコロの日は一層熱い恋人を作るのを手助けしよう、なんて親父が年甲斐もなく張り切っちゃってましてね。まぁ、鑑賞用としても、薔薇はなかなかのインテリアになりますから、これで売れ残っても、まだまだ」
 
 海との結婚?
 聞いたことがあるような、ないような。
 帰ったら調べておこうか……。
 
 「ピンクパンサー、だったか」
 
 「マンホームローズの一種ですよ。薔薇ってのは、それなりに病気に弱いんです。その中でも、ピンクパンサーはそういった病気にほぼ完全な抵抗力を持っていて、強健で、生育旺盛。日陰にも強くて、花自体、長く咲いてるんで元々人気のある品種なんですよ。で、それをアクアに輸入して、アクアでも育つように品種改良され、その中でも極上のピンクパンサーが、このクリスターロ・ディ・アクア。一昨年だったかな、星間コンクールでも銀賞に、その他のコンクールでもいずれも受賞。そういう評価されて、マンホームの方にも輸出されるようになったんですよ」
 
 「輸出? 種でか?」
 
 「いいえ。花それ自体でです」
 
 「ははァ……。なるほど、生命力が強い、なんて言われるわけだ」
 
 花や、野菜などの植物系の星間貿易は、大体が種であるとか、冷凍保存されて輸送艦に乗せられると聞いている。
 それは、大気圏などの入出時の負荷を考えられてのものらしい。他にも理由はあるのだが、まぁ、特に挙げておくものは保存期間だろう。
 
 その中でも、この薔薇が咲いた状態で輸出されるとなると、生命力が強い、という謂われも納得できる。
 花も進化してきたんだろう。そうして、改めて見てみると、その命に溢れて、輝いているようにも見えた。
 鮮やかな、それでいて儚げな色合い。
 
 「すごいな……」
 
 「競り落とすの大変だったんすよ。親父にはよくやったって褒めてもらえましたけど、責任を持ってお前が売れ、売れなきゃ店の金じゃ落とさねえ、なんて言いだすんですよ。買って下さいよ旦那ぁ……!」
 
 いつの間にか懇願の念を持っての押し売りに変わっていた。
 店の金では落とさない、ということはつまり、アントニオ個人の資産から引く、ということなのだろう。
 ……値段を聞くのが怖くなってきた。
 
 「ところで他の薔薇も見てみたいんだが?」
 
 「旦那ー、旦那ー」
 
 「ええい、くどい!」
 
 「買って下さいよぅ~」
 
 「こ、こうも考えられないか、アントニオ。こいつが売れ残った場合、それをお前がアイナに贈るんだ。どうだ、悪くない案だろう?」
 
 「それ以前に! 俺が! 彼女に! 渡す以前に! 顔を合わせることが出来ると思ってるんですね、旦那は!!」
 
 「なんでそんなに自信たっぷりに言うんだ。嘘でもいいからノっとけ馬鹿! お前は深く考えすぎなんだよ、相手はアイナだぞ、そんなに気構えしてたら、ダメだ。もっと砕ければいい」
 
 「玉砕しろと!?」
 
 「違う!! めんどくさいな、お前はッ?」
 
 「旦那が買えば万事解決なんですってば~」
 
 「…………いくらだ?」
 
 「12Nユーロ80Nセントです! まいどおおきに!」
 
 「……安くはならないのか?」
 
 ちなみに、今朝のレートで考えると、12Nユーロ80Nセントは、日本円で約1500円。
 正直なところ、花一本に出す金額じゃない。それはわかってる。わかってるんだ。
 
 「じゃあ、12Nユーロで」
 
 「まだ高い。思いきって10でどうだ?」
 
 「……11の50」
 
 「……10の30」
 
 お互いに引こうとはしない。
 どうにかして、CDシングルぐらいの値段に落ち着けば文句はない。
 
 「……10、の……ええいもってけドロボー、10Nユーロで手を打ってやりますよ!!」
 
 「買った!!」
 
 「……のはいいんですけど、やっぱり、これを選んだ理由が知りたかったりするんですよね。どうなんです?」
 
 ニヤニヤと意地の悪そうな笑顔を振りまきながら、アントニオがずいっと詰め寄ってくる。
 自分の事は棚に上げて……ってなんか使い方間違ってるな。自分のことは話そうともしないくせして、どうして人のことばかり気にするんだ。そのエネルギーを少しでもアイナの方へまわしてやれないものなのか。
 と、声に出して聞けばアントニオはたちまち固まるだろう。それで逃げることもできただろう。
 
 だけど、そうはしなかった。
 誰かに言っておきたかった……のかもしれない。
 
 「アリシアに、だよ」
 
 「じゃじゃーんっ!! そいつぁいいやっ、やっぱりねっ、そうじゃないかって思ってましたよっ!!」
 
 さも自分のことのように喜んで、やはり大仰な動きで感情を表現した。
 別に、アリシアは高価なものでなくても、きっと喜んでくれただろう。なぜ、これを買ったのか。
 
 クリスターロ・ディ・アクア。“アクアの水晶”。
 
 正直、そのブランドには興味などなかった。
 …………言うのも憚られるような、くだらない理由だ。
 
 「……なんていうか、だな。意地みたなもんだ」
 
 「意地、っすかァ。意地、意地。いいっすね、男! って感じで」
 
 「そんなカッコいいもんじゃないさ。下心丸見えの、下卑た考えだ」
 
 そう、その通りだ。
 高い薔薇を買って、意地を張りたい。
 それだけだ。
 
 「……正直、勢いだけだったんだよな。どう思う?」
 
 「どうって言われましても……困りますけどねぇ?」
 
 売った手前、と声も小さくアントニオが肩をすくめる。
 パシン、と頬を叩いて、気合を入れ直す。
 
 「よし。渡す。理由なんていらない。俺が、これをアリシアに渡したいって思ったから渡す。うん」
 
 「渡したいから、渡す……。いいっすね。オレもがんばってみようかしらね」
 
 お互いに意地を見せよう、ということでアントニオとはそこで別れた。
 薔薇は飾り気のない白い包装紙でくるりと包んでもらい、一輪だけの花束になっていた。苦笑いしながらそれを以て歩いていると、ふと真正面から声がかかった。
 
 「お久しぶりです。ごきげんよう、衛宮士郎さま」
 
 アリシアとはまた違った落ち着き払った笑顔。
 確か、アイナの友達のアイラ。アイラ・フェンデ・バラライカ。
 足首辺りまであるシスターの制服を水面ギリギリのところで結び、出来るだけ肌を見せないようにしているところを見ると、改めて「やっぱりシスターだ」と思う。
 改めて、などと思ってしまうのは、あの時の手刀が頭の隅でチラつくからだ。
 膝まで届く黒髪は、海水に浸かって痛まないように今日はフードの中に全て納められていた。
 
 「まぁ、まぁまぁ! クリスターロ・ディ・アクアですかっ」
 
 「うん? ああ、この薔薇だな」
 
 「うふふ。誰かお知り合いに赤ちゃんが出来たりしたんですか……。それは素晴らしい」
 
 「は? 赤ちゃん?」
 
 「花言葉ですよ。なんだ、知らないのなら、その色はとてもボッコロの日に似合った花言葉を持っているんですよ。大輪のピンクの薔薇の花言葉は『赤ちゃんができました』。ピンクの薔薇そのものには『美しい少女、上品、気品、しとやか』など、女性を褒める言葉ばかりが並んでいるんです。ちなみに、ダークルージュ、黒赤色の薔薇は『死ぬまで憎みます、化けて出ます』という愛とは正反対の意味を持つので、贈りもの用には向いていないのです」
 
 アントニオの暁に対する最初の商品がダークルージュの薔薇だったことを思い出す。
 暁に対して、相当な敵意を持っていたらしいことを思い返すと、笑いがこみ上げてきた。
 アントニオは花屋の息子だ。ある程度の花言葉だって知ってるだろう。もしわざとなら、面白い。
 
 「……もしかして、いい人に贈るのですか?」
 
 「まぁ、まだそんな関係じゃないんだけどな」
 
 「なら、ひとつ。来年のボッコロの日……ちょうど、『海との結婚』よりも前にありますが、是非、枯れた白い薔薇をお贈りになってはどうでしょうか?」
 
 「枯れた?」
 
 「花言葉は――――『生涯を誓う』。いわゆるプロポーズというものです」
 
 ニコリ、と。
 さらっ、と。
 清々しくもこれ以上ないという澄み切った笑顔で、とんでもないことを口にした。
 
 「あ、でも相手が花言葉を知らない場合、ちゃんとフォローは必要ですよ。なんせ、枯れた花を贈るのですから」
 
 「い、いや、ちょっと待て! ぷ、ぷろぽーずっ!?」
 
 「私は、もう貰いましたよ?」
 
 「だ、誰に?」
 
 と、いうよりも結婚していたんだな、などと、どこか浮ついて思いながら。
 彼女は左手の薬指につけられた指輪を見せてくれ、こう言った。
 
 「我らが主に」
 
 彼女なりのジョークだったらしい。
 クスリと微笑んで、横を通り過ぎて行く。
 すれ違いざま、静かに、しかし力の籠った声で彼女は言う。
 
 「衛宮士郎さま。あなたに、“青い薔薇”の祝福がありますように。エイメン」
 
 パシャパシャという水を切る音が遠ざかっていく。
 青い薔薇。さすがにこれは俺でも知っている。
 元々のかの花の花言葉は『不可能』だった。しかし、その不可能さえ可能にした奇跡を讃え、花言葉は変わる。
 
 『神の祝福』
 
 話題に乗っ取った、シスターという彼女らしい祝福の言葉だな、となんとなしに思う。
 遠ざかるアイラの背が消える前に、声を大にして叫んだ。
 
 「ありがとう、アイラ!」
 
 彼女は律儀にも振り返り、制服の裾を持ち上げつつ頭を下げる、という優雅な挨拶を返してくれた。
 シスターという聖職についているのに、どこか遊び心を失っていないところが、アイナの親友たるゆえんなのかもしれない。
 
 「……プロポーズ? 俺が、アリシアに?」
 
 いざ口にしてみると、真っ先に“ありえない”の言葉が浮かんだ。
 ……どこかで、拒絶しているのだろうと思う。
 俺は、アリシアとそういう風になりたいのだろうか、それとも、“そういう風”になったアリシアを見たいのだろうか。
 幸せにしてやることの出来ない俺といるのではなく、幸せにしてくれる誰かの隣で笑うアリシアを見る方が、どこか自分らしいような気がする。
 …………彼女はセイバーや遠坂、桜とは違う。
 魔術という単語すらおとぎ話でしかないアリシアと、魔術で人の血を見てきた俺たちとでは住んでいる世界が違い過ぎる。
 前提が違うんだ。
 だから、なのかもしれない。
 
 「この星に『ひかれ』すぎたんだ。……それを情けないとは思わないさ。言う言葉があるならば“ありがとう”なんだろうけど、それでも、行きすぎた」
 
 もう、行きすぎてしまったんだ。
 ……しばらく、ほんのしばらく……そうだな、たとえば夏の間。
 夏の中頃、一ヵ月。
 
 「……少し、暇を貰おう」
 
 訊きに行くんだ。
 一本道の上で迷ってしまった俺が、一体どこに向かって歩くべきなのか。
 一本道の上で迷ってしまった俺が、一体どうすればまた一歩前へ踏み出せるのか。
 『正義の味方』は、どうすればいいのか。
 訊きに行くんだ。
 
 「……お人よしの、母親に」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ただいま帰りましたー」
 
 AIRIAカンパニーの扉をいつものように開け、夕食の匂いに誘われるように食卓へ進んでいく。
 階段を上るとき、やはりというか、もらった薔薇がすこし荷物になる。
 よいしょ、と持ち直して改めて階段を上っていく。
 
 「おかえりなさいアリシアさんっ、って、今年も凄い数ですね」
 
 灯里ちゃんの声が聞こえてくる。薔薇越しに。
 きっと、向こうから見てたら薔薇がしゃべってるみたいに見えるんじゃないかなぁ。と、自分で思っておかしくなった。
 灯里ちゃんに先導されて、貰って来た薔薇を大切に部屋の隅に通るのに邪魔にならない程度に飾っておく。
 そこだけが薔薇で出来た塔のようになっていて、その一輪一輪にお客様やお世話になった人達の気持ちがこもっていると思うだけで、自然と笑みがこぼれてくる。
 今日一日でずいぶん、体に薔薇の匂いが染み込んでしまった気がする。
 
 「今年も大量だな。アリシア、おかえり」
 
 「あ、士郎さん。ただいま帰りました」
 
 「暁には会ったか?」
 
 「暁くん? いえ」
 
 そうか、とどこかおかしそうに士郎さんは笑った。
 こほん、とわざとらしい咳ばらいを挟み、
 
 「ついでに、こんな薔薇はいかがですか、スノーホワイト?」
 
 いつもの士郎さんらしくない、ちょっと気障っぽい言い回しにおかしさを覚えつつ、目を見張った。
 透き通るようなサーモンピンクの瑞々しい花弁と、この薔薇の量にも負けない、鼻腔をくすぐる強くも爽やかな香り。今にもその花びらから水晶が一粒落ちてきそうな、そんな薔薇だった。
 これって、もしかしなくても……
 
 「クリスターロ・ディ・アクア?」
 
 「よくご存じで、いや、さすがかな。ちょっとばかり奮発してみたんだ。気に入らないか?」
 
 「と、とんでもないですっ」
 
 自分でもびっくりするほど高い声になってしまっていた。
 ふぅ、と一呼吸おいて、改めて薔薇、それから士郎さんに視線を移す。
 
 「別に、こんな高価なものじゃなくてもよかったんですよ?」
 
 「そう言われると、俺が参る。素直に受け取ってくれないか?」
 
 「じゃあ、よろこんで。ありがとうございます、士郎さん」
 
 士郎さんから手渡しでその薔薇を受け取る。
 その薔薇を私が大切に眺めていると、ふと、士郎さんがちょっとだけ挙動不審になっていた。
 どこか照れているような……? と、そこまで考えてハッとする。もしかして、もしかしなくても、あの気障っぽいセリフは、照れ隠し、なのかしら?
 
 そう思ったら、今日にこっちまで恥ずかしくなってきた。
 だって、だって、それって……少しでも私の事を意識してくれてるって、ことでいいのだろうか?
 ああ、そんなこと考えたらもう止まろうにも止まれない。そんないい方向の考えにしか頭が働いてくれない。
 気がつけば、顔だけじゃなくて、首筋まで火照っていた。じわり、と血がどんどん頭に上っていくのが手に取るようにわかる気がするほど、首から上がカッカと熱を放っていた。
 
 「……アリア社長、退散しましょう」
 
 「にゅ?」
 
 「お、おい灯里、そんな気遣いはいらないから、な?」
 
 「そ、そうよ」
 
 なぜかほっこりとした顔でいる灯里ちゃんが、足元の社長を抱え上げる。
 そのほっこり顔のまま、灯里ちゃんはそれ以上なにも言わずにそそくさと自分の部屋へ戻っていった。
 夕食もまだなのに、呼んだら来るんだろうか。ちょっと心配だ。
 
 なんでだろう、と思う。
 去年は自分でも恥ずかしいと思う事をすんなり出来たのに、どうして今は出来ないんだろう?
 ……きっと相手の変化なのだろう、と思う。
 
 士郎さんは、私の事を、ちょっと前から違う見方をし始めてくれている、ような気がする。
 自意識過剰なだけだったら、かなり恥ずかしい勘違いだけど、勘違いなんかじゃないって思う。
 なぜなら、女の勘というものが働いているからだ。……かなり怪しくはあるんだけど。
 
 「あらあら……えっと……どうしましょう?」
 
 「とりあえず夕飯食べよう。灯里ー、降りてこーい。ご飯なくなるぞー」
 
 士郎さんがそう言うと、灯里ちゃんは思い出したようにとたとたと急いで降りてきた。
 えへへ、と笑って、こちらも微笑みかえす。
 三人と一匹で食事の席について、いただきます、と手を合わせた。
 
 急にいつも通りの空気に戻ってしまって、拍子抜けしたような、ちょっぴり安心したような。
 食事中、チラリと横の士郎さんを覗き見てみても、いつもと変わらない顔で食事を摂っている。そんな顔を見ていると、やっぱりちょっぴり残念な気持ちもある。
 もうちょっと、ドギマギしてくれてもいいんじゃないだろうか、などと、現実の自分がいいもしないような事を考えてしまうあたり、ああ、私は本当にこの人が好きなんだなぁ、と改めて認識させられる。
 
 この人が見せてくれる笑顔が好きだ。
 この人が作ってくれるご飯が好きだ。
 この人の喋り方が好きだ。
 この人の歩き方が好きだ。
 私は、どうしようもなく、この人が大好きだ。
 
 大好き、なんだなぁ。
 
 「アリシア」
 
 食事が終って、私が自宅に帰ろうとしたとき、後ろから士郎さんに呼び止められた。
 なんだろう、と振り返ると、士郎さんは笑っていた。
 とてもとても、思いつめた顔で笑っていた。
 
 「……?」
 
 「……夏、なんだけどさ。一ヵ月ほど、休暇を貰いたいんだ」
 
 「え?」
 
 「グランマのところと、地球に行きたいんだ」
 
 「……それって、あの……っ」
 
 士郎さんのその言葉で、とてつもない不安が襲いかかってきた。
 もしかしたら、と考えたくないことばかりが頭の中に流れ込んでくる。
 たとえば、たとえばそう。
 
 もう、彼が帰ってこないのではないだろうか、なんて。
 
 「……だから、先に言っておきたいんだ。アリシア」
 
 「聞きたくな――――」
 
 「“いってきます”。『約束』だ、アリシア。“いってきます”。これだけ言ったら、お前は分かってくれるか?」
 
 まだ苦笑いを崩すことなく、士郎さんは言った。
 いってきます、と。
 それに返す言葉は、いってらっしゃい。
 
 そして、『約束』という言葉の意味。
 
 「…………お気をつけて。いってらっしゃい」
 
 「ああ。って、言ってもパスポートも作らなきゃだし、まだ時間はかかるから、夏の中頃、夜光鈴が売り出され始める頃に出発するよ」
 
 「はい。約束、ですよ。忘れちゃいやですからね?」
 
 「俺から言い出したんだ。忘れるわけないだろ」
 
 やっぱりギクシャクした笑顔のまま、士郎さんはだけど、優しく私の頭を撫でてくれた。
 ……思えば。これは私が彼から受ける、二度目のワガママなんじゃないだろうか。
 そう思うと、全然つらくもなんともなかった。
 『約束』だってある。
 
 だから私は言うんだ。ちょっとだけ早い、その言葉を。
 
 「いってらっしゃい、士郎さん。お土産、期待してますね」
 
 「ああ」
 
 会話はそれでおしまい。
 夜光鈴の季節は、思っているよりも近くまで来ている。
 士郎さんが、どういう理由でグランマのところに行きたいと言ったのか、果てはマンホームまで行きたいと言ったのか、正直、私にはわからない。
 けど、だからって聞こうなんて思わない。
 
 きっと、“素敵なお土産”をもって帰ってきてくれる。
 私との『約束』を守ってくれる。
 
 それだけで十分だった。
 私が彼を送りだす言葉を紡ぐには、それだけで、十分。
 
 いってらっしゃい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:33   end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

今日は国がひとつ、大きく動いた日。それでも拍手レス。

ども、草之です。
今世間では例の事件のことで話題になってますが、忘れちゃならない今日の出来事。
 
『ベルリンの壁』が、壊れた日。
 
まさしく、国が動いた日なのです。
この裏ではなにやら上層部でややこしいことがあったらしいのですが、結果、それがベルリンの壁崩壊に繋がってしまったのですから、皮肉なものです。
 
具体的には、この国境ともとれる東・西ドイツを隔てていた壁は元々は壊れることはなかったのです。
とある人物が勘違いをし、たまたま、10日早朝に発表するハズだった「東ドイツの旅行の自由」の改定を、9日の午後6時ごろに発表してしまったんですよね。
書面には、「すみやかに」という一文があったらしいのですが、そのすみやか、というのは、発表してから、という意味だったのですが、そこを勘違いしてしまったんですね。
 
検問所には、あっという間に東ドイツの人々が集結。
西ドイツに行かせろ、と爆発点ギリギリの感情で押し掛ける。
 
予想もしなかった勘違いによって、上層部はてんやわんや。
そして午後11時半近く。
上層部は決定を下す。「やれ」と。
 
開かれる門。
流れていく人と感情の波。
 
暴動じみた市民の集結に、なんと奇跡的なことに、無血。
感情が爆発しても、市民が望んでいたことはそんなものではなかった、ということなのでしょう。
 
しかして、その感情の矛先は長く歴史と世界を隔てていた、高さホンの数mの壁へ。
歓喜に満ちた、「忌々しい壁」。
そして、そのときが来た。
 
崩壊。
自らで未来への扉を開ける様にも似た、崩壊。
国が、動いた瞬間でした。
 
それから、今日でちょうど20年。
なんとも、こういうのは時が経つの、早いです。
 
修学旅行で、現地に行ったことからも、そういうのがこみ上げてきます。
どこのコンクリともつかない「ベルリンの壁の欠片」というお土産品。クソ高かったです(笑)。
いや、買ってませんけどね。
 
 
というわけで、こういうことが言っておきたかっただけ。
ところどころうろ覚えですから、間違ってる所とか、人名もちゃんと覚えてません、すいません。
ということで、今日も拍手レスです。
 
草之でした。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:6-2

 
 「ど、くたー……あれは、なんという現実なのですか……っ!?」
 
 『事実、敗北という現実だよ、ウーノ』
 
 一歩、二歩とウーノがよろめく。
 モニターに表示された、トーレのバイタルサインがゼロを指し示した。
 映像を見てもわかる。胴体を真っ二つだ。いくら戦闘機人とは言え、あの強烈なダメージでは生きることなど出来ない。それは“解る”。
 ウーノが信じられないと言ったのは、トーレの敗北についてだった。
 
 ――――それは完璧だった。
 トーレが取った行動は、確実にラインハルトを死に追いやるものばかり。手心など加えてもいない、全力で殺気を放ち、かつ全力の稼働でラインハルトに死を顕現させるはずだった。
 それは完璧なはずだった。それだというのに、その『絶対』をくぐり抜け、生き残った騎士がいる。
 
 ユークリッド・ラインハルト。
 
 『戦場の演出家』と言われ、その名に恥じぬ戦術を今回の作戦でも魅せた。
 少々飛躍した解釈があったようにもウーノは思うが、彼の者の戦術は見事としか言いようがなかった。
 ミッドチルダ内で、干渉阻止、または安全のためといって結界を張ることはない。なぜなら、そこに事件性があったとすれば、そこはもう危険地帯として扱われてしまうからだ。干渉制限を設けたところで、大半が少なからず微弱な魔力を持つミッドチルダ人に、結界などは、逆に“牢獄”でしかないのだから。
 そこから生み出される戦場心理。そして、それを持て余すことのない自己の解析と心理状態の把握。
 
 ユークリッド・ラインハルトは戦場を操ったのではない。
 彼の者は、戦場における心理を刺激しただけなのだ。
 大きくはなく、しかし、それは時に大きなものよりも巨大なものを討つチカラと化す。
 
 なるほど、演出家、とウーノはそこだけを納得した。
 また同時にしかし、と思考を巻き戻す。
 
 “だからと言って、ナンバーズ中最強の戦闘能力を誇るウーノを撃破する理由にはならない”。
 
 作戦としてはこちらの勝利で間違いはない、とウーノは思う。
 しかし、勝負としてはこちらの負けだったと結果が叫んでいる。
 目の前の映像には、上半身と下半身が別れを告げた妹の姿が映っている。
 
 どういうことだ、どうしたことなのだ。
 トーレは、彼の者の父親に勝利している。ならなぜ、その父の領域に立ってもいない者が、トーレを凌駕したという?
 その答えを求めるように、ウーノはドクター、と愛おしそうにスカリエッティを呼んだ。
 
 『完璧すぎたんだよ、トーレはね。トーレとしての人格が完璧すぎた。それが敗因なんだよ。ましてや、相手は戦場の心理を操った男だ。その“欠点”に気がつかないはずがないんだよ』
 
 「どういう……?」
 
 スカリエッティは独白するように続ける。
 
 『……結局、ナンバーズの中での最強は“チンク”なのかもしれない、といいたいのだよ、私は』
 
 「チンクが? なぜですか、ドクター」
 
 『彼女は戦闘に不必要な感情も持っている、“不完全”な戦闘機人だからだよ。完成を見ない、幼い感情を持つ人のような戦闘機人だから、だよ』
 
 「……解りかねます」
 
 『だろうね。いや、気にしなくてもいい。トーレはこのことを予見していたんだ、計画に変更はない。ナンバーズには知らせない方がいいだろうね。さぁ、ウーノ、出迎えの準備を始めよう』
 
 ウーノは納得の出来ないまま、頷く。
 モニターの先に寝転がる、人工血液を垂れ流しにしている妹を一瞥して、彼女はスカリエッティの元へ帰るため、『ゆりかご』を後にした。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「……えっ? アルト……いま、なんて?」
 
 「だから、ユークリッド隊長が、戦闘機人の一機を撃破したんだって!」
 
 ヘリがビルの間を器用に旋回しながら、アルトが声が裏返りそうなほど興奮して叫ぶ。
 戦況が大きく変わるよ! と、本当にうれしそうに。
 確かにそうだ。戦闘機人がたった一人減っただけでも、数で勝る管理局に優勢指数がグンと高くなる。
 
 「…………」
 
 なのに、なんでアタシはこんなに落ち着かないんだろう。
 
 「ティア?」
 
 「ううん、なんでもない。大丈夫。アタシ達も負けてらんないね」
 
 「うん!」
 
 スバルの明るさが、今はぎこちなかった。
 深呼吸して、落ち着く。アルトが操縦するヘリは、廃棄市街地のビルを縫うように飛行していた。ともすればヘリなんかで出来る機動ギリギリの操縦だった。
 ヴァイス陸曹の後輩、というのも頷ける。
 
 「そろそろ振り切れるよ……! 降下準備はいい!?」
 
 「バッチリ!」
 
 「大丈夫です!」
 
 「同じく!」
 
 「きゅくるー!」
 
 みんなが次々に返事を返していく。
 後部ハッチが低い音を響かせながら開いていく。ごう、と風がまるで逃げるように流れて行く。
 その中で、一呼吸を置いてアタシが改めて確認を行う。
 
 「アタシ達はミッド中央、市街地方面。敵戦力の迎撃ラインに参加する。地上部隊と協力して、むこうの厄介な戦力……、召喚師や戦闘機人を最初に叩いて止めるのが、アタシ達の仕事」
 
 その確認に、スバルが続く。
 
 「他の隊の魔導師達は、AMFや戦闘機人戦の経験がほとんどない。だから、私たちがトップでぶつかって、とにかく向こうの戦力を削る!」
 
 「あとは、迎撃ラインが止めてくれる、というわけですね?」
 
 自信もたっぷりに、キャロが勇ましく言う。
 それに頷いて返すと、今度はエリオが俯いて言う。
 
 「でも、なんだか……、なんだかちょっとだけ、エースな気分ですね」
 
 「そうね」
 
 そんなことで笑えるエリオが羨ましかった。
 確認は続く。
 防衛線をガジェットや戦闘機人に通られれば、後ろに待っているのは市街と避難が完了していない住民。
 ……自分の負けは、アタシ達だけの『死』を意味してるだけじゃない。
 危険を振りまいてしまうことになる。それだけは嫌だ。それじゃあ、結果は兄さんと同じだ。
 
 ……兄さんの魔法は、役立たずなんかじゃないって認めさせたいと思っていた。
 でも、それは違うんじゃないかって、思うようになった。それは、なのはさんとヴィータ副隊長の教導や、ユークリッド隊長との会話の中で、なにか、アタシに足りないものが分かってきたからなんだと思う。
 
 確かに、この手の魔法は兄さんから教えてもらった、大切な宝物(まほう)だ。
 
 でも、そうじゃない。
 アタシはアタシの魔法で、誰もが認める魔導師になってみせる。
 兄さんから貰って、周りの人に鍛えてもらって、そしてなにより、ティアナ・ランスターの魔法として昇華されたアタシの射撃魔法。
 これから、アタシが管理局で働いていく限り、いつかある噂を耳にするに違いない。
 
 『妹は優秀なのに、あの兄ときたらなかった』
 
 きっと、こんな噂だ。
 それに惑わされないように、今はしっかりと生き残るんだ。
 そうなったとしても、誰も知らない。誰も気がつかない。
 
 この手の魔法は、兄さんから貰った魔法なんだから……!
 
 「あとは――――」
 
 その思考を遮るようにスバルが言った。
 
 「ギン姉の、行方……」
 
 瞳に不安の影を落として、スバルは項垂れた。
 ギンガさんは、この作戦に駆り出される可能性も十分にあった。
 だけど、ギンガさんの影はどこにも見当たらなかった。アースラから出撃する前に、戦闘機人がこちらに攻め入ってくるのをリアルタイムで見ていたけど、その中にいなかった。
 それはある意味喜ばしいことでもあって、だけど、スバルからすれば――――いや、違うな。アタシ達にすれば、逆にギンガさんの安否を確認できない分、その不安だけが肥大化していく。
 
 「……人質として、どこかに捕らえられているとか?」
 
 エリオは言う。
 
 「例えばですけど、ユークリッド隊長が捜してる人と一緒にいるとか」
 
 「なくはないと思うわ。戦闘の場に出ていないんだったら、人質として捕まえられている可能性は高いはずだもの」
 
 むむ、とつい考え込んでしまう。
 もし、人質として捕らえられているなら、たぶん、フェイト隊長が一番近い。
 …………はっきり言って、アタシ達がどうこう出来るような範囲じゃない。スバルには辛い選択だろうけど、言わなきゃいけない。
 
 「スバル」
 
 「……うん」
 
 「いい? アタシ達はアタシ達の、目の前の戦いに集中しなきゃなんない。辛いこと言うようだけど、アンタがしっかりしなきゃ、チームは成り立たない。アンタが、このチームの大黒柱なの」
 
 「チームの大黒柱はティアじゃん」
 
 スバルのちょっとした軽口だった。
 それだけ言えるなら、大丈夫。スバルも納得は出来なくても、理解はしてる。
 
 「アタシは――――、そう、司令塔ってことはあれよ。家計を見守る財布役ってね」
 
 「ああ、なるほどー」
 
 「そう言われてみると、ティアさん、お母さんみたいな雰囲気あるかもですね」
 
 「あー、なんか納得されんのもちょっと癪だったり……。まぁ、いっかな。よし、じゃあ行くわよ!」
 
 『了解!』
 
 後部ハッチから降下する。
 廃棄されて久しい高速道路に順次着地していく。
 フリードは空中で覚醒、エリオとキャロを乗せながら飛んで行く。
 
 このまま走り続ければ、正面から戦闘機人の部隊とぶつかる。
 おそらく、あちらの方が先にこっちを発見する。こと戦闘というロールの中で、それとして造られた彼女らの方が優れているのは道理。
 …………初手から、先手を取られるのは正直キツイ。
 チームとしてなら、負けていない自信はある。
 だが、その初手がチームを分断するものだとすれば? 大いにあり得る。
 状況的有利を作り出すのは戦闘の基本。
 
 この初手を凌げるかが、ある意味勝負の分かれ目だ。
 だが――――、
 
 「――――っ! フリード!」
 
 だというのに、キャロが動いた。
 
 「キャロッ!」
 
 呼び止めようとするものの、フリードの羽撃たきは止まらない。
 その先を見てみると、離脱していくアルトのヘリに狙いを定めている召喚師の姿が。
 なるほど、わざと先手を取らされたってわけだ。
 
 「スバル、足は止めないで聞く。先に召喚師の方をつかまえ――――」
 
 そこで、
 
 「IS発動……」
 
 聞こえもしない声が、聴こえた気がした。
 
 「レイストーム」
 
 視界の端に、閃光が飛び込んでくる。
 反射的に横に飛び退く。スバルも同様に逆方向へ。
 
 「スバル!」
 
 「ティア!」
 
 お互いに叫んで無事を確認し合う。
 すぐに動けるくらいに、怪我も問題も何も無い。
 周囲を確認しようとして――、
 
 「……、ッ!」
 
 背後に強烈な殺気を感じた。
 振り返るよりも回避に専念。一瞬前までいた空間に剣閃が瞬く。
 回避終了と同時に敵の姿を視界に納める。
 
 双剣型の武器を手に、息をつく暇もなく間合いを詰めてくる。
 クロスミラージュをダガーモードへ移行、打ち合う。
 
 「っくぅ!?」
 
 さすがに専門職相手だと一撃が重い。そんなことは、ヴィータ副隊長相手に嫌ってほど思い知らされている。
 だから、近距離で打ち合うことを考えてのものではなくて、距離を離すための打撃。
 
 しかし、
 
 「逃がさない」
 
 そこまで甘くはない。
 それも知ってた。
 
 ゴりっ、と肋骨が軋む音が聞こえた。
 
 「ぎ……ッ!」
 
 瞬間、視界の天地がなくなる。
 ドゴン! と何かに衝突した音と、全身に打ち付けられた痛みでやっと地面を認識する。
 周囲を確認。廃棄ビルに突っ込んじゃったのか。
 今までアタシがいただろう場所に視線を移すと、そこには戦闘機人がいなかった。
 まずい、なんて思うよりも早く、痛みに悲鳴を上げる身体に鞭打って自分が突っ込んで出来た穴から外へ飛び出した。
 考えるよりもなお早く、身体が反応してクロスミラージュのアンカーを射出。
 ビルとビルの間をまるで飛ぶように、スバルのもとまで移動する。
 と、そこで。
 
 「ティア、後ろ!」
 
 「っ!?」
 
 アタシにはまだ空戦スキルはない。
 エリオのようにストラーダで限定空戦が出来るわけでも、ましてやスバルのようにウィングロードで走ることも出来ない。
 恰好の的。――――には、させない!
 
 「クロスミラージュ!」
 
 《Cross Fire》
 
 振り向き様、弾丸を生成。
 敵の姿を確認した瞬間、当てる目的ではなく、牽制目的で放つ。
 敵に対する若干の移動制限と、弾幕生成によって距離を保つ。
 ただこうなると、着地はスバル任せ。その当のスバルでさえ戦闘中だ。
 ……となれば。
 
 「ツーハンド!」
 
 《Anchor shooting》
 
 両手に持ったそれぞれのクロスミラージュからアンカーが射出される。
 それぞれが一番近いビルに張り付き、落下の速度を緩める。その隙に空中姿勢を整え、自力で着地。
 着地硬直を狙って、スバルと戦っていた赤毛の戦闘機人が攻撃を仕掛けてきた。
 ――――まずっ、
 
 《Protection!》
 
 ばヂぃッ!
 スバルが防御で割って入る。
 
 「ティア、大丈夫!?」
 
 「アタシは、なんとか……って、スバル!」
 
 《Protection》
 
 ガシュン、とクロスミラージュが一発のカートリッジをロードする。
 出来あがる防御膜はスバルほど強力なものじゃない。そもそも、アタシ自身は防御魔法が得意じゃない。
 それでも、と、クロスミラージュを掲げる。
 
 瞬間。
 
 両の拳を合わせたような巨大なエネルギーの弾が炸裂する。
 魔力ではない、それは、戦闘機人特有のエネルギー。
 数発におよぶ連射をなんとか耐えきり、煙が晴れる。
 
 スバルと背中を合わせながら、周囲を確認。
 視界に収まるだけでもいち、に、さん。それと、アタシとスバルを分断しようとしたヤツも入れると四人。
 単純に考えれば、二対四。その戦力差は倍。ライトニングに応援をしようにも、あちらもおそらく召喚師と戦っているに違いない。
 
 「……へへ、ティア、久しぶりだね」
 
 「あん? なにがよ」
 
 こんなときに笑ってる場合か、とは思いつつ、スバルの言葉に耳を傾ける。
 そんなアタシの様子に申し訳ないと思ったのか、ごめん、と一言漏らしてから、
 
 「コンビで動くの、久しぶりだねって」
 
 「……――――ったく、アンタってやつは、もー」
 
 緊張感が足りていないのか、それとも緊張を和らげようとしているのか。
 どちらにしても、アタシとしてはどうでもよかった。
 ただ、そのスバルの言葉が、この絶望的な彼我戦力の前でも、希望に思えてくる。
 
 「おい、ハチマキ。覚悟しやがれ……、チンク姉の痛みと屈辱、お前に返してやるからな……!」
 
 チンク? とアタシが思うと、スバルがぐっと力を込めた。
 瞬間、スバルが弾ける。それと同時。
 
 ――合わせて!
 
 念話が届いた。
 一歩遅れて、アタシも前に踏み込む。
 目の前の戦闘機人も赤髪。なにやらボードのような武器を持っていた。
 モードツー、とクロスミラージュに命令を送る。ツーハンドモードのまま、ダガーモードへ移行。
 接近戦を申し込む……!
 
 「っく!」
 
 エネルギー弾を撃つことはなく、ボードを振り回して迎撃してきた。
 それを頭を低くして避ける。地面を這うように駆け、接敵。懐に潜り込んだ。
 
 「な、んッ!?」
 
 決まった、ハズだった。
 横合いから、赤い鞭のような刃が飛んでくる。びゅるん、とそれこそ蛇のようにのたうってさっき蹴られたところと同じ場所に刃が当たる。ただ、さっきよりもよかったのは、クロスミラージュを間に差し込んで衝撃を直接叩き込まれなかったことだ。
 
 「あ、ありがとうッス、ディード」
 
 ディード、と呼ばれた戦闘機人は、間違いなくさっきアタシを蹴ってビルに突っ込ませたヤツだ。
 また邪魔された、となぜか拗ねた感情が湧き上がり、自制する。
 
 「油断はしないほうがいい。トーレ姉さまを出し抜いた人の教え子だって聞いている」
 
 「そういえば、トーレ姉は無事なんスか?」
 
 「大丈夫に決まってんだろ、馬鹿か。トーレ姉があんな白髪に負けるかよ」
 
 はて? と首をかしげた。
 アルトは確かに、ユークリッド隊長が戦闘機人を一機撃破したと言っていた。
 と、そこまで考えて読めた。
 
 情報が入っていないんじゃない。
 不都合がないように、情報が止められてるんだ。
 
 だとすれば、これは間違いなくこちらのアドバンテージになり得る。
 ユークリッド隊長と戦った戦闘機人がその『トーレ』という人物かどうかは確証はないが、あの双剣の口振りから、十中八九、彼が倒した戦闘機人は『トーレ』なんだと思う。
 
 まだこのカードは持っておくべきかな。
 
 スバルが静かにアタシの隣に戻ってきた。
 息は乱れてないし、興奮もしてないみたいだ。
 
 ――スバル、ちょっと聞いて。
 
 ――? どうしたの、ティア。
 
 「おい、うだうだ言ってんじゃねーぞ、丸聞こえなんだよ、てめえらの念話なんざ」
 
 う、と息を詰まらせた。
 赤毛の戦闘機人はこちらを睨んだままだ。
 
 それにしても、運がいい。
 いきなり本題を切り出さなくてよかった。あのまま言っていたら、確実に無駄な場面でカードを切ってしまうことになるところだった。
 赤毛の戦闘機人が短気で助かった。
 
 念話は聞かれる。だとすれば、どうやってスバルに敵の『勘違い』を教えよう。
 スバルも知っておけば、ハッタリに付き合わせることだって出来る。一人よりも二人での方が説得力はあるだろうし、なにより、気味が悪い。
 嘘か本当か、司令塔という立場のアタシだけではなく、言ってしまえば突撃馬鹿のスバルでさえそう言うのだ。
 胡散臭さの中に、ちょっとした説得力。
 これほど“判断に困る”話しもないだろう。
 
 だと言うのに、念話が使えないとなると、一旦隠れて話をするしかない。
 ……そのためには、まず、と、そこまで思考に没頭してやっと気が付いた。
 教える相手は“誰だ”?
 
 長年の、腐れ縁パートナー、スバル・ナカジマ嬢。
 イケる!
 
 「スバル。コンビネーション、クロスシフト・AAL[エール]」
 
 「っ、わかったよ、ティア」
 
 「まぁだ小細工続けるんスかー?」
 
 ボードを持った方の赤毛の戦闘機人が言う。
 小細工といえばそうだけど、今度の小細工はちょっと“くる”わよ?
 
 三方を囲まれ、状況的には非常にマズイ。
 前衛が二人。中衛があのボード。後衛は……どこにいるかわからない。
 この場面で一番厄介なのは、後衛の奴だ。どこにいるかわからないうえに、指揮だけじゃなく、自分でも砲撃を放ってきた。
 目の前の敵に集中し過ぎると、ズドン、で終わりだ。
 ……まぁ、そのためのクロスシフト・AALなんだけど。
 
 クロスシフト・Act A Lie
 スバルか、もしくはアタシのどちらかが「話を合わせて」という意味で使う。
 つまり、今からハッタリをかますからフォローして、というその場しのぎの時間稼ぎにしかならない、相手の情報を少しでも引き出すモノ。
 今回はそれを逆に利用して、心理戦に持ち込む。
 
 ふぅ、と息を吐く。
 さて、どうやって切り出そうか。
 
 「……トーレって、もしかしてあの報告のヤツの事じゃない? ねえ、スバル?」
 
 「え? ……あー、あの、えっと、なんだっけ?」
 
 「バカ」
 
 なんとも自然なとぼけかただ。その分、もしかして本気で忘れてるんじゃないか、という疑いをかけたくもなる。
 でも、その方が会話に“らしさ”が出てくる。
 短気な方の赤毛が食らいついてきた。
 
 「あ?」
 
 「……報告が入ったのよ、戦闘機人が一人撃破されたって」
 
 「……ハ?」
 
 「嘘……トーレ姉が?」
 
 「………………トーレ姉さまとの回線、繋がりません」
 
 このまますんなりイってくれれば、万々歳なんだけどね。
 そう上手くもいかないでしょうね、これは。
 
 「ですが、向こうには結界を張る術者がいました。もう一度展開されているとなれば、回線が繋がらなくなっていることには説明がつきます。まだ本当に倒されたかは定かではありません。最悪、そうだとして、だとしたら、なぜその報告が未だにこちらに届いていないのか、甚だ疑問が残ります」
 
 結果として、ディードという戦闘機人は上手く穴に嵌まってくれた。
 ここからが勝負どころってことか。
 
 「……確かに、私たちを追ってきた部隊の奴ら、まだ全然追いついてきてないしな……。もしかしたら、トーレ姉、部隊の奴らに追いついて、殲滅を優先してるのかもな」
 
 「そこで結界を張られて通信不可能ってことッスね?」
 
 「可能性は否定できない。……けど、あの子の言うことも、一概に嘘だとは言えない。信じたくはないけれど」
 
 ……戦闘機人って言ったって人の子ってことかしらね。
 不安と懐疑が渦巻いているように見える。畳み込むなら今――――、
 
 「嘘だったら?」
 
 「嘘に決まってんだろ」
 
 「本当だったら?」
 
 「だから、嘘にきまってン――――、」
 
 「なんでそんなに“否定したがる”の?」
 
 ギク、と赤毛の戦闘機人が硬直した。
 残り二人も、直接話していた赤毛程ではないにしろ、身構えた。
 
 「ホントはホントは、どこかで『まさか』って思ってるんでしょ? そうでしょう?」
 
 「うっせェ、黙れ」
 
 「それよ、それそれ。ほら、どうなのアンタら」
 
 出来るだけ傲岸不遜に、威圧的に、まるで“騙そう”としているように。
 ディードの一言を、きっと彼女が最初に言うであろう一言を待つ。
 
 「ねえ、ティア。そんな話あったっけ?」
 
 「あったじゃない。何聞いてたのよ」
 
 「……ごめん」
 
 この場合のスバルの行動は正しい。
 “騙そう”としてると思わせたいのだから、スバルにはとぼけてもらうのが一番。
 ここまで話してやっとアタシのしようとしていることを理解したらしい。
 
 「オイオイ、お前嘘なんだろ、それ」
 
 「どうして? アタシが嘘をいうメリットってなに?」
 
 「…………たとえば」
 
 来た!
 ディードが口を開く。
 
 「私たちの動揺を誘うなど、理由はいくらでもありますよ。……逆に訊きますが、」
 
 ディードは、その先の言葉を――――、
 
 「アナタはなにをそんなに“事実”ばかりを言ってるのですか?」
 
 「えっ?」
 
 ――――言わなかった。
 騙そうとしてるのですか、ではなく、事実ばかり、と言った。
 ……あぁ、クソ。詰めが甘いぞ、ティアナ。
 思わず零した「えっ?」という言葉で、向こうの緊張が解け、代わりに烈火の怒号が返ってきた。
 
 「そういうことかよ……、信じたくねえけど、信じたくねえけどなァ!!」
 
 ドン!! と、コンクリートがめくれ上がる勢いを以て、赤毛の戦闘機人が突撃を仕掛けてきた。
 スバルと打ち合う。片や拳、片や蹴り。お互いのスピナーが唸りを上げ、大気を捻じ曲げる威力で拮抗する。
 援護、とクロスミラージュを構えた瞬間、懐に潜り込まれていた。
 ディードだ。
 
 「っく、っそ」
 
 ツーハンドにしていたのが幸いした。
 もう片方のクロスミラージュをダガーモードへ移行、双剣が振り抜かれる前に体との間に滑り込ませた。
 魔力刃が双剣の刃を受け止め、ボールでも当てたように軽々と振り抜き、吹き飛ばされる。
 しかし、バランスは思ったほど崩れていない。吹き飛ばされざま、ディードに向かって射撃を行う。
 簡単に剣で弾かれ、接近してくるか、と思ったら来なかった。
 なぜ? と訝しんだのち、
 
 《Enemy is on!》
 
 クロスミラージュが告げる。
 上を見上げると、先ほどのエネルギー弾とは明らかに威力が違うと判るスフィアが形成されていた。
 発射まであと1秒もない。撃ち合えるだけの砲撃も、こっちは出来ない。そもそもアタシに抜き撃ちを求める時点で間違ってる。
 だとしたら、どうする?
 ……――――って、どうするもこうするも!!
 
 「なめんなァ――――ッ!!」
 
 「!?」
 
 地面を蹴って、前へ飛び出す。
 クロスミラージュを2丁ともダガーモードへ。
 再度、接近戦へ……!
 
 「くそっ、ちょこまかとっ!」
 
 『だめだ、ウェンディ、撃っちゃダメだ!』
 
 そうとも、撃てばディードごと巻き込むことになる。
 フレンドリーファイアなんて、名折れでしょ?
 冷静さがなくなってる証拠!
 
 「接近戦なら、なんて思いましたかっ!?」
 
 ディードの間合いに踏み込んだ瞬間、容赦のない連撃が浴びせられた。
 これも想定内。次は、この剣戟にいつまで耐えられるかが問題。打ち合ってる間は、あのボードの――ウェンディといったか――戦闘機人は戦闘に参加らしい参加はできないはず。
 実質的な1対1に持ち込むことができた。
 
 「時間稼ぎのつもりですか……? 私たちは、あなたの捕獲命令は受けていない。その意味を理解出来ますか?」
 
 つまり、手心は加えない。
 本気で殺しにかかるぞ、ってことでしょう。
 知ってる知ってる。それくらいわからいでか。
 
 「だったら、返り討ちよ!」
 
 鍔迫り合いから弾き合い、若干の距離を開け、宣言する。
 
 「公務執行妨害、公共施設破壊、エトセトラ。以上の罪状から、時空管理局本局、機動六課スターズ分隊、ティアナ・ランスターが、あなたたちを逮捕します。神妙にお縄につきなさいッ!!」
 
 「誰がそのような……ッ、ウェンディ!!」
 
 ディードがバックステップで距離を取る。
 待ってましたとばかりに上空のウェンディからの雨のような乱射が降ってきた。
 アタシを外れた弾はハイウェイの、今はもうボロボロになったコンクリートに降り注ぎ、土煙をあげていく。
 ダガーモードを解除する。
 
 「……これで終わりよ」
 
 
 *  *  *  *   *
 
 
 「おおおおおおおおおりゃああああああああああああッ!!」
 
 「ぢぇええええええええええいらあああああああああッ!!」
 
 ガぎン!!
 私の渾身のナックルと、赤毛の戦闘機人――ノーヴェというらしい――の苛烈な蹴りがぶつかり合う。
 弾き合い、お互いが空駆ける道の上に着地し、再び加速をつけてぶつかり合う。
 
 「でらッ、だ、はァッ!!」
 
 「ずッ、シュッ、ちぇア!」
 
 ウィングロードの上で、お互いの肌が触れ合うような極至近距離で殴り、蹴り合う。
 技術なんて本当に関係ない。今まで培って身体に叩き込んできた、本能の位置にあるものに任せきった『戦闘衝動』。考えるよりもなお早く、視るよりもより早く、そしてなにより、相手よりもさらに早く。
 
 「てめえッ、ハチマキコラ、ふざけてんじゃねえぞ!!」
 
 「ふざけてなんかない!!」
 
 「『振動破砕』使ってねンだろうが、よこせゴラァ――――ッ!!」
 
 「使わないッ!!」
 
 「ンだと!?」
 
 「私も戦闘機人だけど、使わないんだッ!! 私は、私と一緒に走る相棒のためにも、この戦い、魔導師・スバル・ナカジマが勝つッ!!」
 
 「ほざいてンじゃねえぞ、ちぃっくしょおおおおおおあああああああああ!!!!」
 
 ドばァンッ!!!!
 ぶつかりあった衝撃が辺り一辺の地面をめくり上げて行く。
 ギチギチと火花を散らしながら拮抗するリボルバーナックルと、ノーヴェのブーツ。
 一撃一撃のモーションがやけに遅く見える。
 だというのに、インパクトの瞬間、思いだしたように世界が加速する。
 
 ユークリッド隊長は教えてくれた。
 『本能』こそが己の武術たり得るのだ、と。
 技術や力なんてものは、結局、意識して外付けした外装なのだと。
 己の武術、パーソナル・アーツ。
 シューティングアーツの中に見出す、私だけの力のカタチ。
 
 『本能』の拳。
 私自身が戦いたいと願い、『望んだ』チカラ。
 
 護るための、想いの拳。
 
 ありったけを、一撃ごとに込める。
 
 「でやあああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 「おらあああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 一歩も退かない。
 己を否定しない。この一つ一つの拳に、私が宿る。
 砕け、傷ついていくのは拳じゃない。拳に乗せた、私の想い。
 研磨された心は、いつしか『本能』を呼び覚ます。
 外装を解き放ち、願いに届く、“真拳”。
 
 ゴテゴテに着飾った“御綺麗”な拳じゃアない。
 私が求めた強さは、もっと輝いている。私が求めた強さは、きっと輝いている。
 
 無様でも型外れでも構わない。
 たった、ひとつの拳――願い――に辿り着くために、私は振り抜く。
 
 「チっくしょォ……ッ、なんなんだよ、ハチマキ、てめえ……チンク姉、どうなってンのか知ってんのかよォッ!!?」
 
 「――――ッ、でも、だからって、負けてあげられないよ……!! 私の後ろには、みんながいるんだ。私の後ろには、護りたい人たちがいるんだっ。それに……、君の向こうにはッ、ギン姉だって、いるんっだあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 何度目かもわからない、拳と蹴りの衝撃。
 ビリん、と。拳に電流が走った。気持ちの悪い、まるで多脚の虫が這うような悪寒。
 身体が悲鳴を上げ始めている。殴られ殴り、蹴り蹴られ、それでも退かないお互いが、見据えるのは違う未来。
 それは、たったひとつの結末なのに、二人で見る景色は、そのどちらともが違うモノを視るに違いない。
 
 相手――スバルが、
 相手――ノーヴェが、
 
 「ハチマキィッ!!!!!」
 
 「ノーヴェえッ!!!!!」
 
 私の豪拳がノーヴェの顔面を貫き、
 ノーヴェの鞭蹴が私の横腹を潰す。
 
 ガぢんッ! という固い頭蓋の音と、
 ごリュんッ! という何かがズレた音。
 
 腕を振り戻し、痛みを振り切り、全身を引き絞るように拳を撃ち抜く。
 
 どバン!!
 ノーヴェの鎖骨に拳がめり込む。
 同時に、私の骨盤に蹴りがめり込んできた。
 
 鎖骨を潰せば、上半身の重心移動が困難になり、蹴りが鈍る。
 骨盤を潰せば、下半身からの力が伝動せずに、拳が鈍る。
 
 だから?
 “だからどうした”――――ッ!!!!
 
 お互いの拳も蹴りも衰えはしない。
 逆に、鮮烈に、激烈に、苛烈に炸裂する。
 
 「マッハキャリバァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
 
 《Ignition!!》
 
 マッハキャリバーが羽撃たく。
 全身にこれとない魔力が迸っていく。
 同時に、今まで以上に、身体全体が悲鳴を上げている。
 ボロボロの今の状態からのフルドライブ、当たり前だ。
 だけど、“だけど”。それをしてまで、私はここで負けられないんだ――――ッ、
 
 負けるわけには、いかないんだッ!!!!
 
 「ギア・エクセリオンッ!!!!」
 
 《A.C.S. Standby》
 
 魔力の奔流が、私の外装を剥がしていく。
 こんなに昂っているのに、心は限りなく静かだ。
 清水――心――に落ちる、一滴の滴。
 羽撃たく心は、今、天に翔け昇る……――――ッ!!
 
 「調子にのってんじゃ、ねえ、ッぞ、ォらあああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 「一撃――――……ッ!!」
 
 この手よとどけ、と。
 この手よ撃ち抜け、と。
 
 この拳よ、
 
 「必・倒――――ォッ!!!!」
 
 ――――願いを掴めと。
 
 翔ける。
 距離は関係ない。
 お互いが最後の一撃。
 
 「これで、決まりだ――――ァッ!!!!」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 それは同時。
 
 ティアナを取り巻く土煙から、アンカーが射出された。
 それに反応して、ディードとウェンディが狙いを定め、
 
 「デバイスだけっ!?」
 
 しかし、ティアナは裏をかく。
 これぞ本命、とティアナは煙を視界の盾に、ディード向かって驀進する。
 固まっていたことと、煙のせいで反応がたった数瞬遅れる。
 その隙に、たった数歩でティアナはディードの懐に潜り込む。しかしそれを、
 
 「甘いッスよぉっ!!」
 
 ウェンディがライディングボードを盾にディードとティアナの間に割って入った。
 ティアナはマズイ、と足を止め、そして、
 
 ――――“消えた”。
 
 「ハ?」
 
 
 
 激熱するマッハキャリバー。
 腕に宿したリボルバーナックルは、今にも弾け飛びそうな回転始める。
 青い青い、空がその拳に集まっていくような錯覚がノーヴェにはあった。
 
 「ゼロ番だからってなんだってンだよ、ンなもン全部、叩き潰してやるぁぁああぁああああ!!!!」
 
 黄金の旋風。
 ギラギラと、まるでノーヴェの殺気に呼応したようなエネルギー光は、まるで炎のようだった。
 スバルの脳裏にほんの数年前の記憶がフィードバックする。
 炎がまるで魔人のように、自分を囲み、じりじりと焼き上げていく。
 
 だけど、と、スバルは構え直した。
 
 「もう、弱い自分じゃない。私は、おおきくなりましたッ!!!!」
 
 轟ッ!!
 スバルは、迸った。
 
 
 
 呆然とするウェンディとディードへ、寸分の狂いもない射撃が当てられる。
 弾き飛ばされるライディングボードと双剣・ツインブレイズ。
 
 どこから!? 周囲を見回し、そして、気づいた。
 “アンカーで移動していたのは、デバイスだけではなかった”のだ。
 オプティックハイド。対象の姿を不可視にする、幻術魔法。
 
 ティアナの手元に浮かぶ環状魔法陣は、輝きが飽和した。
 
 「ファントムッ――――!!!!」
 
 
 
 空の拳と、業火の蹴りは、果たして拮抗した。
 魔力とエネルギーが周囲を焼き尽くす勢いで衝撃に乗って広がっていく。
 まるで拳の先が世界の終わりのような錯覚が奔る。
 
 負けない。その一心を胸に、スバルが辿り着いた、“真拳”を撃ち出す。
 今まで機能せずに沈黙を決め込んでいたコッキングカバーが、叫びをあげた。
 
 我・射ン・射ン・射ン・射ン・射ン・射ンッ!!!!
 
 全弾ロード。
 六連星。その輝かしい魔力はまさしく星々の煌めきに相違いない。
 憧れた魔導師を、聖――星――光の名を冠するその一撃。
 
 スバルの“空”が、爆発的に輝いた。
 
 「ディバイぃン――――ッ!!!!」
 
 
 
 奇跡だった。
 それはもはや、偶然などではない。
 必然という、奇跡だった。
 
 クロスミラージュと、マッハキャリバーが合唱する。
 
 
 《《Can shoot it!!(撃てます!!)》》
 
 
 「ブレイザぁア――――――――ッ!!!!!」
 「バァスタ――――――――ァァッ!!!!!」
 
 
 それぞれの星――希望――の光が、それぞれを撃ち貫いた。
 魔力という光の奔流に飲み込まれながら、ナンバーズのノーヴェ、ウェンディ、ディードが崩れ落ちた。
 
 それを見届けて、遠目にしか見えない星の相棒を見る。
 笑って、笑って、そして、笑っていた。
 
 『ラスト1!!』
 
 まだ見ぬ相手の指揮官に向かって、
 星の少女たちは、勝利を謳いあげた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:6-1  end
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

なぜだかオリジナルの方が凄い勢いで書ける。あと拍手レス。

ども、草之です。
というか、短編が無性に書きたい。
そんな時間はあるようでないような。
 
『B.A.C.K』の続編をすでに構想中という。
誰が見やがりますか、というくらいにオリジナル色強いです。
たぶん、『リリカルなのは』なのに、なのはたちが出てきません(笑)。
出そうと思えば名前だけでも出せますがね。
――――あれ、続編なのに? とか思った諸君。
『B.A.C.K』の主人公はユーリです、一応(笑)。でも、そのユーリすらも出番が激減するだろうことが容易に想像できるのだ!!
なぜなら、続編の主人公は■■■■(名前)で、『B.A.C.K』の■■■■■とJS事件解決を■■■、中編連載だから!! おそらく10話程度で終わらせられる気がする。
 
割とどうでもいい話でしたね。
 

以下、拍手レスです。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:6-3

 
 『ラスト1!!』
 
 通信の先で、魔導師二人が高らかに謳い上げる。
 その叫びに、言い知れぬ恐怖があった。どうしてこうなってしまったのだ、と。
 見ると、ルーテシアお嬢様の方もなにやらめんどくさそうなことになっている。
 
 アジトの方は、チンク姉が戦っている。
 『ゆりかご』は……クアットロがいるから放っておいてもなんとかするか。
 
 いや、そんなことを考えている場合ではない。
 思考を振り切って、ガジェットを連れてどうにかして身を隠すことを考える。
 例え、他の全員が倒されても、僕だけでも生き残っていればそれで計画は続行させることが出来る。
 次々と撃破されていく姉妹に、心揺さぶられながらも、飛び立とうとした時だった。
 
 周囲のガジェットが、何かに串刺しにされていく。
 これは、見たことのある魔法……? これは……!?
 
 「うぁ……っ!?」
 
 悪態をついて、それでも離脱をとビルの屋上を蹴る。
 が。
 
 「!!」
 
 「あなたが地上戦の司令塔で……」
 
 戦場には似つかわしくない、涼やかな声がした。
 
 「各地の結界担当。うまく隠れてたけど、クラールヴィントのセンサーからは逃げられない」
 
 傍らに佇む狼が続けた。
 
 「大規模騒乱罪、及び、先日の機動六課襲撃の容疑で――――!」
 
 この程度のバインドなら、千切れる。
 逃げられる……、早く、早く……!!
 
 「てぇえええらあァああああああアアアアッ!!」
 
 軛が生える。
 囲い込むように、まるで檻を為すように。
 さらに、と新たなバインドがかけられた。
 
 「――っあっ、うわあっ!?」
 
 「……逮捕します」
 
 終わった……。
 終わってみればあっけなかった。
 この二人相手には隙を見て逃げるなんて選択肢はないだろう。
 僕は、ここで舞台を降ろされる。仕方のないことだ。
 
 「スバルー、ティアナー? 残念、ごめんね。先に捕まえちゃったわ」
 
 『って、ええ!? その声……シャマル先生!?』
 
 「ザフィーラもいるわよ。それじゃあ、回収班が来るまで警戒は解かないようにね」
 
 『了解です!!』
 
 ……。
 そういえば、“あれ”は本当に本当なのだろうか。
 
 「なぁ、ひとつ、訊いていいかな?」
 
 「答えられる範囲でなら答えよう」
 
 「ありがとう。……あのオレンジの髪の子が言ってたんだけどさ、トーレ姉が撃破されたって」
 
 本当なの?
 と、狼の方はさすがに表情はわからないけど、女性の方はあからさまに視線をそらした。
 倒されたんなら倒されたって言ってくれればいいのに。
 
 「もっと正確に言うとね、撃破じゃなくて、殺したのよ」
 
 「……は? だって、それはおかしい。管理局の魔導師は基本的に非殺傷設定を解いちゃいけないはずだろ!?」
 
 「“管理局の魔導師は”ね。次元犯罪者は、その限りではないのよ」
 
 「…………そうか、ユークリッド・ラインハルトとか言ってたな。そうか、もう、トーレ姉には、会え、ないんだね……」
 
 死に様はどうだったんだい? と訊くと、今度は顔を逸らす、ではなく、女性の方は背を向けてしまった。
 
 「真っ二つ。上半身と下半身を胴で横一閃に」
 
 「そうか。ねぇ、戦闘機人なんだからさ、胴体をくっつければ大丈夫なんじゃないか、とかって思ってない?」
 
 「……思ってないわ。でないと、殺した、なんて口にする筈がないでしょう?」
 
 「そっか。……僕たちもね、戦闘機人、なんて呼ばれてるけど、結局素体は人間なんだ。機械で出来ているこの体だって、命はあるんだ」
 
 「……そう」
 
 「人間はいいよね。未来を選べて」
 
 「そうね」
 
 「そうねって、ずいぶん他人事だね?」
 
 「そうかしら。そうでもないわ」
 
 「…………?」
 
 「私たちからすれば、よっぽどあなた達の方が人間なのよ。私たちは、今でこそ最後の生を享受してるけど、以前はそうじゃなかった。命すらなかった。殺されれば再生し、復活する。私たちは、古代ベルカ人の英雄たちを“モデル”に造られた、“プログラム”なのよ」
 
 「……なら、僕たちも希望を持ってもいいのかもしれないね」
 
 そう言うと、背を向けていた女性が振り返った。
 びっくりしたような顔をされて、逆にこっちが驚いた。
 
 「どうして?」
 
 「どうしてって、僕たちよりよっぽど人間離れしてる君たちが、それでも“人間らしく”生きてるんだ。僕たちが“人間らしく”生きられない道理はないんじゃないかな……って、思ってさ」
 
 「……努力することだ」
 
 狼の方が一言だけ、ぼそりと呟いた。
 その顔はやっぱり表情は読めないけど、笑いかけてもらっているように感じた。 
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 背後から戦闘音が聞こえ始めた。
 キャロはしまった、という顔をして、フリードを方向転換させようとする。
 
 「待って、キャロ。……今あっちに戻ったら、目の前の相手に背中を見せることになる」
 
 「でも、エリオ君……」
 
 「信じようよ、スバルさんとティアさんを」
 
 というか、今から戻ってティアさんに大目玉食らうもの勘弁願いたい。
 とにかく、今は目の前の――――ッ!?
 
 「ストラーダッ」
 
 《Jawohl!》
 
 フリードの背を蹴って空中に飛び出す。
 同時、突貫!
 
 「……、……ッ」
 
 攻撃を仕掛けてきたのは、召喚師の召喚獣の一。
 虫というよりは、甲殻類に似たものがある、そんな姿を持った漆黒の虫。
 打ち合う切っ先と拳は、その甲殻の固さゆえに甲高い金属音をを奏でた。
 
 振り払い、フリードの上に着地する。
 見上げると、ガジェットに乗った召喚師の少女が僕たちを見下ろしていた。
 
 「……どうして……?」
 
 キャロが呟く。
 
 「どうしてこんなことするの……?」
 
 「…………、っ」
 
 少女は答えない。
 わずかに息をのみ込んだだけで、なにかを言いたそうに、それでも何も言わない。
 その瞳はどこか、なにかを切実に祈るような色を見せていた。
 
 「どうして、そんなことをするのか。……違うよね、どうして、そんなことをしなきゃならないの?」
 
 「ドクターが、」
 
 言って、
 
 「ドクターが言ったの。レリックの11番があれば、お母さんの目が覚めるって」
 
 「お母さん……?」
 
 「……それが理由。この『お祭り』が終わったら、みんなで探してくれるって約束してくれたから。それだけ」
 
 そんな、とキャロが息をのんだ。
 本当に、そんな、だ。もし、彼女の母親と彼女が、“僕ら”に先に保護されていれば、それだけで少女の運命は変わっていたってことだろう?
 犯罪者を前に、交換条件を出され、手伝わせている。
 そうだ、この『手伝わせている』、ということが重要なんだ。
 
 スカリエッティが交換条件だ、と言ったかは定かじゃないけど、この少女は自らの意志でスカリエッティを手伝っている、と言ってるのだ。
 管理局がこのことをどう捉えるかはわからないけど、どうしても悪い方向に考えてしまう。
 ……どうすればいいんだろう。
 どうすれば、目の前の少女を救う事が出来るんだろう。
 
 「だから、私はあなたたちを倒さなきゃいけない。だから……」
 
 鈴が鳴るような音が聞こえ、魔力で出来た短剣が少女の周りに浮かび上がった。
 フリードの身体がグン、と沈む。
 
 「エリオ君、掴まって!」
 
 少女の剣が飛び出すのと、フリードが回避行動を取るのはほぼ同時だった。
 フリードの腹の下を次々に流れて行く短剣。
 ――――攻撃。それが、話すことよりもなによりも、優先するべき彼女の答えだった。
 
 そんなの……、
 
 「そんなの間違ってるよ!」
 
 「っ、?」
 
 「お母さんを救うために僕たちと戦うなんて、間違ってる。間違ってるよ!」
 
 「じゃあ、じゃあなんで私の邪魔をしたのっ?」
 
 「邪魔……?」
 
 彼女の目的はなんだと言ったか。
 彼女の協力者は誰だと言ったか。
 
 彼女の目的はロストロギア『レリック』のシリアルナンバー11番の発見。
 彼女の協力者は重犯罪者、ジェイル・スカリエッティ。
 
 なら、僕たちは?
 ロストロギア『レリック』を回収し、その工程でスカリエッティの逮捕を目指す。
 
 だから、邪魔。
 
 「そんな……違う、君は――――」
 
 「騙されてる? そんなことないよ。ドクターはあんなだけど、嘘だけは言わない人だから」
 
 「ぐ、ぅ? だけど、だからって犯罪者のために戦うなんて!」
 
 「……別にドクターのために戦ってるわけじゃないもの」
 
 「だったら。だったら、こっちに来なよ!」
 
 「え?」
 
 ポカン、と口を開ける彼女に、畳みかけるように叫ぶ。
 
 「僕たちは君を助ける。君のお母さんも助けてみせる」
 
 キャロに目配せして、フリードを降ろすように頼む。
 ビルの屋上にフリードは降り立つ。話し合うなら、君もこっちに、と手招きする。
 すぐに降りては来てくれたけど、やっぱりまだ警戒は解いてくれない。
 少女を護るように、漆黒の虫が傍らに降り立った。
 
 「……みんな、いなくなるんだ」
 
 「え?」
 
 「みんな、大切な人はみんな私の前からいなくなっていく。……でも、レリックの11番があれば、お母さんが帰って来て、そうしたら、もう私の前から大切な人はいなくならない。もう、私は不幸じゃなくなる。それが、私があなた達と戦う理由」
 
 「……違うよ」
 
 キャロが少女の言葉を聞き、それに対して言葉を紡ぐ。
 
 「そんなのの先にあるのは、きっと幸せなんかじゃないよ! あなたは、目覚めたお母さんになんて話すの? いっぱい敵を倒して、いっぱい人を傷つけて、それでもお母さんを助けたいから戦ったって話したいの!?」
 
 「そ、れ、は……」
 
 「あなたのお母さんに嘘を話してまで、あなたはどうしたいの? 違うよ、そんなの悲し過ぎるよ!!」
 
 キャロと目を合わせる。
 こくん、と頷き合い、目の前の少女に目を向ける。
 
 「本局機動六課、アルザスの竜召喚師、キャロ・ル・ルシエ!」
 
 「同じく、エリオ・モンディアルと、飛竜フリードリヒ!」
 
 「私たちが、六課のみんながあなたの手助けをする。あなたのお母さんも、レリックも、きっと!! だから、だからお願い。お名前聞かせてくれますかっ?」
 
 少女の顔に影が落ちる。
 まだ迷っているんだろう。これが本当に正しい事なのか、どうか。
 スカリエッティを見限るべきなのか、どうか。
 
 「私は……でも……」
 
 『あ~らら~ァん? ダメですよ、ルーテシアお嬢様。ガリューさんも』
 
 空中にモニターが映る。
 戦闘機人だと思われる女性が映り込んで、何かを話し始める。
 
 『戦いの最中に敵の言葉に耳なんか貸しちゃいけません。邪魔なものが出てきたら、“ブッチ”殺してまかり通る。それが私たちの力の使い道』
 
 得意げに、その戦闘機人は謳う。
 
 『ルーお嬢様にはこのあとォ、市街地ライフライン停止ですとかぁ、防衛拠点の“ブッ”潰しですとかぁ、お願いしたいお仕事もありますしィ?』
 
 歯を噛みしめた。
 協力してくれている……だって? これの、どこが?
 協力なんて建前じゃないか、こんな、こんなの利用してるだけだ。
 
 「クアットロ……でも……」
 
 少女――ルーテシアというらしい――は、その戦闘機人に疑問を投げかけた。
 でも、と。それは本当に正しい事なのか。それで本当に私に幸せはやってきてくれるのか、と。
 たった一言だけ、そう言ってくれることが、僕には、僕たちにはとっても嬉しいことだった。
 だというのに。
 
 『あ~、迷っちゃってますネェ? 無理もないです、純粋無垢なルーテシアお嬢様に、そこのおチビの言葉は毒なんですネェ?』
 
 「お、まえ……ッ!」
 
 相手がモニターの向こうにいるのがもどかしい。
 毒? 毒ってなんだよ、どっちが毒なんだ。
 ルーテシアにとって、どっちが、一体どっちが毒なんだ。
 
 ――分かりきってる。
 だから、僕たちは言ったんだ、「君を助ける」って。
 
 『と、言うわけで、ポチっと』
 
 「――――!」
 
 画面の奥の戦闘機人が何かを操作した途端、ルーテシアの身体から力が抜けて行く。
 代わりに、魔力による重圧がどんどん高まっていく。
 嘘みたいな量の召喚魔法陣。次々と召喚されていく召喚獣たちは、どこか人形のようだった。
 殺意で出来た、人形のようだった。
 
 「ルーちゃん……っ」
 
 キャロが呼びかける。
 しかし、反応などはない。ただ、力なくゆらゆらとおぼろげに立っているだけ。
 傍らに立つ漆黒の虫――ガリューというらしい――も、戦闘態勢に入っていた。
 
 「ガリュー……!?」
 
 こちらに呼びかけるも、やはり反応はない。
 ないというのに、ガリューはなにかを望んでいるような様子だった。
 それは戦闘という行為ではない。
 なにか、だ。
 
 次の瞬間、魔法陣がより一層の輝きを放った。
 周囲のビルに召喚された虫たちがわななく。これは、どういう?
 考える間もなかった。
 
 『お嬢様ァ、聞こえますかぁ? 目の前にいるのがお嬢様の敵でェっす。全力で“ブチ”殺さないとお母さんと会えませんヨォ?』
 
 「こ、の――――!!」
 
 「ルーちゃん!!」
 
 キャロの声でルーテシアの変化に目を向けた。
 頭を抱え、必死になにかに耐えているような印象があった。
 うっすらと開けた瞳は、瞳孔が開ききっていた。元から赤かった瞳は、それこそ血で濡れたかのような、炎々とした恨みの念が宿っている。
 ……だというのに。
 
 「…………、い、や……っ」
 
 そんな眼をしているというのに、ルーテシアは、彼女自身の心は――――、
 決めろ、エリオ・モンディアル。
 お前は誰を助けたい……? 誰を護りたい……?
 ユークリッド隊長のように、あそこまでの真っ直ぐな心を持てるなんて思っていない。
 だけど、僕にも出来ることがあるはずだ。
 
 決めろ……っ!!
 
 「キャロ……、ルーテシアを倒すよ」
 
 「エリオ君!?」
 
 「今の彼女を助けるには、彼女を気絶させなきゃいけない。助けるんだ、僕たちで!」
 
 「っうん!!」
 
 護れないかもしれない。
 傷つけるかもしれない。
 
 それは総じて、自分の力が原因で。
 ……だから、自分の力には恐怖しない。
 使役する力に恐怖して、どうして使いこなせるものか。
 振り払う。
 自分の力が怖いなんていう感情を、切り捨てる。
 自分の力は、そんな力じゃない。
 
 僕のチカラは、誰かを護るためのチカラだ。
 誰かを助けたいからつけたチカラなんだ……!!
 
 「う、ううぅう、ぅあ……っ、ううううううううああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 ルーテシアの慟哭。
 涙と、感情と。
 溢れだすモノ全てが、彼女の命を奪っているような気がした。
 
 「ストラーダ!!」
 
 《Düsen!!》
 
 ストラーダが変形する。
 余剰魔力排出口が収まり、代わりに噴射口が4機、剥き出しになる。
 バすん、とブースターを軽く試運転させる。
 
 隣のキャロからも魔法陣が現れる。
 
 「我が乞うは、疾風の翼、若き槍騎士に、駆け抜ける力を……、槍騎士が猛きその身に、力を与える祈りの光を」
 
 《Boost Up Acceleration & Strike Power》
 
 一瞬ののち、全身にキャロの魔力が駆け巡る。
 ルーテシアは未だに何かに耐えている。
 魔力ダメージと、物理衝撃の半々で昏倒させる。
 勝負は一瞬、駆け抜ける……!!
 
 「ブースト……ッ!!」
 
 《Start!!》
 
 景色が伸びる。
 目標に引き込まれるような錯覚のあと、超加速。
 一瞬で距離を詰め、ストラーダの石突きで腹に打ち込むのと同時に、魔力による浸透打撃。
 この短距離ではさすがに気絶するまでの威力がつかない。
 一拍の回転を加え……
 
 「だめえええええええええええええ!!!!」
 
 「っえ?」
 
 視界が紫色の魔力光で埋まり尽くす。
 ルーテシアと僕の間に、巨大な召喚魔法陣が出現する。
 全身の汗腺が一気に開く。
 
 「す、トラーダッ!」
 
 《Jawohl!》
 
 サイドブースターを全力で逆噴射。踵で地面を削り、急停止をかける。
 そのまま、なりふり構わずにストラーダのブーストを加えたバックステップ。
 キャロとルーテシアの中間まで飛び退いて、同時。
 
 「ッぅ、アッ!?」
 
 召喚魔法陣から、巨大な腕だけが召喚される。
 さらにバックステップ。ギリギリのところでその腕についた巨爪を避ける。
 ずるずる、とやけにゆっくり、魔法陣から腕だけだったその全身が出てくる。
 
 白く、白く、白い。関節に見える筋は夜色。
 ぞくり、と背筋が凍り付いた。ダメだ。これは“人では勝てない”。
 
 「エリオ君、退って!」
 
 「あ、」
 
 キャロの背後にも、同じように巨大な召喚魔法陣が出現していた。
 ごご、と地鳴りが響く。
 目の前の白い存在は、まだなにかに引っかかっているように出て来れない。
 なぜだ、と考えて、見えた。紫の魔法陣の向こう、ルーテシアが、必死に召喚を留めていた。
 
 ――たす、け……てっ!
 
 「!!」
 
 ごご、と前から後ろから地鳴りがする。
 この空間そのものを削っているような存在の大きさ。
 キャロの召喚魔法陣が、より大きく輝く。
 
 「『天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手、我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者』」
 
 ごぉお、と。
 天を焼き尽くす勢いで放たれる火柱。
 白い存在とは真逆の、黒い存在。
 ずず、ずず、と、留まることなく溢れ返る焔の魔力。
 地核の化身。そうとでも表現したくなる。地面を介して這い出るその姿は、まさしく太陽。
 
 「『竜騎招来、天地轟鳴、来よ!!』」
 
 対するは。
 ルーテシアの制止を振り切り、空高くに舞い上がる。
 ただ、その動きは鋭い。その巨大な頭角が原因だろうか。
 三日月。凛とした鋭さを以て、太陽と対峙した。
 
 「『ヴォルテ――――――――――ル!!!!』」
 
 間近で火山が噴火したのかと思った。
 違う。それは、ヴァルテールの咆哮。雄大に広がった漆黒の翼が猛々しく羽撃たく。
 
 「エリオ君!」
 
 「え、……っ!?」
 
 気配を感じて、ストラーダを構えた。
 柄を盾に、攻撃を弾く。
 
 「っ、ガリュー!」
 
 「――――」
 
 声もなく、すぅ、とガリューが景色に溶け込んでいった。
 構える。どこから来るのかなんてわからない。ただ、いきなり攻撃されても一撃でダウンはしないように。
 
 「ガリュー、どうして! 君の主人を助けたいだけなんだ!」
 
 返事などは期待していなかった。
 後頭部に衝撃。視界が荒立つ。なんとか立つ。
 振り向くと、ガリューが姿を見せ、立っていた。
 
 「……――――」
 
 その眼が語っていた。
 
 ――たとえ、それが主人を助けるものだとしても。
 
 ガリューが大地を踏みしめ、猛スピードで迫る。
 確実に防いで、反撃。避けたくなかった。これが戦闘だったとしても、彼の攻撃を避けたくなかった。
 
 ――それが主人を傷つけるという選択ならば。
 
 高速で交錯し合う。
 防御の薄い僕のバリアジャケットはあっと言う間にボロボロになる。
 頭上でヴォルテールと白の存在がぶつかり合う。それだけで空気が歪み、衝撃波が滝の水のように降りかかってくる。
 目の前のガリューは、それを気にする風もなく、僕に向かってくる。
 
 ――容赦はしない。
 
 降りかかる衝撃の滝のなか、高速で交錯する。
 くそ……キャロ、ルーテシア……!!
 
 「ガリュー、君がそのつもりだったら、僕だって進ませてもらう!」
 
 《Unwetterform!!》
 
 サイドブースターが引っ込んで、また余剰魔力排出口が出る。
 ヘッドブースターと石突きから、追加刃が出現する。それだけで、バリン、と電撃が蛇のようにのたうった。
 
 嵐の道。
 荒れ狂う天候の中、翔け抜ける雷電の如く。
 
 「サンダーレイジッ!!」
 
 正面からガリューと打ち合う。
 爆発的な電光。ガシュン。カートリッジを炸裂させる。同時、さらに電光が激しくなる。
 ガリューの巨大なナイフにも似た爪が、甲殻からバリバリと剥けていく。
 
 「――――っ」
 
 思わず飛び退いたガリューを、逃がすまいと追撃する。
 ストラーダを一振りすれば、雷撃が尾を引いて追撃し、突けば、まるで延長のするように、雷戟が槍と化す。
 
 「ぐ、あああッ!!」
 
 ただし、それだけ魔力消費量も今までとは桁違いに多い。
 どんどんなくなっていく自分の魔力とカートリッジ。
 それでも、僕は進む。目の前に助けたい人がいる。たとえ相手がその子を守っていようとも、それは僕らとは交わらない道。
 だけど、だけど、と、考えが二転三転する。
 どうすれば、ルーテシアも、ガリューも、その召喚獣も救う事が出来る?
 それともそんな都合のいいことはないのか?
 
 ――――そんなことはない。
 現に、ルーテシアは変わりたがってる。
 助けてくれって、言ってくれている……。精神操作すらはねのけようとして、変わりたいって思ってくれている。
 ここで救って見せなきゃ、ここまで来た意味がない。
 助けてくれっていったルーテシアに、顔向けできない。
 
 「ガリュー、君が主人を護りたいと思っているのと同じくらいに、僕はルーテシアを助けたい」
 
 「――――」
 
 「ルーテシアだけじゃない、君も、召喚獣のみんなも、助けたいんだっ!」
 
 「――、――」
 
 「見失っちゃダメだ、ガリュー! “君は誰を護りたいんだ”!!」
 
 「――――!」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ルーちゃん!!」
 
 「う、うあああっ」
 
 エリオ君の想いが、伝わってくる。
 誰も傷つけずに、誰もが笑って手を繋げる結末。
 誰を倒すわけでもない。
 誰を悲しませることもない。
 
 ――たすけて、おね、がい……!
 
 目の前の女の子も、それを望んでる。
 戦いたくなんてない。戦う理由なんてない。
 
 「ヴォルテール!」
 
 押し相撲を続けるヴォルテールは、動けない。
 誰も傷つけずに、誰も悲しませない。
 
 『まどろこしいですネェ~。プチっと潰しちゃえば話は簡単なのに。ホント、甘々ですゥ~』
 
 さっき見た背景と、どこか違うような気がする。
 それを、あれ? と思うよりも早く。
 ポチっと、とまたあの戦闘機人がモニターの奥で何かを操作する。
 
 「う、あっ!?」
 
 「ルーちゃん?」
 
 「うわあああああああああああああああああああ!!?」
 
 魔力が膨れ上がる。
 召喚獣達が、なにもかもを投げ捨てて暴れ始める。
 ダメだ。これ以上は召喚獣達だけじゃない、ルーちゃん自身も危険になってくる。
 
 無理矢理な魔力行使は、リンカーコアにもダメージを与える。
 それは、『死』にもつながる。
 
 「ルーちゃん、しっかりしてっ!!」
 
 『あははははは! 無駄無駄。私が操作を止めない限り、お嬢様のそれは解けませんよォ~? っと、あらら。まったく、みぃんなだらしないんだから……ぁ? え、嘘……いや、いやああああああああああああああああ!!?』
 
 ぶつん。
 モニターが途切れた。
 それとほとんど同時。スカリエッティのアジトがあるという方向から、なにかが立ち上った。
 黒い黒い、世界を切り裂くようなそれは、まるで教本で見た“次元断層”のようなもので……。
 
 瞬間。
 極大の地震が来た。
 廃棄都市のビルにはその振動は強すぎ、あっというまに瓦解を始める。
 ハッとして、ルーちゃんに目を向けた。気絶しているのか、崩れて行くビルの一部に飲み込まれていく。
 
 「ルーちゃ……っ、フリード!?」
 
 助けに行こうとして、フリードに襟首を噛まれ、背中に乗せられる。
 
 「ダメ、助けなきゃ、行かせて、降ろしてフリード!!」
 
 しかし、私の言うことも聞かずに、フリードは飛び上った。
 ガラガラと崩れて行くビルの中にルーちゃんの眠っている姿がまだ見える。飲みこまれていく。
 
 「ばか! ばかばかばか!! フリードのばかっ!!」
 
 首筋をドンドン、と叩いていると、フリードは「見てよ」と言うように静かに鳴いた。
 涙で滲んでいる視界だとよく見えなかったけど、それでもわかった。
 
 ガリューが、ルーちゃんを抱えて飛び上ってくる。
 それに続くようにエリオ君もフリードに着地した。
 
 「……みんな、無事だよ!」
 
 エリオ君がそう言って笑いかけてくれた。
 見てみると、周囲にはルーちゃんの召喚獣が飛び交っている。
 解る。
 みんな、喜んでいる。
 
 ――――、ありがとう。
 
 ルーちゃんの声じゃない、誰かの声が聞こえた。
 顔を上げると、ルーちゃんを抱えていたガリューと目が合った。
 こくん、と頷かれる。
 
 「あ、ううん。どういたしまして」
 
 きっと、あの言葉はガリューのもの。
 なにか、とても嬉しかった。
 
 『フォワード、聞こえる!?』
 
 「あ、はい!」
 
 モニターにシャーリーさんが出てくる。
 いやに慌てた様子だった。さっきの“次元断層”みたいなものと関係があるんだろうか?
 
 『スターズは至急、『ゆりかご』へ向かって下さい!! ライトニングはアースラへ!!』
 
 「えっと、了解です?」
 
 何があったのかよりも、その勢いに負けて帰還命令を承諾する。
 モニターが息をつく暇もなく消えた。
 
 「どうしたんだろう?」
 
 「わからないけど……でも、あれ、スカリエッティのアジトの方角だったよね?」
 
 『あ、ライトニング。フェイトさんは一応無事だよ。スターズの方も、ギンガさんはフェイト隊長が助けてくれたみたいだから、安心してね』
 
 またモニターが展開して、シャーリーさんが青白い顔で出てくる。
 ? さすがに、これを気にするなって言う方がおかしい。
 
 『シャーリーさん? どうしたんですか?』
 
 当り前のようにスターズの二人も同じことを思ったのか、スバルさんが通信の向こう側でシャーリーさんに訊いていた。
 
 『さっきの黒いやつとなんか関係あるんですか?』
 
 続いて、ティアさんも訊く。
 
 「地震も起こったけど、あ、スターズの方は大丈夫だったんですか!?」
 
 『心配ありがと、エリオ。こっちはスバルのウィングロードの上に避難したから大丈夫よ』
 
 「よかった」
 
 さて、とティアさんが区切りをつけて、改めてシャーリーさんの方を向く。
 シャーリーさんはと言うと、やっぱり青白い顔をしながら頷いた。
 
 『さっきの“黒い閃光”は見ましたか?』
 
 全員が頷く。
 どうやら、全員が見ていたようだ。
 
 『あれは、極小規模の“次元断層”です。この世界で起こってしまったので、ミッドチルダを含むこの星は一時的な災害に見舞われました。さきほどの地震もその一つです』
 
 やっぱり、次元断層だったんだ。
 でも、なんでそんなものがいきなり起こったんだろうか?
 もしかして、『レリック』の暴走とか……?
 
 『発生地点はスカリエッティのアジトの直上です。さっきも言ったとおり、フェイト隊長、シスター・シャッハ、アコース査察官は全員一応無事です』
 
 「それで、なんでそんなものが起こったんですか?」
 
 『正確には起こったんじゃなくて、“起こされた”んだけどね。アコース査察官からの映像なんだけど、これは移動中のヘリの中ででも見てくれればいいから、今は後回しね。…………ここからは落ち着いて聞いて』
 
 その雰囲気の変わりように、動悸が激しくなる。
 息もなぜか荒い。見えない巨大な手に押さえつけられているような、そんな感覚がある。
 エリオ君の袖を、思わずぎゅっと握ってしまった。
 
 『ミッドチルダ周辺の次元間航路が断たれたわ。原因はさっきの次元断層による次元震の発生からくる、空間の歪みが原因ね。ここまで話せば、わかるかしらね?』
 
 『――――本局の艦隊が、『ゆりかご』の軌道上到達までに間に合わない……?』
 
 『正解』
 
 全員が息をのんだ。
 どっと汗が流れ出して来る。
 押さえつけられるような重圧が一段と強まった気がした。
 
 『おそらく極小規模のものだったから、4日ほどで航路は回復するでしょうね。でも、4日』
 
 到達まであと1時間を切った、と言っているにも関わらず、艦隊到着が4日後以降。
 そこまで時間があれば『ゆりかご』は迎撃態勢を完璧に整え、さらに、ミッドチルダを制圧してもまだおつりがくるくらいの時間がある。
 そんな相手をどうやって地上の戦力だけで抑えられるのだろうか。
 
 『でもね、さっきの“黒い閃光”で、『ゆりかご』の船底に極大のダメージを負わせることが出来たわ』
 
 『ちょっと待ってください! さっきのって次元断層なんですよね!? なのはさんたちは!?』
 
 スバルさんが今にも倒れてしまいそうな顔をして叫ぶ。
 そうだ、突入しているなのはさんや、周辺空域制圧をしている八神部隊長は……
 
 『そっちも奇跡的に。……とにかく話は全部移動中に、早く移動開始して。一刻を争うわ』
 
 「了解です、シャーリーさん。……そ、そうだ、私たちはヴォルテールとフリードでそちらに向かいます。ヘリは直接、ティアさん達の方へ向かわせてあげてください」
 
 『ん。ヴァイス陸曹、聞こえた!?』
 
 『おう、まかせときなァ!』
 
 「って、ヴァイス陸曹!?」
 
 フォワード全員が目を丸くしながら、モニターの向こうのヴァイス陸曹を幽霊を見たみたいに固まる。
 
 『よう。完全復活、ってわけじゃねえが、オレも戦線復帰だ。スターズ、しっかり運んでやるから、そこ動くなよー!?』
 
 そう言ってヴァイス陸曹が笑う。
 ヘリとの通信が切れ、残ったのは最終確認だけ。
 移動を始めながら、シャーリーさんの現状報告と最終確認を待つ。
 
 『スターズは、ヴァイス陸曹ののヘリで『ゆりかご』へ。ライトニングはアースラへ。時間がかかればかかるほど、このミッションは危険度を増します。迅速な行動を心掛けてください。以上です、ご武運を!』
 
 通信は意外なことにそれで終わった。
 時間がかかれば危険度を増すのはわかるのだが、その詳細がわからない。
 もしかすると、それを言うとこっちの士気にかかわるからだろうか?
 
 「ヴォルテール、急ごう。フリードもついてきてね!」
 
 今この世界でなにが起ころうとしているのか。
 それはよくわからないけど、消えない。
 
 押し潰されるような重圧が、消えてくれない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:6-3  end
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

『優星』最新話(次回更新分)の推奨BGMは『さよならbyebye』。あと拍手レス。

ども、草之です。
 
というか、『さよならbyebye』って知ってる人どれだけいるだろう?
結構、いや、かなり有名ですけどね。すでに懐メロ化してるとは思いますが。
 
実際に、さっきまでの執筆中に、作業音として書いていたら、涙が滲んできたんです。
というわけで、次回の推奨BGMは『さよならbyebye』です(笑)。
ということが言いたかっただけでしたとさ。
 
あー、小学校の頃は夏休みこども劇場で見てたなぁ。
新学期が始まってもまだ放送してるもんだから、小学校が近いからって8時15分までテレビにかじりついてましたねー。
というか、いつもあれ、いいところで新学期になってませんでした、同年代よ?
たしか、暗黒武術会の後半あたりで新学期スタート! って、なめんのかコラぁ!? って感じになりませんでした(笑)?
 
まぁ、とにかく。
予習代りに『さよならbyebye』を聴いて妄想を膨らませるもよし。
単純に『さよならbyebye』を聴いてあの頃のことを思い出してもよし。
『さよならbyebye』を聴いて、次回の『優星』の内容を予想してみたり。
 
楽しみに待っていて下さいね!
 
では、以下拍手レスです。
 
草之でした。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

今日のアニメ  #14 『あれで花田光さんかジョージだったら絶対狙ってたよあれ、うん絶対』。あんど拍手レス。

もしくはダークホース・ミギーだったらもう笑うしかない。
ども、草之です。
 
何の話だ、何の。という方のために。
ネギま!のジャック・ラカンのCVが決定したそうです。
 
小山力也さんらしいですよ。
 
ちなみに、ミギーは石渡大輔、ジョージは言わずもがな中田譲治。
なにがどう狙ってたかは分かる人にわかればいいのでそこまでは言わないで置きます(笑)。
 
一安心と言いたいけどなんだか悔しい(笑)。
ジョージだったらマジで一週間笑いの種に出来る自信はあった。
 
 
 
とまぁ、こういう大人の事情が一枚かんでそうなお話は置いておくとして。
妹が買ってきたアニメディアを拝見。とある記事で大爆笑。
 
『聖痕のクエイサー』
 
いよいよ放送開始が来年の一月に決定したらしいです。
あー、やっちまうのかー(笑)、という感じ。おそらく、ほとんどの人がこう思っているはず。
監督インタビューにて、「キャラクターによって乳を描き分けています」とのこと。
どんだけ気合い入っとんねん(笑)。
しかも2クールだそうです。なにしてんだ。怒られるまでやるって言っちゃってたし(笑)。
 
第2のクイーンズブレイド化しそうな予感と悪寒。
 
ドラマCDでは、ARIAでおなじみ晃さん役の皆川純子さんがやってたんですが、どうやらさんぺーちゃんがするみたい。どっちにしろ、男性声優は当ててもらえないサーシャ。いや、女性声優にしてるだけ良心的と見ていいのだろうか?
とりあえずカーチャは田村のゆかりんで決定だろjk。
 
ごほん。
ごめんなさい。クエイサーは雑誌では見てませんが、1巻が出たときから愛読してます。
実は超楽しみでたまらんです。カッコいいしね。DVDも念頭に入れておくとしよう。
 
 
 
ということで、以下拍手レスです。
今回はちょっちアレなトークをするかもですので、ご注意を(今更。
 
 
では草之でした。
テンション高くてキモいと自分でも思う。
 
 
 

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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

というわけで、全然書けてませんのことよ。お詫びにもならないけど拍手レス。

ども、草之です。
 
ここ二日ほど妹にパソコンを独占されていた&「交代したるよー」って言う時間には暇もたたって眠くてしかたがなかったとかいう理由で『優星』最新話、まだできてません。
 
明日の夕方には完成させて更新させて見せますので、どうか妹を罵倒してやって下さい(ぇ。
 
ちなみに、うちの妹、発育だけは「ネギま!」トップ4級という中学生です。
「こんな発育のいい中学生いるわけねえ!」と、ネギま!を見て本気で思った人。本当にいます。
だけどいろいろ性格に難がありすぎるので、草之の白髪の原因のほとんどが妹と言っても差し支えない。
 
 
 
妹自慢にも見えるのはこれくらいにしておいて、以下拍手レスです。
 
 
では草之でした。
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:34 前編

 
 電車が揺れる。
 心地の良い夏の日差しにさらされながら、電車はまっすぐにレールを進んでいる。
 ガタンゴトン、と揺れるたびに、そう多くはない荷物のなかのウチの一つ、夜光鈴が涼しげに鳴る。
 時刻は昼前。
 乗客は俺を除いて、一人二人。後ろの車両にも同じような人数しか乗っていない。
 全員俺よりもはるかに年上の、爺さま婆さまという、ちょっとした異世界だ。
 
 「あんたはどこまでいくんや?」
 
 「え?」
 
 俺が乗ったときから向かい合って乗っていたお婆さんが話しかけてきた。
 年齢よりも、ずっと若く見える元気そうなお婆さんだった。
 
 「城ヶ崎村です」
 
 「ほぉか。あすこはええところやわなぁ。そぉそぉ、ウンディーネの人も住んでるいうてるしなぁ」
 
 「…………、」
 
 ウンディーネの人、というのは、おそらくグランマのことだろう。
 言うべきかどうかを迷って、しかし、この旅で俺が何をしたいのかを思い出した。
 この言葉を口にするのは、たぶん、人生で初めてになる。
 
 「……それ、母なんです」
 
 「へぇ~。ほぉなんか。因果なことやねぇ」
 
 おかあさんによろしく云うといてなァ、と言って、お婆さんは笑った。
 そこからは時々、お婆さんの方からの質問に答えるだけで、こちらから話しかけるということはなかった。
 それでも気さくに話しかけてくるお婆さんは、どこか楽しげだった。
 
 『次の停車駅は城ヶ崎村ァ――――、城ヶ崎村ァ。お忘れ物のないように、お気をつけてお降りください』
 
 アナウンスが鳴る。
 次は、と言っても、ここからまた10分以上はかかる。
 お婆さんは「次やね」と、眉を寄せて笑った。
 
 「……ありがとうございます」
 
 「なんやの、兄ちゃんいきなり?」
 
 「いえ、退屈せずにすみました。だから、ありがとうございます」
 
 「ええんよええんよ。こんな婆の話に付きおうてもろてなぁ。こっちこそ、ありがとうねぇ」
 
 「とんでもない。こっちこそ、そちらのお役に立てていれば、と思います」
 
 「お見通しやねぇ。ごめんねぇ」
 
 「気にしないでください」
 
 楽しい時間はあっという間、とはよく言ったもので、いつの間にか、電車が減速を始めていた。
 席を立って、お婆さんに一礼する。
 
 「達者にねぇ」
 
 「はい。では、またご縁があれば」
 
 ぷシュー、と電車のドアが開く。
 さっきまでガラス越しだった夏の日差しが、直接肌に降りかかってくる。
 見上げる空には、入道雲がもうもうと浮かんでいた。
 
 「士郎さん、お久しぶりねえ」
 
 「……あ」
 
 改札の方から、声がした。
 
 「アリシアから、もう聞いちゃったかしら?」
 
 「はい。……えっと」
 
 「あらあら、ほっほっほ。おかえりなさい、士郎」
 
 「――――、ただいま、か、か」
 
 この先が言えない。
 喉に詰まりモノがあるように、気道がきゅっと絞められる。
 それでも、言わなきゃ進めない。
 
 「――……っ、ただいま、母さん」
 
 「よくできました。さぁ、お昼はまだでしょう?」
 
 「は……、いや、ああ」
 
 グランマについて歩く。
 去年も来たのに、なぜだか今は、この景色が全く違うもののように見えてしまう。
 この世界は、こんなにも『優し』かったのか。
 
 「そうそう、士郎。このあとマンホームにも行くんですってねぇ?」
 
 「うん? あぁ、アリシアから聞いたのか。行くよ。確かめに」
 
 「……アリシアは、なんて?」
 
 「いってらっしゃい、だけ」
 
 「そう?」
 
 「そう」
 
 それからしばらく、どちらとも話すことはなかった。
 ただ黙って、田舎道を進んでいく。アスファルト舗装も、ましてや石畳でも、砂利がしいてあるわけでもない、そこに地面があるだけの道。
 広い田んぼには、ぽつりぽつりと作業を進める人影が見える。
 空を見上げてみれば、眩しい日差しと入道雲。
 こんな景色は、俺の中ではここでしか見たことはない。だというのに、この懐かしさは何なのだろうか。
 あるいは、ただそういう気分にさせられているのかもしれない。
 それでもいいか、と思えた。
 いつか聞いた“郷愁”の感覚が、なんとなく、じんわりと体の中に染み込んでくるような気がした。
 
 「はい、到着。ちょっと待ってなさいね、ご飯用意するから」
 
 「俺も手伝おうか?」
 
 「ほっほっほ。それじゃあ、お願いしようかしら」
 
 「喜んで」
 
 家に上がって、改めてただいまを言うと、グランマは優しく微笑んでくれた。
 それに苦笑いで返して、台所に立つ。
 昔は、台所は女の場所だとかいう理由で、男は入らないようにしていたらしい。らしい、なんてことが言えるのは、俺が育った環境もあってだろうと思う。俺の知る限り、作る女性よりも、食べる女性のほうが多かった気がする。
 それもそれでどうなんだ、と心の中で過去に突っ込みを入れながら、黙々と食事の準備が整っていく。
 
 簡単な和食だった。
 ちゃぶ台におかずを運び、グランマと向かい合って座る。
 
 「いただきます」
 
 「はい、いただきます。ほっほっほ」
 
 相変わらずの料理の味に舌鼓を打ちながら、縁側から見える城ヶ崎村の風景を眺めてみる。
 山に囲まれたこの村は、わりと涼しい。この近くに天候管理システムの大窯はないから、元々の気温からして涼しいのだろう。
 冬は寒そうだ。
 
 「士郎、マンホームに行って、なにをするつもりなのかしら?」
 
 ――確かめたい事ってなにかしら。
 言外にそう言っていた。確かめたい事。
 俺がこの世界に来て、俺の中でなにかが終わって、何かが始まった。
 今だからそう思える。
 
 そして、そう思えるようになってから、俺の心の中にわだかまり始めた疑問。
 ここが火星だということ。それが、この疑問をより一層大きなものにしていた。
 もし、俺がここではなく、地球、マンホームに飛ばされていたのなら、きっともう答えは出ていたんだと思う。
 
 わからない何か、の、その答えが。
 
 “衛宮士郎”として生きて行くことの、ケジメ。
 
 「確かめに行く。……俺が、俺として、“エミヤシロウ”が“衛宮士郎”として、生きていくために」
 
 「……あらあら。去年会った時とはずいぶん変わったわねぇ」
 
 「変わりもするさ。いつまでも、向かい合った自分が本物だなんて思っていられないって、気が付いたから」
 
 微笑みを崩すことなく、グランマは俺の話を聞いていた。
 自然と箸はとまり、外から聞こえる蝉の鳴き声が急に大きくなって聞こえる。
 空を飛ぶ鳥の声、木の葉が擦れ合う音、吹き抜ける風の音。
 すべてが今の俺にとっての本物であり、俺が生きている世界の一部でもある。
 
 それは、つまり――――、
 
 「俺がこの世界のひとりだということを、確かめに行くんだ」
 
 「魔法使いさんも、素敵な引力には敵わなかった、というところかしら?」
 
 「まぁ、そうかな」
 
 苦笑い。
 それにグランマは、声を出して笑った。
 
 ゆっくりとした昼食も終わって、昼からは畑に出た。
 腹ごなしにはちょうどいい、と張り切りすぎた。夕方、帰ってきた身体は泥だらけになっていた。
 程よい疲労感と相俟って、早く風呂に浸かりたかった。
 
 「先にお風呂に入る?」
 
 「いや、後でいいよ」
 
 「そう。なら、お先に戴くわね」
 
 縁側に座り込む。
 泥まみれのまま畳に上がるわけにもいけないし、とりあえず、風呂に入るまでここで暮れゆく空でも見ていよう、と。
 
 吹き抜けていく風は昼間よりも冷たく、汗にまみれた身体を程良く冷ましていく。
 焼けたような茜色の空は、どんどん夜色に染みていく。
 それをぼぅっと眺めていること、空がちょうど半分ほど夜に変わった時だった。
 
 「あがったわよ」
 
 「ん。じゃあ、入るとしますか」
 
 腰を上げて、靴を脱ぐ。
 脱衣所に入って、服を脱衣籠のなかに放り込み、一度、鏡を見た。
 
 「…………」
 
 大小の銃疵、斬傷、若干残る火傷跡。
 戦闘者として、腕の傷は少ないのは当たり前として、それにしても、と思う。
 
 「……よく生きてたもんだな」
 
 こうやって思い返して見ても、いや、こうやって思い返すからこそ、なのだろう。
 この世界に生きて、優しさを知って、だからこそ、そう思ってしまうのだろう。
 
 「……風呂入ろう」
 
 がらっ、と戸を開けると、一気に湯気が逃げ出してきた。
 冬でもないのに、これだけ湯気が出るって……結構熱そうだな、お湯。
 
 「っあつ、やっぱり熱……」
 
 試しに指を入れてみると、一瞬でじんとくる程の高温だった。
 まぁ、慣れるだろう、と桶に湯を汲んでかけ湯をすることにする。
 頭から湯をかぶって、とたんに髪が逆立つ、くらいに熱かった。首筋に何かが這ったような感覚がして、熱い湯をかぶったはずなのに、鳥肌が立った。
 
 がしがしと頭を洗い、流し、がしがしと身体を洗い、流す。
 ふぅ、と一息ついて、湯船に向かう。
 じっと眺めて、うん、と頷く。
 
 「南無三」
 
 覚悟を決めて、一気に肩まで湯に浸かる。
 ぞわわわっ、と全身を熱が駆けまわる。その熱を我慢するように、息を止めて、ある程度慣れてきたところで溜めに溜めていた息を吐き出す。
 ARIAカンパニーにいると、風呂はなく、シャワーで済ませていたから、本当に久しぶりの風呂、ということになる。去年のグランマの家に来た時以来だから、アクア歴で1年、地球歴で2年ぶりの風呂ということになる。
 一昨年に一度、去年にも一度、冬だったかにアリシアたちに温泉に誘われたけど、それにも行ってない。
 
 それもこれも、全部がこの傷のためだ。
 この世界ではあり得ない、あってはならない死のカタチ。
 それを見せることが、どういうことなのか。
 それを見せることが、一体どういうことなのか。
 
 「…………ふぅ」
 
 もう一度ため息。
 
 「この世界に混ざれない、数あるひとつの理由」
 
 大きな傷は消えない。
 それは身体の問題だけではなく、心の問題でもあるのかもしれない。
 ぴちょん、と湯船に水滴が落ちる。
 湯気で天井がぼやけて見える。靄がかった電灯がやけに頼りない。
 
 いまにももみ消されてしまいそうな電灯の光が、とても似ている。
 
 「俺に似ている」
 
 正確には、俺じゃない。
 
 「“エミヤシロウ”によく似ている」
 
 “衛宮士郎(俺)”ではなくて、“エミヤシロウ(俺)”によく似ている。
 もみ消されそうな俺は、俺ではなくて俺だということ。俺だけが昔の俺を知っていて、昔の俺は、今の俺をどう思っているのだろうか。
 あるいは、誇らしく思ってくれているのだろうか。
 それとも、罵倒の限りを尽くしているのだろうか。
 
 「……今の俺にはわからない。わからないということが解る。けど、それがなんだって言うんだ。わからないことを、それでいいなんて思ってちゃあダメなんだろうな。わからないことを、それでも知ることが今の俺には必要なんだ」
 
 ざん、と湯船から身体を出す。
 タイル張りの風呂の床にペチペチと足音が鳴る。
 
 見ると、脱衣籠に入れておいた服はいつの間にか回収されて、洗濯機の中で踊っていた。
 代わりに寝間着らしき甚平が置いてあった。袖を通してみると、少し大きい。
 それなりに広いと思っている肩幅からでも、少しずり落ちそうな感じだ。
 
 「作ってくれた、とかか?」
 
 魔術を使うまでもない。
 縫い目や、布を見れば、これが手作りのものだってことが分かる。
 温かい。
 
 「……あがったよ」
 
 「布団、敷いといたからねぇ」
 
 「ありがとう」
 
 ……久しぶりだった。というよりも、これが、という感覚。
 布団の中に潜り込む。温かかった。
 日干しでもしていたんだろうか、ふわりとした、温かさだった。
 
 消えていく。
 あるいは、重なっていくのだろうか。
 重なる。
 あるいは、消えていくのだろうか。
 
 天秤のように、否、傾き片寄る天秤ではない。
 それは鏡か、それとも人形?
 “エミヤシロウ”と“衛宮士郎”。どちらがどちらで、どちらが本物か。
 
 「本物、ね……灯里がなんか言ってたっけな」
 
 『……ぶっちゃけ私、この世には嘘モノはないって思うんです』
 
 “本物”の反対は一体何なのか。
 偽モノ、贋作、似せモノ。
 
 だとしたら、今の俺は昔の俺から見れば、偽モノなのだろうか。
 それとも、これが本物だというのだろうか。
 
 本物の定義は?
 偽モノの定義は?
 
 それに当てはめて考えて、俺は本物? それとも偽モノ?
 そもそも、俺って何だ?
 
 俺の何が本物で、何が偽物で。
 
 俺は一体、何を背負っていたんだ?
 救えなかった人たちを?
 救いたいと思った願いを?
 それとも、そう願い、救えなかった人を背負った“俺”を?
 だったら、“俺”っていうのは、一体誰なんだ?
 
 「――――あ」
 
 目が覚めた。
 いつの間にか寝ていたらしい。
 寝汗がひどく、朝に吹く風がやけに寒かった。
 もぞり、と布団の中で身体を動かすと、隙間から冷たい朝の空気が入り込んで来て余計に寒くなった。
 目が覚めたんだから、これ以上布団の中にいることもないか。
 
 「ん、く――――ぁっ!」
 
 背筋を伸ばし、縁側から庭へ出る。
 ほどよい広さのそこで、日課を始める。
 まだ日も昇らない薄暗闇の中、精神だけは研ぎ澄まし、その切っ先を光らせる。
 
 「――――、投影、開始[トレース・オン]」
 
 両手に干将・莫耶を顕現させる。
 手の中にしっとりと収まる握り心地は、いつもと変わらない。
 
 すぅ、と切っ先を水平まで持ってくる。
 動かず、揺らさず。
 水滴を受け止める止水の如く。一紋の波も許さない。
 
 没頭する。
 山と山の間から、朝日が漏れ出す。
 
 弾けた。
 ぴゥ、と笛を吹いたような音がして、空気が裂ける。
 切っ先は止水、流れる身体は激流。
 仮想敵を思い浮かべる。まずは雑魚。徐々に強く、鋭く。
 最後には、英霊。
 
 いつもは、仮想的をセイバーにする。
 だけど、今日だけはアイツにした。
 
 対峙する。
 
 『――――、行くのだな』
 
 「す――――――――ぅ」
 
 息を吐く、と同時。
 大きく踏み込む。相手は動かない。無防備な首筋に刃を――――、
 
 「……俺は、お前を否定する」
 
 皮一枚で止めた。
 
 「俺はお前に否定される」
 
 発する言葉は、今の自分に言い聞かせるように、と同時に未来へ語りかけるように。
 
 「磁石なんかと同じだ。S極とS極は弾き合う。つまり、お前と俺は、同じ“俺”だから弾き合う。だから、なんていう理由じゃない。俺はお前を認めたいなんて思わない。諦めた“エミヤシロウ”を俺は認めない。だから、これは諦めたんじゃない。進むんだ。進んでいたと思って、実ははまっていた泥沼から抜け出して、いろいろなものを背負った俺自身を、俺が断ち切る」
 
 自分の荷物から、ひとつの宝石を取り出す。
 赤銅色の、昔の俺の髪の色に似た、飴玉大の宝石。
 
 「――――体は剣で出来ている」
 
 干将・莫耶を消滅させてから、宝石を手に、言葉を紡ぐ。
 
 「――――血潮は鉄で、心は硝子」
 
 ズグん、と血液が逆流するような激痛とともに、魔力回路全てに魔力が注がれていく。
 撃鉄は、まだ引いていない。
 
 「――――幾度の戦場を越えて不敗」
 
 基本骨子、解明。
 構成材質、解明。
 含有魔力、解明。
 基本骨子、変更。
 構成材質、補強。
 含有魔力、流動。
 
 「――――ただの一度の敗走もなく。
  ――――ただの一度の勝利もなし」
 
 撃鉄を上げる。
 ただ一発の想いの弾丸を撃つために。
 
 基本骨子、歪曲。
 構成材質、歪曲。
 含有魔力、圧縮。
 
 「――――痛みを此処に、剣を練磨する」
 
 メキリ、と骨が軋む。
 筋肉が細かいところで弾ける。内出血がひどい。
 魔力が全て持っていかれる。
 
 基本存在、解析。
 構成存在、解析。
 含有存在、解析。
 
 「――――剣の丘に、ただ待ち続ける」
 
 存在骨子、解析。
 存在材質、解析。
 存在魔力、解析。
 
 「――――幾星霜。ただ唯一の道を悔いらず」
 
 基本存在、歪曲。
 構成存在、歪曲。
 含有存在、歪曲。
 
 存在骨子、歪曲。
 存在材質、歪曲。
 存在魔力、歪曲。
 
 考エウル存在ノ歪曲ヲ完了。
 
 「――――この体は、“無限の歪み”でただひたすらに突き進む」
 
 全行程、歪曲完了。
 
 「――――、幻想強化[ディストーション]」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「灯里ー、マンホームまでだいたいどれくらいかかるんだっけー?」
 
 「高速艇を使ったら、だいたい1日半くらいかなぁ。でも、一般の旅客船だったら3日くらいだけど」
 
 「ってことは衛宮さん、そろそろ向こうに着いてる頃かしらね?」
 
 「藍華先輩、でっかい心配症です」
 
 「う、うっさいわね。そんなんじゃないわよ……。なんで、こんなこと急にしだしたのかが、わけわかんなくて」
 
 士郎さんがマンホームへ旅行に行く、と言ってから、実に1週間と4日。
 グランマのところに1週間くらいお世話になる、みたいなことを言ってたから、たぶん、予定通りなら、今日くらいにマンホームに着いてるはずだ。
 藍華ちゃんは、士郎さんがマンホームへ行く、と知った日、わんわんと泣きだして、士郎さんを困らせていた。
 士郎さんは、「別にむこうに永住するわけじゃない」と言っていたけど、それでも藍華ちゃんはなかなか泣きやまなかった。
 いつか、たしか、藍華ちゃんは同じようなことを聞いて、泣いてた事があったっけなぁ、なんて他人事みたいに考えていた自分が、不思議だった。
 どうして、こんなに私も泣きそうなんだろう、って。
 関係者だって考えてしまったら、私まで泣いてしまいそうだった。
 
 「……衛宮さんは、マンホームの出身なんですか?」
 
 「うーん。そうとは聞いてるんだけど。よくわかんない」
 
 「でっかい興味があります」
 
 「帰ってきたら、お土産話と一緒に聞かせてもらったらどうかな、アリスちゃん」
 
 「それはいい考えですね、灯里先輩っ」
 
 いつになく、瞳を輝かせているアリスちゃん。
 どうしてだろう。“そう信じていないと帰ってこない”という想いが伝わってくるようだった。
 苦笑いが漏れる。
 
 「あに笑ってんのよ」
 
 「ううん。士郎さん、きっとちゃんと帰ってくるから、大丈夫だよって」
 
 「ば、ばかっ、それくらいわかってるわよっ!」
 
 途端に顔を真っ赤に染めて、藍華ちゃんがそっぽを向いた。
 アリスちゃんとそれを笑い合って、藍華ちゃんが拗ねながらその輪に入ってくる。
 
 いつもの風景。変わらない日常。
 たった1週間とちょっとじゃあ、そこまで変わることなんてない。でも、だからこそ、この1週間は、『士郎さんがいない』という違和感を抱えながら過ごした。
 私たちは、きっと泣いてしまう。
 ただ、いつものように買い物から帰ってきたような感覚の士郎さんを見て、きっと私たちは泣いてしまう。
 
 それが、人がいなくなるって言うことの、本当の寂しさだと思うから。
 それだけ、士郎さんの事を好きってことで、それだけ、士郎さんが私たちの生活の一部になっているってこと。
 
 士郎さんがそういう人だから、いつ消えてしまっても不思議じゃないような雰囲気を持っている人だから、余計に不安に思ってしまう。
 マンホームに行って、そのまま帰ってこないんじゃないだろうか、って。
 
 でもそれとおんなじくらいに、私たちは信じてる。
 いつものように、いつもと同じように、士郎さんは帰って来て、それでいて、おいしいご飯を作ってくれて、一緒にご飯を食べて、怒られて、褒められて、笑って、泣いて、楽しんで、悲しんで。
 
 あぁ、そうなんだなぁ、と。
 こうして離れて、改めてその人の事を考えて、やっとわかることも多い。
 
 士郎さんは、私たちのこと、よく見てくれていたんだなぁ、って。
 
 「ねぇ、藍華ちゃん、アリスちゃん。レデントーレ、今年もしよっか」
 
 「うんー? あによ、いきなり」
 
 「士郎さんが帰ってくる時期ってさ、ちょうどレデントーレの時期じゃない? だから、お帰りなさいパーティーも兼ねて、さ」
 
 「でっかいいい考えですっ」
 
 「そーねー。なかなかいい考えかもね。そんならさ、せっかくだし、みぃーんな誘っちゃおうよ」
 
 「みんな?」
 
 「みんなです?」
 
 「アリシアさんでしょ、晃さんにアテナさん。あとグランマ。アル君でしょ、で、ウッディーさんに、ついでにポニ男。あと、士郎さんの知り合い各位。そして、主賓は士郎さん」
 
 『おお~っ』
 
 とすると、とても大きな屋台船が必要になる。
 10人とか、そんな人数じゃなくなるだろうし、お料理の量も多くなるし。
 うわー、大変そう。
 
 なのに。
 
 「えへへ、いいね、それ」
 
 「でっかい楽しみです!」
 
 「でしょでしょ?」
 
 なのに、なんでこんなに楽しみなんだろう。
 それはきっと、私が、私たちが。
 
 士郎さんのことを、大好きだからなんだと思う。
 
 「そうと決まれば、善は急げよっ。アリシアさんに相談しましょ、そうしましょ!」
 
 
 士郎さんお帰りなさいパーティーの準備は始まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:34 前編   end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

なにはともあれ、マクロスである。そして拍手レス。

ども、草之です。
まだ見に行ってません。ていうか明日行きます。
人が多いのが苦手なので。
 
明日と明後日は推薦入試で大学も休みだしね。
自然と4連休。え、5連休じゃないのかって? 土曜日に再履修があるんですよ。っく。
 
土日は友人宅で地球防衛軍3。
対戦が熱かった。お互いが両方ゴリアスZを装備して、山をまたいでの砲撃戦とか。
スナイパーライフル限定の住宅地での射ち合いとか。ミサイルでヘリを撃ち落としてやったり。
それにしても驚いたのが、体力を三万近くに設定してたのに、レベル10000の乗り物の一撃で沈んだのにはマジで腹を抱えて笑った。
 
 
さて、マクロスF劇場版。
妹は日曜日に見に行ったらしいのですが。
「○○(草之の本名下の名前、呼び捨て)、パンフレット買ってきてな!」
いや、お前買っとけよ(笑)。
 
ということで、明日、朝一のなんばパークスシネマに見に行ってきます。
 
 
では以下、拍手レス。
草之でした。

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:6-4

 
 1:03:37
 
 
 『ユークリッド隊長が……その、戦闘機人を、殺しました』
 
 「……そか。がんばったなぁ、ユーリ」
 
 アースラからの通信報告。
 戦闘機人を殺した。それは、ユーリの悲願でもあったし、全てでもあった。
 私はそれの付属品なだけ。そういうのもわかって、ちょっとばっかし悲しい、なんて思いもした。
 それでも、ユーリは言うてくれた。
 
 『居場所になってくれないか』と。
 
 一緒に戦うわけでじゃない。
 ただ居場所になってくれないか、と。待っていてくれないか、と。
 自分が安心して帰ってこれる場所になってくれないか、と。
 
 私怨の復讐も、きっと、子供の癇癪のようなものだったに違いない。
 やり返さないとスッキリしない。自分が全員分の復讐を背負い、それを果たす。
 
 「傲慢そのもの……。戦いなんてのぁ、そんなもんかなぁ」
 
 結局、なんであれ、人が争うのはエゴなんだろう。
 お互いがエゴで動いて、そのエゴを貫き通したくて。管理局なんてものも、結局はそういう集合体。
 エゴなんて誰もが持ってる。ただそのぶつかり合いが大きいか小さいかの違い。
 
 「本部と六課隊員にそれを教えたって。殺したって部分は伏せとくこと」
 
 『了解です。――――、あれ?』
 
 「どないした?」
 
 『魔力反応……どんどん小さく……移動、止まりました』
 
 「なに?」
 
 『ユークリッド隊長が、たぶん、墜ちました……! ど、どうするんですか!?』
 
 「…………」
 
 どうするも、こうするも……。
 いきなり約束破りよったんか、あいつ。
 
 「戦闘機人を倒したことだけを報告。それ以外はなんも報告せんでええ。休んどるだけやろ、どうせ」
 
 『どうせ……って』
 
 「『帰る場所』がここに居んねんで? 寄り道寄り道。それくらい許したらな、ユーリの相方なんて勤まらん」
 
 『了解、しました』
 
 どこか納得していない顔で、シャーリーは通信を切った。
 ちょうどそれとすれ違うように、違う回線で通信が入った。
 
 『機動六課、スターズ01、玉座の間へ。スターズ02、駆動炉へと向かいました』
 
 「……なのはちゃん、ヴィータ」
 
 戦況は、またひとつ動こうとし始めていた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 0:53:03
 
 
 「はぁ、はぁ、はぁ」
 
 一息つく。
 もうすぐ駆動炉が見える。
 あともう少しで、この艦を止めることが出来る。
 もしかしたら止まらない、なんていう可能性は一欠片も考えない。
 止めるんだ。
 
 足はしっかりとしている。腕もまだまだ動く。
 魔力も、十二分。
 カートリッジも有り余る。
 いくぞ、いくぞ、いくぞ……!!
 
 紅の鉄騎と、鉄の伯爵に砕けないものなどない。
 ないのだから。
 
 「――――あ」
 
 灼熱。なにが起きたのか、理解が追いつかなかった。
 背中から胸にかけての、劇痛を伴った灼熱感。目の前に浮かんで滴る自分の血液。
 いつ見ても思う。ああ、自分の血は人の赤色なんだな、と。
 
 「あ?」
 
 すぅ、と色がつく。
 鋼色のそれは、刃によく似ていた。なにかに、よく似ていた。
 振り向く。
 目の前の敵の姿を確認した。背中と胸の灼熱感など忘れ去ることが出来るほどの、熾烈な火花が脳内で弾け飛ぶ。
 覚えがある。否、忘れられるはずがない。
 
 「て、めえ……ッ」
 
 声は出た。
 当り前だ。そう言う風に“出来ている”のだから。
 ただ、違うのは、“昔”と“今”では勝手が違うこと。
 
 「あン時、なのはを墜としたのも、お前らの同類か……ッ?」
 
 機械は答えない。
 正直、その問答に答えてくれたとしても、聞く耳なんて持たない。
 
 葛藤は一瞬。
 ぶち抜くべき駆動炉は目の前にある。
 ぶち毀すべき私怨の相手は目の前にいる。
 
 貫き通すべき信念は、この胸にある。
 
 
 “我が鉄槌は、全てをすべからく砕く”
 
 
 迷う必要なんてない。
 振り上げた鉄槌が砕くのは全て。
 やれと言われるのなら、そこに信念と誇りを以て、星をも砕いて見せる。
 
 「う・らあああああああああああああああああッ!!!!」
 
 胸を刺す機械を砕く。
 爆散して、刃が貫通。魔力で傷口を応急手当。血は止まる。
 人の造りを模しているこの身体が、血が足りないと戦慄く。
 
 それでも、私は立ち上がる。
 
 視線の先。けたたましい耳障りな足音を響かせながら、機械の団体さまがお出でになさる。
 地に足を、腕には鉄槌、魔力は十分。カートリッジは有り余る。
 
 「かかってこいよ、お前ら」
 
 振り上げる鉄槌は――――、
 
 「お前ら、全部、ブッ毀してやらあああああああああああああッ!!!!」
 
 ――――全てをすべからく砕く。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 0:55:54
 
 
 「レイジングハート、いまどれくらい?」
 
 《About 48% of the whole is completed(全体の48%が完了しています)》
 
 今で半分。この『聖王のゆりかご』がどれだけ広いのかがよく分かる。
 W.A.S.をここまで使って調べつくせなかったのはここが初めて、になるかな。
 
 ……ここ『聖王のゆりかご』にも戦闘機人は潜んでいるはず。
 それが玉座の間であるとは限らないし、もし、その戦闘機人にどさくさまぎれに逃げられでもしたら敵わない。
 保険程度のW・A・Sでも、ないのとあるのとではまったく違う。
 
 「ん」
 
 《Looking enemy(見敵)》
 
 速度を上げて、包囲を張られる前に突っ切る。
 必要最低限の道を開けるためだけにクロスファイアを射出。後ろからの攻撃は気にしなくてもいい。
 艦内にⅡ型がいないのがせめてもの救いだといえるかもしれない。
 
 それにしても、というよりも予想していた通り、奥に行けばいくほど敵の数も多くなっている。
 ハッキリ言って、チマチマ相手をしている暇はない。
 
 ヴィータちゃんのおかげで、魔力はまだまだ満タンに等しいほどの量が残っている。
 足踏みしててもしょうがない。
 
 「ストライクフレーム、一気に行くよ……!」
 
 《Strike frame,standby》
 
 カートリッジを消費して速度上昇、同時にストライクフレームを展開。
 敵を薙ぎ払いながら奥へ奥へと突き進んでいく。
 迷っている暇なんてない。ただ、この手で抱きしめたい子がいる。
 この手で、救いたい人がいる。
 
 「ヴィヴィオ……」
 
 ストライクフレームは、やっぱり負荷が大きい。
 バリアジャケットそのものでは耐え切れない自己ダメージもある。
 それでも突き進んで、いますぐ安心させてあげたい。
 
 《Master!》
 
 「ッ!? エクセリオン――――っ」
 
 地図で確認した、玉座の間へと続く最後の直線通路。
 通路の奥から、ギラリと殺気立ったものが煌めいた。
 同時、カートリッジをロード。叫ぶ。
 
 「バスタァ――――ッ!!」
 
 迫りくる砲撃と、迎撃する砲撃。
 拮抗する。近接戦闘の鍔迫り合いにも似た、砲撃戦のある意味醍醐味と言える場面。
 
 「……くぅっ」
 
 AMFの効果もあって、若干だけど押され気味。
 抜き撃ちだったこともある。即興で組み上げた演算は、ただ力任せの指向性のある暴発のようなものだ。
 少しずつ組み替えてはいるものの、向こうも私の砲撃と競り合うだけの威力を持っている。
 ここで精密な演算式を下手に弄れば、一気に押し返される。
 仕方がない、のかもしれない。
 
 「ブラスター、リミットワン!!」
 
 《Untie,Blaster set》
 
 「ブラストシュートっ!!」
 
 力任せに、力任せ。
 私のただでさえ多い魔力の力任せに、さらに“無茶なブースト”。
 力の奔流は、一気に相手の砲撃を飲み込んでいく。
 逆流してきた少量の魔力で、体が蝕まれていく。ぶちぶち、となにかが切れる音もする。
 
 一秒にも満たない抵抗ののち、つっかえが取れたように、エクセリオンバスターが加速した。
 放射を終え、敵の砲撃手の元まで飛んで行く。
 無駄な抵抗をされる前に、バインドで縛り上げる。
 
 「じっとしてなさい。突入隊があなたを確保して、安全な場所まで護送してくれる」
 
 レイジングハートを武器のカノンに向ける。
 万が一の事態にも備えて、武器を封印。
 
 《Sealing》
 
 「この艦は、私たちが停止させる……!」
 
 それだけを言い残す。
 相手に言ったつもりなのに、なぜか、自分に言ったような感覚があった。
 飛び去り、玉座の間へ急ぐ。
 
 しばらくして、手首がじんわりと痛みだした。
 見てみると、血が流れている。痛みがやわらぐように撫でてみるものの、気休め程度でしかない。
 
 《Master...》
 
 「大丈夫。ブラスター1はこのまま維持。急ぐよ」
 
 うっすらと見えている扉に向かって、全力で飛ぶ。
 ショートバスターのコンビネーションで扉をこじ開け、そのまま突入。
 目の前に佇む戦闘機人と、玉座に座らされているヴィヴィオを見つけた。
 
 「いらっしゃァ~い、お待ちしてましたァ。」
 
 「……――――っ」
 
 「こんなところまで無駄足ご苦労さま。さ、て。各地であなたのお仲間は、たぁいへんなことになってますよォ~?」
 
 「……?」
 
 モニターが数枚展開される。
 そこには、フォワードのみんな、はやてちゃんにヴィータちゃんの現状が映し出されていた。
 これそのものが嘘の映像の可能性もある。『ゆりかご』は中に進めば進むほどAMF空間が強力になっていて、さっきから外との連絡も上手く繋がっていない。そこを突く作戦なのかもしれない。
 ここで私があたふたしてもしょうがない。みんなを信じてあげることしか出来ない。
 
 戦闘機人を一瞥して、玉座に座るヴィヴィオを見た。
 拘束具で手足、腰を固定されている。助けだすには、まずは戦闘機人の逮捕を優先しなきゃ。
 見たところ、それらしい武器は持ち合わせていない。考えられる可能性はふたつ。
 
 「大規模騒乱罪の現行犯であなたを逮捕します。すぐに騒乱の停止と、武装の解除を」
 
 ――暗器タイプか、後衛の情報戦タイプのニ択。
 おそらく後者。いつかの、幻術使い。
 
 「仲間の危機と、自分の子供のピンチにも表情ひとつ変えずにお仕事ですか。いいですネェ~、その、悪魔じみた正義感……」
 
 戦闘機人が、ゆっくりとヴィヴィオに手を伸ばす。
 ……させない!
 
 「っ!」
 
 直撃コースを走った魔力弾が空振る。
 幻術……!
 
 『で、もォ~? これでもまだ、平静でいられますゥ~?』
 
 「?」
 
 「う、ああっ!」
 
 「ヴィヴィオ!?」
 
 玉座が反応する。
 ヴィヴィオの魔力を無理矢理増幅するように、電流が走る。
 苦しそうな声を上げるヴィヴィオ。
 もう、ダメ……っ。
 
 「――――っ!」
 
 駆け寄るのと同時。
 暴風のような魔力の奔流が吹き荒ぶ。
 強烈な魔力の風は、踏ん張っていても後ろへ後ろへと体を押し込んでくる。
 
 『ンふ。いいこと教えてアゲル。あの日、ケースの中で眠ったまま輸送トラックとガジェットを破壊したのはこの子なの。あのときあなたがようやく防いだディエチの砲……。でも、例えその直撃を受けたとしても、モノともせずに生き残れたはずの能力。それが、古代ベルカ王族の固有スキル、『聖王の鎧』。レリックとの融合を経て、この子はその力を完全に取り戻す。古代ベルカの王族が自らその身を造り替えた究極の生体兵器、レリックウェポンとしてのチカラを……』
 
 「ま、まぁ……っ!!」
 
 「ヴィヴィオ!」
 
 「――、ママっ、やだママぁっ!!」
 
 「ヴィヴィオ……っ、ヴィヴィオ――――ッ!!」
 
 魔力さえ混じった暴風が邪魔で、前に進めない。
 ほんの数メートルの距離が、えらく遠い。
 この一歩を、踏み出したいのに踏み出せない……!!
 
 『すぐに完成しますヨ。私たちの“王”が。『ゆりかご』の力を得て、無限の力を揮う、究極の戦士……』
 
 「マ、マぁ――――ッ!!」
 
 「ヴィヴィオ――――ッ!!」
 
 突風は質量を持って壁となり、魔力の雪崩が迫る。
 シールドを張ってしのぎ、放射が終わり、顔を上げた。魔力残滓が霧のように充満している。
 その霧の向こうに、ヴィヴィオがいた。
 いたのに。
 
 「…………っ」
 
 息を飲む。
 『一般人の平均よりも少し上の魔力量』だと言われたヴィヴィオの身体から、圧倒的なまでの魔力が感じられた。
 私の魔力量をも凌駕する、絶対的な魔力量。
 
 「――――――、――まま……?」
 
 『ほら陛下ぁ? いつまでも泣いてないで。陛下のママが助けて欲しいって泣いてます。陛下のままを攫って行った、こわァ~い悪魔がそこにいます。がんばってそいつをやっつけて、本当のママを助けてあげましょう? 陛下の体には、そのための力があるんですヨォ~? ……心のままに、想いのままにその力を開放して……』
 
 「う、ううあああああああああああ、ああああああッ!!!?」
 
 「ヴィヴィオっ!」
 
 その魔力量は、まるでロストロギアのそれ。
 ヴィヴィオが苦しんだと思った瞬間に、変化は起こった。
 子供だったからだが、成熟していく。女性らしいラインを作って、ヴィヴィオが大きく成長する。
 違う。
 これは、成長なんかじゃない。こんな禍々しいものが、成長のはずがない。
 あっていいはずがない……!!
 
 降り立つ少女は、黒いバリアジャケットに身を包み、鋭く私を見降ろした。
 
 「あなたは、ヴィヴィオのママをどこかに攫った……」
 
 「ヴィヴィオ、違うよ、私だよ、なのはママだよ……?」
 
 一瞬だけ躊躇するような様子を見せて、
 
 「――違う!」
 
 はっきりと、否定した。
 グサリ、と。ココロと言うモノに、ナイフが深く突き刺さった。
 
 「嘘つき……。あなたなんか、ママじゃない!」
 
 「……!」
 
 声を出せない。ヴィヴィオ、と呼んであげたいのに、声が喉でつっかえる。
 嘘つき、と言われれば、そうなのかもしれない。けれど、けれどその一言で片づけられるような感情であるわけが、あるわけがない……!!
 悔しい。私自身が恨めしい。
 なんで、なんでもっと早く言ってあげられなかったのか。
 なんで、なんでもっと早く抱きしめてあげられなかったのか。
 なんで、なんでもっと早くママになろうとしてあげられなかったのか。
 ヴィヴィオにとってのママは、私だったはずなのに……!!
 
 「ヴィヴィオのママを、返してっ」
 
 突風が強く身体を打った。
 どうして――――、
 
 「ヴィヴィオっ」
 
 『ンふ。その子を止めることが出来たら、この『ゆりかご』も止まるかもしれませんネェ~?』
 
 どうして、どうして……っ!!
 
 「レイジングハート……!!」
 
 《W.A.S.Full driving》
 
 どうして、なんで……っ!?
 
 『さァ~、親子で仲良く、殺し合いを……』
 
 「ママを、返して……っ!!」
 
 「ブラスター、リミット2!!」
 
 どうしてこうなってしまったんだろう……?
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 0:50:43
 
 
 「だッ、あっ、はァッ、くはッ、え、うぐぅッ!」
 
 視界がぼやける。息がありえないくらいに荒い。
 呼吸をするたびに、吐き気がする。肺がいらないと思うほど、息をすることがつらい。
 つらいだけだ。
 痛くも、なんともない……。
 神経が飛んでるってんなら、それはそれで好都合だ。
 痛みなんて、あればそれだけで意識が飛ぶ。
 意識を保っていられるだけ、痛みがないことに感謝する。
 
 「はぁ――――、はぁ――――、ぁ――――は」
 
 息を整える。
 数は約半数まで減った。残ってるやつらをブッ毀して、あとは駆動炉まで一直線。
 なんだ、簡単じゃねえか。
 
 「おら、来いよ」
 
 その声を待っていたとばかりに、機械の波が八方から襲いかかってくる。
 単純だ。単純な作業だ。
 一番近いやつからぶち毀していく。ひとつ叩き潰しては、それを払う過程でもうひとつを叩き潰す。
 
 「おらおらおらおらああああああああああッ!!!」
 
 気分はゲームセンターのモグラたたき。
 四方八方から頭を出してくるモグラを、渾身の力で吹き飛ばす。
 瓦礫の山が築かれる。それを乗り越えて、がしゃがしゃと耳障りな音を鳴らしながら、モグラは殺到する。
 
 「そろそろっ、消えろぉッ!!」
 
 ぐん、とグラーフアイゼンを振りかぶる。
 カートリッジを炸裂させる。ハンマーヘッドを勢いづかせて、一回転。
 
 「ギガントッ、ハンマぁ――――ッ!!!」
 
 要領はコマ。
 踵で身体を支え、背骨を軸とする。
 グラーフアイゼンは嵐と化して、モグラを喰らい尽くす。
 
 ――――嵐を納める。
 残ったのは、残骸と私とグラーフアイゼン。
 あとは、駆動炉に一直線。
 
 「そろそろ、なのはは玉座の間に着いたかな」
 
 《Ja》
 
 「……ったくよぉ、さっさと帰って、はやてのギガうまの飯でも食いてえなぁ」
 
 じゃらり、と手の中でカートリッジを転がす。
 まだまだ数はある。無理して良かったぜ、まったく。
 
 「大丈夫だな、アイゼン」
 
 《Kein Problem(問題ありません)》
 
 「……はやても、外で待ってんだよな」
 
 《Richtig(その通りです)》
 
 「踏ん張ろうぜ、アイゼン。あとは、こいつのエンジンブッ壊してお終いだ」
 
 地に足を、しかし重い。
 腕には力を、しかしつらい。
 魔力は十分、と思いたい。
 カートリッジは有り余る、ほどもない。
 
 目の前の駆動炉は、くそったれと叫びたいほどにデカイ。
 
 「……リミットブレイク、行くぞ、アイゼン」
 
 《Jawohl》
 
 ありったけの想いと、ありったけの魔力を込めて。
 
 《Zerstörungs form》
 
 振り上げ、打ち下ろすのは、鉄の伯爵。
 煌びやかな黄金の衝角と、加速器たるジェットノズルを備えるその姿は、黄金の破壊神。
 この手に宿る魔法は、すべてを打ち砕くチカラ。
 
 敵を、城壁を、悲しみと悔しさと、立ち塞がる者を。
 そして、未来を閉ざす運命さえ。
 
 「ツェアシュテールングス・ハン・マァ――――アアアアアアアッ!!!!」
 
 打ち砕け、破壊の怒鎚……!!!
 
 「ううう・お・あああああああああああああああああッ!!!」
 
 砕けろ、運命……ッ!!!!
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 0:42:21
 
 
 「……状況は芳しくない、か。さて、と」
 
 戦況をモニターで確認する。
 『ゆりかご』に対するは地上・航空隊。
 被害状況は、そろそろ15%を超える。対して、『ゆりかご』に対して足止めどころか、消耗させることすらでき

ていない。無限にも思える増援は、部隊の士気すら削げ落としていく。
 
 『次元航行部隊の到着まで、あと45分。巨大船の軌道ポイント到達まで、あと38分』
 
 「……7分差」
 
 『主砲の照準は、ミッド首都に向けられています……、7分あれば』
 
 「撃てるやろね」
 
 この7分差は、大きい。
 嫌になる。あとたった数分の差が、この戦局を支配してる。
 そもそも、や。次元航行部隊が先着しても、『ゆりかご』に入ったなのはちゃんやヴィータの突入隊が脱出していなければ、それもそれで意味がない。
 内にも外にも人質を作ってまうことになる。
 大事なんはタイミング。
 
 『ゆりかご』内ミッションの任務完了と、次元航行部隊の射撃位置到着のタイミング。
 
 「防衛ライン、現状を維持。誰か指揮交代。今から私も突入する」
 
 『え?』
 
 「軌道上になんて上がらせへん。地上に攻撃もさせへん……!」
 
 『八神部隊長……』
 
 『Entschuldigung?(もしもし?)』
 
 びくり、と肩が震えた。
 別モニターで回線がつながる。この流暢ベルカ語は、あいつしかおらん。
 
 『あなた、自分の半身も持たずに突撃する気ですの? 今そちらにヘリで運んでいるんですから、もう少し辛抱なさってはどうかしら、フラウ・ヤガミ』
 
 「……アルト?」
 
 さらにモニターを開く。
 面喰っているアルトが映った。おそらく、割り込みで報告しようとしていたところに、クリームヒルトが先に口を出した、というところだろうか。
 というか、ヘリで運んでるっていつ気が付いたんだか。
 
 『えっと、はい。今、リィン曹長をそちらにお連れしますので、もう少し待っていて下さい』
 
 『そういうことですわ。もう、一人の体ではないのでしょう、“はやて”?』
 
 「……ん。言い返しづらい」
 
 『ふふん? どうせ半身が着くまではあなたは動いてはいけないのです、どうぞお話に付き合って下さいなせんこと?』
 
 指揮の引き継ぎの片手間程度になら、とクリームヒルトに言うと、それでも結構と頷いた。
 
 『……ユーリのこと、怒っていますか?』
 
 「やから、答えずらいんやけど……」
 
 『怒っていないなら、あなたは壊れてます』
 
 「……そう言われてから『怒ってますよー』なんて言うても説得力ないやろ」
 
 『怒ってましたのね』
 
 「そりゃあ、なぁ。好きやって言ったそばから、他の女の事だけ考えて目ぇ血走らせて、怒らん方がおかしいやろ?」
 
 『ごもっともですわ。不器用と言うか、馬鹿と言うか』
 
 「あとすけべやねー」
 
 『……答えづらいとか言ってませんでしたか?』
 
 「さぁ?」
 
 のらりくらりと会話しながら、ヘリが近づいてきたことをアラームが知らせる。
 
 「さて。お仕事に戻るかな」
 
 『……ふむ。ワタクシの方も少しあなた方のために働きましょうか。フラウ・フィニーノ。そちらの解析、全部ワタクシに回しなさい。あなたが100人いてもワタクシの方が早いでしょうし』
 
 『なっ?』
 
 なにげに傷つけながら、喫茶店での彼女の行動を思い出す。
 一から立てた理論を、たった数分で理論上は可能であることを計算しつくした演算能力。
 人間がやれば数年はかかるだろう議題を、ものの数分でやってのけたことを思い出して、シャーリーが100人いても敵わない、という例えは実に説得力があるものだった。
 ……ん? この場合は、“100人だけ”に抑えられたシャーリーが凄いんやろか?
 
 「はやてちゃーん!」
 
 「待ってたで~」
 
 「それじゃ、早速いくですか?」
 
 「モチのロン。んじゃ、行こかいな?」
 
 実に久しぶり。
 六課が出来てから、実は初めてのユニゾンやないやろうか。
 
 「《ユニゾン・イン!!》」
 
 そんなユニゾンはやてさんの初陣、綺麗に片づけて貰わせましょうかー。
 まずは、ヴィータやな。
 
 「今行くからな……」
 
 《待っててくださいです!》
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 0:39:06
 
 
 強い。
 
 「う、あっ!?」
 
 それが、管理局のエースオブエースと呼ばれる、高町なのはの率直な感想。
 ただ、なによりもその言葉が似合う存在だと。
 
 強いのだ。
 
 「っヴィヴィオ!」
 
 「気安く、呼ばないでッ」
 
 拳一つをとっても、それに込められている魔力の密度、質、量、すべてが最上。
 なのは自身、力任せだと言われることも多かったが、だからこそ、彼女は彼女なりの戦闘理論を確立していた。
 その戦闘理論が、ことごとく覆される。しかも、小細工や戦術などではなく、真正面からのぶつかり合いで、だ。
 それでも、なのはには真正面から呼びかけるしか方法は思いつかなかった。
 
 むしろ。
 
 「ヴィヴィオぉっ!!」
 
 そうしなければ、いけない。
 母としてヴィヴィオを、子としてなのはを見るためには、真正面からぶつかるしかない。
 真正面からぶつからなければ、そんなのは偽物だ。今までの自分と同じだ。
 そんな考えがなのはの中に無意識にあった。
 
 「――――っ、いい加減にぃっ」
 
 「!」
 
 「してぇ―――――ッ!!!!」
 
 一際力の籠った拳が振られ、なのはは吹き飛んだ。
 転がる地面が、温かい。温かいと感じたのは、自分の血だった。
 
 真正面からぶつかって、ヴィヴィオの想いを受け止めてあげて、そのうえで、私はヴィヴィオをしからなきゃいけない。“厳しい”なのはママは、ここにいるんだよと、伝えてあげたい。
 正々堂々、全力全開で、なのははヴィヴィオに想いを伝えたかった。
 
 だから、なのはは逃げない。
 だから、なのはは諦めない。
 だから、なのはは立ち上がる。
 
 「ヴィヴィオ、私だよ、なのはだよ」
 
 「う。――……だ、だからなんだって言うのよっ! 返せ、ママを返せぇ!!」
 
 「ブラスター2!!」
 
 発動の際の衝撃波が広がり、詰め寄ってきたヴィヴィオを弾き返す。
 なのはは、声をかけるだけだ。
 迎撃以外の目的で、砲撃は使わない。それ以外は、時間稼ぎのバインド。
 あの戦闘機人を見つけて倒せば、きっと事態は好転する。そう信じて、なのはは身体を張って、真正面から『聖王』ヴィヴィオに立ち向かう。
 何度目になるのかもわからない、バインドでの拘束。一回一回、組み込むプログラムに違いを持たせ、すぐに解析は出来ないようにしてある。……にも関わらず、ヴィヴィオは一回一回、バインドを受けるたび、その解除の速度を早めていっている。
 凄まじいまでの、学習能力。
 
 それを目の当たりにしてなお、なのはは笑った。
 
 「すごいよ、ヴィヴィオ。ママの、こんなに早く解ける人なんて、そんなにいないよ?」
 
 「だから――――ッ」
 
 娘の成長が嬉しいから、と。
 だけど、とも思う。
 これは本当の意味での成長ではない。
 無理矢理膨張させた、今にも弾け飛んでしまいそうな風船に似ている。
 
 《W.A.S. area 2 complete. Beginning area 3. This will take some time(WAS エリア2終了、エリア3に入ります。あと、もう少し)》
 
 レイジングハートのその言葉を聞き、なのはは笑った。
 もうすぐだよ、と。
 もうすぐ、手が届くよ、と。
 
 その時だった。
 
 
 ド ドドド ドドドドド ド  ド――――ッ!!!!
 ゴゴ ゴゴ ゴゴゴゴ ゴ ゴゴゴ――――ッ!!!!
 ガ ガ ガガガ ガガガ……ガ――――――ッ!!!!
 
 
 何重にも重なる爆発音と、それ以上の“何か”の轟音。
 『ゆりかご』全体が揺れに揺れ、内部空間の証明が明滅を繰り返す。
 しばらくして、それが止むと、レイジングハートが口早に説明した。
 
 《It attacked it whom it was. It seems to have damaged 『Emperor's cradle』 bottom of a ship seriously(何者かが攻撃をしかけました。『聖王のゆりかご』船底が大破した模様)》
 
 WASを介して、映像が送られる。
 つい、先ほど到着した最深部の映像のようだった。
 何かに撃たれて出来た大穴ではなさそうだった。何かに斬られて出来た大穴でもなさそうだった。
 それは言うなれば、“何かに”食い千切られた後のようだった。
 
 青空が船底に空いた穴からのぞき、ガジェットと魔導師達が戦うのが見える。
 
 「なにが、起こったの?」
 
 《don't understand(解りません)》
 
 ただ解るのは、さっきの揺れが起きてから、ヴィヴィオの様子が変わったということ。
 
 「ヴィヴィオ!」
 
 「う、あ? な、のはママ……?」
 
 頭を抱えながら、ヴィヴィオはなのはの事を『ママ』と呼んだ。
 操られていたのだろうか、と思うほどの変わりようだった。だとしたら、なぜあの戦闘機人は洗脳を解いたのか? もしくは、解かなければいけない状況になったのか、制御が出来なくなったのか。
 なのはは結論付けた。
 先程の最深部。あそこにいたのだろう、と。直撃を受けて、そのまま消えてしまったのではなかろうか。
 
 「ヴィヴィオ……」
 
 もう幾度目になるかもわからない、自分の娘の名前を呼ぶ。
 駆け寄るように、離れた場所にいるヴィヴィオを抱きしめて安心させてやりたい、と。
 しかし。これも幾度目になるかわからないほど、なのはの期待だけが空回った。
 
 「だめ逃げてぇっ!!」
 
 無防備に駆け寄ったなのはに、ヴィヴィオは拳を打ちつけた。
 そのモーションが今まで以上に大きく、まるで子供が駄々をこねるような動きだった。
 くらり、となのはの視界が揺れる。
 
 「……ダメなの」
 
 『ゆりかご』の色が褪せていく。
 煌びやかな皮を剥ぐように、みしみしと軋みを挙げながら、それは広がっていく。
 
 「ヴィヴィオ、もう帰れないの……」
 
 瞬間、アラートがけたたましく艦内に鳴り響いた。
 
 《Wir wurden beschädigt. Niemand hat die Kontrollposition. Heiliger Kaiser verliert Kampfwille(駆動炉破損、管制者不在、聖王陛下、戦意喪失)》
 
 アナウンスは続く。
 
 《Ab jetzt gehen wir in die Automatikverteidigungssituation ein(これより、自動防衛モードに入ります)》
 
 ワケが分からなかった。
 なにが起きているのか、ヴィヴィオが、どうして「もう帰れない」なんて言ったのか。
 
 《Jagdflieger, aufbieten! Alle Fremdkörper wegbekommen!(艦載機、全機出動! 艦内の異物をすべて排除してください)》
 
 アナウンスに呆けているなのはに、ヴィヴィオが言う。
 
 「もう、ダメなの……帰れない!」
 
 「っ!」
 
 今までの洗練された戦闘者の動きではなく、ただがむしゃらに、拳を振るう子供のようだった。
 二度三度と交錯し、撃ち落とそうとヴィヴィオが放った砲撃を迎撃。競り合い。
 ヴィヴィオは叫び続ける。もうダメだから、帰れないから、と。
 だから、それがどうしたんだ、となのはは叫びかえす。
 
 「ヴィヴィオ、今、助けるから!!」
 
 「ダメなのっ、止められない……っ」
 
 身体だけはまだ操られているのだろうか。
 それとも、無意識に拒絶しているからだろうか。
 そのどちらでもいい。もうダメだ、と連呼する娘に、母は怒鳴った。
 
 「ダメじゃないッ!!!」
 
 押し勝った砲撃に、ヴィヴィオが飲み込まれる。
 しかし、それも一瞬。背後に回り込まれる。
 やはり、防御。もし、ここでなのはが攻撃に転じていれば、ここで勝負は終わっていたかもしれない。
 だけど、なのはは撃たない。ヴィヴィオの本当の言葉を、まだ話してもらっていない。
 まだ、逃げられない。
 
 防御が崩れ、そのまま地面に叩きつけられる。
 今までのダメージも蓄積して、足腰がガクガクと震える。
 
 「もう、来ないで……」
 
 拒絶するヴィヴィオはしかし、涙を湛えていた。
 
 「私、わかったの。もう、ずっと昔の人のコピーで、なのはマ……なのはさんも、フェイトさんも、本当のママじゃないんだよね? ……この艦を飛ばすための、ただの鍵で、玉座を護る、ただの、兵器……」
 
 なのはには、かけてあげる言葉が見つからなかった。
 ただそれでも、言えることだけはあった。
 
 「違うよ」
 
 「ホントのママなんて、元からいないの……。護ってくれて、魔法のデータ収集をさせてくれる人、探してただけ……」
 
 「違うよっ」
 
 「違わないよッ!!!」
 
 ヴィヴィオが吠えた。
 震える声も押し殺し、ただ気丈に、そこに立っていた。
 もう、帰って、と。もう、逃げて、と。もう、いいんだよ、と。
 
 「かなしいのも、いたいのも、ぜんぶニセモノの、ツクリモノ。わたしは、このせかいにいちゃいけないこなんだよッ!!!」
 
 なのはの言いたい事は、伝えたい事は、違う。
 そんなうわべだけの都合を、伝えたいわけじゃない。
 なのはは首を横に振った。
 
 「違うよ。生まれ方は違っても、今のヴィヴィオは、そうやって泣いてるヴィヴィオは、偽モノでも造りモノでもない。甘えん坊ですぐ泣くのも、転んでも一人じゃ起きられないのも、ピーマン嫌いなのも……、私が寂しい時に、いい子いい子ってしてくれるのも、“私の大事なヴィヴィオだよ”」
 
 ヴィヴィオ自身が、自分は造り物だ、偽物だと叫び散らしたところで、周りの人は、一体どう思う?
 なにが偽物で、なにが造り物で、なにが本物なのだろうか。
 自分という存在は、実は自分だけでは成り立たない。誰かに見てもらって、感じてもらって、愛してもらって、怒ってもらって、悲しんでもらって、嬉しがってもらって、楽しんでもらって、泣いてもらって、笑ってもらって、誰かに、“自分”という思い出を作ってもらって、初めて自分で在り得るのだ。
 そう、だから。
 なのはは伝えたい。
 
 「私は、ヴィヴィオのホントのママじゃないけど、ホントのママになれるように、一緒にいたいから」
 
 だから、となのはは続けた。
 
 「いちゃいけない子だなんて、言わないで……」
 
 だから、と。
 なのはは、間違いなくそう想っている。
 ヴィヴィオが『いちゃいけない子』だっていう理由も、道理だってない。
 もし本当にそう思っているんだったら、今すぐ自分で自分を殺せばいい。
 だのに、ヴィヴィオはそれをしない。だから。
 
 「ヴィヴィオの、本当の気持ちを、ママに教えて……?」
 
 「わ、たしは……わたしは、なのはママのことが、だいすき……っ」
 
 しゃくり上げる声で、だけどしっかりと、ヴィヴィオは言う。
 
 「なのはママと、いっしょにいたい……っ」
 
 だから、こんなヴィヴィオでもいいなら、と。
 誰かがいて欲しいと願ってくれるなら、いちゃいけない子なんかじゃないんなら、と。
 本当は、みんなとまだまだ一緒にいたいと願っているから。
 
 「ママ……たすけて……っ」
 
 なのはの瞳に、不屈の炎が宿る。
 震えていた足腰、力が上手くはいらない腕。
 それを全部放ったらかしにして、なのはは進む。
 
 この手の魔法は、撃ち抜くチカラ。
 撃ち抜くチカラは、進むチカラ。
 諦めたくないと、前に前に、一歩でも多く踏み出す勇気。
 幾万の想いの欠片をかき集めて、それは本当に大きな想いになる。
 ひとつひとつは弱くて、小さいかもしれない。
 でも、小さくても弱くても、集まればそれだけ大きなチカラになる。
 それだけ大きな、勇気に変わる。
 
 信じる想いが、チカラに変わる。
 
 「助けるよ」
 
 だからこそ。
 その勇気を見せてくれたヴィヴィオを、助けてあげたいと。
 なのはは、魔法陣を展開した。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 0:35:11
 
 
 「ちくしょう……なんで、壊れねえんだよ」
 
 駆動炉に攻撃を仕掛けると同時、防衛システムだかが発動した。
 周りをピーピーうるさいんで先に潰して、駆動炉破壊に戻った。
 ……だというのに、叩いても叩いても、通らない。
 
 ヒビの一つも入らない。
 想いの一つも通りはしない。
 
 「こいつをブッ壊さなきゃ、みんなが困るだ……。はやてのことも……、なのはのことも護れねえんだ!! こいつをブチ抜けなきゃ、意味ねえんだ……ッ!!!」
 
 満身創痍。
 認めたくないけど、体はボロボロ、カートリッジももう片手で数えるほどしか残っていない。
 振り抜けるのも、あと、数回。
 
 なら。
 その数回分を、最後の一撃に込めてやる。
 
 私とグラーフアイゼンに砕けないものなどない。
 それは私たちの謳い文句でしかないのは分かってる。
 しかしだからこそ、それが誇りであり、それこそが、アイデンティティでもある。
 だれかを護るために、その障害をぶち壊す。
 後に続いて歩いてくる奴らが、安心して通れる道を作ってやる。
 
 それが私の想いで、誇りで、在り方だから。
 
 「だから……アイゼン!!」
 
 《Jawohl!》
 
 この一撃に、全てを賭ける。
 気合いは十二分。想いは溢れ、この眼に宿す。
 
 難攻不落のモノがどうした。
 それを崩すことこそが、紅の鉄騎と鉄の伯爵のアイデンティティ。
 できねえ、やれねえなんて泣き言は捨てろ。
 
 この心に宿す誇りには、まだ刃毀れはない。
 鋭く、剛堅に、そして輝かしく。
 
 片膝の汚れを払う。眼の前の障害を見据える。
 『聖王のゆりかご』の駆動炉。なるほど、確かに硬え。
 ここまで耐えたことを、褒めてやる。
 次の一撃を防ぎきれば、讃えてやる。
 
 受けろ。
 立ち上がれ。
 護るんだ、私の世界。
 奪わせなんか、しねえ……ッ!!!!
 
 「う・おりゃああああああああああああ!!!」
 
 振り上げる想いは金剛。
 振り下ろす鉄槌は黄金。
 
 貫き通すべき誇りは、紅の誓い。
 
 「ブ――――」
 
 カートリッジがまとめて炸裂する。
 私に残った全ての魔力を吸い上げて、ジェットノズルが炎を吐きだす。
 
 「――――チ―――――」
 
 回転する黄金の衝角は、全ての魔力を捻じり集める。
 一点突破。
 
 轟天爆砕・地渦轟砕……ッ!!
 
 「――――抜けえええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!!」
 
 我が鉄槌は、須らくを砕き、須らくを崩す。
 例外も特別もない。
 ただ砕く。後ろを歩く奴らを邪魔する障害を、唯只管其唯一を砕き、滅する。
 
 「オオオオおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
 
 今度こそ、これで終わりだ。
 
 ミシミシ、と筋肉に包まれた骨が軋む。
 それでも込める。
 ブチブチ、と筋肉が千切れていく。
 それでも込める。
 それでも、止まらない。
 
 止まってたまるものか……!!
 
 一点に捻じり込んだ魔力が、膨張を始める。
 それをさらに捻じり込む。膨張させずに、ただ一点を突く。
 ただ一点を、これを通せば、こいつをブチ抜ける。
 
 瞬間。
 
 「――――っくぁ!?」
 
 爆発。
 弾き飛ばされる。アイゼンの衝角は粉々に砕け、ボディももう。
 
 ――――バぎん。
 
 アイゼンが砕けるのを合図に、糸が切れたように、魔力の流れが途切れた。
 私たちは、魔力で出来たプログラムだ。
 魔力の流動が途切れれば、それはつまり、死を意味する。
 人の血なんかと同じだ。
 
 あぁ、ダメだったんだ。
 結局、私のアレはハッタリ止まりだった。結果がそう告げている。
 私はまた、護れなかった。
 私は……また。
 
 「はやて、みん、な。……ごめん」
 
 呟いて、ふわりと身体が軽くなっていった。
 ブツリと途切れていた魔力が、また脈動を始めている。
 どうして……?
 
 「…………?」
 
 重かった瞼が軽くなっていく。
 目を開けて、彼女らの姿が視界一杯に映りこんだ。
 
 「謝ることなんてなんもあらへんよ」
 
 「…………、はやて、リィン?」
 
 《はいです》
 
 夜天の主。
 八神はやてが、そこにいた。
 
 「鉄槌の騎士ヴィータと、グラーフアイゼンがこんなになるまで頑張って――――」
 
 キシキシ、と始めは氷のずれ割れる音に似て。
 しかし次にははっきりと、目に見えるほどにひび割れていく。
 
 「砕けへんもんなんて、あるわけないやろ……?」
 
 言って、弾けた。
 爆風と巨大な魔力の嵐に、はやては私を抱えながら通路へ退避する。
 そのまましばらく飛んで、別の突入隊員の場所に着く。
 
 「この子、よろしくお願いします。無茶しようとしたら、殴って止めても構いませんから」
 
 「は。了解しました」
 
 「はやて?」
 
 「ヴィータ、今は休み。今度は、私が頑張る番やから」
 
 それは言外に、なのはを護ることを、今だけは引き継ぐと言っていた。
 騎士の願いは、主の願い。
 それを、はやては言っていた。
 
 「……ありがと、はやて」
 
 「どういたしまして。……情けへん主でホンマに悪かったなァ」
 
 「そんなこと、ないよ……。はやては、立派だよ」
 
 「……行ってきます」
 
 「行ってらっしゃい」
 
 はやてが飛び立った。
 しかし、それとほぼ同時。
 
 “何か”の直撃する音がした。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 0:30:02
 
 
 「助けるよ」
 
 魔法陣が展開する。
 W.A.S.に回していた魔力も含めて、全てをこの一撃に込める。
 
 「いつだって、どんなときだって……!!」
 
 助けたいという想いと、ヴィヴィオの想いを受け止めたいという願い。
 
 ドガン!
 ただの魔力付加した拳のぶつかり合いにしては大きい爆発のあと、競り合う。
 この近距離なら、体に直接複雑なバインド演算を叩きこめる。その上で身体の上からもバインドをかける。
 これなら、いくら解析が早いと言っても1分以上かかるはず。
 
 《Restrict Lock》
 
 バインドをかけると同時に飛翔。
 ブラスタービットを全方位に展開。
 魔力集束開始、同時に圧縮式を展開。AMFで魔力リンクを途切れさせないようにする。
 集めるのは、今まで戦ってきた分のこの空間全ての魔力。
 
 想いがあった。
 ヴィヴィオを助けてあげたいという、想いが。
 願いがあった。
 ヴィヴィオを一緒に生きていきたいという、願いが。
 
 「ヴィヴィオ、ちょっとだけ、痛いの我慢できる?」
 
 「……うんっ」
 
 微笑んだ。
 ヴィヴィオを必ず、救ってみせる。
 
 「防御抜いて、魔力ダメージでノックダウン。行けるね、レイジングハート!」
 
 《Clear to go(行けます)》
 
 
 星に願いを、想いを星に。
 この手の魔法は撃ち抜くチカラ。
 想いよ、願いよ、この手に星を……!!
 
 
 「全力、全開っ!!!!」
 
 レストリクトロックの魔力すら吸い上げて、星の光は輝きを増す。
 星を掴むことが子供にとっての魔法だった。
 儚い光のその向こうに、夢があった。
 私の夢を、つまりは願いや想いを込めた星を、この手に掴む。
 
 助けたい。一緒に生きていたい。
 
 ヴィヴィオ。
 本当に、大好きだよ。
 
 「スターライト――――ぉ!!!!」
 
 光が飽和する。
 闇を切り裂き、夜を翔ける星。
 光輝くのは、勇気のその先。
 
 
 「ブレイカァあ――――ッ!!!!」
 
 
 願いの、その先。
 未来という名の、奇跡の光。
 
 
 「ブレイク……――――ッ」
 
 
 奇跡という名の、希望のカタチ。
 
 
 星の光は、今を瞬く。
 過去を越えて、今に瞬く。
 今を瞬く星の光は、今を越えて、未来で輝く。
 
 
 「シュゥ――――トッ!!!!」
 
 
 ひかりはきっと、こたえてくれる。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 0:29:58
 
 
 《Heiliger Kaiser...keine Reaktion. Funktionsverlust des Systems(聖王陛下、反応ロスト。システムダウン)》
 
 「なのはちゃん!」
 
 「はやてちゃん」
 
 玉座の間につくと、なのはちゃんはヴィヴィオを抱えて佇んでいた。
 見てこっちが痛くなるほどボロボロで、それでも笑っている彼女は、とても素敵だった。
 
 《Alle magische Verbindung wird abgehängt.Für die Regeneration des Kronschiffs(艦内復旧のため、全ての魔力リンクをキャンセルします)》
 
 アナウンスが告げたとたんに、ガジェットの持つAMFとは比べ物にならない出力のものが展開された。
 強制的にユニゾンも解かれ、リィンが放り出される。
 
 《Alle Mann am Ort, Minifunktion!(艦内の乗員は、休眠モードに入ってください)》
 
 「さっきの衝撃が来てすぐにシャーリーに連絡しといたから、スターズのフォワードがもうすぐここに来るはず」
 
 「さっきの衝撃って、あのゴゴゴってやつ? あれってなんだったの?」
 
 「次元断層。しかも、故意的に起こされた、絶殺の“攻撃”や」
 
 「次元断層……って、ちょっと待ってはやてちゃん。それじゃ、航行部隊は……」
 
 「到着はあと約30分から、4日後に延長。絶望的な時間やね」
 
 「アースラも、確か……」
 
 「そう。本部替わりの使用目的やったから、武装してない。もちろん、アルカンシェルも積んでへん」
 
 こんな時に限ってこういうことが重なる。
 これを墜とす方法はたった一つ、なのだが。
 
 「ミルヒアイスは、今シグナムが足止めしてくれとる」
 
 「足止め? どういう意味なの?」
 
 「時間もなかったから詳しくは聞いとらんのやけど、次元断層を起こしたのはミルヒアイスや。スカリエッティのアジトから、直接攻撃を仕掛けて来よったらしい。目的は、おそらく、というか攻撃をしてきた時点でこの『ゆりかご』や言うのはわかっとる」
 
 「……それを、なんで足止めしてるの? 手伝ってもらえるなら、手伝ってもらえば……」
 
 「……さっきの衝撃は、元々の射線で放たれてたら、この『ゆりかご』を一撃で半分ほど飲みこむモンやったらしい」
 
 「それって……」
 
 「そうや。外で内で戦こうとる隊員もなにもかもをお構いなしに、この『ゆりかご』だけを狙った一撃やった。幸い、フェイトちゃんのおかげで射線はズラせたらしいねんけどな」
 
 それにしても、なんや、あの大穴。
 もしかせんでもなのはちゃんの砲撃であけたんやろうけどなぁ。
 ……どんな戦い方したらああなるんか、あとでレイジングハートの映像記録でも見てみよかな。
 なんで私こんなに落ち着いてるんやろ?
 
 「……船底の映像は記録してるよ」
 
 「そうなんか?」
 
 「戦闘機人を探すのにWAS使っててね。それの映像」
 
 モニターが開き、船底の映像が流れる。
 なるほど、大穴やな。食い千切られたあと、みたいな。
 それよりも、今からどうするか、やな。
 
 「とりあえず、なのはちゃんはしばらく休み。その身体やったら歩こうにも歩かれへんやろ」
 
 「にゃはは。面目ないです」
 
 「何言うてんの。みんながこんなに傷だらけになってんのに、私だけが後方指揮って、そっちのほうが面目ないって話やで?」
 
 「そんなことないと思うけどなぁ」
 
 「そーですよ、はやてちゃんは頑張ったです!」
 
 ヴィヴィオもそれに続いて頑張ったよ、と言ってくれた。
 一番つらかったかもしれへん子にまで言われたらたまらんわ。
 
 
 0:14:59
 
 
 10分以上の時間が経過した。
 なのはちゃんは未だに苦しそう。
 ……そりゃ、激戦を戦い抜いたあと、10分そこらで回復したらそれこそ化けモノ。
 
 外がどうなってるかわからん分、焦りも大きい。
 最初の余裕は、一段落したことからくるもんやったらしい。
 今では、早く早くとフォワードの到着が待ち遠しい。
 と。
 
 《Alle Mann, auf seine Position! Ich wiederhole. Alle Mann, auf seine Position!(乗員は、所定の位置に移動してください。繰り返します。乗員は所定の位置に移動してください)》
 
 アナウンスが流れる。
 今度はなんや、と思った瞬間。
 
 《Wir beginnen die Notregeneration des Beschädigungsschiffs. Entfernen Sie sich von der Beschädigungsmauer sowie vom Notverschlag!(これより、破損内壁の応急処置を開始します。破損内壁・および非常隔壁から離れてください)》
 
 ヤバい、と直感した。
 背後の、なのはちゃんが開けたのだろう、クレーターじみた大穴が修復されていく。
 出口まで修復が始まった。
 
 「あかん走るでっ。外、出な!」
 
 「う、うんっ」
 
 「はいです!」
 
 なのはちゃんを支えるように走って、そのなのはちゃんはヴィヴィオを抱えたまま。
 リィンに至っては飛べない上に小さいままなので走る速度がかなり遅い。
 
 あと半分、というところで扉が完全に閉まってしまった。
 
 「くそ……」
 
 八方塞がり。
 シグナムの足止めも、そろそろ限界が近いはず。
 こりゃ、覚悟決めなあかんかー?
 
 「……ん?」
 
 「どうかした、はやてちゃん?」
 
 「いや、なんか、聞こえへん?」
 
 「何かって何です?」
 
 「いや、私もようわからんけど……」
 
 最初は夜中に聞こえる電車のような感覚。
 徐々に徐々に、それは夜中の騒音じみたものを感じさせる。
 
 「これは……」
 
 「もしかして」
 
 どん、どん!! と。壁が衝撃に揺れ、貫かれた。
 土煙が舞う向こう側、そこに、はっきりと姿が見えていた。
 
 「お待たせしましたっ!」
 
 「助けに来ましたっ!!」
 
 希望は、まだ繋がっていた。
 
 「さっさと脱出するで。ミルヒアイスに消されたないやろ?」
 
 『了解!』
 
 なのはちゃんとヴィヴィオはスバルに、私とリィンはティアナのバイクに乗せてもらって、急いで玉座の間を後にする。
 誰もが無言で、ないようであるタイムリミットに焦っていた。
 スバルたちによると、ここに来るまでだいたい8分。
 あと、8分。
 
 耐えて、シグナム……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:6-4  end
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

映画を見てきたらマクロスの二次が書きたくなった。けど自重する。そして拍手レス。

ども、草之です。
見てきましたよ、劇場版。
ということで、ぼやかしてはいるものの、ネタばれの危険アリ。
まだ見てない人で、見る予定の人、DVD&ブルーレイ待ちの人は注意! 
以下反転。携帯の人はごめんなさい。
 
 
 
なんというか、グレイスの立場がアニメのときよりも解りづらくなってる。
映画が初見だって人は騙される。あれ絶対グレイスいい人だもん。いい人に見えるもん。
なんだかんだで最終的には味方でしたフラグの気配がビンビンするもの。
 
それとも、アニメを見た人たちの先入観を利用して、実はグレイス本当にいい人でした。
という展開が待っているのかもしれない。
あと、グレイスがシャワー浴びてて、髪の毛が下りてるのを見てキュンとしたのは草之だけではないはず。あくまで髪の毛が下りていることデスヨ。言ってる意味が分からない人は劇場に足を運ぼう!(何
 
オベリスク(not 遊戯王)からライオンのくだりはヤバかった。
鳥肌が立ちっぱなしと言いますか。後半の怒涛の展開には全身に力が入りっぱなし。
超展開ではないものの、物語のテンポの良さと、歌の疾走感もあいまって気持ちがいいほどのスピードで、置いてけぼりをくらうことなくストーリーが進む。
 
なんか物足りない、と思った方。
それはきっとボビーさんが原因だ。彼……もとい彼女のシャウトが物足りない!!
もっとはじけてもよかった気がする。「おりゃああああ」とか「うおおおおおお」くらいだったし。
そもそもボビーさんのセリフが少なかった。それともマクロスEの見過ぎか(笑)。
 
シェリルは新曲いっぱい。
ランカも新曲いっぱい、なんだけど。
なんだろう、このランカとシェリルの扱いの違いは。
サブタイトルの「イツワリノウタヒメ」というところをシェリルだと考えれば、シェリルを中心に物語が進んでいくのは分かるんだけど、もうちょっと電波じゃない歌を歌わせてあげられなかったのか。まぁ、ブレイクする前だったわけだから、しょうがないといえばしょうがないのだろうが。
なんだ、超合金って(笑)。見間違いでなければアクエリオンいたぞ(笑)。
スターライト納豆はひどかった、いい意味で(笑)。
とにかく、シェリルはガチ歌が増え、ランカはニンジーン系の歌が増えた、と思ってくれれば間違いない。
 
あとよかったのは、TV版と違って、キャラクター一人一人を掘り下げていたところ。
マクロスのテーマのひとつの三角関係、というものがより良く表せていたように思う。
映画になって一番期待していたのは、実はここだったりする。
気質だなぁ、と諦めるべきなのだろうか(笑)。
 
最後に。
クラン大尉、なんであなたがそこにいる……っ!?
開始5分程度で誰もがこの突っ込みを入れるはずです(笑)。

 
 
というわけで、テンションが上がってマクロスの二次を書きたくなったけど止めておくことにする。
なぜなら、そんな余裕がないから。
 
『B.A.C.K』に対して反応がなさすぎるのが結構キてるのもある。
同じ作者でも、書いてるものに対してこれほど反応に違いが出ると疑ってしまうのが人情。
というわけで、コメントください。がめつくてすいません。
 
では以下拍手レスです。
 
 
 

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『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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