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2010-02

その優しい星で…  Navi:36

 
 『士郎さんっ、おかえりなさーいっ!!』
 
 シャンパンのふたが次々と弾けていく。
 とびかう笑顔と、笑い声。それが自分のために開かれたものだと思うと、つられて笑顔になる。
 なみなみと注がれる酒に苦笑いしながら、ぐいっと一気に飲み切る。
 おおー、と歓声があがり、またどんちゃん騒ぎが始まる。主賓だというのに、それに一歩引いたところで楽しむとする。なんて言ったって、まだ旅の疲れが取れ切っていないんだ。無理に騒ぎの中に入って、疲れを増やすこともあるまい。そう、思っていた瞬間が俺にもありました。
 
 「飲め」
 
 「あ、いやおい? アイナ?」
 
 「飲めい」
 
 「酔ってますよねアイナさん?」
 
 「酔ってないにょー」
 
 「酔ってますよねアイナさん!」
 
 そう思っていた瞬間が、俺にもありましたとさ。
 口にシャンパンをボトルのまま突っ込まれ、“飲ませる”のではなく、流し込まれた。
 喉が灼熱する。ツン、と自然と涙がこぼれてくる。むしろ痛い。
 
 「お、ぼごっ!? ぶ、ふっ……ふぐ」
 
 「おおっ、いい飲みっぷりだにょー」
 
 コイツ、真面目に酔ってらっしゃる……っ。
 鼻腔にまでシャンパンが逆流してくる。
 
 喉や鼻の痛みを無視してアイナを引き剥がしにかかる。
 ボトルの口は離れたが、残っていたシャンパンが服にかかる。怒る気にもなれずに、そのままでいることにした。
 これはこれで歓迎してくれて……いると信じたい。
 
 そこからアイナはアイラに連れられて、隅っこで二人して飲んでいた。
 それを苦笑いで見送りつつ、喉の痛みを取ろうと食事に手を伸ばした。これらを作ったのは灯里ら三人だそうだ。
 彼女らの腕は悪くないということは知っているが、少し前に食べたときよりも断然美味しかった。
 素直にそう伝えると、恥ずかしそうに笑い合い、「がんばりました」と声をそろえて言った。
 
 「うん。ホント美味しいよ」
 
 「そういえば、向こうのご飯ってどうだったんですか?」
 
 あごに指をあてながら、藍華が訊いてくる。
 向こう、というのはきっと地球、マンホームのことだろう。
 どうだ、と訊かれると正直困る。味わって食べてたわけじゃないし、保存食とかをばかり食べていた気がする。
 保存食は美味しいといえば美味しかったけど、あれがマンホームの食事かと訊かれると頷きかねる。
 いくら機械管理が進んでいるといっても、それはマンホームに対してさすがに失礼だろう。
 
 「ああ、なんだ……。実はそれらしいものは食べてないんだ」
 
 「ええー。じゃあなんでマンホームまで行ったんですかー、ちゃんと聞いてませんよ?」
 
 「どうしてって……そうだな……」
 
 言いにくいというか、これは言うようなことじゃないだろう。
 うん、と頷いて話をまとめたフリをする。
 
 「ないしょ、だ」
 
 「ええー?」
 
 「ほらほら、食べ物なくなる前にお前らもちゃんと食べとけよ。みんなで楽しく、だろ?」
 
 納得しきっていない顔をしながらも、藍華は灯里に連れられてしぶしぶと向こうへ行った。
 アリスだけがその場に残って、じっと俺のことを見つめていた。
 どうした、と声をかけると、唇をとがらせながら、ずいっと詰め寄ってきた。
 
 「おみやげ」
 
 「お?」
 
 「おみやげって、あるんですか? まだ貰ってないです」
 
 「お、おお、ああ、おみやげか。ちゃんとあるよ」
 
 「でっかい期待してます」
 
 「そんなにいいもんじゃないぞ」
 
 向こうに行きかけていたアリスの背中に言うと、彼女は振り返って満足げな顔をしながら言う。
 目をキラキラと輝かせながら、言う。
 
 「マンホームのものということが大事です」
 
 ぐ、と拳を握って力説。
 思い返してみると、アリスは実は結構コレクター気質なのかもしれない。
 几帳面と言うか、真面目と言うか、どこかに行くとなったらいつもそこのことを調べてくるし、こういうのを何と言うのだったか。
 ――――ああ、そうだ勤勉?
 几帳面も真面目も勤勉も似たような意味だけど、とにかくアリスはそういう子なんだ。
 ……まぁ、最初の頃の無愛想な態度は、きっと人見知りが激しいだけなのだろう。こうして仲良くなれば普通の口数が少ない普通の女の子だ。
 さみしがるし、怒るし、笑うし、照れるし。
 普通の女の子だ。
 
 「なんか失礼なこと考えてないか、俺」
 
 これじゃあ、まるでアリスが変な子みたいに聞こえる。
 そうじゃない。そういうことじゃない。
 
 ……考えるのはよそう。
 
 それにしても、だ。えらいデカイ屋形船を借りたもんだ。
 人数が人数だからしょうがないんだろうけど。
 
 酒をちびちびと飲んでいると、とてとてと近づく足音がした。
 そちらを向いてみれば、驚いたことにアミだった。
 
 「アミまでいたのか」
 
 「こんばんはー、しろうさん!」
 
 「久しぶりだな。元気だったか?」
 
 「うんー」
 
 くしゃくしゃっと頭をなでてやると、くすぐったそうに身をよじった。
 ほっこりした笑顔で、隣にちょこんと座る。にこにこと俺の顔を見上げながらアミもジュースをちびちびと飲んでいた。なんとなく癒される。やっぱり子供は、こう明るいとこちらまで伝染してしまうものだ。
 
 「えっとねー、アキラさんにねえ、しょーたいしてもらったんだ」
 
 「へえ、晃が」
 
 そういえばアミと初めて会ったのも晃のところ、つまり姫屋だったか。
 晃から招待されるってことは、結構なお得意様なのかもしれない。隣でニコニコと笑っている少女が、俺の視線に気づいて首をかしげた。それに「なんでもないよ」と言って頭をなでてあげると、それだけのことに大喜びしていた。
 しばらくすると、アミがアキナさんに呼ばれて戻って行った。また手持無沙汰になる。
 
 と、言いながらも結局は一人でチビチビと飲んだり食べたりしていると、また誰かがやってきた。
 
 「よお、衛宮。マンホームは楽しかったか」
 
 「晃か」
 
 「アリシアじゃなくて残念か? んー?」
 
 「ばっ、な、なんだそれ」
 
 「……え、ちょっと、なんだ、その反応?」
 
 面白いものでも見つけたように、晃の顔が悪くなる。
 酒が結構入っているのか、ぐいぐいと近づいて来る。がしっと肩まで組まれ、逃げようにも逃げられなくなる。
 耳元でずっと「どうなんだ、どうなんだ?」と囁かれる。横目に彼女の顔を覗き見てみれば、なんと悪い顔か。こんな話で水を得た魚みたいになれられても困るんだがな……。物事には順序というものがあって、それを無視すればとんでもない結果が待っていたりする。
 確かに、動くことも大事だろう。でも、前に出すぎればいいというものでもないはずだ。
 ……――――って、なんの話だ、なんの。
 
 「いいから、離れろ」
 
 「で、どうなんだ、結局」
 
 「……そりゃ、まぁ」
 
 「まあ、ややこしいことになる前になんか行動起こせよ。アリシア、あいつ、結構怖いから」
 
 怒るとかそういう意味じゃなくてな、と晃は言う。
 というか、アリシアが怒ったところを見たことがないからそれに頷いていいのかがわからなかった。
 ともかく、晃の忠告は心に留めておくとする。
 怖い、か。それはそうだ、人の感情なんていつどこでどんなふうに変わってしまうかなんて、誰にもわからないし、それを怖いと言えば怖い。
 それは例えば、嫌われてしまうとか。
 
 「……大丈夫だって、衛宮」
 
 「?」
 
 「お前がアリシアを好きなのは、見てりゃ解るんだからな」
 
 「な――――!?」
 
 ガツンと殴られたような衝撃が脳天を駆け巡る。
 そんなに見てわかるような反応やら表情やら声のトーンやらしてたのか、俺は。
 
 「それじゃあな。頑張れよ」
 
 「……ああ、ありがとう」
 
 少しばかり不本意ではあるが、お礼を言っておきたかった。
 晃は俺の礼を聞いて眉をぴくりと動かしたが、おかしそうに笑うだけでそれ以上何も言わずに酒の輪の中に戻って行った。
 また、しばらく一人で過ごすか、と思った矢先だった。
 がしっと肩を掴まれる。
 
 「ダンナぁ!!」
 
 「おお、アントニオか。久し振りだな……っておまえ酒臭っ!?」
 
 ぐでー、とだらしなくもたれかかってくるアントニオをどかしつつ、彼の口が開くのを待つ。
 荒い息を整える様にしてから、ほう、と一息。それから口を開いた。
 
 「好きな子の酌って断れませんよね?」
 
 「人によりけりだろ」
 
 まぁ、俺も断らないだろうけれども、アリシアにはどんどん勧めてくるような積極さはない。
 確かに飲んでいてどちらが先につぶれるかと訊かれると間違いなく俺の方が先につぶれる。アリシアのあの強さはスゴイ。ただそれは表に出して酔う、ということがないだけなのかもしれないのだが……。むう、そう考えると、アリシアの健康上、飲酒はきちんと管理した方が良さそうだな。
 
 「――――ってことなんすよ、って、聞いてますか、旦那ぁ?」
 
 「え、ああ、すまん。聞いてなかった。なんて言った?」
 
 「だーかーらー、今日こそはって思ったら、逆にお酒を勧められたんですって」
 
 「それを“逆に”と言っていいかはまぁ、置いておくとしよう。それがどうした」
 
 「もしかしたら、そういう空気を読み取って、暗に告白はしないでって言われてるんじゃないかって思って……そう思ったらオレぁ、オレぁ……っ!」
 
 「いや、酔いきってるアイツがそこまで考えてるとは考えにくいんだが……」
 
 言って、アイナの方へ視線を向ける。
 ぐでぐでに酔い潰れた彼女は、アイラの膝枕でねんごろされていた。本当に仲がいいんだな、あの二人は。
 こちらの視線に気づいたアイラが小さくお辞儀をしてくれたので、お辞儀で返す。
 アントニオに視線を戻すと、泣いていた。
 
 「おう……っ、うおおっ、おおおおおっ」
 
 「面倒くさい奴だな、お前は」
 
 と、言いながらも、今の俺の顔はきっとニヤけているに違いない。
 たのしいのだ。こんなにくだらなくて、面倒で、それでいて酒臭い場所にいても、今がたのしいと思えるのだ。
 それを進歩と言うには、まだ早い気がするけど、けどきっと、音が鳴るくらいには踏み出せた。
 そう、思いたい。
 
 「まぁ、いいから。ほら、飲め飲め」
 
 飲んでつぶれて寝てしまえ。
 起きたらきっと、二日酔いでそんなことも気にしてられないくらい頭が痛いだろうから。
 今はそれを忘れて、でも悔しさだけは残しておいて、次につなげればいい。
 アントニオのやけ酒に付き合って、しばらくの間俺の方も飲むペースが早くなる。元から酔っていたアントニオは3杯も飲めば寝てしまったのだが、その3杯のうちに俺は5杯は飲んでしまった。
 
 「む。ちょっと急に入れすぎたか」
 
 少しだけ頭痛を感じる。
 弱めのものだったのだが、チビチビ飲んでいたのを急にガバッと飲んでしまったからだろう。完全に酔ってしまうよりはまだマシか。
 灯里たちに水でも貰いに行こうと腰を上げた瞬間、頬に冷たい感触が。
 
 「ん?」
 
 「お互い、相手は疲れますね」
 
 「楽しくもあるけどな」
 
 「ふふ、ごもっともです」
 
 アイラが水の入ったグラスを持ってきてくれていた。
 どうやら、むこうも酔い潰れて寝てしまったらしい。……本当に寝てしまったのならいいのだが。
 またあの手刀で眠らせたんじゃないだろうな。もしかして、アイナのあのふわふわ浮ついた天真爛漫さはあの手刀のせいだったりしないだろうな。こう、脳に衝撃が走って、それが蓄積して、こう、なぁ?
 
 「あなたの子供たちは、とてもイイ子たちばかりですね」
 
 アイラが遠い眼をしながら、灯里たちがせっせと働く姿を眺めていた。
 それから何かを思い出したようにニコリと微笑みながら言う。
 
 「それに、とても愉快な子たち」
 
 なにがあったのかはあえて聞かないでおくとして、彼女の話しに耳を傾けることにした。
 
 「……撒いた種の、花しか咲かない」
 
 「ん?」
 
 「当り前のように聞こえるこの言葉は、実は人生における真理を描いていると、私は思うのです」
 
 「撒いた種の、花しか咲かない……か」
 
 撒いた種というだけで、いくつか思いつく。
 歩いてきた道であったり、自分の中にあった才能であったり、あとは咲いていた花から摘み取った種であったり。
 それらは、持っていても仕方のないものなのかもしれない。例えば、才能が開花するなどという言われ方をするように、花にしなければ意味のないものなのだ。
 才能が開花する瞬間というのは、つまり何か新しいことに手を着けた瞬間であることに違いない。
 だとしたら、その花が咲くのは一体いつのことになるのだろうか。
 瞬間的? 一日? 一週間? 一ヶ月? 一年? 十年?
 それに比例して咲く花は大きい? 小さい?
 
 そんな考えは詮無いことだ。
 それがその人にとっての大輪であるのならそうであるように、撒く種ですら人によって違う。
 それを比べるという行為は、個人にとっては無駄でしかない。
 大事なのは、自分の花を育てられるかどうか。
 
 しかし考えても見よう。
 比べるという行為が無駄だったとしても、助けあうという行為は、はたして無駄なのだろうか。
 いいや、そんなことはない。きっと、そんなことはない。
 助け合えるから、きっと生きているということが楽しい。今が、楽しい。
 
 「うふふ」
 
 「? どうした、アイラ」
 
 「いえ。とてもいいお顔をなされていました」
 
 「……そっか」
 
 水を喉へ流し込む。アルコールで火照っていた喉がほどよく冷まされていくのがわかる。
 ぼうっとする頭で、夜空を見上げる。
 夏が終わって、半年もすればいよいよ春になる。春になれば、そうだ、アリスが卒業だったな。
 あとは、『海との結婚』。
 もし、俺に気持ちを伝える機会があるとするなら、きっとこの時だけ。
 我ながら意気地なしだとは思う。踏ん切りがついていない。
 
 「……おや。衛宮士郎さま。私はそろそろ向こうへ行きますね」
 
 「ん、ああ?」
 
 なにかに遠慮した様子で、アイラはいそいそと酒の輪の中へ入って行った。
 グラスに残った水を一気に飲み干して、さてもう一杯ひっかけに行くとするか、と腰を上げたときだった。
 打ち合わせでもしていたんじゃないだろうかと思うほどのタイミングで、目の前にカクテルを持ったアリシアが立っていた。ニコリと優しく微笑んで、右腕に持つ方のグラスを勧めてきた。
 こちらも笑い返して受け取ると、腰を下ろす。とんとん、と自分の左側の床を叩いて座るように促すと、そこに収まるようにちょこんとアリシアが座った。
 無言のままグラスを合わせると、ちん、と涼しげな音が鳴った。カララン、と氷の音も耳に涼しい。
 一口飲むと、じわっと熱が口の中に広がった。思っていたよりも度数が強いらしい。
 
 「楽しんでますか、士郎さん?」
 
 「ああ、楽しんでるよ」
 
 「主賓なんですから、もっと真ん中に行けばいいのに。ずっとここにいるんですもん、こっちから来ちゃいましたよ」
 
 クスクスと肩を震わせながら笑う。
 顔に赤みが差しているのは、きっと酒のせいなのだろうと思っておくことにした。
 
 「旅の疲れがまだ残っててさ。あんまりはしゃぐと明日からの仕事に障りそうで」
 
 「別に、まだ休んでてくれてもよかったんですよ?」
 
 「帰ってきてからずっと休みをもらってたんだ。そんなことも言ってられないだろ?」
 
 「ん……。士郎さんは、もうちょっとくらい私たちを頼ってくれてもいいと思います」
 
 「頼ってないように見える?」
 
 「助けられっぱなしですから」
 
 「じゃあ、それは勘違いだ。俺こそ助けられっぱなしだ」
 
 そう言って笑いかけると、きょとんとグラスに口をつけたまま固まられてしまった。
 目を大きく見開いて、くりくりっとした瞳でこちらを見上げてくる。透き通った水のような瞳の青さに、自然と釘づけになる。ふ、と瞳を細めたかと思うと、彼女は無言のまま身体を傾け、もたれかかってきた。
 ぶわっと髪が逆立つ。顔が酒以外の理由で一気に火照る。状況の整理が追いつかない。
 なんだ、これは……!?
 
 「よかった」
 
 そうつぶやいて、アリシアは甘えるように俺にすり寄ってきた。
 酒の匂いと、彼女の匂いが交わってえらく官能的だった。
 こちらも酒が入っている手前、抑えるのに必死でこの状況を楽しめるだけの余裕はなかった。
 
 「うふふ、よかった……っ」
 
 「?」
 
 気がつけば、アリシアは離れていた。
 ただその嬉しそうで、楽しそうな表情を見ているだけで、まぁいいかなと思えた。アリシアは空になったグラスを楽しげに鳴らしながら、微笑む。
 
 「おかわりいります?」
 
 「うん? ああ、あんまり強くないヤツ頼む」
 
 「あらあら」
 
 とんとん、と踊るように厨房の方へ走っていく後ろ姿を眺めながら、ふと思う。
 なんであんなに焦っていたのだろうか、と。
 それは、いまさら思い返す必要があるとも思えないことだが、反応が過剰すぎないか?
 胸のあたりを押さえるようにして、考える。どうなんだ、と自分にも問いかける。
 
 この気持ちは、きっとまだ早すぎる。
 伸ばされた手を握り返すには、まだ早い。
 胸元の手をきつく握りしめ、その拳を、目の前でまた開く。
 
 「握り返すんじゃない。握りしめに行きたいだけだろ」
 
 呆れたように呟く。
 そうなんだろう。ただ、それだけなんだろう。
 それは決して難しいことじゃない。今までだって、一回くらいしたことがある。
 けど、それは意味が違う。
 今のこの気持ちを持っていたのかと、当時の俺に訊けば絶対に首を横に振る。
 今とあのときとは、俺の中の気持ちが全然違う。
 
 「馬鹿か。なに真剣に考えてるんだか……」
 
 そうつぶやいた、すぐあとだった。
 
 「士郎さん、はい」
 
 いつもの笑顔で、いつものあの優しい笑顔で、アリシアが隣にいた。
 こんなことで悩んでなんか、いられないだろう。
 衛宮士郎、もう、振り切ったはずだろう。それがもし振り切った“つもり”なんだったとしても、そう決めたのならそう進め。迷うな。一歩を、お前にとっての一歩を踏み出さなきゃ――――
 
 「サンキュ、アリシア」
 
 それは嘘だろ。
 
 
 夜空に花火が咲く。
 どんどん、と連続して鳴る音は腹の底を揺らす。
 夜色に塗られた海面に花火が映り込む。
 2時間近く空に花が咲いては散り、音は彼方まで響いた。
 
 花火も終わり、周りの屋形船も次々と陸へ向かって行く中で、この屋形船だけはまだ海の上に停まっている。
 理由などひとつしかない。この屋形船最後のプログラム。
 
 灯里や藍華、アリスの紹介にその人物が立ち上がると、わっと拍手が起こる。
 周りの船もこの盛り上がりようは聴こえたようで、何事かと停まっては、それにしたがって観客が増えていく。
 人の声は広がって、陸に戻りかけていた船もどんどん引き返してくるほどだ。
 
 「―― Hi to shya farsu lry. Kyin-on rai soure fel. Hi to shya farsu lry. Ka tino fa ty」
 
 夜の静寂に、夜色の海面に、すぅっと溶けていくような透明さで、アテナはうたう。
 水面をたたくような軽快なリズムを刻みながら、それでいて水面をすーっと切って走る鳥たちのつばさのような力強さと一緒に。 
 「Hi to shya farsu lry. Kyin-on rai soure fel. Hi to shya farsu lry. Ka tino fa ty」
 
 彼女の指先は、まるで音譜をはっているように、やさしく空気をなぜる。
 それはどこか舞っているような感覚にも似て、視覚的にも、もちろん聴覚的にもとても愉快だ。
 
 「Rakia,fatia,twin-nel. Cwi-yer faccoro. Rakia,fatia,twin-nel. Cwi-yer ray no coccoro...」
 
 耳鳴りなど縁遠い、視界が広がり、澄み渡るような高音の伸び。
 決して濁ることのない、花火にも負けない低音の地に足がつく感覚。
 
 彼女の謳声だけで、身体が洗われていくような不思議な感覚。
 
 「Hi to shya farsu lry tiaka. Supiray nu-ra ya. Wa to so hi tiacwe. Wasyuray fu co...Lu La ――――」
 
 こくん、と彼女が息をのむ音さえ聴こえてきた。
 それを合図に、拍手がどっと押し寄せる。
 アテナはうたうことに集中していて気がつかなかったのか、ウチの屋形船を取り囲む多数の屋形船に戸惑っていた。
 それでも周りに頭を下げたり手を振ったりしているところを見ると、なんだかんだと言ってもやっぱりプリマだなぁ、と思う。ずいぶん失礼な考えだろうが、普段の彼女を知っている分、そう思ってしまうのは仕方がない。
 
 「あ、ありがとうございましたー」
 
 ちょっとだけ頬を赤らめながら、アテナがいそいそと帰ってくる。
 屋形船の灯りはまだ点けていなかったので心配だが……、と。
 
 「あ」
 
 自然すぎるくらいに、いわば自然すぎて気がつかなかったというレベルの自然さで、アテナは不自然な場所でつまずいた。段差である。しかも、下りの段差。そこに段差があるということに気がつかず踏み出した足は思っていた場所よりも下に落ちてしまい、思わず膝の力が抜け、そのままカクン、と。カクンと、まっすぐに俺に突っ込んできた。
 
 「あー」
 
 「って、ちょ……!」
 
 そのまま手を伸ばせば彼女をこかさずに支えられる。
 しかし、確実に肩を支えられるかと問われれば正直不安だ。何と言っても暗いのだ。そして一瞬の判断だ。こんなことを考えずに視力を強化して夜目が効くようにすればこんな馬鹿なことを考えずに済んだモノをええい南無三!!
 
 「――――、お、い。大丈夫か、アテナ?」
 
 パチン、と灯りが点く音。おそらく、藍華か晃あたりが急いで点けてくれたのだろう。
 恐る恐る、自分の手の場所を確認する。
 
 「お、お」
 
 「ありがとうございます、すいませんご迷惑を……」
 
 どうやら肩を支える、という行動から、反射的に横腹を“挟む”という行動に変えていたらしい。
 ちょうど肋骨の一番下のあたりを挟んで支えていた。くの字に曲がったアテナの身体は、まるで布団を干しているかのようにだらしなく映る。
 腹筋と背筋とで徐々に起き上がりつつ、アテナを立たせて一件落着。
 全員がふう、とため息をついた。
 
 「ああ、その……いつもいつも、本当にごめんなさい」
 
 「いや、いいよ。怪我はなかったか?」
 
 「おかげさまで。そのままこけてたらきっと鼻をすりむいてましたね」
 
 ふふ、と笑ってはいるが、すりむくだけで終わっていたらどれだけいいことかと思う。
 アテナの場合、鼻血は出すだろうし、当たり所によっちゃあデコまですりむきそうだ。
 俺が真正面にいて、そんなことになったと知ったら、アレサ女史が黙っちゃいないだろう。毎日毎日文句の電話でもかけてきそうだ。そこまで暇な人だとは思いたくないが。
 
 それにしても、楽しかった。
 疲れがまた溜まってしまった気がしないでもないが、きっとそれは明日の糧になる。
 俺が俺として、衛宮士郎が衛宮士郎として一歩を踏み出す、決意に変わる。
 
 この心は、きっと楽しいを感じていた。
 なんの障害もなく、なんのわだかまりもなく。
 
 この心は、きっと明日へ向かう。
 
 だから、ここにいるみんなに今伝えたかった。
 
 「今日は、みんなありがとう」
 
 精いっぱいの声で、この一言を伝えたい。
 この一言だから、伝えたい。
 
 「本当に、ありがとう」
 
 『どういたしまして!!』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

ゴッドイーターは神を喰らうだけでなく、(プレイヤーの)精神も喰われる。

主に難度4あたりから。
ども、草之です。
 
ゴッドイーターを買いました。
そしてこれは良いものです。買い一択です。買って損はないと思いますよ?
難度3までなら、まぁ許そう(?)。ソロでも出来んことはない。
 
難度4からが本当の戦いです。
敵の耐久力っつーか、体力がおかしい。草之が下手なだけかもしれませんが、あれは厳しい。
仲間3人連れて行って、それで平均クリア13,4分ってどんだけだよ。これソロでやろうとしたら、だいぶ上位の装備なかったら出来ないんじゃないでしょうか。
体験版のときも思ったけど、アラガミの起き攻めが厳しい。一瞬でニアデスorデスですよ。
 
「攻撃時のスタミナ減少はちょっとでも残してほしかった」
とか言った草之がバカでした。
無理です。あれで攻撃時にまでスタミナが減られたら死にます。もはや無理ゲー。
モンハンみたいだ、と思われている方々、やってみれば解る。
全然別のゲームです。これは言い切れるけど、全然別のゲームでした。
 
 
ということで発売日にあまりポンポン言ってしまうのもあれなのでこのあたりで。
 
以下拍手レスです。
草之でした。
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:32

 
 朝焼けの時間。
 水平線の向こうから顔を出す太陽に目を向けて、私はネギのコテージを訪ねた。
 なんだかんだとじゃれあいながら、本当に伝えたいことを伝えられずにいる。
 遊んでなかったから、こんなことをしてるんじゃない。
 別に、遊ぶくらいならいつでもできる。こんな南の島まで足を運ばなくても、学園都市の中でも遊べるところはいっぱいあるってことくらいわかってる。
 
 だから、私は意を決して、ネギのことを抱きしめた。
 
 ここまで来たらなるようにしかならないってのはわかってるんだけど、やっぱり面と向かって言うのは恥ずかしいというか、そもそも恥ずかしいとか思ってる時点でなんだか間違ってる気がするけど、そんなことはもうこの際関係ないって割り切るしかないのかもしれないからええいもうなるようになればいい!!
 
 「……しばらく無視して、悪かったわよ。謝る。ごめん」
 
 「え? ……っえ? あ、あのっえと、いえ、ぼ、僕の方も関係ないとかひどいこと言っちゃって、ごめんなさいっ」
 
 「もーいいのよ、私が謝ったんだから。あと、その……それだけじゃ、ないの」
 
 ここまで言っておいてまごつく。
 声を出したいのに、出てくれない。
 単純に恥ずかしいという理由だけじゃ、たぶんない。
 声にばかり気を向かわせていて気がつかなかったけど、この手は震えている。
 そう、震えてるんだ。
 だから、だからこそ。
 
 「私、心配なのよ、あんたのこと。エヴァちゃんの試験のときだって、修学旅行だって、大けがして、死にそうになって……無謀すぎんのよ、あんたは」
 
 「アスナさん……?」
 
 思わずこぼれた涙をぬぐう。
 こいつは、ネギはあんなことがあってもこうやって立ってるのに、今から言おうとしてることを無視して私が座りこんじゃったら、きっと格好がつかない。
 だから、ぎゅっと足を踏ん張る。
 
 「私がやめろって言ってもやめないんでしょ? ていうか、あんなになってまでやっておいて、いまさら私なんかがやめろって言ったくらいでやめんならそれはそれでコロス!」
 
 「うえ!?」
 
 「――――は、半分冗談だけど。ともかく、あんたはこれからもお父さんを追うんでしょ?」
 
 「えっと、はい」
 
 「あんたはきっと強いんでしょうよ。でもね、私だって守るから」
 
 まっすぐにネギの瞳を見て、ネギの瞳の中の私自身を見る。
 我ながらなかなか情けない表情をしている。ちょっと無理した笑顔な気がしないでもない。
 だって、私自身殺されかけて、それでも足を踏み入れようとしてる。ネギに関係ないって言われた時、確かにムカっときたものの方が大きかったけど、それでも、少しでも、“ほっ”として自分がいた。
 それに一番ムカついた。
 自分を責めても答えが出ないのは知ってる。知ってるけど、責めずにはいられなかった。
 
 償いなんて格好のいいもんじゃないのもわかってる。
 けど、それっぽいことをしないと、自分の中のイライラはきっと溜まるだけ。
 だから私は、踏み出すんだ。
 
 「あんたのこと、ちゃんと守る。だから、私のこと、ちゃんとパートナーだって見て」
 
 「あ、すな……さん?」
 
 「あんた一人が死にそうになってたら、私がちゃんと助けて見せるから」
 
 「で、でも、アスナさん」
 
 「危険だって? あんた言うところの“一般人”な私が守るって言ってんのよ。“魔法使い”のあんたがしっかり『守る』って言ってくんなきゃ、そうね、私たちの部屋から追い出してやるんだから。いいんちょの家でもどこでも行ったらいいわ」
 
 「ええっ!? そ、そんなぁ……」
 
 子供が嫌いだ、子供が嫌いだとあれだけ言っておきながら、私自身がなんて子供っぽいんだ、と泣きたくなる。
 目に見えて焦りまくっているネギの頭をぐしゃぐしゃになでまわして、笑顔で伝える。
 
 「守ってよ、ネギ」
 
 「え、あう、その……」
 
 こいつ、きっと頭ン中で『英国紳士がどうたら』って考えてるんだろうなあ。
 そんな英国だか、魔法使いだかは知らないけど、私はきっとこいつに守ってもらいたいんだと思う。別に好きとかそういうのじゃ絶対ない。
 一緒に暮らして情が移ったか、と言われたらきっとそれが一番近い。
 
 「――――はい。守らせてもらいます」
 
 「お」
 
 急にキリッとした表情をしたかと思うと、ネギは力強く頷いた。
 その表情のまま、続ける。
 
 「僕じゃ頼りないかもしれません。もしかしたら、守れないことになるかもしれません。それでも、僕の、パートナーになってくれますか?」
 
 「ばーか。弱いくせに一丁前に言ってんじゃないわよ。だから、なんでしょ?」
 
 「はい。だから、僕はエヴァンジェリンさん……マスターに弟子入りしたんです」
 
 「青春だねぇー。朝っぱらから声がすると思って来てみたら、なにをイチャイチャしちゃってんですか、こんちくしょ―」
 
 ぎょっとした。
 見上げてみれば、隣のコテージのバルコニーからアクセル先生が顔をのぞかせていた。
 ていうか、イチャイチャなんてしてないじゃないのよ。どこ見てんのよ、どこを。
 
 「それで、どうするって?」
 
 ニヤニヤしながらだけど、先生の声だけはしっかりと通っていた。
 
 「僕がアスナさんを守って」
 
 「私がネギを守る」
 
 だからそれに応えるように、私たちもはっきりと言った。
 アクセル先生は、それにニヤニヤした顔を崩さずうんうんと頷いて背を向けた。
 なにか言うのかと思っていたから、ちょっと拍子抜けだった。
 
 「ま、ガンバってちょーだい」
 
 ただ、それだけだった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「そいつは結構」
 
 そうは言ったものの、正直腹にすえかねる。
 なにがそこまで私を苛立たせるのか。答えは単純。
 1を言えば10を知る弟子は楽だからいい、なんていうが、結局そんな奴がいたら、今は楽かもしれないが、後々メンドクサイことになるに決まってる。
 
 それはなにか。
 なにかを“間違った方向”へ解釈してしまって一人で納得してどんどん進んで行って、取り返しのつかないことになったところでやっと気がつかれるくらいにメンドクサイ。
 
 「ぼーやだけじゃなくて、その従者である神楽坂明日菜もまとめて面倒見てくださいってことだな。主と従者の二人三脚。ああ、それはとても素晴らしいことだろうさ」
 
 例えば、そうだな。
 主が弟子だから、その従者まで師匠に面倒を見てもらえると勝手に思い込んでその従者を連れてくる弟子ほどメンドクサイ奴もそうそうはいまい。
 結果だけ見ると、実際に私の目の前にその馬鹿野郎がいるわけだが。
 
 「神楽坂明日菜。お前、師事しようとする人物を完全に勘違いしてるぞ」
 
 「くーちゃんのこと? だめだめ。きっと無理だもん。中国ケンポーってなんだか小難しそうだし、中国語って漢字ばっかりじゃない?」
 
 「で、それでなんで私なんだ? 怒らないから言ってみろ」
 
 「エヴァちゃんだったらこう、『ドカーンとやってクイクイってこうだ!』くらいで教えてくれそうだからさー」
 
 「どこの監督だそれ。馬鹿か。私がぼーやにそうやって教えているのは、基本が出来ているからに決まってるだろ。武術どころかスポーツもまともにやったことのなさそうなお前に、どうやってそうやって教えたら成功するなんて道理がある?」
 
 「えー、私、運動神経はいいのよ? 知ってるでしょ?」
 
 「お前の猿並みの運動神経のことなら嫌ってほど知ってるさ。そういう意味じゃない。お前は走るのが速いとか、ジャンプ力が高いとかの話じゃないんだよ。体育以外の時間で、お前がスポーツに打ち込んだことはないだろう、ってことを言ってるんだ」
 
 「む。そりゃないけどさ」
 
 一から教えてやるだけの時間があればそうもしてやるさ。
 まぁ、あってもしないが。
 ともかく、だ。神楽坂明日菜に対して、私が教えてやることなんぞ爪の先ほどもないということだ。
 それを出来るだけ、懇切丁寧に、これ以上ない言葉で教えてやった。
 
 「帰れ」
 
 「なんでそうなるのよっ!?」
 
 「なんだ、理由がなければ不満か?」
 
 「納得いかないの!!」
 
 そういえばこんな奴だったか。
 理由がなければ納得がいなかい。なるほど、当り前だな。
 
 「ついて来い。ぼーやはもう少ししてからと思っていたが、まぁ、遅かれ早かれ入るんだ。問題はないな」
 
 まだむすっとした顔を崩さない神楽坂明日菜はともかく、ぼーやの方はなかなかいい顔をするようになってきた。
 これから起こることへの油断の無い姿勢は、いままでの教育……もといイジメが効いているようだ。
 一番後ろから神楽坂明日菜を守れる位置に着いている。
 
 まぁ、合格だな。
 これでなんにもしなかったらまたなにかイジメてやろうかと思ったが、出来てるならしなくてもよさそうだ。
 さすが主席。学習能力は一応おありのようだ。
 
 「さて、着いたぞ」
 
 「? なにここ。暗くてなんにも見えないんだけど」
 
 ぼーやの神経がピリついているのがよくわかる。
 暗闇の中すべてに気を振りまきながら、どこから襲われてもいいようにしている。
 その姿勢を評価して、早めにその緊張をほぐしてやるとするか。
 
 「ここから“飛ぶ”」
 
 「と――――?」
 
 暗闇から一転。
 薫る潮と風。日差しは強く、空は澄み切っていて高い。
 
 「ようこそ、我が別荘へ」
 
 「な、な、な……?」
 
 「転移魔法……? いや、これは……」
 
 「一種の結界だな。この別荘は――――まぁ、詳しく説明するのはメンドクサイからさっそく始めるぞ」
 
 ついて来いと指で指示しながら、長い橋を渡っていく。
 後ろでなにやら騒いでいるが、まぁ、戯言だ。貸す耳を持つほどお人好しじゃない。
 程よく無視しながら橋を渡りきり、改めて二人に向き合う。
 
 「遊んでやる。神楽坂明日菜、かかってこい」
 
 「え。……は?」
 
 「聞こえなかったのか? 軽く捻り潰してやると言ったんだ。虫みたいにプチっと」
 
 「なぁっ!?」
 
 神楽坂明日菜の顔が赤くなる。
 
 「なによなによっ、今までだって散々私に蹴られたりしたくせにっ!」
 
 「なんだ気がつかんかったのか。コメディ補正だ」
 
 「なにをぅ! よーし、いいわよ。その代わり、私が勝ったら私の修行もつけてよね!」
 
 「約束しよう。勝てば、だがな」
 
 むきーっと、まるで猿のようにいきり立ちながらアーティファクトを取りだした。
 あのハリセンだけはなかなかにやっかいとだ。まぁ、負けなければいい。
 それなら、“簡単”だ。
 
 「どりゃあああああっ!」
 
 魔力供給も受けずにそのまま突っ込んできた。
 普通に速い。普通に、速いだけだ。
 
 「遅いぞ馬鹿者」
 
 突っ込んで来た力をそのままに、背後へ吹き飛ばす。
 器用に着地しながら、私を一にらみ。そういえばこういうことが大橋のうえでもあったな。
 ――――思い出したくない。
 
 「さっさと負けてくれ、神楽坂明日菜。メンドクサイぞ」
 
 「絶対泣かしたるっ!」
 
 同じことの繰り返し。
 何度も何度も、突っ込んできては考えなしなので吹き飛ばされる。そのたびに器用に着地しながらまた走ってくる。
 心が折れないのは上等だ。体力も悪くない。前衛としての素質はある、ということか。
 ただ、物を扱っての戦闘がこうもド素人ではお話にならんのだがな。
 
 「くっそー、くそくそくそ――――っ!!」
 
 「ほほう?」
 
 今度は少し考えたようで、私の手前で留まって張り付いてのクロスレンジ。と、行ってもむやみやたらにハリセンを振り回しているだけだが。考えなしでこういう武器を振ると、たいてい無意識のうちに軌道が限定されてくる。それをルーティンのように繰り返してしまうのだ。そうなれば避けるのは容易い。
 ときどき思い出したように軌道を変えてハリセンを振るものの、その時になってハッとした顔になるのはいただけない。戦闘とは情報だ。相手の身体の動きを読み、そこから先を読み、そして自分の情報は極力削る。
 顔に出る情報など、いくつほどあることか。例えば――――、
 
 「どうした、疲れたか?」
 
 「ま、まだまだよっ!」
 
 「頑張れ頑張れ、どうした、私はここだぞ」
 
 「んぎーっ!!」
 
 喧嘩屋と武道家の決定的な違いは、その精神力だ。
 眼前の敵を倒すということはもちろん、一番いいとされるものが『戦わずして勝つ』こと。
 試合開始のゴングが鳴る前から戦いは始まっているとはよく言ったものだ。
 眼力。
 それは例えば魔眼などではなくて、武道を進んだ者が持つ、威圧感。
 それが圧倒的であればあるほど、相手にかかる重圧は計り知れない。人間という生物の動物的本能に直接訴えかけるだけの眼力は、それだけで勝負を決める。
 相手の威圧感に呑まれた瞬間、勝負は決まるのだ。
 ちなみに喧嘩屋の場合、威圧感の代わりに“名声”の高さが重要視される。
 確かに、喧嘩屋の中にもなかなかの眼力を持つ者はいる。だが、その眼力だけが彼らの地位を保っているのではない。
 様々なウワサや武勇伝などが追加されて、初めて一人前の喧嘩屋になる。
 
 しかし、ひとつ断っておく。
 がむしゃらな健気さと、威圧感は全然違う。
 むしろ対極に位置すると考えてもいいかもしれない。
 
 「健気さは憐みを誘うが、威圧感は畏怖しか抱かせない。憐れだな、神楽坂明日菜」
 
 「うっさい! 守ってやるって決めたんだから、黙って私に――――教えなさいよッ!!」
 
 ご、という風切り音を鳴らしながら、ハリセンが縦に一閃する。
 変わらない、そう思ったのは振り上げた瞬間まで。
 
 「ち」
 
 「どおりゃあッ!!」
 
 今までにない重量感と、“威圧感”。
 神楽坂明日菜の目付きが、明らかに変わった。集中と見敵必殺の心意気。
 ぼーやを守るという、無茶苦茶な使命感。
 それらがヤツを追い込み、潜在能力の一部を引き出した。
 
 そう考えるのが妥当か。
 
 「よっし。やっと剣になったわ」
 
 肩に大剣を担ぎながら、したり顔でこちらを見てくる。いかにも「どんなもんだい」と勝ち誇っている表情だった。
 まったく、これだから人は面白い。火事場の馬鹿力。いや、こいつはいつも馬鹿だったな。
 とすれば、力の使い方を覚えてきた、と考える方が真っ当か。
 
 「使いこなせるのか? その鈍重な剣を」
 
 「そういうのはっ!」
 
 だん、と地面をを蹴り上げ、一気に距離を詰めてくる。
 スピードが明らかに異常。神楽坂明日菜、ぼーやと目を移してみると、魔力供給が見受けられた。
 余計なことばっかりするぼーやだ。
 
 だが、そろそろ退屈してきた頃だ。
 こちらから手を出してみるか。
 
 「ちゃんと私に勝ってから言ってよね!!」
 
 「ハ。面白いじゃないか、神楽坂明日菜!」
 
 ステップ。とん、と前に踏み込む。
 踏み込んだ足を地面に叩きつけるように踏ん張り、腰、胴、肩と運動を連動させていく。
 足から上がり、腰で一回転、胴でさらに回転、肩でさらに回転、加速され尽くした運動量を込めた拳が導く結果はひとつ。
 相手の粉砕。
 
 「ぶしゅっ!!」
 
 息を吐きながらの力の解放。
 腹よりも少し上の剣骨のある部分、つまりはみぞおち。
 鍛えてもいないガキには、これで十分――――!!
 
 「うげっ!?」
 
 押し出すように、神楽坂明日菜の身体は中空へ。
 やけにゆったりとしたモーションで、たっぷり数十メートルを飛んでいく。
 どさり、と落ち倒れた神楽坂明日菜は、立ちあがってくることはなかった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「う、ん?」
 
 「あ、大丈夫ですか、アスナさん?」
 
 ぼやっとする視界が、ネギの顔で埋められる。
 どうやら、負けてしまったらしい。最後のエヴァちゃんの動きは、全然わからなかった。
 どこを叩かれたのかなんてのも、全然。痛さが全身に響いて届いて、どこが一番痛いのかなんてのも、全然わからなかった。
 
 「負けちゃった」
 
 「すいません。僕の魔力供給がもっと巧かったらこんなことにならなかったかもしれないのに」
 
 「別にネギのせいじゃないわよ」
 
 そうだとも。
 ネギのせいじゃない。戦ったのは私で、負けたのも私。
 それでネギを責めるのは、いくらなんでも間違ってる。
 馬鹿だ馬鹿だ言われても、それくらい馬鹿でもわかるってことだ。
 
 「あーもーって、夜じゃない……このかに連絡入れなきゃー」
 
 「あの、ここ、24時間単位でしか利用できないそうです」
 
 「……? それってつまりどういうこと?」
 
 「入ってから最低24時間経たないと帰れないんだそうです」
 
 「……聞いてないわよ」
 
 「僕も今さっき知りましたよ」
 
 「明日の授業どうすんのよ、私はともかくあんた先生じゃん」
 
 「あ、それは大丈夫だそうです」
 
 「意味分かんないんだけど? タイムマシーンでもあるっての?」
 
 「この空間自体がそれみたいです」
 
 「いや、だから意味がわからないんだってば」
 
 えっと、と一呼吸を置いて、どうやって説明すればいいかを考えている風だった。
 こっちもちょっと急ぎ足で説明を求めすぎたかもしれない。
 急かすことなく、静かに説明を待つことにした。
 
 「エ……、マスターが言うには、この空間は外の1時間がこちらの24時間として扱われるんだそうです。だから、こっちで一日経過しても、むこうではたったの1時間しか時間が進んでないんです」
 
 「なるほど?」
 
 まぁ、理屈はどうあれ、ここでの一日が向こうでの一時間ってことだ。
 ……それって結構便利ね。テスト前とかも貸してもらおうかしら?
 寝不足ンときとかもなかなか良さそうよね。新聞配達から帰ってきて、二度寝するよりここにきて寝かせてもらった方がいいんじゃないかしら。
 
 「あ、でも、こっちの24時間は、体感的にむこうで1時間に換算されるわけじゃなくて、24時間は24時間だから人よりも早く年を取ることになるぞって言ってましたよ」
 
 「別に一日や二日どってことないわよ」
 
 「若いから言えるセリフだぞ、それは」
 
 急に暗闇から声をかけられた。
 目を凝らして見てみると――こらさなくても声でわかってたけど――エヴァちゃんだった。
 
 「夜が明ければ一日だ。さっさと出て行ってお前のお友達にでも習いに行け。剣は正直門外漢だ」
 
 「剣って言ったら……刹那さん?」
 
 刹那さんが脳裏に浮かぶ。
 修学旅行で見せてくれたあの剣技。
 確かに、剣を教えてもらうなら彼女しかいないのかもしれない。
 
 「よっし。じゃあ、頼んでみる」
 
 「そうしろそうしろ、お前みたいな馬鹿は身体で覚えた方がいい」
 
 否定はしないでおく。
 馬鹿は馬鹿なりにがんばってやるんだから。絶対いつか見返してやるんだから。
 馬鹿だってからかえないくらいに強くなって、度肝を抜いてやるんだから。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「なぁ――――っ!?」
 
 「うわっ、びっくししたー。なんだタカネちゃんじゃん、おひさー」
 
 「な、な、な」
 
 空いた口がふさがらないというのはこういうことを言うらしい。
 フランス語の選択授業。それの教師が出張する間、臨時の教師が来るとは聞いていたけど、まさかアクセル先生?
 この人、日本語だけじゃなくて、フランス語まで喋れるの……?
 バカっぽく見えて実は、マルチリンガル? しかも教えられるくらいに?
 
 「んじゃあ、ついでだし、タカネちゃん。俺の紹介よろしくっ」
 
 「な、なんでですかっ!!」
 
 「いいじゃない。俺とタカネちゃんの仲じゃない」
 
 「誤解を招く言動は慎んでください!!」
 
 叫ぶ声よりも大きな音を立てながら机を叩く。
 その音にハッとして周りを見ると、みんながこちらを凝視していた。
 こほんと咳払いして落ちつく。改めてアクセル先生を見て、告げる。
 
 「あなたは中等部の先生でしたよね。なぜその方がウルスラへ?」
 
 「ノリ悪いぜ、タカネちゃん。そんじゃ、ま、俺の名前はアクセル=ロウ。タカネちゃんの言う通り、麻帆良女子中等部で英語の教師みたいなことをしてる。その俺がなぜこんなところへ来てるのか」
 
 廊下の方へ目配せすると、もう一人、男性が教室へ入ってきた。
 にわかに教室全体がざわつく。
 なぜそこまでざわつくか、簡単にわかった。その入ってきた男性というのが、少し浮世離れしたほどの美形だったからだ。陶器のような白い肌、凛々しい鼻筋と、青い眼に緑色の光が滲んでいて、まるで宝石のような瞳をしている。身長はアクセル先生と同じくらい。歩き方を見ても、なにか武道関係のことをしているのがわかる。
 もしかして、また魔法関連の先生だったりするのかしら。
 
 「この人が今日から君たちのフランス語学を教えてくれるカイ=キスク。見ての通りフランス人。日本語がわからんってことで、通訳として俺が来たってワケ」
 
 周りを見回しても、誰一人としてアクセル先生の言葉を聞いている者がいない。
 不憫だからそれ以上話さないでくださいアクセル先生。じゃなくて、理由はわかった。
 
 「アクセル先生」
 
 「はい、なにかなタカネちゃん」
 
 「その、カイ、先生? は英語が喋られないのですか?」
 
 「そんなこたぁない。この人こう見えて聖き……あー、貿易関係のこともやっててな。英語はちゃんと話せるんだけど、スムーズなコミュニケーションのためにって仙に……あー、学園長が俺についててくれって言ってな。まったくメンドクサイのなんのってメンドクサイのよこれが」
 
 「じゃあなんで受けたんですか」
 
 だいたい予想はつくけれど。
 案の定アクセル先生はニヤニヤした笑顔で答えた。
 
 「そこに女の子がいるから」
 
 「馬鹿馬鹿しい」
 
 とは言ったものの。
 内心少し嬉しがっている自分がいる。
 彼は一緒にいて、ちょっと軟派ですがその分楽しいし、なによりあの愛衣と親しい男性。
 彼女のお姉さまとして、彼と付き合っておくのは悪いことじゃないと、“思っている”。
 
 「ほんじゃ、授業始めるとしますかー。席着いてー、出欠とるぜ。席に着かないヤツは俺が純潔とるぜー」
 
 生徒は一瞬できゃあきゃあと騒ぎながらも席に着く。
 なんだかんだ言ってもアクセル先生もカッコイイ部類には入ってる、と思う。
 恋愛なんてしたことないし、中学も高校もこの通り女子校。はっきり言って、男を見る目に自信はない。
 でも、人を見る目だけはちゃんと持っているつもりだ。
 軟派ではあるけど、彼はいい人だ。うん。
 
 授業はその後、滞りなく進んだ。
 カイ先生の授業はとてもわかりやすかった。転じて、それってアクセル先生の翻訳が巧いってことなのかしら?
 まぁ、どちらにしろ、楽しい授業であることには変わりなかった。
 
 「最後に。カイ先生は学園祭が始まるまで君たちの担当だ。学園祭期間中はまだ麻帆良にいるけど、終わったら国に帰る予定なんだ。ついでに俺も帰んなきゃいけない。正直、こんなに女の子がいっぱいならいつまでだっていたいけどね」
 
 「え?」
 
 知らなかった。
 教室から出ていくふたりの姿を見送りながら、急いで携帯を取り出す。
 時間を確認してから、急いで愛衣に電話を入れる。
 
 「あ、もしもし!?」
 
 『ど、どうしたんですか、急に……』
 
 「アクセル先生が学園祭で麻帆良からいなくなること、知ってましたか愛衣!」
 
 『え、と。一応。私お姉さまよりもアクセル先生と会う機会が多いので』
 
 「――~~」
 
 危ない。
 もう少しで不作法者になってしまうところだった。
 確かに、私はアクセル先生にあまりお世話になっているとは言い難いでしょう。けれども愛衣の言う通り、彼女はお世話になっているんだから、お見送りのひとつも出来ずにどうしろというのでしょうか!!
 この時期に気がつけたのは僥倖。まさに天啓。
 
 「愛衣!」
 
 『はいぃっ!?』
 
 「私たちだけでも、アクセル先生をお見送りして差し上げましょう!!」
 
 『え、あ、は、はいっ!』
 
 詳しくはまた今度、ということで電話を切った。
 時計を確認して、次も移動教室だったことを思い出す。
 急いで教室を駆けだす。
 
 
 このときの私は、何も知らないでいた。
 これから起きるであろう事態も、これから変化するだろう私の心も。
 
 なにもかもを、知らないでいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:32  end
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:37 前編

 
 「……暑」
 
 夏ももう終わりが見える頃だというのに、全然涼しくなってこない。
 今日も今日とて額の汗をぬぐいながらの練習になりそうだった。もう一度、リュックの中にハンドタオルを忘れずに入れてきたかを確認する。
 人数分、というわけじゃないんだけど、しっかり3枚、入れたまま入っている。
 うん、と頷いてまた空を見上げる。
 入道雲と、澄んだ空。陽炎で揺らぐ街と、太陽に照らされる水面。
 街の喧騒がどこか遠くに聞こえて、私の周りだけをしじまが取り巻く。
 
 「……ん」
 
 サン・マルコ広場の2本の支柱。
 ふと目に入ったその根元に、なぜだかその人の姿だけがいやにはっきりと目に映った。
 真っ黒なドレス。真夏の、それにこの炎天下の中で暑くないのかな……。
 ただじっと、なにかを待つように、その人は座っている。
 誰を待っているのか、それとも、ただ座っているだけなんだろうか。
 
 「灯里ー、おまたせ」
 
 「あ、おはよう。藍華ちゃん」
 
 「今日も暑いわねー」
 
 同じように額に汗をためながら、藍華ちゃんがやってきた。
 ハッとして我に帰る。いけないいけない。人をじっと見るなんて失礼だもんねっ。
 藍華ちゃんはいち早くゴンドラに乗り込むと、出た言葉はやっぱり「暑い」だった。
 
 「あー、もうっ。こう暑いとやってらんないわねー」
 
 苦笑いで返すと、少しばかりいたずらな笑顔で藍華ちゃんがごにょりと耳打つように言った。
 
 「ここは夏らしく、この町の有名な怪談をして進ぜよう」
 
 「ええっ、怖い話は怖いからいいよー」
 
 「いやいやっ、暑いときは怪談で涼むのが一番デス」
 
 最後の「デス」がいやな発音でしか聞き取れなかった自分の耳がうらめしい。
 
 「サン・マルコ広場の名物にもなってる、あの2本の巨大な支柱。あるでしょ?」
 
 「う、うん」
 
 それでも聞く態勢を整えている私は、きっと怖いもの見たさで怖い映画とかをみちゃう人なんだろうなあ、と漠然と考えた。確かに、こう暑いと少しでも気がまぎれれば、と思うのは当たり前だものね。
 そういえば、と2本の支柱に目をやると、あの黒いドレスの人がいなくなっていた。
 さすがに暑くなって帰ってしまったんだろう、ということにしておいた。
 
 「あすこは地球時代のヴェネツィアからずっと街の表玄関とされてきたけれど、遥か昔、中世のヴェネツィア共和国では何と、罪人の公開処刑場としても使われていたのよ」
 
 「…………」
 
 え?
 
 「嘘」
 
 「本当」
 
 さらっと言ってのける藍華ちゃん。
 続いて詳細を話しだす。耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだけど、なぜかその話に聞き入ってしまう。
 
 「――――ある時、処刑される一人の女性が、自分の遺体を墓地の島として有名なサン・ミケーレ島に弔ってほしいと願い出た。でも、当時はお墓が過密状態で、結局、彼女の願いが叶えられることはなかった。それ以来、街のゴンドリエーレが夜に一人であの柱の近くにいると、『サン・ミケーレ島まで乗せてほしい」と頼む喪服の女性が現れるようになったという。でも、ゴンドリエーレはけっして願いを聞き入れて、彼女と一緒に行ってはならない」
 
 底冷えするような雰囲気を出そうとしながら、藍華ちゃんは言う。
 思わず生唾を飲み込んでしまう。
 
 「ど、どうして?」
 
 すぅっと目を細めて、いかにも不気味な声で藍華ちゃんは言った。
 
 「からなず神隠しにあってしまうから」
 
 また唾を飲み込む。
 藍華ちゃんが私のその様子を見て、逃がすまいと続ける。
 
 「ヴェネツィアの街のゴンドリエーレ仲間の間で、長く語り継がれてきた有名な怪談よ」
 
 「こわ――――っ、こわこわーっ。で、でもそのおばけはマンホームのヴェネツィアにいたんだもんねっこおがアクアのネオ・ヴェネツィアでよかったねー」
 
 知らず知らずのうちに早口になってしまっていた。
 それを、藍華ちゃんの不敵な笑い声が遮った。
 
 「ふふふふふふふ、甘いわね、灯里」
 
 「ほへ?」
 
 「その噂の君、なんと出るらしいのよ。このネオ・ヴェネツィアにも、ね」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 最近涼しくなってきたかな、と思えば、気温なんていくらでも高くなるものだ。
 先日のレデントーレも無事に終わり、平和な日常が戻ってきていた。
 いや、まあ、俺にとってのレデントーレが戦争だったとは言い難いかもしれないが、あの酒飲みの輪の中だけは戦争と言って差し支えはないはずだろう。
 料理が飛び交い、酒が蛇口が壊れた水道のようにダダ漏れ。談笑や聞きたくもないおぞましい喉の音――主にアイナ――が絶え間なく聞こえてきていた。
 俺にとってなによりも衝撃というか、緊張したことといえば、やはりアリシアなわけで。
 
 「楽しかったよな」
 
 「なにがー?」
 
 後ろのゴンドリエーレ(仮)が、俺の独り言に反応して問いかけてきた。
 振り向いて、声の主に視線を向けた。いつも通り楽しそうに、アイナはゴンドラを漕ぎながら笑っている。
 
 「この前のレデントーレだよ。楽しかったな、と思って」
 
 「ふふん、どんなもんだい」
 
 「お前は基本騒いでただけだろ」
 
 「バレタか」
 
 いたずらそうに笑って、ゴンドラを漕ぐスピードを一段と上げる。
 規定速度ギリギリで漕いでいるのは、きっと俺にうるさく言われるのが嫌だからだろう。
 広い海に出れば、アイナはプリマも顔真っ青の速度でゴンドラを動かすことが出来る。技術がそれを制御するまでに至っていないのはアイナらしいと言えばらしいのだが。
 シングルトップクラスの技術を持つ彼女は、こうやって会うと、ときどき一緒に乗せてくれることがある。
 本人いわく、「なんとなく」なのだそうだ。俺の体重とか体格とかが彼女にとって運ぶのにちょうど心地のいいサイズとかなんだろうと勝手に思っている。
 
 でも、おそらく、今日はそんな理由じゃない気がした。
 
 「夕方の時間も短くなってきたのに、今日もあっつかったねー」
 
 「そうだな」
 
 「ねえ、エミヤン」
 
 「なんだ?」
 
 「アントニオって、さ。私のこと、好き……なのかな?」
 
 苦笑いを浮かべながら、アイナが聞いてきた。
 それを聞いた旨はよくわからないが、あまり良い理由ではなさそうだった。
 
 「……好きだったら、どうするんだ?」
 
 「私、困るよ」
 
 「困る?」
 
 「うん。困るよ」
 
 誰かほかに好きなやつでもいるからだろうか。
 アイナはそれ以上なにも言わずに、遠くを眺めながら一心にゴンドラを漕いでいた。
 放心している、というわけではないらしく、角にくればちゃんと声をあげて合図を送っている。
 猫がときどき見せる、達観した雰囲気。
 どこか遠くに耳を澄ませながら、ぼうっとしている。
 
 「どうしたんだ」
 
 口は勝手に動いていた。
 アイナは俺の言葉に苦笑して、黙り込んでしまった。
 
 彼女に似つかわしくない雰囲気に戸惑う。
 好意を向けてくれている相手に向かって、彼女が困るなんて明言しているのを聞いたのは、きっと初めてだ。
 のらりくらりと生きている、言ってしまえば処世術に長けた彼女が、はっきりと口にした“問題”である。
 いつもの彼女ならば、これをどう返しただろうか。表面上で喜んで、心では否定していたりするのだろうか。
 それは、つまり、アントニオのことを避けているということなのだろうか?
 
 『もしかしたら、そういう空気を読み取って、暗に告白はしないでって言われてるんじゃないかって思って……そう思ったらオレぁ、オレぁ……っ!』
 
 レデントーレのときの、アントニオの言葉を思い出す。
 酔ってグダグダになっているアイナが、まさかそこまで考えているなんて本気で思っていなかったからあの場は「気のせいだ」と返したが、もしかしたら、アントニオの言った通りだったのかもしれない。
 
 「私さ、別に結婚とか恋愛とか、出来なくってもいいんだ」
 
 今まで黙りこくっていたアイナが口を開いた。
 さんざん「独り者同士」と言ってからかいあったヤツの言う言葉だとは、思えなかった。
 
 「お母さん見てたらさ、嫌なんだ」
 
 「……」
 
 「口にはしなくても、目で言ってるもん。『ごめん』って。両親揃って育ててやれなくてごめんって、言ってるような目を、ね。ときどきするの」
 
 「アイナ」
 
 「ウンディーネになるってずっと言ってた私が、そういうことを言うのをやめたの、自分たちのせいだって思っててさ、本当、嫌になるのよ」
 
 「アイナ……!」
 
 「嫌だよ、ねえ、エミヤン……」
 
 ――――重傷、だった。
 自分の親を貶めるような言葉に、最初はやめろと言うつもりだった。
 そうじゃない。こいつは……、アイナは……。
 誰かに――――、
 
 「誰かに、私を見てほしくなんかないんだもん」
 
 誰かを想いすぎて、こんなことを言っている。
 俺には、彼女の思うことすべてがわかるわけじゃない。けどきっと、アイナはこう思っている。
 『私を気にしなければ、きっとお母さんはもっと楽だった』
 馬鹿な考えだと思う。だけど、それを口に出して、彼女を否定することなんてできない。
 それは間違いでもなんでもなく、彼女自身が感じたことであって、俺の価値観で彼女のことを否定なんて出来ないからだ。
 
 そう考えれば、彼女のサボり癖も、飄々とした猫のような自由奔放さも、あるいは結びつけられる。
 自分の母親に、自分を見限ってほしい。
 アイナをアイナとしてではなく、ひとりの他人として見てほしい。
 誰でもない、特別な感情なんて一欠片もない、ただ隣にいて立って並んでいるだけの人間になってほしい。
 それは赤信号だったり、駅のホームだったり、とにかく、多くの人が立ち並ぶその瞬間。
 そのとき隣にいる人が、誰だかもわからない状況。
 
 そんな自分になってしまいたい。
 
 例えば車や、電車が横切る瞬間、足を踏み出しても驚くことしかしない知らない隣人。
 なにをしていても、見ることはするが、心配などすることはないという隣人。
 それが彼女の求める人間関係。
 
 「その人を傷つけちゃうんだったら、私は、友達がいい。特別でもなんでもない、ただの友達がいい」
 
 だからアイラが好きなんだよ、と。
 それ以上踏み入ることも、離れていくこともない解り合った友達。
 いわゆる、親友という関係。
 狭義的な意味ではなく、文字通り“親しい友”という意味での親友がいい。
 
 恋人と親友は違うのだと、アイナは言っていた。
 全部を見せてしまう恋人と、隠し事があってもいい親友。
 自分を気にしてほしくないと、そういうアイナにとって、親友というのは、ある意味救いの場なのかもしれない。
 
 「私だって人を好きになることがあるから知ってる。あの人には全部を知ってほしいとか、受け入れてほしいとか、そんなことじゃないんだよ。私はね、エミヤン。誰かに私の全部を知ってほしいなんて思わないし、受け入れてほしいなんてことも思ったことない。道端のネコになれれば、それでよかったんだよ」
 
 静かに、アイナの独白を聞いていた。
 泣くこともなく、叫ぶこともなく、本当に、ただ淡々とした口調で。
 
 俺たちが乗るゴンドラは、サン・マルコ広場の沖合いにいた。
 日も沈み始め、人もまばらになり始めたサン・マルコ広場は、どこかさびしい。
 
 「アイナ、その、俺はうまく言えないけど、お前は……」
 
 「なーんてね。驚いたでしょ、私の冗談。困るなんて思ってないよ、嬉しいもん」
 
 「アイナ」
 
 「だから、さ。ね? ちょっとワガママ聞いてくんない?」
 
 「?」
 
 いつもの軽やかな声だった。だのに、いつもの意地の悪さや、いたずらさの欠片もなく、アイナの表情は厭らしい笑顔を作っていた。
 ぞくりとする。こんなの、彼女のする表情じゃない。
 
 「士郎さーん、アイナさーん」
 
 アイナにばかり気を向けていて気がつかなかったが、少し離れたところにアリシアがいた。
 ちょうど仕事も終わったらしく、白いゴンドラの上には誰も乗っていなかった。
 急ぐかたちで、こちらに向かってきている。
 
 「私さ、エミヤン。ううん、士郎」
 
 「え?」
 
 「アイナさんも、こんばん――――」
 
 状況が混濁する。
 無防備に近づいて来るアリシアには目もくれず、しかしそれは、明らかに狙ってやったことなのだと、彼女の表情が語っている。
 今まで見たことのない邪悪な笑みを浮かべたまま、アイナは――――
 
 「私、士郎になら言えるよ。大好き。ねえ、大好きだよ、士郎」
 
 「――――お、まえっ」
 
 「え?」
 
 状況が、混濁する。
 魔猫が、茜空を背景に下弦の笑みを作っていた。
 どうして、いまそんなことをいうんだ。
 馬鹿げている。今度こそ、声を荒げそうになった。しかし、それは遮られる。
 
 「――――ご、ごめんなさいっ、先に、先に帰ってます!!」
 
 「な、おいっ、アリシア!! っ、あ、――――アイナッ!!」
 
 沖合い、ゴンドラは二隻。
 規定速度の取り締まりも緩む、ネオ・ヴェネツィアの街から離れた場所。
 アリシアはそれを知ってか、俺の見たこともない速度で会社へ向かって漕いで行く。
 すぐに振り向いてアイナを見るが、アイナは悩ましげな表情を崩さず、こう言う。
 
 「私じゃ追いつけないよ。だって、むこうはトッププリマの“三大妖精”、こっちはただの八百屋の娘だもん。でもね、士郎。私は、アリシアさんなんかに出来ないことをやってあげられるんだよ。士郎だって、いつまでも煮え切らない方よりも、やってスッキリするほうがいいでしょ?」
 
 考えられないほどに、脳髄が烈火した。
 ジリジリと首筋が燃えるような錯覚。目の前の“女”を怒鳴りつけたい。
 だけど――――
 
 「知ってるよ、行きなよ。私は、もう言っちゃったから」
 
 唇を噛み千切る。
 ブツん、と音がして血が流れてくる。
 何の戸惑いもなく、俺はネオ・アドリア海へ飛び込んだ。
 泳いで追うよりも、街へ上がって走った方が速い。限界まで身体を“強化”して、停船場まで一気に泳ぎきる。
 陸へあがると、近くにいた女性が悲鳴を上げた。自分でも理由がわからない。きっと海から上がってきたから驚いただけだろう。
 タイルを弾き飛ばすような勢いで地面を蹴る。
 少なくなった人の波を避けながら、急いで会社への道をシュミレートする。
 近道でも、屋根の上でも、通れる場所を最短で、最速で駆け抜けていく。
 出来るだけ早く、速くアリシアに追いつきたいから。
 
 でも、会ってなんて言う?
 あれは違うんだって言うのか?
 
 馬鹿馬鹿しい。そういう話じゃない。
 そうだ。アイナはもう言ってしまったんだ。だったら、俺だって言わなきゃいけない。
 それが正解だとか、不正解だとかはこの際どうでもいい。
 
 「アリシア……っ」
 
 走った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「……くそ」
 
 問題が山積みだ。
 会社に戻ると、ゴンドラも含めてアリシアはいなかった。
 自宅へ訪ねてみてもいない。どこを探しても、だ。
 
 「虫の居所が悪いんだよ、俺は、今」
 
 だというのに、灯里まで帰ってこない。
 留守番は今朝から風邪気味の社長に任せた。
 
 サン・マルコ広場まで来て、灯里の姿を見つけたかと思うと、灯里は俺には気がつかずにすぅーっとどこかへゴンドラを運んで行った。
 ほのかだが、灯里のゴンドラの客席から魔力を感じ取った。目を“強化”して見てみると、霊的な存在が憑いていた。
 明らかに、魔的。
 
 どこもかしこも、魔的だ。
 
 悪いとは思ったが、停船場に停まっていたゴンドラを拝借して、灯里を追った。
 オールはアリシアのものを投影し、全速力で追った。だというのに、追いつけない。波が問題なのか、それとも魔的な何かが邪魔をしているのか、どちらともなのか。
 怒りは、脳天を超えて噴き出しそうだった。この海上で矢を射て灯里のゴンドラを止めるという方法はあった。だが、あの霊に灯里が海に引きずり込まれたらどうする?
 なら、聖骸布を投影してこちらに引き寄せるか? だめだ、距離が開き過ぎている。
 
 八方塞がりのまま漕ぎ続けていると、どこに向かってゴンドラが進んでいるのか、だんだんとわかってきた。
 暗くて分かりづらかったが、墓地の島、サン・ミケーレ島だ。
 
 もどかしい。灯里には追いつけない。アリシアはどこかへ行ってしまった。
 アイナは急になにかとんでもないことを言ってしまった。
 ありえない。なんだ、この状況は。
 
 混濁する。
 
 一気にいろんなことが起こりすぎている。
 脳がパンクを起こしそうだった。今一番取らなければならない選択は、きっと灯里を助けると言うこと。
 他は今は忘れろ。
 他に気を取られて、相手に足元をすくわれちゃ元も子もない。
 思考を切り替えろ、今は目の前のことに集中しろ……!!
 
 「灯里ッ!!」
 
 呼び声はとどかない。
 追いつこうと速度を上げても、追いつけない。
 矢を放てば、あるいは止まるかもしれないが、灯里への危険を考えれば出来る選択じゃない。
 
 『ねえ、大好きだよ、士郎』
 
 考えないように考えないようにと、思考を切り替えたはずなのに、頭の隅であの言葉がチラつく。
 あの時は怒りしか感じなかった。ただ純粋な、アイナに向ける怒り。
 だというのに、今は違うことを思っている。考えてはいけないのだとわかっているのに、考えてしまう。
 
 なぜ、あのときあんなことを言ったんだ。
 
 怒りよりも、そのさらに上をいく“不可思議さ”。
 アイナがどういった理由であんなことを言ったのか。本当に俺のことを好いて言った言葉なのか。
 それとも、ただ、俺からも見放されたいなどと……。
 
 「馬っ鹿、野郎がッ!!」
 
 それなら初めから、深入りなんてしてくるな。
 こんな土壇場でやめるような関係だったってんなら、初めから作るな。
 お前は、アイナ、お前は――――!!
 
 「――――そこまでだ」
 
 「っひ!?」
 
 「し、士郎さん!!」
 
 俺に気圧されたたらを踏んだ霊から、灯里が俺の方へ駆けてくる。
 墓地にまで入られてしまったが、なんとか間に合った。
 むしろ、陸に上がってくれたから間にあったと言うべきか。
 肩で息をしながら、目の前の黒いドレス姿の霊を睨みつける。こちらが人間だと思って油断しているのか、退いていく様子はなかった。
 
 「俺は今、虫の居所が悪くてな。消される前にさっさといなくなれ」
 
 「い、いやよ。私の友達なんですもの、ねえ、そうでしょう、ウンディーネさん?」
 
 「……っ」
 
 「ねえってば、ね? 聞いてるの? 友達なんでしょ?」
 
 「――――違うらしいぞ。消えるか、去るか。どちらか選べ」
 
 剣は投影しない。俺の背中に隠れて怯えている灯里を、さらに怯えさせたくはない。
 そんなものがなくても、この程度の霊ならば、なんとかなる。
 
 「き、きいいいいいいいっ!! なによ、なによッ!!」
 
 ヒステリーを起して、見えない頭をガリガリとかきかじめた。
 いよいよ強硬手段に出てくるのか、と思った瞬間だった。
 
 
 『――――――――』
 
 
 満月を切り開いたような瞳。
 そこに現れる瞬間まで、わからなかった。
 “ケット・シー”。
 いまだに俺でさえも謎の残る存在。
 
 それが今、目の前に佇んでいた。
 
 「ひっ」
 
 俺の時とは全く違う怯え方をし、霊はどこかへ去って行った。
 墓地に残ったのは、俺と灯里と――――ケット・シー。
 くしゃ、と毛と服がこすれる音がして、大きな手が差しだされる。
 これほど強大な存在だと言うのに、その差し出された手の、なんとやさしいことか。
 
 「あ、――――」
 
 なにがどうなったのか。
 急に眠気が襲ってくる。催眠というわけではなく、心地よさが身体を包んでいく。
 真綿に包まれて眠りに落ちるような、そんな心地よさ。
 後ろにいる灯里もほっとしたように力を抜いていっている。
 
 「な……にを……?」
 
 声もうまく出ないほど、力が抜けている。
 かくん、と膝が折れる。いよいよ立てないほどに眠気が襲ってきた。
 崩れて、地面に伏す直前だった。ケット・シーの大きな手が、ふわりと俺と灯里を包む。
 
 見上げることも出来ないまま、俺は睡魔にこの身を差し出した。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「う……ん……」
 
 遠くで、電話が鳴っていた。
 ハッとして身体を起こす。どうやら、ここはARIAカンパニーのバルコニーのようだった。
 あれ、いやでも私……今までサン・ミケーレ島にいたはずじゃ……?
 足元には、アリア社長がすがってきていた。そっとなでてやろうとすると、逆に手を取られ、頬に擦りつけられた。
 ……あったかい。
 
 「――――灯里、起きたんならちょっとどいてくれないか」
 
 「え、あ、ごっ、ごめんなさいっ!!」
 
 いつのまにか士郎さんを下敷きにしていたらしい。
 急いで立ち上がると、お互いに顔を見合わせた。
 士郎さんは、えらく疲れた顔をしていた。
 
 「どうしたんですか?」
 
 「いや、なんでもないんだ」
 
 そう言って立ち上がると、まっすぐ部屋の中に入っていってしまった。
 どうしたんだろう、と思って頭をかくと、髪の毛じゃない、くしゃりとした感触があった。
 不思議に思ってそれを目の前に持ってくると、それは――――
 
 「花、びら?」
 
 あ、と息をのむ。思わず、アリア社長を抱きしめてしまっていた。
 
 「アリア社長――――っ」
 
 「ぷいにゅ――!」
 
 怖さも抜けきらないうちに士郎さんを追って部屋に入ると、いきなり電話が鳴った。
 文字通り飛び上がって、ゆっくりと電話の方へ首を向ける。
 そーっと手を伸ばし、受話器を握ることはしたのに、いざとなったらどうしても出ることが出来ない。
 
 「~~~~っ、えいっ! も、もしもし!?」
 
 『衛宮ァッ!!』
 
 「はひぃっ!? ご、ごごごごごめんなさぁ~いっ!!」
 
 『って、灯里ちゃんか。でもいいや、衛宮と話すよりは落ち着いていられそうだし』
 
 「晃さん? 士郎さんがどうかしたんですか?」
 
 電話の向こうで、はぁ、とため息。
 あー、とかうー、とか言いづらそうにしていて、しばらく黙ったかと思ったら、電話の向こうから大声でなにやら騒いでいる様子が聞こえてきた。
 
 「あの、晃さん?」
 
 『うん。実はな、アリシアがしばらく泊めてくれってこっちに来てるんだよ』
 
 「ええっ!?」
 
 『理由は話したがらないし、いつもは絶対に酔わないような弱い酒一杯で酔っちまうし。で、たぶん衛宮が原因なんじゃないかって思ってさ』
 
 「はぁ……」
 
 2階に上がって行った士郎さんがいるだろうキッチンの方を見て、生返事。
 それにしても、どうするんだろお仕事とか。スケジュール表がこっちにあるんだから、見には帰ってくるってことなのかなぁ……。
 それとも、お仕事まで休んじゃうんだろうか。
 そう言えば、士郎さんもなんだか元気がなかった。
 
 今日は本当に不思議なことずくしだ。
 
 『一応こっちでも帰るようには言っておくけど、衛宮にも伝えておいてくれ。あと、出来れば衛宮の方にも探りを入れといてちょうだい』
 
 「はい。わかりました」
 
 『いきなり怒鳴って、こんなことまで頼んでごめんな、灯里ちゃん。じゃあおやすみ』
 
 「おやすみなさい」
 
 受話器を置く。
 一度だけ深呼吸を挟んで、階段へ向かう。
 一歩あがるごとにいい匂いが鼻をくすぐって、怖いこと全部を忘れさせてくれるようだった。
 
 「灯里、電話誰からだった?」
 
 「晃さんです」
 
 「――――なるほど」
 
 「あの……、アリシアさんとなにかあったんですか?」
 
 「……アリシアと、ってわけじゃないんだけどな」
 
 「しばらく、晃さんのところでお泊りするそうです」
 
 「場所がわかっただけでもありがたい。明日でも会いに行くから、灯里は心配しなくてもいいよ」
 
 お鍋でスープを温めている間に、士郎さんは私のところにきて、巾着を差し出してきた。
 見た目以上に重くて、何が入っているのだろうと覗いてみたら、裁縫とかに使う待ち針と、手の平サイズのペーパーナイフが入っていた。
 ナイフの方は、どうやら銀製のようだった。
 
 「あの、これは?」
 
 「一応お守り。簡単なものだけど、あれくらいの奴なら、それでも十分効果があるから」
 
 「あ、ありがとうございます」
 
 いつものように笑う士郎さんだった。
 いつものように笑ってくれているはずなのに、どこか顔が浮かないと言うか……。
 心配そうな顔でもしていたのか、士郎さんは私を見て苦笑した。
 
 「お前が思いつめることじゃないよ。大丈夫、アリシアはすぐに帰ってくるさ」
 
 「……はい」
 
 そう言う士郎さんは、やっぱり暗い顔をしていた。
 もしかしたら、士郎さん自身も“そうは思っていない”のかもしれない。
 アリシアさんと士郎さんの間でなにがあったのか。聞いていいことなのか悪いことなのか、それすらも私にはわからないし、たぶん、聞いてもわからないと思う。
 ふたりがお互いに意識し合ってるっていうのは、私でもわかる。
 傍から見ていても、ちょっとやきもきするくらいにもどかしい。
 
 背中を押してあげたいとも思ったことがある。
 けれど、士郎さんを見ているとそれだけはしちゃいけないという気がした。
 士郎さんは士郎さんの考えがあって、きっとそのことを口にしていないだけなんだろうなって。
 それが間違いだったとしたら、間違いだったとしても、アリシアさんと士郎さんのふたりの間にある絆みたいなものはきっと、きっと間違いなんかじゃないはずだって思ってるから……。
 
 「悪い夢を……」
 
 「?」
 
 「悪い夢をみたら、泣いちゃいます。おふとんからも出られなくなって、それで、でも、お母さんがそっとおふとんの上から話しかけてくれるんです。『大丈夫だよ、怖くないよ』って。えっと、だから、その、あの……っ」
 
 「……――――ありがとう。そうだよな」
 
 白い歯を見せて、私よりも、ずっとずっと幼い顔で、士郎さんが笑った。
 その笑顔には、暗さも、不安も、なにもなくて。ただただ前をまっすぐに見ている瞳だけが残っていて。
 アリシアさんが、この人を好きになった理由が、ほんの少しだけわかった気がして。
 
 「悪い夢なら、きっと覚めたらそこはいつも通りなんだろう。でもな、灯里」
 
 優しい瞳を湛えて、ただひたすらに、まっすぐに。
 口から出る言葉はきっと、士郎さんの決意。
 
 「この夢は、きっと向き合わなきゃいけないことだから」
 
 「士郎さん……」
 
 「さ。まずはご飯でも食べよう。腹が減っては戦は出来ぬってな」
 
 「――――はいっ!」
 
 士郎さんなら、きっと大丈夫。
 士郎さんなら、きっとアリシアさんと、仲直りできる。
 
 私にわからないことは、私が思っているよりも絶対に多い。
 だけど、わかることだって、きっと思ってる以上に多いと思う。
 
 この世はいつも、思ってるよりも多いことばかり。
 
 だったらきっと。
 
 士郎さんとアリシアさん。
 お互いが思っているよりもずっと、お互いを想ってる。
 
 私はそうだと、思います。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

前も後ろも『なのポ』だとっ!! そして拍手レス。

ども、草之です。
 
昨日『なのは』と『消失』をはしごしてきました。
映画のはしごってあんなに疲れるものなのね。知らなかった。
 
なのはの方はなんていうか。
言っちゃあいけないことなんだろうけど、それでも言いますけど。
 
『大の大人(ほとんど男)が揃いも揃って
小3幼女の変身シーン見てるのって超シュールだな』

 
という感想を持ってしまった草之です。
フェイトがきわどかったです。パンフレット、売ってなかったです。
 
待ち時間中、後ろを見ても前を見ても、「なのはポータブル」やってるやつばっかりでした。
草之はまだ買ってねえんだよ。ゴッドイータークリアしてから買うからいいんだよ!!
で、即効でクリアしてムゲフロするんだよ!!
 
 
話は変わって『消失』。
この映画はキョンの台詞で6割くらい出来ています。
と、言っても過言ではないことは見た諸君ならわかるだろう。
残り約4割は長門の可愛さで出来ています。
なにあれかわいい。とりあえず見て損はないと思う。
さすが映画というだけのことはある。
 
 
ということで、以下拍手レスです。
草之でした。
 
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:33

 
 「まあ、邪魔しないんなら文句は言わないがな」
 
 私は幾度神楽坂明日菜に呆れさせられたらいいのだろうか。
 本日のメンツは、ぼーや、神楽坂明日菜、刹那、近衛木乃香。それとなぜか、メイまでいる。
 そのほかは完全にバカンス気分でここに来ているだろう。この別荘に。
 
 「きゃーっ、ちょっとエヴァ! こんないいところがあるんなら早く言ってよね!!」
 
 中でも、一番はしゃいでいるのはメイだ。
 あの金髪ロンゲがいないから、ぼーやに翻訳を頼まざるを得ないわけだが、そうなるとぼーやに修ぎょ、もといイヂメが出来なくなる。
 ん? 待てよ……。
 
 「よーし。ぼーや、今日はメイと勝負しろ」
 
 「え?」
 
 「お、面白そうじゃん。ネギっ、しようしよう!」
 
 これ幸いとメイがイキイキし始める。
 ピョンピョンとその場で跳ね始め、矢継ぎ早に準備運動を始める。
 その表情は『楽しみ』の一点張りで、ニヤけた顔が戻らないようだった。
 
 対して、ぼーやはと言えば。
 未だに状況が飲み込めないのか、あたふたと周りの人間に視線を向かわせていた。
 どうでもいいが、誰かが教えてくれるなんてありえないぞ。
 
 「んー、やっぱり落ちつかないなー」
 
 「なにがだ?」
 
 メイが腕をぶんぶん振り回しながら、楽しそうなのは変わらずに、しかし違和感があると訴えてきた。
 いかにも絶好調です、といった感じなのだが。ニヤリと笑うと、こちらへ駆けよって来た。
 
 「ねえねえ、エヴァ。なんか重いものないかしら?」
 
 「重いものって……ずいぶんアバウトだな。例えば?」
 
 「錨とか」
 
 「錨?」
 
 「そう。錨よ、錨」
 
 こういう形の、大きいやつ。
 と、ジェスチャー付きで丁寧に教えてくれる。
 そんなもんどうする気なんだか。
 
 「あいにくだが、ないな。チャチャゼロの武器庫にならなにかあるかもしれんが」
 
 「んじゃいいや。チャチャゼロのってほとんど刃物ばっかりだもん」
 
 そう言って、メイは準備運動を再開する。
 ぼーやはやっと状況を飲み込んだのか、急いで準備運動を始め出した。
 入念にしているのはぼーやらしい。筋肉が痛まないように、ゆっくりゆっくりと伸ばしている。
 対して、メイは適当もいいところだった。出来るだけ激しく身体を動かし、出来るだけ早く身体を温めている。
 実戦経験は、どうやらメイの方が上らしい。
 実戦ともなると、準備運動などさせてくれるはずもなく、戦闘中にどれだけ早く身体を温められるかが要点のひとつになってくる。
 体温は低いよりも、適度に高い方がもちろんいい。
 
 「それでは、試合を始めるとしよう」
 
 「え、あ、ま、マスター、僕まだ身体があったまって……」
 
 「馬鹿か。そんな理由で襲いかかるのをやめてくれる敵がどこにいる。では――――」
 
 とんとん、と軽くステップを踏むメイと、腹をくくったのか、どっしりと構えるぼーや。
 両者両様の戦闘態勢を整え、私の合図を待っていた。
 
 「始めろ!」
 
 「やぁ――――ッ!!」
 
 ぼーやが突っ込む。先手必勝とでも考えているのだろうか。
 踏み込む一歩に力を込め、奇襲を仕掛ける。
 メイはというと、開幕拒否。大きく後ろへバックステップを取り距離をあけた。
 
 「逃がしません!」
 
 さらに一歩を踏み込んだ瞬間。
 
 「突撃ぃ!」
 
 「えっ――――!?」
 
 メイの後方、タイル張りの地面から水が一瞬にして浸み出し、そこから一体のイルカが飛び出してきた。
 その背にまたがりながら、メイがぼーやに逆襲する。
 
 奇襲といってこれほど奇襲らしいものはないだろう。誰がタイル張りの地面からイルカが飛び出してくると思う。
 私だってこれをいきなりだされてたら防ぐほかない。避ける暇など、驚きでなくなる。
 
 それよりも、これは召喚か……?
 魔力の流れも、“気”らしき流れもなかった。
 ソルたちと同じチカラ、《法術》か。
 
 「くっ!?」
 
 イルカは想像しているよりも重い。
 軽やかに水面から飛び出してくる姿からは想像もできぬほどに、重い。
 どしん、という衝撃音がして、一歩二歩と後退したが、ぼーやはなんとか踏みとどまったようだった。体当たりをしたイルカは身体を丸め、そのまま水の滲んだタイルの中へ消えて行った。
 腕がしびれているのか、ぼーやは歯を食いしばりながらガードを固めていた。
 が。
 
 「そーれっ!」
 
 「しま――――っ!?」
 
 まるでボールでも投げたように、軽々とぼーやの身体を空中へ投げ出した。
 追撃するようにメイも飛び上がり、身体をひねる。そのまま足を振り上げ、鞭のようにしならせた蹴りを繰りだした。
 ぼーやがボールのように投げ捨てられた手前、それはまるでサッカーのオーバーヘッドシュートのようで。
 
 「オーバーヘッド・キッス!!」
 
 名前も似たようなものだった。
 そのネーミングにあきれるやら、感心するやら。
 だが、そのふざけたような名前の技の威力が、ずいぶん大きい。
 本物のボールかと思わざるを得ないほどに、ぼーやが吹っ飛ぶ。
 
 「うあああああああああああああああっ!!」
 
 「いっくぞぉー!!」
 
 吹き飛ぶぼーやを指さしながら、またメイの背後のタイルから水があふれてくる。
 今度の浸水は、半端でなく多い。まるで――――
 
 「おい、なんの冗談だこれは」
 
 それはまるで、小さな津波のようだった。
 ぼーやが地面を転がり、やっと立ち上がったというところで、あいつはその事態に気がついた。
 距離は約20mほど。初級魔法を唱えるのなら、絶好の位置ではある。
 が、その暇はないだろう。
 
 「グレート山田アターック!!」
 
 小さな津波をかき分け、黒い影が波を割り、空中へ飛び出した。
 淡い桃色のそれは、仔クジラだった。
 色はこの際どうでもいい。メイ、お前何でもありか!?
 
 「うわっ、うわああああ!?」
 
 イルカよりもさらに巨大なクジラを目の前にして、ぼーやは完全に固まった。
 防御することすら忘れ、呆けている。
 ……まぁ、今回は仕方ないということにしておいてやろう。私も驚いた。
 
 「ケケケ。一人サーカスダナ」
 
 「まったくだ」
 
 そのままクジラにつぶされ、その場に伸びているぼーやが目を覚ましたのは、1時間後だった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ソル、話とはなんだ?」
 
 「……」
 
 ソルに呼びだされ、後に続いて歩くこと数分。
 人気のない、すたれた感じの酒屋に着いた。こいつが酒を一緒に飲もうなんていうタマとも思えない。どうやら、人に聞かれてはマズイ話のようだ。
 慣れた足取りで一番奥のテーブル席へ移動すると、いかにもな集団が陣取っていた。
 
 「Be gone(どけ)」
 
 「あ? なに?」
 
 「I say "Be gone"(どけ、と言った)」
 
 相手は英語がわからないのだろう、あからさまに機嫌が悪い。
 まぁ、私の隣の男もそれに負けず劣らず機嫌が悪いのだが。こいつに巻き込まれて弁償するハメになるのだけはごめんだ。というか、争うこと自体やめてほしいものだ。
 ソルに違う席に行こう、と提案しようと口を開けた時だった。
 
 「ここは日本ですよお兄さんっ! ちょっと日本語話してもらえませんかねえ!?」
 
 一人の青年が立ち上がりざま何かを言うと、ギャラリーがにわかに盛り上がる。
 これは本格的にまずい展開だ。血の気盛んなこいつだ、売られたケンカは買うだろうし、止めても巻き込まれるだけだろう。止めるべきなのはわかるのだが、こいつのこととなると無駄な気がしてしょうがない。
 それでも言っておくべきだろう。
 
 「Sol,stop it. Let's go to the seat in the other side(やめろソル。向こうへ行こう)」
 
 「おい、詫びのひとつもねえのかよ?」
 
 青年がソルの胸倉をひっつかむ。
 と、ほぼ同時にソルは相手の足を踏んだ。ぐぎ、と嫌な音が耳に届く。
 ぎゃあ、と短い悲鳴の後、集団が一斉に立ち上がる。手に手に酒瓶を持ち、机の角でそれらを割り、しっかりと凶器にしたてあげてから、ソルに踊りかかる。
 連繋を取っているわけでもなく、熟練した動きをするわけでもなく、暴力にまかせたただの突撃。
 止める間もなく、ソルは次々と相手を吹き飛ばしていく。
 店の中もそれに従うように壊れていき、私の嫌な予感は見事的中したことになる。
 まったく嬉しくもなんともないが。
 
 「おい、アンタら。店どうしてくれんだい」
 
 案の定、店主が話しかけてきた。ソルはめんどくさそうに、一言だけ。
 
 「Ask the president(ジジイに頼め)」
 
 そう言って、電話番号を書いた紙だけを残して店をあとにした。
 一応、私の方で頭を下げておき、ソルに続く。店の前で待っていたソルに続いて歩くことまた数分。
 今度はいつもソルが朝食をとっているカフェだというところに案内された。
 
 「それで、話とはなんだ」
 
 「……これは例え話だ」
 
 ウェイターが来て、注文を取る。
 強面のソルにも怖気ないところを見ると、ソルが常連だと言うのは本当らしい。
 ただ、私の方を見て驚いていたのはどういうことなのだろうか。
 
 「この世界の『魔法』は、秘匿とされている。ならもし、この秘匿された『魔法』が世に知れ渡るとしたら……どうなると思う?」
 
 「――――なにを言っている、ソル」
 
 「逸らそうとするな。現実を見ろ。お前お得意の正義で救えるかもしれねえ命がこの国には腐るほどいる」
 
 いや、と重く首を振ると、ヘッドギアに隠れた眼が私を貫いた。
 
 「この国を救えるかもしれねえ」
 
 「……ソル」
 
 知っている。
 ソルが言っているのはこの国、ジャパンのためなどではないということを。
 
 「ソル、まだ推論なのだろう。それをあたかも」
 
 「そうも言ってられねえからお前に話してるんじゃねえか。あのババア、なにか隠してやがる。俺たちの世界と、この世界、決して似てるとは言わん。だが、あまりにも“臭う”」
 
 ババア、というのが誰のことなのかがよくわからなかったが、ソルはこの世界転移の謎を握りかけている。
 そもそも、これは“世界転移”なのだろうか。
 ソルは続ける。
 
 「この世界、“同じ”だ」
 
 「似ているとは言わないと、今さっき言わなかったか?」
 
 「だから言ってねえだろうが。『似てる』と、『同じ』は同義じゃねえ」
 
 「『似ている』というのは、つまり別物であって、『同じ』というのは同一だと?」
 
 「物分かりがいいな。そういうことだ」
 
 ここが、元々我々が住んで生きていた世界だった、とほとんど確定したということか?
 でも、それだとしても一体誰がどんな理由で『魔法』をこの世に広めたと言うのだ。あれほどの力、人類の手に余るとは思わなかったのだろうか。
 その旨をソルへぶつけると、鼻で笑われた。
 
 「その人類様が、《魔法》の存在を知ってさっそくGEARを創りだしたわけじゃねえ。確かに『魔法』は魅力的だ。が、それを人類は最初、この星のためと言って使い始め、そして《魔法》を創りだした。そして、GEARを創りだしたのは人類の闘争欲だ」
 
 否定することは出来ない。
 GEARは軍事利用を目的に創られた生体兵器だ。それに直接携わったわけではないが、そこに人間による過失があったとするのならば、これは誰彼が負う問題ではなく、我らが負うべき罪なのではないだろうか。
 罪を負うのが人ならば、また償うのも人である。
 聖騎士団はそのために動いてきた。人を守るため、人を救うためと言いながらもその実、それは償いでしかなかった。
 創りだした罪を、自ら断つ。《GEAR》を断罪する者たち。
 
 罪の花は、この星に、人の心に根深く蔓延ってしまった。
 我らが生きる世界で、この花を摘みきるためにはあとどれほどの時間が必要とされるのか。
 
 「……もし、悪い花が咲く前に、それが悪い花だと気がついたならば……例えば、それが種であるときに気がつけたならば、ソル。――――……お前はどうするつもりだ」
 
 「――――……決まっている。“その種を蒔かせない”。それがもし自然じゃないのだとするならば、“殺す”」
 
 「待てソル。それはあんまりだ。もしその人物が良識ある人物だったとするならば、きっと話せば――――!」
 
 「馬鹿か、お前は。一般常識じゃねえ、歪で異質な“秘匿”をバラそうとする奴が良識な奴だとでも思ってやがんのか。GEARが人類の罪ならば、その大元を作った野郎が大罪人であるのは間違いねえ。目の前に毒草の種が転がってんのに、お前は畑の真ん中のそれを見過ごせというのか」
 
 「それは……そうだが」
 
 頷くことが出来ない。
 それが間違いであるのか、正しいことであるのか。
 今の私では――――わからない。
 
 「話はそれだけだ。決めろ。道をあけるか、くたばるか」
 
 「……っ」
 
 道をあければ、おそらくこの世界は“同じ”ではなくなる。
 だが、だからと言って、くたばることを良しとは出来ない。
 
 「なら、賭けようソル。私が原因を突き止めとめるのが先か、お前が原因を突き止め殺すのが先か」
 
 「らしくねえな。だが、いいだろう。自分で賭けと言ったんだ、俺が先に見つけても文句は言うな。そして、お前が失敗した時は、俺はためらいなく殺しにいくぞ」
 
 「――――……ああ。そうしてくれ」
 
 「フン」
 
 いつの間にかきていたコーヒーを一飲みすると、テーブルを一叩きし、立ち去って行った。
 テーブルを叩いた後には、しっかりとコーヒー代が置いてあった。
 
 
 カフェを出て、まずはその原因を知っているかもしれない“ババア”という人物の捜索から始めることにした。
 ソルは滅多に人のことを名前で呼ばない。だが、ソルが呼称するということは、それなりに親しい仲なのではないか、と予想できる。
 そして、“ババア”と呼ぶからには女性だということ。年を召していること。
 だが、そこまでお年を召した方がいただろうか。
 
 「ふむ」
 
 そう言えば、エヴァンジェリンさんはなにかとソルに絡んでいたような記憶がある。
 聞いてみるのもいいかもしれない。いや、この際、聞かなければならないだろう。
 そうと決まれば、さっそく聞きに変えるとしよう。この時間ならばまだ家にいたはずだ。
 
 大通りを急いで駆けていく。人を避けながら、まっすぐにログハウスへ向かう。
 数分と走ると、すぐにログハウスについた。
 ノックすると、ディズィーさんの声が一番に聞こえてきた。「私です」と言うと、すぐに扉を開けてくれた。私、というだけで伝わっていると思えば嬉しいが、もう少し警戒と言うことをして欲しいと願う複雑な心境を持った。
 よほど微妙な顔だったのか、どうしましたか、と訊いてきた。ので、なんでもないですよ、とやんわりごまかしておいた。
 
 「ところで、エヴァンジェリンさんは?」
 
 「はあ、彼女なら今地下室へ行ってますよ」
 
 地下室への階段を指さしながら、彼女はそう教えてくれた。
 
 「お友達もたくさんいました」
 
 「お友達?」
 
 「男の子がひとりに、女の子がえーと、三人です」
 
 そんなスペースが地下にあったか、と首をひねると、続けてディズィーさんが教えてくれた。
 
 「なんでも、“別荘”とかいうところに行くそうです」
 
 「別荘?」
 
 「1時間もすれば帰るとも言っていたので、たぶんもうすぐ帰ってくるはずですよ」
 
 私が出掛ける前にはまだいたから、あと半時間もないうちに帰ってくるだろうと予想する。
 だとすると、ゆっくり待っていた方がいいかもしれない。ソルには出遅れるかもしれないが、急がば回れ、急いては事をし損じるとも言う。
 考えているうちに、ディズィーさんは紅茶を淹れてくれていた。
 
 促されるままにソファに座って、紅茶を飲んで待つことにした。
 相変わらずエヴァンジェリンさんから貸してもらっていた服を着ている。案外着心地がいい、とこの間言っていた。
 ただ、ソファやいすに座るとなると、かさばっていて座りにくくはあるとも言っていた。
 正面のソファに、お互いが向かい合うように座る。
 
 「カイさんは、その、楽しい……ですか?」
 
 「今のこの状況が、ですか?」
 
 「あ、はい。ジェリーフィッシュのみなさんのことは、やっぱり心配ですけど、でも、私、楽しいんです」
 
 日々新しいことに出会い、今まで知らなかったことを知り、そしてその中で生きること。
 それが楽しいのだと、彼女は言う。
 知ることが喜びで、それで人を助けることが出来れば、もっと嬉しいのだと言う。
 
 「私は元々、人に迷惑をかけてしまっていました。でも、それでも私を拾ってくれたジェリーフィッシュの人達を見ていて思ったんです。私もこんな人たちになりたいって。人を助けて、それでいて笑っていられる人になりたいって」
 
 「いいことですね」
 
 話す内容は感心できることだ。
 だと言うのに、それを話す言葉がなぜか幼い。
 そのギャップがあいらしく、いとおしく、たまらない。
 
 ――――何を考えている。
 ダメだ、紅茶の味がよくわからない。もったいない。だけど、ここで、いや違うだろう、そうじゃなくてディズィーさんを、じゃなくて、えーっとあれ?
 
 「カイさん? 顔色が……お顔が真っ赤ですけど熱ですか?」
 
 「えっ!? あ、いえ。全然元気ですよ、熱もありませんし、健康そのものです」
 
 「よかった。あ、紅茶おかわりはいりますか?」
 
 「あ、はい。もらいます」
 
 嬉しそうにカップに紅茶を注ぐ姿は、見ていても楽しい。
 本当に、楽しそうに…………―――――――――。
 
 「おい、カイ。なにディズィーのケツばっかり見てるんだお前は」
 
 「――っな、バッ! そ、そそそ、そんなことしてませんよ私はッ!!」
 
 大声で反応してしまったことに気が付き、エヴァンジェリンがそこにいるということよりも、まずはディズィーさんの反応を気にしてしまった。
 どうやら聞こえていなかったのか、それとも聞こえなかったことにしたのか、紅茶を淹れ続けていた。
 胸をなでおろしてから、エヴァンジェリンの方を向く。
 
 「なんてことを言ってくれてるんですか!?」
 
 「なんだ、見ていないんだろう。だったら別に弁明は不要だろうに。くっく、なんだ、やっぱり見てたのか? ん?」
 
 「……知りません」
 
 「尻じゃないだけにか?」
 
 「あなたは~~~~っ!!」
 
 くつくつと笑いながら、私の隣に腰かける。
 悪びれた様子もなく、意地の悪い笑みだけを浮かべていた。
 
 「ディズィー、私と、ついでにあいつらにも淹れてくれ」
 
 あいつら、と聞いて再び振り返ると、ネギ君たちが立っていた。
 今の会話が聞かれたのだろうかとヒヤヒヤしたが、隣のエヴァンジェリンがやはり笑いながら言う。
 
 「あいつらが会話をリスニング出来るほどの頭を持っているわけないだろ。まあ、ぼーやは英国圏だから理解しているだろうがな」
 
 ネギ君を見ると、ふいっと視線をそらされてしまった。
 見てはいけないものを見てしまった、という感じでふいっと。
 
 「……」
 
 「なんだなんだ? その反応をみるとやっぱり見てたのか、ディズィーのケツ」
 
 「だからっ!!」
 
 「? 私のお尻がどうかしましたか?」
 
 「でぃ、ッズィーさんッ!?」
 
 「声が裏返ってるぞ」
 
 言われれずとも、それはわかっているつもりだ。
 私の声を聞いたディズィーさんが苦笑いしている。まっすぐに見れない自分自身が情けない。
 ここはさっさとエヴァンジェリンさんに話を聞いて、さっさと話題を切り替えることとしよう。
 
 「エヴァンジェリンさん、聞きたいことがあります」
 
 「なんだ? ディズィーのヒップサイズか?」
 
 「違います。そこから離れてください」
 
 真剣な声音が伝わったのか、エヴァンジェリンさんはニヤけていた表情をただし、真摯に向き合ってきた。
 それが演技でないことを確かめるようにじっと見つめ返すと、さっさと話せと無言の抗議を投げかけてきた。
 深呼吸をはさみ、こちらも相手の瞳を見つめる。
 
 「ソルがババアと呼ぶ人物を知っていますか?」
 
 「あん? 私だろうが」
 
 「――――だって、あなたは少女じゃないですか」
 
 「お前、あれが嘘だとまだ思ってるのか?」
 
 「?」
 
 「それすらも忘れてるのかお前は」
 
 私が彼女になにかを言ったのだろうか。
 住まわせてもらっているが、彼女とはそう多くは会話しない。
 私が忘れる様なことがあるはずはないのだが。
 
 「お前は私が600歳を超えていると言って、『冗談もそこまでいくと笑えない』と言ったんだ。まったく、腹立たしいことだがな」
 
 「……え、え?」
 
 「あの、カイさん?」
 
 突然、ディズィーさんから声がかかる。
 なんだろうと彼女の方を向くと、やはり苦笑しながら言った。
 
 「エヴァさんの言ってること、本当です」
 
 「え? ええ?」
 
 「それみろ。信じてないのはお前だけだぞ」
 
 「だって、あなたは、そんな少女じゃないですかっ!!」
 
 思わず指で彼女のことを指してしまった。
 むすっとした顔をしながら、エヴァンジェリンさんはため息を吐く。
 
 「ぼーやとそっくりだよ、お前は。お固くて、融通が効かない。そのうえ生真面目で、むっつりスケベ」
 
 「最後のは余計です」
 
 「だが、ぼーやよりは幾分マシなことがある。それは強さだ。お前は自分の言ったことを実行できるだけの力を持っている。――――と、まあ、話を戻すか。私はね、吸血鬼なんだよ」
 
 「吸血、鬼……」
 
 「そう。吸血鬼。生まれは欧州、育ちは世界中。ここに来るまで紆余曲折ありはしたが、お前が想像しているよりも過激な人生を送ってきただろうよ。この姿は役に立つ時もあれば、全く役に立たん時もあった。その私が、わざわざ嘘をいうなど、考えられるか? まあ、老婆の戯れなどと思えば、どこまで嘘か本当か、わからなくもないがな」
 
 彼女はディズィーさんからの紅茶を受け取り、一口含む。
 私の方をチラと見て、どんな表情をしていたのかは知らないが、呆れた声音で彼女は言う。
 
 「ディズィーを見てみろ。あの姿で何歳だと言っていた? 3歳だったか? なあ、ロリコン」
 
 「なっ」
 
 「逆があっても不思議はあるまい。幾星霜を生きた少女がいても、おかしくもなんともなかろう?」
 
 「……それは、しかし」
 
 「まあ、そこは理解しておくだけでいい。納得できんのならするな。それで、お前の話とはなんだ?」
 
 話すべきかどうか一瞬ためらったが、誰かに聞かなければ進めない。
 それに、彼女自身がそうなのだと言っている。ここまで来て疑うのは逆に失礼なのではないだろうか。
 意を決し、深呼吸をはさみ、向きなおす。
 
 「世界変革の引き金は、誰が握っているのですか」
 
 「――――、その話しか。お前、ソルの差し金か?」
 
 「違います。私とソルは、道を違えています」
 
 「だが、目的は同じ。だろう?」
 
 「最終的にはそうなるでしょう。場合によっては、私はあいつに剣を向けなければならなくなる」
 
 「……ふん。ちょっと待ってろ」
 
 そう言って、エヴァンジェリンさんはソファから立ち上がり、ネギ君たちの方へ移動した。
 二言三言話すと、彼らはぞろぞろと帰って行った。
 赤髪の少女がなにやら文句を言っていたようだが、日本語がよくわからないので聞き取れない。
 様子を見ていても、おそらくエヴァンジェリンさんが無理矢理皆を帰してしまったのだろう。つまりは、彼らに聞かれては困ることだということ。
 彼らと一緒に話していたディズィーさんは寂しげに肩を落としていた。
 
 「さて、と」
 
 私の正面のソファに座り直し、今度は茶々丸さんに紅茶のおかわりを頼んでいた。
 私の方にもおかわりは必要かどうかが訊かれたが、首を横に振っておいた。
 
 「ここだけは正直に言っておくとしようか。私は、この世に『魔法』をバラそうとしている奴を知っている」
 
 「やはり、そうなのですか」
 
 「お前から“やはり”などとは言われたくないな。私のことを疑ってたくせに」
 
 「……それは、すいません」
 
 「よろしい。が、私はそいつのことをお前に教えるつもりはない」
 
 「なッ、なぜですか!?」
 
 「ソルにも教えていないからだ」
 
 「教えるならば、対等の立場で。そういうことですか」
 
 「まあ、そんな感じだな。……だが、場合によってはヒントをくれてやるくらいなら出来るかもしれん」
 
 「……条件は?」
 
 「お前はそいつを見つけて、どうするつもりだ」
 
 「説得します。やめなさいと」
 
 「詳しいことは知らんが、そいつはパラドックスというヤツを引き起こしはしないか?」
 
 「パラドックス?」
 
 「映画は見たことないか? タイムパラドックスというヤツだよ。時間的矛盾、つまりは、お前たちの世界とこの世界が同一の存在だったとして、『魔法』がバラされなければ、お前たちの世界が存在することはなくなるわけだ。とすれば、お前は自分自身を殺すということだ。さらに言えば――――」
 
 すぅっとゆっくりと手をあげ、私の背後に立っていたディズィーさんを指さす。
 
 「ディズィーをも殺すと言っているようなものだ」
 
 「っ」
 
 そこまで頭が回っていないほど、私は馬鹿ではない。
 この世界変革を阻止するという行為の意味は、つまりそういうことなのだ。
 だというのに、ソルは、あいつは何のためらいもなく『殺す』と言った。
 
 ――――なら、選択は決まっている。
 
 「カイさん?」
 
 心配そうなディズィーさんの声。
 その声に微笑んで返してから、エヴァンジェリンさんに向きなおす。
 
 「それでも私は、進まねばなりません。救える命がそこにあると言うのならば、私は私の命すら惜しくはない」
 
 「カッコいいことだな、カイ。わかった、それではヒントだ。学園祭前から学園祭中、人気のある出店に行けば、その少女に会えるかもしれんな」
 
 「人気のある出店?」
 
 「ここから先はお前で調べるんだな。私は中庸、この件には一切手を出さないと決めた。これをソルに言うなりはお前の自由だ」
 
 「馬鹿な。そんなことを言えば、あいつはその出店に入る人間全てを殺しかねない」
 
 そんなこと、許せるはずがない。
 出来るだけ、人的被害はないほうが好ましい。
 だから、アンフェアかもしれないが、これはソルには伝えられない。
 
 「ありがとうございます。これで、少しは道が開けるような気がします」
 
 「フン。礼などいらん」
 
 茶々丸さんから渡された紅茶を啜りながら、話は終わりだと目で言われる。
 さて……、となると、まずは情報収集からになる。
 取れる選択肢は二つ。ネギ君か、アクセルさんか。この場合は、ネギ君を頼った方がよさそうだな。
 だが、学園祭まではまだしばらく時間がある。それまでに、考えの整理や鍛錬を積んでおくべきだろう。
 
 今は少なくとも、目の前のことに集中した方がよさそうだ。
 フランス語教師という肩書きに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

特に話題はないけれど、拍手レスをしなくちゃと思った次第。

ども、草之です。
それほど溜まってるってわけでもないのですが、あまり日数をあけすぎるのもどうかと思ったので。
 
それはそれとして、気がつけば39万ヒットしてた。
あと少しで40万ヒット達成です。なにか書ければいいのですが、今現在予定はありません。
そろそろ『俺ネコ』も更新しなくては、と思い始めているので、これを機に第3話を書こうかと思っていたり。

あと連絡があるとすれば、短編『姫の密事』を、加筆修正しました。
作品一覧にもある通り、百合成分を含んでいるので、そちら方面がダメな方は閲覧注意です。
 
 
ゴッドイーター、まだクリアしてません(笑)。
ゆっくりゆっくりと難易度6を進行中です。
前々から思ってましたが、ソーマとジーナを連れていけばある程度は安定すると思うんですよね。
あの二人は本当に優秀だと思う。ジーナほど誤射の少ない旧型はいません。個人的に。
後の一人はお好みで。草之の場合アリサか、コウタです。
 
 
今更な話題な気もしますが、『あまんちゅ』の学校の制服って可愛いですよねー。
夏服がどんなデザインなのか、今から楽しみでなりませぬ。とりあえず、てこよりは背が高くてよかったと、ほっと胸をなでおろす草之なのでした。草之の身長はヒールを履いてる火鳥先生とおんなじぐらいの身長です。……ってことは、火鳥先生もデフォで170近いってことなのか。
ところで、愛(姉ちゃん)先輩がモロ好みなんですが、どうしたらいいでしょう?
これは『あまんちゅ』でもSSを書けという天啓だというのか……っ!?
まあ、今のが落ち着いてからになるでしょうけどねえ(笑)。
 
 
では、以下拍手レスです。
草之でした。
 
 
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

サイクロンッ! ジョーカァーッ! に今頃ハマる。あと拍手レス。

面白いならそれは道理だと、きっと誰かが言っていた……!!
ども、草之です。
 
なぜか今頃になって『仮面ライダーダブル』を視聴し始めました。
ようつべで。ただいま4話を見終わりました。先は長い。
ぼちぼち見ていきたいと思います。出来ればこの春休みの間に見終わりたい。
 
日曜朝なんて起きるもんじゃないですよね(笑)?
とりあえず、デザインがスマートになったのは良いと思う。
やっぱりライダーはゴテゴテしてるよりも、ピチッとスマートの方がデザイン的に好きですね。
まあ、デザインだけで見る見ないを判断してたら、損をすることなんて世の中どれほどあることか。
とりあえず、ダブル、完走したいと思います。
 
 
 
この頃恒例になりつつあるゲームの話題。
ゴッドイーターは『帝王の骨』が鬼畜すぎると思います先生。
とりあえずハガンは倒したけど時間切れ。黒猫自重しろ。
慣れればそのうちクリアは出来そうですけどね。それがいつになるやら。
若干楽にはなるのかなーと思って、ヤエガキ改を作ってます。あとはハガンの血石だけ。
ヤエガキだとやっぱり火力不足なのだろうか。
 
 
ムゲフロ、買いたいけど金がない。
だから予約もしてなかった。
うん。スズカは可愛いと思う。お腹なでなでしたい。おへそをくりくりしたい。
個人的にやっぱりスズカが一番好きです。その次にドロシー。あとシャオムゥ。
 
 
ということで、以下拍手レスです。
 
草之でした。
 
 
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:37 後編

 
 本当に今さらだった。
 自分自身、なんであんなことを言ってしまったのか、本当にわからない。
 正直なところ、あのときのエミヤンの目を見て怯えなかった自分を褒めてやりたい。あのときのエミヤンの目は、人を殺せるような目だった。見たことがなかった。あんなに怒ってるエミヤンを、私は見たことがなかった。
 
 「大好きだよ、だってさ。はは、馬ッ鹿じゃないの?」
 
 ベッドが軋む。
 寝がえりをうつたびに、ギィギィとスプリングが鳴る。
 眠れない。夕御飯も、意地になって食べていない。お母さんに怒られた。
 でも、それでも、私は道端のネコにはなれそうにない。
 
 本当は知っていた。
 アイラも、私のことをそんな目で見てないってことくらい。
 あの子は卑怯だ。卑怯なくらい、私のことを可愛がる。
 学生の頃だって、たぶん、アイラがいなくちゃ私はあんなにクラスに馴染めなかった。
 ただの、馬鹿で終わってた。
 
 「……私、なにしてんだろ」
 
 落ち着いて考える時間が、欲しかった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 アリシアがARIAカンパニーに通わなくなってから数日が経った。
 いや、数日なんてもんじゃない。ほとんど一ヶ月だ。
 夏はもう終わりが見え始め、明日はもう『送り火』の日だ。
 
 アイナからの告白があった翌日に、アリシアがいると灯里から聞いて、姫屋を訪ねた。
 予想はしていたが門前払い。姫屋からしてみれば、どこの誰とも知れない人物が、しかも男で、それがいきなり訪ねてきて、「アリシアに会わせてほしい」なんて言ってきても気持ちの悪いだけだ。そもそもアリシアが姫屋にいるということ自体、おそらく晃あたりが情報をいじっているはずだから、とんちんかんな事必至だろう。
 
 仕事のスケジュールはどうするつもりかと思っていたら、藍華がスケジュール表を見て、翌日の分をメモして連絡するという徹底ぶり。藍華にどうにかして取り次いでもらえないか、と言ってもアリシアが首を横に振るらしい。
 
 だったら、とさらに考えた。
 アリシアの一日のスケジュールはこちらが管理している。
 とすれば、お客様を乗せる場所もわかる。ならそこで待ち伏せしていれば会える、という結論にたどりついた。
 が、お客様を私情でお待たせするわけにもいかず、「ごめんなさい」という言葉だけを残してアリシアはゴンドラを漕ぎだし、水路の向こうへ消えて行った。
 だがしかし、こちらがスケジュールを管理しているのだ。わざと時間を空けて話すチャンスを作ることだってできる。
 ……そう思った。思った、だけだった。
 
 アリシアと落ち着いて話すには、まだ時間がいる。
 ならば、とアイナの家を訪ねると、ここ最近ずっと部屋に籠りっぱなしで話しかけても返事もしないとのことだった。
 食事はちゃんとしているようなのだが、部屋からは絶対に出てこないのだと言う。
 女将さんは何があったのか知っているかと訊いてきたが、答えられるはずもなく首を横に振るしかなかった。
 
 「ただいま帰りましたー」
 
 そうこうしているうちにいつの間にか時間は過ぎ、『ゴンドラの火送り』が明日になってしまった。
 この夏は、アリシアと一番離れた夏だった。俺のわがままで地球へ旅立ち、そして、今回の事。
 
 「士郎さん士郎さん!」
 
 自分のすることなすこと、すべてがから回ってる気がする。
 俺は本当にここにいていいのか、なんてまたくだらない疑問が浮かび上がってくる。
 いると決めたんだ。……いや、違うな。いたいと思ったんだ。ずっと、ここで、いたいと思ったんだ。
 いたいと思って、それでいていると決めた。
 なぜならば――――、
 
 「士郎さんってば!」
 
 「お? おお、なんだ灯里か。おかえり」
 
 「聞いてください士郎さん、晃さんがなんとかやれたって!」
 
 「はぁ……? 何を?」
 
 「アリシアさんですよ! 明日のお祭りのときに一緒に行くから、ちゃんと話せって晃さんが!」
 
 「――――お、あ、ほ、本当か!」
 
 勢いよく灯里は頷く。
 やっとアリシアと話せる。やっと、やっとだ。
 そう思うと、一気に脱力してしまった。こんなことじゃいけないのは判ってる。
 だけど、そうだとも。アリシアと、話せるんだ。
 
 「……でも、その、士郎さん」
 
 「なんだ?」
 
 「大丈夫、ですよね?」
 
 「ああ。きっと、きっと大丈夫さ」
 
 はっきり言って、根拠なんかない。
 今大丈夫なんて、簡単に口にしていいことなんかじゃないのはわかってる。
 だけど、これだけはっきりと言える自信が、なぜだか俺にはあった。
 自惚れじゃない、確信でもない。
 ただ、大丈夫だということだけが、はっきりとわかる。
 
 言い訳をいうんじゃない。
 あれは違うんだと、言うんじゃない。
 アイナは言ってしまった。なら、俺も言おう。
 彼女の言葉を、それは嘘だと、真っ向から否定するなんて権利、俺にはない。
 だけど、そうだとも。
 
 「俺の想いを、伝えるから」
 
 「士郎さん」
 
 「さ、てと。ごはん、食べるか、灯里!」
 
 「――――はいっ」
 
 俺の想いをアリシアに伝えることに、誰にも文句は言わせない。
 ――――ああ、決まった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 夜が明けた。
 もう日は昇り切っているのか、窓から差し込む朝日は目に痛かった。
 隣で寝ている晃ちゃんを起こさないように起き上がって、顔を洗いに洗面台へ向かう。
 ヒドイ顔だった。昨日はいつごろ寝たのだろうか。何回寝がえりをうっただろうか。
 
 何回、同じことを考えただろうか。
 
 もし、士郎さんがアイナさんを選んだら?
 もし、士郎さんが私を選んだら?
 どちらに傾いても、どちらかが傷ついてしまう。それは当り前のことなのに、なぜかすごく嫌だった。
 アイナさんがあそこで、私の目の前で士郎さんに告白した理由。少なくとも、士郎さんに好意を持っていなくちゃあんなことはしないはずだもの。
 まだ、心の整理がついていない。全然落ち着かない。
 私の想いは決まっているはずなのに、なんでこんなこと思ってしまうのかが、まったくわからない。
 答えが出ない。
 答えが、出せない。
 答えを――――出したく、ない?
 
 「おはよー。って、ひっどい顔してるなアリシア」
 
 「うん、おはよう晃ちゃん」
 
 「まあ、今日は仕事ないんだろ。ゆっくり寝とけよ」
 
 「うん」
 
 「元気出せって、ほら、顔洗って、歯ぁ磨いて」
 
 「うん」
 
 「――――~」
 
 もうだいぶ前のことだけど、晃ちゃんが士郎さんにキスしたように見えた時はあんなに嫉妬したのに、なんで今回はこんなに悲しいんだろう。
 それもわからない。答えが出ないまま。
 なんで悲しいのか、なんでアイナさんに嫉妬しなかったのか。
 ……別に、嫉妬がしたかったわけでもないのだけれど。
 
 「はい、っと。起きろ藍華。朝だぞー」
 
 「う~あ~、眠いですってばぁ……あと5分」
 
 「アリシア起きてるぞ」
 
 「はい目が覚めました。ンもうばっちり!」
 
 「……殴るぞ」
 
 「じょ、冗談ですよぅ……」
 
 晃ちゃんと藍華ちゃんのいつものやりとり。
 この一ヶ月でこの会話もずいぶん見た気がする。私の朝にはなかった、賑やかさ。
 楽しかったし、幾分気が楽になったような感じもする。
 
 「ほら、朝飯食べに行くぞ。アリシアも、いつまでも突っ立ってないで」
 
 ほらほら、と晃ちゃんが私の背中を押す。
 苦笑いで返しながら、三人揃ってテーブルに着く。
 簡単な朝食をとって、一足先に晃ちゃんがお仕事に行く。今日は午前中だけで切り上げて、午後はゆっくりとお祭りに備えて身体を休める、のだそうだ。
 藍華ちゃんは、今日は姫屋の中で行動するらしい。跡取り娘にもいろいろあるんです、とは言っていたが、詳しくは教えてもらえなかった。やっぱり会社のことだからかしら。
 
 というわけで、今この部屋には私しかいない。
 
 できるだけ、ひとりにはなりたくなかったのだけれど。
 どうしようか、と首をひねっていると、窓からヒメ社長が入ってきた。
 そのまま、彼女は私の膝の上まで来ると丸まってしまった。今度こそ、どうしようかと真剣に悩まざるを得なくなってしまった。
 動いてもいいけど、それだとヒメ社長が起きちゃうし……。
 
 そこまで考えて、思わずクスリと笑ってしまった。
 今私、悩んでない。
 ありがとう、という想いをいっぱい込めてやさしく撫でてあげると、ごろごろと気持ちよさそうに喉を鳴らした。
 ネコは、ときどきこういうことをする。
 人の感情に敏感なのだろうか。やっぱりおひげはレーダーだから?
 なにか嫌なことを吸い込んでくれているような、吐き出させてくれているような、あるいは昇華なんて言うのだろうか、そんな気持ちになる。
 
 「そうよね。きっと、大丈夫よね……」
 
 私のその言葉に返事をするように、ヒメ社長はかわいく一度だけ鳴いた。
 疑う必要なんてない。士郎さんが決めたことなら、私は受け入れることが、きっと出来るから。
 だから、この悲しみはきっと……――――悪いものじゃない。
 
 「怖がってるだけじゃ、ダメですよね……?」
 
 ふと蘇るのは、記憶の片隅に置いてあった彼女の言葉。
 
 『……貴方は、我が誇りを継ぐ覚悟を持っているか』
 
 そのとき、私はどう返したのだったか。
 まるでパズルのピースように、言葉ひとつひとつを思い出していく。
 まずはじめに、
 
 「ごめんなさい」
 
 その次が、
 
 「私は、あなたの意志と誇りを全て継ぐような器を、もっていません」
 
 だから、と。
 でも、そう、でも私は私の――――、
 
 「アルトリアさんの想いのカタチは、きっと私の想いのカタチになってしまう。だから、継げません」
 
 私が私だから。
 私が知ってる士郎さんは、私しか知らない士郎さんだから。
 だから、と。
 
 「私は私のやり方で、きっと、士郎さんのそばにいるから……」
 
 ああそうか。
 そうだった。
 なにが悲しいのか。なにが悲しかったのか。
 少しだけ、わかった気がする。
 
 “わからないということが、わかった気がする”。
 
 「それはきっと、急いで出す答えじゃないのよね」
 
 ベッドの上にヒメ社長を寝かせてあげて、部屋をぐるっと見回した。
 まずは、お世話になったこの部屋の掃除から。
 
 「ありがとうございました」
 
 それから、あのふたりにもお礼を言わなくちゃ。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 日の暮れ始めは、思っていたよりも早かった。
 灯里たちは部屋で浴衣に着替えている。灯里が今日のために内緒で買い揃えておいたらしい。
 
 降りてきた三人は、当り前だが浴衣を着ていた。
 いつもとは違う雰囲気があって、なかなかに似合っていた。
 
 「へへーん、どうですか衛宮さん?」
 
 「馬子にも衣装ってな」
 
 「んなーっ!」
 
 「冗談だよ。みんなかわいいさ。良く似合ってる」
 
 嘘はなかった。
 からかいのまじった口調からは想像しがたいかもしれないが、それでも嘘ではなかった。
 どうしてこんな口調になってしまったのか。少しだけ自己を見つめてみるとすぐわかった。
 
 浮足立っている。
 
 そう、今までにないほどわくわくとしており、また同時に手汗がとんでもないことになっていた。
 動悸が激しく、首回りがジワリと熱を帯びている。熱にうなされているような錯覚もある、が、俺の体調はいたって健康。そう、俺は今、かつてないほどにわくわくしていたのだ。
 
 自分でも馬鹿か、と罵倒したくなる。
 そんな浮足立っている場合じゃないだろう、と。
 
 「士郎さん、早く早くっ」
 
 「レディを待たせちゃ紳士失格ですよ!」
 
 「でっかい楽しみです!」
 
 「ああ、今行く」
 
 そうだとも。
 これがどういう選択なのか、十分理解している。
 俺が伝えたい言葉が、俺にとってどれほどの意味を持っているのか。
 俺が伝えたい言葉が、彼女にとってどれほどの意味を持っているのか。
 
 考えなかったわけじゃない。
 そりゃ、考えたさ。当り前だ。
 こんなこと、誰彼なしに言えることじゃない。
 だからこそ、ああそうさだからこそ彼女に――――、アリシアに言うんじゃないか。
 
 言葉の意味?
 言葉がどれほどの意味を持っているか?
 その言葉は重いのか、軽いのか、辛いのか嬉しいのか。
 
 そうじゃないだろう。
 この言葉は、そんなこと一切を無視してる。
 これに込める意味は一つで十分だし、それ以上はきっと入らない。
 なぜならば――――。
 
 「とうちゃーくっ」
 
 いつの間にか、サン・マルコ広場まで歩いてきていたらしい。藍華の声でそれに気がついた。
 出店も多い。灯里たちの他にも浴衣を着ている人達はまばらだがいる。
 
 「んー。晃さんたちはまだ来てないみたいですね」
 
 藍華が言うには、ここ、広場の入り口あたりで待ち合わせしているのだと言う。
 約束の時間までは、もう10分もないとのこと。待っていればすぐに来るだろうと笑いかけてくれた。
 
 いよいよ、心臓が破裂しそうになる。
 暑さとは別に、脂汗がにじむ。無意識に周囲をキョロキョロと見回してしまう。
 明らかに、注意が散漫になっていた。
 
 「ああ、もう……」
 
 自分で自分が腹立たしい。
 なぜ、こんなにもわくわくしてしまうのか。
 なぜ、こんなにも緊張してしまうのか。
 なぜ、こんなにも感情があふれてしまいそうなのか。
 痛いほどに、この気持ちは大きい。
 
 「おーい、藍華ー!」
 
 「あ、晃さん! 衛宮さん、来ましたよっ」
 
 より一層緊張が強まる。
 耳元が鼓動の音でうるさい。じーん、と耳鳴りがする。
 何度でも言う。俺はこのとき、注意が散漫だった。
 
 「あのっ、え、エミヤン……?」
 
 「え?」
 
 突然だった。
 後ろからかけられた声は、アリシアと負けず劣らず、ずいぶん聞いていなかった声だった。
 緊張が一気に解け、代わりに、すべての注意がそちらに向いてしまった。
 そう。もう一度言おう。
 俺はこのとき、注意が散漫しすぎていたのだ。
 
 「あのね、その……」
 
 「――――っおい? アリシア、どこ行くんだってば、アリシア!?」
 
 背後から晃が叫ぶ声。
 この祭りの喧騒の中でもはっきりと聞こえるのは、さすがだと思った。
 藍華から、晃を始めアリシアは誰にも理由を話していないと聞いている。ここにアイナがいるということが、どれだけの衝撃を彼女に与えたのか、理解できる者は、ここにはふたりしか残っていなかった。
 だが、違った。
 何が? そう、アイナが、だ。
 
 「エミヤン、追えっ!!」
 
 「え、あ……?」
 
 「追えって言ってんの! 好きなんでしょ!? いいから、ほら行くの!!」
 
 「――――ごめん。ありがとう」
 
 駆けだした。
 遠く離れていく後ろから、十人十色の声援を送られた。それを背にいっぱい受け、さらに加速する。
 なんてことはない。アリシアをすぐに視界に収めることが出来た。
 が、人が多い。うまく前に進むことはできず、身体の小ささで勝るアリシアは逆に人の間を縫うように走っていく。
 手を伸ばせば届くような距離じゃない。声を張り上げて、彼女が止まってくれるかはわからない。
 そうじゃない。
 この手で、追いつきたい。
 
 「アリシア……っ」
 
 呟くように、かすむ声で叫んだ。
 それで距離が縮まるわけでもない。だけど、呼ばずにはいられなかった。
 呼ばなければ、このまま終わってしまいそうで……。
 
 見失いそうになる。人混みにまぎれ、彼女の姿がかすんでいく。
 それは嫌だともがく。広場を回るように駆ける彼女の後姿を見失わないように、精いっぱいに追う。
 ひとりになんてさせたくはない。
 ひとりになんて、させるものか。
 
 「アリシアぁ――――ッ!」
 
 届けと願った。
 声を張り上げた。
 振り向いてくれと祈った。
 
 肩を震わせながら、アリシアは振り返り立ち止まった。
 速度をゆるめながら、彼女に近づいていく。眉根を寄せ、目を伏せ、唇は固く結ばれていた。
 こっちを向いてくれなんて、贅沢は言わないでおく。
 欲を言えば、確かにこっちを向いてもらいたい。けど、それは欲張りだ。
 
 「アリシア。久しぶり」
 
 「…………はい」
 
 「元気だったか? って、まあ藍華に聞いちゃいたんだけどさ」
 
 「…………はい」
 
 「アリシア。アリシアに、伝えたいことがあるんだ」
 
 「――――っ」
 
 アリシアが息をのむ。
 肩を縮ませ、いつもよりも一回りほど小さい気がする。
 口を開こうとした、その時だった。
 
 「私、私……馬鹿、だから」
 
 「え?」
 
 「アルトリアさんに言われたこと、思い出して、思い出したのに、私、ダメで……」
 
 大粒の涙が、次々に彼女の頬を濡らしていく。
 真っ赤になった彼女の顔を、うわずる彼女の声を、俺は何も言えずに見聞きしている。
 胸の奥が、痛い。なにか自分の芯を揺すられているような、そんな錯覚。
 
 「私、悲しかったのがなんでか解りました。士郎さんのこと、好きな人がいたのに、士郎さんを独り占めしてたから、だからきっと、私、私……ぅあっ、ああ、ああああ……ぅっ」
 
 アリシアが崩れた。
 周りの目も気にせずに、ただ大きく嗚咽をもらし、涙をこぼす。
 周りの人たちは何事かとこちらに注視し、人の輪が出来上がりつつあった。
 そして、その涙をこぼしている人物がアリシアだとわかると、いっきに野次馬が群がってくる。
 
 「私は、アルトリアさんの言葉を鼻にかけて……っ、ただ、ただ士郎さんを独り占めしてるだけだった……っ、違うんです……っ、違う……、違う……っ」
 
 ざわつきがより大きくなっていく。
 祭りの中、メインがこちらに移りつつある。
 そんなことは、瑣末事だ。
 
 「私、馬鹿だから……っ。だから、士郎さん、もう……ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
 
 「……ああ、馬鹿だな」
 
 からかうような口調ではなく、自然にこぼした、呆れる様な口調だった。
 一歩、アリシアに近づいた。顔を伏せた彼女の顔はよく見えないけど、きっと、笑顔なんかじゃない。
 
 「アリシア、そんなこと気にしてたのか」
 
 「そんな、こと……っ? 違う、私、そんな……っ」
 
 「それなら、俺の方がごめんなさいだ。心配かけた。世話になってる。かまって欲しいのは、俺の方だ」
 
 「……え? そ、れって……どういう?」
 
 顔をあげたアリシアの表情は、悲しみを今だけ忘れて、いわゆる『ハトが豆鉄砲をくらった』顔をしていた。
 しかし、その顔もすぐに不安に陰ってしまった。
 まっすぐにこちらを見返すことなく、また顔を伏せてしまう。
 
 「……私、でも……こんな私、私は嫌いです……っ、私は士郎さんにふさわしくなんか……」
 
 「そんなアリシアを……お前を好きになった俺はどうする」
 
 「え?」
 
 なんて? とまた彼女は顔をあげる。
 ああ、何度でも言ってやろう。
 この言葉は、そのためにある。人に伝えるために、きっとある。
 
 言葉の意味とか、その言葉がどれほどの意味を持っているかとか。
 その言葉は重いのか、軽いのか、辛いのか嬉しいのかとか。
 
 そうじゃないだろう。
 この言葉は、そんなことを一切無視してるのだから。
 これに込める意味は一つで十分だし、それ以上はきっと入らない。
 なぜならば――――。
 
 そう、なぜならば――――。
 この言葉は、それだけのためにあるのだから。
 この言葉はきっと、ひとつで十分なほど、大きいから。
 だからこの言葉を、精いっぱいの俺の心で伝えるんだ。
 
 そこに嘘も偽物も、入る余地など元からない。
 
 ああ、そうだとも。いろいろあった。
 この世界に来て、初めて会ったのがアリシアだった。
 月光の下で優しげに微笑む彼女を見て、俺は何を思っていたのか。
 なんて言って彼女にあいさつしたのか。そんなこと、もう覚えていない。
 
 だけど、育った。
 俺のこの気持ちも、きっと。
 アルトリアは言った。俺を導いてくれるのはアリシアなのだと。
 
 『みんなが、アリシアがきっと答えに辿り着かせてくれる』
 
 正義の味方の答えが、一体なんなのかはまだわからないけど、その答えよりも、今はもっと大事なことに気がつけた。
 その気持ちに、戸惑いもあった。
 だけど、そう、だけど。
 その気持ちはきっと、答えに繋がっていくと思えたから。
 だから言うんだ。
 アリシアに、その気持ちを抱いた彼女に、俺の気持ちを。
 
 アリシアの髪が、
 アリシアの瞳が、
 アリシアの声が、
 アリシアの肌が、
 アリシアの身長が、
 アリシアの体重が、
 アリシアの肩幅が、
 アリシアの歩幅が、
 アリシアの性格が、
 アリシアの雰囲気が、
 アリシアの微笑みが、
 アリシアの優しさが、
 アリシアのいたずらさが、
 
 問1。お前はアリシアの何をどう思ってるんだ?
 答え。アンサー。さぁ答えろ、衛宮士郎。
 アリシアに、お前の、最大級の答えを。
 
 
 
 
 「俺は、アリシアのことが好きなんだ。こっちから頼む。俺と、一緒にいてくれ」
 
 
 
 
 言った。
 目の前のアリシアは、目を丸くしたまま固まってしまった。
 気がつけば、辺りの喧騒が消えていた。誰もが息をのみ、事の顛末を見届けてくれている。
 アリシアはすぐには答えない。
 ただじっと、俺の瞳を覗きこんでいるだけだ。それからそらさない。こちらも見つめ返す。
 反応しないなら、何度だって言ってやる。伝えても伝えきれない想いなんだから、何度だって、言ってやる。
 それが安っぽいなんて言われてもかまわない。安っぽい言葉だと言われても、俺の気持ちはそうだとは言っていない。
 万感の感情をこめて言うこの言葉は、なにものにも負けないと自負している。
 
 「アリシア、お前が好きなんだ……!」
 
 「え、あ……ふあ……っ?」
 
 アリシアはまだ、俺の言っていることがよくわかっていないらしい。
 なら、もう一度と思った時だった。
 
 「あ、う、あ、ええっ!?」
 
 聞いたことのない、アリシアの素っ頓狂な声。
 頬を濡らしている涙が蒸発してしまいそうな勢いで、彼女の顔が上気する。
 目に見えて慌てふためく彼女は、少しかわいかった。
 
 「あの、えっと……え?」
 
 頭の中で俺の言葉を反芻しているのだろうか、目が右に左にと泳いでいる。
 そして、視界が左右に揺れることで、今自分が置かれている状況を理解したようだ。
 上気していた顔が、さらに赤く染まっていく。頭から湯気を出しそうな勢いの赤さは、これ以上なにも喋られないような雰囲気があった。
 
 これ以上ここでいることもないかと思った時だった。
 不意に、袖を引かれる。
 
 「? どうした、アリシア」
 
 「うふふ、ふふふ」
 
 「アリシア?」
 
 「や、やだ。ごめん、なさい。あ、あらあら……? 涙、止まらない……なんで、嬉しい、士郎さん、嬉しいのにっ」
 
 満面の笑みを浮かべながら、アリシアは泣いていた。
 そこに昏い不安の陰などなく、嬉しさで満ち満ちた表情をしていた。
 感情のコントロールがお互いにうまく出来ていない。どちらからともなしに、歩み寄っていた。
 
 「士郎さん。あぁう……あらあら、えっと……、その、もう一回、言ってもらえますか?」
 
 潤んだ瞳で、見上げるように覗きこんでくる。
 期待と、喜びが入り混じった色が瞳の光に宿っている。
 それに微笑み返すと、もう一度、よく聞こえるように言った。
 
 「ああ、アリシアが好きだ。俺と、一緒にいてほしい」
 
 「――――っはい、こちらこそ、よろしくお願いしますっ!」
 
 先程までの静寂はなんだったのか、広場が憤怒や歓喜の叫びで包まれる。
 と、ほぼ同時に、広場の向こう側から赤い火柱が立った。勢いよく燃え盛るそれは、夜の闇をくりぬいてなお、その存在を主張している力強さがあった。
 途端に祭りは、静けさが戻る前、いやそれ以上の盛り上がりを見せた。
 
 その騒がしさに呆気に取られること数分。
 誰かが――女性の、どこか聞きなれた声だった気がする――音頭をとって叫び出した。
 
 「キーッス! キーッス! キーッス!」
 
 それを聞いた周囲が、とことん乗れとばかりに大合唱を始めた。
 
 『キーッス! キーッス! キーッス!』
 『キーッス! キーッス! キーッス!』
 『キーッス! キーッス! キーッス!』
 
 広場を揺るがしかねないその大合唱は、火柱にも負けないほどに力強かった。
 しばらくの間、火柱のおかげで少し橙色に染まった夜空を見上げていた。
 その間にも、合唱はますます大きくなる。
 周りを見れば、もしかしたらこの合唱の中に藍華やアリス、晃にアテナたちがいるのかもしれない。
 
 とんだ告白になってしまった。
 苦笑いで周囲のキスを囃し立てる合唱を聞いていた。
 ふと、アリシアに視線を戻すと、彼女は恥ずかしさからか、耳を真っ赤にしながら顔を伏せていた。
 まったく、今日だけで何回アリシアに地面とにらめっこさせるつもりだ、俺は。
 
 「アリシア」
 
 「……はい、士郎さん」
 
 声が震えていた。
 ゆっくりと、彼女が顔をあげる。
 潤んだ瞳と、上気した頬。りんごみたいに赤くなった頬は、美味しそうだった。
 アリシアの顔にかかっている彼女の金髪をサラリとなでるようにはらう。
 
 「……ん」
 
 アリシアが静かに目を閉じた。
 合唱がより大きく膨れ上がる。
 
 「ありがとう、アリシア」
 
 「え?」
 
 ぱっと目を開けた瞬間を狙って、アリシアにキスをした。
 顔が近いなんてもんじゃなかった。俺の目に映るのは、同じくアリシアの目だけ。
 青色の綺麗な瞳が、静かに微笑んだ。
 
 歓声が、広場に降り注いだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:37 後編   end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

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現在は主に一次創作を書いて活動中。
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