なんか不安になった。そして拍手レス。
ども、草之です。
この頃、全然更新予告通りに更新出来ないヘタレ野郎です。
すいません。
それは置いておくとして、『優星』がこの頃おんなじことしかしてない気がしてたまらなく不安。
筆の進まない理由としてこれもあると思う。
けれども負けませんよ。
やっと、やっと大きなイベント(最新話のじゃなくて)が終わって、やんわりしたARIAの空気を目指せると思った矢先の思いですが、負けません、最終話までは!!
おそらくこんな不安にかられるのは、「エブリデイ・マジック」の空気を使えていない証拠なのでしょう。
つまり、ARIAの作風を悪い意味で壊しつつある。
わがままですが、次回『優星』は少し時間をかけて書いてみます。
では、以下拍手レスです。
草之でした。
この頃、全然更新予告通りに更新出来ないヘタレ野郎です。
すいません。
それは置いておくとして、『優星』がこの頃おんなじことしかしてない気がしてたまらなく不安。
筆の進まない理由としてこれもあると思う。
けれども負けませんよ。
やっと、やっと大きなイベント(最新話のじゃなくて)が終わって、やんわりしたARIAの空気を目指せると思った矢先の思いですが、負けません、最終話までは!!
おそらくこんな不安にかられるのは、「エブリデイ・マジック」の空気を使えていない証拠なのでしょう。
つまり、ARIAの作風を悪い意味で壊しつつある。
わがままですが、次回『優星』は少し時間をかけて書いてみます。
では、以下拍手レスです。
草之でした。
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背徳の炎 track:36
「弱いッ!!」
開始5秒。
何が起こったのか、まったく解らなかった。
暗転した瞬間、次の景色は半分が床だった。
「いた……痛いぃッ!?」
焼けつくような痛み。みぞおちに穴が開いたんじゃないかと思うほど冷たい感覚。
昨日とはまるで別人のような強さ。今までの訓練が、おままごとにしか思えない。
「立て、早く、早くッ!!」
「え、あ、あ……はい……ぃぎっ!?」
膝が笑う。力を入れれば入れるほど足の裏から地面に逃げていくようだ。
立てない。
顔を上げることが出来ない。今、顔をあげたら、きっと立てなくなる。
今、顔をあげたら――――
「ノロマが! さっさと立て、さっさと立って向かって来い。ヒマだぞ、おい、私はヒマだ!!」
「そんな、こと、言ったって……ッ」
「ネギ先生、肩を」
見かねたのか、茶々丸さんが立つのに肩を貸してくれた。
しかし、その茶々丸さんも、マスターの一言ですぐに離れていく。途端に、腰が効かなくなる。
また膝をつきそうになって、それを必死に堪えた。
「いつもならもう立ってる頃なんだがー、ぼーや、お前そんなに弱かったか?」
「そん、あ……」
ガクン、と膝が折れた。
跪くかたちで、マスターの前に倒れる。
「ち。2時間休んでそれからだ」
そのマスターはスタスタと別荘内に入っていってしまった。
僕は、どうしたんだ? なんで、こんなに身体が動かないんだ?
「ネギ先生。どうか、マスターをお許しください」
「え?」
「マスターは昨日から気が立っています。今日は、この別荘内で取り出せるほぼ全力の力で訓練に臨んでいました。ネギ先生があれだけ早く、かつ立てなくなった理由はそこにあります」
「なんでそんな……」
「私にも判りません。この頃のマスターはいつもどこか上の空なのです」
いつも上の空な気がしないでもないんだけれど、それって僕の授業中だけなのかな……。
そんな疑問はまずワキに置いておく。いつも一緒にいる茶々丸さんが上の空だと言っているんだ、そうに違いないんだろう。だとしたら、その理由はなんなのだろうか。茶々丸さんですら知らない理由とは?
考えていても仕方がない。
今は、とにかく回復。回復することに専念しないと、またすぐに倒されてしまう。
20分間は寝転んで体力回復に努め、そこからはストレッチ。
型の確認、ジョギング、魔法の確認、魔力の流れ。
万全とはいかないまでも、十分全力を出せるほどの体調のはずだ。
「心配じゃ、ないんですか?」
「……心配です。あれほど摩耗されたマスターは見たことがありません。姉さんならあるいは見たことがあるかもしれませんが、少なくとも私は知りません」
「……そう、ですか」
また、僕の知らないところで何かが起きている。
誰が、どこで、どうやって、僕の知らないところで何がされているんだ。
なんなんだ。悔しい。なんなんだ、僕が一体何をしたっていうんだ……。村でのことも、学校へ来てからのことも、修学旅行も、悪魔の人のことだって……、何をしたっていうんだ、僕が、僕が何をしたっていうんだ。
「僕は、なんて弱いんだろう」
「ネギ、先生……?」
「誰も守れない。誰も救えない。何も知らない。僕は、なんて弱いんだろう……」
噛みしめることすらできない。
その悔しさの元がわからないから、その悔しさを噛みしめることすらできない。
イヤだ。なにも出来ない知らない悔しさが、とんでもなくイヤだ。
知りたい。強くなりたい。みんなを守りたい。
もう、無力なままの自分はイヤなんだ。
「マスター!」
別荘へ走っていく。もっと、もっと、強くなりたい。
もっと、自分が納得できるくらいに強く、みんなを無傷で守り通せるくらいに強く。
「やかましい。怒鳴らんでも聞こえてる」
「どうすれば――――」
「あ?」
「どうすれば、強くなれますかっ!!」
それはもっとも単純な、僕の願いだった。
* * * * *
「“暴力”、か」
考えてもみなかった。
私の振るう力が暴力でしかない? 私が掲げる正義は、ただの独りよがりだったのか?
考えれば考えるほど、今までやってきたことが解らなくなる。
この力を一体どこ向ければいいのか。そもそも、私の力は本当に私が持っていてもいいものなのか?
「……わからない」
木刀を振り下ろす。
一心不乱に、ただ何も考えることなく、木刀を振るい続ける。
もう朝から何度振ったのかが解らない。手に鈍い痛みが走っている。振り上げるたびに、生温かい血液が顔に降りかかる。
「くそ……っ」
どうすればいい。
誰かに問うて、答えが出ればそれほど楽なこともない。
だが、それで答えが出るはずもない。出たとしても、それは私の答えじゃない。
どうすればいいというんだ。
「…………」
血で木刀がすっぽ抜ける。
地面に叩きつけられた木刀が勢いよくバウンドする。手持ち無沙汰になった手からは、血が滴り落ちる。
皮がずる剥けていて、空気に触れただけでジンジンと痛みが広がってくる。
こうなったら、もう握り直せない。携帯してきた救急箱から包帯を取り出し、厚めにきつく締めつけるように巻いていく。手の平側の包帯は、止まらない血で徐々に赤く染まっていく。
この血を幾度流して、私はここに立っているのだろうか。
どれだけの血と汗を流し、強くなり、ここにこうして立っているのだろうか。
ここにこうして立っていられるのは、私が強くあろうと戦ってきたからだ。それはきっと間違いない。
だが、今は違う。
「この力が、憎い」
あまりに暴力的で、あまりに稚拙なこの力が今は憎くてたまらない。
意味がある力ではなく、ただ振り回しているだけだった。
子どもか、私は……。
「あ、あの……」
「ん?」
「カイさん」
振り向くと、顔を曇らせたディズィーさんが立っていた。外出する時のおなじみの格好になっているごッシックファッションを身にまといながら、森の中に自然に、その景色と一体となって立っていた。
瞬間、私は泣きそうになった。それを涙を流す寸前で我慢して、ぎこちなく笑みを作って見せた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ええ、ちょっと頑張りすぎてしまいました。やっぱり、ヤツがそばにいると思うとじっとしていられなくて」
「ヤツっていうと、あの、怖い人……ですよね?」
「ソルです。と、言っても別に覚えなくても構いませんけれどもね。こうやって同じ街に住んでいるんですから、会うこともあるでしょうが気にしなくても大丈夫ですよ」
「……うそ」
「――――」
これほど容易く嘘を見抜かれてしまうのか。
それほど、私の顔は解りやすかったのだろうか。
解らない。私は今、どんな顔をしているんだろうか。
「情けない。自分のことさえ、わからないなんて」
「カイさん……」
「私の正義はなんだったんだ。人を救い、秩序を守ってきた。それが間違いだとは思いません。けど、けど……」
「私が――」
「?」
俯いている彼女の表情は見えない。だけど、その肩が震えていた。
泣いて、いるのか……?
「私が惹かれたあなたは、そんなじゃなかったです」
「え……」
「うまくは言えませんけれど、今のカイさんは、カイさんらしくありません」
「…………」
私らしくない。
その、私らしいとはなんだ?
そう考えてしまったのが間違いだった。一気に頭に血が上っていく。泣くのを我慢してしまったこともあったかもしれない。今まで溜めていたはずの感情のタガが、一気に壊れる音が聞こえた。
「あなたに、私の何が解るって言うんですか」
「それは……」
「私の、何が……!!」
地面に落ちている木刀を拾い上げる。
自分でもなんでそんなことをしてしまったのか解らないほどに、その木刀を地面に叩き続けた。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も……!!
「ああッ!!」
バキッ! と乾いた音を立てて木刀が折れた。
破片は明後日の方向へ飛んでいき、また手持ち無沙汰になる。
「……どうして、どうしてこんなに」
「甘ったれてんじゃないよ、シャキッとしなさいよね、シャキッと!!」
「――うぎっ!?」
背後への衝撃。
背中に強烈な蹴りを食らって、顔から地面に突っ込んだ。
口の中に土が入ってくる。ジャリジャリしていて気持ちが悪い。
「ウジウジウジウジ愚痴って愚痴って、何が楽しいのさ」
「メイさん!」
「……楽しくなんてありませんよ」
顔をあげると、麻帆良中等部の制服を身につけたメイさんが仁王立ちしていた。
力を入れて立ち上がると、今度は私が彼女を見下ろすかたちになった。それでもメイさんは、私を見上げてくる。確固たる意志を持って、私を見上げてきていた。
その輝かしい瞳が、なんともうらやましい。
「なんでそんなに荒れてるのかは知らないけどさ、子どもの駄々より性質悪いよ」
「……」
子どもの駄々よりも性質が悪い、か。なるほど道理だ。
私の正義は、“暴力”なのだから。子どもの駄々は、まだ力のないワガママで済む。
なまじ力があるぶん私の駄々は、性質が悪い。そういうことだ。
「だったら、どうすればいい?」
「どうもなにも、ボクが知るわけないじゃん。勝手にやってなよ。でもね、ディズィーに文句つけるんならボクは黙っちゃいないよ」
「それは、すまないと思っている。けれど……わからないんだ」
「なにが。何がわからないっていうのさ。わからないなら考える。考えてもわからないなら行動する。行動してもわからないんなら、答えを求めるのを一旦やめる。ジョニーが言ってたよ。難しく考えても、わからないときはわからない。だったら、気楽に行きゃいいぜ、ってね」
自分の歯ぎしりがイヤなほど聞こえてきていた。
その歯ぎしりが、耳に残る。ぎちりぎちりと肉が歯車に挟まれて潰れていくような音がする。
口元から、顎にかけて生温かい感触が流れていく。
「……しばらく放っておいてもらえませんか。今の私は、誰が相手でも何をするかわかりません」
「…………ディズィー、行こう。お兄さんといちゃあ、何されるかわからないよ」
「でも、その、あの……」
誰の顔も見れない。
今誰かの顔を見てしまっては、何をしてしまうかわからないほど、荒んでいるのが判る。
二人はさっさと帰っていってしまった。
私は、今はエヴァンジェリンさんの家にも帰れない。落ち着くことができない。そうなれば、きっとエヴァンジェリンさんの大目玉を食らうだろう。今の私がその怒鳴り声をスルー出来るほど大人になれないのは、自分が一番よく知っている。
ゆっくりと立ち上がって、街とは逆方向、山奥の方へ足を向ける。
あるいは、身体を動かせば少しはマシになるかもしれない。期待はできそうにないが、やるだけならタダだ。
今は、なんでもいいから暴れたい。
こんな木刀を振るだけではなく、全力で、力を出してみたい。
「……行くか」
今はまだ、正義がわからない。
* * * * *
情報が集まらない。
魔法使いどもに聞いたとしても、返って来る答えはいつも同じ。
『ありえない』『知らない』『わからない』。
「くそったれめ」
苛立ちが募る。
最初は、帰るためだけにここに留まるつもりだったのに、どうした経緯でこうなったのか。
魔法が世に知れ渡るのがこの時代だというのは、まず間違いない。
それを食い止める。
なぜ、食い止める?
本当に、この歴史は俺たちの歴史と繋がっているのか? その確証もないのに、それを決めつけていいのか?
元の目的を達成できなければ、本末転倒じゃないのか。
つまり、俺たちの世界、時代に戻るという目的を。
「…………」
今までは、この世界が、俺たちの世界の過去であることを前提として考えてきた。
しかし、そうでないとするのなら?
しかしだとしたら。
天文学的確率が、連続で当たったというのか。つまりは、俺たち全員が同じ世界に飛ばされたと言う可能性。
なんらかの要因が原因になって、二つの世界が入り混じろうとしているのではないのか?
すべての要因を書き記された世界『バックヤード』。
これが本当に存在するというのなら、今ほどこの世界を覗きたいと思ったことはない。
……予防線。
どう転んだとしても、魔法の情報を世に出すわけにはいかない。
それが自然なものであるならまだしも、一個人が実行しようとしているとなれば、話は別だ。
俺は、そいつを殺す。
時間もあまり残されていないようだ。
この頃、あの大樹の活動が活発化してきている。
タイムリミットはもう近い。
「もしもし?」
「あ?」
「ややや、噂通り怖い人だねー」
「誰だ、てめえ」
「ただのミーハー女子中学生だよ」
「……なんの用だ」
ニヤニヤした笑いが気に入らない。
中学生らしい女は俺の周りをぐるりと一周歩いた。身体を上から下まで観察されている気分だ。
正面に戻って来ると、またニヤニヤと笑い始めた。
「良い身体してるね。どうかな、ウチの店で働かない?」
「あん?」
「今ちょうど男手が足りてなんですよね。お給金いっぱいあげますよ」
「……くだらねえ」
女から背を向けて、さっさとそこから離れていく。
後ろから足音。振り向かなくても、あの女がついて来ていることくらい判る。
とにかくそれを無視して、情報集めに専念する。
いつものように酒場に向かい、マスターと情報の交換をする。魔法関連の情報はもちろん入ってくるはずもないが、それに近いことは入ってくる。
動きが妖しい学生組織や、大学サークル、教師、外部からの来訪者などの情報は入ってくる。
だがしかし、入ってくる情報はいつもと同じ。
変わり映えのない、ミーハーどもの小賢しい考えから生まれた行動のみ。
酒場から出ると、あの女が壁にもたれかかって待っていた。
いつまで付いて来る気かは知らないが、できれば、うっとうしくなる前に消えてもらいたい。
「何をお探し?」
「…………」
「それとも、“誰”かを探してるのかな?」
「…………」
「情報、安くしとけれど」
「……そろそろ黙れ。うせろ」
「おお、こわいこわい。そんなにすごんでちゃ女の子も近寄らないよ? お兄さん、黙ってたら結構カッコイイと思うのにな」
「黙れと言った。うせろ、ガキ」
「つれないねー」
いつまでも女はついて来る。
うせろと言ってもついて来る。消えろと言えば笑いながらついて来る。
暴力をチラつかせても、構わずに追ってくる。
「誰だ、お前は」
「お。やっと私に気を向けてくれた」
「誰だ、と訊いている。答えろ。余計なことは口にするな」
「怖いからそうする。私の名前は超鈴音。超包子っていうお店のオーナーしてる」
「そのオーナー様が俺に何の用だ」
「だから、働かないって訊いてるんだけれども」
「情報がどうとか、言ってなかったか」
「うーっぷす。覚えてた?」
「あれだけ突っ込んだ訊き方をすれば、覚えているに決まっている」
女――超鈴音は頭を乱暴に掻くと、今までのニヤついた笑顔ではなく、ニヒルな笑いをもらした。
なまじ、普通の中学程度の女がするような笑顔ではない。
――――直感。
こいつが、犯人だ。
「学園長のお抱え仕事人。学園内であれだけ動けば、イヤでも情報は入ってくるよ。あなたのことは知っている。ソル=バッドガイ。現麻帆良の最高戦力」
向こうも俺の目付きが変わったことを目敏く読みとったのか、情報をもらし始めた。
自分は敵ではない。そういう主張が聞こえてきそうな内容だった。
「それで、なんの用だ?」
「あなたが味方になればこちらとしても動きやすいんだよ。どうかな、協力してもらえない?」
「――――」
どうやら、こちらがどういう目的で誰を探してるのかまでは掴んでいないらしい。
もし、俺のことをそこまで解っていて“超鈴音”を探していると解っていれば、近づいてなど来ないだろう。
絶好のチャンス。
「教えてやろう」
「何を?」
「俺が誰を探し、なんのために動いていたか」
「それは興味があるね。協力してくれるなら、私もその人を探すのに協力させてもらうよ。ギブ&テイクよ」
「殺すためだ。ヤツを殺し、世界に凄惨な二の舞を踏ませないためだ」
「それは物騒な話しだね。それで、それは誰のことなのかな?」
油断しきっている超鈴音の胸ぐらを引っ張り、自分の方に寄せた。
同時に、封炎剣を解放。心臓を貫くように、胸に突き刺した。封炎剣にありったけの法力をつぎ込み、逃げる間もなく焼き尽くす。
声を上げる間もなく、どろどろに溶けた超鈴音だったものが地面に垂れ落ちた。
熱せられ、真っ赤になった溶解物が広がっていく。
「てめえだ」
人間が溶ければ、こうはならない。
奴の胸ぐらを引っ張った瞬間にわかった。今目の前にいたのは超鈴音じゃない。
まさか、過去の科学技術がここまで高度に発展しているとは思っていなかった。
――俺が殺ったのは、ただの木偶人形、ロボットだ。
「気に入らねえ」
急き過ぎた。
これは俺の失態だ。これで超鈴音は絶対に俺の目の前には現れなくなった。
魔法をバラす、その瞬間まで。
* ~ * ~ *
「回避する方法は一つ。ふたつの可能性を同時に提示すること」
作業に没頭しながら、口で違うことをまとめていく。
手元で座標操作、口で回避方法。しかし、そのどちらの方法もが難しい。
しかし、時が経つにつれ変動する確率。それも、大きく大きく。やりやすい方向に移ろうのはいいのだが、そうなると回避の方がより難しくなっていく。
座標操作が簡単になればなるほど、それは二つの世界の接点が大きくなっているということ。
元々あり得ない座標を捜索し、入力し、一時的に同調させる。そして、ゲートを開き、世界を跳躍する。
そこから両方を渡り歩き、徐々にイレギュラーを取り除いていく。
幸い、どちらの世界も『バックヤード』の影響下だ。一定数以上の座標を探り当てれば、それを元にゲートを開くことは容易い。
しかし、そのあとが問題だ。
「ふたつの可能性。つまり、魔法が知れた世界と魔法が知られない世界」
どちらかを犠牲にしてはいけない。
どちらも存在していなければならない。
完成した歴史の上に建つ現代と、未来を知らない過去の可能性を同時に提示すること。
それが、世界消滅を回避する今思いつく限りの最善の方法。
そのためには、強烈な不確定要素の存在が必要になってくる。
つまり、強大な力を持つ存在がどうしても必要なのだ。
シュレディンガーの猫を閉じ込めるための、強力な箱が必要だ。
ならばその箱とは何か。
フレデリックや、例の騎士団長とすら拮抗できる存在。
それすなわち、『神器』と対等に渡り合う存在だ。
「今のフレデリックなら、あるいは」
賭けるしかない。
例え僕がどうなろうとも、世界を滅ぼさせはしない。
すべては世界のために。
「レイヴン。いるかい」
「は。ここに」
「君に頼みたいことがあるんだ」
「なんなりとお申し付けください。微力ながら、全力を尽くす所存」
「ありがとう。では、内容を伝えよう」
レイヴンに伝えた内容は至極簡単なものだ。
しかし、それを実行するとなると話は別。彼を見込んでの頼みだ。
僕が話している最中は決して質問を入れてこようとはしなかったが、話が終わると、むぅ、と唸った。
それでも、彼は頷いてくれた。「御意」の一言と同時に、彼の姿が闇に消えていく。
「頼んだよ、フレデリック。ここからは、君にしかできないことだ」
僕たちの世界を肯定する存在と、そして、否定する存在。
この世界に生きていながら、フレデリックはこの世界を否定する存在。否定するだけの力を持った存在。
名を『背徳の炎』。
世界を憎悪で焼き尽くす者。
track:36 end
テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学
その優しい星で… Navi:41
前略――。
お元気ですか? こちらはすっかり肌寒くなってきました。
ネオ・ヴェネツィアに冬到来です。
日課の早朝練習、士郎さんの朝ごはんを食べ終わると、アリシアさんはお客様を迎えに待ち合わせの停船場へ。そして、半人前の私は私でお仕事が始まります。
まずは、お店の受付、シャッターを開けるところから。夜を越えて朝日を迎えたシャッターはまだ冷たくて、開こうと触った瞬間に指先から全身に冬の気配が駆け巡ります。ガラガラっと勢いよくシャッター開けると、潮風と一緒に、ひんやりとした冬の空気が受付を吹き抜けて、ARIAカンパニー全体の空気を入れ替え始めます。
新しい一日。新しい朝。
新しい季節の到来。
「今日も一日、がんばりますっ」
「にゅ!」
足元のアリア社長と一緒に気合を入れて、本格始動。
まずは開店前のお掃除。士郎さんと協力して、パパッと片づけちゃいます。掃除はこの時だけ、とは決めずに、掃除がしたいと思ったときにすることにしているんです。これは士郎さんが言っていたことなんですけど、「掃除がしたい」と思ったときには、部屋が少しでも汚れてる証拠だ、とのことです。やはり接客業ということもありますし、社内の雰囲気は常にふんわり、ほわほわーっと、和むことのできる空間にしておきたいものですからね。
掃除の途中ももちろん営業時間内なので、ご予約の電話は鳴ります。ひっきりなし、というわけではありませんが、それでも一時間に数本、少なくても2時間に一本はかかってきます。アクアへの旅行予定のある人、地元のリピーターさんなどなど……。みなさん、とても楽しそうに電話をかけてきてくれるんですよ。
それから、士郎さんからも任せられている私だけのお仕事。パソコンでのお申込みデータの確認処理。
士郎さん曰く、「昔と使い勝手が違いすぎて大事な作業はやれない」だそうです。インターネットでの情報収集くらいなら士郎さんもやれるらしいのですが、こういう会社の経営に関わることとなると、「危なくて触れない」と敬遠してます。
それにしても士郎さん、どれくらい昔の端末使ってたんだろう……。この型になったのって結構前だと思ってたけど。
あとは、士郎さんと協力確認し合いながら次々と埋まっていく、アリシアさんのスケジュール管理。
それと、ご来店いただいたお客様への応接も重要なお仕事です。私が練習に出ている間は基本的に士郎さんがしてくれるんですが、私がいる間は士郎さんは二階に上がって書類仕事をされています。どうも、士郎さんはウンディーネの仕事関連では自分は表舞台に立つべきではない、という考えを持っているらしく、出来るだけお客様の目につかないように気配りをしているみたいです。全然そんなことないのに。
「にゅっ、にゅっ」
「あっ、はーい」
乗降時の付き添い補助はもちろん、お客様の人数が多い時は同乗してガイドもします。
「いってらっしゃいませー」
ガイドと言えば、私たちの間ではガイドの練習の付き添いは士郎さんにお願いしていたりします。
士郎さんって、何気に私たちよりも知識が広くて深くて、ガイド中、ガイドブックにも載っていないようなことも教えてくれたりするんですよ。特に、マンホーム時代のヴェネツィアのことに関しては、士郎さんの右に出る人がいないほどなんです。
ただ、道に関しては私たちの方が知っているみたいですが。士郎さんは「迷ったら高い所に行けばたいていなんとかなる」と言って、道を覚える気がないようです。
――それにしても、この予約表。
「…………」
アリシアさんは、本当に大忙しです。
丸一日お休みの日は、士郎さんと事前に決めて月に2、3回入れるようにしているのですが、それ以外ではびっしりと予約で埋まっています。いつみても圧巻。こんなに文字だらの予定表、そうそうお目にかかれるものではないと思ってます。
で、いつも思うんです。
この予約表を見て、いつも。
私も早くプリマになって、お役に立てるようにって。
そのために、今は日々精進でありますっ。
「?」
窓の拭き掃除をしていると、ふと視界に綺麗な黒髪が入って来た。
寒空の下、ARIAカンパニーの壁にもたれかかりながら、腕を組んでいる女性。
晃さんだった。
「こんにちは、晃さん」
窓越しに声をかけるとむこうも気付いてくれたようで、こちらを向いてくれた。
しばらく見つめ合っていると、晃さんは急に踵を返してスタスタと去っていってしまった。
「ええ――――っ」
慌てて外にでると、まだ会社の外付けの廊下の上にいた。
「うちに何か用があったんじゃないんですか?」
「いやっ、たまたま通りかかっただけだから」
つっけんどんな態度はいつものことだけど、今日はどこか照れが入っているように感じる。
……それっていつものことってことか。
と。
「うそうそ。アリシアちゃんがいなくてガッカリしているのよね」
晃さんの陰から、アテナさんまでが顔を出した。
私が呆気に取られている間にも、晃さんとアテナさんは話を進めていく。
「だから事前に今日の仕事の予定を確認しようって言ったのに」
「んーっ、めんどい!」
私がポカン、としているのに気がついたのか、アテナさんが苦笑いしながら説明を始めてくれた。
「実はね、灯里ちゃん。今日は私達、アリシアちゃんにお誕生日プレゼントを渡しに来たの」
アテナさんの説明に、ふと疑問が浮かぶ。
確か、と思い返しながら口に出していく。
「でもアリシアさんの誕生日は10月で、今日は22月30日ですよ?」
と、そこまで言ってから、今日がなんの日なのかを思い出すことができた。
「今日は裏誕生日ですね」
そう、今日はアリシアさんの裏誕生日。
アクアだけにある特別な誕生日のことで、文字通り、裏の誕生日なのだ。
裏、と聞いてもピンとくる人は多くはない。特にマンホームからのお客様はこんがらがることが多い。
一年が24ヶ月あるアクアの暦では、マンホームの2年に一度しか誕生日を祝えません。
それじゃ、もったいないということで考案された風習が、12ヶ月後の同じ日に祝うという裏誕生日です。
私もマンホーム生まれで、最初はよく判らなかったものです。特にアクアに来て最初の裏誕生日。アリシアさんがいきなりプレゼントをくれたものですから、混乱してそのまま「受け取れませんっ」とか言って返してしまった覚えが……。
「私たちウンディーネのプロフィールはマンホームから来るお客様が混乱しないように、誕生日も地球歴のみの表示になっているから、仕事で忙しいと誕生日はともかく、裏誕生日はつい忘れがちになっちゃうのよね」
「わかりますー。同じ理由で、カレンダーもマンホームの西暦表示になっているから、つい火星歴で今が何年なのか忘れちゃうんですよね」
マンホームからの移住者はこの風習に慣れるのに一番苦労するとかなんとか。
まあ、私は2倍ある季節の長さの方が難敵でしたが。
「うん。自分が今何歳なのかも時々忘れちゃうし……」
「いや、それはおまえだけだ」
アテナさんに突っ込む晃さんだが、実を言うと私も時々忘れちゃうんだよね……。
口に出しては言えないけれど。
アクアに来てもう3年半だから、えーっと……。
これ以上は考えちゃいけない気がする。うん、考えずにおこう。
「まあ、アクアの数え年だと年齢が半分になっちまうからな。私20歳だけど本当は10さーいってか……ん」
笑い話のように話していた晃さんが、急に黙り込んだ。
なんだろう、と様子を見ていると、急に大笑いし始めた。お腹を抱えて、机をバシバシと叩いてもまだ収まらないと涙を浮かべながら笑いを噛み殺そうとして、やっぱり出来ずにまた笑っている。
アテナさんと顔を見合わせ、晃さんが笑い終わるのを待った。たっぷり数分ほど笑うと、ひーひー言いながら晃さんが顔を上げた。笑いすぎで顔が真っ赤になっている。
「いや、なんつーか……ぶはっ、ダメだ。口に出したらまた、笑う……っ」
「?」
「いやー、あはは。笑った笑った。そういや、今衛宮はどこにいるんだ?」
「士郎さんですか? 今は書類を片付けてるので2階にいますけど」
なんでそんなことを聞くんだろう、と思うと、晃さんはにんまりといたずらな笑顔を浮かべた。
すぅーっと大きく息を吸い込むと、晃さんは続けて大声でとんでもないことを叫んだ。
「やーいっ、衛宮のロリコーン!」
空気が一瞬固まった。2階から怒りとも恥ずかしさとも取れるような気配が漂ってくる。
どうやら、晃さんのいつもの士郎さんいじりが始まったらしい。
「おいおいマジかよ、衛宮ってば三十路のくせして10歳のかよわい女の子に~」
「晃ぁっ!!」
やばい衛宮が来た! そう楽しそうに声を張り上げ、晃さんは全力で逃げ始めた。
2階から真っ赤な顔をした士郎さんが降りてくる頃には、晃さんはとっくに会社の外へ逃げていっていた。
すぐ外から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。受け付けの前を一回、二回、三回と二人が通り過ぎ、四回目に晃さんは士郎さんに捕まった。肩に担がれながら、晃さんはそれでも笑いを止めようとはせずにまだ言っている。やーい、ロリコーン。
「うるさいっ、それなら俺だって15歳だろうが!」
「それ言ってて恥ずかしくないか、お前?」
「その歳して『私10さーい』ってほざいてた方が恥ずかしいだろ」
「べっつにー? だって事実だしぃ?」
「くっ」
そうなのだ。地球歴表記では20歳ということになっている晃さんだけど、彼女は間違いなくアクアジェンヌなのだ。
つまり、地球歴表記は仕事の都合上仕方なく名乗っていることなのであって、晃さんは火星歴上、つまり事実10歳なのだ。恥ずかしい恥ずかしくない以前に、それは残酷な(士郎さんにとって)現実なのです。
「ま、まあ、あれだよね。久々に取れた半休をアリシアちゃんのために使うなんて、晃ちゃんは本当に優しいわよね」
フォローのつもりなのかその場を引っかき回したいのか、はたまたいつもの天然なのか。アテナさんがそう言う。
「私はただシケた顔して働いてるあいつを冷やかしついでに久々に取れた休みを自慢しに来ただけだっ」
晃さんは士郎さんの肩の上にだらりとぶら下がりつつ、なんとも言えない態勢から素早い返事を返した。
「今日の営業は今のお客様が最後ですから、18時からのゴンドラ協会の会合までフリーですよ」
聞いているのかいないのか。
士郎さんは相変わらず言葉の小突き合いを晃さんとしているし、なんだか、戻って来たなあ、と思わず考えてしまう。
――――何が戻って来たのだろう?
「ああ言ってるけど、朝一番に電話してきて私の仕事が一時間だけ空くこの時間帯をわざわざ選んだのよ」
その思考を遮るように、アテナさんが私に耳打ちした。
耳打ちだったはずだけど、晃さんと士郎さんにも聞こえていたらしく、晃さんはじとりと、士郎さんはにやりとした。
「ふぅん。なんだ友達想いじゃないか」
「すわっ、恥ずかしいセリフ禁止!」
と。
電話が鳴る。
士郎さんが取りに行こうとするのを行動で制した。私が取ります。
ていうか、晃さんを担いだままで電話に出ようとしないでくださいよ……。
「はいっ、ARIAカン……」
『もしもし、灯里ちゃん?』
「アリシアさん」
『今、リアルト橋で飛び込みのお客様が入ったの。ゴンドラ協会の会合まで時間ギリギリになるから――』
「え?」
『営業が終わったら、今日の会場まで送り迎えする役員の方との待ち合わせ場所に直接向かうわね』
え?
いや、だって晃さんとアテナさんが――。
そんなことを言える暇もなく、アリシアさんは用件だけを告げていく。
『会合は深夜終わりだから、このまま直帰になります』
「あっ」
『それじゃ、お客様を待たせてるから……』
「はひっ」
ガチャ、と向こうの受話器を置く音が耳に届いた。
虚しさに拍車をかけるように、ツーツー、という音が鳴り続ける。
それらの音とは正反対に、ARIAカンパニーの受け付け奥は音一つなく、しんと静まり返ってしまっていた。
言葉が、出ない。
「晃ちゃん……」
「アテナ、そろそろ仕事に戻る時間じゃないのか?」
「あっ、うん……じゃあ」
「おうっ、おつかれー」
アテナさんは何を言うでもなく、会社から去っていった。
……仕方、ないのかな。
わからないよ、こんなの……。
でも、急に入ったお客様が悪いわけじゃ、決してない。
そこは間違っちゃいけないんだと思う。それは、晃さんもアテナさんも、士郎さんだって判ってるはず。
でも、でもだからって……。
「さてと。私も夜から社内の研修会が入ってるし、ぼちぼち帰るとするか」
とん、と床が寂しげな音を立てた。士郎さんが晃さんを肩から降ろした音だった。
「プレゼント、置いておくから明日にでも渡してやってくれ」
晃さんが立ち上がる。ドアへ足を向けて歩き始める。止めなきゃ、そう思って呼び止めようとして――
「晃」
「……なんだ、衛宮」
士郎さんが、晃さんを呼び止めた。
私も喉元まで言葉が出ていたから、思わず言葉ごとごくりと唾を飲み込んでしまった。
「悪いな。知ってたのに」
「なぁに謝ってんだ、ホントは悪いとも思ってないクセに」
「かもな。まあ、俺からよろしく言っとく――――」
「晃さん!」
「……お、おお。なに、灯里ちゃん?」
士郎さんの話を遮るように、会話に割り込む。
驚いた顔をしているのは晃さんだけでなく、士郎さんも同じ。
手に持っている書類等々をまとめ、晃さんに向きなおした。
「えっと、私、この後自主トレしたいんですけど、付き合っていただけませんか? 街中の水路を回って、何とかアリシアさんを見つけだして、今日中にプレゼントを渡しましょう!」
それを聞いた晃さんは、ほんの少し救われたような笑顔をくれた。
ふわりと笑うそれは、いつもの厳しさとはまるで正反対で、それは本当に素敵な笑顔で。
「言っとくが、私の指導は厳しいぞ?」
だのに、言ってることは本当にいつも通りで。
嬉しくて。また戻って来たと―― 一体何か? ――思えて。
「じゃあ、士郎さん、行ってきます!」
「ああ、行って来い」
「……そう言えば衛宮。お前は買ってるのか? アリシアのプレゼント」
「まあ、そりゃあ、一応」
「歯切れ悪いな。やらしいヤツじゃないだろうな」
「ばっ、ばかいうな! ほら、これだ、コレっ」
と、言って士郎さんが取り出したのは白い封筒。
外には何も書かれていないけれど、中身が透けて見える。文字が書いてある、紙?
「なんだ、誕生日プレゼントに今頃ラヴレター?」
「違う。もういいだろ」
士郎さんはそう言って、それが何なのかも教えることなく、懐にしまい直した。
顔がちょっぴり火照ってるような気がする。
「ちょっとは気がきくようになったか?」
「まあ、わざわざお前に言われなくなるくらいにはな」
それはそれで寂しいものがあるな、と苦笑いで答える晃さん。
晃さんはそれから私に振り向いて、じゃあ行くか、と笑ってくれた。
ゴンドラに先に乗り込んで、晃さんが乗るのをエスコートする。
士郎さんに見送られながら、アリシアさんを探すため兼私の自主トレに出発する。
まだお客様の相手をしているはずだから、有名な観光地から回っていきます、と晃さんに言うと、数秒もしないうちに「ここからここを回っていこう」とすぐにルートを指示してくれた。
こういうのを見てると、やっぱりプリマはすごいなあ、と思う。
私たちシングルや、ペアは自主トレと言ってガイドの練習もするけれど、どういうルートを通ったら一番いいのかなんてのは二の次で、その場所をガイドすることを第一に考える。
うぅん……。プリマになると、やっぱりこういうことも考えなくちゃいけないんだろうなあ。
予約があるわけだから、時間以内にお客様に満足いくガイドをしなくちゃいけない。ということは、つまり観光ガイドをするルートを熟考しないといけない。
まだまだプリマには遠いなあ。今度から藍華ちゃんアリスちゃんともこういうことを勉強会で話し合ってみることにしよう。
ため息橋からサン・マルコ広場を通って、ネオ・アドリア海に抜けていく。
晃さんは私にも気を向けながら、周囲にアリシアさんがいないかを探している。
だけど――――。
ザザ―ン、という波打ちの音。
街灯もひとつまたひとつと灯り始め、空も燃える茜色から落ち着いた藍色に染まっていく。
ゴンドラを漕ぐオールの音が静かに響いている。
ぎぃこ、ぎぃこという音が心の軋みに聞こえてきてしまう。
「ありがとう、灯里ちゃん」
晃さんの声にハッとして振り向く。
「ぼちぼち戻ろう」
その言葉に逆らえるはずもなく、でも、逆らいたい心だってしっかりあって。
ただゴンドラを漕ぐオールだけが、重く、軋む。
「本当はさ、今日はプレゼントを渡すのが目的じゃなかったんだ」
晃さんの独白。
それは寂しさをまぎらわせるために口にしたのだろうか。そう考えてしまうと、やりきれない想いが募る。
「プリマに昇格してから無我夢中でがんばって、気がつくと水の3大妖精なんて呼ばれてて。……3人とも、仕事で大忙しになってた」
振り向くことなく、目を合わせることなく話す晃さんの背中は、いつもよりも一回り小さく見えてしまう。
さらさらと流れる長い黒髪も、今だけは寂しさに凪いでいるように見える。鳥の翼のように広がる元気いっぱいな晃さんの髪が、重いなまりをつるされてしまった鳥のように見えてしまって。
「それからは、仕事の合間に何とかふたりで会うことはできても、3人で会える時間はめったにできなくなっちまった。だからさ、すごく思うんだ」
首だけで藍色に染まっていく空を見上げて、吐き捨てるように晃さんは言う。
「3人で逢える時間は、とても大切なものなんだって」
くすり、という笑い声。
それはどうしても、自嘲の笑みにしか聞こえなくて。
「何でかな? どうしても今日は、久々に3人で逢いたい気分だったんだ」
やっぱりそれは、自嘲でしかなくて。
「……ったく、情けない。小さな女の子じゃあるまいしな」
そこで初めて、晃さんは私の方を向いた。
ちょっとぎこちないけど、ぐっと力強い笑みを私にくれた。
「あーあ。ったく、らしくないよな。……灯里ちゃん、こういうの聞くの、あんまり好きじゃないかもだけど、聞いてくれるかな? まあ、愚痴だよ、愚痴」
「私は、別に、そんな。構いませんよ。練習だって見てもらいましたし」
「よぉし。そんじゃ、これはアリシアと衛宮には絶対に言うなよ。約束な」
「あ、はい」
そう言うと、晃さんはまた前を向いて、落ちていく夕日を眺め始めた。
「私、さ。アリシアみたいにウンディーネの才能があるわけじゃないし、あいつみたいに女の子っぽくないから男受けがあんまり良くないんだよ。特に恋愛とかそういうのになるとさ」
「…………」
「ありがと。でな、だからっていうかさ。アリシアとアテナは本当に大事な友達なんだよ。親友なんてもんじゃないさ。ライバル、うーん、これとも違うよな。なんてつーか、こう、『敵』と書いて『とも』と読む的な? まあ、そんな感じ。結局ライバルじゃん、ってね。そんなことはまあ、どうでもよくて。何が言いたいかってーと、恥ずかしい話さ、プリマになるのも、彼氏作るのも、たぶん、結婚して子供とか産んじゃうのも、きっとあいつが先になるんだよ。それが悔しくて悔しくてたまらない。あいつはいっつも私の前を行きやがる。私だってさ、衛宮のこと好きだよ。ああ、誤解すんなよ、別にそういう意味の好きじゃないぞ。でも、なんつーか、やっぱ悔しいんだよ」
「晃さん……」
「こういうの藍華には話せないからな。別にあいつを信用してないとかじゃなくて、ま、先輩のメンツってやつだ。さて、で、私が何を言いたいかってーと、アリシアうらやましいぞ、このやろー! ってこと。これ以上言ったら言いたくないことまで言いそうだし、今日のところはこれでやめとくわ。ありがとな、こんなことまで聞かせちゃってさ」
「いえ。なんだか、わかる気がします。だって、私はマンホームから来たから」
「ああ。うん、ゴンドラとは縁のない生活してたんだもんな、灯里ちゃんは。ちょっぴり劣等感?」
「ときどき、ですけど。ちょっとしたことで藍華ちゃんとアリスちゃんが私よりもうまくできちゃうと、こなくそーってなります。でも私、こういう性格だから、練習しててもぽやぽやしてて、藍華ちゃんに怒られっぱなし。あはは」
「……でも例えばだぞ?」
「はい?」
「灯里ちゃんはマンホームから来た。本物のゴンドラとも縁のない生活圏から、ゴンドラが生活の要みたいなネオ・ヴェネツィアにやってきた。で、その灯里ちゃんはウンディーネを目指してる。んで、藍華とアリスちゃんと、肩を並べて練習してる。それもあいつらと変わらんくらい上手い。どうだ?」
「……?」
「わかんないか。ま、頭の片隅にでも置いててくれたら嬉しいかな。先駆けてる同じような悩み持つ先輩ウンディーネからのアドバイス。劣等感っつーか、まあ、こなくそーって思ってるのはさ、灯里ちゃんだけじゃないんだぞ?」
「あ」
「そゆこと。がんがんプレッシャーかけてやってくれな。っと、おおっ、アテナじゃん」
晃さんの視線を追うと、一人飲み物片手に休憩中のアテナさんがいた。
こちらに気づくと、声をかけた晃さんに挨拶を返した。私の方には軽く手を振って、お疲れ様、と一言。
「今日の営業は終わったのか?」
「うん。今から帰るとこ。…………、今日は残念だったわね」
「まっ、仕方ないだろ」
本当に仕方なかったんだろうか。私がもし、無理を言っていれば、ダメなことはわかってるけれど、電話の向こうのアリシアさんに晃さんとアテナさんのことを、少しでも伝えられていれば、こんなことにはならなかったのかもしれないのに。
少しだけ、涙がこぼれそうになって上を向こうとした瞬間。
それは、奇跡が目に飛び込んできた瞬間だった。
「ああ――――!!」
「なっ? 何だ何だ」
口がうまく利けずに、その奇跡を指差す。
水路を進んでくる一隻のゴンドラ。その上には――――
「あら?」
「アリ……シア?」
お客様ではなく、電話で話していた通り、役員さんたちを乗せてちょうどゴンドラ協会の会合に向かう途中だったようだ。ぽかんとして固まっていた私たちを不思議がることもなく、アリシアさんはこちらに向かって笑顔を向けてくれている。
その中で、晃さんが真っ先に動いた。
「よっしゃあ! 協会員のみなさまっ、姫屋所属の晃・E・フェラーリです。一瞬のご無礼をお許しくださいっ」
ゴンドラの上で、晃さんは思い切り腕を振りかぶる。
揺れるゴンドラの上で、晃さんは揺れない気持ちで、アリシアさんへプレゼントを投げた。
「受け取れ、アリシアっ!」
私のゴンドラの上の晃さんから、白いゴンドラを操るアリシアさんの元へ、ポーンと綺麗な弧を描いて飛んでいく。
驚いた顔をしたままのアリシアさんの手にプレゼントが渡り、晃さんは勢い余ってゴンドラの上にこけてしまった。
「アリシアちゃんっ、お誕生日おめでとう!」
アテナさんが叫ぶ。それに応えるように振り返ったアリシアさんの笑顔は、惚れ惚れするくらいに素敵で無敵な、笑顔でした。
手を振って去っていくアリシアさんをポケーっとした感覚で見送りつつ、どこか信じられないという想いがよぎる。
ふわふわと浮いているような、これはまさに奇跡。
「……すごい」
思わずこぼれていた言葉に、晃さんとアテナさんが振り向く。
「すごいです」
私の感情が、止まらない。
こんなにすごいことってない。こんなに素敵なことってない。
まさかという現実に、現実味を感じられない。それもある。けれど、それよりももっと、すごい。
この一言。すごい。すごい!
「晃さん、アテナさん。これぞまさに、みらくるですっ」
「――――」
ぷ、という吹き出す音。
さっきまで固まっていたみんなが、大声を出して笑い始める。
「あはははははっ、大げさだな、灯里ちゃんは」
目じりに溜まった涙をぬぐいながら、晃さんは――
肩を震わせて、声を殺すように、アテナさんは――
「でも、本当に奇跡だよな」
――そう言って。
水の3大妖精のお二人は、まるで小さな女の子のような、無邪気な笑顔を見せたのでした。
その笑顔はやむことなく、日が落ちるまで周りに響いていました。
そう。戻って来たんだ。
みんなの、笑顔が……――――!
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ゴッドイーター 【神偽の剣】 第一話
※ゴッドイーター本編ストーリークリア(難易度6)までのネタばれが含まれます。
それらが苦手な方は回れ右、もしくはブラウザバックを推奨します。
また、独自解釈などによりアイテムの効果が違うものがあります。
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それでもおkって方は、『全文を表示』から本編を読み進めてください。
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