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2010-09

なんか、いいことあったら良いね。

8月、一切SSを更新できなかったヘタレ草之です。
夏の暑さはいまだに続き、大好きな冬はまだまだ遠く。
 
ポケモンも新シリーズが始まっちゃったりしてるし。見てないけど。
仮面ライダーも始まっちゃったりしたし。見てないけど。
まほよは発売延期だし。これはある意味よかったけどさ。
 
 
それはそれとして、前回の日記の内容に思った以上の反応があったことに驚きと一緒に感謝を。
もう一度、念のため言っておくと、同人誌化は確定事項じゃないんです。
もし、余裕があればということで。それに、出るとしたらなんのイベントで、とかも考えなきゃいけないし。
金銭的には関西のイベントになるだろうな、とは思いますけれども。
 
だいたい、その『優星』を全然更新してないくせに言えることじゃないってことくらい、理解してますけどね。
ものはためしと訊いてみたかったんです。
 
 
そして、『優星』ですが、今週中には更新出来そうですよ!
火曜日を目標に書きあげます。
 
では、以下拍手レスです。
 
草之でした。
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:42

 
 「本当は二泊くらい取れたらよかったんだけどな」
 
 「いえ、全然そんなことないです」
 
 改めて考えてみると、人にゴンドラを漕いでもらってそれに乗るっていうのは、灯里ちゃんの練習を見る以外かなり久し振りかもしれない。
 
 座って揺られるこの感覚、なんだか心地いいなあ。
 私のお客様も、こんな気持ちになってくれてるのだろうか。
 それとも、私がこんな気持ちになるのは、士郎さんが漕いでくれてるからなのかしら。
 
 「一泊でも全然気にしませんよ」
 
 「スケジュールがなあ。結局二週間も遅れて……」
 
 朝から、というよりも士郎さんからこの話をいただいたときから彼はずっとああだ。
 別に構いません、と言っても、やっぱりこういうのは日時が大事だからとずっと気にしっぱなし。
 まあ、そういうところも士郎さんのいいところだとは思うけれど、今はやっぱりそんなことよりも私を気にしてほしいなんてワガママが心の中に生まれてくるわけで。
 ちょっとしたいたずらなんかも思いついちゃうわけで。
 
 「士郎さん」
 
 「ん、なんだ」
 
 「士郎さんは、私よりも私の誕生日っていうものを大切にしたいんですか?」
 
 「え? いや、アリシアが大切だからアリシアの誕生日が大切なのであって、別にアリシア以上にアリシアの誕生日が大切ってわけじゃないんだけど、いや、だからってアリシアの誕生日がどうでもいいってわけじゃなくて、えっと、ああもう、意地の悪いことは言わないでくれ」
 
 「あらあら」
 
 士郎さんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
 それでも、まあ、成功かな。
 とにかく、私はこうやって士郎さんが誘ってくれたことだけでも嬉しい。
 
 私の誕生日プレゼント。
 温泉に二人で一泊の小旅行。
 
 もしかしたらもしかして、なんて期待するのは気にしすぎなのかしら。
 それとも、はしたないのかしら。
 
 士郎さんがどういう考えで私に一泊の旅行をプレゼントしてくれたのか。
 一泊の旅行はただの建前で、プレゼントはもっと違うモノだったりしたりして……。
 
 「アリシア? 顔が赤いぞ、大丈夫なのか? もしかして俺の漕ぎ方が下手で酔ったとか……」
 
 「へっ、あっ、いえ、そんなんじゃないんです。あ、あらあら、そんなに顔真っ赤ですか?」
 
 「ああ、いや、別に、その……、俺が気にするくらいには」
 
 そのさりげない言葉が、いつも嬉しい。
 自分の考えていたことが情けなくて仕方がなくなるくらいに、嬉しい。
 私は何を考えているんだろう。そんな、わくわくしなくてもきっと、士郎さんは私の期待以上のプレゼントをくれるだろうから。
 でも私の期待って……。
 深く考えるのはやめておいた。私がおかしくなりそう。
 
 士郎さんのオールを漕ぐ音を背に、空を見上げた。
 ちょっと落ち着こう。
 うみねこが鳴いている。うすい雲が空にかかっている。青空、太陽。
 マンホームから見た太陽とアクアから見た太陽は、やっぱり大きさが違って見えるのだろうか。光が強すぎてよくわからないかもしれないし、ちゃんとわかるかもしれない。
 士郎さんに頼んだら、私もマンホームにつれて行ってくれるかしら。
 きっと、つれて行ってくれるんだろうなあ。
 
 ほんのりとそんなことを考えていると、潮のにおいとはまた違った、温泉独特の香りが漂ってきた。
 振り返って士郎さんに笑いかけると、彼も同様に微笑み返してくれた。ゴンドラの揺れと、海風にのる温泉の香り。それがどうにも、不思議な感覚を引き起こしてやまない。
 まるでここが現実ではないような、そんな感覚だ。
 
 「ん……」
 
 そんな考えを浮かべてしまったからだろうか。
 不安が頭を出したので、試しに頬をつねってみた。しっかり痛い。
 そこでまた考えてしまった。『夢なら痛くない』というのは本当なのだろうか。痛かったら起きてしまうだろう、という感じの理由でそう片付けられているのかもしれないけれど、起きてしまうのなら、痛かったとしてもそれは夢なのではなかろうか? でも、起きていれば痛いと感じるわけで、でも、人間の思い込みはスゴイものがある。夢の中でも痛みくらい感じられるのではないだろうか?
 思考の迷路。
 ぶっつりと思考を切る。今はただ、夢であろうとなんであろうと、この幸せな時間を大切にしたいと思う。
 これが夢だっていうのなら、こんなに幸せな夢もないだろうし、現実なら、こんなに嬉しいこともそうそうない。
 楽しんだ者勝ちってことかしらね。
 
 
 士郎さんが予約を取った温泉は、アルトリアさん、灯里ちゃん、藍華ちゃん、アリア社長が一緒に行った、私もよく知っているあの温泉だった。
 のれんをくぐってすぐ、士郎さんはチェックインを済ませて部屋のキーをもらった。宿の地図を見ながら、自分たちが泊まる部屋に向かう。その間、会話らしい会話がなかったのは、きっと緊張していたから、だと思う。
 楽しもうと決めたばかりだというのに、どうしてこうなってしまうのだろう。
 
 「ここみたいだな」
 
 士郎さんが振り向く。にこりと笑う顔は歳を感じさせないほど無邪気だった。
 彼が戸をすっと開け、どうぞ、と手で入ることを促してくれた。なぜかそれに恐縮してしまって、ぺこりと頭をさげてしまう。士郎さんはまたそれにクス、と笑うと、私に続いて部屋の中に入って来た。
 結構広い。今回は二人だから、前に三人とアリア社長で来たときの部屋よりも小さな部屋を取ったと思っていたのだけど、あまり変わらない広さの部屋だった。
 二人にしては、ちょっと広すぎる気がしないでもない。
 
 「どうする? ちょっと休もうか」
 
 「え? あ、そうですね」
 
 「なんなら、先に温泉入りに行ってもいいぞ。俺はまあ、夜の人が少なくなってきたあたりにでも行くかな」
 
 前回、士郎さんは自分の身体にある傷を気にして、一緒に来てはくれなかったことを思い出す。
 士郎さんは会社のシャワーを使うときも灯里ちゃんが寝てから、という徹底ぶりなのだから、こういう公共浴場でそれが変わらないのは当り前だろうか。
 たしかに、彼の身体の傷は、初見で藍華ちゃんが戻してしまうほど苛烈なものだった。
 
 「なら、私もそうします」
 
 「いいんだぞ、別に。混浴があるわけでもないし、いや、別にそれに入りたいって話じゃなくてだな」
 
 「あらあら、うふふ」
 
 「そこで笑わないでくれ……」
 
 「とにかく、私も後で入りますよ。なんていうか、そうしたいんです」
 
 「それならいいけど」
 
 真っ赤にした顔をそむけながら、士郎さんは荷物を置いた。
 私のぶんまで持ってくれていたのだから、結構な重さだっただろうに。と、言っても一泊だけなのだからそれほど多くはないのだけれども。それを言うと士郎さんがまた気にしちゃうから口には出さないでおいているだけだ。
 士郎さんはそのまま窓を開け、部屋の中に風を通した。さわわ、とカーテンが揺れる。
 
 「トランプって歳でもないしな」
 
 はは、と苦笑いし、士郎さんは座布団を私のぶんまで用意しながら、とん、と座りこんだ。
 私はというと、やっぱりなぜか遠慮がちに座布団の上に腰を降ろした。
 潮の香りと温泉の香りが混ざり合った、なんともいえない心地のいい風が部屋の中を埋めていく。
 
 日はすでに傾き始めている。
 口を閉じるように、水平線に向かって茜色が吸いこまれていく。
 夜という生き物に、昼が食べられていくようで。そんな例えに、なんとも幻想的な想像力だ、そう思って思わず笑った。そんな私のもらした笑い声には反応せずに、士郎さんは潮風に前髪を揺らしている。
 寝ているのだろうか?
 そう思ってしまいたくなるほどに、彼は静かで。
 
 「なんだか、いいな。こういうの」
 
 だから、そんな静かな囁きにもびっくりしてしまって。
 
 「えっ、あ、はいっ、そうですねっ?」
 
 「な、なんでそんなに驚いてるんだよ。なんか今日、おかしいぞ」
 
 「いえ、あ、あの……」
 
 自分の身体が小さくなっていくようだ。
 穴があったら入りたい、というのはこういうことなのだろうか。
 とんでもなく恥ずかしい。士郎さんは私が挙動不審というか、どこか落ち着いていないことをちゃんと見抜いていた。
 あぁあっ、私のバカ。
 
 「緊張、しちゃって」
 
 苦し紛れに、ごまかそうと出した言葉は、なんと本音だった。
 私自身、それに驚いてしまって「そうじゃなくて」と否定の言葉も出せずにいた。
 わたわたと手を振るだけで、口から出るのは言葉にならない声だけだ。
 
 「なるほどね。たしかに、緊張してるな」
 
 そう言って、私の気も知ってか知らずか、士郎さんは無邪気に笑う。
 知って笑っていたのなら、なんて意地悪だ。知らないなら、不可抗力だけど……。
 私があからさまな拗ね顔でもしてしまっていたのか、士郎さんの表情が笑顔から苦笑いに変わってしまった。
 
 「なんていうか、まあ。こういう何でもない時間を幸せだって思えるのって、なんかいいなって」
 
 そんな時間、もうずっと忘れていた気がする。
 朝がきたらARIAカンパニーに行って、ご飯を食べたらすぐに仕事に出発。夕方、夜の一歩手前に会社に戻って夕飯。疲れを取ってから帰宅して、寝る。一日仕事がない日があっても、できるだけ灯里ちゃんに付き合ってあげたいし、士郎さんとも一緒にいたい。
 ワガママになってしまったと思う。我ながらおかしなものだ。
 仕事が楽しくて楽しくて仕方なかったのに、いつの間にかそれだけじゃ満足できなくなっている。
 
 うん。
 ワガママだ。
 
 「そうですね。なんだか、とっても久しぶり」
 
 だから、もうちょっと。
 もうちょっとだけ。
 
 ワガママでもいいですよね、私。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 温泉自体、遅く行けば自然と人は少ないだろう。
 ……なんて、思った俺がバカだった。
 
 「まだ結構いるじゃないか。まいったな」
 
 本当にまいった。汗も結構かいてしまったし、入らないなんてことは避けたい。
 それに、いつまでもボーっと突っ立ってでもしたら変な目で見られかねない。
 それも避けたい。
 
 「八方塞がりってやつか」
 
 仕方なく、どこの馬の骨とも知れない魔術師が使っていた結界剣を投影する。
 装備だけは立派だったので、どこかの金持ちの道楽者だったのかもしれないが。
 
 ともあれ、この剣は周囲の空間に干渉し、持ち主の姿を隠すという単純な魔術が込められている。
 魔力を込めれば即発動する仕様だ。ただ、ある程度の実力者ならあっという間に見破られてしまうほど脆い結界ではあるのだけれども。
 それ以上に、なんで俺はこんな物騒なものまで持ち出して温泉に入ろうとしているのか。
 それが問題だと思うわけで。
 
 これが見つかるくらいなら、身体を見られた方がマシなんじゃないのか。
 銭湯の『刺青お断り』よろしく断られたら意味はないのだろうが。
 
 「なんか、バカみたいだな」
 
 そうは思いながら、服を脱ぎ始める。
 剣を握りながらだったので、服を切ってしまわないように、身体を切ってしまわないように丁寧に脱いでいく。
 強化して傷がつかないようにするのは簡単だったが、そこまでするともはや「温泉に入る」という目的が潰れてしまうような気がしてならなかったので、やめておいた。
 
 やはり剣を握りながら温泉へ向かう。
 姿が見えないとは言え、客観的に自分のことを見てしまうと気が滅入る。
 温泉に入ると、すぐさま端の方へ移動した。照明も届かないような端の端だ。
 大きな扉がずらりと奥へ並んでいる。ここなら、と人目がなくなったのを確認して、剣を消した。
 
 ようやく、落ち着いて温泉を楽しむことができる。
 
 「っはぁ~……ぁあ」
 
 こうやって風呂に浸かるのは、いったいどれくらいぶりだったか。
 全身あちこちをまんべんなく伸ばし、温める。
 
 天井は抜けていて、綺麗な星空が見える。
 照明が届かないこの場所では、星明かりだけが唯一の光源になっている。角度的に月は見えないけども、きっと見えれば綺麗に見えることだろう。
 
 ほどよく吹いてくる潮風が、温泉で温まった身体に気持ち良い。
 リラックスし切って、背中にある扉に身を任せたのが始まりだった。
 
 「お……?」
 
 がこん、と音がして、扉が開いた。
 中には一応、『立ち入り禁止』のテープが張られているが、はたして。
 覗いてみると、作りからして廊下のようだ。ずっと続いている。
 夜ということもあってひどく暗いが、廊下の先は明るい。外と繋がっているのだろうか。
 なるほど、『立ち入り禁止』にするわけだ。
 
 「面白そうだな」
 
 いつもなら、こんなことするはずがない。
 そっと扉を閉めて、見なかったことにするはずだ。
 
 それでも俺は、扉の中へ進んだ。
 お手本にならなければならない相手もいないし、たまには俺だってハメを外したいのだ。
 ちょっとくらい、決まりを破っても構わないだろう。そういうことにしておく。
 
 水温も徐々に低くなっていく。温泉、というよりも少しぬるい海のような。
 どうやら、海とも繋がっているようだ。
 
 光に近づいていくにつれ、胸の高鳴りが大きくなっていく。
 最初はバレないかな、というちょっとした悪ガキの気分で。
 最後には、この先にはなにがあるのかという、大きな期待を抱いて。
 
 「…………」
 
 「…………し、士郎、さん?」
 
 数えるほどこういう場面に遭遇したわけではないが、一応言っておこう。
 わざとではない。ここにいるなんて知らなかった。
 知っていたら、来るなんて暴挙にでるはずがなかった。
 
 「アリシア……?」
 
 海と繋がった、星空をさまたげるものもない開放的な露天風呂。
 そこに、裸同士の男女一組の姿があった。
 
 つまり、俺と、アリシアがいた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「し、士郎さんっ、なっ、なんでここにっ? っていうか、ここ男湯とも繋がってたんですか!?」
 
 「俺が知るかっ!」
 
 なにが起こったのだろう。
 表面上の私の慌てっぷりからは想像もできないほどに、内面の私はひどく落ち着いていた。
 どうして、とか考える前に、恥ずかしさで行動が埋まっていく。だけどやっぱり思考だけは落ち着いている。
 
 「あらあら、ど、どうしましょう……?」
 
 「ど、どうしようって、そりゃ、か、帰る、けど」
 
 「帰るん、ですか?」
 
 「だって、いや、ああ……、いや、だってそうだろ、普通」
 
 「どういう普通なんですかっ」
 
 「なんで言いよってくる!? いや、そんな恥ずかしがってるのに混浴まがいなここにいるとか、そういうのはなんか」
 
 「違うって言うんですか? こ、ここ、こっこ」
 
 「にわとり?」
 
 「お約束はいいですからっ」
 
 「ご、ごめん」
 
 「こ、恋人、同士、なん、ですよ?」
 
 「そ、そりゃそう、なんだけど、さ」
 
 ああもう、士郎さんの意気地なし!
 そう叫びたいのを我慢して、深呼吸を挟んだ。
 どうして押し切ってくれないんだろう。
 
 息切れ目眩動悸、なんてどこかの薬品のコマーシャルでもありそうな症状を起こしている身体は、完全に落ち着くことなんてなかったけど、どうにか、普通にしゃべれるくらいには回復してくれたようだ。
 
 「えっと、風邪ひきますよ、士郎さん」
 
 隣に座ってくれるように、と願いを込めて、すぐ隣の水面をパシャパシャと叩く。
 当の士郎さんは一歩二歩と一旦は戻りながら、諦めたのか、それとも私の気持ちに気づいてくれたのか、深呼吸をしてから、ゆっくりと私の隣に腰をおろしてくれた。
 
 温泉で温まっていたからか、それとも恥ずかしさからか。
 士郎さんも顔が真っ赤だった。
 
 「お話、しませんか」
 
 「そうだな。じゃあ、えっと、仕事とかどう?」
 
 「結構前なんですけど、ちょっと困ったお客様がいたんですよ」
 
 「へえ、どんな?」
 
 思い出すのは、話そうとして話せなかったこと。
 夜空を見上げて照れ隠しをしているような彼には、できれば聞いてほしくなかったこと。
 このことを話すのに、今は抵抗がない。緊張もしない。
 士郎さんの答えがどんなものか、解っているから。
 
 「『ずっと好きでした。ファンで終わりたくない。僕と付き合って欲しい』って」
 
 「――――」
 
 この話をすること自体、私のワガママだってことはよく理解している。
 ワガママ、というよりも意地の悪い告白でしかない。私は、士郎さんを試してしまっている。
 
 「――それで?」
 
 「……そのときは、もちろん断りましたよ。でも、その人はまた予約してきて『気は変わりませんか?』ってしつこかったんです。もう一度、断りました」
 
 何回でも、断っていたと思う。
 もし、なんて考えると士郎さんに失礼かもしれないけど、もし士郎さんと出会ってなかったら。
 その士郎さんは、相変わらず空を見上げていた。
 私の話に怒ってしまったのだろうか。
 
 浅黒い彼の肌には、目に見えて痛々しい傷痕がある。
 それも、あるいは私の今の話と同じなのかもしれない。私は、この傷について士郎さんが話してくれない限り、触れるつもりは一切ない。きっと、士郎さんもそれは同じ。私のこういう話を、彼は一度も尋ねてきたことはない。
 今話した。
 それだけなのだろうけど、それが、なにになるのだろうか。
 
 「ごめんなさい」
 
 「……どうして?」
 
 「だって、なんだか……」
 
 「じゃあ、アリシアはなんで断ったんだ?」
 
 「え?」
 
 「ただ『断った』って言ってるだけだから、きっと俺が告白する前の話なんだろ? だったら、なんで?」
 
 それは、その質問は意地悪だ。
 士郎さんの意趣返しなのかもしれない。
 素直に答えても良かったが、ちょっとだけはぐらかすことにした。
 
 「……好きな人がいたんです」
 
 「そうか」
 
 「その人は、なんていうか、放っておけない人なんです。理由なんてきっとないんです。気がついたら目で追っていて、どこにいるのかな、なにしてるのかなって気になり始めて、最後には、彼のことを愛していました」
 
 「……そうか」
 
 「白馬は到底似合いそうにない人ですけど、それでも、助けてほしいときに助けてくれる人なんです」
 
 くくっ、と隣で士郎さんが笑う。
 顔を覗き見ると、苦笑いだった。
 
 ただそれが、士郎さんらしくて、愛しくて、恋しくて。
 
 「士郎さん。あなたのことが、大好きです」
 
 驚くほど淡い声でささやいていた。
 波の音に消されてしまいそうな、頼りのない声だった。
 だけど私は、それでも満足だ。
 
 声の大きさじゃない。
 想いを伝えるのに、声は大きくなくてもいい。
 言葉の多さじゃない。
 想いを伝えるのに、言葉は多くなくてもいい。
 
 「大好き、です」
 
 じん、と目頭が熱くなる。
 
 ――――ああ。
 この言葉を口にするだけで、私の心はどれほど満たされるのだろうか。
 心に沁み渡っていく。静かな声が、水滴が、心に、器に、沁み、響き渡っていく。
 
 もう一度士郎さんのことを覗き見てみた。
 笑顔だった。
 何かが嬉しくてそうなったわけじゃない。
 何かが幸せでそうなったわけじゃない。
 
 「あらあら、うふふ」
 
 何かを決めた顔だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:42   end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

太鼓が鳴る頃に。

ども、草之です。
明日からいよいよ地元のだんじり祭りが始まります。
今日は試験曳きってことで、太鼓がそこらじゅうで鳴っているのです。
 
それはそうと、19日はリリカルマジカル10ですよ。
みなさん、東京ビッグサイトですよ、東京ビッグサイト!!
 
まあ、草之は行けないのですが……。
今回の合同誌制作は時間的にキツイ中行われましたが、収録している全作品どれも見劣りがない、素晴らしい作品になっているはずです。たぶん。
 
例によって草之がトリを務めています。時系列に沿って並べたらいつも草之が最後になるんだよ!!
べ、べつに熟女好きってわけじゃないんだからねっ!!
ていうか、なのはの世界観で熟女ってカテゴリはないんじゃね?
だって、あのプレシアでさえ五十路過ぎてるってんだから驚きだよね。
 
さて。
今回は前回と比べてちょっと高めの千円ですが、挿絵も入ってそれ相応の価値はあります。
それだけはハッキリと言えます。
 
 
ということで、以下拍手レスです。
草之でした。
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

背徳の炎  track:38

 
 人の流れは止まらない。
 向かいあう俺とヤツを避けるように、流れは途切れない。
 雑踏と喧騒のなかで、俺は静かに唸った。
 
 「テメエ……」
 
 「ああ、そうだ。一応言っておくけれど、今の僕にはなにをしても無駄だよ。ただの映像でしかない」
 
 「なにが目的だ」
 
 「目的はひとつ。今現在目前に迫っている世界崩壊を阻止すること」
 
 「なに?」
 
 「言った通りの意味だ。君にそれを伝えに来た」
 
 構えを解く。
 ヤツ自身も言っていたことだ。今のアイツになにをしても無駄だろう。
 ムカつくが、今はそれよりも情報だ。
 
 「ずいぶんと丸くなったような気がするけど、どうかな」
 
 「黙れ。この世界にいつまでもいれるほど、俺は気が長くねえ」
 
 「だが、この学園祭だったかな。これが終わるまではいてもらわないと僕としても、そして君も困るだろうね」
 
 「…………さっさと要件を言え。テメエの言いなりになるのは癪だが、今回だけは別だ。駒になってやる」
 
 「ならまず、大きな“ゆらぎ”を起こしてくれ。方法は問わない。それが確認でき次第、次の指示を出すよ。期待と、そして君の帰還を心から願っている」
 
 「ふん」
 
 立ち去ろうとして、あることを思い出し足を止めた。
 振り向くと、まだヤツの姿はあった。
 
 「ひとつ訊いておく」
 
 「なんだい?」
 
 「超鈴音。アイツを殺せばいいんじゃないのか」
 
 「殺してしまっても構わない。だが、それで世界崩壊を阻止できるかはわからない。もし成功したとしても君を始め、その世界へ渡った者はおそらく帰ってこれないだろう。それでもいいなら、博打に出てもらっても構わない」
 
 「……ならいい。それだけだ」
 
 「信じているよ、フレデリック」
 
 「あ?」
 
 「信じているよ。君が本当に殺したいのは僕なんだろう?」
 
 「…………黙れ」
 
 「時間だ。では、また“ゆらぎ”のあとに」
 
 見透かしたことを言い残し、ヤツは消えた。
 俺がするべきことはなんだ。今じゃない。これからだ。
 
 俺は、アイツの殺すために。
 
 ああ、そうだとも。
 文句を言えるわけがない。
 アイツが言ったことはまったく正しい。俺はアイツを殺す。
 だが、それでいいのか?
 本当にそれでいいのか?
 
 もし、世界崩壊が起きれば、間接的にでもアイツを殺すことはできる。
 そして、“アイツ”は死ななくて済む。
 例えその方法が、俺たちが生きた世界を存在ごとなかったことにする方法だったとしても。
 だがそれなら、生まれるはずのない“アイツ”を救ってなにになる?
 俺は、なにがしたい。
 
 「うぜえ……」
 
 ある意味、感謝を向けねばならないだろう。
 癪だが、ごちゃごちゃ考えなくてもいいのは助かる。
 自分だけの思考に没頭できるのはいい。
 
 さあ、“ゆらぎ”を起こす方法を探すとしよう。
 
 「――とは、言ってもな」
 
 “ゆらぎ”というのが時空間の歪みのことだとすれば、生半可なことではそれを発生させることができない。
 俺がこの世界に飛ばされたのもこの“ゆらぎ”が原因だと考えられる。つまり、“ゆらぎ”を発生させようとすれば、俺と全力近い力で戦える相手が必要だということ。今考えられる相手はイノと、ギリギリで坊やだ。だが、そのどちらともと戦うことは難しいだろう。それも、全力でだ。さらに難しいことは火を見るよりも明らかだ。
 
 ――いや、そもそもこれは笑えるな。
 俺は今どうして、アイツの言葉を信じて動いている?
 俺も、それにはうすうす気がついていたことだからじゃないのか?
 
 世界崩壊。
 俺たちの世界の過去がこの世界だとするならば、俺たちの世界にはなぜここにいるような『魔法使い』がいないのか。
 また逆に、この世界の未来が俺たちの世界だとするならば、俺たちの世界にはなぜ神秘・奇跡としてではなく、《技術》として『魔法』が伝えられてしまったのか。
 
 似て非なる世界。
 それはつまり、異なる世界がありえないほどに接近してしまったことを示す。
 パラレルワールドとは、同時間軸から枝分かれした別の可能性のこと。
 俺たちの世界と、この世界がパラレルワールドである可能性は、実は低いのではないか。
 
 パラレルワールドと異世界の違いを簡単に言うと、糸の束だ。
 一束の糸の中で枝分かれした世界がパラレルワールド。
 そもそもが違う束ならば、それが異世界。
 
 総合100%の可能性の塊そのものが世界であり、そのうちの数%がパラレルワールド。
 総合100%の可能性の塊そのものが世界であるなら、もうひとつの100%があれば、それが異世界。
 それ自体が100%なのだ。すべてのものに、抱え切れる許容量がある。
 それを無視して、俺たちは今この世界にいる。
 もとからありえない可能性の出現。100%だった世界は、飽和して耐えきれずに崩壊する。
 
 今ですら、きっとギリギリのレベルで耐えているはずだ。
 
 「……ち、めんどくせえ」
 
 面倒事は嫌いだ。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「カイさん!」
 
 「うわっと。ただいま帰りました」
 
 学園祭前日。
 久しぶりに帰って来たエヴァンジェリンさんのログハウス。
 入って早々、ディズィーさんが体当たりのような歓迎をしてくれた。
 
 「心配してたんですよ、どうしてたんですかっ」
 
 「頭を冷やしてました。誰にも会わずに、ボーっと」
 
 「それだけなのに、なんで一週間近くも!」
 
 ボーっとするだけなら帰ってくればよかったのに。心配そうな声で、ディズィーさんが言う。
 そうかもしれない。ただボーっとしているだけなら、帰った方が彼女を心配させなかっただろうし、寝食にも困らなかっただろう。だが、ただボーっとしていたわけじゃない。
 実感した。
 私が扱うこの力は、振るえばただの暴力でしかないことを。
 川を沸きたて、そこにいる魚を殺し、森林を焼き払い、鳥や小動物を追い詰めた。
 
 なんと粗悪な力だろうか。
 
 意志の無い力に命は乗らず、ただ破壊するのみ。
 まだ、ソルの方がよっぽど“力”として《法力》を使っていたのかもしれない。
 躍起になって、あいつが気に入らなくて振るっていた私の力の行方はどこにある?
 どこにだってないだろう。
 
 「……よう。随分へこんでるじゃないか。どうした、色男」
 
 「エヴァンジェリンさん」
 
 「お前がどこかに行っている間、私の家にどれだけ迷惑電話がかかってきたか判ってるのか? ん? 無断欠勤の大馬鹿野郎」
 
 「それは、すいませんでした」
 
 部屋の奥から、長い髪を揺らしながら少女が歩いて来る。
 皮肉っぽい笑みを浮かべながら、下から突き上げるような視線を浴びせてくる。
 
 「私の言ったこと、まだ気にしてるのか? いいじゃないか、暴力なら暴力でも。ただまあ、前にも言ったことだが、それで超のヤツを説得しようってのは片腹痛いがな。クックックッ」
 
 「…………」
 
 「なんだ張り合いのない。反論するだけぼーやの方がちょっとは成長したかな」
 
 「なんの用ですか」
 
 「おや、同居人にも用がなければ話しかけちゃいけないのか? そうだな、からかってるんだよ」
 
 「ふざけたことを」
 
 大口をあけて笑う姿に構っている余裕もない。
 どうにかしなければならないのだ。ソルが超鈴音に辿りついてしまったら――――。
 
 「……そういえば、メイさんの姿が見えませんが」
 
 小言のひとつでも言われるかと思っていた彼女がいない。
 まさかディズィーさんを置いて、一人で前夜祭へ出かけたわけでもないだろうに。
 と、返って来た答えは、意外なものだった。
 
 「メイならぼーやと一緒に私の別荘にいるよ。付き合ってるメイもそうだが、よく体力が持つな」
 
 「模擬戦、ですか?」
 
 「どっちかっていうと子どものケンカだ。メイが売って、ぼーやが買った。それだけだ」
 
 「なんで止めなかったんですか」
 
 「面白そうだったからさ。ま、もう飽きたけどな」
 
 予想し切った答えが返って来た。
 わかりやすいと言うべきか、それとも私が慣れてしまったと言うべきか。
 
 「お前も仲間に入れてもらえ」
 
 「なぜ私が」
 
 「お前も坊やだろう? ククッ」
 
 「……結構です」
 
 「なんだ、つまらんな。ぼーやはともかく、メイならお前の練習相手にもなるだろ?」
 
 「面倒事を押しつけようとしているとしか思えませんが」
 
 エヴァンジェリンさんはそのまま口を尖らせ、ふくれてしまった。
 私の対応がよほど気に入らなかったのだろうか。
 
 「……わかりましたよ。行ってきます」
 
 「勝手に行って来い」
 
 「あ、あの私もついていきますっ」
 
 ディズィーさんをつれて、エヴァンジェリンさんのログハウスの地下へ向かう。
 人形がゴロゴロと転がっている部屋を抜けて、ボトルシップに近づいていく。まあ、実際に入っているのは船ではなく、彼女が『別荘』と呼ぶミニチュアだが。
 さらに近づくと、ふっと視界が白ける。軽い浮遊感のあと、地に足を着く。
 一秒にも満たない時間で、景色は変わった。
 
 薄暗く息苦しい地下室から、燦々として明るく開放的な空間へ。
 後ろにディズィーさんがついて来ているのを確認してから、ゆっくりと歩みを進める。
 結構な距離がある橋を渡り終えると、地面に伏しているネギ君をみつけた。
 
 「はかどっているかい」
 
 「あ、カイさん」
 
 「メイさんなんだけど、どこか知ってるかい?」
 
 「下の砂浜にいると思いますけど。それより、カイさんは……」
 
 「私? エヴァンジェリンからあなたたちの様子を見てきてくれと頼まれたんで、それで」
 
 「そうですか」
 
 あまりにもぐったりとしているので、どうしたのかと訊きたくなったがやめておいた。
 エヴァンジェリンはケンカだと言っていたが、それが本当なら愚痴を聞かされそうだったからだ。
 子どものそれだけでどうにかなるわけではないが、今の私ではどうだかわからない。
 
 「……メイさんは、強いですね」
 
 「彼女は強い。心も、身体も」
 
 「それはもう。口喧嘩でも勝てそうにありません。今の僕じゃ、どうにしたって勝てっこない」
 
 「……君はなんのために戦う?」
 
 「僕の大切な人たちを、守りたいからです」
 
 「それは君が教師だから?」
 
 「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。誰にも傷ついてほしくない。それだけなんです」
 
 「義務的な答えだ。義務で戦えるのは、そういう職業の人たちだけだよ」
 
 ネギ君が不思議そうな顔をした。
 次には、キッとこちらをにらみつけてきている。
 
 「どういう意味ですか」
 
 「義務で戦えるのは軍人だけだ。広く言えば、復讐者も含まれるかもしれない。君はそのどちらでもない。その答えは無意識に嘘が混じっている証拠だよ。それじゃあ、強くなんてなれない」
 
 「なら、ならカイさんはどんな理由で戦ってるんですか」
 
 「私は私の正義のために戦っている。そう信じていた」
 
 「信じていた?」
 
 「そう。私は今、己が力の行方を見失ってしまっている。自分の正義とは何か、それが私にはわからない」
 
 独白だ。
 こんな弱気な言葉を一番聞いてほしくない人の前で、私は独白している。
 ディズィーさんは、やはり不安そうな表情をして私を見ていた。
 
 「外だけは立派に着飾って、中身がからっぽの正義を信じて、私は戦っていた」
 
 「……今の僕には目標があるんです」
 
 「目標?」
 
 「漠然と、だけどもっとずっと強くなること。いつか答えがあとからついてくるくらいに強くなること」
 
 「強さだけでは、答えはついて来ない。答えは悟りです。自己実現の境地。ただ力をつけるだけでは、傲慢なものにしかならない。それを承知で君は言っているのですか?」
 
 「そんなの、やってみなくちゃわからないじゃないですか」
 
 「そうかもしれません。ただ、それは目標ではない。口ばかりだ」
 
 「あなたに、なにが解るんですか。守りたい人が傷ついていくのを、無力と痛感しながら眺めているのがどれほどつらい事なのか!!」
 
 「解りません。ですがあなたも解らないでしょう。なまじ力のあるぶん諦めきれない葛藤と、力が及ばない絶望を」
 
 ああ、きっとこれを見越してエヴァンジェリンさんは私をここに寄越したのだろう。
 ぐったりとしていたネギ君は、膝に手をつきながら徐々に身体を起こし始めた。目には闘志が滾っている。足はどこか頼りないが、しっかりとふんばっている。
 
 「……あなたはきっと、僕と似ている」
 
 「同感ですね。君は私と似ている」
 
 「僕はきっと、あなたが嫌いだ」
 
 「ええ。私を好意的な目で見ることはできそうにありません」
 
 同族嫌悪。
 鏡に映る自分を見るようで、厭になる。
 私の今の顔はどれほどひどいものだろうか。見たくもない。
 ただ、無感情にネギ君を見下ろす。
 
 私に足りないものはなんだろうか。なにが私を悩ませているのだろうか。
 私の正義とはなにを守るための理想だったのか。
 
 「組み手でもしましょうか。軽く」
 
 ネギ君は表情も身体も動かさない。
 ただ小さく、「はい」と返事を返しただけ。
 
 ディズィーさんにせっかくついて来てもらったのに、いきなりこんな話になってしまった。
 振り向き、少しの間待っていてください、と伝えようとした瞬間だった。
 
 「――――ッが!?」
 
 「きゃあっ!?」
 
 背骨が軋む。ピンポイントで肘を抉り込ませられた。
 筋肉の千切れるような、ずれるような音が耳に届く。
 なんの準備もできていない。
 
 不意打ちだ。
 
 気がついたのは、彼の肘が身体から離れた瞬間だった。
 
 「もう、組み手は始まってるんですよね」
 
 「……ええ。そうですね」
 
 だが、それだけだ。
 不意打ちをしたわりには、ダメージが少ない。
 骨に異常はないようだし、筋肉も同様。
 
 音だけが派手な、軽い肘打ち。
 
 ――――だが。
 その態度に腹が立つ。
 ああ、そうだとも。この少年も私同様に悩み、苦しんでいる一人だ。
 だが、だからといって、笑って許せるほど、今の私は人間ができていない。
 
 踏み込み、一閃。
 パカーン、と綺麗な音がして、ネギ君のあごが刎ねた。
 ネギ君はそのまま、また床にぐったりと倒れてしまった。
 これをして、また思う。
 間違いなどなく、私の力は“暴力”でしかないのだと。
 
 ここまできて初めて、自分が自棄になってしまっているような気がした。
 ただ自分の力を誇示して、ろくに手加減せずに振り回して、王様気分になって。
 ただなんの考えもなく、腹にすえかねる臣民を断頭台へ送っていくような暴君。
 
 「カイさん」
 
 「……はい」
 
 「きっと、大丈夫です」
 
 「こんなことをしているのに、あなたはまだ、私を信じてくれるのですか」
 
 「信じてるとかそういうのじゃないんです。うまく言えませんけども、カイさんはきっと大丈夫です!」
 
 ……ああ、もう。
 自分自身が厭になる。このままここから飛び下りれば、あるいは楽になるかもしれない。
 だけど、それこそ厭だ。今のこの状況を続ける以上に、そんな選択はまっぴらごめんだ。
 
 ――――そうだ。
 そうだ、そうじゃないか。
 
 ああ、なんだ簡単だ。
 
 「――ありがとうございます」
 
 お礼を伝えると、ディズィーさんはにこりと笑ってくれた。
 と。
 
 「二人の世界に行ってくれるのは正直言って腹立つけど、まあ、その前にそこで倒れてるヤツどうにかしてあげなよ。泡吹いてるよ」
 
 「えっ? あ、ああっ、ネギさん! 大丈夫ですかっ、しっかりしてください!」
 
 「お兄さんやりすぎ。でも、ま、その顔に免じて許してあげるわ」
 
 「あなたに許してもらうようなことはなにもないと思うんですけど」
 
 「ネギを殴り倒したでしょ。ま、ボクもケンカはしてたんだけど、同じ釜のご飯食べたら友達でしょ? だからね」
 
 「ジョニーさんが言いそうなことだ」
 
 だが、おそらく、ジョニーさんがいたからこそ、この子たちはこうやって立派に育ったのだろう。
 犯罪者として指名手配されていても、あの人は妙な人脈で我々警察機構とも友好な関係を結んでいたりする。
 彼の人柄あってこそのものなのだろう。
 
 飄々として女性に甘いあの性格はどうにかならないか、とは常々思ってはいたが、今度から見る目が変わりそうだ。
 
 「ディズィーさんは、本当に素敵な人だ」
 
 呟くように言う。
 メイさんには聞こえてなかったのか、聞かなかったことにしてくれたのか。
 問い返してくるようなことはなかった。
 
 私の答えも、彼女の中にあった。
 
 さあ、まずは、一歩を踏み出そう。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「いてて」
 
 夕食をアスナさんの部屋へ戻って食べている最中もあごが痛んだ。
 噛むたびにずきずきと痛みが広がって、せっかくのこのかさんの料理がもったいなく感じてしまう。
 
 「大丈夫?」
 
 「どーせ、またエヴァちゃんにでもボコボコにされたんでしょ」
 
 「いえ。今日はメイさんと、カイさんとです」
 
 アスナさんは呆れながら「たまにはいいんじゃない?」と、笑っている。
 このかさんは「おいしく食べられへんのは残念やけど、怪我やったらしゃあない」と、優しく微笑んでくれた。
 こういう団欒をしていると、なんとなく、僕は間違ってないんだと思う。
 
 誰かを守る。それは教師だから?
 カイさんは『義務的な答え』だと言った。それは、ヘルマンさんにも言われたことだ。
 ヘルマンさんはさらに言った。『君は復讐者だ』と。
 そして、カイさんもこう言った。『義務で戦えるのは軍人だけだ。広く言えば、復讐者も含まれるかもしれない』と。
 
 この景色を守りたい。
 大切な人を、もう失いたくない。
 
 そんな考えを持つ僕だからこそ、それでいいのかもしれない。
 
 僕の大切な景色を侵したヤツには復讐を。
 だから、だから僕は守るんだ。
 僕は復讐者でいい。やられたらやりかえす。
 
 それが連鎖していくかもしれない。だけど、そうだ。
 父さんのような強さが持てれば。
 
 サウザンドマスターと呼ばれた、父さんのような強さがあれば。
 
 僕にだって、叶えたい願いはある。
 
 「僕、みんなのこと絶対に守りますね!」
 
 「は……?」
 
 「え……?」
 
 思わず、口走っていた。
 アスナさんはジトリとこちらをにらんでいるし、このかさんなんて、なぜか頬を染めている。
 
 「調子乗ってんじゃないわよ、こんガキャ~ッ!!」
 
 「い、いたたたたっ! いたいいたい! 痛いです、アスナさん!!」
 
 「仲ええなあ」
 
 ……うん。
 守ろう。
 この景色を。
 いつまでもこうやって笑っていられる世界を。
 
 僕はもっと、強くなる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:38  end
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

輝く舞台は、今どこへ。

それはまさに、
アイマス・ショック
9・11になぞらえ、9・18事件と銘打たれたこの事件。
あなたはどう捉えますか……?
 
ということで、ども、草之です。
アイマスファン、そしてプロデューサーの誰もが愕然とした出来事でした。
もし草之がTGS2010のアイマスブースにいたらと思うと、怖くて仕方ありません。
ニコマスでも実質引退宣言をしたプロデューサーさんまで出てきた始末。
アイドルマスターの明日はどっちだ!!
 
 
なんというか、どうなるんだろう。
アイマスもそうだけど、テイルズもこの頃迷走というか、いわゆる「テイルズ商法」が前に出てきすぎな気がしてきたんです。いや、好きなんですよ。大好きですよ、テイルズシリーズ。
 
これからのゲーム関係の業界が不安です。特にバンナムさん。
頑張ってくれているのは重々承知しています。でも、その頑張りがどこか違う方向へ向かい始めていませんか?
待っています。
 
 
ということで、以下拍手レスです。
 
草之でした。
 
 
 
 

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

太正櫻に浪漫の嵐!!

1996年9月27日。
そう、14年前の今日、あるゲェムが発売されました。
 
いよいよ来年でシリーズスタート15年。
 
その一歩手前として、やはり言っておくべきだろう!!
おめでとう!!
そしてありがとう!!
 
これからも舞台で輝き続けるスタァであれ!!
 
サクラ大戦万歳!!!!
 
 
 
 
と、言いたかっただけです。
拍手コメもありませんので、このあたりで。
 
来年新作来ないかなあ。
結局、セガの発表は戦場のヴァルキュリア3だったし。
 
 

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Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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