FC2ブログ

2018-12

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

背徳の炎  track:33

 
 「まあ、邪魔しないんなら文句は言わないがな」
 
 私は幾度神楽坂明日菜に呆れさせられたらいいのだろうか。
 本日のメンツは、ぼーや、神楽坂明日菜、刹那、近衛木乃香。それとなぜか、メイまでいる。
 そのほかは完全にバカンス気分でここに来ているだろう。この別荘に。
 
 「きゃーっ、ちょっとエヴァ! こんないいところがあるんなら早く言ってよね!!」
 
 中でも、一番はしゃいでいるのはメイだ。
 あの金髪ロンゲがいないから、ぼーやに翻訳を頼まざるを得ないわけだが、そうなるとぼーやに修ぎょ、もといイヂメが出来なくなる。
 ん? 待てよ……。
 
 「よーし。ぼーや、今日はメイと勝負しろ」
 
 「え?」
 
 「お、面白そうじゃん。ネギっ、しようしよう!」
 
 これ幸いとメイがイキイキし始める。
 ピョンピョンとその場で跳ね始め、矢継ぎ早に準備運動を始める。
 その表情は『楽しみ』の一点張りで、ニヤけた顔が戻らないようだった。
 
 対して、ぼーやはと言えば。
 未だに状況が飲み込めないのか、あたふたと周りの人間に視線を向かわせていた。
 どうでもいいが、誰かが教えてくれるなんてありえないぞ。
 
 「んー、やっぱり落ちつかないなー」
 
 「なにがだ?」
 
 メイが腕をぶんぶん振り回しながら、楽しそうなのは変わらずに、しかし違和感があると訴えてきた。
 いかにも絶好調です、といった感じなのだが。ニヤリと笑うと、こちらへ駆けよって来た。
 
 「ねえねえ、エヴァ。なんか重いものないかしら?」
 
 「重いものって……ずいぶんアバウトだな。例えば?」
 
 「錨とか」
 
 「錨?」
 
 「そう。錨よ、錨」
 
 こういう形の、大きいやつ。
 と、ジェスチャー付きで丁寧に教えてくれる。
 そんなもんどうする気なんだか。
 
 「あいにくだが、ないな。チャチャゼロの武器庫にならなにかあるかもしれんが」
 
 「んじゃいいや。チャチャゼロのってほとんど刃物ばっかりだもん」
 
 そう言って、メイは準備運動を再開する。
 ぼーやはやっと状況を飲み込んだのか、急いで準備運動を始め出した。
 入念にしているのはぼーやらしい。筋肉が痛まないように、ゆっくりゆっくりと伸ばしている。
 対して、メイは適当もいいところだった。出来るだけ激しく身体を動かし、出来るだけ早く身体を温めている。
 実戦経験は、どうやらメイの方が上らしい。
 実戦ともなると、準備運動などさせてくれるはずもなく、戦闘中にどれだけ早く身体を温められるかが要点のひとつになってくる。
 体温は低いよりも、適度に高い方がもちろんいい。
 
 「それでは、試合を始めるとしよう」
 
 「え、あ、ま、マスター、僕まだ身体があったまって……」
 
 「馬鹿か。そんな理由で襲いかかるのをやめてくれる敵がどこにいる。では――――」
 
 とんとん、と軽くステップを踏むメイと、腹をくくったのか、どっしりと構えるぼーや。
 両者両様の戦闘態勢を整え、私の合図を待っていた。
 
 「始めろ!」
 
 「やぁ――――ッ!!」
 
 ぼーやが突っ込む。先手必勝とでも考えているのだろうか。
 踏み込む一歩に力を込め、奇襲を仕掛ける。
 メイはというと、開幕拒否。大きく後ろへバックステップを取り距離をあけた。
 
 「逃がしません!」
 
 さらに一歩を踏み込んだ瞬間。
 
 「突撃ぃ!」
 
 「えっ――――!?」
 
 メイの後方、タイル張りの地面から水が一瞬にして浸み出し、そこから一体のイルカが飛び出してきた。
 その背にまたがりながら、メイがぼーやに逆襲する。
 
 奇襲といってこれほど奇襲らしいものはないだろう。誰がタイル張りの地面からイルカが飛び出してくると思う。
 私だってこれをいきなりだされてたら防ぐほかない。避ける暇など、驚きでなくなる。
 
 それよりも、これは召喚か……?
 魔力の流れも、“気”らしき流れもなかった。
 ソルたちと同じチカラ、《法術》か。
 
 「くっ!?」
 
 イルカは想像しているよりも重い。
 軽やかに水面から飛び出してくる姿からは想像もできぬほどに、重い。
 どしん、という衝撃音がして、一歩二歩と後退したが、ぼーやはなんとか踏みとどまったようだった。体当たりをしたイルカは身体を丸め、そのまま水の滲んだタイルの中へ消えて行った。
 腕がしびれているのか、ぼーやは歯を食いしばりながらガードを固めていた。
 が。
 
 「そーれっ!」
 
 「しま――――っ!?」
 
 まるでボールでも投げたように、軽々とぼーやの身体を空中へ投げ出した。
 追撃するようにメイも飛び上がり、身体をひねる。そのまま足を振り上げ、鞭のようにしならせた蹴りを繰りだした。
 ぼーやがボールのように投げ捨てられた手前、それはまるでサッカーのオーバーヘッドシュートのようで。
 
 「オーバーヘッド・キッス!!」
 
 名前も似たようなものだった。
 そのネーミングにあきれるやら、感心するやら。
 だが、そのふざけたような名前の技の威力が、ずいぶん大きい。
 本物のボールかと思わざるを得ないほどに、ぼーやが吹っ飛ぶ。
 
 「うあああああああああああああああっ!!」
 
 「いっくぞぉー!!」
 
 吹き飛ぶぼーやを指さしながら、またメイの背後のタイルから水があふれてくる。
 今度の浸水は、半端でなく多い。まるで――――
 
 「おい、なんの冗談だこれは」
 
 それはまるで、小さな津波のようだった。
 ぼーやが地面を転がり、やっと立ち上がったというところで、あいつはその事態に気がついた。
 距離は約20mほど。初級魔法を唱えるのなら、絶好の位置ではある。
 が、その暇はないだろう。
 
 「グレート山田アターック!!」
 
 小さな津波をかき分け、黒い影が波を割り、空中へ飛び出した。
 淡い桃色のそれは、仔クジラだった。
 色はこの際どうでもいい。メイ、お前何でもありか!?
 
 「うわっ、うわああああ!?」
 
 イルカよりもさらに巨大なクジラを目の前にして、ぼーやは完全に固まった。
 防御することすら忘れ、呆けている。
 ……まぁ、今回は仕方ないということにしておいてやろう。私も驚いた。
 
 「ケケケ。一人サーカスダナ」
 
 「まったくだ」
 
 そのままクジラにつぶされ、その場に伸びているぼーやが目を覚ましたのは、1時間後だった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ソル、話とはなんだ?」
 
 「……」
 
 ソルに呼びだされ、後に続いて歩くこと数分。
 人気のない、すたれた感じの酒屋に着いた。こいつが酒を一緒に飲もうなんていうタマとも思えない。どうやら、人に聞かれてはマズイ話のようだ。
 慣れた足取りで一番奥のテーブル席へ移動すると、いかにもな集団が陣取っていた。
 
 「Be gone(どけ)」
 
 「あ? なに?」
 
 「I say "Be gone"(どけ、と言った)」
 
 相手は英語がわからないのだろう、あからさまに機嫌が悪い。
 まぁ、私の隣の男もそれに負けず劣らず機嫌が悪いのだが。こいつに巻き込まれて弁償するハメになるのだけはごめんだ。というか、争うこと自体やめてほしいものだ。
 ソルに違う席に行こう、と提案しようと口を開けた時だった。
 
 「ここは日本ですよお兄さんっ! ちょっと日本語話してもらえませんかねえ!?」
 
 一人の青年が立ち上がりざま何かを言うと、ギャラリーがにわかに盛り上がる。
 これは本格的にまずい展開だ。血の気盛んなこいつだ、売られたケンカは買うだろうし、止めても巻き込まれるだけだろう。止めるべきなのはわかるのだが、こいつのこととなると無駄な気がしてしょうがない。
 それでも言っておくべきだろう。
 
 「Sol,stop it. Let's go to the seat in the other side(やめろソル。向こうへ行こう)」
 
 「おい、詫びのひとつもねえのかよ?」
 
 青年がソルの胸倉をひっつかむ。
 と、ほぼ同時にソルは相手の足を踏んだ。ぐぎ、と嫌な音が耳に届く。
 ぎゃあ、と短い悲鳴の後、集団が一斉に立ち上がる。手に手に酒瓶を持ち、机の角でそれらを割り、しっかりと凶器にしたてあげてから、ソルに踊りかかる。
 連繋を取っているわけでもなく、熟練した動きをするわけでもなく、暴力にまかせたただの突撃。
 止める間もなく、ソルは次々と相手を吹き飛ばしていく。
 店の中もそれに従うように壊れていき、私の嫌な予感は見事的中したことになる。
 まったく嬉しくもなんともないが。
 
 「おい、アンタら。店どうしてくれんだい」
 
 案の定、店主が話しかけてきた。ソルはめんどくさそうに、一言だけ。
 
 「Ask the president(ジジイに頼め)」
 
 そう言って、電話番号を書いた紙だけを残して店をあとにした。
 一応、私の方で頭を下げておき、ソルに続く。店の前で待っていたソルに続いて歩くことまた数分。
 今度はいつもソルが朝食をとっているカフェだというところに案内された。
 
 「それで、話とはなんだ」
 
 「……これは例え話だ」
 
 ウェイターが来て、注文を取る。
 強面のソルにも怖気ないところを見ると、ソルが常連だと言うのは本当らしい。
 ただ、私の方を見て驚いていたのはどういうことなのだろうか。
 
 「この世界の『魔法』は、秘匿とされている。ならもし、この秘匿された『魔法』が世に知れ渡るとしたら……どうなると思う?」
 
 「――――なにを言っている、ソル」
 
 「逸らそうとするな。現実を見ろ。お前お得意の正義で救えるかもしれねえ命がこの国には腐るほどいる」
 
 いや、と重く首を振ると、ヘッドギアに隠れた眼が私を貫いた。
 
 「この国を救えるかもしれねえ」
 
 「……ソル」
 
 知っている。
 ソルが言っているのはこの国、ジャパンのためなどではないということを。
 
 「ソル、まだ推論なのだろう。それをあたかも」
 
 「そうも言ってられねえからお前に話してるんじゃねえか。あのババア、なにか隠してやがる。俺たちの世界と、この世界、決して似てるとは言わん。だが、あまりにも“臭う”」
 
 ババア、というのが誰のことなのかがよくわからなかったが、ソルはこの世界転移の謎を握りかけている。
 そもそも、これは“世界転移”なのだろうか。
 ソルは続ける。
 
 「この世界、“同じ”だ」
 
 「似ているとは言わないと、今さっき言わなかったか?」
 
 「だから言ってねえだろうが。『似てる』と、『同じ』は同義じゃねえ」
 
 「『似ている』というのは、つまり別物であって、『同じ』というのは同一だと?」
 
 「物分かりがいいな。そういうことだ」
 
 ここが、元々我々が住んで生きていた世界だった、とほとんど確定したということか?
 でも、それだとしても一体誰がどんな理由で『魔法』をこの世に広めたと言うのだ。あれほどの力、人類の手に余るとは思わなかったのだろうか。
 その旨をソルへぶつけると、鼻で笑われた。
 
 「その人類様が、《魔法》の存在を知ってさっそくGEARを創りだしたわけじゃねえ。確かに『魔法』は魅力的だ。が、それを人類は最初、この星のためと言って使い始め、そして《魔法》を創りだした。そして、GEARを創りだしたのは人類の闘争欲だ」
 
 否定することは出来ない。
 GEARは軍事利用を目的に創られた生体兵器だ。それに直接携わったわけではないが、そこに人間による過失があったとするのならば、これは誰彼が負う問題ではなく、我らが負うべき罪なのではないだろうか。
 罪を負うのが人ならば、また償うのも人である。
 聖騎士団はそのために動いてきた。人を守るため、人を救うためと言いながらもその実、それは償いでしかなかった。
 創りだした罪を、自ら断つ。《GEAR》を断罪する者たち。
 
 罪の花は、この星に、人の心に根深く蔓延ってしまった。
 我らが生きる世界で、この花を摘みきるためにはあとどれほどの時間が必要とされるのか。
 
 「……もし、悪い花が咲く前に、それが悪い花だと気がついたならば……例えば、それが種であるときに気がつけたならば、ソル。――――……お前はどうするつもりだ」
 
 「――――……決まっている。“その種を蒔かせない”。それがもし自然じゃないのだとするならば、“殺す”」
 
 「待てソル。それはあんまりだ。もしその人物が良識ある人物だったとするならば、きっと話せば――――!」
 
 「馬鹿か、お前は。一般常識じゃねえ、歪で異質な“秘匿”をバラそうとする奴が良識な奴だとでも思ってやがんのか。GEARが人類の罪ならば、その大元を作った野郎が大罪人であるのは間違いねえ。目の前に毒草の種が転がってんのに、お前は畑の真ん中のそれを見過ごせというのか」
 
 「それは……そうだが」
 
 頷くことが出来ない。
 それが間違いであるのか、正しいことであるのか。
 今の私では――――わからない。
 
 「話はそれだけだ。決めろ。道をあけるか、くたばるか」
 
 「……っ」
 
 道をあければ、おそらくこの世界は“同じ”ではなくなる。
 だが、だからと言って、くたばることを良しとは出来ない。
 
 「なら、賭けようソル。私が原因を突き止めとめるのが先か、お前が原因を突き止め殺すのが先か」
 
 「らしくねえな。だが、いいだろう。自分で賭けと言ったんだ、俺が先に見つけても文句は言うな。そして、お前が失敗した時は、俺はためらいなく殺しにいくぞ」
 
 「――――……ああ。そうしてくれ」
 
 「フン」
 
 いつの間にかきていたコーヒーを一飲みすると、テーブルを一叩きし、立ち去って行った。
 テーブルを叩いた後には、しっかりとコーヒー代が置いてあった。
 
 
 カフェを出て、まずはその原因を知っているかもしれない“ババア”という人物の捜索から始めることにした。
 ソルは滅多に人のことを名前で呼ばない。だが、ソルが呼称するということは、それなりに親しい仲なのではないか、と予想できる。
 そして、“ババア”と呼ぶからには女性だということ。年を召していること。
 だが、そこまでお年を召した方がいただろうか。
 
 「ふむ」
 
 そう言えば、エヴァンジェリンさんはなにかとソルに絡んでいたような記憶がある。
 聞いてみるのもいいかもしれない。いや、この際、聞かなければならないだろう。
 そうと決まれば、さっそく聞きに変えるとしよう。この時間ならばまだ家にいたはずだ。
 
 大通りを急いで駆けていく。人を避けながら、まっすぐにログハウスへ向かう。
 数分と走ると、すぐにログハウスについた。
 ノックすると、ディズィーさんの声が一番に聞こえてきた。「私です」と言うと、すぐに扉を開けてくれた。私、というだけで伝わっていると思えば嬉しいが、もう少し警戒と言うことをして欲しいと願う複雑な心境を持った。
 よほど微妙な顔だったのか、どうしましたか、と訊いてきた。ので、なんでもないですよ、とやんわりごまかしておいた。
 
 「ところで、エヴァンジェリンさんは?」
 
 「はあ、彼女なら今地下室へ行ってますよ」
 
 地下室への階段を指さしながら、彼女はそう教えてくれた。
 
 「お友達もたくさんいました」
 
 「お友達?」
 
 「男の子がひとりに、女の子がえーと、三人です」
 
 そんなスペースが地下にあったか、と首をひねると、続けてディズィーさんが教えてくれた。
 
 「なんでも、“別荘”とかいうところに行くそうです」
 
 「別荘?」
 
 「1時間もすれば帰るとも言っていたので、たぶんもうすぐ帰ってくるはずですよ」
 
 私が出掛ける前にはまだいたから、あと半時間もないうちに帰ってくるだろうと予想する。
 だとすると、ゆっくり待っていた方がいいかもしれない。ソルには出遅れるかもしれないが、急がば回れ、急いては事をし損じるとも言う。
 考えているうちに、ディズィーさんは紅茶を淹れてくれていた。
 
 促されるままにソファに座って、紅茶を飲んで待つことにした。
 相変わらずエヴァンジェリンさんから貸してもらっていた服を着ている。案外着心地がいい、とこの間言っていた。
 ただ、ソファやいすに座るとなると、かさばっていて座りにくくはあるとも言っていた。
 正面のソファに、お互いが向かい合うように座る。
 
 「カイさんは、その、楽しい……ですか?」
 
 「今のこの状況が、ですか?」
 
 「あ、はい。ジェリーフィッシュのみなさんのことは、やっぱり心配ですけど、でも、私、楽しいんです」
 
 日々新しいことに出会い、今まで知らなかったことを知り、そしてその中で生きること。
 それが楽しいのだと、彼女は言う。
 知ることが喜びで、それで人を助けることが出来れば、もっと嬉しいのだと言う。
 
 「私は元々、人に迷惑をかけてしまっていました。でも、それでも私を拾ってくれたジェリーフィッシュの人達を見ていて思ったんです。私もこんな人たちになりたいって。人を助けて、それでいて笑っていられる人になりたいって」
 
 「いいことですね」
 
 話す内容は感心できることだ。
 だと言うのに、それを話す言葉がなぜか幼い。
 そのギャップがあいらしく、いとおしく、たまらない。
 
 ――――何を考えている。
 ダメだ、紅茶の味がよくわからない。もったいない。だけど、ここで、いや違うだろう、そうじゃなくてディズィーさんを、じゃなくて、えーっとあれ?
 
 「カイさん? 顔色が……お顔が真っ赤ですけど熱ですか?」
 
 「えっ!? あ、いえ。全然元気ですよ、熱もありませんし、健康そのものです」
 
 「よかった。あ、紅茶おかわりはいりますか?」
 
 「あ、はい。もらいます」
 
 嬉しそうにカップに紅茶を注ぐ姿は、見ていても楽しい。
 本当に、楽しそうに…………―――――――――。
 
 「おい、カイ。なにディズィーのケツばっかり見てるんだお前は」
 
 「――っな、バッ! そ、そそそ、そんなことしてませんよ私はッ!!」
 
 大声で反応してしまったことに気が付き、エヴァンジェリンがそこにいるということよりも、まずはディズィーさんの反応を気にしてしまった。
 どうやら聞こえていなかったのか、それとも聞こえなかったことにしたのか、紅茶を淹れ続けていた。
 胸をなでおろしてから、エヴァンジェリンの方を向く。
 
 「なんてことを言ってくれてるんですか!?」
 
 「なんだ、見ていないんだろう。だったら別に弁明は不要だろうに。くっく、なんだ、やっぱり見てたのか? ん?」
 
 「……知りません」
 
 「尻じゃないだけにか?」
 
 「あなたは~~~~っ!!」
 
 くつくつと笑いながら、私の隣に腰かける。
 悪びれた様子もなく、意地の悪い笑みだけを浮かべていた。
 
 「ディズィー、私と、ついでにあいつらにも淹れてくれ」
 
 あいつら、と聞いて再び振り返ると、ネギ君たちが立っていた。
 今の会話が聞かれたのだろうかとヒヤヒヤしたが、隣のエヴァンジェリンがやはり笑いながら言う。
 
 「あいつらが会話をリスニング出来るほどの頭を持っているわけないだろ。まあ、ぼーやは英国圏だから理解しているだろうがな」
 
 ネギ君を見ると、ふいっと視線をそらされてしまった。
 見てはいけないものを見てしまった、という感じでふいっと。
 
 「……」
 
 「なんだなんだ? その反応をみるとやっぱり見てたのか、ディズィーのケツ」
 
 「だからっ!!」
 
 「? 私のお尻がどうかしましたか?」
 
 「でぃ、ッズィーさんッ!?」
 
 「声が裏返ってるぞ」
 
 言われれずとも、それはわかっているつもりだ。
 私の声を聞いたディズィーさんが苦笑いしている。まっすぐに見れない自分自身が情けない。
 ここはさっさとエヴァンジェリンさんに話を聞いて、さっさと話題を切り替えることとしよう。
 
 「エヴァンジェリンさん、聞きたいことがあります」
 
 「なんだ? ディズィーのヒップサイズか?」
 
 「違います。そこから離れてください」
 
 真剣な声音が伝わったのか、エヴァンジェリンさんはニヤけていた表情をただし、真摯に向き合ってきた。
 それが演技でないことを確かめるようにじっと見つめ返すと、さっさと話せと無言の抗議を投げかけてきた。
 深呼吸をはさみ、こちらも相手の瞳を見つめる。
 
 「ソルがババアと呼ぶ人物を知っていますか?」
 
 「あん? 私だろうが」
 
 「――――だって、あなたは少女じゃないですか」
 
 「お前、あれが嘘だとまだ思ってるのか?」
 
 「?」
 
 「それすらも忘れてるのかお前は」
 
 私が彼女になにかを言ったのだろうか。
 住まわせてもらっているが、彼女とはそう多くは会話しない。
 私が忘れる様なことがあるはずはないのだが。
 
 「お前は私が600歳を超えていると言って、『冗談もそこまでいくと笑えない』と言ったんだ。まったく、腹立たしいことだがな」
 
 「……え、え?」
 
 「あの、カイさん?」
 
 突然、ディズィーさんから声がかかる。
 なんだろうと彼女の方を向くと、やはり苦笑しながら言った。
 
 「エヴァさんの言ってること、本当です」
 
 「え? ええ?」
 
 「それみろ。信じてないのはお前だけだぞ」
 
 「だって、あなたは、そんな少女じゃないですかっ!!」
 
 思わず指で彼女のことを指してしまった。
 むすっとした顔をしながら、エヴァンジェリンさんはため息を吐く。
 
 「ぼーやとそっくりだよ、お前は。お固くて、融通が効かない。そのうえ生真面目で、むっつりスケベ」
 
 「最後のは余計です」
 
 「だが、ぼーやよりは幾分マシなことがある。それは強さだ。お前は自分の言ったことを実行できるだけの力を持っている。――――と、まあ、話を戻すか。私はね、吸血鬼なんだよ」
 
 「吸血、鬼……」
 
 「そう。吸血鬼。生まれは欧州、育ちは世界中。ここに来るまで紆余曲折ありはしたが、お前が想像しているよりも過激な人生を送ってきただろうよ。この姿は役に立つ時もあれば、全く役に立たん時もあった。その私が、わざわざ嘘をいうなど、考えられるか? まあ、老婆の戯れなどと思えば、どこまで嘘か本当か、わからなくもないがな」
 
 彼女はディズィーさんからの紅茶を受け取り、一口含む。
 私の方をチラと見て、どんな表情をしていたのかは知らないが、呆れた声音で彼女は言う。
 
 「ディズィーを見てみろ。あの姿で何歳だと言っていた? 3歳だったか? なあ、ロリコン」
 
 「なっ」
 
 「逆があっても不思議はあるまい。幾星霜を生きた少女がいても、おかしくもなんともなかろう?」
 
 「……それは、しかし」
 
 「まあ、そこは理解しておくだけでいい。納得できんのならするな。それで、お前の話とはなんだ?」
 
 話すべきかどうか一瞬ためらったが、誰かに聞かなければ進めない。
 それに、彼女自身がそうなのだと言っている。ここまで来て疑うのは逆に失礼なのではないだろうか。
 意を決し、深呼吸をはさみ、向きなおす。
 
 「世界変革の引き金は、誰が握っているのですか」
 
 「――――、その話しか。お前、ソルの差し金か?」
 
 「違います。私とソルは、道を違えています」
 
 「だが、目的は同じ。だろう?」
 
 「最終的にはそうなるでしょう。場合によっては、私はあいつに剣を向けなければならなくなる」
 
 「……ふん。ちょっと待ってろ」
 
 そう言って、エヴァンジェリンさんはソファから立ち上がり、ネギ君たちの方へ移動した。
 二言三言話すと、彼らはぞろぞろと帰って行った。
 赤髪の少女がなにやら文句を言っていたようだが、日本語がよくわからないので聞き取れない。
 様子を見ていても、おそらくエヴァンジェリンさんが無理矢理皆を帰してしまったのだろう。つまりは、彼らに聞かれては困ることだということ。
 彼らと一緒に話していたディズィーさんは寂しげに肩を落としていた。
 
 「さて、と」
 
 私の正面のソファに座り直し、今度は茶々丸さんに紅茶のおかわりを頼んでいた。
 私の方にもおかわりは必要かどうかが訊かれたが、首を横に振っておいた。
 
 「ここだけは正直に言っておくとしようか。私は、この世に『魔法』をバラそうとしている奴を知っている」
 
 「やはり、そうなのですか」
 
 「お前から“やはり”などとは言われたくないな。私のことを疑ってたくせに」
 
 「……それは、すいません」
 
 「よろしい。が、私はそいつのことをお前に教えるつもりはない」
 
 「なッ、なぜですか!?」
 
 「ソルにも教えていないからだ」
 
 「教えるならば、対等の立場で。そういうことですか」
 
 「まあ、そんな感じだな。……だが、場合によってはヒントをくれてやるくらいなら出来るかもしれん」
 
 「……条件は?」
 
 「お前はそいつを見つけて、どうするつもりだ」
 
 「説得します。やめなさいと」
 
 「詳しいことは知らんが、そいつはパラドックスというヤツを引き起こしはしないか?」
 
 「パラドックス?」
 
 「映画は見たことないか? タイムパラドックスというヤツだよ。時間的矛盾、つまりは、お前たちの世界とこの世界が同一の存在だったとして、『魔法』がバラされなければ、お前たちの世界が存在することはなくなるわけだ。とすれば、お前は自分自身を殺すということだ。さらに言えば――――」
 
 すぅっとゆっくりと手をあげ、私の背後に立っていたディズィーさんを指さす。
 
 「ディズィーをも殺すと言っているようなものだ」
 
 「っ」
 
 そこまで頭が回っていないほど、私は馬鹿ではない。
 この世界変革を阻止するという行為の意味は、つまりそういうことなのだ。
 だというのに、ソルは、あいつは何のためらいもなく『殺す』と言った。
 
 ――――なら、選択は決まっている。
 
 「カイさん?」
 
 心配そうなディズィーさんの声。
 その声に微笑んで返してから、エヴァンジェリンさんに向きなおす。
 
 「それでも私は、進まねばなりません。救える命がそこにあると言うのならば、私は私の命すら惜しくはない」
 
 「カッコいいことだな、カイ。わかった、それではヒントだ。学園祭前から学園祭中、人気のある出店に行けば、その少女に会えるかもしれんな」
 
 「人気のある出店?」
 
 「ここから先はお前で調べるんだな。私は中庸、この件には一切手を出さないと決めた。これをソルに言うなりはお前の自由だ」
 
 「馬鹿な。そんなことを言えば、あいつはその出店に入る人間全てを殺しかねない」
 
 そんなこと、許せるはずがない。
 出来るだけ、人的被害はないほうが好ましい。
 だから、アンフェアかもしれないが、これはソルには伝えられない。
 
 「ありがとうございます。これで、少しは道が開けるような気がします」
 
 「フン。礼などいらん」
 
 茶々丸さんから渡された紅茶を啜りながら、話は終わりだと目で言われる。
 さて……、となると、まずは情報収集からになる。
 取れる選択肢は二つ。ネギ君か、アクセルさんか。この場合は、ネギ君を頼った方がよさそうだな。
 だが、学園祭まではまだしばらく時間がある。それまでに、考えの整理や鍛錬を積んでおくべきだろう。
 
 今は少なくとも、目の前のことに集中した方がよさそうだ。
 フランス語教師という肩書きに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:33  end
 
 
 
 
スポンサーサイト

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

コメント

ども!
更新お疲れ様です

今回のメイとネギの戦闘
まあ普通は戦闘中にイルカやらクジラが出てきたら戸惑いますよね
こうして考えると法力ってなんでもありな気がします(笑)
まあメイやファウストのはかなり高度なんでしょうけどね

さてタイムパラドックスですか
たしかACのソルのストーリーでそんな感じのがあった
と思いますがどうなるのか・・・
ソルが消えるようなことがあれば「あの男」も動きそうですが。
ともあれこれからの展開が気になります

では次回も楽しみにしています
執筆頑張って下さい。

gippo様への返信

ども、草之です。
 
> 今回のメイとネギの戦闘
> まあ普通は戦闘中にイルカやらクジラが出てきたら戸惑いますよね

魔法とはいろんな意味で違った《法力》というぶっ飛んだ力ですからね(笑)。
メイのあれは水属性なのか、気属性なのか。それが問題だ。まあたぶん気の方でしょうけど。
 
> こうして考えると法力ってなんでもありな気がします(笑)
> まあメイやファウストのはかなり高度なんでしょうけどね

召喚や空間転移。ファウストの方は、その空間転移を戦闘行為に組み込めるまでに高度で高速な処理をしているとかなんとか。転移法術は、それそのものが高度な術式であり、戦闘には使えないほど難度の高い演算が必要とかなんとか。
 
では、以上草之でした。
ありがとうございましたっ!!

少しお久しぶりです、背徳の炎最新話まで拝見しました。

まずは連載作品の一つB.A.C.K完結おめでとうございます。
複数連載されて大変そうな中、完結なされているのを見てほっとしました、
お疲れ様です。(他所と2か所書くべきかどうか悩んで結局(ry 

そして今回はまずネギとメイの試合ですね(最初素でネギまの方のメイと
勘違いしました)。流石にアレは予測できんわ…法力ってある意味何でもありだ。
素でもあの錨で居合(見様見真似)やらかすし、ジャパニーズすげえ。

そしてソルとカイは…やっぱりこの2人は根底では理解しあっててもそれで自分の
道を変えはしないというか、スタンドアローンの結果協力、以外は無いというか。
でもまぁ…良いコンビじゃないかなと思いますけどね。そしてディズィー可愛い。

今回はこのくらいで。更新を頑張っておられますが、あまり焦らず自分のペースで
執筆していただければ良いと思います。それではまた。

pota様への返信

ども、草之です。
 
> まずは連載作品の一つB.A.C.K完結おめでとうございます。
> 複数連載されて大変そうな中、完結なされているのを見てほっとしました、
> お疲れ様です。(他所と2か所書くべきかどうか悩んで結局(ry

ありがとうございます!
 
> そして今回はまずネギとメイの試合ですね(最初素でネギまの方のメイと
> 勘違いしました)。流石にアレは予測できんわ…法力ってある意味何でもありだ。
> 素でもあの錨で居合(見様見真似)やらかすし、ジャパニーズすげえ。

アクセルが前々回、ネギま!の方のメイは「愛衣」、GGの方のメイは「メイ」と書くから注意してくれって言ってたので、また見ておいてください(笑)。
は、置いておくとして。
でもネギま!組はおそらくメイの本気を知らない。なんてったって今回戦ったネギは、“メイの直接攻撃”を受けてないのだから。入力最大タメPの威力はバカにならないメイちゃん。
 
> そしてソルとカイは…やっぱりこの2人は根底では理解しあっててもそれで自分の
> 道を変えはしないというか、スタンドアローンの結果協力、以外は無いというか。
> でもまぁ…良いコンビじゃないかなと思いますけどね。そしてディズィー可愛い。

ソルとカイはやはりこれくらいの距離感がちょうどいい気がしますしね。
仲良しこよしで協力してる彼らが思いつかないってこともありますけど。
 
そしてディズィーは可愛い。
 
以上、草之でした。
ありがとうございましたっ!!

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://haguruma48k.blog87.fc2.com/tb.php/313-c74fe7b2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

ご来客数

歯車の潤滑油

いわゆるWeb拍手という代物

   

リンク

このブログをリンクに追加する

カテゴリ

ガイドライン(初めにお読みください) (1)
作品一覧 (1)
その優しい星で… (58)
その優しい星で…(設定) (2)
背徳の炎  (41)
背徳の炎(設定) (1)
B.A.C.K (42)
B.A.C.K(設定) (1)
ちょっと外れた俺とネコ (2)
今日のアニメ (15)
短編 (8)
イラスト (4)
徒然日記 (216)
自己紹介 (1)

プロフィール

草之 敬

Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

ご意見・ご感想

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。