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2018-09

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背徳の炎  track:36

 
 「弱いッ!!」
 
 開始5秒。
 何が起こったのか、まったく解らなかった。
 暗転した瞬間、次の景色は半分が床だった。
 
 「いた……痛いぃッ!?」
 
 焼けつくような痛み。みぞおちに穴が開いたんじゃないかと思うほど冷たい感覚。
 昨日とはまるで別人のような強さ。今までの訓練が、おままごとにしか思えない。
 
 「立て、早く、早くッ!!」
 
 「え、あ、あ……はい……ぃぎっ!?」
 
 膝が笑う。力を入れれば入れるほど足の裏から地面に逃げていくようだ。
 立てない。
 顔を上げることが出来ない。今、顔をあげたら、きっと立てなくなる。
 今、顔をあげたら――――
 
 「ノロマが! さっさと立て、さっさと立って向かって来い。ヒマだぞ、おい、私はヒマだ!!」
 
 「そんな、こと、言ったって……ッ」
 
 「ネギ先生、肩を」
 
 見かねたのか、茶々丸さんが立つのに肩を貸してくれた。
 しかし、その茶々丸さんも、マスターの一言ですぐに離れていく。途端に、腰が効かなくなる。
 また膝をつきそうになって、それを必死に堪えた。
 
 「いつもならもう立ってる頃なんだがー、ぼーや、お前そんなに弱かったか?」
 
 「そん、あ……」
 
 ガクン、と膝が折れた。
 跪くかたちで、マスターの前に倒れる。
 
 「ち。2時間休んでそれからだ」
 
 そのマスターはスタスタと別荘内に入っていってしまった。
 僕は、どうしたんだ? なんで、こんなに身体が動かないんだ?
 
 「ネギ先生。どうか、マスターをお許しください」
 
 「え?」
 
 「マスターは昨日から気が立っています。今日は、この別荘内で取り出せるほぼ全力の力で訓練に臨んでいました。ネギ先生があれだけ早く、かつ立てなくなった理由はそこにあります」
 
 「なんでそんな……」
 
 「私にも判りません。この頃のマスターはいつもどこか上の空なのです」
 
 いつも上の空な気がしないでもないんだけれど、それって僕の授業中だけなのかな……。
 そんな疑問はまずワキに置いておく。いつも一緒にいる茶々丸さんが上の空だと言っているんだ、そうに違いないんだろう。だとしたら、その理由はなんなのだろうか。茶々丸さんですら知らない理由とは?
 
 考えていても仕方がない。
 今は、とにかく回復。回復することに専念しないと、またすぐに倒されてしまう。
 20分間は寝転んで体力回復に努め、そこからはストレッチ。
 型の確認、ジョギング、魔法の確認、魔力の流れ。
 万全とはいかないまでも、十分全力を出せるほどの体調のはずだ。
 
 「心配じゃ、ないんですか?」
 
 「……心配です。あれほど摩耗されたマスターは見たことがありません。姉さんならあるいは見たことがあるかもしれませんが、少なくとも私は知りません」
 
 「……そう、ですか」
 
 また、僕の知らないところで何かが起きている。
 誰が、どこで、どうやって、僕の知らないところで何がされているんだ。
 なんなんだ。悔しい。なんなんだ、僕が一体何をしたっていうんだ……。村でのことも、学校へ来てからのことも、修学旅行も、悪魔の人のことだって……、何をしたっていうんだ、僕が、僕が何をしたっていうんだ。
 
 「僕は、なんて弱いんだろう」
 
 「ネギ、先生……?」
 
 「誰も守れない。誰も救えない。何も知らない。僕は、なんて弱いんだろう……」
 
 噛みしめることすらできない。
 その悔しさの元がわからないから、その悔しさを噛みしめることすらできない。
 イヤだ。なにも出来ない知らない悔しさが、とんでもなくイヤだ。
 知りたい。強くなりたい。みんなを守りたい。
 
 もう、無力なままの自分はイヤなんだ。
 
 「マスター!」
 
 別荘へ走っていく。もっと、もっと、強くなりたい。
 もっと、自分が納得できるくらいに強く、みんなを無傷で守り通せるくらいに強く。
 
 「やかましい。怒鳴らんでも聞こえてる」
 
 「どうすれば――――」
 
 「あ?」
 
 「どうすれば、強くなれますかっ!!」
 
 それはもっとも単純な、僕の願いだった。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「“暴力”、か」
 
 考えてもみなかった。
 私の振るう力が暴力でしかない? 私が掲げる正義は、ただの独りよがりだったのか?
 考えれば考えるほど、今までやってきたことが解らなくなる。
 この力を一体どこ向ければいいのか。そもそも、私の力は本当に私が持っていてもいいものなのか?
 
 「……わからない」
 
 木刀を振り下ろす。
 一心不乱に、ただ何も考えることなく、木刀を振るい続ける。
 もう朝から何度振ったのかが解らない。手に鈍い痛みが走っている。振り上げるたびに、生温かい血液が顔に降りかかる。
 
 「くそ……っ」
 
 どうすればいい。
 誰かに問うて、答えが出ればそれほど楽なこともない。
 だが、それで答えが出るはずもない。出たとしても、それは私の答えじゃない。
 どうすればいいというんだ。
 
 「…………」
 
 血で木刀がすっぽ抜ける。
 地面に叩きつけられた木刀が勢いよくバウンドする。手持ち無沙汰になった手からは、血が滴り落ちる。
 皮がずる剥けていて、空気に触れただけでジンジンと痛みが広がってくる。
 こうなったら、もう握り直せない。携帯してきた救急箱から包帯を取り出し、厚めにきつく締めつけるように巻いていく。手の平側の包帯は、止まらない血で徐々に赤く染まっていく。
 
 この血を幾度流して、私はここに立っているのだろうか。
 どれだけの血と汗を流し、強くなり、ここにこうして立っているのだろうか。
 ここにこうして立っていられるのは、私が強くあろうと戦ってきたからだ。それはきっと間違いない。
 だが、今は違う。
 
 「この力が、憎い」
 
 あまりに暴力的で、あまりに稚拙なこの力が今は憎くてたまらない。
 意味がある力ではなく、ただ振り回しているだけだった。
 子どもか、私は……。
 
 「あ、あの……」
 
 「ん?」
 
 「カイさん」
 
 振り向くと、顔を曇らせたディズィーさんが立っていた。外出する時のおなじみの格好になっているごッシックファッションを身にまといながら、森の中に自然に、その景色と一体となって立っていた。
 瞬間、私は泣きそうになった。それを涙を流す寸前で我慢して、ぎこちなく笑みを作って見せた。
 
 「あの、大丈夫ですか?」
 
 「ええ、ちょっと頑張りすぎてしまいました。やっぱり、ヤツがそばにいると思うとじっとしていられなくて」
 
 「ヤツっていうと、あの、怖い人……ですよね?」
 
 「ソルです。と、言っても別に覚えなくても構いませんけれどもね。こうやって同じ街に住んでいるんですから、会うこともあるでしょうが気にしなくても大丈夫ですよ」
 
 「……うそ」
 
 「――――」
 
 これほど容易く嘘を見抜かれてしまうのか。
 それほど、私の顔は解りやすかったのだろうか。
 解らない。私は今、どんな顔をしているんだろうか。
 
 「情けない。自分のことさえ、わからないなんて」
 
 「カイさん……」
 
 「私の正義はなんだったんだ。人を救い、秩序を守ってきた。それが間違いだとは思いません。けど、けど……」
 
 「私が――」
 
 「?」
 
 俯いている彼女の表情は見えない。だけど、その肩が震えていた。
 泣いて、いるのか……?
 
 「私が惹かれたあなたは、そんなじゃなかったです」
 
 「え……」
 
 「うまくは言えませんけれど、今のカイさんは、カイさんらしくありません」
 
 「…………」
 
 私らしくない。
 その、私らしいとはなんだ?
 そう考えてしまったのが間違いだった。一気に頭に血が上っていく。泣くのを我慢してしまったこともあったかもしれない。今まで溜めていたはずの感情のタガが、一気に壊れる音が聞こえた。
 
 「あなたに、私の何が解るって言うんですか」
 
 「それは……」
 
 「私の、何が……!!」
 
 地面に落ちている木刀を拾い上げる。
 自分でもなんでそんなことをしてしまったのか解らないほどに、その木刀を地面に叩き続けた。
 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も……!!
 
 「ああッ!!」
 
 バキッ! と乾いた音を立てて木刀が折れた。
 破片は明後日の方向へ飛んでいき、また手持ち無沙汰になる。
 
 「……どうして、どうしてこんなに」
 
 「甘ったれてんじゃないよ、シャキッとしなさいよね、シャキッと!!」
 
 「――うぎっ!?」
 
 背後への衝撃。
 背中に強烈な蹴りを食らって、顔から地面に突っ込んだ。
 口の中に土が入ってくる。ジャリジャリしていて気持ちが悪い。
 
 「ウジウジウジウジ愚痴って愚痴って、何が楽しいのさ」
 
 「メイさん!」
 
 「……楽しくなんてありませんよ」
 
 顔をあげると、麻帆良中等部の制服を身につけたメイさんが仁王立ちしていた。
 力を入れて立ち上がると、今度は私が彼女を見下ろすかたちになった。それでもメイさんは、私を見上げてくる。確固たる意志を持って、私を見上げてきていた。
 その輝かしい瞳が、なんともうらやましい。
 
 「なんでそんなに荒れてるのかは知らないけどさ、子どもの駄々より性質悪いよ」
 
 「……」
 
 子どもの駄々よりも性質が悪い、か。なるほど道理だ。
 私の正義は、“暴力”なのだから。子どもの駄々は、まだ力のないワガママで済む。
 なまじ力があるぶん私の駄々は、性質が悪い。そういうことだ。
 
 「だったら、どうすればいい?」
 
 「どうもなにも、ボクが知るわけないじゃん。勝手にやってなよ。でもね、ディズィーに文句つけるんならボクは黙っちゃいないよ」
 
 「それは、すまないと思っている。けれど……わからないんだ」
 
 「なにが。何がわからないっていうのさ。わからないなら考える。考えてもわからないなら行動する。行動してもわからないんなら、答えを求めるのを一旦やめる。ジョニーが言ってたよ。難しく考えても、わからないときはわからない。だったら、気楽に行きゃいいぜ、ってね」
 
 自分の歯ぎしりがイヤなほど聞こえてきていた。
 その歯ぎしりが、耳に残る。ぎちりぎちりと肉が歯車に挟まれて潰れていくような音がする。
 口元から、顎にかけて生温かい感触が流れていく。
 
 「……しばらく放っておいてもらえませんか。今の私は、誰が相手でも何をするかわかりません」
 
 「…………ディズィー、行こう。お兄さんといちゃあ、何されるかわからないよ」
 
 「でも、その、あの……」
 
 誰の顔も見れない。
 今誰かの顔を見てしまっては、何をしてしまうかわからないほど、荒んでいるのが判る。
 
 二人はさっさと帰っていってしまった。
 私は、今はエヴァンジェリンさんの家にも帰れない。落ち着くことができない。そうなれば、きっとエヴァンジェリンさんの大目玉を食らうだろう。今の私がその怒鳴り声をスルー出来るほど大人になれないのは、自分が一番よく知っている。
 
 ゆっくりと立ち上がって、街とは逆方向、山奥の方へ足を向ける。
 あるいは、身体を動かせば少しはマシになるかもしれない。期待はできそうにないが、やるだけならタダだ。
 今は、なんでもいいから暴れたい。
 こんな木刀を振るだけではなく、全力で、力を出してみたい。
 
 「……行くか」
 
 今はまだ、正義がわからない。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 情報が集まらない。
 魔法使いどもに聞いたとしても、返って来る答えはいつも同じ。
 『ありえない』『知らない』『わからない』。
 
 「くそったれめ」
 
 苛立ちが募る。
 最初は、帰るためだけにここに留まるつもりだったのに、どうした経緯でこうなったのか。
 魔法が世に知れ渡るのがこの時代だというのは、まず間違いない。
 
 それを食い止める。
 なぜ、食い止める?
 本当に、この歴史は俺たちの歴史と繋がっているのか? その確証もないのに、それを決めつけていいのか?
 元の目的を達成できなければ、本末転倒じゃないのか。
 つまり、俺たちの世界、時代に戻るという目的を。
 
 「…………」
 
 今までは、この世界が、俺たちの世界の過去であることを前提として考えてきた。
 しかし、そうでないとするのなら?
 
 しかしだとしたら。
 天文学的確率が、連続で当たったというのか。つまりは、俺たち全員が同じ世界に飛ばされたと言う可能性。
 なんらかの要因が原因になって、二つの世界が入り混じろうとしているのではないのか?
 
 すべての要因を書き記された世界『バックヤード』。
 これが本当に存在するというのなら、今ほどこの世界を覗きたいと思ったことはない。
 
 ……予防線。
 どう転んだとしても、魔法の情報を世に出すわけにはいかない。
 それが自然なものであるならまだしも、一個人が実行しようとしているとなれば、話は別だ。
 俺は、そいつを殺す。
 
 時間もあまり残されていないようだ。
 この頃、あの大樹の活動が活発化してきている。
 タイムリミットはもう近い。
 
 「もしもし?」
 
 「あ?」
 
 「ややや、噂通り怖い人だねー」
 
 「誰だ、てめえ」
 
 「ただのミーハー女子中学生だよ」
 
 「……なんの用だ」
 
 ニヤニヤした笑いが気に入らない。
 中学生らしい女は俺の周りをぐるりと一周歩いた。身体を上から下まで観察されている気分だ。
 正面に戻って来ると、またニヤニヤと笑い始めた。
 
 「良い身体してるね。どうかな、ウチの店で働かない?」
 
 「あん?」
 
 「今ちょうど男手が足りてなんですよね。お給金いっぱいあげますよ」
 
 「……くだらねえ」
 
 女から背を向けて、さっさとそこから離れていく。
 後ろから足音。振り向かなくても、あの女がついて来ていることくらい判る。
 とにかくそれを無視して、情報集めに専念する。
 いつものように酒場に向かい、マスターと情報の交換をする。魔法関連の情報はもちろん入ってくるはずもないが、それに近いことは入ってくる。
 動きが妖しい学生組織や、大学サークル、教師、外部からの来訪者などの情報は入ってくる。
 だがしかし、入ってくる情報はいつもと同じ。
 変わり映えのない、ミーハーどもの小賢しい考えから生まれた行動のみ。
 
 酒場から出ると、あの女が壁にもたれかかって待っていた。
 いつまで付いて来る気かは知らないが、できれば、うっとうしくなる前に消えてもらいたい。
 
 「何をお探し?」
 
 「…………」
 
 「それとも、“誰”かを探してるのかな?」
 
 「…………」
 
 「情報、安くしとけれど」
 
 「……そろそろ黙れ。うせろ」
 
 「おお、こわいこわい。そんなにすごんでちゃ女の子も近寄らないよ? お兄さん、黙ってたら結構カッコイイと思うのにな」
 
 「黙れと言った。うせろ、ガキ」
 
 「つれないねー」
 
 いつまでも女はついて来る。
 うせろと言ってもついて来る。消えろと言えば笑いながらついて来る。
 暴力をチラつかせても、構わずに追ってくる。
 
 「誰だ、お前は」
 
 「お。やっと私に気を向けてくれた」
 
 「誰だ、と訊いている。答えろ。余計なことは口にするな」
 
 「怖いからそうする。私の名前は超鈴音。超包子っていうお店のオーナーしてる」
 
 「そのオーナー様が俺に何の用だ」
 
 「だから、働かないって訊いてるんだけれども」
 
 「情報がどうとか、言ってなかったか」
 
 「うーっぷす。覚えてた?」
 
 「あれだけ突っ込んだ訊き方をすれば、覚えているに決まっている」
 
 女――超鈴音は頭を乱暴に掻くと、今までのニヤついた笑顔ではなく、ニヒルな笑いをもらした。
 なまじ、普通の中学程度の女がするような笑顔ではない。
 ――――直感。
 こいつが、犯人だ。
 
 「学園長のお抱え仕事人。学園内であれだけ動けば、イヤでも情報は入ってくるよ。あなたのことは知っている。ソル=バッドガイ。現麻帆良の最高戦力」
 
 向こうも俺の目付きが変わったことを目敏く読みとったのか、情報をもらし始めた。
 自分は敵ではない。そういう主張が聞こえてきそうな内容だった。
 
 「それで、なんの用だ?」
 
 「あなたが味方になればこちらとしても動きやすいんだよ。どうかな、協力してもらえない?」
 
 「――――」
 
 どうやら、こちらがどういう目的で誰を探してるのかまでは掴んでいないらしい。
 もし、俺のことをそこまで解っていて“超鈴音”を探していると解っていれば、近づいてなど来ないだろう。
 絶好のチャンス。
 
 「教えてやろう」
 
 「何を?」
 
 「俺が誰を探し、なんのために動いていたか」
 
 「それは興味があるね。協力してくれるなら、私もその人を探すのに協力させてもらうよ。ギブ&テイクよ」
 
 「殺すためだ。ヤツを殺し、世界に凄惨な二の舞を踏ませないためだ」
 
 「それは物騒な話しだね。それで、それは誰のことなのかな?」
 
 油断しきっている超鈴音の胸ぐらを引っ張り、自分の方に寄せた。
 同時に、封炎剣を解放。心臓を貫くように、胸に突き刺した。封炎剣にありったけの法力をつぎ込み、逃げる間もなく焼き尽くす。
 声を上げる間もなく、どろどろに溶けた超鈴音だったものが地面に垂れ落ちた。
 熱せられ、真っ赤になった溶解物が広がっていく。
 
 「てめえだ」
 
 人間が溶ければ、こうはならない。
 奴の胸ぐらを引っ張った瞬間にわかった。今目の前にいたのは超鈴音じゃない。
 まさか、過去の科学技術がここまで高度に発展しているとは思っていなかった。
 ――俺が殺ったのは、ただの木偶人形、ロボットだ。
 
 「気に入らねえ」
 
 急き過ぎた。
 これは俺の失態だ。これで超鈴音は絶対に俺の目の前には現れなくなった。
 魔法をバラす、その瞬間まで。
 
 
 * ~ * ~ *
 
 
 「回避する方法は一つ。ふたつの可能性を同時に提示すること」
 
 作業に没頭しながら、口で違うことをまとめていく。
 手元で座標操作、口で回避方法。しかし、そのどちらの方法もが難しい。
 しかし、時が経つにつれ変動する確率。それも、大きく大きく。やりやすい方向に移ろうのはいいのだが、そうなると回避の方がより難しくなっていく。
 座標操作が簡単になればなるほど、それは二つの世界の接点が大きくなっているということ。
 元々あり得ない座標を捜索し、入力し、一時的に同調させる。そして、ゲートを開き、世界を跳躍する。
 
 そこから両方を渡り歩き、徐々にイレギュラーを取り除いていく。
 幸い、どちらの世界も『バックヤード』の影響下だ。一定数以上の座標を探り当てれば、それを元にゲートを開くことは容易い。
 しかし、そのあとが問題だ。
 
 「ふたつの可能性。つまり、魔法が知れた世界と魔法が知られない世界」
 
 どちらかを犠牲にしてはいけない。
 どちらも存在していなければならない。
 完成した歴史の上に建つ現代と、未来を知らない過去の可能性を同時に提示すること。
 それが、世界消滅を回避する今思いつく限りの最善の方法。
 
 そのためには、強烈な不確定要素の存在が必要になってくる。
 つまり、強大な力を持つ存在がどうしても必要なのだ。
 シュレディンガーの猫を閉じ込めるための、強力な箱が必要だ。
 
 ならばその箱とは何か。
 フレデリックや、例の騎士団長とすら拮抗できる存在。
 それすなわち、『神器』と対等に渡り合う存在だ。
 
 「今のフレデリックなら、あるいは」
 
 賭けるしかない。
 例え僕がどうなろうとも、世界を滅ぼさせはしない。
 すべては世界のために。
 
 「レイヴン。いるかい」
 
 「は。ここに」
 
 「君に頼みたいことがあるんだ」
 
 「なんなりとお申し付けください。微力ながら、全力を尽くす所存」
 
 「ありがとう。では、内容を伝えよう」
 
 レイヴンに伝えた内容は至極簡単なものだ。
 しかし、それを実行するとなると話は別。彼を見込んでの頼みだ。
 僕が話している最中は決して質問を入れてこようとはしなかったが、話が終わると、むぅ、と唸った。
 それでも、彼は頷いてくれた。「御意」の一言と同時に、彼の姿が闇に消えていく。
 
 「頼んだよ、フレデリック。ここからは、君にしかできないことだ」
 
 僕たちの世界を肯定する存在と、そして、否定する存在。
 この世界に生きていながら、フレデリックはこの世界を否定する存在。否定するだけの力を持った存在。
 
 名を『背徳の炎』。
 世界を憎悪で焼き尽くす者。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:36  end
 
 
 
 
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コメント

初めまして。
いつも背炎を楽しませていただいています。
どんどん盛り上がっていく中、カイの不安定さがどう転ぶか楽しみです。
これからも頑張ってください。

クック様への返信。

ども、草之です。
 
> 初めまして。
初めまして、クックさん。これからもよろしくお願いします。
 
> いつも背炎を楽しませていただいています。
> どんどん盛り上がっていく中、カイの不安定さがどう転ぶか楽しみです。

どもです。
カイの不安定さ加減が難しい。キレるときはキレるぞ、という雰囲気がにじみ出ていればいいのですが、いかんせん、このごろ筆に勢いがなくなってきたのではないかと思い始めていまして。ちゃんと表現しきれているか、不安です。
 
> これからも頑張ってください。
はい、応援、本当にありがとうございます。
コメントがあると、やっぱり活力が湧いてきますね!
 
では以上、草之でした。
ありがとうございましたっ!!
 

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草之 敬

Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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