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2018-12

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ゴッドイーター 【神偽の剣】 第一話

※ゴッドイーター本編ストーリークリア(難易度6)までのネタばれが含まれます。
それらが苦手な方は回れ右、もしくはブラウザバックを推奨します。
また、独自解釈などによりアイテムの効果が違うものがあります。
それらも苦手でしたら同じくブラウザバック。
 
それでもおkって方は、『全文を表示』から本編を読み進めてください。
 
 
   
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「いいですか? 私が開幕一発目を撃ち込むので、二人は銃声と同時に接敵してください。私とジーナさんで接近のフォローをしますから、アリサは前でアキラくんを補助してあげてください。とりあえず、最速で、合流される前に狩ります」
 三人は声無くうなずき、素早くポジションについた。
 今回のターゲットはサリエル2体。小型アラガミの存在は確認されていないらしく、比較的楽なミッションであると言える。相手がサリエルとなれば、なおさらだ。
 空中機動を手に入れたアラガミの中でも比較的大型のサリエルは、とにかく脆い。学者たちの見解は「浮遊するために軽量化した結果、装甲の弱化が起きた」とのことだ。しかし、そのサリエルは軽いゆえに素早い。ヴァジュラ種やコンゴウ種のような瞬発力はないが、空中を揺らめくように飛ぶサリエルはちょこまかと捉えづらい動きをする。
 なので、サリエルに対しては奇襲・速攻を基本とした戦略を取ることが常だ。遠距離からの奇襲と、それと同時に行われる接敵による速攻。銃弾を絶えず撃ちこみ、その場に釘付けにし、撃ち落とす。接敵した前衛が追撃、という流れを取る。
「ふぅー……」
 神機を銃形態に変形させ、エイムモードを起動し照準を表示させた。霧がかった鉄塔の森の視界はすこぶる悪い。25mと離れれば、もはやシルエットでしか標的を確認できないほどだ。
 ベルトポーチから超視界剤を取りだす。それとほぼ同時、シルエットでのサリエルを確認する。一錠を飲み込み、照準を合わせる。数秒も経たないうちに霧が晴れていく。正確には、霧すら気にならないほど視力が発達しただけ。ほぼ目の前にいるように見えるサリエルに照準を微調整して合わせていく。出来れば、頭を撃ち抜きたい。
「――――、っ」
 ばぁン!
 銃弾が吐き出される。極小サイズの弾丸は、一瞬で加速しきって、コンマ5秒のラグもなくサリエルの頭を撃ち抜いた。サリエルの頭が弾ける。ぐらりとバランスを崩すも、すぐに態勢を立て直し、こちらを向いた。
 アリサとアキラくんが走り込んでいるのを確認してから、ジーナさんを振り返る。うなずき合って確認し、一緒になって銃弾を吐き出していく。オラクルが切れたのを確認してから、私も前衛へ加わるべく、神機を剣形態に変形させサリエルに向かって前進する。
 ちょうど距離を半分詰めたあたりで、サリエルは落ちた。ロング型刀身の神機を持つアリサとアキラくんは、一撃ごとのタイムラグを出来るだけ少なくするように、連繋を取り合った連戟を加えている。
 さらに力強く、地面を蹴りあげ加速する。
 もぞり。サリエルが活動を再開し始める。スカート部分がぶわっと広がり、浮遊する態勢を取った。間に合え。願いを込めてさらに加速した、その私の横を、尾を引いたレーザーが駆け抜けていった。振り返るまでもない。ジーナさんの狙撃だ。
 彼女の放ったレーザーは、飛びあがろうとしていたサリエルの脳天を撃ち抜いた。結合崩壊。浮遊を始めていたサリエルは、たまらずまた地面に伏した。
 ドン! 地面を蹴り上げ、空高く跳躍する。空中で神機を肩に担ぐように構え、狙いを定めた。ノコギリ状の刀身から、黒いオーラが噴出される。それを確認し、目の前に迫ったサリエルの顔面目掛け、渾身の力を込めて神機を振り下ろした。
 ――――ぐッしゃア!!
 血飛沫を飛び散らせながら、サリエルの顔面がバラバラに弾け飛ぶ。サリエルの全身から力が抜けていくのが解る。対象が完全に沈黙したことを確認してから、後方のジーナさんを手を振って呼んだ。
「ふぅ。助かりました、ジーナさん」
「礼を言われるようなことじゃないよ。撃ちたいから撃った、撃ったら当たった。それだけ」
「はい。だから、ありがとうございます」
「……相変わらずだね、君は」
 コアの回収に取りかかろうとして、全身が固まった。しばらくの逡巡ののち、指示を飛ばすことにした。
「アリサがコアの回収を、ジーナさんは彼女の護衛をお願いします。私とアキラくんは周辺哨戒。霧で視界が悪いから、味方が見える位置まで限定」
 自然に指示は飛ばせていただろうか。不安を抱えながら、私は歩き始めた。
 霧がさらに濃くなってきている。ここまで濃くなるとは報告されていない。いつになっても、自然現象だけは完全な予測が出来ないということだろう。偵察班ばかりを責めてもいられない。任務を遂行する。そして、成功を収める。それでいいじゃないか。
 周辺を見回しても特に動きはない。もう一体のサリエルは、おそらくエリアの正反対にいるのだろう。振り返ってみんなのところに戻ろうとして、霧に囲まれていて、誰の姿も、シルエットすら見えないことに気がついた。ここまで早く霧が濃くなった?
「違う、馬鹿、超視界剤が切れただけ……!」
 完全に私の失敗だった。霧が濃くなってきた、と感じていたのは本当に霧が濃くなってきているからなのではなく、超視界剤の効果が衰退してきていたからだ。そして今、完全に効果が切れた。霧に囲まれ、10m先も見えない。心臓が暴れ始めた。痛いほどに胸を叩く鼓動。
 マズイ。
「……もう一本、使った方がいいかな」
 ごそりとベルトポーチから超視界剤を取りだす。しかし思いとどまって、錠剤をポーチの中へ戻した。深呼吸をする。大丈夫、もし遭遇しても、サリエル一匹相手ならみんなが来るまで持ちこたえられる。視覚ではなく、聴覚を研ぎ澄ます。
 るー、るー、というサリエルの飛行音。それほど離れた位置にいるわけじゃないようだ。
 息を殺す。心臓の音でバレやしないかとハラハラして、余計に鼓動が速くなる。
 湿度のせいか、それともただの冷や汗か。背中を伝う汗が、とんでもなく気持ち悪い。
「――――」
 歌うような浮遊音がどんどん近付いて来る。霧にまぎれて見つからないのが一番だが、そうなると後方のみんなに連絡が出来なくなって、結果サリエルの強襲というカタチになってしまう。
 結局、とれる行動は多くないということだ。
 サリエルのシルエットが霧に浮かんだ。もう目と鼻の先に敵がいる。ベルトポーチから、音が出ないようにそっとスタングレネードを取りだした。この霧だ、あまり遠くても効果は期待できない。出来るだけ近づいて投げつける。その光にみんなが気付くのに賭けて、私とサリエルの一対一。
「っつ!」
 スタングレネードを高々と投げた。反射的に目を腕で覆って防御する。バシュッ! という音と同時に、目を隠していても分かるほどの強烈な閃光が走る。
 神機を銃形態に変形させ、目を眩ませているサリエルに向かって――――、
「な……っ」
 サリエルは、こちらへ向かって突進してきていた。地面スレスレを滑るように飛んでくる。スタングレネードを避けられた。たぶん、背中を向けている時に投げてしまったのだろう。この霧で判りづらかったとはいえ、失敗続きなんてシャレにもならない。
「ぐ……!」
 装甲の展開は間に合わない。もうすでに銃形態に変形し終えている。今からなら剣形態に戻せても、装甲を展開するまでには至らない。
 神機そのものを盾にして、サリエルとの間に構える。ガツン、と衝撃。しっかりと防げたと言っても、所詮付け焼刃の防御だった。体が浮かび上がり、放物線を描いて吹き飛んでいる。態勢を立て直そうと、もがいてみるが、衝撃に体が痺れていてうまく動いてくれない。マズイ、と思った時には、背中から地面に叩きつけられていた。
「かっ、は!」
 肺から空気が一気に抜けていく。息が吸えない。立ち上がれない。動けない。
 ここで死んだら、それこそシャレにならない。笑えない。
 無理矢理吸った。ひゅうっ、と喉が鳴った。動く。体が動く。
 立ち上がるのと同時に、剣形態へ変形。ステップで相手の懐に踏み込んだ。加速と、重量とをかけた、高速の一撃。空中にいるサリエルにも届く、縦一文字の振り下ろし。ノコギリ状の刀身がサリエルの片足に引っ掛かって、急に重量が増した。それを無視して、一気に振り抜く。
がァン!! 鉄板張りの地面がひしゃげた。サリエルもろともを地面に叩きつけることに成功した。ぐったりとして起き上がる気配を見せない。しかし、完全に活動停止したわけではないだろう。
 今なら誰もいない。神機が音を立てて開いた。涎を啜るような音が周囲に響く。
 捕喰形態(プレデター・フォーム)。心臓が、また一段と大きく、強く鼓動を刻み始める。
「いただきます……ッ!!」
 大口を開けた神機が、サリエルの下半身に喰いつく。ビチビチッと繊維の切れる音と、鮮血が地面にボトボトと落ちる音が断続的に周囲に響く。絶えず鳴っているのは、私の心臓と、サリエルの悲鳴だけ。
 心臓の高鳴りがさらに増す。興奮、という言葉で片付けられるほどの速さでなくなっている。捕喰による身体能力の活性化に伴って、人の限界を明らかに越えた心肺機能を発揮している。全身から発汗する。
「ぐ、が……っ」
 自然と、私の口から涎が滴る。もっと、もっとと神機が唸っている。
 心臓が、一際大きく脈動した。ドクン。
「あ、ああ……アアアアァアッ!」
 がむしゃらに叩きつけた。一振りするごとに、サリエルの肉片が飛び散っていく。理性が吹き飛びそうになる。平静を保てない。ただがむしゃらに、叩きつけるのみ。
 気がつけば、凄惨な景色が目の前に広がっていた。周囲にはサリエルの肉片や血飛沫が点々と散乱しており、本体であるはずのサリエルが、まるで肉団子のようになっていた。手元の神機は、その肉団子を美味しそうに食べている。それを認識した瞬間、全身に快感が駆け巡った。ガクガクと足が震えて、立っていられないほどに気持ちがいい。
 その場に、ぺたんと座りこんでしまった。ぐしゃっ、と血だまりが弾ける音がした。
「はぁ……はぁ……」
 腰が抜けたように、下半身に力が入らない。流れていく汗にすら反応するほどの官能が、捕喰行為にはあった。この頃、コア収集をすればこうなってしまう。戦闘中の捕喰ならまだ、なんとかなるのだが、こればっかりはどうしようもない。
 しばらくの間神機に寄り添うようにうな垂れていた。息遣いも回復して、鼓動はまだ少し早いけれど、こっちもだいぶマシになってきた。さあ、立ち上がろうという時に、背後から叫ぶ声が聞こえてきた。
「隊長! どこですか、隊長!」
 よく通る、少し高めの叫び声。まだまだひよっ子だけど、将来はきっと立派な神機使いになってくれるだろう少年の声だった。
 名前を――、
「アキラくん、こっちです。どうやら、スタングレネードの救難信号は届かなかったみたいですね。もう一体のサリエルは私だけで仕留めましたよ」
「無茶しないでくださいよ。なんで後退しなかったんですか?」
「自信でしょうか。サリエルくらい、って。まあ、結果は散々ですけどね」
「……まったく。じゃあ、立てますか。アリア隊長」
「だらしない隊長でごめんね」
「それは、俺には言わないでください」アキラくんはバツが悪そうに視線をそらした。「隊長がだらしないなら、俺なんて……」
 ゴッドイーターになる者には、大きく分けて二種類の人間がいる。
 自らの生活のため、家族の生活のため、その身を賭して志願する者。
 もう一方は、己がため、強さを手に入れたいがために志願する者。
 アキラくんは、どちらかというと後者に近い人だった。守るモノはすでに奪いつくされ、この世に絶望を見た少年。だけどそんな境遇は、この時代じゃ珍しくも何ともない。よくある話だ。守るモノが居続ける人の方が、よっぽど稀有で尊い存在だと思う。
「俺、この神機に似合ったゴッドイーターになれるでしょうか?」
「どうでしょう。前にそれを使ってた人は、英雄だから」
「英雄」アキラくんは私の言葉を反芻した。
 不安そうな陰が彼の顔に落ちる。思い返すのは、ツバキさんの言葉だ。
『伝える必要のなかったことをアキラに伝えてしまった。確かに調べればいずれ気付くことだが、今のヤツには重すぎる。アリア、どうかヤツを頼む』
 責任を押しつけてすまない。ツバキさんは、そうも言っていた。
 アキラくんの神機は、近接系旧型、ロングブレードタイプ。銘を『ブラッドサージ』。雨宮リンドウ前部隊長の神機である。
 確かに、そんな話を配属された瞬間に聞かされでもしたら気が滅入る。遠回しに『お前は期待されている』『お前は期待を裏切ってはならない』『お前は前部隊長同等の働きをしなければならない』と言われているようなものだ。新兵に一体何を言っているのか、そんな義務、どこにあるのか。
 ツバキさんのことを、初めて叩いた。彼女の真っ赤になった頬を一瞥してから、その日はアキラくんを任務に連れて行った。
 後日、ちゃんと謝りはした。ごめんなさい、出過ぎた真似でした。しかし、ツバキさんの返答は、意外なモノだった。
『謝るな。謝らないでくれ。お前は正しいことをした。アレは私の失態だ。罰を受けてしかるべきだった。それが、私でよかった』
 そのとき、やっと思い出せた。リンドウさんが死んで、一体誰が一番辛かったのか。
 姉弟でありながら組織の中間管理職者として、リンドウさんの死を、誰よりも明確に認めなければならなかった一人だというのに。誰が悪い、誰が悪くないのかの問題ではなくなっていた。
「しっかり訓練して、実戦経験を積んだら、君だって英雄です。誰が何と言おうと、私は英雄だと思います」
「隊長……」
「さて、帰りましょうか。ほら、アリサとジーナさんも来ましたよ」
 霧に映るシルエットが、だんだんと人の色を取り戻し始めていた。それは見間違いようもなく、アリサとジーナさんで。二人とも、どこか心配そうな顔を浮かべていて。
「もうっ、なにしてるんですか! こういうときは逃げろって言われてたんじゃないんですかっ!?」開口一番、アリサはプリプリと怒りながら詰め寄って来た。「心配する身にもなってください。アラガミに食べられるよりも先にまいっちゃいますよ」
「私もアリサに同感だな、隊長。今回は失敗が多かったように思う。組織的には結果討伐成功で咎める道理もないのだろうけど、私たちは仲間だろう。仲間として、あなたを咎めたい」
「手厳しいです」苦笑いを返して場を濁した。
 今日も無事に、誰が欠けることもなく任務を終了。
 アナグラへ、みんなで帰ることが出来る。
 みんなで笑い合える時間が、また増える。
 
 
 ミッション【希望】からちょうど一年が経つ。
 シックザールが書類上事故死ということになってから、本部は新支部長をよこす気配もない。今はどこも人員不足ということだろう。
 アリサは一度帰郷したけれど、半年経った今、またここ極東支部『アナグラ』へと帰ってきている。素直じゃない性格は相変わらずで安心した。
「じゃあ、報告はしておくので、今日は解散です。ジーナさんは第三部隊にも関わらず、手伝っていただいてしまって……、ありがとうございました」
「構わないよ。君らの部隊は一人減ったんだもの、しょうがないと言えばしょうがない。また何かあったら呼んでくれ。君らとの狩りは、緊張感溢れる」
 ジーナさんはそう言い残して、エレベータへ乗り込んでいった。
 私たちは慣れたものだったけれど、アキラくんだけが微妙な顔をしていた。ジーナさんのあの態度は、ちゃんと彼女の性格を知っていなければあれが褒め言葉だということに気付きにくい。アキラくんは「緊張感溢れる」という言葉を皮肉に捉えてしまったのだろう。
「……減った一人って、ソーマ隊長のことですよね?」
「そうですよ。ソーマくん。ちょうど、アキラくんが入隊した時期に重なって新部隊長に昇進したんです。『俺が務められるかはわからないが、お前に出来たんだ。俺に出来ない筈がない』って皮肉を言い残して第一部隊から異動していきましたよ」
 部隊表を確認すると、ソーマくんの部隊は今演習中らしい。新人が多い部隊だと聞いた。そのせいもあるのだろうけれど、ソーマくん自身も隊長として、演習をしたいという気持ちがあったのだろう。
「さーさー、いつまでも突っ立ってないで。アリアは報告、配給は私たちに任せて」
「それじゃ、お願いしますね」
 配給所にアリサとアキラくんが並んで歩いて行くのを見送ってから、報告のために私は区画移動エレベータを呼ぶ。ごぅーん、と重い響きがして、エレベータがやってきた。それに乗り込んで扉を閉めようとしたときに、走り込んでくる人影があった。
「そこのエレベータ、ちょっと待ってー」
 かわいらしい声だった。扉を閉めるのを中止するのと同時、部隊表に目をやった。ソーマくんの部隊のランプが“待機中”に戻っていた。
 息を弾ませて乗って来たのは、アキラくんと同期の近接旧型神機ショートブレードタイプの神機使い、イオリだった。
「はあ、はあ、間に、あったぁ~」
「お疲れ様です」
「いやー、ホントウチの隊長ありえないって。ちょっとスタグレのタイミング失敗したらすぐ怒鳴るんだもん。確かに貴重品だっていうのは判ってるけどさー」
「ソーマくんは、そんなに厳しいですか?」
「厳しいのなんのって、そりゃもー鬼よあれ。失敗したらイチイチ神機の刀身こっちに向けて構えるんだもん」
「それはいけませんね。今度、言っておきます」
「ええ、ええ、存分に言ってやってちょうだいよ。ていうか、アンタが言える立場……じゃ、ないことない、ですね。はは」
 イオリの顔から血がさぁっと引いていく。
 意地悪くニコニコと笑っていると、彼女は面白いまでに飛びあがって土下座した。すいません、すいません!
 別に気にしていませんから、と答えると、そろりと顔を上げ、こちらの表情をうかがった。
「似てる人は多いですし」
「そういうことじゃない気がしますけど……、はい。やっぱり黙っていてください」
「どうしてですか?」やっぱり意地悪く、わざとらしく続けた。「ソーマくんの部隊員のイオリがソーマくんのことを“鬼”だと言っていたのを聞いたから、もっと鍛え方を考えるべきですよ、と忠言しに行くだけですよ?」
「匿名希望です!!」
 だぁっ、と涙を滝のように流しながら、イオリは私にしがみついてきた。というか、匿名なら言ってくれも構わないってことだよね、それ。
 冗談ですよ、と言うと、あからさまにホッと息を吐いていた。
「驚かさないでくださいよ」
 驚かすつもりではなく、いじるつもりだった。そんなことが言えるはずもなく、私はニコニコと笑うだけだった。
 チン、と軽い音と同時にエレベータが新人区画で止まる。イオリは頭を下げ、失礼しますと言って出ていった。手を振って見送ってやると、バツの悪そうな笑顔を返してくれた。本当にからかい甲斐のある子だと思う。
「さて」
 最後にもう一度、報告をまとめておく。
 と言っても、重傷者が出たわけでもなく、欠員が出たわけでもないので、簡単な報告だけで済む。道具は何を使用したか、チームの疲労度はどのくらいだったか、討伐時間はどれほどだったかなどなど。慣れたものだった。
 ラボラトリで降り、突き当たり正面の扉へ入室した。
「第一部隊、任務完了しました」
「ごくろうさま。ちょうどお茶を入れたところだったんだ、どうだい、君も一緒に」
「ごちそうになります」
 ソファに腰掛ける。研究室の主、そしてこの極東支部の支部長代理であるペイラー・榊博士は、微笑みを絶やさず、にこやかにお茶を私の前へ出してくれた。
 それを一口啜ってから、サカキ博士はやさしい声音で言った。
「さて、じゃあ、報告を聞こうかな」
「はい。サリエル二体、無事討伐完了です。目立った怪我をした者もいません。消費したものは、超視界剤と、スタングレネード。やはり小型がいなかったせいもありますね、苦戦らしい苦戦はしませんでした」
「それは良かった。報酬は支払っておくよ。あとでちゃんと確認しておいてほしい」
「了解です」
 そこまで話してから、研究室の扉が開いた。仏頂面で入って来たのは、今まで演習をしていたソーマくんと、それを担当していたツバキさんだった。私がいることに気がつくと、ソーマくんはぎこちない言葉ながら「御苦労さま」と言ってくれた。もっとリスニングした言葉に近いもので言うなら「死んでなかったんだな」だけれども。
「演習は無事終了だ。だが、イオリがまたスタングレネードを無駄遣いしやがった。アイツへのスタングレネードの配給は最低限にして、もっと貴重品だということを教えた方がいい」
「それでケチになってしまったら、スタングレネードを持っていても使わない、なんて癖がつくかもしれませんよ?」
「使いどころは俺がしっかり教える。お前はお前の部隊のことだけ考えてろ。余計な口出しはするんじゃねえ」
「冗談ですよ。了解です」
 ツバキさんは私たちの会話が終わるのを待って、サカキ博士に演習記録を提出した。博士はさっそく記録片手に端末へ向かう。まるでおもちゃを与えられた子どものようだ、と誰もが思う愛嬌のある行動だった。
「アキラはどうしてる?」
ツバキさんがアキラくんについて訪ねてきた。問題はありません、そう答えると、少し安心したように「そうか」と短く答えるだけだった。
 しばらくはサカキ博士の端末のキーボードを叩く音だけを耳にしていたが、その音が唐突に止まった。
「そうだ、思い出したよ。アリアくん。君に特務があるんだ」
「特務、ですか」
「その通り。君を極東支部きっての精鋭と見込んでの特務だ。今聞くかい? それとも、しばらく休憩してから聞くかい?」
「休憩させてもらいます」
 なんせ、特務だ。通常の任務とは違い、部隊長クラスにしか出されない、高難易度と認定された任務。接触許可が下りた禁忌種相手がほとんどだが、たまに、ワケの判らない偵察任務が混じる時がある。そういう任務についていると、サカキ博士の個人的な研究に付き合わされている気分になるときがある。
 とりあえず、今は通常任務から帰って来てすぐだ。休まなければ体がもたない。
「急務なら俺が行く」
「そうかい? アリアくん、どうする?」
「ソーマくん、いいんですか?」
「俺は構わない」
「なら、お願いします」
「ふむ。了解した。じゃあソーマ、説明するから、よく聞いておいてくれ」
「口頭説明かよ。書類は?」
「必要かい?」
「……ち。聞いてから判断する。それくらいは許されてもいいだろう」
「もちろんさ。君が行かないというのなら、アリアくんが行くだろうがね」
 ギロリ、とソーマくんがサカキ博士を睨むと、博士は飛び上がって驚いたフリをした。こほん、と咳払いを挟んで、博士は微笑みながら言う。
「今回の特務は、偵察任務だ。この頃、旧日本東北地方のあたりで新型のアラガミが目撃されている。報告から、コンゴウ種に近い姿だと予想されるが、まったくの新種という可能性も捨てきれない」
「それを確認して来いってことか」
「そういうことだね」
「よかった」
 私が無意識にもらした言葉に、ソーマくんが振り向いた。「何がよかったって?」
 少し、懐疑の視線を向けられる。慌てて首を振って、弁解した。
「あ、あの、楽が出来るとかそういう意味ではなくてですね、ソーマくんに頼んでしまったから、それで、その、つまり、えっと、比較的安全な任務でよかったなって、思って」
「お前がそんな心配することか」
「私の代わりですから」
 そのまま、ソーマくんは口をつぐんだ。
 フードをかぶったままでよく見えないけれど、少し顔が赤くなっている気がした。
「博士、お話はそれだけでしょうか?」
「ああ。今日のところはお疲れ様。ゆっくり休んで、明日に備えてくれ」
 ソーマくんもそれを聞いてむくりと動く。無言のまま研究室から出ていく彼を、私も追う。エレベータを待ちながら、隣に立っているソーマくんの顔を覗く。いつもフードをかぶっているから、覗きこむと自然と向こうとも目が合う。
「……」
「……いつから自分が変わってきたのか、覚えてますか?」
「変わった?」ソーマくんは怪訝な表情を浮かべながら、尋ね返してきた。「俺がか?」
「気がついてないんですか?」
「いや……」
 否定する言葉を探しているようにも、自分の変わったところを考えているようにも見える彼の横顔を見ていると、思わず笑ってしまった。バツの悪そうな顔をして彼は視線をそらせた。
「変われてるのか、俺は」
 照れが入った口調で、ぼそりと尋ねられた。私が見ている分には。そう答えると、彼は満足そうにため息をつくだけだった。
 誰もが変わった。変わらなくちゃいけなかった。
 悲観していても、達観しても、この世界はなにも変わらない。理不尽なまでの一方的な蹂躙。アラガミによる脅威はいつなくなるともわからない。誰も知らない答えを、私たちゴッドイーターは導こうとしているのかもしれない。
「極秘任務ってことは、おそらくヘリも出してもらえない。ジープか徒歩だと思う。迷惑かもしれねえが、その間俺のとこの部隊員はお前に任せたい」
「私の代わりに行ってくれるんですから、それくらいはしますよ」
「ああ、頼む」
 チン、と軽い音が響く。エレベータがベテラン区画に到着した音だった。
 一歩外へ出ると、リッカが冷やしカレードリンクを買っているところに出くわした。この子も本当に好きだなあ。
「あ、お疲れ様。アリア、ソーマくん」
「お疲れ様です。間食ですか?」
「何言ってんのさ。カレードリンクなんだから飲み物に決まってるじゃない」
「ああ、そう?」
 私も一度、好奇心だけで買ったことがあるけれど、あれを飲み物として認識できるのはアナグラ広しといえどもリッカくらいだろう。あれはもはやちょっとドロッとした冷やしカレースープだ。具材がしっかりと入っているのはいいんだけれど、飲み口の大きさに合わせて細かく刻んであるから、ドロッとした食感に拍車をかけているのはどうも良くない。
 リッカに感想としてそれを伝えると、平気な顔をして「それがいいのに」と残念そうな表情を作っていた。
「俺は先に帰る」
 ソーマくんはそんなリッカの腕の中のカレードリンクを一瞥してから、自分の部屋へ戻っていった。
 私も部屋へ戻ろうとしたとき、リッカが声をかけてきた。
「ねえ。ちょっといいかな?」
「冷やしカレードリンクの布教なら、ご遠慮しますけど」
「違うよ!」ごほん、と咳払いをはさんで、リッカは表情を整えた。真剣な顔だった。「えっと、その、アリアの神機さ、戦闘中、なんともない……?」
「なんとも? それはどういう」
「例えば、勝手に捕喰形態(プレデター・フォーム)になっちゃうとか、一瞬だけど意識が飛ぶとか」
「ううん……。心当たりはありませんが」
「そう? ならよかった。ごめんね、変なこと訊いちゃって」
「いえ。何かあったらちゃんと報告しますね」
「そうして。じゃ、お疲れ」
「お疲れ様です」
 勝手に捕喰形態になることはないけど、捕喰した後、しばらくの記憶がなくなっている、というのは心当たりがある。今日の任務のときだって、気が付けばサリエルが肉片に変わっていた。
 解っている。これがどういうことなのか。
 知っている。リッカはこれがどういうことなのか。
 でも、リッカはまだ確証が持てていないだけなのかもしれない。もし、確証が持てるまでになれば、ツバキさんかサカキ博士に相談するだろう。
「……私の血は、どっちなんだろ」
 つぶやくことでしか、抗えなかった。
 
 
 夜が明けて、いつもより少し遅く起きてから一番に自室のターミナルを覗いた。メールが届いていた。ソーマくんからだった。内容はいつも通り、淡々とした業務連絡。最後に「ウチの隊の新人を頼む」と書いてあったのは、ちょっと成長、かな。
 他のメールも流し読みでチェックしていく。ジーナさんからは昨日のこと、アリサからは体調は大丈夫かというメール。アキラくんからはさすがに来ていなかった。
 代わりに、ここ一週間遠方に偵察任務に出ていたコウタからメールが入っていた。昨日の夜中に帰ってきていたらしい。内容は――
『今日、会えないかな』
 たぶん、夜中に帰って来てすぐにメールを打ったんだろう。その一言しか書かれていなかった。たぶん、彼のことだ。まだベッドの中で丸まっているだろう。
「起こしに行ってあげますか」
 部屋着からいつものパンキーパーカーに着替えて部屋を出た。ちょうど半年前に、コウタもベテラン区画に引っ越してきた。エレベータを使わずに彼の部屋に行くことが出来るのは、少し嬉しい。
「コウター、起きてますかー?」
 ドアをノックしても、中からの反応はない。
 やっぱり寝てるのだろうか。コウタから渡されているカードキーをドアに差しこみ、解錠して部屋に入った。部屋に入ると、彼の寝息が聞こえてきた。すぅすぅ、と気持ちの良さそうにベッドの上で寝ている。
 やはり、この一週間はまともな場所で寝ていなかったらしい。
「会いに来てあげたんですけど、寝てるんじゃ仕方ありませんよね」
 先に朝の配給を取りに行くことにした。持ち帰って二人で食べよう。
 エレベータに乗ってエントランスホールに行き、部隊表を確認すると、ソーマくんの部隊は、私の第一部隊に「一時所属」になっていた。メールが届いていた時間はまだ夜中だったから、送ってからすぐに出発したんだろう。
 私を見つけた彼の部隊員が次々に挨拶にやってきた。しばらくよろしくお願いします。こちらこそ、と返すと、安心したように食事に戻っていった。
 そういえば、ソーマくんの部隊は新人が多いんだったっけ。不安にもなるかな。
「せっかくだし、混成部隊で任務にあたってもいいかもしれませんね」
「そうなると、私がもう一つの小隊担当ですかね?」
 つぶやいたつもりの言葉に返事が返って来たので、思わず驚いてしまった。振り返るとアリサが微笑んで立っていた。
「おはよう、アリア」
「おはようございます、アリサ」
 挨拶を交わし終わると、アリサは食事を一緒にどうか、と誘ってきたが、やんわりと断っておいた。コウタの方が先だ。
 どうして、と少し不安げに訊いてきたので、コウタが帰って来たんです、と返した。それだけで察してくれたのか、にんまりと笑った。
「ははあ。ごちそうさまです」
「やだな、そんなのじゃないですってば」
 適当にコウタが好きそうな配給品を取って、アリサから逃げるように背を向けた。
 エレベータの中は、数人の隊員で埋まっていた。私はじっとしていると、よく一般隊員と間違われる。顔は覚えられているのだろうけれど、雰囲気が“隊長”のそれではないらしいし、存在感が薄いらしい。昨日のイオリなんかがいい例だ。
 そして、それは今朝も変わらないようだった。
「ソーマが隊長って、今でも実感わかねーなー」
「でもよ、無愛想なのは変わってねえけど、アイツ、なんか変わったよな?」
「そりゃ、まあな。死神なんて呼ばれてたけど、アリア隊長ンとこの部隊と肩並べるくらいに生存率高いんだぜ。いやでも認めるって」
 私がいれば、絶対に聞けないような話の内容だった。悪くいえば存在感がない、良くいえば気配を殺すのがうまい。日常生活にはいらないのがたまにキズかな。
 他愛もない会話を聞きながら、黙っていた。
新人区画で降りる彼らに「今日も頑張ってくださいね」と声をかけると、顔を真っ青にして、必死の形相で「このことはソーマ隊長にはくれぐれも!」と泣きついてきた。内緒にするよ、と言うと、心底ホッとした表情で、苦笑いを浮かべた。
「そっか。ソーマくんも、認められ始めたんだ」
 それがなによりも嬉しい。
 複雑な身の上、不自然な事故死をした前支部長の息子、それだけでも十分に疎まれるのに、彼と任務につけば、高確率で誰かが死ぬ。そんな話があれば、イヤでも悪いウワサが流れてしまうだろう。
 それをはねのけ、彼は今部隊長として立派に活躍している。
 一緒に戦った仲間として、これほど嬉しいことはない。
 そんな思いを持ちながら、コウタの部屋へ戻って来た。ノックをしても、やはり返事はない。荷物全てを微妙なバランスを保ちつつ片腕で抱えながら、扉を開けた。
 ベッドの上で気持ちよさそうに眠っているコウタを横目に、机の上に配給品を置き、部屋の冷蔵庫から自販機から買って溜めこんでいるらしい飲み物を拝借する。
 しばらくはコウタの寝顔を眺めながら、飲み物をちびちびと飲んでいく。舌の上にどろっとした感触。なんのジュースを選んでしまったのかとパッケージを見ると、『どろり濃厚冷やしコーンポタージュ』となっていた。キンキンに冷えていて少し味が解りづらくなっているが、確かにコーンポタージュのようだ。口に含んでいるうちにひと肌程度に温まると、一気に味が広がってきた。ちょっと濃すぎるかな。
「コウタ、朝ごはんですよ」
「……うぅ」
 布団を頭までかぶり、無言の抵抗。
 それの姿がおかしくてつい笑ってしまうと、それに反応したのか、コウタはむくりと起き上がって来た。
「……おはようございます」
「おはよう」
 少し不機嫌そうなのは、たぶん、自分が可愛いと思われた、とでも思っているからなのだろう。私の方が年上ということもあるからだろうけど、コウタは背伸びしたがる。それが子どもっぽいということに、彼はまだ気付けていないようだけれど。
「朝ごはん持ってきましたよ」
「サンキュー。……そっちは、なんもなかったの?」
「ええ。誰が欠けることもなく、第一部隊は全員ピンピンしてますよ」
「ソーマは?」
「今は特務で旧日本東北地区へ出てます。どうも、新種のアラガミが出たらしくて、その偵察任務みたいですよ」
「へえ。こっちもなんもなかった。オレも東北地方方面に出てたんだけど、ソーマよかアナグラの近場だと思うぜ。で、内容なんだけど、コンゴウ種を筆頭にかなりの数のアラガミが集まってきてるみたいだった。たぶん、ソーマが帰って来るくらいに複数部隊展開による一斉討伐作戦でも出るんじゃないかな」
「なるほど。具体的な数字は、さすがに解りませんか?」
「ちょっとね。でも、半径5キロ圏内にコンゴウ含めて50は軽く超えてたと思う」
「行き先は?」
「どっちに向かってる、っていう雰囲気じゃなかった。なんかその場で待ってるみたいな」
「待っている」
 もしかして、とイヤな考えが浮かんだ。私が黙りこむと、コウタは久しぶりの携帯食以外の食べ物を嬉しそうにほおばって食べていた。私も食事を取りながら、しかし考えるのは今回のソーマくんの(元は私の)特務との関係。
 コウタともう少し話していたかったけど、この考えが当たっていればなかなかマズイことになってきている。一刻も早くそれを伝えるために、サカキ博士のところへ飛んでいく。コウタもついていこうか? と訊いてくれたが、彼は任務上がりだ。ゆっくりしておいてください、と笑って伝えた。
 どうせ、この考えが当たっていればイヤでも戦場へ駆り出されるのだから。
 
 
「コウタ君の報告書には目を通してあるよ。となると、ソーマの帰還にも迎えが必要になるだろうね。よし、わかったよ。ツバキ君と相談して、急務として早急に複数部隊に依頼を出しておく。夜には出ていると思うから、出来れば君も受けるようにしてくれ」
「了解しました」
「しかし、そうか。今回の新型アラガミは“アラガミを統率”する能力でも持っているのかもしれないね。さて、何を喰らってそのような能力を手に入れたのか、なかなかに興味深い研究材料だ。ぜひ、コアは綺麗なままで取ってきてもらいたいものだけどね」
「初見でそんなに綺麗なコアが取れないのはサカキ博士も知っているでしょう?」
 思わず苦笑いがもれた。サカキ博士もそれに応えるように苦笑する。
「……もし、ここに攻めてきたとして、どうだい? 守りきれる自信のほどは」
「自信がある、ないの問題じゃありませんよ。守らなければいけないんです。絶対に」
「いい答えだね。でも、無理はしちゃいけないよ。こう言うのはあまり好きじゃないんだが、君はこのアナグラの個体最高戦力だ。アナグラの総戦力の数%を占めていると言っても過言ではないだろう。君が倒れてしまっては士気にも乱れが生じる。言い方は悪いが、君は偶像(アイドル)なんだよ。――まあ、戦うヒロインというのも乙じゃないかな」
「あんまり嬉しくないですね」
「いやいや、これは冗談じゃないんだけどね、FSDのときの君なんてすごかったじゃないか」
「あ、あれはコウタが……」
 できれば思い出したくない思い出だ。あんな格好、コウタの頼みでももう一生着たくはない。どういう格好だったのか、と訊かれても答える気は毛頭ない。ご想像にお任せします、と投げ捨てる。だからって変な妄想をされるのも困りものだけれども。
「と、まあ、冗談はさておき」冗談には聞こえなかったのだが、サカキ博士は気にせずに続けた。「とにかく君はアナグラにとってとても重要な人物なんだよ。今や、リンドウ君以上に、ね」
「……それはわかってるつもりです。でも、私の中では、やっぱりリンドウさんがこのアナグラでは一番なんです」
 そうかい。サカキ博士はそう言ってコーヒーを口に含んだ。
 もし、今夜に任務が出されたとしても、出動は明朝になるだろう。参加人数を聞いてはいなかったけれどおそらくチームで出動するはずだ。交戦してしまったときのことを考えると、アラガミの数からスタンドアローンということはないだろう。
 さて、となると、誰をつれていけばいいだろうか。経験を積ませる、という意味ではできるだけ新人をつれていきたいところだけど、相手の数が数だ。入れてられても二人。
「夜まで考えます。では、失礼しました」
「ああ。よろしく頼むよ」
 ラボラトリを後にして、エントランスへ上がった。すれ違う人たちから挨拶を受け、それを返していく。タツミさんはいつものようにヒバリちゃんを口説いている。ヒバリちゃんに視線で「助けて」と救援を求められたが、苦笑いを残してその場から立ち去った。今度なにかおごってあげないといけないかな。
 よろず屋さんから超視界剤をひとつだけ購入し、アナグラの一番高いところまでエレベータで一気に上がる。今日は晴れだ。茶色い荒野と、青い空がはっきりと別れていて、薬を飲まなくてもどこが地平線かわかりやすい。
 荒野。
 見渡す限り、アナグラの周りは荒野だけ。砂漠のようになっている場所もあるけれど、ほとんどは荒野だ。だから、そこが危険区域であっても草木が生えているところなんて貴重だ。
 旧・日本。現在の極東地区。
 島国という地形は、この時代、孤島と言って間違いでないのかもしれない。
「……さて」
 目を閉じながら、超視界剤を一粒飲み込む。喉を通って行くのを確認してから、ゆっくりと瞼を開けた。
 とたんに視界が広がる。さっきまでの比じゃないほどに、青空が近い。
 超視界剤のこの感覚が私は大好きだ。視界を通して自然と一体になっていく感覚。自分が薄れて、悩みも何も忘れてしまう軽さ。
 特に今日のような晴れの日は最高に気持ちがいい。
「――――はあ」
 深呼吸。こんな時代の空気でも、おいしいことはおいしい。
 もしかしたら、昔の人からすればおいしくないのかもしれないけれど、私が知ったこっちゃない。私がおいしいと感じている。それでいい。
「…………おいしい、か」
 いつからだろうか。そんな疑問も浮かばないほどに、私はありありとそれを覚えている。我を忘れてしまうほどの怒りと共に、その感情を覚えてしまった、刻んでしまった。
 楽しい、その感情を。
 それの何が悪い? もし私が他人にこのことを話せば、そんな返事が返って来るのは日を見るよりも明らかだ。もちろん、悪い。
 私は、本当に楽しいと思えることが“それ”しかなくなってしまった。今はまだ“それ”を本気でしようなんて思わないけれど、もしこれが偏食因子に反応なんてしたら。
 考えるだけでぞっとする。
 だから私は、空を見上げることが好きだ。超視界剤を使えば、その好きは加速する。
 この好きは、私がまだ人間なんだと確認することのできる、その証拠。
「空は、広いなあ」
 呟いた声すら、青空にまぎれていった。
 
 
 
 
 
「シックザール……ッ!!」
 一年前、ミッション【希望】。そのただなか。
 私は“それ”が楽しいことなんだと、気付いてしまった。
 声が枯れるほどに怒り叫んだ。慟哭にも似た獣の咆哮。それに例えられるほどに、私は激昂していた。あのときの私は、いや、あのときから私は、何かがオカシイ。
「お前は、絶対、許、さない……!!」
 もはやアレがシックザールか否か。そんなことは私には関係なかった。
 のちに名付けられた個体名【アルダ・ノーヴァ】。ただそれを、シックザールと呼んで、なんの間違いがあるのか、そのときの私には微塵も解らなかった。
「イタダキマスッ!!」
 それは、最初の捕喰だった。剛力隆々とした腕を喰いちぎったその瞬間に、神機を通して私の中の何かが戦慄いた。今までの捕喰行為には感じたことのない快楽。全身を駆け巡る電流。力がみなぎって来ると同時に、瞬間それは私の大好物になった。
 そのとき、私はなにを意識していたのか。ただ、「シックザールを喰う」という行為に、ある種の優越感を覚えていたのは確かだった。
『喰う』という行為の意味。それは捕食者による弱者からの徴税。そう、“弱者からの徴税”。意味など、それだけだ。今まで私に命令し、リンドウさんを謀殺し、アリサを惑わし、そしてシオを奪っていった男よりも私の方が、私の方が上だと確認、認識、識別した瞬間だった。それだけだ。たったそれだけだ。たったそれだけのことが、たまらなく、たまらなく、ああ、とろけるほどにたまらなく、私にとっての快感だった。
 “楽しい”。
 なんて、楽しいんだろうと、微塵の疑問も持たず、私はその感覚に入り浸った。
 
 ――――殺してやる。
 
 にやり、と。口角がつり上がったのが自分でも解った。瞳孔が開き、口内によだれが充満する。涙と、血と、よだれで、私の顔は濡れにぬれた。
 最高だった。敵にむける殺意がこれほどまでに心地良く感じ、敵にむける情熱がこれほどまで昂ったことはなかった。そう、私は今、人を殺すために剣を揮っている。
 殺人許可証。なんて甘美な響きなのだろうか。ひとつ肉にめり込んでは裂ける音が気持ちいい。ひとつ肉をえぐれる音が気持ちいい。
 弱者からの命の徴税。シックザールをこの手で殺す。その悦びは、ナニモノにも替え難い。命を摘み取るという行為、その意味、それを成す心の狂気。
 
 ――――シックザールを、この手で殺す。
 
 私はそのとき、確実に足を一歩踏み出したと感じた。いや、直感した。
 電光石火の勢いで、その直感は全身を駆け巡った。
 私はそのとき、確実に一歩を――外に向かって――踏み出したのだと、直感した。
 終わってみれば、それはなんでもないことだった。うたかたの夢。
 ぐじゅり。私の神機が、アラガミの肉塊にむしゃぶりつく。ぶつぶつ、と筋繊維を千切る音が耳に届く。ごきゅり、と喰いちぎった肉を取りこむたびに、今までアラガミを喰ってきて気が付けなかった味を感じるようになった。最高だ。なにもかもが、極上だ。
 自覚のなさ。それが、私の“快楽”を圧し込めていた。
 
 ――――つまり、私は、生まれ持っての殺人鬼。
 
 命を奪うこと。つまり殺すこと。
 それこそが、最高の調味料だった。私の人生における起爆剤。
 衝撃の事実。なんてこった、そりゃないよ。驚愕の真実。あってたまるか、そんなこと。一人芝居ができるほどに高揚したテンションは、ミッションが終わっても、目の前でシオが月面へ飛び立っても、なにもかもが陳腐に思えて仕方がなかった。感動なんて、できなかった。ただ私自身が、生まれて初めてようやく自分自身に対面したようなそんな激動。感動。
 私は、ずっとここにいた。
 私はこれから、ずっとここにいる。
 私は私を、どんどん壊しにやってくる。
 
 
 
 
 
「――――はっ!?」
 意識を戻した瞬間、膝が折れた。かろうじて踏みとどまって、落ちるようなことにはならなかった。風が身体をなでていく。もう一歩踏み出していたら、ここからまっさかさまに落ちていって、誰のものかもわからないほどに破裂した死体を残すことになっていた。
 超視界剤の効果は切れていた。思い出したくもないことを思い出した。
 冷静になって考えれば、私が求めたことがどれだけ劣悪なものかを理解して、あのあと丸々一週間は部屋から出ることが出来なかった。
 自分自身に畏怖した。私はどうなってしまうのだろう。強烈な不安。
 そして、それを私に気付かせてしまったシックザールの存在。吐き気がするほどに苛立たしい。どれほど呪っても呪い足りない。私にこんな感情を芽生えさせた。
 強者としての勝利の美酒を覚えさせられた。
 まだ、その誘惑に勝つことができている。まだ私の理性が本能を上回っている。
 それもいつまで持つかわからない。リッカをはじめ、おそらくサカキ博士、ツバキさんにもうすうす勘付かれているのかもしれない。
 それでも彼らが何も言わないのは、私を信頼しているからだろう。
 もしかしたら、英雄視しているだけなのかもしれない。つまり、「あいつにそんな心配はいらない。なぜなら――」。考えるのも厭になる。
 太陽の位置が、真上に来ていた。
 
 
 夜。太陽が地平線に沈み、空が黒く塗りつぶされた時間。
 その中にあって、ひときわ強く輝く月が好きだ。ただ綺麗だから、という理由ではない。月は彼女なのだ。シオなのだ。
 たとえ日の光が届かない闇の中であっても、彼女が見守っていてくれている。私にはそう感じる。夜間任務などが入ると、私は決まって月に祈る。贅沢な願いなんてしていない。ただ見ていてくれ、と祈るだけ。
「それでは、アリアさんを小隊長に、コウタさん、アキラさん、イオリさんの編成で間違いはありませんか?」
「はい。それでお願いします。出発時刻は明朝の明朝○六○○時。集合は第二待機場所。よろしく伝えておいてください」
「確かに承りました。それでは、お気をつけて」
 ヒバリちゃんから受諾の確認を受けてから、リッカのところへ向かう。
 エレベータに乗ってサカキ博士のラボラトリがある階層で降り、突きあたりを右に曲がってまっすぐ行くと、アナグラに所属しているゴッドイーターたちの神機のメンテナンスや強化を行っている大部屋に出る。たいていはターミナルからここへメールを送って依頼を出すんだけど、直接言いに行く人もいる。その後者が私だ。
「リッカ」
「アリア。ちょうどよかった。メンテの確認お願いしてもいい?」
「いいですよ。ていうか、そのために来ましたし」
 リッカに連れられて、私の神機が置いてある場所へ向かった。
 立てかけられるように置かれた私の神機は、新品のように輝いている。
「相変わらずいい仕事ですね。ほんと、感心しますよ」
「なんか褒められてる気がしないのはなんでかな。ま、いいや。手に取ってみてよ」
 彼女に促されるがまま神機に手を伸ばす。柄を握った瞬間、私に反応した神機が腕輪に滑り込んできた。どくん、と一際心臓がはねる。瞬間、一体感。神機が自分の一部に鳴っていく感覚。それを通して、神機に異常がないかどうかが判る。
 大丈夫。なんともない。完璧なメンテナンス。
「問題ないですね。相変わらずいい仕事してます」
「今度のは褒められてるんだよね。ありがと」
「ひどい。私は本当に褒める時しか褒めませんよ」
「あはは。うっそだー」
「む。――ま、まあ、いいです。ちょっと振らせてください」
「あいよ」
 リッカはそそくさと間合いから出ていく。十分に離れたことを確認して、周りに誰も何もないことを確認してから、思い切り神機を振った。
 ぼ、と空気がはぜる音。ロングブレードやショートブレードと違い、バスターブレードは重量で粉砕するタイプが多い刀身だ。特に私やソーマくんのノコギリ型の刀身は他のバスターと比べても一回り大きく、そして重いものが多い。私の戦闘能力が高いと言われるゆえんは、この刀身を軽々と振り回せることにも起因する。
 一通り振ってから、流れるように銃形態に移行。エイムモードを起動して、100mほど離れた場所にある試射台の的を狙い、撃つ。スナイパー型の銃身から放たれた弾丸は強烈な勢いで的に当たった。周りにいた作業員たちが一様に黙りこくる。静かになったところで弾丸を切り替え、さらに放つ。レーザーが尾を引き、的を貫く。
「……うん。問題なしです」
「そりゃよかった。けど、いきなり撃つのはかんべんだよ」
「あ。す、すいませんでした」
 がしょん、と神機が唸りをあげて剣形態に戻った。
 元あった場所に立てかけ直して数歩下がる。静かに立てかけられてある分には、あんなに食いしん坊だとは思えない。証明が刀身に反射して赤い刃がギラリと光る。
 もうすぐ任務だと感じ取っているのだろう。今から食事をするのが楽しみだ、といった雰囲気が滲み始めている。
「それじゃあ今のまま、最終調整お願いします」
「はいよ。きっちり仕上げるかんね」
 あとはリッカたちに任せておこう。彼女らを背に、部屋から出ていく。
エレベータを待っていると、後ろから声がかかった。
「やあ。こんばんは」
「サカキ博士」
「予定通り君たちも受けてくれたんだね。まあ、あれを見て迷いなく即断できるのは君とソーマくらいだろうから心配はしていなかったんだけどね」
「恐縮です。きっと、新人たちも成長して帰ってきてくれるでしょう」
「ああ、編隊を見て驚いたよ。アキラくんと、イオリちゃん。つれていくんだね」
「うまくいけば交戦は少なくて済みます。見て、感じるだけでもその脅威を学び、引き際を見極めることができるようになりますから。いざとなれば私がしんがりを務めますし、心配は無用です」
「君がそういうなら、まかせてみようか」
 エレベータに乗りこんで、私はベテラン区画の階層への、サカキ博士はエントランスへのボタンを押した。サカキ博士が上にあがっていくなんて珍しい。別件の依頼でも申請しに行くのだろうか。
「リッカ君が心配していたよ」
「はい?」
 サカキ博士がポソリと呟くように言った。
 エレベータの音で聞き取りにくくはあったけれど、確かに、「リッカが心配している」と、そう言った。
「彼女、心配性なんですよ」
「神機の状態から、ゴッドイーターの心身状態まで読み取る。あれは一種の特殊能力だと思うんだよ。その彼女が言うんだ。僕も心配だよ」
「大丈夫です。ちゃんと帰ってきますよ」
 ベテラン区画でエレベータが一旦停止する。無言のままエレベータを降り、後ろ手に「お疲れ様です」と言う。背中にかかるサカキ博士の「お疲れ様」は、なぜか、早く引退を考えるべきだと聞こえた気がして。
 ガー、とエレベータの扉が閉まっていく。上に昇がっていくのを確認してから私は歩き始めた。誰もいない廊下で考えることは一つ。
 リッカやサカキ博士が心配しているという、私の身体。間違いなく、それは私の異常。自分でもわかっている。このままゴッドイーターを続ければ、近いうちに身体が壊れてしまうということ。
 すべては、“楽しみ”を知ってしまったから。
 
 
「ほら、いないみたいだしさ、違うところ探しに行こうぜ」
「ばかね。探しに行ってすれ違いにでもなったら二度手間じゃない。そんなのイヤよ」
「むう」
 私の部屋の前に、アキラくんとイオリがいた。どうやら、私を訪ねてきたらしい。
 こっそりと近づいていくと、やはり(と言うと悲しくなるが)私には気付かず、会話を続け始めた。
「あーあー、演習くらいなのかなって思ってたんだけど、まさか任務に駆り出されるなんて思ってなかったわ。しかもあんたと」
「なんだよ。演習演習って。もしかしなくてもお前、実戦が怖いんじゃねーだろうな?」
「ば、ばか言ってんじゃないわよ! 私を誰だと思ってるの。イオリ・ケッテンクラート様よ。あ、アラガミごときにびびってたんじゃお話にならないわ!」
「おーい、声震えてますよ、イオリ・ケッテンクラート様」
「う、うるさいわね! なによ、じゃああんたは怖くないっての!?」
「怖えよ。隊長らがなんであんなに平気なツラして戦えてんのかマジで意味わかんねーくらいにこわい」
「……それは、そう、かも」
 二人はそれきり黙りこんでしまった。重い空気が二人の間を流れていく。
 これ以上黙って見ていても面白いことになりそうもない。いい加減、私も大人にならなくちゃな、と思ってしまう瞬間だ。
「二人とも、どうしたんですか」
「あ、アリア隊長」
「ほらね。すぐ帰って来たじゃない」
 アキラくんはぶすっとして、イオリは彼とは違う意味でぶすっとしていた。
「隊長! どうして私たちを連れていくんですか。ミッション内容確認しましたけど、あんな高難度ミッション、私たちが生き残れるわけが……」
「あ、じゃあイオリは遺書でもなんでも書いといてくださいね。それがちゃんと適応されるかどうかは別として、ですけど」
「ンなっ!?」
「なんで驚いてるんですか。今の言い草、明らかに死ぬつもりでしたよ?」
「な、あ……ッ、あなたが私たちを殺すつもりなんでしょう!?」
「じゃあ、あなたを編隊から外せばいいんですか?」
「そうです! どう考えても私とアキラを入れるのは――――」
「なんでアキラくんの名前が出るんですか?」
「なんでって、それはアキラだって……!」
「俺は別に。死ぬ時は死ぬかもだけど、死ぬつもりなんてサラサラないから」
イオリが黙りこむ。ときどきこういう子がいるのは聞いていたから、あまり驚くことはない。ソーマくんから聞いていた通り、イオリは“スタングレネードを無駄使いするタイプ”だ。
 スタングレネードはアラガミの動きを制限することのできる、強力な道具だ。視界を潰すことによって私たちゴッドイーターを見失わせ、態勢を立て直すことにも役立つ。だが実際、スタングレネードは防御的な使い方はしない方がいい。スタングレネードは、攻撃にこそ使うべき道具なのだ。つまり、アラガミの動きを制限するというのは、こちらの攻撃ができる隙を増やすということと捉えるべきだ、ということ。
 ここぞというとき、それを使うべきなのだ。
 しかし、それを無駄使いしやすいというのはどういうことなのか。答えは簡単。アラガミに対し、絶対的恐怖をぬぐえていないというだけのこと。
 アラガミに恐怖し、一瞬でも長く自分から目を離させたい。その恐怖に圧迫された思いから、思わずスタングレネードを投げてしまう。それでアラガミに対して攻撃、または致命傷を与えることができればいいが、保守的になって攻撃すらできないのなら、それは無駄使い以外のなにものでもない。
 今回の任務でできればそれを克服してほしいから、イオリを入れた。
 ソーマくんは、少し丁寧すぎる。まあ、それも部隊長という立場になってすぐじゃ、しょうがないんだけれども。
「イオリは、小型アラガミ専門にでもなるつもりなんですか? だとしたら、ハッキリ言いましょう。小型アラガミのいるところに、中・大型アラガミがいる確率は7割を超えます。確かに、討伐対象でなければ無視しても構いません。しかし、大型アラガミに見つかって、小型アラガミを討伐するのがどれほど難易度の高いことか、解らないでもないでしょう? ゆえに、大型アラガミの分断討伐作戦というのは、単純ではありますが、高度な技術を要するのです」
 イオリは黙り込んでしまう。アキラくんも静かに見守っているだけ。
 こういう空気は慣れてないし、しゃべる方もつらいんだけどなあ。
「ついて来てください。私が、あなたにアラガミに対抗する勇気を教えてあげます」
「……行きます。ええ、行ってやりますとも。私は隊長がいうようにアラガミに恐怖してなんかないってこと、私の方こそ教えてやりますよ!!」
「その意気です。明日の朝は早いですよ。しっかり休息を取るように」
 でも、その中でもイオリは扱いやすい子で助かる。
 さっきのやり取りだけでも、彼女がどんな性格なのかをだいたい知ることができた。負けず嫌いで、意地っ張り。プライドが高くて自分の弱いところは見せたくないクセに、守ってほしいという願望を持っている。
 典型的な――、なんて言ったかな。コウタの部屋で見たアニメでも言ってたけど……。
 つ、つん? まあ、それはいいか。
 彼女の性格を考えれば、こうやって挑発すればすぐに突っかかってくるのは目に見えていた。まあ、言い返すだけの強がりができるほどには恐怖していない、ということだろう。
「じゃあ、失礼します!」
「うん。また明日」
「むき――――ッ! その余裕、いつか絶対はがしてやるんだからっ!!」
「お前、隊長と仲いいな」
「どこどう見てそう見えるの!? あんた目ん玉おっかしいんじゃないの!!」
 そして、アキラくんを入れた理由。単純に彼にも成長してほしいから、なんだけど、イオリのフォローもしてほしいからなんだよね。アキラくんはもう戦えるだけの勇気を持っている。実力はまだないけれど、そろそろ他の人のことを考えられるようになっていかないとリンクエイドなんかもできなくなる。
 リンドウさんは他の人のことを考えられるようになれば一人前だと言っていた。私はちゃんと一人前だろうか。考えても詮無いことだ。きっと誰もがそれを疑って戦っている。
 二人がエレベータに乗りこんでいくのを見送って、ほっと一息。
 部屋に入って、ベッドに倒れ込む。視界の半分がベッドで埋まり、もう半分が無機質な部屋の壁と天井で埋まる。
「――疲れた」
 今日はなにもしていないはずだったのに、とんでもなく疲れた。イヤなことを思い出してしまったからかもしれない。身体的な疲れじゃなくて、精神的な疲れ。イヤなことに引きずられて、きっと体まで倦怠感にさいなまれてるだけだろう。
 寝ればよくなる。寝ればきっと忘れてしまう。
 寝よう。寝るんだ。軽く瞼を閉じて、隠れるように布団をかぶった。
「……ああ」ひねり出すように声を出した。「結局、全然一緒にいられなかったなあ。コウタに悪いことしちゃったかなあ」
 そんな後悔と一緒に、睡魔も襲ってきた。
 吸い込まれるように、私は意識を閉ざした。
 
 
「では、一応点呼させてもらいます。コウタ」
「はーい」
「アキラくん」
「はい」
「イオリ」
「はぁい」
 コウタはまだ眠そうに目をこすり、アキラくんは毎度のことながら緊張しているのがガチガチ。イオリはやはり昨日のことを気にしているのが、ギラギラした眼でこちらを睨みつけてくる。
「時間通りですね。続いて、ミッション内容の確認を行います」全員がこちらに耳を傾けているかを確認してから続けた。「今回のミッションは、偵察隊の護衛、およびそれにともなう障害の排除です。作戦第一段階では、偵察をするための高台を縄張りにしていると思われる小型、大型アラガミの全討伐。小型は荷電性ヴァジュラテイル、大型は荷電性のボルグ・カムランが確認されています。周囲数キロには他の大型アラガミの姿も確認されており、戦闘音を聞きつけて群がってくる場合も考えられます。その場合はある程度の数を討伐し、時間が来ても敵増援の減る様子がなければ撤退ということになり、事実上失敗となります。増援がそれほど多くなければ殲滅後、予定通り作戦第二段階に移行となります。ここまでで質問がある人は?」
 す、とイオリが手を挙げた。なんとなく嬉しくなって笑顔でイオリを指名した。
 むすっとした顔のまま彼女は立ち上がり、睨みつけられながら質問をぶつけられる。
「撤退までの時間と、増援の目安を教えてください」
「臨機応変に。アラガミは減らしても減らないようなところがあるから、できるだけ多く討伐します。増援が止まらない場合も同様です。私がみんなの様子を見て判断します。他には?」
「いえ。よろしくお願いします」
 すとん、と座席に戻る。
 他は誰も質問はないか、と訊いても誰も手を上げないのでミッション内容の確認に戻ることにした。
「では続きを。作戦第二段階、偵察任務の詳細を伝えます。私たち全員で偵察部隊の周囲の哨戒。複数部隊が任務に参加していることもあり、場合によってはフォローが必要になる可能性も捨てきれません。全員、緊張を持って任務にあたるように。――最後に、この任務の最優先目標は、周囲のアラガミを偵察隊がしっかりと観察することにあります。それを失念しないように。アラガミを近くで見つけたからといって、ひとりでつっこんで行ったりは決してしないでください。では確認を終わります。ここまでで誰か質問は?」
 はーい、とコウタが呑気そうに手を挙げた。彼を指差し、立ち上がるのを待った。
「えっと、アリサは? あいつはこの任務受けてないんだ?」
「ええ。彼女は別の任務に出掛けています。確か、えっと、空母にオウガテイルが異常発生したとかで、昨日の夕方から討伐任務に向かっています。おそらく、今日の昼ごろには帰って来るんじゃないでしょうか」
「オッケー。そんじゃ、行きますかぁ!」
 
 
 
難度SS 【聖狼を狩る者】 依頼主:ペイラー・榊
 偵察隊の作戦領域までの護送、それに伴う障害の排除を依頼したい。
 君たちの部隊に担当してもらうのは、平原の中の高台だ。高台には荷電性のボルグ・カムランが一体、同じく、荷電性のヴァジュラテイルがそれにまとわりつくように複数体存在している。電撃に対しての防御を高め、こちらは高熱による攻撃属性を高めていくのをおすすめするよ。
 周囲数キロには他の大型アラガミの存在も確認されている。戦闘音や屍骸を餌に群がってくる可能性も捨てきれない。充分気をつけて任務にあたってくれ。
 武運を祈るよ。
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

コメント

Pixivの絵から飛んで来ました。
ストーリーミッションのその後なんですね。

とても実力があるのに気配が少ないアリアさんが素敵で堪らんです(*´ω`)
それだけ空気になれるからこそ、アラガミを多く討伐出来てしまうのでしょうね。

ソーマ君ってば態度はアレだけど世話を焼いてしまう人、ってのがすんごい読んでてニヤニヤ出来ました。
あとコウタ君が可愛くて色々と悩ましくなってしまいます。コウタ可愛いよコウタ

オリジナルキャラの新人のお二人を含めたミッション、なかなかハラハラさせられそうです。
読み返せば読み返すだけ、今後の展開に期待してしまいます。頑張って下さい。

えるし~様への返信。

ども、草之です。
初めまして、えるし~さん。これからもよろしくお願いします。
 
> Pixivの絵から飛んで来ました。
> ストーリーミッションのその後なんですね。

そうですね。
時系列だけで言えば、漫画版からちょっと時間が経ったあたりのお話になるんじゃないでしょうか。
漫画版とこっちのは全然関係はないんですけどね。
 
> とても実力があるのに気配が少ないアリアさんが素敵で堪らんです(*´ω`)
> それだけ空気になれるからこそ、アラガミを多く討伐出来てしまうのでしょうね。

だが実際のキャラには「存在感」がついていたりするアリアさんです(笑)。
とりあえず、草之はあまり上手い方じゃないので、実際のアリアはそこまで強くなかったり。
SS補正、主人公(ヒロイン)補正というやつですかね(笑)。
 
> あとコウタ君が可愛くて色々と悩ましくなってしまいます。コウタ可愛いよコウタ
コウタは可愛いですよね。
ゲームではあんまりミッションに連れていくことはないのですが、一番お気に入りです(笑)。
 
> 読み返せば読み返すだけ、今後の展開に期待してしまいます。頑張って下さい。
次回はいつになるかはまだわかりませんが、新型アラガミの能力等、設定は出来上がっているのでそれほどお待たせすることはないだろうと思います。
気長にお待ちください。
 
では以上、草之でした。
ありがとうございましたっ!!
 
 

たまたま見つけたので読んでみました。

アリアさんの存在感の無さっていうのは、やっぱり主人公のポジションから来てるんでしょうか?
主人公のいるポジションって重要なんですけど間違いなく主人公ではないですよね・・・・
バーストでは改善されて欲しいです・・・・

さて、感想なんですが、

アリアさんとうちの子(自分と同名)のしゃべり方と髪型が同じなので親近感が沸きました。
あとなんというか、アナグラの日常ってゲームでは描かれてなかったので凄く楽しめました!

ソーマの隊長っぷりも面白かったです。

あと、新人二人も結構お気に入りです。
アリア隊長に生意気な口利いてるところとかが。

ボリュームもあって読み応えばっちり!
続きが気になるので頑張ってください、気長に待ちます!

あとゲームの進行度どれぐらいですか?
結構このゲーム難易度鬼畜ですよね・・・・・・

自分は「ないぞうはかいだん」使ってやっとこさ「象牙の塔」をSS+でクリアできましたが
ダウンロードの「ピルグリム2」がクリアできる気がしません。
読者考案ミッション? 誰だこんな鬼畜クエ考え付きやがったのーー!!

セレスティア様への返信。

ども、草之です。
初めまして、セレスティアさん。これからもよろしくお願いします。
 
> アリアさんの存在感の無さっていうのは、やっぱり主人公のポジションから来てるんでしょうか?
> 主人公のいるポジションって重要なんですけど間違いなく主人公ではないですよね・・・・
> バーストでは改善されて欲しいです・・・・

まあ、それもありますね。
あとは本人がその存在感のなさを使っていろいろと立ち聞き盗み聞きをするのが実は好きという(笑)。
どこのソースかは忘れたんですけど(たしか公式)、バーストでは空気にはならないようにしました、と言っていましたね。ちょっと期待です。
 
> アリアさんとうちの子(自分と同名)のしゃべり方と髪型が同じなので親近感が沸きました。
> あとなんというか、アナグラの日常ってゲームでは描かれてなかったので凄く楽しめました!

声は音声2を選んでる人が多いらしいですね。無難どころなのかな。かな恵さん大勝利。
アナグラの日常は難しかったですね。なにしろ資料が漫画版だけだという。
 
> ソーマの隊長っぷりも面白かったです。
ちょっと必死なところがあります(笑)。
表面上ではつっけんどんで鬼隊長ではあるのですが、それは「死んでほしくない」という気持ちの表れ。
つまり、ツンデレ!!
 
> あと、新人二人も結構お気に入りです。
> アリア隊長に生意気な口利いてるところとかが。

新人二人はおおむね好評なようでよかったです。
イオリはやっぱりツンデレ(笑)。この世界はツンデレでいっぱいさ!
イオリのあれは「アンタなんかに負けるもんですか!」という意思表示だったり。
なぜか同期のアキラじゃなくてアリアをライバル視してます(笑)。
 
> 続きが気になるので頑張ってください、気長に待ちます!
はい、気長にお待ちください(笑)。
次回は8月中旬~下旬くらいに更新できるといいなあ、と思っています。
 
> あとゲームの進行度どれぐらいですか?
> 結構このゲーム難易度鬼畜ですよね・・・・・・

進行度は、実はまだ「イザヴェルへの道」はクリアしてません。
「貴婦人の食卓」用にファランクス真を制作途中なんです。
とりあえず、ぬるゲーマーです。
 
> 自分は「ないぞうはかいだん」使ってやっとこさ「象牙の塔」をSS+でクリアできましたが
> ダウンロードの「ピルグリム2」がクリアできる気がしません。
> 読者考案ミッション? 誰だこんな鬼畜クエ考え付きやがったのーー!!

「象牙の塔」か。まだまだ挑戦する気には……(笑)。
読者考案ミッションは全体的に鬼畜すぎると思うんです。
これスタッフちゃんとクリアできたから配信したんだろうな、と疑いたくなりますよね(笑)。
 
では以上、草之でした。
ありがとうございましたっ!!
 
 

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Author:草之 敬
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『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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