2018-07

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その優しい星で…  Navi:42

 
 「本当は二泊くらい取れたらよかったんだけどな」
 
 「いえ、全然そんなことないです」
 
 改めて考えてみると、人にゴンドラを漕いでもらってそれに乗るっていうのは、灯里ちゃんの練習を見る以外かなり久し振りかもしれない。
 
 座って揺られるこの感覚、なんだか心地いいなあ。
 私のお客様も、こんな気持ちになってくれてるのだろうか。
 それとも、私がこんな気持ちになるのは、士郎さんが漕いでくれてるからなのかしら。
 
 「一泊でも全然気にしませんよ」
 
 「スケジュールがなあ。結局二週間も遅れて……」
 
 朝から、というよりも士郎さんからこの話をいただいたときから彼はずっとああだ。
 別に構いません、と言っても、やっぱりこういうのは日時が大事だからとずっと気にしっぱなし。
 まあ、そういうところも士郎さんのいいところだとは思うけれど、今はやっぱりそんなことよりも私を気にしてほしいなんてワガママが心の中に生まれてくるわけで。
 ちょっとしたいたずらなんかも思いついちゃうわけで。
 
 「士郎さん」
 
 「ん、なんだ」
 
 「士郎さんは、私よりも私の誕生日っていうものを大切にしたいんですか?」
 
 「え? いや、アリシアが大切だからアリシアの誕生日が大切なのであって、別にアリシア以上にアリシアの誕生日が大切ってわけじゃないんだけど、いや、だからってアリシアの誕生日がどうでもいいってわけじゃなくて、えっと、ああもう、意地の悪いことは言わないでくれ」
 
 「あらあら」
 
 士郎さんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
 それでも、まあ、成功かな。
 とにかく、私はこうやって士郎さんが誘ってくれたことだけでも嬉しい。
 
 私の誕生日プレゼント。
 温泉に二人で一泊の小旅行。
 
 もしかしたらもしかして、なんて期待するのは気にしすぎなのかしら。
 それとも、はしたないのかしら。
 
 士郎さんがどういう考えで私に一泊の旅行をプレゼントしてくれたのか。
 一泊の旅行はただの建前で、プレゼントはもっと違うモノだったりしたりして……。
 
 「アリシア? 顔が赤いぞ、大丈夫なのか? もしかして俺の漕ぎ方が下手で酔ったとか……」
 
 「へっ、あっ、いえ、そんなんじゃないんです。あ、あらあら、そんなに顔真っ赤ですか?」
 
 「ああ、いや、別に、その……、俺が気にするくらいには」
 
 そのさりげない言葉が、いつも嬉しい。
 自分の考えていたことが情けなくて仕方がなくなるくらいに、嬉しい。
 私は何を考えているんだろう。そんな、わくわくしなくてもきっと、士郎さんは私の期待以上のプレゼントをくれるだろうから。
 でも私の期待って……。
 深く考えるのはやめておいた。私がおかしくなりそう。
 
 士郎さんのオールを漕ぐ音を背に、空を見上げた。
 ちょっと落ち着こう。
 うみねこが鳴いている。うすい雲が空にかかっている。青空、太陽。
 マンホームから見た太陽とアクアから見た太陽は、やっぱり大きさが違って見えるのだろうか。光が強すぎてよくわからないかもしれないし、ちゃんとわかるかもしれない。
 士郎さんに頼んだら、私もマンホームにつれて行ってくれるかしら。
 きっと、つれて行ってくれるんだろうなあ。
 
 ほんのりとそんなことを考えていると、潮のにおいとはまた違った、温泉独特の香りが漂ってきた。
 振り返って士郎さんに笑いかけると、彼も同様に微笑み返してくれた。ゴンドラの揺れと、海風にのる温泉の香り。それがどうにも、不思議な感覚を引き起こしてやまない。
 まるでここが現実ではないような、そんな感覚だ。
 
 「ん……」
 
 そんな考えを浮かべてしまったからだろうか。
 不安が頭を出したので、試しに頬をつねってみた。しっかり痛い。
 そこでまた考えてしまった。『夢なら痛くない』というのは本当なのだろうか。痛かったら起きてしまうだろう、という感じの理由でそう片付けられているのかもしれないけれど、起きてしまうのなら、痛かったとしてもそれは夢なのではなかろうか? でも、起きていれば痛いと感じるわけで、でも、人間の思い込みはスゴイものがある。夢の中でも痛みくらい感じられるのではないだろうか?
 思考の迷路。
 ぶっつりと思考を切る。今はただ、夢であろうとなんであろうと、この幸せな時間を大切にしたいと思う。
 これが夢だっていうのなら、こんなに幸せな夢もないだろうし、現実なら、こんなに嬉しいこともそうそうない。
 楽しんだ者勝ちってことかしらね。
 
 
 士郎さんが予約を取った温泉は、アルトリアさん、灯里ちゃん、藍華ちゃん、アリア社長が一緒に行った、私もよく知っているあの温泉だった。
 のれんをくぐってすぐ、士郎さんはチェックインを済ませて部屋のキーをもらった。宿の地図を見ながら、自分たちが泊まる部屋に向かう。その間、会話らしい会話がなかったのは、きっと緊張していたから、だと思う。
 楽しもうと決めたばかりだというのに、どうしてこうなってしまうのだろう。
 
 「ここみたいだな」
 
 士郎さんが振り向く。にこりと笑う顔は歳を感じさせないほど無邪気だった。
 彼が戸をすっと開け、どうぞ、と手で入ることを促してくれた。なぜかそれに恐縮してしまって、ぺこりと頭をさげてしまう。士郎さんはまたそれにクス、と笑うと、私に続いて部屋の中に入って来た。
 結構広い。今回は二人だから、前に三人とアリア社長で来たときの部屋よりも小さな部屋を取ったと思っていたのだけど、あまり変わらない広さの部屋だった。
 二人にしては、ちょっと広すぎる気がしないでもない。
 
 「どうする? ちょっと休もうか」
 
 「え? あ、そうですね」
 
 「なんなら、先に温泉入りに行ってもいいぞ。俺はまあ、夜の人が少なくなってきたあたりにでも行くかな」
 
 前回、士郎さんは自分の身体にある傷を気にして、一緒に来てはくれなかったことを思い出す。
 士郎さんは会社のシャワーを使うときも灯里ちゃんが寝てから、という徹底ぶりなのだから、こういう公共浴場でそれが変わらないのは当り前だろうか。
 たしかに、彼の身体の傷は、初見で藍華ちゃんが戻してしまうほど苛烈なものだった。
 
 「なら、私もそうします」
 
 「いいんだぞ、別に。混浴があるわけでもないし、いや、別にそれに入りたいって話じゃなくてだな」
 
 「あらあら、うふふ」
 
 「そこで笑わないでくれ……」
 
 「とにかく、私も後で入りますよ。なんていうか、そうしたいんです」
 
 「それならいいけど」
 
 真っ赤にした顔をそむけながら、士郎さんは荷物を置いた。
 私のぶんまで持ってくれていたのだから、結構な重さだっただろうに。と、言っても一泊だけなのだからそれほど多くはないのだけれども。それを言うと士郎さんがまた気にしちゃうから口には出さないでおいているだけだ。
 士郎さんはそのまま窓を開け、部屋の中に風を通した。さわわ、とカーテンが揺れる。
 
 「トランプって歳でもないしな」
 
 はは、と苦笑いし、士郎さんは座布団を私のぶんまで用意しながら、とん、と座りこんだ。
 私はというと、やっぱりなぜか遠慮がちに座布団の上に腰を降ろした。
 潮の香りと温泉の香りが混ざり合った、なんともいえない心地のいい風が部屋の中を埋めていく。
 
 日はすでに傾き始めている。
 口を閉じるように、水平線に向かって茜色が吸いこまれていく。
 夜という生き物に、昼が食べられていくようで。そんな例えに、なんとも幻想的な想像力だ、そう思って思わず笑った。そんな私のもらした笑い声には反応せずに、士郎さんは潮風に前髪を揺らしている。
 寝ているのだろうか?
 そう思ってしまいたくなるほどに、彼は静かで。
 
 「なんだか、いいな。こういうの」
 
 だから、そんな静かな囁きにもびっくりしてしまって。
 
 「えっ、あ、はいっ、そうですねっ?」
 
 「な、なんでそんなに驚いてるんだよ。なんか今日、おかしいぞ」
 
 「いえ、あ、あの……」
 
 自分の身体が小さくなっていくようだ。
 穴があったら入りたい、というのはこういうことなのだろうか。
 とんでもなく恥ずかしい。士郎さんは私が挙動不審というか、どこか落ち着いていないことをちゃんと見抜いていた。
 あぁあっ、私のバカ。
 
 「緊張、しちゃって」
 
 苦し紛れに、ごまかそうと出した言葉は、なんと本音だった。
 私自身、それに驚いてしまって「そうじゃなくて」と否定の言葉も出せずにいた。
 わたわたと手を振るだけで、口から出るのは言葉にならない声だけだ。
 
 「なるほどね。たしかに、緊張してるな」
 
 そう言って、私の気も知ってか知らずか、士郎さんは無邪気に笑う。
 知って笑っていたのなら、なんて意地悪だ。知らないなら、不可抗力だけど……。
 私があからさまな拗ね顔でもしてしまっていたのか、士郎さんの表情が笑顔から苦笑いに変わってしまった。
 
 「なんていうか、まあ。こういう何でもない時間を幸せだって思えるのって、なんかいいなって」
 
 そんな時間、もうずっと忘れていた気がする。
 朝がきたらARIAカンパニーに行って、ご飯を食べたらすぐに仕事に出発。夕方、夜の一歩手前に会社に戻って夕飯。疲れを取ってから帰宅して、寝る。一日仕事がない日があっても、できるだけ灯里ちゃんに付き合ってあげたいし、士郎さんとも一緒にいたい。
 ワガママになってしまったと思う。我ながらおかしなものだ。
 仕事が楽しくて楽しくて仕方なかったのに、いつの間にかそれだけじゃ満足できなくなっている。
 
 うん。
 ワガママだ。
 
 「そうですね。なんだか、とっても久しぶり」
 
 だから、もうちょっと。
 もうちょっとだけ。
 
 ワガママでもいいですよね、私。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 温泉自体、遅く行けば自然と人は少ないだろう。
 ……なんて、思った俺がバカだった。
 
 「まだ結構いるじゃないか。まいったな」
 
 本当にまいった。汗も結構かいてしまったし、入らないなんてことは避けたい。
 それに、いつまでもボーっと突っ立ってでもしたら変な目で見られかねない。
 それも避けたい。
 
 「八方塞がりってやつか」
 
 仕方なく、どこの馬の骨とも知れない魔術師が使っていた結界剣を投影する。
 装備だけは立派だったので、どこかの金持ちの道楽者だったのかもしれないが。
 
 ともあれ、この剣は周囲の空間に干渉し、持ち主の姿を隠すという単純な魔術が込められている。
 魔力を込めれば即発動する仕様だ。ただ、ある程度の実力者ならあっという間に見破られてしまうほど脆い結界ではあるのだけれども。
 それ以上に、なんで俺はこんな物騒なものまで持ち出して温泉に入ろうとしているのか。
 それが問題だと思うわけで。
 
 これが見つかるくらいなら、身体を見られた方がマシなんじゃないのか。
 銭湯の『刺青お断り』よろしく断られたら意味はないのだろうが。
 
 「なんか、バカみたいだな」
 
 そうは思いながら、服を脱ぎ始める。
 剣を握りながらだったので、服を切ってしまわないように、身体を切ってしまわないように丁寧に脱いでいく。
 強化して傷がつかないようにするのは簡単だったが、そこまでするともはや「温泉に入る」という目的が潰れてしまうような気がしてならなかったので、やめておいた。
 
 やはり剣を握りながら温泉へ向かう。
 姿が見えないとは言え、客観的に自分のことを見てしまうと気が滅入る。
 温泉に入ると、すぐさま端の方へ移動した。照明も届かないような端の端だ。
 大きな扉がずらりと奥へ並んでいる。ここなら、と人目がなくなったのを確認して、剣を消した。
 
 ようやく、落ち着いて温泉を楽しむことができる。
 
 「っはぁ~……ぁあ」
 
 こうやって風呂に浸かるのは、いったいどれくらいぶりだったか。
 全身あちこちをまんべんなく伸ばし、温める。
 
 天井は抜けていて、綺麗な星空が見える。
 照明が届かないこの場所では、星明かりだけが唯一の光源になっている。角度的に月は見えないけども、きっと見えれば綺麗に見えることだろう。
 
 ほどよく吹いてくる潮風が、温泉で温まった身体に気持ち良い。
 リラックスし切って、背中にある扉に身を任せたのが始まりだった。
 
 「お……?」
 
 がこん、と音がして、扉が開いた。
 中には一応、『立ち入り禁止』のテープが張られているが、はたして。
 覗いてみると、作りからして廊下のようだ。ずっと続いている。
 夜ということもあってひどく暗いが、廊下の先は明るい。外と繋がっているのだろうか。
 なるほど、『立ち入り禁止』にするわけだ。
 
 「面白そうだな」
 
 いつもなら、こんなことするはずがない。
 そっと扉を閉めて、見なかったことにするはずだ。
 
 それでも俺は、扉の中へ進んだ。
 お手本にならなければならない相手もいないし、たまには俺だってハメを外したいのだ。
 ちょっとくらい、決まりを破っても構わないだろう。そういうことにしておく。
 
 水温も徐々に低くなっていく。温泉、というよりも少しぬるい海のような。
 どうやら、海とも繋がっているようだ。
 
 光に近づいていくにつれ、胸の高鳴りが大きくなっていく。
 最初はバレないかな、というちょっとした悪ガキの気分で。
 最後には、この先にはなにがあるのかという、大きな期待を抱いて。
 
 「…………」
 
 「…………し、士郎、さん?」
 
 数えるほどこういう場面に遭遇したわけではないが、一応言っておこう。
 わざとではない。ここにいるなんて知らなかった。
 知っていたら、来るなんて暴挙にでるはずがなかった。
 
 「アリシア……?」
 
 海と繋がった、星空をさまたげるものもない開放的な露天風呂。
 そこに、裸同士の男女一組の姿があった。
 
 つまり、俺と、アリシアがいた。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「し、士郎さんっ、なっ、なんでここにっ? っていうか、ここ男湯とも繋がってたんですか!?」
 
 「俺が知るかっ!」
 
 なにが起こったのだろう。
 表面上の私の慌てっぷりからは想像もできないほどに、内面の私はひどく落ち着いていた。
 どうして、とか考える前に、恥ずかしさで行動が埋まっていく。だけどやっぱり思考だけは落ち着いている。
 
 「あらあら、ど、どうしましょう……?」
 
 「ど、どうしようって、そりゃ、か、帰る、けど」
 
 「帰るん、ですか?」
 
 「だって、いや、ああ……、いや、だってそうだろ、普通」
 
 「どういう普通なんですかっ」
 
 「なんで言いよってくる!? いや、そんな恥ずかしがってるのに混浴まがいなここにいるとか、そういうのはなんか」
 
 「違うって言うんですか? こ、ここ、こっこ」
 
 「にわとり?」
 
 「お約束はいいですからっ」
 
 「ご、ごめん」
 
 「こ、恋人、同士、なん、ですよ?」
 
 「そ、そりゃそう、なんだけど、さ」
 
 ああもう、士郎さんの意気地なし!
 そう叫びたいのを我慢して、深呼吸を挟んだ。
 どうして押し切ってくれないんだろう。
 
 息切れ目眩動悸、なんてどこかの薬品のコマーシャルでもありそうな症状を起こしている身体は、完全に落ち着くことなんてなかったけど、どうにか、普通にしゃべれるくらいには回復してくれたようだ。
 
 「えっと、風邪ひきますよ、士郎さん」
 
 隣に座ってくれるように、と願いを込めて、すぐ隣の水面をパシャパシャと叩く。
 当の士郎さんは一歩二歩と一旦は戻りながら、諦めたのか、それとも私の気持ちに気づいてくれたのか、深呼吸をしてから、ゆっくりと私の隣に腰をおろしてくれた。
 
 温泉で温まっていたからか、それとも恥ずかしさからか。
 士郎さんも顔が真っ赤だった。
 
 「お話、しませんか」
 
 「そうだな。じゃあ、えっと、仕事とかどう?」
 
 「結構前なんですけど、ちょっと困ったお客様がいたんですよ」
 
 「へえ、どんな?」
 
 思い出すのは、話そうとして話せなかったこと。
 夜空を見上げて照れ隠しをしているような彼には、できれば聞いてほしくなかったこと。
 このことを話すのに、今は抵抗がない。緊張もしない。
 士郎さんの答えがどんなものか、解っているから。
 
 「『ずっと好きでした。ファンで終わりたくない。僕と付き合って欲しい』って」
 
 「――――」
 
 この話をすること自体、私のワガママだってことはよく理解している。
 ワガママ、というよりも意地の悪い告白でしかない。私は、士郎さんを試してしまっている。
 
 「――それで?」
 
 「……そのときは、もちろん断りましたよ。でも、その人はまた予約してきて『気は変わりませんか?』ってしつこかったんです。もう一度、断りました」
 
 何回でも、断っていたと思う。
 もし、なんて考えると士郎さんに失礼かもしれないけど、もし士郎さんと出会ってなかったら。
 その士郎さんは、相変わらず空を見上げていた。
 私の話に怒ってしまったのだろうか。
 
 浅黒い彼の肌には、目に見えて痛々しい傷痕がある。
 それも、あるいは私の今の話と同じなのかもしれない。私は、この傷について士郎さんが話してくれない限り、触れるつもりは一切ない。きっと、士郎さんもそれは同じ。私のこういう話を、彼は一度も尋ねてきたことはない。
 今話した。
 それだけなのだろうけど、それが、なにになるのだろうか。
 
 「ごめんなさい」
 
 「……どうして?」
 
 「だって、なんだか……」
 
 「じゃあ、アリシアはなんで断ったんだ?」
 
 「え?」
 
 「ただ『断った』って言ってるだけだから、きっと俺が告白する前の話なんだろ? だったら、なんで?」
 
 それは、その質問は意地悪だ。
 士郎さんの意趣返しなのかもしれない。
 素直に答えても良かったが、ちょっとだけはぐらかすことにした。
 
 「……好きな人がいたんです」
 
 「そうか」
 
 「その人は、なんていうか、放っておけない人なんです。理由なんてきっとないんです。気がついたら目で追っていて、どこにいるのかな、なにしてるのかなって気になり始めて、最後には、彼のことを愛していました」
 
 「……そうか」
 
 「白馬は到底似合いそうにない人ですけど、それでも、助けてほしいときに助けてくれる人なんです」
 
 くくっ、と隣で士郎さんが笑う。
 顔を覗き見ると、苦笑いだった。
 
 ただそれが、士郎さんらしくて、愛しくて、恋しくて。
 
 「士郎さん。あなたのことが、大好きです」
 
 驚くほど淡い声でささやいていた。
 波の音に消されてしまいそうな、頼りのない声だった。
 だけど私は、それでも満足だ。
 
 声の大きさじゃない。
 想いを伝えるのに、声は大きくなくてもいい。
 言葉の多さじゃない。
 想いを伝えるのに、言葉は多くなくてもいい。
 
 「大好き、です」
 
 じん、と目頭が熱くなる。
 
 ――――ああ。
 この言葉を口にするだけで、私の心はどれほど満たされるのだろうか。
 心に沁み渡っていく。静かな声が、水滴が、心に、器に、沁み、響き渡っていく。
 
 もう一度士郎さんのことを覗き見てみた。
 笑顔だった。
 何かが嬉しくてそうなったわけじゃない。
 何かが幸せでそうなったわけじゃない。
 
 「あらあら、うふふ」
 
 何かを決めた顔だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:42   end
 
 
 
 
 
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

コメント

 お待ちしてました!
 読み始めてすぐ頬が上がって最後までニヤニヤしっぱなしで読みました。
 どれだけ間が開いてもいいのでゆっくり書いてください。
 完結楽しみにしてます。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ニヤニヤがとまりません。
この続きが気になりますね。
本当に今の自分の癒しになっています。
これからもがんばってください

ニヤニヤが止まりません。
なんかもうだめだ。
ほんとにグッジョブです。
甘いぞこんちくしょー。
文章になってなくてすみません

はじめましてです。
前回更新後ぐらいに発見して更新を楽しみにしてました。
ニヤニヤ、ニヨニヨ(笑)が止まりません。
続きが楽しみ過ぎる(`∇´ゞ

shulthu様への返信。

ども、草之です。
はじめまして、shulthuさん。これからもよろしくお願いします。
 
> お待ちしてました!
> 読み始めてすぐ頬が上がって最後までニヤニヤしっぱなしで読みました。

ええもう、大変お待たせしてしまって、すいませんでした。
今回もなんとか空気を壊さずに済んだ様子。ほっと胸をなでる思いです(笑)。
 
> どれだけ間が開いてもいいのでゆっくり書いてください。
> 完結楽しみにしてます。

はい。マイペースになるともっとひどくなりそうなので、これからはもうちょっと腰を据えて書いていくことにしました。これからもよろしくお願いします。
 
では以上、草之でした。
ありがとうございましたっ!!
 
 

Kinju様への返信。

ども、草之です。
はじめまして、Kinjuさん。これからもよろしくお願いします。
 
そして、ご指摘の通りでした。
完全なる草之のポカです。ご報告ありがとうございました。
さっそく訂正しておきました。
言葉少なではありますが、これからも『優星』をよろしくお願いします。
 
では、以上草之でした。
ありがとうございましたっ!!

裁判蝶様への返信

ども、草之です。
 
> 本当に今の自分の癒しになっています。
> これからもがんばってください

受験生、でしたよね。
草之が弱音を吐いている場合じゃないですね。
 
これからも、頑張ります。
 
では以上、草之でした。
ありがとうございましたっ!!
 

ノボー様への返信

ども、草之です。
 
> ニヤニヤが止まりません。
> なんかもうだめだ。
> ほんとにグッジョブです。
> 甘いぞこんちくしょー。
> 文章になってなくてすみません

草之は慢心せずに生きていきます、とこのとき思ったのです。
こんな感想を、もう一度もらうために。
 
以上、草之でした。
ありがとうございましたっ!!
 

紫紫様への返信

ども、草之です。
はじめまして、紫紫さん。これからもよろしくお願いします。
 
> 前回更新後ぐらいに発見して更新を楽しみにしてました。
> ニヤニヤ、ニヨニヨ(笑)が止まりません。
> 続きが楽しみ過ぎる(`∇´ゞ

ということは、結構最近知ってくれたのですね。
見つけてくれて、ありがとうございます。
 
これからも、どうか『優星』、ひいては『歯車屋敷』をよろしくお願いします。
 
では以上、草之でした。
ありがとうございましたっ!!
 
 

幸せにな~れっ!

前から見てますが初コメです。ハッキリ言って自分は士郎もアーチャーも好きではないです。でもなんていうかそれはFateの中での二人であって。この話をみてからこういうほのぼのとした空気感の中での士郎のことが大好きになりました。ありがとうございました。毎回更新を楽しみにしています。これからも頑張って下さい!

幸せにな~れっ!

前から見てますが初コメです。ハッキリ言って自分は士郎もアーチャーも好きではないです。でもなんていうかそれはFateの中での二人であって。この話をみてからこういうほのぼのとした空気感の中での士郎のことが大好きになりました。ありがとうございました。毎回更新を楽しみにしています。これからも頑張って下さい!!!

てつ様への返信

ども、草之です。
はじめまして、てつさん。これからもよろしくお願いします。
 
> 前から見てますが初コメです。ハッキリ言って自分は士郎もアーチャーも好きではないです。でもなんていうかそれはFateの中での二人であって。この話をみてからこういうほのぼのとした空気感の中での士郎のことが大好きになりました。ありがとうございました。毎回更新を楽しみにしています。これからも頑張って下さい!!!
『優星』は士郎が主人公ですから、最初の方はきっと読みにくかったのではと思います。
それでも読んでくれて、それでいて士郎のことが好きになってくれたのならよかったです。
書いた甲斐があったというもの。
 
では以上、草之でした。
ありがとうございましたっ!!
 
PS
同じコメが続けて投稿されていますが、片方は消してしまっても構いませんか?
一応、訊いておかなければと思ったので、確認の意味を込めて。
 

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Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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