2018-07

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ゴッドイーター 【神偽の剣】 第二話 前編

※ゴッドイーター、GEバースト本編第一部ストーリー(難易度6)までのネタばれが含まれます。
それらが苦手な方は回れ右、もしくはブラウザバックを推奨します。
また、独自解釈などによりアイテムの効果が違うものがあります。
それらも苦手でしたら同じくブラウザバック。
 
それでもおkって方は、『全文を表示』から本編を読み進めてください。
 
 
 
 
  「アキラくんはともかく、イオリはボルグ・カムランと戦ったことはありますか?」
「一回だけありますけど。そのときはほとんどソーマ隊長が戦ってましたけどね」
「じゃあ、どういう動きをするか、攻撃方法はどんなものかは覚えてますよね?」
「一応。どういうアラガミなのかもデータベースで調べて復習もしましたよ?」
「じゃあ、今からボルグ・カムラン堕天種、俗に黄金サソリと呼ばれる荷電性ボルグ・カムランの説明をします。よく聞いて、戦闘中に敵の挙動を見極めてください」
「了解でーす」
 やっぱり、昨日のことで私嫌われちゃったかな。
 まあ、嫌われ役もいないと成長だってしなさそうな子だったし、ソーマくんが帰ってきたら押し付けちゃえばいいしね。今はできるだけ成長してほしい。
 今回のターゲットはボルグ・カムラン。堅牢な鎧と、高速の突きを繰りだす尾の先の針。そして何よりも特徴的なのは、前面に構える巨大な顔を模(かたど)った盾だ。また、地上を縄張りとするアラガミの中でも巨大な種で、ウロヴォロス、クアドリガに続いて第三位に入る。
 攻撃面ではその巨体を使った強烈な体当たり、長く鋭い尾を使った全方位攻撃、高速の突きによる牽制。防御面は前面の盾や鎧と化した外殻によって剣による攻撃はほとんど弾かれてしまう。反面、反物理属性、つまりオラクル弾丸、特に貫通系の弾丸に対して上半身が脆い。また盾は爆発系の弾丸に弱く、結合崩壊を起こしやすい。
 そして、最大の弱点はボルグ・カムラン種通して針。この針こそボルグ・カムラン最大の武器にして最大の弱点。いわゆる諸刃の剣というやつだ。だが、針は常に高所にあり、銃で狙い撃つか、こちらがそれよりも上から剣で攻撃するか。一番確実なのは、ダウンを奪うこと。力なくうな垂れた尾の先の針ならば、剣戟も容易に届く。
「基本的な注意事項はボルグ・カムランと変わりません。しかし、荷電性のこのアラガミは、活性化後それまでとは比べ物にならないほど厄介なモノを繰りだしてきます」
「機雷でしょ?」
 イオリが私の説明に付け足す。そうです、と頷いて返した。
「へえ。勉強してるんだ、イオリ」
「うっさいわね。どうせあんたは知らなかったんでしょ?」
「いや。俺は一応荷電性と一回顔合わせはしてるから、知ってたよ」
「うっ。あ、あらそう」
 イオリの勉強熱心さに感心したように微笑むアキラくんと、アキラくんの体験が気に入らない様子のイオリ。その二人の様子からは、緊張があまり感じられなかった。それでも、ほとんど初めて戦う相手に対してピリピリしてはいるようで、さっきから落ち着かなそうだ。こうやって軽口を言いあって不安を拭いあっているのがよくわかる。いいコンビになりそうだった。
「で、その機雷なんだけど、どういう場面で使われるか。アキラくん?」
「はい。えっと、テールスピン後にばらまかれます」
「その通り」正解、と軽く拍手を送る。「テールスピンはボルグ・カムランの攻撃のなかで最も避けにくい攻撃で、間合いに入っている場合は防御するのが基本ですね。しかし、黄金サソリの機雷は防御の裏をかかれやすい。テールスピンを防御したからといって、安易に防御を解くと機雷に当たります。解かなくても、背中で爆発なんてよくありますからね。厄介です」
 ごくり、と二人が息を飲み込むのがわかった。
 実際、私の背中でも何度か爆発されたことがある。あのときの心境と言ったらない。「尻尾は防御したのに、なんで痛いんだ」と怒りが一気に湧き起る。冷静になろうと努めはするのだけれども、心の底のわだかまりは取れない。もやもやを抱えたままの戦闘ほど気持ちの悪いものはない。
 だからこそ、私はあのサソリが嫌いなんだ。コンゴウ種よりかは数倍可愛いんだけれども。
「ということで、今回の作戦です。私が囮になるので、アキラくんとイオリのツートップで攻めてください。ヴァジュラテイルの掃除と戦闘のフォローはコウタに任せます」
 単純なものだ。この中で囮にふさわしいのは誰かと問われれば誰もが私を指差すだろう。別にそれが自慢にならないことくらいは理解している。この小隊の中でボルグ・カムランと最も交戦回数が多いのは私とコウタのどちらかで、かつ前衛にいるのは私。消去法で囮は私、ということだ。
「ロングブレードのアキラくんは尻尾を中心に、ショートブレードのイオリは隙を見て胴体へ、基本はアキラくんと一緒で尻尾を中心に攻めてください。コウタは、説明しなくてもわかりますよね?」
「まぁね。ヴァジュラテイルの討伐が終わった時点で、胴体を中心に、できれば針を狙いながら銃撃。あとは、他のアラガミが嗅ぎつけてこないかの警戒ってところかな」
「そうですね。あとは、コンゴウ種が戦闘音を聞きつけてこないことを祈るばかりです」
 切実な願いだった。
 
 
 高台一帯、戦闘区域外に偵察隊を待機させてから、車を降り、徒歩で接近していく。
 先頭に私、両翼にアキラくんとイオリ、最後尾にコウタという布陣だ。
「……見えましたよ。運がいい、ヴァジュラテイルしかいません」
 だが、だからといって突撃してしまっては意味がない。ここから見える限り、ヴァジュラテイルは2体。この程度なら、心配しなくてもいいかもしれない。
「作戦を少し変えます。今から、あの2体を三人で殲滅してください」
「ちょっと、アンタは何するのよ?」
「ボルグ・カムランを捜索して、合流するようでしたら食い止めます」
「そんな、一人なんて危険すぎます! 前の任務だって……、俺も行かせてください!」
「心配してくれるのは嬉しいですけど、君にはまだ早いです。大丈夫、足止めくらいなら無理しなくてもできますから」
 イオリはつまらなさそうにため息を吐くと、悔しそうにうつむいているアキラくんの肩を叩いた。コウタは慣れた様子で、むしろ楽しむかのようにこの状況を外野から眺めていた。……ちょっとくらい張り合ってほしかったんだけれどなあ。
 と、そんな私の視線に気がついたのか、ニヤニヤと意地の悪い笑顔を向けてきてくれた。いつもは影が薄くて気付いてもらえないことの方が多いのに、こんなときだけはしっかりと気付いてくれるのは嬉しいと思うべきなのか、それとも?
 まあ、アキラくんも不承不承と納得してはくれたみたいだし、作戦行動に移るとしよう。
「では、首尾よく頼みますね」
「オッケー。こっちはまかせとけって。だからって、死んだりすんなよなー?」
「私があんなサソリに遅れをとると?」
「万が一の心配だっつーの。誰だって言ってるじゃん。油断するなって」
「ありがとう。では、行動開始!」
 三人が飛び出すのと同時に、別方向へ走る。
 戦闘音が遠ざかっていく。この分なら、ボルグ・カムランに気付かれることなくヴァジュラテイルは殲滅できそうだ。
 ベルトポーチから超視界剤を取りだす。いつもは一錠飲むだけのものを、一気に二粒飲み込んだ。途端に視覚が研ぎ澄まされていく。目を凝らせば、空気の流れでさえ見えてしまいそうになる。もちろん、見えはしないが、それに近い感覚を得る。
 空気の振動が大きい方へ、大きい方へと移動していく。
 しばらくすると、ギチギチ、と鎧をこすり合わせるような音が響いてきた。ボルグ・カムラン独特の生体音だ。角に隠れ、神機の刀身部分を鏡代わりに様子をさぐる。
「……いた」
 ボルグ・カムランが一体。それ以外にアラガミの姿は見えない。念のため空も見たが、ザイゴートが哨戒している様子もない。他の大型アラガミの気配もない。
 仕掛けるなら今だ。
 ベルトポーチからスタングレネードを取り出し、神機を片手にボルグ・カムランの前に踊りでる。
 真横からの強襲。反応が遅れたボルグ・カムランの顔面めがけて、スタングレネードを投げつけた。ボシュゥッ! 強烈な閃光が視界を埋める。一瞬ののち接敵。私の姿をまだハッキリと捉えられていないことを確信し、盾から腕、身体に駆けあがり、剣形態の神機を銃形態へ移行。
 ボルグ・カムランの頭を思い切り蹴りあげ、普段開けることのない胸部の大口を強制的に開ける。閉じられる前に滑り込み、両足と片腕とで上顎と下顎を固定、神機の銃身を喉の奥へ突っ込み、弾丸を連続で撃ち込む。
 一発、二発、三発、四発、五発!
 そこまで撃ち込んで、ボルグ・カムランが身じろぎした。とたん、黄金の甲殻が発光し始める。即座に下顎を蹴ってバックステップ。ほとんど同時に、ボルグ・カムランの身体から紫電が走る。
 直接電撃を放射することはないが、荷電性ボルグ・カムランは間違いなく体内で電気を生み出している。通常種か炎熱性堕天だったのなら、これでほとんど決着はついていただろう。
 やはり、あの電撃はやっかいだ。
「さて、どうしましょう」
 銃形態から剣形態へ戻す。向こうも臨戦態勢を整えつつある。
 活性化によって鎧のような甲殻はさらに硬くなっている。さきほどの攻撃は少々当たりにくくても針を狙っていた方がよかっただろうか。結論として、欲張りすぎたのだ。
 神機を構え直すと同時、ボルグ・カムランが尻尾を揺らめかせ始めた。攻撃が来る。思考を走らせた瞬間、針が顔をかすめた。バチバチ、と耳元で紫電が弾ける音がしている。この個体、かなりの捕喰を繰り返して強化されている。速度が半端じゃない。
「ふっ!」
 ステップイン。ボルグ・カムランの懐に入り込み、神機を横一線に薙ぐ。が、手応えを確認するまでもなく、目の前から姿が消えた。ボルグ・カムランにこれほどの回避能力はないはず。どこだ、と眼球を左右に振るよりも早く、超視界剤で研ぎ澄まされた感覚が「上」だと告げる。
 見上げると、信じられない光景が入りこんできた。
 尻尾だけで、あの巨体を空中に持ち上げている。
「でたらめな……っ!」
 これほど尻尾の膂力を持ったボルグ・カムランと戦ったことなど無い。神機を握る手に力を込める。様子を窺いながら、間合いを考える。ここまでアクロバットな戦法をとるボルグ・カムランなど聞いたことがない。
 ぐぐっ、と尻尾が蠕動した瞬間、ボルグ・カムランは空中で盾を構え、そのまま突っ込んできた。巨大な岩がそのまま落ちてくるようなものだ。バックステップで大きく後退する。ボルグ・カムランが突っ込んだ場所からは土塊が跳ね上がり、土煙もアラガミの姿を隠すように巻きあがった。
 着地をしようとした、その瞬間だった。
 ――――ぎゅんッ!
「なっ!?」
 ボルグ・カムランの帯電した針が恐ろしい速度で迫って来た。突然のことに対処が間に合わない。無理矢理身体を捻って、針を回避した。が、横腹がえぐられた。
 ぶつっ、とイヤな音がして、痛みよりも先に灼熱感が襲ってきた。
「――――ぢ、ぃっ!」
 地面に叩きつけられるように着地して、息を整える。
 大丈夫、まだ戦える。
 だが、このダメージは深刻だ。ベルトポーチから、普段は決して使わない秘薬を取り出す。『強制解放剤』。もたもたしていられない。こんな変則的なボルグ・カムランを相手にするなんて馬鹿げている。
 ごくん、と錠剤を嚥下した瞬間、心拍数が跳ね上がる。痛みも熱さも、すべてが快感へ変わっていく。痛覚が、苦しみが、生きているという証明に変わっていく。
 全身を駆け巡る、生の実感。
 刹那、ステップイン。
 ボルグ・カムランの懐に一気に潜り込む。突然のことに私を見失ったのか、ボルグ・カムランはキョロキョロと周囲を見渡し始めた。
 ――まずは、その面倒くさい尻尾をいただく。
 踏み込んだ勢いそのままに、スライディングでボルグ・カムランの背後に回り込む。起き上がりざま、力任せに神機を斬り上げた。小さな爆発に似た音が響き、尻尾が中空に吹き飛んだ。
 ボルグ・カムランが慟哭する。素早く旋回し、こちらを正面に見据えたのを確認したのち、スタングレネードをもう一度顔面めがけて投げつけてやった。
 強烈な閃光。二度目になる視覚への激痛に、ボルグ・カムランがまた絶叫し悶絶する。また同じように、ボルグ・カムランの巨躯を登っていく。顔面を蹴りあげ、今度は私が上空へ飛び出した。
 全身全霊を込めた、渾身の一撃。
 黒いオーラが赤いノコギリ刃から延び、それ自体が長大な刃になる。
「はぁッ!!」
 まるで釘打ち。ボルグ・カムランの身体そのものを地面にめり込ませる勢いで神機を振り下ろした。大型爆弾が爆発したかのような衝撃と轟音。
 土煙がさらに巻きあがる。轟音の余韻と、私自身の荒い息遣いだけが聞こえる。
 神機を杖代わりにかろうじて立つ。息が整ってくると、痛みがどんどん蘇ってくる。強制解放剤の効果も切れてきたらしい。血は止まったようだけど、連戦は難しい。願わくば、これ以上敵が出てこないことを祈るばかりだ。
「はぁ……、はぁ……」
 土煙が晴れると、そこには上半身が消し飛んだボルグ・カムランの屍骸があった。
 その姿にほっと胸をなでおろす。あとはみんなが来るのを待てばいい。
「……っ、それにしても、痛い、なあ」
 久しぶりの大怪我だ。ここまでジンとくる痛みも久しぶり。
「生きてるんだなあ、私」
 まだ、人間として。
 
 
 その後は、アラガミが群がってくることもなく、静かに偵察任務が行われた。
 やはり、アラガミはかなり集まってきているらしい。
 だが、何かがおかしいらしい。実戦と偵察をこなすコウタが一番最初に気がついたことだが、まず、行動がおかしいとのことだ。
 複数種のアラガミが集まった場合、捕喰・闘争か、相互関係を築くか、そのどちらかの行動が見られる。だが、今回の集結はそのどちらでもなく、“統率された組織化”が見られるという。具体的には、アラガミが縄張りを見回るのではなく、それぞれのアラガミがポジションにつき、どっしりと腰を据えて見張っている、というのだ。上空にはサリエルも数匹哨戒していたという。
 確かに、これはおかしい。
 まるで何かを守るように、円陣を組んでいるような。
「この先には、確か地下施設があったはずだよ。薄暗くて、広めの地下施設だ。電気がまだ生きているのかはアナグラに戻って確かめないとわからないけど、どちらにしろ、視界に問題ありだね。下手をすると鉄塔の森エリアよりもヒドイかもしれない」
 他部隊の報告を合わせ、コウタがそう言う。
 視界は特に問題ではない。問題なのは、その分析があまりにも条件に一致していることだ。つまり、“何かを守っている”ことに。あのアラガミたちが何かを守っているのは、ほぼ間違いないだろう。だとすれば、なにを守っているという?
「……コウタ先輩、あのアラガミたちの目を盗んでさらに奥を偵察することはできそうにないんですか?」
「難しいだろうね。なんてったってあの包囲網は怖い。アキラから見ても、無理そうだろ?」
「そりゃまあ」
 アキラくんとコウタがイタチごっこのような推理を始めた。
 アラガミはどうしてあんな行動を取っているのか。アラガミはどうしてこれほど集まったのか。アラガミはどうして、人を襲うのか。
「隊長」
「あ、はい」
 ぼうっと彼らのことを眺めていると、横からイオリに話しかけられた。どことなく気まずそうな表情をしている。どうしたのだろう、と彼女が話し始めるのを待った。
「お腹、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫ですよ。心配してくれてたんですか? ありがとうございます」
「ばっ、違うわよ! あ、あんたがいなくなったら、張り合いがなくなるじゃない!」
「そういうことにしておきます。……それで、イオリは今回のこと、どう思いますか?」
「そりゃ不自然だとは思うし、アラガミがなにを隠してるのかも気になるけど、結局、脅威として認識されたなら殲滅するだけでしょ? ごちゃごちゃ考えたってしょうがないじゃない」
「そういう考えもありますね」
「……質問していい?」
「どうぞ」
「ボルグ・カムランってあんな死に方するもんなの?」
 イオリが私の斃したボルグ・カムランを指差す。
 徐々に崩壊が始まっているアラガミの上半身は、すでに吹っ飛んで存在していない。あんな死に方、とは、おそらく上半身が吹っ飛んぶものなのか、と訊きたいのだろう。答えとしては、もちろん、ありえる話だ。ただ、ありえる話であり、あまりお目にかかれないのは確かだ。
 と、イオリにいうと、「あ、そう」とひきつった笑顔を向けながらコウタとアキラくんの会話に入っていった。どうやら、『あまりお目にかかれない』の意味を察したらしい。
「さて……」
 隊員とのコミュニケーションも大事だけど、目の前の問題もなかなかの難題だ。
 何かを守るように陣取るアラガミたち。そしてその先には薄暗い地下施設。
 まず、あのアラガミを突破する方法だ。殲滅か、一点突破か。まあ、今日のところはこれで帰投することになるだろうが、後日、アナグラ所属のほぼ全部隊を投入しての総力戦に発展するだろう。
 ただ迎え撃つだけでいいアラガミたちとは違い、私たちゴッドイーターはアラガミたちが抱える謎とも戦わなければいけない。なんにしても、情報が圧倒的に足りていない。
 あと気になることと言えば、旧・日本、東北地方に現れたという新型アラガミの存在か。姿形からコンゴウ種のようだ、とは博士が言っていたが、これはソーマくんの持って帰ってくる情報にもよる。
 あの円陣の向こう、なにが待っているのか。
 背筋を這う絶対的恐怖。見えず、届かない根源的衝動。
 このイカレた世界では、人間が持つ価値観なんてなんの役にも立たない。
 この恐怖も、この衝動も、なにもかも、アラガミという名のコズミック・ホラーに対しては、一切合切意味をなさない。
 だが、そんなイカレた世界でも、人は生きることを諦めていない。
 だから私も、諦めない。
 諦めるなんて、できるはずがない。
 
 
 翌日。
 毎朝の日課であるメールチェック。昨日は丸一日私室に戻ってこれなかったから、結構な量のメールが届いていた。と、言ってもそのほとんどがファンレターのようなものだ。フェンリル本部がなにを血迷ったのか、『ゴッドイーターとアラガミの交戦記録写真集』なんていう、ふざけているとしか思えない写真集に私の姿が載ってから、世界各所からのメールが届くようになってしまった。
 元々はゴッドイーターという存在を良く知ってもらう、という趣旨で発売されたらしいのだが、はたしてうまく伝わっているのかがあやしい。発売は一ヶ月前くらいだったが、これは本当に、サカキ博士が言うように偶像(アイドル)にでも祀り上げられてしまいそうだ。それだけは本気で勘弁願いたい。
 まあ、前向きに考えるとしよう。恨まれるよりも、期待をかけられるほうがこの仕事はやりやすい。
「ん。ツバキさんからだ」
 珍しい。事務連絡はほとんどヒバリちゃんらオペレーターが行うことがほとんどだというのに。少しだけおっかなびっくり本文を開いてみると、意外に普通の文面だった。
 内容は、『本日朝食後、私の執務室まで足を運んでもらいたい』という一文のみ。文面から、任務関係のことではなさそうだが、一体なんの用事だろうか。
 大方に目を通してからメーラーを閉じ、身なりを整える。昨日のうちに新しいパーカーを買っておいたのは正解だった。
 いつものように誰に気がつかれるわけでもなくエレベーターで立ち聞きをしながら食堂へ向かう。特に面白い話もなく、食堂へ到着した。
 選ぶほどあるわけではない配給物を取りながら、どこか空いている席はないかと探していると、アキラくんとイオリの姿が見えた。なにやら同期同士で集まって盛り上がっているようだ。
 例のごとく、そっと近づいて聴き耳を立てる。我ながら趣味の悪いことだ。
「――で、こいつったらヒドイんだから。私を突き飛ばして私の得物を横取りしたのよ! ちょっとありえなくない!?」
「本人の前でしゃべる内容じゃねーな、それ。あれはお前がボーっと突っ立ってるから悪いんだろ。むしろ感謝してほしいね。あのままだったらお前、ヴァジュラテイルに頭から喰われてたぞ」
「そんなことありませんー。あれはわざとですー」
「はいはい、そうだね。油断を誘ってたんだろ? 聞き飽きたよ、それ」
「何よ何よ何なのよアンタはッ!! 百歩譲ってアンタが私を助けたってことにするならね、コウタさんのフォローなしで、かつアリア隊長みたいな華麗な体捌きでアラガミを狩ってから言うのね! ヘタレ!!」
「ヘタレってなんだよ。お前の方がよっぽどへっぴり腰だったろ!!」
 仲がいいな。
 同期らしい子たちも慣れた様子で二人のことを見ている。そっとその中に紛れ込みながら、話を聞き続けることにした。「ここ、相席いいですか?」
 いいですよ、と答えてくれた子は私に驚いたが、黙っておいて、とジェスチャーで伝えた。こくこく、と勢いよく頷いてくれたので、黙っていてくれるだろう。
「……まあ、まだ俺が未熟だってのは認めるよ。けどな、ヴァジュラテイルごときにスタングレネードぽいぽい投げるお前に言われたかねーよ! コウタ先輩も『うお、まぶしっ!』って狙い定めにくそうだったぞ!?」
「結果的に動き止められたんだからいいじゃない! 文句があるならかかってきなさいよ、女だからって手ェ抜いたらアンタの股間についてるヤツ私の神機で喰いちぎってやる!!」
「下品なんだよお前! もっとこう、アリア隊長みたいに女の子っぽくできねーのか!?」
 女の子。そうか、アキラくんは私のこと、女の子として見てるのか。
 それはそれとして、見てる分には面白いけど、このまま続けると監督問題で私に責任が飛んできそうだし、そろそろ止めないと。
「やーらしー! アンタ隊長をそんな目で見てたの?」
「ばっ、ち、違う!」
「何が違うのよ!? アンタが先月出た写真集のアリア隊長のページにだけ付箋貼ってるの知ってるんだからね!!」
「なっ、ちょっ、バカ、なんで知ってんだよ、お前!!」
「嘘。適当に言ったのに、マジで!? それヤバいって、変態じゃんアンタ!!」
 出るに出ていけない空気になってしまった。
 周りもざわつき始めている。ヒートアップしてしまった二人以外、この騒動を見ているほとんど全員が私のことに気が付いてるみたいだし……。ああ、もう、ここから消えてなくなりたい。
 ていうか、アキラくんってば、それ本当?
 嬉しいような、ちょっと遠慮したいような、複雑な気持ちだ。
 残っている朝食分の配給を呑むように胃に流し込み、覚悟を決めた。
「いい加減にしてください、二人とも」
「え?」
「うそっ。いつからいたのよ、隊長!」
「どっちが昨日のヴァジュラテイルを倒したかどうか言ってたところからです」私の顔は赤くはなっていないだろうか。恥ずかしさを抑えながら続ける。「口を動かす方向を間違っているようですね。ここは食堂です。それに、そのまま殴り合いでも始められたら私にまで迷惑がかかること、わかってるんですか? 仲がいいのは結構ですが、ハメを外さないように気をつけてください」
 もう、我慢できない。
 言うだけ言って、私は人波の中をかき分けて食堂から出て行く。
 後ろからアキラくんが呼ぶ声がしたが、立ち止まって彼の言い訳を聞いている暇もない。ていうか、今この状況でアキラくんの話を聞く度胸なんて、私にはない。
 ――それに、もし、アキラくんが純粋に私に好意を向けてくれているのなら、それに答える資格も私にはない。
 今日はツバキさんのところから帰ってきたら、一日中自分の部屋にいよう。
 
 
「足を運んでもらったのは他でもない。こういうメールがアナグラに届いたからだ」
 そう言って、ツバキさんはモニターにメールの本文を映してくれた。
 だが、それは熱烈なファンレターでも、カルト教団の宣戦布告文でもなかった。ただ、それは読んでいくうちに、どんどん気が滅入ってくるようなメールだった。
 
『――――アリア・ヴェステルベリ様
 貴女は我が狼鳳軍事高校を代表する生徒であり、優秀なゴッドイーターである。
 そこで、貴女に我が校を訪問し、特別講義を開いていただきたく思います。
 ゴッドイーターとしての経験を、存分に生徒諸君にお聞かせ願いたい』
 
 なるほど、と呆れたように呟くと、ツバキさんは珍しく声を出して笑った。彼女もこのメールに思うところがあるのだろう。苦笑いを向けると、また声を出して笑われた。
「ああ、いや、すまんな。だが、狼鳳軍事高校はフェンリル各支部にゴッドイーターだけでなく、優秀なオペレーターも手配してくれている。お前がそんな顔をするのも予想できたし、こちらの独断で断ることももちろん可能だったが、肝心のお前はどうだろうと思ってな」
「……明日行ってきます。横腹の怪我もまだ気になりますし、休養中のボランティアだと思えばなんてことありません」
「そうか。ならいいんだがな。さっそく返信をしておく」
 カタカタ、とキーボードを打つ音がして、すぐにメール送信の音が鳴った。
「そうだな。あとは、誰かつれて行きたいヤツはいるか? サポートは必要だろう」
「……そうですね、では、アリサを」
「アリサだな。わかった。要件は以上だ。帰っても構わんぞ」
「では、失礼します」
 また、なんとも面倒な仕事が舞い込んできたものだ。
 
 
 翌朝、私はアリサと一緒に、予定通り外部居住区にある狼鳳軍事高校へ足を運んでいた。
「アリア、ちょっといいですか?」
「はい?」
「この高校、立地が悪くありません?」
 アリサが言う通り、この学校の立地は悪い。なぜなら、アラガミ障壁の出入り口である門とほぼ並ぶように建っているからだ。アラガミが居住区に攻め入ればまっさきに襲撃されるような場所に、この学校は建っている。
 いや、だからこそ、ここに建っていると言うべきか。
「ここは、時間稼ぎをする場所でもあるんですよ」
「……よくわからないんですが」
「ここにいる生徒はほとんどがゴッドイーター志望か、オペレーターとしてフェンリルへ配属されることになります。これだけ言えば、わかりますよね?」
「ええ。でも、神機もなしにそんなこと……」
「神機がなくとも、戦えるようにここの生徒は訓練されています。と、言っても、さすがにガチンコで戦うことなんてできませんけどね。言った通り、時間稼ぎしかできないんですよ」
 それで、何人の同級生がアラガミに喰われたか、もう覚えてもいない。
 あの頃の私は、今の私よりも『私』だったように思う。要は冷めていたのだ。『弱いモノが殺され、強いモノが生き残る』。それは自然の摂理。それを、私は体現した人間だったと思う。あの頃の私は、自分を弱き者と見て、アラガミと遭遇すれば、最低限の足止めを行い、脱兎のごとく撤退することを続けていた。
 同級生が敵うはずのないアラガミに対して、銃を乱射していたのを横目に一瞥しながら、彼らを見捨てて、私は常に逃げていた。私が「撤退してください」と叫んでも、同級生の何人かは足を地面に縫いつけたように、てこでも動こうとしなかった。
 そこが、学生時代の私と、今の私の違いだろう。
「失礼します」
 学長室、と書かれたプレートが埋め込まれた扉をノックする。
 ほとんど間を置くことなく中から「入りなさい」という声が聞こえた。
「お久しぶりです。アリア・ヴェステリベル少尉です」
「同じく、アリサ・イニーチアナ・アミエーラ上級狙撃兵です」
 学長との会話は思っていたほど長くならなかった。学長の会話中の挙動を見ている限りでは、私たちの話を自分も早く聞きたくてたまらない、と言ったところだろうか。
 いい歳をして、まるで子どもだな、と思わず笑みをこぼしそうになってしまった。
「アリアはこの学校を出てるんですよね?」
「正確には卒業前に適性検査をパスしたので、卒業はしてません。まあ、卒業扱いにはなってますけどね」
「ふぅん」
 興味があるのは私か、それとも学校か。
 アリサはキョロキョロと忙しなく校内を眺めながら移動していた。そんなに珍しいものなんて、置いてるわけでもないのに。学校なんて、内装はほとんど同じだろう。
 そうこうしているうちに、学長につれられて講堂まで来ていた。今日はここで講義をしてくれ、ということらしい。
「講義は一○○○時から、一二○○時までの予定です。その後、お二人には改めて校内を見学してもらおうと思っていますが、なにか御用時などありますか?」
「いえ、特に問題ありません。そうですね、午後は演習場を見てみたいです」
「わかりました」
 今日のスケジュール管理を任されたスタッフなのだろう。他にも、講堂内には電気系統をいじっているスタッフが数人見受けられる。
 今の時間は○九三五時。講義開始まで25分あるが、15分前には生徒が続々と入ってくるはずだ。
 と、ここに来てもアリサはキョロキョロと落ち着きがなかった。
「どうしたんですか? なんだか落ち着きがないように思いますけど」
「あー、いや、なんていうか」モゴモゴと口ごもり、アリサの言葉は要領を得ない。「アリアこそ、よくそんなに落ち着いていられますね、というか」
「はあ……。まあ、母校で演説をするくらい、どうってことありませんけど」
「あ、いや……。そうじゃなくて」
「なんなんですか。演説が始まってもその調子だと困ります。ハッキリ言ってくださいよ、水臭いですね」
「うう……、水臭いとかそうじゃなくて、その、昨日の~……」
「昨日?」
「私も食堂にいて、聞いちゃったんですよ、アキラとイオリの話」
 ……なんだ、そのことか。
 私があからさまなため息を吐くと、アリサは拗ねて頬を膨らませてしまった。
「私は気にしてませんよ。実質的な告白のようなものでしたが、私には彼に対する恋愛感情はありません。まあ、彼がってことに驚きはしましたが」
「胆が据わってるというか、無神経というか」
「なんですか。なにか文句でも? アキラくんがハッキリと告白してくれたなら、私は丁重にお断りしますし、このまま私が何も言わず動かずいたら彼もすぐに気付くでしょう」
「もっとこう、女の子らしい反応はできないものですか」
「さて。女の子らしさってなんでしょうね」
 と、そこで思っていた以上に早く生徒たちが講堂へ入って来たので、話は中断した。壇上の私とアリサの姿を見た生徒らは、ヒソヒソと耳打ちをするか、キャアキャアと黄色い悲鳴をあげているかのどちらかだった。前者は男子、後者は女子に多い。
 講堂が埋まったのは、○九五五時。ざわざわと講堂が生徒の声で埋められている。
「な、なんか緊張しますね」
「そうですか? 私は特に」
「……慣れてるのか、肝が据わってるのか。慣れてるとしたらいつ慣れたんでしょうね」
「慣れですね。学生時代はよくここに立ってしゃべってましたから」
「え」
「ほら、始まりますよ」
 私が言うのと同時、マイクを持って一人の教諭が前に出た。
 適当な挨拶と、学園生徒としての最低限のマナーを守って傾聴するように、という事前注意。ざわつきが一斉に消え、講堂にはマイクで拡張された男性教諭の声だけが響いている。
 男性教諭の話が終わると、隣のアリサが一気にそわそわし始めた。
『では、どうぞ』
「ほら、行きますよ、アリサ」
「ひ、ひゃいっ」
 手と足を同時に出しながら、えっちらおっちらとアリサが隣を歩く。その姿がおかしいのか、生徒からクスクスと笑い声も聞こえた。確かにおかしいけどね。
 壇上のマイクを取って、こつこつ、とマイクヘッドを叩いて電源が入っているかを確認する。「あ、あ」と声は通るかの確認も怠らない。隣のアリサは、やはりガチガチに緊張している。
『えー、はじめまして。フェンリル極東支部、ゴッドイーター部隊、第一部隊所属小隊長、アリア・ヴェステルベリ少尉です。今日はお招きいただき、ありがとうございます』
 す、とマイクをアリサに渡す。え? と顔をしかめるアリサ。耳元で「自己紹介です」と囁くと、慌ててマイクを持った。
『え、えーと、えーと、同じく極東支部所属、第一部隊の、アリサ・アミエーラ上等狙撃兵、です。よろしく、お願いします』
 声がうわずっていた。彼女からマイクを受け取って、さっそく講義を始める。
『みなさんは、ゴッドイーターという職業がどれだけ今の人々の生活を守っているか、わかりますか? 実際、完璧という言葉とは程遠い被害が、毎年外部居住区からは出ています。アラガミの増加、それに伴うアラガミの強化個体の出現。ゴッドイーターの進化は、アラガミの進化のあとについて回る事象です。それは、強力な個体からは、貴重なコアが搾取できるからであり、ゴッドイーターが単体で行えるものではないからです。ゆえに、後手に回ることしかできないゴッドイーターは、完璧な防衛などできるはずがないのです。以上が、私が学生時代に発表した論文の導入部です』
 講堂にいる全員を見ることはできないが、雰囲気を感じ取り、次の話に進んでもいいものかを判断する。後ろの方の男子生徒の態度が悪いのがよく見える。あの目は、恐れを知らない目だ。『俺は強者だ』と自己過信をする者の目だ。
『さて、ゴッドイーターの現状を簡単に説明したところで、次はアラガミについて考えていきましょう。アラガミの現状ほど、あてにならないものはありません。アラガミは常に捕喰を繰り返し、人智を超えた存在へ進化し続けています。例えば、ヴァジュラ。つい一年と少し前、新型上位個体である、ディアウス・ピターが確認されました。プリティヴィ・マータは以前から少数ではありますが、確認されていました。が、ここに来てヴァジュラ種の新型としてカテゴライズされるアラガミが出現したのです』
 メモを取る生徒や、すでに船をこぎ始めた生徒とさまざまな人がこの講堂内にいる。
 緊張はしていたが、根が真面目なアリサがいつ爆破してもおかしくないほど、不真面目な生徒も目につく。エリート校が聞いて呆れる。
『また、ゴッドイーターが戦うことを基本禁じられている、接触禁忌アラガミと呼ばれる個体も存在します。偏食因子がゴッドイーターの武器である神機に向いた者を特に第一種、捕喰行動の果てに特別強化個体になったとされるものが第二種として、考えられています。ディアウス・ピター含め、これらの個体はアラガミの進化を語る上で外すことのできない存在でしょう』
 ああ、いい加減に面倒くさくなってきた。ゴッドイーターは理屈じゃない。自分で話し続けていて馬鹿らしくなってきた。隣のアリサも辟易とした顔をしている。基本知識を並べるだけなら、ここにいる教諭なら誰でもできるだろう。
 そんな感じで小一時間、話し続けた。結局は基礎知識を話すだけの単純な講義になってしまった。これでは面白くないに違いない。寝てしまうのもわかる。どうしてこう、サカキ博士のような素敵な授業ができないのか。あの授業は本当に面白かった。
『では、ここで一旦休憩を挟みます』
 講堂に張りつめていた緊張がほどけた。ため息や、あくびが講堂を埋めていく。
 トイレに行く人や、イスに座ったまま脱力する人、立って身体を伸ばす人、周囲のざわつきに目を覚ます人と、これまたさまざま。来るか、と思っていた質問攻めがなかったのには拍子抜けだが(あの講義内容じゃしょうがないだろうが)、概ね想像していた通りの景色が広がっていた。
 10分ほど経ち、講義は再開された。私が壇上に立つ直前、アリサに耳打ちする。
「ちょっと、つまらないですよね」
「ええ、まあ。アリアの講義を否定するわけじゃないんですけどね」
「だからちょっと、面白くしますね」
「え? あの、何をするつもり……」
 前半と変わらず、マイクを持つ。
 ぐるり、と静かな講堂全体を見渡してから、言う。
『アラガミが怖い人。挙手してください』
 にわかに講堂がざわついた。こういうとき、人間は周囲の状況を見て、誰も手を挙げないようなら、自分も挙げなくなってしまう。社会心理学の中の、『同調行動』と呼ばれるものだ。思わず周りと同じ行動を取ってしまうこれを、日本の四字熟語で近い意味を拾ってくるとすれば“付和雷同”だろうか。
 これが働いていることと、あとはプライドだろうか。
 狼鳳軍事高校は文武とも優れた生徒が集まるエリート校と言われている。
 のちはゴッドイーター、もしくはオペレーターという学生がほとんどだ。そんな自分が、アラガミを怖いと思っているはずがない、あるいは思われたくない、だろうか。
 5秒ほど待って、結果、誰も挙げなかった。行動に出ようとした瞬間、ざわついていた講堂内が、どよめいた。
 生徒たちの視線を追って振り返ると、アリサが手を高々と挙げていた。彼女と目が合うと、にこりと微笑む。それに続いて、私も手を挙げた。もう一度怒濤のようにどよめきが広がった。
『素晴らしい。私の後輩は誰ひとりとしてアラガミに恐怖していない。誇らしいですね』
 私が皮肉って言うと、ぽつぽつと手が挙がり始めた。
 最終的に、ほぼ全員の手が挙がる。
『そう。アラガミとは、人類の常識を超えた恐怖なのです。ゴッドイーターは、これに逃げるのではなく、立ち向かわねばならない。守られる側から、守る側へ。自覚してください。アラガミに与えられる恐怖は、決して拭えない。そして約束してください。死なないこと、死にそうになったら逃げること、そのまま身を隠して恐怖が過ぎ去るのを待つことを。戦場では恐怖し自制した者が強者なのであり、勇みはただの蛮勇に成り下がることを知ってください。あなたたちにはまだ、未来がある。そしてその未来は、私たちゴッドイーターが守っていく』
 ざわつきが収まっていく。
 そうだ、私はきっと、こういう話がしたかったんだ。
 意味のない約束。濁り水のように見透かせない未来。不安な毎日。守られる側の人たちは、いつもそれを抱いて生きている。
 終わりなき闘争。死と隣り合わせの未来。緊張の毎日。守る側の人たちは、いつもそれを抱いて生きている。
 誰もがこのイカレた世界で“生”を求めて生きている。なぜ?
 諦めていないのは、なぜ?
『人は、アラガミと戦っているわけじゃないんです。我々人は、世界と戦っている。この、イカレきった世界と、戦っている』
 このイカレた世界で変わらぬ日常を求め、変わらぬ日常のために戦っている。
 なんて、愛おしい。
『さて。講義を続けましょう』
 ――――刹那、爆発音が響き渡った。
 
 
 
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現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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