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2018-09

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背徳の炎  track:39

 
 「驚きました。これがタイムマシーンというものなんですね……!」
 
 どこか興奮した様子で、ネギ先生は手元の懐中時計を眺めている。
 超鈴音から渡された懐中時計だ。何かがあるとは思っていたが、まさか時間旅行とは……。
 
 ネギ先生を他人のように眺めていると、しばらくは子供らしくはしゃいでいたが、ふと、その表情に陰りが映った。
 
 「これがあれば、あのときに戻れるのかな……」
 
 ぎゅっと握りしめる懐中時計は彼の問いには答えない。
 喧騒にかき消されながらも、カチコチと時を刻むだけだ。
 そんな先生に声をかけることもなく、しばらく学園祭の人混みの中を進んでいたときだった。
 正面から、見知った顔が近づいて来た。エヴァンジェリンとその人形のチャチャゼロだったか。
 
 「なんだ、ぼーやじゃないか。何をまたそんなクソが詰まった顔してるんだ? 懐中時計?」
 
 「あ、ま、師匠……。いえ、これは、その……」
 
 「ケケケ、コイツ懐中時計隠シヤガッタゾ」
 
 素直というか、単純というか。
 どれだけ賢くても、まだ子どもということだろうか。
 こんなだからお嬢様も先生のことを心配してしまうのだろう。おかげで、つい「お嬢様がするくらいなら私が」とか余計なことまで口走ってしまい、結果、こんな超科学的とも超自然的ともつかない現象に巻き込まれるハメになってしまった。
 身体に悪影響はないのだろうか。今度会ったら、あのとんでもないクラスメイトを問い質す必要がありそうだ。――さて、超鈴音は一体なにを考えているのか。
 もし、お嬢様を狙う刺客だとしたら――。冷静に見極める必要がありそうだ。
 
 「いいから貸せ。お前の物は私の物。私の物は私の物だ」
 
 「横暴だーっ!? に、逃げましょう、刹那さん!」
 
 「え? あ、ちょっと……っ!」
 
 独り物想いに耽っていると、先生に急に手を引かれた。
 人混みの中をすごいスピードで駆け抜けていく。先生と比べても身体が幾分大きな私は、通行人に肩をぶつけながら彼に引っ張られていく。世界樹の魔力がもれ始めているとはいえ、やはり本調子ではないのか、エヴァンジェリンの姿はどんどん遠ざかっていく。
 しばらく進んだ後、先生がやっと足を止めた。
 
 「どうしていきなり走り出したんですか」
 
 「え、いや、このタイムマシンが師匠に取られそうだったので……」
 
 「ああ、兄貴の行動は正しいと思うぜ。こんな超アイテムがエヴァンジェリンの手に渡ったらどうなることか」
 
 「まあ、一理ありますか」
 
 一先ず納得しておくとして、さて、これからどうしようか。
 先生たちはあのタイムマシンをどうするかの相談を始めていた。
 
 「……とりあえず、時間の余裕はできたって思ってもいいのかな」
 
 「待て待て兄貴。まだそれがちゃんと使えるかどうか決まったわけじゃねえぞ」
 
 「確かにそうですね。たまたま時間が戻っただけで、タイムマシンだというのなら時間が進んでしまう可能性もありますし、それに本当にタイムマシンなのかどうかも怪しい」
 
 「ううん……。じゃあ、どうしよう? 超さんを探しますか?」
 
 つい、と先生が私に目配せしてきた。
 明らかに付き合ってくれという目だが、あいにく私はそこまで暇じゃない。
 
 「……付き合いませんよ」
 
 「ど、どうしてですかっ!?」
 
 「どうしてもこうしても、私としましては、時間が戻ったというのならお嬢様の護衛をしようと思っていますから」
 
 この人の数だ。誰か一人でもお嬢様を狙う輩がいてもおかしくなどない。
 そう補足すると、先生は肩を落とし、カモさんはニヤリと笑った。
 
 「でも、いいのかい? もしコイツの副作用なんてのがあったら……」
 
 「それはそうですね。では、それがどういうものなのかが判ったら仮契約カードの通信で教えてください。それが嫌なら式神を渡しておきます。もし副作用があるのだとしても、それが起きるまではお嬢様の護衛はできるでしょうから」
 
 「ぐぬぬ……っ、い、いやでも、このか姉さんの目の前でぶっ倒れでもしたら……、その上それが敵の目の前だったりしただどうするってんだよ!?」
 
 「お嬢様は私ごときを心配してくださるでしょう。ですが、そうなった場合、私も腹を決める覚悟です。相討ちくらいには持ち込めるでしょう」
 
 「……はぁ、わかった。わかったよ。兄貴、こりゃ無理だぜ。俺らだけで超の野郎を探すとしよう」
 
 「そう、ですね。では、詳細が判り次第、通信で知らせますので」
 
 「よろしくお願いします」
 
 そう言って、私は彼らに背を向けた。
 この時間ならば、急げば保健室近くでお嬢様を発見することができるだろう。
 その後は、陰から、修学旅行前と同じように見守っていればいい。合流などすれば、下手をすると保健室に連れ戻されかねないし、これが一番いい選択だろう。
 ――だが、確かにカモさんの言うことが気にならないと言えば嘘だ。
 副作用は私も考えたこと。ありえない話じゃない。だけど、だからどうした。
 身体は動く。脳は考える。
 それでもう充分じゃないか。
 
 「タイムマシン、か」
 
 私が帰りたい時間は、一体いつなのだろう。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 “ゆらぎ”。
 ヤツのいう“ゆらぎ”は、おそらく、時空の歪みのことだろう。
 だとすれば、生半可なことではそれは起こり得ない。強大な力同士のぶつかり合い。一番単純な方法が、一番難しいのかもしれない。
 
 だが、他の方法を考えている暇はない。
 
 手っ取り早い方法は、坊やに事情を説明して戦うこと。
 だが、それをどこでやる?
 
 ここにいる有象無象を巻き込んでもいいというのなら簡単だが、それでは坊やが本気を出さずに終わるだろう。
 ではどうやってアイツの本気を引き出す? ただ今のアイツと戦っても意味はない。時間の無駄だ。
 
 「――それにしても何人いるんだ、こりゃあ」
 
 有象無象と表現してみたはいいが、ここにいる人間一人くらい死んでも誰も気にしそうにないほどの数だ。
 声が聞こえない場所などないうえに、裏路地に入るとカップルがいちゃついている。
 人人人。気が滅入るほどの人だ。
 いつもは閑古鳥が鳴いているような店でも、この期間はどこもかしこも大忙しらしい。
 
 人通りが少なく、味も悪くないお気に入りのカフェもしばらくはお預けらしい。
 
 一度落ち着いて考えたいのだが、そうも言ってられないようだ。
 学園祭開始の宣言から早2時間。そろそろ昼だ。――が、どうにもよくない。
 
 人が多いのは仕方がないと割り切っていたのだが、どうしてまたアイツがいるのか。
 このまま殺してやってもいいのだが、どうせまた映像か何かだろう。
 
 「――やあ、ここが君の好きなカフェだと聞いて待っていたんだ」
 
 「今度はなんの用だ。“ゆらぎ”はもういいのか」
 
 黒い外套に頭から爪先まですっぽり隠した、ヤツがオープンカフェの一席に座っていた。
 わざわざ座ることもない。いつでも殺せる位置にだけ立って、要件だけを聞き出すことにする。
 
 「ああ、“ゆらぎ”に関してはとんでもないものが起きたからもう問題はない。――だが、その“ゆらぎ”の発生そのものが問題になってしまった」
 
 「あん? どういうこった」
 
 「可能性の多岐化。つまり、時間跳躍による単一個体による単一時間軸中での二元性の可能性の実現。あのアクセルという若者よりもよっぽど性質の悪いタイムトラベラーが出現したようだね」
 
 軽く一言で済ませはしたが、どうやら深刻な問題らしい。
 可能性の多元化、ということだろうか。それとは違うニュアンスを感じ取れるが、さて。
 
 「…………説明を続けろ」
 
 「では続けるよ。人が選びうる選択肢は、常に一つでしかない。それは君もよく解ってるだろう、フレデリック?」
 
 「御託はいい。いいから話せ」
 
 「そうだね、急ごう。アクセルという若者は、常に“自分のいない”歴史にしか飛ばない。バックヤードが定めた世界を壊すような能力を、バックヤード自身が与えるはずがないからね。それは身体の一部を壊すような行為だ。――つまり、だよ。人は常に選択肢を一つしか選べない。それが歴史を創り、世界を創るからだ。では例えば、地点Aに向かうか、地点Bに向かうかを選択する状況になったとする。それはその人物にとってなんでもないことだとしても、世界にとってはとても大きな選択なんだ。Aに行けば戦争は起きず、Bに行けば戦争が起きる。極端だが、そんな感じだよ。では、問おう。この人物が“同時に二つの可能性を実現できたとしたら、世界はどうなると思う”?」
 
 「――つまり、てめえが言いたいのはタイムパラドックスのことか?」
 
 「それをもっと大事にしたものだが、解釈としては大きく外れてはいないよ。アクセルという若者がしていることこそがタイムパラドックスだからね。――だけど、君も知ってるとは思うけど、常日頃からタイムパラドックスなんて起きてるんだよ。パラレルワールドという考え方だね。だが、今回はもっとひどい。多重時間軸での単一個体による多元性の可能性の実現をパラレルワールドと呼ぶのだとすれば、今回の現象はディファレント・マルチプルワールドとでも呼ぼうか」
 
 「単一個体による単一時間軸中の二元性の可能性の実現、か。なるほどな。で、その馬鹿はどこのどいつだ」
 
 「君の知っている人物だよ。名前は、ネギ・スプリングフィールドと桜咲刹那。前者は子供先生、後者はジャパンのモンスターと人間のハーフらしいね。今からなら、ネギ少年の方は急げば飛行船の発着場で捕まえられるはずだよ」
 
 「……てめえがここまでする理由はなんだ?」
 
 「そうだね。大前提として、僕の計画を潰してほしくないから。そのために世界崩壊を食い止めねばならない。まあ、本音を言えば君に死んでもらっては困るからだよ、フレデリック」
 
 「勝手に人の身体を弄り回しやがったヤツがなにをいけしゃあしゃあと……ッ」
 
 「それだ。君に死んでもらっては困るから、君の身体をGEARに変えたんだ」
 
 「ふん……、どうとでも言え。この身体にしたこと自体はそれほど根に持っちゃいねえからな」
 
 「僕を殺す力だからかい?」
 
 「それもあるが……、チッ、いけすかねえ」
 
 「……必要なことだったんだ。何もかも」
 
 「――……話はそれで終わりか? ならさっさと消えろ。あとはどうとでもする」
 
 「やり方は解るかな?」
 
 「アクセルのような特異体質でもない限り、タイムスリップなんざできるもんじゃねえ。あまりにぶっ飛んでやがるが、それを手助けするような道具か演算術式がある。そいつをぶっ壊せば文句はねえな?」
 
 「ああ、それで構わないよ。それを完了したのち、またこちらから必要なことを伝える」
 
 言って、ヤツはすぅっと影が薄れるように消えていった。
 体のいい使いッパシリってところか。
 
 飛行船の発着場、だったな。
 向かいながら状況を整理しよう。
 
 あの小僧と小娘がやったことは、『単一個体による単一時間軸中の二元性の可能性の実現』。
 つまり、同じ時間軸に複数のパラレルワールドを重ねる行為だということだろう。今がどの程度のパラレルワールドを重ねた状態であるかは解らないが、これを放っておくと、可能性の束という『世界』が飽和することになる。そんな不安定極まりない状態での行動を良しとしなかった、というところか。
 不安材料を取り除くのは定石だ。それは悪くないだろう。
 
 曰く『ディファレント・マルチプルワールド』。それが起こった原因というのが時間跳躍。
 原因の原因――。つまるところ、タイムスリップを起こした演算術式、または道具を壊せばそれ以上の可能性の重層化は防ぐことができるのだろう。それを持っているのが、小僧と小娘。
 どこからそんなものを手に入れたのかはわからないが、とにかくそれを壊すこと。
 
 最後に“ゆらぎ”の発生。
 多元的可能性を持つことになった現時間軸がごくごく不安定になったことで発生したのだと考えられる。
 それにしても、まだ“ゆらぎ”に関しては不安が残る。どこかこちらで保険をかけておいても損はないだろう。
 
 ――さて。
 飛行船の発着場についたわけだが、ここにもやはり人はいる。
 広い場所ということもあって、ある程度マシに見えるが、それでも多い。
 すれ違いなんてごめんだし、もしそうなったら見つけるのがとにかく面倒になる。
 
 と、発着場横の戦闘機展示会の方に、小さな子供が入っていくのが見えた。
 この人数の中、これほど早く見つけられたのは幸運だ。さっそく近づいて、話しをつけることにする。
 ある程度まで接近し、時間跳躍の原因捜しを始める。演算術式か、道具か。小僧が身につけているのはただのスーツらしく、その分は楽なのだが、コイツ自身がとんでもない魔力を持っているからか、捜索演算がぼやけて仕方がない。
 どれほど続けたかはわからないが、やっとのことで原因をつきとめた。
 
 懐に隠し持った道具だ。
 どんなカタチかはわからないが、えらく小型だ。
 据え置きの大型機械でなかったことには助かったが、あまりに小さすぎるとそれもまた面倒だ。
 どうするか。
 
 渡せと言って渡すなら簡単だ。
 だが、時間跳躍を可能にする道具などそうそう簡単に手放すハズもない。
 物で釣ろうにもこんなガキが何を好きかなんて知るはずもなく、見せてくれと頼むのも不自然だ。
 
 めんどくせえ……。
 こんなことなら、できるだけ懐かせておいた方がよかったか。――だとしても、柄じゃねえな。
 俺がガキの面倒を見るなんて、おそらく一生ないだろう。
 
 ――そうしてしばらく悩みつつ、いつのまにか世界樹広場まで歩いて来てしまった。
 そんな感じで現在地を確認した瞬間、弾丸が空を駆け抜けた。喧騒のせいで銃声は聞き取りづらいが、しっかりと響いている。弾丸が飛んできた方向を見ると、簡単な造りの塔があった。広場の誰かを狙う分には、あの位置はベストポイントだろう。
 
 それから弾丸を飛ばした方向を向くと、男子生徒が一人地面に倒れ伏していた。
 血が出ていないところを見ると、ゴム弾かそこらの弾丸での気絶目的の発砲ということになる。一体何が目的でそんなことをしている?
 
 今考えても仕方のないことを頭の隅へ放り、小僧の追跡を続ける。
 広場から出て行こうとした直前で、目の前に褐色肌の女が割って入って来た。
 巧く臭いを消しているが、こいつも混ざり者か。
 それに手元の荷物を見る限り、狙撃手はこの女のようだ。
 
 「私のクラスの担任になにか御用かい?」
 
 「あ? あいつは確か――」
 
 あの小僧のクラスの副担任をしていたアクセルが「相手は中学生」だと言っていたから、あの小僧が受け持っているクラスというのも、ほぼ間違いなく中学生なのだろうが……。今目の前の女はなんと言った?
 
 「中学の教師だと聞いていたが……ダブってるのか、お前」
 
 「失礼だな。私は正真正銘中学生さ。それに、日本では中学での留年はまずないよ。引きこもりのギークだって自然と学年は進むからね」
 
 「……そんな話か。どけ、俺はあの小僧に用がある」
 
 「へえ。まあ、仕事内容には入ってないから別にあなたの邪魔をしようとは思わないけど、気になるんだ、個人的にあなたのことが」
 
 「つまらん。どけ。怪我するぞ」
 
 「それは勘弁願いたい」
 
 女は素直に道を開けた。
 どこか油断ならないと警戒しながら歩き始めると、女は俺とすれ違うよりも早く、大声を出した。
 
 「ネギ先生。先生もパトロールかな?」
 
 「えっ?」
 
 野郎……。
 にらむと、飄々とした態度でこちらに微笑みかけてきた。
 小僧の方は俺と女を交互に見ながら固まってしまった。クソッタレ。これだからガキは嫌いなんだ。
 
 「あなたは……」
 
 「チッ。おい、どうしてくれやがる」
 
 「なんだ、先生に用事があったんじゃないのかい? それはすまないことをしたね」
 
 「殺すぞ、てめえ」
 
 小僧は明らかにこちらに対して警戒をし始めた。
 ――ああ、くそ。めんどくせえな。
 
 「……ちょうどいい、かも。あの、訊きたいことがあるんです」
 
 「あ? 俺にか?」
 
 「はい」
 
 警戒はしたままだが、小僧はなぜか近くへ寄って来た。
 
 「あなたが強くなる理由って、なんですか?」
 
 「あ?」
 
 「そこまで強くなって、何が見えたんですか?」
 
 「……これだけは言っておくぞ。人並みの強さで満足しろ。お前は今のままで充分だ」
 
 「なんですか、それ」
 
 それはなんだ、と問われても同じ答えしか俺の口からは出ない。
 それを無言で伝えると、小僧はうな垂れて「そうですか」と一言こぼすだけだった。
 が、次の瞬間、反抗的な目と言葉で返してきた。
 
 「あなたのその忠告には従えません。僕はもっと強くならなくちゃいけないんです。みんなを守れるくらいに、もっとずっと、強く」
 
 「ふん。好きにしろ」
 
 時間跳躍の道具を壊すには、もう少し違う方法を考えた方がよさそうだ。
 小僧と女に背を向けるて、その場から離れて行く。
 しばらく歩いたあと、その背中の方から声がかかった。
 
 振り向くと、立っていたのは女の方だった。
 
 「面白い情報を教えてあげようと思って追いかけてきたんだよ」
 
 そう言って、女が差し出してきたのは一枚のチラシだった。
 日本語で書かれている。絵面だけ見ると、どうやら武道大会か何かのようだが……。
 ――こういった大会にはいい思い出がない。できれば話しを聞かずにそのまま去ってしまいたかったが、そうもいかないらしい。
 
 根拠はない。
 ただ、女の表情がやけに挑戦的だったのだ。
 
 「これ、安い武道大会なんだけど……、近いうちに面白いことになるよ。あなた、学園長お抱えの仕事人なんだろ? どうもそんな風には見えないんだ。ムシャクシャしてたりしたら、ストレス発散にでもしにおいでよ」
 
 「……気が向けばな」
 
 あのジジイに関しては、最近はほとんど交流を図っていない。
 向こうからも連絡は寄越す様子がない。自由にしろ、というわけでもないだろうが、何を企んでいるのか。
 まあ、こちらの扱いが面倒になったと見るのもアリだろうが……。
 
 さておき、この武道大会は使えるかもしれない。
 今の坊やは血の気が多いだろうから、少しからかったらすぐに乗ってくるだろう。
 だが、坊や一人というのは荷が重いか。保険としては、アクセルあたりも呼べばいいのだろうが、しばらく顔を見せていない。またタイムトラベルでもしたか?
 他にやりあえそうなヤツといえば、あのガキの姿をしたババアとタカミチ、だったか。呼ぶのも面倒だな。
 
 あまり理論的ではないが、自然と集まるときは集まってくる。あの選考武道会と同じように。
 まあ、この世界の強さを見る分には、いい機会なのかもしれないが。
 
 「――選考、か」
 
 アイツはあの小僧のことを『時間跳躍による単一個体による単一時間軸中での二元性の可能性の実現』と呼んだ。
 同時間軸上に複数のパラレルワールドを重ね、本来一つの可能性しか発現できないものを複数発現可能にした存在。
 それを可能にしているのは、小僧が持っている小型の道具。
 
 そして、この存在のせいで次元が不安定になり、結果として“ゆらぎ”にまで発展した。
 だが、その代償として、不安定な次元のままではアイツが考える作戦を、実行に移すだけの安全が確保できない。
 なので、時間跳躍の原因たるものを破壊する。すなわち、小僧の持つ小型の道具だ。
 
 さて、さきほど会った小僧は“何人目の小僧”だ?
 
 アイツの口ぶりからして、時間跳躍が最初に起こったのはつい先ほどということになる。
 より正確に言えば、『これから』と『つい先ほど』の二回同時発動なのだろうが。
 
 最低、あの小僧は二人目だということになる。
 
 「選考……」
 
 新しいヤツから殺していく、というのもあるいは一つの手だろう。
 だが、どうやって新しいかどうかを確認する? 却下。
 
 では、新しいヤツから道具を奪う。それでこれ以上の被害拡大はなくなる。
 だが、以前のヤツらが使えば……。堂々巡りだ。却下。
 
 「……なんだ、簡単じゃねえか」
 
 アイツはわざわざヒントを言っていた。
 『君も知ってるとは思うけど、常日頃からタイムパラドックスなんて起きてるんだよ』と。
 そう、これから起きるのはただのタイムパラドックス。
 
 常日頃から起こりうる、なんでもない、ただのタイムパラドックスなのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:39  end
 
 
 
 
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

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草之 敬

Author:草之 敬
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『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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