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2018-12

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背徳の炎  track:40

 
 この世界に住む特殊な人種――つまり『魔法使い』を探すのには苦労する。
 なぜなら、奴らは巧妙に自身を隠蔽し、偽の姿で日々を過ごしているからだ。どうやら『魔法』がバレないように、という配慮からきているらしい。それはいいのだが、今このときだけは恨みたくなる。
 一人目の小僧が見当たらない。そもそも、一人目の小僧かどうかを知るすべを俺は持っていない。
 
 解決方法は簡単だ。だが、そこにいくまでの工程が面倒すぎる。
 どういう選択を俺がしても、楽になるということはないらしい。本当に七面倒な話だ。
 
 そもそも、あのガキが時間跳躍をする理由は何だ?
 時間跳躍をする道具を持っていたことから、事故ということは考えにくい。
 だが、起こる事象を別にして、あれほど便利な道具をなぜ今までの戦いの中で使っていなかったのかも気にかかる。
 今まで使えない理由があったとすれば、それはなんだ?
 今回使わなければいけない理由があったとするならば、それは何だ?
 
 ワケが解らない。
 なまじ解ったとしても、「なるほど」と素直に頷くことなどできそうにない。
 
 ……いや、そもそもそんなことを考える必要が今あるのか?
 今大事なのは、一人目のガキが一体どこにいるか、じゃないのか?
 
 だとして、それをどうやって見つければいい?
 探偵気どりで聞きこみでもするか? 馬鹿らしい。
 
 アイツもアイツだ。
 充分な“ゆらぎ”は観測できたが、その“ゆらぎ”の二次災害を防げだと?
 面倒事ばっかり押しつけやがって。生き方も、今回も、全部だ。
 
 待て。
 
 ――馬鹿は俺か。なんでもっと早く気付かない。
 アイツは世界を修正するために必要とするだけの“ゆらぎ”を観測できたと言う。
 発生源はあのガキの道具。
 
 そして、それほどの大きな力ならば簡単に場所を特定できるのではないか?
 まさか空間転移までするとは思えない。ので、「これから」(一人目で)起きた場所は「ついさっき」(二人目が)出現した場所とイコールで結べるのではないか?
 だとすれば話は早い。
 
 とことん時空が歪んだ場所を探せばいいだけのことだ。
 
 「――――」
 
 演算に意識を集中させる。
 イメージするのは山火事。加速度的に広がっていく炎を探査完了域とし、山をこの学園都市にトレースする。
 炎は何者にも阻まれることなく学園都市に広がっていく。もし、この炎を歪める存在がいるとすれば、それが発生源。
 つまりは、一人目のガキがいる場所ということだ。
 
 「手間取らせやがって……」
 
 ここから二キロほど離れた場所に、探査演算が届かない歪曲場ができていた。
 十中八九、そこにあのガキがいる。
 
 面倒事は、さっさと終わらせるに限る。
 
 
 *  ~  *  ~  *
 
 
 「準備の方はどうなってる?」
 
 「は、滞りなく。現在時間で約5時間後、現地時間で2日後の夜までには完了します」
 
 「その調子で頼むよ」
 
 漆黒の外套を着込んだ人影は恭しく一礼し、その姿を闇の中へ紛れさせながら消えて行った。
 準備が整えば、あとは転送するだけだ。そのためにも“ゆらぎ”は必要だった。あとは、世界が矛盾を補完しようとし、勝手に動いてくれるはずだ。最後に、フレデリックがそれを壊してさえくれれば、世はすべて事もなし。
 世界はすべて、何事もなかったかのように回り始めるはず。
 
 最強の“シュレディンガー”。
 世界の命運を、ただそこに存在するだけで二分するほどの強大な力と信念。
 
 「……また、彼女を起こさなくてはいけないのか」
 
 何度戦い、何度傷つき、何度倒れ、何度蘇らなくてはならないのか。
 何度でも蘇ってしまうのだろう。
 
 同じものはもう造れない。
 だが、同じものは過去にごまんと存在している。
 
 ――タイムパラドックスは日常的に起きている。
 
 僕はそうフレデリックに伝えたが、はたしてどうだろうか。
 世界はいつでも、『可能性』の塊でできている。
 だからこそ、この方法を選んだのだが――。
 
 「任せるよ、フレデリック。僕は少し疲れた……」
 
 玉座から立ち上がり、一歩、また一歩と暗闇に足を踏み入れて行く。
 まるで、これからのこの世界を暗示するように、僕は暗闇へと姿をくらませることにした。
 
 
 *  ~  *  ~  *
 
 
 校舎内ではあったが、今は学園祭期間中ということもあり、一般開放されていた。
 重畳だ。都合がいい。発生源を強く感じながら、一歩一歩それに近づいて行く。
 
 校内を歩くこと数分、到着した場所は医務室だった。
 
 「ふん?」
 
 扉をスライドさせ、中に入ると校医に出迎えられた。
 日本語で話しかけられているらしいが、何を言っているのかがまったくわからない。
 
 「Talk in English(英語でしゃべれ)」
 
 「え? あ、ああ。I'm sorry. Are you some business in the school nurse's office?(ごめんなさいね。保健室に何かご用が?)」
 
 「There must be a punk kid. It came for the receipt(ガキがいるはずだ。引き取りに来た)」
 
 「oh, really? He is sleeping in the bed(あら、ホント? 彼ならベッドで寝てるわ)」
 
 そう言うと校医はベッドの方を指差した。
 そちらに向かうと、確かにあのガキが眠っていた。が、余計なのが一匹。
 人外とのハーフだという、あの女だ。
 
 そういえば、あの野郎が言っていたか。タイムスリッパーはこのガキと女だと。
 
 「ふん。関係ねえか。さっさと仕事をさせてもらう」
 
 眠ったままのガキが大事そうに持っている懐中時計。
 最初に目についたものだが、あれほどあからさまに怪しいものもないだろう。
 ガキが起きないように割かし静かに懐中時計を奪うと、それを一気に握り潰した。ガシャン! と大きな音が鳴り、それとほぼ同時、この部屋にあった時空の歪みが消え去った。今頃二人目のガキと女も消え始めている頃だろう。
 
 自己消滅のパラドックスが起きた瞬間、まず始めに強烈な違和感に襲われることになる。
 なぜ自分が存在しているのか。なぜ自分は生きているのか。なぜ自分は自分なのか。
 そもそも、自分は一体誰なのか。
 
 消えないためには、意識をシッカリと持つことが大前提。
 自分の名前を繰り返し頭に巡らせ、五感を敏感にすること。自分はここにいる。自分は誰それである。それをシッカリと認識すること。
 そのうえで、過去は過去であるという論理を自分の中で展開すること。
 『今の自分≠昔の自分』ということをハッキリと認識すること。これは成長した云々ではなく、存在という次元でだ。
 
 昔の自分がそのまま時を過ごせば、必ずしも今の自分になるとは限らない。
 
 それが、タイムパラドックス。パラレルワールドだからだ。
 
 「What happened?(何の音?)」
 
 「Nothing. It has entrusted it for a while(何でもない。もうしばらく預ける)」
 
 「OK」
 
 医務室を出て、人目につかない場所で握ったままの懐中時計の残骸を溶かす。
 残ったのは、溶けた金属だけ。
 
 それを横目で見ながら、俺の足は自然と行きつけのカフェへと向かっていた。
 
 カフェへ到着すると、不自然な光景が広がっていた。
 相変わらずの人混みで店内、店外の席が満員。店員も忙しそうに走り回っている。
 ただ一つ、誰も彼もが見向きせずに空いたままの席があった。
 不自然なほどに浮いた光景。
 
 「……」
 
 その席に着き、正面を向くと黒い外套を被った野郎が座っていた。
 
 「よくやってくれたね。これで今以上次元が不安定になりすぎる心配はない。あとは動きがあるまでこの祭りを楽しむといい。確か、女の子に誘われていなかったかい? 武道会」
 
 「興味ねえな」
 
 「それは残念。今の君がどれほどかを見ておきたかったのだけど」
 
 「俺が少しでも本気になるようなヤツなんざ、そうそういねえ」
 
 「そうだろうか? まあ、いいよ。僕の方でも少しだけ、このわずかに平和なジャパンを楽しむつもりだからね」
 
 「何? てめえ、何を――」
 
 が、問うた相手はすでに姿を消していた。
 俺の視線の先には、学生のグループが座っているテーブルが見えるだけ。
 
 頭が痛い。
 どうなってやがる。
 
 世界が崩壊するか否かってときの態度じゃない。
 楽しむ? ふざけるのも大概にしろ。
 殺すこととは別に、あいつの顔を陥没させるほど殴り続けてやりたくなる。
 
 「……めんどくせえ」
 
 ――解っている。
 これはアイツなりの「武道会に出ろ」という合図なのだろう。
 興味はない、と言ったが、暇つぶし程度には出るつもりだった。暇潰し程度に、こちらからどの程度の“ゆらぎ”を造ることができるのかを調べるために、出るつもりだった。
 だが、わざわざ言葉に出されてまで言われると無性にムカつくのも確かだ。
 
 とことんやってやろうじゃねえか。
 これから何があるかは知らねえが、その全てを俺がぶっ壊してやる。
 世界崩壊が何だ。くだらねえ、俺はただ、アイツを殺すだけだ。
 
 これからは俺は俺がしたいままに動く。
 文句なんざ、言わせねえ……!
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「うわあ、人がいっぱいいるねえ、ディズィー」
 
 「はい。こんなに集まっているなんて、すごいです」
 
 「それに強そうに見せてる人もいっぱいだね!」
 
 「あ、あはは。ほ、本当でもそういうこというのは控えた方が……」
 
 「大丈夫さ。ここにいる奴らなんて頭の方はからっきしだ、どれだけ言っても英語なんてわかるわけない」
 
 ――とエヴァンジェリンさんは言うのだが、わかるわからないの問題ではないと思う。
 何気にディズィーさんまで毒づいてしまっているし。
 
 「それにしても、お兄さんまで出るなんて思わなかったよ」
 
 これまで私に対して辛辣な態度を取っていたメイさんだが、最近よく笑いかけてくれるようになった。
 それをいちいち聞くようなことはしないが、心当たりは私にもある。
 
 「ええ、まあ、軽くなら」
 
 「がんばってくださいね。私、精いっぱい応援しますからっ」
 
 「ええ。その声援に応えられる活躍はしなくてはいけませんね」
 
 そう言うと、ディズィーさんは嬉しそうに微笑んだ。
 「ならもっともっとがんばれるように……」と、いたちごっこのようにディズィーさんは応援に力を入れるようだ。
 ちらり、とメイさんの様子を見ると、拗ねているかと思いきやニヤニヤといたずらそうな笑みを浮かべているだけだった。なんというか、むしろこの方がバツが悪く感じてしまう。
 
 ……それにしても。
 
 「多いですね。前に進む気配がない」
 
 「めんどくさいなあ」
 
 話しによればエヴァンジェリンさんも出場するらしいのだが、姿が見えない。
 これだけ人がいれば見つけられないのも無理はないのだが。ともかく茶々丸さんもいるだろうし、心配もないだろう。
 
 しばらく進まない人混みに右往左往していると、正面の舞台へ一人の少女が上がって来た。
 マイクを持っていることから、どうやら大会運営側の人間のようだ。
 
 『ようこそ!! 麻帆良生徒及び、学生及び、部外者の皆さま!! 復活した『まほら武道会』へ!! 突然の告知に関わらずこれほどの人数が集まってくれたことを感謝します!!』
 
 「あれー、カズミじゃん。何してんだろ」
 
 「お知り合いですか?」
 
 「ボクのクラスメイトだよ。いろいろ聞いてくる子だったからよく覚えてるんだ」
 
 そういえば、メイさんが何か言っていたような記憶があるが……。世間話以上の内容ではなかったのか、私自身もそれほど詳しく覚えていない。
 ともかくその彼女、カズミさんが扮するイベントコンパニオンに、会場の男性諸君は一斉にどよめく。
 メイさんの同級生ということは中学生ということなのだろうが、はたしてここの男性諸君は彼女にどよめいたのか、武道大会開催の言葉にどよめいたのか。後者であってほしいと願いたいものなのだが、まあ、あまり関係はない。
 色香に惑わされるようでは戦いは勝ち抜けない。
 それはそれ、これはこれ。メリハリが重要なのだ。どれだけ軽口を叩いていようと、戦闘となれば集中するアクセルさんのように。彼ほどメリハリが効いた性格を持っている者を、私はあまり見たことがない。
 まあ、どれだけ集中しようが戦闘中までおしゃべりというのはどうかと思うのだが。
 
 「ねえねえ、『イッセンマンエン』ってどれくらい?」
 
 「え? はい?」
 
 「たぶん、これの優勝賞金ってヤツだと思う。よくわかんないけど」
 
 「私は特に賞金などには興味はないのですが……」
 
 「でもさー、これ持って帰ったら希少価値ついて絶対にかなりの金額になると思うんだよね」
 
 ニヤリ、と笑顔を浮かべながらメイさんはよくわからないままの日本語を聞き流しているようだった。
 と、そこでカズミさんの後ろから巨大なスクリーンが現れた。そして、そこに映し出された人物は……。
 
 「超鈴音……!!」
 
 「あれ、お兄さんあの子とは知り合いなんだ?」
 
 「え? あ、いえ。知り合いというほどでも」
 
 「……それにしては感情のこもったセリフだったけどなあ」
 
 疑いの視線を向けられるも、深くは聞かれることはなかった。
 そのままスクリーンの向こうに映る彼女の演説は続き(さすがに字幕などなかったが)、しばらくするとまた会場中から歓声があがった。どうやら、正式な開会が宣言されたらしい。
 最後までエヴァンジェリンさんの姿は見えなかったが、まあ、迷子ということはないだろう。
 
 二人に連れられるカタチでエントリーを済ませ、予選ブロックを決めるくじを引かせてもらった。
 私は、グループGだ。
 ディズィーさんはグループA、メイさんはグループCを引いた。
 
 予選開始の合図とともにグループ別に舞台へ上がっていく。
 周りの選手がやけに絡んでくるが、日本語で語りかけてくるためになんと言っているのかがわからない。が、おおかた挑発でもしているのだろう。どうせこちらから話しかけても向こうは反応に困るだろうから、黙って無視することにした。
 
 ――そして。
 ゴツ、と重い靴音と重圧を引き連れ、最後の選手が舞台へ上がった。
 
 「――ソル」
 
 「ハ。いい子ちゃんがどうしてこんなところにいやがる?」
 
 「お前に、見てほしかったからだ」
 
 「アん?」
 
 「これから始まる、この私の道を」
 
 「認めるのか? てめえが盲目だったと……」
 
 「ああ。正義、暴力、愛、平和。私はすべてにおいて盲目だった。何も見えてはいなかった。だが、その私にも刮目し続けてきた者がいる。クリフ団長、ディズィーさん。そして、お前だ」
 
 正義はクリフ団長に。
 愛はディズィーさんに。
 
 暴力は、お前に。
 
 「ゆくぞ、ソル……ッ!!」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「……ちょっとだけ不安になってきたかも」
 
 保健室で寝ていると、コタロー君に乱暴に起こされてしまった。
 どうやらこのかさんに場所を教えてもらったらしい。実際、武道会の予選に遅刻してしまうところだったからちょうどよかったのだけど。
 それにしても、しっかり持っていたはずの時計……。どこに行ってしまっんだろう。
 なくしてしまったのは超さんにとても申し訳ないから、この予選が終わったら朝倉さんにでも取り合ってもらおうかな。
 とりあえず、今はこの予選を切り抜けよう。コタロー君とも約束したんだ。
 予選なんかで負けないって……!!
 
 「君は他の者よりも少々強いようだ」
 
 「ひぇっ!? だ、誰ですか……?」
 
 「それよりも、始まるようだ。構えたまえ」
 
 深くフードを被り、表情どころか顔すらよくわからない。
 まるで、真っ黒なのっぺらぼうを前にしているようだ。
 そんな風貌の人が言うとほぼ同時、朝倉さんがBグループ予選開始の合図を出した。
 
 「さあ、君の力を見せてくれ」
 
 「え?」
 
 「“この世界”の力を、見せてくれ」
 
 そう言うが早いか、夜の闇に溶け込むようにその人は消えてしまった。
 すぐ目の前には大きな男の人が迫ってきている。
 
 ――まずい!
 反射的に踏み込み、技を繰り出す。
 
 八極拳、八大招式。『絶招通天炮』!!
 
 「あ……」
 
 綺麗に決まり過ぎた。
 2メートルを軽く超え、体重も三桁はゆうにありそうな男性が宙を舞う。
 ゆるりと放物線を描き、地鳴りのような音を響かせながら地面に伏したその人は気絶してしまっていた。
 
 古老子にも、エヴァンジェリンさんにも茶々丸さんにも単発じゃ絶対に通用しなかったのに、あの人には効いた。
 
 今の僕なら、全然いける……っ!!
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「なんか、勢いで出ちゃったけど……。私、大丈夫かなぁ」
 
 手元のアーティファクトのハリセンをぎゅっと握ると同時、Cグループ予選が始まった。
 あまり乗り気じゃなかったような刹那さんは、このかの後押しもあって出ることになった。
 他の武道四天王も全員出るとかいう話だし、高畑先生が出るってだけで決めちゃってよかったのかなあ、私。
 
 でも、もしうまく勝ち残って行けたりして賞金を手に入れられたら、学費とか生活費とか、いろいろ楽になるはず。
 
 ――というのは、やっぱり建前になるのだろうか。
 
 「よぉし、あの頭いいクセに暴走ばっかりする馬鹿に、私の強さを見せてやるんだから……!!」
 
 「ほほぅ。それはそれは、ほほえましいことじゃありませんか」
 
 「うひゃぅッ!? い、いきなり後ろから話しかけないでくださいよッ!? ていうか誰!? いや、予選始まってるしやるならやるわよこんちくしょー!!」
 
 「おっとっと。元気がいいのは大変よろしいのですが、まあ、待ってください。大丈夫、あなたの敵じゃありませんよ」
 
 「でもこれバトルロイヤルでしょ?」
 
 「これは一本取られましたね。ではなく、協力しませんか?」
 
 「協力? 『騙して悪いが……』とかは勘弁よ」
 
 「何の話かはよくわかりませんが、不意打ちするように見えますか?」
 
 さっと手を大きく開いて無防備を主張するようなポーズ。
 表情が隠れるほど深くかぶったフード。全身をネギのコートによく似た外套で隠している。
 明らかに変態。
 明らかに不安。
 
 「めちゃくちゃ見えるんだけど」
 
 「それは困りました。ならば私からの一方通行の協力としましょう」
 
 「どういうことよ」
 
 「あなたは私のことを他の参加者と同列として扱ってもらっても構いません。ですが、私はあなたをフォローするよう動きます、ということですね」
 
 「それなら、まあ……いいけど?」
 
 「助かります」
 
 そう言うと、怪しさ全開のフード男はすっと手を上げた。
 え、いきなり裏切り……!?
 
 「――ぐぇッ!?」
 
 「え?」
 
 「女性相手に後ろからなんて、卑怯じゃないですか」
 
 振り向くと、参加者の一人がぐったりと舞台に伏せっていた。
 もう一度フード男の方を向くと、かすかに見える口元がふっと笑った。
 まるで、これで信用してもらえますか、などと言っているようにも見えて――。
 
 「訂正。ちょっとは信じられるかも」
 
 「それで充分。では、参りましょうか」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「いやぁ、ルール上私は戦うのが面倒だったんだが、予選は楽ができそうでよかったよ」
 
 「どさくさまぎれでお前のことも叩っ斬ってやろうか?」
 
 「そいつは勘弁願いたいな。それよりもモップか……」
 
 「仕方ないだろう。木刀じゃ短すぎる……」
 
 かといって、モップもモップなのだが。
 軽いし、すっぽ抜けそうだし(ブラシ部分が)、むしろ使い勝手は槍に近いし。
 
 「銃器が使えないからってお前がこんな奴らに体術で劣るわけないんだから、はやく手伝ってくれ」
 
 また一人、モップで乱暴に昏倒させてから龍宮を見ると、最初と変わらず私の後ろで、彼女も参加者であるはずなのに“観戦”している。いい加減こいつにも一撃食らわせたくなってきた。
 
 「お前がちんたらしてるから、私が戦わないことにイライラしてるんじゃないのか?」
 
 「不公平だって言ってるんだ。誰が理屈をこねろって言った」
 
 「お前が知らないところで戦ってるんだよ、私は」
 
 「真後ろで突っ立っておきながら……」
 
 「ほら、鼻息の荒い男性諸君がお前に向かってきているぞ」
 
 龍宮の声に振り向き、もう一度モップを横薙ぎに振ると、一度に数人の男が舞い上がり舞台の上へ落ちて行く。
 それを見てから威嚇するように他の参加者を睨んでから、改めて龍宮と向かい合う。
 
 「言われなくても、あの程度の相手にやられない」
 
 「おいおい。ちょっと噛みつき過ぎじゃあないか刹那?」
 
 「噛みつくかれるようなことをしているのはお前だろう。……お嬢様の頼みでなければこんな武道会なんて」
 
 「ならさっさと終わらせたらどうだ。お前が言っているのは子供の駄々にしか聞こえないぞ」
 
 「神鳴流……ッ!!」
 
 言った瞬間、龍宮はギョッとして目を見開き、大きく距離を取るようにバックステップした。
 舞台上、参加者が一番集まっている場所へ一気に踏み込む。
 
 ――奥義。
 
 「百烈桜華斬……!!」
 
 舞台の上に残っていた大半の参加者が一掃され、それを遠目に見ていた他の参加者も戦意をなくしたのか次々とギブアップを申告している。
 奥義を食らった中には、腕やわき腹を抱えのたうちまわっている輩もいるが、どうせ骨折程度だ。
 こんな仮定は馬鹿らしいとは思うが、今のが夕凪であれば、胴体から真っ二つは間違いないだろう。
 
 「一言くらい何か言え、刹那」
 
 「関係ないだろう。別に、私はお前と協力していたわけじゃあない」
 
 「……お前、それで今幸せか?」
 
 「幸福とか不幸とか、そんな感情は何の価値もない。私はお嬢様の刃だ」
 
 「……あの近衛が、そんな鋭い刀を持っているとは思えんけどな」
 
 グループD、決勝進出者は、私と龍宮。
 それが覆されるほどの強者など、そうそうはいない。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 台風が二人いる。
 片や、その年齢で考えれば凄まじい練度を誇る拳法を。
 片や、その姿からは考えられない剛力を揮わせながら。
 
 ルール上、禁止されているのは飛び道具及び刃物の使用。
 そして、呪文詠唱(最後の一つはこの二人にとっては関係のないものだが)。
 
 もう一度言っておく。
 禁止されているのは、飛び道具及び刃物。
 そして、呪文詠唱。
 
 「ハアッ!!」
 
 「それっ!!」
 
 衝撃波。
 なまじっかな力同士なら、こんなものは発生しない。
 
 台風が二人いる。
 
 片や、その拳を振るう。
 片や、その腕に掴むのは――。
 
 「でりゃあああああ!!」
 
 ――錨。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 『さあ、トーナメント表の発表しましょう!!』
 
 広げられたトーナメント表。
 ここに載るほぼ全ての人物が、のちの運命の歯車を回すことになる。
 ガチリ、ガチリとパズルが出来上がるように、一人ひとり、歯車というカタチになり運命に組み込まれていく。
 
 Aブロック
 一回戦
 佐倉愛衣 VS 村上小太郎
 
 二回戦
 長瀬楓 VS G.M.
 
 三回戦
 龍宮真名 VS クウネル・サンダース
 
 四回戦
 カイ・キスク VS 古菲
 
 
 Bブロック
 一回戦
 タカミチ・T・高畑 VS メイ
 
 二回戦
 ネギ・スプリングフィールド VS 高音・D・グッドマン
 
 三回戦
 ソル・バッドガイ VS 神楽坂明日菜
 
 四回戦
 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル VS 桜咲刹那
 
 
 『それでは、皆さま。明日早朝の決勝トーナメントでまたお会いしましょう!! ごきげんよう、さようなら!!』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
               track:40  end
 
 
 
 
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テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

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Re:

ども、草之です。
感想ありがとうございます。そして返信遅れました。
これだけはちょっと返事しておかないと、と思いましたので。
 
さて、まずは投下した日付を確認していただくとわかると思うのですが、
当時の時点でタカミチが「ここまで」の実力があるとはまっさら思ってませんでした。
文化祭の大会でも「本気の本気じゃないよ」みたいなことは言われてましたが、
ここまでインフレされるとは正直思ってませんでした。
 
言い訳というか、後付け的に解釈するならば
学園内の山一つ吹き飛んでしまうような威力の技は出せなかった、というところでしょうか。
まあ、それでもあれだけピンチに陥れば使わないってのもおかしな話ですけどね(笑)。
 
改めて感想、ありがとうございました。
ただいま停滞中ではありますが、どうか首を長くして待っていてください。
 
では、草之でした。
 
 

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草之 敬

Author:草之 敬
ブログは若干放置気味。
『優星』の完結目指してラストスパート中。
 
現在は主に一次創作を書いて活動中。
過去作を供養する意味もあって、いい発表の場はないものかとネットをさまよっている。

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