2009-11

『優星』最新話(次回更新分)の推奨BGMは『さよならbyebye』。あと拍手レス。

ども、草之です。
 
というか、『さよならbyebye』って知ってる人どれだけいるだろう?
結構、いや、かなり有名ですけどね。すでに懐メロ化してるとは思いますが。
 
実際に、さっきまでの執筆中に、作業音として書いていたら、涙が滲んできたんです。
というわけで、次回の推奨BGMは『さよならbyebye』です(笑)。
ということが言いたかっただけでしたとさ。
 
あー、小学校の頃は夏休みこども劇場で見てたなぁ。
新学期が始まってもまだ放送してるもんだから、小学校が近いからって8時15分までテレビにかじりついてましたねー。
というか、いつもあれ、いいところで新学期になってませんでした、同年代よ?
たしか、暗黒武術会の後半あたりで新学期スタート! って、なめんのかコラぁ!? って感じになりませんでした(笑)?
 
まぁ、とにかく。
予習代りに『さよならbyebye』を聴いて妄想を膨らませるもよし。
単純に『さよならbyebye』を聴いてあの頃のことを思い出してもよし。
『さよならbyebye』を聴いて、次回の『優星』の内容を予想してみたり。
 
楽しみに待っていて下さいね!
 
では、以下拍手レスです。
 
草之でした。
 
 

全文を表示 »

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:6−3

 
 『ラスト1!!』
 
 通信の先で、魔導師二人が高らかに謳い上げる。
 その叫びに、言い知れぬ恐怖があった。どうしてこうなってしまったのだ、と。
 見ると、ルーテシアお嬢様の方もなにやらめんどくさそうなことになっている。
 
 アジトの方は、チンク姉が戦っている。
 『ゆりかご』は……クアットロがいるから放っておいてもなんとかするか。
 
 いや、そんなことを考えている場合ではない。
 思考を振り切って、ガジェットを連れてどうにかして身を隠すことを考える。
 例え、他の全員が倒されても、僕だけでも生き残っていればそれで計画は続行させることが出来る。
 次々と撃破されていく姉妹に、心揺さぶられながらも、飛び立とうとした時だった。
 
 周囲のガジェットが、何かに串刺しにされていく。
 これは、見たことのある魔法……? これは……!?
 
 「うぁ……っ!?」
 
 悪態をついて、それでも離脱をとビルの屋上を蹴る。
 が。
 
 「!!」
 
 「あなたが地上戦の司令塔で……」
 
 戦場には似つかわしくない、涼やかな声がした。
 
 「各地の結界担当。うまく隠れてたけど、クラールヴィントのセンサーからは逃げられない」
 
 傍らに佇む狼が続けた。
 
 「大規模騒乱罪、及び、先日の機動六課襲撃の容疑で――――!」
 
 この程度のバインドなら、千切れる。
 逃げられる……、早く、早く……!!
 
 「てぇえええらあァああああああアアアアッ!!」
 
 軛が生える。
 囲い込むように、まるで檻を為すように。
 さらに、と新たなバインドがかけられた。
 
 「――っあっ、うわあっ!?」
 
 「……逮捕します」
 
 終わった……。
 終わってみればあっけなかった。
 この二人相手には隙を見て逃げるなんて選択肢はないだろう。
 僕は、ここで舞台を降ろされる。仕方のないことだ。
 
 「スバルー、ティアナー? 残念、ごめんね。先に捕まえちゃったわ」
 
 『って、ええ!? その声……シャマル先生!?』
 
 「ザフィーラもいるわよ。それじゃあ、回収班が来るまで警戒は解かないようにね」
 
 『了解です!!』
 
 ……。
 そういえば、“あれ”は本当に本当なのだろうか。
 
 「なぁ、ひとつ、訊いていいかな?」
 
 「答えられる範囲でなら答えよう」
 
 「ありがとう。……あのオレンジの髪の子が言ってたんだけどさ、トーレ姉が撃破されたって」
 
 本当なの?
 と、狼の方はさすがに表情はわからないけど、女性の方はあからさまに視線をそらした。
 倒されたんなら倒されたって言ってくれればいいのに。
 
 「もっと正確に言うとね、撃破じゃなくて、殺したのよ」
 
 「……は? だって、それはおかしい。管理局の魔導師は基本的に非殺傷設定を解いちゃいけないはずだろ!?」
 
 「“管理局の魔導師は”ね。次元犯罪者は、その限りではないのよ」
 
 「…………そうか、ユークリッド・ラインハルトとか言ってたな。そうか、もう、トーレ姉には、会え、ないんだね……」
 
 死に様はどうだったんだい? と訊くと、今度は顔を逸らす、ではなく、女性の方は背を向けてしまった。
 
 「真っ二つ。上半身と下半身を胴で横一閃に」
 
 「そうか。ねぇ、戦闘機人なんだからさ、胴体をくっつければ大丈夫なんじゃないか、とかって思ってない?」
 
 「……思ってないわ。でないと、殺した、なんて口にする筈がないでしょう?」
 
 「そっか。……僕たちもね、戦闘機人、なんて呼ばれてるけど、結局素体は人間なんだ。機械で出来ているこの体だって、命はあるんだ」
 
 「……そう」
 
 「人間はいいよね。未来を選べて」
 
 「そうね」
 
 「そうねって、ずいぶん他人事だね?」
 
 「そうかしら。そうでもないわ」
 
 「…………?」
 
 「私たちからすれば、よっぽどあなた達の方が人間なのよ。私たちは、今でこそ最後の生を享受してるけど、以前はそうじゃなかった。命すらなかった。殺されれば再生し、復活する。私たちは、古代ベルカ人の英雄たちを“モデル”に造られた、“プログラム”なのよ」
 
 「……なら、僕たちも希望を持ってもいいのかもしれないね」
 
 そう言うと、背を向けていた女性が振り返った。
 びっくりしたような顔をされて、逆にこっちが驚いた。
 
 「どうして?」
 
 「どうしてって、僕たちよりよっぽど人間離れしてる君たちが、それでも“人間らしく”生きてるんだ。僕たちが“人間らしく”生きられない道理はないんじゃないかな……って、思ってさ」
 
 「……努力することだ」
 
 狼の方が一言だけ、ぼそりと呟いた。
 その顔はやっぱり表情は読めないけど、笑いかけてもらっているように感じた。 
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 背後から戦闘音が聞こえ始めた。
 キャロはしまった、という顔をして、フリードを方向転換させようとする。
 
 「待って、キャロ。……今あっちに戻ったら、目の前の相手に背中を見せることになる」
 
 「でも、エリオ君……」
 
 「信じようよ、スバルさんとティアさんを」
 
 というか、今から戻ってティアさんに大目玉食らうもの勘弁願いたい。
 とにかく、今は目の前の――――ッ!?
 
 「ストラーダッ」
 
 《Jawohl!》
 
 フリードの背を蹴って空中に飛び出す。
 同時、突貫!
 
 「……、……ッ」
 
 攻撃を仕掛けてきたのは、召喚師の召喚獣の一。
 虫というよりは、甲殻類に似たものがある、そんな姿を持った漆黒の虫。
 打ち合う切っ先と拳は、その甲殻の固さゆえに甲高い金属音をを奏でた。
 
 振り払い、フリードの上に着地する。
 見上げると、ガジェットに乗った召喚師の少女が僕たちを見下ろしていた。
 
 「……どうして……?」
 
 キャロが呟く。
 
 「どうしてこんなことするの……?」
 
 「…………、っ」
 
 少女は答えない。
 わずかに息をのみ込んだだけで、なにかを言いたそうに、それでも何も言わない。
 その瞳はどこか、なにかを切実に祈るような色を見せていた。
 
 「どうして、そんなことをするのか。……違うよね、どうして、そんなことをしなきゃならないの?」
 
 「ドクターが、」
 
 言って、
 
 「ドクターが言ったの。レリックの11番があれば、お母さんの目が覚めるって」
 
 「お母さん……?」
 
 「……それが理由。この『お祭り』が終わったら、みんなで探してくれるって約束してくれたから。それだけ」
 
 そんな、とキャロが息をのんだ。
 本当に、そんな、だ。もし、彼女の母親と彼女が、“僕ら”に先に保護されていれば、それだけで少女の運命は変わっていたってことだろう?
 犯罪者を前に、交換条件を出され、手伝わせている。
 そうだ、この『手伝わせている』、ということが重要なんだ。
 
 スカリエッティが交換条件だ、と言ったかは定かじゃないけど、この少女は自らの意志でスカリエッティを手伝っている、と言ってるのだ。
 管理局がこのことをどう捉えるかはわからないけど、どうしても悪い方向に考えてしまう。
 ……どうすればいいんだろう。
 どうすれば、目の前の少女を救う事が出来るんだろう。
 
 「だから、私はあなたたちを倒さなきゃいけない。だから……」
 
 鈴が鳴るような音が聞こえ、魔力で出来た短剣が少女の周りに浮かび上がった。
 フリードの身体がグン、と沈む。
 
 「エリオ君、掴まって!」
 
 少女の剣が飛び出すのと、フリードが回避行動を取るのはほぼ同時だった。
 フリードの腹の下を次々に流れて行く短剣。
 ――――攻撃。それが、話すことよりもなによりも、優先するべき彼女の答えだった。
 
 そんなの……、
 
 「そんなの間違ってるよ!」
 
 「っ、?」
 
 「お母さんを救うために僕たちと戦うなんて、間違ってる。間違ってるよ!」
 
 「じゃあ、じゃあなんで私の邪魔をしたのっ?」
 
 「邪魔……?」
 
 彼女の目的はなんだと言ったか。
 彼女の協力者は誰だと言ったか。
 
 彼女の目的はロストロギア『レリック』のシリアルナンバー11番の発見。
 彼女の協力者は重犯罪者、ジェイル・スカリエッティ。
 
 なら、僕たちは?
 ロストロギア『レリック』を回収し、その工程でスカリエッティの逮捕を目指す。
 
 だから、邪魔。
 
 「そんな……違う、君は――――」
 
 「騙されてる? そんなことないよ。ドクターはあんなだけど、嘘だけは言わない人だから」
 
 「ぐ、ぅ? だけど、だからって犯罪者のために戦うなんて!」
 
 「……別にドクターのために戦ってるわけじゃないもの」
 
 「だったら。だったら、こっちに来なよ!」
 
 「え?」
 
 ポカン、と口を開ける彼女に、畳みかけるように叫ぶ。
 
 「僕たちは君を助ける。君のお母さんも助けてみせる」
 
 キャロに目配せして、フリードを降ろすように頼む。
 ビルの屋上にフリードは降り立つ。話し合うなら、君もこっちに、と手招きする。
 すぐに降りては来てくれたけど、やっぱりまだ警戒は解いてくれない。
 少女を護るように、漆黒の虫が傍らに降り立った。
 
 「……みんな、いなくなるんだ」
 
 「え?」
 
 「みんな、大切な人はみんな私の前からいなくなっていく。……でも、レリックの11番があれば、お母さんが帰って来て、そうしたら、もう私の前から大切な人はいなくならない。もう、私は不幸じゃなくなる。それが、私があなた達と戦う理由」
 
 「……違うよ」
 
 キャロが少女の言葉を聞き、それに対して言葉を紡ぐ。
 
 「そんなのの先にあるのは、きっと幸せなんかじゃないよ! あなたは、目覚めたお母さんになんて話すの? いっぱい敵を倒して、いっぱい人を傷つけて、それでもお母さんを助けたいから戦ったって話したいの!?」
 
 「そ、れ、は……」
 
 「あなたのお母さんに嘘を話してまで、あなたはどうしたいの? 違うよ、そんなの悲し過ぎるよ!!」
 
 キャロと目を合わせる。
 こくん、と頷き合い、目の前の少女に目を向ける。
 
 「本局機動六課、アルザスの竜召喚師、キャロ・ル・ルシエ!」
 
 「同じく、エリオ・モンディアルと、飛竜フリードリヒ!」
 
 「私たちが、六課のみんながあなたの手助けをする。あなたのお母さんも、レリックも、きっと!! だから、だからお願い。お名前聞かせてくれますかっ?」
 
 少女の顔に影が落ちる。
 まだ迷っているんだろう。これが本当に正しい事なのか、どうか。
 スカリエッティを見限るべきなのか、どうか。
 
 「私は……でも……」
 
 『あ〜らら〜ァん? ダメですよ、ルーテシアお嬢様。ガリューさんも』
 
 空中にモニターが映る。
 戦闘機人だと思われる女性が映り込んで、何かを話し始める。
 
 『戦いの最中に敵の言葉に耳なんか貸しちゃいけません。邪魔なものが出てきたら、“ブッチ”殺してまかり通る。それが私たちの力の使い道』
 
 得意げに、その戦闘機人は謳う。
 
 『ルーお嬢様にはこのあとォ、市街地ライフライン停止ですとかぁ、防衛拠点の“ブッ”潰しですとかぁ、お願いしたいお仕事もありますしィ?』
 
 歯を噛みしめた。
 協力してくれている……だって? これの、どこが?
 協力なんて建前じゃないか、こんな、こんなの利用してるだけだ。
 
 「クアットロ……でも……」
 
 少女――ルーテシアというらしい――は、その戦闘機人に疑問を投げかけた。
 でも、と。それは本当に正しい事なのか。それで本当に私に幸せはやってきてくれるのか、と。
 たった一言だけ、そう言ってくれることが、僕には、僕たちにはとっても嬉しいことだった。
 だというのに。
 
 『あ〜、迷っちゃってますネェ? 無理もないです、純粋無垢なルーテシアお嬢様に、そこのおチビの言葉は毒なんですネェ?』
 
 「お、まえ……ッ!」
 
 相手がモニターの向こうにいるのがもどかしい。
 毒? 毒ってなんだよ、どっちが毒なんだ。
 ルーテシアにとって、どっちが、一体どっちが毒なんだ。
 
 ――分かりきってる。
 だから、僕たちは言ったんだ、「君を助ける」って。
 
 『と、言うわけで、ポチっと』
 
 「――――!」
 
 画面の奥の戦闘機人が何かを操作した途端、ルーテシアの身体から力が抜けて行く。
 代わりに、魔力による重圧がどんどん高まっていく。
 嘘みたいな量の召喚魔法陣。次々と召喚されていく召喚獣たちは、どこか人形のようだった。
 殺意で出来た、人形のようだった。
 
 「ルーちゃん……っ」
 
 キャロが呼びかける。
 しかし、反応などはない。ただ、力なくゆらゆらとおぼろげに立っているだけ。
 傍らに立つ漆黒の虫――ガリューというらしい――も、戦闘態勢に入っていた。
 
 「ガリュー……!?」
 
 こちらに呼びかけるも、やはり反応はない。
 ないというのに、ガリューはなにかを望んでいるような様子だった。
 それは戦闘という行為ではない。
 なにか、だ。
 
 次の瞬間、魔法陣がより一層の輝きを放った。
 周囲のビルに召喚された虫たちがわななく。これは、どういう?
 考える間もなかった。
 
 『お嬢様ァ、聞こえますかぁ? 目の前にいるのがお嬢様の敵でェっす。全力で“ブチ”殺さないとお母さんと会えませんヨォ?』
 
 「こ、の――――!!」
 
 「ルーちゃん!!」
 
 キャロの声でルーテシアの変化に目を向けた。
 頭を抱え、必死になにかに耐えているような印象があった。
 うっすらと開けた瞳は、瞳孔が開ききっていた。元から赤かった瞳は、それこそ血で濡れたかのような、炎々とした恨みの念が宿っている。
 ……だというのに。
 
 「…………、い、や……っ」
 
 そんな眼をしているというのに、ルーテシアは、彼女自身の心は――――、
 決めろ、エリオ・モンディアル。
 お前は誰を助けたい……? 誰を護りたい……?
 ユークリッド隊長のように、あそこまでの真っ直ぐな心を持てるなんて思っていない。
 だけど、僕にも出来ることがあるはずだ。
 
 決めろ……っ!!
 
 「キャロ……、ルーテシアを倒すよ」
 
 「エリオ君!?」
 
 「今の彼女を助けるには、彼女を気絶させなきゃいけない。助けるんだ、僕たちで!」
 
 「っうん!!」
 
 護れないかもしれない。
 傷つけるかもしれない。
 
 それは総じて、自分の力が原因で。
 ……だから、自分の力には恐怖しない。
 使役する力に恐怖して、どうして使いこなせるものか。
 振り払う。
 自分の力が怖いなんていう感情を、切り捨てる。
 自分の力は、そんな力じゃない。
 
 僕のチカラは、誰かを護るためのチカラだ。
 誰かを助けたいからつけたチカラなんだ……!!
 
 「う、ううぅう、ぅあ……っ、ううううううううああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 ルーテシアの慟哭。
 涙と、感情と。
 溢れだすモノ全てが、彼女の命を奪っているような気がした。
 
 「ストラーダ!!」
 
 《Düsen!!》
 
 ストラーダが変形する。
 余剰魔力排出口が収まり、代わりに噴射口が4機、剥き出しになる。
 バすん、とブースターを軽く試運転させる。
 
 隣のキャロからも魔法陣が現れる。
 
 「我が乞うは、疾風の翼、若き槍騎士に、駆け抜ける力を……、槍騎士が猛きその身に、力を与える祈りの光を」
 
 《Boost Up Acceleration & Strike Power》
 
 一瞬ののち、全身にキャロの魔力が駆け巡る。
 ルーテシアは未だに何かに耐えている。
 魔力ダメージと、物理衝撃の半々で昏倒させる。
 勝負は一瞬、駆け抜ける……!!
 
 「ブースト……ッ!!」
 
 《Start!!》
 
 景色が伸びる。
 目標に引き込まれるような錯覚のあと、超加速。
 一瞬で距離を詰め、ストラーダの石突きで腹に打ち込むのと同時に、魔力による浸透打撃。
 この短距離ではさすがに気絶するまでの威力がつかない。
 一拍の回転を加え……
 
 「だめえええええええええええええ!!!!」
 
 「っえ?」
 
 視界が紫色の魔力光で埋まり尽くす。
 ルーテシアと僕の間に、巨大な召喚魔法陣が出現する。
 全身の汗腺が一気に開く。
 
 「す、トラーダッ!」
 
 《Jawohl!》
 
 サイドブースターを全力で逆噴射。踵で地面を削り、急停止をかける。
 そのまま、なりふり構わずにストラーダのブーストを加えたバックステップ。
 キャロとルーテシアの中間まで飛び退いて、同時。
 
 「ッぅ、アッ!?」
 
 召喚魔法陣から、巨大な腕だけが召喚される。
 さらにバックステップ。ギリギリのところでその腕についた巨爪を避ける。
 ずるずる、とやけにゆっくり、魔法陣から腕だけだったその全身が出てくる。
 
 白く、白く、白い。関節に見える筋は夜色。
 ぞくり、と背筋が凍り付いた。ダメだ。これは“人では勝てない”。
 
 「エリオ君、退って!」
 
 「あ、」
 
 キャロの背後にも、同じように巨大な召喚魔法陣が出現していた。
 ごご、と地鳴りが響く。
 目の前の白い存在は、まだなにかに引っかかっているように出て来れない。
 なぜだ、と考えて、見えた。紫の魔法陣の向こう、ルーテシアが、必死に召喚を留めていた。
 
 ――たす、け……てっ!
 
 「!!」
 
 ごご、と前から後ろから地鳴りがする。
 この空間そのものを削っているような存在の大きさ。
 キャロの召喚魔法陣が、より大きく輝く。
 
 「『天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手、我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者』」
 
 ごぉお、と。
 天を焼き尽くす勢いで放たれる火柱。
 白い存在とは真逆の、黒い存在。
 ずず、ずず、と、留まることなく溢れ返る焔の魔力。
 地核の化身。そうとでも表現したくなる。地面を介して這い出るその姿は、まさしく太陽。
 
 「『竜騎招来、天地轟鳴、来よ!!』」
 
 対するは。
 ルーテシアの制止を振り切り、空高くに舞い上がる。
 ただ、その動きは鋭い。その巨大な頭角が原因だろうか。
 三日月。凛とした鋭さを以て、太陽と対峙した。
 
 「『ヴォルテ――――――――――ル!!!!』」
 
 間近で火山が噴火したのかと思った。
 違う。それは、ヴァルテールの咆哮。雄大に広がった漆黒の翼が猛々しく羽撃たく。
 
 「エリオ君!」
 
 「え、……っ!?」
 
 気配を感じて、ストラーダを構えた。
 柄を盾に、攻撃を弾く。
 
 「っ、ガリュー!」
 
 「――――」
 
 声もなく、すぅ、とガリューが景色に溶け込んでいった。
 構える。どこから来るのかなんてわからない。ただ、いきなり攻撃されても一撃でダウンはしないように。
 
 「ガリュー、どうして! 君の主人を助けたいだけなんだ!」
 
 返事などは期待していなかった。
 後頭部に衝撃。視界が荒立つ。なんとか立つ。
 振り向くと、ガリューが姿を見せ、立っていた。
 
 「……――――」
 
 その眼が語っていた。
 
 ――たとえ、それが主人を助けるものだとしても。
 
 ガリューが大地を踏みしめ、猛スピードで迫る。
 確実に防いで、反撃。避けたくなかった。これが戦闘だったとしても、彼の攻撃を避けたくなかった。
 
 ――それが主人を傷つけるという選択ならば。
 
 高速で交錯し合う。
 防御の薄い僕のバリアジャケットはあっと言う間にボロボロになる。
 頭上でヴォルテールと白の存在がぶつかり合う。それだけで空気が歪み、衝撃波が滝の水のように降りかかってくる。
 目の前のガリューは、それを気にする風もなく、僕に向かってくる。
 
 ――容赦はしない。
 
 降りかかる衝撃の滝のなか、高速で交錯する。
 くそ……キャロ、ルーテシア……!!
 
 「ガリュー、君がそのつもりだったら、僕だって進ませてもらう!」
 
 《Unwetterform!!》
 
 サイドブースターが引っ込んで、また余剰魔力排出口が出る。
 ヘッドブースターと石突きから、追加刃が出現する。それだけで、バリン、と電撃が蛇のようにのたうった。
 
 嵐の道。
 荒れ狂う天候の中、翔け抜ける雷電の如く。
 
 「サンダーレイジッ!!」
 
 正面からガリューと打ち合う。
 爆発的な電光。ガシュン。カートリッジを炸裂させる。同時、さらに電光が激しくなる。
 ガリューの巨大なナイフにも似た爪が、甲殻からバリバリと剥けていく。
 
 「――――っ」
 
 思わず飛び退いたガリューを、逃がすまいと追撃する。
 ストラーダを一振りすれば、雷撃が尾を引いて追撃し、突けば、まるで延長のするように、雷戟が槍と化す。
 
 「ぐ、あああッ!!」
 
 ただし、それだけ魔力消費量も今までとは桁違いに多い。
 どんどんなくなっていく自分の魔力とカートリッジ。
 それでも、僕は進む。目の前に助けたい人がいる。たとえ相手がその子を守っていようとも、それは僕らとは交わらない道。
 だけど、だけど、と、考えが二転三転する。
 どうすれば、ルーテシアも、ガリューも、その召喚獣も救う事が出来る?
 それともそんな都合のいいことはないのか?
 
 ――――そんなことはない。
 現に、ルーテシアは変わりたがってる。
 助けてくれって、言ってくれている……。精神操作すらはねのけようとして、変わりたいって思ってくれている。
 ここで救って見せなきゃ、ここまで来た意味がない。
 助けてくれっていったルーテシアに、顔向けできない。
 
 「ガリュー、君が主人を護りたいと思っているのと同じくらいに、僕はルーテシアを助けたい」
 
 「――――」
 
 「ルーテシアだけじゃない、君も、召喚獣のみんなも、助けたいんだっ!」
 
 「――、――」
 
 「見失っちゃダメだ、ガリュー! “君は誰を護りたいんだ”!!」
 
 「――――!」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ルーちゃん!!」
 
 「う、うあああっ」
 
 エリオ君の想いが、伝わってくる。
 誰も傷つけずに、誰もが笑って手を繋げる結末。
 誰を倒すわけでもない。
 誰を悲しませることもない。
 
 ――たすけて、おね、がい……!
 
 目の前の女の子も、それを望んでる。
 戦いたくなんてない。戦う理由なんてない。
 
 「ヴォルテール!」
 
 押し相撲を続けるヴォルテールは、動けない。
 誰も傷つけずに、誰も悲しませない。
 
 『まどろこしいですネェ〜。プチっと潰しちゃえば話は簡単なのに。ホント、甘々ですゥ〜』
 
 さっき見た背景と、どこか違うような気がする。
 それを、あれ? と思うよりも早く。
 ポチっと、とまたあの戦闘機人がモニターの奥で何かを操作する。
 
 「う、あっ!?」
 
 「ルーちゃん?」
 
 「うわあああああああああああああああああああ!!?」
 
 魔力が膨れ上がる。
 召喚獣達が、なにもかもを投げ捨てて暴れ始める。
 ダメだ。これ以上は召喚獣達だけじゃない、ルーちゃん自身も危険になってくる。
 
 無理矢理な魔力行使は、リンカーコアにもダメージを与える。
 それは、『死』にもつながる。
 
 「ルーちゃん、しっかりしてっ!!」
 
 『あははははは! 無駄無駄。私が操作を止めない限り、お嬢様のそれは解けませんよォ〜? っと、あらら。まったく、みぃんなだらしないんだから……ぁ? え、嘘……いや、いやああああああああああああああああ!!?』
 
 ぶつん。
 モニターが途切れた。
 それとほとんど同時。スカリエッティのアジトがあるという方向から、なにかが立ち上った。
 黒い黒い、世界を切り裂くようなそれは、まるで教本で見た“次元断層”のようなもので……。
 
 瞬間。
 極大の地震が来た。
 廃棄都市のビルにはその振動は強すぎ、あっというまに瓦解を始める。
 ハッとして、ルーちゃんに目を向けた。気絶しているのか、崩れて行くビルの一部に飲み込まれていく。
 
 「ルーちゃ……っ、フリード!?」
 
 助けに行こうとして、フリードに襟首を噛まれ、背中に乗せられる。
 
 「ダメ、助けなきゃ、行かせて、降ろしてフリード!!」
 
 しかし、私の言うことも聞かずに、フリードは飛び上った。
 ガラガラと崩れて行くビルの中にルーちゃんの眠っている姿がまだ見える。飲みこまれていく。
 
 「ばか! ばかばかばか!! フリードのばかっ!!」
 
 首筋をドンドン、と叩いていると、フリードは「見てよ」と言うように静かに鳴いた。
 涙で滲んでいる視界だとよく見えなかったけど、それでもわかった。
 
 ガリューが、ルーちゃんを抱えて飛び上ってくる。
 それに続くようにエリオ君もフリードに着地した。
 
 「……みんな、無事だよ!」
 
 エリオ君がそう言って笑いかけてくれた。
 見てみると、周囲にはルーちゃんの召喚獣が飛び交っている。
 解る。
 みんな、喜んでいる。
 
 ――――、ありがとう。
 
 ルーちゃんの声じゃない、誰かの声が聞こえた。
 顔を上げると、ルーちゃんを抱えていたガリューと目が合った。
 こくん、と頷かれる。
 
 「あ、ううん。どういたしまして」
 
 きっと、あの言葉はガリューのもの。
 なにか、とても嬉しかった。
 
 『フォワード、聞こえる!?』
 
 「あ、はい!」
 
 モニターにシャーリーさんが出てくる。
 いやに慌てた様子だった。さっきの“次元断層”みたいなものと関係があるんだろうか?
 
 『スターズは至急、『ゆりかご』へ向かって下さい!! ライトニングはアースラへ!!』
 
 「えっと、了解です?」
 
 何があったのかよりも、その勢いに負けて帰還命令を承諾する。
 モニターが息をつく暇もなく消えた。
 
 「どうしたんだろう?」
 
 「わからないけど……でも、あれ、スカリエッティのアジトの方角だったよね?」
 
 『あ、ライトニング。フェイトさんは一応無事だよ。スターズの方も、ギンガさんはフェイト隊長が助けてくれたみたいだから、安心してね』
 
 またモニターが展開して、シャーリーさんが青白い顔で出てくる。
 ? さすがに、これを気にするなって言う方がおかしい。
 
 『シャーリーさん? どうしたんですか?』
 
 当り前のようにスターズの二人も同じことを思ったのか、スバルさんが通信の向こう側でシャーリーさんに訊いていた。
 
 『さっきの黒いやつとなんか関係あるんですか?』
 
 続いて、ティアさんも訊く。
 
 「地震も起こったけど、あ、スターズの方は大丈夫だったんですか!?」
 
 『心配ありがと、エリオ。こっちはスバルのウィングロードの上に避難したから大丈夫よ』
 
 「よかった」
 
 さて、とティアさんが区切りをつけて、改めてシャーリーさんの方を向く。
 シャーリーさんはと言うと、やっぱり青白い顔をしながら頷いた。
 
 『さっきの“黒い閃光”は見ましたか?』
 
 全員が頷く。
 どうやら、全員が見ていたようだ。
 
 『あれは、極小規模の“次元断層”です。この世界で起こってしまったので、ミッドチルダを含むこの星は一時的な災害に見舞われました。さきほどの地震もその一つです』
 
 やっぱり、次元断層だったんだ。
 でも、なんでそんなものがいきなり起こったんだろうか?
 もしかして、『レリック』の暴走とか……?
 
 『発生地点はスカリエッティのアジトの直上です。さっきも言ったとおり、フェイト隊長、シスター・シャッハ、アコース査察官は全員一応無事です』
 
 「それで、なんでそんなものが起こったんですか?」
 
 『正確には起こったんじゃなくて、“起こされた”んだけどね。アコース査察官からの映像なんだけど、これは移動中のヘリの中ででも見てくれればいいから、今は後回しね。…………ここからは落ち着いて聞いて』
 
 その雰囲気の変わりように、動悸が激しくなる。
 息もなぜか荒い。見えない巨大な手に押さえつけられているような、そんな感覚がある。
 エリオ君の袖を、思わずぎゅっと握ってしまった。
 
 『ミッドチルダ周辺の次元間航路が断たれたわ。原因はさっきの次元断層による次元震の発生からくる、空間の歪みが原因ね。ここまで話せば、わかるかしらね?』
 
 『――――本局の艦隊が、『ゆりかご』の軌道上到達までに間に合わない……?』
 
 『正解』
 
 全員が息をのんだ。
 どっと汗が流れ出して来る。
 押さえつけられるような重圧が一段と強まった気がした。
 
 『おそらく極小規模のものだったから、4日ほどで航路は回復するでしょうね。でも、4日』
 
 到達まであと1時間を切った、と言っているにも関わらず、艦隊到着が4日後以降。
 そこまで時間があれば『ゆりかご』は迎撃態勢を完璧に整え、さらに、ミッドチルダを制圧してもまだおつりがくるくらいの時間がある。
 そんな相手をどうやって地上の戦力だけで抑えられるのだろうか。
 
 『でもね、さっきの“黒い閃光”で、『ゆりかご』の船底に極大のダメージを負わせることが出来たわ』
 
 『ちょっと待ってください! さっきのって次元断層なんですよね!? なのはさんたちは!?』
 
 スバルさんが今にも倒れてしまいそうな顔をして叫ぶ。
 そうだ、突入しているなのはさんや、周辺空域制圧をしている八神部隊長は……
 
 『そっちも奇跡的に。……とにかく話は全部移動中に、早く移動開始して。一刻を争うわ』
 
 「了解です、シャーリーさん。……そ、そうだ、私たちはヴォルテールとフリードでそちらに向かいます。ヘリは直接、ティアさん達の方へ向かわせてあげてください」
 
 『ん。ヴァイス陸曹、聞こえた!?』
 
 『おう、まかせときなァ!』
 
 「って、ヴァイス陸曹!?」
 
 フォワード全員が目を丸くしながら、モニターの向こうのヴァイス陸曹を幽霊を見たみたいに固まる。
 
 『よう。完全復活、ってわけじゃねえが、オレも戦線復帰だ。スターズ、しっかり運んでやるから、そこ動くなよー!?』
 
 そう言ってヴァイス陸曹が笑う。
 ヘリとの通信が切れ、残ったのは最終確認だけ。
 移動を始めながら、シャーリーさんの現状報告と最終確認を待つ。
 
 『スターズは、ヴァイス陸曹ののヘリで『ゆりかご』へ。ライトニングはアースラへ。時間がかかればかかるほど、このミッションは危険度を増します。迅速な行動を心掛けてください。以上です、ご武運を!』
 
 通信は意外なことにそれで終わった。
 時間がかかれば危険度を増すのはわかるのだが、その詳細がわからない。
 もしかすると、それを言うとこっちの士気にかかわるからだろうか?
 
 「ヴォルテール、急ごう。フリードもついてきてね!」
 
 今この世界でなにが起ころうとしているのか。
 それはよくわからないけど、消えない。
 
 押し潰されるような重圧が、消えてくれない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:6−3  end
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

なぜだかオリジナルの方が凄い勢いで書ける。あと拍手レス。

ども、草之です。
というか、短編が無性に書きたい。
そんな時間はあるようでないような。
 
『B.A.C.K』の続編をすでに構想中という。
誰が見やがりますか、というくらいにオリジナル色強いです。
たぶん、『リリカルなのは』なのに、なのはたちが出てきません(笑)。
出そうと思えば名前だけでも出せますがね。
――――あれ、続編なのに? とか思った諸君。
『B.A.C.K』の主人公はユーリです、一応(笑)。でも、そのユーリすらも出番が激減するだろうことが容易に想像できるのだ!!
なぜなら、続編の主人公は■■■■(名前)で、『B.A.C.K』の■■■■■とJS事件解決を■■■、中編連載だから!! おそらく10話程度で終わらせられる気がする。
 
割とどうでもいい話でしたね。
 

以下、拍手レスです。
 
 

全文を表示 »

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

B.A.C.K   Act:6−2

 
 「ど、くたー……あれは、なんという現実なのですか……っ!?」
 
 『事実、敗北という現実だよ、ウーノ』
 
 一歩、二歩とウーノがよろめく。
 モニターに表示された、トーレのバイタルサインがゼロを指し示した。
 映像を見てもわかる。胴体を真っ二つだ。いくら戦闘機人とは言え、あの強烈なダメージでは生きることなど出来ない。それは“解る”。
 ウーノが信じられないと言ったのは、トーレの敗北についてだった。
 
 ――――それは完璧だった。
 トーレが取った行動は、確実にラインハルトを死に追いやるものばかり。手心など加えてもいない、全力で殺気を放ち、かつ全力の稼働でラインハルトに死を顕現させるはずだった。
 それは完璧なはずだった。それだというのに、その『絶対』をくぐり抜け、生き残った騎士がいる。
 
 ユークリッド・ラインハルト。
 
 『戦場の演出家』と言われ、その名に恥じぬ戦術を今回の作戦でも魅せた。
 少々飛躍した解釈があったようにもウーノは思うが、彼の者の戦術は見事としか言いようがなかった。
 ミッドチルダ内で、干渉阻止、または安全のためといって結界を張ることはない。なぜなら、そこに事件性があったとすれば、そこはもう危険地帯として扱われてしまうからだ。干渉制限を設けたところで、大半が少なからず微弱な魔力を持つミッドチルダ人に、結界などは、逆に“牢獄”でしかないのだから。
 そこから生み出される戦場心理。そして、それを持て余すことのない自己の解析と心理状態の把握。
 
 ユークリッド・ラインハルトは戦場を操ったのではない。
 彼の者は、戦場における心理を刺激しただけなのだ。
 大きくはなく、しかし、それは時に大きなものよりも巨大なものを討つチカラと化す。
 
 なるほど、演出家、とウーノはそこだけを納得した。
 また同時にしかし、と思考を巻き戻す。
 
 “だからと言って、ナンバーズ中最強の戦闘能力を誇るウーノを撃破する理由にはならない”。
 
 作戦としてはこちらの勝利で間違いはない、とウーノは思う。
 しかし、勝負としてはこちらの負けだったと結果が叫んでいる。
 目の前の映像には、上半身と下半身が別れを告げた妹の姿が映っている。
 
 どういうことだ、どうしたことなのだ。
 トーレは、彼の者の父親に勝利している。ならなぜ、その父の領域に立ってもいない者が、トーレを凌駕したという?
 その答えを求めるように、ウーノはドクター、と愛おしそうにスカリエッティを呼んだ。
 
 『完璧すぎたんだよ、トーレはね。トーレとしての人格が完璧すぎた。それが敗因なんだよ。ましてや、相手は戦場の心理を操った男だ。その“欠点”に気がつかないはずがないんだよ』
 
 「どういう……?」
 
 スカリエッティは独白するように続ける。
 
 『……結局、ナンバーズの中での最強は“チンク”なのかもしれない、といいたいのだよ、私は』
 
 「チンクが? なぜですか、ドクター」
 
 『彼女は戦闘に不必要な感情も持っている、“不完全”な戦闘機人だからだよ。完成を見ない、幼い感情を持つ人のような戦闘機人だから、だよ』
 
 「……解りかねます」
 
 『だろうね。いや、気にしなくてもいい。トーレはこのことを予見していたんだ、計画に変更はない。ナンバーズには知らせない方がいいだろうね。さぁ、ウーノ、出迎えの準備を始めよう』
 
 ウーノは納得の出来ないまま、頷く。
 モニターの先に寝転がる、人工血液を垂れ流しにしている妹を一瞥して、彼女はスカリエッティの元へ帰るため、『ゆりかご』を後にした。
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「……えっ? アルト……いま、なんて?」
 
 「だから、ユークリッド隊長が、戦闘機人の一機を撃破したんだって!」
 
 ヘリがビルの間を器用に旋回しながら、アルトが声が裏返りそうなほど興奮して叫ぶ。
 戦況が大きく変わるよ! と、本当にうれしそうに。
 確かにそうだ。戦闘機人がたった一人減っただけでも、数で勝る管理局に優勢指数がグンと高くなる。
 
 「…………」
 
 なのに、なんでアタシはこんなに落ち着かないんだろう。
 
 「ティア?」
 
 「ううん、なんでもない。大丈夫。アタシ達も負けてらんないね」
 
 「うん!」
 
 スバルの明るさが、今はぎこちなかった。
 深呼吸して、落ち着く。アルトが操縦するヘリは、廃棄市街地のビルを縫うように飛行していた。ともすればヘリなんかで出来る機動ギリギリの操縦だった。
 ヴァイス陸曹の後輩、というのも頷ける。
 
 「そろそろ振り切れるよ……! 降下準備はいい!?」
 
 「バッチリ!」
 
 「大丈夫です!」
 
 「同じく!」
 
 「きゅくるー!」
 
 みんなが次々に返事を返していく。
 後部ハッチが低い音を響かせながら開いていく。ごう、と風がまるで逃げるように流れて行く。
 その中で、一呼吸を置いてアタシが改めて確認を行う。
 
 「アタシ達はミッド中央、市街地方面。敵戦力の迎撃ラインに参加する。地上部隊と協力して、むこうの厄介な戦力……、召喚師や戦闘機人を最初に叩いて止めるのが、アタシ達の仕事」
 
 その確認に、スバルが続く。
 
 「他の隊の魔導師達は、AMFや戦闘機人戦の経験がほとんどない。だから、私たちがトップでぶつかって、とにかく向こうの戦力を削る!」
 
 「あとは、迎撃ラインが止めてくれる、というわけですね?」
 
 自信もたっぷりに、キャロが勇ましく言う。
 それに頷いて返すと、今度はエリオが俯いて言う。
 
 「でも、なんだか……、なんだかちょっとだけ、エースな気分ですね」
 
 「そうね」
 
 そんなことで笑えるエリオが羨ましかった。
 確認は続く。
 防衛線をガジェットや戦闘機人に通られれば、後ろに待っているのは市街と避難が完了していない住民。
 ……自分の負けは、アタシ達だけの『死』を意味してるだけじゃない。
 危険を振りまいてしまうことになる。それだけは嫌だ。それじゃあ、結果は兄さんと同じだ。
 
 ……兄さんの魔法は、役立たずなんかじゃないって認めさせたいと思っていた。
 でも、それは違うんじゃないかって、思うようになった。それは、なのはさんとヴィータ副隊長の教導や、ユークリッド隊長との会話の中で、なにか、アタシに足りないものが分かってきたからなんだと思う。
 
 確かに、この手の魔法は兄さんから教えてもらった、大切な宝物(まほう)だ。
 
 でも、そうじゃない。
 アタシはアタシの魔法で、誰もが認める魔導師になってみせる。
 兄さんから貰って、周りの人に鍛えてもらって、そしてなにより、ティアナ・ランスターの魔法として昇華されたアタシの射撃魔法。
 これから、アタシが管理局で働いていく限り、いつかある噂を耳にするに違いない。
 
 『妹は優秀なのに、あの兄ときたらなかった』
 
 きっと、こんな噂だ。
 それに惑わされないように、今はしっかりと生き残るんだ。
 そうなったとしても、誰も知らない。誰も気がつかない。
 
 この手の魔法は、兄さんから貰った魔法なんだから……!
 
 「あとは――――」
 
 その思考を遮るようにスバルが言った。
 
 「ギン姉の、行方……」
 
 瞳に不安の影を落として、スバルは項垂れた。
 ギンガさんは、この作戦に駆り出される可能性も十分にあった。
 だけど、ギンガさんの影はどこにも見当たらなかった。アースラから出撃する前に、戦闘機人がこちらに攻め入ってくるのをリアルタイムで見ていたけど、その中にいなかった。
 それはある意味喜ばしいことでもあって、だけど、スバルからすれば――――いや、違うな。アタシ達にすれば、逆にギンガさんの安否を確認できない分、その不安だけが肥大化していく。
 
 「……人質として、どこかに捕らえられているとか?」
 
 エリオは言う。
 
 「例えばですけど、ユークリッド隊長が捜してる人と一緒にいるとか」
 
 「なくはないと思うわ。戦闘の場に出ていないんだったら、人質として捕まえられている可能性は高いはずだもの」
 
 むむ、とつい考え込んでしまう。
 もし、人質として捕らえられているなら、たぶん、フェイト隊長が一番近い。
 …………はっきり言って、アタシ達がどうこう出来るような範囲じゃない。スバルには辛い選択だろうけど、言わなきゃいけない。
 
 「スバル」
 
 「……うん」
 
 「いい? アタシ達はアタシ達の、目の前の戦いに集中しなきゃなんない。辛いこと言うようだけど、アンタがしっかりしなきゃ、チームは成り立たない。アンタが、このチームの大黒柱なの」
 
 「チームの大黒柱はティアじゃん」
 
 スバルのちょっとした軽口だった。
 それだけ言えるなら、大丈夫。スバルも納得は出来なくても、理解はしてる。
 
 「アタシは――――、そう、司令塔ってことはあれよ。家計を見守る財布役ってね」
 
 「ああ、なるほどー」
 
 「そう言われてみると、ティアさん、お母さんみたいな雰囲気あるかもですね」
 
 「あー、なんか納得されんのもちょっと癪だったり……。まぁ、いっかな。よし、じゃあ行くわよ!」
 
 『了解!』
 
 後部ハッチから降下する。
 廃棄されて久しい高速道路に順次着地していく。
 フリードは空中で覚醒、エリオとキャロを乗せながら飛んで行く。
 
 このまま走り続ければ、正面から戦闘機人の部隊とぶつかる。
 おそらく、あちらの方が先にこっちを発見する。こと戦闘というロールの中で、それとして造られた彼女らの方が優れているのは道理。
 …………初手から、先手を取られるのは正直キツイ。
 チームとしてなら、負けていない自信はある。
 だが、その初手がチームを分断するものだとすれば? 大いにあり得る。
 状況的有利を作り出すのは戦闘の基本。
 
 この初手を凌げるかが、ある意味勝負の分かれ目だ。
 だが――――、
 
 「――――っ! フリード!」
 
 だというのに、キャロが動いた。
 
 「キャロッ!」
 
 呼び止めようとするものの、フリードの羽撃たきは止まらない。
 その先を見てみると、離脱していくアルトのヘリに狙いを定めている召喚師の姿が。
 なるほど、わざと先手を取らされたってわけだ。
 
 「スバル、足は止めないで聞く。先に召喚師の方をつかまえ――――」
 
 そこで、
 
 「IS発動……」
 
 聞こえもしない声が、聴こえた気がした。
 
 「レイストーム」
 
 視界の端に、閃光が飛び込んでくる。
 反射的に横に飛び退く。スバルも同様に逆方向へ。
 
 「スバル!」
 
 「ティア!」
 
 お互いに叫んで無事を確認し合う。
 すぐに動けるくらいに、怪我も問題も何も無い。
 周囲を確認しようとして――、
 
 「……、ッ!」
 
 背後に強烈な殺気を感じた。
 振り返るよりも回避に専念。一瞬前までいた空間に剣閃が瞬く。
 回避終了と同時に敵の姿を視界に納める。
 
 双剣型の武器を手に、息をつく暇もなく間合いを詰めてくる。
 クロスミラージュをダガーモードへ移行、打ち合う。
 
 「っくぅ!?」
 
 さすがに専門職相手だと一撃が重い。そんなことは、ヴィータ副隊長相手に嫌ってほど思い知らされている。
 だから、近距離で打ち合うことを考えてのものではなくて、距離を離すための打撃。
 
 しかし、
 
 「逃がさない」
 
 そこまで甘くはない。
 それも知ってた。
 
 ゴりっ、と肋骨が軋む音が聞こえた。
 
 「ぎ……ッ!」
 
 瞬間、視界の天地がなくなる。
 ドゴン! と何かに衝突した音と、全身に打ち付けられた痛みでやっと地面を認識する。
 周囲を確認。廃棄ビルに突っ込んじゃったのか。
 今までアタシがいただろう場所に視線を移すと、そこには戦闘機人がいなかった。
 まずい、なんて思うよりも早く、痛みに悲鳴を上げる身体に鞭打って自分が突っ込んで出来た穴から外へ飛び出した。
 考えるよりもなお早く、身体が反応してクロスミラージュのアンカーを射出。
 ビルとビルの間をまるで飛ぶように、スバルのもとまで移動する。
 と、そこで。
 
 「ティア、後ろ!」
 
 「っ!?」
 
 アタシにはまだ空戦スキルはない。
 エリオのようにストラーダで限定空戦が出来るわけでも、ましてやスバルのようにウィングロードで走ることも出来ない。
 恰好の的。――――には、させない!
 
 「クロスミラージュ!」
 
 《Cross Fire》
 
 振り向き様、弾丸を生成。
 敵の姿を確認した瞬間、当てる目的ではなく、牽制目的で放つ。
 敵に対する若干の移動制限と、弾幕生成によって距離を保つ。
 ただこうなると、着地はスバル任せ。その当のスバルでさえ戦闘中だ。
 ……となれば。
 
 「ツーハンド!」
 
 《Anchor shooting》
 
 両手に持ったそれぞれのクロスミラージュからアンカーが射出される。
 それぞれが一番近いビルに張り付き、落下の速度を緩める。その隙に空中姿勢を整え、自力で着地。
 着地硬直を狙って、スバルと戦っていた赤毛の戦闘機人が攻撃を仕掛けてきた。
 ――――まずっ、
 
 《Protection!》
 
 ばヂぃッ!
 スバルが防御で割って入る。
 
 「ティア、大丈夫!?」
 
 「アタシは、なんとか……って、スバル!」
 
 《Protection》
 
 ガシュン、とクロスミラージュが一発のカートリッジをロードする。
 出来あがる防御膜はスバルほど強力なものじゃない。そもそも、アタシ自身は防御魔法が得意じゃない。
 それでも、と、クロスミラージュを掲げる。
 
 瞬間。
 
 両の拳を合わせたような巨大なエネルギーの弾が炸裂する。
 魔力ではない、それは、戦闘機人特有のエネルギー。
 数発におよぶ連射をなんとか耐えきり、煙が晴れる。
 
 スバルと背中を合わせながら、周囲を確認。
 視界に収まるだけでもいち、に、さん。それと、アタシとスバルを分断しようとしたヤツも入れると四人。
 単純に考えれば、二対四。その戦力差は倍。ライトニングに応援をしようにも、あちらもおそらく召喚師と戦っているに違いない。
 
 「……へへ、ティア、久しぶりだね」
 
 「あん? なにがよ」
 
 こんなときに笑ってる場合か、とは思いつつ、スバルの言葉に耳を傾ける。
 そんなアタシの様子に申し訳ないと思ったのか、ごめん、と一言漏らしてから、
 
 「コンビで動くの、久しぶりだねって」
 
 「……――――ったく、アンタってやつは、もー」
 
 緊張感が足りていないのか、それとも緊張を和らげようとしているのか。
 どちらにしても、アタシとしてはどうでもよかった。
 ただ、そのスバルの言葉が、この絶望的な彼我戦力の前でも、希望に思えてくる。
 
 「おい、ハチマキ。覚悟しやがれ……、チンク姉の痛みと屈辱、お前に返してやるからな……!」
 
 チンク? とアタシが思うと、スバルがぐっと力を込めた。
 瞬間、スバルが弾ける。それと同時。
 
 ――合わせて!
 
 念話が届いた。
 一歩遅れて、アタシも前に踏み込む。
 目の前の戦闘機人も赤髪。なにやらボードのような武器を持っていた。
 モードツー、とクロスミラージュに命令を送る。ツーハンドモードのまま、ダガーモードへ移行。
 接近戦を申し込む……!
 
 「っく!」
 
 エネルギー弾を撃つことはなく、ボードを振り回して迎撃してきた。
 それを頭を低くして避ける。地面を這うように駆け、接敵。懐に潜り込んだ。
 
 「な、んッ!?」
 
 決まった、ハズだった。
 横合いから、赤い鞭のような刃が飛んでくる。びゅるん、とそれこそ蛇のようにのたうってさっき蹴られたところと同じ場所に刃が当たる。ただ、さっきよりもよかったのは、クロスミラージュを間に差し込んで衝撃を直接叩き込まれなかったことだ。
 
 「あ、ありがとうッス、ディード」
 
 ディード、と呼ばれた戦闘機人は、間違いなくさっきアタシを蹴ってビルに突っ込ませたヤツだ。
 また邪魔された、となぜか拗ねた感情が湧き上がり、自制する。
 
 「油断はしないほうがいい。トーレ姉さまを出し抜いた人の教え子だって聞いている」
 
 「そういえば、トーレ姉は無事なんスか?」
 
 「大丈夫に決まってんだろ、馬鹿か。トーレ姉があんな白髪に負けるかよ」
 
 はて? と首をかしげた。
 アルトは確かに、ユークリッド隊長が戦闘機人を一機撃破したと言っていた。
 と、そこまで考えて読めた。
 
 情報が入っていないんじゃない。
 不都合がないように、情報が止められてるんだ。
 
 だとすれば、これは間違いなくこちらのアドバンテージになり得る。
 ユークリッド隊長と戦った戦闘機人がその『トーレ』という人物かどうかは確証はないが、あの双剣の口振りから、十中八九、彼が倒した戦闘機人は『トーレ』なんだと思う。
 
 まだこのカードは持っておくべきかな。
 
 スバルが静かにアタシの隣に戻ってきた。
 息は乱れてないし、興奮もしてないみたいだ。
 
 ――スバル、ちょっと聞いて。
 
 ――? どうしたの、ティア。
 
 「おい、うだうだ言ってんじゃねーぞ、丸聞こえなんだよ、てめえらの念話なんざ」
 
 う、と息を詰まらせた。
 赤毛の戦闘機人はこちらを睨んだままだ。
 
 それにしても、運がいい。
 いきなり本題を切り出さなくてよかった。あのまま言っていたら、確実に無駄な場面でカードを切ってしまうことになるところだった。
 赤毛の戦闘機人が短気で助かった。
 
 念話は聞かれる。だとすれば、どうやってスバルに敵の『勘違い』を教えよう。
 スバルも知っておけば、ハッタリに付き合わせることだって出来る。一人よりも二人での方が説得力はあるだろうし、なにより、気味が悪い。
 嘘か本当か、司令塔という立場のアタシだけではなく、言ってしまえば突撃馬鹿のスバルでさえそう言うのだ。
 胡散臭さの中に、ちょっとした説得力。
 これほど“判断に困る”話しもないだろう。
 
 だと言うのに、念話が使えないとなると、一旦隠れて話をするしかない。
 ……そのためには、まず、と、そこまで思考に没頭してやっと気が付いた。
 教える相手は“誰だ”?
 
 長年の、腐れ縁パートナー、スバル・ナカジマ嬢。
 イケる!
 
 「スバル。コンビネーション、クロスシフト・AAL[エール]」
 
 「っ、わかったよ、ティア」
 
 「まぁだ小細工続けるんスかー?」
 
 ボードを持った方の赤毛の戦闘機人が言う。
 小細工といえばそうだけど、今度の小細工はちょっと“くる”わよ?
 
 三方を囲まれ、状況的には非常にマズイ。
 前衛が二人。中衛があのボード。後衛は……どこにいるかわからない。
 この場面で一番厄介なのは、後衛の奴だ。どこにいるかわからないうえに、指揮だけじゃなく、自分でも砲撃を放ってきた。
 目の前の敵に集中し過ぎると、ズドン、で終わりだ。
 ……まぁ、そのためのクロスシフト・AALなんだけど。
 
 クロスシフト・Act A Lie
 スバルか、もしくはアタシのどちらかが「話を合わせて」という意味で使う。
 つまり、今からハッタリをかますからフォローして、というその場しのぎの時間稼ぎにしかならない、相手の情報を少しでも引き出すモノ。
 今回はそれを逆に利用して、心理戦に持ち込む。
 
 ふぅ、と息を吐く。
 さて、どうやって切り出そうか。
 
 「……トーレって、もしかしてあの報告のヤツの事じゃない? ねえ、スバル?」
 
 「え? ……あー、あの、えっと、なんだっけ?」
 
 「バカ」
 
 なんとも自然なとぼけかただ。その分、もしかして本気で忘れてるんじゃないか、という疑いをかけたくもなる。
 でも、その方が会話に“らしさ”が出てくる。
 短気な方の赤毛が食らいついてきた。
 
 「あ?」
 
 「……報告が入ったのよ、戦闘機人が一人撃破されたって」
 
 「……ハ?」
 
 「嘘……トーレ姉が?」
 
 「………………トーレ姉さまとの回線、繋がりません」
 
 このまますんなりイってくれれば、万々歳なんだけどね。
 そう上手くもいかないでしょうね、これは。
 
 「ですが、向こうには結界を張る術者がいました。もう一度展開されているとなれば、回線が繋がらなくなっていることには説明がつきます。まだ本当に倒されたかは定かではありません。最悪、そうだとして、だとしたら、なぜその報告が未だにこちらに届いていないのか、甚だ疑問が残ります」
 
 結果として、ディードという戦闘機人は上手く穴に嵌まってくれた。
 ここからが勝負どころってことか。
 
 「……確かに、私たちを追ってきた部隊の奴ら、まだ全然追いついてきてないしな……。もしかしたら、トーレ姉、部隊の奴らに追いついて、殲滅を優先してるのかもな」
 
 「そこで結界を張られて通信不可能ってことッスね?」
 
 「可能性は否定できない。……けど、あの子の言うことも、一概に嘘だとは言えない。信じたくはないけれど」
 
 ……戦闘機人って言ったって人の子ってことかしらね。
 不安と懐疑が渦巻いているように見える。畳み込むなら今――――、
 
 「嘘だったら?」
 
 「嘘に決まってんだろ」
 
 「本当だったら?」
 
 「だから、嘘にきまってン――――、」
 
 「なんでそんなに“否定したがる”の?」
 
 ギク、と赤毛の戦闘機人が硬直した。
 残り二人も、直接話していた赤毛程ではないにしろ、身構えた。
 
 「ホントはホントは、どこかで『まさか』って思ってるんでしょ? そうでしょう?」
 
 「うっせェ、黙れ」
 
 「それよ、それそれ。ほら、どうなのアンタら」
 
 出来るだけ傲岸不遜に、威圧的に、まるで“騙そう”としているように。
 ディードの一言を、きっと彼女が最初に言うであろう一言を待つ。
 
 「ねえ、ティア。そんな話あったっけ?」
 
 「あったじゃない。何聞いてたのよ」
 
 「……ごめん」
 
 この場合のスバルの行動は正しい。
 “騙そう”としてると思わせたいのだから、スバルにはとぼけてもらうのが一番。
 ここまで話してやっとアタシのしようとしていることを理解したらしい。
 
 「オイオイ、お前嘘なんだろ、それ」
 
 「どうして? アタシが嘘をいうメリットってなに?」
 
 「…………たとえば」
 
 来た!
 ディードが口を開く。
 
 「私たちの動揺を誘うなど、理由はいくらでもありますよ。……逆に訊きますが、」
 
 ディードは、その先の言葉を――――、
 
 「アナタはなにをそんなに“事実”ばかりを言ってるのですか?」
 
 「えっ?」
 
 ――――言わなかった。
 騙そうとしてるのですか、ではなく、事実ばかり、と言った。
 ……あぁ、クソ。詰めが甘いぞ、ティアナ。
 思わず零した「えっ?」という言葉で、向こうの緊張が解け、代わりに烈火の怒号が返ってきた。
 
 「そういうことかよ……、信じたくねえけど、信じたくねえけどなァ!!」
 
 ドン!! と、コンクリートがめくれ上がる勢いを以て、赤毛の戦闘機人が突撃を仕掛けてきた。
 スバルと打ち合う。片や拳、片や蹴り。お互いのスピナーが唸りを上げ、大気を捻じ曲げる威力で拮抗する。
 援護、とクロスミラージュを構えた瞬間、懐に潜り込まれていた。
 ディードだ。
 
 「っく、っそ」
 
 ツーハンドにしていたのが幸いした。
 もう片方のクロスミラージュをダガーモードへ移行、双剣が振り抜かれる前に体との間に滑り込ませた。
 魔力刃が双剣の刃を受け止め、ボールでも当てたように軽々と振り抜き、吹き飛ばされる。
 しかし、バランスは思ったほど崩れていない。吹き飛ばされざま、ディードに向かって射撃を行う。
 簡単に剣で弾かれ、接近してくるか、と思ったら来なかった。
 なぜ? と訝しんだのち、
 
 《Enemy is on!》
 
 クロスミラージュが告げる。
 上を見上げると、先ほどのエネルギー弾とは明らかに威力が違うと判るスフィアが形成されていた。
 発射まであと1秒もない。撃ち合えるだけの砲撃も、こっちは出来ない。そもそもアタシに抜き撃ちを求める時点で間違ってる。
 だとしたら、どうする?
 ……――――って、どうするもこうするも!!
 
 「なめんなァ――――ッ!!」
 
 「!?」
 
 地面を蹴って、前へ飛び出す。
 クロスミラージュを2丁ともダガーモードへ。
 再度、接近戦へ……!
 
 「くそっ、ちょこまかとっ!」
 
 『だめだ、ウェンディ、撃っちゃダメだ!』
 
 そうとも、撃てばディードごと巻き込むことになる。
 フレンドリーファイアなんて、名折れでしょ?
 冷静さがなくなってる証拠!
 
 「接近戦なら、なんて思いましたかっ!?」
 
 ディードの間合いに踏み込んだ瞬間、容赦のない連撃が浴びせられた。
 これも想定内。次は、この剣戟にいつまで耐えられるかが問題。打ち合ってる間は、あのボードの――ウェンディといったか――戦闘機人は戦闘に参加らしい参加はできないはず。
 実質的な1対1に持ち込むことができた。
 
 「時間稼ぎのつもりですか……? 私たちは、あなたの捕獲命令は受けていない。その意味を理解出来ますか?」
 
 つまり、手心は加えない。
 本気で殺しにかかるぞ、ってことでしょう。
 知ってる知ってる。それくらいわからいでか。
 
 「だったら、返り討ちよ!」
 
 鍔迫り合いから弾き合い、若干の距離を開け、宣言する。
 
 「公務執行妨害、公共施設破壊、エトセトラ。以上の罪状から、時空管理局本局、機動六課スターズ分隊、ティアナ・ランスターが、あなたたちを逮捕します。神妙にお縄につきなさいッ!!」
 
 「誰がそのような……ッ、ウェンディ!!」
 
 ディードがバックステップで距離を取る。
 待ってましたとばかりに上空のウェンディからの雨のような乱射が降ってきた。
 アタシを外れた弾はハイウェイの、今はもうボロボロになったコンクリートに降り注ぎ、土煙をあげていく。
 ダガーモードを解除する。
 
 「……これで終わりよ」
 
 
 *  *  *  *   *
 
 
 「おおおおおおおおおりゃああああああああああああッ!!」
 
 「ぢぇええええええええええいらあああああああああッ!!」
 
 ガぎン!!
 私の渾身のナックルと、赤毛の戦闘機人――ノーヴェというらしい――の苛烈な蹴りがぶつかり合う。
 弾き合い、お互いが空駆ける道の上に着地し、再び加速をつけてぶつかり合う。
 
 「でらッ、だ、はァッ!!」
 
 「ずッ、シュッ、ちぇア!」
 
 ウィングロードの上で、お互いの肌が触れ合うような極至近距離で殴り、蹴り合う。
 技術なんて本当に関係ない。今まで培って身体に叩き込んできた、本能の位置にあるものに任せきった『戦闘衝動』。考えるよりもなお早く、視るよりもより早く、そしてなにより、相手よりもさらに早く。
 
 「てめえッ、ハチマキコラ、ふざけてんじゃねえぞ!!」
 
 「ふざけてなんかない!!」
 
 「『振動破砕』使ってねンだろうが、よこせゴラァ――――ッ!!」
 
 「使わないッ!!」
 
 「ンだと!?」
 
 「私も戦闘機人だけど、使わないんだッ!! 私は、私と一緒に走る相棒のためにも、この戦い、魔導師・スバル・ナカジマが勝つッ!!」
 
 「ほざいてンじゃねえぞ、ちぃっくしょおおおおおおあああああああああ!!!!」
 
 ドばァンッ!!!!
 ぶつかりあった衝撃が辺り一辺の地面をめくり上げて行く。
 ギチギチと火花を散らしながら拮抗するリボルバーナックルと、ノーヴェのブーツ。
 一撃一撃のモーションがやけに遅く見える。
 だというのに、インパクトの瞬間、思いだしたように世界が加速する。
 
 ユークリッド隊長は教えてくれた。
 『本能』こそが己の武術たり得るのだ、と。
 技術や力なんてものは、結局、意識して外付けした外装なのだと。
 己の武術、パーソナル・アーツ。
 シューティングアーツの中に見出す、私だけの力のカタチ。
 
 『本能』の拳。
 私自身が戦いたいと願い、『望んだ』チカラ。
 
 護るための、想いの拳。
 
 ありったけを、一撃ごとに込める。
 
 「でやあああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 「おらあああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 一歩も退かない。
 己を否定しない。この一つ一つの拳に、私が宿る。
 砕け、傷ついていくのは拳じゃない。拳に乗せた、私の想い。
 研磨された心は、いつしか『本能』を呼び覚ます。
 外装を解き放ち、願いに届く、“真拳”。
 
 ゴテゴテに着飾った“御綺麗”な拳じゃアない。
 私が求めた強さは、もっと輝いている。私が求めた強さは、きっと輝いている。
 
 無様でも型外れでも構わない。
 たった、ひとつの拳――願い――に辿り着くために、私は振り抜く。
 
 「チっくしょォ……ッ、なんなんだよ、ハチマキ、てめえ……チンク姉、どうなってンのか知ってんのかよォッ!!?」
 
 「――――ッ、でも、だからって、負けてあげられないよ……!! 私の後ろには、みんながいるんだ。私の後ろには、護りたい人たちがいるんだっ。それに……、君の向こうにはッ、ギン姉だって、いるんっだあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 何度目かもわからない、拳と蹴りの衝撃。
 ビリん、と。拳に電流が走った。気持ちの悪い、まるで多脚の虫が這うような悪寒。
 身体が悲鳴を上げ始めている。殴られ殴り、蹴り蹴られ、それでも退かないお互いが、見据えるのは違う未来。
 それは、たったひとつの結末なのに、二人で見る景色は、そのどちらともが違うモノを視るに違いない。
 
 相手――スバルが、
 相手――ノーヴェが、
 
 「ハチマキィッ!!!!!」
 
 「ノーヴェえッ!!!!!」
 
 私の豪拳がノーヴェの顔面を貫き、
 ノーヴェの鞭蹴が私の横腹を潰す。
 
 ガぢんッ! という固い頭蓋の音と、
 ごリュんッ! という何かがズレた音。
 
 腕を振り戻し、痛みを振り切り、全身を引き絞るように拳を撃ち抜く。
 
 どバン!!
 ノーヴェの鎖骨に拳がめり込む。
 同時に、私の骨盤に蹴りがめり込んできた。
 
 鎖骨を潰せば、上半身の重心移動が困難になり、蹴りが鈍る。
 骨盤を潰せば、下半身からの力が伝動せずに、拳が鈍る。
 
 だから?
 “だからどうした”――――ッ!!!!
 
 お互いの拳も蹴りも衰えはしない。
 逆に、鮮烈に、激烈に、苛烈に炸裂する。
 
 「マッハキャリバァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
 
 《Ignition!!》
 
 マッハキャリバーが羽撃たく。
 全身にこれとない魔力が迸っていく。
 同時に、今まで以上に、身体全体が悲鳴を上げている。
 ボロボロの今の状態からのフルドライブ、当たり前だ。
 だけど、“だけど”。それをしてまで、私はここで負けられないんだ――――ッ、
 
 負けるわけには、いかないんだッ!!!!
 
 「ギア・エクセリオンッ!!!!」
 
 《A.C.S. Standby》
 
 魔力の奔流が、私の外装を剥がしていく。
 こんなに昂っているのに、心は限りなく静かだ。
 清水――心――に落ちる、一滴の滴。
 羽撃たく心は、今、天に翔け昇る……――――ッ!!
 
 「調子にのってんじゃ、ねえ、ッぞ、ォらあああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 「一撃――――……ッ!!」
 
 この手よとどけ、と。
 この手よ撃ち抜け、と。
 
 この拳よ、
 
 「必・倒――――ォッ!!!!」
 
 ――――願いを掴めと。
 
 翔ける。
 距離は関係ない。
 お互いが最後の一撃。
 
 「これで、決まりだ――――ァッ!!!!」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 それは同時。
 
 ティアナを取り巻く土煙から、アンカーが射出された。
 それに反応して、ディードとウェンディが狙いを定め、
 
 「デバイスだけっ!?」
 
 しかし、ティアナは裏をかく。
 これぞ本命、とティアナは煙を視界の盾に、ディード向かって驀進する。
 固まっていたことと、煙のせいで反応がたった数瞬遅れる。
 その隙に、たった数歩でティアナはディードの懐に潜り込む。しかしそれを、
 
 「甘いッスよぉっ!!」
 
 ウェンディがライディングボードを盾にディードとティアナの間に割って入った。
 ティアナはマズイ、と足を止め、そして、
 
 ――――“消えた”。
 
 「ハ?」
 
 
 
 激熱するマッハキャリバー。
 腕に宿したリボルバーナックルは、今にも弾け飛びそうな回転始める。
 青い青い、空がその拳に集まっていくような錯覚がノーヴェにはあった。
 
 「ゼロ番だからってなんだってンだよ、ンなもン全部、叩き潰してやるぁぁああぁああああ!!!!」
 
 黄金の旋風。
 ギラギラと、まるでノーヴェの殺気に呼応したようなエネルギー光は、まるで炎のようだった。
 スバルの脳裏にほんの数年前の記憶がフィードバックする。
 炎がまるで魔人のように、自分を囲み、じりじりと焼き上げていく。
 
 だけど、と、スバルは構え直した。
 
 「もう、弱い自分じゃない。私は、おおきくなりましたッ!!!!」
 
 轟ッ!!
 スバルは、迸った。
 
 
 
 呆然とするウェンディとディードへ、寸分の狂いもない射撃が当てられる。
 弾き飛ばされるライディングボードと双剣・ツインブレイズ。
 
 どこから!? 周囲を見回し、そして、気づいた。
 “アンカーで移動していたのは、デバイスだけではなかった”のだ。
 オプティックハイド。対象の姿を不可視にする、幻術魔法。
 
 ティアナの手元に浮かぶ環状魔法陣は、輝きが飽和した。
 
 「ファントムッ――――!!!!」
 
 
 
 空の拳と、業火の蹴りは、果たして拮抗した。
 魔力とエネルギーが周囲を焼き尽くす勢いで衝撃に乗って広がっていく。
 まるで拳の先が世界の終わりのような錯覚が奔る。
 
 負けない。その一心を胸に、スバルが辿り着いた、“真拳”を撃ち出す。
 今まで機能せずに沈黙を決め込んでいたコッキングカバーが、叫びをあげた。
 
 我・射ン・射ン・射ン・射ン・射ン・射ンッ!!!!
 
 全弾ロード。
 六連星。その輝かしい魔力はまさしく星々の煌めきに相違いない。
 憧れた魔導師を、聖――星――光の名を冠するその一撃。
 
 スバルの“空”が、爆発的に輝いた。
 
 「ディバイぃン――――ッ!!!!」
 
 
 
 奇跡だった。
 それはもはや、偶然などではない。
 必然という、奇跡だった。
 
 クロスミラージュと、マッハキャリバーが合唱する。
 
 
 《《Can shoot it!!(撃てます!!)》》
 
 
 「ブレイザぁア――――――――ッ!!!!!」
 「バァスタ――――――――ァァッ!!!!!」
 
 
 それぞれの星――希望――の光が、それぞれを撃ち貫いた。
 魔力という光の奔流に飲み込まれながら、ナンバーズのノーヴェ、ウェンディ、ディードが崩れ落ちた。
 
 それを見届けて、遠目にしか見えない星の相棒を見る。
 笑って、笑って、そして、笑っていた。
 
 『ラスト1!!』
 
 まだ見ぬ相手の指揮官に向かって、
 星の少女たちは、勝利を謳いあげた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Act:6−1  end
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

今日は国がひとつ、大きく動いた日。それでも拍手レス。

ども、草之です。
今世間では例の事件のことで話題になってますが、忘れちゃならない今日の出来事。
 
『ベルリンの壁』が、壊れた日。
 
まさしく、国が動いた日なのです。
この裏ではなにやら上層部でややこしいことがあったらしいのですが、結果、それがベルリンの壁崩壊に繋がってしまったのですから、皮肉なものです。
 
具体的には、この国境ともとれる東・西ドイツを隔てていた壁は元々は壊れることはなかったのです。
とある人物が勘違いをし、たまたま、10日早朝に発表するハズだった「東ドイツの旅行の自由」の改定を、9日の午後6時ごろに発表してしまったんですよね。
書面には、「すみやかに」という一文があったらしいのですが、そのすみやか、というのは、発表してから、という意味だったのですが、そこを勘違いしてしまったんですね。
 
検問所には、あっという間に東ドイツの人々が集結。
西ドイツに行かせろ、と爆発点ギリギリの感情で押し掛ける。
 
予想もしなかった勘違いによって、上層部はてんやわんや。
そして午後11時半近く。
上層部は決定を下す。「やれ」と。
 
開かれる門。
流れていく人と感情の波。
 
暴動じみた市民の集結に、なんと奇跡的なことに、無血。
感情が爆発しても、市民が望んでいたことはそんなものではなかった、ということなのでしょう。
 
しかして、その感情の矛先は長く歴史と世界を隔てていた、高さホンの数mの壁へ。
歓喜に満ちた、「忌々しい壁」。
そして、そのときが来た。
 
崩壊。
自らで未来への扉を開ける様にも似た、崩壊。
国が、動いた瞬間でした。
 
それから、今日でちょうど20年。
なんとも、こういうのは時が経つの、早いです。
 
修学旅行で、現地に行ったことからも、そういうのがこみ上げてきます。
どこのコンクリともつかない「ベルリンの壁の欠片」というお土産品。クソ高かったです(笑)。
いや、買ってませんけどね。
 
 
というわけで、こういうことが言っておきたかっただけ。
ところどころうろ覚えですから、間違ってる所とか、人名もちゃんと覚えてません、すいません。
ということで、今日も拍手レスです。
 
草之でした。
 
 

全文を表示 »

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

その優しい星で…  Navi:33

 
 電話の音がけたたましく店内に鳴り響く。
 わざわざボッコロの日にかかってくるのも珍しい、と思いつつ、本当に予約の電話だったら悪いだろう。
 
 「はい、もしもし。こちらァ――――」
 
 『よう、もみ子! 今年も俺様の愛の伝導をお手伝いさせてやるぞ。わかったらため息橋にさっさと来い!!』
 
 がちゃん、と。
 自分の名前も名乗らずに用件だけ言って、一方的に切りやがりました。
 しかも、電話を取った相手も確認せずにもみ子――こんな呼び方をする方も呼ばれ方をする方も、ひとりづつしかいないのだが――と思い込んでの一方的な会話、と、いうか丁寧に聞こえる命令だった。
 灯里は別にありがたくも思ってないだろうし、どちらかというと迷惑程度に考えているのかもしれない。
 そもそも、灯里は今練習で会社を開けている。どれだけ待てば帰ってくるかもわからないし、連絡を取りに行こうとしたら、もしかしたらすれ違いになるかもしれない。
 
 「どうしたもんかな……。これ行かないと灯里があとで文句言われるだろうし、暁も待ちぼうけくらうだろうし……、さて、どうしたもんかな」
 
 暁の愛の伝導云々にはさして興味はないが、まぁ、付き合ってみるのも一興か。
 
 「行ってみるか」
 
 書置きを残し、仕事が終わってから薔薇を買いに行こうと思っていたんだけど、まぁ、仕事は夜にだって出来るんだ、今は休憩として、暁の道楽に付き合ってやるとするか。うん。
 
 
 「……あれ、なんで?」
 
 「なんでもなにも、お前が俺を呼んだんだろ。まぁ、本当は灯里を呼んでたらしいけど、ちょうどいなかったからな……、俺が代わりに手伝いに来てやったってわけだ」
 
 「むむむ……」
 
 暁が唸って、顔が真っ赤になるまで力んでいる。
 しばらく向かい合っていると、苦しくなったのか、ぷは、と息を吐いた。
 
 「なにがしたいんだ、お前は」
 
 「なんでもねーっす。薔薇、買うんスか?」
 
 「ああ」
 
 誰に、と訊きたそうな顔をしたが、言葉を飲み込んだようだった。
 ザバザバと水を乱暴に蹴飛ばしながらサン・マルコ広場に向かって歩いていく。
 
 「……なぁ、暁」
 
 「なんっすか?」
 
 「いい店知ってるんだが」
 
 「いい店って?」
 
 「知り合いの花屋。もしかしたら結構勉強してくれるかもしれないぞ」
 
 「……行きます」
 
 さっきまで先頭を歩いていた暁が、今度は俺の後ろに回って、しかしやっぱり乱暴に水を蹴飛ばしながら歩いている。
 どうにも機嫌が悪いみたいだ。アントニオと面倒なことにならなければいいんだがな。まぁ、期待するだけ期待しておこう。とりあえず薔薇を買うだけだ。そんなことにはなりはしないだろう。
 
 サン・マルコ広場を抜け、アントニオの店がある広場までゆっくりと歩いてきた。途中、ところどころにある薔薇の露店に目を向けながら、うーうー唸りながら薔薇の見比べをしていた。
 ……こりゃ、本当に下手しなくても“下手な事”になりそうだ。この薔薇が悪いだの、なんだの、今の暁なら平気で言ってしまいそうな勢いがある。
 
 幸先が不安だ。
 
 「いい薔薇でもあったのか?」
 
 「いまいちないッスねー。こう、俺の愛を最大限に表現できるような、極上のヤツが」
 
 「今年は量じゃないんだな?」
 
 「気が付いたんですよ。その多さが問題じゃないんっスよ。やっぱり男は中身、中身ですよ。どれだけ言葉を並べたって、一度の行動に勝るものはないんですよ!! つまり、ボッコロの日に贈る薔薇もしかり。手当たり次第にかき集めた有象無象の薔薇の山よりも、その人に似合った、そして自分の気持ちすら表わせるような一輪を求め、そして手渡すべきなのだと!!」
 
 まるで仰々しい政治家のような口調で演説をする暁に、周りのギャラリーがパラパラと拍手を送る。
 人通りの少ない路地で良かった。こんなの声高々に広場ででも言われたら他人のフリがしたくなる。
 
 「その店、質は大丈夫なんでしょうね、衛宮の旦那」
 
 「……それはお前が決めるんじゃないのか?」
 
 「そうっすね」
 
 いろいろと胃が痛くなりそうな――――
 
 「あれ、旦那じゃぁないですか。どうしたんです?」
 
 ……なんて、素晴らしい。
 お前は実に空気の読める素晴らしいやつだよ、アントニオ。
 
 「ちょうどお前の花屋に行こうと思っててな。今年はどうだ?」
 
 「へへへっ、オレが選んだとっときのがまだ残ってますぜ」
 
 商人の顔をしながらニヤリと笑う。
 耳ざとく、暁がその話に乗ってきた。
 
 「ほほー。そのとっときとやら、見せてもらおうじゃないか?」
 
 「ふっふっふ。まァついてきてくださいよ、お客さん」
 
 男三人がつるみながら路地を歩いていく。
 途中話すのは暁とアントニオのふたり。今のところなんにもないような感じだが、いつ暁かアントニオが爆発するかわからないからな……。正直、こういう空気の方がキツイかもしれない。
 と、思っているといつの間にかアントニオの店がある広場まで来ていた。人間、なにかを考えて行動していると気がつかないうちにその行動が終わっていたり、または行き過ぎたりしていることが多い。
 きっと神経質になりすぎてるんだ。なに、男の子ならケンカのひとつやふたつ、日常茶飯事だ。
 別に気にすることはない。うん。そういうことで納得しておかないと気が気でなくなる。
 
 「それで、アントニオ。とっときの薔薇ってのは?」
 
 「暁、先走っちゃいけねえぜ。花ってのは、その一輪に意味が込められてるんだ。それを育ててきた職人たちの技と月日と、そして努力と愛の結晶。それがこのたった一輪にも込められてるんだぜ? じっくり味わいつつ、その花に込められた意味と願いを理解してこそ、贈りものとして、花がようやく一人前になるんだ」
 
 相変わらずのオーバーな身振り手振りの役者ぶりだ。
 それに感銘を受けている暁も、あるいはそういう才能があるのかもしれない。
 
 「じゃ、前置きはこのくらいにしておいて。見てくれ。こいつだ。……美しいだろう」
 
 「…………なんじゃこりゃ」
 
 あ。
 うわぁ、暁かー。9割方暁がやらかすとは思っていたが、ここか。
 アントニオがム、と顔をしかめた。
 
 「なんじゃこりゃとは失敬な。上品なサーモンピンクの色合い、瑞々しい花弁の折り重なる様。マンホームローズの中でも強い生命力で知られるピンクパンサーのアクア改良種のなかでも一等上等な、クリスターロ・ディ・アクアだぜ?」
 
 「そんなん知らん。色が薄い。もっと俺の愛を表現できるような情熱色の薔薇はないのか?」
 
 暁のその言葉に、さすがのアントニオも顔を引きつらせながら、自分が年上ということもあって大人な対応に出始めた。
 一旦、クリスターロ・ディ・アクアという品種の薔薇は横に置き、ダークルージュの薔薇を差し出した。
 前言撤回。アントニオはどうやらかなりキてるみたいだ。
 
 「これなんか、お似合いじゃねえ?」
 
 「なんか汚いな」
 
 「じゃあ……」
 
 と、言って今度の薔薇は、俺の目から見ても透き通った赤色をした、上等なものだとわかる薔薇だった。
 
 「いまいち咲き方が気に入らん」
 
 眉間をヒクつかせながら、暁のお眼鏡にかないそうな薔薇を一本一本選んで行く。
 最終的に、特別な薔薇からは手を引いて、ボッコロの日用に用意されたであろう大量の薔薇の一本を抜き取った。
 
 「これでいかが?」
 
 「――――おお。これはいい薔薇だな!」
 
 これを貰うぞ! と意気揚揚としている暁ではあるが、その奥、アントニオの表情を見ていると、素直に薔薇が見つかってよかったな、などと声をかけられそうにもない。
 アントニオ。見直したよ。ここまで横暴な客に最後まで付き合ってやってくれて、本当に感謝してる。
 
 「さて、いい薔薇も見つけたことだし、さっそく渡しに行くか!」
 
 やはり意気揚揚と、スキップしながら暁はどこかへ行ってしまった。
 ……なんだったんだ、一体。いや、あの情熱はわかるが、少々いきすぎというか、恋は盲目などという言葉で片付けられないぞ、あれ。
 根はイイ奴なんだけどなぁ。こういうイベント毎になるとどうしても暴走するきらいがあるな、暁は。
 
 「で、旦那はどうするんです?」
 
 「ゆっくりと選ばせてもらうよ」
 
 「今年は、まさか一本ですかい!?」
 
 どうしてそこで嬉しそうに声のトーンを上げる?
 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら、だ。いや、恋路とかじゃないけど、邪魔とも思ってはいないけど。
 とにかく、フライト中に女性関係の話はタブーだと、どこかで聞いた気がする。
 
 アクアという星の、太陽系というフライト中に女性の話はやめよう、とそういうことを言いたいわけだ、俺は。
 …………こじつけだ。ダメだな。
 どうしても気が落ち着かない。
 たかだか薔薇一本だろう。どうして迷う必要がある。
 
 しかし、だが、と思うところもあるのも確かなのだ。
 アリシアに、素敵な一本を贈りたい。
 
 と、そう考えただけで自分で自分を消したくなった。
 俺のガラじゃあない。
 そうか、アーチャーはこういう気分だったんだな。ということが若干分かってしまったのが、どうにも悔しい。
 アイツの目の前で言ったら絶対に違う、と全力で否定されそうだが。
 
 「クリスターロ・ディ・アクア、だったか。あれ、もう一回見せてくれないか?」
 
 「喜んで!」
 
 ささっと取り出したるは、サーモンピンクが色鮮やかな見事な八分咲きの薔薇。
 薔薇の知識はあまりないが、この薔薇を見ていると、なんとも不思議な気分になってくる。どう表現したものだろうか、色自体は、暁が言ったように一般的な薔薇というには薄いものがあるのに、とても熱い情熱が伝わってくるようだった。
 瑞々しい花弁には、水滴がほろりと垂れ、宝石の涙を流しているようにも見える。
 “アクアの水晶”などという名が冠されるのも、頷ける気がした。
 
 「今年はどうして、こんなに? 去年はここまで揃えてなかっただろう?」
 
 「ああ、それはあれですよ旦那。来年のこの時期に、『海との結婚』があるんですよ。それに先駆けて、今年のボッコロの日は一層熱い恋人を作るのを手助けしよう、なんて親父が年甲斐もなく張り切っちゃってましてね。まぁ、鑑賞用としても、薔薇はなかなかのインテリアになりますから、これで売れ残っても、まだまだ」
 
 海との結婚?
 聞いたことがあるような、ないような。
 帰ったら調べておこうか……。
 
 「ピンクパンサー、だったか」
 
 「マンホームローズの一種ですよ。薔薇ってのは、それなりに病気に弱いんです。その中でも、ピンクパンサーはそういった病気にほぼ完全な抵抗力を持っていて、強健で、生育旺盛。日陰にも強くて、花自体、長く咲いてるんで元々人気のある品種なんですよ。で、それをアクアに輸入して、アクアでも育つように品種改良され、その中でも極上のピンクパンサーが、このクリスターロ・ディ・アクア。一昨年だったかな、星間コンクールでも銀賞に、その他のコンクールでもいずれも受賞。そういう評価されて、マンホームの方にも輸出されるようになったんですよ」
 
 「輸出? 種でか?」
 
 「いいえ。花それ自体でです」
 
 「ははァ……。なるほど、生命力が強い、なんて言われるわけだ」
 
 花や、野菜などの植物系の星間貿易は、大体が種であるとか、冷凍保存されて輸送艦に乗せられると聞いている。
 それは、大気圏などの入出時の負荷を考えられてのものらしい。他にも理由はあるのだが、まぁ、特に挙げておくものは保存期間だろう。
 
 その中でも、この薔薇が咲いた状態で輸出されるとなると、生命力が強い、という謂われも納得できる。
 花も進化してきたんだろう。そうして、改めて見てみると、その命に溢れて、輝いているようにも見えた。
 鮮やかな、それでいて儚げな色合い。
 
 「すごいな……」
 
 「競り落とすの大変だったんすよ。親父にはよくやったって褒めてもらえましたけど、責任を持ってお前が売れ、売れなきゃ店の金じゃ落とさねえ、なんて言いだすんですよ。買って下さいよ旦那ぁ……!」
 
 いつの間にか懇願の念を持っての押し売りに変わっていた。
 店の金では落とさない、ということはつまり、アントニオ個人の資産から引く、ということなのだろう。
 ……値段を聞くのが怖くなってきた。
 
 「ところで他の薔薇も見てみたいんだが?」
 
 「旦那ー、旦那ー」
 
 「ええい、くどい!」
 
 「買って下さいよぅ〜」
 
 「こ、こうも考えられないか、アントニオ。こいつが売れ残った場合、それをお前がアイナに贈るんだ。どうだ、悪くない案だろう?」
 
 「それ以前に! 俺が! 彼女に! 渡す以前に! 顔を合わせることが出来ると思ってるんですね、旦那は!!」
 
 「なんでそんなに自信たっぷりに言うんだ。嘘でもいいからノっとけ馬鹿! お前は深く考えすぎなんだよ、相手はアイナだぞ、そんなに気構えしてたら、ダメだ。もっと砕ければいい」
 
 「玉砕しろと!?」
 
 「違う!! めんどくさいな、お前はッ?」
 
 「旦那が買えば万事解決なんですってば〜」
 
 「…………いくらだ?」
 
 「12Nユーロ80Nセントです! まいどおおきに!」
 
 「……安くはならないのか?」
 
 ちなみに、今朝のレートで考えると、12Nユーロ80Nセントは、日本円で約1500円。
 正直なところ、花一本に出す金額じゃない。それはわかってる。わかってるんだ。
 
 「じゃあ、12Nユーロで」
 
 「まだ高い。思いきって10でどうだ?」
 
 「……11の50」
 
 「……10の30」
 
 お互いに引こうとはしない。
 どうにかして、CDシングルぐらいの値段に落ち着けば文句はない。
 
 「……10、の……ええいもってけドロボー、10Nユーロで手を打ってやりますよ!!」
 
 「買った!!」
 
 「……のはいいんですけど、やっぱり、これを選んだ理由が知りたかったりするんですよね。どうなんです?」
 
 ニヤニヤと意地の悪そうな笑顔を振りまきながら、アントニオがずいっと詰め寄ってくる。
 自分の事は棚に上げて……ってなんか使い方間違ってるな。自分のことは話そうともしないくせして、どうして人のことばかり気にするんだ。そのエネルギーを少しでもアイナの方へまわしてやれないものなのか。
 と、声に出して聞けばアントニオはたちまち固まるだろう。それで逃げることもできただろう。
 
 だけど、そうはしなかった。
 誰かに言っておきたかった……のかもしれない。
 
 「アリシアに、だよ」
 
 「じゃじゃーんっ!! そいつぁいいやっ、やっぱりねっ、そうじゃないかって思ってましたよっ!!」
 
 さも自分のことのように喜んで、やはり大仰な動きで感情を表現した。
 別に、アリシアは高価なものでなくても、きっと喜んでくれただろう。なぜ、これを買ったのか。
 
 クリスターロ・ディ・アクア。“アクアの水晶”。
 
 正直、そのブランドには興味などなかった。
 …………言うのも憚られるような、くだらない理由だ。
 
 「……なんていうか、だな。意地みたなもんだ」
 
 「意地、っすかァ。意地、意地。いいっすね、男! って感じで」
 
 「そんなカッコいいもんじゃないさ。下心丸見えの、下卑た考えだ」
 
 そう、その通りだ。
 高い薔薇を買って、意地を張りたい。
 それだけだ。
 
 「……正直、勢いだけだったんだよな。どう思う?」
 
 「どうって言われましても……困りますけどねぇ?」
 
 売った手前、と声も小さくアントニオが肩をすくめる。
 パシン、と頬を叩いて、気合を入れ直す。
 
 「よし。渡す。理由なんていらない。俺が、これをアリシアに渡したいって思ったから渡す。うん」
 
 「渡したいから、渡す……。いいっすね。オレもがんばってみようかしらね」
 
 お互いに意地を見せよう、ということでアントニオとはそこで別れた。
 薔薇は飾り気のない白い包装紙でくるりと包んでもらい、一輪だけの花束になっていた。苦笑いしながらそれを以て歩いていると、ふと真正面から声がかかった。
 
 「お久しぶりです。ごきげんよう、衛宮士郎さま」
 
 アリシアとはまた違った落ち着き払った笑顔。
 確か、アイナの友達のアイラ。アイラ・フェンデ・バラライカ。
 足首辺りまであるシスターの制服を水面ギリギリのところで結び、出来るだけ肌を見せないようにしているところを見ると、改めて「やっぱりシスターだ」と思う。
 改めて、などと思ってしまうのは、あの時の手刀が頭の隅でチラつくからだ。
 膝まで届く黒髪は、海水に浸かって痛まないように今日はフードの中に全て納められていた。
 
 「まぁ、まぁまぁ! クリスターロ・ディ・アクアですかっ」
 
 「うん? ああ、この薔薇だな」
 
 「うふふ。誰かお知り合いに赤ちゃんが出来たりしたんですか……。それは素晴らしい」
 
 「は? 赤ちゃん?」
 
 「花言葉ですよ。なんだ、知らないのなら、その色はとてもボッコロの日に似合った花言葉を持っているんですよ。大輪のピンクの薔薇の花言葉は『赤ちゃんができました』。ピンクの薔薇そのものには『美しい少女、上品、気品、しとやか』など、女性を褒める言葉ばかりが並んでいるんです。ちなみに、ダークルージュ、黒赤色の薔薇は『死ぬまで憎みます、化けて出ます』という愛とは正反対の意味を持つので、贈りもの用には向いていないのです」
 
 アントニオの暁に対する最初の商品がダークルージュの薔薇だったことを思い出す。
 暁に対して、相当な敵意を持っていたらしいことを思い返すと、笑いがこみ上げてきた。
 アントニオは花屋の息子だ。ある程度の花言葉だって知ってるだろう。もしわざとなら、面白い。
 
 「……もしかして、いい人に贈るのですか?」
 
 「まぁ、まだそんな関係じゃないんだけどな」
 
 「なら、ひとつ。来年のボッコロの日……ちょうど、『海との結婚』よりも前にありますが、是非、枯れた白い薔薇をお贈りになってはどうでしょうか?」
 
 「枯れた?」
 
 「花言葉は――――『生涯を誓う』。いわゆるプロポーズというものです」
 
 ニコリ、と。
 さらっ、と。
 清々しくもこれ以上ないという澄み切った笑顔で、とんでもないことを口にした。
 
 「あ、でも相手が花言葉を知らない場合、ちゃんとフォローは必要ですよ。なんせ、枯れた花を贈るのですから」
 
 「い、いや、ちょっと待て! ぷ、ぷろぽーずっ!?」
 
 「私は、もう貰いましたよ?」
 
 「だ、誰に?」
 
 と、いうよりも結婚していたんだな、などと、どこか浮ついて思いながら。
 彼女は左手の薬指につけられた指輪を見せてくれ、こう言った。
 
 「我らが主に」
 
 彼女なりのジョークだったらしい。
 クスリと微笑んで、横を通り過ぎて行く。
 すれ違いざま、静かに、しかし力の籠った声で彼女は言う。
 
 「衛宮士郎さま。あなたに、“青い薔薇”の祝福がありますように。エイメン」
 
 パシャパシャという水を切る音が遠ざかっていく。
 青い薔薇。さすがにこれは俺でも知っている。
 元々のかの花の花言葉は『不可能』だった。しかし、その不可能さえ可能にした奇跡を讃え、花言葉は変わる。
 
 『神の祝福』
 
 話題に乗っ取った、シスターという彼女らしい祝福の言葉だな、となんとなしに思う。
 遠ざかるアイラの背が消える前に、声を大にして叫んだ。
 
 「ありがとう、アイラ!」
 
 彼女は律儀にも振り返り、制服の裾を持ち上げつつ頭を下げる、という優雅な挨拶を返してくれた。
 シスターという聖職についているのに、どこか遊び心を失っていないところが、アイナの親友たるゆえんなのかもしれない。
 
 「……プロポーズ? 俺が、アリシアに?」
 
 いざ口にしてみると、真っ先に“ありえない”の言葉が浮かんだ。
 ……どこかで、拒絶しているのだろうと思う。
 俺は、アリシアとそういう風になりたいのだろうか、それとも、“そういう風”になったアリシアを見たいのだろうか。
 幸せにしてやることの出来ない俺といるのではなく、幸せにしてくれる誰かの隣で笑うアリシアを見る方が、どこか自分らしいような気がする。
 …………彼女はセイバーや遠坂、桜とは違う。
 魔術という単語すらおとぎ話でしかないアリシアと、魔術で人の血を見てきた俺たちとでは住んでいる世界が違い過ぎる。
 前提が違うんだ。
 だから、なのかもしれない。
 
 「この星に『ひかれ』すぎたんだ。……それを情けないとは思わないさ。言う言葉があるならば“ありがとう”なんだろうけど、それでも、行きすぎた」
 
 もう、行きすぎてしまったんだ。
 ……しばらく、ほんのしばらく……そうだな、たとえば夏の間。
 夏の中頃、一ヵ月。
 
 「……少し、暇を貰おう」
 
 訊きに行くんだ。
 一本道の上で迷ってしまった俺が、一体どこに向かって歩くべきなのか。
 一本道の上で迷ってしまった俺が、一体どうすればまた一歩前へ踏み出せるのか。
 『正義の味方』は、どうすればいいのか。
 訊きに行くんだ。
 
 「……お人よしの、母親に」
 
 
 *  *  *  *  *
 
 
 「ただいま帰りましたー」
 
 AIRIAカンパニーの扉をいつものように開け、夕食の匂いに誘われるように食卓へ進んでいく。
 階段を上るとき、やはりというか、もらった薔薇がすこし荷物になる。
 よいしょ、と持ち直して改めて階段を上っていく。
 
 「おかえりなさいアリシアさんっ、って、今年も凄い数ですね」
 
 灯里ちゃんの声が聞こえてくる。薔薇越しに。
 きっと、向こうから見てたら薔薇がしゃべってるみたいに見えるんじゃないかなぁ。と、自分で思っておかしくなった。
 灯里ちゃんに先導されて、貰って来た薔薇を大切に部屋の隅に通るのに邪魔にならない程度に飾っておく。
 そこだけが薔薇で出来た塔のようになっていて、その一輪一輪にお客様やお世話になった人達の気持ちがこもっていると思うだけで、自然と笑みがこぼれてくる。
 今日一日でずいぶん、体に薔薇の匂いが染み込んでしまった気がする。
 
 「今年も大量だな。アリシア、おかえり」
 
 「あ、士郎さん。ただいま帰りました」
 
 「暁には会ったか?」
 
 「暁くん? いえ」
 
 そうか、とどこかおかしそうに士郎さんは笑った。
 こほん、とわざとらしい咳ばらいを挟み、
 
 「ついでに、こんな薔薇はいかがですか、スノーホワイト?」
 
 いつもの士郎さんらしくない、ちょっと気障っぽい言い回しにおかしさを覚えつつ、目を見張った。
 透き通るようなサーモンピンクの瑞々しい花弁と、この薔薇の量にも負けない、鼻腔をくすぐる強くも爽やかな香り。今にもその花びらから水晶が一粒落ちてきそうな、そんな薔薇だった。
 これって、もしかしなくても……
 
 「クリスターロ・ディ・アクア?」
 
 「よくご存じで、いや、さすがかな。ちょっとばかり奮発してみたんだ。気に入らないか?」
 
 「と、とんでもないですっ」
 
 自分でもびっくりするほど高い声になってしまっていた。
 ふぅ、と一呼吸おいて、改めて薔薇、それから士朗さんに視線を移す。
 
 「別に、こんな高価なものじゃなくてもよかったんですよ?」
 
 「そう言われると、俺が参る。素直に受け取ってくれないか?」
 
 「じゃあ、よろこんで。ありがとうございます、士郎さん」
 
 士郎さんから手渡しでその薔薇を受け取る。
 その薔薇を私が大切に眺めていると、ふと、士郎さんがちょっとだけ挙動不審になっていた。
 どこか照れているような……? と、そこまで考えてハッとする。もしかして、もしかしなくても、あの気障っぽいセリフは、照れ隠し、なのかしら?
 
 そう思ったら、今日にこっちまで恥ずかしくなってきた。
 だって、だって、それって……少しでも私の事を意識してくれてるって、ことでいいのだろうか?
 ああ、そんなこと考えたらもう止まろうにも止まれない。そんないい方向の考えにしか頭が働いてくれない。
 気がつけば、顔だけじゃなくて、首筋まで火照っていた。じわり、と血がどんどん頭に上っていくのが手に取るようにわかる気がするほど、首から上がカッカと熱を放っていた。
 
 「……アリア社長、退散しましょう」
 
 「にゅ?」
 
 「お、おい灯里、そんな気遣いはいらないから、な?」
 
 「そ、そうよ」
 
 なぜかほっこりとした顔でいる灯里ちゃんが、足元の社長を抱え上げる。
 そのほっこり顔のまま、灯里ちゃんはそれ以上なにも言わずにそそくさと自分の部屋へ戻っていった。
 夕食もまだなのに、呼んだら来るんだろうか。ちょっと心配だ。
 
 なんでだろう、と思う。
 去年は自分でも恥ずかしいと思う事をすんなり出来たのに、どうして今は出来ないんだろう?
 ……きっと相手の変化なのだろう、と思う。
 
 士郎さんは、私の事を、ちょっと前から違う見方をし始めてくれている、ような気がする。
 自意識過剰なだけだったら、かなり恥ずかしい勘違いだけど、勘違いなんかじゃないって思う。
 なぜなら、女の勘というものが働いているからだ。……かなり怪しくはあるんだけど。
 
 「あらあら……えっと……どうしましょう?」
 
 「とりあえず夕飯食べよう。灯里ー、降りてこーい。ご飯なくなるぞー」
 
 士郎さんがそう言うと、灯里ちゃんは思い出したようにとたとたと急いで降りてきた。
 えへへ、と笑って、こちらも微笑みかえす。
 三人と一匹で食事の席について、いただきます、と手を合わせた。
 
 急にいつも通りの空気に戻ってしまって、拍子抜けしたような、ちょっぴり安心したような。
 食事中、チラリと横の士郎さんを覗き見てみても、いつもと変わらない顔で食事を摂っている。そんな顔を見ていると、やっぱりちょっぴり残念な気持ちもある。
 もうちょっと、ドギマギしてくれてもいいんじゃないだろうか、などと、現実の自分がいいもしないような事を考えてしまうあたり、ああ、私は本当にこの人が好きなんだなぁ、と改めて認識させられる。
 
 この人が見せてくれる笑顔が好きだ。
 この人が作ってくれるご飯が好きだ。
 この人の喋り方が好きだ。
 この人の歩き方が好きだ。
 私は、どうしようもなく、この人が大好きだ。
 
 大好き、なんだなぁ。
 
 「アリシア」
 
 食事が終って、私が自宅に帰ろうとしたとき、後ろから士郎さんに呼び止められた。
 なんだろう、と振り返ると、士郎さんは笑っていた。
 とてもとても、思いつめた顔で笑っていた。
 
 「……?」
 
 「……夏、なんだけどさ。一ヵ月ほど、休暇を貰いたいんだ」
 
 「え?」
 
 「グランマのところと、地球に行きたいんだ」
 
 「……それって、あの……っ」
 
 士郎さんのその言葉で、とてつもない不安が襲いかかってきた。
 もしかしたら、と考えたくないことばかりが頭の中に流れ込んでくる。
 たとえば、たとえばそう。
 
 もう、彼が帰ってこないのではないだろうか、なんて。
 
 「……だから、先に言っておきたいんだ。アリシア」
 
 「聞きたくな――――」
 
 「“いってきます”。『約束』だ、アリシア。“いってきます”。これだけ言ったら、お前は分かってくれるか?」
 
 まだ苦笑いを崩すことなく、士郎さんは言った。
 いってきます、と。
 それに返す言葉は、いってらっしゃい。
 
 そして、『約束』という言葉の意味。
 
 「…………お気をつけて。いってらっしゃい」
 
 「ああ。って、言ってもパスポートも作らなきゃだし、まだ時間はかかるから、夏の中頃、夜光鈴が売り出され始める頃に出発するよ」
 
 「はい。約束、ですよ。忘れちゃいやですからね?」
 
 「俺から言い出したんだ。忘れるわけないだろ」
 
 やっぱりギクシャクした笑顔のまま、士郎さんはだけど、優しく私の頭を撫でてくれた。
 ……思えば。これは私が彼から受ける、二度目のワガママなんじゃないだろうか。
 そう思うと、全然つらくもなんともなかった。
 『約束』だってある。
 
 だから私は言うんだ。ちょっとだけ早い、その言葉を。
 
 「いってらっしゃい、士郎さん。お土産、期待してますね」
 
 「ああ」
 
 会話はそれでおしまい。
 夜光鈴の季節は、思っているよりも近くまで来ている。
 士郎さんが、どういう理由でグランマのところに行きたいと言ったのか、果てはマンホームまで行きたいと言ったのか、正直、私にはわからない。
 けど、だからって聞こうなんて思わない。
 
 きっと、“素敵なお土産”をもって帰ってきてくれる。
 私との『約束』を守ってくれる。
 
 それだけで十分だった。
 私が彼を送りだす言葉を紡ぐには、それだけで、十分。
 
 いってらっしゃい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                Navi:33   end
 
 
 
 
 

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

«  | HOME |  »

ご来客数

歯車の潤滑油

いわゆるWeb拍手という代物

拍手SS・現在4編

リンク

このブログをリンクに追加する

カテゴリ

ガイドライン(初めにお読みください) (1)
作品一覧 (1)
その優しい星で… (42)
その優しい星で…(設定) (2)
背徳の炎  (31)
背徳の炎(設定) (1)
B.A.C.K (35)
B.A.C.K(設定) (1)
ちょっと外れた俺とネコ (2)
今日のアニメ (13)
短編 (7)
イラスト (4)
徒然日記 (132)
自己紹介 (1)

プロフィール

Author:草之 敬
趣味:絵を描くこと(友人に「お前が描くのがムカツク」と言われる程度)・小説を書くこと・ドラムス
    
性格:優柔不断。ここを作ったのは英断だと思ってる。

語り:この頃やっと自分のブログに自信が持ててきた。
 作品が増えていくたび、愛着が出てきて困る(いい意味で)
 心の聖典は『イエスタデイをうたって』『ああっ女神さまっ!』

小説を読む前にガイドラインを読んでくれると注意書きとか載ってます。

リンクフリーです。相互リンクも大歓迎です。

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

ご意見・ご感想

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる